特許第6131426号(P6131426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131426
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】燃料電池のシール構造
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0271 20160101AFI20170515BHJP
   H01M 8/2485 20160101ALI20170515BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170515BHJP
【FI】
   H01M8/02 S
   H01M8/24 S
   H01M8/12
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-251985(P2013-251985)
(22)【出願日】2013年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-109225(P2015-109225A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森島 信悟
(72)【発明者】
【氏名】駒形 和也
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−323984(JP,A)
【文献】 特開2008−305671(JP,A)
【文献】 特開2013−092200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0271
H01M 8/2485
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセル(10)が積層されると共に、前記セルの積層方向に延在して反応ガスを流通させるガス流通部(13a、13b、14a、14b)が形成された固体酸化物型燃料電池(1)に適用され、前記複数のセルのうち、隣接するセルにおける少なくとも前記ガス流通部を構成する部材同士の接合部をシールする燃料電池のシール構造であって、
前記ガス流通部から前記反応ガスが漏洩することを防止するためのシール部材(17)と、
電気的な絶縁性を有する絶縁体(18)と、を備え、
前記隣接するセルのうち、一方のセル(10A)における前記ガス流通部(13a、13b)を構成する部材を第1部材(13)とし、他方のセル(10B)における前記ガス流通部(14a、14b)を構成する部材を第2部材(14)としたとき、
前記第1部材には、凹状のシール溝(132)が前記ガス流通部(13a、13b)を囲むように形成されており、
前記第2部材には、前記第1部材における前記シール溝に対向する位置に前記シール溝に向かって突出する突起部(142)が前記ガス流通部(14a、14b)を囲むように形成されており、
前記シール部材は、前記固体酸化物型燃料電池の作動温度範囲内において軟化する特性を有する材料で構成され、前記セルの積層方向に直交する方向から見たときに、前記シール溝内部および前記突起部それぞれと重なり合うように配置されており、
前記第1部材および前記第2部材それぞれは、導電性を有する材料で構成されており、
前記絶縁体は、前記突起部の先端と前記シール溝の底部との間に配置されていることを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項2】
複数のセル(10)が積層されると共に、前記セルの積層方向に延在して反応ガスを流通させるガス流通部(13a、13b、14a、14b)が形成された固体酸化物型燃料電池(1)に適用され、前記複数のセルのうち、隣接するセルにおける少なくとも前記ガス流通部を構成する部材同士の接合部をシールする燃料電池のシール構造であって、
前記ガス流通部から前記反応ガスが漏洩することを防止するためのシール部材(17)を備え、
前記隣接するセルのうち、一方のセル(10A)における前記ガス流通部(13a、13b)を構成する部材を第1部材(13)とし、他方のセル(10B)における前記ガス流通部(14a、14b)を構成する部材を第2部材(14)としたとき、
前記第1部材には、凹状のシール溝(132)が前記ガス流通部(13a、13b)を囲むように形成されており、
前記第2部材には、前記第1部材における前記シール溝に対向する位置に前記シール溝に向かって突出する突起部(142)が前記ガス流通部(14a、14b)を囲むように形成されており、
