(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131144
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
H02K3/34 C
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-162382(P2013-162382)
(22)【出願日】2013年8月5日
(65)【公開番号】特開2015-33255(P2015-33255A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100108394
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100101063
【弁理士】
【氏名又は名称】松丸 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100114546
【弁理士】
【氏名又は名称】頭師 教文
(74)【代理人】
【識別番号】100153903
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100162330
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 幹規
(72)【発明者】
【氏名】依田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正明
(72)【発明者】
【氏名】依田 昌悟
【審査官】
小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−184994(JP,A)
【文献】
特開2009−254011(JP,A)
【文献】
特開平10−271734(JP,A)
【文献】
実開昭52−028002(JP,U)
【文献】
特開2008−017647(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0141079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と回転子とからなる電磁モータの固定子鉄心のスロット内に絶縁部材を介して巻線を巻装してなる電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造であって、
前記固定子鉄心のスロット開口部側において、前記固定子鉄心に段部を設け、前記段部により形成される前記固定子鉄芯と前記絶縁部材との間の隙間に絶縁シートを挿入し配置するための絶縁シート挿入部を設けたことを特徴とする電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造。
【請求項2】
さらに、前記絶縁シートが前記絶縁シート挿入部に挿入されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子のスロット内に巻装された巻線と固定子鉄心との電気的な絶縁距離を確保するための電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁モータとしては、たとえば、ブラシレスモータ、ステッピングモータなどが知られている。
【0003】
電磁モータの固定子鉄芯のスロット内には、電気絶縁部材(以下、単に「絶縁部材」という)を介して巻線が巻装されている。当該巻線の絶縁構造を海外の安全規格(UL、TUV規格等)に適合させるためには、巻線と固定子鉄芯との電気的な絶縁距離を確保しなければならない。
【0004】
巻線の巻装工程は自動巻線装置を用いるため、スロット開口部は開放されている。そのため、特に小型の電磁モータでは、巻線と固定子鉄芯との沿面もしくは空間距離が不足する。したがって、巻線と固定子鉄芯との電気的な絶縁距離を確保する対策として、巻線とスロットに内装された絶縁部材との間に、電気絶縁シート(以下、単に「絶縁シート」という)が挿入配置される。
【0005】
しかし、スロットに内装された絶縁部材は、絶縁シートを挿入配置できる構造を有していない。このため、巻線と絶縁部材との間に絶縁シートを手作業で装着しなければならず、絶縁シートの装着作業は時間を要していた。
【0006】
従来、電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造に関連する技術が種々提案されている。たとえば、絶縁部材と固定子との間に隙間ができるように絶縁部材に段差を設けることで、絶縁シートを挿入しやすい構造とした電磁モータの巻線絶縁構造が開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、絶縁部材のスロット開口部に延びる両端部がスロット内側に向かって折り曲げられ、巻線と固定子との絶縁距離を確保できる構造とした電磁モータの巻線絶縁構造が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3819989号公報
