特許第6131332号(P6131332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131332熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ及びこれらを用いる繊維強化複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131332
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ及びこれらを用いる繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20170508BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20170508BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20170508BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20170508BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C08L63/00
   C08L33/08
   C08L33/10
   C08K7/02
   C08J5/24CFC
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-550896(P2015-550896)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2014080869
(87)【国際公開番号】WO2015080035
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2016年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-243851(P2013-243851)
(32)【優先日】2013年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003090
【氏名又は名称】東邦テナックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】金子 徹
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−007682(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/001705(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/035859(WO,A1)
【文献】 特開平11−199755(JP,A)
【文献】 特開平08−302278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08L 33/08
C08L 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) エポキシ樹脂から成る熱硬化性樹脂(a)と、熱硬化性樹脂(a)100質量部に対して5〜40質量部の増粘粒子(b)であって熱硬化性樹脂(a)に分散している増粘粒子(b)と、を含んで成り、温度150℃で30秒間保持した後の粘度(150℃)が粘度Sを示し、該粘度Sが10〜300Pa・sである熱硬化性樹脂混合物と、
(2) 熱硬化性樹脂(a)の硬化剤であって、熱硬化性樹脂(a)100質量部に対して5〜30質量部の硬化剤と、
を含んで成る熱硬化性樹脂組成物であって、
該熱硬化性樹脂組成物は温度80〜120℃で最低粘度Rを示し、該最低粘度Rが0.1〜10Pa・sであるとともに、
粘度Sと最低粘度Rとが、以下の式(1)
5 < S/R < 200 ・・・式(1)
の関係を満たすとともに
増粘粒子(b)が、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物及びビニル系化合物から成る群から選択される1種又は2種以上の重合単位からなる重合体であり;コアシェル構造を有さず;前記熱硬化性樹脂組成物に10質量%混合されることによりその150℃における粘度を10倍以上に増加させる増粘粒子であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
温度50℃における粘度が、50〜1000Pa・sである請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
温度150℃でのゲルタイムが、40〜200秒である請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
強化繊維基材と、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物とからなり、
前記強化繊維基材内に前記熱硬化性樹脂組成物の一部又は全部が含浸して成るプリプレグ。
【請求項5】
前記強化繊維基材が、繊維長5〜100mmの短繊維で形成されたマットである請求項に記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項に記載のプリプレグを、金型内で温度130〜170℃、圧力0.2〜10MPaで1〜10分間加熱加圧する繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項7】
袋状の内圧バッグの外側に請求項に記載のプリプレグを積重して内部に前記内圧バッグを有するプリフォームを得、
前記プリフォームを金型内に配置し、
前記金型内で温度130〜170℃、圧力0.2〜2MPaで1〜10分間加熱加圧する繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載のプリプレグ及びフィルムバッグを金型に順次積重して前記金型と前記フィルムバッグとの間に前記プリプレグを密閉した後、
前記金型と前記フィルムバッグとにより形成される空間を真空とし、
前記金型を型締して形成される前記金型のキャビティ内を空気により圧力0.2〜2MPaに加圧するとともに、前記金型内で前記プリプレグを昇温速度2〜100℃/分で130〜170℃まで加熱し、該温度で1〜10分間加熱加圧する繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、この熱硬化性樹脂組成物が強化繊維基材内に含浸して成るプリプレグ、及びこのプリプレグを用いる繊維強化複合材料の製造方法に関する。特に、ハイサイクルプレス成形に好適なプリプレグ及びこれを用いる繊維強化複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料(以下、「FRP」ともいう。)は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、釣り竿やゴルフシャフト等のスポーツ・レジャー用途、自動車や航空機等の産業用途等の幅広い分野で用いられている。FRPは、強化繊維基材層内に樹脂を含浸させて成るプリプレグを用いて製造する方法が好適に採用される。即ち、プリプレグを所望の形状に切断した後に賦形し、金型内で加熱してプリプレグを構成する樹脂を硬化させることによりFRPは製造される。しかし、一般にエポキシ樹脂を用いるプリプレグは、成形時間が長いため、自動車部材のような量産性を求められる部材を生産するには適さない。
【0003】
一方、高温高圧を用いるハイサイクルプレス成形は、その生産性の高さから、自動車部材の生産に多用されている。特許文献1には、ハイサイクルプレス成形によりプリプレグを成形する方法が記載されている。
【0004】
ハイサイクルプレス成形では、通常、100〜150℃、1〜15MPaの高温高圧条件が用いられる。この高温高圧条件は、プリプレグを構成する樹脂の硬化時間を短縮できる。また、金型内においてプリプレグを構成する樹脂を適度に流動させることにより、プリプレグ内に含まれるガスを排出することができる。しかし、高温高圧条件でプレス成形する場合、プリプレグを構成する樹脂の温度が上昇して樹脂粘度が著しく低下する。その結果、金型の構造によっては、シアエッジ部からの樹脂の流出が激しく生じる(以下、成形工程における加熱及び加圧により、プリプレグ内から樹脂が流出する現象を「樹脂フロー」ともいう)。そのため、得られるFRPは、樹脂組成物の未含浸部分(樹脂枯れ)や繊維蛇行のような外観不良、及びこれらに起因する性能不良が生じる。また、金型内のエジェクターピンやエアー弁等に樹脂が流入することによる金型の動作不良等を生じる場合がある。
【0005】
特許文献2には、樹脂フローを抑制する方法として、高粘度のエポキシ樹脂を用いたり、エポキシ樹脂に熱可塑性樹脂を添加したりする方法が記載されている。しかし、高粘度のエポキシ樹脂を用いる場合、常温(25℃)における樹脂粘度も高くなる。そのため、積層作業が困難になる等、プリプレグの取扱性が著しく低い。
【0006】
特許文献3〜5には、常温時におけるプリプレグの取扱性を改善し、Tg及び硬化速度を低下させることなく、樹脂フローを抑制したハイサイクルプレス成形用のプリプレグが記載されている。特許文献3〜5に記載のプリプレグに用いられる樹脂は、液状エポキシ樹脂に熱可塑樹脂を溶解させ、樹脂粘度を上昇させたものである。しかし、プリプレグ製造時における樹脂粘度も高くなるため、強化繊維基材層内への樹脂の含浸性が低下し、成形後のFRPにボイドを生じる場合がある。
