(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131261
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】アンモニア及びアミンを検出するための、電解質としてイオン液体を備えた電気化学式ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
G01N27/416 311G
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-537610(P2014-537610)
(86)(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公表番号】特表2014-531036(P2014-531036A)
(43)【公表日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】EP2012071141
(87)【国際公開番号】WO2013060773
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年8月24日
(31)【優先権主張番号】102011085174.7
(32)【優先日】2011年10月25日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102011087592.1
(32)【優先日】2011年12月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515239962
【氏名又は名称】エムエスアー ヨーロッパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】ヴァラッツ,ラルフ
【審査官】
櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/063626(WO,A1)
【文献】
特表2012−510613(JP,A)
【文献】
特開2008−064578(JP,A)
【文献】
特開平02−195247(JP,A)
【文献】
特開2006−090991(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/025482(WO,A1)
【文献】
Ryo Kanzaki 他,Acid-Base Property of Ethylammonium Nitrate Ionic Liquid Directly Obtained Using Ion-selective Field Effect Transistor Electrode,Chemistry Letters,2007年,Vol.36, No.5,p.684-685
【文献】
Debbie S. Silvester,Electrochemistry in Room Temperature Ionic Liquids:A Review and Some Possible Applications,ZEITSCHRIFT FUER PHYSIKALISCHE CHEMIE,2006年10月 1日,V220 N10-11,p.1247-1274,特にp.1264-1266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体を含んでいる電解質を含む電気化学式ガスセンサであって、
前記イオン液体は、少なくとも1つの解離可能な水素原子を備える少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンを含み、
前記少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンは、脱プロトン化によって標的ガスと反応するように作用し、
前記少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンは、9.25より小さいpKa値を有する、電気化学式ガスセンサ。
【請求項2】
前記標的ガスが、アンモニア及びアミンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記ガスセンサが、アンモニア及びアミンからなる群より選択される少なくとも1つの標的ガスを検出するように構成されている、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンが、一置換アンモニウムカチオン、二置換アンモニウムカチオン及び三置換アンモニウムカチオンからなる群より選択される、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンが、少なくとも1つの電子吸引基を有する少なくとも1つの置換基を含む、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電子吸引基を有する少なくとも1つの置換基が、分枝C1〜C20アルキル基、分枝でないC1〜C20アルキル基、少なくとも1つのアリール基及び/または少なくとも1つのヘテロアリール基からなる群より選択される少なくとも1つの電子吸引基を含む、請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアルキル基、アリール基及び/またはヘテロアリール基が、少なくとも1つのアルキル基、アリールもしくはヘテロアリール基のC1原子、C2原子もしくはC3原子において、または該アリール基及び/もしくはヘテロアリール基の他の任意の位置において、少なくとも1つの電子吸引基により置換されている、請求項5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記少なくとも1つの電子吸引基が、OH;ハロゲン;シアノ;イソシアノ;ハロゲン置換アルキル;特にハロゲン