特許第6131171号(P6131171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6131171-単純遊星減速装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131171
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】単純遊星減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20170508BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20170508BHJP
【FI】
   F16H1/28
   F16H57/04 E
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-228835(P2013-228835)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2014-111985(P2014-111985A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2016年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-244013(P2012-244013)
(32)【優先日】2012年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】志津 慶剛
(72)【発明者】
【氏名】平沼 一則
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−026256(JP,U)
【文献】 特開平09−053690(JP,A)
【文献】 特開2008−037355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽歯車、キャリヤに支持された遊星歯車、および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を備え、縦置き状態で使用される単純遊星減速装置であって、
前記太陽歯車は、該太陽歯車の軸心と同軸に負荷側に突出された軸部を有し、
該軸部は、当該軸部の外周と前記キャリヤの内周との間に配置された軸受によって支持され
前記太陽歯車の歯部および前記軸部が、共に中空部を有し、
駆動源側の軸が、当該中空部に挿入されて前記太陽歯車と連結され、
前記駆動源側の軸は、前記太陽歯車の歯部の径方向内側を超えて前記軸受の径方向内側位置にまで挿入可能であ
ことを特徴とする単純遊星減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記太陽歯車、遊星歯車、および内歯歯車がヘリカル歯車である
ことを特徴とする単純遊星減速装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記キャリヤと別部材で、該キャリヤに連結される出力部材を有し、該出力部材で前記軸受の外輪の軸方向の位置規制を行う
ことを特徴とする単純遊星減速装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記出力部材は、軸方向に突出する突部を有し、該突部で前記軸受の外輪の軸方向の位置規制を行うと共に、当該突部の外周が前記キャリヤの内周とのインロー部とされた
ことを特徴とする単純遊星減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記太陽歯車の歯部の内周に、前記駆動源側の軸との連結のためのスプラインが形成され、前記軸部の内周には該スプラインが形成されていない
ことを特徴とする単純遊星減速装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記軸部の内径は、前記歯部の内周に形成されたスプラインの歯底円径よりも大きい
ことを特徴とする単純遊星減速装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
当該単純遊星減速装置のオイルレベルが、前記太陽歯車の上端位置よりも低い
ことを特徴とする単純遊星減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純遊星減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に建設機械の旋回装置が開示されている。