前記シール部材は、前記固体酸化物型燃料電池の作動温度範囲内において軟化する特性を有する材料で構成され、前記セルの積層方向に直交する方向から見たときに、前記シール溝内部および前記突起部それぞれと重なり合うように配置されており、
前記突起部には、前記シール溝側に露出する表面に酸化皮膜(143)が被覆されていることを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項3】
電気的な絶縁性を有する絶縁体(18)を備え、
前記第1部材および前記第2部材それぞれは、導電性を有する材料で構成されており、
前記絶縁体は、前記突起部の先端と前記シール溝の底部との間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項4】
前記シール溝は、前記セルの積層方向に直交する断面の面積が底部(132b)側から開口(132a)側に向かって大きくなっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料電池のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池に適用される燃料電池のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)では、その作動時の温度範囲が500℃〜1000℃となることから、固体酸化物型燃料電池に適用される反応ガスの漏洩を防止するシール部材には、高温環境下での耐久性が要求される。このため、シール部材としては、耐熱性に優れるガラス材が採用されている(例えば、特許文献1参照)。なお、特許文献1では、シール部材を、固体酸化物型燃料電池の作動温度範囲内において軟化する特性を有するガラス材で構成したものが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3494560号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガラス材で構成されるシール部材は、通常、固体酸化物型燃料電池を構成する各セルに形成された反応ガスのガス流通部(マニホールド)の周囲に平面塗布した後、複数セルを積層した状態で乾燥、焼成工程を経て結晶化して使用される。
【0005】
この際、シール部材を単に各セルの積層方向に介在させる配置形態とすると、焼成工程にて固体酸化物型燃料電池の電池本体に温度分布が生じた際に、シール部材の軟化や収縮によりセルの積層方向に作用する応力が不均一となってしまう可能性がある。
【0006】
シール部材の軟化や収縮によりセルの積層方向に作用する応力が不均一となると、固体酸化物型燃料電池の製造過程(シール部材の焼成工程)や完成品の作動時におけるシール部材の軟化や収縮に伴って電池本体が傾いてしまうことがある。このような電池本体の傾きは、シール性の悪化や燃料電池内部の接触荷重の偏在(ばらつき)を招き、この接触荷重の偏在は、内部抵抗を増大させて電池性能を低下させることから好ましくない。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、シール部材の軟化や収縮に伴う不具合の発生を抑制可能な燃料電池のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数のセル(10)が積層されると共に、セルの積層方向に延在して反応ガスを流通させるガス流通部(13a、13b、14a、14b)が形成された固体酸化物型燃料電池(1)に適用され、複数のセルのうち、隣接するセルにおける少なくともガス流通部を構成する部材同士の接合部をシールする燃料電池のシール構造を対象としている。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1または請求項2に記載の発明は
ガス流通部から反応ガスが漏洩することを防止するためのシール部材(17)を備え、
隣接するセルのうち、一方のセル(10A)におけるガス流通部(13a、13b)を構成する部材を第1部材(13)とし、他方のセル(10B)におけるガス流通部(14a、14b)を構成する部材を第2部材(14)と定義したとき、
第1部材には、凹状のシール溝(132)がガス流通部(13a、13b)を囲むように形成されており、
第2部材には、第1部材におけるシール溝に対向する位置にシール溝に向かって突出する突起部(142)がガス流通部(14a、14b)を囲むように形成されており、
シール部材は、固体酸化物型燃料電池の作動温度範囲内において軟化する特性を有する材料で構成され、セルの積層方向に直交する方向から見たときに、シール溝内部および突起部それぞれと重なり合うように配置されている。
