特許第6131378号(P6131378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6131378
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/78 20060101AFI20170508BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20170508BHJP
   F27B 14/06 20060101ALI20170508BHJP
   F27D 11/02 20060101ALI20170508BHJP
   B22D 45/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   H05B3/78
   H05B3/14 D
   F27B14/06
   F27D11/02 B
   F27D11/02 A
   B22D45/00 C
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-239115(P2016-239115)
(22)【出願日】2016年12月9日
【審査請求日】2017年2月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 英気
(72)【発明者】
【氏名】梶野 仁
【審査官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−14760(JP,A)
【文献】 特開2006−275506(JP,A)
【文献】 特開2005−98157(JP,A)
【文献】 特開2006−46814(JP,A)
【文献】 特開2000−74324(JP,A)
【文献】 特開昭63−274085(JP,A)
【文献】 米国特許第9303880(US,B1)
【文献】 国際公開第2016/185624(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/185625(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3056334(JP,U)
【文献】 特開平10−162941(JP,A)
【文献】 特開2013−37985(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2006−0052985(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/78
B22D 45/00
F27B 14/06
F27D 11/02
H05B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉口端と開口端とを備えた筒状のヒーター収容部を有する金属溶湯浸漬用ヒーターチューブであって、
前記ヒーター収容部は、窒化珪素と、イットリウムを含む化合物と、マグネシウムを含む化合物と、を含み、
前記ヒーター収容部の外周面の表面粗さRaが0.5μm以上10μm以下である金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項2】
前記ヒーター収容部に含まれるイットリウムが1.0wt%以上5.0wt%以下、マグネシウムが0.5wt%以上5.0wt%以下であり、前記イットリウム及びマグネシウムを除いた残部が、75wt%以上の窒化珪素と、不可避的不純物とのみである請求項1に記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項3】
前記ヒーター収容部の閉気孔率が15%以下である請求項1又は2に記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項4】
前記イットリウムを含む化合物がYSi又はYSiである請求項1〜3のいずれかに記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項5】
前記ヒーター収容部の長さが200mm以上2000mm以下、外径が15mm以上200mm以下、厚さが3mm以上20mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項6】
前記ヒーター収容部の内周面の表面粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項7】
前記ヒーター収容部の熱伝導率が50W/(m・K)以上である請求項1〜6のいずれかに記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項8】
