(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
PC鋼材を1次緊張してPC構造物に圧縮力を付与するために使用されるとともに前記PC鋼材のセット量をリングナットにより補正する2次緊張のために使用される油圧ジャッキの先端に取り付けられる、本体部と固定リングと可動リングとを含むPC鋼材のセット量補正治具であって、
前記本体部は、前記PC鋼材を通す中心穴を備えた略中空円筒形状であって、支圧板側にリングナットを備えた定着具と前記PC鋼材の軸芯を対称中心とした形状の固定リングおよび可動リングとを収納して、反支圧板側に前記油圧ジャッキが取り付けられ、
前記固定リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転不可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の固定支圧部を備え、
前記可動リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の可動支圧部を備え、
前記可動リングは、前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合う1次緊張状態から前記可動リングを前記軸芯周りに回転させることにより前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合わない2次緊張状態へ遷移させるための回転棒を装着する穴部をリング外周面に備え、
前記本体部は、前記穴部に装着した回転棒を前記軸芯周りに回転させる部分の外周面が切り欠かれている、PC鋼材のセット量補正治具。
前記固定リングおよび前記可動リングは、前記PC鋼材を通す中心穴を備えた略中空円筒形状であって、所定の中心角の部分を残存させて外周面の一部が切り欠かれ、残存させた外周面により前記固定支圧部および前記可動支圧部が形成され、
前記固定支圧部および前記可動支圧部の残存させた外周面における軸芯方向の端面どうしが当接することにより1次緊張状態となり、前記固定支圧部および前記可動支圧部の切り欠いた外周面における軸芯方向の端面どうしが当接することにより2次緊張状態となる、請求項1に記載のPC鋼材のセット量補正治具。
【背景技術】
【0002】
PC鋼線またはPC鋼より線から構成されるPC鋼材(PCケーブル)を定着する最も一般的なPC定着システムは、コンクリート内に埋め込まれたキャスティングブロックとアンカーヘッドとから構成されている。PC鋼線またはPC鋼より線は、緊張後、それぞれくさびによりアンカーヘッドに固定され、キャスティングブロックに設けられたグラウト孔より、キャスティングブロックおよびシース内にグラウトを充填して定着を完了する。
【0003】
このような定着作業におけるくさび定着(ウェッジ(くさび)とテーパを備えたスリーブとからなる定着具(定着グリップ)を用いてウェッジ内周でPC鋼線を噛み込ませ、ウェッジ外周とスリーブのテーパとで固定して定着)では、ウェッジは緊張時にはスリーブの外側に突出しているが、定着時にジャッキの引張荷重を解放(除荷)すると、PC鋼より線の戻り(緩み)によりウェッジがスリーブ内にめり込んでセット量が発生し、その分だけプレストレスの減少(セットロス)が発生する。このセットロスは、PC鋼より線の長さ(部材長)が短ければ短いほど影響が大きく、設計プレストレスに対する割合も大きく、設計プレストレスの導入が困難となる場合もある。このため、このセット量を補正する作業が必要となる。この補正作業の方式として、大きくは、リングナット方式とシムプレート方式とが従来から知られている。
【0004】
リングナット方式は、たとえば特開2007−231683号公報(特許文献1)に開示されるように、スリーブにネジ嵌合してあるリングナットが付属した定着具を用いて、一度緊張した後、反力架台(ラムチェアー)を設置して再緊張を行い、セット量により発生した支圧板と定着具との隙間をリングナットを回転させることにより補正する。
