(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記工程(A)の前若しくは後又は前記工程(B)の後の少なくとも何れかにおいて、前記担体にオクタデシルシリル基、オクチル基、ブチル基及びアミノプロピル基からなる群から選ばれる官能基を結合させる工程を含む請求項6から8のいずれか一項に記載の分離媒体製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の方法はODSシリカゲル充填材に残ったシラノール基と金属不純物を不活性化することによりそれらによる悪影響を除去する上では有効な方法であり、本来のODS官能基の機能のみを発揮させようとするものである。そのため、ODSシリカゲル充填材の機能としてはODS基の機能のみが発揮され、それ以外の機能は発揮されない。
【0008】
本発明は、分析対象成分と分離媒体中の金属イオンとの間の相互作用を利用する新しいシリカベースの分離媒体を提供することを目的とするものである。
【0009】
さらに、本発明は、その分離媒体を用いて分析カラムや前処理用カラムを得ること、そのようなカラムを利用して液体クロマトグラフを構成することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
分離媒体の残留金属成分を完全に除去するのは困難であるため、本発明は残留金属成分を完全に除去するのではなく、逆にその残留金属成分よりも高濃度に金属成分を導入することにより金属成分を分離特性に影響を与えるように積極的に利用することにより、新たな分離特性をもった分離媒体を得ることができるとの知見を得た。
【0011】
本発明の分離媒体は、シリカゲルである担体又はシリカゲルを成分として含む担体と、前記担体に疎水性を与えるように前記担体に結合した50ppm以上の金属とを含む。本明細書において、上記「金属」は、「金属塩」、「金属イオン」、「金属アコイオン」等と特に別の記載をしない限り、金属塩を構成する金属イオン及び当該金属イオンに由来する金属(例えば、FeCl
3におけるFe)を含む概念である。上記「金属」は、少なくとも分離媒体の使用時には、水又は水溶液に浸漬された担体において、金属イオンを与えると考えられる。本明細書において、「金属イオン」は、金属アコイオンを含む概念である。本明細書において、担体に対する「結合」とは、担体構成分子の三次元構造による捕捉のほか、吸着、水素結合等の分子間力による相互作用をも含む概念であり、本明細書における、担体に対する「固定化」と実質的に同義である。
【0012】
通常、液体クロマトグラフの充填材に使用されているシリカゲル内の金属不純物濃度は合計で30ppm以下となるように管理されている。本発明においては、担体に対し、金属不純物よりも高濃度に金属を導入する。従って、本発明における50ppm以上の金属濃度は、担体に導入した金属のみならず、担体に予め不純物として含まれる金属をも含むものであってよく、担体に不純物として含まれる金属の種類及び導入した金属の種類の全ての合計である。金属は担体に飽和状態となる濃度で結合しているのが好ましい。
【0013】
合計で50ppm以上となる金属を構成する各金属の種類は、好ましくは、通常シリカゲルに不純物として含まれる金属の種類であり、例えば、Al、Fe、Zn、Mn、Ni、Mg又はAgなどを含む。担体に導入する金属の種類は、好ましくは、通常シリカゲルに不純物として含まれる金属の種類から選択し、より好ましくは、Al、Fe、Zn、Mn、Ni、Mg及びAgからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0014】
本発明はシリカゲルの残留金属不純物に起因する問題を解決するものであるので、そのような問題をもつ担体はシリカゲルに限らずシリカゲルを成分として含む担体も含む。シリカゲルを成分として含むそのような担体としては、特許文献2に記載されているような無機/有機ハイブリッド粒子を挙げることができる。
【0015】
分離媒体の第1の形態は、担体には、分析対象成分に対してシリカゲルとは異なる親和力を与える官能基が結合していないものである。上記官能基は、ODS基等の、後述する分離媒体の第2の形態を特徴づける官能基である。
【0016】
分離媒体の第2の形態は、担体には50ppm以上の金属のほかに分析対象成分に対してシリカゲルとは異なる親和力を与える官能基がさらに結合しているものである。そのような官能基としては、ODS基、オクチル基、ブチル基又はアミノプロピル基などを挙げることができる。具体的には、例えばシリカゲルにODS基等の官能基を結合させる工程の前後に、担体に金属塩水溶液を添加し、金属もシリカゲルに固定化する。その結果、得られる分離媒体は、金属塩水溶液添加前のシリカゲル中の残留金属量と比較すると圧倒的に多量の金属がシリカゲルに存在することにより、新たな分離選択性を生み、ピーク形状の悪化等も見られない分離媒体となる。