【特許文献2】特開2002−281707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1の技術にあっては、絶縁部材に絶縁シートを挿入するための段差を付けた箇所の肉厚が薄くなるため、絶縁部材が成型し難く、割れやすくなる。
【0010】
一方、特許文献2の技術にあっては、スロット内側に向かって折り曲げられた部分は巻線を巻装し難く、巻線の占有面積を確保することができない。また、折り曲げられた部分と自動巻線装置の巻線ノズルが接触しないように巻線の巻装工程を行わなければならないため、巻装作業がし難い。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、絶縁部材の成型に悪影響を与えることなく、巻線の占有面積を確保して、巻線の巻装作業を容易に行うことができ、かつ、簡単な構造で巻線と固定子鉄心との電気的な絶縁距離を確保することができる電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造は、固定子と回転子とからなる電磁モータの固定子鉄心のスロット内に絶縁部材を介して巻線を巻装してなる巻線絶縁構造であって、上記固定子鉄心のスロット開口部側において、上記固定子鉄芯と上記絶縁部材との間に絶縁シートを挿入するための絶縁シート挿入部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造によれば、固定子鉄心のスロット開口部側において、固定子鉄芯と絶縁部材との間に絶縁シートを挿入するための絶縁シート挿入部が形成される。固定子鉄芯と絶縁部材との間に絶縁シート挿入部が形成されることにより、絶縁シートを挿入しやすくなり、当該絶縁シート装着の作業性が向上する。
【0014】
また、固定子鉄芯と絶縁部材との間に絶縁シート挿入部を形成するので、絶縁部材の厚さはほぼ均一となり、絶縁部材の成型に悪影響を与えることがない。
【0015】
さらに、絶縁部材に加工を施さず、絶縁シートを挿入する構造であるので、巻線の占有面積を確保でき、巻線の巻装作業も容易に行うことができる。
【0016】
かつ、固定子鉄芯と絶縁部材との間に絶縁シート挿入部を形成し、当該絶縁シート挿入部に絶縁シートを挿入するだけの簡単な構造で、巻線と固定子鉄心との電気的な絶縁距離を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】
図1の電磁モータの巻線構造のA部拡大図である。
【
図3】電磁モータの固定子鉄芯の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本実施形態に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造について説明する。
【0019】
本実施形態に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造は、固定子鉄心のスロット開口部側において、固定子鉄芯と絶縁部材との間に絶縁シートを挿入するための絶縁シート挿入部を形成している。したがって、本実施形態によれば、絶縁部材の成型に悪影響を与えることなく、巻線の占有面積を確保して、巻線の巻装作業を容易に行うことができ、簡単な構造で巻線と固定子鉄芯との電気的な絶縁距離を確保することができる電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造を実現できるようになる。
【0020】
〔電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造の構成]
まず、
図1から
図3を参照して、本実施形態に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造の構成について説明する。
図1は電磁モータの全体構成の概略図である。
図2は
図1の電磁モータの巻線構造のA部拡大図である。
図3は電磁モータの固定子鉄芯の要部拡大図である。
【0021】
図1に例示する電磁モータ100は、ハイブリッド型(HB型)のステッピングモータであり、固定子1と回転子2とを備える。
【0022】
図1に示すように、固定子1は、固定子鉄心20および巻線30を有する。
【0023】
固定子鉄心20は、厚肉筒体状の金属部材である。固定子鉄心20の内周面は内歯歯車状を呈しており、外周面はほぼ八角形状を呈している。
【0024】
図2および
図3に示すように、固定子鉄心20の内周側には、回転子2に臨むように放射線状に、巻線30を収容するための空間としての複数のスロット21が区画形成される。
【0025】
各スロット21は、ティース同士22、22の間に、区画形成される。各ティース22の内周面には、歯車状の複数の小歯23が突設されている。
【0026】
固定子鉄心20の構成材料としては、たとえば、珪素鋼板が用いられるが、例示の材料に限定されない。
【0027】
巻線30は、電気絶縁部材(以下、単に「絶縁部材」という)40を介して、スロット21内に配置される。スロット21と巻線30の数は対応している。本実施形態では、8個のスロット21内に巻線30が巻装されるが、スロット21の数は限定されない。
【0028】
絶縁部材40は、スロット21の内面に沿って内装される。絶縁部材40は、スロット開口部21aには装着されず、ほぼ矩形状のC型を呈している。絶縁部材40は、ほぼ均一な肉厚を有している。
