特許第6131263号(P6131263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131263
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】誤差に対する許容度を高めた偏光変換器
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/126 20060101AFI20170508BHJP
   G02B 6/14 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   G02B6/126
   G02B6/14
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-543922(P2014-543922)
(86)(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公表番号】特表2015-501005(P2015-501005A)
(43)【公表日】2015年1月8日
(86)【国際出願番号】EP2012074137
(87)【国際公開番号】WO2013083493
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年11月10日
(31)【優先権主張番号】61/630,120
(32)【優先日】2011年12月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513273694
【氏名又は名称】テクニッシュ ウニバルシテイト アイントホーフェン
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン デア トール、ヨハネス ヤコブス ゲラルドゥス
【審査官】 廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−168045(JP,A)
【文献】 特開平10−078521(JP,A)
【文献】 特開2010−107912(JP,A)
【文献】 V. P. Tzolov, et al.,"A passive polarization converter free of longitudinally-periodic structure",Optics Communications,1996年 6月 1日,Vol.127, No.1,pp.7-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
6/12− 6/14
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光変換素子であって、
第1の偏光変換部分と、
第2の偏光変換部分とを含み、
前記第1及び第2の偏光変換部分の各断面が互いに対して鏡像をなしており、
前記第1及び第2の偏光変換部分が同一の材料から作製され、かつ絶対値が等しく符号が反対のチルト誤差を有し、
前記第1及び第2の偏光変換部分が、以下の3つの条件、
(i)前記第1及び第2の偏光変換部分の長さL、Lの比率:Lが、1:3、3:5または5:7である、
(ii)前記第1の偏光変換部分が長さLを有し、
前記第2の偏光変換部分が長さLを有し、
が一定の長さであるとき、
前記L及びLが、
=(M+0.5)L
=(N+0.5)L
という関係を有し、ただし、|M−N|=2m+1であり、M,N,mは非負整数である、及び
(iii)前記第1の偏光変換部分が長さL(l+Δφ/2π)を有し、
前記第2の偏光変換部分が長さL(l+Δφ/2π)を有し、
が一定の長さであるとき、
前記L及びLが、
=(M+0.5)L
=(N+0.5)L
という関係を有し、ただし、|M−N|=2m+1であり、M,N,mは非負整数であり、Δφは定数である、
の少なくとも1つを満たすことを特徴とする偏光変換素子。
【請求項2】
前記第1及び第2の偏光変換部分の長さが、1:3、3:5または5:7であることを特徴とする請求項1に記載の偏光変換素子。
【請求項3】
前記第1の偏光変換部分が長さLを有し、
前記第2の偏光変換部分が長さLを有し、
が一定の長さであるとき、
前記L及びLが下記の関係を有することを特徴とする請求項1に記載の偏光変換素子。
=(M+0.5)L
=(N+0.5)L
ただし、|M−N|=2m+1であり、M,N,mは非負整数である。
