(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
信頼性の高い通信のコストを低減するための通信媒体として電力線の利用に非常に関心が高まっている。これは一般に電力線通信(PLC)と呼ばれる。PRIME(Power line-Related Intelligent Metering Evolution)など、PLCの規格化の取り組みがなされてきている。殆どのPLC規格において、通信は3つの位相でサポートされる必要がある。これは、多くの国において3相伝送が電力線の特性であるためである。しかし、これらの位相間のカップリングのため、それぞれの位相で受信した信号は完全には独立していない。例えば、位相2の信号は、位相1の信号に対する干渉として作用し得る。この干渉を取り除くことが必要である。また、電力線伝送位相の各々は、トランスミッタからレシーバへの独立した経路として作用し得る。これらの独立した経路は、受信信号の品質を向上させるために用いられ得る。
【0003】
図13は、サブステーション1301を住居1302a〜nに接続する、典型的な電気的配電システムを図示する。サブステーション1301からの中電圧(MV)電力線1303は数十キロボルトの範囲の電圧を搬送する。変圧器1304が、このMV電力を100〜240Vの範囲のAC電圧を搬送するLV線1305上の低電圧(LV)電力まで降圧する。変圧器1304は、50〜60Hzの範囲の非常に低い周波数で動作するように設計されるのが典型的である。変圧器1304は、100KHzより高い信号などの高周波数は、LV線1305とMV線1303の間に通さない。LV線1305は、典型的に住居1302a〜nの外側に搭載される、メーター1306a〜nを介して顧客に電力を供給する。パネル1307などのブレーカー・パネルが、メーター1306nと住居1302n内の電気配線1308との間のインタフェースを提供する。電気的配線1308は、アウトレット1310、スイッチ1311、及び住居1302n内の他の電気的デバイスに電力を届ける。
【0004】
図13に示す電力線トポロジーは、高速通信を住居1302a〜nに届けるために用いられ得る。電力線通信モデム1312a〜nが、メーター1306a〜nでLV電力線1305に結合され得る。PLCモデム1312a〜nは、MV/LV線1303、1305を介してデータ信号を送信及び受信するために用いられる。このようなデータ信号は、通信システム、高速インターネット、電話通信、テレビ会議、映像配信、及び同様のサービスをサポートするために用いられ得る。テレコミュニケーション及びデータ信号を電力伝送ネットワークを介して搬送することにより、各利用者1302a〜nへの新たなケーブルを設置する必要がなくなる。このため、既存の配電システムを用いてデータ信号を搬送することにより、著しいコスト削減が可能となる。電力線を介してデータを搬送するための1つの方法は、電力信号の周波数とは異なる周波数を有するキャリア信号を用いる。このキャリア信号は、搬送されるべきデータによって変調される。代替として、これらのデータ信号を送信及び受信するために、PLCモデム1313が家庭用の電気配線1308を介してMV/LV電力線に結合されてもよい。
【0005】
住居1302a〜nのPLCモデム1312a〜nは、付加的な配線を必要とすることなくコンセントレータ1314からの及びコンセントレータ1314へのデータ信号を搬送するためMV/LV電力網(power grid)を用いる。コンセントレータ1314は、MV線1303又はLV線1305のいずれかに結合され得る。モデム1312a〜nは、高速ブロードバンド・インターネット・リンク、ナローバンド制御アプリケーション、及び低帯域幅データ収集アプリケーションなどのアプリケーションをサポートし得る。一般家庭環境において、モデム1312a〜nは、冷暖房及び空調、照明、及びセキュリティのホーム・ビル・オートメーションを可能にし得る。一般家庭用以外では、電力線通信ネットワークは、街灯制御及び遠隔電力メーターデータ収集を提供する。
【0006】
電力線ネットワークを通信媒体として用いることに関する問題点は、これらの電力線がノイズや干渉を受け易いことである。電力線ケーブルは、例えば、放送無線信号からの及びこれらの電力線に結合された電気的装置からのノイズの影響を受け易い。ノイズは、これらの電力線に沿って伝播して通信信号と組み合わさり、その通信信号を損傷させ得る。電力線ネットワークを用いることに関する他の問題点は、ケーブルの構造によって生じる。MV及びLV電力線では、ケーブルの内部に一群の位相線を含み、各々が前記3つの供給位相のうちの1つを搬送する。無線周波数で、これらの個別の線間の静電容量は、1つの線上の信号をリークさせるか又は隣り合う線にカップリングさせる。位相線間のこのカップリングプロセスは、位相シフトや他の干渉を発生させ得る。従って、これらの線に沿った伝搬の後の各線上の通信信号の構成要素は、もはや互いに同相ではなく、異なる位相及び振幅となる。このようなカップリング及び干渉は、受信装置に関連する問題を生じ、この受信装置は、変更された受信信号を復号し、元の信号を再構築するよう試みる必要がある。
