(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131257
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】駆動装置及び該駆動装置を車両変速機において使用する方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/00 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
F16H61/00
【請求項の数】20
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-534984(P2014-534984)
(86)(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公表番号】特表2014-528560(P2014-528560A)
(43)【公表日】2014年10月27日
(86)【国際出願番号】EP2012067912
(87)【国際公開番号】WO2013056904
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年7月9日
(31)【優先権主張番号】102011084583.6
(32)【優先日】2011年10月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100153017
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 昭人
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ライッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ドライホルツ
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/115772(WO,A1)
【文献】
特開2006−207710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
61/16−61/24
61/66−61/70
63/40−63/50
F16D 25/00−39/00
F16H 61/26−61/36
63/00−63/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフト装置(6, 7, 8, 48)により切り換え可能な少なくとも1つのシフト要素(3, 4,5)を駆動するための駆動装置であって,前記シフト装置(6, 7, 8, 48)は圧力チャンバ(6a, 7a, 8a)と、圧力媒体用の供給ライン(26; 49)と,閉止バルブ(17)とを有する駆動装置において,前記閉止バルブ(17)は電気的に制御可能であると共に前記供給ライン(26; 49)経由で前記圧力チャンバ(6a, 7a, 8a)への圧力油供給を制御可能であり、前記シフト装置(6, 7, 8, 48)は回り止め状態で少なくとも1つの前記シフト要素(3, 4, 5)と接続し,前記閉止バルブ(17)を駆動する電気エネルギを非接触的に供給可能であることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置であって,前記シフト装置(6, 7, 8)は油圧的に駆動可能であることを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の駆動装置であって,前記シフト装置(48)は気圧的に駆動可能であることを特徴とする駆動装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の駆動装置であって,前記シフト装置はベローズ(48)として構成されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の駆動装置であって,前記シフト装置はピストン/シリンダユニット(6, 7, 8)として構成されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動装置であって,ピストンは環状ピストン(13, 14, 15)として構成されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の駆動装置であって,前記閉止バルブ(17)はアクチュエータの一部であり,該アクチュエータは電気モータ(27)及びバルブロッド(17a)を備えることを特徴とする駆動装置。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載の駆動装置であって,前記閉止バルブ(17)はアクチュエータの一部であり,電磁バルブとして構成されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の駆動装置であって,少なくとも1つの前記シフト要素(3, 4, 5)に電子制御装置(28)が接続されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項10】
