特許第6131132号(P6131132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131132
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ダイナミックマイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20170508BHJP
   H04R 9/08 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   H04R1/02 108
   H04R9/08
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-141413(P2013-141413)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2015-15615(P2015-15615A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−015695(JP,A)
【文献】 特開2009−206849(JP,A)
【文献】 実開昭61−009992(JP,U)
【文献】 特開平11−196489(JP,A)
【文献】 特開2009−239570(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0002832(US,A1)
【文献】 米国特許第06091828(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0119098(US,A1)
【文献】 米国特許第04427845(US,A)
【文献】 特開2007−150989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動電型の音響電気変換器を有するマイクロホンユニットと、上記マイクロホンユニットの後端部に一体的に取り付けられる中筒と、一端側が開口部で他端側に出力コネクタを有し上記中筒よりも大径の筒体からなるマイクロホン筐体とを含み、上記中筒が上記マイクロホン筐体内に挿入された状態で上記マイクロホンユニットが上記マイクロホン筐体の開口部側に配置され、上記中筒の所定部分が環状に形成された弾性体からなるショックマウント部材を介して上記マイクロホン筐体内に支持されているダイナミックマイクロホンにおいて、
上記ショックマウント部材は、その全周にわたって上面が開口された所定深さの溝を有し、上記溝内に未硬化部分で粘性を有し硬化部分が弾性を持つ紫外線硬化樹脂が充填されていることを特徴とするダイナミックマイクロホン。
【請求項2】
上記マイクロホン筐体には、上記溝内の上記紫外線硬化樹脂に紫外線を照射するための孔が穿設されており、上記孔は紫外線照射時以外は所定の遮光部材により塞がれていることを特徴とする請求項1に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項3】
上記ショックマウント部材を第1のショックマウント部材として、上記マイクロホン筐体の開口部側には、上記マイクロホンユニットをその収音軸方向に沿って弾性的に支持する第2のショックマウント部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項4】
上記中筒内の空気室と上記マイクロホン筐体内の空気室とが音響抵抗材を介して連通していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のダイナミックマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックマイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、振動雑音を低減させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイナミックマイクロホンは、振動板がボイスコイルを備え、その質量が大きいことから振動が加えられると大きな振動雑音を発生する。単一指向性ダイナミックマイクロホンは、無指向性ダイナミックマイクロホンに比べて大きな振動雑音を発生する(非特許文献1参照)。
【0003】
マイクロホンユニットをマイクロホン筐体(手持ち式ではマイクグリップ)からショックマウント(衝撃緩衝マウント)で防振支持することにより、そのショックマウントの共振周波数以上の周波数帯で防振性を得ることができる。
【0004】
しかしながら、単一指向性ダイナミックマイクロホンにおいて、振動板の共振周波数は低域収音限界を低くするために、低い周波数に設計される。このため、単一指向性ダイナミックマイクロホンでは、低い周波数での振動雑音を低減することが求められている。
【0005】
ショックマウントだけに頼らない振動雑音の低減方法としては、振動ピックアップ機構による方法と、慣性力を打ち消す方法とが知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
振動ピックアップ機構とは、マイクロホン筐体内に2つの同一のマイクロホンユニットを組み込み、互いの出力を逆相として結合する方法であり、これによれば、振動雑音を効果的に低減できるが、本来の収音用マイクロホンユニットのほかに、振動ピックアップ用のマイクロホンユニットを必要とし、その分、コスト高になる。
【0007】
慣性力を打ち消す方法は、振動によって振動板に生ずる慣性力に対して、これと逆向きの方向から等しい力を加える構造とし、振動板に働く起振力を打ち消す方法である。
【0008】
この方法では、マイクロホンユニットをショックマウントを介して弾性的に支持し、外来振動による振動板の振動によってマイクロホン筐体内の背部空気室の圧力が変化することを利用し、その背部空気室の圧力変化を振動板の背面側に作用させて、外来振動による振動板の振動を押さえる。
【0009】