【0007】
米国特許番号第6373377号は、電力線ネットワーキングのためのデジタルデータカップリング機能を備えた電源に関連する。本文献の電源は、コンピュータシステム内にあり、デジタル・カプラーによってネットワーク・インターフェース・カードに結合される。或る回路ブロックが、前記デジタル・カプラーからのデジタル信号をアナログ信号に変換する。アナログ・フロントエンドが、電力線への伝送のため前記アナログ信号を増幅する。米国特許番号第6373377号の電源は、電力線の異なる位相へデータ信号を分配する前に前記データ信号をスケーリング(scale)又は重み付けしない。
【0008】
米国特許番号第6983027号は、OFDM信号を受信するように適合された受信装置に関連する。信号は、アンテナで受信され、中間周波数帯域信号に変換され、これがその後、デジタル信号に変換される。情報は前記デジタル信号内で検出される。差動検出回路の出力から信号対雑音比(SNR)が生成される。このSNRは前記OFDM信号の受信品質を示す。米国特許番号第6983027号の受信装置は、電力線の異なる位相へデータ信号を分配する前に前記データ信号をスケーリング又は重み付けしない。
【0009】
米国特許番号第7027483号は、電力線を介する超広帯域通信のためのシステムに関連する。本文献は、超広帯域信号を用いた電力線を介するデータ伝送を、直交周波数分割多重(OFDM)を用いる伝送と比較している。OFDMシステムをチャネル特性に適合させることは、非常に複雑で費用がかかることに注意されたい。その代わりに、本文献は、電力線伝送のために最適化された、伝送電力、パルス包絡線形状、及びパルス繰り返し周波数を備えた超広帯域信号を用いることを提案している。米国特許番号第7027483号の超広帯域システムは、データ信号を前記電力線の異なる位相へ分配する前に前記データ信号をスケーリング又は重み付けしない。
【0010】
米国特許公開番号第2009/0060060号は、OFDM変調された信号を、電力線ネットワークを介してトランスミッタからレシーバへ伝送することに関連する。単一の信号がMIMO(multiple input multiple output)モードでの伝送のため変調される。このシステムは、家庭用の電気システムの2つのチャネル又は2本の配線のみで信号を伝送することが可能である。単一のレシーバが、3本の配線及び同相(common mode)経路を含む4つのチャネルを介してMIMO伝送を受信する。米国特許公開番号第2009/0060060号の伝送システムは、電力線の異なる位相へデータ信号を分配する前に1つ又はそれ以上のデータ信号を同時にスケーリング又は重み付けしない。本文献は、PLCモデムによって用いられる位相を識別することを開示していない。
【0011】
米国特許公開番号第2010/0054314号は、OFDM伝送のためのモデムの初期化に関連する。OFDMシンボルのガード・インターバル又はサイクリック・プレフィックスの長さ又は期間が各モデムスタートアップ時に新たに選択される。このモデムは、既定の線形周波数変調(LFM)掃引信号又はチャネル上のすべての周波数をカバーする擬似雑音信号を受信する。このチャネルのための伝達関数は、前記受信信号から推定される。前記推定された伝達関数に基づいて入力フィルタが合成される。前記ガード・インターバルの多数のサンプルが前記通信チャネル上のインパルス応答に基づいて選択される。米国特許公開番号第2010/0054314号のモデム初期化手法は、電力線の異なる位相へデータ信号を分配する前に1つ又はそれ以上のデータ信号を同時にスケーリング又は重み付けしない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は多くの異なる形式で具体化され得、本明細書に説明の目的で示す例示の実施例に限定されると解釈されるべきではない。
【0030】
一般に、電力線伝送システムは、電力線ネットワークの一つ又はそれ以上の位相に接続されるトランスミッタ及びレシーバを含む。
図1は、電力線ネットワーク103の3つの位相11〜13に接続されるトランスミッタ101及びレシーバ102を図示する。3つの個別の信号s