さらに、請求項1に記載の発明は、電気的な絶縁性を有する絶縁体(18)を備え、第1部材および第2部材それぞれは、導電性を有する材料で構成されており、絶縁体は、突起部の先端とシール溝の底部との間に配置されていることを特徴としている。
また、請求項2に記載の発明は、突起部には、シール溝側に露出する表面に酸化皮膜(143)が被覆されていることを特徴としている。
【0010】
これによると、シール溝および突起部それぞれのセルの積層方向に直交する方向に存在する部位の間にシール部材が介在することになるので、シール部材が軟化や収縮する際に作用する応力を、セルの積層方向から積層方向に直交する方向へ分散させることができる。
【0011】
これにより、シール部材の軟化や収縮に伴う電池本体の傾きが縮小され、電池本体の傾きに起因するシール性の悪化を抑制できると共に、燃料電池内部の接触荷重の偏在(ばらつき)を抑えることができる。
【0012】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る固体酸化物型燃料電池の分解斜視図である。
図2図1に示すセルを上方側から見た上面図である。
図3図2に示す指示線III−IIIに沿って隣接するセルを切断した断面図である。
図4図3における点線Aで囲む部位を拡大した断面図である。
図5】第2実施形態に係る固体酸化物型燃料電池において、隣接するセルのガス供給用マニホールド付近を切断した断面図である。
図6図5における点線Bで囲む部位を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、各実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態では、図1図2に示す平板構造の固体酸化物型燃料電池1(以下、燃料電池1とも呼ぶ。)に、本発明の燃料電池のシール構造を適用した例について説明する。
【0016】
燃料電池1は、反応ガスである燃料ガスおよび酸化剤ガス(酸素)の電気化学反応により電気エネルギを出力する板状のセル10を複数積層したスタック構造(積層構造)で構成されている。
【0017】
本実施形態の各セル10は、主たる構成要素として、セルプレート11、アノード集電体12、セルフレーム13、およびセパレータ14を有している。
【0018】
セルプレート11は、固体電解質体の一方の面にアノード、他方の面にカソードが接合されて一体化された接合体であり、セル10において電気エネルギを出力する発電部として機能する。
【0019】
セルプレート11を構成する固体電解質体は、酸化物イオンをカソード側からアノード側へ伝導する機能を有する酸化物イオン伝導体で構成されている。なお、固体電解質体は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の安定化ジルコニアを薄板上に成形し、高温で焼結することにより作製することができる。
【0020】
このように構成されるセルプレート11では、燃料ガスである水素および酸素が供給されることで、以下の反応式[化1]、[化2]に示す電気化学反応により、電気エネルギが出力される。
(アノード)2H+2O2−→2HO+4e・・・[化1]
(カソード)O+4e→2O2−・・・[化2]
また、セルプレート11では、燃料ガスである一酸化炭素(CO)および酸素が供給されることで、以下の反応式[化3]、[化4]に示す電気化学反応により、電気エネルギが出力される。
(アノード)2CO+2O2−→2CO+4e・・・[化3]
(カソード)O+4e→2O2−・・・[化4]
アノード集電体12は、導電性を有する多孔質体で構成され、セルプレート11におけるアノード側に接合されている。アノード集電体12は、セルプレート11のアノード側における集電機能に加えて、セルプレート11における電気化学反応に関与する物質をアノード側へ拡散させる拡散層としても機能する。なお、アノード集電体12は、後述するセルフレーム13と直に接触しないように、セルプレート11よりも板面の面積が小さい形状に形成されている。
【0021】
セルフレーム13は、アノードよりも電気抵抗値の高い材料(例えば、ステンレス等のフェライト系金属)で構成され、セルプレート11を支持する支持部材である。具体的には、セルフレーム13には、セルプレート11およびアノード集電体12に対向する部位に開口部131が設けられ、当該開口部131の縁部にてセルプレート11の外周側を支持するようになっている。
【0022】
ここで、セルフレーム13を、セルプレート11に直に接触させると、セルプレート11における発電により生じた電流がセルフレーム13に流れてしまう。また、セルフレーム13とセルプレート11との間に隙間が存在すると、当該隙間を介して、反応ガスが漏洩してしまう虞がある。