請求項9に記載の駆動装置であって,前記電子制御装置(28)内には,アクチュエータの一部(27)が収容可能であることを特徴とする駆動装置。
【請求項11】
請求項7〜10の何れか一項に記載の駆動装置であって,アクチュエータにおける可動部(17a, 17b, 17c)は,少なくとも1つの前記シフト要素(3, 4, 5)と回り止め状態で接続する機能支承部(2)内に収容され,油圧流体内に浮動するよう配置されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項12】
請求項11に記載の駆動装置であって,アクチュエータにおける前記可動部(17a, 17b, 17c)の素材及び/又は幾何学的形状は,該可動部(17a, 17b, 17c)の平均密度が油圧流体の密度に近似するように選択されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の駆動装置であって,アクチュエータ及び前記シフト要素(3, 4, 5)間のパワーフローに,弾性部材で構成されるエネルギ蓄積手段を備えることを特徴とする駆動装置。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載の駆動装置であって,前記閉止バルブ(17)及び該閉止バルブに割り当てられたシフト装置(7)に対して,回転型給油手段(19)を介して流体が供給可能であり,少なくとも更なるシフト装置(8)は同一の前記回転型給油手段(19)において,該シフト装置(8)に割り当てられた閉止バルブ(32)に別個に接続可能であることを特徴とする駆動装置。
【請求項15】
請求項14に記載の駆動装置であって,前記回転型給油手段(19)に対して,潤滑油の圧力レベルに相当する圧力レベルを有する油圧流体を供給可能であることを特徴とする駆動装置。
【請求項16】
請求項9又は10に記載の駆動装置であって,前記電子制御装置(28)は,変位検出部(44)及び受信部(45)を有する非接触式の変位計測装置(43)を備えることを特徴とする駆動装置。
【請求項17】
請求項16に記載の駆動装置であって,前記変位検出部(44)は前記シフト要素(3)の環状ピストン(13)に固定されることを特徴とする駆動装置。
【請求項18】
請求項1〜17の何れか一項に記載の駆動装置であって,少なくとも1つの前記シフト装置(6, 7, 8)に対して,シフト圧力を検出する圧力センサを割り当てることを特徴とする駆動装置。
【請求項19】
請求項1〜18の何れか一項に記載の駆動装置であって,前記シフト要素(3, 4, 5)を駆動する油圧流体は,間欠的に移送を行う電気ポンプ(33)により充填可能な蓄積部(34)を介して供給されることを特徴とする駆動装置。
【請求項20】
シフト装置(6, 7, 8; 48)により切り換え可能な少なくとも1つのシフト要素(3, 4,5)を駆動するために,請求項1〜19の何れか一項に記載された駆動装置を車両変速機において使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,シフト装置により切り換え可能な少なくとも1つのシフト要素を駆動するための,請求項1の前提部分に記載した駆動装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の車両変速機特に自動変速機において,変速段はシフト要素,即ちクラッチ又はブレーキによりディスク型シフト要素又は噛み合い型シフト要素として構成されるシフト要素により切り換えられる。切り換えは通常油圧的,即ち圧力油が附勢するピストン/シリンダユニットの形状のシフト装置を介して行われる。圧力油はポンプにより移送され,供給ラインを介して変速機ハウジングからいわゆる回転型の給油ラインを経て,回転する変速機軸へ至り,そしてこの変速機軸からシフト装置へと至る。油圧循環経路,即ち変速機油圧ポンプ,密閉部の性能及び供給ラインにおける圧力低下,漏出の如何により変速機の効率性に負荷をかける損失が発生する。課題は油圧循環経路,特に切り換えに起因する損失を可及的に低減し,変速機の効率性を可及的に高めることである。特段の課題は,シフト要素内で必要とされるトルクを伝達可能とするため,シフト要素締結時の油圧シリンダ内の油圧,いわゆる閉止圧力を絶えず検出し,保持することである。この閉止圧力は,車両のエンジンで駆動される油圧ポンプにより発生されるべきものであり,それにより損失が生じるのである。
【0003】