1〜s
3は異なる位相11〜13で送信され、各信号は、他の位相上の信号とカップリング及び/又は干渉し得る。その結果、レシーバ102は、電力線ネットワーク103の11〜13の各位相で前記送信された信号s
1〜s
3の異なる組み合わせを受信する。従って、各受信信号r
1〜r
3は、同一の位相で送信された前記元の信号s
1〜s
3に直接対応していない。このようなシステムは、トランスミッタ101とレシーバ102との間のMIMO(multiple input multiple output)チャネルとしてモデル化することができる。
【0031】
図2は、単一の信号sが、前記トランスミッタ20によって電力線ネットワーク203のすべての利用可能な位相21〜23に結合される、電力線通信システム200を図示する。トランスミッタ処理及び信号生成ブロック204はデータストリームsを生成し、これは、カプラー205を介して各位相に結合される。レシーバ202で、前記位相のすべてから受信した信号r
1〜r
3は、ブロック207におけるレシーバ処理の前に、コンバイナー206で組み合わされる。
図2に示したもののようなシステムは、実際の電力線ネットワークにおける位相間のカップリングの変化の度合いを考慮していない。前記受信信号r
1〜r
3は、各々、同一の位相で送信された元の信号s
1〜s
3に直接対応していない。むしろ、受信信号r
1〜r
3は、各々、位相間カップリング及び干渉により変更された、元の信号に対応している。前記伝送システムは、前記送信された信号を前記電力線ネットワーク203の実際の状態に基づいて変更する。
【0032】
システム200内の伝送チャネルは次のようにモデル化され得る。
【数1】
(表記上の問題から明細書の文中では、上にバーが付されている文字は、文字の後に(上バー)として記す。)
ここで、ベクトルs(上バー)=[s
1 s
2 s
3]
T及びr(上バー)=[r
1 r
2 r
3]
Tは、それぞれ前記送信及び受信信号を表し、行列
【数2】
は、前記トランスミッタのj番目の位相と前記レシーバのi番目の位相との間のカップリング係数a
ijで構成される。変数n
iは前記i番目の位相のノイズである。上述のチャネルモデル化において、符号間干渉(ISI)は無視できるレベルであるが、本明細書に開示する発明は、チャネル間のISIが存在する電力線ネットワーク伝送の場合にも適用され得る。
【0033】
数式1で示した前記チャネルモデルは、電力線伝送ネットワークに対する種々のエンハンスメントを判定するために用いることができる。これらのエンハンスメントは、前記チャネル(即ち、前記3つの個別の位相の各々)に多重化される独立した送信データストリームの数、及びこれらのストリームが前記トランスミッタでミキシングされる及び前記レシーバで処理される方式に従って分類され得る。
【0034】
本明細書においてビーム・フォーミングと呼ぶ、本発明の一実施例において、単一のデータストリームが前記電力線ネットワークのすべての3相を用いて送信される。ビーム・フォーミングは、前記トランスミッタ又は前記レシーバのいずれかで実行され得る。一実施例において、前記異なる位相に前記信号を分配するために前記トランスミッタ及び/又はレシーバで適切な重み行列が用いられる。
【0035】
図3は、トランスミッタ301及びレシーバ302の両方にビーム・フォーミングを備えた通信システム300を図示する。送信信号プロセッサ304は、シンボル・ストリーム{x}を生成する。各位相31〜33に適用された送信信号は、ミキサー305において対応する重みu
iでスケーリングされる。電力線ネットワーク303を介して送信されるとき、信号s(上バー)は、次のように表され得る。
【数3】
【0036】
重みベクトルu(上バー)=[u
1 u
2 u
3]
Tは、(上記数式2に示す)行列A(上バー)からのカップリング情報を用いて適切に設計され得る。例示の一実施例において、前記行列u(上バー)は、A(上バー)のドミナント左特異ベクトルとなるよう選択される。代替として、行列u(上バー)が既定のコードブック内の最近ベクトルとして選択される。ベクトルu(上バー)は、前記u(上バー)ベクトルのコードブック・インデックス値など、前記レシーバによって用いられるべき好ましいu(上バー)ベクトルを識別する明示的フィードバックに基づくか、或いは前記レシーバ又は前記送信と受信チャネルの間の相互関係(reciprocity)からのフィードバックを用いることによるなど、前記トランスミッタ301によって得られるチャネル推定によるか、のいずれかで選択され得る。
【0037】
