特許第6131337号(P6131337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131337
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】熱伝導性マイクロ化学チップ
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20170508BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20170508BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20170508BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20170508BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20170508BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20170508BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20170508BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20170508BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20170508BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20170508BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20170508BHJP
   G01N 35/00 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
   B01J19/00 321
   B01J31/22 Z
   C08L83/07
   C08L83/04
   C08K3/22
   C08K5/56
   C12M1/00 A
   C12M1/34 E
   C12M1/34 Z
   C12M1/34 F
   C12M1/34 A
   G01N37/00 101
   B81B1/00
   B81C3/00
   !G01N35/00 B
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-554815(P2015-554815)
(86)(22)【出願日】2014年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2014083648
(87)【国際公開番号】WO2015098719
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-272333(P2013-272333)
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】特許業務法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 和久
(72)【発明者】
【氏名】高野 努
(72)【発明者】
【氏名】生方 優也
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−188677(JP,A)
【文献】 特表2010−527293(JP,A)
【文献】 特開2011−053091(JP,A)
【文献】 特開2005−074796(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/098720(WO,A1)
【文献】 "気体透過性のことなど(1)",日本ゴム協会誌,日本,1982年,Vol.55 No.10,pp.682-684
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B81B 1/00
B81C 3/00
C12M 1/00
G01N 35/00
G01N 37/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体、試薬及び試料から選ばれる流動試料を加圧及び/又は毛細管現象により流し込み化学反応及び/又は化学作用させる流路を凹んで及び/又は貫孔してゴム、樹脂、金属、セラミックス及び/又はガラスで形成された単数又は複数の流路担持基板シートと、ゴム、樹脂、金属、セラミックス及び/又はガラスで形成され、前記流路に繋がる受渡穴を開けており前記流路を覆う前記流路担持基板シートをその最上面及び/又は最下面に接して担持する流路維持基板シートとが、重ねられて、少なくとも何れかのシート表面でコロナ処理、プラズマ処理及び紫外線照射処理から選ばれる乾式処理と分子接着剤処理との少なくとも何れかによる直接的な及び/又は前記分子接着剤を介した間接的な共有結合により、接合して一体化しており、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとのそれぞれの前記流路と前記受渡穴とが、流動試料注入口から流動試料排出口へ立体的に順次繋がり、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイトカーボン、チッ化ケイ素、チッ化ホウ素及びチッ化アルミニウムから選ばれる少なくとも何れかの熱伝導性フィラー粉末を含んだ熱伝導性シートであり、
前記流路担持基板シート又は前記流路維持基板シートの少なくとも一部が、ガラスビーズ及び/又はゼオライトを配合したシリコーンゴム原料組成物と、水溶性アルコールを配合したシリコーン組成物とから選ばれる少なくとも何れかで形成され、白金触媒を含んでいる発泡性シリコーンゴムシートであることを特徴とする熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項2】
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、シリコーンゴムで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項3】
前記シリコーンゴムが、ビニルメトキシシリル基を有する炭素数6〜12のシランカップリング剤を、含んでいることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項4】
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、珪藻土、マイカ、タルク及び/又はカオリンを含むことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、三酸化アンチモン及び水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも何れかの難燃剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項6】
前記共有結合が、エーテル結合であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項7】
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、アナターゼ型又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されたシリコーンゴムで形成されることにより、反射率を80〜100%とする高反射性シリコーンゴムシートであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項8】
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン−メチレン共重合体ゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム及び/又はヒドリンゴムで形成されることにより、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス及び水蒸気の少なくとも何れかのガスのガス透過率を500〜0.05(cc/cm2/mm/sec/cm・Hg×1010)とする低ガス透過性ゴムシートであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項9】
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、パーオキサイド架橋シリコーンゴム、付加架橋シリコーンゴム、縮合架橋シリコーンゴム、放射線架橋又は電子線架橋シリコーンゴム及びこれらのうちの何れかのシリコーンゴムとオレフィン系ゴムとの共ブレンド物から選ばれる何れかで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項10】
前記流路の一部が拡径して液溜部となっていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性マイクロ化学チップ。
【請求項11】
単数又は複数のゴム製の流路担持基板シートに、検体、試薬及び試料から選ばれる流動試料を加圧及び/又は毛細管現象により流し込み化学反応及び/又は化学作用させる流路を、設ける流路成形工程と、
ゴム、樹脂、金属、セラミックス及び/又はガラスで形成され、前記流路に繋がる受渡穴を開けており前記流路担持基板シートを挟む流路維持基板シートを、形成する受渡穴形成工程と、
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線照射処理する処理工程と、
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、常圧下、加圧下又は減圧下で重ねて、直接、又は分子接着剤を介した共有結合により、接合して、一体化する接合工程とを有し、
酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイトカーボン、チッ化ケイ素、チッ化ホウ素及びチッ化アルミニウムから選ばれる少なくとも何れかの熱伝導性フィラー粉末を含んだシリコーンゴム組成物で成形して、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、熱伝導性シートにすることを特徴とする熱伝導性マイクロ化学チップの製造方法。
【請求項12】
前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、シリコーンゴムで形成することを特徴とする請求項11に記載の熱伝導性マイクロ化学チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来検体を被験物としそのバイオ成分を微細流路に流して微量分析する装置や、薬理作用を示すバイオ成分等の有用物質の原材料成分や反応基質等の試薬を微細流路に流してこれら有用物質を化学的に微量合成するマイクロリアクターや、細胞増殖等のためのマイクロ生化学処理器に装着して用いられ、流路内部の熱を外界に放熱したり外部の熱を流路内部に伝導したりする熱伝導性マイクロ化学チップに関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿などの生体由来検体である被験物をμLオーダーの微量だけ用いて、酵素の特異的基質選択性を利用し、検体中の基質と作用する酵素反応量やその基質量を酵素又は基質で発色する試薬による着色程度で定量するのに、マイクロバイオチップが用いられている。また、酵素含有膜を用い酵素反応量を電極で電気信号に変換して基質量を定量したりする分析や、DNA抽出・そのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅や、イオン濃度測定や、核酸、糖、タンパク質又はペプチドの微量合成などをμMオーダーで行う際に、マイクロリアクターチップが用いられている。また、有用細胞やウィルスを増殖させたり、検査のために癌細胞を付着させたりするのに、マイクロ生化学チップが用いられている。
【0003】
このマイクロバイオチップやマイクロリアクターチップやマイクロ生化学チップなどのマイクロ化学チップは、懸濁液や溶液である検体や液体である試薬や細胞液のような試料などの流動試料を加圧して送り込み、流動させて混合、反応、分離、付着、検出するための反応チャンネルとして、溝状の微細流路を有している。
【0004】
マイクロ化学チップは、ステンレス基材、シリコン基材、石英基材又はガラス基材である無機基材や、樹脂基材又はゴム基材である有機基材に、数10〜数100μmの微細流路を切削やエッチングで形成したものである。
【0005】
例えば、有機基材で形成されたマイクロ化学チップは、特許文献1のように、微細流路を有し、透明性の高いプラスチック樹脂で形成されたものである。樹脂基材やゴム基材は成形や切削加工が容易いので、それらを接着剤で貼付し又は熱融着して形成したマイクロ化学チップは、大量生産に適している。特に透明な有機基材又は無機基材で形成されていると、光学系分析に便利である。
【0006】
このような微細流路に検体や試薬を高圧に加圧して送り込むと、高圧の圧力と微細流路での摩擦とによって希少で貴重な検体や試薬や試料が昇温し変質する恐れがある。そこで、マイクロ化学チップの裏面に、アルミニウム箔のような金属薄膜が接着剤層を介して接着されることがある。金属薄膜は熱伝導性が良いので、マイクロ化学チップを放冷する必要があるとき熱を放熱し、マイクロ化学チップをヒーターで加熱するとき熱を伝導する。
【0007】