シムプレート方式は、たとえば特開2011−043025号公報(特許文献2)に開示されるように、通常の定着具を使用して緊張・定着作業を行った後、反力架台を設置して再緊張を行い、セット量により発生した支圧板と定着具との隙間に、シムプレートを差し込むことにより補正する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたリングナットを用いてセット量を補正する方式および特許文献2に開示されたシムプレートを用いてセット量を補正する方式では、通常の緊張定着作業を実施(1次緊張)した後に、反力架台を介して再緊張(2次緊張)した際に発生する定着具と支圧面との隙間をリングナットまたはシムプレートを利用することによりセット量を補正する。すなわち、いずれの方式でも、セット量を補正する場合には、反力架台の設置が必要不可欠な作業となっているが、この作業のために、1次緊張後に油圧ジャッキを一旦取り外すステップ、次に反力架台をセットするステップ、その後に油圧ジャッキをセットするステップ、2次緊張後に反力架台を取り外すステップという4つのステップが、反力架台を用いない場合に比較して余計に必要となる(2次緊張するステップ自体は反力架台を用いる場合も用いない場合も同じ)。このように反力架台を用いる
方式では、狭小位置における作業工数が増加してしまい、作業効率が非常に悪いという問題点がある。
【0007】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、緊張・定着作業においてセット量が発生したPC構造物において、重量の大きい油圧ジャッキを繰返し脱着する労力を軽減しつつ、狭小位置において容易な作業で作業工数を削減してセット量を補正することのできるセット量補正治具および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るPC鋼材のセット量補正治具および方法は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係るPC鋼材のセット量補正治具は、PC鋼材を1次緊張してPC構造物に圧縮力を付与するために使用されるとともに前記PC鋼材のセット量をリングナットにより補正する2次緊張のために使用される油圧ジャッキの先端に取り付けられる。このセット量補正治具は、本体部と固定リングと可動リングとを含む。このセット量補正治具において、前記本体部は、前記PC鋼材を通す中心穴を備えた略中空円筒形状であって、支圧板側にリングナットを備えた定着具と前記PC鋼材の軸芯を対称中心とした形状の固定リングおよび可動リングとを収納して、反支圧板側に前記油圧ジャッキが取り付けられ、前記固定リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転不可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の固定支圧部を備え、前記可動リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の可動支圧部を備え、前記可動リングは、前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合う1次緊張状態から前記可動リングを前記軸芯周りに回転させることにより前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合わない2次緊張状態へ遷移させるための回転棒を装着する穴部をリング外周面に備え、前記本体部は、前記穴部に装着した回転棒を前記軸芯周りに回転させる部分の外周面が切り欠かれている。
【0009】
好ましくは、前記固定リングおよび前記可動リングは、前記PC鋼材を通す中心穴を備えた略中空円筒形状であって、所定の中心角の部分を残存させて外周面の一部が切り欠かれ、残存させた外周面により前記固定支圧部および前記可動支圧部が形成され、前記固定支圧部および前記可動支圧部の残存させた外周面における軸芯方向の端面どうしが当接することにより1次緊張状態となり、前記固定支圧部および前記可動支圧部の切り欠いた外周面における軸芯方向の端面どうしが当接することにより2次緊張状態となるように構成することができる。
【0010】
さらに好ましくは、Nを2以上の自然数として、前記所定の中心角は略(360°/2N)であって、前記固定支圧部および前記可動支圧部は略(360°/N)間隔でN個ずつ備え、前記可動リングを前記軸芯周りに略(360°/2N)回転させて、前記1次緊張状態から前記2次緊張状態へ遷移させるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記Nは3であって、所定の中心角は略60°であって、前記固定支圧部および前記可動支圧部は略120°間隔で3個ずつ備え、前記可動リングを前記軸芯周りに略60°回転させて、前記1次緊張状態から前記2次緊張状態へ遷移させるように構成することができる。
