(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119(e)条に基づいて、2011年12月21日に出願された米国仮特許出願第61/578,562号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、レンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中のカロテノイドの酸化的安定性が強化された、カロテノイド及びビタミンE材料を含有するコンタクトレンズに関する。本発明はまた、カロテノイド及びビタミンEを含有し、それによってレンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中のカロテノイドの酸化的安定性を強化するコンタクトレンズの製造方法に関する。
【0003】
背景
カロテノイド分子は、コンタクトレンズに担持されると、その酸化防止性及び他の性質に基づいて複数の使用可能性を有する;可能性は、快適剤、一般的な目の健康、AMD(加齢黄斑変性)のような眼疾患の特別な処置、又は単に同時溶出する快適分子の枯渇を知らせることを包含する。カロテノイド分子はまた、青色光吸収性コンタクトレンズの製造に使用することができる。
【0004】
しかし、カロテノイドの化学構造に存在する広範な不飽和のため、カロテノイドはレンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中に酸化的損傷を受けやすい。
【0005】
したがって、レンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中のカロテノイドの酸化的安定性が強化された、注型コンタクトレンズの製造法に対するニーズが存在する。
【0006】
発明の概要
本発明は、1つの態様において、コンタクトレンズの製造方法であって、以下:
(a) コンタクトレンズを得る工程、
(b) カロテノイド及びビタミンE材料を含有する溶液に、所望量のカロテノイド及びビタミンE材料を担持するのに充分な時間、コンタクトレンズを浸漬する工程;並びに
(c) 工程(b)のコンタクトレンズをオートクレーブ処理することによって、コンタクトレンズを滅菌する工程を含む方法であって、このコンタクトレンズは、レンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中のカロテノイドの酸化的分解が、ビタミンE材料を含まない同一コンタクトレンズと比較して少なくとも約30%少ない方法を提供する。
【0007】
本発明は、別の態様において、形成された水膨潤性のポリマーレンズ本体;カロテノイド及びビタミンE材料を含むコンタクトレンズであって、ビタミンE材料は、レンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中のカロテノイドの酸化的分解を、ビタミンE材料を含まない同一コンタクトレンズと比較して少なくとも約30%減少させるのに充分な量で存在するコンタクトレンズを提供する。
【0008】
好ましい実施態様の詳細な説明
これから本発明の実施態様を詳細に述べる。当業者には明らかとなろうが、本発明の範囲又は本質を逸することなく、本発明には種々の変形及び変化を加えることができる。例えば、1つの実施態様の一部として説明又は記載される特徴は、別の実施態様に利用することによって、更に別の実施態様を生み出すことができる。よって本発明は、このような変形及び変化を添付の請求の範囲及びその均等物の範囲に入るものとして取り扱うことを意図する。本発明の他の対象、特徴及び態様は、以下の詳細な説明に開示されるか、又はそこから明白である。当業者には当然のことながら、本考察は、単に典型的な実施態様の説明であり、本発明のより広い態様を限定するものではない。
【0009】