【請求項4】
長さLに沿った伝搬後のモード間の位相シフトの誤差Δφが、0.2ラジアン未満になるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の偏光変換素子。
【請求項5】
前記第1の偏光変換部分が長さL(l+Δφ/2π)を有し、
前記第2の偏光変換部分が長さL(l+Δφ/2π)を有し、
が一定の長さであるとき、
前記L及びLが下記の関係を有することを特徴とする請求項1に記載の偏光変換素子。
=(M+0.5)L
=(N+0.5)L
ただし、|M−N|=2m+1であり、M,N,mは非負整数であり、Δφは定数である。
【請求項6】
Δφが0.4ラジアン未満であることを特徴とする請求項5に記載の偏光変換素子。
【請求項7】
Δφが0.566ラジアン未満であることを特徴とする請求項5に記載の偏光変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として光学素子に関し、より詳細には、光集積回路に用いられる偏光変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
光集積回路(PICまたは「光学チップ」)への光学的機能の統合は、研究者の注目を集めている開発途上の技術である。PICでは、各種の基本的な光学素子を1チップに集積することで光学機能性をもたせている。これらの素子の1つが偏光変換器(または偏光回転子)であり、チップ内の偏光状態の制御に使用される。これは重要である。その理由は、その平面形状が一般的に偏光依存動作をもたらすからであり、いくつかの用途が偏光ベース(例えば、電気通信用途における偏波多重方式など)であるからである。また、PIC内の偏光操作は、集積回路チップの偏光非依存動作並びに偏光多重化及び偏光切り替え等の機能にとっても重要である。理想的な偏光変換器を挙げるとすれば、PICの標準的な製造の範囲内で実現することができるような、素子長を短縮化した低損失受動素子である。しかし、このような理想を実現するためには、未解決の課題が残されている。
【0003】
偏光変換器に関する多くの提案がなされており、それらの提案のうちで最も有望なものは、1/2波長板の集積型光学的類似体(integrated optical analogue)として動作する傾斜側壁デバイスであるように思われる。しかし、容認できる変換レベルを達成するための誤差に対する許容範囲が比較的狭い。例えば、幅偏差は、変換率95%で50nm未満に維持されなければならない。
【0004】
したがって、そのような厳しい製造誤差に対する許容度のために、当技術分野で知られている偏光変換器は、商業的魅力が十分であるとはいえない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、製造誤差に対する許容度を向上させた偏光変換器を提供する。本発明の発明者は、従来の素子において誤差に対する許容範囲が狭い原因をつきとめ、新規な2部分からなる偏光変換器構造において製造誤差を補正する方法を見つけ出した。本発明の新たな素子は、製造誤差に対する許容度及び波長帯を2倍にし、99%を超える変換率が期待できる。
【0006】
従来の偏光変換器において前記許容範囲が制限されている主な理由は、偏光変換素子の偏光状態(本明細書において、導波路の偏光モードとも呼ぶ)を制御することが困難で、これらの状態の方位誤差(orientation error)を生じさせてしまう点にあることを本発明の発明者はつきとめた。例えば、従来の導波路型偏光変換器は、多くの場合、入力偏光状態及び偏光変換後の出力偏光状態に対して±45°をなす偏光状態を有する2つの導波モードに依存している。実際には、そのような偏光変換器の性能は、この±45°の状態からのずれ(すなわちチルト誤差)に左右されることが分かっている。これらのずれは、偏光変換器の製造が理想的になされないことによって生じ得る。それゆえ、この角度誤差に対する、製造が理想的になされないことの影響は、製造時に生じる偏光変換器の性能のばらつきの主たる原因になっている。
【0007】
これらの問題を解決するために、本発明は、従来の変換部分と、鏡像をなす断面とを組み合わせた新規な偏光変換器構造を提供する。その結果として、絶対値が等しく符号が反対の方位誤差が得られる。換言すれば、互いに対して鏡像をなす2つの部分を含む偏光変換器が、方位誤差を補正することになる。これら2つの部分は、同じ組立て部品、同じ材料で製作され、同じ温度及び光学波長で動作することが好ましい。その結果として、両部分は、同じ大きさの製造誤差を有することになる。
