特許第6131162号(P6131162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131162
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   H01L21/304 651B
【請求項の数】19
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-202711(P2013-202711)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-112652(P2014-112652A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2016年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-246546(P2012-246546)
(32)【優先日】2012年11月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137062
【弁理士】
【氏名又は名称】五郎丸 正巳
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 学
【審査官】 溝本 安展
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−109301(JP,A)
【文献】 特開2010−129809(JP,A)
【文献】 特開平09−293702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細パターンが形成され、基板保持手段に水平姿勢に保持されている基板の上面に、リンス液を供給するリンス工程と、
前記微細パターンの間隙を含む基板の上面に付着したリンス液を、リンス液よりも表面張力の低い液体の有機溶媒で置換させるために、前記基板保持手段に保持されている基板の上面に前記有機溶媒を供給することにより当該上面に有機溶媒の液膜を形成する有機溶媒供給工程と、
前記有機溶媒供給工程の開始の後に実行されて、前記基板保持手段に保持されている基板の上面を有機溶媒の沸点よりも高い所定の高温に保持することにより、前記微細パターンの間隙を含む前記基板の上面全面において有機溶媒の気相膜を形成すると共に当該気相膜の上方に有機溶媒の液膜を形成する高温保持工程と、
前記基板保持手段に保持されている基板の上面から、前記有機溶媒の液膜を排除する有機溶媒排除工程とを含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記有機溶媒排除工程は、前記高温保持工程の終了に先立って実行開始される、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記高温保持工程における基板の上面温度は、前記高温保持工程において前記有機溶媒の液膜の沸騰が防止できる温度に設定されている、請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記所定の高温は、有機溶媒の沸点よりも10〜50℃高い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記高温保持工程における基板温度、および前記高温保持工程の実行時間の少なくとも一方は、有機溶媒の気相膜に含まれる気相の有機溶媒が、前記有機溶媒の液膜を突き破って当該液膜上に出ないような温度および実行時間にそれぞれ設定されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記高温保持工程における前記有機溶媒の液膜の膜厚は、前記高温保持工程において前記有機溶媒の液膜が分裂しない厚みに設定されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記高温保持工程における前記有機溶媒の液膜の膜厚は、前記基板の中心において1〜5mmに設定されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記高温保持工程は、前記記基板保持手段に保持されている基板を回転させながらその基板の上面を前記所定の高温に保持するものであり、
前記高温保持工程における前記基板の回転速度は、10〜500rpmに設定されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記高温保持工程において前記有機溶媒の液膜に有機溶媒を追加する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記有機溶媒供給工程は、前記基板保持手段に保持されている基板の上面の温度が有機溶媒の沸点未満であるときに実行される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記高温保持工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を、当該基板の下方に配置されたヒータによって加熱する工程を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記有機溶媒排除工程の後に、前記基板保持手段に保持されている基板を回転させて当該基板を乾燥させるスピンドライ工程をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を回転させつつ、当該基板の上面の回転中心に向けて気体を吐出する工程を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板の上面に向けて帯状の気体を吹き付けるとともに、当該基板の上面における当該気体の吹付け領域を移動させる工程を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を、水平に対して傾ける工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項16】
前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を、その中央領域から周縁部に向けて順に加熱する工程を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項17】
上面に微細パターンが形成された基板を水平姿勢に保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持されている基板の上面に、水よりも表面張力の低い有機溶媒を供給するための有機溶媒供給手段と、
前記基板保持手段に保持されている基板の下方に配置されて、当該基板を加熱するためのヒータと、
前記有機溶媒供給手段を制御して、前記基板保持手段に保持されている基板の上面に有機溶媒を供給する有機溶媒供給制御手段と、
前記ヒータを制御して、前記基板保持手段に保持されている基板を、前記有機溶媒の沸点よりも高い所定の高温に保持することにより、前記微細パターンの間隙を含む前記基板の上面全面において有機溶媒の気相膜を形成すると共に当該気相膜の上方に有機溶媒の液膜を形成する高温保持制御手段と、
前記基板保持手段に保持されている基板の上面から、有機溶媒を排除する有機溶媒排除制御手段とを含む、基板処理装置。
【請求項18】
開口を有するカップ本体、および前記開口を閉塞する蓋部材を有し、内部空間が外部から密閉された密閉カップをさらに含み、
前記基板保持手段が、前記内部空間に収容されている、請求項17に記載の基板処理装置。
【請求項19】
前記ヒータは、前記基板保持手段に保持されている基板を、当該基板の下方から離隔された状態で加熱するためのものであり、
前記ヒータと前記基板保持手段に保持されている基板とが接近/離反するように、前記ヒータおよび前記基板保持手段の少なくとも一方を昇降させる昇降手段をさらに含む、請求項17または18に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハ等の基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、半導体ウエハ等の基板の表面に処理液を供給して、その基板の表面が処理液を用いて処理される。
たとえば、基板を1枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置は、基板をほぼ水平に保持しつつ、その基板を回転させるスピンチャックと、このスピンチャックによって回転される基板の表面に処理液を供給するためのノズルとを備えている。スピンチャックに保持された基板に対して薬液が供給され、その後に純水が供給されることにより、基板上の薬液が純水に置換される。その後に、基板上の純水を排除するためのスピン乾燥処理が行われる。スピン乾燥処理では、基板が高速回転されることにより、基板に付着している純水が振り切られて除去(乾燥)される。このような乾燥処理の手法では、ウエハの表面に形成されているパターンの間隙に入り込んだ純水が振り切られず、パターンの間隙に純水が残留するおそれがある。
【0003】
