(54)【発明の名称】固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた固体高分子型燃料電池用のシール材、及び該シール材を用いた固体高分子型燃料電池
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)メチルメタクリレートを20質量%以上、(b)グリシジル(メタ)アクリレートを20質量%以下含む原料成分を共重合してなり、重量平均分子量が30万以上である共重合樹脂を含有してなる、固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
前記原料成分中に、さらに(c)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートから選ばれるその他の重合性モノマーの一種以上を含有してなる、請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
前記樹脂組成物に、さらにグリシジル基と反応可能な官能性基を有する硬化剤を含有してなる、請求項1〜3の何れかに記載の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
請求項1〜5の何れかに記載の樹脂組成物から形成されてなるシート状のシール材層の両側の面を剥離可能な基材で挟み込んでなる、固体高分子型燃料電池用のシール材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、シール材としてOリングを用いるものである。しかし、特許文献1のものは、セパレータにOリングを嵌め込むための溝を加工する必要があるとともに、構造上薄型化が難しく、さらには大きな締め付け力が必要となり、該力によってセパレータが破損するという問題があった。
【0005】
特許文献2〜5はOリングを用いないため上記のような問題はないが、以下のような問題があった。
特許文献2は、シール材として、脱炭素処理により炭素含有量C/Siが低下されたアルカリ金属含有非晶質シリカ粒子を用いるものである。しかし、特許文献2のシール材は融着温度が770℃以上と極めて高く、シール作業に加熱用の大型設備を要し、汎用性に欠けるものであった。
特許文献3は、シール材として、ウレタン系樹脂または液状シリコンゴムを用いるものである。しかし、ウレタン樹脂は高湿環境下で加水分解を生じてしまうという問題があった。また、ポリウレタン樹脂は、ポリエステル系とポリエーテル系に大別されるが、いずれも熱に弱く、ポリエステル系は100℃弱、ポリエーテル系は70℃程度で接着力が低下してしまうものであった。液状シリコンゴムは、機械的強度が低く、酸やアルカリによって加水分解を受けやすいという問題があった。
特許文献4は、シール材として、オレフィン系樹脂や軟質エポキシ系樹脂を用いるものである。しかし、オレフィン樹脂は高温環境下で樹脂の凝集力の低下が起こるため十分な接着力が得られず、軟質エポキシ系樹脂は、高温環境下において軟化により接着力が低下してしまうという問題があった。
特許文献5は、シール材として、スチレン系ブロック重合エラストマー及びタッキファイヤーを含む組成物を用いるものである。しかし、該組成物は、高温環境下で接着力が低下してしまうものであった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高温環境下での接着力の低下を抑えるとともに、熱水や酸による劣化を抑えた、固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた固体高分子型燃料電池用のシール材、及び該シール材を用いた固体高分子型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた固体高分子型燃料電池用のシール材、及び該シール材を用いた固体高分子型燃料電池は以下の[1]〜[8]の通りである。
[1](a)メチルメタクリレートを20質量%以上、(b)グリシジル(メタ)アクリレートを20質量%以下含む原料成分を共重合してなり、重量平均分子量が30万以上である共重合樹脂を含有してなる、固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
[2]前記共重合樹脂のエポキシ当量が710〜1430000g/eqである、上記[1]に記載の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
[3]前記原料成分中に、さらに(c)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートから選ばれるその他の重合性モノマーの一種以上を含有してなる、上記[1]又は[2]に記載の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
