【文献】
Deniz B. et al.,Rapid Method for Quantitative Determination of Proteopytic Activity with Cyclic Voltammetry,Electroanalysis,2010年,vol.22,no.3,pp265-267
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記合成架橋タンパク質基質がタンパク質分解阻害剤を欠く、あるいは、対応する自然発生タンパク質基質と比較して量、レベル、または濃度が低下したタンパク質分解阻害剤を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記作用電極、前記対向電極、前記電流登録ユニット、および前記制御ユニットが、前記電流値を外部データ記憶ユニットおよび処理ユニットに出力するように配置される1つの装置として一体化される請求項10記載のシステム。
前記作用電極、前記対向電極、前記電流登録ユニット、前記制御ユニット、前記データ記憶ユニット、および前記処理ユニットが、解析結果を出力するように配置される1つの装置として一体化される請求項10記載のシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は一部には、電気化学活性成分の酸化または還元によって生成される電気化学電流が、フィブリン血餅などのタンパク質基質内の化合物の拡散速度に依存するという発見によって予想される。この発見は、電気化学電流の変化を利用して、検査下のプロテアーゼ含有サンプルによるタンパク質基質のタンパク質分解を検出または監視する、および/または検査サンプルのプロテアーゼの活性を質的または量的に判定する方法、システム、およびキットの実現へと形を変えた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の側面では、タンパク質基質のタンパク質分解を検出または監視する方法であって、作用電極、対向電極、タンパク質基質、および電気活性種を備える電解液を提供し、タンパク質基質が少なくとも1つの電極の少なくとも一部と接触することと、電位を印加することによって、前記作用電極に電気化学電流を生成することと、複数回、前記電流を測定することと、測定値のうち少なくとも2つを比較し、測定値間の差が前記タンパク質基質の分解を示すことと、を備える方法が提供される。
【0009】
第2の側面では、タンパク質分解活性に関して被験者から得られるサンプルを選別する方法であって、作用電極、対向電極、タンパク質基質、および電気活性種を備える電解液を提供し、タンパク質基質が少なくとも1つの電極の少なくとも一部と接触することと、タンパク質基質と推定上タンパク質分解活性を有するサンプルとを接触させることと、電位を前記作用電極に印加することによって前記作用電極に電気化学電流を生成することと、複数回、前記電流を測定することと、測定値のうち少なくとも2つを比較し、測定値間の差が前記タンパク質基質の分解を示すことと、を備える方法が提供される。
【0010】
該方法は、電位を経時変化させることをさらに備えることができる。
【0011】
対向電極は、基準電極と補助電極を備えることができる。
【0012】
電位を線形に、周期的に、または段階的に変化させることができる。
【0013】
測定値は質的または量的とすることができる。
【0014】
サンプルは、体液、排泄物、または分泌物などの生物学的サンプルとすることができる。例えば、サンプルは、血液、血漿、または血清から成る群から選択することができる。
【0015】
タンパク質基質は、フィブリン血餅、血餅、多血小板血漿(PRP)血塊、またはコラーゲン基質から選択することができる。タンパク質基質は、裸である(例えば、未支持)、もしくは多孔性担体(例えば、濾紙、焼結ガラス、ポリ(フッ化ビニリデン)膜またはゲル)と共に含有される、あるいはそれ以外の形で連合される。
【0016】
好適には、該方法は、測定値間の差を相関させることによって、サンプル内のタンパク質分解の量または活性を質的または量的に判定することを備える。いくつかの実施形態では、タンパク質基質はフィブリン血餅、PRP血塊または血餅であり、サンプル内のタンパク質分解活性は少なくとも一部はプラスミンによって提供される。他の実施形態では、タンパク質基質はコラーゲンであり、サンプル内のタンパク質分解活性は少なくとも一部は、1つまたはそれ以上のコラゲナーゼ(例えば、MMP−1、MMP−8、MMP−13、MMP−18などの基質メタロプロテアーゼ(MMPs))によって提供される。
【0017】
第3の側面では、少なくとも導電性材料と接触するタンパク質基質を備える電極が提供される。
【0018】
導電性材料は、金、銀、白金、二酸化ルテニウム、パラジウム、導電性カーボン、白金またはITO(インジウムスズ酸化物)ならびに当業者にとって既知な非腐食性材料、またはその組み合わせとすることができる。
【0019】
第4の側面では、(例えば、本発明の方およびシステムにおいて使用される)タンパク質基質を備える多孔性担体が提供される。該担体は、吸着剤、濾紙またはその他のフィルタ、焼結ガラス、ポリ(フッ化ビニリデン)膜またはゲルとすることができる。
【0020】
第5の側面では、タンパク質基質のタンパク質分解のボルタンメトリ検出または監視用のシステムであって、作用電極と、電位が印加される対向電極と、前記作用電極を通過した電流を登録するように構成される電流登録ユニットと、前記電位と前記作用電極とを制御し、前記電流登録ユニットから電流値を複数回読み取るように構成される制御ユニットと、前記電流値を記憶するデータ記憶ユニットと、所定の数学モデルを用いて記憶された電流値を解析し、解析結果を出力するように構成される処理ユニットと、を備えるシステムが提供される。
【0021】
システムは、対向電極または作用電極の少なくとも一部と接触するタンパク質基質をさらに備えることができる。
【0022】
対向電極は基準電極と補助電極を備えることができる。
【0023】
作用電極、対向電極、電流登録ユニット、および制御ユニットは、外部データ記憶ユニットおよび処理ユニットに電流値を出力するように構成される1つの装置として一体化させることができる。
【0024】
作用電極、対向電極、電流登録ユニット、制御ユニット、データ記憶ユニット、および処理ユニットは、解析結果を出力するように構成される1つの装置として一体化させることができる。
【0025】