図3は受信ビーム・フォーミングも図示する。前記受信信号r
1〜r
3は、
図2のシステム200のような、先行技術のシステムで成されるように、コンバイナー306で組み合わされる。しかし、システム300では、まず、ミキサー307において、重みベクトルv(上バー)=[v
1 v
2 v
3]
Tを用いて前記受信信号r
1〜r
3により重み付き統合(weighted combination)が実行される。信号
【数4】
に、ブロック308のレシーバ処理が実行される。一実施例において、前記統合重みベクトルv(上バー)は、前記チャネル行列A(上バー)のドミナント右特異ベクトルとなるよう選択される。
【0038】
他の実施例において、前記重みベクトルu(上バー)及びv(上バー)は、何らかの適切な性能基準に基づいて選択され得る。例えば、一実施例において、前記重みベクトルu(上バー)は、最大受信信号対雑音比(SNR)を得るように選択することができ、ここで、前記受信したSNRは、次の式で求められる。
【数5】
【0039】
ここで、E
s=E|s|
2である。関連する一実施例において、前記ベクトルu(上バー)及びv(上バー)は、前記3つの位相でのノイズレベルの相関に基づいて選択されてもよい。
【0040】
送信電力制御については、u(上バー)のノルム(norm)を固定することができる。u(上バー)を設計するための一つの実行可能な方法は、u(上バー)は、A(上バー)
HA(上バー)の最大固有値に関連する最大固有ベクトルとして選択することができることである。この場合、正確なカップリング係数がレシーバ302から前記トランスミッタ301へフィードバックされる必要がある。代替として、前記カップリング係数は、前記トランスミッタで「受信した」信号から推定してもよい。前記トランスミッタ・レシーバ・ターンアラウンド時間が短い場合、ある時間の前記トランスミッタは、次の時間期間で前記レシーバとして作用し得る。前記カップリング係数が前記トランスミッタと前記レシーバの間で対称的であると仮定すると、前記トランスミッタは、レシーバ302からの前記トランスミッタ301で「受信した」信号を用いて前記カップリング係数を推定し得る。量子化ベクトルが用いられる場合、u(上バー)は、ベクトル集合U={u
1(上バー), u
2(上バー),・・・,u
2B(上バー)}、即ち、u(上バー)∈Uから選択することができ、この場合、前記レシーバは、u(上バー)
iに基づいて性能を計算し、前記性能を最適化するインデックス値を送信する。例えば、u(上バー)
iの各々の受信SNRは、
【数6】
であり、前記レシーバは、前記受信SNRを最大化するインデックスを送信する。この例において、フィードバック・ビットの数はB個のビットである。
【0041】
ビーム・フォーミングに基づく実施例において、単一のデータストリーム{x}が前記レシーバに送信され、前記電力線ネットワーク303を介するSNRを改善するために前記ビーム・フォーミング重みが用いられる。別の実施例において、多数の並列ストリームがトランスミッタ301からレシーバ302へ送信され得る。これは、カップリング係数行列A(上バー)が高ランクを有し、つまり、前記異なる位相31〜33の前記信号間の相関又はカップリングが小さいことを示唆する場合、実施可能となり得る。
【0042】
本明細書において位相多重と呼ぶ、本発明の更なる実施例において、多数のデータストリームが、前記データストリームの各々が同時伝送のため前記電力線ネットワークのすべての3つの位相にわたって拡散する方式で送信される。
【0043】
図4はシステム400を図示し、このシステム400において、3つの独立したシンボル・ストリーム{x
1}、{x
2}、及び{x
3}がブロック404で生成され、プリコード行列U(上バー)405によって組み合わされて前記送信信号s
1〜s
3を得、それらがトランスミッタ401によって電力線ネットワーク403の3つの位相41〜43でレシーバ402へ送信される。レシーバ402は、前記チャネル行列A(上バー)と前記プリコード行列U(上バー)の積(A(上バー)・U(上バー))によって得られるx(上バー)とr(上バー)の間の有効(effective)チャネルを検出する。そのため、システム400の有効チャネルは、下記のようにとしてモデル化される。
【数7】
ここで、U(上バー)は3×3行列である。前記プリコード行列U(上バー)は下記のように選択され得る。
【0044】
1. {U(上バー)}の集合:一定の送信エネルギーを維持するため、U(上バー)のノルムは固定され得る。また、U(上バー)は、ユニタリー行列に制約されてもよい。更に別の実施例において、U(上バー)は、コードブックU={U
1,U
