(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
弾性波の波群を適切に解析することができれば、地震時の防災等に活用する他、トンネル施工における切羽前方探査等、建設工事等の地盤調査にも活用することができる。
【0003】
弾性波を用いて地盤内を詳細に調査する場合には、P波の初動とS波の初動を読み取る必要がある。
P波の初動の自動読み取りは、アルゴリズムがほぼ確立しているものの、S波の初動の自動読み取りについては、確立しているとはいえない。
そのため、S波の初動の読み取りは、解析者が目視により判別しているのが一般的である。
【0004】
ところが、目視によるS波の初動の読み取りでは、複数の解析者がいる場合、解析者の経験や主観の相違等により、読み取り誤差が生じるおそれがある。
そのため、読み取り誤差の低減化を目的として、P波とS波の読み取りに関する研究が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、過去に発生した多数の波形データと、過去の解析者による波形データのP波、S波到着時刻の読み取りデータ、および、それぞれの波形データについての振幅や周波数が変化する複数の時間区間におけるS/N比、卓越周波数、水平動と上下動の振幅比、区間の時間長、区間内での振幅変化等のデータを用いて算出された評価関数を利用して、地震波からノイズを分離し、P波とS波の到着時刻を決定する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のP波とS波の到着時刻を決定する方法は、膨大なデータに基づいて評価関数を作成する必要があり、データの管理および処理に手間がかかる。
また、地山状況は現場毎に異なっているため、過去のデータから導き出すことで誤差が生じるおそれがある。
【0008】
このような観点から、本発明は、弾性波の解析について、読み取り誤差を最小限に抑えることを可能とした弾性波波群解析方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の弾性波波群解析方法は、振動方向が異なる三つの弾性波形記録を取得する波形データ取得作業と、前記三つの弾性波形記録のそれぞれについて所定の時間窓幅の波形データを抽出し、三成分の前記波形データから二成分ごとのペアを3種類設定する波形データ抽出作業と、
3種類の前記ペアのそれぞれについて最小二乗法を適用し、3種類の回帰直線を算出する回帰直線算出作業と、前記3種類の回帰直線を用い
て三次元合成位置ベクトルを作成するベクトル作成作業とを備え、
前記ペアは、前記所定の時間窓幅に含まれる時刻に対応する一の振動方向の成分と前記時刻に対応する他の振動方向の成分との組み合わせたものであって、前記波形データ抽出作業では、前記一の振動方向をY軸、前記他の振動方向をX軸とした直交座標に、前記ペアをプロットするとともに、当該プロットを時刻順に線で結んでパーティクル・オービットを形成し、前記回帰曲線算出作業では、3種類の前記ペアに対してそれぞれ形成した前記パーティクル・オービットについて、それぞれ回帰曲線を算出し、異なる時間窓幅において(時間窓幅を一定時間ずらしながら)前記波形データ抽出作業、前記回帰直線算出作業および前記ベクトル作成作業を繰り返すことで、前記算定時間毎に前記三次元合成位置ベクトルを作成し、前記三次元合成位置ベクトルを時系列で表示することを特徴としている。
【0010】
かかる弾性波波群解析方法によれば、三次元合成位置ベクトルの大きさや方向によりP波およびS波を確認することができるため、P波、S波の初動の読み取りの自動化が可能であるとともに、解析者の経験や主観等に影響されることなく、簡易かつ高精度にP波、S波の初動を推定することができる。
【0011】
また、第二発明の弾性波波群解析方法は、振動方向が異なる三つの弾性波形記録を取得する波形データ取得作業と、前記三つの弾性波形記録のそれぞれについて所定の時間窓幅の波形データを抽出し、三成分の前記波形データから二成分ごとのペアを3種類設定する波形データ抽出作業と、
3種類の前記ペアのそれぞれに対して最小二乗法を適用し、3種類の回帰直線を算出する回帰直線算出作業と、前記3種類の回帰直線のそれぞれについて回帰直線上に設けた回帰ベクトルのベクトル長を算出するベクトル長算出作業とを備え、
