特許第6131182号(P6131182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131182
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/70 20160101AFI20170508BHJP
【FI】
   F03D80/70
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-273591(P2013-273591)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127524(P2015-127524A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 清次
(72)【発明者】
【氏名】浅野 大作
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭48−025542(JP,Y1)
【文献】 実開昭58−006041(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構を収納すると共にグリスが封入されるケーシングと、前記変速機構と動力伝達し、前記ケーシングから突出する突出軸と、前記ケーシング外において前記突出軸に設けられたピニオンと、前記ケーシングと前記突出軸との間に設けられたシール部材と、を備える動力伝達装置であって、
前記ケーシング内の圧力が上昇したときに、前記グリスを該ケーシング外の前記ピニオンの周辺に漏出させる漏出機構を備え、
該漏出機構は、前記突出軸の中に形成された漏出通路を備え、
該漏出通路は、一端が前記シール部材よりも内側に開口し、他端が前記シール部材よりも外側に開口し、
該漏出通路には、当該漏出通路を閉塞する閉塞部材を装着可能な装着部が設けられ
前記漏出通路は、第1通路と、該第1通路に連通する第2通路を備え、
前記第1通路は、前記ケーシングの内側に開口する入側開口部と、前記ケーシングの外側に開口する第1出側開口部と、前記装着部と、を備え、
前記第2通路は、前記装着部よりも外部側で前記第1通路に連通すると共に、前記ケーシングの外側に開口する第2出側開口部を備え、
前記閉塞部材が、前記第1出側開口部を介して前記装着部に装着可能とされ、かつ、
該第1出側開口部を閉塞可能な蓋部材が、当該第1出側開口部に設けられる
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項において、
前記第1出側開口部は、前記突出軸の先端面に開口し、
前記第2出側開口部は、前記突出軸の側面に開口し、
前記第1出側開口部の内径は、前記閉塞部材の外径よりも大きい
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項またはにおいて、
前記ピニオンが前記突出軸にスプライン部を介して連結され、
前記第2出側開口部は、該スプライン部に開口し、かつ、
該第2出側開口部が開口している軸方向位置で、該スプライン部の歯が周方向に切り欠かれている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項またはにおいて、
前記第2出側開口部は、部材同士がシール部材を介することなく接触することで閉じられた空間に開口している
ことを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、風力発電設備のヨー駆動装置に適用された動力伝達装置が開示されている。この動力伝達装置は、ナセル側に固定され減速機構を収納するケーシングと、該減速機構と動力伝達し、ケーシングから突出する出力軸と、ケーシング外において該出力軸に設けられた出力ピニオンと、を備えている。ケーシング内にはグリスが封入されており、ケーシングと出力軸との間にはシール部材が設けられている。
【0003】