【0029】
絶縁部材40の構成材料としては、たとえば、フェノール、ナイロン、PBT等の合成樹脂が挙げられるが、例示の構成材料に限定されない。絶縁部材40の厚さや長さ等の寸法は、スロット21の内周面の面積に応じて適宜設定される。
【0030】
固定子鉄心20のスロット開口部21a側には、固定子鉄芯20と絶縁部材40との間に絶縁シート挿入部50が形成されている。当該絶縁シート挿入部50は、電気絶縁シート(以下、単に「絶縁シート」という)60を挿入するための隙間である。
【0031】
絶縁シート60を挿入し配置するための絶縁シート挿入部50は、固定子鉄心20のスロット開口部21a側において、固定子鉄心20が段部51を設けることにより形成される。
【0032】
すなわち、固定子鉄心20のスロット開口部21a側内面には、通常のスロット21の空間に加えて、段部51によって形成された絶縁シート挿入部50が存在する。
【0033】
絶縁シート60の構成材料としては、たとえば、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂シートが挙げられるが、例示の構成材料に限定されない。絶縁シート60は短冊状を呈する。絶縁シート60の厚さや長さ等の寸法は、スロット開口部21aの開口幅等に応じて適宜設定される。
【0034】
再び
図1を参照して、回転子2は、シャフト3の周囲に設けられ、回転子鉄心70および不図示の永久磁石を有する。シャフト3は回転子2の回転中心となる。
【0035】
回転子2の回転子鉄心70は、シャフト3の周囲に設けられた厚肉円筒体状の金属部材である。回転子鉄芯70の外周面には、外歯歯車状の複数の小歯71が形成されている。小歯71は、回転子鉄芯70の円周方向に均等間隔で配置されている。
【0036】
回転子鉄心70の構成材料としては、たとえば、珪素鋼板が用いられるが、例示の材料に限定されない。
【0037】
永久磁石は、軸方向の前後に配置された一対の回転子鉄心70、70の間に挟まれた薄い円板状磁石等により構成されている。永久磁石としては、たとえば、ネオジウム磁石等の希土類磁石が挙げられるが、例示の材質に限定されない。
【0038】
〔電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造の作用]
次に、
図1から
図3を参照して、本実施形態に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造の作用について説明する。
【0039】
本実施形態に係る電磁モータ用固定子1は、回転子2を囲むように設けられる。固定子鉄心20は、回転子2に臨んで放射線状に並んだ複数の巻線30を有する。巻線30は、固定子鉄芯20のスロット21内に、絶縁部材40を介して巻装される。
【0040】
既述したように、当該巻線30の絶縁構造を海外の安全規格(UL、TUV規格等)に適合させるためには、巻線30と固定子鉄芯20との電気的な絶縁距離を確保しなければならない。
【0041】
巻線30の巻装工程の実施後は、スロット開口部21aは開放されている。したがって、巻線30と固定子鉄芯20との間に絶縁シート60を介設して、スロット開口部21aを閉塞する必要がある。特に小型の電磁モータ100では、固定子鉄芯20からの沿面もしくは空間距離を確保する必要がある。
【0042】
本実施形態に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造によれば、固定子鉄心20のスロット開口部21a側において、固定子鉄芯20と絶縁部材40との間に絶縁シート60を挿入し配置するための絶縁シート挿入部50が形成されている。当該絶縁シート挿入部50は、固定子鉄心20のスロット開口部21a側において、固定子鉄心20が段部51を設けることにより、固定子鉄芯20と絶縁部材40との隙間として形成される。
【0043】
固定子鉄芯20と絶縁部材40との間に、段差部51によって絶縁シート挿入部50が形成されることにより、絶縁シート60を挿入する作業は従来に比して容易であり、装着作業時間が掛からない。
【0044】
また、固定子鉄芯20に段部51を設けて絶縁シート挿入部50を形成するので、絶縁部材40を加工する必要がない。したがって、絶縁部材40の厚さはほぼ均一となり、絶縁部材40の成型がしやすく、割れを生じない。
【0045】
さらに、絶縁部材40に加工を施さず、絶縁シート60を挿入する構造であるので、巻線の占有面積を確保でき、巻線の巻装作業も容易に行うことができる。
【0046】
すなわち、本実施形態に係る電磁モータ用固定子の巻線絶縁構造は、固定子鉄芯20と絶縁部材40との間に段部51により絶縁シート挿入部(隙間)50を形成し、当該絶縁シート挿入部50に絶縁シート60を挿入するだけの簡単な構造で、巻線30と固定子鉄心20との電気的な絶縁距離を確保することができるものである。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 固定子、
2 回転子、
20 固定子鉄心、
40 絶縁部材、
50 絶縁シート挿入部、
51 段部、
60 絶縁シート、
100 電磁モータ。