(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131309
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】時計又は宝飾品のピース用の装飾要素を製作する方法及び当該方法により製作される要素
(51)【国際特許分類】
G04B 19/10 20060101AFI20170508BHJP
G04B 19/04 20060101ALI20170508BHJP
G04B 45/00 20060101ALI20170508BHJP
G04B 5/16 20060101ALI20170508BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
G04B19/10 Z
G04B19/04 B
G04B45/00 Z
G04B5/16
A44C27/00
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-228595(P2015-228595)
(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2016-118537(P2016-118537A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2015年11月24日
(31)【優先権主張番号】14199479.8
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】アルバン・ドゥバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ピエリ・ヴュイユ
(72)【発明者】
【氏名】イヴ・ウィンクレ
(72)【発明者】
【氏名】ステュース・ブルバン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−クロード・マルタン
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−506954(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0203934(US,A1)
【文献】
特開2007−247067(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0303546(US,A1)
【文献】
特開2011−230506(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0259753(US,A1)
【文献】
特開平05−208293(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/075459(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/10
A44C 27/00
G04B 5/16
G04B 19/04
G04B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計又は宝飾品のピース用の装飾要素(1)を製作する方法であって、前記方法は、
−ベース基板(2)を用意するステップと、
−前記ベース基板(2)上に、ポジティブ型又はネガティブ型の感光性樹脂(4)の層を堆積させるステップと、
−前記感光性樹脂(4)上に、作製しようとするパターンの輪郭マスク(5)を設置するステップと、
−前記マスク(5)を通して前記樹脂(4)を照射するステップと、
−前記感光性樹脂が前記ポジティブ型である場合は、前記樹脂(4)の照射部分を除去し、又は、前記感光性樹脂が前記ネガティブ型である場合、前記樹脂(4)の非照射部分を除去するステップと、
−前記樹脂(4)の除去された部分(4a)を、少なくとも1つのはんだペースト又は粉体(6)で充填して、区画又は型を製作するステップと、
−前記ベース基板(2)、前記樹脂(4)及び前記はんだペースト又は粉体(6)で形成された組立品を加熱し、前記はんだの固化の前に、前記はんだペースト又は粉体(6)を溶融させるステップと、
−全ての前記樹脂(4)を除去するステップと、
−前記型又は装飾区画(6)を少なくとも1つのフィラー材料(7)で充填して、前記装飾要素(1)を得るステップと、を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
時計又は宝飾品のピース用の装飾要素(1)を製作する方法であって、前記方法は、
−ベース基板(2)を用意するステップと、
−前記ベース基板(2)上に、ポジティブ型又はネガティブ型の感光性樹脂(4)の層を堆積させるステップと、
−前記感光性樹脂(4)上に、作製しようとするパターンの輪郭マスク(5)を設置するステップと、
−前記マスク(5)を通して前記樹脂(4)を照射するステップと、
−前記感光性樹脂が前記ポジティブ型である場合は、前記樹脂(4)の照射部分を除去し、又は、前記感光性樹脂が前記ネガティブ型である場合、前記樹脂(4)の非照射部分を除去するステップと、
−物理気相堆積法又は化学気相堆積法により、1層以上の金属層を、前記樹脂(4)の除去された部分(4a)に堆積させるステップと、
−全ての前記樹脂(4)を除去するステップと、
−単数又は複数の前記金属層の上に、少なくとも1つのはんだペースト又は粉体(6)を堆積させるステップと、
−前記はんだペースト又は粉体(6)を溶融して、単数又は複数の前記金属層を濡らすのみの液状はんだを取得し、そして前記液状はんだを固化することにより、所望のパターンで区画又は型を形成するステップと、
−前記型又は装飾区画(6)を少なくとも1つのフィラー材料(7)で充填して、前記装飾要素(1)を得るステップと、を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
時計又は宝飾品のピース用の装飾要素(1)を製作生成する方法であって、前記方法は、
−ベース基板(2)を用意するステップと、
−前記ベース基板(2)上に、ポジティブ型又はネガティブ型の感光性樹脂(4)の層を堆積させるステップと、
−前記感光性樹脂(4)上に、作製しようとするパターンの輪郭マスク(5)を設置するステップと、
−前記マスク(5)を通して前記樹脂(4)を照射するステップと、
−前記感光性樹脂が前記ポジティブ型である場合は、前記樹脂(4)の照射部分を除去し、又は、前記感光性樹脂が前記ネガティブ型である場合、前記樹脂(4)の非照射部分を除去するステップと、
−物理気相堆積法又は化学気相堆積法により、1層以上の非導電性層を、前記樹脂(4)の除去された部分(4a)に堆積して、区画又は型の作成のための相補的パターンを画定するステップと、
−全ての前記樹脂(4)を除去するステップと、
−単数又は複数の前記非導電性層の除去された部分に、少なくとも1つのはんだペースト又は粉体(6)を堆積させるステップと、
−前記はんだペースト又は粉体(6)を溶融及び固化して、前記区画又は型を形成するステップと、
−前記型又は装飾区画(6)を少なくとも1つのフィラー材料(7)で充填して、前記装飾要素(1)を得るステップと、を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
前記樹脂層(4)が堆積される前に、物理気相堆積法若しくは化学気相堆積法により、又は、陰極スパッタリングにより、少なくとも1層の導電層を、前記ベース基板(2)の表面上に堆積させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項5】
用いられる前記はんだペースト又は粉体(6)は、金属のはんだペースト又は粉体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項6】
用いられる前記金属のはんだペースト又は粉体(6)は、融点が380℃より低い低温はんだペースト又は粉体であることを特徴とする、請求項5に記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項7】
前記金属のはんだペースト又は粉体(6)に使用される金属粉体又は粉体は、金及びスズの混合物、又は、第1の粉体である金及びスズ並びに第2の粉体である金の混合物で形成されることを特徴とする、請求項6に記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項8】
前記はんだペースト又は粉体(6)は、Au−Si又はAu−Ge又はAu−Sb又はAu−Ga又はAu−Ga−In合金の共晶組成で形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項9】
用いられる前記はんだペースト又は粉体(6)は、金属粉体及びセラミック粒子の混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項10】