慣性力を打ち消す方法は、振動ピックアップ機構に比べて構造が簡単ではあるが、その調整に困難が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献1】中村仁一郎著、昭和57年1月発行の放送技術83頁−87頁、放送技術者のためのマイクロホン講座(8)「マイクロホンの振動雑音とその低減方法(その1)」
【0011】
【非特許文献2】中村仁一郎著、昭和57年2月発行の放送技術180頁−183頁、放送技術者のためのマイクロホン講座(9)「マイクロホンの振動雑音とその低減方法(その2)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、ダイナミックマイクロホンの基本的な性能に関わる部分に手を加えることなく、簡単な構成でショックマウントの機械インピーダンスを調整可能として振動雑音を効果的に低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、動電型の音響電気変換器を有するマイクロホンユニットと、上記マイクロホンユニットの後端部に一体的に取り付けられる中筒と、一端側が開口部で他端側に出力コネクタを有し上記中筒よりも大径の筒体からなるマイクロホン筐体とを含み、上記中筒が上記マイクロホン筐体内に挿入された状態で上記マイクロホンユニットが上記マイクロホン筐体の開口部側に配置され、上記中筒の所定部分が環状に形成された弾性体からなるショックマウント部材を介して上記マイクロホン筐体内に支持されているダイナミックマイクロホンにおいて、上記ショックマウント部材は、その全周にわたって上面が開口された所定深さの溝を有し、上記溝内に未硬化部分で粘性を有し硬化部分が弾性を持つ紫外線硬化樹脂が充填されていることを特徴としている。
【0014】
本発明ににおいて、上記マイクロホン筐体には、上記溝内の上記紫外線硬化樹脂に紫外線を照射するための孔が穿設されるが、上記孔は紫外線照射時以外は所定の遮光部材により塞がれる。
【0015】
上記ショックマウント部材を第1のショックマウント部材として、上記マイクロホン筐体の開口部側には、上記マイクロホンユニットをその収音軸方向に沿って弾性的に支持する第2のショックマウント部材が設けられてよい。
【0016】
また、上記中筒内の空気室と上記マイクロホン筐体内の空気室とが音響抵抗材を介して連通している態様も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ショックマウント部材に、その全周にわたって上面が開口された所定深さの例えば断面U字状の溝を形成し、その溝内に未硬化時には粘性を有し硬化後には弾性を持つ紫外線硬化樹脂を充填し、紫外線を照射して未硬化部分と硬化部分との割合を変えることにより、振動雑音が最小となるように、ショックマウントの機械インピーダンス(バネ成分と機械抵抗成分)を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態で、初期の組立状態を示す断面図。
図2】本発明の実施形態で、紫外線照射時を示す断面図。
図3】本発明の実施形態で、最終組立状態を示す断面図。
図4】上記実施形態でのマイクロホンユニットの内部構造を示す断面図。
図5】上記実施形態でのショックマウントの機械インピーダンスを示す等価回路図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図1ないし図5により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、この実施形態に係るダイナミックマイクロホン1は、基本的な構成として、マイクロホン本体10と、このマイクロホン本体10を支持するマイクロホン筐体20とを備えている。手持ち式の場合、マイクロホン筐体20は、マイクロホングリップとして用いられる。
【0021】
マイクロホン本体10には、マイクロホンユニット110と、内部にマイクロホンユニット110のための背部空気室A1を有する中筒120とが含まれている。
【0022】
マイクロホンユニット110は、動電型の音響電気変換器として、図4に示すように、振動板111と、磁気回路部115とを備えている。この実施形態において、マイクロホンユニット110の指向性は、単一指向性である。
【0023】
振動板111は、センタードーム112と、センタードーム112の周りに一体に連設されたサブドーム(エッジ部とも言う)113とを有し、その全体がプレス成型された合成樹脂フィルムよりなる。
【0024】
振動板111の背面側で、センタードーム112とサブドーム113との境界部分にボイスコイル114が例えば接着剤等により一体に取り付けられている。
【0025】
磁気回路部115は、円盤状で厚さ方向に着磁された永久磁石116と、永久磁石116の一方の極側に配置された同じく円盤状に形成されたポールピース117と、永久磁石116の他方の極側に配置される有底円筒状のヨーク本体118と、ヨーク本体118の開口端に配置され、ポールピース117との間で磁気ギャップGを形成するリングヨーク119とを備えている。
【0026】
リングヨーク119の外周側にサブドーム113の周縁部を支持するフランジ119aが形成されており、振動板111は、ボイスコイル114が磁気ギャップG内で振動し得るようにサブドーム113の周縁部がリングヨーク119のフランジ119aに支持されている。
【0027】
中筒120は、金属もしくは合成樹脂の有底円筒体からなり、マイクロホンユニット110に対して同軸として、その開口部側がマイクロホンユニット110の磁気回路部115側に気密的に一体に連結されている。図示しないが、ヨーク本体118の底部には通気孔が穿設されていて、中筒120の背部空気室A1は、その通気孔を介して振動板111の背面側の空間と音響的に連通している。
【0028】
マイクロホン筐体20は、内径が中筒120の外径よりも大径で、その内部に中筒120が収納される外筒としての円筒体からなり、例えば黄銅合金等の金属材により作製される。
【0029】