このような無機基材や有機基材と金属薄膜とは、接着剤層を介し分子間力による物理的な相互作用により接着されているに過ぎないから、共有結合ほどの強い結合力で接着されていない。そのため、微細流路に検体や試薬や試料を高圧に加圧して送り込む際に、無機基材と金属薄膜との間の熱膨張率が相違することや、高圧による微細流路の膨張に応じた有機基材の変形に金属薄膜が追従できないことに起因して、無機基材や有機基材と金属薄膜とが、剥がれて隙間を生じ易い。その隙間のため、マイクロ化学チップ内部の熱を十分で均一に放熱ができず、マイクロ化学チップの流路内で検体や試薬や試料が分解等の所為で、微量分析が正確にできなかったり、微量合成が不十分で原材料成分や反応基質が残存し又は副反応を誘発したり、生きた細胞が死滅したりウィルスが分解したりする。一方、その隙間のため、マイクロ化学チップをヒーターで加熱するとき熱を伝導し難く、充分で均一に加熱できず、マイクロ化学チップ内で検体や試薬が反応せず微量分析が正確にできなかったり、微量合成が不十分で原材料成分や反応基質が反応しなかったりする。さらに、金属薄膜は光を透過しないので、マイクロ化学チップが透明な有機基材又は無機基材を用いて折角形成されていても、光学系分析に供することができなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−218611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、微量の生体由来検体のような貴重な検体や稀薄で微量の試薬や繊細な細胞・ウィルスなどの試料を高圧での加圧や毛細管現象で流動させる微細な流路が確実に形成され、精度良くかつ確実に所望通りに流路へ送り込むことができ、放冷すべき場合に放熱によって高温に晒されず又はヒーターで昇温すべき場合に加熱でき、その検体中のバイオ成分や試薬の有用物質や細胞・ウィルス等の試料を正確かつ簡便に短期間で分析したり反応させたり培養・増幅させたりでき、歩留まり良く大量かつ均質に製造できる簡易で小型の熱伝導性マイクロ化学チップを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた本発明の熱伝導性マイクロ化学チップは、検体、試薬及び試料から選ばれる流動試料を加圧及び/又は毛細管現象により流し込み化学反応及び/又は化学作用させる流路を凹んで及び/又は貫孔してゴム、樹脂、金属、セラミックス及び/又はガラスで形成された単数又は複数の流路担持基板シートと、ゴム、樹脂、金属、セラミックス及び/又はガラスで形成され、前記流路に繋がる受渡穴を開けており前記流路を覆う前記流路担持基板シートをその最上面及び/又は最下面に接して担持する流路維持基板シートとが、重ねられて、少なくとも何れかのシート表面でコロナ処理、プラズマ処理及び紫外線照射処理から選ばれる乾式処理と分子接着剤処理との少なくとも何れかによる直接的な及び/又は前記分子接着剤を介した間接的な共有結合により、接合して一体化しており、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとのそれぞれの前記流路と前記受渡穴とが、流動試料注入口から流動試料排出口へ立体的に順次繋がり、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイトカーボン、チッ化ケイ素、チッ化ホウ素及びチッ化アルミニウムから選ばれる少なくとも何れかの熱伝導性フィラー粉末を含んだ熱伝導性シートであり、前記流路担持基板シート又は前記流路維持基板シートの少なくとも一部が、ガラスビーズ及び/又はゼオライトを配合したシリコーンゴム原料組成物と、水溶性アルコールを配合したシリコーン組成物とから選ばれる少なくとも何れかで形成され、白金触媒を含んでいる発泡性シリコーンゴムシートである。紫外線照射処理とは、紫外線を照射する処理であれば限定されないが、広域波長域又は複数波長の紫外線を照射する一般的な紫外線処理(UV処理)であってもよく、単一波長と見做せるエキシマ紫外線を照射するエキシマ紫外線処理(エキシマUV処理)であってもよい。
【0011】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、シリコーンゴムで形成されているものでもよい。
【0013】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記シリコーンゴムが、ビニルメトキシシリル基を有する炭素数6〜12のシランカップリング剤を、含んでいるものでもよい。
【0014】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、珪藻土、マイカ、タルク及び/又はカオリンを含むものであることが好ましい。
【0015】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、三酸化アンチモン及び水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも何れかの難燃剤を含むものであってもよい。
【0016】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記共有結合が、エーテル結合であるものでもよい。
【0018】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、アナターゼ型又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されたシリコーンゴムで形成されることにより、反射率を80〜100%とする高反射性シリコーンゴムシートであるものでもよい。
【0019】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン−メチレン共重合体ゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム及び/又はヒドリンゴムで形成されることにより、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス及び水蒸気の少なくとも何れかのガスのガス透過率を500〜0.05(cc/cm2/mm/sec/cm・Hg×1010)とする低ガス透過性ゴムシートであるものでもよい。
【0020】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかが、パーオキサイド架橋シリコーンゴム、付加架橋シリコーンゴム、縮合架橋シリコーンゴム、放射線架橋又は電子線架橋シリコーンゴム及びこれらのうちの何れかのシリコーンゴムとオレフィン系ゴムとの共ブレンド物から選ばれる何れかで形成されているものでもよい。
【0021】
熱伝導性マイクロ化学チップは、前記流路の一部が拡径して液溜部となっているものであってもよい。
【0022】
本発明の熱伝導性マイクロ化学チップの製造方法は、単数又は複数のゴム製の流路担持基板シートに、検体、試薬及び試料から選ばれる流動試料を加圧及び/又は毛細管現象により流し込み化学反応及び/又は化学作用させる流路を、設ける流路成形工程と、ゴム、樹脂、金属、セラミックス及び/又はガラスで形成され、前記流路に繋がる受渡穴を開けており前記流路担持基板シートを挟む流路維持基板シートを、形成する受渡穴形成工程と、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、コロナ処理、プラズマ処理、及び紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)する処理工程と、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、常圧下、加圧下又は減圧下で重ねて、直接、又は分子接着剤を介した共有結合により、接合して、一体化する接合工程とを有し、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイトカーボン、チッ化ケイ素、チッ化ホウ素及びチッ化アルミニウムから選ばれる少なくとも何れかの熱伝導性フィラー粉末を含んだシリコーンゴム組成物で成形して、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、熱伝導性シートにするというものである。
【0023】
熱伝導性マイクロ化学チップの製造方法は、前記流路担持基板シートと前記流路維持基板シートとの少なくとも何れかを、シリコーンゴムで形成するものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱伝導性マイクロ化学チップは、流動試料を高圧での加圧や毛細管現象によりそれの微細な流路へ流し込んだときに、シリコーンゴム製熱伝導性シートが放熱し易いことによって、充分に放冷する。そのため、微量の生体由来検体のような貴重な検体や稀薄で微量の試薬や繊細な細胞・ウィルスの試料のような流動試料を高温に晒させず、不意に分解したり副反応で不純物にしたり死滅・分解したりすることなく、所望の通り分析したり反応させたり培養・増幅させたりすることができる。また、熱伝導性マイクロ化学チップは、意図的にヒーターで昇温して加熱される場合でも、シリコーンゴム製熱伝導性シートが熱伝導し易いことによって、速やかに加熱され適温に維持できる。
【0025】
この熱伝導性マイクロ化学チップは、流路担持基板シートと流路維持基板シートとが、直接的な化学的分子間結合、即ちエーテル結合のような共有結合による強固な接着で、そのシート上の流路領域外の接合面で確りと接合している。そのため、流動試料を漏らさずに高圧に加圧して流動させる微細な流路が、確実に形成されている。
【0026】
この熱伝導性マイクロ化学チップは、単数又は複数の流路担持基板シートのそれぞれに直線や曲線を組み合わせた線状やその末端乃至途中で拡大したり集束又は分岐したりした複雑なパターン形状で0.5μm〜5mm幅の微細な流路が、精密に形成することができるものである。そのような微細な流路を有していても、検体や試薬である流動体が加圧されて送り込まれその流路で流動する際に、流路担持基板シートと流路維持基板シートとが剥がれないので、この熱伝導性マイクロ化学チップが破損しない。
【0027】
この熱伝導性マイクロ化学チップは、微細な流路に常圧〜5気圧程度の圧力で、液状又はガス状の検体や試薬や細胞液等である流動試料を送り込んでも、氷冷下〜120℃程度、汎用的には0〜100℃程度又は20〜120℃程度の低温乃至高温の温度範囲で加熱冷却を繰り返しながら検体や試薬を送り込んでも、流路担持基板シートのゴム弾性により流路が破損しない。
【0028】
この熱伝導性マイクロ化学チップによれば、検体や試薬や試料である流動試料を確実かつ精度良く所望の流路へ、所望の温度に維持しつつ、送り込むことができる。その結果、その検体中のバイオ成分等の有用物質を正確かつ簡便に短期間で分析したり、薬理作用を示すバイオ成分等の有用物質の原材料成分や反応基質等の試薬を目的通りに反応させたり、細胞やウィスルを培養・増幅させたりできる。
【0029】
この熱伝導性マイクロ化学チップは、流路担持基板シートの流路を微細にして、検体や試薬や試料と流路担持基板シートや流路維持基板シートとの接触を可能な限り抑え、検体や試薬や試料の不意な汚染や吸着を防止することができる。
【0030】
この熱伝導性マイクロ化学チップは、ディスポーザブルで用いられる場合、別な検体や試薬や試料の混入による汚染の恐れが無く、信頼性のある結果を得ることができるものである。
【0031】
この熱伝導性マイクロ化学チップは、外形が数mm〜十数cm四方で極めて小型であり簡易な構造にすることができるものである。この熱伝導性マイクロ化学チップは、小型でも多数の直列、並列又は分岐した流路を平面状及び/又は立体状に備え、注入口や排出口を多数設けて、複数の反応過程を直列又は並列若しくは立体的かつ縦横無尽に経る多機能にすることができる。そのため大掛かりな分析装置などを用いなくてもポータブルの分析装置を用いて、屋内のみならず屋外でも迅速に複数種の定性・定量分析を行うことができる。さらに、熱伝導性マイクロ化学チップに用いられる分析試薬や反応試薬や培養液等は極微量で済むうえ、フラスコや試験管での分析や反応や培養・増幅に比べて廃液量が格段に少なくなるので、環境保全に資する。
【0032】
本発明の熱伝導性マイクロ化学チップを製造する方法によれば、極めて簡便であり、短工程で、高品質で均質な熱伝導性マイクロ化学チップを歩留まり良く安価で大量に製造できる。
【0033】
熱伝導性マイクロ化学チップを製造する方法は、熱伝導性フィラー粉末を含んだ熱伝導性シートを用いて、放冷すべき場合に放熱によって高温に晒されず又はヒーターで昇温すべき場合に加熱できる熱伝導性マイクロ化学チップを簡易に製造することができる。この方法によれば、流路担持基板シートと流路維持基板シートとが、その流路領域外で、接触によってエーテル結合のような共有結合を直接形成して、簡便に、接着剤よりも遥かに強力に接合する。このような分子接着は、熱可塑性樹脂を熱融着させる程の高温の加熱を必要とせず、熱融着温度未満で短時間加熱すれば、充分に惹き起される。そのため、光学的分析の精度を妨げる屈折率の変動や熱変形・歪みを生じない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明を適用する熱伝導性マイクロ化学チップの模式的な分解斜視図である。
図2】本発明を適用する別な熱伝導性マイクロ化学チップの模式的な分解斜視図である。
図3】本発明を適用する熱伝導性マイクロ化学チップの使用状態を示す斜視図である。
図4】本発明を適用する別な熱伝導性マイクロ化学チップの模式的な分解斜視図である。
図5】本発明を適用する別な熱伝導性マイクロ化学チップの模式的な分解斜視図である。
図6】本発明を適用する熱伝導性マイクロ化学チップの流路維持基板シートとして用いられ得るシリコーンゴムシートの断熱性についての温度と時間経過との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0036】
本発明を適用する熱伝導性マイクロ化学チップ1の一例は、それの製造途中を示す図1の通り、カバー用を兼ねるポリイミド製流路維持基板シート10と、底面支持用を兼ねるポリイミド製流路維持基板シート30との間に、微細な流路を有するシリコーンゴム製流路担持基板シート20が、重ね合わされた可撓性のものである。
【0037】
流動試料注入穴11・流動試料排出穴12・流動試料注入部位21・流動試料排出部位22・流路26は、検体、試薬及び試料から選ばれる流動試料を加圧して流し込み化学反応させるものである。流動試料注入穴11・流動試料排出穴12・流動試料注入部位21・流動試料排出部位22・流路26は、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20に、おもて面及び/又はうら面で溝状に凹んで、又は溝状若しくは孔状に貫通して形成されている。
【0038】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、接合して一体化している。流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、その接合面がコロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されて、重ねられたものである。流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、流動試料注入穴11・流動試料排出穴12・流動試料注入部位21・流動試料排出部位22・流路26以外で、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されて生じた活性基、例えば水酸基(−OH)やヒドロキシシリル基(−SiOH)のような反応性活性基同士が、共有結合により直接、化学結合して、強固に接合することにより、剥離不能に一体化している。このようなエーテル結合は、OH基同士の脱水によるエーテル結合であることが好ましい。