前記はんだペースト(6)は、少なくとも1つの有機添加物又はバインダーを含む少なくとも1つの金属粉体で形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項11】
前記型の壁又は前記区画の壁に保持される前記型又は装飾区画(6)を、固化された前記前記フィラー材料(7)で充填した後、機械加工又は選択溶解操作を実行して、金属、セラミック、陶性合金又は半導体材料製である前記ベース基板(2)を除去することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項12】
前記ベース基板(2)に対して、その表面に凹部を形成し、前記基板の前記区画(6)同士の間の凹部が形成された表面に対する前記フィラー材料(7)の機械的な接着性を向上させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項13】
ミクロホール又は凹部を、前記区画又は型(6)内に製作することにより、前記フィラー材料(7)の機械的な接着性を向上させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法。
【請求項14】
前記装飾要素は、プログラムされたパターンで微細加工された型又は装飾区画(6)の壁に保持されるフィラー材料(7)を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の装飾要素(1)を製作する方法で作成された装飾要素。
【請求項15】
前記型又は区画(6)は、金属又は金属及びセラミック材料で、加熱、溶融、固化のはんだ付け操作によって得られること、及び、前記フィラー材料(7)は、コールドエナメルであること、を特徴とする、請求項14に記載の装飾要素(1)。
【請求項16】
前記フィラー材料(7)は、着色顔料を含む熱硬化性ポリマーであり、1区画毎に色が異なっていることを特徴とする、請求項15に記載の装飾要素(1)。
【請求項17】
前記装飾要素は、時計文字盤であることを特徴とする、請求項14に記載の装飾要素(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計又は宝飾品のピースのための、少なくとも1つの装飾要素を製作する方法に関する。また、本発明は、当該製造方法によって得られる装飾要素に関する。
【背景技術】
【0002】
時計又は宝飾品のピースの要素又は部品を装飾する目的で、部品上に一組のセル又は区画を作製した後に、エナメル加工を、部品の表面上に施してもよい。これは、ホットエナメル加工としてもよい。この、「クロワゾネ」として知られている従来の技術は、多数のエナメル加工技術の1つであり、とりわけ主要な技術は、「グリザイユ」、ドライなアップリケ、エナメルの絵付け、「シャンルベ」、「バスタイユ」、「プリカジュール」、レリーフエナメル加工、「パイヨネ」等と名付けられるものである。
【0003】
この従来の装飾的な技術の原理は、メタルワイヤ区画壁で形成されたデザインを手作業で作製することと、その後、金属又はセラミック支持体上で、該区画を、透明な又は不透明なエナメルの連続した層で充填すること、とから成る。エナメルとして知られているガラス質の物質の原料は、主にシリカであり、これは高純度の砂、長石、ペグマタイト、チョーク、石灰、及びときにカオリン、の形態であり、金属化合物と関連して、エナメルにその色を与える。要素の表面上に堆積されるこの物質は、それが金属又はセラミック部品に融着及び付着するまで、焼成される。様々な手作業のステップによって装飾を作製するプロセスは長時間を要し、そして、1つの部品から次の部品へは同一の手法では再現されることができず、これは欠点である。
【0004】
「クロワゾネ」ないし仕切りの技術の場合では一般に、装飾要素を作製するために必要とされるステップの数が膨大になる。そこでは、手作業で装飾模様を作製する前に、紙上又はコンピュータ上に直接デザインを描画することが必要となり、特にメタルワイヤをベースとして図面に裁置することが必要となる。金属又はセラミック又は陶性合金の支持体上への図面の複製は、一般に、手彫刻、機械彫刻又はフリーハンドの彫刻により達成される。支持体は、その後エナメル層でエナメルコーティングすることができ、このエナメル層は、透明であっても透明でなくてもよい。装飾物のパターンはその後、支持体上に配置されて固定されてセル又は仕切壁を形成し、これらは同じ高さにされる。続いて、エナメル等のフィラー材料を区画内に挿填し、通常はエナメルコーティングされた支持体を焼成する必要がある。エナメルコーティングされた部品を炉から除去した後、研摩操作を行ってもよい。装飾要素を製作するこの方法は、膨大なステップ数を必要とするので、この種の装飾要素を製作するための欠点となってしまう。
