【文献】
ROCKLAGE SCOTT M,MANGANESE(II) N, N'-DIPYRIDOXYLETHYLENEDIAMINE-N, 以下省略,INORGANIC CHEMISTRY,米国,AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,1989年 1月 1日,V28,P477-485
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
式Iの化合物がN,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(DPDP)、またはN,N'-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N'-二酢酸(PLED)、またはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の混合金属錯体。
細胞毒性または細胞分裂停止性薬物が、ドキソルビシン、エピルビシン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、5-フルオロウラシル、ドセタキセルまたはパクリタキセルの少なくとも1つを含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレスは、正常細胞機能の一部として反応性酸素種(ROS)および反応性窒素種(RNS)の発生から始まる。ROSの発生の細胞供給源は複数あるが、最も重要なものは、ミトコンドリア電子伝達複合体IおよびIII、小胞体内のP450酵素、ならびに膜結合NADPHオキシダーゼである。これらの供給源の各々によるROS生成は、サイトカイン、炎症、ウイルスタンパク質、ならびに化学療法薬、虚血再灌流ならびに鉄および銅の過負荷のような他の機序によって刺激され得る。重要なことに、これらのプロセスは、フリーラジカルスーパーオキシド(・0
2-)を最初に発生させ、これが順次還元されることで、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルおよび最終的に水を形成する。しかし、酸化ストレスが高く、その結果、スーパーオキシドの生成が多い条件下では、これらの反応性中間体が他の分子と容易に相互作用して、脂質過酸化生成物および過酸化亜硝酸など二次的な有害ROSを形成する(Singalら、Liver Int. 201 1 ; 31 : 1432〜1448)。これは、スーパーオキシドの細胞量を、緊密な制御下に置くことの重要性を指し示す。正常条件下では、これは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)によって達成される。SODは、既知の酵素のなかで最も速い反応速度を有するが、酸化ストレスが高い条件の下では、これらの酵素は、ROSおよびRNSとの競合に負け、不可逆的に不活性化にされる場合さえある。これは順じて、病理学的な酸化ストレスと戦うためにSOD酵素を模倣する低分子薬物、即ち、いわゆるSOD模倣体の治療的使用を開拓する。
【0003】
短命だが高反応性の酸素由来のフリーラジカルは、特には癌患者における細胞毒性/細胞分裂停止を用いる処置および放射線治療中の病理学的な組織傷害(Towartら、Arch Pharmacol 1998; 358 (Suppl 2): R626、Laurentら、Cancer Res 2005; 65:948〜956、Karlssonら、Cancer Res 2006; 66:598、Alexandreら、J Natl Cancer Inst 2006; 98:236〜244、Doroshow、J Natl Cancer Inst 2006; 98:223〜225、Citrinら、Oncologist、2010; 15:360〜371、Kurzら、Transl Oncol 2012; 5:252〜259)、アセトアミノフェン誘発肝不全(Beddaら、J Hepatol 2003; 39:765〜772; Karlsson、J Hepatol 2004; 40:872〜873)、虚血性心疾患(Cuzzocreaら、Pharmacol Rev 2001 ; 53: 135〜159)、ならびにアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病および多発性硬化症を含めた様々な神経変性疾患(Knight、Ann Clin Lab Sci. 1997; 27: 11〜25)に関与することが長く知られてきた。酸素由来のフリーラジカルの過剰生成は、鉄過負荷の病態、例えばサラセミア、鎌状赤血球貧血および輸血性ヘモジデリン沈着にも関係する(Rachmilewitzら、Ann N Y Acad Sci. 2005; 1054:118-23)。酸素由来のフリーラジカルは、肝炎誘発肝硬変(Farrellら、Anat Rec 2008; 291:684〜692)および騒音誘発難聴(Wongら、Hear Res 2010;260:81〜88)にも関係する。
【0004】
医学において、ジピリドキシルベースのキレート剤およびそれらの金属キレートならびに特定のマンガン含有化合物、特にマンガンキレートの使用が知られている。例えば、特定のキレート剤、特にジピリドキシルキレート剤、およびそれらの金属キレートが、ヒトおよび動物において、アントラサイクリン誘発心毒性、放射線誘発毒性、虚血再灌流誘発損傷、およびパラセタモール(アセトアミノフェン)誘発肝不全、またはより一般的観点から、酸素由来のフリーラジカルの存在、即ち、酸化ストレスによって引き起こされるあらゆる病態を処置または予防するのに有効であることを開示しているEP 0910360、US 6147094、EP 0936915、US 6258828、EP 1054670、US 6310051、EP 1060174、およびUS 6391895を参照されたい。さらに、ジピリドキシル化合物マンガホジピル(MnDPDP)は、加えておよび驚くべきことに、癌細胞に対して細胞毒性効果を持つことが見出された(EP 16944338)。しかし、WO 2009/078794 AlおよびKurzら、2012に記載されている通り、これは、ホジピル(DPDP)単独またはその脱リン酸化対応物、DPMPおよびPLEDの固有の特性であり、金属錯体MnDPDPまたはその脱リン酸化対応物、MnDPMPおよびMnPLEDのものではない。
【0005】
MnPLED誘導体の1つ、すなわち、マンガホジピルとしても知られているマンガンN,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(マンガンジピリドキシルジホスフェート; MnDPDP)は、ヒトにおける診断MRIコントラスト剤としての使用が認可されている。興味深いことに、マンガホジピルは、いくつかの細胞毒性/細胞分裂停止性薬物(ドキソルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシルおよびパクリタキセル)の重篤な副作用から、これらの薬物の抗癌効果にネガティブに干渉することなくマウスを保護することが示された(Towartら、1998、Laurentら、2005、Karlssonら、2006、Alexandreら、2006、Doroshow、2006、Kurzら、2012)。マンガホジピルは、ホリネート、5-フルオロウラシルおよびオキサリプラチンの組合せを用いる対症的処置を経験する1人の大腸癌患者において試験された(Yriら、Acta Oncol. 2009; 48:633〜635)。この単一患者からの前臨床データおよび結果は有望であったので、癌患者における臨床試験を開始した。オキサリプラチンの最も厄介な副作用、すなわちオキサリプラチン誘発感覚神経毒性に関して言えば、我々の知識の限りでは、マンガホジピルの保護効果を示す前臨床データは存在しない(Karlssonら、Transl Oncol. 2012; 5:32〜38)。Yriら、2009は、患者が「Nordic FLOX」の15総用量を受けたことを記載している。サイクルの14において、患者は、マンガホジピルで前処置を受けた。患者は、神経毒性症状に与える可能性が高い用量である1275mg/m
2オキサリプラチンの蓄積用量を受けた。神経毒性症状は、マンガホジピルが計画的に外され、患者が末梢感覚神経障害を経験した第5サイクル中を除いて検出されなかった。これは、マンガホジピルが末梢神経毒性から保護することができることを示唆している。5つのサイクル後、患者についてのパフォーマンスステータスは劇的に改善され、鎮痛薬の需要は有意に低減された。好中球減少症は、どの化学療法サイクル中においても生じなかった。
【0006】
最初の実現性研究(MANFOL I)が完了し、骨髄保護効果を含めた陽性結果がスウェーデン医療機関に報告され、公表された(Karlssonら、2012)。
【0007】
マンガホジピルは、マウスにおけるアセトアミノフェン誘発急性肝不全(ALF)からマウスを保護することも記載されている(Beddaら、2003; Karlsson、2004)。ALFは、大量の肝細胞死、グルタチオン欠乏によって引き起こされる状態、酸素由来のフリーラジカルおよびミトコンドリア傷害を特徴とする。
【0008】
マンガホジピルは、それがインビボ条件において細胞保護効果を発揮することができる前に、恐らくそれがN,N'-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N'-二酢酸(MnPLED)中に代謝されなければならないという意味ではプロドラッグである(例えば、Karlssonら、Acta Radiol 2001 ; 42:540〜547; Kurzら、2012を参照されたい)。マンガンは、必要不可欠ならびに潜在的神経毒性金属である。高レベルのマンガンへの慢性的曝露の条件下で、臨床的には異なる疾患実体だがパーキンソン症候群と同様の錐体外路機能不全の症候群が頻繁に生じることが多年の間知られてきた(Scheuhammer & Cherian、Arch Environm Contam Toxicol 1982; 11:515〜520を参照されたい)。マンガホジピルの診断MR撮像用量がヒトに静脈内注射される場合、投与されたマンガンの約80%が放出される(Toftら、Acta Radiol 1997; 38:677〜689)。常磁性マンガンの放出は、実際に、マンガホジピルの診断MR撮像特性に必須である(Wendland、NMR Biomed 2004; 17:581〜594)。Elizondoら、1991 (Radiology 1991; 178:73〜78)は、ホジピル部分が肝細胞上のピリドキシル5'ホスフェート受容体に結合し、肝臓内のマンガホジピルの高細胞内濃度を確保することを記述している。この仮説は、近年、Coriatら、(PLoS One 2011 ; 6:1〜6、e27005)による論文においても示唆された。これは良い仮説であるが、残念ながら証明されていない非常に可能性の低い仮説であり、これは、それが提示されてまもなく流行から外れた。マンガホジピルが静脈内に注射(i.v)される場合、金属錯体の約80%は崩壊し(Toftら、Radiol 1997)、あらゆる等モルMn用量で、MnCl
2は、マンガホジピルと等しいまたはより良好な肝臓MR撮像コントラスト効力を有する(Southonら、Acta Radiol 1997)。さらに、マンガホジピルの注射後、ほとんど全てのホジピルは尿中で回収され(その大部分はPLEDとして)、一方、大部分のマンガンは糞便中で回収される(Hustvedtら、Acta Radiol 1997; 38:690〜699)。他方で、マンガホジピル(MnDPDP)ならびにその脱リン酸化対応物MnDPMP(N,N'-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N'-ジアセテート-5-ホスフェート)およびMnPLEDの治療効果は、無傷の金属錯体に依存する(Brurokら、Biochem Biophys Res Commun. 1999; 254:768-721、Karlssonら、2001; 42:540〜547)。
【0009】
PLED誘導体は、ミトコンドリア酵素マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)を模倣する(Brurokら、1999)。MnSODは、正常な好気性条件中かなり高い量で生成される酸素代謝からの副生物スーパーオキシドラジカルから哺乳動物細胞を保護し、哺乳動物は、機能性MnSODなしでは生存しない。MnSODは、いかなる既知の酵素と比べても最も速いターンオーバー数(その基質との反応速度)(>10
9M
-1s