【0008】
本発明は、偏光変換素子であって、第1の偏光変換部分と、第2の偏光変換部分とを含み、第1及び第2の偏光変換部分の各断面が互いに対して鏡像をなしており、第1及び第2の偏光変換部分が同一の材料から作製され、かつ絶対値が等しく符号が反対の方位(すなわちチルト)誤差を有する素子を提供する。本発明には、そのような偏光変換素子を含む光集積回路も含まれる。
【0009】
本発明に従う偏光変換器の或る好適実施形態では、第1及び第2の偏光変換部分の一方が従来の(単一部分からなり、誤差に対する許容範囲が狭い)偏光変換器の長さの0.5倍の長さを有し、他方が1.5倍の長さを有しており、すなわち長さの比率が1:3である。単一部分からなる偏光変換器の長さをLとした場合、補償された偏光変換器における対応長さは、L=0.5Lであり、L=1.5Lである。よって、全体で、偏光変換器の長さは2倍になっている。製造誤差の補正とは別に、新たな偏光変換素子は、温度及び波長に起因する誤差をも補正し、種々の動作条件に対する前記許容範囲が大幅に向上することも暗示している。
【0010】
他の実施形態では、第1及び第2の偏光変換部分は、上記以外の長さを有することができる。例えば、いくつかの実施形態では、第1及び第2の偏光変換部分は、長さの比率が3:5または5:7である。例えば、L=1.5LかつL=2.5L、またはL=2.5LかつL=3.5Lである。より一般的には、本発明の種々の実施形態において、第1及び第2の偏光変換部分はそれぞれ長さL及びLを有することができる。ここで、L=(M+0.5)L,L=(N+0.5)L,|M−N|=2m+1であり、M,N,mは非負整数である。これらの形状は全て、チルト誤差を補正する。しかし、位相誤差は補正されず、その影響は素子の全長とともに大きくなるので、好適実施形態は、チルト誤差を補正する最小の長さを有する。本発明の偏光変換素子は、長さLに沿った伝搬後のモード間の位相シフトの誤差であるΔφが0.2ラジアン未満になるように作製することが好ましい。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1及び第2の偏光変換部分は、それぞれL(l+Δφ/2π)及びL(l+Δφ/2π)の長さを有し、ここで、L=(M+0.5)L,L=(N+0.5)L,|M−N|=2m+1であり、M,N,mは非負整数であり、かつΔφは定数である。そのような実施形態では、Δφは、好適には0.566ラジアン未満であり(変換率が少なくとも98%の場合)、より好適には0.4ラジアン未満である(変換率が少なくとも99%の場合)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来の単一部分型傾斜側壁偏光変換器を示す図である。
図2】ポアンカレ球上に示した偏光変換器の動作を示す図である。M及びMは傾きをなすモードを示す。
図3A】位相シフトφがπラジアンと異なる場合の偏光変換器の動作を示す図である。
図3B】位相シフトφがπラジアンと異なる場合の偏光変換器の動作を示すグラフである。
図4A】チルト角度θがπ/4ラジアンと異なる場合の偏光変換器の動作を示す図である。
図4B】チルト角度θがπ/4ラジアンと異なる場合の偏光変換器の動作を示すグラフである。
図5】従来の偏光変換器を示す図である。
図6】幅誤差ΔWPC(単位はミクロン)の関数として、チルト角度の誤差Δθ及び位相シフトΔφの依存性を示すグラフである。
図7】幅変位ΔWPC(ミクロン)の関数として、シミュレート値(DC−sim)及び理論値(方程式(1)に従ったDC−Theory)と比較した、チルト角度Δθ(DC−POL(θ))の誤差及び位相シフトΔφ(DC−POL(φ))の誤差の寄与からの、変換率の変化ΔCを示す。DC−totalは、両誤差寄与の組み合わせである。
図8】ポアンカレ球の赤道上への投影を示す図である。この補正の可能性を示す。破線は回転軸を示し、実線は回転軌道を示す。
図9A】互いに逆の符号を有するチルト角度をもたらす、鏡像断面部分を有する偏光変換器を示す図である。
図9B】互いに逆の符号を有するチルト角度をもたらす、鏡像断面部分を有する偏光変換器を示す図である。
図10】2部分型偏光変換器についての、ポアンカレ球上でのTEからTMへの変換のためのSOPの軌道を示す図である。