第6の側面では、少なくとも1つのタンパク質基質を備えるタンパク質基質の分解の検出または監視用キットが提供される。キットは、
(1)タンパク質基質と接触する電極と、
(2)タンパク質基質を備える多孔性担体であって、吸着剤、濾紙、またはその他のフィルタ、焼結ガラス、ポリ(フッ化ビニリデン)膜またはゲルから選択される担体と、
(3)少なくとも1つの電解液、電気活性種、塩、および/または既知のレベルのタンパク質分解活性を有する制御サンプルと、
(4)タンパク質などのタンパク質基質と架橋剤、例えばフィブリノーゲンとトロンビンを生成する成分とのうちの少なくとも1つまたは任意の組み合わせをさらに備えることができる。
【0026】
先行する側面のいずれにおいても、タンパク質基質は、共有または非共有結合性架橋タンパク質を備えることができる。該基質は細胞、脂質、炭水化物、糖、または塩をさらに備えることができる。タンパク質基質は単独のタンパク質種から成る、あるいはほぼ成ることができる、もしくは複数のタンパク質種を備えることができる。
【0027】
本発明の実施形態を、以下の図面を参照して非限定的な例としてのみ説明し例示する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
本明細書で使用される特定の文言は、以下の通り示される意味を有するものとする。
【0030】
本願で使用されるように、単数の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別の意味を示す場合を除き、複数を含む。例えば、文言「基質」または「タンパク質基質」は、複数の基質またはタンパク質基質をそれぞれ含む。文脈上、別の意味あるいは逆の意味を明確に示す場合を除き、本明細書に記載される本発明の整数、ステップ、または構成要素は、記載される整数、ステップ、または構成要素の単数および複数をいずれも明確に含む。
【0031】
「約」は、基準の測定値、数量、レベル、活性、数値、数、頻度、パーセント、寸法、サイズ、量、重量、または長さから10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%変動する測定値、数量、レベル、活性、数値、数、頻度、パーセント、寸法、サイズ、量、重量、または長さを意味する。
【0032】
本明細書で使用される「生物学的サンプル」という文言は、被験者から抽出、未処理、処理、希釈、あるいは濃縮されるサンプルを指す。生物学的サンプルは、血液、血清、血漿、唾液、尿、汗、腹水、腹膜液、滑液、羊水、脳脊髄液、組織生検、リンパ液、間質液などの体液を含むことができる。ある実施形態では、生物学的サンプルは血液を含む。
【0033】
本明細書とその後の請求項全体を通じて、文脈上他の意を示す場合を除き、「comprise」という文言およびその変形の「comprises」または「comprising」、記載される整数またはステップあるいは整数群またはステップ群を含むことを意図するが、その他の整数またはステップあるいは整数群またはステップ群を除外することを意図していない。
【0034】
本明細書で使用される「電気活性種」という文言は、酸化または還元することができ、1つまたはそれ以上の電子を伝達することのできる物質として定義される。電気活性種は、電気化学的解析における薬剤であり、タンパク質基質のタンパク質分解の間接的測定を提供する。通常、「電気活性種」は水電解のために必要な電位未満の電位で水溶液中で酸化または還元することによって、水電解が十分な感応電流を生成しない状況において活性化する。
【0035】
本明細書で使用される「酸化還元対」という文言は、酸化数が異なる2つの共役種の化学物質を指す。酸化数が高い種を還元すると、酸化数の低い種が生成される。もしくは、酸化数が低い種を酸化すると、酸化数が高い種が生成される。
【0036】
本明細書で使用される「タンパク質分解」という文言は、タンパク質の小さなポリペプチドへの分解、およびその結果として生じるタンパク質繊維の分解を指す。この分解は、酵素または化学機構によるペプチド結合の開裂によって生じうる。この分解は、相同または非相同タンパク質間の架橋の開裂によって生じうる。タンパク質分解により、タンパク質を個々のアミノ酸に分解することができる。
【0037】
本明細書で使用される文言「電極」は、通過する電位を測定することのできる導電体を意味する。電極は、電流のコレクタおよび/またはエミッタとすることができる。好適には、電極は固体であり、導電性金属を備える。好適な導電金属は、インジウムスズ酸化物などの合金、導電性カーボン、または金、銀、パラジウム、または白金などの貴金属を含む。電極はワイヤまたは極小ワイヤであってもよい。あるいは、文言「電極」はワイヤまたは極小ワイヤの集合を示すことができる。
【0038】
本明細書で提示される図面および実施例は本発明およびその各種実施形態を例示するためであり、限定するためではないことを最初に理解しておくべきである。
【0039】
タンパク質基質のタンパク質分解の検出または監視用の方法、装置、システム、およびキットが提供され、通常はボルタンメトリ技術を使用して、タンパク質基質のタンパク質分解時の電気活性種の電極への拡散による電流変化を測定することを含む。
【0040】
タンパク質基質
本発明のタンパク質基質は、当該技術において既知な任意のタンパク質基質とすることができる。例えば、タンパク質基質は、細胞外基質など天然に存在することができる、あるいは、血液凝固やフィブリノーゲンに対するトロンビンの作用など天然に形成することができる。いくつかの実施形態では、合成タンパク質基質は生体外で形成される。いくつかの実施形態では、タンパク質基質は、自発的に基質を形成する1つまたはそれ以上のタンパク質から形成される。好適には、タンパク質基質は、タンパク質と1つまたはそれ以上の多価陰イオンおよび/または架橋剤との反応によって形成される。いくつかの実施形態では、タンパク質基質は、フィブリノーゲンをトロンビンと接触させることによって形成されるフィブリン基質である。他の実施形態では、タンパク質基質は、コラーゲン基質(例えば、タイプIコラーゲン分子の天然または再構成凝集)である。いくつかの実施形態では、タンパク質基質は、架橋剤なしに形成される合成タンパク質基質である。この種の代表的例では、タンパク質基質は非架橋タンパク質基質である、あるいは対応する自然発生タンパク質基質に関する架橋を還元している(例えば、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%未満)。これらの例のいくつかにおいては、合成タンパク質基質は好適には、フィブリノーゲンおよびトロンビンから架橋剤(例えば、第XIII因子)なしで形成される合成フィブリン血餅を備える。この種の特定の実施形態では、合成フィブリン血餅は、天然血液(0.3〜0.4%wt)よりも高レベルまたは高濃度のフィブリノーゲン(例えば、1.5%、2%、4%、5%、10%、15%wt)が存在する際に形成される。