[4]前記樹脂組成物に、さらにグリシジル基と反応可能な官能性基を有する硬化剤を含有してなる、上記[1]〜[3]の何れかに記載の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
[5]前記樹脂組成物中に含まれる窒素原子が、質量基準で0.04%以下である、上記[1]〜[4]の何れかに記載の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物。
[6]上記[1]〜[5]の何れかに記載の樹脂組成物から形成されてなる、固体高分子型燃料電池用のシール材。
[7]上記[1]〜[5]の何れかに記載の樹脂組成物から形成されてなるシート状のシール材層の両側の面を剥離可能な基材で挟み込んでなる、固体高分子型燃料電池用のシール材。
[8]上記[6]に記載の固体高分子型燃料電池用シール材によるシール部位を備えてなる、固体高分子型燃料電池。
なお、以下、本発明の固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物のことを「本発明の樹脂組成物」、本発明の樹脂組成物を用いた固体高分子型燃料電池用のシール材のことを「本発明のシール材」、本発明のシール材を用いた固体高分子型燃料電池のことを「本発明の燃料電池」と称する場合もある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物及びシール材は、高温環境下で樹脂の凝集力を保ち接着力の低下を抑えることができ、さらに水分や酸による劣化を防止できるため、燃料電池の性能を経時的に安定化することができる。また、本発明の燃料電池は、シール材が剥離したり劣化することが抑えられ、燃料電池の性能を経時的に安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]固体高分子型燃料電池シール材用の樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、(a)メチルメタクリレートを20質量%以上、(b)グリシジル(メタ)アクリレートを20質量%以下含む原料成分を共重合してなり、重量平均分子量が30万以上であるアクリル系共重合樹脂を含有してなるものである。
なお、本発明において、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラム法により測定し、ポリスチレン換算した値である。
【0011】
(a)メチルメタクリレート
メチルメタクリレート(メチルメタクリレートモノマー)は、共重合樹脂の原料成分中に20質量%以上含まれる。メチルメタクリレートを20質量%以上とすることにより、共重合樹脂が熱水や酸により分解して重量が減少することを防止できるとともに、高温環境下での接着力の低下を抑えることができる。また、メチルメタクリレートを20質量%以上含有することにより、共重合樹脂の軟化点を高くしてシール材として用いる際の取り扱い性を良好にすることができる。
なお、メチルメタクリレートは、共重合樹脂の原料成分中の80質量%以下とすることが好ましい。メチルメタクリレートを80質量%以下とすることにより、後述の(b)グリシジル(メタ)アクリレートの割合を確保して、高温環境下での接着力の低下をより抑えるとともに、耐酸性をより良好することができる。
メチルメタクリレートの割合は、30〜70質量%であることがより好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0012】
(b)グリシジル(メタ)アクリレート
グリシジル(メタ)アクリレート(グリシジル(メタ)アクリレートモノマー)は、共重合樹脂の原料成分中に20質量%以下含まれる。グリシジル(メタ)アクリレートを含有することにより、高温環境下での接着力を維持したまま樹脂の凝集力が確保できる。また、グリシジル(メタ)アクリレートの含有割合を20質量%以下とすることにより、共重合樹脂のゲル化を防止するとともに、メチルメタクリレートの割合を確保して耐熱水性及び耐酸性を良好にすることができる。
グリシジル(メタ)アクリレートの含有割合は、0.1〜15質量%であることが好ましく、0.5〜10.0質量%であることがより好ましく、1.0〜5.0質量%であることがさらに好ましい。
グリシジル(メタ)アクリレートは、グリシジルメタクレート及びグリシジルアクリレートの何れも使用できるが、皮膚刺激性等の取り扱い性、化合物としての安定性、及び合成の容易性の観点から、グリシジルメタクリレートが好適である。
【0013】
(c)その他の重合性モノマー
共重合樹脂は、原料成分に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートから選ばれるその他の重合性モノマーの一種以上を含有してなることが好ましい。