【0005】
この点で、参照することができる文献としては、欧州特許EP2380864B1号があり、その特許文献では、少なくとも1つの金属装飾物をちりばめたセラミック要素を製造する方法が記載される。先ず、レーザー光線によってセラミック材料にエッチングを行い、1つ以上の凹部を得る。次いで、気相堆積法により各凹部内に金属層を堆積し、そして自触媒作用により接着層を形成する。その後、装飾層を、接着層上で電気メッキして、要素の装飾物を完成させる。セラミック材料製の各凹部を金属層で充填して、装飾要素を形成することは複雑となり、そしてそれは欠点である。さらに、金属層の気相堆積のみによる装飾物では、十分な厚さの装飾層を製作することができない。
【0006】
スイス国特許出願公開公報CH707533A2号は、刺繍で装飾される時計文字盤を製造する方法を記載する。先ず、デカールエッチングを、布キャンバス又は刺繍に施す。オーバレイ又はコピーシートを所望のデザインに穿孔した後、粉体をオーバレイ上に撒き広げる。次いで、所定のデザインをカンバスにプリントし、このプリントの工程に続いて、刺繍操作のために、このデザインを浮き上がらせる。刺繍が終わったら、装飾カンバスを、支持体、例えば時計文字盤等に接着させる。また、この方法では、時計ダイアルを装飾するためのステップ数は膨大となり、そしてそれは欠点となる。さらに、この方法で複雑な形状の装飾物を作製することは不可能であり、また、装飾物の接着は一般に、長期間に対しては信頼性が低い。
【0007】
米国特許出願公開公報2011/0203934A1号及び2011/0303546A1号には、金属ミクロ構造を製作する方法が記載される。かかる金属ミクロ構造を得るため、異種LIGA法が用いられる。ここでは先ず、ベース基板上に、金属接着層を蒸着する必要があり、そして、感光性樹脂層を、フォトリトグラフィによって構築する。
次いで、樹脂層から除去された部分に、金属接着層上での電解成長により、金属のデザインを製作する。最後に、ベース基板と同様に、樹脂層を除去して、前記金属ミクロ構造を得る。LIGA方法では、金属ミクロ構造の構築が電解成長によるため、装飾要素を、迅速かつ容易に製作することは不可能であり、そしてそれは欠点である。
【0008】
欧州特許出願公開公報第2316299A1号には、時計又は宝飾品のピース及びこれらを製作する方法が記載される。このピースは、レリーフ装飾物を具備する金属ベース構造と、この構造の表面上に接着層を介して付設したエラストマー層とを含む。この装飾デザインは、粉砕、又は化学腐食又はレーザー、又はスタンピングによって得られるものの、複雑な形状の装飾物を正確に、迅速かつ容易に提供することができず、そしてそれは欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第2380864B1号
【特許文献2】スイス国特許出願公開公報CH707533A2号
【特許文献3】米国特許出願公開公報2011/0203934A1号
【特許文献4】米国特許出願公開公報2011/0303546A1号
【特許文献5】欧州特許出願公開公報第2316299A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、前述の先行技術の欠点を克服する時計又は宝飾品のピース用の装飾要素を製作する方法を提案することにより、かかる装飾要素の製造を容易にするとともに、その再現性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明は、時計又は宝飾品のピースのための装飾要素を製作する方法に関し、これは独立請求項1〜3に記載の特徴を含む。装飾要素を製作する方法の特定のステップは、本文書に添付される従属請求項により定義される。
【0012】
装飾要素を製作するための、この方法の利点の1つは、限られた数の製作ステップで、複雑な形状の二次元又は三次元装飾物を容易に製作可能にすることにある。この装飾物は、金属、セラミック、又は、サーメット等の陶性合金物の上に直接、かつ工業的規模で、製作することが可能である。装飾物への接着性を向上させるため、装飾物の材料と同系統の材料である金属又はセラミック又はサーメット層で、ベース基板を処理してもよい。装飾物を、コンピュータで予め描画し又は予めプログラムすることにより、超微小かつ再現可能な装飾物を作製することが可能になる。
【0013】
