(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131409
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】βアミロイドおよび細胞間コミュニケーションを用いてアルツハイマー病をスクリーニングするための末梢性診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20170515BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20170515BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20170515BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20170515BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N21/17
G01N21/27 A
C12Q1/02
【請求項の数】16
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-510497(P2014-510497)
(86)(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公表番号】特表2014-526031(P2014-526031A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】US2012037532
(87)【国際公開番号】WO2012155051
(87)【国際公開日】20121115
【審査請求日】2015年5月8日
(31)【優先権主張番号】61/485,256
(32)【優先日】2011年5月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503310224
【氏名又は名称】ブランシェット・ロックフェラー・ニューロサイエンスィズ・インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】チリラ、フローレン・ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】カーン、タパン・クマー
(72)【発明者】
【氏名】アルコン、ダニエル・エル.
【審査官】
赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表平10−506990(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/041761(WO,A1)
【文献】
特表2009−511905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C12Q 1/02
G01N 21/17
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体においてアルツハイマー病をスクリーニングするための方法であって、
(a)被検体から取得された線維芽皮膚細胞の2つのサンプルの1つをアミロイドβペプチド(Aβ)で処理すること;
(b)Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルの各々を培地で培養すること;
(c)Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルの各々を画像化して、各サンプルの少なくとも1つの画像を取得すること;
(d)アルツハイマー病(AD)を有することが知られているコントロールと比べて、各サンプルの少なくとも1つの画像を少なくとも1の形態学的分析法により分析すること;および
(e)工程(d)の分析に基づいて、Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルの両方がAD様表現型を示す場合、ADについて陽性であると判定し、Aβ処理細胞サンプルがAD様表現型を示し、未処理細胞サンプルが示さない場合、ADについて陰性であると判定すること
を含む方法。
【請求項2】
工程(d)が、大きい凝集体の存在、凝集体への細胞の付着、凝集体の成長の証拠、凝集体の密度(単位面積あたりの数)、凝集体ネットワーク内のエッジの出現、細胞移動の証拠、パーコレーション限界への近さ、およびこれらの組み合わせから選択される細胞凝集特性を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(d)が、凝集体の数あたりの平均凝集体面積を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(d)が、フラクタル次元を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(d)が、空隙性を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(d)が、移動する細胞の数を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)が、各サンプルの少なくとも1つの画像を分析して、細胞凝集特性、凝集体の数あたりの平均凝集体面積、フラクタル次元、空隙性、および移動する細胞の数から選択される少なくとも2つの細胞形態学特性を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程(d)が、各サンプルの少なくとも1つの画像を分析して、細胞凝集特性、凝集体の数あたりの平均凝集体面積、フラクタル次元、空隙性、および移動する細胞の数を決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)で使用された分析方法の少なくとも2つが、独立して、陽性の診断を提供する場合、前記診断がADについて陽性である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記培地が、ラミニン、コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン、またはこれらの任意の組み合わせを含む細胞外マトリクスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記培地が、成長因子を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記培地が、ゲルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)が、Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルを約1分〜約168時間培養することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)が、Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルを約24時間〜約48時間培養することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、アルツハイマー病(AD)と非アルツハイマー病認知症(非ADD)とを識別する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記非ADDが、ハンチントン病およびパーキンソン病から選択される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本出願は、2011年5月12日出願の米国仮出願第61/485,256号の利益を主張し、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、皮膚からサンプル採取した線維芽細胞ネットワークの定量的に測定された複雑さに基づいて患者におけるアルツハイマー病をスクリーニングするための末梢性診断方法に関する。