前記ヒーター収容部の曲げ強度が500MPa以上である請求項1〜7のいずれかに記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項9】
前記ヒーター収容部の破壊靱性が5MPa・(m)(1/2)以上である請求項1〜8のいずれかに記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項10】
前記ヒーター収容部の開気孔率が3%以下である請求項1〜9に記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【請求項11】
前記ヒーター収容部の外周面に取付部を備え、前記取付部に、前記ヒーター収容部の外周面より大きな径を有するスリーブ部を備えた請求項1〜10に記載の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムなどの金属溶湯に浸漬されるヒーターを保護する金属溶湯浸漬用ヒーターチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒーターチューブは、アルミニウム溶湯などの金属溶湯に浸漬させ、内部のヒーターを保護するために用いるものである。高温の金属溶湯に浸漬させるため、機械的強度が高く、耐熱衝撃性や耐摩耗性などに優れ、熱伝導率の高い材質で製造される必要がある。そのため、ヒーターチューブには、窒化珪素質焼結体(Si)などがよく用いられる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、窒化珪素を主成分とする柱状結晶と、金属元素の酸化物を主成分とする粒界相とを有する窒化珪素質焼結体からなり、該窒化珪素質焼結体は開気孔を有し、該開気孔の内部に、前記窒化珪素質焼結体の内部に存在する第1の柱状結晶よりも径の太い第2の柱状結晶が互いに交錯するように複数存在していることを特徴とするヒーターチューブが開示されている。
【0004】
下記特許文献2には、窒化珪素粉末、焼結助剤粉末、及び六方晶窒化硼素粉末からなる原料粉末を混合、成形、焼成して窒化珪素と窒化硼素の複合セラミックスを得る窒化珪素−窒化硼素複合セラミックスの製造方法において、前記六方晶窒化硼素として、レーザー回折・散乱法で測定した平均粒径が2〜10μm、30μm以上の粒径を有する粒子が5%以下、SEM写真から測定した1次粒子の平均粒子寸法が0.01〜0.8μm、比表面積が20〜50m/gであるものを、窒化珪素粉末と焼結助剤粉末の合計100質量部に対して3〜20質量部含有することを特徴とする窒化珪素−窒化硼素複合セラミックスの製造方法が開示され、この窒化珪素−窒化硼素複合セラミックスを用いた溶融金属用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−106920号公報
【特許文献2】特開2012−51758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、窒化珪素質焼結体は、機械的強度の高さなどから金属溶湯浸漬用ヒーターチューブに一般的に用いられている。
ヒーターチューブは、金属溶湯に浸漬させ、ヒーターの熱量を金属溶湯に伝えるものであり、効率的に熱を伝える観点から、熱伝導率は高い方が好ましい。
ヒーターチューブ焼結体は、焼結助剤により緻密化させてあるが、焼結助剤には素材の熱伝導率を著しく低下させてしまう欠点があるため、焼結助剤の低減が熱伝導率を高める観点から必要である。
【0007】
しかし、窒化珪素質焼結体において焼結助剤を低減させて、従来と同様の焼成条件により焼成すると、焼結助剤が少量のため高密度な窒化珪素質焼結体が得られない。焼結助剤を低減させたまま高密度にするためには、従来より高温で焼成を行う必要があるが、密度向上効果のある温度まで上げると、窒化珪素(Si)が分解してしまい、外周の表面が荒れ、表面粗さRaが大きくなってしまい、ヒーターチューブの外表面と金属溶湯の間に気泡がたまり易く、金属溶湯に熱を伝えにくくなるという問題が生じる。
【0008】
本発明者は、鋭意研究し、窒化珪素質焼結体において焼結助剤を低減させても高密度で熱伝導率の高い窒化珪素質焼結体を製造する方法を見出し、この窒化珪素質焼結体の構造・物性を解析したところ、従来にはない特徴を見出した。
【0009】
そこで、本発明は、従来よりも熱伝導率や密度が高い窒化珪素質焼結体からなる金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブは、閉口端と開口端とを備えた筒状のヒーター収容部を有する金属溶湯浸漬用ヒーターチューブであって、前記ヒーター収容部は、窒化珪素と、イットリウムを含む化合物と、マグネシウムを含む化合物と、を含み、前記ヒーター収容部の外周面の表面粗さRaが0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【0011】