【0007】
従来の樹脂組成物を用いる場合、強化繊維基材層内への樹脂組成物の含浸に長時間を要する。また、プリプレグの成形工程に長時間を要するため、ハイサイクルプレス成形を行うことが困難である。
【0008】
ハイサイクルプレス成形に最適な成形温度域においてエポキシ樹脂の粘度をコントロールする方法は見出されていない。したがって、エポキシ樹脂を用いるハイサイクルプレス成形用のプリプレグであって、十分な性能を有するプリプレグは従来存在しない。そのため、ハイサイクルプレス成形に適用することのできる、エポキシ樹脂を用いたプリプレグの開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2004/48435号
【特許文献2】特開2005−213352号
【特許文献3】特開2009−292976号
【特許文献4】特開2009−292977号
【特許文献5】特開2010−248379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
FRPの成形時においては、加熱によって粘度が低下した樹脂組成物が加圧されることにより、該樹脂組成物がプリプレグの内部や表面で激しく流動する。そのため、プリプレグ内から該樹脂組成物が流出し、得られるFRPの内部や表面に樹脂組成物の未含浸部分(樹脂枯れ)が形成される。また、該樹脂組成物の流動に起因して、強化繊維基材の配列が乱れる。その結果、得られるFRPの外観や物性が低下する。さらに、強化繊維基材層内への樹脂の含浸時やプリプレグの成形時における温度や圧力の僅かな違いによって樹脂組成物の粘度が大きく変動する。その結果、得られるFRPの性能にばらつきが生じやすくなる。
【0011】
本発明の課題は、強化繊維基材層内に樹脂組成物を十分に含浸することができ、常温におけるプリプレグの取扱性が高く、かつ成形時における樹脂フローが抑制される樹脂組成物を提供することである。即ち、樹脂含浸性及びプリプレグの取扱性を高く維持しつつも、成形時における樹脂フローを抑制することのできる樹脂組成物を提供することである。また、樹脂含浸時又は成形時において、温度変化に対する粘度変化が小さい樹脂組成物を提供することである。さらには、この樹脂組成物を強化繊維基材層内に含浸させてなるプリプレグ及び該プリプレグを用いるFRPの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂組成物中に、所定温度で膨潤して粘度を上昇させる増粘粒子を配合して、熱硬化性樹脂組成物の粘度を制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載のものである。
【0014】
〔1〕 (1) 熱硬化性樹脂(a)と、増粘粒子(b)と、から成り、温度150℃で30秒間保持した後の粘度(150℃)が粘度Sを示す熱硬化性樹脂混合物と、
(2) 硬化剤と、
を含んで成る熱硬化性樹脂組成物であって、
該熱硬化性樹脂組成物は温度80〜120℃で最低粘度Rを示し、該最低粘度Rが0.1〜10Pa・sであるとともに、
粘度Sと最低粘度Rとが、以下の式(1)
5 < S/R < 200 ・・・式(1)
の関係を満たすことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【0015】
〔2〕 粘度Sが、10〜300Pa・sである〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0016】
〔3〕 温度50℃における粘度が、50〜1000Pa・sである〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0017】
〔4〕 温度150℃でのゲルタイムが、40〜200秒である〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0018】
〔5〕 熱硬化性樹脂(a)が、エポキシ樹脂である〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0019】
〔6〕 増粘粒子(b)が、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物及びビニル系化合物から成る群から選択される1種又は2種以上の重合単位からなる重合体である〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0020】
〔7〕 強化繊維基材と、
〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物と、
からなり、
前記強化繊維基材層内に前記熱硬化性樹脂組成物の一部又は全部が含浸して成るプリプレグ。
【0021】
〔8〕 前記プリプレグが、繊維長5〜100mmの短繊維で形成されたマットである〔7〕に記載のプリプレグ。
【0022】
〔9〕 〔7〕に記載のプリプレグを、金型内で温度130〜170℃、圧力0.2〜10MPaで1〜10分間加熱加圧する繊維強化複合材料の製造方法。
【0023】
〔10〕 袋状の内圧バッグの外側に〔7〕に記載のプリプレグを積重して、内部に前記内圧バッグを有するプリフォームを得、
前記プリフォームを金型内に配置して前記金型内で温度130〜170℃、圧力0.2〜2MPaで1〜10分間加熱加圧する繊維強化複合材料の製造方法。
【0024】
〔11〕 〔7〕に記載のプリプレグ及びフィルムバッグを金型の下型に順次積重して前記金型と前記フィルムバッグとの間に前記プリプレグを密封した後、
前記金型と前記フィルムバッグとにより形成される空間内を真空とし、
前記金型を型締して形成される前記金型のキャビティ内を空気により圧力0.2〜2MPaに加圧するとともに、前記金型内で前記プリプレグを昇温速度2〜100℃/分で130〜170℃まで加熱し、該温度で1〜10分間加熱加圧する繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、本来低粘度である樹脂組成物の粘度を増粘粒子(b)を用いて上昇させている。そのため、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて作製したプリプレグは、常温における取扱性が優れる。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、樹脂含浸時又は成形時において、加熱により急激に樹脂粘度が上昇し、且つ、温度変化に対する粘度変化が小さい温度帯を有している。この粘度変化が小さい温度帯で成形を行うことにより、成形時の温度条件や圧力条件を精密に制御しなくても、FRPの品質を安定させることができる。
【0027】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて作製したプリプレグは、プレス成形時における樹脂の過剰な流動が生じ難い。その結果、得られるFRPの外観不良、性能不良、及び金型の動作不良等が抑制される。
【0028】
本発明のプリプレグは、特にハイサイクルプレス成形に好適に用いることができる。そのため、本発明のプリプレグを用いて行う本発明のFRPの製造方法は生産性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、熱硬化性樹脂(a)の粘度曲線及び熱硬化性樹脂混合物の粘度曲線の一例である。
図2図2は、本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度曲線の一例である。
図3図3は、プレス成形に用いる金型の一例を示す説明図である。
図4図4は、内圧成形に用いる金型の一例を示す説明図である。
図5図5は、真空アシスト圧空加圧成形に用いる金型の一例を示す説明図である。
図6図6は、FRPの形状の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、熱硬化性樹脂混合物と硬化剤とを含んで成る。熱硬化性樹脂混合物は、熱硬化性樹脂(a)と増粘粒子(b)とを含んで成る。本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、増粘粒子(b)が所定温度で膨潤することにより熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度を上昇させる。
【0031】
(1) 熱硬化性樹脂組成物[A]
本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、熱硬化性樹脂混合物と硬化剤とを含んで成り、該熱硬化性樹脂組成物[A]は温度80〜120℃で最低粘度Rを示し、該最低粘度Rは0.1〜10Pa・sである。熱硬化性樹脂組成物[A]を構成する熱硬化性樹脂混合物は、熱硬化性樹脂(a)と増粘粒子(b)とを含んで成り、150℃で30秒間保持した後の粘度(150℃)が粘度Sを示す。なお、熱硬化性樹脂混合物には硬化剤は含まれない。本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、粘度Sと最低粘度Rとが、以下の式(1)
5 < S/R < 200 ・・・式(1)
の関係を満たすことを特徴とする。なお、特に断りのない限り、本明細書における粘度は、測定温度で30秒間保持した後の粘度をいう。
