特許第6131112号(P6131112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋スチレン株式会社の特許一覧

特許6131112スチレン系難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131112
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】スチレン系難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20170508BHJP
   C08K 5/3417 20060101ALI20170508BHJP
   C08K 5/03 20060101ALI20170508BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C08L51/04
   C08K5/3417
   C08K5/03
   C08K3/34
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-123403(P2013-123403)
(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公開番号】特開2014-240463(P2014-240463A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 利春
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 圭太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宝晃
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−256230(JP,A)
【文献】 特開2000−034377(JP,A)
【文献】 特表2001−507053(JP,A)
【文献】 特開平11−217482(JP,A)
【文献】 特開平08−283525(JP,A)
【文献】 特開平10−195254(JP,A)
【文献】 特開2012−219250(JP,A)
【文献】 特開昭53−088051(JP,A)
【文献】 特開平07−062168(JP,A)
【文献】 特開2000−129071(JP,A)
【文献】 特開2006−290981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム変性スチレン系樹脂を100質量部に対して、(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の合計量が10〜20質量部であり、(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の比が30/70〜90/10、(D)難燃化助剤1〜10質量部、(E)タルク1〜10質量部、(F)紫外線吸収剤、(G)光安定剤を含むことを特徴とするスチレン系難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
上記(A)ゴム変性スチレン系樹脂を100質量部とした時、(F)紫外線吸収剤と(G)光安定剤の合計量が0.01〜2質量部であり、(F)紫外線吸収剤と(G)光安定剤の比が10/90〜90/10である請求項1に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
UL94における燃焼性が5Vを有することを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン系難燃性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な難燃性(UL94 5V)及び耐光性を有し、強度と耐熱性の高度なバランスに優れたスチレン系難燃性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム変性スチレン系樹脂は成形性、寸法安定性に優れており、比較的安価であることから広範囲の用途に使用されている。特に難燃性樹脂はワープロ、パーソナルコンピュータ、複写機、プリンター等のOA機器、TV、VTR、オーディオ等の家電製品等を初めとする多岐の分野で使用されている。
【0003】
複写機及びプリンターに使用される外装カバーは、防火エンクロージャとして燃焼あるいは高温物質の飛散や火炎の吹き出しなどを防止する役割を担っている。小型の機器においてはUL94 V−1の難燃性能を有する材料であれば使用可能であるが、大型の機器及び固定して使用される機器においては、高度な難燃性(UL94 5V)が要求される。
【0004】
また外装部材は直接/間接の太陽光あるいは蛍光灯等の人工照明の照射を受けるため、耐光性が要求される。特に大型あるいは固定されて使用される複写機及びプリンターにおいては、小型機と比べて更新頻度が低く使用年数が長くなる傾向が強く、小型機と比べてより高度な耐光性が要求される。
【0005】
大型あるいは固定されて使用される機器では、内部機構の大型/複雑化と共に放熱が大きくなるため、小型機と比べてより高度な耐熱性が要求される。更には近年、複写機及びプリンターにおいても、成形品の薄肉化/軽量化が進んでおり、より一層の強度と耐熱性の高度なバランスが求められている。
【0006】
従来から、スチレン系樹脂に難燃性を付与するために、種々の難燃剤が提案されている。中でも、安価で物性バランスに優れているハロゲン含有有機化合物が難燃剤として多く使用されている。代表的なものとしては、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエタン、臭素化トリアジン、臭素化エポキシ、臭素化フタルイミド、又は臭素化エポキシ樹脂のエポキシ基をトリブロモフェノールで封鎖したものが使用される。
【0007】
