(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131281
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】アンモニアガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20170508BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20170508BHJP
B01J 27/13 20060101ALI20170508BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20170508BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
B01J23/89 AZAB
B01J23/44 A
B01J27/13 A
B01J35/04 331A
B01D53/86 228
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-40589(P2015-40589)
(22)【出願日】2015年3月2日
(62)【分割の表示】特願2012-92001(P2012-92001)の分割
【原出願日】2010年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-134353(P2015-134353A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年3月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507342478
【氏名又は名称】株式会社 ナノ・キューブ・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 正志
(72)【発明者】
【氏名】中▲崎▼ 義晃
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/106519(WO,A1)
【文献】
特開2005−254194(JP,A)
【文献】
特開平08−150336(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/075311(WO,A1)
【文献】
特開平09−271637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/73
B01D 53/86−90
B01D 53/94−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元的に交差、合流もしくは分岐する多数の微細流路を有する基材と、基材の表面に担持される酸化アルミニウム(Al2O3)と、前記酸化アルミニウム(Al2O3)に保持されるPt−CuO又はPdである触媒成分と、を備えるアンモニアガス浄化用触媒を用いてアンモニアガスを酸化させる工程を含む、アンモニアガス浄化方法。
【請求項2】
三次元的に交差、合流もしくは分岐する多数の微細流路を有する基材と、基材の表面に担持される多孔質物質と、多孔質物質に保持されるPt−CuO−Clである触媒成分と、を備えるアンモニアガス浄化用触媒を用いてアンモニアガスを酸化させる工程を含む、アンモニアガス浄化方法。
【請求項3】
前記微細流路の孔径が30μm〜500μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載のアンモニアガス浄化方法。
【請求項4】
前記多孔質物質は、酸化アルミニウム(Al2O3)であることを特徴とする、請求項2に記載のアンモニアガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所などから排出される排ガスには、環境汚染の原因となるアンモニアガスが含まれている。そこで、従来より、アンモニアガスを浄化するための装置の開発が行われており、アンモニア浄化用触媒を用いた装置(例えば、
図16の「アンモニアガス処理装置16」参照)が知られている。
【0003】
これらの装置に用いられるアンモニアガス浄化用触媒(例えば、
図17の「触媒層17」参照)は、一般的に、基材と、基材の表面に担持される多孔質物質と、多孔質物質に保持される触媒成分と、を備えており、その触媒作用によってアンモニアガスを浄化する性能を有する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−105787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アンモニアガスは、反応式(1)に示す通り、酸素と反応して浄化される。
4NH
3+3O
2→2N
2+6H
2O・・・反応式(1)
しかしながら、従来のアンモニアガス浄化用触媒では、触媒性能の限界から、高いNH
3転換率を得ることが困難であり、アンモニアガスを十分に浄化することができなかった。
また、反応式(1)に示される反応においては、副生成物として、N