【0032】
S/Rが5未満である場合、成形時において、プリプレグ内に含浸されている樹脂組成物の粘度が安定せず、該樹脂組成物が急激に流動することにより、得られるFRPに樹脂枯れや繊維蛇行のような外観不良及び性能不良が生じ易い。S/Rが200を超える場合、成形時において、プリプレグ内に含浸されている樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎて、得られるFRPの内部にボイド等の欠陥が発生し、性能不良が生じ易い。
【0033】
粘度Sは、150℃で、10〜300Pa・sであることが好ましく、15〜250Pa・sであることがより好ましく、15〜150Pa・sであることが特に好ましい。10Pa・s未満である場合、成形時に樹脂組成物が急激に流動することにより、得られるFRPに樹脂枯れや繊維蛇行のような外観不良及び性能不良が生じ易い。300Pa・sを超える場合、強化繊維基材層内への樹脂組成物の含浸が不十分になる傾向がある。
【0034】
本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、温度の上昇とともに粘度が低下し、80〜120℃において最低粘度Rに達する。最低粘度Rに達した後、温度をさらに上昇させると、90〜130℃において増粘粒子(b)の膨潤に起因して粘度が急激に上昇する。熱硬化性樹脂組成物[A]は、硬化剤を含んでいるため、熱硬化性樹脂(a)と硬化剤との硬化反応に起因する粘度の上昇も生じる。即ち、熱硬化性樹脂組成物[A]は、増粘粒子(b)の膨潤に起因する粘度の上昇と、熱硬化性樹脂(a)と硬化剤との硬化反応に起因する粘度の上昇と、が生じる。一方、熱硬化性樹脂組成物[A]を構成する熱硬化性樹脂混合物は、硬化剤を含まないため、増粘粒子(b)の膨潤に起因する粘度の上昇のみが生じる。熱硬化性樹脂混合物を150℃で30秒間保持した後の粘度Sは、熱硬化性樹脂組成物[A]の最低粘度Rの5〜200倍である。
【0035】
熱硬化性樹脂(a)と硬化剤との硬化反応に起因して粘度が上昇するのに先立って、増粘粒子(b)の膨潤に起因する急激な粘度上昇が生じるので、本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は粘度変化が緩やかになる温度帯を有している。即ち、本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、加熱に伴ってその粘度が急激に上昇する温度帯と、緩やかに上昇する温度帯とを有している。
【0036】
図1は、熱硬化性樹脂(a)の粘度曲線及び熱硬化性樹脂混合物の粘度曲線の一例である。図1中、12は熱硬化性樹脂混合物の粘度曲線である。なお、特に断りのない限り、本明細書において粘度曲線は、2℃/分で昇温した際の温度−粘度曲線を意味する。図1中、符号11から符号13の温度帯では、温度の上昇にとともに熱硬化性樹脂混合物の粘度が低下している。熱硬化性樹脂混合物は、13において最低粘度となった後、13から15の温度帯において急激に粘度が上昇する。この粘度の急激な上昇は、熱硬化性樹脂混合物中の増粘粒子(b)の膨潤に起因している。15から17の温度帯では、熱硬化性樹脂混合物の粘度は略一定乃至緩やかに上昇する。この温度帯は、熱硬化性樹脂混合物中の増粘粒子(b)の膨潤に起因する増粘効果が飽和に達している温度帯である。
【0037】
図1中、14は熱硬化性樹脂(a)の粘度曲線である。熱硬化性樹脂(a)は、すべての温度帯において温度の上昇とともに粘度が低下している。図1中、16は熱硬化性樹脂(a)と他の熱可塑樹脂粒子(本発明における増粘粒子(b)ではない)とから成る従来公知の混合物の粘度変化を示す粘度曲線である。15から17の温度帯では、他の熱可塑樹脂粒子の溶解による増粘が生じているが、粘度上昇は僅かである。
【0038】
図2は、本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度曲線の一例である。図2中、20は熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度曲線である。図2中、符号11から符号13の温度帯では、温度の上昇とともに熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度が低下している。熱硬化性樹脂組成物[A]は、13において最低粘度となった後、13から15の温度帯において急激に粘度が上昇する。この粘度の上昇は、主に熱硬化性樹脂組成物[A]中の増粘粒子(b)の膨潤に起因している。15から17の温度帯では、熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度は略一定乃至緩やかに上昇する。この温度帯は、熱硬化性樹脂組成物[A]の増粘粒子(b)の膨潤に起因する増粘効果が飽和に達している温度帯である。17から19の温度帯では、熱硬化性樹脂組成物[A]中の熱硬化性樹脂(a)と硬化剤との硬化反応に起因して粘度が上昇している。
【0039】
図2中、22は熱硬化性樹脂と硬化剤とから成り、増粘粒子(b)を含まない樹脂組成物、即ち従来の樹脂組成物の粘度変化を示す粘度曲線である。13から17の温度帯では、熱硬化性樹脂と硬化剤との硬化反応に起因して粘度が上昇している。本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]においても同様の増粘が生じているが、熱硬化性樹脂組成物[A]においては、増粘粒子(b)の膨潤に起因する増粘が支配的であるため、熱硬化性樹脂(a)と硬化剤との硬化反応に起因する増粘は、13から17の温度帯において顕在化していない。
【0040】
本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、粘度が略一定の温度帯(15から17)を有している。この温度帯における粘度は、熱硬化性樹脂組成物[A]を用いて作製されるプリプレグを成形するのに適した粘度である。熱硬化性樹脂組成物[A]は、成形に適した粘度を広い温度範囲で有する。本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]を用いて作製されるプリプレグは、成形時の温度条件や圧力条件を精密に制御しなくても、安定した品質のFRPを製造することができる。
【0041】
本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、50℃における粘度が、50〜1000Pa・sであることが好ましく、70〜700Pa・sであることがより好ましく、80〜500Pa・sであることが特に好ましい。50Pa・s未満の樹脂組成物を用いてプリプレグを作製する場合、樹脂組成物のベトつきによってプリプレグの取扱性が低下する。1000Pa・sを超える場合、強化繊維基材層内への樹脂組成物の含浸が不十分になる傾向がある。
【0042】
ハイサイクル成形性の観点から、熱硬化性樹脂組成物[A]は、150℃でのゲルタイムが40〜200秒であることが好ましく、40〜150秒であることが好ましい。
【0043】
強化繊維基材層内への含浸を容易にするために、熱硬化性樹脂組成物[A]は低粘度になる温度帯を有していることが必要である。熱硬化性樹脂組成物[A]は、最低粘度Rが0.1〜10Pa・sであり、0.5〜8Pa・sであることが好ましい。該最低粘度を示す温度は、熱硬化性樹脂組成物[A]の組成によって異なるが、熱硬化性樹脂組成物[A]が80〜120℃である時の粘度である。
【0044】
本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]は、高粘度の熱硬化性樹脂組成物を用いる場合の利点である成形時における樹脂の流動抑制能と、低粘度の熱硬化性樹脂組成物を用いる場合の利点である樹脂の含浸性及びプリプレグの取扱性と、の両方が優れている。
【0045】
(1−1)熱硬化性樹脂混合物
熱硬化性樹脂混合物は、熱硬化性樹脂(a)と、増粘粒子(b)とを含んで成り、硬化剤を含まない混合物である。
【0046】
(1−1−1) 熱硬化性樹脂(a)
本発明において熱硬化樹脂(a)としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂や、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂とを予備重合した樹脂等が挙げられる。本発明においては、これらの樹脂の混合物を使用することもできる。特に、耐熱性、弾性率及び耐薬品性に優れたエポキシ樹脂が好ましい。
【0047】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂などの2官能エポキシ樹脂;テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0048】
さらには、フェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂が挙げられる。また、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などの各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。
【0049】