-1)を有する(Fridovich、J Exp Biol. 1998; 201: 1203〜1209)。低分子量MnSOD模倣体は、ネイティブ(native)MnSODのものに近いターンオーバー速度を有し得る(Cuzzocreaら、2001)。興味深いことに、マンガンのような遷移金属を含有する生理的緩衝液は、同様の高ターンオーバー数を有し得る(Culottaら、Biochim Biophys Acta. 2006; 1763:747〜758)。しかし、ネイティブSOD酵素の重要性は、スーパーオキシド不均化のための遷移金属触媒を、こうした不均化の必要性が高い細胞の部分、例えばミトコンドリアに局所化させる手段を精巧にする生物が有利となる選択プロセスと整合する。さらに、麻酔されたブタにおける心筋虚血再灌流からの結果は、必然的に、無傷のMnPLEDだがマンガンそれ自体ではないものが、梗塞サイズの低減として見られる酸化ストレスから保護することを示す(Karlssonら、2001)。スーパーオキシドの有効な不活性化は、非常に破滅的なヒドロキシルラジカルおよび過酸化亜硝酸の発生を防止するのに必要不可欠である(Cuzzocreaら、2001)。病理学的酸化ストレス中、スーパーオキシドラジカルの形成は、しばしば、不活性化のための内因性容量を超える。さらに、スーパーオキシドは、内因性MnSODをニトロ化する過酸化亜硝酸の生成を刺激する。このタンパク質は、Tyr-34における過酸化亜硝酸によってニトロ化される(Radi、Proc Natl Acad Sci USA 2004; 101:4003〜4008)。一度ニトロ化されると、MnSODは、その酵素活性、スーパーオキシドの蓄積およびスーパーオキシド駆動傷害を起こしやすい事象を緩める(Muscoliら、Br J Pharmacol 2003; 140:445〜460)。
【0010】
近年の結果は、ニトロ化によるMnSOD不活性化が、パラセタモール誘発肝毒性における早期事象であると指し示している(Agarwalら、J Pharmacol Exp Ther 2011 ; 337: 110〜116)。古い結果は、加えて、MnSODのニトロ化および不活性化が、ヒトにおける移植腎臓の慢性拒絶に関与することを指し示している(MacMillan-Crowら、Proc Natl Acad Sci USA 1996; 93:11853〜11858)。細胞タンパク質の5%以上を構成することができるアクチンが、鎌状赤血球貧血において重度にニトロ化されること、および観察されたニトロ化の程度が、細胞骨格重合を誘発するのに充分であることに注目することも重要である(Radi、2004)。3-ニトロチロシンの循環レベルは、加えて、アテローム性動脈硬化症リスクを判定するためのバイオマーカーとして働くこともできる。さらに、アテローム性動脈硬化症に加えて、過酸化亜硝酸および3-ニトロチロシンが、心筋虚血、敗血症肺および肺困難、炎症性腸疾患、筋萎縮性側索硬化症(Beckmanら、Am J Physiol 1996; 271:C1424〜C1437)ならびに糖尿病(Fonstermannら、Br J Pharmacol. 2011; 164: 213〜223)に関与すると思われる。
【0011】
損なわれた抗酸化剤防御機序は、低減されたSOD活性、および過酸化亜硝酸の引き続き増加された生成を含めて、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の病変形成における重要な因子であり得る(Korukら、Ann Clin Lab Sci. 2004; 34:57〜62)。B型肝炎またはC型肝炎のウイルス感染のいずれかと、慢性肝炎の発症および肝細胞癌腫の外観との間の主要な疫学的および臨床的関連は明らかである。興味深いことに、過酸化亜硝酸誘発チロシン-ニトロ化は、慢性ウイルス性肝炎を有する患者において著しく増加される(Garcia-Monzonら、J Hepatol. 2000; 32:331〜338)。現在、ウィルソン病における病態発症の一般に引用される機序は、銅過負荷による酸化的傷害を伴う。反応性酸素種(ROS)の発生、ならびに脂質酸化およびDNA傷害は、肝臓において、特に、この疾患の進行段階で検出された(Burkheadら、Biometals 2011; 24:455〜466)。
【0012】
MnPLED誘導体は過酸化亜硝酸の標的ではなく、外来性MnPLED誘導体の添加は、こうした状況において、保護ポテンシャルを再確立し得る。PLED誘導体は、加えて、EP 1054670、US 6310051において、およびRocklageら(Inorg Chem 1989; 28:477〜485)によって記載されている通り、強い鉄バインダーであり、一部のMnPLED誘導体は、それらの抗酸化容量をさらに増加させ得るカタラーゼおよびグルタチオンレダクターゼ活性を有し得る(Laurentら、2005)。
【0013】
診断撮像使用および他の散発的使用に関して、マンガホジピルからのマンガンの解離は主要な毒物学的問題を呈さない。しかし、例えば治療的方法におけるより頻繁な使用のためのCNSへの取込みにより、蓄積されたマンガン毒性は深刻な神経毒性学的問題を表し得る(Crossgroveら、NMR Biomed. 2004; 17:544-53)。したがって、より頻繁な治療的使用に関して、マンガンを容易に解離させる化合物は回避されるべきであり、望ましい治療効果を得る一方で、こうした治療的使用に伴う望ましくない副作用を低減する手段を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】EP 0910360
【特許文献2】US 6147094
【特許文献3】EP 0936915
【特許文献4】US 6258828
【特許文献5】EP 1054670
【特許文献6】US 6310051
【特許文献7】EP 1060174
【特許文献8】US 6391895
【特許文献9】EP 16944338
【特許文献10】WO 2009/078794 Al
【特許文献11】WO 2011/004325 Al
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Singalら、Liver Int. 201 1 ; 31 : 1432〜1448
【非特許文献2】Towartら、Arch Pharmacol 1998; 358 (Suppl 2):R626
【非特許文献3】Laurentら、Cancer Res 2005; 65:948〜956
【非特許文献4】Karlssonら、Cancer Res 2006; 66:598
【非特許文献5】Alexandreら、J Natl Cancer Inst 2006; 98:236〜244
【非特許文献6】Doroshow、J Natl Cancer Inst 2006; 98:223〜225
【非特許文献7】Citrinら、Oncologist、2010; 15:360〜371
【非特許文献8】Kurzら、Transl Oncol 2012; 5:252〜259
【非特許文献9】Beddaら、J Hepatol 2003; 39:765〜772
【非特許文献10】Karlsson、J Hepatol 2004; 40:872〜873
【非特許文献11】Cuzzocreaら、Pharmacol Rev 2001 ; 53: 135〜159
【非特許文献12】Knight、Ann Clin Lab Sci. 1997; 27: 11〜25
【非特許文献13】Rachmilewitzら、Ann N Y Acad Sci. 2005; 1054:118-23
【非特許文献14】Farrellら、Anat Rec 2008; 291:684〜692
【非特許文献15】Wongら、Hear Res 2010;260:81〜88
【非特許文献16】Yriら、Acta Oncol. 2009; 48:633〜635
【非特許文献17】Karlssonら、Transl Oncol. 2012; 5:32〜38
【非特許文献18】Karlssonら、Acta Radiol 2001 ; 42:540〜547
【非特許文献19】Scheuhammer & Cherian、Arch Environm Contam Toxicol 1982; 11:515〜520
【非特許文献20】Toftら、Acta Radiol 1997; 38:677〜689
【非特許文献21】Wendland、NMR Biomed 2004; 17:581〜594
【非特許文献22】Elizondoら、1991 (Radiology 1991; 178:73〜78)
【非特許文献23】Coriatら、(PLoS One 2011 ; 6:1〜6、e27005)
【非特許文献24】Southonら、Acta Radiol 1997
【非特許文献25】Hustvedtら、Acta Radiol 1997; 38:690〜699
【非特許文献26】(Brurokら、Biochem Biophys Res Commun. 1999; 254:768-721
【非特許文献27】Fridovich、J Exp Biol. 1998; 201:1203〜1209
【非特許文献28】Culottaら、Biochim Biophys Acta. 2006; 1763:747〜758
【非特許文献29】Radi、Proc Natl Acad Sci USA 2004; 101:4003〜4008
【非特許文献30】Muscoliら、Br J Pharmacol 2003; 140:445〜460
【非特許文献31】Agarwalら、J Pharmacol Exp Ther 2011 ; 337: 110〜116
【非特許文献32】MacMillan-Crowら、Proc Natl Acad Sci USA 1996; 93: 11853〜11858
【非特許文献33】Beckmanら、Am J Physiol 1996; 271:C1424〜C1437
【非特許文献34】Fonstermannら、Br J Pharmacol. 2011; 164:213〜223
【非特許文献35】Korukら、Ann Clin Lab Sci. 2004; 34:57〜62
【非特許文献36】Garcia-Monzonら、J Hepatol. 2000; 32:331〜338
【非特許文献37】Burkheadら、Biometals 2011; 24:455〜466
【非特許文献38】Rocklageら(Inorg Chem 1989; 28:477〜485)
【非特許文献39】Crossgroveら、NMR Biomed. 2004; 17:544-53
【非特許文献40】Skjoldら、J. Magn. Reson. Imaging 2004; 20:948〜952
【非特許文献41】Grantら、Acta Radiol. 1997;38:759〜769
【非特許文献42】Niら(Acta Radiol 1997; 38:700〜707)
【非特許文献43】Ahlstromら、Acta Radiol 1997; 38:660〜664
【非特許文献44】Folinら、BioMetals 1994; 7:75〜79
【非特許文献45】Kingら、J Nutr 2000; 130:1360S〜1366S
【非特許文献46】Buettner、Anticancer Agents Med Chem. 2011; 11 :341〜346
【非特許文献47】Anscher、Onclogist 2010; 15:350〜359
【非特許文献48】Kareva、Transl Oncol 2011; 4:266〜270
【非特許文献49】Kerkarら、Cancer Res 2012; 72:3125〜3130
【非特許文献50】Zitvogelら、Nat Rev Clin Oncol 2011; 8: 151〜160
【非特許文献51】Chuaら、Br J Cancer 2011;104:1288〜1295
【非特許文献52】Iraniら、Science 1997;275: 1649〜1652
【非特許文献53】Behrendら、Mol Cell Biol 2005; 25:7758〜7769
【非特許文献54】Churchら、Proc Natl Acad Sci USA 1993; 90:3113〜3117
【非特許文献55】Bronteら、J Exp Med 2005; 201、1257〜1268
【非特許文献56】Molonら、J Exp Med 2011; 208:1949〜1962
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1に記載されている通りに本発明による一工程結晶化方法で得られた、本明細書において「カルマンガホジピル」と称される、約4:1のおよそのCa:Mnモル比を有するホジピル(DPDP)のカルシウムマンガン錯体の3つの結晶性形態に関するX線粉末回折(XRPD)パターンを示すグラフである。
【
図2】本発明による錯体ではなく、カルシウムホジピル(カルホジピル)およびマンガンホジピル(マンガホジピル)の混合物のXRPDパターンを示すグラフであり、これらのXRPDパターンは、実施例2に記載されている通り、全ての生成物が非晶質であり、水を急速に吸収すると示されたことを指し示している。
【
図3】実施例3に記載されている特徴的な赤外吸収帯(波数)および対応する帰属を有する、カルマンガホジピル、ロット#7755-C-R0-01-30-01のフーリエ変換赤外(FT-IR)吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図4A】実施例3に記載されている通り、カルマンガホジピル、ロット#7755-C-R0-01-30-01(660-850m/z)の質量スペクトルを示すグラフである。
【
図4B】実施例3に記載されている通り、カルマンガホジピル、ロット#7755-C-R0-01-30-01(660-850m/z)の拡大質量スペクトルを示すグラフである。
【
図5】実施例3に記載されている通り、カルマンガホジピルの化学構造を示す図である。
【
図6A】それぞれ2.59μmolおよび2.52μmolのMnを含有するマンガホジピルまたはカルマンガホジピルを注射されたラットから、Mnの総含有量マイナスMnの基底含有量として表示されている、0〜24時間の尿中におけるマンガン(Mn)含有量の増加を示すグラフである。結果は、各群において平均±S.E.M. ; n=4として表示されている。このグラフは、実施例4において、より完全に記載されている。
