特許第6131176号(P6131176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131176
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20170508BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   H01B13/00 565D
   H01B13/00ZAA
   H01B13/00 561D
   C01G1/00 S
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-242051(P2013-242051)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-103348(P2015-103348A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 駿
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−097889(JP,A)
【文献】 特開2012−043734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00
H01B 13/00
C01G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材上に中間層を介し酸化物超電導層が設けられ、前記酸化物超電導層に酸素アニールが施された積層体を準備する工程と、
前記酸化物超電導層の直上にCu層またはCu合金層をスパッタ法により形成する工程と、を有し、
前記Cu層またはCu合金層を成膜するターゲットと、前記積層体が構成する走行レーンとの間に電圧を印加して、前記ターゲットの粒子をスパッタし、前記Cu層またはCu合金層を、一度に成膜する厚さを2.1μm以下として1回以上成膜することにより形成する、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
スパッタ法を行う場合にArガス雰囲気中においてスパッタを行い、Arガス圧を1.5Pa以上とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記Cu層またはCu合金層を成膜して第1の安定化層を形成した後、めっきあるいは金属テープの貼り合わせにより第2の安定化層を形成する工程を備えた請求項1または請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低損失の電気機器として酸化物超電導体を用いたケーブル、コイル、モーター、マグネットなどの超電導機器が挙げられる。これらの超電導機器に用いられる超電導体として、例えば、RE−123系(REBaCu7−x:REはYやGdなどを含む希土類元素)等の酸化物超電導体が知られている。この酸化物超電導体は、液体窒素温度付近で超電導特性を示し、強磁界内でも比較的高い臨界電流密度を維持できるため、実用上有望な導電材料として期待されている。
【0003】
この種の酸化物超電導体を酸化物超電導線材として利用するためには、結晶配向性の良好な酸化物超電導層を基体上に成膜する必要があるため、耐熱性の金属基体上に結晶配向性の良好な中間層を介し酸化物超電導層を積層した線材構造が採用されている。
酸化物超電導層は成膜したままの状態では酸素が不足した状態であるので、成膜後に酸素アニールを施し、酸化物超電導層の結晶に酸素を供給する必要がある。また、酸化物超電導層を保護すること、抵抗率が小さく、酸化物超電導層との反応性が低く、酸素アニール時の酸素の透過性などを考慮し、酸化物超電導層の上にAgの保護層を形成することがなされている。更に、酸化物超電導線材は、通電状態において何らかの原因により常電導転移した場合の電流バイパス路を確保する必要があるので、電流を分流させる構造として、Agの保護層上にCuの金属安定化層を積層する構造が採用されている。
【0004】
しかし、Agは金属の中でも高価な金属であり、Agの保護層を設けることは超電導線材のコストを高くするので、Agの保護層を略し、Cuの層を直接酸化物超電導層の上に被覆することが好ましい。