特に、分子内に芳香族基を有するエポキシ樹脂が好ましく、グリシジルアミン構造、グリシジルエーテル構造のいずれかを有するエポキシ樹脂がより好ましい。また、脂環族エポキシ樹脂も好適に用いることができる。
【0050】
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−3−メチル−4−アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体が例示される。
【0051】
グリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
【0052】
これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて、芳香族環構造などに非反応性置換基を有していても良い。非反応性置換基としては、メチル、エチル、イソプロピルなどのアルキル基;フェニルなどの芳香族基;アルコキシル基、アラルキル基、塩素や臭素などのハロゲン基が例示される。
【0053】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等が挙げられる。具体的には三菱化学(株)社製jER815(商品名)、jER828(商品名)、jER834(商品名)、jER1001(商品名)、jER807(商品名)、三井石油化学製エポミックR−710(商品名)、大日本インキ化学工業製EXA1514(商品名)が例示される。
【0054】
脂環型エポキシ樹脂としては、ハンツマン社製社製アラルダイトCY−179(商品名)、CY−178(商品名)、CY−182(商品名)、CY−183(商品名)が例示される。
【0055】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、三菱化学(株)社製jER152(商品名)、jER154(商品名)、ダウケミカル社製DEN431(商品名)、DEN485(商品名)、DEN438(商品名)、DIC社製エピクロンN740(商品名)が例示される。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、ハンツマン社製社製アラルダイトECN1235(商品名)、ECN1273(商品名)、ECN1280(商品名)、日本化薬製EOCN102(商品名)、EOCN103(商品名)、EOCN104(商品名)、新日鉄住金化学製エポトートYDCN−700−10(商品名)、エポトートYDCN−704(商品名)、DIC社製エピクロンN680(商品名)、エピクロンN695(商品名)が例示される。
【0056】
各種変性エポキシ樹脂としては、例えば、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂として旭電化製アデカレジンEPU−6(商品名)、EPU−4(商品名)が例示される。
【0057】
これらのエポキシ樹脂は、適宜選択して1種又は2種以上を混合して用いることができる。この中で、ビスフェノール型に代表される2官能エポキシ樹脂は、分子量の違いにより液状から固形まで種々のグレードの樹脂がある。したがって、これらの樹脂は樹脂組成物の粘度調整を行う目的で配合すると好都合である。
【0058】
(1−1−2) 増粘粒子(b)
本発明における増粘粒子とは、熱硬化性樹脂組成物[A]に混合し、熱を加えた時に増粘する効果がある粒子であり、熱硬化性樹脂組成物[A]に対して10質量%混合した樹脂組成物の粘度(150℃で30秒間保持した後の粘度)が、熱硬化性樹脂組成物[A]の150℃における粘度の10倍以上、好ましくは50倍以上となる樹脂粒子をいう。
【0059】
本発明で用いる増粘粒子(b)としては、単独又は複数の不飽和化合物と架橋性モノマーとを共重合して得られる粒子が例示される。特に限定されないが、アクリル酸エステル系化合物、メタクリル酸エステル系化合物、ビニル化合物の少なくとも1種を単量体単位とする樹脂を含むことが望ましい。
【0060】
増粘粒子(b)に用いるアクリル酸エステル系化合物とは、アクリル酸エステル構造を有する化合物とその誘導体をいい、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートが挙げられる。
【0061】
増粘粒子(b)に用いるメタクリル酸エステル化合物とは、メタクリル酸エステル構造を有する化合物とその誘導体をいい、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートが挙げられる。
【0062】
増粘粒子(b)に用いるビニル化合物とは、重合可能なビニル構造を有する化合物をいい、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン及びこれらの芳香環がアルキル基やハロゲン原子等の種々の官能基で置換された化合物が挙げられる。
【0063】
また、増粘粒子(b)は、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物、ビニル系化合物の1種又は2種以上の重合単位からなる重合体であってもよく、構造の異なる2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。さらに、
(i)アクリル酸エステル系化合物又はメタクリル酸エステル系化合物、ジエン系化合物の少なくとも1種からなる重合体と、
(ii)アクリル酸エステル系化合物又はメタクリル酸エステル系化合物とラジカル重合性不飽和カルボン酸とからなる重合体と、に、
(iii)金属イオンを添加することでイオン架橋させた複合樹脂であってもよい。
【0064】
増粘粒子(b)としては、ゼフィアックF325やゼフィアックF320(いずれもアイカ工業(株))のような、コアシェル構造を有さないメタクリル酸アルキル重合体からなる市販品を用いることも好ましい。なお、コアシェル構造を有するメタクリル酸アルキル重合体は、シェル構造に起因して熱硬化性樹脂組成物中において膨潤し難く、粘度を上昇させる効果が低いため好ましくない。
【0065】
増粘粒子(b)の粒径等については特に限定されないが、平均粒子径が0.3〜10μmであることが好ましく、0.5〜8μmであることがより好ましい。増粘粒子(b)は、加熱により1〜50μmに膨潤する。増粘粒子(b)の含有量は、熱硬化性樹脂(a)100質量部に対して5〜40質量部であることが好ましく、6〜30質量部であることがより好ましく、8〜20質量部であることが特に好ましい。
【0066】
熱硬化性樹脂組成物[A]内に分散する増粘粒子(b)は、加熱により熱硬化性樹脂組成物[A]内で膨潤する。該増粘粒子(b)の膨潤は、温度及び時間とともに進行し、増粘粒子(b)の膨潤に伴って熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度は急激に上昇する。
【0067】
熱硬化性樹脂組成物[A]は、増粘粒子(b)の膨潤前においては粘度が低いため、強化繊維基材層内への含浸性が優れる。増粘粒子(b)が膨潤して熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度が強化繊維基材層内で上昇すると、成形時における樹脂フローが抑制される。増粘粒子(b)の膨潤する温度(本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]では120〜170℃)においてプリプレグを10〜90秒間保持して増粘粒子(b)を十分に膨潤させた後に成形することにより、樹脂含浸性と、樹脂フローの抑制と、を高い次元で両立できる。
【0068】
(1−2) 硬化剤
本発明で用いる硬化剤としては、ジシアンジアミド、芳香族アミン系硬化剤、ウレア系硬化剤の各種異性体、イミダゾール化合物が挙げられる。硬化性や硬化後の物性が優れる点から、アミド系の硬化剤であるジシアンジアミド(DICY)やイミダゾール化合物が好ましい。
【0069】
ジシアンジアミド(DICY)の具体例としては、三菱化学(株)製のjERキュアーDICY7、DICY15等が挙げられる。
【0070】
また、DICYを用いる場合には、ウレア系の硬化剤と併用することがより好ましい。DICYはエポキシ樹脂への溶解性がそれほど高くないため、十分に溶解させるためには160℃以上の高温に加熱する必要がある。しかし、ウレア系の硬化剤と併用することにより溶解温度を下げることができる。
【0071】
ウレア系の硬化剤としては、例えば、フェニルジメチルウレア(PDMU)、トルエンビスジメチルウレア(TBDMU)等が挙げられる。
【0072】
熱硬化性樹脂組成物[A]における硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂(a)100質量部に対して5〜30質量部である。硬化剤の配合量が5質量部以上であれば、架橋密度が十分になり、また十分な硬化速度が得られる。硬化剤の配合量が30質量部以下であれば、硬化剤が過剰に存在することによる硬化樹脂の機械物性の低下や硬化樹脂の濁り等の不具合を抑制することができる。
【0073】
硬化剤として、DICY及びウレア系硬化剤(PDMU、TBDMU等)を併用する場合、それらの配合量は、エポキシ樹脂(a)100質量部に対して、DICYが4〜15質量部、ウレア系硬化剤が3〜10質量部(ただし、DICYとウレア系硬化剤の合計量が7〜20質量部である。)であることが好ましい。
【0074】