【0017】
エンドキャッピングに関しては、シラノール基の影響を抑えるための通常程度のエンドキャッピングを行うことは排除しない。
【0018】
本発明のカラムは、第1の形態又は第2の形態の分離媒体がチューブに充填されたものである。そのカラムの第1の形態の一例は、第1の形態の分離媒体が充填されオフラインで使用されるカートリッジ形状に構成されたものであり、液体クロマトグラフィーの前処理カラムとして使用するのに適したものである。そのような前処理カラムは、例えば、試料中の分析対象成分を捕捉し夾雑物を排出した後、その捕捉された分析対象成分を溶出させて液体クロマトグラフィーの試料に供するように使用される。
【0019】
そのカラムの第1の形態の他の例は、第1の形態の分離媒体が充填されオンラインで使用されるカラム形状に構成された前処理カラムである。このような前処理カラムは液体クロマトグラフの一構成要素として使用することができる。そのような液体クロマトグラフの一例は、この前処理カラムと、この前処理カラムに試料中の1又は複数の分析対象成分を保持させる第1の溶媒をこの前処理カラムに供給する第1溶媒供給流路と、この前処理カラムに保持された分析対象成分を溶出させる第2の溶媒であって、第1の溶媒とは異なる溶媒をこの前処理カラムに供給する第2溶媒供給流路と、この前処理カラムからの溶出液が流れる流路に接続される分析対象成分分離用の分析カラムと、分析カラムの下流に接続されて分析カラムで分離された分析対象成分を検出する検出器と、第1溶媒供給流路をこの前処理カラムに接続する第1流路と、第2溶媒供給流路をこの前処理カラムに接続しこの前処理カラムからの溶出液流路を分析カラムに接続する第2流路との間で切り換える流路切換え機構とを備えたものである。
【0020】
本発明のカラムの第2の形態は、担体に50ppm以上の金属のほかに分析対象成分に対してシリカゲルとは異なる親和力を与える官能基がさらに結合している第2の形態の分離媒体が充填されオンラインで使用されるカラム形状に構成されたものである。第2の形態のカラムは前処理カラムを備えているか否かに拘わらず、液体クロマトグラフでの分析カラムとして使用することができる。そのような液体クロマトグラフとしては、第1の形態のカラムを前処理カラムとして備えた液体クロマトグラフも含む。
【0021】
本発明の分離媒体は以下の工程(A)及び(B)を含んで製造する。
(A)シリカゲルである担体又はシリカゲルを成分として含む担体を金属の金属塩水溶液に浸した後、前記担体を乾燥する工程、及び
(B)その後、400〜1200℃の範囲の温度で加熱処理する工程。
【0022】
上記工程(A)における「浸す」は、担体を金属塩水溶液によって十分に湿潤した状態にする方法であれば特に限定されず、例えば、担体を金属塩水溶液に浸漬する方法、カラム又はカートリッジに充填した担体に金属塩水溶液を滴下する方法によるもの等が挙げられる。
【0023】
前記金属は、好ましくは、Al、Fe、Zn、Mn、Ni、Mg及びAgからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
得られる分離媒体は、上記加熱処理を施す前よりも疎水性をもつ。シリカゲルに疎水性をもたせる方法としてシリル化が考えられるが、本発明の上記方法は、シリル化剤を使用せずに、シリカゲルの加熱処理(シラノール基の不活性化)による疎水性相互作用と、シリカゲルの表面に存在する金属アコイオンによる陽イオン交換相互作用とを同時にシリカゲルに与える点に特徴がある。
【0025】
一実施形態では、工程(A)はシリカゲルに金属を飽和状態に結合させる。
【0026】
他の実施形態では、工程(A)の前若しくは後又は工程(B)の後に、担体にオクタデシルシリル基、オクチル基、ブチル基又はアミノプロピル基からなる官能基を結合させる工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0027】
第1の形態の分離媒体は、オクタデシルシリル基などの、分析対象成分に対してシリカゲルとは異なる親和力を与える官能基が担体に結合していないものである。この分離媒体は、疎水性の性質をもち、疎水性相互作用メカニズムによって酸性化合物、中性化合物及び塩基性化合物と相互作用することができる。さらに、シリカゲルの表面上の金属イオンは、酸性の性質をもっており、選択的な静電的相互作用メカニズム(つまり陽イオン交換モード)によって塩基性化合物と相互作用することができる。陽イオン交換相互作用の強さは、Fe(III)イオン、Alイオン、Agイオン又はNiイオン等のそれぞれの酸性度、つまりpKa値に依存するので、金属種を選択することにより金属イオンの酸性度の違いにより静電的相互作用を制御することができる。この結果は、広範囲な塩基性化合物の分析に金属イオン親和クロマトグラフィーを適用できることを意味している。