【
図6B】注射用量の百分率として表示されている、Mnの尿中含有量の増加を示すグラフである。結果は、各群において平均±S.E.M. ; n=4として表示されている。このグラフは、実施例4において、より完全に記載されている。
【
図6C】同じ動物における亜鉛含有量24時間尿の増加を示すグラフである。結果は、各群において平均±S.E.M. ; n=4として表示されている。このグラフは、実施例4において、より完全に記載されている。
【
図7A】注射後3日および6日におけるオキサリプラチンの増加する用量(7.5mg/kg、10.0mg/kgおよび12.5mg/kg)の単回静脈内注射の、白血球細胞(WBC)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図7B】注射後3日および6日におけるオキサリプラチンの増加する用量(7.5mg/kg、10.0mg/kgおよび12.5mg/kg)の単回静脈内注射の、リンパ球(LYM)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図7C】注射後3日および6日におけるオキサリプラチンの増加する用量(7.5mg/kg、10.0mg/kgおよび12.5mg/kg)の単回静脈内注射の、好中球(NEU)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図7D】注射後3日および6日におけるオキサリプラチンの増加する用量(7.5mg/kg、10.0mg/kgおよび12.5mg/kg)の単回静脈内注射の、血小板(PLC)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図8A】balb/cマウスにおける、単独またはカルマンガホジピルもしくはマンガホジピルと組み合わせるオキサリプラチン処置後のWBCを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図8B】balb/cマウスにおける、単独またはカルマンガホジピルもしくはマンガホジピルと組み合わせるオキサリプラチン処置後のLYMを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図8C】balb/cマウスにおける、単独またはカルマンガホジピルもしくはマンガホジピルと組み合わせるオキサリプラチン処置後のNEUを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図8D】balb/cマウスにおける、単独またはカルマンガホジピルもしくはマンガホジピルと組み合わせるオキサリプラチン処置後のPLCを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例5に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図9A】大腸癌CT26細胞上における、増加する濃度での様々なPLED誘導体の細胞毒活性を示すグラフである。結果は、実施例6に記載されている通り、平均±S.D.; n=3として表示されている。
【
図9B】大腸癌CT26細胞上における、増加する濃度でのCaCl
2の細胞毒活性を示すグラフである。結果は、実施例6に記載されている通り、平均±S.D.; n=3として表示されている。
【
図10A】相対的に高用量のカルマンガホジピル(50mg/kg)の非存在下および存在下における、CT26シンジェニックbalb/cマウスにおける高用量オキサリプラチン(20mg/kg)の抗腫瘍効果を示すグラフである。結果は、実施例7に記載されている通り、平均±S.E.M.;
図10A中のビヒクルおよびオキサリプラチン20mg/kg群においてはn=10;全ての他の群においてはn=5として表示されている。
【
図10B】相対的に低用量のカルマンガホジピルの非存在下および存在下における、低用量オキサリプラチン(10mg/kg)の抗腫瘍効果を示すグラフである。結果は、実施例7に記載されている通り、平均±S.E.M.;
図10A中のビヒクルおよびオキサリプラチン20mg/kg群においてはn=10;全ての他の群においてはn=5として表示されている。
【
図11A】39用量のNaCl(対照)、マンガホジピルまたはカルマンガホジピル(両方の場合において2800μmol/kgマンガンの蓄積用量まで対応する)後の、脳のMn含有量を示すグラフである。結果は、実施例8に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=17〜18として表示されている。
【
図11B】39用量のNaCl(対照)、マンガホジピルまたはカルマンガホジピル(両方の場合において2800μmol/kgマンガンの蓄積用量まで対応する)後の、膵臓のMn含有量を示すグラフである。結果は、実施例8に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=17〜18として表示されている。
【
図11C】39用量のNaCl(対照)、マンガホジピルまたはカルマンガホジピル(両方の場合において2800μmol/kgマンガンの蓄積用量まで対応する)後の、肝臓のMn含有量を示すグラフである。結果は、実施例8に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=17〜18として表示されている。
【
図12A】注射後3日および6日におけるカルボプラチンの増加する用量(75mg/kg、100mg/kgおよび125mg/kg)の単回静脈内注射の、白血球細胞(WBC)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図12B】注射後3日および6日におけるカルボプラチンの増加する用量(75mg/kg、100mg/kgおよび125mg/kg)の単回静脈内注射の、リンパ球(LYM)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図12C】注射後3日および6日におけるカルボプラチンの増加する用量(75mg/kg、100mg/kgおよび125mg/kg)の単回静脈内注射の、好中球(NEU)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図12D】注射後3日および6日におけるカルボプラチンの増加する用量(75mg/kg、100mg/kgおよび125mg/kg)の単回静脈内注射の、血小板(PLC)に対する骨髄抑制効果を示すグラフである。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図13A】balb/cマウスにおいてカルマンガホジピルと組み合わせるカルボプラチン後のWBCを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図13B】balb/cマウスにおいてカルマンガホジピルと組み合わせるカルボプラチン後のLYMを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図13C】balb/cマウスにおいてカルマンガホジピルと組み合わせるカルボプラチン後のNEUを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図13D】balb/cマウスにおいてカルマンガホジピルと組み合わせるカルボプラチン後のPLCを示すグラフである。対照はビヒクル処置だけを受けた。結果は、実施例9に記載されている通り、各群において平均±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図14】相対的に低用量のカルマンガホジピルの非存在下および存在下において、CT26保有の免疫コンピテントbalb/cマウスおよび免疫欠損のヌードbalb/cマウス(nu/nu)における低用量のオキサリプラチン(10mg/kg)の抗腫瘍効果を示すグラフである。結果は、実施例10に記載されている通り、各群において±S.E.M.; n=5として表示されている。
【
図15A】非小細胞肺癌細胞U1810における、カルマンガホジピルおよびマンガホジピルの細胞毒活性を示すグラフである。結果は、実施例11に記載されている通り、平均±S.D.; n=3として表示されている。
【
図15B】非小細胞肺癌細胞LLC1における、カルマンガホジピルおよびマンガホジピルの細胞毒活性を示すグラフである。結果は、実施例11に記載されている通り、平均±S.D.; n=3として表示されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面は、実施例を考慮すると、より完全に理解される。
【0026】
本発明の錯体、組成物および方法は、PLED誘導体、即ち、ピリドキシルエチルジアミン誘導体の金属錯体の調製および使用における改善を提供するが、該誘導体は、それらが代謝することでインビボでPLEDを形成することができるためPLEDのプロドラッグとして作用することも認識される。
【0027】
WO 2011/004325 Alは、マンガホジピル(MnDPDP)へのホジピル(DPDP)の添加余剰分がどのようにして、投与後にマンガンを放出することからそれを安定化させ、それによってCNSへの取込みを低減し、それによってマンガホジピルの神経毒性ポテンシャルをかなり低くするかを示している。SOD模倣および細胞保護の効果を呈するのは無傷のマンガン含有錯体なので、ホジピルの余剰分は、神経毒性ポテンシャルを低くするだけではなく、それは細胞保護効力もかなり増加させる。
【0028】
マンガンN,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(マンガホジピル)を含めたMnPLED誘導体からのマンガンのインビボ放出は、体内の遊離亜鉛または容易に解離可能な亜鉛の存在に依存する。亜鉛は、ホジピルまたはその脱リン酸化対応物について、マンガンより約1000倍高い親和性を有する(Rocklageら、1989)。実験研究は、マンガホジピルからのインビボにおけるマンガン放出が、5μmol/kgを超える用量で飽和することを示唆している(Southonら、1997)。健康なボランティアにおける、マンガホジピルを用いる心臓および肝臓の撮像は、人間における同様の飽和用量を指し示している(Skjoldら、J. Magn. Reson. Imaging 2004; 20:948〜952、Toftら、1997)。
【0029】
WO 2011/004325 Alに記載されている発明において、2つの医薬活性成分(API)、例えばマンガホジピルおよびホジピルを、使用準備済溶液中で混合すること、またはそれらを別々に投与することによって、特別な治療組成物が得られることが推定された。ホジピルは、おおよそ5μmol/kgから10μmol/kgの用量レベルで、マンガホジピルに対するかなりのインビボ安定化効果を有することが実証された。最初の臨床的経験(Yriら、2009およびKarlssonら、2011)は、マンガホジピルが、人間において2μmol/kgから10μmol/kgの間のどこかの用量レベルで治療上効果的であることを示している。マンガホジピルプラスホジピルのより高い効力を考慮に入れると、マンガホジピルは、1μmol/kgに近い用量レベルで患者において治療上効果的であるはずだと推測することは妥当である。これは、順じて、5に近い(ホジピル+マンガホジピル)/マンガホジピル比、即ち、マンガホジピルより4倍多いホジピルを含有する使用準備済製剤が効果的であるはずであると我々に教示している。これは、さらに、40mMホジピルおよび10mMマンガホジピルを含有する使用準備済製剤、1kg体重当たりこの製剤0.1mlから0.2mlの投与は、1μmol/kgから2μmol/kgのマンガホジピルおよび4μmol/kgから8μmol/kgのホジピルの用量をもたらすことを示唆している。
【0030】
カルシウムは、亜鉛より約10
9倍低いホジピルへの親和性を有し、マンガンより約10
6倍低いホジピルへの親和性を有する。しかし、カルシウムが、亜鉛およびマンガンよりずっと高い細胞外濃度で存在することを考慮に入れると、ホジピルの急速な静脈内ボーラス投与は、遊離カルシウムの細胞外濃度における急性低減を誘発し得る。心臓は、その血液ポンプ活性のための細胞外カルシウムに絶対的に依存しているので、遊離カルシウムの細胞外含有量における低減は、順じて、急性心不全を誘発する恐れがある。しかし、WO 2011/004325 Alにおいて考察されている通り、この問題は、カルシウム錯体化DPDP、即ちCaDPDPを利用することによって簡便に解決することができる。
【0031】
驚くべきことに、CaDPDPは、PLED誘導体におけるマンガンとの錯体に用いることができることが発見された。さらに、驚くべきことに、カルシウムおよびマンガンの錯体、例えば、カルマンガホジピル、ならびに他のII族金属およびIII〜XII族遷移金属の錯体を得ることができる。
【0032】
したがって、一態様によると、本発明は、混合金属がIII〜XII族遷移金属およびII族金属を含む、式Iの化合物の混合金属錯体、またはその塩を対象とする。
【0034】
(式中、
Xは、CHまたはNを表し、
各R
1は、独立して、水素または-CH
2COR
5を表し、
R