【0039】
流路担持基板シート20は、シリコーンゴム原材料成分を含有する組成物から成形されて形成されている。
【0040】
流路担持基板シート20中のシリコーンゴムは、主成分が、パーオキサイド架橋シリコーンゴム、付加架橋シリコーンゴム、縮合架橋シリコーンゴム、又はこれらのシリコーンゴムとオレフィン系ゴムとの共ブレンド物である。
【0041】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の何れか又は全てが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイトカーボン、チッ化ケイ素、チッ化ホウ素、及びチッ化アルミニウムから選ばれる熱伝導性フィラー粉末を含んだ熱伝導性シートとなっている。熱伝導性フィラー粉末は、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20中、それぞれ50〜95重量%含まれる。熱伝導性フィラー粉末は、平均粒径0.2〜50μmであることが好ましい。
【0042】
流路担持基板シート20の何れか又は全てが、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されて生じた活性基同士で、共有結合し易くなるように、白金触媒、例えば1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)触媒(Pt(dvs))2.1−2.4%キシレン溶液(Gelest社製品)のような白金錯体を、白金換算で10〜1000ppmの濃度で含んでいることが好ましい。
【0043】
流路担持基板シート20の何れか又は全てが、ビニルアルコキシシリル基を有するビニルアルコキシシランユニットが2〜6ユニットのシランカップリング剤、例えばポリビニルメトキシシロキサンを、0.5〜10重量部の濃度で含んでいることが好ましい。シランカップリング剤のビニル基と、シリコーンゴムポリマー内のビニル基やハイドロジェンシロキサン基とがパーオキサイドや白金触媒により共有結合するエーテル結合とは別な共有結合によって一層強固に接合できるようになる。このとき、白金触媒を含んでいると一層、共有結合し易くなるので好ましい。
【0044】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の何れか又は全てが、難燃性の作用をする三酸化アンチモン、水酸化アルミニウムである粉末を、難燃性の機能付与のため、含ませていてもよい。これら粉末は、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20中、5〜50重量%含まれ、平均粒径5〜20μmとすることが好ましい。
【0045】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の何れか又は全てが、シリコーンオイル、例えば、ポリジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、又はフルオロシリコーンオイルを、0.5〜30重量%含んでいてもよい。シリコーンオイルは、充填剤を添加し易い作用を付与するためにシリコーンゴムに添加されるものである。
【0046】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の何れか又は全てが、反射率を高めたりバルブの機能を発現させたりできるように、発泡性シリコーンゴムで形成されていてもよい。発泡性シリコーンゴムは、ガラスビーズやゼオライトを配合したシリコーンゴム組成物、水溶性アルコールを配合したシリコーン組成物で例示される発泡性シリコーンゴム成分を含有するシリコーンゴム組成物から成形されて形成されている。
【0047】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の何れか又は全てが、高い反射率を有することにより蛍光検出等の光で検出を高感度ですることができるように、アナターゼ型又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されて成形されており、酸化チタン含有シリコーン組成物で例示される高反射率発現成分を含有するシリコーンゴム組成物から成形されて形成されていてもよい。これにより、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の反射率が、80〜100%となる。
【0048】
流路担持基板シート20が、その他のゴムで形成されていてもよい。流路担持基板シート20が、低いガス透過性を有することにより、外界の酸素や二酸化炭素や水蒸気(湿気)等の影響を受けないように、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン−メチレン共重合体ゴム(EPDM)、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ヒドリンゴムで形成されることが好ましい。具体的には、シリコーンゴムにEPDMやマイカやタルクのような鱗片状のフィラーをブレンドした組成物や、ブチルゴム、NBR、EPDM、NBR、フッ素ゴム、SBR、ヒドリンで例示される低ガス透過性発現成分を含有するシリコーンゴム組成物から成形されて形成されていてもよい。これにより、流路担持基板シート20が、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス及び水蒸気の少なくとも何れかのガスのガス透過率を500〜0.05(cc/cm2/mm/sec/cm・Hg×1010)とする低ガス透過性シリコーンゴムシートとなる。
【0049】
流路維持基板シート10・30が、ポリイミドで形成された例を示したが、シクロオレフィンポリマー(COP)やアルミニウム箔又はアルミニウム板やガラス板で形成されていてもよく、流路担持基板シート20用の材質として例示したシリコーンで形成されていてもよく難燃剤等を含んで形成されていてもよい。
【0050】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、分子接着剤を介した共有結合により、接合して一体化していてもよい。
【0051】
分子接着剤とは、その分子中の官能基が被着体と共有結合による化学反応することによって、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20とを、単分子乃至は多分子の分子接着剤分子による共有結合を介して直接結合するものである。分子接着剤は、二つの官能基が被着体である流路維持基板シート10・30と流路担持基板シート20とに夫々化学反応して共有結合を形成するもので、このような両官能性の分子の総称であり、具体的には、シランカップリング剤をはじめとする各種カップリング剤が挙げられる。
【0052】
分子接着剤は、より具体的には、
トリエトキシシリルプロピルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(TES)、アミノエチルアミノプロピル トリメトキシシランのようなアミノ基含有化合物;
トリエトキシシリルプロピルアミノ基のようなトリアルコキシシリルアルキルアミノ基とメルカプト基又はアジド基とを有するトリアジン化合物、下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、Wは、スペーサ基、例えば置換基を有していてもよいアルキレン基、アミノアルキレン基であってもよく、直接結合であってもよい。Yは、OH基又は加水分解や脱離によりOH基を生成する反応性官能基、例えばトリアルコキシアルキル基である。−Zは、−N又は−NRである(但し、R,Rは同一又は異なりH又はアルキル基、−RSi(R(OR3−m[R,Rはアルキル基、RはH又はアルキル基、mは0〜2]。なお、アルキレン基、アルコキシ、アルキル基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の炭化水素基である。)で表わされるトリアジン化合物;
トリアルコキシシリルアルキル基を有するチオール化合物;
トリアルキルオキシシリルアルキル基を有するエポキシ化合物;
CH2=CH-Si(OCH3)2-O-[Si(OCH3)2-O-]n-Si(OCH3)2-CH=CH2 (n=1.8〜5.7)で例示されるビニルアルコキシシロキサンポリマーのようなシランカップリング剤
が挙げられる。
【0053】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20が、シリコーンゴムである場合、コロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されるだけで、十分に活性基が発現するので直接接合してもよいが、前記シランカップリング剤のような分子接着剤を用いて、接合してもよい。一方、流路維持基板シート10・30が非シリコーンゴム製の樹脂である場合、前記シランカップリング剤のような分子接着剤の0.05〜1重量%のアルコール溶液例えばメタノール溶液へ浸漬され乾燥された後、接合されることが好ましい。分子接着剤の溶液の濃度は、高過ぎると、両シート間での接合面が剥がれることとなり、薄過ぎると両シートを十分に接合できなくなってしまう。
【0054】
流路担持基板シート20に、液状又はガス状の検体や試薬である流動試料を加圧して流し込み化学反応させる溝状の微細流路26が、表裏を貫通して形成されている。微細流路26は、始点末端である流動試料注入部位21a・21bからそれぞれ延びて下流で合流し、そこから流動試料排出部位22aへ延びる支流と、流動試料排出部位22b及び22cへ延びる本流とに分岐して、本流がその下流で終点末端である流動試料排出部位22b及び22cへ延びて分岐したものである。流路担持基板シート20の上面24と下面25とは、微細流路26領域外で、その表面がコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)で活性化されている。
【0055】
流路担持基板シート20に重なる同じ大きさのカバー用の流路維持基板シート10に、流動試料注入部位21a・21bと流動試料排出部位22a・22b・22cとに対応する位置で、それぞれ流動試料注入穴11a・11bと流動試料排出穴12a・12b・12cとが、開いている。流路担持基板シート20へ向いたカバー用の流路維持基板シート10の下面15は、流動試料注入穴11a・11bと流動試料排出穴12a・12b・12cとの領域外で、その表面がコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)で活性化されている。
【0056】
流路担持基板シート20へ向いた底面支持用の流路維持基板シート30の上面34は、その表面の全面がコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)で活性化されている。
【0057】
流路維持基板シート10・30と流路担持基板シート20との表面で、活性化されて生成し又は元来有する水酸基のような活性基同士が、脱水して強固な共有結合であるエーテル結合を生じ、対峙し合う流路維持基板シート10・30と流路担持基板シート20とを化学的に直接、接合している。
【0058】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、接合して一体化する際、その接合面がコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されて、常圧で重ねられた後、常圧下のまま共有結合させてもよいが、減圧下又は加圧下で共有結合させてもよい。流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20のOHのような活性基、又はそれらに反応するシランカップリング剤の反応性官能基との接近は、減圧乃至真空条件下、例えば50torr以下、より具体的には50〜10torrの減圧条件、又は10torr未満、より具体的には、10torr未満〜1×10−3torr、好ましくは10torr未満〜1×10−2torrの真空条件下で、その接触界面の気体媒体を除去することによって、又はその接触界面に応力(荷重)、例えば10〜200kgfを加えることによって、さらに接触界面を加熱することによって、促進される。減圧又は加圧条件で、流路維持基板シート10・30と流路担持基板シート20との接合面全面に、均一に圧力が掛ることが好ましい。上記範囲を外れると、均一に圧力が掛らない恐れがある。
【0059】
単数又は複数の流路担持基板シート20をその最上面及び/又は最下面に接して担持する単数又は複数の流路維持基板シート10・30とが、重ねられて、少なくとも何れかのシート10・20・30の表面でコロナ処理、プラズマ処理及び紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)から選ばれる乾式処理と分子接着剤処理との少なくとも何れかによる直接的な及び/又は前記分子接着剤を介した間接的な共有結合により、接合して一体化している。そのために、乾式処理と分子接着剤処理との何れかのみを施してもよく、それらを連続的に交互に施してもよい。例えば、乾式処理のみで接合していてもよく、乾式処理に引き続く分子接着剤処理で接合していてもよく、乾式処理に引き続く分子接着処理とさらに乾式処理とで接合していてもよく、分子接着剤処理のみで接合していてもよく、分子接着剤処理に引き続く乾式処理で接合していてもよく、分子接着処理引き続く乾式処理とさらに分子接着処理とで接合していてもよい。
【0060】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、ゴム成分として、シリコーンゴムのみから成っていてもよく、非シリコーンゴムを含んでいてもよい。流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、具体的には、主としてパーオキサイド架橋型シリコーンゴム、付加架橋型シリコーンゴム、縮合架橋型シリコーンゴムで例示されるシリコーンゴム、これらのシリコーンゴムとオレフィン系ゴムとの共ブレンド物で例示される三次元化シリコーンゴムを、成形金型等に入れ又は延伸して、必要に応じ架橋させることにより、製造されたシリコーンゴム弾性シートである。これらゴム素材は、数平均分子量で1万〜100万のものである。