装飾要素を製作するための、この方法の利点の1つは、基板上のオープンな樹脂部分内及び描画された装飾物のパターン内に、はんだペースト又は粉体を堆積させることにより、区画又は型を、ベース基板上に得ることができることにある。はんだペースト又は粉体は、金属又はセラミックで形成し得るベース基板の表面上に直接、又は、ベース基板の表面上に形成される導電層の上に、堆積させることができる。はんだペースト又は粉体をオープンな樹脂部分に挿填し、続いて、はんだが固まる前に、これを加熱して溶融させる。装飾要素が設置され得る時計の金属部品の色を考慮して、あらゆる金属組成物を、はんだに用いることができる。最後に、樹脂は、化学エッチングによって容易に除去することができ、低温はんだによって得られた区画は、装飾物のためにフィラー材料で充填される。
【0014】
有利な点は、このフィラー材料は、イミテーションエナメルとして定義されるコールドエナメルとしてもよいことである。このコールドエナメル加工技術に対して、着色顔料を含む熱硬化性のポリマーであるエポキシ樹脂を用いる。エポキシ樹脂を区画内に挿填した後、これを乾燥する。フィラー材料として、区画を形成するために用いた材料の融点より低い融点を有するセラミック又は陶性合金粉体を用いることは可能である。
【0015】
この目的を達成するために、本発明はまた、装飾要素を製作する方法によって得られる装飾要素に関し、そしてそれは独立請求項14に記載の特徴を含む。装飾要素の特定の実施形態は、本文書に添付される従属請求項に定義される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
時計又は宝飾品のピースのために装飾要素を製作するための方法及びこれにより得られる装飾要素の目的、利点及び特徴は、以下の図面を参照してなされる詳細な説明により明らかにされる。
【
図1】
図1a〜
図1gは、本発明によって時計部品又は宝飾品のピース用装飾要素を製作するための異なるステップを示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明によって製作された区画又は壁を有する時計部品又は宝飾品のピースの要素を示す。
【
図3】
図3は、本発明によってフィラー材料を充填するステップ及びこれを硬化するステップの後の、時計部品又は宝飾品のピースの要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明では、時計又は宝飾品要素の装飾パターンを製作するための、現状技術で周知であるあらゆる技術を、簡略化した形式で言及することとする。装飾パターンには、微細加工技術として定義される技術によりベース基板上に付設される区画又は型に関する。
【0018】
好ましくは、本発明は特に、「クロワゾネ」及び「プリカジュール」技術といった特定のステップに対する量産プロセスの適用に関する。これらの2つの技術では、例えば、最初にメタルワイヤ又はメタルストリップで区画を作製することで得られたボリュームパターンを、エナメルコーティングすることが可能である。これらの区画は、好ましくはベース基板上に設置され、このベース基板は、金属又はセラミック、又はサーメット等の陶性合金、又は、下記に示されるその他の材料であってもよい。
【0019】
時計又は宝飾品のピースのために装飾要素を製作する方法は、微細加工技術により、このベース基板上に区画又は壁又は型を作製する第1の必須のステップを含む。ベース基板は、結晶性又はアモルファス金属材料、セラミック、半導体、サーメット又はあらゆる他の材料製であってもよい。セラミックに関し、これは、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタン酸アルミニウム及び窒化アルミニウム又はその他の種類のセラミックに関連する。ベース基板は、クォーツ、ガラス、サファイヤ、コランダム又はその他の種類の貴石で製作することも可能である。型又は区画の材料は、ベース基板のそれと同じであってもよい。
【0020】
区画によって画定される装飾模様は、先ず、コンピュータで描画され又はプログラムされ、そして、保存された図面又はパターンのデータは、前記区画を製作するために、微細加工機械に送信される。その後、フィラー材料で区画を充填する操作が実行され、このフィラー材料は、好ましくはコールドエナメルであってもよく、このコールドエナメルは、着色顔料、金属合金、又はセラミック若しくはサーメットをも含む熱硬化性のポリマーである。エナメルは、区画内に、焼成されない状態で堆積又は設置されてもよく、また、イミテーションエナメルとして画定される。