【0011】
さらに好ましくは、前記固定リングが前記本体部に一体的に形成されたように構成することができる。
また、本発明に係るPC鋼材のセット量補正方法は、上述したPC鋼材のセット量補正治具を用いた補正方法であって、リングナットを含む定着具と1次緊張状態の固定リングおよび可動リングとが支圧板側に収納された本体部の反支圧板側に油圧ジャッキを取り付けることにより前記補正治具を油圧ジャッキに取り付ける準備ステップと、前記支圧板と前記リングナットを含む定着具とを当接させて、前記油圧ジャッキを用いて前記PC鋼材を緊張して前記PC構造物に圧縮力を付与する1次緊張ステップと、前記可動リングの穴部に装着した回転棒を前記軸芯周りに回転させることにより前記可動リングを前記軸芯周
りに回転させて、前記固定リングおよび前記可動リングを2次緊張状態へ遷移させる調整ステップと、前記支圧板と前記本体部とを当接させて、少なくともセット量分について前記PC鋼材を2次緊張する2次緊張ステップと、前記セット量により発生した前記支圧板と前記定着具との隙間を前記リングナットを回転させることにより補正する補正ステップと、前記2次緊張ステップにおける緊張荷重を解放して、前記補正治具が取り付けられた油圧ジャッキを取り外す後処理ステップとを含む。
【0012】
好ましくは、前記1次緊張ステップにおいて、前記本体部、前記固定リング、前記可動リング、前記リングナットを含む定着具、前記支圧板の順に前記油圧ジャッキの反力を受けて、前記2次緊張ステップにおいて、前記本体部、前記支圧板の順に前記油圧ジャッキの反力を受けるように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るPC鋼材のセット量補正治具および方法によれば、緊張・定着作業においてセット量が発生したPC構造物において、狭小位置において容易な作業で作業工数を削減してセット量を補正することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るPC鋼材のセット量補正治具(以下、単にセット量補正治具または補正治具と記載する場合がある)およびこの補正治具を用いた本発明の実施の形態に係るPC鋼材のセット量補正方法(以下、単にセット量補正方法または補正方法と記載する場合がある)を、図面に基づき詳しく説明する。ここで、図面について、平面図と斜視図との間、および、斜視図と別の斜視図との間において、PC鋼材の軸芯周りに回転可能な部材(固定リング400、可動リング500)の軸芯周りの角度は完全に一致するものではない。
【0016】
なお、本発明に係るPC鋼材のセット量補正方法は、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物をPC鋼材を用いて緊張・定着する場合にも、プレストレスをコンクリート躯体に導入した既設PC構造物を補修のためにPC鋼材を用いて再緊張・定着する場合にも、好適に適用することができる。
本実施の形態に係るPC鋼材のセット量補正治具およびセット量補正方法は、躯体部分に圧縮力を付与するPC構造物におけるPC鋼材の定着時における1次緊張およびPC鋼材のセット量を補正する2次緊張に反力架台を用いることなく適用される。本実施の形態に係るPC鋼材のセット量補正治具およびセット量補正方法は、特に限定されるものではないが、作業スペースに大きな制約がある、PC橋梁におけるプレキャストPC床版の取替え工法に適している。
【0017】
[セット量補正治具(専用品)]
本実施の形態に係るセット量補正方法を説明する前に、このセット量補正方法に使用されるセット量補正治具100であって、このセット量補正方法に合致させた特殊な構造を備えたセット量補正治具100について説明する。
図1にこのセット量補正治具100の1次緊張状態の二面図を、
図2にこのセット量補正治具100の2次緊張状態の二面図をそれぞれ示す。このセット量補正治具100は、PC鋼材を緊張して定着させる定着具200とともに使用される。
【0018】
このセット量補正治具100は、PC鋼材を1次緊張してPC構造物に圧縮力を付与するために使用されるとともにPC鋼材のセット量をリングナットにより補正する2次緊張のために使用される油圧ジャッキ700(
図1および