本出願人のドイツ国特許出願公開第10205411号明細書は,油圧的に切り換え可能なディスク型シフト要素を開示している。このディスク型シフト要素は,締結状態,即ちトルク伝達時にロック機構で機械的にロックされる。これにより,油圧作用を受ける必要無しで油圧ディスク間の圧接力が保持され,変速機油圧ポンプが負荷から解放される。図示されていない変形形態において,ロック機構は閉止バルブとして構成され,油圧シリンダの供給域に配置される。従ってシリンダの圧力チャンバはポンプに向かって閉止され,接触圧力を保持するためにディスクパック内で必要とされる圧力が保持されるため,前述の変形実施形態においても,シフト要素締結時に変速機油圧ポンプが負荷から解放される。
【0004】
本出願人のドイツ国特許出願公開第102006049283号明細書は,変速機用の同期装置を開示している。この場合アイドルギヤは,変速機軸に配置されたシリンダ/ピストンユニット構成のアクチュエータにより切り換え可能である。アクチュエータのシリンダは2本の圧力媒体ラインを備え,圧力媒体ラインには閉止バルブが配置される。閉止バルブによりシリンダ内の圧力が保持されるため,ポンプ駆動が不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第10205411号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開第102006049283号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術に鑑み本発明の課題は,冒頭に記載した駆動装置を変速機において使用した場合に生じる損失を,可及的に低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は,独立請求項1及び20により解決される。更に,本発明の好適な実施形態は従属請求項に記載した通りである。
【0008】
本発明に従って,シフト装置の圧力チャンバ内の閉止圧力を保持する閉止バルブは,回り止め状態で少なくとも1つのシフト要素と接続し,電気的に制御可能であり,その際電気エネルギは非接触的に供給可能である。好適には,非接触電力伝送は電磁誘導方式とし,一次コイルを固定し,共に回転する二次コイルを備えることが可能である。これによりエネルギ供給用のプラグ接続が不要となり,機械的な摩擦損失が回避される。
【0009】
好適な実施形態に従って,シフト装置は油圧的又は空気圧的に駆動可能である。即ち,1つの圧力媒体に限定されない。
【0010】
更なる好適な実施形態に従って,シフト装置は圧力媒体で充填可能なベローズとして構成される。ベローズは,シール剤の不要な閉止された圧力チャンバを構成する。これにより絶対的な気密性が生じる利点があり,シール素子を省くことにより効率性が向上する。ベローズ内の閉止圧力は,閉止バルブにより保持される。
【0011】
更なる好適な実施形態に従って,少なくとも1つのシフト装置は,流体又は気体の圧力媒体により附勢可能なピストン/シリンダユニットとして構成される。
【0012】
更なる好適な実施形態に従って,ピストンは環状ピストンとして構成される。これにより,シフト要素が発するシフト力をシフト要素,例えばディスククラッチへと伝達可能である。
【0013】
更なる好適な実施形態に従って,閉止バルブはアクチュエータの構成部材又は一部を構成する。アクチュエータは更に電気モータ及びバルブロッドを備え,バルブロッドは移動用のねじ山を有するバルブ閉止部と共に移動する。スクリュー/ナット式駆動により,閉止バルブに対して相対的に高い閉止圧力がもたらされる。定義上アクチュエータ(「アクター」とも称する)は,この場合電気モータである駆動部,又この場合バルブロッドを装備したバルブ閉止部であるバルブ部(閉止体)を備える。
【0014】
更なる好適な実施形態に従って閉止バルブはアクチュエータの一部とする。アクチュエータは磁気コイル,アンカー,バルブタペットを備え,バルブタペットはバルブ閉止部を駆動する。従って,このような実施形態においてアクチュエータは純粋に並進運動する電磁バルブのように作動するため,より高速の閉止速度,即ちより高次のバルブ動力が,より少ない費用で達成される。
【0015】
更なる好適な実施形態に従って,少なくとも1つのシフト要素には,「電子モジュール」とも称する電子制御装置が固定される。共に回転する電子モジュール内において,電子コンポーネントは二次コイルのように非接触電力伝送に用いられ,アクチュエータの一部を構成する。可能な限り,電子モジュールは仮組立可能なユニットとする。
【0016】
更なる好適な実施形態に従って,少なくとも1つのシフト要素は機能支承部と接続する。アクチュエータの可動部は,機能支承部に収容され,油圧流体内に浮動するよう配置され,遠心力を相殺する。例えばバルブロッド,アンカー軸及びバルブ閉止部のような可動部は,油圧流体を介して遠心力の作用方向と反対方向に浮揚する。
【0017】
更なる好適な実施形態に従って,可動部の平均密度を,好適には作動油又は変速機油である油圧流体の平均密度に近似させる。これは,例えば中空構造(中空軸アンカー)又は軽量構造(プラスチック又は軽金属材料)により達成可能である。
【0018】