【0003】
この旋回装置は、単純遊星減速装置を備えている。単純遊星減速装置は、太陽歯車、該太陽歯車の周りで公転しキャリヤに支持された遊星歯車、および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を備え、縦置き、すなわち、単純遊星減速装置の軸心を鉛直方向に向けた状態で使用される。
【0004】
単純遊星減速装置の太陽歯車は、モータのモータ軸にスプラインを介して一体回転可能に連結されている。従来、この種の単純遊星減速装置においてモータ軸と太陽歯車とを連結するためのスプラインの設計には2通りの手法が提案されている。
【0005】
1つは、スプラインの嵌合を締まり嵌めに設定する設計である。この設計によれば、太陽歯車の支持をモータ軸側のみで完結させることができるようになる。モータ軸に太陽歯車を直切りする設計もこの範疇の設計に入る。
【0006】
もう1つは、スプラインの嵌合を隙間嵌めに設定する設計である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−236950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、太陽歯車をモータ軸に支持させる設計は、メンテナンス作業等においてモータを取り外す際に、太陽歯車がモータ軸側に設けられた状態のまま分解されることから、メンテナンス作業がしにくくなる、という問題がある。
【0009】
一方、太陽歯車をモータ軸に対して隙間嵌めする設計は、減速装置側で該太陽歯車を特定の軸方向位置に支持する構成が必要である。通常、止め輪、あるいは突起部等で太陽歯車を挟み込み、該太陽歯車の軸方向の位置規制を行うが、これらの止め輪や突起部と太陽歯車との接触部分は、必然的に「相対回転を伴う金属接触」となるため、発熱が問題となる。
【0010】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、高いメンテナンス性を確保すると共に、発熱の問題を抑制することのできる単純遊星減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、太陽歯車、キャリヤに支持された遊星歯車、および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を備え、縦置き状態で使用される単純遊星減速装置であって、前記太陽歯車は、該太陽歯車の軸心と同軸に負荷側に突出された軸部を有し、該軸部は、当該軸部の外周と前記キャリヤの内周との間に配置された軸受によって支持され、前記太陽歯車の歯部および前記軸部が、共に中空部を有し、駆動源側の軸が、当該中空部に挿入されて前記太陽歯車と連結され、前記駆動源側の軸は、前記太陽歯車の歯部の径方向内側を超えて前記軸受の径方向内側位置にまで挿入可能である構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0012】
本発明に係る単純遊星減速装置の太陽歯車は、該太陽歯車の軸心と同軸に負荷側(下側)に突出された軸部を有する。そして、この軸部の外周と、キャリヤの内周との間に配置された軸受によって太陽歯車を支持する。
【0013】
この構成により、モータを取り外した際に、太陽歯車は減速装置側に残るようにできるため、メンテナンス性を高く維持することができる。
【0014】
また、太陽歯車は、軸受によって回転自在に支持されることにより軸方向位置が保持されるため、発熱を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いメンテナンス性を確保すると共に、発熱の問題を抑制することのできる単純遊星減速装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の一例に係る単純遊星減速装置の構成を示す断面図
図2】上記単純遊星減速装置が組み込まれた建設機械の旋回装置の駆動ユニットを示す断面図
図3】上記単純遊星減速装置の要部を示す部分拡大断面図
図4】上記駆動ユニットが組み込まれたショベルカーの全体概略透視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る(1段目の)単純遊星減速装置の構成を示す断面図、図2は、該単純遊星減速装置が組み込まれたショベルカー(建設機械)の旋回装置の駆動ユニットを示す断面図である。また、図4は、該駆動ユニットが組み込まれたショベルカーの全体概略透視図である。