以下の特許文献1には、板状の金属基体上に超電導特性を有しない酸化物層を介し酸化物超電導層を形成し、この上に銅からなる安定化層を設けた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−110256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、CuはAgより安価であり、抵抗率もAgと同程度であるものの、酸化物超電導層の上にCuの安定化層を形成する場合、CuはAgに比べ反応性が高いため、以下のように留意するべき問題がある。
(1)Cuは酸化する際、酸化物超電導層から酸素を奪うので、Cuの安定化層の成膜後に酸素アニールを行うことはできない。従って、酸化物超電導線材として高い臨界電流値(Ic)を得るためには、酸化物超電導層に酸素アニールを施した後にCuの安定化層を成膜しなくてはならない。
(2)Cuの成膜方法には、種々の方法が知られているが、汎用性の高いスパッタリング法によるとCu粒子が基板に衝突する際、Cu粒子の運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、基板が発熱し易く、この発熱のために酸化物超電導層から酸素が抜けやすくなり、Icが低下する問題がある。成膜方法のなかでスパッタリング法によるCuの膜は下地に対し密着性に優れる傾向があるので、好ましい成膜方法と考えられるものの、上述のIc低下の問題を回避する必要がある。
【0007】
本発明者は、酸化物超電導層の上にCuの安定化層をスパッタ法を用いて直接成膜する技術において種々研究した結果、酸化物超電導層の特性を損なうことなくCuの安定化層を形成できる技術について知見し、本願発明に到達した。
【0008】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、酸化物超電導層の上にCuの安定化層をスパッタ法を用い、直接成膜しても酸化物超電導層の特性を劣化させることなく成膜することができ、酸化物超電導層の直上にCuの安定化層を備えた酸化物超電導線材を提供できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法は、金属製の基材上に中間層を介し酸化物超電導層が設けられ、前記酸化物超電導層に酸素アニールが施された積層体を準備する工程と、前記酸化物超電導層の直上にCu層またはCu合金層をスパッタ法により形成する工程と、を有し、前記Cu層またはCu合金層を、一度に成膜する厚さを2.1μm以下として1回以上成膜することにより形成することを特徴とする。
【0010】
スパッタ法により酸化物超電導層上に直にCu層またはCu合金層を積層して安定化層を形成する場合、1回の成膜により形成するCu層またはCu合金を膜厚2.1μm以下とすることにより、1回の成膜で基材を加熱する割合を少なくして酸化物超電導層に作用する熱を低減する。1回の成膜で酸化物超電導層に与える熱を低減できる結果、酸素アニール後の酸素を取り込んだ酸化物超電導層から酸素を脱離させることなくCu層またはCu合金層を成膜することができる。そして、必要厚さになるまで繰り返しCu層またはCu合金層を積層することにより、基材の温度上昇による酸化物超電導層のダメージを抑制しつつ通電電流のバイパス路とするための必要な厚さの安定化層を得ることができる。
【0011】
本発明において、スパッタ法を行う場合にArガス雰囲気中においてスパッタを行い、Arガス圧を1.5Pa以上とすることが好ましい。
スパッタ法におけるArガス圧力はスパッタ粒子のエネルギーに関係する。Arガス圧をある程度大きくすることにより、スパッタ粒子のエネルギーを小さくできる。特に、Arガス圧を1.5Pa以上とすることにより、酸化物超電導層からの酸素の脱離を抑制し、臨界電流値の高い酸化物超電導線材を得ることができる。
【0012】
本発明において、Cu層またはCu合金層を成膜して第1の安定化層を形成した後、めっきあるいは金属テープの貼り合わせにより第2の安定化層を形成する工程を備えても良い。
第1の安定化層に加え第2の安定化層を備えることで通電電流のバイパス路としての安定化層を十分な厚さ確保し易いので、安定性に優れた酸化物超電導線材を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るスパッタ法により酸化物超電導層上に直にCu層またはCu合金層を1回または複数回成膜して安定化層を形成する場合、1回の成膜にあたり形成するCu層またはCu合金層を膜厚2.1μm以下とすることにより、1回の成膜で基材を加熱する割合を少なくして酸化物超電導層に作用する熱を低減することができる。1回の成膜で酸化物超電導層に与える熱を低減できる結果、酸素アニール後の酸素を取り込んだ酸化物超電導層から酸素を逃避させることなくCu層またはCu合金層を酸化物超電導層の上に直に成膜することができ、臨界電流値の劣化していない酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る製造方法により得られる酸化物超電導線材の一例構造を示す部分断面斜視図。