【0061】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の素材のパーオキサイド架橋型シリコーンゴムは、パーオキサイド系架橋剤で架橋できるシリコーン原料化合物を用いて合成されたものであれば特に限定されないが、具体的には、ポリジメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ジフェニルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ジエチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端トリフロロプロピルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジフェニルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジトリフロロプロピルメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ポリビニルメチルシロキサン、メタアクリロキシプロピル基末端ポリジメチルシロキサン、アクリロキシプロピル基末端ポリジメチルシロキサン、(メタアクリロキシプロピル)メチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、(アクリロキシプロピル)メチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマーが挙げられる。
【0062】
共存させるパーオキサイド系架橋剤として、例えばケトンパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカーボネート類が挙げられ、より具体的には、ケトンパーオキサイド、ペルオキシケタール、ヒドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ペルオキシカルボナート、ペルオキシエステル、過酸化ベンゾイル、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジt−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ(ジシクロベンゾイル)パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン、ベンゾフェノン、ミヒラアーケトン、ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、ベンゾインエチルエーテルが挙げられる。
【0063】
パーオキサイド系架橋剤の使用量は、得られるシリコーンゴムの種類や、そのシリコーンゴムで成形された流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の性質や、必要に応じて使用されるシランカップリング剤の性質に応じて適宜選択されるが、シリコーンゴム100質量部に対し、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜2質量部用いられることが好ましい。この範囲よりも少ないと、架橋度が低すぎてシリコーンゴムとして使用できない。一方、この範囲よりも多いと、架橋度が高すぎてシリコーンゴムの弾性が低減してしまう。
【0064】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の素材の付加型シリコーンゴムは、Pt触媒存在下で合成したビニルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ジフェニルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ジエチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端トリフロロプロピルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジフェニルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジトリフロロプロピルメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ポリビニルメチルシロキサンなどのビニル基含有ポリシロキサンと、H末端ポリシロキサン、メチルHシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルHシロキサン、ポリエチルHシロキサン、H末端ポリフェニル(ジメチルHシロキシ)シロキサン、メチルHシロキサン/フェニルメチルシロキサンコポリマー、メチルHシロキサン/オクチルメチルシロキサンコポリマーで例示されるH基含有ポリシロキサンの組成物、
アミノプロピル末端ポリジメチルシロキサン、アミノプロピルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、アミノエチルアミノイソブチルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、アミノエチルアミノプロピルメトキシシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、ジメチルアミノ末端ポリジメチルシロキサンで例示されるアミノ基含有ポリシロキサンと、エポキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、(エポキシシクロヘキシルエチル)メチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマーで例示されるエポキシ基含有ポリシロキサン、琥珀酸無水物末端ポリジメチルシロキサンで例示される酸無水物基含有ポリシロキサン及びトルイルジイソシアナート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナートなどのイソシアナート基含有化合物との組成物から得られるものである。
【0065】
これらの組成物から流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20を作製する加工条件は、付加反応の種類及び特性によって異なるので一義的には決められないが、一般には0〜200℃で、1分間〜24時間加熱するというものである。これにより流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20として付加型シリコーンゴムが得られる。低温の加工条件の方が、シリコーンゴムの物性が良い場合には、反応時間が長くなる。物性よりも素早い生産性が要求される場合には、高温で短時間の加工条件で行われる。生産過程や作業環境によって、一定の時間内に加工しなければならない場合には、所望の加工時間に合わせ、加工温度を前記範囲内の比較的高い温度に設定して、行われる。
【0066】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の素材の縮合型シリコーンゴムは、スズ系触媒の存在下で合成されたシラノール末端ポリジメチルシロキサン、シラノール末端ポリジフェニルシロキサン、シラノール末端ポリトリフロロメチルシロキサン、シラノール末端ジフェニルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマーで例示されるシラノール基末端ポリシロキサンからなる単独縮合成分の組成物、
これらのシラノール基末端ポリシロキサンと、テトラアセトキシシラン、トリアセトキシメチルシラン、ジt−ブトキシジアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエノキシメチルシラン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、テトラ−n−プロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトキシイミノ)シラン、ビニルトリイソプロペノイキシシラン、トリアセトキシメチルシラン、トリ(エチルメチル)オキシムメチルシラン、ビス(N−メチルベンゾアミド)エトキシメチルシラン、トリス(シクロヘキシルアミノ)メチルシラン、トリアセトアミドメチルシラン、トリジメチルアミノメチルシランで例示される架橋剤との組成物、
これらのシラノール基末端ポリシロキサンと、クロル末端ポリジメチルシロキサン、ジアセトキシメチル末端ポリジメチルシロキサン、末端ポリシロキサンで例示される末端ブロックポリシロキサンの組成物から得られるものである。
【0067】
これらの組成物から縮合型シリコーンゴムを調製する加工条件は、縮合反応の種類及び特性によって異なるので一義的には決められないが、一般には0〜100℃で、10分間〜24時間加熱するというものである。これにより流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20として縮合型シリコーンゴムが得られる。低温の加工条件の方が、シリコーンゴムの物性が良い場合には、反応時間が長くなる。物性よりも素早い生産性が要求される場合には、高温で短時間の加工条件で行われる。生産過程や作業環境によって、一定の時間内に加工しなければならない場合には、所望の加工時間に合わせ、加工温度を前記範囲内の比較的高い温度に設定して、行われる。
【0068】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の素材のシリコーンゴムとオレフィン系ゴムとの共ブレンド物に用いられるオレフィン系ゴムは、1,4‐シスブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリブテンゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン−プロピレン‐ジエンゴム、塩素化エチレンプロピレンゴム、塩素化ブチルゴムが挙げられる。
【0069】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の素材のシリコーンゴムと非シリコーンゴムとの共ブレンド物に用いられる非シリコーンゴムは、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、天然ゴム、1,4‐シスブタジエンゴム、イソプレンゴム、ポリクロロプレン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、水素添加スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリルニトリル・ブタジエン共重合ゴム、水素添加アクリルニトリル・ブタジエン共重合ゴム、ポリブテンゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレンオキサイド−エピクロロヒドリン共重合体ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロルスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロルスルフォン化ポリエチレンゴム、クロロプレンゴム、塩素化アクリルゴム、臭素化アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンとその共重合ゴム、塩素化エチレンプロピレンゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムテトラフロロエチレン、ヘキサフロロプピレン、フッ化ビニリデン及びテトラフルオロロエチレンなどの単独重合体ゴム及びこれらの二元及び三元共重合体ゴム、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン共重合ゴム、エチレンアクリルゴム、エポキシゴム、ウレタンゴム、両末端不飽和基エラストマー等の線状重合体で例示される原料ゴム状物質の配合物を架橋させたものが挙げられる。これらは単独で用いられても複数混合して用いられてもよい。
【0070】
流路維持基板シート10・30・50及び流路担持基板シート20・40の何れか又は全てが、珪藻土、マイカ、タルク、及び/又はカオリンを含んでいると、シリコーンゴム分が少なくなり、水蒸気の透過が抑制され、水溶性の液体が透過し難く揮発し難いこととなる。液体の透過量は、珪藻土、マイカ、タルク、及び/又はカオリンの添加量に伴い、低下する。また、上記の添加物が鱗片状であるとなお良い。鱗片状であると、水蒸気がシート内を透過する経路がより長くなり、水蒸気の透過が抑制される。
【0071】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の何れか又は全てが、シリコーンゴムをパーオキサイド架橋シリコーンゴム、付加架橋シリコーンゴム、縮合架橋シリコーンゴム、放射線や電子線架橋シリコーンゴムの何れかを主成分とし、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)であるオレフィン系ゴムを従成分とする共ブレンド物であることが好ましい。その主成分と従成分との比は、5〜100重量部:100〜5重量部であることが好ましい。エチレン−プロピレン−ジエンゴムを単独で用いてもよい。エチレン−プロピレン−ジエンゴムが単独で用いられ又はブレンド(SEP)されて用いられていると、水溶性の液体が透過し難く揮発し難いこととなる。
【0072】
流路担持基板シート20の微細流路26は、幅が0.5μm〜5mm、好ましくは10〜1000μmであり、その形状が特に限定されず、連続線状及び/又は分岐線状で直線・曲線の何れでもよく、単数又は複数並列して設けられていてもよい。流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の厚さは、5〜100μmであることが好ましい。微細流路26は、幅が狭く、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の厚さが薄いので、検体や試薬とゴムシートとの接触面積を最小限に抑えることができ、ゴムシートからのゴム成分の遺漏による検体や試薬の汚染、ゴム成分への吸着を防止することができる。流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、少なくとも微細流路26の壁面27が、検体や試薬を汚染したり吸着したりしないように、非反応性樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂のようなフッ素樹脂、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーのようなリン酸系樹脂、パリレンのようなパラキシリレン樹脂でコーティング又は蒸着され、又は非反応性無機物、例えば二酸化チタンや二酸化ケイ素のような無機物で蒸着されていると、ゴムシートと検体や試薬との接触が完全に避けられるので、検体や試薬の汚染や吸着がより一層防止できる。