特に断りない限り、本明細書に使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する当該分野における通常の技術者が共通に理解する意味と同じ意味を有する。一般に、本明細書に使用される命名法及び実験手順は、当該分野において周知であり共通に利用されている。これらの手順には、当該分野及び種々の一般的な参考文献に提供されるような、従来法が使用されている。単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて複数の態様を包含する。よって例えば、リン脂質への言及は、単一のリン脂質、更に2種以上のリン脂質を包含する。本明細書に使用される命名法及び後述の実験手順は、当該分野においてよく知られており共通に利用されているものである。本開示を通じて利用されるとき、以下の用語は、特に断りない限り、以下の意味を有すると理解されよう。
【0010】
「眼用装置」とは、本明細書に使用されるとき、目の上若しくは目の周囲又は目の近傍で使用される、コンタクトレンズ(ハード又はソフト)、眼内レンズ、角膜アンレー、他の眼用装置(例えば、ステント、緑内障シャントなど)のことをいう。
【0011】
「コンタクトレンズ」とは、装用者の目の上又は中に入れることができる構造体のことをいう。コンタクトレンズは、使用者の視力を矯正、向上、又は改変することができるが、必ずしもそうではない。コンタクトレンズは、当該分野において知られているか、又は後に開発される任意の適切な材料であってよく、そしてソフトレンズ、ハードレンズ、又はハイブリッドレンズであってよい。「シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ」とは、シリコーンヒドロゲル材料を含むコンタクトレンズのことをいう。
【0012】
コンタクトレンズの「前面(front or anterior surface)」とは、本明細書に使用されるとき、装用中に目から離れているレンズの表面のことをいう。典型的には実質的に凸面である前面はまた、レンズのフロントカーブと呼ばれることもある。
【0013】
コンタクトレンズの「後面(rear or posterior surface)」とは、本明細書に使用されるとき、装用中に目に面しているレンズの表面のことをいう。典型的には実質的に凹面である後面はまた、レンズのベースカーブと呼ばれることもある。
【0014】
「ヒドロゲル」又は「ヒドロゲル材料」とは、完全に水和すると、少なくとも10重量パーセントの水を吸収できるポリマー材料のことをいう。
【0015】
「シリコーンヒドロゲル」とは、少なくとも1種のシリコーン含有モノマー又は少なくとも1種のシリコーン含有マクロマー又は少なくとも1種の架橋しうるシリコーン含有プレポリマーを含む、重合しうる組成物の共重合により得られるシリコーン含有ヒドロゲルのことをいう。
【0016】
「親水性」とは、本明細書に使用されるとき、脂質とよりも水と容易に結び付きやすい、材料又はその一部を表す。
【0017】
「モノマー」とは、重合することができ、そして1種以上の化学線で架橋しうる基を含む、低分子量化合物を意味する。低分子量とは、典型的には700ダルトン未満の平均分子量を意味する。
【0018】
「化学線で架橋しうる基」とは、化学線照射により同じタイプ又は異なるタイプの別の基と反応することによって、共有結合を形成できる基のことをいう。化学線で架橋しうる基の例は、特に限定されないが、アクリル基、チオール基、及びエン含有基を包含する。アクリル基は、化学線照射によりフリーラジカル連鎖反応を起こすことができる。チオール基(−SH)及びエン含有基は、(“PRODUCTION OF OPHTHALMIC DEVICES BASED ON PHOTO-INDUCED STEP GROWTH POLYMERIZATION”という名称の)2006年12月13日に出願された共同所有の同時係属の米国特許出願第60/869,812号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載されるとおり、チオール−エン逐次ラジカル重合に関与することができる。
【0019】
「アクリル基」は、カルボニルがO又はNに結合しているという条件で、下記式:
【化1】
を有する有機ラジカルである。
「エン含有基」は、カルボニル基(−CO−)、窒素原子、又は酸素原子に直接結合していない、炭素−炭素二重結合を含有する一価又は二価ラジカルであり、そして式(I)〜(III):
【化2】
[式中、R
1は、水素、又はC
1−C
10アルキルであり;R
2及びR
3は、相互に独立に、水素、C
1−C
10アルケン二価ラジカル、C