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、記憶力および認知機能の進行性の低下により特徴づけられる神経変性障害である。5百万人を超える米国人がこの進行性かつ致死的な疾患を抱えて生きていると推定されている。アルツハイマー病は、脳細胞を破壊し、それにより、記憶喪失および生活の質を低下させる思考および挙動の問題が引き起こされる。ADには公知の治癒法がないが、症状に対する治療により、何百万ものADに罹患している人、および彼らの家族の生活の質が改善され得る。ADを早期に診断することにより、患者に、生活の質を最大にする選択を行うためおよび今後の計画を立てるための時間が与えられ、未知の問題に関する不安が減少し、かつ患者に治療の利益を得るより良い機会が提供される。
【0004】
ADの複雑さにより、早期スクリーニングに大きな課題が生じる。症候性診断または早期ADの決定的な診断の前にADを予測する生物学的マーカーがADの検査および治療に大きな影響を及ぼす可能性がある。長期の前駆期、他の非アルツハイマー病認知症(非ADD)との共存症およびADの多因子性により、診断の成功についてさらに課題がもたらされる。
【0005】
したがって、当技術分野では、アルツハイマー病を診断するための改良された方法に対する需要が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、速い(上の段)および遅い(下の段)ダイナミクスを例示している、マトリゲルの厚い層上のAD線維芽細胞のダイナミクスを示す。凝集体がプレーティングした24時間後および48時間後に出現することに留意されたい。
【
図2】
図2は、培養したヒト皮膚線維芽ADおよびAC細胞の画像、ならびにAC、AD、および非ADD細胞についての統合スコア値を示す。マトリゲルにプレーティングした後のAD細胞が
図2A(1時間)および
図2C(48時間)に示されており、プレーティングした後のAC細胞が
図2B(1時間)および
図2D(48時間)に示されている。スケールバー=100μm。
図2Eは、48時間の時点の皮膚線維芽細胞についての統合スコアについての母集団データを示す。
図2Fは、年単位の罹患期間の関数としてAD細胞についての統合スコアをプロットする。各点の下の数は、細胞株の数を示し、エラーバーは平均値の標準誤差を示す。
【
図3】
図3は、AD、AC、および非ADD細胞についての凝集体の数あたりの凝集体面積(面積/#)分析を例示する。
図3Aおよび3Bは、それぞれマトリゲルにプレーティングした48時間後のADおよびAC線維芽細胞を示す。
図3Cは、AC(n=11)、AD(n=13)、および非ADD(n=9)についての面積/#母集団データを示す。
図3Dは、年単位の罹患期間の関数として面積/#を示す。各点の下の数は、細胞株の数を示し、エラーバーは平均値の標準誤差を示す。
図3Eおよび3Fは、プレーティングした48時間後の面積および数の関数として細胞凝集体の同じ確率分布の2つの見方を示す。
【
図4】
図4は、凝集体の数あたりの平均凝集体面積の決定における精度を示す。
図4Aは、AC(n=1)、AD(n=1)、および非ADD(n=2)についての結果の再現性を示す。実験は、同じ細胞株について少なくとも1ヶ月あけて行い、最初の細胞の数は10%以内であった。
図4Bは、最初の細胞密度の関数として凝集体の数あたりの面積をプロットし、指数関数的な関係(実線)が示されており、ADがACよりも急激に上昇している。エラーバーは標準偏差を示す。フィット関数は、f(x)=a*exp(x/b)であり、ここでADについてはa=112.8およびb=22.8であり、ACについてはa=64.1およびb=30.5である。これは、1mm
3あたり細胞50個の細胞密度の場合に、分離がADをスクリーニングするために合理的に良好であることを示唆している。
【
図5】
図5は、フラクタルおよび空隙性分析を例示する。
図5Aは、マトリゲルにプレーティングした1時間後のAC細胞を示し(フラクタル次元=1.72、空隙性=0.37)、
図5Bは、プレーティングした48時間後の同じ細胞を示す(フラクタル次元=1.05、空隙性=0.75)。
図5Cは、AD、AC、および非ADD細胞についてのフラクタル曲線を示し、回復の傾きおよび切片を、最大−最小差の20〜80%の範囲内の線(淡紅色)を当てはめることによってモニターした。
図5Dは、
図5Cに示されているフラクタル曲線AD(n=13)、AC(n=10)、および非ADD(n=9)について、回復の切片に対する傾きの母集団データを示す。
図5Eは、AD、AC、および非ADD細胞についての空隙性曲線を示し、
図5Fは、3つの群(AD(n=7)、AC(n=6)、非ADD(n=8))を分離するための手段としての平均空隙性を示す。
【
図6】
図6は、細胞移動分析を例示する。
図6A(AD)および
図6B(AC)において、マトリゲルにプレーティングした48時間後に自由に移動する線維芽細胞の例に緑色の点で印がつけられている。
図6Cは、移動する細胞の数に対する移動速度を示し、緑色の四角はAD(n=10)を示し、青色の三角形は非ADD(n=7)を示し、赤色の丸はAC(n=9)を示す。青色の線は分離閾値である。
図6Dは、年単位の罹患期間の関数として移動する細胞の数をプロットする。
【
図7】
図7は、ネットワーク形成および細胞凝集に対するAβオリゴマーの効果を示す。
図7Aは、マトリゲルにプレーティングした2.5時間後のコントロール細胞株を示す。
図7Bは、マトリゲルにプレーティングした2.5時間後の、1μMのオリゴマー形成Aβで一晩処理した同じコントロール細胞株を示し、ネットワーク形成の欠陥が示されている。
図7Cは、AD様表現型を有するAβ処理コントロール細胞株(緑色)についてのフラクタル次元を示す。
図7Dは、AD表現型を示すAβ処理コントロール細胞株(緑色)についての高い空隙性を示す。
図7Eは、1μMのAβ処理に起因する、プレーティングした48時間後における凝集体の数あたりの面積の増加の例を示す。
【
図8】
図8は、ノードの数およびノードあたりのエッジの決定を例示する。
図8Aおよび8Bは、それぞれ、マトリゲルにプレーティングした1時間後の、ノード(緑色の矢印)およびノードと連結したエッジ(青色の矢印)を含むADおよびACネットワークの例を示す(スケールバー100μm)。
図8Cおよび8Dは、それぞれ、拡大率を上げた、AC細胞サンプルにおける、3つ以上のエッジおよび5つのエッジを伴うノードを示す。AD細胞の方が、ノードあたりの少ないエッジ(
図8E)およびクラスターあたりの少ないノード(
図8F)を示した。測定は、プレーティングした1時間後に実施した(n=10、p<0.03、2つのサンプルについて不等分散を用いた両側t検定)。
【0007】
本開示の特定の側面は、以下に詳細に説明されている。本出願で使用され、本明細書で明らかにされる用語および定義は、本開示の範囲内の意味を示すものとする。本明細書で言及される特許および科学文献は、これによって参照により組み込まれる。参照により組み込まれる用語および/または定義と矛盾する場合は、本明細書において提供される用語および定義が支配する。
【0008】
単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the(その)」は、文脈によりそうでないことが示されない限り、複数への言及を含む。
【0009】
「およそ」および「約」という用語は、参照された数または値とほぼ同じであることを意味する。本明細書で使用される場合、「およそ」および「約」という用語は、一般に、指定の量、頻度、または値の平均からの1標準偏差を包含するものと理解されるべきである。
【0010】
本開示は、皮膚からサンプル採取した線維芽細胞ネットワークの定量的に測定された複雑さに基づいて、患者におけるアルツハイマー病をスクリーニングするための末梢性診断方法、ならびにADに対する潜在的な治療薬をスクリーニングする方法に関する。本明細書に開示されている、線維芽細胞ネットワークの複雑さのダイナミクスの測定により、侵襲性が最小限である手順を用いて患者におけるADを診断する新しい機会がもたらされる。本明細書に開示されている方法により、ADをスクリーニングするための、現在当技術分野で公知の手段よりも正確であり、単純であり、かつ/または低費用の手段を提供することができる。
【0011】