【0023】
このため、本実施形態のセルフレーム13には、その開口部131におけるセルプレート11およびアノード集電体12に接触する部位に、絶縁性および機密性を有する部材(図示略)が設けられている。
【0024】
セパレータ14は、導電性を有する材料(例えば、導電性セラミックやフェライト系金属)で構成されている。セパレータ14は、隣接するセルプレート11同士を電気的に接続する接続手段としての機能に加えて、セルプレート11へ反応ガスである燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給する供給路としても機能する。
【0025】
具体的には、セパレータ14には、セルプレート11のアノード側に対向する一方の面に、燃料ガスを流すための燃料ガス流路141が形成され、他方の面に酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路(図示略)が形成されている。なお、本実施形態では、燃料ガス流路141が、同一のセル10を構成するセルプレート11とセパレータ14との間に形成され、酸化剤ガス流路が、隣接するセル10におけるセルプレート11とセパレータ14との間に形成される。
【0026】
セルフレーム13およびセパレータ14には、それぞれ各セル10を積層した際にガス供給用マニホールド15を構成する供給穴部13a、14a、各セル10を積層した際にガス排出用マニホールド16を構成する排出穴部13b、14bが形成されている。
【0027】
ガス供給用マニホールド15は、各セル10の燃料ガス流路141へ反応ガスである燃料ガスを分配して供給するものである。また、ガス排出用マニホールド16は、各セル10の燃料ガス流路141から排出される排出ガス(燃料オフガス)を集合させて排出するものである。なお、各供給穴部13a、14a、および排出穴部13b、14bは、各セル10を積層した際に、セル10の積層方向(以下、セル積層方向と呼ぶ。)に延在する内部マニホールド(ガス流通部)を構成している。
【0028】
本実施形態の同一のセル10を構成するセルフレーム13およびセパレータ14は、各マニホールド15、16や燃料ガス流路141が外部と連通しないように、図1および図2に示す接合ライン10aに沿って、レーザ溶接等により密接に接合されている。
【0029】
また、本実施形態の隣接するセル10の一方のセルフレーム13および他方のセパレータ14は、マニホールドを介さずに、酸化剤ガス流路が外部と直に連通する構造となっている。つまり、本実施形態の燃料電池1は、各セル10の外周側から酸化剤ガス流路へ酸化剤ガスを取り込むと共に、酸化剤ガス流路から各セル10の外周側へ排出ガスを排出するオープンフロー構造となっている。
【0030】
続いて、隣接するセル10における各マニホールド15、16を構成する部材(セルフレーム13、およびセパレータ14)同士の接合部をシールするシール構造について説明する。このシール構造は、隣接するセル10のうち、一方のセルのセルフレーム13に形成された供給穴部13aおよび排出穴部13bと、他方のセルのセパレータ14に形成された供給穴部14aおよび排出穴部14bとの間から燃料ガスの漏洩を防止するために設けられている。
【0031】
本実施形態の燃料電池1のシール構造については、図3図4に示す断面図を用いて説明する。なお、隣接するセル10におけるセルフレーム13の排出穴部13bとセパレータ14の排出穴部14bとの間をシールするシール構造は、セルフレーム13の供給穴部13aとセパレータ14の供給穴部14aとの間をシールするシール構造と同様である。このため、本実施形態では、セルフレーム13の供給穴部13aとセパレータ14の供給穴部14aとの間をシールするシール構造について説明し、セルフレーム13の排出穴部13bとセパレータ14の排出穴部14bとの間をシールするシール構造に関する説明を省略する。
【0032】
図3図4は、隣接するセル10におけるガス供給用マニホールド15を構成するセルフレーム13の供給穴部13aとセパレータ14の供給穴部14aとの間をシールするシール構造を示している。なお、便宜上、図3図4では、隣接する2つのセル10における断面図を示すと共に、隣接するセル10のうち、紙面下方側のセルをセル10A、紙面上方側のセルをセル10Bとして説明する。
【0033】
図3図4に示すように、隣接するセル10のうち、一方のセル10Aのセルフレーム13には、凹状に窪んだシール溝132が、セルフレーム13に形成された供給穴部13aを囲むように形成されている。
【0034】