図2図1に示す酸化物超電導線材の一例を製造する場合に用いる成膜装置の構成図。
図3図1に示す酸化物超電導線材の周囲に金属めっき層からなる第2の安定化層が被覆された線材の断面図。
図4図1に示す酸化物超電導線材の周囲に金属テープからなる第2の安定化層が被覆された線材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明に係る製造方法を実施して得られる酸化物超電導線材の一例構造を模式的に示す断面斜視図である。この例の酸化物超電導線材1は、基材2の主面(上面)上に中間層5と酸化物超電導層6と安定化層(第1の安定化層)8を積層してなる。また、基材2と中間層5から積層体7が構成されている。
前記基材2は、長尺とするためにテープ状であることが好ましく、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)に代表されるニッケル合金などの耐熱性に優れた高強度の金属材料からなる。また、基材2として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材を適用することもできる。基材2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0016】
基材の主面に形成される中間層5は、酸化物超電導層6の結晶配向性を制御し、基材2中の金属元素の酸化物超電導層6側への拡散を防止し、両者の物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能する金属酸化物からなることが好ましい。中間層5は、一例として、拡散防止層5Aと配向層5Bとキャップ層5Cの積層構造とすることができるが、拡散防止層5Aは単層構造としてもベッド層との積層構造としても良く、配向層5Bとキャップ層5Cも単層構造、積層構造のいずれでも良い。
拡散防止層5Aは、Si、Al、GZO(GdZr)等から構成され、例えば厚さ10〜400nmに形成される。
ベッド層は、界面反応性を低減し、その上に形成される膜の配向性を得るため層であり、Y、Er、CeO、Dy3、Er、Eu、Ho、La等からなり、その厚さは例えば10〜100nmである。
【0017】
配向層5Bは、その上のキャップ層5Cの結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。この配向層5BをIBAD(Ion−Beam−Assisted Deposition)法により良好な2軸配向性で成膜するならば、キャップ層5Cとその上に成膜する酸化物超電導層6の結晶配向性を良好にして優れた超電導特性を発揮させることができる。
キャップ層5Cは、上述の配向層5Bの表面に成膜されて結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなり、具体的には、CeO、Y、Al、Gd、ZrO、YSZ、Ho、Nd、LaMnO等からなる。キャップ層5Cの膜厚は50〜5000nmの範囲に形成できる。
【0018】
酸化物超電導層6は酸化物超電導体として公知のもので良く、具体的には、RE−123系と呼称されるREBaCu(REは希土類元素であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上を表す)を例示できる。この酸化物超電導層6として、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)などを例示できる。酸化物超電導層6の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0019】