そのため、純水によるリンス処理が行われた後の基板の表面に常温のイソプロピルアルコール(isopropyl alcohol:IPA)液等の有機溶媒を供給して、基板の表面の微細パターンの間隙に入り込んだ純水を有機溶媒と置換して、基板の表面を乾燥させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−38595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スピンドライ時には、隣接するパターン同士が引きつけ合って接触し、パターン倒壊に至ることがある。この原因の一つは、隣接するパターン間に存在する液による表面張力にあると推測される。特許文献1のように、スピンドライ前に有機溶媒を基板に供給する場合には、パターン間に存在するのが有機溶媒であり、その表面張力が低いので、隣接するパターン同士の引き付け合う力を弱めることにより、パターン倒壊を防止することができると考えられている。
【0006】
しかしながら、近年、半導体基板の表面には、高集積化のために、微細でかつアスペクト比の高い微細パターン(凸状パターン、ライン状のパターンなど)が形成されている。微細で高アスペクト比の微細パターンは倒壊し易いため、このような基板を洗浄するときにはスピンドライ前に有機溶媒を基板の表面に供給するだけではスピンドライ時のパターン倒壊を十分に抑制することが困難な場合がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、微細で高アスペクト比の微細パターンが形成された基板を洗浄する場合であっても、パターンの倒壊を抑制または防止しつつ、基板の上面を良好に乾燥させることができる、基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、微細パターン(101)が形成され、基板保持手段(4)に水平姿勢に保持されている基板(W)の上面に、リンス液を供給するリンス工程(S3)と、前記微細パターンの間隙を含む基板の上面に付着したリンス液を、リンス液よりも表面張力の低い液体の有機溶媒で置換させるために、前記基板保持手段に保持されている基板の上面に前記有機溶媒を供給することにより当該上面に有機溶媒の液膜を形成する有機溶媒供給工程(S4)と、前記有機溶媒供給工程の開始の後に実行されて、前記基板保持手段に保持されている基板の上面を有機溶媒の沸点よりも高い所定の高温に保持することにより、前記微細パターンの間隙を含む前記基板の上面全面において有機溶媒の気相膜(85)を形成すると共に当該気相膜の上方に有機溶媒の液膜(80)を形成する高温保持工程(S5)と、前記基板保持手段に保持されている基板の上面から、有機溶媒を排除する有機溶媒排除工程(S6)とを含む、基板処理方法である。
【0009】
なお、この項において、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素の参照符合を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。
この発明の方法によれば、基板の上面に有機溶媒を供給することにより、微細パターンの間隙に存在するリンス液が有機溶媒によって置換される。これにより、基板の上面からリンス液が良好に除去される。
【0010】
そして、基板上面への有機溶媒の供給が開始された後、基板の上面を有機溶媒の沸点よりも高い所定の温度に保つ。これにより、微細パターンの上方と微細パターンの間隙とに有機溶媒の気相膜が形成される。また、有機溶媒の気相膜の上方に有機溶媒の液膜が形成される。この状態では、微細パターンの間隙における表面張力が小さくなるため、この表面張力に起因するパターン倒壊が生じにくくなる。以上から、微細で高アスペクト比の微細パターンが形成された基板を洗浄する場合であっても、パターンの倒壊を抑制または防止しつつ、基板の上面を良好に乾燥させることができる。
【0011】
請求項2は、前記有機溶媒排除工程は、前記高温保持工程の終了に先立って実行開始される、請求項1に記載の基板処理方法である。
高温保持工程時には、有機溶媒の液膜は、気相膜を介して基板の上面から上方に分離されている。そのため、有機溶媒の液膜と基板の上面との間にほとんど摩擦力が生じず、有機溶媒の液膜は基板の上面に沿って移動し易い状態にある。
【0012】
高温保持工程の終了に先立って有機溶媒排除工程が実行されるので、有機溶媒の液膜を基板の上面に沿って移動させて有機溶媒の液膜を比較的容易に基板の上面から排除することができる。これにより、パターンの倒壊を生じさせることなく、基板の上面から有機溶媒の液膜を良好に排除することができる。
請求項3に記載のように、高温保持工程における基板温度は、高温保持工程において有機溶媒の沸騰が防止できる温度に設定してもよい。これにより有機溶媒の液膜の亀裂の発生を有効に防止することができる。
【0013】
請求項4に記載のように、前記所定の高温は、有機溶媒の沸点よりも10〜50℃高くてもよい。
請求項5に記載のように、前記高温保持工程における基板温度、および前記高温保持工程の実行時間の少なくとも一方は、有機溶媒の気相膜に含まれる気相の有機溶媒が、前記有機溶媒の液膜を突き破って当該液膜上に出ないような温度および実行時間にそれぞれ設定されていてもよい。
【0014】
請求項6に記載のように、高温保持工程における有機溶媒の膜厚は、高温保持工程において有機溶媒の液膜が分裂しない厚みに設定してもよい。これにより、有機溶媒の液膜の亀裂の発生を有効に防止することができる。
請求項7に記載のように、前記高温保持工程における前記有機溶媒の液膜の膜厚は、基板の中心において1〜5mmに設定されてもよい。これにより、有機溶媒の液膜の亀裂の発生を有効に防止することができる。
【0015】
請求項8に記載のように、前記高温保持工程は、前記記基板保持手段に保持されている基板を回転させながらその基板の上面を前記所定の高温に保持するものであり、前記高温保持工程における前記基板の回転速度は、10〜500rpmに設定されていてもよい。これにより、有機溶媒の液膜の亀裂の発生を有効に防止することができる。
請求項9に記載のように、高温保持工程において前記有機溶媒の液膜に有機溶媒を追加してもよい。これにより、有機溶媒の液膜の亀裂の発生を有効に防止することができる。
【0016】
請求項10に記載の発明は、前記有機溶媒供給工程は、前記基板保持手段に保持されている基板の上面の温度が有機溶媒の沸点未満であるときに実行される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
この発明の方法によれば、有機溶媒が液相のまま基板の上面に供給される。そして、微細パターンの間隙に液相の有機溶媒が入り込む。有機溶媒が液相であるので、微細パターンの間隙に存在しているリンス液を、有機溶媒によって良好に置換することができる。これにより、基板の上面からリンス液を確実に除去することができる。
【0017】
そして、有機溶媒供給工程の開始の後に実行される高温保持工程において、微細パターンの間隙は気相の有機溶媒で満たされる。これにより、微細で高アスペクト比の微細パターンが形成された基板を洗浄する場合であっても、パターンの倒壊を抑制または防止しつつ、基板の上面を良好に乾燥させることができる。
請求項11に記載のように、前記高温保持工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を、当該基板の下方に配置されたヒータ(5;303;403;503;603:703)によって加熱する工程を含んでいてもよい。
【0018】
請求項12に記載の発明は、前記有機溶媒排除工程の後に、前記基板保持手段に保持されている基板を回転させて当該基板を乾燥させるスピンドライ工程(7)をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
この発明の方法によれば、スピンドライ工程の実行に先立って、基板の上面から有機溶媒が排除される。有機溶媒が基板の上面に有機溶媒が存在しない状態でスピンドライ工程が実行されるので、スピンドライ工程時にパターン倒れが生じるのを確実に防止することができる。
【0019】
請求項13に記載のように、前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を回転させつつ、当該基板の上面の回転中心に向けて気体を吐出する工程(S6)を含んでいてもよい。
また、請求項14に記載のように、前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板の上面に向けて帯状の気体を吹き付けるとともに、当該基板の上面における当該気体の吹付け領域を移動させる工程を含んでいてもよい。
【0020】
さらに、請求項15に記載のように、前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を、水平に対して傾ける工程を含んでいてもよい。
さらにまた、請求項16に記載のように、前記有機溶媒排除工程は、前記基板保持手段に保持されている基板を、その中央領域から周縁部に向けて順に加熱する工程を含んでいてもよい。
【0021】