5は、ヒドロキシ、任意選択によりヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し、
各R
2は、独立して、ZYR
6を表し、ここでZは、結合、またはC
1〜3のアルキレン基もしくはオキソアルキレン基を表し、R
7によって任意選択により置換されており、
Yは、結合、酸素原子またはNR
6を表し、
R
6は、水素原子、COOR
8基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、COOR
8、CONR
82、NR
82、OR
8、=NR
8、=O、OP(O)(OR
8)R
7およびOSO
3Mから選択される1個または複数の基によって任意選択により置換されており、
R
7は、ヒドロキシ、任意選択によりヒドロキシル化され、任意選択によりアルコキシ化されたアルキル基またはアミノアルキル基であり、
R
8は、水素原子、または任意選択によりヒドロキシル化され、任意選択によりアルコキシ化されたアルキル基であり、
Mは、水素原子、または1当量の生理学的に容認できるカチオンであり、
R
3は、C
1〜8アルキレン基、1,2-シクロアルキレン基、または1,2-アリーレン基を表し、R
7で任意選択により置換されており、
各R
4は、独立して、水素またはC
1〜3アルキルを表す。)
【0035】
本明細書で使用される場合、「アルキル」および「アルキレン」という用語には、直鎖および分岐の飽和および不飽和の炭化水素が含まれる。「1,2-シクロアルキレン」という用語には、シスおよびトランス両方のシクロアルキレン基、ならびに5〜8個の炭素原子を有するアルキル置換シクロアルキレン基が含まれる。「1,2-アリーレン」という用語には、フェニル基およびナフチル基、ならびに6個から10個の炭素原子を有するそれらのアルキル置換誘導体が含まれる。別段に指定されていない限り、任意のアルキル部分、アルキレン部分またはアルケニル部分は、好都合には、1個から20個、より具体的には1〜8個、より具体的には1〜6個、およびまたさらに具体的には1〜4個の炭素原子を含有することができる。シクロアルキル部分は、好都合には、3〜18個の環原子、具体的には5〜12個の環原子、およびまたさらに具体的には5〜8個の環原子を含有することができる。フェニル基またはナフチル基を含むアリール部分が好ましい。アラルキル基として、フェニルC
1〜8アルキル、特にはベンジルが好ましい。基がヒドロキシル基によって任意選択により置換されてよい場合、これは一置換または多置換であってよく、多置換の場合において、アルコキシ置換基および/またはヒドロキシル置換基が、アルコキシ置換基によって保有されていてよい。
【0036】
式Iの化合物は、2個のピリジル環上に同じまたは異なるR
2基を有することができ、これらは、同じまたは異なる環位置に付いていてよい。具体的な実施形態において、置換は、5位および6位、またはより具体的には6位、即ちヒドロキシル基に対してパラである。具体的な実施形態において、R
2基は同一であり、同一に位置され、より具体的には6,6'-位にある。なおより具体的な実施形態において、各R
6は、モノもしくはポリ(ヒドロキシまたはアルコキシ化)アルキル基、または式OP(O)(OR
8)R
7の基である。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、式Iの化合物のカルシウムおよびマンガンの錯体を対象とする。一実施形態において、R
5は、ヒドロキシ、C
1〜8アルコキシ、エチレングリコール、グリセロール、アミノまたはC
1〜8アルキルアミドであり、Zは、結合、またはCH
2、(CH
2)
2、CO、CH
2CO、CH
2CH
2COおよびCH
2COCH
2から選択される基であり、Yは結合であり、R
6は、モノもしくはポリ(ヒドロキシまたはアルコキシ化)アルキル基または式OP(O)(OR
8)R
7の基であり、R
7は、ヒドロキシ、または非置換のアルキル基もしくはアミノアルキル基である。より具体的な実施形態において、R
3はエチレンであり、各R
1基は、R
5がヒドロキシである-CH
2COR
5を表す。さらなる実施形態において、式Iの化合物は、N,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(DPDP)、またはその薬学的に許容される塩である。またさらなる実施形態において、医薬物は、N,N'-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N'-二酢酸の混合マンガンおよびカルシウム錯体、またはその塩である。
【0038】
混合金属錯体としては、指し示されている族からの金属の任意の組合せが挙げられ得る。具体的な実施形態において、III〜XII族遷移金属は、Mn
2+、Cu
2+、Fe
2+および/またはNi
2+であり、II族金属は、Ca
2+および/またはMg
2+である。より具体的な実施形態において、III〜XII族遷移金属はMn
2+であり、II族金属はCa
2+、またはCa
2+およびMg
2+の混合物である。より具体的な実施形態において、II族金属は、約0.1-50、より具体的には約0.1-10のCa
2+/Mg
2+モル比における、Ca
2+およびMg
2+の混合物である。
【0039】
さらなる実施形態において、混合金属錯体は、約1-10のモル比のII族金属対III〜XII族遷移金属を含有する。具体的な実施形態において、III〜XII族遷移金属はMn
2+であり、II族金属はCa
2+であり、Ca
2+/Mn
2+のモル比は約4である。より具体的な実施形態において、III〜XII族遷移金属はMn
2+であり、II族金属はCa
2+であり、Ca
2+/Mn
2+のモル比は約4であり、式Iの化合物はDPDPであり、即ち錯体は、本明細書に記載されている通りの化合物カルマンガホジピルである。
【0040】
別の態様において、本発明は、一調製/結晶化工程で本発明の混合金属錯体を生成する方法を対象とする。この方法は、III〜XII族遷移金属、II族金属、および式Iの化合物の溶液からの一工程結晶化を含む。具体的な実施形態において、マンガン、カルシウム、および式Iの化合物の溶液からの一工程結晶化が行われる。より具体的な実施形態において、該溶液は、(4+l)/l=5に近い(Ca+Mn)/Mn比、即ちCa
4Mn(DPDP)
5に近い組成化学量論を有する。
【0041】
X線粉末回折(XRPD)は、各々が特有の回折パターンを生成する結晶性固体の同定および特徴付けにおいて最も広く使用されている。線の位置(格子間隔に対応する)および相対強度の両方が、特定の相および材料を指し示して、比較のための「指紋」を提供する。実施例において示されている通り、カルマンガホジピルのXRPD分析は、カルマンガホジピルが、単純なブレンドではなく1つの化学実体、即ち錯体であることを疑いなく実証しており、実施例1を参照されたい。
図1は、周囲湿度に従って相互変換するカルマンガホジピルの3つの結晶性形態の積み重ねプロット(stacked plot)を示している。可変湿度XRPD分析は、形態Bが40%を超える相対湿度(RH)で安定であり、形態Aが0〜10%のRHで安定であり、形態Cが6〜36%の間のRHで安定であると実証した。形態Bおよび形態Cの混合物は、38〜44%の間のRHで観察され、形態変換は、3時間内に10mgスケールで生じると観察された。
【0042】
一工程調製は、播種の有無にかかわらず行うことができるが、播種(実施例1に例示されている通り)は、より良好な結晶化制御を可能にする。
【0043】
簡潔に上述されている一工程調製は、個々の金属錯体を混合するものより優れている。したがって、具体的な実施形態において、カルシウムおよびマンガンの錯体は結晶性物質であり、実施例2で示されている通り、望ましい量で、マンガホジピル(MnDPDP)およびカルホジピル(CaDPDP)の単純混合物から容易に区別可能である。
【0044】
実施例は、カルシウム-マンガン錯体カルマンガホジピルによって表される通りの本発明による錯体の改善および利点も示している。インビボでのマンガン安定性に関して、カルマンガホジピルは少なくとも、実施例4で実証されている通り、マンガホジピルおよびホジピルの真性混合物と同じく安定である。これは、実施例8で実証されている通り、脳においてマンガンの有意に少ない滞留をもたらす。細胞保護効力は、主に無傷のマンガン錯体マンガホジピルまたはその脱リン酸化対応物、MnDPMPおよびMnPLEDに依存するので、カルマンガホジピルの効力は、実施例5に例示されている通り、マンガホジピルのものより優れている。さらに、マンガホジピルは、驚くべきことに、癌細胞、例えばCT26細胞に対する細胞毒性効果を持つことが見出された(Laurentら、2005; Alexandreら、2006; EP 16944338)。しかし、WO 2009/078794 AlおよびKurzら、2012に記載されている通り、これは、ホジピル単独、またはその脱リン酸化対応物、DPMPおよびPLEDの固有の特性であり、無傷の金属錯体マンガホジピルまたはその脱リン酸化対応物、MnDPMPおよびMnPLEDのものではない。実施例6において、ホジピルが、CT26大腸癌細胞をさせるのにマンガホジピルより約20倍効果的であることが示され、実施例11は、カルマンガホジピルが、U1810非小細胞肺癌細胞を死滅させるのにマンガホジピルより約28倍効果的であることを示している。インビトロ条件下でホジピルからマンガンをある程度解離させることが、マンガホジピルの癌死滅効力を最も高い蓋然性で説明している。実施例1、2および3に記載されている通りのカルマンガホジピルは、マンガン等モル濃度でマンガホジピルと比較される場合、他方でホジピル単独と同じく効果的であり、即ち、カルマンガホジピルの死滅効力は、等モルのマンガン濃度でマンガホジピルのものよりずっと高い。この所見は、2つの重要な特性を示唆している。第1に、脱リン酸化PLEDは、おそらく、その癌細胞死滅能力に関してそのリン酸化対応物ホジピルと同じく効果的であり、第2に、マンガホジピルのものとの比較においてMnPLEDのより低い安定性(Rocklageら、1989)が、MnPLEDのより高い効力をおそらく説明している。ZnDPDPおよびZnPLEDの任意の細胞毒活性の欠如は、それらのマンガン対応物との比較においてこれらの錯体の安定性より1000倍高いことによる(Rocklageら、1989)。
【0045】
MRIコントラスト剤としてマンガホジピルを開発中、MnDPDPはラットに胎児骨格異常を引き起こすが、ウサギには引き起こさないことが発見された。重要なことに、ラットに見られるこの催奇性効果は、無傷のマンガホジピルそれ自体ではなく解離マンガンによって引き起こされる(Grantら、Acta Radiol. 1997;38:759〜769)。マンガンがヒト胎児に骨格異常を引き起こすかどうかは不明であるが、潜在的に妊娠中の女性がマンガホジピルに曝露されることから保護することは当然必要不可欠である。これは、ほとんどの臨床的な適用については副次的問題だが、業務上、特に、生産中における大きな問題となっており、この場合、妊娠可能なおよび潜在的に妊娠中の女性をマンガホジピルへの曝露から保護するためにコストのかかる措置が取られなければならない。重要なことに、カルマンガホジピルが、体内に偶然吸収された後でマンガホジピルよりずっと少ない程度までマンガンを放出するという事実は当然、胎児が骨格形成異常を発症するというリスクをかなり低減する。第2に、カルマンガホジピルは、等モル用量のマンガンでマンガホジピルより有意により効果的であるので、マンガンの必要性は、生成されるカルマンガホジピルのあらゆる用量についてかなり低減され、これが、生成中のより少ないマンガン曝露をもたらす。
【0046】
さらに、単一医薬活性成分の調製は、処置投与量の製造のコストを低減する。加えて、単一材料の投薬の必要性は、生成物の製剤における誤差の可能性を低減する。安定性試験において、結晶性生成物の安定性は、2種のAPIの混合物をスプレー乾燥することによって形成されるものなどの非晶質材料より優れていることが示された。実施例2に例示されている通り、スプレー乾燥から得られた非晶質材料は、水を急速に吸収して、25℃/60%のRHおよび40℃/75%のRHで24時間内の曝露で、融合粒子および/または粘性固体を形成することが示された。対照的に、結晶性のカルマンガホジピルは、同じ曝露条件下で7日後でさえ自由流動性固体のままであった。
【0047】