1−C
10アルキル、又は−(R
18)
a−(X
1)
b−R
19(ここで、R
18は、C
1−C
10アルケン二価ラジカルであり、X
1は、エーテル結合(−O−)、ウレタン結合(−N)、尿素結合、エステル結合、アミド結合、又はカルボニルであり、R
19は、水素、単結合、アミノ基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、カルボニル基、C
1−C
12アミノアルキル基、C
1−C
18アルキルアミノアルキル基、C
1−C
18カルボキシアルキル基、C
1−C
18ヒドロキシアルキル基、C
1−C
18アルキルアルコキシ基、C
1−C
12アミノアルコキシ基、C
1−C
18アルキルアミノアルコキシ基、C
1−C
18カルボキシアルコキシ基、又はC
1−C
18ヒドロキシアルコキシ基であり、a及びbは、相互に独立に、0又は1である)であるが、ただし、R
2及びR
3の一方だけが二価ラジカルであり;R
4〜R
9は、相互に独立に、水素、C
1−C
10アルケン二価ラジカル、C
1−C
10アルキル、又は−(R
18)
a−(X
1)
b−R
19であるが、ただし、R
4〜R
9のうち1個又は2個だけが二価ラジカルであり;n及びmは、相互に独立に、0〜9の整数であるが、ただし、nとmとの合計が2〜9の整数であり;R
10〜R
17は、相互に独立に、水素、C
1−C
10アルケン二価ラジカル、C
1−C
10アルキル、又は−(R
18)
a−(X
1)
b−R
19であるが、ただし、R
10〜R
17のうち1個又は2個だけが二価ラジカルである]のいずれか1つにより定義される。
【0020】
「ビニルモノマー」とは、本明細書に使用されるとき、エチレン型不飽和基を有しており、そして化学線又は熱により重合しうるモノマーのことをいう。
【0021】
「オレフィン型不飽和基」又は「エチレン型不飽和基」という用語は、本明細書では広い意味で使用され、そして>C=C<基を含有する任意の基を包含することを意図する。例となるエチレン型不飽和基は、特に限定されないが、アクリロイル、メタクリロイル、アリル、ビニル、スチレニル、又は他のC=C含有基を包含する。
【0022】
本発明に使用されるとき、重合しうる組成物、プレポリマー又は材料の硬化、架橋又は重合に関して「化学線により」とは、その硬化(例えば、架橋及び/又は重合)が、例えば、UV照射、電離放射線(例えば、γ線又はX線照射)、マイクロ波照射などのような、化学線照射により実施されることを意味する。熱硬化又は化学線硬化法は、当業者にはよく知られている。
【0023】
「親水性モノマー」とは、重合することにより、水溶性であるか、又は少なくとも10重量パーセントの水を吸収できるポリマーを形成することができる、モノマーのことをいう。
【0024】
「疎水性モノマー」とは、本明細書に使用されるとき、重合することにより、水に不溶性であり、かつ10重量パーセント未満の水しか吸収できないポリマーを形成する、モノマーのことをいう。
【0025】
「マクロマー」とは、重合及び/又は架橋することができ、そして1個以上の化学線で架橋しうる基を含む、中分子量及び高分子量化合物のことをいう。中分子量及び高分子量とは、典型的には700ダルトンを超える平均分子量を意味する。
【0026】
「プレポリマー」とは、化学線で架橋しうる基を含有し、そして化学線で硬化(例えば、架橋)することにより、出発ポリマーよりもはるかに大きな分子量を有する架橋ポリマーが得られる、出発ポリマーのことをいう。
【0027】
「シリコーン含有プレポリマー」とは、シリコーンを含有し、そして化学線で架橋することにより、出発ポリマーよりもはるかに大きな分子量を有する架橋ポリマーが得られる、プレポリマーのことをいう。
【0028】
ポリマー材料(モノマー又はマクロマー材料を包含する)の「分子量」とは、本明細書に使用されるとき、特に断りない限り又は特に試験条件が示されない限り、数平均分子量のことをいう。
【0029】
「ポリマー」とは、1種以上のモノマーを重合することにより形成される材料を意味する。
【0030】
本明細書に使用されるとき、「複数」という用語は、3個以上のことをいう。
【0031】
