特許第6131245号(P6131245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131245セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131245
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20170508BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20170508BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   G21F9/30 517A
   G21F9/12 501B
   G21F9/30 517Z
   G21F9/30 541A
   B09B3/00 303Z
   B09B3/00ZAB
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-511238(P2014-511238)
(86)(22)【出願日】2013年4月17日
(86)【国際出願番号】JP2013061419
(87)【国際公開番号】WO2013157585
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-94740(P2012-94740)
(32)【優先日】2012年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390016090
【氏名又は名称】ユニオン昭和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100149250
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】三村 均
(72)【発明者】
【氏名】松倉 実
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−184598(JP,A)
【文献】 特開昭59−058398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 − 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物及びモレキュラーシーブを混合する工程(A)と、
前記工程(A)により得られた混合物を焼成してセラミックス状固化体とする工程(B)と、
を有する、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法。
【請求項2】
工程(A)において、前記不溶性フェロシアン化合物と前記モレキュラーシーブとの質量比が、1:1〜1:3である請求項1に記載のセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法。
【請求項3】
前記モレキュラーシーブが、ゼオライトである請求項1又は2に記載のセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法。
【請求項4】
前記ゼオライトが、モルデナイト又はクリノプチロライトである請求項3に記載のセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法。
【請求項5】
工程(B)において、焼成の最高温度が、1000〜1100℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載のセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法。
【請求項6】
工程(B)において、前記焼成が、600〜700℃の条件で3〜180分間処理された後、1000℃以上の高温で3〜180分間処理される請求項1〜5のいずれか1項に記載のセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法。
【請求項7】
前記工程(A)において得られた混合物をプレス成型する工程(C)を更に有し、前記工程(B)において前記工程(C)により得られたプレス成型体を焼成する請求項1〜6のいずれか1項に記載のセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物の処理法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設において発生する廃液中には、種々の放射性物質が含まれており、排出に先立ってこれを除去する必要がある。これらの廃液の中でも、高レベル廃液とされるものでは、比較的高濃度の硝酸又は硝酸ナトリウムを主成分とし放射性セシウムその他の核種を含有している。このような廃液の中からセシウムを選択的に取り除く方法としては、不溶性フェロシアン化合物を吸着剤として使用することが知られている(例えば、特許文献1、2)。その他、放射性排水等からセシウムを分離濃縮するために、フェロシアン化合物を添着させたゼオライトを用いることが報告されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−118596号公報
【特許文献2】特開平5−254828号公報
【特許文献3】特公昭62−18216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3において用いられる不溶性フェロシアン化合物は、熱分解しやすく、還元性雰囲気ではシアンガスの発生が懸念される。セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物は高温となった場合に、容易に熱分解してセシウムが揮発する可能性がある。そのため、当該不溶性フェロシアン化合物を焼成固化すると、セシウムは揮発し、残渣として不溶性フェロシアン化合物に由来する鉄やコバルトの酸化物が残ることとなる。
【0005】
原子力関連施設において、このようなセシウム吸着した使用済みの不溶性フェロシアン化合物が大量に発生しているため、これらの処理が問題となっている。そこで、本発明は、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物を、セシウムの揮発を抑制しつつ安定固定し、安全性の高い処分形態とするための安定固定化法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、モレキュラーシーブを固化担体として利用することにより、焼成時のセシウムの揮発を抑制し、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物を安定なセラミックス状固化体にすることができることを見出した。本発明は係る知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち本発明は、