共重合樹脂は、(a)成分のメチルメタクリレートを含有することにより、耐熱水性、耐酸性及び高温環境下での接着力を良好にできる一方で、共重合樹脂の軟化点が高くなりすぎる場合がある。ここで、(c)成分のその他の重合性モノマーを含有することにより、共重合樹脂の軟化点を下げ、燃料電池のセルのシール部位にシール材を熱融着する際の作業性を向上させることができる。
【0014】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートは、メチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレートを用いることができ、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート等のブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その他の重合性モノマーは、耐熱水性の観点から、アルキル(メタ)アクリレートが好適である。また、共重合樹脂の軟化点を調整しやすいという観点から、アルキルアクリレートが好適である。さらに、共重合しやすく、工業的に汎用性もあるという観点から、ブチルアクリレート又はエチルアクリレートが好適である。また、軟化点調整の観点から、ブチルアクリレート及びエチルアクリレートを併用することも好適である。
【0015】
その他の重合性モノマーは、共重合樹脂の原料成分中に5質量%以上80質量%未満含有することが好ましく、15〜70質量%含有することがより好ましく、25〜60質量%含有することがさらに好ましい。その他の重合性モノマーを5質量%以上とすることにより、共重合樹脂の軟化点を下げ、シール材の熱融着作業を容易にすることができ、80質量%未満とすることにより、メチルメタクリレート及びグリシジル(メタ)アクリレートの割合を確保して、高温環境下での接着力、耐熱水性及び耐酸性を良好にすることができる。
【0016】
共重合樹脂は、上述した(a)メチルメタクリレート及び(b)グリシジル(メタ)アクリレートと、必要に応じて用いる(c)その他の重合性モノマーとを含有してなる原料組成物を共重合してなるものである。
【0017】
共重合の方法としては、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が挙げられる。これら共重合の方法の中では、分子量分布が狭く、残留モノマーの少ないポリマーが得られる点、高分子量ポリマーが得られる点、乳化剤が不要であるため不純物の少ない点、水中で重合でありながら耐水性及び耐熱性に優れる共重合樹脂が得やすいという点から、懸濁重合が好適である。
重合条件は、例えば懸濁重合の場合、50〜80℃で、2〜24時間行うことが好ましい。
共重合体の形態は、交互、ランダム、ブロック、グラフト等の何れの形態であっても良い。
【0018】
粒状体を製造するための水系懸濁重合においては、一種以上の懸濁安定剤を使用できる。例えば、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸塩、ポリアクリルアミド、部分ケン化ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等の水溶性高分子、リン酸カルシウム類、炭酸カルシウム等の無機塩粉体等が挙げられる。
【0019】
重合開始剤としては、分解後の重合開始ラジカル種が油溶性であることが好ましい。 ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤や過酸化物系ラジカル重合開始剤が典型的なものとして挙げられる。
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、2,2'−アゾビスプロパン、2,2'−ジクロロ−2,2'−アゾビスプロパン、1,1'−アゾ(メチルエチル)ジアセテート、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、2,2'−アゾビス(2−アミノプロパン)硝酸塩、2,2'−アゾビスイソブタン、2,2'−アゾビスイソブチルアミド、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルプロピオン酸メチル、2,2'−ジクロロ−2,2'−アゾビスブタン、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1'−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、2−(4−メチルフェニルアゾ)−2−メチルマロノジニトリル4,4'−アゾビス−4−シアノ吉草酸、3,5−ジヒドロキシメチルフェニルアゾ−2−アリルマロノジニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルバレロニトリル、4,4'−アゾビス−4−シアノ吉草酸ジメチル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1'−アゾビスシクロヘキサンニトリル、2,2'−アゾビス−2−プロピルブチロニトリル、1,1'−アゾビスシクロヘキサンニトリル、2,2'−アゾビス−2−プロピルブチロニトリル、1,1'−アゾビス−1−クロロフェニルエタン、1,1'−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、1,1'−アゾビス−1−シクロヘプタンニトリル、1,1'−アゾビス−1−フェニルエタン、1,1'−アゾビスクメン、4−ニトロフェニルアゾベンジルシアノ酢酸エチル、フェニルアゾジフェニルメタン、フェニルアゾトリフェニルメタン、4−ニトロフェニルアゾトリフェニルメタン、1,1'−アゾビス−1,2−ジフェニルエタン、ポリ(ビスフェノールA−4,4'−アゾビス−4−シアノペンタノエート)、ポリ(テトラエチレングリコール−2,2'−アゾビスイソブチレート)等が挙げられる。
過酸化物系ラジカル重合開始剤としては、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化2−クロロベンゾイル、過酸化3−クロロベンゾイル、過酸化4−クロロベンゾイル、過酸化2,4−ジクロロベンゾイル、過酸化4−ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ブチル、tert−ブチルヒドロペルオキシド、過ギ酸tert−ブチル、過酢酸tert−ブチル、安息香酸tert−ブチル、過フェニル酢酸tert−ブチル、過4−メトキシ酢酸tert−ブチル、過N−(3−トルイル)カルバミン酸tert−ブチル等が挙げられる。重合開始剤を例示すると、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、キュメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド等の過酸化物がある。
【0020】
また、連鎖移動剤として、メルカプト化合物を加えることができる。例えば、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、メルカプトプロパンジオール、メルカプトブタンジオール、ヒドロキシベンゼンチオール及びその誘導体等の水酸基を有する連鎖移動剤;1−ブタンチオール、ブチル−3−メルカプトプロピオネート、メチル−3−メルカプトプロピオネート、2,2−(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、エタンチオール、4−メチルベンゼンチオール、ドデシルメルカプタン、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、1−オクタンチオール、シクロペンタンチオール、シクロヘキサンチオール、チオグリセロール、4,4−チオビスベンゼンチオール等が挙げられる。
【0021】
共重合樹脂の重量平均分子量は30万以上である。重量平均分子量を30万以上とすることにより高温環境下での接着力を良好にすることができる。共重合樹脂の重量平均分子量は、重合時のゲル化の抑制及び品質の安定化の観点から、150万以下とすることが好ましい。共重合樹脂の重量平均分子量は40万〜100万であることが好ましく、50万〜80万であることがより好ましい。
共重合樹脂の一次軟化点は80〜150℃であることが好ましく、100〜140℃であることがより好ましい。軟化点を100℃以上とすることにより高温環境下での接着性が確保でき、150℃以下とすることにより熱プレス等で接合時の流動性が確保できる。軟化点は実施例に記載の方法により測定できる。
共重合樹脂のエポキシ当量は、710〜1430000g/eqであることが好ましく、950〜143000g/eqであることがより好ましく、1420〜28600g/eqであることがさらに好ましく、2840〜14300g/eqであることがよりさらに好ましい。エポキシ当量を1430000g/eq以下とすることにより高温環境下での接着性が確保でき、710g/eq以上とすることにより高温環境下での接着性を確保したまま樹脂の凝集力を上げることができる。エポキシ当量は滴定により測定できる。
【0022】
共重合樹脂は、本発明の効果を十分に発揮しやすくするために、本発明の樹脂組成物の全固形分の50質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することがさらに好ましく、90質量%以上含有することがよりさらに好ましい。