出力軸に設けられた前記出力ピニオンは、風力発電設備のタワー側に固定された旋回歯車と噛合している。モータの回転が減速機構によって減速され、出力軸が減速回転することによってピニオンが回転すると、該ピニオンは旋回歯車の軸心に対して公転する。これにより、動力伝達装置のケーシングが固定されたナセルが、旋回歯車が固定されたタワーに対して旋回する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−216355号公報(図1図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような構成の動力伝達装置にあっては、ケーシング内の内圧が上昇すると、該ケーシング内に封入されたグリスが漏出してくることがあり、例えばこの漏出したグリスがモータやブレーキ等に侵入すると、不具合の発生の原因となるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、グリスの漏出による不具合の発生を抑制できる動力伝達装置を得ることをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、変速機構を収納すると共にグリスが封入されるケーシングと、前記変速機構と動力伝達し、前記ケーシングから突出する突出軸と、前記ケーシング外において前記突出軸に設けられたピニオンと、前記ケーシングと前記突出軸との間に設けられたシール部材と、を備える動力伝達装置であって、前記ケーシング内の圧力が上昇したときに、前記グリスを該ケーシング外の前記ピニオンの周辺に漏出させる漏出機構を備え、該漏出機構は、前記突出軸の中に形成された漏出通路を備え、該漏出通路は、一端が前記シール部材よりも内側に開口し、他端が前記シール部材よりも外側に開口し、該漏出通路には、当該漏出通路を閉塞する閉塞部材を装着可能な装着部が設けられ、前記漏出通路は、第1通路と、該第1通路に連通する第2通路を備え、前記第1通路は、前記ケーシングの内側に開口する入側開口部と、前記ケーシングの外側に開口する第1出側開口部と、前記装着部と、を備え、前記第2通路は、前記装着部よりも外部側で前記第1通路に連通すると共に、前記ケーシングの外側に開口する第2出側開口部を備え、前記閉塞部材が、前記第1出側開口部を介して前記装着部に装着可能とされ、かつ、該第1出側開口部を閉塞可能な蓋部材が、当該第1出側開口部に設けられる構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0008】
本発明では、ケーシング内の内圧が上昇してもグリスが漏れないように構成するのではなく、内圧が上昇したときには漏出を許容し、代わりに、漏出先が問題の生じないピニオンの周辺となるような構成を採用した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリスの漏出による不具合の発生を抑制できる動力伝達装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備のヨー駆動装置用の減速装置の、一部に部分拡大図を含む断面図
図2図1の減速装置の矢視II−II線に沿う断面図
図3図1の減速装置の矢視III−III線に沿う断面図
図4】前記風力発電設備のヨー駆動装置の全体概略図
図5】上記減速装置のエアリークテストを説明するための断面図
図6】本発明の他の実施形態の一例に係る減速装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態の一例が適用された風力発電設備のヨー駆動装置用の減速装置の、一部に部分拡大図を含む断面図、図2図3は、その矢視II−II線、およびIII−III線に沿う断面図である。また、図4は、当該風力発電設備のヨー駆動装置の全体概略図である。なお、図1は、通常使用状態、図5は、図1の減速装置に対し、エアリークテスト(後述)を行うときの状態を示している。
【0013】
図4を参照して、このヨー駆動装置14は、モータM1および減速装置G1(動力伝達装置)を複数(図4の例では4個)備える。減速装置G1は、風力発電設備12のナセル16側に固定され、出力ピニオン18を有している。出力ピニオン18は、風力発電設備12のタワー20側に固定された旋回歯車22と噛合している。
【0014】
モータM1によって減速装置G1の出力ピニオン18を回転させると、該出力ピニオン18がタワー20側に固定された旋回歯車22と噛合しながら該旋回歯車22の軸心O1の周りで公転する。この公転によって減速装置G1の固定されたナセル16全体を該軸心O1の周りで旋回させることができる。これにより、ノーズコーン23を所定の方向(例えば風上の方向)に向けることができ、効率的に風圧を受けることができる。
【0015】
なお、図4の符号24は、ピッチ駆動装置である。ピッチ駆動装置24も出力ピニオン25付きの減速装置G2を備えている。出力ピニオン25が内歯歯車26と噛合することにより、風車ブレード27の角度を変更することができる。
【0016】
ここでは、本発明の実施形態の一例が適用されたヨー駆動装置14の減速装置G1について図1図3を用いて詳細に説明する。まず減速装置G1の減速機構(変速機構)28について説明する。