皮膚線維芽細胞は、アルツハイマー病(AD)の特性の同定において有用である。増加している証拠により、いわゆる脳−皮膚軸が裏付けられる。マウスおよびヒト線維芽細胞は、例えば、多能性の状態を媒介する4種の転写因子の組み合わせを有する機能的なニューロンに再プログラミングすることができる。皮膚神経系と皮膚細胞の間の相互作用が皮膚の炎症および創傷治癒に関与する。末梢皮膚線維芽細胞の概日時計は、視床下部の視交叉上核内の概日性ペースメーカーと同期する。さらに、AD患者の脳におけるアミロイド代謝の異常の皮膚(すなわち全身性の)徴候とアミロイド沈着の関連性を裏付ける証拠が存在する。例えば、プレセニリン−1は、γ−セレクターゼ複合体の主要な構成成分の1つである。プレセニリン−1の突然変異により、γ−セレクターゼ複合体のアミロイド前駆体タンパク質(APP)に対する活性が増大し、毒性のアミロイドベータの産生が増加し、これは、ADの主要な原因のうちの1つであると考えられている。プレセニリン−1は、上皮成長因子受容体ターンオーバーにも関与する。プレセニリン−1発現の部分的喪失により、脂漏性角化症および炎症性皮膚疾患を導くことができる。
【0012】
皮膚線維芽細胞における種々の分子的尺度により、プロテインキナーゼC(PKC)のAD特異的欠損、および細胞外調節キナーゼ1/2(ERK1/2)シグナル伝達が示される。このシグナル伝達は、培養物中で成長させた線維芽細胞におけるカリウムチャネルのAD特異的調節解除および電気的連結にも関係づけられている。細胞の機能および組織構造の調節に重要な巨大分子のアレイで構成される複雑なネットワークである細胞外マトリックスは、AD皮膚線維芽細胞では調節解除されている。さらに、家族性AD皮膚線維芽細胞を用いた遺伝子発現試験により、疾患過程は、認知の低下が発症する前に開始する可能性さえあることが示された。家族性AD線維芽細胞は、培養した線維芽細胞において過剰なアミロイドベータを産生することも見いだされた。
【0013】
ヒト皮膚線維芽細胞ネットワークは、AD脳における神経回路網と同様に、年齢を釣り合わせたコントロール(AC)および非アルツハイマー病認知症(非ADD)細胞と比較して複雑さの低下を示した。線維芽細胞ネットワークにおける細胞間コミュニケーションの尺度およびそれらの時空間の複雑さに対するアミロイドベータの効果を用いて、ADについてスクリーニングすることができる。したがって、ヒト皮膚線維芽細胞ネットワークにより、正確なAD診断および治療薬スクリーニングのために有用な脳ネットワークのモデルがもたらされる。皮膚線維芽細胞サンプルは、被検体から、穿孔生検によって、または例えばメスを使用することによって取得することができる。
【0014】
アミロイドベータ
いくつかの態様では、AD陽性コントロールと比較するために、アミロイドベータを線維芽細胞に加えてAD様表現型を刺激する。
【0015】
「アミロイドベータペプチド」、「ベータアミロイドタンパク質」、「ベータアミロイドペプチド」、「ベータアミロイド」、「A.ベータ」および「A.ベータペプチド」という用語は、本明細書では互換的に使用される。いくつかの形態では、アミロイドベータペプチド(例えば、A.ベータ39、A.ベータ40、A.ベータ41、A.ベータ42およびA.ベータ43)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と称されるより大きな膜貫通糖タンパク質の39〜43アミノ酸の約4kDaの内部断片である。APPには多数のアイソフォーム、例えば、APP
695、APP
751、およびAPP
770が存在する。現在ヒトにおいて存在することが知られているAPPの特定のアイソタイプの例は、Kangら(Nature、325:733−736、1987)に記載されている、「標準の」APPと称される695アミノ酸ポリペプチド;Ponteら(Nature、331 :525−527、1988)およびTanziら(Nature、331:528−530、1988)に記載されている751アミノ酸ポリペプチド;ならびにKitaguchiら(Nature、331 :530−532、1988)に記載されている770アミノ酸ポリペプチドである。in vivoまたはin situにおける、異なるセレクターゼ酵素によるAPPのタンパク質プロセシングの結果として、A.ベータは40アミノ酸の長さの「短い形態」と、42〜43アミノ酸にわたる長さの「長い形態」の両方で見いだされる。APPの疎水性ドメインの一部はA.ベータのカルボキシ末端において見いだされ、特に長い形態の場合に、A.ベータの凝集する能力の原因となる。A.ベータペプチドは、正常な個体とアミロイド形成性障害に罹患している個体の両方を含めたヒトおよび他の哺乳動物の体液、例えば脳脊髄液において見いだすことができる、またはそれから精製することができる。
【0016】
「アミロイドベータペプチド」、「ベータアミロイドタンパク質」、「ベータアミロイドペプチド」、「ベータアミロイド」、「A.ベータ」および「A.ベータペプチド」という用語は、APPのセレクターゼ切断によって生じるペプチドおよび切断産物と同じまたは基本的に同じ配列を有する合成ペプチドを包含する。本開示のために適したA.ベータペプチドは、これらだけに限定されないが、組織、細胞株および体液(例えば、血清および脳脊髄液)を含めた、種々の供給源に由来してよい。例えば、A.ベータは、APP発現細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えば、Walshら(Nature、416:535−539、2002)に記載の細胞に由来してよい。A.ベータ調製物は、例えば、組織供給源に由来してもよく(例えば、Johnson−Woodら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94:1550、1997を参照されたい)、当技術分野で公知の方法によって合成することもできる(例えば、Fieldsら、Synthetic Peptides:A User’s Guide、ed.Grant、W.H.Freeman&Co.、New York、1992、77頁を参照されたい)。したがって、ペプチドは、自動化メリフィールド固相合成技法を用いて、側鎖が保護されたアミノ酸を使用したt−BocまたはF−moc化学作用のいずれかによって保護されたa−アミノ基を用いて、例えば、Applied Biosystems Peptide Synthesizer Model430Aまたは431で合成することができる。より長いペプチド抗原は、公知の組換えDNA技法によって合成することができる。例えば、ペプチドまたは融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドを合成または分子的にクローニングし、トランスフェクションおよび適切な宿主細胞による異種発現のために適切な発現ベクターに挿入することができる。A.ベータペプチドとは、正常な遺伝子のA.ベータ領域における突然変異によって生じる関連A.ベータ配列も指す。
【0017】
細胞形態におけるアミロイドベータ誘導性異常を、アルツハイマー病の存在または不在のいずれかの確認試験として用いることができる。例えば、陰性アミロイドベータ−指標反応は疾患の存在を示す可能性があり、一方、陽性反応は疾患の不在を示す可能性がある。すなわち、インキュベートした際またはアミロイドベータペプチドと接触させた際に細胞においてAD形態の表現型が誘導されれば、それにより、試験細胞または試験されている被検体におけるADの不在が示される。対照的に、インキュベートした際またはアミロイドベータペプチドと接触させた際に細胞において表現型の変化がほとんどまたは全く誘導されなければ(すなわち、ネットワークの複雑さの測定値に統計的に有意な変化がなければ)、それにより、試験細胞または試験されている被検体におけるADの存在が示される。
【0018】
本発明では、アミロイドベータ(1−42)(すなわち、Aβ(1−42))、ならびに/または、これらだけに限定されないが、(1−39)、(1−40)、(1−41)、(1−43)、(25−35)、(16−22)、(16−35)、(10−35)、(8−25)、(28−38)、(15−39)、(15−40)、(15−41)、(15−42)、および(15−43)を含めた任意の他のアミロイドベータ断片を用いることができる。
【0019】
細胞培養
AD、AC、および非ADD細胞(複数可)または細胞サンプル(複数可)は、タンパク質混合物、例えば、ゼラチン質タンパク質混合物を含む培地で培養またはインキュベートすることができる。少なくともいくつかの態様では、細胞を、アミロイドベータを加えた後に培養する。
【0020】
