特許第6131034号(P6131034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131034撥水性を付与した積層シート及びラミネート用フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131034
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】撥水性を付与した積層シート及びラミネート用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20170508BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170508BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20170508BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20170508BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20170508BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20170508BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20170508BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
   B32B27/18 Z
   B32B27/32 Z
   B29C59/04 Z
   C08L83/04
   C08L23/00
   C08K5/20
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-268287(P2012-268287)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-113721(P2014-113721A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】藤原 純平
(72)【発明者】
【氏名】大澤 知弘
(72)【発明者】
【氏名】星野 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−045841(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/087695(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/087696(WO,A1)
【文献】 特開2007−144917(JP,A)
【文献】 特開平07−108552(JP,A)
【文献】 特開平09−155972(JP,A)
【文献】 特開2001−335691(JP,A)
【文献】 特開2009−294341(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0156431(US,A1)
【文献】 特開2000−167955(JP,A)
【文献】 特開2010−275525(JP,A)
【文献】 特開2012−011685(JP,A)
【文献】 特開2012−066417(JP,A)
【文献】 特開2007−016096(JP,A)
【文献】 特開2002−327064(JP,A)
【文献】 特開2012−196965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B29C 53/00−53/84
57/00−59/18
C09D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と撥水剤を含有する樹脂組成物からなる微細な凹凸形状を付与した凹凸形状層が、上記樹脂組成物と非相溶性の樹脂からなる剥離樹脂層の一方の面に積層され、該剥離樹脂層の他方の面には基材層が積層されてなる撥水性積層シート。
【請求項2】
前記撥水剤がシリコーン系撥水剤である請求項1に記載の撥水性積層シート。
【請求項3】
前記シリコーン系撥水剤が、シリコーン樹脂と高級脂肪酸アミドとオレフィン系樹脂を含有してなる樹脂組成物からなり、撥水剤中のシリコーン樹脂の含有量が2〜20質量%である請求項2に記載の撥水性積層シート。
【請求項4】
前記微細な凹凸形状の凸形状の底面が六角形であり、凸頂点部が円形である六角錐台形であり、凸形状高さが50μm〜90μmであり、凸形状底面径が50μm〜90μmであり、アスペクト比(凸形状高さ/凸形状底面径)が0.6〜1.0である請求項1から3の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項5】
前記凹凸形状の凸形状において、凸形状底面径に対する凸形状頂点部の径(凸形状頂点部の径/凸形状底面径)が0.05〜0.4である請求項1から4の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項6】
前記凹凸形状層の表面を60°傾斜させた際に、精製水が転がる転落速度が0.001m/sec〜0.15m/secである請求項1から5の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項7】
前記凹凸形状層の表面の精製水との転落角が70°以下である請求項1から6の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項8】