更なる好適な実施形態に従って,アクチュエータ及びシフト要素間のパワーフローに,減衰するシフト力を補償する機能を有するエネルギ蓄積手段を備える。これにより,例えばディスククラッチ等のシフト要素の滑りが回避される。エネルギ蓄積手段は,例えばディスクスプリング及び/又は弾性のある環状ピストン等の弾性部材として構成可能である。
【0019】
更なる好適な実施形態に従って,閉止バルブに対して,回転型給油手段,即ち固定された回転構成部品を介して流体を配する装置により流体が供給される。その際好適には,1つの回転型給油手段が複数の閉止バルブ及びその閉止バルブに割り当てられたシフト装置に流体を供給し,摩擦損失及び漏出損失の原因となる回転型給油手段の個数を削減する。従って複数のシフト要素は,選択的に1つのみの圧力調整バルブ及び1つのみの回転型給油手段により駆動可能である。
【0020】
更なる好適な実施形態に従って回転型給油手段は,例えば0.3バールの潤滑油圧力に相当する圧力レベルにより附勢される。これにより,圧力調整バルブが閉止されて回転型給油手段に圧力がかからない場合,回転型給油手段は気泡を吸引しない。油圧システム中の気泡は,再生可能な制御挙動に影響する可能性がある。いずれにせよ変速機の場合,潤滑油圧力レベルが供給可能である。
【0021】
更なる好適な実施形態に従って,電子モジュール及び少なくとも1つのシフト装置に対して,変位検出部及び受信部を有する非接触式変位計測装置が割り当てられる。好適には,変位検出部を例えばディスククラッチであるシフト装置の環状ピストンに配置可能である。更に圧力センサ又はパワーセンサも装備可能であり,これによりシフト要素の各駆動状態(開閉又はその中間位置)が検出できる。このようにして,運転挙動を変えずにシフト性能を向上させ,シフト装置において徐々に進行する圧力損失を検出及び観察可能である。
【0022】
更なる好適な実施形態に従って,間欠的に稼動する電気ポンプにより充填される蓄圧器を備える。これにより,油圧流体を一定の圧力レベルに保持可能となり,油圧ポンプの推進力が低減される。
【0023】
本発明の更なる特徴に従って,上述の駆動装置は変速機,特に車両の自動変速機への適用に有効であり,変速機の全効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下,本発明を図示の実施形態について詳述する。本発明の更なる特徴及び/又は利点は,以下の記述及び/又は図面から明白である。
【
図1】変速機用の閉止バルブ及びシフト要素を備える本発明に係る駆動装置の縦断面図である。
【
図2】シフト要素を作動するための油圧回路を示す回路図である。
【
図3】アクチュエータを収容するための電子モジュールを示す略図である。
【
図4】非接触式変位計測装置を備えるシフト要素を示す縦断面図である。
【
図5】ベローズとして構成された,本発明の更なる実施形態のシフト装置を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は,本発明に係る,車両の自動変速機用の駆動装置を示す。自動変速機は変速機軸1を備え,変速機軸1上には,回転軸aを有するいわゆる機能支承部2が回り止め状態で配置される。機能支承部2には全体で3つのシフト要素,即ち第1ディスククラッチ3,第2ディスククラッチ4及び噛み合い型クラッチ5が接続される。シフト要素3, 4, 5に対して,ピストン/シリンダユニット6, 7, 8として構成された,油圧的に駆動可能なシフト装置が割り当てられる。各シフト装置6, 7は圧力チャンバ6a, 7aとして構成された環状シリンダを備え,環状シリンダは機能支承部2内に配置される。シフト要素3, 4, 5は入力側で,相互に連結するディスク/クローキャリア9を介して接続される。ディスク/クローキャリア9は,第1ディスククラッチ3に対しては外部ディスクキャリア9aとして,第2ディスククラッチ4に対しては内部ディスクキャリア9bとして,噛み合い型クラッチ5に対してはクローキャリア9cとして構成される。第1ディスククラッチ3は,出力側に内部ディスクキャリア3aを備え,内部ディスクキャリア3aはシリンダ状の出力部材10と接続する。噛み合い型クラッチ5は,更なるシリンダ状の出力部材11と接続する。第2ディスククラッチ4は,外部ディスクキャリア4aを備え,外部ディスクキャリア4aは第3出力部材12を構成する。第1ディスククラッチ3は,第1環状ピストン13を介して,第2ディスククラッチ4は第2環状ピストン14を介して駆動される。一方噛み合い型クラッチ5は,機能支承部2の周囲に配置された,複数のシフトアーム15を介して駆動される。連結されたディクス/クローキャリア9は,連結素子16を介して機能支承部2と回り止め状態で接続するため,3つのシフト要素3, 4, 5は,入力側で機能支承部2を介して変速機軸1と接続する。従って機能支承部2は,シフト要素3, 4, 5をも支承することになる。
【0026】