WO 2011/004325 Alに記載されている通り、MnPLED誘導体治療への、余剰分の非マンガン含有PLED誘導体、例えばDPDPの添加は、神経毒性マンガンをインビボで放出することからマンガホジピルを保護することが発見された。脳へのマンガン取込みの背後の機序は全面的に理解されているというわけではないが、マンガホジピルなどのマンガン含有PLED誘導体と組み合わせて投与されたホジピルなどの非マンガン含有PLED誘導体の余剰分は、脳へのマンガンの取込みを有意に低減する。理論に拘泥するものではないが、WO 2011/004325 Alの発明による組合せは、MnPLEDキレーター形態を維持し、これによってキレートの増加量が排泄のために利用可能であり、脳および他の器官への取込みのための遊離Mnの量が低減されると考えられる。MnPLED誘導体のような低分子量マンガンキレート、およびそれらのZn対応物は、糸球体濾過速度(GFR)によって支配される腎臓を介して容易に排泄されるが、一方で、低分子量キレーターが結合しないマンガンは、体内に当分保持され、ゆっくりおよび主に胆汁経路を介して排泄される(Toftら、1997)。本明細書において以下の実施例8に示されている通り、ラット中へのカルマンガホジピルの高用量(推定される臨床的な推定用量の36倍)の反復された(3カ月にわたり39回)静脈内注射は、マンガホジピルによって引き起こされたものと比較して、脳におけるマンガンの有意に少ない滞留を引き起こした。両方の場合における合計用量は、およそ2800μmol/kgのマンガンに対応していた。この例は、膵臓が相対的に大きい程度まで解離マンガンを取込み、保持すること、Niら(Acta Radiol 1997; 38:700〜707)によって以前に記載され、膵臓の有望な診断MRI方法として利用された特性(Ahlstromら、Acta Radiol 1997; 38:660〜664)も示している。マンガホジピルで処置されたものとの比較において、カルマンガホジピル処置ラットの膵臓における有意により低いマンガンレベルは、カルマンガホジピルの、改善された毒物学的プロファイルをさらに確証している。肝臓のMn含有量は、マンガホジピル群において統計的に有意に上昇したが、相対的な上昇は、脳および膵臓におけるものよりずっと少なかった。マンガホジピルの単回診断用量(5μmol/kg b.w.)は、ラットの膵臓および肝臓の両方のMn含有量において急速な増加を引き起こすことが知られており、2時間後に、膵臓のMn含有量は基底値よりおよそ10倍高く、肝臓の対応値は約2倍増加された(Niら、1997)。Niらは、Mn含有量が膵臓において24時間後にまた上昇した(基底値の約5倍)ことを見出した一方で、それは肝臓においてその時点でベースラインに戻った。これは、おそらく、マンガンを扱うための肝臓の高容量、およびマンガン恒常性におけるその重要な生理的役割を反映している。これは、マンガホジピルへの重度の曝露後の肝臓Mnにおけるわずかな増加を示す現在の結果によってさらに裏付けされる。カルマンガホジピルの、改善された毒物学的プロファイルは、本明細書における実施例8によって明らかに例示される。
【0048】
マンガホジピルなどのMnPLED誘導体の臨床的用量(即ち、5〜10μmol/kg b.w.、静脈内投与)が、ヒトにおけるMRIコントラスト剤として使用される場合、ホジピル(DPDP)に結合するマンガンの約80%は亜鉛と交換される(Toftら、1997)。投与されるマンガホジピルの用量が少ないほど、解離するマンガンの百分率が大きくなる。その点においては、マンガホジピルは、ラットでもイヌでも同様に挙動する(Hustvedtら、1997)。しかし、マンガホジピル中のほとんど全てのマンガンは、化合物がブタに投与される場合に亜鉛に交換され、それゆえにブタにおける細胞保護効果がない(Karlssonら、2001)。他方で、MnPLEDの低用量の投与は、虚血再灌流で有意に低減された心筋梗塞サイズとして見られる、ブタにおける顕著な細胞保護効果を引き起こす。Mn
2+とPLEDとの間の報告された安定度定数は、Mn
2+およびホジピルについての対応する数字よりかなり低いが(Rocklageら、1989)、MnPLEDは、ある知られていない理由のため、金属交換を逃れる。マンガンの置き換えは必要条件であり、そのため、例えば肝臓および膵臓の診断目的のために、MRIコントラスト剤としての使用のために望ましい。しかし、酸化ストレスの様々な形態に対するSOD模倣治療効果は、無傷のマンガンPLED誘導体錯体に完全に依存する(Brurokら、1999; Karlssonら、2001)。例えば、マンガホジピルのインビボ投与は、様々な酸化ストレッサー、例えば虚血再灌流、細胞毒性/細胞分裂停止性薬物およびアセトアミノフェン中毒から保護する一方で、それは虚血再灌流誘発心筋梗塞からブタ心臓を保護せず(Karlssonら、2001)、このことから、MnPLED誘導体のインビボ細胞保護効果は、無傷のマンガン錯体の固有の特性であることが結論づけられ得る。
【0049】
Mnに対しておよそ4倍過剰であるCaの存在は、カルマンガホジピルにおける通り、錯体またはその脱リン酸化対応物が注射後にマンガンを放出するのを顕著に安定化し、したがって別の重要な利点、すなわち治療有効性の増加をもたらす。例えば、臨床的に意義のある撮像用量のMnDPDP(5〜10μmol/kg)が静脈内注射される場合、DPDPに本来結合するマンガンの約80%が放出されて、撮像効力(imaging efficacy)に寄与する。その結果として、20%未満がDPDPまたはその脱リン酸化対応物に結合したままであり、MnDPDPの治療的活性に寄与する。錯体からのマンガンの放出は、カルマンガホジピルにおけるMnとの比較において、およそ4倍過剰のCaによって有効に低減され得るので、これは、本発明において明らかに例示されている通り、マンガンが等効力の治療効果のためにかなり低減され得ることを意味する。特定の実施形態においてより低い、およびより多い治療関連用量で、Caの安定化効果は、より強調されさえする。これは順じて、マンガホジピルとの比較におけるカルマンガホジピルの使用が、Ca
4Mn(DPDP)
5に近い組成化学量論を用いて、インビボ安定化効果の結果および新たな医薬物カルマンガホジピルの治療有効性増加の結果としての両方で神経毒性ポテンシャルに対して顕著な効果を有することを意味する。
【0050】
亜鉛は全ての体組織および体液に存在する。ヒトにおける全身亜鉛含有量は、2〜3gであると概算されている(Folinら、BioMetals 1994; 7:75〜79)。血漿中亜鉛は、全身亜鉛含有量の約0.1%に相当し、投与後にホジピルまたはその脱リン酸化対応物、DPMPおよびPLEDに結合するためマンガンと競合するのは、主にこの小さい画分の亜鉛である。人体は、胃腸吸収および排泄における相乗的調整を介して亜鉛恒常性を維持するために非常に高い容量を有する(Kingら、J Nutr 2000; 130:1360S〜1366S)。
【0051】
理論に拘泥するものではないが、前臨床作業(Southonら、1997)および臨床作業(Skjoldら、2004)から、身体が、マンガホジピルなどのMnPLED誘導体におけるマンガンと容易に交換可能である5μmol/kgから10μmol/kg体重(b.w.)の亜鉛を含有すると推定することは妥当であり得る。これは実質的に、上に記載されている通りの血漿の亜鉛含有量に対応する。ホジピルなどのPLED誘導体は、1分子当たりマンガン/亜鉛のために1つの結合部位を含有する。したがって、キレーターに対する亜鉛の親和性より1000倍高いことを考慮すると、マンガンとの比較においておよそ4の比におけるカルマンガホジピル中のカルシウムの存在は、患者への非経口投与後のマンガンの放出から保護する。
【0052】
別の実施形態において、本発明は、錯体の投与によって、これに限定されないが酸素由来のフリーラジカル、即ち酸化ストレスの存在によって引き起こされる病態を含めた患者における病態の処置のための方法を対象とする。具体的な実施形態において、病態は、後続の脂質過酸化および/またはタンパク質ニトロ化をもたらすスーパーオキシドによって引き起こされる。具体的な実施形態において、錯体は、ヒト患者または別の哺乳動物におけるこうした病態の治療的処置のために投与することができる。別の具体的な実施形態において、本発明による錯体は、哺乳動物における酸素由来のフリーラジカル、即ち酸化ストレスの存在によって引き起こされる病態の処置のために投与される。
【0053】
一実施形態において、錯体は、細胞毒性または細胞分裂停止性薬物処置に用いられ、ここで、錯体は、癌患者において細胞毒性/細胞分裂停止性薬物、例えば、1種または複数の癌薬物の不利な副作用からの保護を提供するために投与される。より具体的な実施形態において、細胞毒性または細胞分裂停止性薬物は、ドキソルビシン、エピルビシン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、5-フルオロウラシル、ドセタキセルまたはパクリタキセルの少なくとも1つを含む。追加の実施形態において、病態は、骨髄抑制もしくは神経毒性または両方である。
【0054】
本発明による方法には、これらに限定されないが、アセトアミノフェン誘発肝不全、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、ウイルス誘発慢性肝炎、ウィルソン病、糖尿病、急性ならびに待機的設定の両方における虚血再灌流誘発損傷もしくは心筋虚血再灌流誘発損傷を含めた虚血性心疾患、血栓溶解処置に関連する状態、心肺バイパスもしくは経皮経管的血管形成術、あるいは心臓もしくは臓器の移植外科手術または卒中発作の結果の処置も含まれる。追加の実施形態において、本発明による方法には、鉄過負荷を含めた鉄関連状態、例えば、サラセミア、鎌状赤血球貧血または輸血性ヘモジデリン沈着、肝炎誘発肝硬変、例えば放射線治療に起因する放射線誘発損傷、ならびにアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病および多発性硬化症を含めた様々な神経変性疾患などの処置も含まれる。
【0055】
なおさらなる実施形態において、本発明による方法は、様々な形態の癌などで生じる低いマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)活性の病態のための置き換え治療として施される(Buettner、Anticancer Agents Med Chem. 2011; 11 :341〜346)。したがって、一実施形態において、本発明は、本発明の錯体、またはより具体的にはカルマンガホジピルを投与することによる、非小細胞肺癌の処置のための方法を対象とする。追加の実施形態において、本発明は、本発明の錯体、またはより具体的にはカルマンガホジピルを投与することによる、直腸結腸癌、前立腺癌、乳癌、膵癌または悪性黒色腫の処置のための方法を対象とする。
【0056】
マンガホジピルの抗腫瘍効果のための興味深く、おそらく重要な特性は、実施例5において、およびLaurentら、2005およびAlexandreら、2006によって示されている通り、そのリンパ球保護特性であり得る。酸化ストレスに続発する炎症プロセスは、正常組織を傷害するが、それらは、実際には、成長因子に富む微小環境を創造することおよび癌クローンの成長を促進することによって、腫瘍組織にとって有益となり得る(Anscher、Onclogist 2010; 15:350〜359; Kareva、Transl Oncol 2011; 4:266〜270; Kerkarら、Cancer Res 2012; 72:3125〜3130)。際立った例は、腫瘍の不十分な血管新生化領域に優先的に蓄積し、腫瘍成長を実際に促進するサイトカインを分泌する腫瘍関連マクロファージの存在である。さらに、これらのサイトカインは腫瘍成長を促進することができるだけでなく、それらは、腫瘍排除に最も効果的であるCD8+ Tリンパ球の活性化を抑制することも示されている。実際に、癌化学療法の転帰に関するTリンパ球媒介免疫応答の重要性に対する興味が増加している(Zitvogelら、Nat Rev Clin Oncol 2011; 8: 151〜160; Kerkarら、2012)。重度のリンパ球減少症(<1000細胞/μl)は、化学療法応答に負に影響することが知られている。CT26大腸癌、MCA205線維肉腫、TSA細胞系乳癌、GOS細胞系骨肉腫およびEL4胸腺腫を含めた一連のマウス癌は、免疫欠損宿主、即ちヌードマウスよりシンジェニック免疫コンピテントマウスに移植される場合のほうがずっと効果的であるドキソルビシンおよびオキサリプラチンとの化学療法に応答する(Zitvogelら、2011)。これは、IFN-γ生成CD8+ Tリンパ球は、強力な癌免疫エフェクターであることを明らかにしている臨床研究と合致する。さらに、高い好中球/リンパ球比は、進行直腸結腸癌を有する患者の低い全体的生存に伴う(Chuaら、Br J Cancer 2011;104:1288〜1295)。マンガホジピルおよび特にカルマンガホジピルが化学療法中の高効果的なリンパ球保護剤であることを考慮に入れると、この特性がインビボ条件中で特別に重要であることはもっともである。
【0057】
臨床的に有用であるために、癌患者において使用される化学療法保護剤または放射線治療保護剤は、以下の3つの基準を満たすべきである。(i)薬剤は、正常組織を化学療法/放射線治療誘発毒性から保護するが、腫瘍組織を(少なくとも、より大きい程度にまでは)保護しないべきであり、そうでなければ、利益は得られない; (ii)薬剤は、相対的に簡便に、および最小の毒性で送達されるべきである; および(iii)薬剤は、用量制限毒性、または生活の質における有意な低減の原因であるものから正常組織を保護するべきである(Citrinら、2010)。本発明の化合物、および特にカルマンガホジピルは、実施例が本明細書において実証している通り、全てのこれらの基準を満たす。マンガホジピルおよびカルマンガホジピルが非悪性細胞を保護するが癌細胞を傷害しない理由は逆説に思われる。理論に拘泥するものではないが、癌細胞に対する非悪性細胞および細胞毒性の作用の保護は、同じ硬貨の2つの面にすぎないことがある。上昇した酸化状態は、形質転換細胞における分裂促進的刺激にとって欠くことができない(Iraniら、Science 1997;275: 1649〜1652)。多くの研究は、反応性酸素種(ROS)が、腫瘍転移を促進することに重要な役割を果たすと報告している(例えば、Behrendら、Mol Cell Biol 2005; 25:7758〜7769)。これらのデータは、多くの上皮性腫瘍細胞のレドックスのバランスが上昇した酸化体設定点を好むことを示唆している大部分の文献と一致し(Doroshow、2006)、CT26細胞を含める(Laurentら、2005; Alexandreら、2006)。MnSODは、様々な癌細胞系およびマウスモデルにける細胞成長を抑制する。さらに、MnSODの過剰発現は、ヒトの直腸結腸癌細胞系HCT116における成長停止を誘発し、p53の誘発を必要とする老化を増加させた(Behrendら、2005)。癌細胞における正常MnSOD遺伝子の導入は表現型を変え、細胞は、培養液中でコロニーを、およびヌードマウス中で腫瘍を形成するそれらの能力を失う(Churchら、Proc Natl Acad Sci USA 1993; 90:3113〜3117)。癌細胞において見られる上昇した酸化状態は、典型的に、・NOと容易に反応することで、チロシンニトロ化をもたらす高毒性ONOO