前記凹凸形状層の厚みが60μm〜100μmである請求項1から7の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項9】
前記剥離樹脂層の厚みが10〜50μmである請求項1から8の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項10】
前記剥離樹脂層が、ハイインパクトポリスチレン樹脂又はエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂からなる請求項1から9の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項11】
基材層が、樹脂成分としてポリスチレン樹脂10〜40質量%とハイインパクトポリスチレン樹脂90〜60質量%を含有してなり、更にゴム成分を樹脂成分100質量部に対して5.0質量部以上含有するスチレン系樹脂層から形成されてなる請求項1から10の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項12】
基材層が、変性オレフィン系樹脂から形成されてなる請求項1から10の何れか一項に記載の撥水性積層シート。
【請求項13】
請求項1から12の何れか一項に記載の撥水性積層シートの凹凸形状層からなる、撥水性ラミネートフィルム。
【請求項14】
水回り部材用ラミネートフィルムである請求項13に記載の撥水性ラミネートフィルム。
【請求項15】
壁紙部材用ラミネートフィルムである請求項13に記載の撥水性ラミネートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性を付与した積層シートと、該積層シートから剥離して使用されるラミネート用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術の進歩に伴い、成形体の表面に微細な凹凸構造を配することでロータス効果を利用して撥水機能を付与する取り組みに関心が高まっている。微細凹凸構造を有する成形体は、撥水性を発現することが確認されている(特許文献1)。そして、微細凹凸構造の形成と撥水剤をコーティングすることで、更に撥水性を向上させる提案もなされている(特許文献2)。また、従来の撥水剤をコーティングしたものでは、コーティングした撥水層が劣化し、撥水性が低下することが考えられる。そこで、練り込み型の撥水剤も提案されている(特許文献3)。
【0003】
近年、洗面所や台所、浴室といった水回り部では、樹脂成形品が多く用いられている。より詳しく述べると、洗面用品として、ソープディッシュ、洗面器、ダストボックス等があげられ、台所用品として、ザル、ボール、キッチンポケット、トレー、流しコーナー、調理バット、タワシラック、洗い桶、シンクマット、水切りケース等が挙げられ、浴用品として、シャンプースタンド、ダストボックス、湯桶、風呂椅子、手桶等が挙げられる。また、その他の樹脂成形品として、洗濯機の洗濯槽や脱水槽、介護用便器、食品搬送用コンテナ、バケツ等が挙げられる。
【0004】
このような背景に鑑みれば、撥水剤をコーティングすることなく、撥水層を維持することができるラミネート用フィルムがあれば、水回り部、壁紙部など様々な部材にラミネートして活用でき、望ましい。
【0005】
【特許文献1】特開平7−108552号公報
【特許文献2】特開2000−167955号公報
【特許文献3】特開2001−335691号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、撥水剤がコーティングされていなくとも有意な撥水性を示すラミネートフィルムが剥離可能に積層された撥水性積層シートと、該積層シートから剥離されて使用されるラミネートフィルムを提供することを目的とする。
【0007】
よって、本発明の一態様によれば、ポリオレフィン系樹脂と撥水剤を含有する樹脂組成物からなる微細な凹凸形状を付与した凹凸形状層が、上記樹脂組成物と非相溶性の樹脂からなる剥離樹脂層の一方の面に積層され、該剥離樹脂層の他方の面には基材層が積層されてなる撥水性積層シートが提供される。
【0008】
上記において、好ましい実施態様では、撥水剤はシリコーン系撥水剤であり、より好ましくは、シリコーン樹脂と高級脂肪酸アミドとオレフィン系樹脂を含有してなる樹脂組成物からなり、シリコーン樹脂含有量は、凹凸形状層の樹脂組成物の総質量に対して2〜20質量%である。
【0009】
また、好ましい実施態様では、前記微細な凹凸形状の凸形状は、底面が六角形であり、凸頂点部が円形である六角錐台形であり、凸形状高さが50μm〜90μmであり、凸形状底面径(六角形の対角線長さ)が50μm〜90μmであり、アスペクト比(凸形状高さ/凸形状底面径)が0.6〜1.0である。また、好ましい実施態様では、凹凸形状の凸形状において、凸形状底面径に対する凸形状頂点部の径(凸形状頂点部の径/凸形状底面径)が0.05〜0.4である。一実施態様では、前記凹凸形状層の表面を60°傾斜させた際に、液体が転がる転落速度は0.001m/sec〜0.15m/secであり、及び/又は前記凹凸形状層の表面の液体との転落角は70°以下である。
【0010】
更に、好ましい実施態様では、前記凹凸形状層の厚みは60μm〜100μmであり、及び/又は前記剥離樹脂層の厚みは10〜50μmである。一実施態様では、前記剥離樹脂層は、ハイインパクトポリスチレン樹脂又はエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂からなる。また一実施態様では、基材層は、樹脂成分としてポリスチレン樹脂10〜40質量%とハイインパクトポリスチレン樹脂90〜60質量%を含有してなり、更にゴム成分を樹脂成分100質量部に対して5.0質量部以上含有するスチレン系樹脂層から形成されてなるか、又は変性オレフィン系樹脂から形成されてなる。