本発明に従って,2つの相互接続するボディ2a, 2bを備える機能支承部2内に閉止バルブ17が配置される。閉止バルブ17は,シフト装置7の圧力チャンバ7aへの圧力油供給を制御する。概略的に示された変速機ハウジング18及び変速機軸1の間には,いわゆる回転型の給油ライン19(「回転型給油手段」とも称する。)が備わり,これにより圧力油は,ハウジング側に固定配置された油路20から変速機軸1内の環状溝21に移送される。圧力油は,環状溝21から半径方向孔22,軸方向孔23及び更なる半径方向孔24を経て機能支承部2の油路25へ至り,そこから閉止バルブ17に達する。閉止バルブ17からは,圧力油路26が圧力チャンバ7aへ通じる。シフト装置6, 8の更なる圧力チャンバ6a, 8aへの圧力油供給は,部分的に破線で示される。付属する閉止バルブは周方向にオフセットして配置されているため,
図1の断面図には示されない。後述する
図2に関する詳述から明らかであるように,基本的に各シフト装置6, 7, 8に閉止バルブが装備される。
【0027】
閉止バルブ17は図示の実施形態では電気モータ27により電気的に駆動され,この電気モータ27は,環状に構成された電子制御装置28(「電子モジュール」とも称する)内に配置されている。更なる機能を備える電子モジュール28は,本出願人の同日特許出願に係る国際公開WO2013/056906号の対象である。この同日出願の対象は,本出願の開示内容にも包括的に取り込まれている。閉止バルブ17は電気モータ27と接続してアクチュエータ(「アクター」とも称する)を構成する。閉止バルブ17は,回転スピンドル17a及び移動用のねじ山を介して回転スピンドル17aと接続するバルブ閉止部17bとを備える。回転スピンドル17aは中空軸17cと接続し,中空軸17c上には参照数字の付されていない,電気モータ27のアンカーが配置される。回転軸aに平行に配置された,回転スピンドル17a及び中空軸17cのようなアクチュエータの可動部は,機能支承部2の回転時に遠心力の作用を受けるため,圧力油内で浮動するよう配置する。それにより,遠心力に対して反対方向の浮揚力が発生する。バルブコンポーネントを形状及び素材の点で可動的に構成することで,遠心力が相殺できる。電子モジュール28,特に電気モータ27は,電気モータ27の電気エネルギ及び信号を受領し,電磁誘導方式で閉止バルブ17を開閉する。このため,一方ではハウジング側に,即ち固定された状態の一次コイル29が,他方では回転する電子モジュール28内に配置された二次コイル30が備わる。電子モジュール28の更なる詳細については,
図3に関する記載と関連して詳述する。
【0028】
好適には,駆動装置はエネルギ蓄積手段を備える。エネルギ蓄積手段は,パワーフローにおいてアクチュエータ又は閉止バルブ17とシフト要素4との間に(及び同様に更なるアクチュエータとシフト要素との間に)配置され,圧接力の減衰時にディスクパックにおけるエネルギ蓄積部として作用する。好適にはエネルギ蓄積手段を,例えばディスクスプリングのような弾性体として構成し,その際ディスクスプリングも環状ピストン14に組み込むことが可能である。
【0029】
図2は,
図1のシフト装置6, 7, 8用の油圧回路図であり,シフト装置6, 7, 8は
図1に従ってシフト要素3, 4, 5に対して割り当てられる。シフト装置,即ちピストン/シリンダユニット7に対しては,
図1の閉止バルブ17が割り当てられる。シフト装置6, 8に対しては,各閉止バルブ31, 32が割り当てられる。参照数字19は,
図1に対応して回転型の給油ライン(「回転型給油手段」とも称する)を示し,回転型の給油ライン19はハウジングから回転する変速機軸へと油を配する。電気モータにより間欠的に駆動される変速機油ポンプ33(ポンプ33と略称)は,圧力油を蓄積部34へと移送し,圧力油は蓄積部34から圧力調整バルブ35, 36を介して回転型給油手段19及び更なる回転型の給油手段37に供給される。シフト装置6に対しては個別の回転型の給油ライン37を介して供給される一方で,両シフト装置7, 8は回転型給油手段19の後部で平行に切り換えられる,即ち同一の回転型給油手段19を備え,これにより損失の原因となる更なる回転型給油手段が省略できる。従って,各シフト装置6, 7, 8は個別の閉止バルブ31, 17, 32により制御され,蓄積部34に接続することなく,又はポンプ33が圧を供給することなく,クラッチ締結時に圧力チャンバにおける閉止圧力が保持可能となる。
【0030】
回転型給油手段19, 37は,圧力調整バルブの閉止時には潤滑油圧力により附勢されるため気泡を吸引しない。変速機内部の潤滑油圧力は約1.5バールである。
【0031】
図3は,独立した構成ユニットである電子モジュール28の斜視図である。
図1に示された閉止バルブ17及び更なる同一の閉止バルブ38の,2つの閉止バルブの断面を示す。電子モジュール28は環状に構成されたハウジング39を備え,ハウジング39は蓋40により外部に対して閉止される。ハウジング39内には,電気モータ27(同一の部品に対しては