上記形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブは、ヒーター収容部の外周面の表面粗さRaが0.5μm以上10μm以下とした。外周面が10μm以上の場合、外周面上に気泡がたまり熱を伝えにくくなり、外周面が0.5μm以下の場合、ヒーターチューブ表面にできる金属溶湯の酸化物が剥がれにくくなり、こうした酸化物層があることによって、加熱すべき金属溶湯への熱伝達が悪くなるためであると考察される。
【0012】
上記形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブは、前記ヒーター収容部に含まれるイットリウムが1.0wt%以上5.0wt%以下、マグネシウムが0.5wt%以上5.0wt%以下であり、前記イットリウム及びマグネシウムを除いた残部が、75wt%以上の前記窒化珪素と、不可避的不純物とのみであることが好ましい。これらの組成の範囲外にある場合、例えばマグネシウムが0.5wt%未満の場合、焼結助剤としての機能が十分でなく、開気孔及び閉気孔が残留しやすくなり、結果として熱伝導率が小さくなる。また、例えばイットリウムまたはマグネシウムが5.0wt%を超える場合、焼結助剤の量が多くなりすぎて、閉気孔が出来やすくなる。また、焼結体中の焼結助剤に起因する粒界相が多くなりすぎて、結果として熱伝導率が小さくなる。
また、前記イットリウムを含む化合物がYSi又はYSiであることが好ましい。このような組成にすることにより、同じ焼結助剤量でも従来よりも高密度で高熱伝導な窒化珪素質焼結体が得られる。
【0013】
上記形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブは、前記ヒーター収容部の閉気孔率が15%以下であることが好ましく、前記ヒーター収容部の内周面の表面粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下であることが好ましく、前記ヒーター収容部の熱伝導率が50W/(m・K)以上であることが好ましく、前記ヒーター収容部の曲げ強度が500MPa以上であることが好ましく、前記ヒーター収容部の破壊靱性が5MPa・(m)(1/2)以上であることが好ましく、前記ヒーター収容部の開気孔率が3%以下であることが好ましい。このような物性にすることにより、強度があり、熱伝導率が向上した金属溶湯浸漬用ヒーターチューブになる。
【0014】
上記形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブは、長さが200mm以上2000mm以下、外径が15mm以上200mm以下、厚さが3mm以上20mm以下であることが好ましく、このような大きさの金属溶湯浸漬用ヒーターチューブでも実用に十分な熱伝導率と密度を備えたものになる。
【0015】
上記形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブは、前記ヒーター収容部の外周面に取付部を備え、前記取付部には、前記ヒーター収容部の外周面より大きな径を有するスリーブ部を備えている。
このようにすることにより、保持炉などに設置しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを模式的に示した断面図である。
図2図1の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを保持炉に水平状に設置した状態を模式的に示した設置部付近の拡大断面図である。
図3図1のヒーターチューブに備えたスリーブ部の一例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを説明する。なお、本発明の範囲は、この実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の一実施形態の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ1は、閉口端2と開口端3とを備えた筒状のヒーター収容部4を有する。
ヒーターチューブ1は、図1などに示すように、円筒状としてあり、内部にヒーター5を収容し、金属溶湯に浸漬させて加熱するものである。なお、図1中の符号6は、電源である。
ヒーター収容部4は、一端部側を金属溶湯などに浸漬させる閉口端2とし、他端部側をヒーターなどを挿入する開口端3としてある。