イミダゾール化合物の例としては、1H−イミダゾールの5位の水素をヒドロキシメチル基で、かつ、2位の水素をフェニル基又はトルイル基で置換したイミダゾール化合物が挙げられる。このようなイミダゾール化合物としては、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−パラトルイル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−メタトルイル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−メタトルイル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−パラトルイル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールが例示される。このうち、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−パラトルイル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−メタトルイル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−メタトルイル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−パラトルイル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールがより好ましい。
【0075】
また、イミダゾール化合物の例としては、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−メチルイミダゾールや、グリシジルエーテル型の熱硬化性樹脂と2−メチルイミダゾールとを反応させて得られるアダクト化合物が挙げられる。特に、アリールグリシジルエーテル型の熱硬化性樹脂と2−メチルイミダゾールとを反応させて得られるアダクト化合物は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の物性を優れたものとすることができるので好ましい。硬化剤として、イミダゾール化合物を使用する場合、熱硬化性樹脂(a)100質量部に対して、イミダゾール化合物が2〜30質量部であることが好ましく、3〜15質量部であることが好ましい。
【0076】
(1−3) その他の添加剤
本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]には、難燃剤や無機系充填剤、内部離型剤が配合されてもよい。
【0077】
難燃剤としては、リン系難燃剤が例示される。リン系難燃剤としては、分子中にリン原子を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物、ポリリン酸塩などの有機リン化合物や赤リンなどが挙げられる。
【0078】
リン酸エステルは、リン酸とアルコール化合物又はフェノール化合物とのエステル化合物をいう。本発明においてはリン酸エステルを配合することにより、繊維強化複合材料に難燃性を付与することができる。
【0079】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート及びこれらの縮合物などを挙げることができる。
【0080】
縮合リン酸エステルとしては、レゾルシノールビス(ジ2,6−キシリル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)などが挙げられる。レゾルシノールビス(ジ2,6−キシリル)ホスフェートの市販品としては、PX−200(大八化学工業(株)製)が挙げられる。レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)の市販品としては、CR−733S(大八化学工業(株)製)が挙げられる。ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)の市販品としては、CR−741(大八化学工業(株)製)が挙げられる。特に、硬化性及び耐熱性に優れる点から、レゾルシノールビス(ジ2,6−キシリル)ホスフェートが好ましく用いられる。
【0081】
ホスファゼン化合物は、分子中にリン原子と窒素原子とを含有することにより、FRPに難燃性を付与することができる。ホスファゼン化合物は、ハロゲン原子を含まず、分子中にホスファゼン構造を持つ化合物であれば特に限定されない。ホスファゼン化合物の市販品としては、SPR−100、SA−100、SPB−100、SPB−100L(以上、大塚化学(株)製)、FP−100、FP−110(以上、伏見製薬所製)が挙げられる。
【0082】
リン原子の難燃効果は、リン原子の炭化物形成の促進効果によるものと考えられており、熱硬化性樹脂組成物中のリン原子含有率に影響される。本発明において、熱硬化性樹脂組成物[A]中のリン原子の含有率は、1.2〜4.0質量%であることが好ましく、1.4〜4.0質量%であることがさらに好ましい。リン原子含有率が1.2質量%未満である場合、難燃効果が十分に得られないことがある。リン原子含有率が4.0質量%を超える場合、FRPの耐熱性が低下したり、力学特性、特に剛性やシャルピー衝撃値が低下したりする場合がある。ここでいうリン含有率(質量%)は、リン原子の質量(g)/熱硬化性樹脂組成物[A]の質量(g)×100で求められる。なお、熱硬化性樹脂組成物[A]中のリン原子含有率は、上述の計算方法により求めることができる。また、熱硬化性樹脂組成物[A]やFRPの有機元素分析やICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることもできる。
【0083】
上記リン系難燃剤の中でも、取扱性が良好であり、かつ透明な色味の樹脂硬化物が得られることから、リン酸エステル及びホスファゼン化合物が好ましく用いられる。
【0084】
無機系充填材としては、例えば、ホウ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイト、硫酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸塩鉱物が挙げられる。特に、ケイ酸塩鉱物を用いることが好ましい。ケイ酸塩鉱物の市販品としては、THIXOTROPIC AGENT DT 5039(ハンツマン・ジャパン株式会社 製)が挙げられる。本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]にケイ酸塩鉱物を添加することで、プリプレグ内からの熱硬化性樹脂組成物[A]の流出がさらに抑制され、成形時に、高品質のFRPが得られる。
【0085】
内部離型剤としては、例えば、金属石鹸類、ポリエチレンワックスやカルバナワックス等の植物ワックス、脂肪酸エステル系離型剤、シリコンオイル、動物ワックス、フッ素系非イオン界面活性剤を挙げることができる。これら内部離型剤の配合量は、前記熱硬化樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.2〜2質量部であることがさらに好ましい。この範囲内においては、金型からの離型効果が好適に発揮される。
【0086】
内部離型剤の市販品としては、“MOLD WIZ(登録商標)” INT1846(AXEL PLASTICS RESEARCH LABORATORIES INC.製)、Licowax S、Licowax P、Licowax OP、Licowax PE190、Licowax PED(クラリアントジャパン社製)、ステアリルステアレート(SL−900A;理研ビタミン(株)製が挙げられる。
【0087】
(1−4) 熱硬化性樹脂組成物[A]の製造方法
熱硬化性樹脂組成物[A]は、熱硬化性樹脂(a)と、増粘粒子(b)と、硬化剤と、を混合することにより製造できる。これらの混合の順序は問わない。即ち、熱硬化性樹脂組成物[A]は、熱硬化性樹脂(a)と増粘粒子(b)とを混合して成る熱硬化性樹脂混合物を先に製造し、次いで、この熱硬化性樹脂混合物に硬化剤を混合することにより製造しても良いし、熱硬化性樹脂(a)と増粘粒子(b)と硬化剤とを同時に混合して製造しても良い。
【0088】
熱硬化性樹脂組成物[A]の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。混合温度としては、40〜120℃の範囲が例示できる。120℃を超える場合、部分的に硬化反応が進行して強化繊維基材層内への含浸性が低下したり、得られる樹脂組成物及びそれを用いて製造されるプリプレグの保存安定性が低下したりする場合がある。40℃未満である場合、樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混合が困難となる場合がある。好ましくは50〜100℃であり、さらに好ましくは50〜90℃の範囲である。
【0089】
混合機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を備えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混合は、大気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。大気中で混合が行われる場合は、温度、湿度が管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混合することが好ましい。