2, ・・・,U
2B}、即ち、U(上バー)∈Uに量子化されてもよい。
【0045】
2. 選択基準:すべての実行可能なUの集合が与えられたとすると、前記プリコード行列は、チャネル容量又はビット誤り率(BER)など、異なる性能基準を最適化するように選択され得る。前記カップリング係数の全てが既知である場合、U(上バー)は、A(上バー)の前記右特異行列として選択することができる。
【0046】
3.選択及び信号方式:前記チャネル・パラメータが前記トランスミッタに既知である場合、U(上バー)の選択は前記トランスミッタで成され得る。代替として、U(上バー)は、前記レシーバから明示的に又は暗示的にフィードバックされてもよい。このような一実施例において、レシーバ402は、各U(上バー)
iに基づいて何らかの性能を計算し、前記システムの性能を最適化するインデックスを送信する。この場合、フィードバック・ビットの数はB個のビットである。
【0047】
単位時間当たりに送信される独立したシンボルの数は、前記伝送システムのランクとして示される。このため、
図4に示すようなフル3相の位相多重はランク3を有し、
図3に示すようなビーム・フォーミングはランク1を有する。
【0048】
図5は、位相多重を含むランク2伝送の場合を図示し、この場合において、トランスミッタの出力及び信号生成ブロック504で、3つのシンボルのうち2つは同一であり、3つのシンボルのうち1つが異なる。例えば、x=x
1、x
2が同一であり、x
3はx=x
1、x
2とは異なる。
【0049】
x=x
1、x
2が同一であり、x
3が異なるとき、受信信号は下記のようにモデル化され得る。
【数8】
ここでU(上バー)は、3×2行列である。
【0050】
伝送のランクは固定されてもよく、送信されるべきデータストリームの数に従って適合されてもよい。このシステムは、例えば、レシーバ・フィードバック又はトランスミッタ推定の何れかに基づく前に、プリコード行列U(上バー)505を用いて適合され得る。プリコード・デバイス505における変更の後、信号s
1〜s
3は、トランスミッタ501によって電力線ネットワーク503内の3つの位相51〜53を介してレシーバ502へ送信される。受信信号r
1〜r
3はジョイント検出レシーバ502によって処理されて元の信号x=x
1、x
2及びx
3を抽出する。
【0051】
本発明の別の実施例は、送信ダイバーシティを提供する。前記ビーム・フォーミング/位相多重システムは、重み行列U(上バー)を用いて前記送信信号を整形する。前記重み行列U(上バー)を作るために用いられるカップリング係数は、前記レシーバからフィードバックされてもよく、前記トランスミッタで推定されてもよい。送信ダイバーシティは、前記トランスミッタでの前記カップリング係数の知識を必要としない電力線通信システムにおいて3相モードを利用する手法を提供する。前記送信ダイバーシティシステムは、現在時刻から送信された信号の「遅延された」コピーを後の時間期間に送信する。その後、前記レシーバは、位相の各々からコンストラクティブな方式で前記送信された信号をコヒーレントに組み合わせる。
図6は、一般的なダイバーシティ・ブロック図を示す。トランスミッタ601は、元のデータストリームs{x
1}、{x
2}、{x
3}から、例えば、プリコードを用いて、信号s
1〜s
3を生成する。前記プリコード行列は、単位行列であり得る。ダイバーシティ分配ブロック602は、時間Tに前記信号s
1〜s
3の第1のコピーを、時間2Tに前記信号s
1〜s
3の変更されたバージョンを送信する。ダイバーシティ・レシーバ603は、電力線ネットワーク604から時間T及び2Tに送信された信号を受信し、その後、それらを処理して元のデータストリームs{x
1}、{x
2}、{x
3}を抽出する。
【0052】
送信ダイバーシティの更に詳細な例を下記で説明する。
図7は、2位相モード・ダイバーシティ伝送のための例示のシステムを図示する。所定の時間t=Tに、信号S(上バー)
T=[s
1,s
2]
Tが、トランスミッタ701で電力線ネットワーク703の2位相電力線を通してレシーバ702へ送信される。時間t=2Tに、前記元の信号S(上バー)
Tがわずかに変更された信号S(上バー)
2T=[−s
*2,s
*1]
Tが前記トランスミッタ701でレシーバ702へ送信される。
図7の前記送信された信号は次のように表すことができる。
【数9】
ここで、前記行列のx方向はサンプリング時間を表し、y方向は前記信号が送信される位相を表す。前記レシーバで2位相受信であると仮定すると、前記2位相の配線から前記時間t=Tで受信した信号は、下記の数式により得られ、
【数10】