閉口端2は、半球状乃至半楕円体状に膨らむ形状としてあり、開口端3は、円形状の開口としてある。
【0019】
ヒーター収容部4は、浸漬させる保持炉などに合わせた大きさとすればよいが、小さいと溶湯加熱が困難となり、大きいと必要以上の高強度や破壊靱性が必要となってしまう。こうした観点から、長さが200mm以上2000mm以下、特に600mm以上1500mm以下、外径寸法が15mm以上200mm以下、特に50mm以上160mm以下、厚さが3mm以上20mm以下、特に5mm以上13mm以下が好ましい。
【0020】
ヒーターチューブ1は、図1又は図2に示すように、ヒーター収容部4の外周面に取付部7を備えることができる。
取付部7は、開口端3付近に設け、外周面の保持炉の外壁に接する部分をテーパー状の形状としてある。取付部7には、図3に示すようなヒーター収容部4の外周面より大きな径を有する円筒状の固定部8aを備えたスリーブ部8を取り付けることができる。
スリーブ部8は、アルミナ、炭化ケイ素などからなる充填材を介して取付部7に取付けることができる。スリーブ部8は、外方に張り出す円盤状のフランジ部8bを備え、図2に示すように、保持炉9などに取付けるために用いることができる。
【0021】
ヒーター収容部4は、窒化珪素質焼結体からなり、窒化珪素(Si)と、イットリウムを含む化合物と、マグネシウムを含む化合物と、を含むことが好ましい。
イットリウムを含む化合物としては、例えば、Y、YSi、YSi、酸窒化物ガラスなどを挙げることができる。
マグネシウムを含む化合物としては、例えば、MgO、MgSiO、MgSiN、酸窒化物ガラスなどを挙げることができる。
【0022】
ヒーター収容部4は、イットリウムを含む化合物をイットリウム換算で1.0wt%以上5.0wt%以下、特に1wt%以上3wt%以下を含むのが好ましく、マグネシウムを含む化合物をマグネシウム換算で0.5wt%以上5.0wt%以下、特に1wt%以上3wt%以下を含むのが好ましい。
イットリウムを含む化合物及びマグネシウムを含む化合物を除いた残部は、窒化珪素(Si)75wt%以上、特に80wt%以上と、不可避的不純物とのみを含むのが好ましい。
この組成範囲であることにより、高強度で高熱伝導の焼結体になる。
なお、本発明において不可避的不純物とは、窒化珪素、イットリウムを含む化合物及びマグネシウムを含む化合物以外の、焼結体に不可避的に含まれるごく微量の他の元素を意味する。言い換えれば、ヒーター収容部4は、実質的には窒化珪素、イットリウムを含む化合物及びマグネシウムを含む化合物からなる。
【0023】
ヒーター収容部4は、外周面の表面粗さRaが0.5μm以上10μm以下、特に1μm以上5μm以下であるのが好ましい。
この範囲であることにより、熱伝達率が高まる。これは、外周面が溶湯アルミニウムとよく接触することでできるためであると推測される。
ヒーター収容部4は、内周面の表面粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下、特に0.6μm以上3μm以下であるのが好ましい。この範囲であることにより、熱伝達率が高まる。また、外周面の表面粗さRaが内周面の表面粗さRaの2倍以上、特に3倍以上であるのが好ましい。この範囲であることにより、内周界面と外周界面での熱伝達のバランスが良くなり、更に熱伝達率が高まる。
表面粗さRaは、焼成体を製造する焼成工程において、囲い焼成することなどで調整することができる。
表面粗さRaは、JISB0601に準拠して測定することができる。
【0024】
ヒーター収容部4は、閉気孔率が15%以下であり、特に10%以下が好ましく、5%以下が更に好ましい。また、開気孔率が3%以下であり、特に1%以下であることが好ましい。
この範囲であることにより、高強度でかつ高熱伝導の焼結体が得られることになる。
閉気孔率、開気孔率は、焼成条件を調整することなどで調整できる。
閉気孔率は、JISR1634に準拠して見掛密度を測定し、理論密度と見掛密度の比から計算することができる。また、開気孔率は、JISR1634に準拠して求められる。
【0025】
ヒーター収容部4は、曲げ強度が500MPa以上、特に600MPa以上であることが好ましい。
この範囲であることにより、ヒーターチューブとして割れにくく、安定使用が可能で、かつ長寿命となる。
曲げ強度は、焼成プロファイルで緻密化させることなどにより、調整することができる。
曲げ強度は、3点曲げ強度であり、JISR1601に準拠して測定することができる。
【0026】
ヒーター収容部4は、破壊靱性が5MPa・(m)(1/2)以上、特に7MPa・(m)(1/2)以上であることが好ましい。
この範囲であることにより、生じた亀裂が進展しにくくなり、破断に至る時間が長くなり、ヒーターチューブとして安定使用が可能になる。