従来より、上述の難燃性樹脂を得る方法として、ポリハロゲン化ジフェニルアルカンおよびエチレンビステトラブロモフタルイミドを併用する樹脂組成物(特開平10−204236号公報)、ポリハロゲン化ジフェニルアルカンを必須成分とし、加えてハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体及びハロゲン化ビスイミドを任意成分として併用する樹脂組成物(特開平11−217482号公報、特開平08−283525号公報)等が提唱されている。しかしこれらは何れも難燃レベルがUL94 V−0であり、大型あるいは固定されて使用される複写機及びプリンターの外装カバーで必要とされる難燃性能(UL94 5V)を満たしていない。
【0008】
こうしたことから高度な難燃性(UL94 5V)及び耐光性を有し、強度と耐熱性の高度なバランスに優れたスチレン系難燃性樹脂組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−204236号公報
【特許文献2】特開平11−217482号公報
【特許文献3】特開平08−283525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高度な難燃性(UL94 5V)及び耐光性を有し、強度と耐熱性の高度なバランスに優れたスチレン系難燃性樹脂組成物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題について鋭意検討した結果、特定難燃剤を併用し、難燃化助剤、タルク、紫外線吸収剤、安定剤を含む樹脂組成物とすることにより、本発明を完成させた。
1.(A)ゴム変性スチレン系樹脂を100質量部に対して、(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の合計量が10〜20質量部であり、(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の比が30/70〜90/10、(D)難燃化助剤1〜10質量部、(E)タルク1〜10質量部、(F)紫外線吸収剤、(G)光安定剤を含むことを特徴とするスチレン系難燃性樹脂組成物。
2.上記(A)ゴム変性スチレン系樹脂を100質量部とした時、(F)紫外線吸収剤と(G)光安定剤の合計量が0.01〜2質量部であり、(F)紫外線吸収剤と(G)光安定剤の比が10/90〜90/10である前記1に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物。
3.UL94における燃焼性が5Vを有することを特徴とする前記1及び2のいずれか1項に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物。
4.スチレン系難燃性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明に関わるスチレン系難燃性樹脂組成物は、高度な難燃性(UL94 5V)及び耐光性を有し、強度と耐熱性の高度なバランスに優れたスチレン系難燃性樹脂組成物である。該スチレン系難燃性樹脂組成物の特性は、特に大型あるいは固定されて使用される複写機及びプリンターに使用される外装カバーに好適であり、その産業上の利用価値は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いる(A)ゴム変性スチレン系樹脂は、スチレン系単量体にゴム成分を溶解し、熱重合または過酸化物等の重合開始剤を用いて攪拌下で重合させた物であり、製造プロセスとしてはバッチ重合でも連続重合でも良い。スチレン系単量体としてはo−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等が挙げられるが、スチレンが最も好適である。これらの単量体を用いて単独重合体としても良いし、2種以上を併用して使用することも出来る。またこれらの単量体と共重合可能なメタクリル酸、メタクリル酸メチル等を用いて共重合体としても良い。ゴム成分としては、ブタジエン、イソプレン等の単独重合体や、ブタジエンと共重合可能なスチレンやメタクリル酸メチル等との共重合体が用いられ、共重合体の分子構造はランダム構造でもブロック構造でも良く、分岐構造を有しても良い。またこうしたゴム変性スチレン系樹脂は、樹脂組成物としてのゴム成分量や衝撃強度、流動性を調節する目的で、ゴム成分を含まないポリスチレン(GPPS)と併用し用いても良い。難燃性樹脂組成物中のゴム状重合体は3〜12質量%であり、好ましくは4〜11質量%である。ゴム状重合体の量が3質量%より少ないと強度が低下し、12質量%より多いと曲げ弾性率が低下するため、好ましくない。なお(A)ゴム変性スチレン系樹脂は、ゴム成分として70質量%以上が、シス−1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムを用いたものが好ましい。、1,4−シス結合含量が10〜40モル%であるローシスポリブタジエンゴムを用いた場合、離型性が低下するため、好ましくない。
【0014】
本発明で使用する(B)臭素化フタルイミド化合物は、下記に示す(化1)で表される化合物である。
【0015】
【化1】
(ここで、RはCnH2n(nは0〜6の整数)の構造のアルキレン基、X1およびX2はそれぞれ独立に整数1〜4の臭素原子でありX1+X2≧2を表す。)
【0016】
(B)臭素化フタルイミド化合物として、メチレン−ビス−フタルイミド、エチレン−ビス−フタルイミド、プロピレン−ビス−フタルイミド、ブチレン−ビス−フタルイミド、ペンチレン−ビス−フタルイミド、ヘキシレン−ビス−フタルイミド等のジブロモ置換体、トリブロモ置換体、テトラブロモ置換体、ペンタブロモ置換体、ヘキサブロモ置換体、ヘプタブロモ置換体、オクタブロモ置換体が挙げられる。好ましくは、エチレン−ビス−フタルイミド、プロピレン−ビス−フタルイミド、ブチレン−ビス−フタルイミド、ペンチレン−ビス−フタルイミド、ヘキシレン−ビス−フタルイミドのオクタブロモ置換体である。
【0017】
本発明で使用する(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物は、下記に示す(化2)で表される化合物である。
【0018】
【化2】
(ここで、RはCnH2n(nは1〜10の整数)の構造のアルキレン基、X1およびX2はそれぞれ独立に整数1〜5の臭素原子でありX1+X2≧2を表す。)
【0019】