図11】高許容差偏光変換器の構造を示す図である。明確にするために、部品間に隙間を設けているが、これは実際通りではない。入力導波路及び出力導波路、並びに、2つの鏡像変換部分が示されている。
図12】位相シフトがπラジアンである場合の、チルト角度θの関数として変換率を示すグラフである。
図13】単一部分型偏光変換器及び2部分型偏光変換器の両方の変換率を示すグラフであり、幅誤差ΔWPC(単位はミクロン)を関数とした変換率Cの依存性を示している。C−POLは、単一部分型偏光変換器を指しており、C−TPOLは、誤差に対する許容度を高めた2部分型偏光変換器を指している。
図14】単一部分型デバイス及び2部分型偏光変換器の波長依存性を示すグラフである。C−POLは、単一部分型偏光変換器を指しており、C−TPOLは、誤差に対する許容度を高めた2部分型偏光変換器を指している。
図15】偏光変換器の変換率対幅の挙動を示すグラフであり、非常に高い変換率(>0.99)は、幅広い範囲にわたって得られないことを示している。
図16図15の挙動の理由が、差異、すなわち傾きをなす2つのモード間の位相角度に起因する第2の誤差の影響であることを示すグラフである。
図17】前記部分の長さを10%増加させた場合の、改善された誤差曲線を示すグラフである。
図18】長さを10%調節した場合の、変換率と幅との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の革新的特徴を十分に理解するために、まず、従来の偏光変換器設計の許容範囲が狭い原因についての本願発明者の考察から始める。簡潔に言えば、偏光モードの偏光角度を最適角度である45°近傍に維持することが困難であることが分かっている。次に、前記角度(45°)における可能性のある誤差を補正することができる本発明による新規な偏光変換器の設計について説明する。本発明の新規な偏光変換器は、製造誤差だけでなく、大気状態や波長範囲に関しても、従来の偏光変換器よりもはるかに大きい許容範囲を有する。本発明の、誤差に対する許容度を高めた変換器は、各断面が互いに鏡像をなす2つの傾斜側壁部分を使用する。一実施形態では、本発明の新規な偏光変換器は、単一部品からなる従来の偏光変換器の長さの2倍の長さを有する。
【0014】
図1は、InP上側クラッド層100と、InP下側クラッド層102と、前記両クラッド層間に配置されたInGaAsPコア層104とを含む従来の偏光変換器を示す。この偏光変換器では、z軸に沿って伝搬される光の偏光変換は、1つの傾斜側壁を有する狭い導波路により得られる。電磁気境界条件に起因して、この設計は、偏光モードを回転させる。慎重な設計では、前記回転は45°である。その場合、対称入力導波路からのTEモード(またはTMモード)は、偏光モードが+45°/−45°回転した、互いに直交する2つのモードを等しく励起する。これらのモードは、互いに異なる伝搬係数β及びβで伝搬する。半ビート長(Lλ/2=π/2|β−β|)伝搬した後、前記2つの回転モードは、対称出力導波路においてTMモード(またはTEモード)に再結合される。このようにして、TE及びTM間の完全な変換が可能である。
【0015】
偏光変換器の動作は、ポアンカレ球上において表現することができる。図2に示すように、可能性のあるすべての偏光状態(state of polarization:SOP)を、ポアンカレ球の表面上に点で表すことができる。ポアンカレ球とx軸との2つの交点はTE点及びTM点である。ポアンカレ球とz軸との2つの交点は左円偏光及び右円偏光であり、ポアンカレ球とy軸との交点であるM及びMは、互いに反対方向に45°傾いた(+45°、−45°)線形偏光モードである。TEからTMへの偏光変換は、変換部分における2つの安定的な偏光状態(理想的には、互いに反対方向に45°傾いた線形偏光)を通る軸を中心としたπラジアンの回転に相当する。回転角度は、偏光変換器における前記2つのモード間の位相シフトである。実際の偏光変換器が理想的な設計から逸脱することにより、以下の2つの誤差が生じ得る。第1の誤差は、回転(位相シフトφ)が、必要とされるπラジアンと相違することである。このことは図3に示されている。結果として、SOPは楕円形になる。生じ得る第2の誤差は、前記モードのチルト角度θが45°(π/4ラジアン)と相違することである。この場合、最終的なSOPは線形であるが、TM偏光に対して回転している。このことは図4に示されている。線形偏光状態はすべて、ポアンカレ球の赤道上に存在することに留意されたい。これらの2つの誤差の相対的重要性を、以下に説明する。