前記時間t=2Tで受信した信号は、下記の数式により得られる。
【数11】
【0053】
数式11は、カップリング係数は前記2T時間フレームでは頻繁には変化しないと仮定する。上述のチャネルモデルではISIはないと仮定したが、例えば、OFDM伝送を用いてシンボル間干渉を取り除くことによって、ISIにも適用することができる。
【0054】
前記時間フレームT及び2Tで受信した信号の適切な変更が成される場合、前記受信信号は下記数式で表される。
【数12】
【0055】
A(上バー)
H4x2で乗算することにより、下記の数式が導き出される。
【数13】
【0056】
前記受信信号にこの変更が成される場合、前記レシーバは復号を実行する。上述で分かるように、復号には、前記レシーバで前記カップリング係数を推定することが必須である。この方法の利点は、たとえ前記複数経路のうち1つの信号品質が悪い場合でも、その経路上の信号は、前記他の経路から回復され得ることである。従って、前記独立したカップリング情報は、前記トランスミッタでカップリング情報を有することなく前記信号を送信するために用いることができる。
図7に図示するように、数式9の正方行列S(上バー)は、レシーバ702への電力線ネットワーク703での伝送前に、ブロック704で前記信号を変更するために用いられ得る。
【0057】
3相モード伝送の場合、前記正方行列S(上バー)は、生成するのが一層困難である。前記3相ダイバーシティ伝送モードのための行列の一実施例は、
【数14】
であり、ここで、前記トランスミッタは時間t=Tに、S(上バー)
T=[s
1,s
2,s
3]
Tを送信し、前記トランスミッタは前記時間t=2Tに、S(上バー)
2T=[−s
2,s
1,s
4]
Tを送信する、といった具合である。信号s
1、s
2、s
3、及びs
4は独立した信号である。当業者であれば他の構成も可能であることが分かるだろう。
【0058】
3相ダイバーシティ伝送を実装するOFDMシステムの例示の実施例を
図8に示す。トランスミッタ801は、例えば、プリコードを用いて、元のデータストリームs{x
1}、{x
2}、{x
3}から信号s
i、s
j、s
kを生成する。S行列構成ブロック802は、前記S(上バー)行列から信号s
i、s
j、s
kを生成し、時間T及び2Tに前記適切な信号を送信する。前記信号は、ブロック803のシリアル−パラレル変換(S/P)、ブロック804の逆高速フーリエ変換(IFFT)処理、及びブロック805のサイクリック・プレフィックス(CP)付加などのOFDM送信処理にかけられる。前記信号はその後、電力線ネットワーク806の前記適切な位相で送信される。受信信号は、ブロック807での前記サイクリック・プレフィックスの除去、ブロック808の高速フーリエ変換(FFT)処理、ブロック809のデインターリビング及びビタビ復号などのOFDM復号、及びブロック810のパラレル−シリアル(P/S)変換など、更なるOFDM処理にかけられる。ダイバーシティ・レシーバ構成要素807〜810は、時間T及び2Tに送信された信号を受信し、それらを処理して元のデータストリーム{x
1}、{x
2}、{x
3}を抽出する。
【0059】
当業者であれば、本明細書に記載の前記電力線通信システムの前記構成要素は、前述のオペレーションの1つ以上を実行する、個別の回路又は個別の構成要素として、又は単一のデバイスとしてとして具体化されてもよいことが分かるであろう。例えば、一実施例において、本明細書に記載の前記トランスミッタ及びレシーバは、マイクロプロセッサ、中央処理装置(CPU)、集積回路(I/C)、又は特定用途向け集積回路(ASIC)として具体化され得る。ソフトウェア、ファームウェア、又は他の埋め込み命令(embedded instructions)は、前記トランスミッタ及びレシーバの前記オペレーションを制御し得、前記構成要素に本明細書に記載の前記機能を実行させ得る。このようなデバイスは更に、前記トランスミッタ処理及び信号生成、プリコード、レシーバ処理及び信号生成、電力線カップリング、信号組み合わせ、ダイバーシティ分配、S行列構成、S/P及びP/S変換、IFFT及びFFT処理、CP付加及び除去、OFDM復号、及び検出を実行し得る。
【0060】
図9は、本発明の一実施例に従って、トランスミッタ及び/又はレシーバ回路と前記3相電力線との間の接続を図示する。信号処理ユニット(SPU)901は、上述の前記実施例の前記トランスミッタ回路のように機能し得る。SPU901は、前記電力線ネットワークを介する伝送のため3つのプリコードされた信号s
1〜s
3を生成する。デジタル信号であり得る各出力信号s
1〜s