いくつかの態様では、培養培地は調製物を含む。いくつかの態様では、調製物は可溶化されている。少なくとも1つの態様では、調製物は、腫瘍、例えばEngelbreth−Holm−Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出され、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質に富んでいる。そのような調製物は、例えば、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン/ニドゲンの少なくとも1つを含んでよい。本開示のために適した非限定的な例はMatrigel(商標)であり、これはEHSマウス肉腫細胞から分泌されるゼラチン質タンパク質混合物の商品名(BD Biosciences)である。この混合物は、多くの組織に見いだされる複雑な細胞外の環境と似ており、細胞培養の培養基として使用することができる。マトリゲルは、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン1を含む。37℃でマトリゲルは重合して、哺乳動物細胞基底膜と似た、生物活性のあるマトリックス材料を生じる。
【0021】
本開示のいくつかの態様では、調製物は、TGF−ベータ、上皮成長因子、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、および/または腫瘍において天然に見いだされてもよく見いだされなくてもよい他の成長因子をさらに含む。いくつかの態様では、TGF−ベータ、上皮成長因子、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、および/または他の成長因子は、腫瘍、例えば、EHSマウス肉腫腫瘍において天然に見いだされる。BD Matrigel(商標)Matrix Growth Factor Reduced(GFR)は、例えば、より高度に定義されたゲル培養基の基底膜調製物を必要とする適用のために適する可能性がある。
【0022】
調製物は、正常および形質転換された足場依存性類上皮細胞および他の細胞型の両方の付着および分化のために有効なECMタンパク質調製物を含んでよい。例示的な細胞型としては、これらだけに限定されないが、ニューロン、肝細胞、セルトリ細胞、ニワトリ水晶体、および血管内皮細胞が挙げられる。ECMタンパク質調製物は、成体ラット肝細胞ならびにマウスおよびヒト乳房上皮細胞における三次元培養物における遺伝子発現に影響を及ぼす可能性がある。調製物は、例えば、腫瘍細胞の浸潤アッセイのための基礎としての機能を果たし、in vivoにおける末梢神経再生を支持し、かつ/または血管新生をin vitroとin vivoの両方で試験するための培養基をもたらす。ECMタンパク質は、免疫抑制マウスにおけるヒト腫瘍のin vivoでの繁殖も支持することができる。
【0023】
本開示のいくつかの態様では、冷却したECMタンパク質の体積を組織培養実験器具上に分配する。本明細書で使用される場合、「冷却した」という用語は、室温未満、例えば、約15℃未満、約10℃未満、約5℃未満の温度、例えば約4℃の温度を指す。高い温度でインキュベートすると、ECMタンパク質は自己組織化して、実験器具の表面を覆う薄膜を生じる可能性がある。本明細書で使用される場合、「高い」という用語は、室温を超える温度、例えば、約20℃超、約25℃超、約30℃超、約35℃超、例えば、およそヒトの平均体温である約37℃の温度を指す。
【0024】
ECMタンパク質上で培養した細胞により、他のやり方では観察することが難しい複雑な細胞の挙動を実験室条件下で実証することができる。例えば、内皮細胞は、ECMタンパク質で覆われた表面では複雑なクモの巣様ネットワークを創出することができるが、プラスチック表面上ではそれを創出することができない。そのようなネットワークは、生きている組織を血液で覆う微小血管毛管系を示唆し、したがって、ECMタンパク質はそのプロセスの観察に役立つ。
【0025】
いくつかの態様では、より大きな体積のECMタンパク質を使用して、細胞を培養するための厚い三次元ゲルを作製する。例えば、厚いゲルは、細胞を、表面からゲルの内部に移動するように誘導することにおいて有用であり得る。いくつかの態様では、この移動性挙動は、腫瘍細胞転移についてのモデルとしての機能を果し得る。いくつかの態様では、培養培地は、厚さが約1.0mm〜約2.0mm、例えば、約1.5mmまたは約1.8mmの層を含む。培養培地の量は、関係式V=(πr
2)h(式中、hは層の厚さであり、rは半径である)に従って、ウェルプレート中の体積(V)として表すこともできる。いくつかの態様では、例えば、培養培地の体積は、約400μl〜約800μlの範囲、例えば、約700μlであってよく、r=11.05mmである。
【0026】
理論に束縛されることなく、ECMタンパク質の、複雑な細胞挙動を刺激する能力は、不均一な組成に起因する可能性があると考えられている。いくつかの態様では、ECMタンパク質の主要な構成成分は、構造タンパク質、例えば、ラミニンおよびコラーゲンであり、これは培養細胞に、それらの天然の環境において遭遇する接着性ペプチド配列を与える。本開示のいくつかの態様では、多くの細胞型の分化および増殖を促進させることができる成長因子を使用する。ECMタンパク質は、多数の他のタンパク質も少量含有してよい。
【0027】
培養物において1〜2時間以内に、皮膚線維芽細胞は連結して測定可能なネットワークを形成することができる。この状態により、細胞形態、細胞の生化学的機能、細胞の運動性または侵入、および/または遺伝子発現を試験するための生理的に関連性のある環境がもたらされる。これらのネットワークは経時的に変性し(例えば、約5時間から約48時間まで)、ノード間のエッジ(連結)は退縮して測定可能な凝集体が残る。細胞(複数可)および/または細胞線維芽細胞ネットワークが変化するにつれ、画像を取得して定量的、定性的、および半定量的情報を収集することができる。本開示のいくつかの態様では、画像を、培養の約20分後、約30分後、約45分後、約1時間後、約1.5時間後、約2時間後、約2.5時間後、約3時間後、約5時間後、約8時間後、約10時間後、約12時間後、約24時間後、約36時間後、約48時間後、約60時間後、または、さらには約72時間以上後に取得する。
図1は、マトリゲルの厚い層(1.8mm)上にプレーティングしたAD細胞についての線維芽細胞のダイナミクスの例を示す。AC細胞株は同様のダイナミクスを示すが、AC細胞株はより多数のより小さい凝集体を示す傾向がある(例えば、例1および
図2D、3B、5B、および6Bを参照されたい)。
【0028】
いくつかの態様では、画像(複数可)の特定の特性に、線維芽細胞ネットワークダイナミクスのパターンを定量的に評価するための1以上の以下の方法に従って値を割り当てることができる。
【0029】
1.統合スコア
表1に列挙されている8つのパラメータを使用して、培養後(例えば、マトリゲルにプレーティングした48時間後)のAD細胞をAC、非ADD細胞と分離する。
【表1】
【0030】
これらの8つのパラメータから、半定量的スコア(「統合スコア」)を以下の通り算出する。最初の4つのパラメータ(1〜4)は、アルツハイマー病に特異的であり、各々のスコアは、存在する場合が「−1」であり、不在の場合が「0」である。最後の4つのパラメータ(5〜8)は非ADDおよびACに特異的であり、スコアは、存在する場合が「+1」であり、不在の場合が「0」である。統合スコアを、8つの値全ての合計として算出する。統合スコアが正またはゼロである場合、細胞はACまたは非ADDである。統合スコアが負である場合、細胞はADである。いくつかの態様では、公知の画像処理技法を用いて方法を完全に自動化することができる。
【0031】
本開示のいくつかの態様では、統合スコアを使用して、AD線維芽細胞を、年齢を釣り合わせたコントロール(AC)および/または非アルツハイマー認知症(非ADD)から分離する。いくつかの態様では、統合スコアを、培養の(例えば、マトリゲルにプレーティングした)48時間後に取得した細胞画像について算出する。
【0032】
本開示のいくつかの態様では、Aβ処理試験細胞についての統合スコアが未処理試験細胞についての統合スコアよりも低い場合、ADについて陽性の診断がなされる。いくつかの態様では、Aβ処理試験細胞とADコントロール細胞の間の統合スコアの差異が統計的に有意ではない、すなわち、標準偏差が2以上である場合、ADについて陽性の診断がなされる。
【0033】
2.凝集体の数あたりの面積