【0011】
本発明の他の態様によれば、前記撥水性積層シートにおいて、剥離樹脂層が基材層と共に剥離されて残る凹凸形状層から構成されてなる、撥水性ラミネートフィルムが提供される。一実施態様では、該撥水性ラミネートフィルムは水回り部材用ラミネートフィルムであり、他の実施態様では、壁紙部材用ラミネートフィルムである。
【0012】
本発明に係る撥水性積層シートは、撥水剤がコーティングされていないので、撥水性が劣化することがなく、様々な部材、用途等に対して、撥水性ラミネートフィルムを剥離して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る撥水性積層シートの積層構造を示す概略縦側断面図である。
図2図1と同様の概略縦側断面で、撥水性積層シートからラミネートフィルムが剥離される状態を示す図である。
図3図1の撥水性積層シートの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る撥水性積層シートは、図1に示すように、微細な凹凸形状を一方の面に備えた凹凸形状層(1)と、凹凸形状層の他方の面(図中、下面)に剥離樹脂層(2)を介して積層された基材層(3)とを含む積層構造を有する。
本発明において、撥水性積層シートの「撥水性」とは、水回り部材や壁紙部材用のラミネートフィルムへの利用を考慮し、積層シートに対する液体の転落角が70°以下であることを意味するものとする。
【0015】
<凹凸形状層(1)>
凹凸形状層は、撥水性を発現させるために設けられるもので、ポリオレフィン系樹脂と撥水剤を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成され、シート表面となるその一方の面に微細な凹凸形状を有する樹脂層である。
【0016】
ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、α−オレフィンを単量体として含む重合体からなる樹脂を意味し、特にポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂を含む。ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン等が挙げられ、また単体のみならず、それらの構造を有する共重合物やグラフト物やブレンド物も含まれる。後者の樹脂としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体やさらに酸無水物との3元共重合体等とブレンドしたもののようにポリエチレン鎖に極性基を有する樹脂を共重合およびブレンドしたものが挙げられる。また、ポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどが挙げられる。ホモポリプロピレンを用いる場合、該ホモポリプロピレンの構造は、アイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれであってもよい。ランダムポリプロピレンを用いる場合、プロピレンと共重合させるαオレフィンとしては、好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数4〜12のものが挙げられ、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどを例示できる。ブロックポリプロピレンを用いる場合、ブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体等が挙げられる。これらオレフィン樹脂を単独で使用する以外に、他のオレフィン系樹脂を併用することもできる。
【0017】
尚、樹脂層表面に凹凸形状を付与する際には、後述のように熱転写方法等を用いることができるが、その場合の凹凸形状の賦形性(転写性)や、場合によっては凹凸形状を硬化させるために行う電子線照射による架橋性の観点から、直鎖状低密度ポリエチレンや直鎖状中密度ポリエチレンを用いるのが好ましい場合がある。このような直鎖状低密度ポリエチレン及び直鎖状中密度ポリエチレンには、チグラー型触媒で重合されたもの(t−LLDPE)、及びメタロセン系触媒で重合されたもの(m−LLDPE)があるが、m−LLDPEは、コモノマーとして炭素数3以上のオレフィン、好ましくは炭素数3〜18の直鎖状、分岐状、芳香核で置換されたα−オレフィンとエチレンとの共重合樹脂である。直鎖状のモノオレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン等が挙げられる。また、分岐状モノオレフィンとしては、例えば、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ヘキセン等を挙げることができる。また、芳香核で置換されたモノオレフィンとしては、スチレン等が挙げられる。これらのコモノマーは、単独または2種以上を組み合わせて、エチレンと共重合することができる。この共重合では、ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等のポリエン類を共重合させてもよい。この共重合樹脂中におけるα−オレフィン含有量は、1〜20モル%であることが一般的である。
【0018】