【0017】
モータM1のモータ軸29には継軸30が連結されている。継軸30の先端には、入力ピニオン31が直切り形成されている。入力ピニオン31は、複数(この実施形態では3個)の偏心体軸歯車32と同時に噛合している。各偏心体軸歯車32は、スプライン34を介して偏心体軸36と連結されている。各偏心体軸36は、後述する第1、第2キャリヤ38、40に円錐ころ軸受41、42を介して支持されている。
【0018】
偏心体軸36には、第1、第2偏心体44、46が一体的に形成されている。第1、第2偏心体44、46の外周には、第1、第2ころ48、50を介して第1、第2外歯歯車52、54が組み込まれている。第1偏心体44、第1ころ48、および第1外歯歯車52の偏心位相は、第2偏心体46、第2ころ50、および第2外歯歯車54の偏心位相と180度ずれている。図3には、第2外歯歯車54側の断面が示されているが、第1外歯歯車52側も、偏心位相が180度ずれているほかは、図3と同様の構成である。
【0019】
第1、第2外歯歯車52、54は、共に内歯歯車56に内接噛合している。内歯歯車56は、この実施形態ではケーシング58のケーシング本体58Aと一体化されている内歯歯車本体56A、該内歯歯車本体56Aに回転自在に支持され、当該内歯歯車56の内歯を構成する外ピン56Bとで構成されている。内歯歯車56の内歯の数(外ピン56Bの本数)は、第1、第2外歯歯車52、54の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0020】
なお、この実施形態においては、ケーシング58は、当該内歯歯車本体56Aとして機能しているケーシング本体58A、該ケーシング本体58Aの軸方向モータM1側に配置された入力側ケーシング体58B、およびケーシング本体58Aの出力ピニオン18側に配置された出力側ケーシング体58Cとで構成されている。
【0021】
第1、第2外歯歯車52、54の軸方向両側には、第1、第2キャリヤ38、40が配置されている。第1、第2キャリヤ38、40は、第2キャリヤ40側から一体的に突出形成されたキャリヤピン64および第1キャリヤ38側から挿入されたキャリヤボルト66を介して互いに連結されている。第1キャリヤ38はころ軸受68を介してケーシング本体58Aに回転自在に支持されている。第2キャリヤ40は出力軸70(本発明における突出軸)と一体化されており、出力軸70は、自動調心ころ軸受72(および間接的に前記ころ軸受68)を介してケーシング本体58Aに支持されている。出力軸70は、ケーシング58、具体的にはその出力側ケーシング体58Cからケーシング58外に突出している。そして、出力軸70には、ケーシング58外においてスプライン部74を介して前記出力ピニオン18が連結されている。なお、出力ピニオン18は、押さえ体76およびボルト78によって出力軸70から軸方向に抜けるのが防止されている。
【0022】
出力ピニオン18は、(タワー20側に固定されている)前記旋回歯車22と噛合している。この実施形態では、旋回歯車22は、内歯歯車で構成されており、出力ピニオン18は該旋回歯車22に内接噛合している。しかし、旋回歯車を外歯歯車で構成し、出力ピニオンを該旋回歯車に外接噛合させるようにしてもよい。すなわち、本発明に係るピニオンは、相手歯車と内接噛合するピニオンであってもよいし、外接噛合するピニオンであってもよい。
【0023】
出力ピニオン18と旋回歯車22との噛合部80には、グリスが塗布されている。
【0024】
ここで、グリスの封止および漏出に関係する構造について詳細に説明する。
【0025】
この実施形態では、減速装置G1の減速機構28は、ケーシング58内に収容されており、グリスによって潤滑される。そのため、継軸30とケーシング58の入力側ケーシング体58Bとの間に、シール部材として入力側オイルシール84が2個並んで配置されている。
【0026】
また、減速装置G1の出力側では、自動調心ころ軸受72と隣接して出力軸70にリング体82が圧入で嵌め込まれている。そして、このリング体82と出力側ケーシング体58Cとの間にシール部材として出力側オイルシール86が2個並んで配置され、ケーシング58外へのグリスの漏出を防止している。
【0027】