【0016】
偏光変換器の変換率Cは、次式で与えられる。
C=Pconverted/Ptotal=2cosθsinθ(1−cosφ) (1)
ただし、θは前記2つのモードのチルト角度であり、φ=L(β−β)はそれらのモード間の位相シフトであり、Lは傾斜部分の長さであり、β及びβは伝搬定数である。伝搬定数β及びβは、導波路における前記モードの位相展開を表す。前記モードが、導波路に沿った長さLに沿って伝搬する場合、その位相はβL増加する。したがって、長さLに沿って伝搬した場合、(β−β)L=πとなり、前記2つのモードにπラジアンの位相差が蓄積される。これが、前記2つのモードが、図1に示すように、互いに反対方向の出力偏光に再結合される理由である。
【0017】
方程式1から明らかなように、完全な変換器の場合は、θ=π/4、φ=πであることが分かる。製造誤差、動作状態の変化、または材料パラメータの違いに起因して、θ及びφに対する誤差Δθ及びΔφが生じた場合、変換率の変化ΔCは、次式で表される。
ΔC=−4(Δθ)−0.25(Δφ) (2)
【0018】
方程式(2)は、方程式(1)のテイラー級数展開から得られる。前記展開における1次の項及び3次の項はゼロであるので、方程式(2)は4次の項まで正確である。
【0019】
方程式(2)は、チルト角度の誤差の影響が、位相シフトの同等の誤差に起因する影響よりもずっと深刻であることを示唆している。当然ながら、このことは前記誤差の実際の値に依存するが、実際はチルト角度の誤差が変換率減少の主要原因であることを、シミュレーション及び概略的な議論とともに下記に示す。
【0020】
偏光変換器の動作を、図5に示すようなモデル変換器を用いたシミュレーションによって調べた。この変換器は、InP上側クラッド層500と、InP下側クラッド層502と、前記両クラッド層間に配置されたInGaAsPコア層504とを含む。この変換器では、傾きをなす2つのモードは、傾斜側壁によってではなく、三角形状の上側クラッドによって得られる。このことは、この変換器の実現において、いくつかの利点を有している。後述するように、この変換器について得られる結果は、同じく傾斜側壁を有するすべての偏光変換器についての代表例である。
【0021】
第1の重要な問題点は、2つの可能性のある誤差、すなわちチルト角度の誤差Δθ及び位相シフトの誤差Δφの相対的影響である。方程式(2)は、前者の誤差が支配的であることを示唆しているが、念のために、両方の大きさを調べる必要がある。偏光変換器部分のモードを、フィルムモードマッチング(FMM)導波路ソルバーを用いて、幅誤差の関数として分析することにより、Δθ及びΔφの値を求めることができる。図6は、幅誤差ΔWPC(単位はミクロン)の関数として、チルト角度の誤差Δθ及び位相シフトの誤差の依存性を示すグラフである。
【0022】
Δθは、幅誤差ΔWPCに対する線形依存性が見られるが、位相シフトの誤差Δφは、幅誤差ΔWPCに対する二次関数的依存性を有し、WPCの設計点に近い最小値が得られる。結果として、ΔWPCが大きな負の値である場合、すなわち、変換器導波路が設計よりも非常に小さい場合、Δφが主要な誤差になることが予想される(例えば、方程式(2)において、ΔφがΔθの4倍以上の場合)。しかしながら、ΔWPC=0の近傍の領域及びΔWPCの値が正である領域においては、チルト誤差が明らかに支配的になる。
【0023】
この分析は、設計幅に近いΔφの最小値が得られるこの挙動が、傾斜側壁を有する偏光変換器の一般的性質であるのか、それともこの特別な設計の特徴であるのか、という疑問を生じさせる。他の設計におけるシミュレーションも同様の挙動を示したので、一般性が確認された。このことは、前記傾きをなすモードの背景のメカニズムを考慮することにより理解することができる。前記モードの偏光は、導波路断面の物質境界面での電磁気境界条件によって決定される。これらの大部分は水平または垂直なので、TE−likeモードまたはTM−likeモードが一般的に見られる。前記偏光変換器において、前記境界面の一方が或る角度以下で配置された場合、前記モードの傾きが発生する。しかしながら、他方の境界面への影響を解消して所望の45°のチルト角度が得られるようにするには、TEモード及びTMモードのハイブリダイゼーションが必要である。このようなハイブリッドモードは、前記2つのモードの伝搬定数が互いに近いことを必要とするため、このことは、偏光変換器の必要条件になる。導波路の長さに沿って伝搬する場合、前記モード間の位相シフトは、伝搬定数の差に比例する。このことは、位相シフトの最小値が、傾斜側壁を有する偏光変換器の最適な設計幅に近いことを暗示している。この考察に基づいて、チルト角度誤差が幅誤差に大きな影響を与える比較的広い幅範囲を期待することができる。