【0028】
第2の形態の分離媒体は、担体に50ppm以上の金属のほかに分析対象成分に対してシリカゲルとは異なる親和力を与えるODS基などの官能基がさらに結合しているものである。この分離媒体が充填された分析カラムを用いて分析することにより、固定化する金属の種類によって、例えば塩基性化合物の保持がより強くなり、一般的なODSカラムとは異なる選択性を示すようになる。これは分析対象成分である塩基性化合物のpKa値と疎水性に依存すると推測される。また、固定化する金属の種類により、その分離媒体としての挙動も異なるので、分離しようとする分析対象成分に応じて固定化する金属種を異ならせることにより分離の最適化を図ることができる。さらに、移動相の有機溶媒量、緩衝液のpHおよび塩濃度等、種々のパラメータを最適化することにより、さらに柔軟な対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】分離媒体の一実施形態であるカートリッジを示す断面図である。
【
図1B】分離媒体の他の実施形態であるカラムを示す一部切欠き断面図である。
【
図2】一実施例の前処理カラムが実装された液体クロマトグラフを示す流路構成図である。
【
図3E】酸性条件下での各種前処理カラムによる分析対象成分ごとの回収率を示すグラフである。
【
図4E】中性条件下での各種前処理カラムによる分析対象成分ごとの回収率を示すグラフである。
【
図5A】前処理カラムによる酸性条件下での分析対象成分のlogPと回収率との関係を示すグラフである。
【
図5B】前処理カラムによる中性条件下での分析対象成分のlogPと回収率との関係を示すグラフである。
【
図6E】各種前処理カラムによる分析対象成分ごとの酸性溶媒濃度と回収率との関係を示すグラフである。
【
図7E】各種前処理カラムによる分析対象成分ごとの中性溶媒濃度と回収率との関係を示すグラフである。
【
図8】一実施例の分析カラムが実装された液体クロマトグラフを示す流路構成図である。
【
図9】第1のグラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図10】同グラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図11】第2のグラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図12】同グラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図13】第3のグラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図14】同グラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図15】第4のグラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図16】同グラジエント分析における実施例の金属固定化ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図17】移動相に塩としてKClを添加した場合と添加しなかった場合について、実施例の(Fe(III)−ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図18】移動相に塩としてKClを添加した場合と添加しなかった場合について、実施例の(Fe(II)−ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図19】移動相に塩としてKClを添加した場合と添加しなかった場合について、実施例のAl−ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図20】移動相に塩としてKClを添加した場合と添加しなかった場合について、実施例のAg−ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図21】移動相に塩としてPFPAを添加した場合と添加しなかった場合について、実施例の(Fe(III)−ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図22】移動相に塩としてPFPAを添加した場合と添加しなかった場合について、実施例のAl−ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【
図23】移動相に塩としてPFPAを添加した場合と添加しなかった場合について、実施例のAg−ODSカラムによるクロマトグラフを比較例のODSカラムによるクロマトグラフと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施形態)