入力側ケーシング体58Bの外周には、給脂口88が配置されている。この給脂口88には、グリスニップル90が、着脱自在に配置されている。グリスニップルについては、日本工業規格(JIS)に詳細な仕様が定められている。この実施形態では、蓋付きの密封タイプ(エアは通すが、グリスは全く通さないタイプ)のグリスニップル90が配置されている。また、ケーシング58のケーシング本体58Aの第2キャリヤ40の径方向外側には、排脂口91が配置されている。排脂口91には、閉塞栓92が嵌め込まれている。閉塞栓92は、グリスもエアも通さない完全密封タイプのシール部材である。なお、後述するエアリークテストを行うときは、この給脂口88が、エア注入口として利用される。
【0028】
この減速装置G1のケーシング58は、これらのシール部材84、86、90、92が組み込まれており、さらにケーシング本体58A、入力側ケーシング体58B、および出力側ケーシング体58Cの連結面は液状パッキンでシールされている。そして、ケーシング58の内部空間P1には、グリスがほぼ満杯の状態に封入される。これらのシール部材84、86、90、92や液状パッキンには、減速装置G1の内圧が定常状態のときは、グリスが漏出しない封止機能が確保されている。
【0029】
ここで内圧が定常状態とは、常温下(20℃±15℃(5−35℃)の大気温時:JISZ8703)において、風力発電設備12が非稼働の状態または定格発電出力以下で運転されている状態をいう。具体的には、概ね内圧が0.03kg/cm2〜0.1kg/cm2程度までは、グリスが漏出しない状態が維持される特性とされている。
【0030】
そして、この実施形態に係る減速装置G1では、減速装置G1のケーシング58内の内圧が上昇したときにグリスを該ケーシング58外の出力ピニオン18の周辺に漏出させる漏出機構94が備えられている。ここで「漏出したグリスをケーシング58外の出力ピニオン18の周辺に漏出させる」とは、「既にグリスが存在し、グリスが漏れ出てきても問題のないピニオン周辺に漏出させる」ということであって、漏出したグリスがピニオンの潤滑に寄与するか否かとは関係がない。
【0031】
漏出機構94は、出力軸70の中に形成された漏出通路96を有している。漏出通路96は、一端が出力側オイルシール86よりも内側に開口し、他端が該出力側オイルシール86よりも外側に開口している。漏出通路96は、第1通路101と、該第1通路101に連通する第2通路102から主に構成されている。
【0032】
漏出通路96の第1通路101は、出力軸70の径方向中央において、軸方向に沿って形成されている。第1通路101は、一方(一端)側、すなわち出力側オイルシール86よりも減速機構側(出力側オイルシール86よりも内側)に、ケーシング58の内側に開口する入側開口部101Eを備える。具体的には、入側開口部101Eは第2キャリヤ40の減速機構側端面に開口している。また、他方(他端)側、すなわち、出力側オイルシール86よりも反減速機構側(出力側オイルシール86よりも外側)において、装着部101Wと、ケーシング58の外側(具体的には出力軸70の先端面)に開口する第1出側開口部101Aと、を備えている。
【0033】
第1通路101の装着部101Wには、漏出通路96(具体的にはその第1通路101)を閉塞する閉塞部材104(図5参照:図1には装着されていない)が装着可能である。具体的には、第1通路101の装着部101Wは、該装着部101Wの内周に形成された装着部ねじ(雌ねじ)101Wsによって構成されている。図5に示されるように、閉塞部材104は、該装着部ねじ101Wsに螺合するテーパねじ(雄ねじ)104sを有し、第1通路101の第1出側開口部101Aを介して装着部101Wの装着部ねじ101Wsに螺合・装着可能である。このため、第1出側開口部101Aの内径D101Aは、閉塞部材104の外径d104よりも大きく設定されている(D101A>d104)。閉塞部材104は、通常使用時には装着部101Wから取り外され(図1の状態)、後述するエアリークテストが行われる時にのみ装着部101Wに装着される(図5の状態)。
【0034】
図1を参照して、第1通路101の第1出側開口部101Aは、出力軸70の先端面に開口している。第1出側開口部101Aには、該第1出側開口部101Aを閉塞可能な蓋部材106が着脱可能に設けられる。具体的には、第1出側開口部101Aの内周には開口部ねじ(雌ねじ)101Asが形成されており、蓋部材106には、該開口部ねじ101Asに螺合するテーパねじ(雄ねじ)106sが形成されている。蓋部材106は、第1出側開口部101Aの開口部ねじ101Asに、該蓋部材106のテーパねじ106sを螺合させることにより、該第1出側開口部101Aを閉塞可能である。第1出側開口部101Aの蓋部材106は、エアリークテストを行うために閉塞部材104を装着部101Wに装着する際には取り外され、減速装置G1の通常使用時に装着される。