【0024】
図7は、シミュレートした変換における2つの誤差の影響を示すグラフである。このグラフは、幅誤差ΔWPC(単位はミクロン)の関数として、シミュレート値(DC−sim)及び理論値(方程式(1)に従ったDC−Theory)と比較した、チルト角度の誤差Δθ(DC−POL(θ))及び位相シフトの誤差Δφ(DC−POL(φ))の寄与からの、変換率の変化ΔCを示す。DC−totalは、両誤差寄与の組み合わせである。この図は、シミュレーション、理論及び追加の誤差寄与(方程式(2)による)のすべてが、互いに非常に近いことを示し、上記の分析の妥当性を明確に示す。負の幅誤差が30nmよりも大きい領域以外では、位相シフト誤差Δφの寄与は無視できるほど小さい。他のどの場所でも、チルト角度誤差は、(きわめて)大きく影響する。
【0025】
上記の分析により、本願発明者は、偏光変換器の許容範囲を向上させるためには、特に、設計からの逸脱に起因するチルト角度θの誤差の補正が必要であることを見出した。図8は、この補正の可能性を示す。この図はポアンカレ球の上面図であり、偏光変換を、SOPの回転軸と、回転軌道とにより示している(この投影図では、回転軸800及び802と、それらに直交する直線804及び806とが示されている)。ここでは、TEからTMへの変換を例として用いているが、逆の変換(TMからTEへの変換)ではすべてが正反対になる。半回転(π/2ラジアン回転)させると、チルト角度の誤差を、TE−TM軸に関して対称になる軸を中心とする回転によって補償することができる。この第2の回転は、TM点を横切る円上でなされ得る。このことを実現するために、第2の変換部分を用いる。第2の変換部分ではチルト角度が−θであるので、2つのモードは互いに反対側に傾いている。正確には、このような回転は、各断面が互いに鏡像をなす2つの偏光変換器部分について得られる。このような2つの偏光変換部分の各断面を、図9A、9Bに示す。この偏光変換器部分は、上側クラッド層900と、下側クラッド層902と、前記両クラッド層間に配置されたコア層904とを含む。コア層904は、クラッド層900及び902の屈折率よりも大きい屈折率を有する。したがって、nFILM>nCLADDING、かつ、nFILM>nSUBSTRATEとなる。このような鏡像断面を有する偏光変換器は、逆符号のチルト角度のモードをもたらす。
【0026】
前記両部分は同じ材料から同時に製造することができるので、実用化においては、鏡像断面を得ることはむしろ容易である。そのため、幅及び材料組成の誤差は、前記両部分で互いに同じになる。しかし、第2の偏光変換部分の鏡像により、ポアンカレ球の表面上でのSOPの回転は反対方向になるため、TM点に達するためには3π/2ラジアンの回転角度が必要となる。そのため、本発明の一実施形態による、誤差に対する許容度を高めた偏光変換器は、長さが互いに異なる2つの部分を含む。一方の部分はLλ/4=π/2(β−β)の長さを有し、他方の部分は、前記一方の部分の3倍の長さである、L3λ/4=3π/2(β1−β2)を有する。したがって、本発明の偏光変換器の合計長さは、従来の単一部分型偏光変換器の長さの2倍となる。図10は、必要とされる位相シフトに適応する長さを有する2つの鏡像部分を含む本発明の偏光変換器を通じて光伝搬したときの、ポアンカレ球上でのSOPの総経路を示す。図11は、本発明の一態様による、2つの部分を有する偏光変換器の概略構造を示す。本発明の偏光変換器は、入力導波路1106と、出力導波路1104と、前記両導波路間に配置された鏡像偏光変換器部分1100及び1102とを含む。
【0027】
本発明の、誤差に対する許容度を高めた、2つの部分を有する偏光変換器では、変換率は、次式により与えられる。
C=[sinθcosθ+sinθcosθ]{6+4cos(φ/2)−4cos(3φ/2)+2cos(2φ)}+sinθcosθ{−4−8cos(φ/2)−8cos(φ)−4cos(2φ)+8cos(3φ/2)} (3)
【0028】
この場合もやはり、最適な変換器では、θ=π/4、φ=πである。前述同様に、誤差Δθ及びΔφについてテイラー級数展開を行うことにより、Cの変化を求めることができる。