3は、個別のアナログ回路/ライン・ドライバ902A〜Cに供給される。アナログ回路/ライン・ドライバ902は、例えば、信号をSPU901から電力線903A〜Cへ結合するデジタル・アナログ変換回路、フィルタ、及びライン・ドライバを含む。変圧器904及びカップリング・コンデンサ905が、各アナログ回路/ライン・ドライバ902をそれぞれの電力線903に連結する。従って、
図9に示す実施例において、各出力信号は個別の専用電力線に独立して連結される。
【0061】
図10は、代替の実施例を図示し、この例では、SPU1001が単一のアナログ回路/ライン・ドライバ1002に結合され、これが、単一の変圧器1004により電力線1003A〜Cに結合される。前記出力信号は全てアナログ回路/ライン・ドライバ1002及び変圧器1004を介して送信される。スイッチ1006は、どの電力線1003A〜Cが特定の信号s
1〜s
3を受信するかを選択する。スイッチ1006はSPU1001によって制御され得る。代替として、スイッチ1006は、前記信号s
1〜s
3内のヘッダー又は他のデータなどの情報に基づいて、どの電力線1003A〜Cが特定の信号s
1〜s
3を受信すべきか判定してもよい。スイッチ1006は、アナログ回路/ライン・ドライバ1002及び変圧器1004を、前記選択された電力線1003A〜C及び関連するカップリング・コンデンサ1005に連結する。
【0062】
図11は、
図10に類似し、SPU1101は、単一のアナログ回路/ライン・ドライバ1102に結合される。しかし、
図11の実施例において、電力線1103A〜Cは各々、個別の変圧器1104及びカップリング・コンデンサ1105に結合される。アナログ回路/ライン・ドライバ1102は、スイッチ1106を介して各電力線1103用の前記変圧器1104に結合される。スイッチ1106は、どの変圧器1104、カップリング・コンデンサ1105、及び電力線1103A〜Cが特定の信号s
1〜s
3を受信するかを選択する。スイッチ1106はSPU1101によって制御されてもよく、又はスイッチ1106は、前記信号s
1〜s
3内のヘッダー又は他のデータなどの情報に基づいて、どの電力線1003A〜Cが特定の信号s
1〜s
3を受信すべきか判定してもよい。
【0063】
図12は、例示の実施例に従ったレシーバを図示する。信号y
1〜y
3がそれぞれ電力線1203A〜Cで受信される。一実施例において、前記受信信号の各々は、カップリング・コンデンサ1205、変圧器1204、及びアナログ回路/ライン・ドライバ1202を介して各信号の別々の検出及びレシーバ処理のためSPU1201へ個別に受け渡され得る。代替として、前記ビーム・フォーミングの場合、又は単一のデータストリームが全ての3つの位相にわたって拡散されるランク1伝送システムの場合、前記受信信号y
1〜y
3はサミングフィルタ1206に配信されて、サミングフィルタ1206が、前記受信信号の全てをレシーバ処理のためSPU1201に配信される1つの信号に組み合わされてもよい。
【0064】
再び
図13を参照すると、本明細書に開示したようなデータ信号のスケーリング又は重み付けは、前記電力線ネットワークの異なる位相を介して前記データ信号を交換するために、コンセントレータ1314及びモデム1312a〜n、1313によって用いられ得る。MV線1303及びLV線1305は、3相電気電力線であってよい。従って、コンセントレータ1314は、単一のデータ信号を前記位相の一つ又はそれ以上にわたって分配してもよく、又は多数のデータ信号を複数の位相にわたって拡散してもよい。モデム1312a〜n、1313は、コンセントレータ1314からのデータ信号を受信及び復号し、更に、信号をコンセントレータ1314に送信し得る。一実施例において、コンセントレータ1314は、データ信号を前記MV又はLV電力線1303、1305上で2つ又はそれ以上の位相にわたって拡散し、モデム1312a〜n、1313は単一の位相で前記信号を受信する。
【0065】