【0041】
いくつかの実施形態では、タンパク質基質はタンパク質分解阻害剤を欠く、あるいは、対応する自然発生タンパク質基質と比較して量、レベル、または濃度が低下した(例えば、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%未満)タンパク質分解阻害剤を備える。この種の図示される例では、タンパク質基質はフィブリン血餅を備えるが、線維素溶解現象阻害剤(例えば、α−抗プラスミン)を欠く。
【0042】
体液は特定の薬剤と反応させて、タンパク質基質を形成することができる。体液は血液、血漿、血清、尿、脳脊髄液、涙、唾液、乳汁、粘液、痰、腹膜腔液とすることができる。もしくは、上記液は人工的に作製される化合物であってもよく、例えば、組織培養基、タンパク質を含有する組織培養基、合成ポリマ、アミン、スルフヒドリル、カルボキシル基、またはヒドロキシル基などのタンパク質上で発見される官能基を有するポリマ、アミン末端ポリエチレングリコール、アミン末端ポリエーテル、またはその混合物などである。タンパク質基質の作製に適したタンパク質の非限定的な例は、フィブリノーゲン、フィブリン、コラーゲン、フィブロネクチン、およびラミニンを含む。上記基質を製造する方法は、当該技術において既知である。
【0043】
いくつかの実施形態では、タンパク質基質は、細胞、脂質、炭水化物、糖、塩などの非タンパク質成分を備える。
【0044】
タンパク質基質は通常、電気活性種の拡散を実質上阻害する。物理的観点から、タンパク質基質内のタンパク質繊維は通常相互作用して、粘性係数が非常に高い(例えば、>2Pa.s)多孔性物質を形成する。アインシュタイン−ストークスの式から、拡散定数Dは以下の式によって求められる。
[式1]
ただし、
・k
Bはボルツマン定数であり、
・Tは絶対温度であり、
・ηは粘性係数であり、
・rは電気活性種の分子またはイオン半径である。
【0045】
基質中のタンパク質繊維がタンパク質分解すると、粘度が低下し、拡散定数が上昇する。
【0046】
タンパク質基質は機械的または物理的処理を施すことができる。機械的処理は圧縮または押出を含むことができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、タンパク質基質は、荷電種を形成するように酸化または還元することのできる電気活性種を備える。電気活性種の非限定的な例は、フェリシアニド、フェロシアニド、デカメチルフェロセン(DMFc)、1,1’−ジメチルフェロセン(DiMFc)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、およびフェロセンカルボン酸を含む。
【0048】
特定の実施形態では、タンパク質基質は脱水される。これらの実施形態では、タンパク質基質は、検査下のサンプル(例えば、生物学的サンプル)と接触したときに好適に再水和される。脱水は、酸素含有大気(例えば、空気)中、あるいは窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で実行することができる。望ましくは、脱水は、凍結乾燥(すなわち、フリーズドライ)、熱脱水(例えば、周囲温度)、浸透、濾過,および遠心分離から選択される。脱水後、タンパク質基質は望ましくは、低含水率、例えば約7.5%未満、約2%未満、約1%未満の含水率を有する。
【0049】
いくつかの実施形態では、タンパク質基質はフィブリン血餅、PRPクロットまたは血餅であり、サンプル中のタンパク質分解活性は少なくとも一部はプラスミンによって提供される。他の実施形態では、タンパク質基質はコラーゲンであり、サンプル中のタンパク質分解活性は、少なくとも一部は1つまたはそれ以上のコラゲナーゼ(例えば、MMP−1、MMP−8、MMP−13、MMP−18などの基質メタロプロテアーゼ(MMPs))によって提供される。
【0050】
タンパク質基質は、スクリーン印刷、インクジェット印刷、またはロボットピペット操作などの当業者にとって既知な従来の方法を用いて電極(例えば、作用電極)に装着する、あるいは電極上に形成することができる。
【0051】
担体
本発明は、タンパク質基質を備える担体も提供する。担体は多孔性担体とすることができる。担体の孔は実質上相互接続することおよび/または単体を貫通して延在することができると理解される。他の実施形態では、孔は実質上相互接続していない、あるいは単体を貫通して延在していない。好適には、タンパク質基質の少なくとも一部は孔に含有される。多孔性担体の例は、吸着剤、濾紙、フィルタ膜、焼結ガラス、ポリ(フッ化ビニリデン)膜およびゲルである。本発明のタンパク質基質含有固体担体は、固体担体およびタンパク質基質の一方、および好ましくは両方において孔径と孔容積のばらつきを少なくして大量製造可能であるため、インターアッセイまたはイントラアッセイの信頼度と一貫性が好適に向上する点が特に有益である。
【0052】
特定の実施形態では、固体担体は有孔性である。例示の多孔性固体担体は、タンパク質基質の孔径よりも実質上大きな孔径を有する構造を備える。例えば、孔は約5.0μm以上、約10.0μm以上であり、好適には20μm以上の孔は電気活性種の拡散をさほど抑制しない。
【0053】
いくつかの実施形態では、固体担体は、酸化または還元して荷電種(例えば、フェリシアニド、フェロシアニド、デカメチルフェロセン(DMFc)、1,1’−ジメチルフェロセン(DiMFc)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、フェロセンカルボン酸など)を形成することができる電気活性種をさらに備える。
【0054】
タンパク質基質含有固体担体は、機械的または物理的処理を施すことができる。機械的処理は圧縮または押出を含むことができる。代表的な物理的処理は脱水(例えば、凍結乾燥や熱脱水など)および放射線(例えば、光)を含む。機械的または物理的処理は好適には無菌状態下で実行される。
【0055】