【0035】
一方、漏出通路96の第2通路102は、第1通路101から分岐して出力軸70の径方向に沿って形成されている。第2通路102は、第1通路101の装着部101Wの反減速機構側(装着部101Wよりも外部側:この例では第1通路101の装着部101Wと第1出側開口部101Aとの間)に連通するとともに、ケーシング58の外側に開口する第2出側開口部102Aを備える。より具体的には、第2出側開口部102Aは、出力軸70の側面に開口している。すなわち、本実施形態では、前述したように、出力ピニオン18が、出力軸70とスプライン部74を介して連結されており、第2出側開口部102Aは、このスプライン部74に開口している。なお、第2通路102の具体的な形成は、出力軸70のスプライン部74の最外周の側から出力軸70内にドリルを挿入し、第1通路101に連通させている。
【0036】
第2通路102の第2出側開口部102Aの内径D102Aは、図1では、便宜上大きめに記載されているが、実際には、ケーシング58内の内圧が許容値を超えて上昇しようとしたときに、第2出側開口部102Aを介してスプライン部74の僅かな隙間にグリスが漏出し始めるような大きさに設定されている。なお、第2通路102(第2出側開口部102A)は、この実施形態では、1本のみ形成するようにしているが、円周方向に所定の間隔で複数本形成するようにしてもよい。
【0037】
これらの構成により、本実施形態では、結局、漏出通路96の一方(一端)側は、出力側オイルシール86よりも内側に開口している第1通路101の入側開口部101Eを介してケーシング58の内側に開口されている。また、漏出通路96の他方(他端)側は、第1通路101の(閉塞部材104の取り外された)装着部101W、および該装着部101Wよりも外部側で第1通路101と連通している第2通路102の第2出側開口部102Aを介して、出力側オイルシール86よりも外側に開口している。換言するならば、第1通路101は、グリスの漏出に関しては第2通路102の第2出側開口部102Aと連通しているが、この漏出目的の第2出側開口部102Aとは別の第1出側開口部101Aとも連通していることになる。これにより、該第1出側開口部101Aを介して第1通路101(ひいては漏出通路96)を閉塞可能な閉塞部材104を装着部101Wに装着可能である。
【0038】
次に、本減速装置G1の作用を説明する。
【0039】
モータM1のモータ軸29が回転することによって継軸30が回転すると、該継軸30の先端に形成された入力ピニオン31が回転し、3個の偏心体軸歯車32が同時に同方向に回転する。これにより3本の偏心体軸36が同期して同方向に回転し、第1偏心体44、第1ころ48を介して第1外歯歯車52が揺動すると共に、第2偏心体46、第2ころ50を介して第2外歯歯車54が揺動する。第1、第2外歯歯車52、54は、揺動しながら内歯歯車56に噛合しているため、偏心体軸36が1回回転する毎に第1、第2外歯歯車52、54は1回揺動し、固定状態にある内歯歯車56に対して1歯分だけ位相がずれる(自転する)。この第1、第2外歯歯車52、54の自転成分は、偏心体軸36の公転として第1、第2キャリヤ38、40に伝達される。そして、第2キャリヤ40と一体化されている出力軸70が回転し、該出力軸70にスプライン部74を介して連結されている出力ピニオン18が回転する。出力ピニオン18は、タワー20側に固定されている旋回歯車22の軸心O1の周りを公転するため(図4)、結果として、減速装置G1のケーシング58が固定されているナセル16がタワー20に対して相対的に旋回する。
【0040】
以下、特に、グリスの封止および漏出に関係する構造に関する作用を説明する。
【0041】
もし、内圧が上昇してもケーシング58からグリスが漏れないように設計した場合、ケーシング58の内外を封止しているあらゆるシール部材84、86、90、92に大きな内圧がそのまま掛かることになってしまう。そのため、これらのシール部材84、86、90、92の耐久性が低下し、寿命が短くなってしまう。特に、入力側オイルシール84、あるいは出力側オイルシール86のように、ケーシング58に対して相対回転している軸との間を封止しているシール部材にあっては、封止特性を高めれば高める程、動力の伝達損失は大きくなる傾向となる。さらには、動力の伝達損失が増大した分、熱が発生し易くなるため、特に回転速度の高い入力側オイルシール84の耐久性が一層低下し易くなってしまう。入力側オイルシール84は、モータM1側へのグリスの漏出を防止している重要なシール部材であるため、劣化が早いというのは、大きなデメリットとなる。