統合スコアに使用するパラメータ4および5を凝集体の数あたりの凝集体面積(<面積>/凝集体の数)として表して、形態のより定量的な尺度をもたらすこともできる。AD細胞は、より大きな、孤立した凝集体を形成する傾向があるが、正常コントロールおよび非ADD線維芽細胞は、多数のより小さな凝集体を形成する傾向がある。したがって、<面積>/凝集体の数の値は、一般に、AD細胞ではACおよび/または非ADD細胞よりも相当に高い。
【0034】
<面積>/凝集体の数は、各画像から、比<A>
i/N
iを平均することによって決定された平均凝集体面積<A>
iおよび凝集体の数N
iから算出することができる。例えば、例1.3および
図3Cを参照されたい。これは、任意の適切な方法、例えば、凝集体全体にわたって楕円を当てはめることによって行うことができる。次いで、凝集体を画像上で計数することができる。計数および/または面積の算出は、手動で行うこともでき、例えば画像処理技法によって自動化することもできる。
【0035】
本開示のいくつかの態様では、Aβ処理試験細胞についての<面積>/凝集体の数が未処理試験細胞についての<面積>/凝集体の数を超える場合、ADについて陽性の診断がなされる。いくつかの態様では、Aβ処理試験細胞とADコントロール細胞の間の<面積>/凝集体の数の差異が統計的に有意ではない場合、ADについて陽性の診断がなされる。
【0036】
3.フラクタル次元
ヒト皮膚線維芽細胞ネットワークの複雑さは、それらのフラクタル次元を計算することによって数量化することができる。フラクタル分析では、ネットワークの複雑さを、AD、AC、および非ADD細胞を区別するための手段として利用する。ADに罹患している患者から取得した線維芽細胞は、組織培養物中で成長させた際に、AC細胞よりも統計的に有意に低いフラクタル次元を有する。フラクタル次元によって測定されるネットワークの複雑さも、ADから取得した線維芽細胞ではACおよび非ADD線維芽細胞と比較して著しく異なる。したがって、ADの場合の低下したヒト皮膚線維芽細胞ネットワークの複雑さによりACおよび非ADDの場合との違いがもたらされる。
【0037】
ネットワーク変性(例えば、約48時間)後、細胞は移動し、数日以内に集密に到達する。この回復はフラクタル次元における直線的増加によって捕捉される。したがって、フラクタル曲線の傾きおよび切片によって測定される回復は、AD、非ADD、およびAC細胞の間の数量化できる差異を示す。
【0038】
フラクタル次元は、N(s)=(1/s)
D(式中、Dは次元であり、整数であっても非整数であってもよい)に一般化することができる。両側の対数を取ることにより、log(N(s))=D log(1/s)が得られ、したがって、フラクタル次元は、log(N(s))をlog(1/s)に対してプロットすることによって決定することができる。傾きが非整数である場合、次元は分数(フラクタル)次元である。
【0039】
フラクタル次元は、生の画像(例えば、デジタル画像)を例えば、2つのガウスの差異を用いるエッジ検出手順を通して選別した後に、標準のボックスカウント手順を用いて算出することができる。エッジ検出とは、画像処理の分野、特に特徴検出および特徴抽出の分野において使用される用語であり、デジタル画像内の、例えば、画像の輝度が急激に変化する点または他の不連続性を有する点を同定することを目的とするアルゴリズムを指す。
【0040】
画像形成モデルについてのどちらかといえば一般的な仮定の下で、画像の輝度の不連続性は、深さの不連続性、表面方向の不連続性、材料の性質の変化およびシーン照明の変動のうちの1以上に対応する可能性があることを示すことができる。
【0041】
エッジ検出器を画像に適用することにより、対象の境界、表面マーキングの境界を示す一連の連結曲線ならびに表面方向の不連続性に対応する曲線を導くことができる。したがって、エッジ検出器を画像に適用することにより、処理すべきデータの量を有意に減少させることができ、したがって、関連性が低いとみなすことができる情報を選別して取り除き、一方で画像の重要な構造的性質を保存することができる。エッジ検出工程に成功した場合、したがって、元の画像内の情報の内容を解釈するという次の課題が実質的に簡易化される。
【0042】
エッジ検出のための方法は、一般に、2つのカテゴリー:検索に基づくものおよびゼロ交差に基づくものに群分けすることができる。検索に基づく方法では、エッジを、まずエッジ強度の尺度、通常一次導関数式、例えば勾配の大きさを計算し、次いで勾配の大きさの局所方向の極大を、エッジの局所方向、通常、勾配方向の計算された推定値を用いて検索することによって検出する。ゼロ交差に基づく方法では、エッジ、通常ラプラシアンのゼロ交差または非線形の示差的な発現のゼロ交差を見いだすために、画像から計算された二次導関数式においてゼロ交差を検索する。エッジ検出のための前処理工程として、平滑化段階、例えば、ガウス平滑化を適用することができる。他の態様では、ノイズ選別アルゴリズムを用いることができる。
【0043】
公開されているエッジ検出方法は、適用される平滑化フィルターの種類およびエッジ強度の尺度の計算の仕方が主に異なる。多くのエッジ検出方法は画像勾配の計算に依拠しているので、x方向およびyy方向に勾配推定値を計算するために使用するフィルターの種類も異なる。
【0044】
本開示の一態様では、フラクタル次元を、画像をボックスで、例えば、コンピュータによって覆うボックスカウント手順を用いて決定する。目的は、画像を覆うために必要なボックスの数がボックスのサイズでどのように変化するかを決定することである。対象が1次元、例えば、線である場合、関係式は上記の通りN(複数可)=(1/s)
1であり、より高い次元についても同様である。いくつかの態様では、ボックスカウント手順は、コンピュータで、細胞サンプルのデジタル画像を用いて実行する。
【0045】
本開示のいくつかの態様では、Aβ処理試験細胞についてのフラクタル次元が未処理試験細胞についてのフラクタル次元よりも低い場合、ADについて陽性の診断がなされる。いくつかの態様では、Aβ処理試験細胞とADコントロール細胞の間のフラクタル次元の差異が統計的に有意ではない場合、ADについて陽性の診断がなされる。
【0046】
4.空隙性
本明細書で使用される場合、「空隙性」とは、どのくらいのフラクタルが空間を満たしているかの尺度を指す。空隙性を使用して、同じフラクタル次元を共有する可能性があるが、非常に視覚的に異なると思われるフラクタルおよびテクスチャーをさらに分類する。密集したフラクタルは低い空隙性を有する。フラクタルの粗さが増加するにつれて、空隙性も増加する;空隙が「ギャップ」を意味することから直感的に(ギャップが多い=空隙性が高い)。空隙性は、一般にはL:
【数1】
【0048】
空隙性は、細胞ネットワーク内のギャップを数量化する、複雑さを識別するための補足的な尺度である。AD細胞株は、ACおよび非ADD個体からの細胞株と比較して増加した平均空隙性を示す。
【0049】
現在開示されている空隙性分析方法では、線維芽細胞パターンのギャップを、第2の識別のレベルとして使用する複雑さの補足的な尺度として数量化する。平均空隙性は、AD線維芽細胞でACおよび非ADD線維芽細胞と比較して高い。一般には、ネットワークが変性する際の空隙性の増加およびピークが最大である、すなわち、孤立した凝集体のみが可視である。空隙性はネットワークの再生が開始すると急降下する。
【0050】
本開示のいくつかの態様では、Aβ処理試験細胞についての空隙性が未処理試験細胞についての空隙性を超える場合、ADについて陽性の診断がなされる。いくつかの態様では、Aβ処理試験細胞とADコントロール細胞の間の空隙性の差異が統計的に有意ではない場合、ADについて陽性の診断がなされる。
【0051】
5.細胞移動
細胞移動により、AD、AC、および非ADD細胞を区別することが可能になる。自由に移動する細胞は、凝集体に付着していない細胞と定義される。自由に移動する細胞は、培養している間の違う時間に計数することができる。例えば、時間N
1およびN
2について、移動速度をR=(N
2−N
1)/ΔT(式中、ΔTは細胞移動の計数間の時間間隔である)として算出する。例えば、いくつかの態様では、自由に移動する細胞の数は、プレーティングした約24時間後、例えば、プレーティングした約36時間後、約48時間後、約50時間後、約52時間後、約55時間後、約57時間後、または約60時間後に計数することができる。少なくとも1つの態様では、移動速度を、時間N
1=プレーティングした48時間後およびN
2=プレーティングした55時間後について計数する。いくつかの態様では、最初の細胞密度を制御する。少なくとも1つの態様では、最初の細胞密度を約1mm