特定の実施形態では、固体担体は脱水されることによって、ほぼ無水形状の固体担体となる。これらの実施形態では、固体担体は好適には、検査下のサンプル(例えば、生物学的サンプル)に接触したときに再水和される。脱水は酸素含有大気(例えば、空気)中、または窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で実行することができる。好適には、脱水は、凍結乾燥(すなわち、フリーズドライ)、熱脱水(例えば、周囲温度)、浸透、濾過、および遠心分離から選択される。脱水後、固体担体は望ましくは、低含水率、例えば約7.5%未満、約2%未満、約1%未満、または約0.5%未満の含水率を有する。固体担体の脱水は、タンパク質基質の分解の低減と有効期間の延長を含むいくつかの利点を備える。また、サンプルの毛細管流動、すなわち「這い上がり」を介して、プロテアーゼを含有すると推定されるサンプルとタンパク質との接触をより適切または効率的にする。
【0056】
いくつかの実施形態では、固体担体は、接着剤または熱結合での接着などの、当業者にとって既知な従来の方法を用いて電極(例えば、作用電極)に装着される。
【0057】
タンパク質分解の検出
タンパク質基質のタンパク質分解は、ボルタンメトリを含む電気化学的方法によって検出される。ボルタンメトリは通常、電気分解の機構を調査するのに使用されるが、本明細書で開示されるように、特にタンパク質分解に反応して、タンパク質基質のタンパク質分解の検出または監視において適用される。様々な形式のボルタンメトリが本発明の実施に有効であり、矩形波ボルタンメトリ、ステアケースボルタンメトリ、陽極または陰極ストリッピングボルタンメトリ、吸着ストリッピングボルタンメトリ、交流ボルタンメトリ、回転電極ボルタンメトリ、正常または差動パルスボルタンメトリ、クロノアンペロメトリ、クロノクーロメトリ、または電流対時間などを含む。好適な実施形態では、ボルタンメトリは電位ステップボルタンメトリ、直線掃引ボルタンメトリ、または周期的ボルタンメトリである。ピーク電流、特定の時点での電流、定常状態の電流、または移動される総電荷測定変数として使用することができる。
【0058】
これらの種類のボルタンメトリの各々において、電圧または一連の電圧が作用電極として既知な電極に印加され、それに対応して流れる電流が監視される。通常、作用電極はフェリシアニド([Fe(CN)
6]
3−)などの電気活性種と接触し、電位が印加されて電気活性種との間の電荷移動を促進することによって電流を生成する。第2の電極は電解槽の半電池として機能する。第2の電極の役割は、電子を供給または除去することで溶液中の電気的中性を維持することである。既知の基準に対する作用電極での電位を正しく推定することが要求される場合、第2の電極を2つの別個の電極である基準電極と補助電極に分割することができる。基準電極は既知の還元電位を有し、作用電極での電位を測定および制御する際の基準としての役割を果たし、電流を通さない半電池である。補助電極は、作用電極で観察される電流のバランスを取るのに必要な電流を通す。
【0059】
よって、ボルタンメトリによる電解測定値に必要な構成要素は少なくとも2つの電極、溶剤、バックグラウンド電解液、および電気活性種である。2つの電極は通常、電解液と電気活性種を備える溶剤と接触している。
【0060】
いくつかの実施形態では、タンパク質基質は、作用電極との間の電荷移動のための電気活性種の作用電極への移動または拡散が阻害または防止されるように、作用電極の少なくとも一部と接触する。他の実施形態では、タンパク質基質は第2の電極の少なくとも一部に存在しており、作用電極によって添加または除去される電荷のバランスを取る機能が阻害または防止される。別の実施形態では、タンパク質基質は作用電極と第2の電極の少なくとも一部に存在する。これらの実施形態では、電位印加時に測定される電流が、タンパク質基質の存在しない場合と比較して変更している。したがって、タンパク質基質が、タンパク質分解薬剤または該薬剤を含むと推定されるサンプルを溶剤または直接タンパク質基質2点化することによって該薬剤と接触すると、タンパク質基質の分解が生じる。タンパク質基質が分解すると、電位印加時に測定される電流も変化することによって、タンパク質基質の分解の質的および/または量的検出および/または監視が可能になる。
【0061】
バックグラウンド電解液は、塩化ナトリウム水溶液などの電気化学作用を起こさない塩である。いくつかの実施形態では、生理液(0.9%塩化ナトリウム)をバックグラウンド電解液として使用することができる。電気活性種は通常、低濃度(例えば、約0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、または0.1M)で存在する。電気活性種は例えばフェリシアニド([Fe(CN)
6]
3−)とすることができる。
【0062】
電気活性種は、酸化または還元して荷電種を形成することができる。すなわち、電気活性種は、酸化還元対、例えばフェリシアニドが電気活性種であるとき、フェリシアニド[Fe(CN)
6]
3−/フェロシアニド[Fe(CN)
6]
4−酸化還元対を形成する。電気活性種は電位印加時に作用電極で酸化または還元することによって、作用電極に電気化学電流を生じさせることができる。いくつかの実施形態では、電気活性種は可逆性の酸化または還元を経る。電気活性種は好適には化学的に安定している。
【0063】
電位ステップボルタンメトリ
電位ステップボルタンメトリでは、印加電圧はある値(V1)から別の値(V2)に切り替えられる、あるいは上昇させられる。次いで、その結果生じる電流が時間関数として測定される。例えば、反応物としてフェリシアニドを使用し、電圧範囲は通常、V1で、[Fe(CN
6)]
3−の還元が熱力学的に好ましくないように設定される。第2の電圧(V2)は通常、電極面に近い[Fe(CN)
6]
3−が生成物[Fe(CN)
6]
4−に還元されるように選択される。
【0064】
電位ステップボルタンメトリでは、電流は電圧の切替(上昇)後に急上昇した後、時間をかけて低下する。これが生じる理由は、電圧上昇前、電極は一定の配合を有する電解液中で電気活性種と接触しているが、いったん電圧上昇が生じると、電気活性種(例えば、[Fe(CN)
6)]
3−)が生成物(例えば、[Fe(CN)
6]
4−)に変換され、電流が流れるためである。反応を継続させるためには、さらなる電気活性種(例えば、[Fe(CN)
6]
3−)が電極に接近しなければならない。これは通常、電気活性種の濃度勾配に依存する拡散によって、溶液内で発生する。したがって、追加の電気活性種を電極面に供給し、電流を流すことは、電気活性種の拡散フラックスに左右される。