【0019】
始めに、駆動ユニット10が組み込まれたショベルカー100の全体概略構成から説明する。
【0020】
図4を参照して、このショベルカー100は、下部走行体(クローラ)102の上部に運転席104を含む上部旋回体106が旋回可能に載置されている。上部旋回体106からは、ブーム108、アーム110、及びアタッチメント112が片持ち状態で据え付けられている。下部走行体(クローラ)102には、旋回内歯歯車114が固定されており、この旋回内歯歯車114に上部旋回体106側に取り付けた駆動ユニット10の後述する最終出力軸116(図4では符号略)の旋回ピニオン118が噛合することにより、上部旋回体106が旋回できるような構成とされている。
【0021】
次に、図2を参照して、駆動ユニット10の概略を説明する。
【0022】
駆動ユニット10は、モータ(駆動源)12、1段目〜3段目の単純遊星減速装置14〜16を備える。モータ12のモータ軸12Aは、1段目の単純遊星減速装置14の太陽歯車18と連結されている。
【0023】
なお、以降「1段目の単純遊星減速装置14」を単に減速装置14とのみ称することがある。減速装置14の太陽歯車18の近傍の構成については、後に詳述する。
【0024】
減速装置14は、ケーシング20の中に、当該太陽歯車18、該太陽歯車18の周りで公転しキャリヤ32に支持された遊星歯車34、および該遊星歯車34が内接噛合する内歯歯車36を有する単純遊星減速機構38を備える。本実施形態では、ショベルカー100が水平面上に置かれたときに、減速装置14の単純遊星減速機構38の軸心O1が鉛直方向と一致するように配置される。
【0025】
すなわち、減速装置14は、縦置きで使用される。ここで、「縦置きで使用」とは、狭義には単純遊星減速機構38の軸心O1を鉛直方向に向けた状態で使用することを意味するが、本明細書においては、「オイルレベルL1が、単純遊星減速機構38の軸心O1と交差する態様での使用」という、より広い使用態様の概念を包含しているものとする。すなわち、例えば、ショベルカー100が傾いた地面上において単純遊星減速機構38の軸心O1が傾いた態様で使用される場合等を含む。別の言い方をすれば、軸心O1(の方向)が鉛直方向に対してなす角度が45°以内であれば縦置きでの使用であると言える。
【0026】
図1を参照して、この減速装置14は、内歯歯車36がケーシング20と一体化されている(固定されている)。すなわち、太陽歯車18から動力を入力し、遊星歯車34を内歯歯車36との間で公転させ、この遊星歯車34の公転をキャリヤ32から取り出す構成とされている。遊星歯車34は、遊星ピン40に2列のローラ軸受42を介して支持されている。遊星ピン40は、キャリヤ32に圧入されることで該キャリヤ32と一体化されている。このため、遊星歯車34の公転は、該ローラ軸受42および遊星ピン40を介してキャリヤ32に伝えられる。なお、キャリヤ32は単純遊星減速機構38の負荷側から反負荷側(モータ12側)にまで延在されており、遊星ピン40は、(単一の)キャリヤ32に両持ち支持されている。
【0027】
キャリヤ32は、減速装置14の出力部材44と一体化されている。出力部材44は、キャリヤ32と連結される円板状のフランジ部44Aと、該フランジ部44Aの径方向中央から負荷側(下側)に延在された出力軸部44Bとを備える。1段目の単純遊星減速装置14の後段には、公知の2段目の単純遊星減速装置15および3段目の単純遊星減速装置16が連結されている(図2参照)。
【0028】
なお、この減速装置(1段目の単純遊星減速装置)14には、出力部材44の回転を制動するブレーキ機構50が付設されている。ブレーキ機構50は、図示せぬ油圧ポンプからの圧油が供給される油圧室52、該油圧室52に供給された圧油によって摺動するピストン54、該ピストン54に付勢力を与えるコイルばね56、および摩擦板セット58を備える。摩擦板セット58は、ケーシング20に軸方向に摺動可能かつ回転不能に組み込まれた複数の固定側摩擦板58Aと、出力部材44のフランジ部44Aに軸方向に摺動可能かつ回転不能に組み込まれた複数の回転側摩擦板58Bを交互に備えている。
【0029】
ブレーキ機構50は、通常時(非運転時)は、コイルばね56の付勢力によって固定側摩擦板58Aおよび回転側摩擦板58Bが強く押圧されることによって出力部材44の回転を制動している。油圧室52に圧油が供給されると、ピストン54が上側に移動して固定側摩擦板58Aおよび回転側摩擦板58Bの圧接を解き、出力部材44を回転可能な状態に解放する。