撥水剤は、一実施形態では、シリコーン系撥水剤であり、ベースとなるポリオレフィン系樹脂中にシリコーン樹脂と高級脂肪酸アミドを含有する組成物からなり、シリコーン樹脂は、特に分子量1000〜5万の低分子量シリコーン樹脂と分子量20万〜100万の高分子量シリコーン樹脂を含む。ここでのポリオレフィン系樹脂は、凹凸形状層の基材樹脂のポリオレフィン系樹脂と同様の樹脂を意味し、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられるが、凹凸形状層のポリオレフィン系樹脂と同一でも異なる樹脂でもよい。また、シリコーン樹脂としては、オルガノポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられ、なかでも、ジメチルポリシロキサンが好適に用いられる。また、高級脂肪酸アミドは、シリコーン樹脂と相俟って、優れた防汚性を発現させる機能を果たすもので、飽和脂肪酸アミド(ステアリン酸アミドやベヘニン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等)、飽和脂肪酸ビスアミド(エチレンビスステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸ビスアミド(エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N′−ジオレイルセバシン酸アミド等)等が挙げられ、これらを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、不飽和脂肪酸アミドであるオレイン酸アミドが好適である。
【0019】
前記シリコーン系撥水剤において、シリコーン樹脂の含有量(高分子量シリコーン樹脂と低分子量シリコーン樹脂の合計量)は、撥水剤自体を含む凹凸形状層を構成する樹脂の総質量に対して、2〜20質量%である。この範囲の組成にすることによって、シート表面への凹凸形状付与のための熱転写方法等における凹凸形状の賦形性(転写性)、架橋性、撥水性を何れも満足できる凹凸形状層が得られるが、2質量%未満では十分な撥水性が得られない場合があり、20質量%を超えるとシート製造時に外観不良などが発生する場合がある。
【0020】
凹凸形状層の厚みは、好ましくは60〜100μmである。60μm未満であると、シート製造時に厚みムラが発生する場合がある。また、100μmを超えると、製造コストが高くなる。
【0021】
凹凸形状は、シートに撥水性を付与するために設けられるものであり、シートに撥水性を付与することができる起伏の微細な凹凸形状を意味するが、その形状は任意である。例えば凹凸部の凸形状は三角錐、四角錐、六角錐、八角錐、円錐などの錐形状、角錐台形状、円錐台形状でもよいが、本発明者が本実施形態に係る層構成において種々検討した結果、六角錐形状の凸形状が特に好ましいことが分かった。また、凹凸形状の凸形状は、その高さhが50μm〜90μm、その径D(底面径で、六角形の対角線長さ)が50μm〜90μm、そのアスペクト比(凸形状高さ/凸形状底面径)が0.6〜1.0であるものとすることができる。この範囲を外れた場合でも、凹凸形状としない場合に比べると優れた撥水性が得られるが、この範囲の凹凸形状にすることによって、液体が転がる程度の撥水性を発現することができる。これに対して、凸形状高さ50μm未満では、液体が転がる程度の撥水性を発現できない場合があり、凸形状高さ90μmを超えると凹凸形状を付与するための金型での凹凸形状寸法が不安定になる場合がある。凸形状底面径が50μm未満では凹凸形状を付与するための金型での凹凸形状寸法が不安定になる場合があり、凸形状底面径が90μmを超えると、使用する樹脂によっては凹凸形状面の見た目が悪くなる場合がある。
【0022】
また、凹凸形状の凸形状において、凸形状底面径Dに対する凸形状頂点部の径dの比(凸形状頂点部の径/凸形状底面径)は0.05〜0.40であるのが好ましい。この範囲の凹凸形状にすることによって、液体が転がる程度の撥水性を発現することができる。これに対して、比が0.05未満では、その凹凸金型の作製が困難な場合があり、比が0.40以上では液体が転がる程度の撥水性を発現できない場合がある。
【0023】
凸形状の配置は特に限定はされず、縦横に配置した碁盤目配置や千鳥配置がある。加熱成形後、より撥水性を維持したければ、千鳥配置が好ましい。
【0024】
<剥離樹脂層(2)>
本発明に係る実施形態において、剥離樹脂層とは、凹凸形状層を構成する熱可塑性樹脂組成物と非相溶性であり、非接着性である熱可塑性樹脂組成物であり、好ましくはポリオレフィン系樹脂と接着しない樹脂である。このような樹脂としては、例えばスチレン系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0025】
剥離樹脂層を構成するスチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン−アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、又は前記スチレン系モノマーと更に他のポリマー、例えばポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン−アクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。なかでもポリスチレン(GPPS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)がシート成形性の観点から好ましい。また、スチレン系樹脂層は、ブタジエンゴム成分を5.0〜8.6質量%含有することが好ましい。ブタジエンゴム成分含有量は、GPPS樹脂とHIPS樹脂のブレンドにより調整するのが簡便な方法であるが、HIPS樹脂の製造段階で調整しても構わない。ブタジエンゴム成分が5.0質量%未満であるとシート製膜時に割れる場合があり、8.6質量%を超えると、凹凸形状層と部分的に剥がれない場合がある。