【0021】
図1a〜1gは、時計又は宝飾品のピース用の装飾要素を得るために、ベース基板2上に装飾物を製作するために必要な全てのステップを概略的に示す。これを達成するため、先ず、ベース基板2を準備し、これは、金属、セラミック又は陶性合金製であってもよい。また、シリコン又はヒ化ガリウム等の半導体ベース基板を有することを想定することもできる。
【0022】
図1aに示す第1のステップでは、少なくとも1層の導電層3を、ベース基板2の表面上に堆積させる。この導電層3は、PVD又はCVD技術により、又は、陰極スパッタリングにより堆積される薄い金属層であってもよい。同じ材料の、又は、1層毎に異なる材料の、いくつかの連続した導電層3を堆積させることも可能である。しかしながら、ベース基板2が金属、典型的に銅製である場合、又は下記に説明するように活性はんだを用いる場合は、この第一段階は行わなくともよい。
【0023】
図1bに示す第2のステップでは、感光性樹脂4を、ベース基板2の表面上、又は、導電層3上に堆積させる。この感光性樹脂4は、ポリイミドPMMA(ポリメチルメタクリート)ベースの樹脂であってもよく、又は、参照名SU−8の下でシェルケミカル社から入手可能な八官能基性エポキシド化ノボラック樹脂及びトリアリールスルホニウム塩の中から選択される光重合開始剤であってもよい。この感光性樹脂4は、紫外線(UV)放射により光重合させてもよい。
【0024】
図1cに示す第3のステップでは、要素のベース基板2上に製作されるべきパターンの輪郭マスク5を、樹脂4上に配置する。マスク5は、ガラス板であってもよく、この上に、製作されるべきパターンに従って、マスキング層が不透明な部分及び透明な部分で形成される。例えばUVタイプの光放射を、マスク5に向けて、樹脂4の露出部分に照射する。ネガティブ型感光性樹脂であるこの種の樹脂4を用いる場合は、非照射部分を、
図1dで示される第4のステップで、物理的又は化学的手段により除去することができる。これにより、樹脂4の除去された部分4aで、区画又は型の形状を画定することが可能になる。
【0025】
製作しようとするパターンにより、不透明部分及び透明部分を含むマスキング層を有するマスク5と共に、ポジティブ型感光性樹脂4を用いてもよいことに、留意すべきである。このマスクは、ネガティブ型樹脂4で用いられるマスクを反転したものである。この場合、これは、第4のステップで除去される樹脂の照射を受けた部分である。
【0026】
図1eに示す第5のステップでは、ベース基板2上の、又は導電層3上の、樹脂4のオープンな部分4aを、はんだペースト又は粉体6で充填する。はんだペースト又は粉体6は一般に、金属又は金属合金で形成され、そしてそれは好ましくは、感光性樹脂の溶融点より低い融点、すなわち380℃未満、を有している。はんだペースト6は一般に、添加剤又は有機結合剤を有する粉体で形成される。用いられる金属粉体は、例えば、金及びスズ(Au−Sn)の混合物でもよく、又は、第1の粉体としての金及びスズ並びに第2の粉体としての金の、2つの粉体の混合物であってもよい。低温はんだペースト又は粉体は、融点が約363℃のAu−Si組成物、融点が約361℃のAu−Ge、融点が約360℃のAu−Sb又は融点が約340℃のAu−Ga合金及び融点が約325℃のAu−Ga−In合金の、共晶合金で形成されていてもよい。さらに、貴金属元素を含まずかつSn、Sn−Pb又はInを含む、その他の種類のはんだ組成物を、約380℃の融点で用いてもよい。
【0027】
また、金属粉体及びセラミック粒子の混合物で形成されるはんだペースト又は粉体6を用いることを想定することも可能である。金属粉体は、容易に溶融可能でかつセラミック粒子を接着させる混合物の一部である。この種の混合物は、複合体の外観を呈しつつ、製作される区画の硬度を上昇させる利点を有する。
【0028】
図1eに示す第6のステップにおいても、とりわけベース基板2、樹脂4及びはんだペースト、又は、樹脂4のオープンな部分4aに挿填される粉体6で形成される組立品を加熱して、区画内のはんだペースト又は粉体6を溶融させる。その後、はんだペースト又は粉体を固化させる。区画内の液状はんだの毛細管現象により、前記低温はんだは良好な接着をするようになり、かつ、区画内の全てのスペースを完全に充填する。金属はんだペーストの場合は、有機添加物又は添加剤を、焼成により除去し、又は蒸発させる。
【0029】
図1fに示す第7のステップでは、感光性樹脂4の全てを除去する。この樹脂除去ステップの後に、金属区画6を含む要素が得られる。この要素は、例えば、そのパターンが