【0073】
流路維持基板シート10の流動試料注入穴11a・11bと流動試料排出穴12a・12b・12c、流路担持基板シート20の流動試料注入部位21a・21bと流動試料排出部位22a・22b・22cと微細流路26は、レーザー加工で貫通して開けられる。
【0074】
熱伝導性マイクロ化学チップ1は、上下の流路維持基板シート10・30を覆って、保護基材シート(不図示)を有していてもよい。保護基材シートは、金属の他、セラミックス、ガラス、樹脂で形成されたもので、単一の板状、薄層状に形成されていてもよく、これらがラミネート加工されていてもよい。流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20をコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されて共有結合により直接、接合して一体化したのと同様に、各種活性化処理して、上下の流路維持基板シート10・30へ接合して一体化したものであってもよい。保護基材シートには、流路維持基板シート10の流動試料注入穴11a・11bと流動試料排出穴12a・12b・12cとに対応して、穴が開けられる。保護基材シートは、検体や試薬に対し比較的安定であるが、検体や試薬に接する部位が、樹脂で形成され、コーティングされ、又はラミネート加工されていることが好ましい。
【0075】
保護基材シートを成す金属は、金、銀、銅、鉄、コバルト、シリコン、鉛、マンガン、タングステン、タンタル、白金、カドミウム、スズ、パラジウム、ニッケル、クロム、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムで例示される金属、これら金属の二元、三元及び多元合金が挙げられる。
【0076】
保護基材シートを成すセラミックスは、銀、銅、鉄、コバルト、シリコン、鉛、マンガン、タングステン、タンタル、白金、カドミウム、スズ、パラジウム、ニッケル、クロム、インジウム、チタン、亜鉛、カルシウム、バリウム、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの金属の酸化物、窒化物、及び炭化物、それらの単体又は複合体が挙げられる。
【0077】
保護基材シートを成すガラスは、石英、硼珪酸ガラス、無アルカリガラスが挙げられる。
【0078】
保護基材シートを成す樹脂は、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブテレンテレフタレート樹脂、セルロース及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、二酢酸セルロース、表面ケン化酢酸ビニル樹脂、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、i−ポリプロピレン、石油樹脂、ポリスチレン、s−ポリスチレン、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、ABS樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリルニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリシアノアクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・エチレン共重合体、フッ化ビニリデン・プロピレン共重合体、1,4‐トランスポリブタジエン、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・フォルマリン樹脂、レゾルシン樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グリプタル樹脂、変性グリプタル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリルエステル樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンズイミダゾール、ポリアミドイミド、ケイ素樹脂、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリジメチルフェニレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイドとトリアリルイソシアヌルブレンド物、(ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイド、トリアリルイソシアヌル、パーオキサイド)ブレンド物、ポリキシレン、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PPI、カプトン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶樹脂、ケブラー繊維、炭素繊維とこれら複数材料のブレンド物で例示される高分子材料、その架橋物が挙げられる。
【0079】
保護基材シートと流路維持基板シート10・30との接合面を人為的に活性化する場合、コロナ放電処理、プラズマ処理、又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)が施されることによって活性化する。金属、セラミックス又はガラス製の保護基材シートと、流路維持基板シート10・30とは、それぞれ活性化処置されて生じた活性基例えば水酸基同士が、脱水して生成したエーテル結合によって、強固に接合している。なお、両者の積層だけでエーテル結合し得るほど水酸基等の活性基が予め十分に露出できている場合これら活性化処理が施されていなくてもよい。
【0080】
保護基材シートと流路維持基板シート10・30とが、エーテル結合を介して直接的に接合している例を示したが、分子接着剤例えばシランカップリング剤を介した共有結合や水素結合のような化学結合によって間接的に接合していてもよい。この場合、シランカップリング剤の1分子が保護基材シートと流路維持基板シート10・30とに介在して化学結合を形成することができる。例えば、流路維持基板シート10・30と、金属、セラミックス、ガラス又は樹脂製の保護基材シートとが、それらの接合面の少なくとも何れかで、コロナ放電処理、プラズマ処理、又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)によって活性化されており、アミノ基、及び/又は炭素数1〜4のアルコキシ基若しくはそれと同様に水酸基と反応してエーテル基を生成し得る加水分解性でアルコキシ基等価基を、有するシランカップリング剤を介した該化学結合により、接合している。
【0081】
分子接着剤として、トリエトキシシリルプロピルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(TES)、アミノエチルアミノプロピル トリメトキシシランのようなアミノ基含有化合物;トリエトキシシリルプロピルアミノ基のようなトリアルコキシシリルアルキルアミノ基とメルカプト基又はアジド基とを有するトリアジン化合物、前記化学式(I)で表わされるトリアジン化合物、例えば2,6−ジアジド−4−{3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ}−1,3,5−トリアジン(P−TES);トリアルコキシシリルアルキル基を有するチオール化合物;トリアルキルオキシシリルアルキル基を有するエポキシ化合物が挙げられる。
【0082】
また分子接着剤は、アルコキシ基を有するアミノ基非含有のシランカップリング剤として、市販のシランカップリング剤、具体的にはビニルトリメトキシシラン(KBM-1003)、ビニルトリエトキシシラン(KBE-1003)で例示されるビニル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(KBM-303)、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-402)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(KBE-402)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(KBE-403)で例示されるエポキシ基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;p-スチリルトリメトキシシラン(KBM-1403)で例示されるスチリル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-502)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(KBE-502)、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(KBE-503)、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-5103)で例示される(メタ)アクリル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(KBE-585)で例示されるウレイド基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-802)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM-803)で例示されるメルカプト基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(KBE-846)で例示されるスルフィド基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(KBE-9007)で例示されるイソシアネート基及びアルコキシ含有シランカップリング剤(以上、何れも信越シリコーン株式会社製;商品名)が挙げられ、またビニルトリアセトキシシラン(Z-6075)で例示されるビニル基及びアセトキシ含有シランカップリング剤;アリルトリメトキシシラン(Z-6825)で例示されるアリル基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;メチルトリメトキシシラン(Z-6366)、ジメチルジメトキシシラン(Z-6329)、トリメチルメトキシシラン(Z-6013)、メチルトリエトキシシラン(Z-6383)、メチルトリフェノキシシラン(Z-6721)、エチルトリメトキシシラン(Z-6321)、n-プロピルトリメトキシシラン(Z-6265)、ジイソプロピルジメトキシシラン(Z-6258)、イソブチルトリメトキシシラン(Z-2306)、ジイソブチルジメトキシシラン(Z-6275)、イソブチルトリエトキシシラン(Z-6403)、n-ヘキシトリメトキシシラン(Z-6583)、n-ヘキシトリエトキシシラン(Z-6586)、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(Z-6187)、n-オクチルトリエトキシシラン(Z-6341)、n-デシルトリメトキシシラン(Z-6210)で例示されるアルキル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;フェニルトリメトキシシラン(Z-6124)で例示されるアリール基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;n-オクチルジメチルクロロシラン(ACS-8)で例示されるアルキル基及びクロロシラン基含有シランカップリング剤;テトラエトキシシラン(Z-6697)で例示されるアルコキシシランであるシランカップリング剤(以上、何れも東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)が挙げられる。
【0083】
アルコキシ基を有するアミノ基非含有のシランカップリング剤は、ヒドロシリル基(SiH基)含有アルコキシシリル化合物、例えば、
(CH3O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(CH3O)3SiCH2CH2CH2Si(OCH3)2OSi(OCH3)3
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(OCH3)2OSi(OCH3)3
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2H、
(CH3O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2H、
(i-C3H7O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)H
(n-C3H7O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2Si(CH3)2Si(CH3)2H、
(n-C4H9O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(t-C4H9O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(C2H5O)2CH3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(CH3O)2CH3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2Si(CH3)2Si(CH3)2H、
CH3O(CH3)2SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(n-C3H7)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(i-C3H7O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(n-C4H9)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(t-C4H9O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2CH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2H、
(CH3O)3SiCH2C6H4CH2CH2Si(CH3)2C6H4Si(CH3)2H、
(CH3O)2CH3SiCH2C6H4CH2CH2Si(CH3)2C6H4Si(CH3)2H、