[1]セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物及びモレキュラーシーブを混合する工程(A)と、
前記工程(A)により得られた混合物を焼成してセラミックス状固化体とする工程(B)と、
を有するセシウムの安定固定化方法、
[2]工程(A)において、前記不溶性フェロシアン化合物と前記モレキュラーシーブとの質量比が、1:1〜1:3である[1]のセシウムの安定固定化方法、
[3]前記モレキュラーシーブが、ゼオライトである[1]又は[2]のセシウムの安定固定化方法。
[4]前記ゼオライトが、モルデナイト又はクリノプチロライトである[3]のセシウムの安定固定化方法、
[5]工程(B)において、焼成の最高温度が、1000〜1100℃である[1]〜[4]のいずれかのセシウムの安定固定化方法、
[6]工程(B)において、前記焼成が、600〜700℃の条件で3〜180分間処理された後、1000℃以上の高温で3〜180分間処理される[1]〜[5]のいずれかのセシウムの安定固定化方法、
[7]前記工程(A)において得られた混合物をプレス成型する工程(C)を更に有し、前記工程(B)において前記工程(C)により得られたプレス成型体を焼成する[1]〜[6]のいずれかのセシウムの安定固定化方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物をセシウムの揮発を抑制しつつ安定固定して処理し、安全性の高い処分形態とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の安定固定化方法は、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物及びモレキュラーシーブを混合する工程(A)と、前記工程(A)により得られた混合物を焼成してセラミックス状固化体とする工程(B)と、を有する。このような方法によって、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物をセシウムの揮発を抑制しつつ安定固定することができる。
このような結果が得られた理由は定かではないが以下の理由によるものと考えられる。
【0010】
セシウム吸着後の不溶性フェロシアン化合物は、一般的に600〜700℃の高温条件で熱分解してCs2O等の酸化セシウムを放出する。この際に、モレキュラーシーブ添加されていることによって、これらの放出したセシウムが該モレキュラーシーブに吸着される。当該セシウムを吸着したモレキュラーシーブを更に高温で焼成することによって、モレキュラーシーブの分解生成物であるSi−O−Al(シリカ−アルミナ)又はSi−O−Ti(シリカ−チタニア)等と反応してCs−Al−O−Si−O化合物又はCs−Ti−O−Si−O等として固定化されると考えられる。
【0011】
<工程(A)>
工程(A)では、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物及びモレキュラーシーブを混合する。
工程(A)において、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物とモレキュラーシーブとの質量比は、セシウムを揮発させずに安定固定化する観点から、10:1〜1:10が好ましく、5:1〜1:5がより好ましく、更に吸着セシウムの固定化率を顕著に高める観点から、1:1〜1:3が更に好ましい。
【0012】
(セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物)
本発明で用いられる、セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物は、不溶性フェロシアン化合物によって、廃液中からセシウムを吸着したいわゆる使用済みの不溶性フェロシアン化合物である。
ここで「不溶性」とは、20℃における水への溶解性が、5g/100mL以下のものを意味する。
吸着前の不溶性フェロシアン化合物としては、セシウムの吸着・除去に使用可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、ジカリウムヘキサシアノコバルト鉄(K2[CoFe(CN)6])、ジナトリウムヘキサシアノコバルト鉄(Na2[CoFe(CN)6])、ジカリウムヘキサシアノニッケル鉄(K2[NiFe(CN)6])等が挙げられる。これらの中でも、特に、ジカリウムヘキサシアノコバルト鉄、ジカリウムヘキサシアノニッケル鉄が好ましい。
【0013】
セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物は、例えば、セシウム塩溶液と、前記不溶性フェロシアン化合物とを混合し、セシウムを吸着することにより得られる。ここでセシウム塩としては特に限定されないが、例えば、硝酸セシウム(CsNO3)、酢酸セシウム(CH3COOCs)、硫酸セシウム(Cs2SO4)、塩化セシウム、ヨウ化セシウム等のセシウムハロゲン化物が挙げられる。
【0014】
セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物は、特に限定されないが、前述の不溶性フェロシアン化合物の陽イオンが、セシウムイオンに交換されたものが挙げられる。セシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物中のセシウム含有量は、特に限定されないが、例えば、0.001〜30質量%である。なお、セシウム含有量は、後述するEDS(エネルギー分散型微小部X線分析法)による解析により求めることができる。
【0015】
(モレキュラーシーブ)
本発明において用いられるモレキュラーシーブは、特に制限されるものではないが、ゼオライト、ケイチタン酸塩が挙げられる。これらの中でも、ゼオライトが好ましい。
【0016】
本発明において用いられるゼオライトは、特に制限されるものではないが、フォージャサイト、A型ゼオライト、L型ゼオライト、ゼオライトβ、モルデナイト、フェリエライト、クリノプチロライトが挙げられる。なお、フォージャサイトとしては、Xゼオライト、Yゼオライト、超安定化Yゼオライト(Ultra Stable Y;USY)が挙げられる。クリノプチロライトは、天然クリノプチロライトであっても、合成クリノプチロライトであってもよい。これらの中でも、特に好適な吸着保持率を得る観点から、好ましくは、モルデナイト、クリノプチロライトである。