【0065】
電気分解が継続するにつれ、電気活性種は電極からより遠い位置から拡散するため、電極面への電気活性種の供給が低下して、電流の減少を招く。
【0066】
電流は、以下の式を用いて算出することができる。
[式2]
ただし、iは電流であり、nは反応中に伝達される電子のモル数であり、Fはファラデー定数(96,484Cmol
−1)であり、Aは電極面積であり、kredは電子伝達のための速度定数であり、cbulkは電気活性種の総濃度であり、tは時間であり、Dは電気活性種の拡散係数である。
【0067】
電流は、還元種と酸化種の結合濃度である電気活性種のバルク濃度に関連する。よって、ステップボルタンメトリは、電気活性種の拡散係数を推定することができる。したがって、電気活性種の拡散がタンパク質基質の存在に影響を受ける実施形態において、例えば、タンパク質基質のタンパク質分解による拡散係数の変化を用いて、タンパク質基質のタンパク質分解を検出または監視することができる。
【0068】
直線掃引ボルタンメトリ
直線掃引ボルタンメトリ(LSV)では、固定電位範囲が採用されるが、電圧は上限(V
1)から下限(V
2)まで走査される。直線掃引ボルタンモグラムの特徴は、電子伝達反応速度、電気活性種の化学反応、および電圧走査速度などの多数の要因に依存する。
【0069】
LSVでは、電圧がより還元的な値に掃引されるにつれ、電流が流れ始め、最終的には低下前にピークに達する。電極面で、電子伝達速度は電圧掃引速度よりも速く、電極面では、電気力学的によって予想されるのとほぼ同一に平衡が達成される。電圧が最初にV
1から掃引されると、電極面での平衡が変更し始め、電流が流れ始める。電圧が初期値からさらに掃引されると電流が上昇し、平衡がシフトして、より多くの電気活性種が還元される。電流のピークは拡散層が電極の十分上まで成長したときに生じるため、電気活性種の電極への流れは、電流が低下し始めるときにネルンストの式によって要求されるほど速くない。ネルンストの式は、電気化学セルの電圧とセルの成分のうち、1つの濃度との間の関係を、以下のように説明している。
【0070】
E
cell=E
0cell−(RT/nF)lnQ
ただし、E
cellは一方の電極への電位の印加後のセル電位であり、E
0cellは電位印加前のセル電位であり、Rは気体定数(8.31(volt−coulomb)/(mol−K)であり、Tは温度(K)であり、nは電気化学反応で交換される電子のモル数(mol)であり、Fはファラデー定数(96,484Cmol
−1)であり、Qは反応商(平衡濃度ではなく初期濃度での平衡式)である。
【0071】
電極面上方の拡散層の寸法は、使用される電圧走査速度に応じて異なる。低電圧走査では、拡散層は高速走査と比較して、電極からずっと離れて成長する。したがって、電極面への流れは、高走査速度よりも低走査速度でかなり小さい。電流は電極に向かう流れに比例するため、電流の大きさは走査速度が低いほど低くなり、走査速度が高いほど高くなる。
【0072】
「線形走査」という文言は、Ag/AgCIに対して−0.7V〜+0.7Vなどの固定走査速度で、単独の「順」方向で変動し、1.4Vの走査範囲を提供する走査と定義される。線形走査は電位の一連の増分変化によって見積もることができる。増分が時間的に非常に接近して共に生じる場合、それらは連続的線形走査に相当する。よって、線形変化に近似する電位変化を適用することは線形走査とみなすことができる。
【0073】
線形走査中、作用電極での電位が一定速度で時間と共に線形に変化する間、作用電極での電流が測定される。例えば、約−0.5V〜+0.5Vから約−1.0V〜+1.0Vの走査範囲は通常、ある状態(例えば、還元)から別の状態(例えば、酸化)への変移が生じるように、電気活性種の酸化還元対の還元および酸化状態を含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、電圧は、約10mV/秒以上、約50mV/秒以上、約100mV/秒以上、約150mV/秒以上、約200mV/秒以上、約500m/秒以上、約1000mV/秒以上、または約2000mV/秒以上の速度で変更される。
【0075】
周期的ボルタンメトリ
周期的ボルタンメトリ(CV)はLSVと酷似しているが、電圧が固定速度での2つの値間で周期的に掃引または走査される。しかし、電圧がV2に達すると、走査が逆転されて、電圧がV1へと戻る。順掃引は、電気活性種が還元されるときにLSV実験で見られるのと同一の反応をもたらす。走査が逆転されると、電気活性種が酸化されて、電流の流れが逆転する。
【0076】
「周期的走査」という文言は、走査範囲は酸化還元対の酸化および還元ピークを含む線形順走査と線形逆走査の組み合わせを指す。例えば、約−1.0Vから約+1.0Vおよび再び約−1.0Vへと周期的に電位を変動させることは、酸化ピークと還元ピークの両方が走査範囲に含まれるフェリシアニド/フェロシアニド酸化還元対の周期的走査の1例である。
【0077】
方法
本発明は、特にタンパク質分解によりタンパク質基質の分解を検出および/または監視する方法を提供する。さらに、本発明は、サンプルのタンパク質分解活性を検出および/または監視する様々な方法を提供する。
【0078】
該方法は通常、第1の電極と、第2の電極と、電気活性種電解液とを提供することを備え、タンパク質基質は少なくとも第1の電極の少なくとも一部に、または接触して配置される。電位が電解液を通じて印加されると、電流が発生する。電位が変動すると、電流も変動し、電圧の関数である電流変化が複数の時点で測定される。タンパク質基質が例えばタンパク質分解によって劣化する場合、電圧の関数である電流変化は、基質の分解が生じないベースラインまたは制御測定値(通常は電荷対電流)と比較して変動する。通常、タンパク質基質が存在すると、高有効粘度のために電気活性種の拡散が大きく阻害される。例えば、線維素溶解現象による基質分解はタンパク質繊維間の相互作用の度合いを低減させるため、有効粘性係数が減少して、基質を含む基質または多孔性担体内の拡散係数増加を招き、電気化学電流を変化させる。
【0079】