「光開始剤」とは、光の利用によりラジカル架橋/重合反応を開始させる化学物質のことをいう。適切な光開始剤は、特に限定されないが、ベンゾインメチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾイルホスフィンオキシド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、Darocure(登録商標)、及びIrgacure(登録商標)型、好ましくはDarocure(登録商標)1173、及びIrgacure(登録商標)2959を包含する。
【0032】
「熱開始剤」とは、熱エネルギーの利用によりラジカル架橋/重合反応を開始させる化学物質のことをいう。適切な熱開始剤の例は、特に限定されないが、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)、過酸化ベンゾイルのような過酸化物などを包含する。好ましくは、熱開始剤は、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)である。
【0033】
「化学線の空間制限」とは、線の形状のエネルギー放射が、例えば、マスク又はスクリーン又はこれらの組合せを用いて、明確に定義された周辺境界を有する領域に、空間的に限られたやり方で作用するように向けられる活動又はプロセスのことをいう。例えば、UV線の空間制限は、米国特許第6,627,124号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)の
図1〜9に説明されるように、UV不透過性領域(マスク領域)に囲まれた透明又はオープン領域(マスクしていない領域)を有する、マスク又はスクリーンを用いることにより達成できる。マスクしていない領域は、マスク領域との明確に定義された周辺境界を有する。
【0034】
レンズに関して「可視着色」とは、使用者が、レンズ保存用、消毒用又は洗浄用容器中の透明溶液にレンズを容易に入れることができるようにする、レンズの染色(又は着色)を意味する。当該分野では、レンズを可視着色するのに染料及び/又は顔料を使用できることはよく知られている。
【0035】
「染料」とは、溶媒に可溶性であり、そして色をつけるために使用される物質を意味する。染料は、典型的には半透明であり、そして光を吸収するが散乱させない。本発明には任意の適切な生体適合性染料を使用することができる。
【0036】
「顔料」とは、不溶性である液体に懸濁される粉末物質を意味する。顔料は、蛍光顔料、リン光顔料、真珠光沢顔料、又は従来の顔料であってよい。任意の適切な顔料を利用できるが、顔料は、耐熱性で、非毒性であり、かつ水溶液に不溶性であることが今のところ好ましい。
【0037】
「流体」という用語は、本明細書に使用されるとき、ある材料が液体のように流動できることを示す。
【0038】
「表面改質」とは、本明細書に使用されるとき、ある物品が、物品の形成前又は後に表面処理プロセス(又は表面改質プロセス)において処理されていることを意味するが、このプロセスでは、(1)物品の表面にコーティングを適用し、(2)化学種を物品の表面に吸着させ、(3)物品の表面上の化学基の化学的性質(例えば、帯電)を変更させるか、又は(4)物品の表面特性を別のものに改質する。典型的な表面処理プロセスは、特に限定されないが、エネルギー(例えば、プラズマ、静電荷、照射、又は他のエネルギー源)による表面処理、化学処理、物品の表面上への親水性モノマー又はマクロマーのグラフト化、米国特許第6,719,929号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に開示されるモールド・トランスファー(mold-transfer)コーティングプロセス、米国特許第6,367,929号及び6,822,016号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に提案されるコンタクトレンズ製造用のレンズ配合物への湿潤剤の組み込み、米国特許出願第60/811,949号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に開示される強化モールド・トランスファーコーティング、並びに米国特許第6,451,871号、6,719,929号、6,793,973号、6,811,805号、6,896,926号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載される方法により得られる交互積層(layer-by-layer)コーティング(「LbLコーティング」)を包含する。