【0023】
(グリシジル基と反応可能な官能性基を有する硬化剤)
本発明の樹脂組成物中には、グリシジル基と反応可能な官能性基を有する硬化剤(以下、「グリシジル硬化剤」と称する場合もある)を含有してもよい。グリシジル硬化剤を含有することにより、高温環境下の接着力の低下を抑えるとともに、高温環境下で樹脂組成物が劣化して重量が減少することを防ぎ、燃料電池の性能を安定して維持することができる。
【0024】
グリシジル硬化剤としては、ポリアミン、ポリフェノール、酸無水物、ポリスルフィソ、三フッ化ホウ素等が好適に使用される。
ポリアミン類としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジジアミノジフェニルスルホン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジジエチル−5,5’−ジ4,4’−ジジメチルジフェニルメタン、3,3’−ジジメトキシ−4,4’−ジジアミノジフェニル、3,3’−ジジメチル−4,4’−ジ−4,4’−ジジアミノジフェニル、2,2’−ジジクロロ−4,4’−ジジアミノ−5,5’−ジジメトキシジメチル、2,2’, 5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジジアミノジフェニル、4,4’−ジメチレンビス(2−クロロアニリン)、2,2’, 3,3’−テトラクロロ−4,4’−ジジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジジアミノベンズアニリド、3,3’−ジジヒドロキシ−4,4’−ジジアミノビフェニル、9,9’−ジビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9’−ジビス(4−アミノフェニル)アントラセン、エチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。
ポリフェノール類としては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、p−t−ブチルフェノールノボラック、ヒドロキシナフタレンノボラック、ビスフェノールAノボラック、ビスフェノールFノボラック、テルペン変性フェノール、テルペン変性ノボラック、ジシクロペンタジエン変性ノボラック、パラキシレン変性ノボラック、ポリブタジエン変性フェノール等が挙げられる。
酸無水物としては、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、無水ナジック酸、無水クロレンディック酸等が挙げられる。
グリシジル硬化剤の中では、アンモニウムイオンの溶出防止という観点から、ポリフェノール類が好適である。特に、テルペン変性フェノールは、高温環境下における接着力の低下を抑えるのみならず、高温環境下での接着力を増加できる点で好適である。
【0025】
グリシジル硬化剤を用いる場合、本発明の樹脂組成物の全固形分の0.1質量%以上含有することが好ましい。0.1重量%以上含有することにより、高温環境下の接着性を維持できるとともに、高温環境下で樹脂組成物が劣化して樹脂の重量が減少することを防ぎやすくできる。一方、グリシジル硬化剤が多すぎると、グリシジル硬化剤自体が熱や酸の影響により溶出する場合がある。このため、グリシジル硬化剤の含有量は、0.5〜50質量%であることがより好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、2〜10質量%であることがよりさらに好ましい。
なお、共重合樹脂に加えて、グリシジル硬化剤を用いる場合、共重合樹脂にグリシジル硬化剤を混合した後、100〜170℃で1〜5分程度の条件で加熱することが好ましい。
【0026】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を害しない範囲で、顔料、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、粘着付与剤等の添加剤を含有してもよい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の全固形分中に含まれる窒素原子が、質量基準で0.04%以下であることが好ましい。窒素原子を0.04%以下とすることにより、シール材から陽イオンが溶出することを防止し、燃料電池の性能に影響を与えることを防止できる。共重合樹脂中の窒素原子は、0.02%以下であることがより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。なお、本発明では、窒素原子0.001%以下の場合は窒素原子を含まないと定義する。