破壊靭性は、焼成プロファイルを変更し、緻密化させることなどで、調整することができる。また、焼成プロファイルを変更し、窒化珪素の結晶粒径や形状を制御することなどにより、調整することができる。
破壊靭性は、JISR1607に準拠して測定することができる。
【0027】
ヒーターチューブ1のヒーター収容部4は、好ましくは熱伝導率が50W/(m・K)以上、特に好ましくは60W/(m・K)以上である。この範囲にあることにより、ヒーターチューブとして、効率的にヒーターの熱量を金属溶湯に伝えることができる。熱伝導率は、イットリウムを含む化合物や、マグネシウムを含む化合物の量の制御や、温度プロファイルの制御などにより、調整することができる。
熱伝導率は、JISR1611に準拠して測定することができる。
【0028】
本形態のヒーターチューブ1は、例えば、以下の製造方法で製造することができる。
【0029】
原料中に窒化珪素は75wt%以上、好ましくは80wt%〜95wt%、更に好ましくは85wt%〜94wt%含む。窒化珪素は結晶構造によりα相とβ相が存在するが、α相として原料中に50vol%以上、好ましくは70vol%以上、更に好ましくは85vol%以上含む粒子形状のものが良い。これにより高比重で高強度な焼結体が得られる。
また原料中に、イットリウムを含む化合物は0.5wt%〜5wt%、好ましくは1wt%〜3wt%含む。イットリウムを含む化合物は、イットリア(Y)が好ましい。イットリアは焼結過程でガス成分の放出がなく、更に焼結助剤として効果的に機能するため、緻密な焼結体が得られる。
また原料中に、マグネシウムを含む化合物を0.5wt%〜5wt%、好ましくは1wt%〜3wt%含む。マグネシウムを含む化合物は、マグネシア(MgO)、フォルステライト(MgSiO)、窒化珪素マグネシウム(MgSiN)が好ましい。また、スラリーとする際に溶液として水を使える方が、環境面やコストが安くなるため、こうした観点からフォルステライト、窒化珪素マグネシウムがより好ましい。更に、原料コストが安くなるため、フォルステライトが更に好ましい。
これらの窒化珪素、イットリウムを含む化合物、及びマグネシウムを含む化合物、それぞれの粒子を原料とし、これに、ポリビニルアルコール等のバインダー、分散剤、可塑剤及び水を混入して撹拌混合し、スラリーを得る。撹拌混合は、ボールミルなどで行うことができる。
【0030】
前記スラリーを、スプレードライなどにより顆粒体にする。この顆粒体の平均粒径(D50)は、成形体とする際のスラリーの流動性と、成形体の緻密さを確保する観点から30μm〜200μm、特に40μm〜150μmが好ましい。
前記顆粒の平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法などで測定することができる。
【0031】
次に、成形体を以下の手順で作製する。円筒形ゴム型の中央に中芯を設置したヒーターチューブ1の型を用意し、ゴム型と中芯との間に前記顆粒体を充填し、ゴム型外部からの水の浸入を防ぐためにシールをした後、CIP成形機に投入して水圧で成形する。この際の圧力は、0.8t/cm〜1.5t/cm、特に0.9t/cm〜1.2t/cmが好ましく、0.2分間〜5分間、特に0.5分間〜1.5分間保持するのが好ましい。
その後、ゴム型から外し、中芯を引き抜いてヒーターチューブ成形体を得ることができる。
【0032】
このヒーターチューブ成形体を焼成してヒーターチューブ1を得る。
この際の焼成温度は、1700℃〜2100℃、特に1800℃〜2000℃が好ましく、また、3時間〜20時間、特に5時間〜15時間焼成するのが好ましい。
焼成は、窒素雰囲気下で行うのが好ましく、窒素分圧を段階的に上げていくのが好ましい。
また、焼成は、SiCファインセラミックスからなる容器を用いて囲い焼成するのが好ましい。
このようにすることにより、表面の窒化珪素が分解されるのを抑制し、ヒーター収容部4の外周面の表面粗さが滑らかになる。
【0033】
本発明によるヒーターチューブ1は、従来よりも熱伝導率や密度が高い窒化珪素質焼結体からなる金属溶湯浸漬用ヒーターチューブになり、保持炉などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例に係る金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを説明する。なお、本発明の範囲は、この実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例、比較例の製造)
実施例1〜4及び比較例1〜2の金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを製造した。