ΔC=−0.25(Δφ) (4)
【0029】
方程式(4)は、θの誤差が2次まで補償され、φの誤差がわずかしか残っていないことを示す。φについての誤差を無視した場合、図12に示すように、従来の偏光変換器及び本発明の誤差に対する許容度を高めた偏光変換器についての、θの関数としての変換率の依存性をプロットすることができる(方程式1及び3から)。図12は、位相シフトがπラジアンである場合の、チルト角度θの関数としての変換率を示す。
【0030】
これらのグラフは、許容度が高められる挙動の原因を示す。本発明の2部分型偏光変換器の場合、最適値付近にプラトーが出現する。このプラトーは、誤差が比較的大きい場合にチルト角度の誤差が補償されることを示す。本発明の2部分型偏光変換器の許容範囲を調べる目的で、図5に示した従来の偏光変換器の変換における幅誤差の影響をシミュレートした。
【0031】
図13は、単一部分型偏光変換器及び2部分型偏光変換器の両方の変換率を示しており、幅誤差ΔWPC(単位はミクロン)を関数とした変換率Cの依存性を示している。C−POLは、単一部分型偏光変換器を指し、C−TPOLは、誤差に対する許容度を高めた2部分型偏光変換器を指している。2部分型偏光変換器では、非常に高い変換率が幅広い範囲で得られることを示すプラトーが現れることが見てとれる。100nmの幅範囲を考えた場合、単一部分型偏光変換器は90%以上の変換率を有するが、2部分型偏光変換器ではこの範囲で99%の変換率を示す。いくつかの用途では95%またはそれ以上の変換率が必要とされるが、前記変換率は本発明の偏光変換器によってのみ提供される。図13は、これらの変換率に起因して、2部分型偏光変換器の幅誤差に対する許容度が、単一部分型偏光変換器の幅誤差に対する許容度の2倍であることを示している。
【0032】
前記許容範囲は、幅広の変換器については、特にプラス(+)側に延びているが、幅狭の変換器については、前記許容度の向上はより小さい。この理由は、図7と比較した場合により明確になる。幅狭の変換器では、位相角度φの誤差が作用する。前記許容度の向上はチルト角度誤差Δθに依存するので、(幅広の変換器の場合)Δφが影響を与えない領域が最も良い挙動を示す。このことは、設計者が、プラトーの中央部を目指すために、2部分型偏光変換器の幅を少し大きく設計することによって利用することができる。
【0033】
偏光変換器の性能は、製造誤差だけでなく、設計において想定した動作条件からの動作条件の差異よっても決定される。そのため、製造誤差に対する許容度を向上させるのに用いたのと同じ考えを、波長範囲、または動作温度範囲を向上させるのに用いることができる。このことは、単一部分型デバイス及び2部分型偏光変換器の波長依存性を示す図14に示されている。
【0034】
2部分型偏光変換器の変換率の波長依存性を示すこのグラフでも、チルト角度の誤差の補償の存在を示すプラトーが得られる。2部分型偏光変換器における95%以上の変換率が得られる波長範囲は、単一部分型デバイスのほぼ2倍である。重要なC帯域については、従来の偏光変換器でも95%以上の変換率が得られるが、本発明の、誤差に対する許容度を高めた偏光変換器では99%以上の変換率が得られる。このことは、偏光変換器の性能が劇的に向上し、偏光多重化または偏光スイッチングなどの、偏光の純度が重要である用途に役立つことを示している。
【0035】
要約すると、傾斜側部を有する単一部分型偏光変換器の製造誤差に対する許容度が制約されている原因は、変換器の導波路内でモードが45°のチルト角度を維持することの困難さであるとことが明らかになった。本発明は、この誤差を補正することができる新規な偏光変換器を提供する。本発明の新規な偏光変換器は2部分型偏光変換器であり、2つの部分が逆方向のチルト角度を持つモードを有する。前記2つの部分は、互いに鏡像をなしている。これは、製造において容易に実現することができる。好適な実施形態では、前記2つの部分は、以下のようにして互いに接続される。最適な接続は、或る部分から次の部分へ光が最大比率で伝搬されることを可能にする。これは、前記両部分間の隙間が、動作波長の10%未満であることが好ましいことを暗示している。さらに、前記2つの部分を正確に整列させるためには、前記両部分を同じ方向に整列させ、かつ両部分の導波路(モードが伝搬する路)の中心が一直線上に位置するように配置することが好ましい。
【0036】