図2に三次元図で示される時計文字盤の形態で示される。
【0030】
図1gに示す第8のステップでは、各区画6同士の間の空隙をフィラー材料7で充填させ、このフィラー材料は好ましくは、コールドエナメル又は、着色顔料を含むエポキシ樹脂等のイミテーションエナメルであってもよい。装飾要素を作製するために、異なるフィラー材料7の色を選択して、区画6を充填してもよい。製作方法の終わりに、このイミテーションエナメルを乾燥及び固化することにより、装飾要素1を形成する。
【0031】
他の種類のフィラー材料7、例えば金属又は金属合金等を、区画と区画の間の空隙にペースト又は液状の形態で挿填し、次いで固化してもよい。フィラー材料としてセラミック又はサーメットを用いて、固化操作の前に、区画と区画の間に粉体又は液状の形態でこれを配置することは、想定されてもよい。仕上げられた後、
図3の上面図に示すように、装飾要素1は、時計文字盤の形態をとってもよい。
【0032】
無論、第8のステップの後、ベース基板2を除去することも可能であり、このベース基板は、例えば金属若しくはセラミック、若しくは陶性合金、又は半導体材料製で、機械加工又は選択溶解操作により製作される。この場合、このように得られる装飾要素1は、デザイン構造6によって包囲されるエポキシ樹脂7製のエナメルの部分7を有する。また、ベース基板2に対して、特にレーザー光線により凹部を形成し、区画と区画の間のフィラー材料7の機械的な接着を向上させてもよいことに留意すべきである。ミクロホール又は凹部を区画内に製作することにより、フィラー材料7の適切な接着を確保する。はんだペースト又は粉体が樹脂のオープンな部分に挿填される前に、これらの操作が実行される。フィラー材料7の厚さを変えて、二次元の又は三次元の装飾パターンを得ることが想定されてもよい。
【0033】
変形例の実施形態では、方法の第5のステップにおいて、樹脂4のオープンな部分4a内に、1つ以上のPVD又は電解金属層を堆積させることは、想定されてもよい。続いてこの樹脂を除去してもよく、そして、はんだペースト又は粉体6を、ベース基板2上に堆積された単数又は複数のPVD又は電解導電層上に堆積させる。はんだペースト又は粉体6を、装飾物のパターン内の導電層上で溶融する。液状のはんだは、金属化領域を濡らすのみであり、ベース基板2は濡らさず、そしてそれは、この場合ベース基板はセラミックであるため、はんだペースト又は粉体が所望のパターン及び適切な厚さで固化した後に、区画が作製される。その後、フィラー材料7を区画に挿填し、上記と同じ操作を実行して、装飾要素1を製作する。
【0034】
前記の変形実施形態では、樹脂が除去されたとすれば、はんだペースト又は粉体は低い融点を有する必要は無いことに、留意すべきである。しかしながら、はんだの融点は、加熱の前にはんだが堆積されるベース基板の融点より低くする必要がある。
【0035】
無論、この変形実施形態では、金属ベース基板を有することが想定されてもよいのであるが、その場合、PVD又はCVDにより、酸化物又は窒化物等の非金属層を少なくとも1層、金属はんだペースト又は粉体が堆積される装飾パターンの周りに、堆積させることが必要である。ベース基板が金属であるため、PVD又はCVDによりその他の導電層を堆積させることはない。これを達成するため、ベース基板上への感光性樹脂の堆積の後、樹脂には、形成しようとするパターンのマスクを通して、紫外線ビームを照射する。単数又は複数の非金属層を堆積させるため、及び、区画又は型の製作のための相補的パターンを画定するため、樹脂の非照射部分を、例えば除去する。単数又は複数の非金属層が堆積されたら、全ての樹脂を除去することができる。その後直ちに、はんだペースト又は粉体を、単数又は複数の非導電性層が除去された部分に堆積させる。はんだを溶融し、そして固化して、区画又は型を形成する。最後に、区画と区画の間の空隙に、フィラー材料を充填して、装飾要素を得ることができる。
【0036】
当業者は、ここに与えられた記載から、時計又は宝飾品のピースのために装飾要素を製作する方法のいくつかの変形例を、特許請求の範囲により定義される本発明の要旨を逸脱しない範囲で、想到することができる。装飾要素は、時計の針又は日付ディスク、又は、時計の他の部品、例えば第2のホイール、又は、振動重り、若しくは時計ケースの後蓋、であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 装飾要素
2 ベース基板
3 導電層
4 感光性樹脂
5 輪郭マスク
6 はんだペースト又は粉体
7 フィラー材料