【0036】
(金属溶湯浸漬用ヒーターチューブの製造)
各金属溶湯浸漬用ヒーターチューブは、原料として窒化珪素(Si)、イットリウム化合物としてイットリア(Y)、マグネシウム化合物としてフォルステライト(MgSiO)を用いた。窒化珪素のα化率は90vol%であり、純度99%である。また、イットリアの純度は99.9%であり、フォルステライトの純度は98%である。これらの平均粒径、配合割合などは、下記表1に示すとおりである。なお、原料の平均粒径はレーザー回折散乱法から測定した。
これらの原料に、バインダーとしてのポリビニルアルコール、及び水を加えてボールミルで撹拌混合し、スラリーを形成した。その後、スラリーを、スプレードライにより顆粒体にし、ヒーターチューブ形状のゴム型に充填した。顆粒体の平均粒径は下記表1に示すとおりである。顆粒体の平均粒径は、レーザー回折散乱法で測定した。
【0037】
次に、CIP成形機(神戸製鋼社製)にて1t/cmの圧力で1分間保持し、成形体を作製した。この成形体を下記表1に示す温度で10時間、窒素雰囲気下で焼成し、長さ1000mm×外形寸法112mm×厚さ8mmの金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを製造した。
この際、焼成は、実施例1〜4は、SiCファインセラミックスからなる容器を用いて囲い焼成を行った。比較例1〜2は、容器で囲うことは行わずに焼成した。
【0038】
【表1】
【0039】
(金属溶湯浸漬用ヒーターチューブの物性値の測定)
各金属溶湯浸漬用ヒーターチューブの物性値を測定した。
【0040】
(表面粗さ)
表面粗さRaは、JISB0601に準拠して測定した。その結果を上記表1に示す。
【0041】
(開気孔率)
開気孔率は、JISR1634に準拠し、この規格に記載された見掛け気孔率として測定した。その結果を上記表1に示す。
【0042】
(閉気孔率)
閉気孔率は、JISR1634に準拠して見掛密度を測定し、理論密度と見掛密度の比から計算した。その結果を上記表1に示す。
【0043】
(熱伝導率)
熱伝導率は、JISR1611に準拠し、この規格に記載された熱伝導率として測定した。その結果を上記表1に示す。
【0044】
(曲げ強度)
曲げ強度は、JISR1601に基づき、3点曲げ試験によって行った。その結果を上記表1に示す。
【0045】
(破壊靭性)
破壊靭性は、JISR1607に準拠し、この規格に記載された破壊抵抗試験を行うことにより測定した。その結果を上記表1に示す。
【0046】
(粉末X線回折)
焼結体を粉砕して、粉末X線回折測定を行い、イットリウムを含む化合物の種類を分析した。その結果を上記表1に示す。
【0047】
(ヒーターチューブとして使用時の評価)
実施例、比較例のヒーターチューブをそれぞれ用い、図2の保持炉を組み立てた。ヒーターを加熱して、アルミを溶かし、溶解したアルミの温度が700℃になるように、ヒーター出力を制御した。700℃となってから1時間後のヒーターチューブ内部のヒーター付近の温度を測定した。その結果を上記表1に示す。
【0048】
実施例1〜4は、表面粗さ(Ra)が小さく、表面が滑らかであり、熱伝導率も高いものである。さらに、曲げ強度、破壊靱性も実用的に耐え得るものである。
これに対し、比較例1〜2は、表面粗さ(Ra)が大きく、表面が荒れており、熱伝導率も低いものである。さらに、曲げ強度、破壊靱性も低く実用できないものである。
実施例1〜4は、比較例1〜2と比べて、ヒーター温度が低く、表面粗さが小さいため、効率的に熱量をアルミに伝えていると言える。逆に比較例1〜2は、表面粗さが大きいため、ヒーターチューブ外側の表面に気泡が溜まりやすく、効率的に熱量を伝えられない。すなわち、アルミ温度を700℃で一定に制御しているため、ヒーターを余計に加熱してヒーター付近温度をより高める必要があり、余計な電力を浪費することになる。
【符号の説明】
【0049】
1 金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ
2 閉口端
3 開口端
4 ヒーター収容部
5 ヒーター
6 電源
7 取付部
8 スリーブ部
8a 固定部
8b フランジ部
9 保持炉
【要約】
【課題】従来よりも熱伝導率や密度が高く、かつ熱伝達率が良好な窒化珪素質焼結体からなる金属溶湯浸漬用ヒーターチューブを提供する。
【解決手段】金属溶湯浸漬用ヒーターチューブ1は、閉口端2と開口端3とを備えた筒状のヒーター収容部4を有し、ヒーター収容部4は、窒化珪素と、イットリウムを含む化合物と、マグネシウムを含む化合物と、を含み、ヒーター収容部4の外周面の表面粗さRaが0.5μm以上10μm以下である。
【選択図】図2
図1
図2
図3