【0090】
(2) プリプレグ
本発明のプリプレグは、強化繊維基材と熱硬化性樹脂組成物[A]とから成る。熱硬化性樹脂組成物[A]は強化繊維基材層内に一部又は全部が含浸して、強化繊維基材と一体化している。
【0091】
本発明のプリプレグの形状は、強化繊維がシート状に形成されたプリプレグシートであっても良く、強化繊維がストランド状に形成されたストランドプリプレグであっても良い。
【0092】
本発明のプリプレグは、本来の粘度が低い樹脂組成物を用いているため、強化繊維基材層内への樹脂含浸が容易である。そして、加熱成形時、その樹脂組成物の粘度を所定温度帯において増粘粒子(b)を用いて上昇させている。そのため、熱硬化性樹脂組成物[A]は、粘度変化が緩やかになる温度帯を有し、該温度帯において成形することにより、プリプレグ内からの樹脂フローを抑制できる。その結果、本発明のプリプレグを用いて作製されるFRPは樹脂枯れ等の成形不良が生じ難い。一方、使用する熱硬化性樹脂等を適宜選択して樹脂組成物自体の粘度を高くする方法や、熱可塑性樹脂を樹脂組成物に溶解して樹脂組成物の粘度を高くする従来の方法の場合、該樹脂組成物の粘度は全体的に上昇する。この場合、樹脂フローを抑制することはできるが、樹脂組成物の強化繊維基材層内への含浸性は低下する。その結果、このようにして粘度を上昇させた従来の樹脂組成物を用いて作製されたプリプレグは、樹脂の未含浸部分が多く、該プリプレグを用いて作製するFRPにはボイドが多く形成される。
【0093】
熱硬化性樹脂組成物[A]の含有率(RC)は、プリプレグの全質量を基準として、15〜60質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましく、25〜45質量%であることが特に好ましい。含有率が15質量%未満である場合は、得られるFRPに空隙などが発生し、機械特性等を低下させる場合がある。含有率が60質量%を超える場合は、強化繊維による補強効果が不十分となり、得られるFRPの機械特性等を低下させる場合がある。
【0094】
熱硬化性樹脂組成物の含有率(RC)は、プリプレグを硫酸に浸漬して、プリプレグ内に含浸している樹脂組成物を溶出させることにより求められる。具体的には以下の方法により求められる。
【0095】
先ず、プリプレグを100mm×100mmに切り出して試験片を作製し、その質量を測定する。次いで、このプリプレグの試験片を硫酸中に浸漬して必要により煮沸する。これにより、プリプレグ内に含浸している樹脂組成物を分解して硫酸中に溶出させる。その後、残った繊維をろ別して硫酸で洗浄後、乾燥させて繊維の質量を測定する。硫酸による分解操作の前後の質量変化から樹脂組成物の含有率を算出する。
【0096】
本発明のプリプレグの形態は、強化繊維基材と、前記強化繊維基材層内に含浸された熱硬化性樹脂組成物[A]とからなる強化層と、前記強化層の表面に被覆された樹脂被覆層とからなることが好ましい。樹脂被覆層の厚みは2〜50μmが好ましい。樹脂被覆層の厚みが2μm未満の場合、タック性が不十分となり、プリプレグの成形加工性が著しく低下する場合がある。樹脂被覆層の厚みが50μmを超える場合、プリプレグを均質な厚みでロール状に巻き取ることが困難となり、成形精度が著しく低下する場合がある。樹脂被覆層の厚みは、5〜45μmがより好ましく、10〜40μmが特に好ましい。
【0097】
(2−1) 強化繊維基材
強化繊維基材としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維から成る基材が例示される。これらの強化繊維の中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましい。比強度、比弾性率が良好で、軽量かつ高強度のFRPが得られる点で、炭素繊維がより好ましい。引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
【0098】
強化繊維にPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は、100〜600GPaであることが好ましく、200〜500GPaであることがより好ましく、230〜450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は2000〜10000MPa、好ましくは3000〜8000MPaである。炭素繊維の直径は4〜20μmが好ましく、5〜10μmがより好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、得られるFRPの機械特性を向上できる。
【0099】
強化繊維基材はシート状に形成して用いることが好ましい。強化繊維基材シートとしては、例えば、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシートや、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙を挙げることができる。
【0100】
シート状の強化繊維基材の厚さは、0.01〜3mmが好ましく、0.1〜1.5mmがより好ましい。これらの強化繊維基材は、公知のサイズ剤を公知の含有量で含んでいても良い。
【0101】
本発明のプリプレグは、強化繊維がストランド状に形成されたストランドプリプレグを用いることができる。ストランドプリプレグは、シート状の一方向プリプレグを分繊することにより作製される。ストランドプリプレグの幅は、3〜20mmが好ましく、6〜10mmがより好ましい。また、ストランドプリプレグを長さ方向にカットし、短繊維プリプレグとすることが好ましい。繊維長は、5〜100mmが好ましく、10〜50mmがより好ましい。カット後の短繊維プリプレグは、マット状に形成してプリプレグマットとすることが好ましい。
【0102】
(2−2) プリプレグの製造方法
本発明のプリプレグの製造方法は、特に制限がなく、従来公知のいかなる方法も採用できる。具体的には、ホットメルト法や溶剤法が好適に採用できる。
【0103】
ホットメルト法は、離型紙の上に、樹脂組成物を薄いフィルム状に塗布して樹脂組成物フィルムを形成し、強化繊維基材に該樹脂組成物フィルムを積層して加圧下で加熱することにより樹脂組成物を強化繊維基材層内に含浸させる方法である。
【0104】
樹脂組成物を樹脂組成物フィルムにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを用いて、離型紙やフィルムなどの支持体上に樹脂組成物を流延、キャストをすることにより樹脂組成物フィルムを得ることができる。フィルムを製造する際の樹脂温度は、樹脂組成物の組成や粘度に応じて適宜決定する。具体的には、前述の熱硬化性樹脂組成物の製造方法における混合温度と同じ温度条件が好適に用いられる。樹脂組成物の強化繊維基材層内への含浸は1回で行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。
【0105】
溶剤法は、熱硬化性樹脂組成物を適当な溶媒を用いてワニス状にし、このワニスを強化繊維基材層内に含浸させる方法である。
【0106】
本発明のプリプレグは、これらの従来法の中でも、溶剤を用いないホットメルト法により好適に製造することができる。
【0107】
熱硬化性樹脂組成物フィルムをホットメルト法で強化繊維基材層内に含浸させる場合の含浸温度は、50〜120℃の範囲が好ましい。含浸温度が50℃未満の場合、熱硬化性樹脂組成物フィルムは粘度が高く、強化繊維基材層内へ十分に含浸しない場合がある。含浸温度が120℃を超える場合、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が進行し、得られるプリプレグの保存安定性が低下したり、ドレープ性が低下したりする場合がある。含浸温度は、60〜110℃がより好ましく、70〜100℃が特に好ましい。
【0108】
熱硬化性樹脂組成物フィルムをホットメルト法で強化繊維基材層内に含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。
【0109】
(3) 繊維強化複合材料(FRP)
本発明のプリプレグを特定の条件で加熱加圧して硬化させることにより、FRPを得ることができる。本発明のプリプレグを用いて、FRPを製造する方法としては、プレス成形、内圧成形及び真空アシスト圧空加圧成形等が挙げられる。
【0110】
(3−1)プレス成形法
本発明のFRPの製造方法としては、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂組成物[A]の特徴を活かして、生産性が高く、良質なFRPが得られるという観点から、プレス成形法が好ましい。プレス成形法によるFRPの製造は、本発明のプリプレグ又は本発明のプリプレグを積層して形成したプリフォームを、金型を用いて加熱加圧することにより行う。金型は、予め硬化温度に加熱しておくことが好ましい。
【0111】
プレス成形時の金型の温度は、130〜170℃が好ましい。この温度帯は、本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度が一定乃至緩やかに上昇する温度帯である。成形温度が130℃以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性でFRPを得ることができる。また、成形温度が170℃以下であれば、樹脂粘度が低くなり過ぎることがなく、金型内における樹脂の過剰な流動を抑えることができる。その結果、金型からの樹脂の流出や繊維の蛇行を抑制できるため、高品質のFRPが得られる。