2O、NOxなどが生成してしまう。これらの副生成物は、高温下でその生成量が増加する傾向にあり、しかも、反応式(1)に示される反応は、発熱反応である。そのため、従来のアンモニアガス浄化用触媒では、高いN
2選択率(すなわち、低いN
2O選択率、低いNOx選択率)を得ることが困難であり、副生成物の生成量を十分に抑制することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、優れたアンモニアガスの浄化性能を有し、副生成物の生成量を十分に抑制することが可能なアンモニアガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、基材と、基材の表面に担持される多孔質物質と、多孔質物質に保持される触媒成分と、を備えたアンモニアガス浄化用触媒であって、前記基材は、三次元的に交差、合流もしくは分岐する多数の微細流路を有するものであり、且つ、前記触媒成分は、Pt−CuO又はPdであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、基材と、基材の表面に担持される多孔質物質と、多孔質物質に保持される触媒成分と、を備えたアンモニアガス浄化用触媒であって、前記基材は、三次元的に交差、合流もしくは分岐する多数の微細流路を有するものであり、且つ、前記触媒成分は、Pt−CuO−Clであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明において、前記微細流路の孔径が30μm〜500μmであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明において、前記多孔質物質は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたアンモニアガスの浄化性能を有し、副生成物の生成量を十分に抑制することが可能なアンモニアガス浄化用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るアンモニアガス浄化用触媒を示す図である。
【
図2】実施例1において、Pt−CuO−Al
2O
3触媒についてのNH
3転換率及びN
2選択率を示すグラフである。
【
図3】実施例1において、Pd−Al
2O
3触媒についてのNH
3転換率及びN
2選択率を示すグラフである。
【
図6】実施例4におけるNH
3転換率を示すグラフである。
【
図7】実施例4におけるN
2O選択率及びNOx選択率を示すグラフである。
【
図8】実施例5におけるNH
3転換率を示すグラフである。
【
図9】実施例5におけるN
2O選択率及びNOx選択率を示すグラフである。
【
図10】実施例6におけるN
2O選択率を示すグラフである。
【
図11】実施例6におけるNOx選択率を示すグラフである。
【
図12】実施例7におけるNH
3転換率及びN
2選択率を示すグラフである。
【
図13】実施例7におけるN
2O選択率及びNOx選択率を示すグラフである。
【
図14】実施例8におけるNH
3転換率及びN
2選択率を示すグラフである。
【
図15】実施例8におけるN
2O選択率及びNOx選択率を示すグラフである。
【
図16】火力発電所におけるアンモニアガスの処理状況を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
===アンモニアガス浄化用触媒の基本構成について===
まず、本発明の実施形態に係るアンモニアガス浄化用触媒の基本構成について説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明の実施形態に係るアンモニアガス浄化用触媒を説明するための概略図、
図1(b)は、基材(SUS)の拡大図である。
図1(a)に示すアンモニアガス浄化用触媒は、基材(SUS)と、基材(SUS)の表面に担持される多孔質物質(同図の場合には、酸化アルミニウム(Al
2O
3))と、多孔質物質に保持される触媒成分(Pt−CuO又はPd)と、を備えている。
【0016】
図1(b)に示すように、基材(SUS)は、いわゆるマイクロ空間を有するマイクロ・パーティション構造を有し、三次元的に交差、合流もしくは分岐する多数の微細流路を有するものである(例えば、特開2005−264199号公報、特開2005−254194号公報、特開2005−253799号公報、特開2005−307944号公報など参照)。微細流路の孔径は、30μm〜500μmが望ましい。
【0017】
以下の実施例では、アンモニアガス浄化用触媒の一例として、株式会社ナノ・キューブ・ジャパンから提供されたマイクロ・フィン担持触媒を用いた。なお、マイクロ・フィンの直径はすべて14.8mmである。
【0018】
===アンモニアガス浄化用触媒の性能について===
次に、アンモニアガス浄化用触媒の性能について説明する。
【0019】
本発明者らは、アンモニアガスを浄化する際に、本発明の実施形態に係るアンモニアガス浄化用触媒を用いた場合には、高いNH
3転換率を得ることが可能であって、優れたアンモニアガスの浄化性能が得られるとともに、高いN
2選択率(すなわち、低いN