請求項17に記載の発明は、上面に微細パターン(101)が形成された基板(W)を水平姿勢に保持する基板保持手段(4)と、前記基板保持手段に保持されている基板の上面に、水よりも表面張力の低い有機溶媒を供給するための有機溶媒供給手段(43)と、前記基板保持手段に保持されている基板の下方に配置されて、当該基板を加熱するためのヒータ(5;303;403;503;603;703)と、前記有機溶媒供給手段を制御して、前記基板保持手段に保持されている基板の上面に有機溶媒を供給する有機溶媒供給制御手段と、前記ヒータを制御して、前記基板保持手段に保持されている基板を、前記有機溶媒の沸点よりも高い所定の高温に保持することにより、前記微細パターンの間隙を含む前記基板の上面全面において有機溶媒の気相膜を形成すると共に当該気相膜の上方に有機溶媒の液膜を形成する高温保持制御手段(40)と、前記基板保持手段に保持されている基板の上面から、有機溶媒を排除する有機溶媒排除制御手段(40)とを含む、基板処理装置(1)である。
【0022】
この構成によれば、請求項1に関連して記載した作用効果と、同等の作用効果を奏する。
請求項18に記載の発明は、開口(9)を有するカップ本体(8)、および前記開口を閉塞する蓋部材(10)を有し、内部空間が外部から密閉された密閉カップをさらに含み、前記基板保持手段が、前記内部空間に収容されている、請求項17に記載の基板処理装置である。
【0023】
この構成によれば、基板保持手段が、密閉カップの内部空間に収容される。高温環境下で有機溶媒を扱うので、基板上で激しい反応が生じるおそれがある。しかしながら、この基板が基板保持手段ごと密閉カップの内部空間に収容されているので、激しい反応は密閉カップ内に留まる。これにより、基板処理装置における密閉カップ外の領域が損傷することを防止することができる。
【0024】
請求項19に記載の発明は、前記ヒータは、前記基板保持手段に保持されている基板を、当該基板の下方から離隔された状態で加熱するためのものであり、前記ヒータと前記基板保持手段に保持されている基板とが接近/離反するように、前記ヒータおよび前記基板保持手段の少なくとも一方を昇降させる昇降手段(19)をさらに含む、請求項17または18に記載の基板処理装置である。
【0025】
この構成によれば、ヒータと、基板保持手段に保持されている基板との間隔を変化させることができる。そして、ヒータと基板との間隔が狭い状態では、ヒータにより基板が高温に加熱される。この状態から、ヒータと基板との間隔を大きく広げることにより、基板への加熱量を低減させることができ、これにより、基板を直ちに冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態に係る基板処理装置の構成を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す基板保持回転機構の平面図である。
図3図1に示す内蓋の底面図である。
図4図1に示す上および下当接ピンによるウエハの支持を説明する図である。
図5図1に示す基板処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
図6図1に示す基板処理装置によって実行されるエッチング処理の一例について説明するための工程図である。
図7A-7B】図6の処理例を説明するための模式図である。
図7C-7D】図7Bに続く工程を説明するための模式図である。
図7E-7F】図7Dに続く工程を説明するための模式図である。
図7G-7H】図7Fに続く工程を説明するための模式図である。
図7I図7Hに続く工程を説明するための模式図である。
図8A-8D】図6の処理例におけるウエハ上面の状態を説明するための模式的な断面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る基板処理装置を示す平面図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る基板処理装置を用いたIPA排除工程を示す側面図である。
図11A-11C】IPA排除処理の一例を説明する図面である。
図12A-12C】IPA排除処理の一例を説明する図面である。
図13A-13C】IPA排除処理の一例を説明する図面である。
図14A-14C】IPA排除処理の一例を説明する図面である。
図15A-15C】IPA排除処理の一例を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る基板処理装置1の構成を模式的に示す断面図である。
この基板処理装置1は、円形の半導体ウエハW(以下、単に「ウエハW」という)のデバイス形成領域側の表面に対して洗浄処理の一例としてのエッチング処理を施すための枚葉型の装置である。自然酸化膜を除去するためのエッチング処理を実行する場合には、エッチング液としてたとえば希ふっ酸が採用される。また、犠牲膜を除去するためのエッチング処理を実行する場合には、エッチング液としてたとえば濃ふっ酸やTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)などが採用される。
【0028】
基板処理装置1はウエハWを処理するための処理モジュールM1を有している。処理モジュールM1は隔壁2により区画された処理室3内に、ウエハWを水平に保持して回転させる基板保持回転機構(基板保持手段)4と、基板保持回転機構4に保持されているウエハWの下面に対向配置されウエハWを下方から加熱するためのヒータ5と、基板保持回転機構4に保持されているウエハWの表面(上面)にエッチング液を吐出するためのエッチング液ノズル6と、基板保持回転機構4に保持されているウエハWの表面にリンス液としてのDIW(脱イオン水)吐出するためのリンス液ノズル7と、基板保持回転機構4を収容する下カップ(カップ本体)8と、下カップ8の開口9を閉塞するための蓋部材10とを備えている。蓋部材10が下カップ8の開口9を閉塞することで内部に密閉空間を有する密閉カップが形成される。
【0029】
基板保持回転機構4は、ウエハWの回転軸線(鉛直軸線)Cと同心の回転中心を有する、水平支持された円環板状の回転リング11と、回転リング11の上面に鉛直に立設された複数本(たとえば6本)の下当接ピン12とを備えている。各下当接ピン12は円柱状をなしウエハWを下方から支持する。回転リング11には、回転リング11を回転軸線C回りに回転させるためのリング回転機構13が結合されている。リング回転機構13は例えばモータとそれに付随する伝達機構等によって構成されている。
【0030】
ヒータ5は、たとえばセラミックや炭化ケイ素(SiC)製の本体部に、抵抗16が埋設された抵抗式のヒータである。ヒータ5は、ヒータ支持台17によって支持されている。
ヒータ5は、水平平坦な円形の上面18を有し、円板状をなしている。ヒータ5の上面18は、基板保持回転機構4に保持されたウエハWの下面の周縁部を除く領域と対向している。抵抗16に給電して発熱させると上面18を含むヒータ5全体が発熱する。ヒータ5の上面18の全域において、ヒータ5のオン状態における上面18の単位面積当たりの発熱量は均一に設定されている。
【0031】
ヒータ5は回転可能な構成ではなく、したがって、抵抗16への給電のために回転電気接点が不要である。そのため、ヒータ5を回転させる場合と比較して、ヒータ5への給電量が制限されない。これにより、ウエハWを所望の高温まで加熱することが可能である。
ヒータ支持台17には、ヒータ支持台17ごとヒータ5を昇降させるためのヒータ昇降機構(昇降手段)19が結合されている。ヒータ5は、ヒータ昇降機構19により水平姿勢を維持したまま昇降される。ヒータ昇降機構19は、たとえばボールねじやモータによって構成されている。ヒータ昇降機構19を駆動することにより、ヒータ5は、その上面18がウエハWの下面から下方に離反する下位置(離反位置。図7A等参照)と、ヒータ5の上面18がウエハWの下面に微小間隔W1を隔てて対向配置される上位置(近接位置。図7F等参照)との間で昇降させられる。このようにヒータ5とウエハWの下面との間隔を変更することによりヒータ5がウエハWに与える熱量を調整することができる。
【0032】
エッチング液ノズル6は、たとえば、連続流の状態でエッチング液を下方に向けて吐出するストレートノズルである。エッチング液ノズル6には、エッチング液供給源からのエッチング液供給通路となるエッチング液供給管21が接続されている。エッチング液供給管21には、エッチング液の供給を開閉するためのエッチング液バルブ22が介装されている。エッチング液バルブ22が開かれると、エッチング液供給管21からエッチング液ノズル6にエッチング液が供給され、また、エッチング液バルブ22が閉じられると、エッチング液供給管21からエッチング液ノズル6へのエッチング液の供給が停止される。エッチング液ノズル6には、エッチング液ノズル移動機構23が結合されている。エッチング液ノズル移動機構23は、基板保持回転機構4の上方と、基板保持回転機構4の側方(下カップ8の外方)に設けられたホームポジションとの間でエッチング液ノズル6を移動させる。
【0033】
リンス液ノズル7は、たとえば、連続流の状態でリンス液を下方に向けて吐出するストレートノズルである。リンス液ノズル7には、DIW供給源からのDIW供給通路となるリンス液供給管26が接続されている。リンス液供給管26には、リンス液の供給を開閉するためのリンス液バルブ27が介装されている。リンス液バルブ27が開かれると、リンス液供給管26からリンス液ノズル7にDIWが供給され、また、リンス液バルブ27が閉じられると、リンス液供給管26からリンス液ノズル7へのDIWの供給が停止される。リンス液ノズル7には、リンス液ノズル移動機構28が結合されている。リンス液ノズル移動機構28は、基板保持回転機構4の上方と、基板保持回転機構4の側方(下カップ8の外方)に設けられたホームポジションとの間でリンス液ノズル7を移動させる。