-、・NOの「醜悪な」側面を形成する・0
2-の増加生成につながる(Beckman et al、1996; Radi、2004)。興味深いことに、説得力のある証拠は、チロシンニトロ化が、腫瘍におけるCD8+リンパ球媒介免疫学的応答の上記抑制に関与することを示唆している(Bronteら、J Exp Med 2005; 201、1257〜1268; Molonら、J Exp Med 2011; 208:1949〜1962)。カルマンガホジピルは、そのSOD模倣活性を介して、ONOO
-生成およびそれゆえに免疫学的抑制を阻害することがあり、実施例10によって実証されている通り、免疫コンピテントなマウスに見られるが免疫非コンピテントなマウスには見られない増加した抗腫瘍効果を説明している。過酸化亜硝酸は、直接にタンパク質ニトロ化をできないが、典型的には鉄または銅のようなレドックス活性遷移金属を必要とする(マンガンでさえこの必要性を満たし得る) (Radi、2004)。ホジピルおよびその脱リン酸化代謝物は、Fe
3+に対して極めて高い親和性を有する(Rocklageら、1989)。この特性は、カルマンガホジピルのSOD模倣活性に加えて、抗腫瘍活性にとって特別に重要であり得る。Tリンパ球依存性作用に加えて、DPDPおよびPLEDの直接的免疫非依存性作用は、近年のKurz (2012)の論文が示唆し得る通り、トポイソメラーゼIIの阻害によることがある。
【0058】
錯体は、医薬組成物中で投与することができる。任意選択により、本発明の医薬組成物には、当業者によく知られている方式において、1種または複数の生理学的に許容される担体および/または賦形剤が含まれ得る。一実施形態において、錯体は、例えば、任意選択により薬学的に許容される賦形剤の添加とともに、液体媒体中に懸濁または溶解させることができる。医薬組成物のための適当な賦形剤としては、これらに限定されないが、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、pH調整剤、バインダーおよび充填剤などを含めて、任意の従来の医薬または獣医学の製剤賦形剤が挙げられる。該医薬組成物は、腸管外および腸内投与の両方を含めて、投与に適当な形態であってよい。具体的な実施形態において、該組成物は、例えば注射または注入に適当な形態である。したがって、本発明の医薬組成物は、タブレット、カプセル、粉末、溶液、懸濁液、分散液、シロップ、坐剤、エアロゾル、軟膏または硬膏剤など従来の医薬投与形態であってよい。さらなる実施形態において、錯体は凍結乾燥形態であり、所望であれば、投与より前に再構成することができる。凍結乾燥された錯体は、1種または複数の安定剤、および/または凍結乾燥での使用で知られている他の賦形剤を含有する凍結乾燥組成物中であってよい。
【0059】
本発明によるこうした組成物は、様々な経路によって、例えば経口的に、経皮的に、直腸的に、くも膜下腔内に、局所的に、または吸入もしくは注射、特に皮下、筋肉内、腹腔内もしくは血管内の注射の手段によって投与することができる。中耳内および鼻腔内を含めて、投与の他の経路も同様に使用することができ、生成物の有効性、生物学的利用能または耐性を増加させる経路が好ましい。最も適切な経路は、使用される特別な製剤に従って、当業者によって選択することができる。適当な投与量は、選択される処置に対して明らかである。一実施形態において、本発明による処置方法は、混合金属錯体を約0.01μmol/kgから50μmol/kg体重投与することを含む。より具体的な実施形態において、本発明による処置方法は、混合金属錯体を約0.1μmol/kgから10μmol/kg、または約0.1μmol/kgから5μmol/kg体重投与することを含む。
【0060】
以下の実施例は、本発明の各種実施形態および態様を実証する。
【実施例1】
【0061】
方法
N
2で洗い流したジャケット付き100L反応器に、ホジピル(DPDP) (4.0kgの無水ベース、6.27mol、1当量)および脱イオン化(DI)水(19.2L、4.88体積)を投入した。バッチのpHを、希釈NaOH (8.9Lの合計、17.5molのNaOH、2.8当量; 1.41kgの50wt% NaOHおよび8.0LのDI水から調製した)で、35分かけて(21.0〜23.3℃;外部冷却)、5.7に調整した。スラリーを1時間の間20〜25℃で撹拌し、この時間中に溶液が形成した。これに、Ca(OH)
2 (361.1g、4.87mol、0.78当量)、L-アスコルビン酸(55.1g、0.313mol、5モル%)、およびMnO (80g、1.13mol、0.18当量)を順次に投入した。各試薬の添加後、バッチを30〜60分間20〜25℃で撹拌し、pHを測定した(Ca=6.24後、軽度に濁った淡黄色からさび色へ;アスコルビン酸=6.28後、あまり濁っていないさび色;Mn=6.38後、濁ったさび色から黄緑色へ)。濁ったバッチを16時間の間20〜25℃で撹拌し、pHを測定し(6.36)、0.3μインラインフィルターを介して清潔な100L反応器中に、バッチを濾過した。その間、エタノール(EtOH) 23A溶液を、アセトン(5.9L、1.47体積)およびEtOH (74L、18.5体積)で調製した。EtOH 23A溶液(8.0L、2体積)の一分量をバッチに30分かけて20〜25℃で投入し、この時間中に溶液が濁ってきた。バッチにカルマンガホジピル(40g、1wt%)を播種し、30分間20〜25℃で撹拌することで、確実に固体を残存させた。
【0062】
バッチ温度を1時間のクールをかけて15℃に調整し、次いで30分間13.8〜15.5℃で熟成させた。バッチにEtOH 23A (56L、14体積)を10時間かけて(11〜14℃)投入した。スラリーを13時間の間5〜10℃で混合し、次いで濾過することで、固体を回収した。冷蔵した(0〜10℃) EtOH 23A (14L、3.5体積)で反応器および固体を濯ぎ、固体の状態を2時間の間整え、次いで真空炉内にて45℃で72時間の間乾燥させることで、4.819kg (水含有量のために調整した93%収率)のカルマンガホジピル(ロット#11AK0105B)を黄色の固体として得た。HPLC分析は、98.8%の純度を示した。Oven Karl Fisher分析(@170℃)は、10.1%の水を示した。ICP分析は、4.27のCa/Mn比に対して、即ちCa
4Mn(DPDP)
5に近い組成化学量論で、4.27%のCa、1.37%のMn、8.64%のNaを指し示した。
【0063】
結果
XRPD (X線粉末回折)分析を行い、結果として得られたパターンを
図1に示す。XRPDパターンは、カルマンガホジピルが単純なブレンドではなく単一の化学実体であることを実証している。
図1は、周囲湿度に従って相互変換するカルマンガホジピルの3つの公知結晶性形態の積み重ねプロットを示している。可変湿度XRPD分析は、形態Bが40%を超えるRHで安定であり、形態Aが0〜10%のRHで安定であり、形態Cが6〜36%の間のRHで安定であるのを実証した。形態BおよびCの混合物が38〜44%の間のRHで観察され、形態変換が3時間内に10mgスケールで生じることが観察された。
【0064】
結論
XRPDは、驚くべきことに、カルマンガホジピルが、単純なブレンドではなく1つの化学実体であることを実証した(
図1)。
【実施例2】
【0065】
方法
4:1の比で、およそ200mgのカルホジピル(CaDPDP)および50mgのマンガホジピル(MnDPDP)を、40mLのバイアル中に秤量し、40mLのDI水中に室温で溶解させることで、黄色の溶液を発生させた。Buchi Mini-Spray Dryer B-290を使用して黄色の水溶液をスプレー乾燥させ、一方で、実験室からの空気の取り入れを可能にするエアコンとしてのBuchi dehumidifier B-296に付着させた。スプレー乾燥最適化実験を、上昇させた注入口温度(220℃)で、供給量を変動しながら行った(20、30、40、50および60%)。生成物の回収は180〜230mgの範囲であった。
【0066】
結果
結果として得られた材料をXRPDによって分析し(
図2)、これは、全ての生成物が非晶質であり、水を急速に吸収したことが示され、25℃/60%のRHおよび40℃/75%のRHで24時間の曝露内に融合粒子および/または粘性固体を形成したことを指し示した。
【実施例3】
【0067】
この実施例は、赤外吸収分光法;質量分光法;および元素分析を活用することによって、新たな化学実体カルマンガホジピルの構造を解明する。NMR分析は、Mnの常磁性の性質によりカルマンガホジピルの分析に利用することができない。
【0068】
方法
この実施例に記載されている分析を、本明細書に記載されている一工程方法に従って生成された生成物に行った。生成物をロット#7755-C-RO-01-30-01と同定し、本質的に実施例1に記載されている通りに調製した。この生成物の一分量は、カルマンガホジピルの標準的な基準として認定されている。
【0069】
赤外吸収分光法。カルマンガホジピル、ロット#7755-C-R0-01-30-01のフーリエ変換赤外(FT-IR)吸収スペクトルを、Thermo-Nicolet Avatar 370分光計上の減衰全反射(ATR)を使用して得た。
【0070】
質量分光法。カルマンガホジピル、ロット#7755-C-R0-01-30-01の質量スペクトルを、Waters Q-Tof Micro MS/MSシステム上で獲得した。エレクトロスプレーイオン化法(ESI) (陽イオン極性様式)をMS分析に選択した。この試料を、50:50のアセトニトリル/水+0.1%ギ酸の溶液中に、10μg/mLの濃度で溶解させた。溶液を直接供給源中に10μL/分の速度で注入した。
【0071】
元素分析。カルマンガホジピル、ロット#7755-C-R0-01-30-01を、4.26のCa/Mnモル比、および2.8mol Na/モルのホジピルを使用して製造した。この組成を有する錯体の理論上の金属含有量は、1.41%のMn、4.38%のCa、および8.69%のNaである。
【0072】
結果
赤外吸収スペクトルを
図3に示し、特徴的な赤外吸収帯(波数)および対応する帰属は以下の通りである。
【0073】
【表1】
【0074】
試料の質量スペクトルおよび拡大質量スペクトルを、それぞれ
図4Aおよび
図4Bに示す。スペクトルは、互いに重ね合ったカルホジピルおよびマンガホジピルのものとして現れる。完全にプロトン化されたカルホジピルの精密質量は676であり、[M+l]について677の質量が観察される。一ナトリウム、ニナトリウム、三ナトリウムおよび四ナトリウムについての精密質量は、それぞれ698、720、742および764である。スペクトルは、各々の種についての[M+l]を、それぞれ699、721、743および765で示す。完全にプロトン化されたマンガホジピルの精密質量は691であり、対応する一ナトリウム種、ニナトリウム種、三ナトリウム種、三ナトリウム種および四ナトリウム種は、それぞれ713、735、757および779である。スペクトルは、各々の種の[M+l]について、692、714、736、758および780で質量を示す。
【0075】
ロット#7755-C-R0-0l-30-01についての金属含有量結果は、1.48%のMn、4.44%のCa、および8.56%のNaであり、予想された値と合致しており、マンガンおよびカルシウムの両方が対イオンとしてのナトリウムと錯体化されているとともにカルシウムがほとんどまたは全く対イオンとして単純に存在していないことを確証している。
【0076】
結論
これらの結果は、
図5に示されている構造と一致する。
図5は、対イオンとして3Naとともに理想的および総称的な4:1のCa/Mnを示しており、これは、
図5に示されている745.43の分子量を与える。記載されている通りに調製し、この実施例で調査した材料についての平均分子量は、4.26のCa/Mn比、および対イオンとして2.8Naを有し、740.89の分子量を有する。
【実施例4】
【0077】
この実施例は、カルマンガホジピルまたはマンガホジピルを、Mn等モル用量で受ける動物におけるマンガン(Mn)および亜鉛(Zn)の尿排泄を測定した。
【0078】
方法