前記ペアは、前記所定の時間窓幅に含まれる時刻に対応する一の振動方向の成分と前記時刻に対応する他の振動方向の成分との組み合わせたものであって、前記波形データ抽出作業では、前記一の振動方向をY軸、前記他の振動方向をX軸とした直交座標に、前記ペアをプロットするとともに、当該プロットを時刻順に線で結んでパーティクル・オービットを形成し、前記回帰曲線算出作業では、3種類の前記ペアに対してそれぞれ形成した前記パーティクル・オービットについて、それぞれ回帰曲線を算出し、異なる時間窓幅において前記波形データ抽出作業、前記回帰直線算出作業および前記ベクトル長算出作業を繰り返すことで、前記算定時間毎に前記ベクトル長を算出し、前記ベクトル長を時系列で表示することを特徴としている。
【0012】
かかる弾性波波群解析方法によれば、ベクトル長の大きさによりP波およびS波を確認することができるため、P波、S波の初動の読み取りの自動化に適しているとともに、解析者の経験や主観等に影響されることなく、簡易かつ高精度にP波、S波の初動を推定することができる。
【0013】
前記ベクトル長算出作業では、前記
他の振動方向の成分の中からx座標の最大値x
maxおよび最小値x
minを算出し、前記回帰直線に前記x座標の最大値x
maxおよび最小値x
minを代入してy座標の最大値y
maxおよびy座標の最小値y
minを算出し、前記回帰直線上の第一の点(x
max,y
max)と第二の点(x
min,y
min)との距離を前記ベクトル長とすればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の弾性波波群解析方法によれば、弾性波の波群の解析を、高精度かつリアルタイムに実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る弾性波波群解析方法の作業手順を示すフローチャート図である。
【
図2】
図1の弾性波波群解析方法の弾性波形記録と算定時間との関係を示す模式図である。
【
図3】(a)〜(c)は二成分ごとのペアのパーティクル・オービットである。
【
図4】(a)はパーティクル・オービットと回帰直線との関係を示すグラフ、(b)は回帰直線のベクトル長を示すグラフ、(c)は回帰直線の傾きを示すグラフである。
【
図5】(a)〜(c)はベクトル長を時刻暦で表示したグラフ、(d)はNS方向の弾性波形記録、(e)はEW方向の弾性波形記録、(f)はUD方向の弾性波形記録である。
【
図6】(a)〜(c)はベクトルの方向を時刻暦で表示したグラフ、(d)はNS方向の弾性波形記録、(e)はEW方向の弾性波形記録、(f)はUD方向の弾性波形記録である。
【
図7】三次元位置ベクトルを時刻暦で表示したグラフである。
【
図8】弾性波波群解析システムの概要を示す模式図である。
【
図9】
図8の弾性波波群解析システムのコンピュータのモニターを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る弾性波波群解析方法は、
図1に示すように、波形データ取得作業S1と、波形データ抽出作業S2と、回帰直線算出作業S3と、ベクトル長算出作業S4と、ベクトル作成作業S5とを備えている。
本実施形態では、三成分地震計1、データロガー2およびコンピュータ3を備えた弾性波波群解析システム(
図8、9参照)により弾性波の波群の解析を行う。
【0017】
波形データ取得作業S1では、振動方向が異なる三つの弾性波形記録UD,NS,EWを取得する(
図2参照)。
なお、弾性波形記録UDは、地震動の上下方向(鉛直方向)の波形データであり、弾性波形記録NSは地震動の南北方向の波形データであり、弾性波形記録EWは地震動の東西方向の波形データである。
【0018】
三つの弾性波形記録UD,NS,EWは、三成分地震計1により計測した地震データを、プレトリガー付きデータロガー2を介してコンピュータ3(
図8参照)に自動的に取り込むことで取得する。
三成分地震計は、上下および東西南北に合わせた状態で設置されている。
【0019】
波形データ抽出作業S2では、三つの弾性波形記録UD,NS,EWのそれぞれについて、弾性波形記録の収録時間(地震動の継続時間)よりも短い、所定の時間窓幅Δtの波形データを抽出し、三成分の波形データから二成分ごとのペアを3種類設定する。
【0020】
波形データの抽出は、所定の時間窓幅Δtを設定したうえで、
図2に示すように、弾性波形記録に対して、この時間窓幅Δt内の波形データを抽出することにより行う。
なお、時間窓幅Δtの大きさは限定されるものではないが、例えば、データ(加速度、速度データ等)のサンプリングが0.02msecの場合、時間窓幅Δt=0.2秒とする場合、パーティクル・オービットの回帰直線解析のデータ数は11個となる。