【0039】
「カロテノイドの酸化的分解」という用語は、オートクレーブ処理又はコンタクトレンズ保存中のコンタクトレンズ中のカロテノイドの酸化的分解の割合を意味する。
【0040】
コンタクトレンズのオートクレーブ処理中のカロテノイドの分解の割合は、以下のとおり定義される:
【0041】
コンタクトレンズのカロテノイドの酸化的分解=[(カロテノイド0(μg)−カロテノイド1(μg)/カロテノイド0(μg)]×100
【0042】
式中、カロテノイド0(μg)及びカロテノイド1(μg)は、それぞれレンズオートクレーブ処理前及びレンズオートクレーブ処理後のレンズ中に存在するカロテノイドの量を表す。
【0043】
コンタクトレンズの保存中のカロテノイドの分解の割合は、以下のとおり定義される:
【0044】
コンタクトレンズのカロテノイドの酸化的分解=[(カロテノイドx(μg)−カロテノイドy(μg)/カロテノイドx(μg)]×100
【0045】
式中、カロテノイドx(μg)及びカロテノイドy(μg)は、それぞれ開始時及び所定温度で特定時間保存後のレンズ中に存在するカロテノイドの量を表す。
【0046】
本発明は、ビタミンEが、カロテノイドを包含するソフトヒドロゲルレンズ中で、レンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中の酸化的分解を減少させるための安定化剤として使用できるという発見に一部基づいている。カロテノイドを包含するソフトヒドロゲルレンズ中で安定化剤として作用するビタミンEの機序は、充分に理解されていない。
【0047】
ビタミンE及びカロテノイドの量は、UV/VIS分光光度法により測定できる。
【0048】
本発明は、1つの態様において、コンタクトレンズの製造方法であって、以下:
(a) コンタクトレンズを得る工程、
(b) カロテノイド及びビタミンE材料を含有する溶液に、所望量のカロテノイド及びビタミンE材料を担持するのに充分な時間、コンタクトレンズを浸漬する工程;並びに
(c) 工程(b)のコンタクトレンズをオートクレーブ処理することによって、コンタクトレンズを滅菌する工程を含む方法であって、このコンタクトレンズは、レンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中のカロテノイドの酸化的分解が、ビタミンE材料を含まない同一コンタクトレンズと比較して少なくとも約30%少ない方法を提供する。
【0049】
本発明では、コンタクトレンズは、親水性ポリマー材料を含む。このようなコンタクトレンズは、このようなコンタクトレンズの使用中に水によって膨潤するのに充分な量の水をレンズが包含するため、しばしば膨潤性コンタクトレンズと記述される。例えば、このようなコンタクトレンズは、例えば、目に装用されるとき、約10%又は約15%又は約20%又は約50%又は約60%又は約80%(重量)の水を平衡状態でしばしば包含する。このようなコンタクトレンズは、しばしばソフト親水性コンタクトレンズ又はヒドロゲルコンタクトレンズと呼ばれる。1つの特に有用な実施態様において、本コンタクトレンズは、親水性シリコーン含有ポリマー材料を包含する。処理すべきコンタクトレンズは、1種以上の親水性モノマー材料、少なくとも1種のシリコーン含有モノマー又は少なくとも1種のシリコーン含有マクロマー又は少なくとも1種の架橋しうるシリコーン含有プレポリマーを含む、重合しうる組成物の共重合によりしばしば生産される。本発明では、ヒドロゲルコンタクトレンズは、表面処理あり又はなしのヒドロゲルコンタクトレンズであってよいが、好ましくは表面処理なしのヒドロゲルコンタクトレンズである。
【0050】