通常、グリシジル基を有する樹脂にはアミン系硬化剤が併用されるが、本発明では、窒素原子量を抑えるために、アミン系硬化剤を用いないことが好ましい。
共重合樹脂中の窒素原子量は、たとえば、ジェイ・サイエンス・ラボ社製の商品名JM1000CN等の有機微量元素分析装置により測定することができる。
【0028】
[固体高分子型燃料電池用のシール材]
本発明のシール材は、上述した本発明の樹脂組成物から形成されてなるものである。シール材の形態は、粒子状、シート状等の固形であることが好ましい。
また、本発明のシール材は、取り扱い性の観点から、上述した本発明の樹脂組成物から形成されてなるシート状のシール材層の両側の面を剥離可能な基材で挟み込んでなる形態が好適である。
シール材をシート状に形成する場合、シール材層の厚みは、燃料電池のセパレータや電解質膜等により異なるため一概には言えないが、10〜500μmが好ましく、20〜200μmがより好ましい。なお、必要に応じてシール材層をラミネート積層してもよい。
【0029】
剥離可能な基材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムや紙等に離型処理を施したものが好適である。
剥離可能な基材は、取り扱い性の観点から、10〜100μmが好ましく、25〜75μmがより好ましい。剥離可能な基材は、電解質膜及びシール材層へのシリコーン成分が移行することによる悪影響を防止するために、非シリコーン系の基材であることが好ましい。非シリコーン系の剥離可能な基材としては、表面をポリオレフィンで処理した基材が挙げられる。
【0030】
このような本発明のシール材は、燃料電池のシール部位、より具体的には、燃料電池を構成するセルのシール部位に用いることができる。使用時には、シール材を加熱、溶融し、セルのシール部位をシールする。なお、シール材層が剥離可能な基材で挟み込まれたものは、基材を剥離した後に、シール材層を加熱、溶融し、セルのシール部位をシールすればよい。
【0031】
[固体高分子型燃料電池]
本発明の燃料電池は、本発明のシール材によるシール部位を備えてなるものである。
図1は、一般的な燃料電池を構成するセルの一例を示す断面図である。
セル10は、固体高分子電解質膜11と、その両面に配置された一対の電極(アノード、カソード)12,13とからなる複合体(MEA:Membrane and Electrode Assembly)、該複合体の両面に配置され、燃料ガスと酸化剤ガスとをそれぞれ供給するためのガス流路(14a,15a)が形成されたセパレータ(14,15)、及び前記複合体とセパレータ(14,15)との間を密封すべくシールするシール材16から構成されている。
一般的な燃料電池は、セル10を数十〜数百セル積層し、その積層体を集電板及び絶縁板を介して端板で挟み、これらを締結ボルトで両端から締め付けることによって構成される。
本発明の燃料電池は、このような一般的な燃料電池におけるシール材として、上述した本発明のシール材を用いてなるものである。なお、
図1のシール材の位置(シール部位)は例示であり、燃料電池を構成するセルの構成によりシール材の位置は適宜変更できる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0033】
以下の実施例及び比較例で得られた燃料電池シール材用の樹脂組成物について下記の評価を行った。なお、比較例1、2、4及び5は何れも高温環境での接着力が不足していることから、その他の評価は必要最低限で行った。比較例3は、イオン溶出があることから、その他の評価については必要最低限で行った。また、実施例については、代表的な実施例である実施例1及び8については全ての項目を評価したが、それ以外の実施例は、必要最低限の評価を行った。
<接着力(室温、120℃)>
5cm×5cmのポリエーテルサルホンシート(厚み0.2mm)及び電解質膜(デュポン社製、Nafion NRE-212、厚み50μm)に、1cm×5cmのシール材を挟み、0.05MPa、170℃の条件で1分間プレス接合した。プレス接合後、横幅1.5cmの短冊状にカットして、室温若しくは120℃の雰囲気で1分間放置後、電解質膜側の面の全面にポリイミドテープを補強し、ポリイミドテープ及び電解質膜を角度180°、速度10mm/minの条件でテンシロンにより引張り、剥離強度を測定した。なお、実施例1〜8及び比較例1〜4のシール材の厚みは50μmとした。比較例5のシール材の厚みは30μmとした。結果を表2に示す。
<せん断強度(凝集力)>
図2のように、50mm×50mmの2枚のSUS板の間に、3mm×50mmのシール材を挟み、0.15MPa、170℃の条件で1分間プレス接合した。プレス接合後、横幅10mmの短冊状にカットして、室温で1分以上放置後、片側のSUSを固定し、もう一方のSUS板を速度200mm/minの条件でテンシロンにより引張り、せん断強度を測定した。なお、実施例1〜3及び8のシール材の厚みは50μmとした。結果を表2に示す。