3あたり細胞50個に調節する。
【0052】
本開示のいくつかの態様では、Aβ処理試験細胞についての移動する細胞の数が未処理試験細胞についての移動する細胞の数よりも少ない場合、ADについて陽性の診断がなされる。いくつかの態様では、Aβ処理試験細胞とADコントロール細胞の間の移動する細胞の数の差異が、平均からの1標準偏差よりも低い場合、ADについて陽性の診断がなされる。少なくとも1つの態様では、約0.3hr
−1より低い移動速度により、ADが示される。
【0053】
上記の5つの分析方法(すなわち、統合スコア、凝集体の数あたりの面積、フラクタル次元、空隙性、および細胞移動)は、単独で用いることもでき、組み合わせて用いることもできる。いくつかの態様では、例えば、統合スコアおよび凝集体の数あたりの面積を算出する。別の態様では、例えば、フラクタル分析、空隙性分析、および細胞移動分析の組み合わせを用いる。別の態様では、統合スコアおよび凝集体の数あたりの平均凝集体面積を、フラクタル分析、空隙性分析、および/または細胞移動分析を適用することに加えて算出する。いくつかの態様では、本明細書に開示されている方法では、AD細胞のAC細胞からのスクリーニングだけでなく、AC細胞の非ADD細胞、例えば、ハンチントン病(HD)および/またはパーキンソン病(PD)からのスクリーニングもなされる。
【0054】
いくつかの態様では、分析方法の2つ以上により、それぞれ独立にADに対する陽性の診断が与えられた場合、ADについて陽性の診断がなされる。他の態様では、全ての分析方法(例えば、2つの異なる技法、3つの異なる技法、4つの異なる技法、または5つの異なる技法)により、それぞれ独立にADに対する陽性の診断が与えられた場合、ADについて陽性の診断がなされる。
【0055】
本開示のいくつかの態様では、上記の変数のいずれかについて特定の多数の母集団標準偏差(複数可)に診断閾値を設定することによって、偽陽性および/または偽陰性を回避し、かつ/または最小限にすることができる。
【0056】
細胞間コミュニケーションの尺度としての形態学的分析
線維芽細胞ネットワークの複雑さの分析により、細胞間コミュニケーションに関する情報がもたらされる。ネットワークは天然に遍在し、相互作用、例えば、インターネット上のコンピュータ間の相互作用、生物体内のニューロン間の相互作用、送電網内のエレメント間の相互作用、および人々の間の相互作用から生じる連結性を理解するための枠組みをもたらす。ADでは、神経細胞ネットワークは、シナプスの損失に起因して次第に撹乱される。ヒト皮膚線維芽細胞ネットワークも、AD脳の神経回路網と同様に、撹乱し、定量的、物理的尺度、例えば、ノードあたりのエッジの数またはクラスターあたりのノードの数によって特徴付けることができる。ノードとは、連結点(例えば、再分布点またはコミュニケーション終点)であり、エッジとは、2つのノード間の連結である。クラスターまたはサブネットワークとは、他のノードと連続的に連結したノードの群である。
【0057】
培養細胞サンプルにおけるノードあたりのエッジの数は、細胞間コミュニケーションの尺度として計数することができる。いくつかの態様では、培養細胞のノードあたりのエッジの数を所定期間、例えば、プレーティングした約1時間〜5時間後の範囲の時間に計数する。少なくとも1つの態様では、ノードあたりのエッジの数をプレーティングした約1時間後に計数する。
【0058】
本明細書の方法には線維芽細胞が記載されているが、他の細胞、例えば血液細胞または神経系細胞の形態学的分析も意図されている。
【0059】
以下の例は、本開示を、全く限定することなく例示することを意図している。当業者には、本明細書において提供される本開示と一致する追加的な態様が構想されることが理解される。
【実施例】
【0060】
例1.AD、AC、および非ADD細胞の比較
1.1:細胞の調製および画像診断
実験を、Coriell Institute for Medical Research(Camden、NJ)からの33のヒト皮膚線維芽細胞を使用して行った(表2および3)。
【表2】
【表3】
【0061】
細胞を12ウェルプレート上のマトリゲルの厚い層(約1.8mm)上にプレーティングした。分析した細胞株(30/33)は、大部分が剖検または遺伝家族歴のいずれかに基づいてよく特徴付けられた(表2)。診療所から新たに取得した線維芽細胞で同様の結果が得られた。
【0062】
最初の細胞密度を1mm
3あたり細胞50個になるように制御し、各ウェルについて10%ウシ胎児血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)を伴うダルベッコ改変イーグル培地1.5mlでホモジナイズした。細胞をCO
2水ジャケットインキュベーター(Forma Scientific)中で、プレーティングした7日後まで保持した。
【0063】
細胞ネットワークの画像を、コンピュータによって制御された倒立顕微鏡を10×対物レンズを使用してコンピュータに取り込んだ。
図1を参照されたい。一般には、細胞株当たり3つのウェルで、ウェル当たり5つの画像を取得した。画像を1日目は毎時、2日目は1時間おきに、残りの3日は1日3回獲得した。画像を、NIH(http://rsbweb.nih.gov/ij/)からの自由に利用可能なソフトウェアであるImageJを用いて処理した。フラクタルおよび空隙性分析をFrcLac_2.5pluginを用いて行った。カスタムスクリプトを自動画像分析のために書き込んだ。凝集体を、Micron2.0ソフトウェアを使用して楕円に手動で当てはめ、それらの面積および数を記録した。ImageJのために開発した自動スクリプトは手動の楕円当てはめと一致し、これらの2つの手法は互いに1標準偏差以内であった。
【0064】
1.2:統合スコア
例1.1に記載の通り調製した2つの細胞株の典型的な皮膚線維芽細胞ネットワーク形成および変性を示す画像が
図2A〜2Dに示されている。AD細胞株(
図2A)はネットワークの形成が、年齢を釣り合わせたコントロールと比較して遅かった(
図2B)。これらのネットワークのエッジはプレーティングしたおよそ5時間後に変性し始め、最終的に消失するまで次第に薄くなった。エッジ退縮の結果として、ネットワークのノードのみが細胞凝集体のままであった。凝集体はプレーティングした24時間後すぐに可視であった。
図2Cおよび2Dは、それぞれAD細胞およびAC細胞について48時間の時点で取得した画像を示す。
【0065】
8つのパラメータを使用して、マトリゲルにプレーティングした48時間後に、統合スコア(8つの値全ての合計)を算出することによってAD、AC、および非ADD線維芽細胞を区別した。正の統合スコアまたはゼロのスコアは、細胞がACまたは非ADDであることを示し、負の統合スコアは細胞がADの患者由来であることを示す。
【0066】
プレーティングした48時間後における皮膚細胞線維芽細胞の統合スコアの母集団データは、AD、AC、および非ADD細胞の良好な分離を示す(
図2E)。統合スコアは、アルツハイマー病の持続時間と相関すると思われ、罹患期間が増加するにつれて負が大きくなる(
図2F)。
【0067】
1.3:凝集体の数あたりの平均面積
診断の正確度は、統合スコアからの8つのパラメータのうち2つが凝集体の数あたりの平均凝集体面積(<面積>/凝集体の数)の尺度で表した場合に増加した。この値を算出するために、まず平均凝集体面積<A>
iおよび凝集体の数N
iを各画像について算出した。次いで、比率<A>
i/N
iを評価した。一般にはウェル当たり5つの画像を使用し、各ウェルについて数当たりの平均面積を、
【数2】
【0068】
に従って決定した。3つのウェルを、
【数3】
【0069】
に従って平均し、この数は
図3Cに各細胞株について示されている。この尺度は、ADでACおよび非ADDよりも相当高かった(診断の正確度96%、N=33(n
AD=13、n
AC=11、およびn
非ADD=9)、AD対ACについてp<0.000001、AD対非ADDについてp<0.00001)。
【0070】
AD細胞は大きな孤立した凝集体(
図3Aおよび5A)を示すが、正常コントロール(AC)および非ADD線維芽細胞は多数のより小さな凝集体を示す(
図3Bおよび5B)。
【0071】
母集団データ(
図3C)はAC、非ADD、およびADの間で重複を示さない。<面積>/凝集体の数は、AD罹患期間に伴って増加した(