置換メチル基;チオシアノ;イソチオシアノ;アミン;アジド;チオール;アルコキシ;シクロアルコキシ;HO置換、F置換及び無置換のC1〜C12アルコキシ;トリフルオロメタンスルホナート(トリフラート);ノナフルオロブタンスルホナート(ノナフラート);p−トルオイルスルホナート(トシラート);p−ブロモベンゼンスルホナート(ブロシラート);p−ニトロベンゼンスルホナート(トシラート):メタンスルホナート(メシラート);及び2,2,2−トリフルオロエタンスルホナート(トレシラート)からなる群より選択される、請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記少なくとも1つの電子吸引基が、OH;ハロゲン;少なくとも1つのハロゲンにより置換されたメチル基;特にハロゲン三置換メチル基;及びシアノからなる群より選択される、請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンが、ジ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、(2−トリフルオロエチル)アンモニウム及びジ(シアノメチル)アンモニウムからなる群より選択される、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記イオン液体が、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、テトラフルオロボロン酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ポリフルオロアルカンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、アルキル硫酸アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、酢酸アニオン及びフッ素化アルカン酸アニオンからなる群より選択される少なくとも1つのアニオンを含む、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項11】
前記イオン液体が、ジ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム・トリフルオロ酢酸塩、(2−トリフルオロエチル)アンモニウム硝酸塩及びジ(シアノメチル)アンモニウム硝酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項12】
前記電解質が固体に吸収されており、前記固体が、紛体状SiO2系固体及び繊維状SiO2系固体からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項13】
前記電解質が、有機添加物、金属有機添加物及び無機添加物からなる群より選択される少なくとも1つの添加物を含んでいる添加物成分をさらに含む、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のガスセンサを用いた標的ガスの検知方法であって、
電気化学式センサ中にイオン液体を含む電解質を提供することを含み、
前記イオン液体は、少なくとも1つの解離可能な水素原子を備える少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンを含み、
前記少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンは、脱プロトン化によって、標的ガスと反応するように作用する、特にアンモニア及びアミンと反応するように作用する、標的ガスの検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、それぞれ2011年10月25日及び2011年12月1日に出願されたドイツ特許出願番号10 2011 085 174.7及び10 2011 087 592.1の優先権を主張する。
技術分野
本発明は、電気化学式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学式センサをガス状成分及びガス状物質を検出するために使用することは、長きにわたって知られている。このようなガスセンサは、概して、少なくとも2つの電極を、1つの作用電極及び1つの対向電極の形態で含んでいる。これらの電極は、導電体または電解質を介して相互に接触している。
【0003】
このような種類のガスセンサ及びガスセルは、一般的に、例えば多孔質膜を通して外界に開かれている一側面を含んでいる。ガスは、このような膜を通して電極まで流れ、そこで電気化学的に変換される。電気化学反応の結果により生じる電流は、ガスの量に比例することとなる。硫酸または他の水性電解質による様々な装置が、このようなガスセンサにおいて、イオン導電体または電解質としてこれまで採用されている。
【0004】
近年において、ガスセンサの発展は小型化の傾向がある。しかしながら、従来採用されていた水性電解質は、その強い吸湿性のため、小型化に適していない。従来の電解質におけるこれらの吸湿性は、乾燥環境では、ガスセンサ及びガスセルの脱水を抑制することができる。しかしながら、高湿度では、該電解質が多量の水を含み得るため、その結果ガスセルが破裂し、該電解質が漏出する。このような電解質の漏出を防止するため、ガスセルの内部容積を電解質の充填容積の5〜7倍に増やすことが必要となる。しかしながら、このことはガスセル及びガスセンサの有意義な小型化を妨げる。
【0005】
代替として、近年では、電解質はイオン液体として顕在化している。イオン液体は、溶解性、混和性及び広い範囲にわたる他の物理化学特性(例えば、不揮発性)を示す独特な溶媒であることが判明している。
【0006】