本発明では、青色光を吸収できる限り、本発明には任意のカロテノイドを使用できる。600種以上の既知のカロテノイドが存在する:これらは、2分類:キサントフィル類(酸素を含有する)及びカロテン類(純粋に炭化水素であり、酸素を含有しない)に分かれる。カロテノイドは一般に青色光を吸収する。これらは、植物及び藻類において2つの重要な役割を果たす:これらは光合成に使用するための光エネルギーを吸収する、そしてこれらは光損傷からクロロフィルを保護する。ヒトでは、4種のカロテノイド(β−カロテン、α−カロテン、γ−カロテン、及びβ−クリプトキサンチン)がビタミンA活性を持ち(これらをレチナールに変換できることを意味する)、そしてこれらや他のカロテノイドはまた、酸化防止剤としても作用できる。目では、ある特定の他のカロテノイド(ルテイン及びゼアキサンチン)が、黄斑を保護するために損傷性の青色光及び近紫外光を直接吸収しようと作用するようである。
【0051】
カロテノイドは、テトラテルペノイドのカテゴリーに属する(即ち、これらは、それぞれ10個の炭素原子を含有する4個のテルペン単位から構成されており、40個の炭素原子を含有する)。構造的には、カロテノイドは、時として環が末端にくるポリエン炭化水素鎖の形をとり、そして追加の酸素原子が結合していても結合していなくともよい。
【0052】
ルテインやゼアキサンチンのような、酸素を含有する分子であるカロテノイドは、キサントフィル類として知られている。
【0053】
α−カロテン、β−カロテン及びリコピンのような酸素化されていない(酸素を含まない)カロテノイドは、カロテン類として知られている。カロテン類は、典型的には炭素と水素のみを含有し(即ち、炭化水素である)、そして不飽和炭化水素のサブクラスに入る。
【0054】
恐らく最もよく知られているカロテノイドは、この第2群にその名を与えた、ニンジンで(アンズでも)見い出され、その明橙色の原因であるカロテンである。しかし粗ヤシ油が、レチノール(プロビタミンA)同等物に関して、実際は最も豊富なカロテノイド源である。ナンバンカラスウリ(Vietnamese Gac fruit)は、知られているうちで最高濃度のカロテノイドのリコピンを含有する。
【0055】
淡黄色から明橙色を介して深赤色までの範囲のこれらの色は、その構造に直接結び付いている。キサントフィル類は、しばしば黄色であるため、この分類名がある。炭素炭素二重結合は、共役と呼ばれるプロセスにおいて相互作用するが、このため分子内の電子は、分子のこの領域の至る所を自由に移動できる。二重結合の数が増加するにつれ、共役系と関連している電子は、更に移動する余地があり、そして状態を変化させるためのエネルギーは少なくて済む。このため、分子により吸収される光のエネルギーの範囲が低下する。より大きな周波数の光が可視スペクトルの短波長端から吸収されると、化合物は次第に赤色の外観を獲得する。
【0056】
カロテノイドはまた人工的にも合成することができる。例えば、微生物(特許遺伝子配列を使用)を使用することにより、天然由来カロテノイドよりも純度の高いC40カロテノイドを生産することができる。これらは、リコピン及びβ−カロテンを包含する。
【0057】
本発明に使用されるカロテノイドは、任意の天然又は合成カロテノイド、例えば、特に限定されないが、β−カロテン、リコピン、アスタキサンチン及びルテインであってよい。好ましいカロテノイドは、β−カロテンである。
【0058】
ビタミンE材料は、非水性液体、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどから選択されるようなアルコール成分、及びこれらの混合物に可溶性である。
【0059】
本発明では、カロテノイドは、コンタクトレンズへのカロテノイドの担持の目的に応じて0.5μg〜50μgの量でコンタクトレンズ中に存在できる。シグナル伝達の目的には(例えば、装用の終了の指示薬)、約0.5μg〜5μgが必要であろう。しかし、治療目的の供給では、最大50μgという高いレベルの担持を必要とする。コンタクトレンズはまた、高担持で強い色調になる。
【0060】
本発明では、ビタミンE材料をカロテノイド安定化剤として使用することにより、コンタクトレンズオートクレーブ処理又はレンズ保存中のカロテノイド損傷を減少させることができる。
【0061】
本発明では、ビタミンE材料は、ビタミンE、ビタミンEの塩、ビタミンEの誘導体及びこれらの混合物よりなる群から選択することができる。ビタミンE材料は、非水性液体、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどから選択されるようなアルコール成分、及びこれらの混合物に可溶性である。