図2において油圧ジャッキ700としてロックオフピストンのみ図示)の先端に取り付けられる。このセット量補正治具100は、本体部300と固定リング400と可動リング500とから構成される。なお、固定リング400が本体部300に一体的に形成されていても構わない。そして、これらの本体部300、固定リング400および可動リング500の材質は、非常に優れた強度重量比を有するクロムモリブデン鋼により構成されているが、この材質に限定されるものではない。
【0019】
・本体部300
図1および
図2に加えて、
図3に示すこのセット量補正治具100を構成する本体部300の二面図を参照して、本体部300について説明する。
この本体部300は、大略的には、PC鋼材600を通す中心穴360を備えた略中空円筒形状であって、支圧板側にリングナット220を備えたスリーブ210およびスリーブ210に嵌め込まれるくさびであるウェッジ(ウェッジは図示していない)から構成される定着具200とPC鋼材600の軸芯を対称中心とした形状の固定リング400および可動リング500とを収納して、反支圧板側に油圧ジャッキ700が取り付けられる。固定リング400および可動リング500は、本体部300における外周面310と後述する切欠部350とで構成される空間に、外周面310の内周面である中空円筒内面320に摺動するように収納される。以下においては、単に軸芯と記載した場合であっても、この軸芯はPC鋼材600の軸芯であるとする。
【0020】
さらに、この本体部300は、後述する可動リング500の穴部540に装着した回転棒560をPC鋼材600の軸芯周りに回転させる部分の外周面310が切り欠かれた切欠部350を備える。
なお、限定されるものではないが、作業効率性を向上させるために、可動リング500の外径の大きさは、本体部300の中空円筒内面320に対して軸芯周りに回転摺動できる大きさであって(可動リング500の外径は中空円筒内面320の内径よりも若干小さい)、1次緊張状態から2次緊張状態へ容易に遷移できるようになっている。また、外周面310の端面は、固定リング400または/および可動リング500を挿入しやすいように角が面取りされている。
【0021】
さらに、
図1〜
図3を参照して、この本体部300は、中空円筒を形成する外周面310を備え、その外周面310の内側の内周面である中空円筒内面320に、固定リング400および可動リング500のリング外周面が当接される。この場合において、固定リング400が本体部300と別部品である場合には、固定リング400の固定穴440を通した雄ネジを、雌ネジが切られた3ヶ所程度の固定穴340に螺合させて、固定リング400は本体部300にネジ止めされて、固定リング400は軸芯周りに回転不可能に保持される。これに対して、可動リング500は中空円筒内面320に対して軸芯周りに回転摺動できるように嵌合される。
【0022】
この中空円筒内面320は、本体部300の円筒全周に亘って形成されるものではなく、上述したように、1次緊張状態から2次緊張状態へ遷移させるために(たとえば軸芯周りに略60°回転させるために)回転棒560をPC鋼材600の軸芯周りに回転させる部分の外周面310において、水平方向の略90°ずつが切り欠かれた切欠部350を備える。なお、切欠部350は水平方向の略90°ずつが切り欠かれた形状に限定されるものではない。この位置および角度は、後述する1次緊張状態から2次緊張状態へ可動リン
グ500を軸芯周りに回転させる回転角に基づいて設定される。本実施の形態に係るセット量補正治具100においては、可動リング500を軸芯周りに略60°回転させて1次緊張状態から2次緊張状態へ遷移させるために(回転角が略60°)切欠部350は略90°ずつが切り欠かれた形状としている。
【0023】
なお、この本体部300の反支圧板側に油圧ジャッキ700を取り付けるにおいては、各種の油圧ジャッキ700に対応させて取付部を設ければよく、たとえば、ネジ部370を設けて、油圧ジャッキ700を取り付け可能に構成すればよい。ここで、油圧ジャッキ700に取り付けられたセット量補正治具100は、基本的に取り外されることなく、PC鋼材600に対して1次緊張ステップおよび2次緊張ステップを含む作業をPC鋼材600の本数分(緊張箇所の箇所分)繰り返し、PC鋼材600をリングナット方式の定着具200により緊張定着する。
【0024】
・固定リング400
図1および
図2に加えて、
図4に示すこのセット量補正治具100を構成する固定リング400の二面図、
図5に示すこの固定リング400の斜視図、ならびに、
図8および
図9に示す固定リング400および可動リング500の斜視図を参照して、固定リング400について説明する。