イオン液体は、定義としては、融点が100℃より低い液体の塩である。イオン液体の塩の構造により、蒸気圧はほぼ無視できるようになる。多くのイオン液体は化学的及び電気化学的に非常に安定であり、高い導電性を特徴とする。いくつかのイオン液体、特に疎水性カチオン及び/またはアニオンを備えるイオン液体は、比較的低い吸水性を示す。同時に、他のイオン液体は、塩の水溶液に類する吸水性を示す。しかしながら、塩の水溶液とは異なり、これらのイオン液体は、非常に低い湿度においてもなお電気伝導性を示す。一方、LiCl溶液のような水性の塩の場合には、水が蒸発するため、このようにはならない。
【0007】
ここ10年の間、イオン液体をガスセンサに包含させることが一斉に研究された。そのため、電解質としてイオン液体を備えたガスセンサの使用は、二酸化硫黄または二酸化炭素のような酸性ガスを検出する目的で、説明されてきた(WO2008/110830A1、WO2010/063626A1)
【0008】
様々な特性及び電気化学式ガスセンサにおける潜在的な適用可能性を備えた様々なイオン塩は、集中的に調査されてきた。従って、例えば、イオン液体は、所定のカチオン類と、ハロゲン化アニオン、硫酸アニオン、スルホン酸アニオン、ボロン酸アニオン、リン酸アニオン、アンチモン酸アニオン、アミドアニオン、イミドアニオンとの組み合わせに基づいて用いられた。一般的なカチオンは、置換されたイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ホスホニウムイオン、アンモニウムイオン及びグアニジニウムイオンである(DE 10 2005 020 719 B3)。
【0009】
アンモニア検出用の電気化学式センサは、一般的に、ガス状アンモニアの直接酸化に基づくものであり、そこでは、窒素分子形成または電子放出が起こる。しかしながら、このようなセンサは、特にセンサが長い期間アンモニアガスに晒されることによって、安定性が低下する。
【0010】
アンモニアセンサにおける他の電位差測定原理は、直接的または間接的pH測定に基づく。このようなセンサでは、検出対象のアンモニアは、採用された電解質の水を介して、アンモニウムイオン及び水酸化物イオンに変換される。この手法は、例えば、EP 1 183 528 B1に準拠し、そこにはアンモニア及びアミン検出用のセンサが説明されており、酸化し得るMn
2+及び適切な有機溶媒を含んだ電解質が組み入れられている。測定電極は触媒を備えた表面を含み、該触媒は、測定対象のガスの存在下においてMn
2+のMn
4+への酸化を触媒する。該測定原理は、以下の反応機構により実現する:
(I) NH
3 + H
2O → NH
4+ + OH
-
(II)Mn
2+ + 2H
2O → MnO
2 + 4H
+ + 2e
-
【0011】
上記反応(I)によるpH変動のため、Mn
2+の酸化反応が起こり得る。このpH変動はまた、Mn
2+の酸化還元電位も変動させる。ここでは、電解質からMnO
2が沈殿し、測定電極及びガス導入口膜をブロックするため、ガス導入が大きく減少するという欠点があることも示される。したがって、このようなセンサは、不十分な長期間安定性を示す。
【0012】
また、ここで反応速度を決定する1つのステップは、電解質とガス空間との間における平衡状態に入るところである。そのため、この種の測定システムは、安定性が低いことに加えて、すぐ近くのアンモニアセンサの種類との応答時間が比較的長いという欠点も有する。そのため、DE 38 41 622 C2には別の測定原理が含まれており、それによって応答時間の比較的短いアンモニア用ガスセンサの提供が容易になる。DE 38 41 622 C2では、溶解可能で酸化し得ない物質が電解質に加えられ、該物質はアンモニアと反応して酸化し得る生成物を形成する。次に、この酸化し得る生成物は、電気化学的酸化によって、化学的及び電気化学的に不活性な副生成物に変換され得る。したがって、実際の電気化学反応の前に、アンモニアと酸化し得ない物質との平衡反応が先立ち、それ自身がアンモニアを容易に酸化し得る生成物へと完全に変換することとなる。このような容易に酸化し得る生成物は、次に測定電極おいて酸化される。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンヒドロクロリド(Tris−HCl)は、この目的に特に適することが判明している。
【0013】
実際の検出反応に先立つ酸塩基反応では、ガスセンサ中に拡散しているアンモニアがTris−HClと反応してアンモニウムイオン及びTris−HClの対応する有機アミンとなる。さらに、該有機アミンは測定電極において電気化学的に酸化し、そこで放出された電子が測定セル電流に寄与する。電極にて酸化した該有機アミンは、そこから分解して追加の反応生成物となる。この測定原理は、例えば、
図1に示される式において表される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、アンモニアのための説明の測定システムの欠点は、用いられるTris−HClが液体電解質に導入されることである。上述のように、水性電解質を用いると、ガスセンサの小型化が妨げられ、低湿度条件における能力が限定される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、イオン液体を含んでいる電解質を含む電気化学式ガスセンサであって、前記イオン液体が、少なくとも1つの解離可能な水素原子を備える少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンを含み、前記少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンが、脱プロトン化によって標的ガスと反応するように作用する電気化学式ガスセンサを提供する。
【0016】
前記のものは概要であって、そのため単純化、一般化及び詳細の省略が含まれ得る。したがって、本概要は単なる例示であって、何らの限定も意図されないと当業者は認識するものである。
【0017】