【0021】
波形データを抽出したら、二成分ごとのペア(NS−EW,UD−NS,UD−EW)を設定する。このとき、設定された各ペアについて、
図3に示すようなパーティクル・オービットを作成する。
【0022】
なお、
図3の(a)は、時間窓幅Δtに含まれる時刻t
1,t
2,…t
nに対応するEW方向のデータx
1,x
2,…x
nとNS方向のデータy
1,y
2,…y
nとを用いて作成した第一のペア(NS−EW)のパーティクル・オービットである。このパーティクル・オービットは、「EW」を横軸、「NS」を縦軸とした直交座標に、時刻t
1,t
2,…t
nにそれぞれ取得されたEW成分およびNS成分のペア(x
1,y
1)、(x
2,y
2)、…(x
n,y
n) をプロットし、各プロットを時刻順に線で結んで形成したものである。
同様に、
図3の(b)は、「NS」を横軸、「UD」を縦軸とした直交座標に、時刻t
1,t
2,…t
nにそれぞれ取得されたNS成分およびUD成分のペア(y
1,z
1)、(y
2,z
2)、…(y
n,z
n) をプロットし、各プロットを時刻順に線で結んで形成した第二のペア(UD−NS)のパーティクル・オービットであり、
図3の(c)は、「EW」を横軸、「UD」を縦軸とした直交座標に、時刻t
1,t
2,…t
nにそれぞれ取得されたEW成分およびUD成分のペア(x
1,z
1)、(x
2,z
2)、…(x
n,z
n) をプロットし、各プロットを時刻順に線で結んで形成した第三のペア(UD−EW)のパーティクル・オービットである。
【0023】
回帰直線算出作業S3では、波形データ抽出作業S2において設定された3種類のペア(NS−EW,UD−NS,UD−EW)のそれぞれについて3種類の回帰直線を算出する。
【0024】
回帰直線の算出は、時間窓幅Δt分の3成分のうちの2成分のペアに対して、最小二乗法を適用することにより行う。
すなわち、時間窓幅Δt内の時刻t
1,t
2,…t
nにおけるEW成分およびNS成分のペア(x
1,y
1)、(x
2,y
2)、…(x
n,y
n)に対して最小二乗法を適用して回帰直線を求めるとともに、NS成分およびUD成分のペア(y
1,z
1)、(y
2,z
2)、…(y
n,z
n)に対して最小二乗法を適用して回帰直線を求め、さらに、EW成分およびUD成分のペア(x
1,z
1)、(x
2,z
2)、…(x
n,z
n)に対して最小二乗法を適用して回帰直線を求める。
【0025】
ベクトル長算出作業S4(
図1)では、回帰直線算出作業S3(
図1)で算出された3種類の回帰直線のそれぞれについて、回帰直線上に設けた回帰ベクトルのベクトル長を算出する。
【0026】
ベクトル長の算出方法は、
図4を参照して、以下に示すように行う。なお、以下では、時間窓幅Δtにおける第一のペア(UD−EW)を例に、ベクトル長の算出方法を説明するが、他の時間幅および他のペアにおけるベクトル長の算出方法も同様である。また、
図4を参照してベクトル長の算出方法を説明するが、パーティクル・オービットの図示は必須の手順ではない。
第一のペア(UD−EW)におけるベクトル長を算出する場合には、先ず、時間窓幅ΔtにおけるEW成分の波形データx
1,x
2…x
nの中から最大値x
maxおよび最小値x
minを抽出する(
図4の(a)参照)。
【0027】
次に、回帰直線(式1)にx座標の最大値x
maxおよび最小値x
minを代入して、UD成分の最大値y
maxおよびy座標の最小値y
minを算出する。本実施形態では、回帰直線上の第一の点(x
max,y
max)から第二の点(x
min,y
min)に向かうベクトルを回帰ベクトルとする。
y=a
xyx+b
xy ・・・ 式1
【0028】
そして、式2を利用して、回帰直線上の第一の点(x
max,y
max)と第二の点(x
min,y
min)との距離L
xyを算出し、この算出された距離L
xyをベクトル長Lとする(
図4の(b)参照)。
【0030】
ベクトル作成作業S5では、3種類の回帰直線を用い
て三次元合成位置ベクトルを作成する。
【0031】
3つのペア(NS−EW,UD−NS,UD−EW)のi番目の時間窓幅Δt
iにおける回帰ベクトルの空間ベクトルを、それぞれ
ip
NSEW,
ip
UDNS,
ip
UDEWとした場合、各回帰ベクトルは以下のようになる。
【0032】
ip
NSEW(
ix
max−
ix
min,
iy