【0025】
この固定リング400は、大略的には、本体部300の中空円筒内面320にPC鋼材600の軸芯周りに回転不可能に設けられ(上述したように固定リング400は本体部300と一体的に形成されていても構わない)、軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の固定支圧部410(凸部)を備える。この固定リング400は、PC鋼材600を通す中心穴450を備えた略中空円筒形状であって、所定の中心角の部分を残存させて外周面の一部が切り欠かれた切欠部420(凹部)を備え、残存させた外周面により固定支圧部410(この端面を固定支圧面412とする)が形成されている。
【0026】
この固定リング400の固定支圧部410の残存させた外周面における軸芯方向の端面である固定支圧面412と、後述する可動支圧部510の残存させた外周面における軸芯方向の端面である可動支圧面512とが当接することにより1次緊張状態となり(
図1および
図8参照)、固定リング400の切欠部420の軸芯方向の端面である固定端面432と可動支圧面512とが当接することにより2次緊張状態となる(
図2および
図9参照)。
【0027】
さらに、この固定リング400は、Nを2以上の自然数とした場合に、上述した所定の中心角は略(360°/2N)であって、固定支圧部410を略(360°/N)間隔でN個ずつ備え、後述する可動リング500を軸芯周りに略(360°/2N)回転させて、
図1および
図8に示す1次緊張状態から
図2および
図9に示す2次緊張状態へ遷移させる。上述したNとしては、2、3、4等である。
【0028】
特に、本実施の形態においては、上述したNは3であって、上述した所定の中心角は略60°であって、固定支圧部410は略120°間隔で3個備え、可動リング500を軸芯周りに略60°回転させて、
図1および
図8に示す1次緊張状態から
図2および
図9に示す2次緊張状態へ遷移させる。
なお、限定されるものではないが、作業効率性を向上させるために、固定リング400の切欠部420の大きさは、可動リング500の可動支圧部510の大きさよりも大きく(または逆)、1次緊張状態から2次緊張状態へ容易に遷移できるようになっている。
【0029】
このように、この固定リング400は、
図1〜
図3、
図4、
図5に示すように、PC鋼材600を通す中心穴450を備えた薄い中空円筒形状(ドーナツ形状)であって、略120°間隔で略60°ずつ残存させて外周面の一部が切り欠かれた切欠部420(残存した部分は円環面430であってこの円環面430の可動リング500側端面は固定端面432)を備え、残存させた外周面により固定支圧部410(可動リング500側端面は固定支圧面412)が形成されている。固定端面432には、本体部300にこの固定リング400をネジ止めするための固定穴440が円環面430を貫通して設けられている。なお、
図5においては、切欠部420を仮想的に点線で示している。
【0030】
また、固定支圧部410から切欠部420への境界部分は、面取りされて曲面形状(R形状)になっている。
・可動リング500
図1および
図2に加えて、
図6に示すこのセット量補正治具100を構成する可動リング500の二面図、
図7に示すこの可動リング500の斜視図、ならびに、
図8および
図9に示す固定リング400および可動リング500の斜視図を参照して、可動リング500について説明する。
【0031】
この可動リング500は、大略的には、本体部300の中空円筒内面320にPC鋼材600の軸芯周りに回転可能に設けられ、軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の可動支圧部510(凸部)を備える。この可動リング500は、PC鋼材600を通す中心穴550を備えた略中空円筒形状であって、所定の中心角の部分を残存させて外周面の一部が切り欠かれた切欠部520(凹部)を備え、残存させた外周面により可動支圧部510(この端面を可動支圧面512とする)が形成されている。
【0032】
この可動リング500は、固定支圧部410の固定支圧面412と可動支圧部510の可動支圧面512とが当接して重なり合う1次緊張状態から可動リング500を軸芯周りに回転させることにより固定支圧部410の固定支圧面412と可動支圧部510の可動支圧面512とが重なり合わない2次緊張状態へ遷移させるための回転棒560を装着する穴部540を可動リング500のリング外周面に備える。