CH3O(CH3)2SiCH2C6H4CH2CH2Si(CH3)2C6H4Si(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2C6H4CH2CH2Si(CH3)2C6H4Si(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2C6H4OC6H4Si(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2C2H4Si(CH3)2H、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2O[Si(CH3)2O]p1Si(CH3)2H、
C2H5O(CH3)2SiCH2CH2CH2Si(CH3)2O[Si(CH3)2O]p2Si(C2H5)2H、
(C2H5O)2CH3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2O[Si(CH3)2O]p3Si(CH3)2H、
(CH3)3SiOSiH(CH3)O[SiH(CH3)O]p4Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(C2H5OSi(CH3)CH2CH2CH2)SiCH3]O[SiH(CH3)O]p5Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(C2H5OSiOCH3CH2CH2CH2)SiCH3]O[SiH(CH3)O]p6Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(C2H5OSi(CH3)CH2CH2CH2)SiCH3]O[SiH(CH3)O]p7Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(Si(OC2H5)2CH2CH2CH2)SiCH3]O[SiH(CH3)O]p8Si(CH3)3
(CH3)3SiOSi(OC2H5)2O[SiH(CH3)O]p9[Si(CH3)2O]q1Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(C2H5Osi(CH3)CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][SiH(CH3)O]p10[Si(CH3)2O]q2Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][SiH(CH3)O]p11[Si(CH3)2O]q3Si(CH3)3
(CH3)3SiOSi(OC2H5)2O[SiH(C2H5)O]p12Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(Si(OC2H5)2CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(C2H5)]O[SiH(C2H5)O]p13Si(CH3)3
(CH3)3SiO[(C2H5OSi(CH3)CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(C2H5)]O[SiH(C2H5)O]p14Si(CH3)3
C2H5OSi(CH3)2CH2CH2CH2CH2CH2CH2(CH3)2SiO[HSi(CH3)2OSiC6H5O]p15Si(CH3)2H、
Si(OCH3)3CH2CH2CH2CH2CH2CH2(CH3)2SiO[HSi(CH3)2OSiC6H5O]p16Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(C2H5OSi(CH3)2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p17Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(C2H5OSi(CH3)2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p18Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(C2H5OSi(CH3)2CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p19Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(C2H5OSi(CH3)2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p20Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(C2H5OSi(CH3)2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p21Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2C6H4CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p22Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2C6H4CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p23Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2C6H4CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p24Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3C6H4CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p25Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p26Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p27Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p28Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p29Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p30Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2C6H4CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p31Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2C6H4CH2CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p32Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2C6H4CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p33Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3C6H4CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p34Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(Si(OCH3)3CH2CH2C6H4CH2CH2)Si(CH3)O][HSiCH3O]p35Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[(CH3O)Si(CH3)CH2CH2CH2CH2CH2CH2Si(CH3)2OSiC6H5O]p36[HSi(CH3)2OSiC6H5O]q4Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[Si(OCH3)2CH2CH2CH2CH2CH2CH2Si(CH3)2OSiC6H5O]p37[HSi(CH3)2OSiC6H5O]q5Si(CH3)2H、
C2H5O(CH3)2SiO[SiH(CH3)O]p38[SiCH3(C6H5)O]q6Si(CH3)2H、
Si(OC2H5)3CH2CH2CH2CH2CH2CH2(CH3)2SiO[SiH(CH3)O]p39[SiCH3(C6H5)O]q7Si(CH3)2H、
C2H5OSi(CH3)2CH2CH2CH2CH2CH2CH2(CH3)2SiO[SiH(CH3)O]p40[SiCH3(C6H5)O]q8Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO(C2H5O)Si(CH3)O[SiH(CH3)O]p41[SiCH3(C6H5)O]q9Si(CH3)2H、
H(CH3)2SiO[Si(OC2H5)3CH2CH2CH2Si(CH3)]O[SiH(CH3)O]p42[SiCH3(C6H5)O]q10Si(CH3)2H
であってもよい。これらの基中、p1〜p42及びq1〜q10は1〜100までの数である。一つの分子に、ヒドロシリル基を、1〜99個有していることが好ましい。
【0084】
アルコキシ基を有するアミノ基非含有のシランカップリング剤は、ヒドロシリル基を含有するアルコキシシリル化合物、例えば、
(C2H5O)3SiCH2CH=CH2
(CH3O)3SiCH2CH2CH=CH2
(C2H5O)3SiCH2CH2CH=CH2
(CH3O)3SiCH2CH2CH2CH2CH=CH2
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2CH2CH=CH2
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2CH2CH2CH2CH=CH2
(CH3O)3SiCH2(CH2)7CH=CH2
(C2H5O)2Si(CH=CH2)OSi(OC2H5)CH=CH2
(CH3O)3SiCH2CH2C6H4CH=CH2
(CH3O)2Si(CH=CH2)O[SiOCH3(CH=CH2)O]t1Si(OCH3)2CH=CH2
(C2H5O)2Si(CH=CH2)O[SiOC2H5(CH=CH2)O]t2Si(OC2H5)3
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2[Si(CH3)2O]t3CH=CH2
(CH3O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2[Si(CH3)2O]t4CH=CH2
CH3O(CH3)2SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2[Si(CH3)2O]t5CH=CH2
(C2H5O)2CH3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2[Si(CH3)2O]t6CH=CH、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2[Si(CH3)2O]t7CH=CH、
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2(Si(CH3)3O)Si(CH3)O[SiCH3(-)O]u1Si(CH3)3CH=CH2
(C2H5O)3SiCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2(Si(CH3)3O)Si(CH3)O[SiCH3(-)O]u2[Si(CH3)2O]t8Si(CH3)3CH=CH2
(C2H5O)2Si(CH=CH2)O[SiCH3(OC2H5)O]u3Si(OC2H5)2CH=CH2
(C2H5O)2Si(CH=CH2)O[Si(OC2H5)2O]u4Si(OC2H5)2CH=CH2
(C2H5O)2Si(CH=CH2)O[Si(OC2H5)2O]u5Si(OC2H5)2CH=CH2
が挙げられる。これらの基中、t1〜t8及びu1〜u5は1〜30までの数である。一つの分子に、ビニル基を、1〜30個有していることが好ましい。
【0085】
これらのビニル基とSiH基とを金属触媒、例えば白金含有化合物で反応促進し、基材シートとゴムシートとを接合してもよい。
【0086】
アルコキシ基を有するアミノ基非含有のシランカップリング剤として、アルコキシシリル基を両末端に含有するアルコキシシリル化合物、例えば、
(C2H5O)3SiCH2CH2Si(OC2H5)3
(C2H5O)2CH3SiCH2CH2Si(OC2H5)3
(C2H5O)3SiCH=CHSi(OC2H5)3
(CH3O)3SiCH2CH2Si(OCH3)3(CH3O)3SiCH2CH2C6H4CH2CH2Si(OCH3)3
(CH3O)3Si[CH2CH2]3Si(OCH3)3
(CH3O)2Si[CH2CH2]4Si(OCH3)3
(C2H5O)2Si(OC2H5)2
(CH3O)2CH3SiCH2CH2Si(OCH3)2CH3
(C2H5O)2CH3SiOSi(OC2H5)2CH3
(CH3O)3SiO[Si(OCH3)2O]v1Si(OCH3)3
(C2H5O)3SiO[Si(OC2H5)2O]v2Si(OC2H5)3
(C3H7O)3SiO[Si(OC3H7)2O]v3Si(OC3H7)3
であってもよい。これらの基中、v1〜v3は0〜30までの数である。
【0087】
アルコキシ基を有するアミノ基非含有のシランカップリング剤として、加水分解性基含有シリル基を含有するアルコキシシリル化合物、例えば、