【0034】
下カップ8は、略円筒容器状をなし、上面に円形の開口9を有している。下カップ8は略円板状の底壁部31と、底壁部31から上方に立ち上がる周壁部32とを一体的に備えている。周壁部32は、回転軸線Cを中心とする円筒状に形成されている。周壁部32は円環状の上端面33を有している。底壁部31の上面には、回転リング11の下方に位置する領域に、ウエハWの周縁から飛散するエッチング液やリンス液、IPA液を溜めるための環状溝34が形成されている。環状溝34には、廃液路(図示しない)の一端が接続されている。廃液路の他端は、機外の図示しない廃液設備に接続されている。
【0035】
周壁部32の周囲には下当接ピン12に保持されたウエハWから飛び散るエッチング液を捕獲するためのカップ(図示せず)が配設され、当該カップは機外の図示しない廃液設備に接続されている。
また、ヒータ支持台17は、底壁部31の中心部を貫通して下方に延びている。ヒータ支持台17の軸部と底壁部31の中心部との間は、円環状のシール部材35によってシールされている。
【0036】
蓋部材10は、基板保持回転機構4の上方において、ほぼ水平な姿勢で配置されている。蓋部材10は、略円板状の外蓋41と略円盤状の内蓋61とを上下に重ねた状態で有する二重蓋構造である。外蓋41の下面には、その中心部と周縁部とを除く領域に、外蓋41と同心の円筒状の上環状溝42が形成され、内蓋61はこの上環状溝42に収容された状態で外蓋41に対して回転可能に保持されている。
【0037】
外蓋41は、ほぼ水平な姿勢で、かつその中心がウエハWの回転軸線C上に位置するように配置されている。外蓋41の中心部には、有機溶媒流通管(有機溶媒供給手段)43および窒素ガス流通管44が鉛直方向に延びて隣接して挿通している。
外蓋41の中心部下面45は円形を有する水平平坦面である。中心部下面45は、基板保持回転機構4に保持されるウエハWの表面(上面)の中心部に対向している。
【0038】
有機溶媒流通管43の下端は外蓋41の中心部下面45で開口し、有機溶媒吐出口46を形成している。有機溶媒流通管43には、有機溶媒供給管47が接続されている。有機溶媒供給管47には、DIW(水。リンス液)よりも低い表面張力を有する有機溶媒の一例としてのイソプロピルアルコール(isopropyl alcohol:IPA)液がIPA供給源から供給される。有機溶媒供給管47には、有機溶媒の供給を開閉するための有機溶媒バルブ48が介装されている。
【0039】
また、窒素ガス流通管44の下端も外蓋41の中心部下面45で開口し、不活性ガスの一例としての窒素ガス(N)を吐出するための窒素ガス吐出口51を形成している。窒素ガス流通管44には、窒素ガス供給源からの窒素ガス供給通路となる窒素ガス供給管52が接続されている。窒素ガス供給管52には、窒素ガスの供給を開閉するための窒素ガスバルブ53、および窒素ガス供給管52の開度を調節して窒素ガス吐出口51からのガス吐出流量を調節するための流量調節バルブ55が介装されている。
【0040】
外蓋41の周縁部下面49の径方向途中部には、シール環50が周縁部下面49の周方向全域に渡って取り付けられている。シール環50は、たとえば樹脂製の弾性材料を用いて形成されている。
内蓋61は、外蓋41の中心部下面45を取り囲む略円盤状をなしている。内蓋61は、ウエハWよりもやや大径をなしており、ほぼ水平な姿勢で、かつその中心がウエハWの回転軸線C上に位置している。内蓋61の内周縁には短筒の内周筒61Aが接続されている。当該内周筒61Aは鉛直上方に延伸する部分と当該延伸部分の上端から径方向外方に向けて水平円盤状に突出する部分とからなっている。内周筒61Aは外蓋41の中心部下面45に対して独立して回転できるように連結されている。
【0041】
また、内蓋61の下面は、基板保持回転機構4に保持されたウエハWの上面の中心部を除く領域と対向する基板対向面62を形成している。基板対向面62は、外蓋41の中心部下面45を取り囲む円盤状の水平平坦面からなる。基板対向面62の周縁部には、たとえば6本の上当接ピン64が等間隔に配設されている。各上当接ピン64は円筒状をなし、鉛直に垂下している。
【0042】
内蓋61は後述するウエハWと一体的に内蓋61の中心を通る鉛直軸線(ウエハWの回転軸線Cと一致する軸線)まわりに回転する。
また、蓋部材10には外蓋41および内蓋61を一体的に昇降させるための蓋昇降機構54が結合されている。蓋昇降機構54の駆動により、蓋部材10は、下カップ8よりも上方に退避して下カップ8の開口9を開放する開位置と、下カップ8の開口9を閉塞する閉位置との間で昇降される。
【0043】
蓋部材10が閉位置にある状態では、外蓋41の周縁部の下面に配置されたシール環50が、その周方向全域で下カップ8の上端面33に当接し、外蓋41と下カップ8との間がシールされる。また、この状態で内蓋61の基板対向面62および外蓋41の中心部下面45は微小間隔W2(図7E参照。例えば約4mm)を隔ててウエハWの上面に近接して対向配置される。
【0044】
図2は、基板保持回転機構4の平面図である。
回転リング11の上面には、たとえば6本の下当接ピン12がウエハWの回転軸線C(図1参照)を中心とする円周上に等間隔に配置されている。各下当接ピン12の上端は水平面と回転軸線Cに向いて下方向に傾斜した下当接面12Aとを有している。6本の下当接ピン12の上にウエハWを載置すると、ウエハWの下面(裏面)周端縁が下当接ピン12の下当接面12Aと当接しウエハWを基板保持回転機構4に良好に保持することができ、ウエハWを各基板処理工程での処理速度(たとえば10〜3000rpm)で回転させることができる。
【0045】
図3は内蓋61の底面図である。内蓋61の基板対向面62には、たとえば6本の上当接ピン64が内蓋61の中心を通る鉛直軸線(ウエハWの回転軸線C(図1参照)と一致する軸線)を中心とする円周上に等間隔に配置されている。各上当接ピン64の下端は水平面と、内蓋61の中心を通る鉛直軸線に向いて上方向に傾斜した下当接面64Aとを有している。各上当接ピン64と内蓋61の中心を通る鉛直軸線との間の距離は、各上当接ピン64と回転軸線Cとの間の距離と等しくなる。各上当接ピン64の上当接面64AはウエハWの上面周縁に当接することによりウエハWを良好に支持することができる。
【0046】
図4は下当接ピン12と上当接ピン64とによるウエハWの支持を説明する図である。
図1図4に示すように、基板保持回転機構4および内蓋61がそれぞれ所定の基準姿勢にある状態では、6本の下当接ピン12の周方向位置は、6本の上当接ピン64の周方向位置とそれぞれ揃っている。すなわち、基板保持回転機構4および内蓋61がそれぞれ所定の基準姿勢にある状態では、各下当接ピン12に対応してその鉛直方向上側に上当接ピン64が一つずつ配置されることになる。
【0047】
基板保持回転機構4および内蓋61がそれぞれ基準姿勢にあり、かつ基板保持回転機構4にウエハWが保持された状態で、蓋昇降機構54が駆動されて蓋部材10が閉位置まで下げられる。これにより、内蓋61の各上当接ピン64が基板保持回転機構4に保持されているウエハWの上面周端縁と当接し、当該ウエハWを下当接ピン12に向けて押し付けるようになる。そして、各上および下当接ピン64,12がウエハWの周縁部を上下から挟持する。複数対(たとえば6対)の上および下当接ピン64,12によってウエハWが挟持されることにより、ウエハWが基板保持回転機構4および内蓋61に強固に保持される。そして、基板保持回転機構4の回転リング11と内蓋61とを同一方向に同期して回転させることにより、ウエハWを回転させることができる。このとき、基板保持回転機構4および内蓋61はウエハWを保持しつつ最大3000rpmの回転速度で回転させることができる。
【0048】
図5は、基板処理装置1の電気的構成を示すブロック図である。
基板処理装置1は、マイクロコンピュータを含む構成の制御装置70を備えている。制御装置70は、リング回転機構13、蓋昇降機構54、ヒータ昇降機構19、エッチング液ノズル移動機構23、リンス液ノズル移動機構28などの動作を制御する。
また、制御装置70は、予め定められたプログラムに従って、エッチング液バルブ22、リンス液バルブ27、有機溶媒バルブ48、窒素ガスバルブ53の開閉動作を制御するとともに、流量調節バルブ55の開度を制御する。また、制御装置70は、抵抗16(図1参照)への通電/切断の切換えにより、ヒータ5のオン/オフを制御する。
【0049】
図6は、基板処理装置1によって実行されるエッチング処理の一例を説明する工程図である。図7A図7Iはこの処理例を段階ごとに説明する模式図である。図8A図8Dはこの処理例におけるウエハW上面の状態を説明する模式的な断面図である。
以下では、図1図6図7A図7I、および図8A図8Dを参照して、エッチング処理の処理例について説明する。
【0050】
エッチング処理に際しては図示しない搬送ロボットが制御されて処理室3内に未処理のウエハWが搬入される(ステップS1)。