実施態様のよりよい理解のため、それらの他の及びさらなる機能及び利点と共に、以下に続く詳細な説明を、添付の図面と合わせて参照する。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に示されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、アンモニア検出のための測定原理に関する式を表す。
【
図2】
図2は、電気化学式三極ガスセンサの第1の種類を模式的に示す。
【
図3】
図3は、電気化学式三極ガスセンサの第2の種類を模式的に示す。
【
図4】
図4は、電気化学式三極ガスセンサの第3の種類を模式的に示す。
【
図5】
図5は、各々異なる電極を含む3つのNH
3ガスセンサのセンサ機能を図表により示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態における構成要素は、ここで概ね説明され及び図面に示されるように、説明された代表的な実施形態に加えて、幅広い種類の異なる構成において配置及び設計されてもよい。したがって、図面に説明されるように、以下に続く本発明の実施形態のさらに詳細な説明は、本発明の実施形態の範囲を限定することを意図されず、単に代表的な実施形態のみを表している。
【0020】
本明細書を通じて参照される「1つの実施形態」または「ある実施形態」(またはそれに類するもの)は、本発明の少なくとも1つの実施形態において、該実施形態と合わせて説明された特定の機能、構造または特徴が含まれることを意味する。したがって、この明細書を通じて様々な個所において「1つの実施形態では」または「ある実施形態では」またはそれに類する語句が表れることは、必ずしも全てが同じ実施形態に関連するものではない。
【0021】
さらに、説明された機能、構造または特徴は、少なくとも1つの実施形態において、任意の適切な方法により組み合わせられてもよい。以下に続く説明では、本発明の実施形態が十分に理解されるための多くの具体的な詳細が提供される。しかしながら、関連技術の当業者であれば、少なくとも1つの具体的な詳細がなくとも、または他の方法、構成要素、材料等により、本発明の様々な実施形態を実施し得ることを認識するものである。別の例では本発明の態様が不明瞭になることを避けるため、公知の構造、材料または操作については示さないか、詳細には説明しない。
【0022】
ここで、図面について説明する。本発明の図示された実施形態は、図面を参照して最もよく理解されることとなる。以下に続く説明は、単なる例として意図され、ここに特許請求される本発明における、所定の選択された代表的な実施形態を単に示している。
【0023】
参照を容易にするため、
図2〜4のうち少なくとも1つ前の図において見られる少なくとも1つの構成要素に関し、実質的に類似の構成要素を示す際には、参照番号は、
図2から
図4まで進むにつれて10の倍数だけ進められる。
【0024】
これらを広く考慮して、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、特にアンモニア及びアミンを測定するための電子化学式ガスセンサであって、高濃度ガス存在下であっても高い安定性を示し、小型化に適した電子化学式ガスセンサが提供される。したがって、電気化学式ガスセンサは、特にアンモニア及びアミンの検出のために、イオン液体を電解質として用いて利用される。採用される前記イオン液体は、少なくとも1つの解離可能な(すなわち、脱離可能な)水素原子を備える少なくとも1つのプロトン性アンモニウムカチオンを含み、少なくとも1つのアンモニウムカチオンは、脱プロトン化によって、測定対象のアンモニア及びアミンと反応する。
前記用語「解離可能」は、本発明においては、不均一解離、すなわちカチオン及びアニオンの可逆的分解に関する。ラジカルを生成する均一開裂は、この定義には当てはまらない。
【0025】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、ガスセンサに用いられるイオン液体のアンモニウムカチオンは、(例として)以下の一般式により、アンモニア及び/またはアミンと反応する:
NH
3 + イオン液体のカチオン(HA)
←→ NH
4+ + 脱プロトン化したイオン液体のカチオン(A
-)
ガスセンサに用いられるイオン液体の主要な特性は、イオン液体の対応するカチオンの、アンモニアのような標的ガスと酸塩基反応において反応する性能である。
一方、このことは、遊離プロトンを有する全てのアンモニウムカチオンがこのような反応を起こすことができるわけではないことを意味する。むしろ、アンモニア及び/またはアミンの存在下でプロトンを放出可能で、そのため該プロトンをアンモニア及び/またはアミンに移すのに十分なほど酸性である特定のアンモニウムカチオンのみが、本発明の目的を解決するのに適している。例えば、プロトンがグアニジニウムカチオン(pKa値13.6)のような共役系の一部であるN原子に結合している場合には、該プロトンは前記アンモニウムカチオンから解離せず、そのためアンモニア及び/またはアミンと反応することができない。したがって、本発明に適用されるプロトン性アンモニウムカチオンは、電子共役系に基づかない、または電子共役系の一部ではない。エチルアンモニウムカチオン(pKa値10.8)のような官能置換基を有しないアルキルアミンに基づくアンモニウムカチオンは、これらのカチオンが標的ガスによって容易に脱プロトン化されず、そのためアンモニアまたはアミンの存在下において望ましい態様でプロトンを放出できないので、本発明には好ましくない。
【0026】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、既知のイオン液体の不活性カチオンとは対照的に、アンモニアによる脱プロトン化に起因するカチオンの遊離塩基が、ガスセンサの測定電極において酸化され得る。この遊離塩基の酸化は、アンモニアの直接酸化とは対照的に、この反応において様々な生成物が形成されるため、センサ信号の偏りや揺らぎを減少させる。さらに、前記イオン液体におけるカチオンの遊離塩基の酸化はより低い電位で起こり得るため、共に使用する活性触媒をより少なくすることが可能となり、それによってセンサの選択性が向上する。