分析対象成分に対してシリカゲルとは異なる親和力を与える官能基が担体に結合していない分離媒体:
担体としてシリカゲルを用いる場合、シリカゲルの形態は特に限定されないが、好ましい形態としては、粒子径は1〜300μm、より好ましくは1〜200μm、さらにより好ましくは1〜150μm、細孔径は2〜100nm、より好ましくは3〜30nm、比表面積は50〜800m
2/g、より好ましくは200〜400m
2/gを挙げることができる。上記粒子径は、更に、前処理用には10〜100μmが特に好ましく、分析カラム用には2〜20μmが特に好ましい。担体としては無機/有機ハイブリッド粒子を用いてもよい。以下の説明ではシリカゲルを用いる場合について説明するが、無機/有機ハイブリッド粒子を用いる場合も同様である。
【0031】
担体に金属を結合させる。その方法として、担体をAl、Fe、Zn、Mn、Ni、Mg、Ag等の金属の金属塩水溶液に浸す等接触させ、乾燥させた後に加熱する。上記金属塩としては、AlCl
3、FeCl
3、FeCl
2、ZnCl
2、MnCl
2、NiCl
2、MgCl
2、AgNO
3等が挙げられる。金属塩水溶液は、特に限定されないが、例えば、金属塩の0.01〜1質量%水溶液、好ましくは0.05〜0.5質量%水溶液を、担体の乾燥質量として100質量部に対し、例えば0.2〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部の割合で担体に添加し、例えば3〜24時間、好ましくは5〜12時間攪拌する。次に、金属を含む担体をガラスフィルタ等で濾過し、水等で洗浄する。得られる担体を例えば80〜200℃、好ましくは100〜170℃において、例えば30分〜10時間、好ましくは1〜5時間乾燥し、続いて、例えば300〜1500℃、好ましくは400〜1200℃、より好ましくは400〜1100℃において、例えば30分〜10時間、好ましくは2〜4時間加熱して分離媒体を得ることができる。
【0032】
分離媒体を得る具体的な例を示す。塩化第二鉄の0.2%水溶液、塩化アルミニウム6水和物の0.2%水溶液、硝酸銀の0.2%水溶液及び硝酸ニッケルの0.2%水溶液のそれぞれを、別々のシリカゲル(粒径:50μm、気孔サイズ:12nm)に加え、5〜10時間攪拌した。その結果、シリカゲルに金属が飽和状態に結合したと推定される状態となった。次に、金属を含むシリカゲルをガラスフィルタ(3番)で濾過し、200mLの水で洗浄した。最後に、金属を含むシリカゲルを150℃で2時間乾燥し、続いて、400〜1000℃で2〜4時間加熱して分離媒体を得た。
【0033】
このようにして得られる分離媒体を本明細書において「金属−シリカゲル」と表すことがある。具体的な金属として、Al、Fe(II)(第1鉄)、Fe(III)(第2鉄)等の記号が入る。
【0034】
このようにして得た分離媒体は、試料を液体クロマトグラフに導入する前に夾雑物などを除去するための前処理用の分離媒体として利用することができ、また、液体クロマトグラフの分離分析用の分離媒体として利用することもできる。
【0035】
前処理用分離媒体としてのひとつの利用形態は、
図1Aに示されるカートリッジ2である。円筒状の本体4の上端に注ぎ口6が設けられ下端に出口8が設けられた筒状の容器に、フィルター12を介して分離媒体14が充填されたものである。
【0036】
カートリッジ2はオフラインで使用するものである。夾雑物を含む試料溶液を注ぎ口6から注入することにより、分析対象成分が分離媒体14に捕捉され、夾雑物は出口8から排出される。その後、分離媒体14に捕捉された分析対象成分を溶出させるための溶媒を注ぎ口6から注入することにより、分析対象成分が出口8から溶出されて、夾雑物のない試料溶液となる。
【0037】
前処理用分離媒体としての他の利用形態は、
図1Bに示されるようなオンライン用のカラム16である。カラム16はステンレス製チューブなどのカラム本体18に分離媒体20が充填されたものである。カラム本体18の両端には液体クロマトグラフの流路に接続するための接続口22、24が設けられている。
【0038】
このようなカラム16は、前処理カラムだけでなく、液体クロマトグラフで分析対象成分を分離するための分析カラムとしても使用される。分析カラムとして使用するときは、一般に前処理カラムよりも長いものが用いられる。
【0039】
カラム16を前処理カラムとして液体クロマトグラフに備えた例を
図2に示す。分析対象成分に対してシリカゲルとは異なる親和力を与える官能基が担体に結合していない分離媒体が充填された前処理カラム16Aは、流路切換え機構を構成する六方バルブ30の2つのポート間に接続されている。前処理カラム16Aは、ステンレス製のカラム管(長さ10mm、内径4.0mm)に分離媒体を充填したものである。
【0040】