安定化層8は、単層または積層構造のCu層またはCu合金層からなり、酸化物超電導層6が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時、酸化物超電導層6の電流を転流するバイパスとして機能する。安定化層8の厚さは例えば10nm以上、10μm以下とすることができる。図1では安定化層8を単層のように描いているが、一例として安定化層8はCu層またはCu合金層を2層以上積層した積層体の構造である。また、安定化層8は酸化物超電導層6の表面に限らず、積層体7の基材2の外面上、積層体7の側面を含めた全周に形成しても良い。また、積層体7の周面の一部に安定化層8が形成されていない部分があっても良い。
【0020】
酸化物超電導線材1において、基材2はアルミナ等の平均粒径数μmの研磨粒子を用いて表面を研磨し、表面を平滑化後、洗浄してから成膜用として用いることが好ましい。
酸化物超電導線材1において、拡散防止層5Aあるいはベッド層はイオンビームスパッタ法により形成することができ、配向層5BはIBAD(イオンビームアシスト蒸着法)法により、キャップ層5Cと酸化物超電導層6はPLD法(パルスレーザー蒸着法)により成膜できる。これらの層を形成する成膜法は特に限定されるものではなく、いずれの成膜法を用いても良いが、配向層5は2軸配向性の良好な層とするためにIBAD法を利用することが好ましい。
安定化層8はRFスパッタ法などにより多層構造に形成されている。なお、安定化層8を成膜する以前に、400〜500℃で10時間程度、酸素雰囲気中において酸素アニールがなされている。
【0021】
安定化層8はRFスパッタ法、DCスパッタ法あるいは対向ターゲット式スパッタ法、マグネトロンスパッタ法などのスパッタ法により成膜することができる。
スパッタ法は膜を成形する粒子の持つエネルギーが大きく、他の成膜法に比べて基材側への付着力の強い膜の作成が可能となる。成膜用のチャンバーの内部にCuあるいはCu合金のターゲットを設置する。
Cu合金のターゲットを用いる場合、Cu-Sn合金、Cu-Ag合金のターゲットを用いることができる。
【0022】
図2は、図1に示す酸化物超電導線材1において、安定化層8を成膜する場合に用いて好適なスパッタ装置の一例構造を示す
この例のスパッタ装置20は、断面四角型の縦長の隔壁21により区画された成膜室22を有する上部チャンバー23と、上部チャンバー23の底部側に接続して設けられ、成膜室22に通じる基材移動室25を有する下部チャンバー26を備えている。この例の下部チャンバー26は横断面台形状に形成され、その天井部に形成された通過孔26aを上部チャンバー23の底壁に形成された通過孔23aに連通させて上部チャンバー23と一体化されている。
【0023】
下部チャンバー26の内上部中央側と上部チャンバー23の内上部中央側には、それぞれ中心軸を水平に向けてそれらの軸回りに回転自在に転向リール群27、28が設けられている。転向リール群27、28はそれぞれ同軸位置に配置された複数の転向リール(例えば3〜10個程度の転向リール)の集合体であり、転向リール群27と転向リール群28に前述の酸化物超電導層6までを基材2上に成膜したテープ状の積層体7を交互に掛け渡すことができるように構成されている。上下の転向リール群27、28にテープ状の積層体7を交互に掛け渡すことにより、成膜室22の内部にテープ状の積層体7が構成する複数のレーン29が構成される。
【0024】
上部チャンバー23において隔壁21の一方の側面には、Cuターゲット30とこのCuターゲット30を備えるカソード31が設けられている。このカソード31には図示略の電源が接続されていて、カソード31に電力を印加し、減圧雰囲気とした成膜室22のターゲット近傍の空間にプラズマを生成させ、ターゲット30の構成粒子をスパッタできるように構成されている。
また、下部チャンバー26の内部には転向リール群28の左右に位置するように中心軸を個々に水平に向けた第1のリール33と第2のリール34がそれらの中心軸回りに回転自在に設けられている。
【0025】
第1のリール33には、上述のテープ状の積層体7が巻き付けられていて、この第1のリール33から繰り出した積層体7を中間ローラ36を経由して転向リール群28と転向リール群27の間に供給して走行レーン29を形成するように走行させた後、中間ローラ37を経由して第2のリール34で巻き取ることができるように構成されている。
なお、図2では記載を略しているが上部チャンバー23の一部に真空ポンプなどの減圧装置とガス供給管が接続され、チャンバー23、26の内部をArガス等の不活性ガスを供給した減圧雰囲気に調整することができる。
【0026】