本発明に用いるゼオライトのシリカ/アルミナ比は、特に制限はないが、通常ゼオライトの種類によりその値が決定される。例えば、モルデナイト、クリノプチロライトの場合は3〜200(好ましくは5〜200)、ゼオライトβの場合は5〜300のものが通常用いられる。
ケイチタン酸塩としては、結晶性ケイチタン酸塩(クリスタラインシリコチタネート(CST))が好ましい。
【0017】
<工程(B)>
工程(B)では、前記工程(A)により得られた混合物を焼成してセラミックス状固化体とする。本発明においては、焼成の条件としては、600〜700℃の条件で、3〜180分間処理(以下、単に「第一段階の焼成」とする。)した後に、1000℃以上の高温で3〜180分間処理(以下、単に「第二段階の焼成」とする。)されることが好適である。すなわち比較的低温の第一段階の焼成において、不溶性フェロシアン化合物に吸着したセシウムをモレキュラーシーブに移行させ、比較的高温の第二段階の焼成において、セシウムを吸着したモレキュラーシーブを焼結してセラミックス状固化体に変換しやすくすることで、セシウムの揮発をより顕著に抑制することができる。
第一段階の焼成における処理時間は、セシウムの好適な移行と作業の効率の観点から、好ましくは5〜170分間であり、より好ましくは5〜160分間である。
第二段階の焼成における処理時間は、セラミックス状固化体とするための作業の効率の観点から、好ましくは5〜100分間であり、より好ましくは20〜40分間である。
本発明の焼成における最高温度は、セラミックス状固化体を得やすくする観点から、好ましくは1000〜1200℃であり、より好ましくは1000〜1100℃である。
【0018】
(セラミックス状固化体)
工程(B)によりセラミックス状固化体が得られる。セラミックス状固化体としては、アモルファスであっても、結晶性であってもよく、焼成によるモレキュラーシーブの分解物が含まれる。セラミックス状固化体の中で、セシウムは、どのような形態で存在していてもよいが、Cs−Al−O−Si−O又はCs−Ti−O−Si−O等の結合を生成するなどして、共有結合によりセシウム元素が取り込まれていることが好適である。また、セラミックス状固化体は、不溶性フェロシアン化合物に由来する残渣の鉄、コバルト、ニッケル等が含まれていてもよい。その他、セラミックス状固化体には、アンモニア、NOxの放出によって空隙が発生することもある。
【0019】
<工程(C)>
本発明の安定固定化方法は、工程(A)及び工程(B)の間に、工程(A)において得られた混合物をプレス成型する工程(C)を更に有し、前記工程(B)において前記工程(C)により得られたプレス成型体を焼成することが好適である。工程(C)においてプレス成型することで、混合物が押し固められて、セシウムの揮発をより顕著に抑制することが可能となる。また、プレス成型することで、焼成(第二段の熱処理)において、るつぼ等の容器に粉末が付着することを防止することができる。なお、プレス成型の方法については、特に限定されず、公知の方法を用いて行うことが可能である。特に、混合物をペレット状に成型することで、焼成後のセラミックス固体の取り扱いが容易となる。
【0020】
以上、本発明の安定固定化方法により得られるセラミックス状固化体は、セシウムを安定固定化することができる。更に本発明によれば、放射性物質を含む廃液の処理において、大量に発生するセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物中のセシウムを固定化して廃棄することができる。
【実施例】
【0021】
(製造例1:セシウム吸着不溶性フェロシアン化合物)
0.5mol/LのCsNO3水溶液100mLに対して、不溶性フェロシアン化合物(ジカリウムヘキサシアノコバルト(II)鉄(II):K2[CoFe(CN)6])2gを添加して1日攪拌して室温で放置した。生成した沈殿物を蒸留水で5回洗浄し、90℃で6時間乾燥することにより、セシウム吸着不溶性フェロシアン化合物(セシウムヘキサシアノコバルト(II)鉄(II))が得られた。当該不溶性フェロシアン化合物中のセシウムの濃度は、11.8質量%であった。
【0022】
(実施例1:セシウムの安定固定化)
製造例1で得られたセシウム吸着不溶性フェロシアン化合物と、ゼオライト(クリノプチロライト、ジークライト工業社製)とを質量比1:1の割合で混合して、以下に示す、昇温方法Aにて熱処理し、セラミックス状固化体を得た。セシウム吸着不溶性フェロシアン化合物とゼオライトとの混合時及び熱処理後の試料についてEDS(エネルギー分散型微小部X線分析法)により解析を行って試料中のセシウム濃度(質量%)を測定し、これらの結果から吸着保持率(%)([熱処理後のセシウム濃度]/[混合時のセシウム濃度]×100)を求めて、表1に示した。
【0023】
(実施例2〜20、比較例1〜11)
モレキュラーシーブの種類、セシウム吸着不溶性フェロシアン化合物とモレキュラーシーブとの質量比、及び、昇温方法を表1に記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にして、混合物を熱処理した。得られた結果を表1に示した。実施例1〜20ではセラミックス状固化体が得られた。なお、比較例1〜11においては、熱処理後の試料は溶融固化しなかった。
【0024】
(昇温方法)
昇温方法A: 200℃で30分保持後、昇温(17℃/分)、400℃で30分保持後、昇温(20℃/分)、500℃で30分保持し、昇温(14℃/分)して1000℃で1時間保持し、昇温(17℃/分)して1200℃で1時間保持した(600〜700℃:7.14分、1000℃以上:1時間以上)。(*なお、表1中最高温度が1000℃の実施例においては、上記昇温方法において、1000℃で1時間保持後、昇温せずに終了した。)
昇温方法B: 200℃で30分保持後、昇温(17℃/分)して400℃で30分保持後、昇温(20℃/分)して500℃で30分保持し、その後1100℃まで昇温(14℃/分)した。(*なお、表1中最高温度が1000℃の実施例においては、上記最終昇温温度を1000℃として5分間程度保持して終了した。)
昇温方法C: 45℃から200℃まで昇温(25℃/分)し、その後300℃まで昇温(22℃/分)し、その後500℃まで昇温(25℃/分)し、その後1000℃まで昇温(16℃/分)し、その後1200℃まで昇温(6℃/分)した。(*なお、表1中の各比較例においては、示された最高温度に達した時点又は、その温度での保持がある場合には保持した後に終了した。)
【0025】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の安定固定化方法により得られるセラミックス状固化体は、セシウムを安定固定化することができる。更に本発明によれば、放射性物質を含む廃液の処理において、大量に発生するセシウムを吸着した不溶性フェロシアン化合物中のセシウムを固定化及び減溶化処理して廃棄することができる。