マイクロホン筐体20の一端側(図1において上端側)は、中筒120を挿入するための開口部とされ、他端側(図1において下端側)には、出力コネクタ21が装着されている。なお、マイクロホン筐体20内において、出力コネクタ21側は、例えば独立気泡を有するスポンジ材等よりなるシール部材210により密閉されているとよい。
【0030】
マイクロホン本体10は、マイクロホンユニット110がマイクロホン筐体20の外側に配置されるようにして、その中筒120側がマイクロホン筐体20内に収納されるが、フローティング方式によって振動雑音(手持ち式におけるハンドリングノイズ)を低減させるため、中筒120は、ショックマウント部材31を介してマイクロホン筐体20内に同軸的に支持される。
【0031】
ショックマウント部材31には、リング状に形成されたゴム弾性体が好ましく用いられる。ショックマウント部材31は、無負荷状態において、内径が中筒120の外径よりも小さく、かつ、外径がマイクロホン筐体20の内径よりも大きく、適度に圧縮された状態で、中筒120の外周面とマイクロホン筐体20の内周面との間に介装される。
【0032】
また、この実施形態によると、マイクロホン筐体20の上端開口部とマイクロホン本体10との間にも、ショックマウント部材32が設けられている。ショックマウント部材32は、円盤状でショックマウント部材31よりも柔らかくてよく、例えば落下等の強い衝撃を受けた際、マイクロホンユニット110をその収音軸方向に沿って弾性的に支持する役割を担っている。
【0033】
本発明において、ショックマウント部材31がメインの第1ショックマウントで、これに対して、ショックマウント部材32はサブの補助的な第2ショックマウントとして位置づけられている。
【0034】
また、この実施形態においては、マイクロホンの主軸(収音軸)と直交する方向から加えられる振動によって、マイクロホンユニット110がローリング(首振り)するのを防止するため、中筒120には、マイクロホン本体10の重心をショックマウント部材31による支点に合わせ込む重心調整用の錘122が設けられている。
【0035】
また、マイクロホン筐体20内には、ショックマウント部材31とシール部材210とにより囲まれた空気室A2が設けられているが、落下衝撃等を緩和するため、この空気室A2と中筒120内の背部空気室A1は、音響抵抗材121を介して連通している。
【0036】
本発明では、ハンドリングノイズ等の振動雑音対策として、ショックマウント部材31の機械インピーダンスZsを調整可能としている。図5に示すように、ショックマウント部材31の機械インピーダンスZsには、バネ成分Csと機械抵抗成分Rsとが含まれている。
【0037】
そのため、ショックマウント部材31には、その全周にわたって上面が開口された所定深さの溝311が形成されている。溝311は、例えば断面U字状,断面V字状もしくはボトルネック状の形状であってよい。
【0038】
溝311内に、未硬化時には粘性を有し、硬化後には弾性を持つ紫外線硬化樹脂40が充填される。この種の紫外線硬化樹脂として、スリーボンド社製の品番スリーボンド3168「紫外線硬化性シリコーンゲル」を例示することができる。
【0039】
紫外線硬化樹脂40の溝311内への充填は、ショックマウント部材31をマイクロホン筐体20と中筒120との間に装着する前もしくは装着した後のいずれに行われてもよいが、マイクロホン筐体20には、紫外線硬化樹脂40に対する紫外線照射用の孔211が穿設されている。
【0040】
紫外線照射用の孔211は、ショックマウント部材31よりも上方の位置に配置されるが、図2に示すように、紫外線照射用の光ファイバー50が差し込めるような小さな孔であってよく、好ましくは複数個所に設けられるとよい。
【0041】
図1のように、マイクロホン筐体20にマイクロホン本体10をショックマウント部材31,32にて弾性的に支持し、ショックマウント部材31の溝311内に紫外線硬化樹脂40が充填されている状態で、図2に示すように、孔211から光ファイバー50を差し込んで、紫外線硬化樹脂40を硬化させる。
【0042】
紫外線の照射量によって、弾性を持つ硬化部分41と粘性状態の未硬化部分42の割合が変わり、これに伴って、ショックマウント部材31の機械インピーダンスZs(バネ成分Csと機械抵抗成分Rs)も変化する。
【0043】
そこで、このダイナミックマイクロホン1を図示しない加振器に取り付けて振動雑音を測定しながら、紫外線硬化樹脂40に紫外線を照射して、振動雑音が最小になるように、ショックマウント部材31の機械インピーダンスZsを調整する。
【0044】
調整後は、外来光に含まれている紫外線によるショックマウント部材31の機械インピーダンスZsの変化を防止するため、図3に示すように、孔211を例えば遮光テープ等の遮光部材212で塞ぎ、また、マイクロホンユニット110に、金網からなるガードネット22を被せて最終製品とする。
【0045】
このように、本発明によれば、ショックマウント部材31の溝311内に、未硬化時には粘性を有し、硬化後には弾性を持つ紫外線硬化樹脂40を充填し、紫外線硬化樹脂40に対して、マイクロホン筐体20に穿設した孔211に光ファイバー50を挿通して紫外線を照射することにより、弾性を持つ硬化部分41と粘性状態の未硬化部分42の割合をもって、振動雑音が最小となるように、ショックマウント部材31のインピーダンスZsを調整することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ダイナミックマイクロホン
10 マイクロホン本体
110 マイクロホンユニット
120 中筒
20 マイクロホン筐体
21 出力コネクタ
22 ガードネット
211 孔
212 遮光部材
31 第1のショックマウント部材
311 溝
32 第2のショックマウント部材
40 紫外線硬化樹脂
41 硬化部分
42 未硬化部分
50 光ファイバー
Zs 第1のショックマウント部材の機械インピーダンス
Cs バネ成分
Rs 機械抵抗成分
図1
図2
図3
図4
図5