【0112】
金型に挟み込んだプリプレグは、加圧前に上記温度の金型内で10〜90秒間保持することが好ましい。これにより、熱硬化性樹脂組成物[A]中の増粘粒子(b)が十分に膨潤して、熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度を十分に上昇させることができる。粘度の上昇により、プリプレグ内からの熱硬化性樹脂組成物[A]の流出が抑制される。また、プリプレグは、熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度変化が小さい温度帯においてプレス成形されるため、得られるFRPに未含浸部が生じ難い。
【0113】
成形時の圧力は、0.2〜10MPaである。圧力が0.2MPa以上であれば、樹脂の適度な流動が得られ、外観不良やボイドの発生を防ぐことができる。また、プリプレグが十分に金型に密着するため、良好な外観のFRPを製造することができる。圧力が10MPa以下であれば、樹脂を必要以上に流動させることがないため、得られるFRPの外観不良が生じ難い。また、金型に必要以上の負荷をかけることがないため、金型の変形等が生じ難い。
【0114】
(3−2)内圧成形法
本発明のFRPの製造方法としては、内圧成形法も好ましく採用される。内圧成形法とは、袋状の内圧バッグの外側にプリプレグを敷設して、内部に内圧バッグを有するプリプレグ積層体を得、このプリプレグ積層体を金型内に配置して型締し、該金型内で前記内圧バッグを膨張させることにより、プリプレグを該金型の内壁に内接させ、この状態で加熱硬化させる成形方法である。
【0115】
内圧成形法でFRPを製造する方法について説明する。先ず、本発明のプリプレグを金型の上型及び下型にそれぞれ敷設する。次に、プリプレグが敷設されている上型と下型との間に内圧バッグを挟み込んで上型と下型とを型締する。これにより、内部に内圧バッグを有するプリプレグ積層体が得られる。その後、金型内の内圧バッグを膨張させることにより、金型内のプリプレグを金型の内壁に内接させるとともに、この状態で金型を加熱することによりプリプレグを加熱硬化させる。所定時間経過後、金型から成形体を取り出し、内圧バッグを除去してFRPが得られる。
生産性の観点から、プリプレグを敷設する前に、金型を硬化温度に予熱しておくことが好ましい。
【0116】
内圧バッグの材質は、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性があり且つ耐熱性に優れた材質であることが好ましい。
【0117】
内圧成形時の金型内の温度は、130〜170℃が好ましい。この温度帯は、本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度が一定乃至緩やかに上昇する温度帯である。成形温度が130℃以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性でFRPを得ることができる。また、成形温度が170℃以下であれば、樹脂粘度が低くなり過ぎることがなく、金型内における樹脂の過剰な流動を抑えることができる。その結果、金型からの樹脂の流出や繊維の蛇行を抑制し、高品質のFRPが得られる。
【0118】
成形時の圧力は、0.2〜2MPaである。圧力が0.2MPa以上であれば、樹脂の適度な流動が得られ、外観不良やボイドの発生を防ぐことができる。また、プリプレグが十分に金型に密着するため良好な外観のFRPを得ることができる。圧力が2MPa以下であれば、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性がある内圧バッグが破壊され難い。
【0119】
(3−3)真空アシスト圧空加圧成形法
本発明のFRPの製造方法としては、真空アシスト圧空加圧成形法も好ましく用いられる。真空アシスト圧空加圧成形法とは、金型の下型にプリプレグ及びフィルムバッグを順次敷設し、該プリプレグを下型とフィルムバッグとの間に密封し、下型とフィルムバッグとにより形成される空間を真空にするとともに、上型と下型とを型締めして形成される金型のキャビティ内を空気加圧してプリプレグを加熱硬化させる成形方法である。
【0120】
真空アシスト圧空加圧成形法でFRPを製造する方法について説明する。先ず、本発明のプリプレグを金型の下型に敷設する。次に、該プリプレグの上にフィルムバッグを積重し、下型とフィルムバッグとの間に該プリプレグを密封する。その後、下型とフィルムバッグとにより形成される空間を真空にすることにより該プリプレグを下型に当接させる。さらに、金型を型締して形成される金型のキャビティ内を空気加圧して該プリプレグを下型にさらに密着させる。この状態で加熱することにより該プリプレグを加熱硬化させる。所定時間経過後、金型から成形体を取り出し、フィルムバッグを除去してFRPが得られる。
生産性の観点から、下型は急速に加熱できるような加熱機構を有していることが好ましい。
【0121】
フィルムバッグの材質は、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性があり且つ耐熱性に優れた材質であることが好ましい。
【0122】
金型の温度は、20〜50℃でプリプレグ及びフィルムバッグを積重して真空状態とし、その後、昇温速度2〜100℃/分で130〜170℃まで加熱することが好ましい。この温度帯は、本発明の熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度が一定乃至緩やかに上昇する温度帯である。成形温度が130℃以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性でFRPを得ることができる。また、成形温度が170℃以下であれば、樹脂粘度が低くなり過ぎることがなく、金型内における樹脂の過剰な流動を抑えることができ、金型からの樹脂の流出や繊維の蛇行を抑制できるため、高品質のFRPが得られる。
【0123】
成形時の圧力は、0.2〜2MPaである。圧力が0.2MPa以上であれば、樹脂の適度な流動が得られ、外観不良やボイドの発生を防ぐことができる。また、プリプレグが十分に金型に密着するため、良好な外観のFRPを得ることができる。圧力が2MPa以下であれば、ナイロンやシリコンゴムのような、可撓性があるフィルムバッグが破壊され難い。
【0124】
本発明の製造方法における硬化時間は1〜10分間であり、従来と比較して短時間である。即ち、優れた品質のFRPを高い生産性で製造することができる。
【0125】
以上説明した本発明の製造方法によれば、成形時に金型に不良が生じることを抑制することができる。また、外観不良、性能不良等を抑えた高品質なFRPを高い生産性で得ることができる。
【実施例】
【0126】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に説明する。
【0127】
(炭素繊維)
“テナックス(登録商標)”HTS40−12K:(引張強度4.2GPa、引張弾性率240GPa、東邦テナックス(株)製)
【0128】
(熱硬化性樹脂)
“jER(登録商標)”154:(半固形フェノールノボラック型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
“jER(登録商標)”828:(液状ビスフェニールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
“jER(登録商標)”834:(液状ビスフェニールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
“jER(登録商標)”1001:(固形ビスフェニールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
“エポトート(登録商標)”704:(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学(株)製)
“ネオポール(登録商標)”8026:(液状ビニルエステル樹脂、日本ユピカ(株)製)
“リポキシ(登録商標)”V−60:(固形ビニルエステル樹脂、昭和電工(株)製)
【0129】
(硬化剤)
Dicy7:(ジシアンジアミド、三菱化学(株)製)
“オミキュア(登録商標)”24:(2,4’−トルエンビス(3,3−ジメチルウレア)、ピイ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)
“オミキュア(登録商標)”52:(4,4’−メチレンビス(ジフェニルジメチルウレア)、ピイ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)
DCMU−99:(3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレア、保土谷化学工業(株)製)
2P4MHZ−PW:(2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、四国化成工業(株)製)
“ノバキュア(登録商標)”HX3748:(マイクロカプセル封入されたイミダゾール化合物、旭化成イーマテリアルズ(株)製