図3D)。48時間における面積および数に応じた細胞凝集体の確率分布はAD群(n=13)がAC群(n=11)からよく分離されていることを示す。面積および凝集体の数についての値を点の密度に反比例する間隔でビンに入れ、各変数についてガウス関数に当てはめ、次いで正規化した分布に組み込んだ。AD集団についてのピーク確率値はN=5、Area=12370においてであり、一方AC集団はN=8、Area=1004のピークを有した。AC集団についての標準偏差はσ
N=2.3、σ
面積=451であり、一方AD集団ではσ
N=2.6、σ
面積=5000であった。これらの標準偏差は、凝集体の数についての確率分布はいくつかの重複を有するが、領域についての確率分布は半値幅で重複を有さないことを示している。したがって、AD集団とAC集団の可分性を増加させる単純な方法は、2つの変数を、面積/数として割ることによって1つに崩すことである。このように、ダイナミックレンジを、Nについて8/5=1.6、および面積について12370/1004=12.3から、面積/Nについて19.7まで増加させる。結果の再現性が
図4に示されている。
【0072】
<面積>/凝集体の数について同様の結果を、診療所からの4つの新鮮なサンプルについて取得した。新鮮なサンプルについての異なる細胞型(例えば、ACおよびAD)についての閾値は、Coriellサンプル(面積/#約1000)と比較して高い(面積/#約2000)と思われる。
図4Aを参照されたい。
【0073】
AC細胞は、非ADD細胞から、フラクタル分析(例1.4)、空隙性分析(例1.5)、および細胞移動分析(例1.6)によってさらに区別することができる。
【0074】
1.4:フラクタル次元分析
時空間の複雑さのダイナミクス、例えば、ネットワーク形成(
図5A)、ネットワーク変性(
図5B)および回復は、フラクタルおよび空隙性曲線(
図5Cおよび5D)によって測定することができる。これらの物理的パラメータによって測定されたAD線維芽細胞ネットワークは、ACおよび非ADDネットワークと比較して複雑さが著しく低かった。ネットワーク変性の後(約48h、
図5B)、細胞は移動し、数日以内に集密に近づいた。この回復は、
図5Cに示されているように、フラクタル次元における直線的増加で捕捉された。フラクタル次元を時間に応じて追跡する各曲線の傾き対切片は3つの群AC、AD、および非ADDで著しく異なる(96%の正確度、n=33(n
AD=13、n
AC=10、n
非ADD=9);AD対ACについてp<0.0001、およびAD対非ADDについてp<0.00001)。フラクタル分析では、ADおよびAC、非ADD細胞だけでなく、AC細胞と非ADD細胞も識別される(p<0.01)(
図5F)。
【0075】
1.5:空隙性分析
空隙性とは、フラクタル次元に対する補足的な尺度である。空隙性は、線維芽細胞パターンにおけるギャップを数量化する第2の複雑さの識別のレベルとして使用する。線維芽細胞の平均空隙性は、AD患者から取得した線維芽細胞でACおよび非ADD線維芽細胞と比較して高かった。一般には、空隙性は、ネットワーク変性が最大になった時、すなわち、48時間の時点付近で孤立した凝集体のみが可視である時に増加し、ピークに達した(
図5Bおよび5D)。空隙性は、細胞が移動し、より集密になるにつれて減少した。
図5Fにおける母集団データは、平均空隙性により、フラクタル分析と同様、ADおよびAC、非ADD細胞だけではなく、AC細胞と非ADD細胞も識別されたことを示している(p<0.01)。
【0076】
1.6:細胞移動
自由に移動する細胞を、48時間後(N
1)およびおよそ7時間後(N
2)に計数し、移動速度をR=(N
2−N
1)/ΔT、ΔT=数値間の時間間隔として算出した。自由に移動する細胞(すなわち、凝集体に付着していない細胞)は
図6A(AD細胞)および6B(AC細胞)において緑色の点で示されている。移動する細胞の数は、AD線維芽細胞で正常コントロールと比較して減少した。
【0077】
図6Cにおける母集団データは、AD線維芽細胞(緑色)および非ADD線維芽細胞(青色)がAC線維芽細胞と比較して有意に少ない移動する細胞および低い移動の速度を有することを示している。AD線維芽細胞(緑色)は、最小の移動する細胞の数および最低の移動速度を示し、一方AD線維芽細胞(赤色)は最大の移動する細胞の数および最高の移動速度を示した。興味深いことに、非ADD線維芽細胞は(1つの例外を伴って)AD細胞およびAC細胞から分離された。また、移動する細胞の数は、
図6Dに示されているように、アルツハイマー病の持続時間が増加するとともに減少すると思われた。
【0078】
1.7:正確度、特異度、および感度
5つの分析方法(例1.2〜1.6)により、診断の正確度について、平均空隙性についての95%から凝集体の数あたりの平均面積についての100%までにわたり平均率96.8%(表4)がもたらされた。統合スコアおよびフラクタル分析(傾き対切片)について、成功率は97%であり、一方細胞移動についての成功率は96%であった。
【0079】
感度は、疾患を有する患者の一群に適用した場合に該方法が陽性である確率、Sn=TP/(TP+FN)(式中、TPおよびFNはそれぞれ真陽性および偽陰性結果の数である)と定義される。5つの方法の組み合わせについて、平均感度は96.8%であり、統合スコアおよびフラクタル分析についての92%から<面積>/凝集体の数、空隙性分析、および細胞移動分析についての100%までにわたる。
【表4】
【0080】
5つの方法により、平均特異度98.8%が得られ、細胞移動についてただ1つの値が100%とは異なり、94%の特異度を示した。
【0081】
全体的に、5つの方法により、平均正確度96.8%、平均感度96.8%、および平均特異度98.8%がもたらされた。
【0082】
例2:アミロイドベータ
最初の実験は、予め観察された、AD線維芽細胞とAC線維芽細胞の間のネットワークの複雑さの差異のいくつかがオリゴマー形成ベータアミロイド(Aβ)に起因する可能性があることを示唆している。
【0083】
皮膚線維芽細胞を、Coriell Institute for Medical Research(Camden、NJ)から取得した。バンクに保存されていたアルツハイマー病(AD)患者および年齢を釣り合わせたコントロール(AC)由来の線維芽細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM培地を伴うT25培養フラスコで維持し、培養し、5%CO
2および37℃のインキュベーターに入れた。全てのフラスコを定期的に検査し、7〜10日後に培養物は集密になった。細胞継代の総数は16を超えないようにした。細胞をトリプシン処理し、細胞計数チャンバー(Hausser Scientific)を用いて計数した(1mm
3あたりの細胞数)。ACおよびAD細胞のサンプルを、1μMのオリゴマー形成アミロイドベータ(Aβ)で一晩処理した。処理および未処理ACおよびAD細胞を、12ウェルプレート中、マトリゲルの厚い層(約1.8mm)上にプレーティングした。9つの計数用正方形の平均数を、1mm
3あたり細胞50個の細胞計数のために使用した。
【0084】
ウェル当たり5つの10×画像を定量的画像分析のために使用した(中央、上、下、左、右)。一般には各細胞株について3つのウェルを使用した。細胞培養顕微鏡(Westover Digital AMID Model 2200)を、画像を.png形式で記録するために10×拡大率の下で使用した。GNU Image Manipulation(GIMP2.6)およびImageJ(1.45a)ソフトウェアを画像分析のために使用した。フラクタル分析のために、ImageJ、FracLac2.5用のプラグインを標準のボックスカウントのオプションと共に使用した。生の.png画像を、ImageJ用のカスタムスクリプトを使用して3回自動的にスペックル除去し、選別し、平滑化し、バイナリにした。バイナリ画像を保存し、プラグインFracLacを用いたフラクタルおよび空隙性分析のためにImageJにインポートした。
【0085】
図7A〜7Eに示されているように、1μMのオリゴマー形成Aβで一晩処理したAC線維芽細胞はマトリゲル上にプレーティングするとAD様表現型に変化した。
図7Aは、プレーティングした2.5時間後の未処理コントロール(AC)細胞株を示す。
図7Bは、同じくプレーティングした2.5時間後の、低い連結性を示す1μMのオリゴマー形成Aβで一晩処理した同じコントロール細胞株を示す。ネットワーク形成の欠陥は、AD特性のAβ処理した細胞の低いフラクタル次元および/または高い空隙性にさらに反映された。