図8A図8Dに示すように、処理室3内に搬入されるウエハWは、たとえば、シリコンウエハの表面に微細パターン101を形成したものである。微細パターン101は凸状の構造体102を互いに同方向に沿って配列して形成される。各構造体102のパターン幅W0(図8A参照)は通常10nm〜45nm程度、微細パターン101の間隙W3(図8A参照)は10nm〜数μm程度に形成されている。なお、微細パターン101はライン状の構造体のパターンであってもよく、この場合の微細パターン101には溝(トレンチ)状の間隙が形成されることになる。あるいは、微細パターン101は所定の薄膜に複数の小さな空隙(ボイド)(又は微細孔(ポア))状の間隙を形成したものであってもよい。
【0051】
微細パターン101は、通常、絶縁膜を含んでいる。また、微細パターン101は、導体膜を含んでいてもよい。より具体的には、微細パターン101は、複数の膜を積層した積層膜により形成されており、さらには、絶縁膜と導体膜とを含んでいてもよい。微細パターン101は、単層膜で構成されるパターンであってもよい。絶縁膜は、SiO膜や窒化膜であってもよい。また、導体膜は、低抵抗化のための不純物を導入したアモルファスシリコン膜であってもよいし、金属膜(たとえば金属配線膜)であってもよい。さらには、積層膜を構成する各膜として、ポリシリコン膜、SiN膜、BSG膜(ホウ素を含むSiO膜)、およびTEOS膜(TEOS(テトラエトキシシラン)を用いてCVD法で形成されたSiO膜)などを例示することができる。
【0052】
また、微細パターン101の膜厚T(図8A参照)は、たとえば、50nm〜5μm程度である。また、微細パターン101は、たとえば、アスペクト比(線幅W0に対する膜厚Tの比)が、たとえば、5〜500程度であってもよい(典型的には5〜50程度である)。
このような微細パターン101が形成されたウエハWを乾燥させる場合に、ウエハWが乾燥していく過程で隣接する構造体102同士を引き付ける力が加わって微細パターン101がパターン倒壊を起こすおそれがある。
【0053】
次に図6の工程図と図7A図7Iの模式図とを用いて基板処理装置1によって実行されるエッチング処理について説明する。
まず、図7Aに示すようにウエハWは図示しないロボットにより処理室3内に搬入された後、回転リング11の複数本の下当接ピン12に引き渡され、これらの下当接ピン12によって保持される(S1:ウエハW搬入)。これにより、搬入されたウエハWは、その表面(微細パターン101の形成面)を上方に向けた状態で基板保持回転機構4に保持される。
【0054】
ウエハWの搬入時には、ウエハWの搬入の妨げにならないように、蓋部材10は、開位置にある。また、ヒータ5はオン(駆動状態)で下位置に位置している。さらに、エッチング液ノズル6とリンス液ノズル7とはそれぞれホームポジションに配置されている(図7Aでは図示しない)。
ウエハWが基板保持回転機構4に保持されると、図7Bに示すように、制御装置70はリング回転機構13を制御して、ウエハWの回転を開始させる。ウエハWは予め定める基板処理速度(たとえば300〜1500rpm程度)まで上昇される。
【0055】
また、制御装置70は、エッチング液ノズル移動機構23(図1等参照)を制御して、エッチング液ノズル6をウエハWの上方位置に移動させ、図7Bに示すように、エッチング液ノズル6をウエハWの回転軸線C上に配置させる。
エッチング液ノズル6がウエハWの回転軸線C上に配置されると、図7Bに示すように、制御装置70は、エッチング液バルブ22(図1等参照)を開いて、エッチング液ノズル6からエッチング液を吐出する。ウエハWの上面中心部付近に供給されたエッチング液は、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの上面上をウエハWの周縁部に向けて流れる。これにより、ウエハWの上面の全域にエッチング液が行き渡り、ウエハWの上面がエッチングされる(S2:エッチング処理)。
【0056】
また、ウエハWの周縁部から飛散するエッチング液は、下カップ8の周壁部32の内壁に受け止められ、この内壁を伝って環状溝34に溜められる。環状溝34に溜められたエッチング液は、廃液路(図示しない)を介して、機外の廃液設備(図示しない)に送られ、そこで処理される。
エッチング液の吐出開始から、予め定めるエッチング時間が経過すると、制御装置70は、エッチング液バルブ22を閉じて、エッチング液ノズル6からのエッチング液の吐出を停止するとともに、エッチング液ノズル移動機構23を制御して、エッチング液の吐出停止後のエッチング液ノズル6を、そのホームポジションに戻す。
【0057】
次いで、制御装置70は、リンス液ノズル移動機構28(図1等参照)を制御して、リンス液ノズル7をウエハWの上方位置に移動させ、図7Cに示すように、リンス液ノズル7をウエハWの回転軸線C上に配置させる。
リンス液ノズル7がウエハWの回転軸線C上に配置されると、図7Cに示すように、制御装置70は、リンス液バルブ27(図1等参照)を開いて、リンス液ノズル7からDIWを吐出する。ウエハWの上面の中心部付近に供給されたDIWは、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの上面上をウエハWの周縁部に向けて流れ、これにより、ウエハWの上面の全域にDIWが行き渡り、ウエハWの上面に付着したエッチング液が洗い流される(ステップS3:リンス処理)。このリンス処理により、図8Aに示すように、ウエハWの上面100に形成された微細パターン101の間隙の底部(当該空間におけるウエハW自体の上面100に極めて近い位置)までDIWが行き渡る。
【0058】
また、ウエハWの周縁部から飛散するDIW(エッチング液を含むDIW)は、下カップ8の周壁部32の内壁に受け止められ、この内壁を伝って環状溝34に溜められる。環状溝34に溜められたDIWは、廃液路(図示しない)を介して、機外の廃液設備(図示しない)に送られ、そこで処理される。
DIWの吐出開始から、予め定めるリンス時間が経過すると、制御装置70は、リンス液バルブ27を閉じて、リンス液ノズル7からのDIWの吐出を停止するとともに、リンス液ノズル移動機構28を制御して、DIWの吐出停止後のリンス液ノズル7を、そのホームポジションに戻す。
【0059】
次いで制御装置70はIPA液供給工程(S4)を開始する。制御装置70はまず図7Dに示すようにリング回転機構13を制御して、ウエハWの回転を停止させる。ウエハWの回転停止後、制御装置70は、リング回転機構13を制御して、基板保持回転機構4および内蓋61を基準姿勢まで回転させた後、蓋昇降機構54を制御して、蓋部材10を閉位置まで下降させる。蓋部材10を閉位置まで下降すると、下カップ8の開口9が蓋部材10により閉塞される。この状態で、図示しないロック部材により蓋部材10と下カップ8とを結合させると、外蓋41の周縁部下面49に配置されたシール環50が、その周方向全域で下カップ8の上端面33に当接し、外蓋41と下カップ8との間がシールされる。これにより、下カップ8および蓋部材10の内部空間が密閉される。
【0060】
また、蓋部材10が閉位置にある状態では、内蓋61の基板対向面62と、ウエハWの上面とは、微小間隔W2で離隔している。
蓋部材10が閉位置まで下降し蓋部材10と下カップ8とが結合すると、図7Eに示すように、制御装置70はリング回転機構13を制御して回転リング11の回転を開始させる。これにより、回転リング11の回転速度でウエハWおよび内蓋61が同一方向に回転される。
【0061】
また、ウエハWが所定の回転速度(例えば10〜1000rpmの範囲。望ましくは1000rpm)に達すると、図7Eに示すように、制御装置70は、有機溶媒バルブ48を開いて、有機溶媒流通管43の有機溶媒吐出口46からIPA液を吐出する。このとき、ヒータ5が下位置にあるので、ウエハWはヒータ5によって近接加熱されていない。そのため、ウエハWの上面の温度はたとえば常温(たとえば25℃)である。また、ウエハWに供給されるIPA液も常温のIPA液である。したがって、ウエハWの上面とウエハWの上面に供給されるIPA液とはいずれもIPAの沸点以下の温度とされている。
【0062】
ウエハWの上面の中心部付近に供給されたIPA液は、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの上面と、内蓋61の基板対向面62との間をウエハWの周縁部に向けて流れる。これにより、ウエハWの上面の全域にIPA液が行き渡り、ウエハWの上面のDIWがIPA液によって置換される。ウエハWの上面に供給されるIPAが液体(液相)であるので、図8Bに示すように、微細パターン101の間隙内部のDIWをIPA液によって良好に置換することができる。これにより、ウエハWの上面からDIWを確実に除去することができる。
【0063】
IPA液の吐出開始から予め定めるIPA置換時間が経過すると、ウエハWの上面全面に所定膜厚(例えば1mm程度)のIPAの液膜80が形成される。IPA置換時間はウエハWの上面のDIWがIPA液によって置換されるに十分な時間に設定されている。
IPA置換が完了すると、図7Fに示すように、制御装置70はヒータ昇降機構19を制御しヒータ5を上位置まで上昇させてウエハ加熱工程(S5)を実行する。
【0064】