2O選択率、低いNOx選択率)を得ることも可能であって、副生成物の生成量を十分に抑制することができると考えた。そこで、本発明者らは、このようなアンモニアガス浄化用触媒の性能を確認するために、各種の条件下において触媒性能試験を行った。
図2〜
図15に触媒性能試験の結果を示す。これらの触媒性能試験では、高濃度(8,000ppm以上)且つ高SV(2,000以上)のアンモニアガスを用いた。
【0020】
そして、
図2及び
図4〜
図11における触媒性能試験では、アンモニアガス浄化用触媒として、
図1(b)に示した基材(SUS)と、基材(SUS)の表面に担持される酸化アルミニウム(Al
2O
3)と、酸化アルミニウム(Al
2O
3)に保持されるPt−CuOと、を備えたもの(以下「Pt−CuO−Al
2O
3触媒」という。)を用いた。
【0021】
また、
図3及び
図12〜
図15における触媒性能試験では、アンモニアガス浄化用触媒として、
図1(b)に示した基材(SUS)と、基材(SUS)の表面に担持される酸化アルミニウム(Al
2O
3)と、酸化アルミニウム(Al
2O
3)に保持されるPdと、を備えたもの(以下「Pd−Al
2O
3触媒」という。)を用いた。
【0022】
<Pt−CuO−Al
2O
3触媒を用いた場合>
(実施例1)
実施例1では、Pt−CuO−Al
2O
3触媒及びPd−Al
2O
3触媒について、酸素濃度を変化させた時の触媒活性を調べた。その結果を
図2及び
図3に示す。なお、実施例1は、SVが7000h
-1、NH
3濃度が7.8%の試験条件で行った。
図2及び
図3に示すように、Pt−CuO−Al
2O
3触媒を用いた場合及びPd−Al
2O
3触媒を用いた場合には、いずれの場合にも、アンモニアガスが高濃度且つ大流量(高SV)であるにも関わらず、NH
3転換率が高く、しかも、N
2選択率が高くなった。また、酸素濃度が高いほど、NH
3転換率が高くなったが、N
2選択率が低くなった。
【0023】
(実施例2)
実施例2では、触媒成分量の影響、すなわちCuO担持量を変化させて触媒活性に及ぼす影響を調べた。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、CuOの担持量が増加するほど、Pt上でのNH
3の過剰な酸化が抑制されることとなった。
【0024】
(実施例3)
実施例3では、触媒成分量の影響、すなわちPt担持量を変化させて触媒活性に及ぼす影響を調べた。その結果を
図5に示す。
図5に示すように、Ptの担持量が増加するほど、Pt上でのNH
3の過剰な酸化が増加した。また、Ptの担持量が0.1g/lの触媒においては、T
100が高くなり、副生成物であるN
2O及びNOxの生成量が多くなった。
【0025】
(実施例4)
実施例4では、触媒成分源の変化が触媒活性に及ぼす影響を調べた。その結果を
図6及び
図7に示す。
図6及び
図7に示すように、塩化白金酸水溶液(H
2PtCl
5・4H
2O)を含浸担持させたPt1−CuO10−Clは、塩化白金酸水溶液を含浸担持させていないPt1−CuO10よりも、NH
3転換率が高くなるとともに、N
2O選択率及びNOx選択率は低くなり、高い活性を示した。
【0026】
(実施例5)
実施例5では、マイクロ・フィン担持触媒の白金酸化物が触媒活性に及ぼす影響を調べた。その結果を
図8及び
図9に示す。
図8及び
図9に示すように、Pt0.1−CuO10−Cl−H触媒では、高いNH
3転換率(ほぼ100%)が得られるとともに、低いN
2O選択率(約4%)及び低いNOx選択率(ほぼ無視し得る程度に低い値)が得られており、極めて高い活性を示した。
【0027】
(実施例6)
実施例6では、マイクロ・フィン担持触媒の活性と、ハニカム触媒の活性とを比較した。その結果を
図10及び
図11に示す。
図10及び
図11に示すように、Pt−CuO−Al
2O
3触媒(Pt:1g/l、CuO:10g/l、触媒長さ25mm)は、ハニカム触媒よりも、N
2O選択率及びNOx選択率が低くなり、高い活性を示した。
【0028】
<Pd−Al
2O
3触媒を用いた場合>
(実施例7)
実施例7では、Pd−Al
2O
3触媒について酸素濃度を変化させた時の触媒活性を調べた。その結果を
図12及び
図13に示す。
図12及び
図13に示すように、Pd−Al
2O
3触媒は、Pt−CuO−Al
2O
3触媒よりも、NH
3転換率は高いが、N
2O選択率及びNOx選択率はいずれも低くなった。酸素濃度の変化がPd−Al
2O
3触媒に及ぼす影響は、Pt−CuO−Al
2O
3触媒の場合とほぼ同様であった。
【0029】
(実施例8)
実施例8では、Pd−Al
2O
3触媒について空間速度を変化させた時の触媒活性を調べた。その結果を
図14及び
図15に示す。
図14及び
図15に示すように、Pd−Al
2O
3触媒は、Pt−CuO−Al
2O
3触媒よりも、高い触媒活性を保っており、SVによるN
2選択率への影響は、ほとんど認められなかった。このことは、Pd−Al
2O
3触媒が高活性であり、触媒層上端部で反応が完結していることを示唆している。Pd−Al
2O
3触媒は、Pt−CuO−Al
2O
3触媒よりも、NH
3転換率は高いが、N
2選択率は低かった。