図2に示すスパッタ装置20のチャンバー23、26の内部を減圧後、Arガスなどの不活性ガスを供給して不活性ガス圧を0.2Pa〜3.0Paの範囲、より好ましくは、1.5〜3.0Paの範囲に調節する。
チャンバー23、26の内部にArガス等の不活性ガスを送り込み、積層体7が構成する走行レーン29とターゲット30の間に数100V〜数1000Vの電圧を印加し、プラズマ化した不活性ガスイオンをターゲットに向けて加速し、衝突させてターゲット30の粒子をスパッタすることで、酸化物超電導層6上にCu層またはCu合金層を成膜することができる。
減圧可能なチャンバー23、26の内部に、テープ状の積層体7を巻き付けた第1のリール33と、この第1のリール33に対向する位置に第2のリール34を設けているので、リール33から積層体7を転向リール群27、28に送り出し、転向リール群27,28の間で走行レーン29を形成しつつ酸化物超電導層6の表面側に成膜することができる。
また、不活性ガス圧を0.2Pa〜3.0Paの範囲とすることにより、スパッタ時のArガス圧力を高め、基材上の酸化物超電導層6に衝突する直前のCu原子の運動エネルギーを小さくすることができ、基材2と酸化物超電導層6を含めた積層体7の発熱を抑制することができる。
【0027】
第1のリール33から送り出したテープ状の積層体7を第2のリール34に巻き取る間にターゲット30の近傍を通過させ、ターゲット30から叩き出した粒子を酸化物超電導層6の上に堆積させることで酸化物超電導層6の上に直にCu層またはCu合金層からなる安定化層8を形成する。
安定化層8を成膜する場合、第1のリール33から、第2のリール34側にテープ状の積層体7を送り、1層目のCu層を形成したならば、第2のリール34側から第1のリール33側にテープ状の積層体7を送る操作を行い、2層目のCu層を形成する。2層目のCu層の成膜が終了したならば、再度、第1のリール33側から第2のリール34側にテープ状の積層体7を送りながら成膜する処理と、第2のリール側から第1のリール側にテープ状の積層体7を送りつつ成膜する処理を繰り返し交互に行い、必要な膜厚のCu層あるいはCu合金層を堆積することで金属安定化層8を形成できる。
【0028】
本実施形態では、一方のリール33から他方のリール34にテープ状の積層体7を送る間に、1回の成膜あたり、2.1μm以下の膜厚のCu層またはCu合金層を形成する。例えば、1回あたり、0.3〜2.1μmの範囲の膜厚のCu層またはCu合金層を形成する。
このように2.1μm以下の膜厚のCu層またはCu合金層を形成するならば、スパッタ粒子の堆積によりテープ状の積層体7を加熱したとしても、積層体7を300℃以上の高温に加熱するおそれが少ないので、成膜時に酸化物超電導層6から酸素が脱離する割合を抑制できる。
従って、複数のCu層またはCu合金層からなる積層構造の安定化層8を形成した場合であっても、臨界電流値の低下していない、優れた超電導特性の酸化物超電導線材1を得ることができる。
【0029】
なお、酸化物超電導層6の過度の温度上昇を抑制できれば、成膜の形態は特に限定されない。また、成膜毎にCu層又はCu合金層の成膜条件を異ならせてもよい。
例えば、酸化物超電導層6の表面に直にCu層又はCu合金層を形成する初回の成膜では、酸化物超電導層6にダメージを与えにくくするために、スパッタ粒子のエネルギーを低くして成膜し、2層目以降の成膜においては、すでにCu層又はCu合金層があるので、1層目のときよりも成膜速度を大きくしてCu層又はCu合金層を形成してもよい。
また、例えば初回の成膜のときに、1μm以下の薄いCu層又はCu合金層を形成することでダメージを抑制しつつCu層を形成し、2層目以降の成膜では、1層目よりも厚く(1μm超えて2.1μm以下)の膜厚で成膜してもよい。
【0030】
図3図1に示す酸化物超電導線材1の外周に金属めっきからなるCuあるいはCu合金製の第2安定化層9を複合した複合酸化物超電導線材10の一例構造を示す。
酸化物超電導層6の電流を転流するバイパスとして機能する安定化層の膜厚を大きくするために、図3に示す構造のように酸化物超電導線材1の外周に第2安定化層9を複合することができる。
図4図1に示す酸化物超電導線材1の外周に金属テープからなるCuあるいはCu合金製の第2安定化層11を半田層12を介し複合した複合酸化物超電導線材13の一例構造を示す。この例の第2安定化層11は、酸化物超電導線材1の全周を囲んでも良いが、図4の例では、基材2の外面側幅方向中央部のみを残して酸化物超電導線材1の周囲を囲むように第2安定化層11が配置されている。