ヒータ5が上位置まで上昇すると、ヒータ5の上面18はウエハWの下面まで間隔W1(典型的には0.5〜3mm)まで近接する。ヒータ5の上位置においてヒータ5の上面18とウエハWの下面とが部分的にまたは全面的に接触していてもよい。ヒータ5が上位置に到達することにより、ウエハWの下面は、ヒータ5からの熱輻射またはウエハWの下面とヒータ5の上面18との間の空間内流体熱伝導により加熱される。ヒータ5は上位置にある状態で、ヒータ5の上面18とウエハWの下面とが平行をなすように配置されている。このため、ヒータ5からウエハWに与えられる単位面積当たりの熱量は、ウエハWの全域においてほぼ均一となる。
【0065】
ヒータ5がウエハWの下面を加熱することにより、ウエハWの上面全面(微細パターン101(図8等)の上面。より具体的には、各構造体102の上端面102A)の温度が、予め定める加熱時上面温度まで昇温される。この加熱時上面温度は、IPA液の沸点(82.4℃)よりも10〜50℃高い範囲の所定の温度である。
本実施形態では、ウエハWの上面全面がこの加熱時上面温度まで昇温されるように、ヒータ5の単位面積当たりの熱量および、ウエハWの下面とヒータ5の上面18との間隔W1が所定の大きさに設定されている。
【0066】
ウエハW上面の温度が加熱時上面温度に到達して所定時間が経過すると、ウエハWの上面のIPAの液膜80の一部が蒸発して気相化し微細パターン101の間隙を満たすとともにウエハWの上面(各構造体102の上端面102A)の上方空間にIPAの蒸気膜85を形成する。これにより、ウエハWの上面(各構造体102の上端面102A)からIPAの液膜80が浮上する(図8C参照)。
【0067】
このとき、微細パターン101の間隙は気相の有機溶媒で満たされるため各構造体102の間には極めて小さな表面張力しか生じなくなる。このため、表面張力に起因する微細パターン101の倒壊を防ぐことができる。
ウエハWの加熱は少なくともウエハWの上面全面においてIPA液膜80が浮上するとともに、微細パターン101の間隙の液相のIPAが気相化するまで継続する。
【0068】
つぎに、制御装置70はIPA排除工程(S6)を実行し、ウエハWの上方に浮上したIPAの液膜80を液塊状態のままウエハWの上面から排除する。この段階でIPAの液膜80はウエハWの上面に接触していないためIPAの液膜80はウエハWの上面に沿って移動し易い状態にある。
なお、ウエハWの上面に浮上しているIPA液膜80に亀裂等(図8Dの符号81参照)が生じることがある。亀裂等が生じた部分ではIPAの液滴とウエハWとの液固界面が生じた状態で乾燥するため、表面張力に起因してパターン倒壊が生じるおそれがある。また、ウエハWの上面にウォータマーク等の欠陥が生じるおそれがある。
【0069】
このため、後述するIPA排除工程(S6)によってIPAの液膜80をウエハWの上面から排除するまで当該IPAの液膜80には亀裂等を生じさせないことが望ましい。
IPAの液膜80に亀裂等を生じさせる要因は2つ考えられる。
第1の要因はウエハWの長時間の加熱による多量のIPA蒸気の発生またはIPAの液膜80の沸騰である。多量のIPA蒸気が発生しまたはIPAの液膜80が沸騰するとIPAの蒸気膜85がその上方のIPAの液膜80を突き破って当該液膜80上に出て液膜80に亀裂を生じさせるおそれがある。
【0070】
第2の要因はウエハWの高速回転に伴う遠心力によって生じるIPAの液膜80の分裂である。
第1の要因に関して、本実施形態ではウエハWの加熱温度および加熱時間をこのような亀裂81が生じない温度や時間に設定することで対応している。また、ウエハWの加熱中に適宜のタイミングでIPA液をIPA液膜80に補給することにより、ウエハ加熱工程(S5)およびIPA排除工程(S6)を通してIPAの液膜80に亀裂等が生じない厚み(例えば基板の回転中心において1〜5mm。望ましくは約3mm)を維持するようにしている。
【0071】
第2の要因に関して、本実施形態では、ウエハ加熱工程(S5)でのウエハWの回転速度をIPAの液膜80に亀裂が生じない程度の速度に設定することで対応している。例えば、ウエハWを10〜500rpmで回転させた場合にはウエハWの上面全面にIPAの液膜80を維持しつつ遠心力に起因する液膜80の分裂を防止することができる。
IPA排除工程(S6)の説明に戻る。制御装置70は、図7Gに示すように、ウエハWの回転速度を例えば10〜500rpmに設定すると共に窒素ガスバルブ53を開く。このとき、流量調節バルブ55(図1等参照)の開度は、窒素ガス吐出口51からの窒素ガス(N)の吐出流量が小流量になるようにその開度が設定されている。これにより、窒素ガス吐出口51からは小流量の窒素ガスが吐出しウエハWの上面中心部に吹き付けられる。これにより、ウエハWの上面中心部のIPAの液膜80が部分的に除去されて小径円形状の乾燥領域82が形成される。
【0072】
IPAの液膜80は、IPAの蒸気膜85(図8C等参照)を介して、ウエハWの上面(微細パターン101の上面)から分離されており、ウエハWの上面に沿って移動し易い状態にあるので前記乾燥領域82はウエハWの上面中心部に窒素ガスが吐出されるのに伴って拡大する。ウエハWの回転による遠心力が、IPAの液膜80に作用しているために、乾燥領域82は一層より急速に拡大する。乾燥領域82がウエハの上面の全域に広がることにより、ウエハWの上面(微細パターン101の上面)からIPA液をその液塊状態を維持したままで(すなわち、多数の小滴に分裂させることなく)排除することができる。
【0073】
ウエハWの上面からIPAの液膜80がすべて排除された後、制御装置70は、図7Hに示すように、ヒータ昇降機構19を制御してヒータ5を下位置まで下降させる。ヒータ5が下位置まで下降するとヒータ5とウエハWとの間隔が大きくなってヒータ5から十分な熱(輻射熱または空間内流体熱伝導)がウエハWに届かなくなる。これにより、ヒータ5によるウエハWの加熱が終了し、ウエハWはほぼ常温まで温度低下する。
【0074】
また、制御装置70は流量調節バルブ55(図1参照)を制御して、窒素ガス吐出口51からの窒素ガスの吐出流量を大流量まで上昇させる。これにより、ウエハWの上面と内蓋61の基板対向面62との間に生じていたウエハWの中心部から周縁部に向かう窒素ガスの気流が強化・促進され、ウエハWの上面と内蓋61の基板対向面62との間が窒素ガスで充満される。
【0075】
制御装置70は同時にリング回転機構13を制御して、ウエハWの回転速度を所定の乾燥時回転速度(たとえば2500rpm)まで加速させる。これにより、ウエハW上からIPA液が完全に振り切られて除去される(S7:スピンドライ)。このスピンドライ時においても、内蓋61は引き続きウエハWとの間隔W2を維持したままウエハWの回転に同期して、ウエハWの回転方向と同方向に回転されるので、ウエハWの上面付近の雰囲気がその周囲から遮断され、ウエハWの上面と内蓋61の基板対向面62との間に安定気流が形成される。
【0076】
そして、ウエハWの乾燥時回転速度での回転が所定時間にわたって続けられると、図7Hに示すように、制御装置70はリング回転機構13を制御して、ウエハWの回転を停止するとともに、窒素ガスバルブ53を閉じる。また、制御装置70は、蓋昇降機構54を駆動して、蓋部材10を開位置まで上昇させる。これにより、1枚のウエハWに対するエッチング処理が終了し、搬送ロボットによって、処理済みのウエハWが処理室3(図1等参照)から搬出される(ステップS8)。
【0077】
本実施形態では、IPA排除工程S6において、まずウエハWの中央部に乾燥領域82を形成し、続いてこの乾燥領域82を遠心力により徐々に拡大するようにしてIPA液を排除している。このため、IPA液を比較的大きな液塊のままウエハWの上面から排除することが可能である。これによりウエハWの上面にIPA液が小滴状に残留することがなくなるため、IPA液が小摘状態でウエハWの上面で乾燥・消失することを確実に防止することができる。
【0078】
ウエハWの上面100の微細パターン101のアスペクト比が高い場合、液相のIPAと微細パターン101内の各構造体102との接触面積が大きくなり隣り合う構造体102間の空間にある液相のIPAを蒸発させるために要する時間が長くなると考えられる。この場合には、ウエハWの上面近傍のIPAの液膜80を蒸発させるのに必要な熱量も多くなる。従って、処理対象のウエハWの微細パターン101のアスペクト比の大きさに応じてウエハ加熱温度を高くあるいは加熱時間を長く設定することが望ましいと考えられる。
【0079】
また、エッチング処理の処理例では、ウエハWを基板保持回転機構4ごと、下カップおよび蓋部材10で構成される密閉カップ内の内部空間内に収容された状態で、IPA液を用いた工程S5〜S7が実行される。IPA液を高温環境下で扱うこのような工程では、ウエハW上で激しい反応が生じるおそれがある。しかしながら、密閉カップ内にウエハWを収容しておくことにより、基板処理装置1における密閉カップ外の領域が損傷することを防止することができる。
【0080】
次に本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態においても第1実施形態とほぼ同様のエッチング処理が実行されるがIPA排除工程S6のみが異なるため、本工程に関連する箇所を中心に説明する。