前記2つの鏡像部分は、工程ステップに起因する差異が互いに同一になるように、同一の製造工程で同一の工程ステップ(例えば、リソグラフィまたはエッチング)を用いて同時に製作することが好ましい。鏡像自体は、リソグラフィによるパターン画定によって形成することができる。前記傾斜側壁は、前記2つの部分の導波路の互いに反対の側に形成される。傾斜側壁を形成するための1つの技術としては、前記両部分についてのマスキングストライプを一緒に作成し、その後、第1の部分においてはこのストライプの一方の側(例えば「南」側)を覆い、第2の部分においては他方の側(例えば「北」側)を覆うという方法がある。この組み合わせたマスクパターンを化学エッチングに対して露出させることによってリッジ部の互いに反対の側に傾斜側壁を形成することができ、これにより、必要とされる2つの鏡像断面を形成することができる。
【0037】
本発明の新規な2部分型偏光変換器は、製造誤差に対する許容度及び波長範囲の大幅な向上を示し、かつ非常に大きい変換率を提供する。本発明の、誤差に対する許容度を高めた偏光変換器は、従来の単一部分型デバイスよりも大きい長さを有し、また、1つの追加的な導波路接合部を含む。
【0038】
本発明のさらなる実施形態も提供され、特定の場合におけるさらなる向上を提供する。具体的には、本発明による偏光変換器について、図15に示す、変換対幅挙動について考える。ここでは、青い曲線(破線)は従来の単一部分型偏光変換器(C−POL)を示し、赤い曲線(太い実線)は本発明の2部分型偏光変換器(C−TPOL)を示す。実際、プラトーが発生するが、赤い曲線の平坦な部分は水平でなく、傾いている。そのため、非常に高い変換率(0.99以上)が得られるが、大きな幅範囲にわたっては得られない。本願発明者は、このように水平から逸脱する理由は、差異(すなわち図16に示すような傾きをなす2つのモード間の位相角度)に起因する第2の誤差の影響であることを見出した。位相角度の誤差の最小値の付近の領域、すなわちプラトーが現れる領域では、位相誤差Δφは比較的大きくなることが分かる。この影響は、その値で二次式にスケールするので、影響はかなりの大きさになる。しかし、この誤差は、既定の部品によって前記2部分の長さを増加させることにより減少させることができる。その結果として、傾斜モード間の位相差が増大し、また、位相誤差Δφが負であるのでその絶対値は減少し、これにより、変換に対する影響が減少する。例えば、前記部分の長さを10%増加させた場合、図17に示すような誤差曲線が現れる。元の設計点(Δ幅=0)にて、位相誤差Δφが現れたことが見てとれる。しかし、この位相誤差は比較的小さい。長さを調節した場合の変換率対幅のグラフを図18に示す。この場合もプラトーが現れるが、プラトーは元の設計点付近には位置しない。設計者は、調節された幅を有する変換器を目指して、調整を行うことができる。
【0039】
したがって、特定の変換器タイプにおいて、最小値に近い位相角度誤差が、所望の水平なプラトーを得るには大きすぎる場合、これを補正するために、若干の長さ補正を行うことができる。具体的には、位相誤差(製造または動作パラメータの関数として逆放物線に従う)の最小値が−Δφである場合、L(1+Δφ/2π)及びL(1+Δφ/2π)の長さを用いることによって偏光変換器を改善することができる。このようにして、有効な許容範囲において、位相誤差に起因する変換率の最大減少が1/4倍になる。
【0040】
少なくともx%の変換率を要件とする以下の3つの場合が考えられる。
【0041】
ケース1:必要とされる許容範囲にわたって、Δφ<0.2(100−x)1/2である場合
長さの調節は不要である。本発明の2部分設計によって、広い誤差許容範囲を有する高性能デバイスが得られる。
【0042】
ケース2:必要とされる許容範囲にわたって、0.2(100−x)1/2<Δφ<0.4(100−x)1/2である場合
上述した長さ調節を行う。本発明の2部分設計によって、広い誤差許容範囲を有する高性能デバイスが得られる。
【0043】
ケース3:必要とされる許容範囲にわたって、Δφ>0.4(100−x)1/2である場合
本発明の2部分設計は、高性能デバイス及び広い誤差許容範囲を同時に提供しない。変換率と誤差許容範囲との間にはトレードオフの関係があり、特定の用途に応じて設計上の選択を行う。
【0044】
一般に、有用な長さ調節について、Δφの値は、0.4(100−x)1/2未満であるべきである。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18