【0042】
本実施形態においては、このような不具合はいずれも生じない。
【0043】
先ず、ケーシング58内には、グリスがほぼ満杯に封入されているが、入力側オイルシール84、出力側オイルシール86、給脂口88のグリスニップル90、および排脂口91の閉塞栓92の各シール部材および漏出機構94は、いずれも内圧が定常状態のとき、すなわち常温下において風力発電設備12が非稼働、または定格発電出力以下で運転されている状態のときには、グリスを漏出させない封止特性が確保されている。そのため、内圧が定常状態のときには、これらのシール部材84、86、90、92、あるいは漏出機構94からグリスが漏出することはなく、モータM1側にはもちろん、給脂口88、排脂口91の付近、あるいは出力側オイルシール86の付近においても、グリスの漏出は生じない。
【0044】
一方、ケーシング58内の内圧が上昇して前記定常状態の上限に近づいてくると、(特に、第2通路102の第2出側開口部102Aの径の設定により)上記シール部材84、86、90、92からグリスの漏出が始まる前に、漏出機構94によるグリスの漏出が自動的に開始される。
【0045】
より具体的には、内圧の上昇により、ケーシング58内のグリスは漏出通路96の一端側の入側開口部101Eから該漏出通路96の第1通路101内に入り込む。第1通路101の第1出側開口部101Aは、蓋部材106によって閉塞されているため、第1通路101内に入り込んだグリスは、(閉塞部材104の取り外された)装着部101W、および該装着部101Wよりも外部側で第1通路101と連通している第2通路102の第2出側開口部102Aを介して、ケーシング58の外側に漏出する。第2出側開口部102Aは、出力軸70と出力ピニオン18とが連結されているスプライン部74に開口されているため、漏出したグリスは、当該スプライン部74に供給される。第1通路101の第1出側開口部101Aは、蓋部材106によって閉塞されているため、該第1出側開口部101Aからは、グリスは漏出しない。つまり、ケーシング58の内側から漏出したグリスは、もっぱら、第2出側開口部102Aから漏出し、スプライン部74の潤滑に寄与する。
【0046】
出力ピニオン18には、旋回歯車22との噛合部80を潤滑するために、もともとグリスが十分に塗布されており、該出力ピニオン18の近傍には多量のグリスが存在している。したがって、ケーシング58内のグリスが僅かに漏出してきても、スプライン部74の潤滑がより良好に行われる等のメリットが得られることはあっても、デメリットが生じることはない。
【0047】
そして、この漏出通路96を介したグリスの漏出により、ケーシング58内の内圧は、それ以上に上昇するのが抑制される。したがって、入力側オイルシール84、出力側オイルシール86、グリスニップル90、および閉塞栓92の各シール部材は、常に定常状態の内圧の下で、その本来の封止機能を十分に発揮することができる。換言するならば、シール部材84、86、90、92は、内圧が定常状態のときにおいて確実に封止できる特性を有していれば足りる。そのため、特に、入力側オイルシール84、あるいは出力側オイルシール86のように、ケーシング58と回転軸である継軸30あるいは出力軸70との間を封止しているオイルシールについても、過度に封止特性を高くする必要がないことから、動力の伝達損失を低減することができる。また、入力側オイルシール84、あるいは出力側オイルシール86の摺接部の温度上昇も抑えることができるため、劣化を抑制でき、グリスの流入を嫌うモータM1側への漏出を含め、高いシール性能を長期に亘って維持することができる。
【0048】
ここで、エアリークテストに関して詳細に説明する。
【0049】
減速装置G1内のグリスが漏出する原因として、入力側オイルシール84、出力側オイルシール86の不具合がある。入力側オイルシール84、出力側オイルシール86の不具合は、使用によって徐々に進行する場合もあるが、減速装置G1の組み付け時において適正な接触状態で装着されなかったり、あるいは、装着時に部材自体を損傷させてしまったりすることによる、いわゆる初期不良に起因して発生する場合もある。このため、この減速装置G1においては、オイルシールの初期不良に起因したグリス漏れを防止するべく、「エアリークテスト」と称される検査を行うようにしている。
【0050】