図9は本発明の第2実施形態に係る基板処理装置201の平面図であり、図10は本装置201を用いたIPA排除工程を示す側面図である。図9および図10において、第1実施形態に示された各部に対応する部分には、図1図7の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
【0081】
第1実施形態に係る基板処理装置1ではウエハWの上面に対向配置された窒素ガス吐出口51から窒素ガスを吐出したが、この第2実施形態では、図9に示すように直線帯状のガス吹付けノズル202を用いて直線帯状にウエハWの上面に向けて不活性ガスを吐出している。このガス吹付けノズル202は所定のY方向に沿う直線状に開口する線状に開口するスリット吐出口203を有する。スリット吐出口203は、基板保持回転機構4に保持されたウエハWの上面に対向している。ガス吹付けノズル202は、保持レール(図示せず)によって、Y方向に直交するX方向に沿って往復移動可能に保持されている。X方向およびY方向は、ともに、ウエハWの上面に沿う方向(水平方向)である。ガス吹付けノズル202には、窒素ガス供給源からの窒素ガスが供給されるようになっている。
【0082】
図10に示すように、スリット吐出口203からウエハWの上面に吹き付けられる窒素ガスの吹付け方向θは所定の鋭角(たとえば45°)を例示することができる。
この手法では、ステップS6(図6参照)のIPA排除工程において、ガス吹付けノズル202からウエハWの上面に直線状(帯状)の窒素ガスを吹き付ける。これにより、ウエハWの上面に、Y方向に沿う直線状の窒素ガス吹付け領域205が形成される。また、窒素ガスの吹付けと並行して、ガス吹付けノズル202は、ウエハWの上方領域外にある移動開始位置(図9において二点鎖線で図示)から、この移動開始位置とウエハWの回転中心を挟んだ反対側でウエハWの上方領域外にあるリターン位置(図9において一点鎖線で図示)までの間をX方向に沿って移動(一方向スキャン)させる。これに伴い、窒素ガス吹付け領域205が、X方向に沿って移動する。
【0083】
このガス吹付けノズル202は、スリット吐出口203がウエハWの回転中心の上方(回転軸線C上)にある状態で、スリット吐出口203のY方向の一方端および他方端がウエハWの上方領域外にある。そのため、ガス吹付けノズル202を、移動開始位置からリターン位置まで一方向移動させることにより、ウエハWの上面の全域に窒素ガス吹き付け領域205を走査させることができる。
【0084】
ステップS5のウエハW加熱(図6参照)の状態では、前述のように、IPAの液膜80とウエハWの上面との間にほとんど摩擦力が生じず、IPAの液膜80(図8C等参照)はウエハWの上面に沿って移動し易い状態にある。そのため、窒素ガス吹き付け領域を移動させることにより、IPAの液膜80を窒素ガス吹き付け領域205の進行方向側に移動させることができ、これにより、パターンの倒壊を生じさせることなく、ウエハWの上面からIPAの液膜80を良好に排除することができる。
【0085】
前述した第1および第2実施形態ではウエハWの上面に対向配置された窒素吐出口から窒素を吐出することにより、蒸気膜85によってウエハWの上方に浮上したIPA液膜80をウエハWの上面から排除していた。
しかし、第1実施形態において説明したエッチング処理・リンス処理・IPA液処理・ウエハW加熱処理の後に実施されるIPA液膜の排除方法はこれに限られるものではない。図11A乃至図15Cに示す各手法によりウエハW上のIPA液膜を排除してもよい。
【0086】
図11A図11Cに示す手法ではウエハWの上方に浮上したIPA液膜をその自重により滑り落とすことによりウエハWの上面から排除している。図11Aに示すウエハWはウエハ保持手段302内のヒータ303によりIPAの沸点以上に加熱されその上面にIPAの蒸気膜85を形成している。また、この蒸気膜85はIPA液膜80をウエハWの上方に浮上させている(図8C参照)。この状態から図11Bに示すようにウエハ保持手段302を回転軸304回りに回転させることによりウエハ保持手段302を傾斜させ、IPAの液膜80をその自重によってウエハWの上面から滑り落とすようにしてウエハWの上面から排除している(図11C参照)。
【0087】
また、ウエハWの上方に浮上したIPA液膜80を図12A図12Cに示す手法によりウエハWの上面から排除してもよい。図12Aに示すウエハWはウエハ保持手段402内のヒータ403によりIPAの沸点以上に加熱されその上面にIPAの蒸気膜85を形成している。この蒸気膜85はIPA液膜80をウエハWの上方に浮上させている(図8C参照)。この手法では吸引ノズル404を使用する。吸引ノズル404の一端は開口して吸引口405を形成している。吸引ノズル404は、真空発生装置(図示しない)に接続されている。
【0088】
IPA排除工程において吸引ノズル404は、その吸引口405がウエハWの上面中心部に近接して対向するように配置される。そして、真空発生装置が駆動され、吸引口405内が吸引される。これにより、ウエハWの上面の中心部にあるIPAの液膜80が吸引口405に吸引される。同時に、図12Bに示すように、ウエハWの上面の他の領域にあるIPAの液膜80が、中心部にあるIPAの液膜80に引っ張られてウエハWの上面の中心部に順次移動し、吸引口405に吸引されて、ウエハWの上面から除去される。
【0089】
図12A図12Cで説明した吸引ノズル404の代わりに図13A図13Cに示すようなスポンジワイプ504を用いてIPAの液膜80を排除してもよい。
図13Aに示すウエハWはウエハ保持手段502内のヒータ503によりIPAの沸点以上に加熱されその上面にIPAの蒸気膜85を形成している。この蒸気膜85はIPAの液膜80をウエハWの上方に浮上させている(図8C参照)。このスポンジワイプ504は、ウエハWと同様円板状をなしており、吸水性を有している。スポンジワイプ504は、ホルダ505によって上方から支持されている。IPA排除工程では図13Aに示すように、スポンジワイプ504を下降させて、ウエハWの上面に近接配置させる。これにより、ウエハWの上面のIPAの液膜80がスポンジワイプ504に吸収される(図13B参照)。その状態で、図13Cに示すように、スポンジワイプ504が引き上げることによりIPAの液膜80が、ウエハWの上面から排除される。ゆえに、パターンの倒壊を生じさせることなく、ウエハWの上面からIPAの液膜80を良好に排除することができる。
【0090】
図12A図12Cで説明した吸引ノズル403あるいは図13A図13Cで説明したスポンジワイプ504の代わりに図14A図14Cに示すような、鉛直方向に延びる多数の短い毛細管606を束ねて形成した毛細管ヘッド604を使用してもよい。図14Aに示すウエハWはウエハ保持手段602内のヒータ603によりIPAの沸点以上に加熱されその上面にその上面にIPAの蒸気膜85を形成している。この蒸気膜85はIPAの液膜80をウエハWの上方に浮上させている(図8C参照)。毛細管ヘッド604は、ウエハWの上面に対向配置されており、ウエハWと同様略円板状に形成されている。毛細管ヘッド604は、ホルダ605によって上方から支持されている。
【0091】
IPA排除工程では、図14Aに示すように、毛細管ヘッド604を下降させて、ウエハWの上面に近接配置させる。このとき、毛細管ヘッド604の各毛細管606における毛細管現象により、ウエハWの上面のIPAの液膜80が毛細管ヘッド604に吸収される(図14B参照)。その状態で、図14Cに示すように、毛細管ヘッド604が引き上げられるとIPAの液膜80がウエハWの上面から排除される。ゆえに、パターンの倒壊を生じさせることなく、ウエハWの上面からIPAの液膜80を良好に排除することができる。
【0092】
あるいは、ウエハWの表面に温度勾配を設けることによりウエハWの表面からIPAの液膜80を排除してもよい。
図15Aに示すウエハWは内部にヒータ703が配置されたウエハ保持手段702に載置されている。このヒータ703上面は多数のエリアに分けられており、各エリアにおいて発熱状態と非発熱状態とを切り換えることができるようになっている。つまり、エリアごとにオン/オフを制御できるようになっている。
【0093】
ウエハ保持手段702上のウエハWはすべてのエリアが発熱状態となったヒータ703からの伝熱により加熱される。ヒータ703の加熱によりIPAの液膜80とウエハWの上面との間にIPAの蒸気膜85が形成されてIPAの液膜80がウエハWの上面から浮上する(図8C参照)。この状態ではIPAの液膜80とウエハWの上面との間にほとんど摩擦力が生じないためIPAの液膜80はウエハWの上面に沿って移動し易い状態にある。
【0094】
図15Aに示すようにIPA排除工程ではヒータ703の上面の中心部のみを発熱状態とし、ヒータ703の上面の他の領域は非発熱状態とする。これにより、ウエハWの上面の中心部が高温とされ、ウエハWの上面の他の領域は低温とされる。IPA液は、温度の高い所から低い所へと移動する性質を有している。そのため、ウエハWの上面の中心部に位置するIPAの液膜80が、ウエハWの周縁部に向けて移動する。
【0095】
その後、図15Bに示すように、ヒータ703の上面における発熱領域を、周縁部に向けて順に広げ、やがて、ヒータ703の上面全域を発熱させる(図15C参照)。これにより、ウエハWの上面において、高温の領域が中心部から周縁部に向けて順に広がる。これにより、IPAの液膜80がウエハWの周縁部に移動し、さらにウエハW外へと排出される。ゆえに、パターンの倒壊を生じさせることなく、ウエハWの上面からIPAの液膜80を良好に排除することができる。