「ベースライン」は制御測定値であり、いくつかの実施形態では、検査サンプルが比較対象とする正常な電荷対電流測定値である。したがって、制御またはベースライン電荷対電流測定値に基づき、サンプルがベースラインレベルと比較して基質分解において測定可能な増加または減少を有する、あるいはほぼ変化がない、のいずれかを判定することができる。1側面では,ベースラインレベルは、被験者における特定の線維素溶解活性内のタンパク質分解活性を表すことができる。したがって、電荷対電流測定値のベースラインレベルを参照して使用される「タンパク質分解活性」という文言は、被験者または被験者の集団からのサンプルが存在する場合、あるいは、正常なタンパク質分解活性および/または線維素溶解活性を有すると考えられる被験者または被験者の集団からのサンプルが存在する場合のいずれかで確定されるベースラインレベルを指す。別の実施形態では、ベースラインは被験者の以前のサンプルから確定することができるため、被験者のタンパク質分解活性を時間をかけて監視することおよび/または、所与の療法または薬物の効果を時間をかけて評価することができる。
【0080】
ベースラインを確定する方法は好適には、被験者からのサンプルを評価するのに使用される方法と同一である。特定の実施形態では、ベースラインレベルは評価対象のサンプルと同一のサンプル種を用いて確定される。
【0081】
ある実施形態では、ベースラインは、被験者から取得される自家制御サンプル内に確定される。すなわち、サンプルは、評価対象サンプルを取得する被験者と同一の被験者から取得される。制御サンプルは適切には、評価対象サンプルと同種のサンプルである。
【0082】
該方法は、電位ステップボルタンメトリ、直線掃引ボルタンメトリ、または周期的ボルタンメトリなどの当該技術において既知な任意のボルタンメトリ方法を用いて、被験者サンプルから被験者またはサンプル内のタンパク質分解活性を検出または監視することを含むことができる。タンパク質分解活性は、所定または基準の電荷対電流測定値と比較して、正常な被験者と異常なタンパク質分解活性を有する被験者とを区別することができる。
【0083】
ボルタンメトリ方法は例えば、測定値間の30〜60秒の待機期間、同一のタンパク質基質で繰り返すことができる。その期間中、タンパク質分解反応、例えばプラスミン線溶反応は継続する場合があり、時点毎に電流反応が先の測定値から変化する。通常、その反応はさらに明確になる。例えば、初期(t=0)電流に対する30秒または60秒の電流信号の比を測定パラメータとして使用することができる。このように、その他のパラメータ(活性電極表面積、K
3Fe(CN)
6濃度、濾紙変化)の影響は、2つの時点間で変動しないため、内部で制御することができる。唯一の変数は、タンパク質分解、例えば、線維素溶解現象など、タンパク質基質分解の程度である。
【0084】
タンパク質基質は電極に直接形成することができる。もしくは、タンパク質基質は、溶液内または電極面に形成することができ、次いで、少なくとも1つの電極が基質と接触して配置される。特定の実施形態では、タンパク質基質は、多孔性担体と基質と接触して配置される少なくとも1つの電極とにおいて少なくとも部分的に形成される。例えば、基質は、フィブリノーゲンなどのタンパク質の溶液を多孔性担体に塗布し、次に、多価陰イオン、架橋剤、またはトロンビンなどの追加のタンパク質を担体に塗布して基質の生成を促進することによって形成することができる。その後、多孔性担体を電極の少なくとも一部に貼付する、あるいは電極を担体に挿入することができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、電極面の少なくとも一部に(例えば沈着によって)付着したタンパク質基質を有する少なくとも1つの電極を、タンパク質分解活性を有すると推定されるサンプルに挿入することができる。
図1は、フィブリン血餅を付着させた、あるいは付着させていない本発明の電極面の1例と、複数の電極およびヒトのフィブリン血餅を含む合成基質(濾紙)とを搭載したセンサチップの非限定的な例とを示す。
【0086】
いくつかの実施形態では、電極がタンパク質基質と接触しており、ボルタンメトリ測定値が取得される。通常、これは電圧の関数(例えば、電荷対電流)である電流変化の測定値である。次いで、サンプルが多孔性担体に貼付され、さらにボルタンメトリ測定値が取得される。サンプル貼付前後の測定値間の差は、タンパク質分解活性を有するサンプルを表す。
図2は、測定変数として特定時点での電流を用い、空の金電極と、表面にフィブリン血餅を有する金電極と、プラスミンでの培養後のフィブリン血餅を有する金電極と、を比較する電位ステップボルタンメトリ解析の1例を示す。フィブリン血餅を有する金電極の電流測定反応は、空の金電極の電流測定反応と比較して目立って減少している。しかしながら、プラスミンでの培養後、フィブリン血餅を有する金電極の電流測定反応が上昇する。
【0087】
サンプルは、体液、排泄物、または分泌物などの生物学的サンプルとすることができる。例えば、サンプルは、唾液、血液、血漿、血清、または間質液から成る群から選択することができる。
【0088】
サンプルは、健康な被験者あるいは疾病または症状を有する被験者、または疾病または症状を有すると疑われる被験者から取得することができる。いくつかの実施形態では、疾病または症状は線維素沈着と関連付けられる。これらの疾病または症状は、深部静脈血栓症、肺塞栓、腎臓病、肥厚性ケロイド瘢痕、心筋梗塞、転移、炎症、播種性血管内凝固症候群、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ、糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、自己免疫性神経障害、肉芽腫性疾患、寄生虫感染症、および拒絶反応を含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、疾病または症状は細胞外基質分解と関連付けられ、その例は転移性癌を含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、サンプルは、上記疾病または症状において採用される療法または治療計画などの治療薬または治療計画の適用前、中、または後に被験者から取得される。上記実施形態では、サンプルに対して、治療薬または治療計画が被験者のタンパク質基質劣化機能に及ぼす影響を検出または監視する手段として、上述のボルタンメトリ測定を行うことができる、例えば、タンパク質基質がフィブリン血餅である実施形態において、該方法は、被験者の線維素溶解活性に関する治療薬または治療計画の効果を検出または監視することができる。
【0091】
装置