CH3Si(OCOCH3)3、(CH3)2Si(OCOCH3)2、n-C3H7Si(OCOCH3)3、CH2=CHCH2Si(OCOCH3)3、C6H5Si(OCOCH3)3、CF3CF2CH2CH2Si(OCOCH3)3、CH2=CHCH2Si(OCOCH3)3、CH3OSi(OCOCH3)3、C2H5OSi(OCOCH3)3、CH3Si(OCOC3H7)3、CH3Si[OC(CH3)=CH2]3、(CH3)2Si[OC(CH3)=CH2]3、n-C3H7Si[OC(CH3)=CH2]3、CH2=CHCH2Si[OC(CH3)=CH2]3、C6H5Si[OC(CH3)=CH2]3、CF3CF2CH2CH2Si[OC(CH3)=CH2]3、CH2=CHCH2Si[OC(CH3)=CH2]3、CH3OSi[OC(CH3)=CH2]3、C2H5OSi[OC(CH3)=CH2]3、CH3Si[ON=C(CH3)C2H5]3、(CH32Si[ON=C(CH3)C2H5]2、n-C3H7Si[ON=C(CH3)C2H5]3、CH2=CHCH2Si[ON=C(CH3)C2H5]3、C6H5Si[ON=C(CH3)C2H5]3、CF3CF2CH2CH2Si[ON=C(CH3)C2H5]3、CH2=CHCH2Si[ON=C(CH3)C2H5]3、CH3OSi[ON=C(CH3)C2H5]3、C2H5OSi[ON=C(CH3)C2H5]]3、CH3Si[ON=C(CH3)C2H5]3、CH3Si[N(CH3)]3、(CH3)2Si[N(CH3)]2、n-C3H7Si[N(CH3)]3、CH2=CHCH2Si[N(CH3)]3、C6H5Si[N(CH3)]3、CF3CF2CH2CH2Si[N(CH3)]3、CH2=CHCH2Si[N(CH3)]3、CH3OSi[N(CH3)]3、C2H5OSi[N(CH3)]3、CH3Si[N(CH3)]3などの昜加水分解性オルガノシランであってもよい。
【0088】
このアルコキシ基を有するアミノ基含有のシランカップリング剤として、市販のシランカップリング剤、具体的にはN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-602)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-603)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-603)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-903)、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン(KBE-9103)、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573)、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(KBM-575)で例示されるアミノ基含有アルコキシシリル化合物(以上、信越シリコーン株式会社製;商品名)が挙げられ、また3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6610)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6611)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6094)、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6883)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N’-[(エテニルフェニル)メチル-1,2-エタンジアミン・塩酸塩(Z-6032) で例示されるアミノ基含有アルコキシシリル化合物(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)が挙げられる。
【0089】
保護基材シートが金属、セラミックス又はガラスで形成されており、流路維持基板シート10・30がシリコーンゴムで形成されている場合、両者は直接エーテル結合で接合されていることが好ましい。この場合、保護基材シートと流路維持基板シート10・30とがコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されてその表面で水酸基のような活性基を生じており、加圧又は減圧による圧着によって、保護基材シートと流路維持基板シート10・30とが、脱水してエーテル結合を形成している。
【0090】
保護基材シートが金属、セラミックス又はガラスで形成されており、流路維持基板シート10・30が非シリコーンゴムを含むシリコーンゴムで形成されている場合、両者はアルコキシ基を有するアミノ基非含有のシランカップリング剤を介した酸素−炭素結合、炭素−炭素結合、酸素−珪素結合の共有結合で、接合されていてもよい。この場合、保護基材シートと流路維持基板シート10・30とがコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されてその表面で水酸基のような活性基を生じており、アルコキシ基又はアルコキシ基等価基と、必要に応じ不飽和基、エポキシ基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基とを含有しアミノ基非含有のシランカップリング剤が付されていることによって、常圧・加圧又は減圧下で、常温又は加熱による圧着の際に、これら共有結合を形成している。
【0091】
保護基材シートが樹脂で形成されており、流路維持基板シート10・30がシリコーンゴムを含む非シリコーンゴムで形成されている場合、両者はアルコキシ基を有するアミノ基含有のシランカップリング剤を介した酸素−珪素結合の共有結合と、水酸基−アミノ基の水素結合との化学結合、新たに形成したカルボキシル基やカルボニル基とのアミド結合やイミノ結合のような共有結合で、接合されていてもよい。この場合、保護基材シートと流路維持基板シート10・30とがコロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)されてその表面で水酸基のような活性基を生じており、アルコキシ基又はアルコキシ基等価基とアミノ基とを含有するシランカップリング剤が付されていることによって、常圧・加圧又は減圧下で、常温又は加熱による圧着の際に、これら化学結合を形成している。この場合、シランカップリング剤のアミノ基が樹脂に吸着し易くなり、樹脂がポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、又はエポキシ樹脂のとき、特にその反応が進行するため、迅速かつ強固に接合し易い。中でもポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂であると、とりわけ耐水性に優れる。
【0092】
保護基材シート水酸基と流路維持基板シート10・30の水酸基とのような活性基、又はそれらに反応するシランカップリング剤の反応性官能基との接近は、減圧乃至真空条件下、例えば50torr以下、より具体的には50〜10torrの減圧条件、又は10torr未満、より具体的には、10torr未満〜1×10−3torr、好ましくは10torr未満〜1×10−2torrの真空条件下で、その接触界面の気体媒体を除去することによって、又はその接触界面に応力(荷重)、例えば10〜200kgfを加えることによって、さらに接触界面を加熱することによって、促進される。減圧又は加圧条件で、保護基材シートと流路維持基板シート10・30の接合面全面に、均一に圧力が掛ることが好ましい。上記範囲を外れると、均一に圧力が掛らない恐れがある。
【0093】
このような熱伝導性マイクロ化学チップ1は、その一例である図1を参照すると、以下のようにして作製される。
【0094】
熱伝導性フィラー粉末とシリコーンゴム原料成分とを含んだ組成物から、シリコーンゴム製流路担持基板シート・流路維持基板シート用の大型シートを作製する。又はポリイミン原料成分のような樹脂原料組成物から、流路維持基板シート用の大型シートを作製する。大型シートから、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20を長方体に切り出す。この流路担持基板シート20をレーザー加工でくり抜いて貫通させて、流路担持基板シート20に微細流路26を付す。その微細流路26は、レーザー加工で、始点末端の流動試料注入部位21a・21bから延びて下流で合流しそこから流動試料排出部位22aへ延びる支流と、流動試料排出部位22b及び22cへ延びる本流とを有しその本流がその下流で終点末端の流動試料排出部位22b及び22cへ延びて分岐している形状に、形成される。次に、大型シートから別途、流路担持基板シート20と同じ大きさのカバー用の流路維持基板シート10を切り出す。その流路維持基板シート10に、流動試料注入部位21a・21bと流動試料排出部位22a・22b・22cとに対応する位置で、それぞれ流動試料注入穴11a・11bと流動試料排出穴12a・12b・12cとを、レーザー加工又はドリル穿孔又は打ち抜きにより、開口する。次いで、大型シートから別途、底面支持用の流路維持基板シート30を、流路担持基板シート20と同じ大きさに切り出す。
【0095】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20を、アルコール、水で洗浄する。流路維持基板シート10の下面15と、流路維持基板シート30の上面34と、流路担持基板シート20の上下両面24・25とを、コロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)すると、それら表面に、新たに水酸基が生じる。流路維持基板シート10・30の間に、流路担持基板シート20を常圧下で挟み込み、必要に応じ例えば10torr以下減圧する。次いで必要に応じ例えば10〜200kgfでプレスしながら例えば80〜120℃で加熱して熱圧着させると、流路維持基板シート10・30の水酸基と流路担持基板シート20の水酸基とが脱水してエーテル結合を生じる結果、接合し、熱伝導性マイクロ化学チップ1が得られる。
【0096】
なお、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20にコロナ放電を施した例を示したが、大気圧プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)を施してもよい。これらの処理によって有機の流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20表面に、水酸基である活性基が生成したり、さらにカルボキシル基、カルボニル基で例示される活性基が生成したりする。
【0097】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20は、原料組成に基づき、元々水酸基を有するものと有しないものとがあるが、これら表面に水酸基を有しなくともコロナ放電、大気圧プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)の処理を施すことにより、そこに水酸基が効率よく生成される。
【0098】
それらの最適処理条件は、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の材質の種類や履歴によって異なるが、その表面に55kJ/m以上の表面張力が得られるまで処理し続けることが重要である。これにより、十分な接着強度が得られる。
【0099】
具体的には、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20のコロナ放電処理は、コロナ表面改質装置(例えば、信光電気計測(株)製コロナマスター)を用いて、例えば、電源:AC100V、出力電圧:0〜20kV、発振周波数:0〜40kHzで0.1〜60秒、温度0〜60℃の条件で行われる。
【0100】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の大気圧プラズマ処理は、大気圧プラズマ発生装置(例えば、松下電工(株)製:商品名Aiplasuma)を用いて、例えば、プラズマ処理速度10〜100mm/s,電源:200 又は 220V AC(30A)、圧縮エア:0.5MPa(1NL/min)、10kHz/300W〜5GHz、電力:100W〜400W、照射時間:0.1〜60秒の条件で行われる。
【0101】
流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20の紫外線照射は、紫外線−発光ダイオード(UV-LED)照射装置(例えば、(株)オムロン製のUV-LED照射装置:商品名ZUV-C30H)を用いて、例えば、波長:200〜400nm、電源:100V AC、光源ピーク照度:400〜3000mW/cm2、照射時間:1〜60秒の条件で行われる。
【0102】
なお、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20を接合した後、流路維持基板シート10のおもて面と、流路維持基板シート30のうら面とを、分子接着剤であるシランカップリング剤溶液で浸漬又は噴霧してから、保護基材シート(不図示)に接触させてもよい。浸漬及び噴霧の時間に制限はなく、保護基材シートの基材表面が一様に湿潤していることが重要である。
【0103】
シランカップリング剤を付した保護基材シートを、オーブンに入れたり、ドライヤーで温風を送風したり、高周波を照射したりすることにより、加熱しながら乾燥する。加熱・乾燥は、50〜250℃の温度範囲で、1〜60分間行われる。50℃未満では、保護基材シート表面に生成した水酸基とシランカップリング剤との反応時間が長くかかりすぎて、生産性が低下し、コストの高騰を招く。一方、250℃を超えると、加熱乾燥時間が短くても保護基材シート表面が変形したり、分解したりしてしまう。1分間未満の加熱乾燥では熱の伝達が不十分であるため、保護基材シート表面の水酸基とシランカップリング剤との結合が不十分となる。一方、60分間を超えると生産性が低下する。
【0104】
保護基材シート表面の水酸基とシランカップリング剤との反応が不十分な場合には、前記浸漬と乾燥とを1〜5回程度繰り返してもよい。それにより1回当たりの浸漬及び乾燥時間を短縮し、反応回数を増やす方が反応を十分に進行させることができる。
【0105】
熱伝導性マイクロ化学チップ1は、例えば微量合成の例について図1を参照して説明すると、以下のようにして使用される。熱伝導性マイクロ化学チップ1をマイクロリアクター(不図示)に装着する。カバー用の流路維持基板シート10の流動試料注入穴11a・11bにそれぞれシリンジ(不図示)を気密に刺し、各シリンジから別々にそれぞれ液状検体と液状試薬とである流動試料を、100kPaを超え3MPa以下に加圧しながら流動試料注入部位21a・21bを経て、微細流路26に送り込む。両流動試料は、微細流路26を流れて合流して混合され、互いに反応する。必要に応じ支流である流動試料排出部位22aを経て流動試料排出穴12aから、廃液を排出する。本流で分岐し、流動試料排出部位22b・22cを経て流動試料排出穴12b・12cから、微量合成された生成物を含む流動試料をそれぞれ排出し、目的物を得る。
【0106】