【0096】
なお、本発明は他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の第1実施形態では、IPA液供給工程(図6のS4)の開始からIPA排除工程(図6のS6)の終了までの期間に亘って、ウエハWを回転させ続けるとして説明したが、IPA液供給工程(図6のS4)の一部期間または全期間において、ウエハWの回転速度を零または零に近い低速(例えば20rpm未満の回転速度)に保ってもよい。また、ウエハ加熱工程(図6のS5)の一部期間または全期間において、ウエハWの回転速度を零または零に近い低速(例えば20rpm未満の回転速度)に保ってもよい。
【0097】
以下に一例を示す。IPA液供給工程(図6のS4)の開始時には、前述の第1実施形態の場合と同様、ウエハWが前記所定の回転速度(例えば10〜1000rpmの範囲。望ましくは1000rpm)で回転される。ウエハWの上面の中心部付近に供給されたIPA液は、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの上面と、内蓋61の基板対向面62との間をウエハWの周縁部に向けて流れる。これにより、ウエハWの上面の全域にIPA液が行き渡り、ウエハWの上面のDIWがIPA液によって置換される。
【0098】
IPA液供給工程(図6のS4)開始後所定時間が経過すると、ウエハWの回転の減速が開始され、IPA置換時間の経過までに、ウエハWの回転速度が零または零に近い低速まで落とされる。そのため、IPA液供給工程(図6のS4)の終了段階において、ウエハW上のIPA液に零または小さな遠心力しか作用しなくなりIPA液がウエハWの周縁部から排出されずウエハWの表面に滞留するようになる。この結果、ウエハWの表面にパドル状態のIPA液の液膜80が形成される。
【0099】
そして、ウエハWの回転速度が零または零に近い低速に維持された状態で、ウエハ加熱工程(図6のS5)が実行される。すなわち、ウエハW上にパドル状態のIPA液の液膜が保持された状態で、ヒータ5を上位置(図7F等参照)まで上昇させてウエハWを加熱する。このとき、ウエハ加熱工程(図6のS5)の全期間に亘って、ウエハWの回転速度が零または零に近い低速に維持されていてもよい。
【0100】
この場合、ウエハ加熱工程(図6のS5)において、IPA液の液膜80(図8C参照)に零または小さな遠心力しか作用しなくなるため、IPAの液膜80における亀裂の発生をより確実に防止することができる。
また、第1実施形態において、ステップS4のIPA液の供給後ステップS5のウエハWの加熱開始までの間、ウエハWの上面の温度を、常温よりも高く、かつ加熱時上面温度よりも低い所定の温度に保持しておいてもよい。この場合、ウエハWの上面に供給されるIPA液の置換効率を高めることができ、これにより、IPA置換時間を短縮することができる。この場合、ヒータ5を、下位置(図7A等参照)と上位置(図7F等参照)との間の所定の中間位置に配置することによりウエハWを加熱してもよい。
【0101】
IPA置換を良好に行うためにはIPAは液相であることが望ましい。そのため、ステップS4のIPA液の供給後ステップS5のウエハWの加熱開始までの間に、ウエハWの上面の温度を常温よりも高くする場合であっても、その温度は、IPA液の沸点(82.4℃)未満であることが望ましい。しかしながら、この期間に、ウエハWの上面をIPA液の沸点以上に上げることもできる。とくに、IPA液の供給の開始直後では、ウエハWの上面でIPA置換が十分に行われていないから、ウエハWの上面はIPA液とDIWとが混在した状態になる。この状態ではウエハWのIPA液の沸点に達しても、IPA液が沸騰しない。そのため、IPA液によるDIWの置換を行うことが可能である。
【0102】
また、第1実施形態において、エッチング処理(図6のステップS2)の実行時に、ヒータ5を上位置(図7F等参照)や前述の中間位置に配置することによりウエハWを加熱してもよい。しかしながら、エッチング処理時にウエハWを加熱することにより、IPA液供給(ステップS4)時等における温度制御に影響を及ぼすような場合には、ウエハWの加熱は行わない方が望ましい。
【0103】
また、第1実施形態ではリンス処理(図6のステップS3)の実行時にヒータ5を下位置(図7A等参照)させているためウエハWは大きな熱量で加熱されていない。しかし、ヒータ5を上位置(図7F等参照)に配置してウエハWを加熱させるようにしてもよい。この場合、リンス処理に次いで実行されるIPA置換の置換効率を高めるために、リンス処理時にヒータ5を下位置とすることが考えられる。しかしながら、エッチング処理時にウエハWを加熱することにより、IPA液供給(ステップS4)時等における温度制御に影響を及ぼすような場合には、ウエハWの加熱は行わない方が望ましい。
【0104】
また、第1実施形態において、リンス液ノズル7を用いてリンス液を吐出する構成を例に挙げたが、外蓋41の中心部に、図1に二点鎖線で示すように、リンス液流通管802が鉛直方向に延びて挿通している。リンス液流通管802の下端は外蓋41の中心部下面45で開口して、リンス液吐出口803を形成していてもよい。このとき、リンス液流通管802には、リンス液供給源からのDIWが供給されるリンス液供給管800が接続されている。リンス液供給管800には、リンス液供給管800の開閉のためのリンス液バルブ801が介装されていてもよい。
【0105】
また、第1実施形態において、ヒータ5を昇降させることによりヒータ5とウエハWとの間隔を調整する構成を例に挙げた。しかしながら、ウエハWを保持する基板保持回転機構4を昇降させることにより、またヒータ5と基板保持回転機構4との双方を昇降させることにより、ヒータ5とウエハWとの間隔を調整してもよい。
また、ヒータ5をウエハWの回転と同期して回転させるヒータ回転機構が備えられてい
てもよい。
【0106】
また、IPAの液膜80は、ウエハ加熱工5 程(S5)およびIPA排除工程(S6)中にウエハWを回転させない態様において、ウエハWの鉛直方向中心位置において1〜5mm程度の厚みで形成してもよい。
また、IPA液の供給は、適宜のタイミングで停止すればよい。たとえば、ウエハ加熱工程(S5)の開始直前にIPA液の供給を停止してもよいし、ウエハ加熱工程(S5) の開始後、所定時間経過後にIPA液の供給を停止してもよい。前記したようにウエハ加熱工程(S5)の実施中にIPA液を液膜80に適宜追加するものであってもよい。
【0107】
また、低い表面張力を有する有機溶媒として、IPA液以外に、たとえば、メタノール、エタノール、アセトン、およびHFE(ハイドロフルオロエーテル)などを挙げることができる。
また、リンス液としてDIWを用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、リンス液は、DIWに限らず、炭酸水、電解イオン水、オゾン水、希釈濃度(たとえば、10〜100ppm程度)の塩酸水、還元水(水素水)などをリンス液として採用することもできる。
【0108】
さらに、不活性ガスの一例として窒素ガスを挙げたが、清浄空気やその他の不活性ガスを採用することができる。
また、前述の各実施形態ではウエハWにエッチング処理を行う場合を例に挙げたが、洗浄処理など他の処理においても本発明が適用される。このような洗浄処理においては、洗浄液として前述の希ふっ酸に加え、SC1(ammonia-hydrogen peroxide mixture:アンモニア過酸化水素水混合液)、SC2(hydrochloric acid/hydrogen peroxide mixture:塩酸過酸化水素水混合液)、バファードフッ酸(Buffered HF:ふっ酸とふっ化アンモニウムとの混合液)等を採用することができる。
【0109】
なお、前述した各実施形態のエッチング処理や洗浄処理は大気圧の下で実行したが、処理雰囲気の圧力はこれに限られるものではない。例えば、蓋部材10と下カップ8とで区画される密閉空間の雰囲気を所定の圧力調整手段を用いて加減圧することにより、大気圧よりも高い高圧雰囲気または大気圧よりも低い減圧雰囲気とした上で各実施形態のエッチング処理や洗浄処理を実行してもよい。
【0110】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0111】
1;201 基板処理装置
4 基板保持回転機構(基板保持手段)
5;303;403;503;603;703 ヒータ
8 下カップ(カップ本体)
9 開口
10 蓋部材
19 ヒータ昇降機構(昇降手段)
43 有機溶媒溶媒流通管(有機溶媒供給手段)
70 制御装置
80 IPAの液膜(有機溶媒の液膜)
85 IPAの蒸気膜(有機溶媒の気相膜)
101 微細パターン
102 構造体
W ウエハ(基板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A-7B】
図7C-7D】
図7E-7F】
図7G-7H】
図7I
図8A-8D】
図9
図10
図11A-11C】
図12A-12C】
図13A-13C】
図14A-14C】
図15A-15C】