この実施形態では、前述したグリスの給脂口88が、(このエアリークテストを行うための)エアを注入するエア注入口89を兼用している。つまり、図5に示されるように、エアリークテストは、該グリスの給脂口88のグリスニップル90を取り外した状態で、該給脂口88をエア注入口89として、ここにエアリーク検出ユニット110を接続することによって行われる。
【0051】
より詳細に説明すると、図示せぬエアポンプから出力されたエアがエアリーク検出ユニット110の減圧弁110Aによって所定の圧力に減圧され、減圧された圧縮エアが、エア注入口89から減速装置G1のケーシング58内に注入される。これにより、減速装置G1のケーシング58内は、注入された圧縮エアと同等の空気圧にまで高められる。この状態で、圧縮エアの注入を中止してバルブ110Bを閉じ、所定時間が経過するまで放置し、所定時間後の圧力が圧力計110Cによって検出される。入力側および出力側オイルシール84、86等の封止機構が正常に機能している場合には、所定時間が経過した後であっても、減速装置G1内の圧縮エアの圧力の低下は殆ど見られない。したがって、圧力の低下が所定値未満であることを検出することにより、封止機構が正常に機能していることを確認することができる。
【0052】
しかしながら、上記構成に係る減速装置G1では、ケーシング58内の内圧が所定値以上に高まってくると、グリスが自動的に漏出する漏出機構94を備えている。そのため、(単にグリスが漏出可能な構造を備えただけでは)このエアリークテストを行う際にエアが、漏出機構94の漏出通路96から漏出してしまい、エアリークテスト自体を適正に行うことができないという不具合が発生してしまう。
【0053】
そこで、上記実施形態においては、図5に示されるように、エアリークテストを行う前に、第1通路101の装着部101Wに閉塞部材104を装着し、該第1通路101を閉塞する。第1出側開口部101Aの内径D101Aは、閉塞部材104の外径d104より大きいため、第1出側開口部101Aを介して第1通路101内に閉塞部材104を挿入し、該第1通路101の装着部101Wの装着部ねじ101Wsに、閉塞部材104のテーパねじ104sを螺合させることができる。
【0054】
第2通路102は、装着部101Wよりも外部側で第1通路101に連通しているため、装着部101Wに閉塞部材104を装着することにより、漏出通路96を介してエアリークテストのエアが漏出するのを防止できる。つまり、この状態で行われたエアリークテストにおいてエアが漏れた場合には、本来漏れるべきではない、いずれかのシール部材で不具合が発生していると考えられるため、当該シール部材を確認して組み込み直したり、交換したりすることができる。
【0055】
エアリークテストが終了した後は、第1出側開口部101Aを介して閉塞部材104を装着部101Wから取り除き、該第1出側開口部101Aの開口部ねじ101Asに蓋部材106のテーパねじ106sを螺合させ、該蓋部材106にて、第1出側開口部101Aを閉塞する。これにより、図1の状態とすることができ、上述した作用により、ケーシング58内のグリスを第2通路102を介して第2出側開口部102Aのみから適宜に漏出させることができる。なお、この実施形態では、蓋部材106は、第1出側開口部101Aに、着脱自在に設けられているが、必ずしも着脱自在でなくてもよく、例えば、エアリークテスト後に取り付けるならば、その後は取り外せないような蓋部材であってもよい。
【0056】
なお、上記実施形態においては、出力ピニオン18が出力軸70にスプライン部74を介して連結され、第2通路102の第2出側開口部102Aは、当該スプライン部74に開口している。この場合に、第2出側開口部102Aを単にスプライン部74に開口させるだけでなく、該第2出側開口部102Aが開口している軸方向位置で、該スプライン部74の歯(出力軸70側の歯および出力ピニオン18側の歯)が周方向に切り欠かれる構成を採用するようにしてもよい。これにより、漏出したグリスをより円滑にスプライン部74の全体に行き渡らせることができ、スプライン部74の潤滑をより効率的に行うことができるようになる。
【0057】
さらには、この切り欠きの形成に代え、あるいは切り欠きの形成と共に、図6に示されるように、当該第2出側開口部102Aが開口している軸方向位置に、出力軸70および出力ピニオン18の少なくとも一方(図6の例では出力ピニオン18)に周方向に一周する溝部18Aを形成するようにしてもよい。これにより、漏出したグリスをさらに円滑にスプライン部74の全体に行き渡らせることができ、スプライン部74の潤滑を一層効率的に行うことができるようになる。
【0058】