8匹の雄性Wistarラット(およそ250g)に、尾静脈の1つを介して、およそlOmMのMnおよび40mMのCaを含有する50mMのカルマンガホジピル(ロット#11AK0105B)溶液0.25ml、または10mMのMnを含有する10mMのマンガホジピル(ロット#02090106) 0.25mlを静脈内注射した。注射後、ラットを直ちに、0〜24時間の期間にわたる尿採取用の代謝ケージに入れた。尿中のマンガン(Mn)および亜鉛(Zn)の基底含有量を得るために、2つの追加の(対照)ラットが0.25mlの生理食塩水を受け、同じ期間の時間にわたる尿採取用の代謝ケージに入れた。尿試料を次いで、-80℃にてMn分析まで貯蔵した。分析の前に、試料を解凍し、広範に振盪することで、均質試料を得た。5mlのアリコットを各試料から取り、5mlの濃硝酸を添加した。試料を次いで電子レンジ内で溶かし、その後、50mlの最終体積まで蒸留水で希釈した。各試料のMn含有量をICP-MS(誘導結合プラズマ質量分光分析法)によって分析した。ラットに注射したものとカルマンガホジピルおよびマンガホジピルの同一試料(即ち、0.25ml)を取り出し、試験管に注射した。これらの試料を尿試料とものと同一の方式で処理し、それらのMn含有量について分析した。結果を、合計0〜24時間の尿Mn含有量(μmol/kg±S.E.M.として表示されている)として、および注射された用量の百分率(±S.E.M.)として提示する。カルマンガホジピルおよびマンガホジピルを受ける動物間の統計的差異を、尿中へのマンガンの排泄に関して、対応のないスチューデントt検定によって試験した。0.05より低いp値を統計的に有意な差異とみなした。
【0079】
結果
結果を
図6A、
図6Bおよび
図6Cにおいて説明する。2.59μmolのマンガン(Mn)を含有する10mMのマンガホジピル0.25mlのiv注射の24時間後に、0.60±0.04μmolのMnを尿中で回収し(
図6A)、注射用量の23.1±1.4%に対応した(0.035μmolの基底排泄の減算後、
図6B)。2.52μmolのMnを含有する50mMのカルマンガホジピル0.25mlの注射後の対応する数字は、1.27±0.07μmolのMnであり(
図6A)、注射用量の50.5±2.6%に対応した(
図6B)。マンガホジピルとカルマンガホジピルとの間の差異は、高く有意である(p<0.0001)。腎Mn排泄における差異は、多かれ少なかれ、亜鉛(Zn)の腎排泄における差異に反映され、増加されたZn排泄として表示されたが、即ち、基底24時間排泄(0.068μmol)は減算されている(
図6C)。
【0080】
結論
したがって、同等のMn用量で、カルマンガホジピルは、マンガホジピルとの比較において尿中でMn排泄が倍であった。マンガホジピルの静脈内注射後の0〜24時間中の尿に排泄された百分率Mnは、ラット(Hustvedtら、1997)およびヒト(Toftら、1997)において前に報告した数字と非常によく対応する。この結果は、カルマンガホジピルがインビボ条件下でマンガホジピルよりずっと少ないMnを放出することを実証している。これは、脳および他の器官による取込みに利用可能な遊離Mnの量が低減されること、およびより多くの治療的マンガホジピルまたはその脱リン酸化対応物、MnDPMPおよびMnPLEDがインビボで利用可能であるので治療指数が有意に増加されることにおいて、際だった利点を提供する。したがって、カルマンガホジピルが治療的処置を、マンガホジピルのものよりかなり少ない毒性にし、はるかに効果的にしている。
【実施例5】
【0081】
この実施例は、カルマンガホジピルの細胞保護効果を、マンガホジピルおよびMnPLEDのものと、balb/cマウスにおけるオキサリプラチンの骨髄抑制効果に関して比較する。
【0082】
方法
第1シリーズの実験において、各々5匹の雌性balb/cマウスからなる3群を、オキサリプラチンを用いてそれぞれ7.5mg/kg、10.0mg/kgおよび12.5mg/kgオキサリプラチンで腹腔内に1回処置した。オキサリプラチン処置の1日前(ベースライン)、ならびに3日後および6日後に、50μlのEDTA血液試料を眼窩静脈叢からガラス毛細管で取った。自動化システムCELL-DYN (登録商標) Emerald (Abbott Diagnostics)を使用し、白血球細胞(WBC)、リンパ球(LYM)、好中球(NEU)および血小板(PLC)の含有量について血液試料を分析した。結果(
図7A〜
図7D)から、カルマンガホジピル、マンガホジピルおよびMnPLEDの骨髄保護効果を試験するさらなる実験が12.5mg/kgオキサリプラチンにて行われるべきであること、ならびに血液細胞試料分析があらゆるマウスにおいてオキサリプラチン投与の前日および6日後に行われるべきであることを結論づけた。オキサリプラチン(12.5mg/kg)投与の30分前および24時間後に、マウスは、生理食塩水、カルマンガホジピル(5mg/kg;ロット#11AK0105B)、マンガホジピル(1mg/kgおよび10mg/kg;ロット#02090106)またはMnPLED (1mg/kg)を、静脈内に受けた(各群において5匹のマウス)。5mg/kgカルマンガホジピルの用量は、1mg/kgマンガホジピルのものと同じ量のマンガン、即ち1.3μmolを含有し、1mg/kgのMnPLEDは、幾分多いマンガン(およそ2μmol)を含有していた。対照群は、オキサリプラチンの代わりにビヒクル(5%グルコース)および生理食塩水を受けた。結果を、様々な処置および血液細胞(±S.E.M.)についてベースラインからの相対的変化としてグラフにおいて提示する。処置群間の統計的差異を、必要に応じて、対応のないスチューデントt検定によって試験した。0.05より低いp値を統計的に有意な差異とみなした。
【0083】
結果
結果を
図8A〜
図8Dにおいて説明する。同等のマンガン用量で、即ち5mg/kgのカルマンガホジピルは、白血球細胞(WBC)の合計数におけるオキサリプラチン誘発低下からマウスを保護するのに、1mg/kgのマンガホジピルより統計的に有意に効果的であった(
図8A)。12.5mg/kgのオキサリプラチンの単回用量は、WBCを80%より多く低下させたが、一方、カルマンガホジピルで処置された動物における低下は、約25%だけであった。1mg/kgまたは10mg/kgのマンガホジピルで処置されたマウスにおいて対応する低下は、おおよそ50%であった。これらの結果は、おそらく、MnDPDPが骨髄保護効果を及ぼすことができる前にMnPLEDに脱リン酸化されなければならないことも示唆しており、1mg/kgのMnPLEDは、カルマンガホジピルのように、WBCを保護するのに1mg/kgおよび10mg/kgのマンガホジピルより有意に効果的であった。同様の低下は、オキサリプラチン処置後のリンパ球(LYM;
図8B)および好中球(NEU;
図8C)に見られた。質的に同様の結果は、好中球(NEU)を分析した場合にも得られた(
図8C)。血小板(PLC;
図7Dおよび
図8D)に関して、WBC、LYMおよびNEUとの比較において、それらをオキサリプラチンに対する感度および試験物質の細胞保護効果の両方が異なった。
【0084】
結論
カルマンガホジピルは、等モルのマンガン用量で、抗癌薬オキサリプラチンの骨髄抑制効果からbalb/cマウスを保護するのにマンガホジピルより有意に強力であった。
【実施例6】
【0085】
カルマンガホジピルのマウス大腸癌細胞における細胞毒活性を、マンガホジピル、ホジピル、MnPLED、ZnPLED、ZnDPDP、カルホジピル(CaDPDP)、PLEDおよびCaCl
2のものと比較した。
【0086】
方法
MTTアッセイを使用して細胞の生存率を測定した。簡潔には、96ウェルプレート上に1ウェル当たり8,000個のCT26 (マウス大腸癌腫)細胞を播種し、5%のC0
2を有する加湿空気中で37℃にて、10%のウシ胎仔血清、2mMのL-グルタミン、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含有するRPMI (Roswell Park Memorial Institute) 1640培地中で終夜成長させた。細胞を次いで、1〜1,000μMのカルマンガホジピル(ロット#11AK0105B)、ホジピル(DPDP;ロット#RDL02090206)、PLED(ロット#KER-AO-122(2))、カルホジピル(CaDPDP)、マンガホジピル(ロット#02090106)、MnPLED、ZnPLED、ZnDPMPおよびCaCl
2に、37℃で48時間の間曝露した。細胞の生存率を次いで、5mg/mlメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)を0.5mg/mlの最終濃度まで添加すること、および細胞をさらに4時間の間37℃でインキュベートすることによって判定した。生細胞のミトコンドリア脱水素酵素によって形成される青色のホルマザンを次いで、10%のSDSおよび10mMのHC1を5%のSDSおよび5mMのHC1の最終濃度まで添加することによって、37℃にて終夜溶解させた。最終的に、溶液の吸光度を、プログラムSoftmax Pro V1.2.0 (Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)を作動するApple Macintoshコンピューターに接続されたマイクロプレートリーダーSpectramax 340 (Molecular Devices, Sunnyvale, CA, USA)において、670nmの基準を用いて570nmで読み取った。
【0087】
結果
ホジピル、PLED、カルホジピルまたはカルマンガホジピルの細胞毒活性は、マンガホジピルのものより約20倍高かった(
図9Aおよび
図9B)。MnPLEDは、CT26癌細胞を死滅させるためのその能力においてマンガホジピルよりほとんど10倍強力であった(
図9A)。ZnDPDP、ZnPLEDまたはCaCl
2のいずれも、使用された濃度で任意の細胞毒活性を全く呈していなかった(
図9Aおよび
図9B)。
【0088】
結論
カルマンガホジピルおよびマンガホジピルを比較した場合、カルマンガホジピルは、CT26癌細胞を死滅させるのにマンガホジピルより約20倍強力であることがわかった。ホジピルからのある程度までのマンガンの解離は、マンガホジピルの癌死滅効力をおそらく説明している。実施例1および3において定義されている通りのカルマンガホジピルは、マンガン等モル濃度において、他方ではホジピル単独と同じく効果的であり、即ちカルマンガホジピルの死滅効力は、等モルのマンガン濃度でマンガホジピルのものよりずっと高い。この所見は2つの重要な特性を示唆している。第一に、脱リン酸化されたPLEDは、おそらく、その癌細胞死滅能力に関してそのリン酸化対応物ホジピルと同じく効果的であり、第二に、マンガホジピル(Rocklageら、1989)のものとの比較においてMnPLEDのより低い安定性は、MnPLEDのより高い効力をおそらく説明している。ZnDPDPおよびZnPLEDの任意の細胞毒活性の欠如は、おそらく、それらのマンガン対応物(Rocklageら、1989)との比較においてこれらの錯体の1000倍高い安定性によるものである。
【実施例7】
【0089】
この実施例は、カルマンガホジピルの存在下および非存在下で、マウス大腸癌(CT26)保有マウスモデルにおけるオキサリプラチンの抗腫瘍活性を比較する。
【0090】
方法
CT26細胞を、5%のC0
2を有する加湿空気中で37℃にて、10%のウシ胎仔血清、2mMのL-グルタミン、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含有するRPMI (Roswell Park Memorial Institute) 1640培地中にて、75cm
2の培養フラスコ内で成長させた。細胞が約50%の集密度に達した時に、それらをトリプシン処理によって収集した。簡潔には、細胞をホスフェートベースの生理食塩水(PBS) (pH7.3)で洗浄し、約5分間37℃で0.05%のトリプシン/0.53mMのEDTAに曝露した。RPMI1640培養培地を添加することによってトリプシン処理を止めた。細胞をカウントし、5分間200xgで遠心分離した。その後、それらをPBS中で洗浄し、再び遠心分離し、マウスへの注射用に2×l0
6/350μlの濃度でPBS中に再懸濁した。年齢6週から8週の間のBalb/c雌性マウスを、Laurentら、2005によって記載されている通りに使用した。簡潔には、各マウスに、0日目で2×10
6個のCT26細胞を頸部の後部に皮下注射した。腫瘍が検出可能である7日後(7日目)に、腫瘍サイズを測径器で決定し、腫瘍のサイズが群によって統計的に異なることがないようにマウスをグループ化した(各群において5匹)。オキサリプラチン±カルマンガホジピル(ロット#11AK0105B)を注射し、1つの群のマウスは、ビヒクル(0.9%生理食塩水+5%グルコース)処置を単独で受けた。第1シリーズの実験において、マウスに、20mg/kgのオキサリプラチン(5%グルコース中に希釈した)または5%グルコースのi.p.投与より30分前に生理食塩水または50mg/kgのカルマンガホジピルを静脈内注射した。これらのマウスは、加えて、24時間後(8日目)に生理食塩水または50mg/kgのカルマンガホジピルを受けた。別のシリーズの実験において、マウスに、10mg/kgオキサリプラチン(5%グルコース中に希釈した)または5%グルコースより30分前に生理食塩水または5mg/kgのカルマンガホジピルを、および24時間後(8日目)に生理食塩水または5mg/kgのカルマンガホジピルを静脈内注射した。マウスを10日目に屠殺し、腫瘍を切除し、湿重量を決定した。処置群間の統計的差異を、必要に応じて、対応のないスチューデントt検定によって試験した。0.05より低いp値を統計的に有意な差異とみなした。
【0091】
結果
結果を
図10Aおよび