【0034】
<重量変化(熱水起因)>
耐熱容器中に脱イオン水を投入し、5cm×5cmのシール材を浸漬させる。容器を95℃のオーブンに投入し、所定時間経過後にサンプルを取り出し、重量変化を電子天秤で測定した。測定は、100時間、300時間、500時間、750時間、1000時間、1500時間経過後に行い、初期の重量に対する割合を算出した。なお、実施例1、8のシール材の厚みは150μmとした。結果を表3に示す。
<重量変化(酸起因)>
耐熱容器中に、pH2.0の硫酸水を投入し、さらに30ppmの濃度となるようにフッ化水素を投入した後に、5cm×5cmのシール材を浸漬させる。容器を95℃のオーブンに投入し、所定時間経過後にサンプルを取り出し、重量変化を電子天秤で測定した。測定は、100時間、300時間、500時間、750時間、1000時間、1500時間経過後に行い、初期の重量に対する割合を算出した。なお、実施例1、8のシール材の厚みは150μmとした。結果を表3に示す。
<重量変化(熱起因:120℃)>
燃料電池の使用環境に近い120℃のオーブン中に、5cm×5cmのシール材を投入し、所定時間経過後にサンプルを取り出し、重量変化を電子天秤で測定した。測定は、100時間、300時間、500時間、750時間、1000時間、1500時間経過後に行い、初期の重量に対する割合を算出した。なお、実施例1、8のシール材の厚みは150μmとした。結果を表3に示す。
【0035】
<重量変化(熱起因:200℃)>
200℃のオーブン中に、5cm×5cmのシール材を投入し、所定時間経過後にサンプルを取り出し、重量変化を電子天秤で測定した。測定は、5分、15分、30分、60分、120分経過後に行い、初期の重量に対する割合を算出した。なお、実施例1及び8のシール材の厚みは50μmとした。比較例5のシール材の厚みは30μmとした。結果を表4に示す。
【0036】
<イオン溶出(電解質膜汚染性)>
耐熱容器中に脱イオン水を投入し、さらに5cm×5cmの電解質膜(デュポン社製、Nafion NRE-212)、5cm×5cmの大きさにカットしたシール材を浸漬させる。容器を95℃のオーブンに投入し、200時間経過後に容器中から電解質膜を取り出し、目視で着色の有無を確認した。着色のないものを「〇」、赤く着色したものを「×」とした。なお、実施例1〜8及び比較例1〜4のシール材の厚みは50μmとした。比較例5のシール材の厚みは30μmとした。結果を表2に示す。
<イオン溶出(溶出量)>
耐熱容器中に脱イオン水50gを投入し、さらに1cm×5cmの大きさにカットしたシール材層を約2g投入し、容器を120℃のオーブンで24時間加熱する。容器中の液を検液として、イオンクロマトグラフでアンモニウムイオン等のイオン溶出量を測定しシール材中のイオン含有量を算出した。なお、実施例1〜8及び比較例1〜4のシール材の厚みは50μmとした。結果を表2に示す。
<窒素含有量>
実施例1及び8の樹脂組成物の全窒素含有割合を、有機微量元素分析装置(ジェイ・サイエンス・ラボ社製、JM1000CN)により定量した。結果を表2に示す。
<軟化点>
実施例1、7、8及び比較例4の共重合樹脂の一次軟化点を熱機械分析装置により測定した。結果を表1に示す。
【0037】
[実施例1]
(共重合樹脂の合成)
容量1リットルのセパラブルフラスコに、0.2質量%のポリビニルアルコールを含有する水200質量部と、(a)メチルメタクリレートモノマー45質量部と、(b)グリシジルメタクリレートモノマー3質量部と、(c)ブチルアクリレートモノマー42質量部、エチルアクリレートモノマー10質量部と、重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.1質量部と、分子量調整用に連鎖移動剤とを含む均一混合液を投入した。
該混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら70℃に昇温し、4時間懸濁重合させた。次いで、デカンテーションによって懸濁液から水分を除いた。固形物を吸引ろ過しながら水で洗浄し、水分を飛ばした後に、60℃で真空乾燥を行い、含水率0.5%以下の共重合樹脂(実施例1の樹脂組成物)を得た。
得られた共重合樹脂について重量平均分子量の測定方法により、重量平均分子量を測定したところ、約65万であった。モノマー組成と分子量を表1に示す。
【0038】
(シート状のシール材の作製)
得られた共重合樹脂を、メチルエチルケトン中で溶融攪拌し、シール材層形成組成物を調製した。離型処理された厚さ75μmのポリエステルフィルム状に、シール材層形成組成物を塗布、乾燥し、シール材層を形成した。シール材層は、厚み50μmのものと、厚み150μmのものを作製した。厚み50μmの乾燥条件は100℃、2分、厚み150℃の乾燥条件は100℃、5分とした。