【0062】
ビタミンEという用語は、全てのトコール及びトリエノール誘導体に言及するために使用される。トコール類は、α−、β−、γ−及びδ−トコフェロール類であり、そしてトリエノール類は、α−、β−、γ−及びδ−トコトリエノール類である。これら全ての物質は、植物で見い出され、そしてビタミンE活性を有するが、α−トコフェロールは、ビタミンEの最活性型である。ヒト体内で、ビタミンEは、主としてα−トコフェロールとして存在する。ビタミンEは、天然源(植物、野菜及び肉)から単離することができるか、又は実験室で製造することができる。したがって、ビタミンEは、天然又は合成調製物として市販されている。天然のα−トコフェロールは、今ではRRR−α−トコフェロール(以前はd−α−トコフェロール)と呼ばれ、一方合成α−トコフェロールは、全−rac−α−トコフェロール(以前はdl−α−トコフェロール)と呼ばれる。酢酸α−トコフェロール、コハク酸α−トコフェロール及びニコチン酸α−トコフェロールのようなビタミンEのエステル化型は、実験室で製造され、また市販されている。本発明では、ビタミンE材料は、ビタミンE、ビタミンEの塩、ビタミンEの誘導体及びこれらの混合物を包含する。
【0063】
本発明では、ビタミンEは、カロテノイドの担持の目的に応じて50μg〜250μgで存在することができる。
【0064】
本発明では、ビタミンE及びカロテノイドは、非水性液体、例えば、クロロホルム;メタノール、エタノール、プロパノールなどから選択されるようなアルコール成分、及びこれらの混合物に可溶性である。コンタクトレンズは、約0.0005重量%〜0.1重量%のカロテノイド及び0.05重量%〜0.5重量%のビタミンEを含有する、ビタミンE及びカロテノイドの溶液に浸漬する。このような浸漬は、約200℃〜500℃の範囲の温度で20分〜240分の時間行われる。
【0065】
本発明は、別の態様において、形成された水膨潤性のポリマーレンズ本体;カロテノイド及びビタミンEを含むコンタクトレンズであって、ビタミンEは、レンズオートクレーブ処理及び/又はレンズ保存中のカロテノイドの酸化的分解を、ビタミンEを含まない同一コンタクトレンズと比較して少なくとも約30%減少させるのに充分な量で存在するコンタクトレンズを提供する。
【0066】
前記開示により、当該分野における通常の技術者は本発明を実施できよう。読者が特定の実施態様及びこれらの利点を更に理解できるように、以下の実施例への参照が勧められる。
【0067】
実施例1
最初にβ−カロテンをクロロホルムに0.1重量%溶液として溶解した。これを後で1−プロパノール中で0.001重量%溶液にして、担持実験に使用した。コーティングしていないロトラフィルコンB(lotrafilcon B)レンズをこの溶液中で≒1時間放置することによりβ−カロテンを担持させ、後でレンズをDI水に≒5分で移して、直ちにPBS中でオートクレーブ処理した。上記1−プロパノール中のβ−カロテン溶液に0.5重量%を加えることにより、ビタミンEをβ−カロテンと共担持させ、残りの工程は変更なしとした。β−カロテン及びビタミンEは、UV−VIS分光光度法を用いて容易に定量及び検出することができた。ビタミンEの共担持により、最終レンズ中にβ−カロテンと一緒に≒250μgのビタミンEが得られた。
【0068】
結果は、以下の表に要約した。予想どおり、β−カロテンだけを担持したレンズではオートクレーブ処理中に確実な減量があった(≒55%)。レンズはまた、製造レンズの室温での保存中にβ−カロテンの減量があった。この減量は、45℃のオーブン中で放置することにより更に悪化した。しかし、レンズにビタミンEを共担持させると、オートクレーブ処理において及び保存によっても減量の兆候はなかった。レンズはまた、保存期間中その色を見た目に維持した。結果は、ビタミンEが、レンズに担持されたβ−カロテンを安定化すること、ひいては処理/保存中の酸化的損傷からコンタクトレンズ中のカロテノイドを安定化するための有望な方法を明確に示した。
【0069】
表1:レンズへのβ−カロテン担持の要約
(少なくとも3つの試料を分析することにより担持を測定した。データは平均±標準偏差を表す。)
【0070】
【表1】