【0033】
この可動リング500の可動支圧部510の残存させた外周面における軸芯方向の端面である可動支圧面512と、上述した固定支圧部410の残存させた外周面における軸芯方向の端面である固定支圧面412とが当接することにより1次緊張状態となり(
図1および
図8参照)、上述した固定リング400の切欠部420の軸芯方向の端面である固定端面432と可動支圧面512とが当接することにより2次緊張状態となる(
図2および
図9参照)。
【0034】
さらに、この可動リング500は、固定リング400に対応して、Nを2以上の自然数とした場合に、上述した所定の中心角は略(360°/2N)であって、可動支圧部510を略(360°/N)間隔でN個ずつ備え、この可動リング500を軸芯周りに略(360°/2N)回転させて、
図1および
図8に示す1次緊張状態から
図2および
図9に示す2次緊張状態へ遷移させる。上述したNとしては、2、3、4等である。
【0035】
特に、本実施の形態においては、上述したNは3であって、上述した所定の中心角は略60°であって、可動支圧部510は略120°間隔で3個備え、可動リング500を軸芯周りに略60°回転させて、
図1および
図8に示す1次緊張状態から
図2および
図9に示す2次緊張状態へ遷移させる。
なお、限定されるものではないが、作業効率性を向上させるために、可動リング500の可動支圧部510の大きさは、固定リング400の切欠部420の大きさよりも小さく(または逆)、1次緊張状態から2次緊張状態へ容易に遷移できるようになっている。
【0036】
このように、この可動リング500は、
図1〜
図3、
図6、
図7に示すように、PC鋼材600を通す中心穴550を備えた薄い中空円筒形状(ドーナツ形状)であって、略120°間隔で略60°ずつ残存させて外周面の一部が切り欠かれた切欠部520(残存した部分は円環面530であってこの円環面530の固定リング400側端面は固定端面532)を備え、残存させた外周面により可動支圧部510(固定リング400側端面は可動支圧面512)が形成されている。可動支圧部510の外周面には、この可動リング500を軸芯周りに略60°回転させるための回転棒560をネジ止めするための雌ネジが切られた穴部540が設けられている。回転棒560の先端は、穴部540の雌ネジに螺合する雄ネジが切られている。なお、
図7においては、切欠部520を仮想的に点線で示している。
【0037】
また、可動支圧部510から切欠部520への境界部分は、面取りされて曲面形状(R形状)になっている。
ここで、斜視図においては(二面図除く)可動リング500の円環面530の外周面は面取りされており固定リング400の円環面430の外周面は面取りされていない図にな
っているが、両方ともが面取りされていても構わないし、両方ともが面取りされていなくても構わないし、一方だけが面取りされていても構わない。
【0038】
[セット量補正方法]
以上のような、本実施の形態に係るセット量補正治具100を用いたPC鋼材のセット量補正方法について、上述した
図1〜
図9に
図10を加えた図面を参照して説明する。
・(1)準備ステップ
図1、
図10(A)および
図10(B)に示すように、リングナット220を含む定着具200と1次緊張状態の固定リング400および可動リング500とが支圧板側に収納された本体部300の反支圧板側に油圧ジャッキ700を取り付ける。これにより、セット量補正治具100が油圧ジャッキ700に取り付けられる。
【0039】
なお、より具体的には、この準備ステップにおいては、固定リング400が回転不可能に保持された本体部300が取り付けられた油圧ジャッキ700に可動リング500を1次緊張状態でセットして、この状態で、1次緊張前の定着具200(スリーブ210、リングナット220およびウェッジ)を本体部300の支圧板側の空間(本体部300における外周面310と切欠部350とで構成される空間)に収納する。
【0040】
このとき、PC鋼材600は、支圧板側から、定着具200のスリーブ210内面、可動リング500の中心穴550、固定リング400の中心穴450、本体部300の中心穴360を通って、油圧ジャッキ700に接続されている。
・(2)1次緊張ステップ
次に、
図1、
図10(A)および
図10(B)に示すように、1次緊張ステップとして、支圧板800とリングナット220を含む定着具200とを当接させて、油圧ジャッキ700を用いてPC鋼材600を緊張してPC構造物に所定の圧縮力を付与する。