このシール溝132は、反応ガスである燃料ガスの漏洩を防止するためのシール部材17を配置するための空間を形成するために設けられている。本実施形態のシール溝132は、後述するシール部材17がシール溝132の開口132a側から底部132b側へ誘導され易くするために、セル積層方向に直交する断面の面積が、底部132b側から開口132a側へ向かって大きくなる断面形状を有している。なお、シール溝132は、セルフレーム13の成形時にプレス加工等により形成され、前述の断面形状は、プレス加工での抜き勾配、曲げ勾配を利用して形成される。
【0035】
また、他方のセル10Bのセパレータ14には、一方のセル10Aのセルフレーム13に形成されたシール溝132に対向する位置に、シール溝132側に向かって突出する突起部142が、セパレータ14に形成された供給穴部14aを囲むように形成されている。なお、突起部142は、セパレータ14の成形時に燃料ガス流路141等と共にプレス加工等により形成される。
【0036】
この突起部142は、その先端がシール溝132の内部に入るように、先端側におけるセル積層方向に直交する方向の断面面積が、シール溝132の開口132a側におけるセル積層方向に直交する方向の断面面積よりも小さくなるように設定されている。
【0037】
なお、本例では、一方のセル10Aのセルフレーム13が、隣接するセル10のうち、一方のセル10Aにおけるガス流通部を構成する部材(第1部材)を構成している。また、本例では、他方のセル10Bのセパレータ14が、隣接するセル10のうち、他方のセル10Bにおけるガス流通部を構成する部材(第2部材)を構成している。
【0038】
また、シール溝132の内部には、反応ガスである燃料ガスの漏洩を防止するためのシール部材17が配置されている。このシール部材17は、隣接するセル10間における燃料ガスのシール性を確保するために設けられている。
【0039】
シール部材17は、燃料電池1の作動温度範囲内(500℃〜1000℃)において軟化する特性を有する材料(AlおよびSiOを主成分とするガラスセラミック)で構成されている。
【0040】
ここで、前述の[課題を解決するための手段]の欄で説明したように、単にシール部材17をセルフレーム13とセパレータ14との接合部に介在させる構成とすると、シール部材17の軟化、収縮に伴って各種不具合が生ずることがある。
【0041】
そこで、本実施形態では、セル積層方向に直交する方向から見たとき、シール部材17がシール溝132内部、および突起部142それぞれと重なり合うように配置している。つまり、本実施形態のシール部材17は、シール溝132の内部において、突起部142の側面(セル積層方向に直交する方向に対して交差する面)を覆うように配置されている。なお、本実施形態のシール部材17におけるセル積層方向の厚みは、シール溝132の底部132bと突起部142の先端との間で最も小さくなっている。
【0042】
本実施形態のシール溝132へのシール部材17の配置方法は、ペースト状のシール部材17をシール溝132へ塗布した後、各セル10を積層した状態で乾燥、焼成工程を経て結晶化させる方法を採用している。
【0043】
ところで、本実施形態では、セルフレーム13およびセパレータ14の双方を、導電性を有する材料で構成している。このため、セパレータ14に形成された突起部142の先端と、セルフレーム13に形成されたシール溝132の底部132bとが直に接触すると、その接触部が発電により生じた電流が流れる経路(短絡経路)となってしまう虞がある。
【0044】
そこで、本実施形態では、セパレータ14に形成された突起部142の先端とセルフレーム13に形成されたシール溝132の底部132bとの間に、絶縁性を有する材料で構成された絶縁体18を介在させている。これにより、セパレータ14に形成された突起部142の先端と、セルフレーム13に形成されたシール溝132の底部132bとの間の絶縁性を確保することができる。なお、絶縁体18は、燃料電池1の作動温度範囲内で軟化しない特性を有する材料(例えば、マイカ)で構成されている。
【0045】
本実施形態の燃料電池1は、上述のセルプレート11、アノード集電体12、セルフレーム13、およびセパレータ14が一体化されたセル10を、前述のシール構造を介して複数積層し、その両端を図示しない締結手段により締め付け固定することで作製される。
【0046】
次に、燃料電池1の作動について説明する。燃料電池1は、ガス供給用マニホールド15を介して各セル10に燃料ガスが分配されると共に、各セル10の外周側から酸化剤ガスが供給されると、前述の反応式[化1]〜[化4]に示す電気化学反応により各セル10が電気エネルギを出力する。
【0047】