図14は、一実施例に従った電力線通信のためのモデム1400を図示する。モデム1400は、電力線インタフェース1404内のカップリング・コンデンサ1402及び変圧器1403を介し、直接又は電気メーターを介して、LV電力線1401に結合される。モデム・フロントエンド1405は、送信及び受信増幅器、フィルタ、及び他のインタフェース回路を含む。変調された信号は、フロントエンド1405の前記レシーバ段に入り、アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)1406でデジタル形式に変換され、その後、モデム・チップセット1407で処理される。マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC)、又は他の集積回路であり得るモデム・チップセット1407は、モデム1400のオペレーションを制御し、本明細書に記載の信号処理ユニット(SPU)として前記送信及び受信信号を処理する。チップセット1407が伝送のため信号を送信するとき、前記デジタル信号は、パルス幅変調器(PWM)1408で変調され、その後、前記電力線1401を介する伝送のためフロントエンド1405へ送信される。モデム1400は、無線インタフェース1409又は有線インタフェース1410を介して、コンピュータ、電話、又はテレビなどの外部デバイスへのインタフェースを提供し得る。チップセット1407は、前記外部デバイスと前記電力線との間のモデム1400を介してデータ信号の交換を制御する。
【0066】
モデム1400は、電力線1401に結合されるゼロクロス検出器(ZCD)1411を含んでいてもよい。一実施例において、ZCD1411は、受信したAC信号がゼロ電圧を交差するとき(時間)など、受信信号の位相を検出し、ZCD1411は、電力線1401の位相を識別し、位相情報をチップセット1407に提供する。一実施例において、モデム・チップセット1407は、前記位相情報を含むデータ信号を生成し、これらの信号をコンセントレータ1314(
図13)などの遠隔トランスミッタに送信する。これらの信号は、前記トランスミッタ又はコンセントレータに対しモデム1400が信号を受信する可能性の高い位相を識別する。
【0067】
前記コンセントレータは、電力線1401を介して送信される信号をどのように分配するか判定するためにこの情報を用いることができる。例えば、モデム1400により送信されるゼロクロス/位相情報が、位相1をモデム1400が接続される位相として識別する場合、前記コンセントレータは、データ信号を位相1のみでモデム1400へ送信する。代替として、前記コンセントレータは、データ信号を各位相でモデム1400へ送信し得るが、前記データ信号にまずスケーリング又は重み付けしてモデム1400による位相1での前記信号の受信を最適化し得る。この位相識別情報は、どの位相が特定のデータ信号を受信するかを前記コンセントレータが選択する方法を制御するためにも用いられ得る。例えば、前記コンセントレータが
図10に示す前記電力線結合(coupling)回路を用いる場合、モデム1400のための位相情報は、特定の信号を受信する前記電力線の位相を選択するスイッチ1006を制御するために用いられ得る。
【0068】
別の実施例において、前記コンセントレータは、複数のモデムから位相情報を受信してもよい。例えば、複数の住居1302a〜nのモデム1312a〜n(
図13)は、どの位相が各モデム1312a〜nに結合されるかを識別するために、ゼロクロス検出情報を用いることができる。コンセントレータ1314は、その後、各住居のユーザへデータを送信するためにこの位相情報を用いることができる。前記コンセントレータ1314は、これらのモデムにより送信されるゼロクロス又は位相レポートから、ユーザA用のモデム1312aが位相1にあり、ユーザB用のモデム1312bが位相2にあり、ユーザN用のモデム1312nが位相3にあることを知り得る。前記コンセントレータ1314は、その後、ユーザAに位相1を、ユーザBに位相2を、及びユーザNに位相3を選択することによって、各ユーザに同時に送信し得る。各ユーザ用のデータ信号は、そのユーザのモデムの位相用に最適されるように重み付け又はスケーリングされ得る。例えば、特定のユーザへ送信されるシンボル・ストリームをスケーリングするために用いられる重みベクトルは、前記シンボル・ストリームを選択された位相での伝送又は受信のため最適化するように適合され得る。
【0069】
また、コンセントレータ1314が他のユーザC(図示せず)も位相1にあることを知っている場合、前記コンセントレータは、それがデータ信号を位相1で同時にA及びCに送信しないことを保証する。前記コンセントレータは、ユーザA、B、C、及びNからフィードバックされるZCD情報を用いて、各ユーザの位相に特定のプリコードを用いることができる。このようにして、前記システムはマルチユーザ符号化を提供し得る。
【0070】
以上の説明及び関連する図面において提示した教示の恩恵を有する当業者であれば、本発明の多くの変形及び他の実施例を思いつくであろう。従って、本発明は、開示された特定の実施例に限定されないことを理解されたい。本明細書において特定の用語を用いたが、これらは、一般的でかつ説明的な意味で用いられており、限定を意図するものではない。