図10Bにおいて説明する。第1シリーズの実験において、マウスは、最も高い耐量に近い20mg/kgのオキサリプラチンを受けた。オキサリプラチンを用いる単回処置は、腫瘍重量において統計的に有意なおよび50%より多い低減をもたらした。カルマンガホジピル(50mg/kg)を用いる処置は、高用量でオキサリプラチンの抗腫瘍効果に対して任意の負の影響を及ぼさなかった(
図10A)。しかし、10mg/kgのオキサリプラチンが使用された第2シリーズの実験において、相対的に低用量のカルマンガホジピル(5mg/kg)を用いる処置は、統計的に有意なより良好な抗腫瘍効果をもたらし(
図10B)、10mg/kgのオキサリプラチンプラス5mg/kgのカルマンガホジピルの組合せ効果は、単独での20mg/kgのオキサリプラチンとほとんど同じく効果的であった。
【0092】
結論
カルマンガホジピルは、オキサリプラチンの抗腫瘍活性に対して負に干渉しなかったが、それとは反対に、相対的に低用量のオキサリプラチン(10mg(kg)で、カルマンガホジピルは抗腫瘍効果を実際に増加させた。
【実施例8】
【0093】
この実施例は、ラットの脳、膵臓および肝臓におけるカルマンガホジピルおよびマンガホジピルの静脈内注射を反復した後(33週にわたり39回)のマンガンのレベルを比較する。
【0094】
方法
Wistar雄性および雌性ラットに、0.9%のNaCl、72.0μmol/kgのマンガホジピル(ロット#02090106; 72μmol/kgのマンガンに対応する)または374.4μmol/kgのカルマンガホジピル(ロット#11AK0105B; 72μmol/kgのマンガンに対応する)のいずれかを、13週の間週3回静脈内注射した(各処置群は9雄性+9雌性でなる)。カルマンガホジピルの各用量は、推定された臨床的用量(ACD)の約36倍に相当した。13週の投与期間後、ラットを堵殺し、脳および膵臓を解剖し、およそ0.5g試料をMn分析まで冷凍貯蔵した。各試料のMn含有量をICP-MSによって分析した。結果をμg/gの湿重量±S.E.Mとして表示する。Mn含有量に関するマンガホジピル群とカルマンガホジピル群との間の統計的差異は、対応のあるスチューデントt検定によって試験した。0.05より低いp値を統計的に有意な差異とみなした。
【0095】
結果
結果を
図11A〜Cにおいて説明する。NaCl処置対照ラット、マンガホジピル処置ラット、およびカルマンガホジピル処置ラットにおけるMn脳含有量は、それぞれ0.38μg/g w.w.±0.01μg/g w.w.、0.99μg/g w.w.±0.02μg/g w.w.、および0.74μg/g w.w.±0.01μg/g w.w.であった。膵臓において対応するMn含有量は、それぞれ1.66μmol/kg±0.06μmol/kg、5.54μmol/kg±0.45μmol/kg、および3.35μmol/kg±0.19μmol/kgであった。肝臓のMn含有量は、マンガホジピル群において統計的に有意に上昇したが(
図11C)、相対的な上昇は、脳および膵臓において見られるものよりずっと少ない。
【0096】
結論
ラットへのカルマンガホジピルの高い蓄積用量の投与は、マンガホジピルと比較して、脳および膵臓においてマンガンの有意に少ない保持をもたらす(両方の場合における合計用量は、およそ2800μmol/kgのマンガンに対応した)。これらの結果は、マンガホジピルとの比較において、カルマンガホジピルの改善された毒物学的プロファイルを実証している。
【実施例9】
【0097】
この実施例は、balb/cマウスにおけるカルボプラチンの骨髄抑制効果に関するカルマンガホジピルの細胞保護効果を示す。
【0098】
方法
第1シリーズの実験において、各々5匹の雌性balb/cマウスからなる3群を、カルボプラチンでそれぞれ75mg/kg、100mg/kgおよび125mg/kgカルボプラチンにて腹腔内に1回処置した。カルボプラチン処置の1日前(ベースライン)、ならびに3日後および6日後に、50μlのEDTA血液試料を眼窩静脈叢からガラス毛細管で取った。自動化システムCELL-DYN (登録商標) Emerald (Abbott Diagnostics)を使用し、白血球細胞(WBC)、リンパ球(LYM)、好中球(NEU)および血小板(PLC)の含有量について血液試料を分析した。結果(
図12A〜
図12D)から、カルマンガホジピルの骨髄保護効果を試験するさらなる実験が125mg/kgのカルボプラチンで行われるべきであること、ならびにWBC、NEUおよびLYMの場合には、血液細胞試料分析がカルボプラチン投与の前日および3日後に行われるべきであり、PLCの場合には、血液細胞試料分析がカルボプラチン投与の前日および6日後に行われるべきであることを結論づけた。カルボプラチン(125mg/kg)投与の30分前および24時間後に、マウスは、生理食塩水またはカルマンガホジピル(1mg/kg、3mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kg;ロット#11AK0105B)を受けた。対照群は、カルボプラチンの代わりにビヒクル(生理食塩水)および生理食塩水を受けた。結果を、様々な処置(平均±S.E.M.)についてベースラインからの相対的変化としてグラフにおいて提示する。処置群間の統計的差異を、必要に応じて、対応のないスチューデントt検定によって試験した。0.05より低いp値を統計的に有意な差異とみなした。
【0099】
結果
結果を
図13A〜
図13Dにおいて説明する。カルボプラチン(125mg/kg)は、WBCにおいて、ならびにNEUおよびLYMにおいておよそ50%の減少を引き起こした。3mg/kgの用量でカルマンガホジピルを用いる処置は、これらの減少を無効にした。カルマンガホジピルの用量-応答は、CDマウスにおけるドキソルビシンからのその心保護的効果に関して、マンガホジピルについてすでに記載されているのと同様のやり方で、各場合において鐘形状の外観を呈していた(Kurzら、Transl Oncol 2012; 5:252〜259)。
【0100】
血小板に関して(PLC、
図12Dおよび
図13D)、WBC、LYMおよびNEUとの比較において、それらはカルボプラチンに対する感度が異なる。
【0101】
結論
カルマンガホジピルは、抗癌薬カルボプラチンの骨髄抑制効果からbalb/cマウスを顕著に保護する。
【実施例10】
【0102】
この実施例は、カルマンガホジピルの存在下および非存在下で大腸癌(CT26)保有免疫コンピテントなbalb/cマウスおよび免疫欠損のヌードbalb/cマウス(nu/nu)におけるオキサリプラチンの抗腫瘍活性を比較する。
【0103】
方法
CT26細胞を、5%のC0
2を有する加湿空気中で37℃にて、10%のウシ胎仔血清、2mMのL-グルタミン、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含有するRPMI 1640培地中にて75cm
2の培養フラスコ内で成長させた。細胞が約50%の集密度に達した時に、それらをトリプシン処理によって収集した。簡潔には、細胞をPBS (pH7.3)で洗浄し、約5分間37℃で0.05%のトリプシン/0.53mMのEDTAに曝露した。RPMI 1640培養培地を添加することによってトリプシン処理を止めた。細胞をカウントし、5分間200xgで遠心分離した。その後、それらをPBS中で洗浄し、再び遠心分離し、マウスへの注射用に2×10
6/350μlの濃度でPBS中に再懸濁した。年齢6週から8週の間の免疫コンピテントなbalb/c雌性マウス(balb/c)および免疫非コンピテントなヌード雌性balb/cマウス(blab/c nu/nu)を、Laurentら、2005によって記載されている通りに使用した。簡潔には、各マウスに、0日目で2×10
6個のCT26細胞を頸部の後部に皮下注射した。腫瘍が検出可能である7日後(7日目)に、腫瘍サイズを測径器で決定し、腫瘍のサイズが群によって統計的に異なることがないようにマウスをグループ化した(各群において5匹)。マウスの群(
図14に例示されている通り、各群において5匹)に、10mg/kgオキサリプラチン(5%グルコース中に希釈した)または5%グルコースのi.p.投与より30分前に生理食塩水または5mg/kgカルマンガホジピル(ロット#11AK0105B)を静脈内注射した。マウスは、加えて、24時間後(8日目)に生理食塩水または5mg/kgのカルマンガホジピルを受けた。マウスを10日目に堵殺し、腫瘍を切除し、湿重量を決定した。結果を様々な処置(平均±S.E.M.)についてグラフにおいて提示する。処置群間の統計的差異は、必要に応じて、対応のないスチューデントt検定によって試験した。0.05より低いp値を統計的に有意な差異とみなした。
【0104】
結果
結果を
図14において説明する。腫瘍は、免疫コンピテントなbalb/c nu/nuマウスよりも免疫欠損のbalb/cマウスにおけるほうが、より大きく成長するという明らかな傾向があったが、この差異は統計的有意性(p=0.0870)に達しなかった。10mg/kgのオキサリプラチンを用いる単回処置は、免疫コンピテントなマウスおよび免疫欠損のbalb/cマウスにおける腫瘍重量において、統計的に非有意な20%から30%の低減をもたらした。5mg/kgのカルマンガホジピルを用いる処置は、免疫コンピテントなマウスまたは免疫非コンピテントなマウスのいずれにおいてもオキサリプラチンの抗腫瘍効果に対して任意の負の影響を及ぼさなかった。平均腫瘍重量は、実際に、対照と比較して、5mg/kgのカルマンガホジピルで処置された免疫コンピテントなマウスにおいて統計的に有意に低減された。しかし、こうした低減は、免疫欠損のマウスにおいて見られなかった。
【0105】
結論
カルマンガホジピルは、免疫コンピテントなマウスまたは免疫欠損のマウスのいずれにおいてもオキサリプラチンの抗腫瘍活性に対して負に干渉しなかったが、カルマンガホジピルが抗腫瘍効果を実際に増加させたのは、免疫コンピテントなマウスだけであった。
【実施例11】
【0106】
ヒト非小細胞肺癌(NSCLC) U1810細胞およびマウス非小細胞肺癌(LLCl)に対するカルマンガホジピルの細胞毒活性を、マンガホジピルのものと比較した。
【0107】
方法
MTTアッセイを使用して細胞の生存率を測定した。簡潔には、96ウェルプレート上に1ウェル当たり8,000個のヒトU1810 NSCLCまたはLLCl NSCLC細胞を播種し、5%のC0
2を有する加湿空気中で37℃にて、10%のウシ胎仔血清、2mMのL-グルタミン、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含有するRPMI (Roswell Park Memorial Institute) 1640培地中で終夜成長させた。細胞を次いで、1〜1,000μMのカルマンガホジピル(ロット#11AK0105B)またはマンガホジピル(ロット#02090106)に、48時間の間曝露した。細胞の生存率を次いで、5mg/mlのメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)を0.5mg/mlの最終濃度まで添加すること、および細胞をさらに4時間37℃でインキュベートすることによって判定した。生細胞のミトコンドリア脱水素酵素によって形成される青色のホルマザンを次いで、10%のSDSおよび10mMのHC1を、5%のSDSおよび5mMのHC1の最終濃度まで添加することによって、37℃にて終夜溶解させた。最終的に、溶液の吸光度を、プログラムSoftmax Pro V1.2.0 (Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)を作動するApple Macintoshコンピューターに接続されたマイクロプレートリーダーSpectramax 340 (Molecular Devices, Sunnyvale, CA, USA)において、670nmの基準を用いて570nmで読み取った。カルマンガホジピルまたはマンガホジピルの増加する濃度の存在下でのU1810またはLLC1細胞の生存率を、濃度応答曲線(平均±S.D.)として提示する。個々の曲線を、S字形可変傾斜応答ロジスティック式(Graphpad Prism、バージョン5.02)にフィットさせた。この分析から、試験物質の50%阻害(IC
50)を引き起こす濃度を算出した。
【0108】
結果
NSCLC U1810およびLLC1細胞に対するカルマンガホジピルおよびマンガホジピルの細胞毒活性を、
図15Aおよび
図15Bに示す。マンガホジピルとカルマンガホジピルとの間の算出したIC
50比(0.0006329/0.00002274)は、カルマンガホジピルがU1810細胞を死滅させるのにマンガホジピルより約28倍強力であることを示した(
図15A)。カルマンガホジピルはLLC1細胞を死滅させるのにマンガホジピルより有意に強力であったが、マンガホジピル曲線の(
図15B)不明瞭な外観により、マンガホジピルとカルマンガホジピルとの間のIC
50比を算出するのは有意義でなかった。
【0109】
結論
結果は、非小細胞肺癌細胞、U1810およびLLC1を死滅させるのに、マンガホジピルとの比較においてカルマンガホジピルの優れた効力を実証している。
【0110】
本明細書において説明されている実施例および具体的な実施形態は、本来例示的なものだけであり、以下の請求項によって定義されている本発明の範囲を限定するものと取られるべきでない。本発明の追加の具体的な実施形態および利点は本開示から明らかであり、請求されている発明の範囲内である。