燃料電池1の運転時には、燃料電池1の電池本体の温度が、約500℃〜1000℃程度まで上昇し、隣接するセル10の間では、隣接するセル10間に介在するシール部材17が軟化して膨脹する。
【0048】
これにより、隣接するセル10のうち、一方のセル10Aのセルフレーム13と、他方のセル10Bのセパレータ14との接合部が密着し、反応ガスである燃料ガスのシール性を充分に確保することができる。
【0049】
また、本実施形態では、シール溝132および突起部142それぞれのセル積層方向に存在する部位の間に、シール部材17を介在させる構成としているので、シール部材17が軟化する際に作用する応力が、セル積層方向だけでなく、セル積層方向に直交する方向へ作用する。つまり、本実施形態のシール構造によれば、シール部材17が軟化する際に作用する応力を、セル積層方向からセル積層方向に直交する方向へ分散させることができる。
【0050】
これにより、シール部材17の軟化に伴う燃料電池1の電池本体の傾きが縮小され、当該電池本体の傾きに起因するシール性の悪化を抑制できると共に、燃料電池1内部の接触荷重の偏在(ばらつき)を抑えることができる。
【0051】
一方、燃料電池1の運転を停止すると、燃料電池1の電池本体の温度が徐々に低下し、隣接するセル10の間では、隣接するセル10間に介在するシール部材17が硬化して収縮する。
【0052】
この際、本実施形態では、シール溝132および突起部142それぞれのセル積層方向に存在する部位の間に、シール部材17を介在させる構成としているので、シール部材17が収縮する際に作用する応力が、セル積層方向だけでなく、セル積層方向に直交する方向へ作用する。つまり、本実施形態のシール構造によれば、シール部材17が収縮する際に作用する応力を、セル積層方向からセル積層方向に直交する方向へ分散させることができる。
【0053】
これにより、シール部材17の収縮に伴う燃料電池1の電池本体の傾きが縮小され、当該電池本体の傾きに起因するシール性の悪化を抑制できると共に、燃料電池1内部の接触荷重の偏在(ばらつき)を抑えることができる。
【0054】
以上説明した本実施形態の燃料電池1では、セル積層方向に直交する方向から見たとき、シール部材17が、セルフレーム13のシール溝132内部、およびセパレータ14の突起部142それぞれと重なり合うように配置するシール構造を採用している。
【0055】
このようなシール構造では、セルフレーム13のシール溝132、およびセパレータ14の突起部142それぞれのセル積層方向に直交する方向に存在する部位の間にシール部材17が介在することになる。このため、シール部材17が軟化や収縮する際に作用する応力を、セル積層方向からセル積層方向に直交する方向へ分散させることができる。
【0056】
この結果、シール部材17の軟化や収縮に伴う燃料電池1の電池本体の傾きが縮小され、燃料電池1の電池本体の傾きに起因するシール性の悪化を抑制できると共に、燃料電池1内部の接触荷重の偏在(ばらつき)を抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態のシール溝132は、セル積層方向に直交する断面の面積が底部132b側から開口132a側に向かって大きくなる形状となっている。これによれば、シール溝132をセル積層方向に直交する断面の面積を一定する場合に比べて、シール部材17の軟化や収縮した際に生ずるセル積層方向における高さの変化を小さくすることができる。この結果、シール部材17の軟化や収縮に伴う電池本体の傾きをより一層縮小することが可能となる。また、シール溝132内部において、シール部材17が開口132a側から底部132b側へ誘導され易くなるので、シール溝132と突起部142との間のシール性の向上を図ることができる。
【0058】
さらに、本実施形態では、セパレータ14に形成された突起部142の先端と、セルフレーム13に形成されたシール溝132の底部132bとの間に絶縁体18を介在させる構成としている。これよれば、セパレータ14とセルフレーム13との接合部における絶縁性を適切に確保することができる。
【0059】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では、セパレータ14に設けた突起部142に表面処理を施した例について説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0060】
本実施形態では、図5図6に示すように、セパレータ14に形成された突起部142におけるシール溝132側に露出する表面を酸化皮膜143で被覆している。この酸化皮膜143は、セパレータ14に形成された突起部142の表面を酸化処理することにより形成される。
【0061】