【0030】
また、1段目の単純遊星減速装置14のケーシング20は、前記内歯歯車36と一体の第1ケーシング体21、該第1ケーシング体21の上面にリング状に形成された凹部21Aに嵌合する第2ケーシング体22、第1ケーシング体21の下側に連結された第3ケーシング体23、および第3ケーシング体23のさらに下側に配置され、2段目ケーシング26(図2)との連結の橋渡しをするリング状の第4ケーシング体24とで主に構成されている。
【0031】
第1ケーシング体21は、内周に内歯歯車36の内歯36Aが形成されると共に、円周方向の複数ヶ所に前記ブレーキ機構50のコイルばね56を収容するばね孔56Aを備える。第2ケーシング体22は、前記凹部21Aに嵌合するリング形状とされ、該コイルばね56を収容するばね孔56Aの開口部を閉塞している。第3ケーシング体23の内周の一部は、前記ブレーキ機構50のピストン54のシリンダ面54Aを構成している。第3ケーシング体23は、該1段目の単純遊星減速装置14の負荷側面にまで連続しており、該負荷側面の中央に、円筒状の筒体部23Aを備えている。前記出力部材44の出力軸部44Bは、この筒体部23Aからケーシング外(2段目の単純遊星減速装置15側)に突出している。出力部材44の出力軸部44Bの外周にはブッシュ60が圧入され、該ブッシュ60と筒体部23Aとの間にはオイルシール62が2個並んで配置されている。なお、単純遊星減速装置14のモータ12側の側面は、(減速装置14のカバーを兼用する)モータケーシング64のカバー体66によって閉塞されている。
【0032】
なお、符号68は、空気抜き孔、70A〜70Eは、Oリングである。
【0033】
この駆動ユニット10は、以上のような構成を有し、モータ12のモータ軸12Aの回転を、1段目〜3段目の単純遊星減速装置14〜16によって順次減速し、3段目の単純遊星減速装置16の出力軸116から減速回転を取り出している。3段目の単純遊星減速装置16の出力軸116には、前記図4の旋回ピニオン118が設けられている。旋回ピニオン118は、前記図4の(下部走行体102に固定された)旋回内歯歯車114と噛合している。
【0034】
(上部旋回体106側に取り付けた)駆動ユニット10の旋回ピニオン118を回転させると、該旋回ピニオン118が旋回内歯歯車114と噛合しながら該旋回内歯歯車114に沿って公転するため、ショベルカー100は、下部走行体102に対して上部旋回体106を旋回させることができる。
【0035】
ここで、減速装置14の太陽歯車18の近傍の構成について詳細に説明する。
【0036】
図3を合わせて参照して、この実施形態では、太陽歯車18、遊星歯車34、および内歯歯車36は、全てヘリカル歯車で構成されている。
【0037】
太陽歯車18は、歯部18Aと、該歯部18Aに連続し当該太陽歯車18の軸心O1と同軸に負荷側(出力側:下側)に突出された軸部18Bとを有している。歯部18Aおよび軸部18Bは、共に中空で、歯部18Aの内側に対応する位置にモータ軸12Aと連結するための雌スプライン18Cが形成されている。すなわち、この雌スプライン18Cは、ほぼ歯部18Aの内側に対応する位置にのみ形成されており、軸部18Bの内側(内周)には形成されていない。軸部18Bの内周は、この実施形態では雌スプライン18Cの歯底円径d1よりもやや大きい内径D2とされている。
【0038】
モータ軸12Aには、該雌スプライン18Cと係合する雄スプライン12Cが(先端まで)形成されている(図2参照)。モータ軸12Aの雄スプライン12Cは、太陽歯車18の雌スプライン18Cと「隙間」を有して係合し、モータ軸12Aは軸部18Bの(玉軸受74の)内側位置にまで到達する態様で太陽歯車18と連結される。但し、モータ軸12Aの雄スプライン12Cは、先端まで形成されているものの、太陽歯車18の軸部18Bの内径D2は、雌スプライン18Cの歯底円径d1よりもやや大きく設定されているため、モータ軸12Aの雄スプライン12Cは、軸部18Bの内側とは、係合も接触もしない。
【0039】
太陽歯車18は、軸部18Bの外周と前記キャリヤ32の内周32Aとの間に配置された玉軸受74によって支持されている。玉軸受74は、外輪74A、転動体74B、および内輪74Cを備える。
【0040】