熱伝導性マイクロ化学チップ1の別な態様を、図2に示す。熱伝導性フィラー粉末とシリコーンゴム原料成分とを含んだ組成物から、シリコーンゴム製流路維持基板シート・流路担持基板シート用の大型シートを作製する。この大型シートから流路維持基板シート10・30・50及び流路担持基板シート20・40を同じ大きさの略矩形に切り出す。この熱伝導性マイクロ化学チップ1はカバー用の流路維持基板シート10、第一の微細流路26を有する流路担持基板シート20、中敷用の流路維持基板シート30、第二の微細流路46を有する流路担持基板シート40、底面支持用の流路維持基板シート50の順で重ね合わされたものである。
【0107】
流路担持基板シート20・40に、微細流路26・46が表裏を貫通して形成されている。微細流路26は流路担持基板シート20で始点末端である流動試料注入部位21a・21bからそれぞれ延びて下流で合流し、そこから流動試料排出部位22aへ延びる支流と、流動試料移送部位23へ延びる本流とに分岐している。中敷用の流路維持基板シート30は、その流動試料移送部位23に対応する位置で、流動試料移送穴33が開けられている。流動試料移送穴33に逆止弁が設けられていてもよい。流路担持基板シート40は、その流動試料移送穴33に対応する位置で、流動試料移入部位43が設けられ、そこへ別な始点末端である流動試料注入部位41aから延びて合流し、その下流で終点末端である流動試料排出部位42a及び42bへ延びて分岐した微細流路46が、表裏を貫通して形成されている。底面支持用の流路維持基板シート50に、流動試料注入部位41aと流動試料排出部位42a及び42bとに対応した位置で、流動試料注入穴51aと流動試料排出穴52a・52bとが開けられている。流路維持基板シート10・30・50及び流路担持基板シート20・40は、図1と同様に、エーテル結合を介して、直接接合されている。流路維持基板シート10・30・50及び流路担持基板シート20・40は、前記の素材、形状でもよく、シランカップリング剤を介して接合されていてもよい。この熱伝導性マイクロ化学チップ1は、図1のものと同様に加圧して流動体試料を送り込んで使用される。熱伝導性マイクロ化学チップ1は、複数の流路担持基板シート20・40の各微細流路26・46で、分子量や組成成分や組成物性が異なる流動試料をそれぞれ注入する際に、不意な混入を防ぐことができる。また、流動試料が微細流路26・46で反応して、流動試料内の目的物質の分子量が変化したり流動試料の比重が変化したりしたときに、適宜分離するものであってもよい。
【0108】
熱伝導性マイクロ化学チップ1の別な態様を、図3に示す。この熱伝導性マイクロ化学チップ1は、図1の流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20を有してなり、流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20が、2枚の樹脂板又は金属板で撓まない剛直なホルダー60a・60bで挟まれている。これらは、螺子止めされ、固定されている。ホルダー60a・60bに、流路維持基板シート10・30の流動試料注入穴11a・11bや流動試料排出穴12a・12b・12cと対応した位置で、注入誘導穴61a・61bと排出誘導穴62a・62b・62cとが、開口している。この熱伝導性マイクロ化学チップ1は、図1のものと同様に加圧して流動体試料を微細流路26に送り込んで使用される。ホルダー60a・60bは、可撓性の流路維持基板シート10・30及び流路担持基板シート20を、撓まないように矯正しつつ、微細流路26に流動体試料が流れる程度に締め付けている。この熱伝導性マイクロ化学チップ1は、図2に示す流路維持基板シート10・30・50及び流路担持基板シート20・40を有するものであってもよい。図1〜2の熱伝導性マイクロ化学チップ1は、流路維持基板シート10・30・50及び流路担持基板シート20・40との間に加熱ヒーターが挿入されて接合されていてもよく、図3のホルダー上又は下に加熱ヒーターが配置されていてもよい(不図示)。熱伝導性マイクロ化学チップ1は、流動試料注入部位21a・21b、流動試料排出部位22a・22b・22c、流動試料注入部位41a、流動試料排出部位42a・42bの何れかに、検体・試薬・反応生成物を検知する電極等のセンサーが配線されていてもよい。ホルダー60a・60bが、それに接する流路維持基板シート10・30に、同様に、接合していてもよい。
【0109】
熱伝導性マイクロ化学チップ1の別な態様を、図4に示す。微細流路26の途中の液溜部28を有していてもよい。微細流路26の途中の液溜部28は、流動試料をトラップできるように微細流路26の途中で広がっている。液溜部28は、流入した流動試料を暫しトラップして化学反応を充分に起こさせることができる。また、液溜部28は、流動試料のための測定用・検出用又は反応用の光線、例えば紫外線・赤外線・可視光線・レーザー光等を照射できる程度に十分に広い面積を有している。液溜部28は、トラップ開始端部とトラップ終了端部とが夫々、徐々に拡径・縮径しており、流動試料の流れを阻害しないようになっている。液溜部28内に流動試料が流れ込んできたら、加圧による流路26への流動試料の流動を停止させ、必要に応じ加熱・放熱乃至冷却して、反応例えばPCRを充分に起こさせてから、流動試料の流動を再開するように調整するようになっていてもよい。流路途中で流動試料が十分に反応できるのであれば、又は、流動試料のための測定用・検出用又は反応用の光線、例えば紫外線・赤外線・可視光線・レーザー光等を照射できるのであれば、若しくはこれら光線を照射する必要がないのであれば、図1のように、微細流路26は同径のままの溝で液溜部28を有しなくてもよい。
【実施例】
【0110】
以下に、本発明を適用する熱伝導性マイクロ化学チップ1を試作した例を示す。
【0111】
(実施例1)
シリコーンゴムとしてメチルビニルシリコーンゴムであるSH1005(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)の50重量部、シリコーンオイルとしてポリジメチルシロキサンであるSH200 100cs(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)の50重量部、熱伝導性フィラーとして酸化マグネシウムであるパイロキスマ5301(協和化学工業株式会社製;商品名、平均粒径2μm)50重量部及びパイロキスマ3320(協和化学工業株式会社製;商品名、平均粒径20μm)の200重量部、添加剤として水酸化アルミニウムAl(OH)であるハイジライトH32(昭和電工株式会社製;商品名)50重量部及び酸化カルシウムCaOであるVESTA PP(井上石灰工業株式会社製;商品名)の10重量部、白金触媒として白金錯体である(GELEST社製白金カルボニルシクロビニルメチルシロキサン錯体ビニルメチル環状シロキサン溶液の0.01重量部とを、混練し、シリコーンゴム製熱伝導性シート用の組成物を得た。これを、加圧加熱し、流路維持基板シートとなるシリコーンゴム製熱伝導性シートとした。
【0112】
一方、シリコーンゴムとしてメチルビニルシリコーンゴムであるSH851(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)の100重量部、パーオキサイド系架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンであるPC−4(東レダウコーニング社製;商品名、50%シリカ溶液)の0.5重量部とを、混練し、中間層のシート用の組成物を得た。これを、加圧加熱し、流路担持基板シートとなるシリコーンゴム製熱伝導性シートした。
【0113】
図1〜3、又は図4のように流路担持基板シートと流路維持基板シートとを形成し、接着させて、本発明の熱伝導性マイクロ化学チップ1を得た。
【0114】
図1の流路維持基板シート30に、上記熱伝導シートを接着させたものと上記通常のSH851Uで作製したシートを張り合わせたものとの比較では、PCRの回数を30回行うための時間が約1.5倍かかることが分かった。
【0115】
このようにして得られた本発明の熱伝導性マイクロ化学チップ1は、デオキシリボ核酸(DNA)を増幅するために用いられる。DNAを増幅するのに、第1段階(94〜96℃)で、標的二本鎖DNAを熱変性して一本鎖とし、第2段階(55〜60℃)でプライマーを一本鎖DNAにアニーリングさせ、第3段階(72〜74℃)で伸長反応を進め、このポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を繰り返す。加熱は、熱電対、ペルチェ素子、赤外線照射により行われるが、この熱伝導性マイクロ化学チップ1がシリコーンゴム製熱伝導性シートを有していることから、温度の上昇下降がスムーズに行われ、PCRを滞りなく行うことができる。
【0116】
なお、本発明を適用外であって、シリコーンゴム製熱伝導性シートに代えて熱伝導性フィラー粉末未含有のゴムシートを用いた熱伝導性マイクロ化学チップでは、温度の上昇下降がスムーズに行われず、PCRを滞りなく行うことができないため、反応時間が遅く、効率が悪いものであった。
【0117】
(実施例2:熱伝導性と断熱性の検討)
(1)シリコーンゴムシートの調製
シリコーンゴムとしてメチルビニルシリコーンゴムであるSH851U(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)の100重量部、パーオキサイド系架橋剤として、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンであるRC−4(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名、50%シリカ溶液)の0.5重量部とを、混練し、シート用の組成物を得た。これを加圧加熱し、シリコーンゴムシートを作製した。
【0118】
(2)熱伝導性シリコーンゴムシートの調製
シリコーンゴムとしてメチルビニルシリコーンゴムであるSH1005(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)の50重量部、シリコーンオイルとしてポリジメチルシロキサンであるSH200 100cs(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)の50重量部、熱伝導性フィラーとして酸化マグネシウムであるパイロキスマ5301(協和化学工業株式会社製;商品名、平均粒径2μm)50重量部及びパイロキスマ3320(協和化学工業株式会社製;商品名、平均粒径20μm)の200重量部、添加剤として水酸化アルミニウムAl(OH)であるハイジライトH32(昭和電工株式会社製;商品名)50重量部及び酸化カルシウムCaOであるVESTA PP(井上石灰工業株式会社製;商品名)の10重量部、白金触媒として白金錯体である(GELEST社製白金カルボニルシクロビニルメチルシロキサン錯体ビニルメチル環状シロキサン溶液の0.01重量部とを、混練し、シリコーンゴム製熱伝導性シート用の組成物を得た。これを、加圧加熱し、流路維持基板シートとなるシリコーンゴム製熱伝導性シートとした。
【0119】
(3)発泡性シリコーンゴムシートの調製
発泡性シリコーンゴムシートを、特開2008−94981号公報の実施例1に準じて調製した。シリコーンゴム100質量部に、過酸化物加硫剤2質量部を配合し、二本ロールで混合分散させて、シリコーンゴムコンパウンドを調製した。加硫剤を含むシリコーンゴムコンパウンド110質量部に、第1の気孔形成剤としてトリメチロールプロパン10質量部と、第2の気孔形成剤としてペンタエリスリトール390質量部とを配合し、缶体温度(T1)110℃に設定されたニーダーで10分間混練して気孔形成剤を混合分散させたゴム組成物を得た。混練工程で得られたゴム組成物を、プレス金型内で加硫温度(T2)170℃で10分間圧縮成形して厚さ2mmのシート状の加硫ゴム組成物を得た。混練温度(T1)に対する加硫温度(T2)の差(T1−T2)は、−60℃とした。シート状の加硫ゴム組成物を、温水を用いて水洗し、加硫ゴム組成物中から気孔形成剤を溶出させ、多孔体である発泡性シリコーンゴムシートとした。
【0120】
(4)断熱性測定
100℃に加熱した金属板上に、夫々厚さ(t)が2.0mmである、シリコーンゴムシートと、熱伝導性シリコーンゴムシートと、発泡性シリコーンゴムとを置き、温度上昇の経時変化を測定した。その結果を図6に示す。
【0121】
図6から明らかな通り、熱伝導性シリコーンゴムシートでは短時間での温度上昇が確認でき、発泡性シリコーンゴムシートでは、温度上昇が遅くなることが確認できた。このことから、三次元マイクロ化学チップに放熱ゴム材料を用いることで、温度応答性が上がり、温度サイクルをかける際の時間短縮が可能になることが分かった。また、発泡性ゴム材料を用いることによりチップ内を異なる温度に設定する際、温度の干渉を低減することが可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の熱伝導性マイクロ化学チップは、内部からの放熱性や外部からの熱伝導性に優れており、迅速に分析結果を知る必要がある救急医療現場での患者の生体成分の分析、犯罪現場で微量な血痕・体液・毛髪・生体組織細胞等の遺留品からDNAを抽出し、そのDNAを増やすPCR増幅し、電気泳動でDNAを特定するDNA解析、新規医薬品探索のための各種医薬候補品の物性・薬効評価、オーダーメイド医療のための診断、ペプチドやDNAや機能性低分子の微量合成、幹細胞やウィルス等の培養や増殖などに、用いられる。
【0123】
熱伝導性マイクロ化学チップは、簡便に自在な形状の流路を形成できるものなので、オーダーメイドの診療や、種々の動植物のDNA分析などの同定に、用いることができる。
【0124】
本発明の熱伝導性マイクロ化学チップを製造する方法で得られたこのマイクロ化学チップは、それらの分析装置やマイクロリアクターに装着して、遺伝子診察・治療を行う医療分野や、生体試料を用いた犯罪捜査分野における各種分析、海洋や湖沼等の遠隔地での水中ロボットを用いた微生物探索、医薬品開発における各種合成に用いることができる。
【符号の説明】
【0125】
1は熱伝導性マイクロ化学チップ、10は流路維持基板シート、11・11a・11bは流動試料注入穴、12・12a・12b・12cは流動試料排出穴、15は下面、20は流路担持基板シート、21・21a・21bは流動試料注入部位、22・22a・22b・22cは流動試料排出部位、23は流動試料移送部位、24は上面、25は下面、26は流路、27は壁面、28は液溜部、30は流路維持基板シート、33は流動試料移送穴、34は上面、40は流路担持基板シート、41aは流動試料注入部位、42a・42bは流動試料排出部位、43は流動試料移入部位、46は流路、50は流路維持基板シート、51aは流動試料注入穴、52a・52bは流動試料排出穴、60a・60bはホルダー、61a・61bは注入誘導穴、62a・62b・62cは排出誘導穴である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6