【0041】
このとき、油圧ジャッキ700は、以下のように反力を取ることになる。支圧板800にリングナット220の端面が当接している状態(リングナット220がスリーブ210よりも支圧板800側に少し出っ張っている状態)である場合には、本体部300、固定リング400、可動リング500、リングナット220、支圧板800の順に油圧ジャッキ700は反力を受ける。また、支圧板800にスリーブ210の端面が当接している状態(スリーブ210がリングナット220よりも支圧板800側に少し出っ張っている状態)である場合には、本体部300、固定リング400、可動リング500、リングナット220、スリーブ210、支圧板800の順に油圧ジャッキ700は反力を受ける。
【0042】
・(3)調整ステップ
次に、
図1および
図8に示す1次緊張状態から
図2および
図9に示す2次緊張状態へセット量補正治具100を遷移させる。より具体的には、可動リング500の穴部540に装着した回転棒560を軸芯周りに略60°回転させることにより可動リング500を軸芯周りに略60°回転させて、固定リング400および可動リング500を2次緊張状態へ遷移させる。このとき、
図10(B)に示すように、回転棒560は本体部300の切欠部350からセット量補正治具100の外部へ突出しており、作業者は容易に回転棒560を軸芯周りに略60°回転させることができる。
【0043】
なお、この調整ステップにおいては、油圧ジャッキ700の緊張力を一時的に緩めて(ジャッキストロークを戻して)、可動リング500が回転可能な状態として、回転棒560を軸芯周りに略60°回転させる。
・(4)2次緊張ステップ
次に、
図2、
図10(C)に示すように、2次緊張ステップとして、支圧板800と本体部300とを当接させて、油圧ジャッキ700を用いてPC鋼材600を2次緊張して少なくともセット量分についてPC鋼材を緊張してPC構造物に所定の圧縮力を付与して、構造計算上の圧縮力になるようにセット量を補正する。このとき、油圧ジャッキ700は、本体部300、支圧板800の順に反力を取る(受ける)ことになる。
【0044】
・(5)補正ステップ
次に、従来のリングナット方式のセット量補正と同じように、2次緊張ステップのセット量により発生した支圧板800と定着具200との隙間をリングナット220を回転さ
せることにより補正する。
・(6)後処理ステップ
次に、2次緊張ステップにおける緊張荷重を解放して、セット量補正治具100(本体部300、固定リング400および可動リング500)が取り付けられた油圧ジャッキ700を取り外す。PC構造物に複数のPC鋼材600が設けられている場合には、全てのPC鋼材について上述したステップを繰り返す。
【0045】
[セット量補正治具およびセット量補正方法の作用効果]
このようにして、本実施の形態に係るセット量補正治具および/またはセット量補正方法によると、緊張・定着作業においてセット量が発生したPC構造物において、反力架台を用いて2次緊張する必要がないために、1次緊張後に油圧ジャッキを一旦取り外すステップ、次に反力架台をセットするステップ、その後に油圧ジャッキをセットするステップ、2次緊張後に反力架台を取り外すステップという4つのステップが不要となり、狭小位置において容易な作業で作業工数を削減してセット量を補正することができる。
【0046】
すなわち、従来のセット量補正方法として(リングナット方式であってもシムプレート方式であっても)1次緊張後に反力架台を用いて2次緊張(再緊張)させるステップが不可欠であり、反力架台の設置が必要不可欠な作業となっていた。本出願人は、この反力架台について、1次緊張と2次緊張とで油圧ジャッキの反力箇所を変化させるためのものとして捉えることができると考えて、油圧ジャッキの反力を1次緊張と2次緊張とで変化させる機構を、油圧ジャッキの先端に取り付けるセット量補正治具100(本体部300、固定リング400および可動リング500)を設けることとして、反力架台を省略することを見出したのである。このため、本発明に係るセット量補正治具においては、油圧ジャッキ先端で反力箇所を切り替えるための空間の大きさを変化させる機構として固定リング400および可動リング500を本体部300に内蔵させることにより、1次緊張時の反力をリングナット、2次緊張時の反力を支圧板と変化させている。
【0047】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。