図7Cにおけるフラクタル次元分析は、Aβ処理コントロール細胞株(緑色)がAD様であることを示す。
図7Dに示されている、Aβ処理コントロール細胞株(緑色)についての空隙性が高いことも、AD表現型を示す。
図7Eは、ACおよびAD細胞株についての凝集体の数あたりの面積が、プレーティングした48時間後に、1μMのAβ処理に起因して、未処理細胞と比較して増加したことを示す。
図7Eの矢印は、未処理ACおよびAD細胞についての面積/#値からAβ処理した細胞についての面積/#までを指す。Aβは、AD細胞と同様に、AC細胞株における細胞の移動も、48時間後に移動する細胞の数を減少させることによって損なう(例えば、
図6Cを参照されたい)。
【0086】
AD線維芽細胞(n=3)に対する同様の実験は、48時間における細胞凝集、フラクタル次元、または空隙性において、Aβ処理に起因する区別可能な効果を示さなかった。
【0087】
これらの結果は、Aβ処理AD細胞株と比較したAβ処理AC細胞株についての数あたりの面積の大きな差異は、アルツハイマー病のスクリーニングにおいて有用であり得ることを示唆している。
【0088】
例3.細胞間コミュニケーションの尺度
皮膚線維芽細胞を、Coriell Institute for Medical Research(Camden、NJ)から取得した。バンクに保存されていたアルツハイマー病(AD)患者および年齢を釣り合わせたコントロール(AC)由来の線維芽細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM培地を伴うT25培養フラスコで維持し、培養し、5%CO
2および37℃のインキュベーターに入れた。全てのフラスコを定期的に検査し、7〜10日後に培養物は集密になった。細胞継代の総数は16を超えないようにした。細胞をトリプシン処理し、細胞計数チャンバー(Hausser Scientific)を用いて計数し(1mm
3あたりの細胞数)、12ウェルプレート中、マトリゲルの厚い層(約1.8mm)上にプレーティングした。9つの計数用正方形の平均数を1mm
3あたり50個の細胞計数のために使用した。
【0089】
ウェル当たり5つの10×画像を、定量的画像分析のために使用した(中央、上、下、左、右)。一般には各細胞株について3つのウェルを使用した。細胞培養顕微鏡(Westover Digital AMID Model 2200)を、画像を.png形式で記録するために10×拡大率の下で使用した。GNU Image Manipulation(GIMP2.6)およびImageJ(1.45a)ソフトウェアを画像分析のために使用した。
【0090】
画像を、ACおよびAD細胞株をプレーティングした1時間後に取得した(n=10、p<0.03、2つのサンプルについて不等分散を用いた両側t検定)。ノードあたりのエッジの数を、細胞間コミュニケーションの尺度として手動で計数した。
【0091】
図8Aおよび8Bは、それぞれ、プレーティングした1時間後の、ノード(緑色の矢印)およびノードと連結したエッジ(青色の矢印)を含むADおよびACネットワークの例を示す。線維芽細胞は画像中に暗い楕円形として現れる。
図8Cは、拡大率を上げたAC細胞サンプルからの3つ以上のエッジを伴うノードを示し、
図8Dは、同じくAC細胞からの、5つのエッジを伴うノードを示す。
図8Eに示されているように、ノードあたりのエッジの平均数はAD細胞ではACおよび非ADD細胞と比較して少なく、これは、正常コントロール(AC)ノードと比較して連結したADノードが少ないことを示している。
図8Fに示されているように、細胞のクラスターあたりのノードの数もADサンプルにおいて少なく、これは、ノードあたりのエッジが少ないことと一致する。
【0092】
これらの結果は、ADでは細胞間コミュニケーションが損なわれていることを示唆している。これらの細胞間コミュニケーションの尺度により、アルツハイマー病についての患者の迅速な読み取り(細胞をマトリゲルの厚い層上にプレーティングした約1〜2時間後)およびスクリーニングをもたらすことができる。
【0093】
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
被検体においてアルツハイマー病を診断する方法であって、
(a)被検体から線維芽皮膚細胞の2つのサンプルを取得すること;
(b)前記細胞サンプルの1つをアミロイドβペプチド(Aβ)で処理すること;
(c)Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルの各々を培地で培養すること;
(d)Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルの各々を画像化して、各サンプルの少なくとも1つの画像を取得すること;
(e)アルツハイマー病(AD)を有することが知られているコントロールと比べて、各サンプルの少なくとも1つの画像を少なくとも1の形態学的分析法により分析すること;および
(f)工程(e)の分析に基づいて被検体を診断し、ここでAβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルの両方がAD様表現型を示す場合、診断はADについて陽性であり、Aβ処理細胞サンプルがAD様表現型を示し、未処理細胞サンプルが示さない場合、診断はADについて陰性であること
を含む方法。
[2]
工程(e)が、大きい凝集体の存在、凝集体への細胞の付着、凝集体の成長の証拠、凝集体の密度(単位面積あたりの数)、凝集体ネットワーク内のエッジの出現、細胞移動の証拠、パーコレーション限界への近さ、およびこれらの組み合わせから選択される細胞凝集特性を決定することを含む、[1]に記載の方法。
[3]
工程(e)が、凝集体の数あたりの平均凝集体面積を決定することを含む、[1]に記載の方法。
[4]
工程(e)が、フラクタル次元を決定することを含む、[1]に記載の方法。
[5]
工程(e)が、空隙性を決定することを含む、[1]に記載の方法。
[6]
工程(e)が、移動する細胞の数を決定することを含む、[1]に記載の方法。
[7]
工程(e)が、各サンプルの少なくとも1つの画像を分析して、細胞凝集特性、凝集体の数あたりの平均凝集体面積、フラクタル次元、空隙性、および移動する細胞の数から選択される少なくとも2つの細胞形態学特性を決定することを含む、[1]に記載の方法。
[8]
工程(e)が、各サンプルの少なくとも1つの画像を分析して、細胞凝集特性、凝集体の数あたりの平均凝集体面積、フラクタル次元、空隙性、および移動する細胞の数を決定することを含む、[7]に記載の方法。
[9]
工程(e)で使用された分析方法の少なくとも2つが、独立して、陽性の診断を提供する場合、前記診断がADについて陽性である、[8]に記載の方法。
[10]
前記培地が、ラミニン、コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン、またはこれらの任意の組み合わせを含む細胞外マトリクスを含む、[1]に記載の方法。
[11]
前記培地が、成長因子を更に含む、[10]に記載の方法。
[12]
前記培地が、ゲルを含む、[1]に記載の方法。
[13]
工程(d)が、Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルを約1分〜約168時間培養することを含む、[1]に記載の方法。
[14]
工程(d)が、Aβ処理細胞サンプルおよび未処理細胞サンプルを約24時間〜約48時間培養することを含む、[13]に記載の方法。
[15]
前記方法が、アルツハイマー病(AD)と非アルツハイマー病認知症(非ADD)とを識別する、[1]に記載の方法。
[16]
前記非ADDが、ハンチントン病およびパーキンソン病から選択される、[15]に記載の方法。
[17]
被検体においてアルツハイマー病を診断する方法であって、
(a)被検体から線維芽皮膚細胞のサンプルを取得すること;
(b)前記被検体からの前記細胞を培地で培養すること;
(c)前記細胞を、所定時間後に培養から取り出して、少なくとも1つの画像を取得すること;
(d)コントロールと比べて少なくとも1つの画像を分析して、ノードあたりのエッジの平均数を決定し、コントロールと比べてノードあたりの少ない数のエッジが、アルツハイマー病を示すこと
を含む方法。
[18]
前記所定時間が、約1時間〜約5時間の範囲である、[17]に記載の方法。
[19]
前記所定時間が、約1時間である、[18]に記載の方法。