(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物として、ジフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタン、1,3−ジフェニルプロパン、1,6−ジフェニルヘキサン等のジブロモ置換体、トリブロモ置換体、テトラブロモ置換体、ペンタブロモ置換体、ヘキサブロモ置換体、ヘプタブロモ置換体、オクタブロモ置換体、ノナブロモ置換体、デカブロモ置換体が挙げられる。好ましくは、ジフェニルアルカンのオクタブロモ置換体、ノナブロモ置換体、デカブロモ置換体であり、特に好ましくはデカブロモジフェニルエタンである。
【0020】
(B)臭素化フタルイミド化合物及び(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物は、その合計量として10〜20質量部用いるのが必須であり、好ましくは12〜18質量部である。(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の比率は、30/70〜90/10、好ましくは50/50〜90/10、より好ましくは60/40〜90/10の範囲である。(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の合計量が10質量部より少ないと難燃性が確保できず、20質量部より多いとシャルピー衝撃強度が低下する。(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の比率が30/70より小さいと耐光性が悪化し、90/10より大きいとシャルピー強度が低下する。
【0021】
本発明では(B)及び(C)の臭素系難燃剤と共に(D)難燃化助剤を用いる。難燃化助剤とは難燃剤の難燃効果を更に高める働きをするものであり、例えば酸化アンチモンとして三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等、ホウ素系化合物としてホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、無水ホウ酸亜鉛、無水ホウ酸等、スズ系化合物として酸化第二スズ、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛等、モリブデン系化合物として酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等、ジルコニウム系化合物として酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム等、また亜鉛系化合物として硫化亜鉛等が挙げられる。好ましくは三酸化アンチモンである。
【0022】
(D)難燃化助剤は1〜10質量部用いるのが必須であり、好ましくは2〜8質量部である。難燃化助剤が1質量部より少ないと難燃性が確保できず、10質量部より多いとシャルピー衝撃強度が低下する。
【0023】
無機化合物としては(E)タルクを使用する。(E)タルクの添加量は1〜10質量部であり、好ましくは1〜8質量部である。タルクが1質量部より少ないと難燃性が確保できず、タルクが10質量部より多いとシャルピー衝撃強度が低下する。
【0024】
(F)紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩紫外線吸収剤等が挙げられる。好ましいのはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。
【0025】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、市販されているものを適用できる。例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミノフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス{4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール}、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−t−オクチル−6’−t−ブチル−4’−メチル−2,2’−メチレンビスフェノール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールが好ましい。
【0026】
(G)光安定剤としてはヒンダードアミン系光安定剤が好ましく、市販されているものを適用できる。例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)セバケート、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルペピリジンとの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)イミノ}]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジンとの縮合物、1,2,3,4−テトラ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)−ブタンテトラカルボキシレート、1,4−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)−2,3−ブタンジオン、トリス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)トリメリテート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル−n−オクトエート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジルステアレート、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルペピリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジニル)セバケート、2−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にビス(2,2,6,6-テトラメチル−4−ピペリジル)セパケートが好ましい。