【0026】
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂は、通常、エチレン−酢酸ビニル共重合体を鹸化して得られるものであり、酸素バリア性、加工性、成形性を具備する為に、エチレン含有量が10〜65モル%、好ましくは20〜50モル%で、鹸化度が90%以上、好ましくは95%以上のものが好ましい。
【0027】
ポリアミド樹脂は、カプロラクタム、ラウロラクタム等のラクタム重合体、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重合体、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−又は1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)等の脂環式ジアミン、m−又はp−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等のジアミン単位と、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸単位との重縮合体、並びにこれらの共重合体等が挙げられる。具体的には、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、ナイロン6/66、ナイロン6/610、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T等があり、中でもナイロン6、ナイロンMXD6が好適である。
【0028】
剥離樹脂層の厚みは、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜40μmである。10μm未満であると、シート製造時に剥がれてしまう場合があり、50μmを超えると、使用する樹脂によっては製造コストが高くなる場合がある。
【0029】
<基材層(3)>
基材層は、従来から熱可塑性樹脂シートの基材として使用されているものであれば如何なるものでもよく、スチレン系樹脂、変性オレフィン系重合体樹脂などから形成される。
スチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン−アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、又は前記スチレン系モノマーと更に他のポリマー、例えばポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン−アクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。なかでもポリスチレン(GPPS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)がシート成形性の観点から好ましい。また、スチレン系樹脂層は、ブタジエンゴム成分を5.0質量%以上含有することが好ましい。ブタジエンゴム成分含有量は、GPPS樹脂とHIPS樹脂のブレンドにより調整するのが簡便な方法であるが、HIPS樹脂の製造段階で調整しても構わない。ブタジエンゴム成分が5.0質量%未満であるとシート製膜時に割れる場合がある。
【0030】
変性オレフィン系重合体としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素数2〜8程度のオレフィンの単独重合体、それらのオレフィンとエチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等の炭素数2〜20程度の他のオレフィンや酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物との共重合体等のオレフィン系樹脂や、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン系ゴムを、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、あるいはその酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等でグラフト反応条件下に変性したものが代表的なものとして挙げられる。なかでも、不飽和ジカルボン酸又はその無水物、特にマレイン酸又はその無水物で変性したエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、又はエチレン−プロピレンもしくはブテン−1共重合体ゴムが好適である。
【0031】
<撥水性積層シート>
本発明に係る撥水性積層シートの層構成は、典型的な実施形態では、凹凸形状層/剥離樹脂層/基材層である。
撥水性積層シートの厚みは、好ましくは500〜1200μm、より好ましくは700〜1000μmである。500μm未満であると、凹凸形状の転写が不十分になる場合があり、1200μmを超えると、製造コストが高くなる場合がある。
【0032】
撥水性積層シートの積層方法は、特に限定されず一般的な方法を用いることができる。例えば、3台の単軸押出機を用いて各々の原料樹脂を溶融押出し、フィードブロックとTダイによって多層樹脂シートを得る方法や、マルチマニホールドダイを使用して多層樹脂シートを得る方法が挙げられる。また、本発明における凹凸形状の形成方法には特に制限はなく、押出成形方式を用いて製造する方法、フォトリソグラフィー方式を用いて製造する方法、熱プレス方式を用いて製造する方法、パターンロールとUV硬化樹脂とを用いて製造する方法等、種々の方法を用いることができる。