【0027】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、また好ましくは、上述の式に示すように、前記イオン液体の前記アンモニウムカチオンは直接反応する。すなわち、アンモニア及び/またはアミンとの中間反応体なしで直接的に、脱プロトン化により反応する。しかしながら、前記イオン液体の前記アンモニウムカチオンと、測定対象のアンモニア及び/またはアミンとの間の反応は、直接でなく、媒体を介して行うことも可能である。このような媒体は、アンモニウムカチオンとアンモニア/アミンとの間の中間反応体のように機能する。
【0028】
例として、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、水が中間反応体または媒体として考慮し得る。高湿度環境では、それはイオン液体に吸収される。イオン液体の性質に応じて、かなりの量の水が吸収されることがある。アンモニア存在下では、水が以下の式に従い反応する:
NH
3 + H
2O → OH
- + NH
4+
次に、このようにして形成された水酸化物イオンが、前記イオン液体の前記アンモニウムカチオンと、以下の式に従い反応する:
OH
- + イオン液体のカチオン(HA)
←→ H
2O + 脱プロトン化したイオン液体のカチオン(A
-)
続いて、前記イオン液体の遊離塩基が、ガスセンサの測定電極において、例えば上述のようにして酸化する。
【0029】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、水以外の様々な他の媒体または中間反応体が考えられ得る。
【0030】
概して、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、イオン液体を選択する特定の場合では、他の外部条件と同様に、可能な媒体及びその濃度は、前記イオン液体のアンモニウムカチオンとアンモニアとの間の直接反応が行われるか、媒体が目的を果たすのかに依存すると言える。
【0031】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、好ましくは、前記アンモニウムカチオンのpKa値は、約9.25より小さい。本発明においては、pKa値は、酸解離定数KsまたはKaの負の常用対数からなる。酸解離定数KsまたはKaは物質定数であり、プロトリシス下における平衡反応により溶媒と反応する程度を示す(以下の式を参照):
HA + Y ←→ HY
+ + A
-
ここで、HAはブレンステッド酸のような酸を表し、水のような溶媒YにH
+を放出する。この反応の結果、プロトン化した溶媒HY
+及びアニオンA
-が形成される。したがって、KsまたはKaはこの反応の平衡定数であり、それ自体は酸の強さの基準である。酸が強いと、反応はより右側にシフトし、すなわち、H
+及びA
-の濃度がより高くなる。該平衡定数は、ここではpKsまたはpKa値の負の常用対数の形態で与えられる。このことは、pKsが小さいほど酸が強いことを意味する。
【0032】
そのようにして、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、pKa値9.25は、水が溶媒として用いられる場合におけるアンモニウムイオンのpKa値に対応することが理解され得る。pKa値が9.25より小さいアンモニウムカチオンを備えたイオン液体を用いることは、溶媒としてのアンモニアの反応における該解離定数をアンモニウムイオン側にシフトさせるのに望ましい。
【0033】
アンモニア検出と同様に、本発明の少なくとも1つの実施形態に従うガスセンサは、アミンの検出、特にメチルアミンまたはエチルアミンのようなガス状アミンの検出にも用いられ得る。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、アンモニア及びアミンの検出に用いるガスセンサにおいて、前記イオン液体の前記少なくとも1つのアンモニウムカチオンは、1置換アンモニウムカチオン、2置換アンモニウムカチオン及び3置換アンモニウムカチオンを含む群より選択される。
したがって、前記イオン液体の前記少なくとも1つのアンモニウムカチオンは、以下の一般式に関する。
[NH
x(R
1mR
2nR
3o)]
+
ここで、x=1、2または3;m=n=o=0、1、2または3、かつ(m+n+o)=1、2または3であり、
R
1、R
2及びR
3は、各々において、電子求引基を備える置換基であり、好ましくは少なくとも1つの電子求引基または以下で詳細に定める部分を備えるアルキル、アリールまたはヘテロアリール基であり、
R
1、R
2及びR
3は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
本発明の範囲内において、前記アンモニウムカチオンの窒素原子は、例えばピリジンまたはイミダゾールのような芳香族環系の一部ではないことが好ましいこともまた理解される。そのため、前記アンモニウムカチオンを含むヘテロ芳香族環系は、上記一般式のNの一部としては除かれる。しかしながら、置換基R
1、R
2またはR
3のいずれも、ヘテロ芳香族環系を含んでいてもよいが、その場合、前記アンモニウムカチオンを形成するN原子は、前記ヘテロ芳香族環の一部ではない。前記アンモニウムカチオンは、好ましくはメソメリー安定化系または共役系の一部ではない。前記アンモニウムカチオンがピリジン及びイミダゾールを除外するように選択されると、それもまた有利になり得る。
【0035】