【0027】
(F)紫外線吸収剤及び(G)光安定剤は、その合計量として0.01〜2質量部であり、好ましくは0.1〜1.5質量部である。紫外線吸収剤及び光安定剤の比率は、10/90〜90/10の範囲であり、好ましくは20/80〜80/20の範囲である。紫外線吸収剤及び光安定剤が0.01質量部より少ないと耐光性が悪化し、2質量部より多いと耐熱性が低下する。
【0028】
本発明のスチレン系難燃性樹脂組成物には、本発明の要旨を超えない範囲で各種添加物、例えば染顔料、着色防止剤、滑剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、充填剤、相溶化剤、滴下防止剤等の公知の添加剤、酸化チタンやカーボンブラックなどの着色剤、エラストマー成分(SBSや水添SBS)などの改質剤を添加できる。これらの添加方法は特に限定される訳では無く、公知の方法例えば、使用する(A)ゴム変性スチレン系樹脂の重合開始前、重合途中の反応液に対して、または重合終了後、及び(B)臭素化フタルイミド化合物、(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物、(D)難燃化助剤、(E)タルク、(F)紫外線吸収剤、(G)光安定剤を配合する際、更には、押出機や成形機においても添加することができる。
【0029】
本発明に係わるスチレン系難燃性樹脂組成物を得る方法は、特に限定される訳では無く公知の混合技術を適用することが出来る。例えば、ミキサー型混合機、V型他ブレンダー、及びタンブラー型混合機等の混合装置であらかじめ混合しておいた混合物を、バンバリー型ミキサー、ニーダー、ロール、単軸押出機、特殊単軸押出機、及び二軸押出機等で溶融混練することが挙げられる。各原材料の添加方法としては、(A)ゴム変性スチレン系樹脂及び(B)臭素化フタルイミド化合物、(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物、(D)難燃化助剤、(E)タルク、(F)紫外線吸収剤、(G)光安定剤、及び必要に応じて他の添加剤を直接上記のような混練機に投入し、更に、押出機等の溶融混練装置の途中から添加剤を別途に添加して樹脂組成物を得てもよいし、本発明の趣旨を超えない範囲で予め樹脂等と(B)臭素化フタルイミド化合物、(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物、(D)難燃化助剤等を混練してペレット状にしたマスターバッチを作製し、このマスターバッチと(A)ゴム変性スチレン系樹脂を混練機に投入する方法でもよい。
【0030】
本発明のスチレン系難燃性樹脂組成物から成形品を得る成形法には特に制限は無いが、好ましいのは射出成形であり、特に複写機及びプリンターの外装カバーには射出成形が好適である。
【実施例】
【0031】
以下実施例により詳細を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
(A)ゴム変性スチレン系樹脂:実施例及び比較例で使用した(A)ゴム変性スチレン系樹脂は、それぞれ以下の組成である。ゴム状重合体にシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムを使用したゴム変性スチレン系樹脂である。このゴム変性スチレン系樹脂の組成は、マトリックス部分の還元粘度が0.76dl/gであり、ゴム状重合体の含有量が9.1質量%であり、ゴム状重合体のゲル含有量が26質量%であり、及びゴム状重合体の体積平均粒子径2.8μmである。ここで言う還元粘度、ゴム状重合体の質量%、ゴム状重合体のゲル含有量の質量%、ゴム状重合体の体積平均粒子径は以下の方法で測定した。
【0033】
還元粘度(ηsp/C)の測定:ゴム変性スチレン系樹脂1gにメチルエチルケトン17.5mlとアセトン17.5mlの混合溶媒を加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離で不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を取り出し、250mlのメタノールを加えて樹脂分を析出させ、不溶分を濾過乾燥する。同操作で得られた樹脂分をトルエンに溶解してポリマー濃度0.4%(質量/体積)の試料溶液を作成した。この試料溶液、及び純トルエンを30℃の恒温でウベローデ型粘度計により溶液流下秒数を測定して、下式にて算出した。
ηsp/C=(t1/t0−1)/C
t0:純トルエン流下秒数
t1:試料溶液流下秒数
C :ポリマー濃度
【0034】
ゴム状重合体含有量の測定:該スチレン系難燃性樹脂組成物をクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/氷酢酸溶液を加え暗所に約30分放置後、15質量%のヨウ化カリウム溶液と純水50mlを加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から算出した。
【0035】
ゲル含有量の測定:ゴム変性スチレン系樹脂をトルエンに3.3%(質量/体積)の割合で加え、温度25℃で40分振とう溶解した後、遠心分離(回転数10000〜14000rpm、分離時間30分)で不溶分(ゲル分)を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去してゲルを得た。次に、この膨潤ゲルを温度100℃で2時間予備乾燥した後、温度120℃の真空乾燥機で1時間乾燥した。デシケータで常温まで冷却し精秤し下式にて算出した。
ゲル分率(%)=[(m1−m0)/S]×100
m0:遠心沈降管質量
m1:乾燥ゲル+遠心沈降管質量
S:試料樹脂質量
【0036】
ゴム状重合体の体積平均粒子径の測定:ゴム変性スチレン系樹脂をジメチルホルムアミドに完全に溶解させ、レーザー回析方式粒度分布装置にて測定した。
【0037】
(B)臭素化フタルイミド化合物:商品名SAYTEX BT−93(アルベマール日本社製)を使用した。
【0038】
(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物:商品名SAYTEX 8010(アルベマール日本社製)を使用した。
【0039】
難燃剤の比較例としてトリブロモフェノキシトリアジン:商品名SR245(第一工業製薬社製)を使用した。