その他の構成および作動は、第1実施形態と同様である。本実施形態によれば、第1実施形態で説明した効果に加え、以下の作用効果を奏する。すなわち、本実施形態では、突起部142の表面に酸化皮膜143を被覆することで、第1実施形態のように突起部142の表面に酸化皮膜143を被覆しない場合(図4参照)に比べて、シール部材17と突起部142との接触面積を拡大することができる(図6参照)。この結果、セルフレーム13に形成されたシール溝132とセパレータ14に形成された突起部142との間のシール性の向上を図ることができる。
【0062】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0063】
(1)上述の各実施形態では、燃料電池1として酸化剤ガス流路を外部と連通させるオープンフロー構造を採用する例について説明したが、これに限定されない。例えば、燃料ガス側と同様に、内部マニホールドを介して酸化剤ガス流路における酸化剤ガスの給排気を行うようにしてもよい。この場合には、燃料ガスの給排気を行う各マニホールド15、16と同様のシール構造を適用すればよい。
【0064】
(2)上述の各実施形態では、隣接するセル10のうち、一方のセル10Aのセルフレーム13にシール溝132を形成し、他方のセル10Bのセパレータ14に突起部142を形成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、隣接するセル10のうち、一方のセル10Aのセルフレーム13に突起部を形成し、他方のセル10Bのセパレータ14にシール溝を形成するようにしてもよい。
【0065】
(3)上述の各実施形態の如く、シール溝132におけるセル積層方向に直交する断面の面積が、底部132b側から開口132a側に向かって大きくなる形状とすることが望ましいが、これに限定されない。例えば、シール溝132におけるセル積層方向に直交する断面の面積が、底部132b側から開口132a側に向かって小さくなる形状や一定となる形状としてもよい。
【0066】
(4)上述の各実施形態の如く、セパレータ14に形成された突起部142の先端とセルフレーム13に形成されたシール溝132の底部132bとの間に絶縁体18を介在させることが望ましいが、これに限定されない。例えば、セパレータ14に形成された突起部142の先端とセルフレーム13に形成されたシール溝132の底部132bとの間にシール部材17が介在している場合、当該シール部材17により絶縁性が確保可能となる。このように、他の部材により、セパレータ14とセルフレーム13との間の絶縁性を確保できる場合等には、絶縁体18を省略してもよい。
【0067】
(5)上述の各実施形態では、燃料電池1を構成するセル10をセルプレート11、アノード集電体12、セルフレーム13、およびセパレータ14で構成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、セル10を前述の構成要素にカソード集電体を加えた構成としてもよい。
【0068】
(6)上述の各実施形態では、セルフレーム13にてセルプレート11のアノード側を支持する例について説明したが、これに限定されず、例えば、セルフレーム13にてセルプレート11のカソード側を支持するようにしてもよい。
【0069】
(7)上述の各実施形態では、同一のセル10を構成するセルフレーム13およびセパレータ14を接合ライン10aに沿ってレーザ溶接等により密接に接合する例について説明したが、これに限定されない。例えば、隣接するセル10における各マニホールド15、16を構成する部材同士の接合部をシールするシール構造と同様の構造により、同一のセル10を構成するセルフレーム13およびセパレータ14を密接に接合するようにしてもよい。
【0070】
(8)上述の各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0071】
(9)上述の各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0072】
(10)上述の各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【符号の説明】
【0073】
1 燃料電池(固体酸化物型燃料電池)
10 セル
13 セルフレーム(第1部材)
13a 供給穴部(ガス流通部)
13b 排出穴部(ガス流通部)
132 シール溝
14 セパレータ(第2部材)
14a 供給穴部(ガス流通部)
14b 排出穴部(ガス流通部)
142 突起部
17 シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6