電子求引基では、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、基及び置換基は、負の誘起効果(すなわち、−I効果)を示し、それによって局所環境における電子密度を低減する。炭素原子または他のヘテロ原子における電子密度の低減もまた、炭素原子またはヘテロ原子に付着する水素原子の反応性に効果を及ぼす。このことは、炭素原子またはヘテロ原子が、より近いCH−/ヘテロ原子−H結合における結合電子を引き込むようにして、電子密度の不足を補おうとする事実に起因する。これにより、H原子の結合が緩められ、そのため、H原子の酸性が高められる。したがって、本発明の少なくとも1つの実施形態では、前記アンモニウムカチオン上の少なくとも1つの電子求引基を備えた置換基を用いることにより、水素原子の容易な分離、及びそれによる上記等式に従う酸塩基平衡反応における、アンモニウムイオンと遊離塩基との方向へのシフトが容易になる。
【0036】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、前記アンモニウムカチオンは、少なくとも1つの電子求引基を備えた少なくとも1つの置換基を含み、後者は、分枝のまたは分枝でないC1〜C20アルキル基、好ましくはC1〜C10アルキル基、特に好ましくはC1〜C5アルキル基からなる群より選択される。概して、前記少なくとも1つの置換基は、アリール基またはヘテロアリール基であり得る。これらのアルキル基、アリール基及び/またはヘテロアリール基は、少なくとも1つの電子求引基によって置換されている。
【0037】
したがって、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、前記少なくとも1つの分枝のまたは分枝でないアルキル基、アリールまたはヘテロアリール基、特にC6〜C10アリールまたはヘテロアリール基は、該基のC1、C2またはC3原子に電子求引基を含み、特に該アルキル基のC1及び/もしくはC2原子、または芳香族系もしくはヘテロ芳香族系の任意の位置に電子求引基を含む。ここで、C1、C2またはC3を用いたアルキル基の炭素原子の番号順は、ヘテロ原子の窒素から開始する。換言すれば、置換基として用いられる結合基の炭素原子、及び前記アンモニウムカチオンの窒素原子に対して最初にまたは最も近傍に存在する炭素原子が、本発明の実施形態においてC1に指定される。他の炭素原子の番号順は、この体系により続く。
【0038】
本発明の特に好ましい実施形態では、前記少なくとも1つの電子求引基は、以下を含む群より選択される:OH、ハロゲン、シアノ、イソシアノ、ハロゲン置換アルキル、特にハロゲン置換メチル基、チオシアノ、イソチオシアノ、第1級、第2級または第3級アミン、アジド、チオール、アルコキシ及びシクロアルコキシ、好ましくはHO置換、F置換または無置換C1〜C12アルコキシ。同様に、以下のものは適切な電子求引基として用いられ得る:トリフルオロメタンスルホナート、モノフルオロブタンスルホナート、p−トルオイルスルホナート、p−ブロモベンゼンスルホナート、p−ニトロベンゼンスルホナート、メタンスルホナートまたは2,2,2−トリフルオロエタンスルホナート。特に有利には、該電子求引基は、以下を含む群から選択され得る。OH、ハロゲン、1置換、2置換または3置換メチル基のようなハロゲン置換メチル基(ハロゲン3置換メチル基が最も好ましい)及びシアノ。
【0039】
本発明の少なくとも1つの実施形態において、特に適切なアンモニウムカチオンは、以下を含む:ジ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムカチオン、(2−トリフルオロエチル)アンモニウムカチオン及び/またはジ(シアノメチル)アンモニウムカチオン。前記イオン液体に採用されるアニオンは、好ましくは以下の群より選択される:硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、テトラフルオロボロン酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ポリフルオロアルカンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、アルキル硫酸アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、酢酸アニオン及びフッ素化アルカン酸アニオン。
【0040】
好ましくは、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、電気化学式ガスセンサ、特にアンモニア及びアミンの検出のためのガスセンサに用いられるイオン液体は、以下を含み得る:ジ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム・トリフルオロ酢酸塩、(2−トリフルオロエチル)アンモニウム硝酸塩及び/またはジ(シアノメチル)アンモニウム硝酸塩。
【0041】
概して、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、異なるイオン液体の混合物を採用することもできる。異なるイオン液体の混合物は、電解質中に異なる極性を適用されることになり、例えば、所定の添加物を放出する必要がある場合において、または電解質の吸水を制御する必要がある場合において有利である。
【0042】
本発明の少なくとも1つの実施形態における電気化学式ガスセンサでは、電解質として用いられる前記イオン液体は、二酸化ケイ素を基材とする粉末状及び/または繊維状の固体形態である固体に吸収されていてもよく、固体に吸収されていなくてもよい。二酸化ケイ素を基質とする粉末状及び/または編み繊維状の固体に該電解質が吸収されると、固体状態の電解質が該ガスセンサ内に形成されることになる。このような固体状態の電解質では、該ガスセンサの該電解質は、好ましくはガス透過膜に塗布されるか、粉末形態では、該電解質と直接混合される。好ましくは、二酸化ケイ素を基質とする該粉末状の固体は、平均粒子径が少なくとも5μm、好ましくは少なくとも50μm、特に好ましくは少なくとも75μmのケイ酸塩である。二酸化ケイ素を基質とする該固体は、少なくとも50m