酸化物超電導層6の電流を転流するバイパスとして機能する安定化層の膜厚を大きくするために、図4に示す構造のように酸化物超電導線材1の外周に第2安定化層11を複合することができる。
【実施例】
【0031】
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、長さ1000mm、厚さ0.1mmのテープ状の基材を用意し、基材表面を平均粒径3μmのアルミナ粒子(Al粒子)を用いて研磨した。表面の研磨後、有機溶剤(アセトン)で基板を脱脂し、洗浄した。
洗浄後の基板表面にイオンビームスパッタ法によりAlからなる厚さ100nmの拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、拡散防止層とベッド層を形成した。次に、イオンビームアシスト蒸着法によりベッド層上に厚さ5〜10nmのMgOの配向層を形成した。この場合、アシストイオンビームの入射角度は、テープ状基材成膜面の法線に対し、45゜とした。
【0032】
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いて前記MgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xからなる厚さ2μmの酸化物超電導層を形成した。
次に、この線材に対し酸素アニールを500℃で10時間行い、26時間かけて炉冷して酸化物超電導素線を得た後、酸素アニール炉から酸化物超電導素線を取り出した。
酸化物超電導素線を酸素アニール炉から取り出して12時間以内に、RFスパッタ装置を用い、出力600W、Arガス圧1.7Paとして酸化物超電導層上にCu層からなる安定化層を積層し、安定化層付きの酸化物超電導線材を得た。
また、安定化層を形成する場合、前述の酸素アニール炉から取り出すまでの方法は同一として、複数の酸化物超電導素線を作製し、これら酸化物超電導素線に対し、以下の表1に示す、異なる厚さのCu安定化層をArガス圧1.7Paで形成し、複数の酸化物超電導線材を得た。
各酸化物超電導線材について臨界電流値(Ic)を測定し、その評価を以下の表1にCu安定化層の膜厚とともに記載する。Icの評価は、Ag保護層超電導線材の状態を基準とし、この値からIcが5%以上低下した場合に×印で表記した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示す結果から、酸素アニール処理を行った後の酸化物超電導層に対し、スパッタ法によりCuの安定化層を直に成膜する場合、膜厚2.1μmまでは、酸素の抜けが少なくIc値の低下が見られないが、膜厚2.7μmの場合はIcの低下が見られた。この結果から1回の成膜により形成できるCu層は、Icを低下させないためには、2.1μm以下にする必要があることがわかる。
また、厚さ2.1μmを超える膜厚のCuの安定化層を製造する場合は、複数回のスパッタ法を繰り返し行って成膜することにより実現できることがわかる。
【0035】
前記Cu層を成膜する場合、作製するCu層の膜厚を1.0μmに固定し、成膜室内のArガス圧力を以下の表2のように種々変更してCuの安定化層を形成し、各超電導線材のIc値を測定した。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示す結果から、酸素アニール処理を行った後の酸化物超電導層に対し、スパッタ法によりCuの安定化層を直に成膜する場合、スパッタ装置のArガス圧力を1.5Pa以上に設定することが好ましいと判明した。
また、得られた各酸化物超電導線材において膜厚1.0μmのCu層について、外径2.7mmの円柱状のピンをCu層上に接着後、Cu層に対し90゜方向に引張力を加えて剥離力を測定するスタッドプル法により剥離力を測定したところ、全ての試料で70〜90MPaの剥離力を得ることができた。この剥離力は、酸化物超電導層にAgの保護層を成膜した場合に得られる剥離力と同等である。このことから、酸化物超電導層に対しスパッタ法により形成した上述の膜厚のCu層は、Ag層と同程度の優れた剥離力を有することがわかった。
【符号の説明】
【0038】
1…酸化物超電導線材、2…基材、5…中間層、6…酸化物超電導層、7…積層体、8…安定化層、9…第2安定化層、10…酸化物超電導線材、11…第2安定化層、12…半田層、13…酸化物超電導線材、20…スパッタ装置。
図1
図2
図3
図4