【0040】
(D)難燃化助剤:三酸化アンチモン商品名AT−3CN(鈴裕化学社製)を使用した。
【0041】
(E)タルク:商品名KPタルク(富士タルク社製)を使用した。
【0042】
(F)紫外線吸収剤:2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール商品名JF−79(城北化学社製)を使用した。
【0043】
(G)光安定剤:ビス(2,2,6,6-テトラメチル−4−ピペリジル)セパケート商品名JF−90(城北化学社製)を使用した。
【0044】
[樹脂組成物の調製]
【0045】
表1〜4に記載した質量部の(A)ゴム変性スチレン系樹脂、(B)臭素化フタルイミド化合物、(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物、(D)難燃化助剤、(E)タルク(F)紫外線吸収剤、(G)光安定剤を秤量し、ヘンシェルミキサー(三井三池化工(株)製、FM20B)で混合し、得られた混合物をスクリューフィーダ付き二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEM26SS)で混練して樹脂組成物のペレットを製造した。
【0046】
なお、予備混合時にカルシウムステアレート、ミネラルオイル、ポリテトラフルオロエチレン、フェノール系酸化防止剤{オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、ポリエチレンワックス、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体及び酸化チタンも同時添加した。
【0047】
押出し条件
シリンダー設定温度:200℃(搬送部位)〜240℃(混練部位)
スクリュー回転数:300rpm
押出速度:30kg/h
【0048】
[機械物性測定用試験片の成形]
得られたペレットを温度70℃×3時間で加熱乾燥後、射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)にて、JIS K 7139に記載のA型試験片(ダンベル)を成形した。この際、シリンダー温度205℃、金型温度45℃とした。
【0049】
[シャルピー衝撃強さ]
上記ダンベル片の中央部より切り出し、切削でノッチ(タイプA、r=0.25mm)を入れた試験片を用いて、JIS K 7111−1に基づき測定を行った。強度が8kJ/m2未満だと成形品の強度が不十分であり、8KJ/m2以上を合格とした。
【0050】
[耐光性]
耐光性の評価用試験片は、射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)にて、80×50×2mmの試験片を成形した。この際、シリンダー温度190℃、金型温度30℃とした。アトラス社製キセノンウエザーメータCi4000を用い、ASTM D 4459に基づき、照射強度0.3W/m2、ブラックパネル温度55℃、湿度50%RHで300時間照射後のテストピースの色相差ΔE*abを日本電色工業社製Σ80で測定し、未暴露サンプルとの差で表した。ΔE*abが3より大きいと長期使用時の色相変化が顕著となるため、ΔE*abが3以下を合格とした。
【0051】
[燃焼性]
燃焼性の評価用試験片は、射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)にて、127×12.7×2.0mmの燃焼用試験片を成形した。米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ社のサブジェクト94号の垂直燃焼試験方法(UL94)に基づき、燃焼試験を行った。この試験法で5Vの評価となった場合を合格とし、5Vに満たなかった場合を不合格とした。
【0052】
(A)ゴム変性スチレン系樹脂、(B)臭素化フタルイミド化合物、(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物、(D)難燃化助剤、(E)タルク(F)紫外線吸収剤、(G)光安定剤の各配合量と共に評価結果を表1〜4に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
(各実施例・比較例について)
実施例1〜6は本発明のスチレン系難燃性樹脂組成物であり、本願発明の組成及び規定量を満たすことにより、UL94 5Vを満たし、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度、及び、耐光性が高度なバランスを有していることがわかる。
【0058】
しかし本発明の規定を満足しない比較例1〜9で得られたスチレン系難燃性樹脂組成物では、何れかに優れることはあっても、その全てに優れていることはないことがわかる。
【0059】
例えば(B)臭素化フタルイミド化合物と(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の比が規定量から外れると比較例1に示すように燃焼性、耐光性が不足する。(B)臭素化フタルイミド化合物単独で5V燃焼性を満たすまで難燃剤を加えると比較例2に示すようにシャルピー衝撃強さが不足する。(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物単独で5V燃焼性を満たすまで難燃剤を加えると比較例10に示すように耐光性及びシャルピー衝撃強さが不足する。(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の代わりに他の難燃剤化合物を使用すると比較例3に示すように難燃性及びシャルピー衝撃強さが不足する。(B)臭素化フタルイミド化合物及び(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物、(D)難燃化助剤、あるいは(E)タルクの量が少ないと比較例4、6、8に示すように難燃性が不足する。(B)臭素化フタルイミド化合物及び(C)臭素化ジフェニルアルカン化合物の量が多いと比較例5に示すようにシャルピー衝撃強さが不足する。(D)難燃化助剤、あるいは(E)タルクの量が多いと比較例7、9に示すようにシャルピー衝撃強さが不足し、難燃性もグローイング発生のためNGとなる。