2/g、好ましくは少なくとも100m
2/g、最も好ましくは少なくとも150m
2/gの比表面積を有し、少なくとも95重量%の二酸化ケイ素含有量を有する。ここでの固体としては、好ましくは、純粋な二酸化ケイ素、またはケイ酸アルミニウムまたはケイ酸カルシウムが用いられる。特に好ましいものは、平均粒子径が100μm、比表面積が190m
2/gであり、二酸化ケイ素含有量が少なくとも98重量%のケイ酸塩である。
【0043】
本発明の1つの実施形態では、電気化学式ガスセンサは、前記イオン液体と電気的に接触し、互いに電気的に絶縁されている少なくとも2つの電極を含む。これは、例えば、適切な分離要素または十分な分離間隔によりもたらされ得る。好ましくは、2電極配置、すなわち作用電極及び対向電極が、または3電極配置、すなわち作用電極、対向電極及び参照電極が採用される。概して、カバー電極もしくは保護電極、または多電極系形態におけるさらなる測定電極のような追加の電極を含み得る。該電極は、好ましくは、以下を含む群から選択される金属より形成される:Cu、Ni、Ti、Pt、Ir、Au、Pd、Ag、Ru及びRh、それらの混合、及び/またはそれらの酸化物、または炭素(例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン、ダイヤモンド状炭素またはグラファイト)。ここで、該電極は同じ金属より形成されていてもよく、異なる金属より形成されていてもよい。該電極は、採用されるセンサ構成に適した構造をそれぞれ有し得る。
【0044】
本発明のさらなる実施形態では、有機及び/又はもしくは金属有機及び/もしくは無機添加物、または添加物成分が、電解質として用いられる前記イオン液体に添加され得る。前記添加物成分は、約0.05〜約1重量%の量において存在する。これらの添加物は、特にセンサの感度、選択性及び堅牢性を向上させるために提供される。該添加物は、有機添加物では0.05〜1.5重量%、無機添加物では約1〜約12重量%、金属有機添加物では約0.05〜約1重量%含まれ得る。
これに関して、前記イオン液体の前記有機添加物は、好ましくは以下を含む群から選択される:イミダゾール、ピリジン、ピロール、ピラゾール、ピリミジン、無置換のまたは少なくとも1つのC1〜C4アルキル基により置換されたグアニン、尿酸、安息香酸、ポルフィリン及びそれらの誘導体。本発明における誘導体とは、対応する基本化合物に由来する類似の構造を有する化合物を意味する。誘導体は、通常はH原子または他の基が他の原子または原子群により置換された化合物、または1つ以上の原子または原子群が除去された化合物である。
前記金属有機添加物は、好ましくは以下を含む群から選択される:金属有機フタロシアニン及びそれらの誘導体であって、フタロシアニンの金属カチオンが、好ましくはMn
2+、Cu
2+、Fe
2+、Fe
3+またはPb
2+である。
前記無機添加物は、好ましくは以下を含む群から選択される:無置換のまたはC1〜C4アルキル基により置換されたハロゲン化アルカリ及びハロゲン化アンモニウム、Mn
2+、Mn
3+、Cu
2+、Ag
+、Cr
3+、Cr
6+、Fe
2+、Fe
3+の群より選択される遷移金属塩、及び鉛塩。好ましくは、前記無機添加物は、以下の群より選択される:臭化リチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、塩化クロム(III)、クロム酸アルカリ、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)及び硝酸鉛(II)。
【0045】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、上述の添加物は、混合物としても用いられ得る。これは、例えば種々の有機添加物の混合物のような、同じ群における異なる添加物の混合物だけでなく、例えば有機添加物と無機添加物との混合物のような異なる添加物の混合物も含む。異なる添加物の混合物を用いることにより、特定の要件に対するセンサの感度を調節し得る。
【0046】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、アンモニア及びアミンの検出のためのガスセンサは、2電極系における測定電極及び対向電極としての貴金属触媒及び炭素を備えた、または3電極操作における追加の電極を備えたクラークセルの古典的な意味における二次側として機能する。したがって、このようなガスセンサの操作は電流測定であるが、電流操作以外の操作または動作モードも概ね可能である。
【0047】
上述のように、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、イオン液体は二酸化ケイ素を基質とする固体に吸収させられ得る。このような実施形態では、該固体はセンサ内に充填材または積層体として現れるか、プレス形態となる。充填材または積層体は、非常に柔軟なセンサの設計を可能にする。固体をペレット状にプレスすることも可能である。
【0048】
好ましくは、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、また上に示されるように、前記電気化学式ガスセンサは、電流操作測定に用いられる。このことは、特に、添加物を含んでいる、及び添加物を含んでいないイオン液体が固体に吸収されない構成のガスセンサ、及び(添加物を含んでいる、または含んでいない)イオン液体を含む固体状態の電解質における別形に関する。
【0049】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、