既に述べたように、玉軸受74を支持しているキャリヤ32は、出力部材44とは別体(別部材)で構成されている。具体的には、キャリヤ32と出力部材44は、ノックピン77およびボルト78によって連結されている。ノックピン77は、ボルト78による連結を行う際の仮止め機能を果たすと共に、キャリヤ32と出力部材44の連結に対して剪断応力を付与する。
【0041】
この実施形態では、出力部材44がキャリヤ32と別体であることを利用して、該出力部材44によって玉軸受74の外輪74Aの軸方向の位置規制を行っている。すなわち、出力部材44のフランジ部44Aは、軸方向に突出する出力部材側突部44Cを有し、一方、キャリヤ32には玉軸受74の外輪74Aが当接するキャリヤ側突部32Cが径方向に突出して形成されている。玉軸受74の外輪74Aは、この出力部材側突部44Cとキャリヤ側突部32Cとの間に挟まれることで軸方向の位置規制がなされている。
【0042】
出力部材側突部44Cの外周44C1は、キャリヤ32の内周32Aとのインロー部として機能し、出力部材44の軸心O3とキャリヤ32の軸心O2を一致させている(O2=O3を確保している)。
【0043】
なお、この実施形態では、玉軸受74の内輪74Cは、軸部18Bに形成した段部18B1に当接されると共に、軸部18Bの外周に嵌め込んだ止め輪76によって位置決めされている。
【0044】
この実施形態の太陽歯車18は、このような構成で玉軸受74に支持され、減速装置14のケーシング20内に完全に収容されている。ケーシング20内には、オイル(潤滑剤)が太陽歯車18の軸方向ほぼ中央の位置に相当するオイルレベルL1まで封入されている。このオイルレベルL1は、太陽歯車18の歯部18Aの下端位置L2より高く、太陽歯車18の上端位置L3よりは低い位置に相当している。すなわち、玉軸受74は、その全体がオイルに完全に浸っており、太陽歯車18は、その軸方向半分程度(オイルレベルL1まで)がオイルに浸っている。
【0045】
次に、この単純遊星減速機構38の作用を、特にモータ12と太陽歯車18の連結や太陽歯車18の支持に関係する作用に着目して説明する。
【0046】
例えば、太陽歯車18がモータ軸12Aに支持されていると、メンテナンス作業時にモータ12を取り外した際に、(オイルが滴る状態で)太陽歯車18も一緒に付いてくるため、作業が行いにくい、という不具合がある。特に、太陽歯車18がヘリカル歯車である場合、ヘリカルの歯面に沿って太陽歯車18を回転させながらモータ12を取り外し、かつ、再取り付けもヘリカルの歯面に沿って太陽歯車18を回転させながら行わなければならないため、作業が非常に困難であり、歯面同士の衝突によっていわゆる「打痕」を生じさせてしまうこともある。
【0047】
一方、これを嫌って、モータ軸12Aに対して太陽歯車18をフロート状態で連結する手法を採用した場合には、太陽歯車18を上下方向の特定の位置に位置決めするための何らかの「位置決め手段」を設ける必要がある。この位置決め手段と太陽歯車18は、「相対回転を伴う金属接触」となるため、発熱が問題となる。特に、太陽歯車18がヘリカル歯車である場合、該太陽歯車18には遊星歯車34との噛合によってスラスト荷重が発生するため、この不具合は一層顕著となる。
【0048】
結局、とりわけ太陽歯車18が、ヘリカル歯車である場合には、従来の手法では該太陽歯車18をモータ軸12Aに支持させた場合も、また、モータ軸12Aに対してフロート状態で組み込んだ場合も、大きな不具合が発生するのが避けられなかった。
【0049】
しかしながら、本実施形態によれば、モータ軸12Aと太陽歯車18は、「隙間」を有して係合している雄スプライン12Cと雌スプライン18Cによって連結されているため、太陽歯車18を減速装置14側に残したままモータ12のみを取り外すことができる。
【0050】
また、モータ12を再取り付けする際には、太陽歯車18は遊星歯車34と噛合したままであるため、たとえ太陽歯車18がヘリカル歯車であったとしても、モータ12を軸方向にまっすぐ進行させ、モータ軸12Aの雄スプライン12Cを太陽歯車18の雌スプライン18Cにストレートに係合させるだけで良い。したがって、係合自体が「隙間」を有していることと相まって連結が極めて簡単であり、太陽歯車18等の歯面に打痕を生じさせてしまう虞もない。
【0051】
また、太陽歯車18の位置決めは、キャリヤ32と軸部18Bとの間に配置された玉軸受74によってなされる。具体的には、玉軸受74の外輪74Aが、キャリヤ側突部32Cと出力部材側突部44Cとの間に挟まれることで玉軸受74の外輪74Aがキャリヤ32に対して位置決めされ、一方、玉軸受74の内輪74Cは、軸部18Bに形成した段部18B1に当接されると共に、軸部18Bの外周に嵌め込んだ止め輪76によって位置決めされる。これにより、玉軸受74の外輪74A、転動体74B、内輪74Cを介して太陽歯車18を軸方向に位置決めすることができる。このため、太陽歯車18とその位置決め手段との「相対回転を伴う金属接触」による発熱が発生する虞はない。