次いで、シール材層上に、離型処理された厚み25μmのポリエステルフィルムを貼り合わせ、シート状のシール材を得た。
【0039】
[実施例2〜7、比較例1〜3]
共重合樹脂の原料モノマーの組成及び共重合樹脂の重量平均分子量を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及びシート状のシール材を得た。なお、各実施例及び比較例の重量平均分子量は連鎖移動剤の量で調整した。
【0040】
[実施例8]
実施例1の共重合樹脂97質量部に対して、テルペン変性フェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製、YSポリスターG150)を3質量部添加し、実施例8の樹脂組成物を得た。次いで、実施例1と同様にして、シート状のシール材を得た。
【0041】
[比較例4]
軟質エポキシ系樹脂である日本化薬社製の商品名PHY−3Eを樹脂組成物とした。また、該樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして、シート状のシール材を得た。
【0042】
[比較例5]
厚み30μmの市販のポリエステル系ポリウレタン樹脂シートを比較例5のシール材とした。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表2の結果から、実施例1〜8の樹脂組成物は、高温環境下での接着力の低下を抑制することができ、イオンの溶出もないことが確認できる。また、グリシジルメタクリレートの量が増えるにつれて、樹脂組成物のせん断強度が高くなること、すなわち樹脂組成物の凝集力が高くなっていることが確認できる。
一方、比較例1〜5の樹脂組成物は、高温環境下での接着力の低下を抑制することができないものであった。また、比較例3及び4のものはイオンが激しく溶出してしまうものであった。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から、実施例1及び8の樹脂組成物は、熱水、酸、熱(120℃)に起因する重量の減少を抑制できることが確認できる。特に、樹脂組成物にグリシジル硬化剤を含有する実施例8のものは、熱に起因する重量変化の抑制に極めて優れることが確認できる。
【0048】
【表4】
【0049】
表4の結果から、実施例1及び8の樹脂組成物は、燃料電池の使用環境(約120℃)を超えた温度環境(200℃)においても、重量の減少を抑制できることが確認できる。一方、ウレタン樹脂を樹脂組成物として用いた比較例5のものは、熱に起因する重量変化の抑制できないものであった。
【0050】
[実施例9]
共重合樹脂と、テルペン変性フェノール樹脂との割合を90:10に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例9の樹脂組成物及びシート状のシール材を得た。
【0051】
[実施例10]
共重合樹脂と、テルペン変性フェノール樹脂との割合を80:20に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例10の樹脂組成物及びシート状のシール材を得た。
【0052】
[実施例11]
共重合樹脂と、テルペン変性フェノール樹脂との割合を70:30に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例11の樹脂組成物及びシート状のシール材を得た。
【0053】
実施例1、8〜11のシール材について以下の評価を行った。
<接着力(室温、120℃)>
5cm×5cmのポリエーテルサルホンシート(厚み0.2mm)及び電解質膜(デュポン社製、Nafion NRE-212、厚み50μm)に、1cm×5cm×50μm厚のシール材を挟み、0.05MPa、150℃の条件で1分間プレス接合した。プレス接合後、横幅1.5cmの短冊状にカットして、室温で1分間放置後、電解質膜側の面の全面にポリイミドテープを補強し、ポリイミドテープ及び電解質膜を角度180°、速度50mm/minの条件でテンシロンにより引張り、剥離強度を測定した。結果を表5に示す。
<重量変化(熱起因:200℃)>
200℃のオーブン中に、5cm×5cm×50μm厚のシール材を投入し、所定時間経過後にサンプルを取り出し、重量変化を電子天秤で測定した。測定は、5分、15分、30分、60分、120分経過後に行い、初期の重量に対する割合を算出した。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5の結果から、樹脂組成物にグリシジル硬化剤(テルペン変性フェノール)を含有する実施例8〜11のものは、熱に起因する重量変化の抑制効果が上昇するとともに、高温環境下での接着力が上昇することが確認できる。