図2はガスセンサ1を示し、該ガスセンサ1はセンサのハウジング2を含み、その内部には測定電極3、作用電極5及び対向電極6が配されている。該測定電極3は、ガス浸透膜を介して外界に連通している。前記電極は、ガラス繊維またはシリカ構造体より形成され、電解質に浸されたセパレータ4により、互いに分離されている。この例では、前記電解質は、プロトン性アンモニウムカチオンを含むイオン液体である。該センサの後部空間には、補償容積7が確保されており、そこには大気湿度の変動時に水を収容することができる。該センサは測定電子機器8に接続されており、該測定電子機器8は、標的ガス(この場合はアンモニアまたはアミン)の存在下において、該センサの電流を測定信号にまで増幅する。
【0050】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、
図3はガスセンサ11を示し、該ガスセンサ11はセンサのハウジング12を含み、その内部には測定電極13a、作用電極15及び対向電極16が配されている。ここでは同様に、該測定電極13aは、ガス浸透膜13を介して外界に連通している。該測定電極13aは、触媒/電極材料及び電解質を備える層を含む。この例では、前記電解質は、測定対象のアンモニアまたはアミンと反応可能な少なくとも1種のプロトン性アンモニウムカチオンを含むイオン液体である。該イオン液体は、二酸化ケイ素を基材とする粉末状の固体に吸収され得る。個別の電極は、ガラス繊維またはシリカ構造体より形成されたセパレータ14により、互いに分離されている。作用電極15及び対向電極16は、測定電極13aの側部にセパレータ14に対向して、互いに近傍にそれぞれ配されている。ここでもまた、該センサの後部空間には、大気湿度の変動時に水を収容する補償容積17が設けられている。該センサは測定電子機器18に接続されており、該測定電子機器18は、一方では前記作用電極において安定かつ調節可能な電位を提供し、他方では他の装置に出力情報を提供する。
【0051】
本発明の少なくともさらに他の実施形態によれば、
図4はガスセンサ21を示し、該ガスセンサ21はセンサのハウジング22を含み、その内部には測定電極23a、作用電極25及び対向電極26が配されている。この実施形態では、同様に、該測定電極23aは、ガス浸透膜23を介して外界に連通している。該測定電極23aは、触媒/電極材料及び電解質を備える層を含む。この例では、前記電解質は、本発明に従う少なくとも1種のプロトン性アンモニウムカチオンを含むイオン液体であり、該イオン液体は、二酸化ケイ素を基材とする粉末状の固体に吸収されている。測定電極23aと作用電極25とは、ガラス繊維またはシリカ構造体より形成され、本発明に従うイオン液体に浸された第1セパレータ24aを介して、イオン伝導的に接触している。さらに、作用電極25と対向電極26とは、第2セパレータ24bを介して、イオン伝導的に接触している。それにより、対向電極26は、作用電極25から離れて、または作用電極25に対抗して、第2セパレータ24bのその側部に配される。すなわち、本実施形態のガスセンサでは、測定電極23a、作用電極25及び対向電極26は、積み重ねられて配される。該センサの後部空間には、大気湿度の変動時に水を収容するための補償容積27が設けられている。該センサはまた、測定電子機器28に接続されている。
【実施例】
【0052】
動作実施例では、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、
図2の実施形態のものと類似の構造のガスセンサが用いられる。特に、本実施例で用いられるセンサは、測定電極、対向電極及び作用電極を含み、各電極はイリジウムを含む。電解質に浸されたセパレータが電極間に配され、それにより個別の電極の間のイオン伝導性を確保すると共に、電極間の短絡を防止する。
【0053】
試験では、本発明の少なくとも1つの実施形態における本動作実施例によれば、アンモニアガスセンサに使用される能力について、3つの異なる電解質を調査した。水性電解質としての塩化リチウムLiClの挙動(
図5の図表参照)を、イオン液体であるエチルアンモニウム(EAN)及び(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム・トリフルオロ酢酸塩(DHEA−TF)の挙動と比較した。
図5に確認されるように、DHEA−TFH(本発明のプロトン性アンモニウムカチオンを含む)が用いられた時には、塩化リチウム電解質水溶液と比較して、またイオン液体硝酸エチルアンモニウム(それ自身が既にアンモニアガスセンサの安定性向上を提供する)とも比較して、信号安定性が向上している。
【0054】
(本発明の少なくとも1つの実施形態に従う)本動作実施例において確認されるように、イオン液体DHEA−TFAにより高められたアンモニアガスセンサの安定性は、pKa値8.88を有し、一方、イオン液体硝酸エチルアンモニウムのpKa値は10.81である。DHEA−TFHを用いたガスセンサの安定性が、硝酸エチルアンモニウムを用いた場合と比較して顕著に向上しているため(
図5参照)、pKa値の影響及び重要性は明白である。従って、少なくとも1つの解離可能な水素原子を備えたアンモニウムカチオン、特に少なくとも1つの電子求引基により置換されたアンモニウムカチオンを含む官能化されたイオン液体を用いることは、アンモニアガスセンサの信号安定性を顕著に改善するのに適切である。
【0055】
本開示は、例示及び説明の目的で提示されているが、全てを網羅すること及び限定することを意図されたものではない。多くの修正及び変形は、当業者にとって明らかである。前記実施形態は、原理及び応用例を説明するために、及び、考えられる特定の用途に適するような、種々の修正を伴った種々の実施形態の開示を、他の当業者が理解できるようにするために、選択され記載されている。
【0056】
例示の本発明の実施形態は、ここでは添付の図面に関して説明しているが、本発明の前記実施形態は、これらの実施形態と完全に一致するものに限定されず、様々な他の変形及び修正が、本開示の範囲または趣旨を逸脱することなく、当業者によって行われ得る。