max−
iy
min,0)
ip
UDNS(0,
iy
max−
iy
min,
iz
max−
iz
min)
ip
UDEW(
ix
max−
ix
min,0,
iz
max−
iz
min)
【0033】
そして、式3に示すように、三次元の各回帰ベクトルを成分合成して、i番目の時間窓幅Δt
iにおける三次元合成位置ベクトル(波群到来方向ベクトル)を算出する。
iP=
ip
NSEW+
ip
UDNS+
ip
UDEW ・・・ 式3
【0034】
三次元合成位置ベクトルを算出したら、時間窓幅Δtとは異なる時間窓幅において、波形データ抽出作業S2、回帰直線算出作業S3、ベクトル長算出作業S4およびベクトル作成作業S5を繰り返すことで、時間窓幅Δt毎のベクトル長L、方向ベクトルおよび三次元合成位置ベクトル
iPを算出する。
【0035】
次の時間窓幅Δt
n+1の設定方法は、前回算出した時間窓幅Δt
nからシフト量dtだけずらした時間窓幅とすればよい。
なお、シフト量dtの大きさは限定されるものではないが、例えば、時間窓幅Δt=0.2秒と設定した場合には、解析のオーバーラップを考えて、例えば、シフト量dt=0.1秒にすればよい。この場合、前回の時間窓幅の一部(後半部分)と今回の時間窓幅の一部(前半部分)とがラップすることになる。
【0036】
複数の時間窓幅毎にベクトル長L、方向ベクトルおよび三次元合成位置ベクトル
iPを算出したら、必要に応じて、
図5〜7に示すように、それぞれ時系列で表示する。
【0037】
ベクトル長Lを時系列で表示すると、
図5の(a)〜(c)に示すように、ベクトル長Lに大きな変化点が生じる場合がある。
このベクトル長Lの変化点をP波とS波の変化点として推定することができる。
また、方向ベクトルを時系列で表示すると、
図6の(a)〜(c)のようになる。
【0038】
また、三次元合成位置ベクトルを時系列で表示すると、
図7のようになる。
図7では、EW方向を時間軸としている。
iPは、i番目の時間窓幅における三次元合成ベクトルである。三次元合成ベクトル
1P〜
5Pのベクトル長が小さいことから、未だ弾性波が到来していないことが分かる。また、三次元合成ベクトル
6Pは、そのベクトル長が三次元合成ベクトル
1P〜
5Pのベクトル長に比べて明らかに大きくなっていることから、6番目の時間窓幅にP波が到来したことが分かる。さらに、11番目の時間窓幅の三次元合成ベクトル
11Pは、10番目の時間窓幅以前の三次元合成ベクトル
1P〜
10Pとは大きく異なる方向に向かっているので、11番目の時間窓幅にS波が到来したことが分かり、さらに、その後の三次元合成ベクトルのベクトル長が小さくなっていることから、S波が一旦収束したことが分かる。また、三次元合成ベクトル
21Pは、20番目の時間窓幅の三次元合成ベクトルとは大きく異なる方向に向かっているので、21番目の時間窓幅に表面波などが到来したことが分かる。
【0039】
そのため、P波の到着からS波の到着までの時間差である「PS時間」の推定、震源距離の推定、震央の推定等が可能となり、地震の震源位置の速報に使用することができる。
また、トンネルの弾性波探査に採用することで、切羽前方の地山状況の把握に役立てることもできる。
【0040】
なお、震源距離は、以下に示すように、簡易的には、大森公式により算出することができる。
震源距離をD
s、P波の速度をv
p、S波の速度をv
sとすると、P波の到着にかかった時間t
pおよびS波の到着にかかった時間t
sは、それぞれ式4および式5のようになる。
【0041】
t
p=D
s/v
p ・・・ 式4
t
s=D
s/v
s ・・・ 式5
【0042】
よって、PS時間(初期微動継続時間)t
psは、式6のようになる。
【0044】
式6より、震源距離D
sは、式7により示すことができる。
【0046】
このように、P波の方向がUD−EW、UD−NSで決定すれば、方向と震源距離D
sからおおよその震源の場所を推定することができる。
【0047】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0048】
なお、i番目の時間窓幅における三次元合成位置ベクトル(波群到来方向ベクトル)は、式8により算出することができる。
三次元合成位置ベクトル
iPの成分を(
ip
x,
ip
y,
ip
z)とすると、三次元合成位置ベクトルのベクトル長Lは式8で算出でき、三次元合成位置ベクトル
ipの方向余弦(
il,
im,
in)は式9で算出することができる。