図1と同一の符号を付す)のスタータが配置される。ハウジング39には接合部41が形成され,接合部41を介して,電子モジュール28が機能支承部2のボディ2a(
図1と比較のこと)と接続する。同時に,ハウジング39は機能支承部2のボディ2a内のオイルチャンバに対して,Oリング42により密閉される。
図3には4つの閉止バルブが示される。2つの閉止バルブには参照数字17, 38が付され,更なる2つの閉止バルブに対しては参照数字が付されていない。従って全体で6つの閉止バルブが,電子モジュール28の円周上に配置可能である。既に上述したように,回転スピンドル17a及び中空軸17cは油内で稼動し,一方では遠心力の作用を受け,他方では移送された油量重量に規定される浮揚力を受ける。可及的に大きな浮揚力を得るため,アンカー軸17cを中空構造とする。遠心力の作用を低く抑えるため,更に特定の軽量素材を使用することが好適である。図示のように,中空軸17cは二重に支承される。回転運動を発生する電気モータ27に換えて,バルブタペットと接続する磁石も,電磁バルブ方式で使用可能であり,バルブタペットの並進移動が直接閉止部に伝達される。既に上述したように,電気エネルギの伝達は電磁誘導方式で行われるため,電子モジュール28内には半径方向の内部領域に二次コイル30が配置される。二次コイル30は,
図3では示されていない一次コイル(
図1参照)と作動接続する。
【0032】
電子モジュール28の構成及び稼動様式の更なる詳細に関しては,前掲の国際公開WO2013/056906号を参照されたい。
【0033】
図4は,機能支承部2及びシフト要素3, 4の更なる縦断面図である(
図1で示したものと同一の構成要素は,同一の参照数字で表す)。電子モジュール28に対して,非接触式の変位計測装置43が配置され,変位計測装置43は例えば差動トランス方式で稼動する。変位計測装置43は,シフト要素3の環状ピストン13に固定された送信ピン44,及び電子モジュール28に配置された鉢状の受信部45を備える。受信部45には送信ピン44が沈む。複数のこうした変位計測装置を,電子モジュール28の円周上に配置することもできる。
【0034】
図示されてはいないが,更に圧力センサ又はパワーセンサを備えることも可能であり,その出力信号は電子制御装置28に送信される。
【0035】
図5は本発明の更なる実施形態であるシフト要素46を示す。シフト要素46はディスクパック47を備え,ディスクパック47はベローズ48を介してトルク伝達に必要な接触圧力を受ける。ベローズ48の内部は,一方ではディスクパック47に,他方ではシフト要素46のハウジングに支承され,供給ライン49を介して圧力媒体,圧力油,圧縮空気が充填される。供給ライン49の領域(図示されず)において本発明に係る閉止バルブが配置され,閉止バルブによりクラッチ締結時のベローズ48内の閉止圧力が保持され,それにより一定のトルクが伝達される。好適には,ベローズにおいてピストンリング又はOリングの形状のシール素子を不要とする。更に,ベローズ48はシフト要素46に直接に収容可能であるため,環状ピストン及び機能支承部2の圧力チャンバ(
図1と対照)が省略される。
【0036】
上述したように,機能支承部はマルチ型機能支承部として構成されるため,更なる機能を引き受けることが可能である。例えば,ディスク型シフト要素用の冷却油流を制御する冷却バルブ及び潤滑油バルブを支承した場合,必要に応じてディスク型シフト要素が冷却可能である。機能支承部内に配置された潤滑油バルブは,本出願人の同日出願に係る国際公開WO2013/056905号の対象であり,本出願の開示内容に包括的に取り込まれている。
【符号の説明】
【0037】
1 変速機軸
2 機能支承部
2a ボディ
2b ボディ
3 第1シフト要素
3a 内部ディスクキャリア
4 第2シフト要素
4a 外部ディスクキャリア
5 第3シフト要素
6 シフト装置
6a 圧力チャンバ
7 シフト装置
7a 圧力チャンバ
8 シフト装置
8a 圧力チャンバ
9 ディスク/クローキャリア
9a 外部ディスクキャリア
9b 内部ディスクキャリア
9c クローキャリア
10 出力部材
11 出力部材
12 出力部材
13 第1環状ピストン
14 第2環状ピストン
15 シフトアーム
16 連結素子
17 閉止バルブ
17a 回転スピンドル
17b 閉止部
17c 中空軸
18 変速機ハウジング
19 回転型の給油ライン
20 油路
21 環状溝
22 半径方向孔
23 軸方向孔
24 半径方向孔
25 油路
26 油路
27 電気モータ
28 電子モジュール
29 一次コイル
30 二次コイル
31 閉止バルブ
32 閉止バルブ
33 油圧ポンプ
34 圧力油蓄積部
35 圧力調整バルブ
36 圧力調整バルブ
37 回転型給油手段
38 閉止バルブ
39 ハウジング(電子モジュール)
40 蓋
41 接合部
42 Oリング
43 変位計測装置
44 変位検出部(送信ピン
45 受信部
46 シフト要素
47 ディスクパック
48 ベローズ
49 圧力ライン
a 回転軸