タンパク質基質の分解の検出および/または監視用装置が提供される。該装置は通常、少なくとも電極とタンパク質基質とを備える。該基質は通常、電極の少なくとも一部と接触する。いくつかの実施形態では、基質は、例えば、基質が電極に生成されるように、電極またはその一部を少なくとも1つのタンパク質、少なくとも1つの多価陰イオン、および/または少なくとも1つの架橋剤を備える溶液と接触して配置することによって、電極に直接形成することができる。もしくは、基質は、電極を基質を生成する成分を含む溶液、例えばフィブリノーゲンおよびトロンビンの溶液、または血液サンプルと接触して配置することによって、電極に形成することができる。
【0092】
システム
本明細書に記載の方法を実行するため、タンパク質基質のタンパク質分解のボルタンメトリ検出および/または監視を実行するシステムが提供される。該システムは通常、作用電極と、対向電極と、電流測定ユニットと、制御ユニットと、データ記憶ユニットと、データ処理ユニットとを含むボルタンメトリ解析手段を備える。対向電極は基準電極と補助電極とを備えることができる。1側面では、作用電極および/または対向電極は、フィブリン血餅などのタンパク質基質で少なくとも部分的に被覆することができる。本発明のボルタンメトリ解析手段の非限定的な例を
図3に示す。
【0093】
特定の実施形態では、作用電極は、当該技術において既知な電位源または市販の電位源などの制御可能な変位電位源によって提供される第1の電位に接続される。電流測定ユニットは、作用電極と対向電極との間を流れる電流を登録するように構成され、電流測定ユニットによって測定される電流はタンパク質基質のタンパク質分解の指標として使用される。図示される例では、電流測定ユニットは、測定電流を表す出力を生成する電流増幅器を備える。
【0094】
制御ユニットは通常、第2の電位、作用電極、および対向電極を制御し、電流測定ユニットから電流値を複数回読み取るように構成される。周期的ボルタメントリを使用する方法では、制御サイクルは、第2の電位を設定することと、作用電極と対向電極とを制御することと、電流測定ユニットから電流値を読み取ることとを備える。制御ユニットは、制御ソフトウェアが記憶されるメモリユニットまたは外部処理制御システムによって制御される制御インタフェースを備えることができる。
【0095】
第2の電位は通常、当該技術において既知な電位源または市販の電位源などの、対向電極(または対向電極が基準電極と補助電極を備える実施形態では補助電極)に接続される制御可能な変位電位源によって供給される。データ記憶ユニットは記録された電流値を記憶し、いくつかの実施形態では、市販のメモリ回路を備える。処理ユニットは、所定の数学モデルを用いて、記憶された電流値を解析するのに使用される。解析結果は、
図4および5に提示されるボルタンモグラムまたは電流対時間図などとして、ディスプレイに表示される。
【0096】
特定の実施形態では、作用電極、対向電極、電流測定ユニット、および制御ユニットは、測定された電流値を内部または外部データ記憶ユニットおよび処理ユニットに出力するように構成される単独の装置として一体化される。制御ユニットは、外部データ記憶および処理ユニットによって外部から制御される。したがって、いくつかの実施形態では、現場使用または簡易迅速使用が可能なタンパク質基質のタンパク質分解を検出または監視する安価な汎用システムが企図される。
【0097】
いくつかの実施形態では、本発明のシステムは、フィブリン血餅などの特定のタンパク質基質のタンパク質分解を検出または監視するために設計される。これらの実施形態では、システムは望ましくは完全に一体化される。すなわち、タンパク質基質、作用電極、対向電極、電流測定ユニット、制御ユニット、データ記憶ユニット、および処理ユニットは1つの装置として一体化される。該装置は、解析結果を出力するように構成される。
【0098】
キット
本発明は、本明細書に開示される方法を実行するキットも提供する。通常、本発明の方法を実行するキットは、これらの方法を実行するのに必要な薬剤も全て含む。特定の実施形態では、キットはタンパク質基質を備える担体、または担体と担体上にタンパク質基質を形成するのに必要な薬剤と、例えばフィブリノーゲンとトロンビンの溶液を備えることができる。キットは、(1)少なくとも1つの電極、(2)少なくとも1つの電気活性種、(3)少なくとも1つの電解液、(4)少なくとも1つの塩、および(5)既知のレベルのタンパク質分解活性を有する少なくとも1つの制御サンプル、のうち任意の1つまたはそれ以上も備えることができる。
【0099】
該キットは、本発明によりタンパク質基質のタンパク質分解を質的または量的に検出または監視するキットを用いるために印刷された指示も特徴とすることができる。
【0100】
フィブリン血餅の実施形態
本発明は、本発明の方法、システム、およびキットで使用されるフィブリン血餅または「メッシュ」を作製する工程にも関する。この工程は通常、
(a)フィブリノーゲン含有材料を備える第1の成分を提供することと、
(b)フィブリノーゲンをフィブリン血餅に変換する物質を備える第2の成分を提供することと、
(c)第1の成分と第2の成分とを混合することによってフィブリン血餅含有材料を形成することと、
(d)フィブリン血餅含有材料と電極の少なくとも一部とを接触させることと、
を備える。
【0101】
第1の成分は好適には、約2mg/mL以上、約5mg/mL以上、または約10mg/mL以上のフィブリノーゲン、望ましくは約15mg/mL以上、例えば約20mg/mL〜約250mg/mLまたは約20mg/mL〜約150mg/mLのフィブリノーゲンを含むフィブリノーゲン含有溶液を備える。
【0102】
第2の成分は好適には、トロンビンを備える溶液を備える。ある量のトロンビン含有溶液が第1の成分と接触して、約1000IU/mL未満、約200IU/mL未満、約100IU/mL未満、約50IU/mL未満、約20未満、約10IU/mL未満、または約1IU/mL未満の最終トロンビン濃度/活性を提供する。トロンビンは活性または不活性にすることができ、当該技術では、トロンビンが不活性である場合、トロンビンのサンプルを凝固させるのに、活性トロンビンに比べてより大量の不活性トロンビン(例えば、放射性や光によって活性化可能なトロンビン(=光活性化可能トロンビン))が必要とされることが既知である。トロンビンは、組換え型、合成、または天然、すなわちヒトまたは動物の血漿由来とすることができる。
【0103】
フィブリン血餅は通常、電気活性種(例えば、K
3Fe(CN)
6)の拡散を阻害する孔径を有する。非限定的な例では、フィブリン血餅の孔径は、約1000ナノメートル(nm)未満、100nm未満、約50.0nm未満、約20.0nm未満、10.0nm未満、5.0nm未満、2.0nm未満、1.0nm未満である。