なお、上記実施形態においては、漏出通路96として、第1通路101を出力軸70の径方向中央に軸方向に沿って形成すると共に、第2通路102を径方向に沿って形成し、該第2通路102の第2出側開口部102Aを出力ピニオン18と出力軸70との間のスプライン部74に開口させるようにしていた。しかしながら、本発明に係る漏出通路の形成態様は、これに限定されるものではない。
【0059】
例えば、第2通路の第2出側開口部は、(スプライン部に開口するのではなく)部材同士が液状パッキンやOリング等のシール部材を介することなく接触することで閉じられた空間、例えば、図6で例示するならば、リング体82と出力ピニオン18との間の空間S1や、出力ピニオン18と押さえ体76との間の空間S2等に開口するような構成としてもよい。これらの空間S1、S2は、通常は、液状パッキン等のシール部材を介して部材同士が接触され、グリスが漏出しないように配慮してある。しかし、あえて部材同士をシール部材を介することなく接触させる(あるいは意図的に僅かな隙間や溝を形成して接触させる)ことにより、これらの空間S1、S2等を第2通路の第2出側開口部として機能させることができる。
【0060】
この構成は、例えば、出力軸70と出力ピニオン18とが(スプライン連結によってではなく)一部材として、初めから一体化されているような構成の場合に有効である。出力軸70と出力ピニオン18とが、一部材として、初めから一体化されているような構成の場合には、もとよりスプライン部自体がなく、当然に、該スプライン部の潤滑は必要ない。したがって、この構成によって漏出したグリスは、出力ピニオン18と旋回歯車22との間にもともと存在する多量のグリスに、その一部として加わることになる。
【0061】
要するに、漏出通路は、一端が突出軸(先の例では出力軸70)のシール部材(出力側オイルシール86)よりも内側に開口し、他端が該シール部材よりも外側に開口していれば、例えば、他端の開口部が、一見、ケーシングの径方向内側に位置しているような構成であっても、本発明の漏出通路として機能し得る。換言すれば、変速機構の収納空間と外部空間がシール部材によって仕切られているときに、漏出通路の一端は変速機構の収納空間に開口し、他端は外部空間に開口しているとも言える。
【0062】
なお、上記実施形態においては、本発明が、風力発電設備のヨー駆動装置の減速装置(動力伝達装置)に適用されている例が示されていたが、前述したように、ピッチ駆動装置にも、出力ピニオンを有する減速装置が使用されているため、本発明は、ピッチ駆動装置に適用することも可能であり、同様の作用効果が得られる。また、そもそも、本発明の動力伝達装置の用途は、特に風力発電設備の減速装置の用途に限定されず、例えば、建設機械の旋回用の減速装置でも適用可能である。
【0063】
また、上記実施形態においては、いずれも減速機構の軸心から径方向に離れた位置に複数の偏心体軸を有する偏心揺動型の減速機構を採用した動力伝達装置が示されていたが、本発明に係る動力伝達装置の構成は、この構成に限定されるものではなく、例えば、減速機構の径方向中央部に1個の偏心体軸を有するようなタイプの偏心揺動型の減速機構であってもよい。
【0064】
さらには、必ずしも偏心揺動型の減速機構を有している必要もなく、他の種々の減速機構にも適用でき、またそもそも、減速機構である必要もない。すなわち増速機構を有する動力伝達装置であってもよい。この点で、本発明は、「変速機構を有する動力伝達装置」と捉えることもできる。ただし、この場合の「変速」の語は、減速と増速を総称する概念として用いられているものであり、必ずしも出力軸の回転速度が可変であることを意味していない。
【0065】
また、上記実施形態では、出力軸(突出軸)にピニオンが設けられていたが、本発明に係る突出軸は、ケーシングから突出して、ケーシング外でピニオンが設けられる突出軸であればよく、例えば入力軸でもよい。既に述べたように、ピニオンは、突出軸と別体で構成されていてもよく、また、一体で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
G1…減速装置(動力伝達装置)
16…ナセル
18…出力ピニオン
22…旋回歯車
28…減速機構(変速機構)
58…ケーシング
70…出力軸
84…入力側オイルシール
86…出力側オイルシール
94…漏出機構
96…漏出通路
101…第1通路
101A…第1出側開口部
101W…装着部
102…第2通路
102A…第2出側開口部
104…閉塞部材
106…蓋部材
110…エアリーク検出ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6