【0052】
また、本実施形態においては太陽歯車18がヘリカル歯車で構成されているため、動力伝達時に不可避的にスラスト荷重が発生するが、該スラスト荷重についても、(正逆いずれの回転のときも)問題なく玉軸受74で受け止めることができる。
【0053】
また、玉軸受74は、太陽歯車18の(歯部18Aの)下側の位置で完全にオイルに浸っているため、玉軸受74自体の発熱も、効果的に抑制できる。特に、この玉軸受74は、キャリヤ32と太陽歯車18の軸部18Bとの間に配置されているため、(例えばケーシング20と軸部18Bとの間に配置される場合と比べて)外輪74A、内輪74Cの相対速度が小さいため、発熱が小さく、寿命もより増大できる。
【0054】
また、玉軸受74は、遊星歯車34を支持している遊星ピン40と実質的に一体のキャリヤ32に配置されているため、(ケーシング20に配置されている場合と比べて)遊星歯車34の公転の軸心O4と太陽歯車18の軸心O1(いずれも設計上キャリヤ32の軸心O2に同じ)を一致させるのが容易であり、太陽歯車18と遊星歯車34の良好な噛合を維持することができる。
【0055】
更には、キャリヤ32と出力部材44を別体(別部材)として、出力部材44で玉軸受74の外輪74Aの軸方向の位置規制を行うように構成したため、玉軸受74の位置決めのための別途の部品を必要としない。
【0056】
また、出力部材44は、軸方向に突出する出力部材側突部44Cを有し、該出力部材側突部44Cで玉軸受74の外輪74Aの軸方向の位置規制を行うと共に、当該出力部材側突部44Cの外周をキャリヤ32の内周32Aとのインロー部として活用するようにしたため、軸方向の位置決めと径方向の軸心合わせを同時に行うことが可能である。
【0057】
また、太陽歯車18の歯部18Aおよび軸部18Bが、共に中空で、モータ軸12Aが歯部18Aの内側を超えて軸部18Bの内側にまで挿入可能な構成としたため、モータ軸12Aの長短にも柔軟に対応することができる。ここで、太陽歯車18の歯部18Aの内側には、モータ軸12Aとの連結のための雌スプライン18Cが形成されているが、軸部18Bの内側には該雌スプライン(18C)が形成されていない構成としたため、モータ軸12Aが長い場合でも、モータ軸12Aと軸部18Bの内周が干渉することもない。
【0058】
なお、本発明は、太陽歯車18(遊星歯車34および内歯歯車36)がヘリカル歯車の場合に、特に顕著な効果を得ることができるが、本発明は、ヘリカル歯車以外の歯車、例えば平歯車の場合であっても適用することができ、相応の効果が得られる。
【0059】
また、本発明では、キャリヤと出力部材は、必ずしも別体(別部材)とする必要はなく、一部材とされていてもよい。太陽歯車を支持する軸受を、どのような方法で位置規制するかについても、特に上記例に限定されず、例えば、止め輪等を用いて該軸受の位置規制を行うようにしてもよい。軸受の種類も玉軸受に限定されず、例えばころ軸受であってもよい。
【0060】
また、モータ軸は、必ずしも軸部の内部にまで進入可能である必要はなく、例えば、太陽歯車の歯部の部分にのみ進入可能な構成としてもよい。この場合、軸部の部分は必ずしも中空である必要ななく、中実とされていてもよい。
【0061】
また、上記実施形態においては、モータ軸と太陽歯車との連結を、隙間嵌めによるスプラインで行うようにしていたが、本発明は、これに限定されず、例えば、キーによる連結を採用してもよい。
【0062】
また、太陽歯車に挿入される軸は、モータ軸に限定されず、駆動源側の軸であればよく、例えば、モータ軸に連結された軸でもよいし、モータと減速装置の間にブレーキ機構等が存在するならば、該ブレーキ機構等の出力軸でもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…駆動ユニット
12…モータ
12A…モータ軸
14〜16…単純遊星減速装置
18…太陽歯車
20…ケーシング
21〜24…第1〜第4ケーシング体
32…キャリヤ
34…遊星歯車
36…内歯歯車
38…単純遊星減速機構
40…遊星ピン
44…出力部材
44A…フランジ部
44B…出力軸部
50…ブレーキ機構
62…オイルシール
L1…オイルレベル
図1
図2
図3
図4