【0104】
フィブリン血餅含有材料は、「裸の」(例えば、未支持の)フィブリン血餅、ならびに多孔性固体担体と共に含有される、あるいはそれ以外の形で連合されるフィブリン血餅を範囲に含む。本発明で使用される許容可能な担体は広範に変更し、合成または天然、有機または無機、可撓または可撓とすることができる。代表的な担体は、織布または不織布(例えば、繊維布)、微孔性繊維、および微孔性膜などのポリマ担体、ならびに粒状または珠状担体を含む。織布または不織布は規則的または不規則的な物理的面構造を有することができる。
【0105】
例示の多孔性固体担体は、フィブリン血餅の孔径よりも大きな孔径の孔を備える構造を有する。例えば、孔径は約10.0マイクロメートル(μm)以上であり、好適には20μm以上であって、電気活性種の拡散をさほど制限しない。
【0106】
多孔性担体の非限定的な例は、濾紙、焼結ガラス、ポリ(フッ化ビニリデン)膜、アガロースなどの粒状または珠状担体、親水ポリアクリル酸塩、ポリスチレン、鉱物酸化物、およびセファロースを含む。
【0107】
好適には、フィブリン血餅含有材料(例えば、裸の(例えば、未支持の)、もしくは多孔性固体担体と共に含有される、あるいはそれ以外の形で連合される)は機械的または物理的処理を施される。機械的処理は圧縮または押出を含むことができる。代表的な物理的処理は脱水(例えば、凍結乾燥や熱脱水など)および放射線(例えば、光)を含む。機械的または物理的処理は無菌状態下で適切に実行される。
【0108】
特定の実施形態では、フィブリン血餅含有材料は、酸化または還元されて荷電種(例えば、フェニシアニド、フェロシアニド、デカメチルフェロセン(DMFc)、1,1’−ジメチルフェロセン(DiMFc)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、フェロセンカルボン酸など)を形成することのできる電気活性種を備える。
【0109】
いくつかの実施形態では、フィブリン血餅含有材料は脱水される。これらの実施形態では、フィブリン血餅含有材料は好適には、検査下のサンプル(例えば、生物学的サンプル)と接触したときに再水和される。脱水は、酸素含有雰囲気(例えば、空気)中、あるいは窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で実行することができる。望ましくは、脱水は、凍結乾燥(すなわち、フリーズドライ)、熱脱水(例えば、周囲温度)、浸透、濾過、および遠心分離から選択される。脱水後、フィブリン血餅含有材料は好適には、低含水率、例えば約7.5%未満、約2%未満、約1%未満、または約0.5%未満の含水率を有する。特定の実施形態では、フィブリン血餅含有材料は、フィブリン血餅を備える乾燥またはほぼ乾燥した多孔性担体を作製するように凍結乾燥される。
【0110】
フィブリン血餅含有材料(例えば、裸の(例えば、未支持の)、もしくは多孔性固体担体と共に含有される、あるいはそれ以外の形で連合される)が当業者にとって既知な従来の方法を用いて電極に装着される。
【0111】
上記の手順または類似の体外作製方法により作製されるフィブリン血餅−本明細書では「合成」血餅とも称する−は、天然血液または血漿を凝固させて作製される天然血餅を超える1つまたはそれ以上の利点を備える。
【0112】
・合成血餅は、天然血液(0.3〜0.4%wt)よりも高レベルまたは高濃度のフィブリノーゲン(例えば、1.5%、2%、4%、5%、10%、15%wt)が存在する際に形成されて、プラスミノーゲン/プラスミンおよびtPAの特定装着のための面をさらに提供することによって、タンパク質分解を早め、検出を迅速化する。
・合成血餅は共有結合的に架橋されないため、第XIII因子の作用を通じて架橋される硬質な天然血餅とは逆に、タンパク質分解の流動化が進む。
・天然血餅は共有結合的に架橋された阻害剤であるα−抗プラスミンを含み、生理学的症状下で長時間、線維素溶解現象に無反応となる一方、合成血餅はα−抗プラスミンなしで用意されるために線維素溶解現象が速まる結果、読取時間も速くなる。
【実施例】
【0113】
本発明を、以下の具体的な実施例を参照してより詳細に説明するが、該実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0114】
実施例1:タンパク質分解のボルタンメトリ測定
ヒトのフィブリノーゲン原液とヒトのトロンビン原液を混合して10μLの最終溶液(2%のフィブリノーゲン+0.1Uのトロンビン最終濃度)を得て、ボルテックスして、すぐに5x5mm濾紙のストリップ(大孔径のワットマンNo.4、30〜40μm粒子保持)に塗布した。フィブリン血餅が紙製ストリップの孔内に形成され、ストリップは室温で2時間、乾燥するまで放置した。フィブリノーゲン濃度のため、血餅の孔径は濾紙の孔径よりも小さかった。
【0115】
ストリップ血餅は、0.2%のTween20を含む50mMのK
3Fe(CN)
6溶液に含浸して、乾燥するまで放置した。ストリップを平坦なプリント電極(金または導電性カーボン)を含有するチップに装着した。任意の銀ワイヤを基準電極としてストリップに装着した(
図3C)。ストリップを2nMのヒトのプラスミンを含有するリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)で再水和した。プラスミンを含まないPBSを使用して対照として使用した。ストリップに関して電気化学的検査を実行し、K
3Fe(CN)
6からK
2Fe(CN)
6への還元から生じる電気化学電流を判定した。電流反応(
図5E、F、G)はいくつかのパラメータ:電位、電極面積、K
3Fe(CN)
6濃度、および拡散係数の関数であった。
【0116】
実施例2:コラゲナーゼ活性に関するコラーゲン基質
15%のゼラチンおよび10mMのK
3Fe(CN)
6を備える溶液を作製し、95℃まで加熱してゼラチンを溶解させ、ナイロンメッシュ膜(70μmの孔径)を高温溶液に浸すことによってゼラチンを膜上に付着させた。ゼラチン膜をセンサ電極に装着する前に24時間放置して冷却乾燥させた。PBS緩衝サンプル含有コラゲナーゼ酵素、またはコラゲナーゼを含有しない制御PBS緩衝サンプルをセンサチップに追加して、電流を時間の関数として測定した。測定後、膜を走査型電子顕微鏡で撮像し(
図6)、ゼラチン基質の切断を明らかにした。
図7は、コラゲナーゼが存在する場合と存在しない場合の電流測定図である。