“アミキュア(登録商標)”VDH:(ヒドラジド化合物、味の素ファインテクノ(株)製
パーブチルD:(有機過酸化物、日油(株)製)
【0130】
(増粘粒子)
“ゼフィアック(登録商標)”F320:(メタクリル酸アルキル重合体)、平均重合度30,000、アイカ工業(株)製)
“ゼフィアック(登録商標)”F325:(メタクリル酸アルキル重合体)、平均重合度4,000、アイカ工業(株)製)
“ゼフィアック(登録商標)”F351:(コアシェル構造のアクリル共重合体)、アイカ工業(株)製)
【0131】
(その他 難燃剤)
PX−200:(レゾルシノールビス(ジ2,6−キシリル)ホスフェート、リン含有率9.0質量%、大八化学工業(株)製)
SPB−100:(ホスホニトリル酸フェニルエステル、リン含有率13.4質量%、大塚化学(株)製)
【0132】
(その他 無機系充填剤)
THIXOTROPIC AGENT DT−5039(ハンツマン・ジャパン(株)製)
【0133】
(その他 内部離型剤)
MOLD WIZ(登録商標)” INT1846(AXEL PLASTICS RESEARCH LABORATORIES INC.製)
Licowax E(クラリアントジャパン社製)
(その他 熱可塑樹脂粒子)
E2020P粒子:ポリエーテルスルホン(商品名ウルトラゾーンE2020P、BASF製、質量平均分子量32,000)を平均粒子径10μmに粉砕した粒子
【0134】
(実施例1〜16、比較例1〜7)
(1) 熱硬化性樹脂組成物の調合
ニーダー中に、表1〜4に記載する割合で熱硬化性樹脂を所定量加え、混錬しながら150℃まで昇温させ、固形成分を完全に溶解させた。その後、混錬しながら60℃の温度まで降温させ、硬化剤、増粘粒子等を表1〜4に記載する割合で加えて30分間撹拌することにより均一に分散させ、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0135】
(2) 熱硬化性樹脂組成物のゲル化時間
熱硬化性樹脂組成物から3gをサンプルとして準備し、樹脂の硬化を追跡するためにキュラストメータIIF−120(JSRトレーディング(株)製)を用いて、150℃の温度でゲル化時間を測定した。
【0136】
(3)熱硬化性樹脂混合物及び熱硬化性樹脂組成物の粘度評価
レオメトリクス社製レオメーターARES−RDAを用いた。直径25mmのパラレルプレート間の樹脂の厚さを0.5mmとした。角速度10ラジアン/秒の条件で昇温速度2℃/分で180℃まで粘度測定を行った。得られた温度−粘度曲線を用いて、最低粘度R及び熱硬化性樹脂組成物の50℃の粘度を測定した。
また、熱硬化性樹脂混合物を150℃で30秒間保持した後の粘度Sは、レオメトリクス社製レオメーターARES−RDAを用い、直径25mmのパラレルプレート間の樹脂の厚さを0.5mmとし、角速度10ラジアン/秒の条件で、昇温速度40℃/分で150℃まで昇温後、150℃で30秒間保持した時の粘度を測定した。
【0137】
(4) プリプレグの作製
プリプレグは、次のように作製した。リバースロールコーターを用いて、離型紙上に、上記で得られた熱硬化性樹脂組成物を塗布して50g/m目付の樹脂フィルムを作製した。次に、単位面積当たりの繊維質量が200g/mとなるように炭素繊維を一方向に整列させてシート状の強化繊維基材層を作製した。この強化繊維基材層の両面に上記樹脂フィルムを積重し、温度95℃、圧力0.2MPaの条件で加熱加圧して、炭素繊維含有率が67質量%の一方向プリプレグを作製した。
【0138】
(5) プリプレグの樹脂フロー量(%)の測定
上記で得られたプリプレグを150mm×150mmの寸法にカットし、0°/90°/0°/90°/0°の5層に積層したプリプレグ積層体を得た。金型の上型及び下型を予め150℃に加熱し、下型上に前記プリプレグ積層体を配置し、すぐに上型を降ろして金型を閉め、0.1MPaで30秒間保持してプリプレグ内の樹脂を加熱増粘させた。その後、2MPaの圧力をかけて、5分間加熱加圧してプリプレグ積層体を硬化させた。次いで、金型から成形品を取り出してFRPを得た。成形前後の質量を測定し、プリプレグの樹脂フロー量(%)を算出した。
W1;成形前のプリプレグ積層体の質量(g)
W2;成形後の成形品(樹脂のバリ除去後)の質量(g)
プリプレグの樹脂フロー量(%)=(W1−W2)/W1×100
【0139】
(6) FRP内部欠陥の測定及び判定
上記プリプレグの樹脂フロー測定後のFRPを超音波探傷装置(SDS−3600:日本クラウトクレイマー社製)を用い、二重透過法で、周波数5Hz、増幅度 19dBで測定を行った。測定した面積に対し、しきい値50%以下の割合を算出し、FRPの内部欠陥を評価した。
内部欠陥の判定
○:非常に良好:しきい値50%以下の割合が1.0%未満
△:良好 :しきい値50%以下の割合が1.0%以上3.0%未満
×:不良 :しきい値50%以下の割合が3.0%以上
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】
【0144】
(実施例17)
図3は、図6に記載のお盆(tray)形状のFRPをプレス成形法により成形するための金型である。31は金型であり、32は上型、33は下型である。先ず、実施例1で得られた一方向プリプレグを300mm×300mmの寸法にカットし、0°/90°/0°/90°/0°の5層に積層してプリプレグ積層体を得た。金型31の上型32及び下型33を予め150℃に加熱した。下型33の上に前記プリプレグ積層体を配置し、すぐに上型32を降ろして金型31を型締し、0.1MPaで15秒間保持することによりプリプレグ内の樹脂を増粘させた。その後、2MPaで5分間加熱加圧することによりプリプレグ積層体を硬化させた。金型から取り出して得られたFRP(図6)は、表面の繊維乱れやボイドが無く、良好な外観を有していた。
【0145】
(実施例18)
図4は、楕円パイプ形状のFRPを内圧成形により成形するための金型である。図4中、41は金型であり、42は上型、43は下型である。
実施例1で得られたプリプレグを幅200mm×長さ300mmの寸法にカットし、0°/90°/0°/90°/0°の5層で、楕円パイプ形状に積層して中空形状のプリフォーム44を得た。プリフォーム44の内部45には、袋状のナイロン製内圧バッグ46を配置した。金型41を予め150℃に加熱した。下型43の上に内圧バッグ46入りのプリフォーム44を配置し、すぐに上型42を降ろして型締した。その後、内圧バッグ46内に0.5MPaのエアー圧力を加え、その状態で5分間加熱加圧してプリフォーム44を硬化させた。成形品を金型から取り出し、内圧バッグを取り除いて、楕円パイプ形状のFRPを得た。得られたFRPは、表面の繊維乱れやボイドが無く、良好な外観を有していた。
【0146】
(実施例19)
図5は、図6に記載のお盆(tray)形状のFRPを真空アシスト圧空加圧成形法により成形するための金型である。図5中、51は内圧成形用金型であり、52は上型、53は下型である。実施例1で得られた一方向プリプレグを300mm×300mmの寸法にカットし、金型51の下型53の上に、0°/90°/0°/90°/0°の5層に積層してプリプレグ積層体54を得た。その後、ナイロン製のフィルムバッグ56をプリプレグ積層体54の上に積重して下型53とフィルムバッグ56との間にプリプレグ積層体54を密封した。次いで、下型53とフィルムバッグ56とにより形成される空間を真空とした。その後、160℃に加熱した熱板プレスの上に、上型52と下型53とを配置し、プレス装置で型締した。上型52と下型53との空間55に空気を導入して0.5MPaの圧力を加えた。この状態で、150℃で5分間加熱加圧してプリプレグ積層体54を硬化させた。成形品を金型から取り出し、フィルムバッグ56を取り除いて、お盆形状のFRP(図6)を得た。得られたFRPは、表面の繊維乱れやボイドが無く、良好な外観を有していた。
【0147】
(実施例20)
実施例1で得られた一方向プリプレグを6mm幅で縦方向に分繊するとともに、繊維長を50mmでカットし、短繊維プリプレグを作製した。この短繊維プリプレグを平面に散布し、マット状の短繊維プリプレグを作製した。マット状の短繊維プリプレグを作製した。マット状短繊維プリプレグの目付を2500g/mに調整し、250mm×250mmの寸法にカットした。
図3の金型31の上型32及び下型33を予め150℃に加熱した。下型33の上に前記マット状短繊維プリプレグを配置し、すぐに上型32を降ろして金型を型締し、0.5MPaで10秒間保持することによりプリプレグ内の樹脂を加熱増粘させた。その後、5MPaの圧力をかけて、5分間加熱加圧することによりプリプレグを硬化させた。金型から取り出して得られたFRP(図6)は、短繊維プリプレグの端部まで樹脂が流動しており、ボイドが無く、良好な外観を有していた。
【符号の説明】
【0148】
11、13、15、17、19:温度
12:熱硬化性樹脂混合物の粘度曲線
14:熱硬化性樹脂(a)の粘度曲線
16:熱硬化性樹脂(a)と他の熱可塑樹脂粒子とから成る従来公知の混合物の粘度変化を示す粘度曲線
20:熱硬化性樹脂組成物[A]の粘度曲線
22:従来の樹脂組成物の粘度曲線
31:プレス成形用金型
32:上型
33:下型
41:内圧成形用金型
42:上型
43:下型
44:プリフォーム
45:キャビティ
46:内圧バッグ
51:内圧成形用金型
52:上型
53:下型
54:プリプレグ積層体
55:キャビティ
56:フィルムバッグ
60:成形品
図1
図2
図3
図4
図5
図6