【0033】
<撥水性ラミネートフィルム>
本発明に係る撥水性ラミネートフィルムは、撥水性積層シートから剥離樹脂層を基材層と共に剥離することにより、得られる。すなわち、凹凸形状層からなるシートである。剥離樹脂層が凹凸形状層の樹脂と非相溶性の樹脂から構成されているので、剥離樹脂層からのラミネートフィルムの剥離は容易に行うことができる。
このようにして得られるラミネートフィルムは、優れた撥水性を有しているので、撥水性が要求される様々な用途に好適に使用することができる。例えば、浴室等の水回りにおいて用いられている透明性を必要としない浴室のドア、窓、建材用では雨どい、車、バスなどの外装へのラミネートなどのような各種の水回り部材へラミネートして撥水性を付与するために使用することができ、また台所、浴室等の水回りにおいて用いられている壁紙部材をラミネートするために使用することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0035】
実施例等で用いた樹脂原料は以下の通りである。
(1)凹凸形状層
・直鎖状低密度ポリエチレン樹脂:「UF240」(日本ポリエチレン社製)
・ポリプロピレン樹脂:「PM822V」(サンアロマー社製)
・撥水剤A(シリコーン樹脂とオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物):シリコーン樹脂含有量30質量%「クリンベル 30PE」(富士ケミカル社製)
・撥水剤B(シリコーン樹脂とオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物):シリコーン樹脂含有量50質量%「クリンベル 50PP」(富士ケミカル社製)
(2)剥離樹脂層
・HIPS樹脂:「トーヨースチロールH850」(東洋スチレン社製、ブタジエン含量9.0質量%)
・GPPS樹脂:「HRM23」(東洋スチレン社製)
・エチレン−ビニルアルコール共重合体:「エバールJ−102B」(クラレ(株)製、エチレン含量32mol%、鹸化度99%以上)
(3)基材層
・変性オレフィン系重合体:「モディックF502」(三菱化学社製)
・スチレン系樹脂:HIPS樹脂とGPPS樹脂からなる樹脂組成物
HIPS樹脂:「トーヨースチロールH850」(東洋スチレン社製、ブタジエン含量9.0質量%)
GPPS樹脂:「HRM23」(東洋スチレン社製)
【0036】
<実施例1>
3台の40mm単軸押出機を使用し、フィードブロック法により、凹凸形状層75μm/剥離樹脂層20μm/基材層805μmという層構成を有する厚み900μmの多層樹脂シートを押し出した。押し出したシートを、レーザー彫刻法で表面に凹凸形状を付与した転写ロールとタッチロールでキャスティングし、凹凸形状を付与した撥水性積層シートを得た。凹凸形状転写ロールとタッチロールの温調は85℃であり、タッチ圧は9MPaとした。
【0037】
得られた撥水性積層シートの各種評価を下記の方法で行った。結果を表2に示す。
【0038】
(1)凹凸形状観察
シートの凹凸形状を、レーザー顕微鏡VK−X100(キーエンス社製)を用いて観察し、凸形状高さ、凸形状底面径、凸頂点間隔、凸形状頂点部の径を測定し、アスペクト比(凸形状高さ/凸形状底面径)と共に、記録した。また、凹凸形状断面観察用サンプルはミクロトームを用いて作製した。
(2)転落速度
転落速度は、自動接触角計DM−501(協和界面科学社製)を用いて測定した。シートを60°傾けた状態で、凹凸形状層の表面を液体が転落していく速度を測定した。試験液は精製水、めんつゆ、蜂蜜を用い、滴下量は20μLとした。
(3)転落角
転落角は、自動接触角計 DM−501(協和界面科学社製)を用いて測定した。試験液は精製水、めんつゆ、蜂蜜を用い、滴下量は20μLとした。
転落角が70°以下であると撥水性が高いと判定できる。
(4)層間剥離性
作製したシートを手動で剥がし、その剥離性を評価した。評価基準は次の通りとした。
・破れること無く剥がれる:良好
・剥がれない、部分的に接着している:不良
【0039】
<実施例2〜10、比較例1〜6>
凹凸形状層、剥離樹脂層、基材層の組成、厚みを表1に示すように設定した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜10及び比較例1〜9に係る撥水性積層シートを作製した。作製したシートについて、実施例1における場合と同様にして、各種特性を評価した。結果を表2に示す。
尚、比較例1では撥水材を添加せず、比較例2では凹凸形状を付与しなかった。比較例3では剥離樹脂層をSEBS樹脂とし、また比較例4では剥離樹脂層をHIPS樹脂とした。比較例5では、剥離樹脂層自体を設けず、比較例6では、凹凸形状層自体を設けなかった。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示した結果から以下のことが明らかになった。
実施例1〜10の全てにおいて、精製水、めんつゆ及び蜂蜜に対する転落速度及び転落角の何れについても満足できる撥水性が得られ、また層間剥離性にも優れていた。これに対して、比較例1、比較例2及び比較例6では十分な撥水性が得られなかった。比較例3では、層間剥離性が不良であり、比較例4でも層間剥離性が不良で、また蜂蜜の場合に撥水性が十分ではなかった。更に、比較例5では、製造時に凹凸形状層と基材層間で層間剥離が発生してしまった。
【0043】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0044】
1 凹凸形状層
2 剥離樹脂層
3 基材層
h 凸形状高さ
D 底面径(六角形の対角線長さ)
d 凸形状頂点部の径
図1
図2
図3