バルブ30の他のポートには、前処理カラム16Aに分析対象成分を捕捉させ夾雑物などを排出するための前処理用溶媒を供給する流路35が接続されている。その流路35には、溶媒36Aを供給するポンプ38Aからなる流路と、溶媒36Bを供給するポンプ38Bからなる流路が並列に接続されている。流路35には試料溶液を注入するインジェクタ40が設けられている。
【0041】
バルブ30のさらに他のポートには液体クロマトグラフの分析カラム32が接続されている。分析カラム32はカラムオーブン(図示せず。)に収容されて一定温度に保たれている。分析カラム32の下流には分析カラム32から溶出した分析対象成分を検出する紫外可視分光光度計などの検出器34が接続されている。分析カラム32は前処理カラム16Aよりも長く、分析カラム32内には前処理カラム16Aとは異なる別の分離媒体が充填されている。分析カラム32の分離媒体は、特に限定されず、例えば、後述の第2の実施形態である、シリカゲルに金属とODSなどの官能基を結合させた分離媒体であってもよいが、
図2における液体クロマトグラフ装置では、シリカゲルに官能基としてODSが結合された逆相クロマトグラフィー用カラムである。
【0042】
前処理カラム16Aに捕捉された分析対象成分を溶出して分析カラム32に導くために、バルブ30のさらに他のポートには分析用溶媒を供給する流路41が接続されている。その流路41は、2種類の溶媒によるグラジエント分析を行うことができるように、溶媒42Aを供給するポンプ44Aからなる流路と、溶媒42Bを供給するポンプ44Bからなる流路が並列に接続されている。
【0043】
バルブ30のさらに他のポートは液を排出するドレイン用ポートとなっている。
【0044】
前処理カラムに試料溶液とともに供給する溶媒は、何種類を用いてもよく、例えば1〜5種類の溶媒を用いることができる。かかる溶媒としては、試料成分に適切であれば特に限定されないが、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液等が挙げられ、必要に応じ、アセトニトリル、メタノール、エタノール等の有機溶媒との混合液(体積比は、有機溶媒:水=90:10〜1:99が好ましく、80:20〜20:80がより好ましい。)を用いることができる。上記溶媒の供給は、例えば0.5〜20mL/分、好ましくは1〜10mL/分の流量により、例えば0.2〜10分間、好ましくは1〜5分間行う。
【0045】
図2における液体クロマトグラフ装置では、前処理として溶媒36A又は36Bがそれぞれのポンプ38A又は38Bにより供給され、インジェクタ40から試料溶液が注入される。試料溶液は前処理カラム16Aを経てドレインへ流れる。その間に分析対象成分が前処理カラム16Aに捕捉され、夾雑物が排出される。前処理中も液体クロマトグラフの分析流路を安定化させるために、流路41から分析カラム32へ溶媒を一定流量で流す。
【0046】
前処理終了後、バルブ30が切り換えられ、流路41から分析用溶媒が前処理カラム16Aを経て分析カラム32に流される。これにより、前処理カラム16Aに捕捉されていた分析対象成分が分析用溶媒により溶出されて分析カラム32に導入される。分析カラム32で分離された分析対象成分は検出器34で検出される。分析用溶媒によるグラジエント分析は、行わなくてもよいが、
図2における液体クロマトグラフ装置では、ポンプ44Aと44Bを時間的に調節することにより、その混合比を変化させ、グラジエント分析を行うことができる。
【0047】
溶媒の具体的な例を示す。溶媒36Aとして酢酸アンモニウム5mmol/Lの水溶液、又は酢酸0.1%の水溶液を使用し、溶媒36B(
図3〜
図7ではM4と表示されている。)として酢酸アンモニウム5mmol/Lを含むアセトニトリルと水の混合液(体積比6:4)、又は酢酸0.1%を含むアセトニトリルと水の混合液(体積比6:4)を使用する。前処理は溶媒36A又は36Bを均一濃度で流量2mL/分で1分間流す。
【0048】
溶媒42Aとしてトリフルオロ酢酸の0.1%水溶液を使用し、溶媒42Bとしてトリフルオロ酢酸0.1%を含むアセトニトリルと水の混合液(体積比6:4)を使用する。これらの溶媒は、1mL/分の流量でグラジエント溶離モードで導入する。グラジエント条件は、溶媒42Bの濃度を12分間で0から100%に変化させる条件と、溶媒42Bの濃度を3分間で0から100%に変化させる条件とする。
【0049】
分析カラム32としてODSカラム(長さ150mm、内径4.6mm、シリカゲル粒径5μm)を使用し、カラム温度を40℃とする。インジェクタ40への試料注入量を10μLとする。検出器34では280nmでの紫外線吸光度を測定する。
【0050】
(第1の形態のシリカゲルの評価)
図2に示した液体クロマトグラフ装置により、その前処理カラム16Aとして使用した分離媒体の保持特性を評価した。評価には回収率を求める方法を採用した。回収率は次のように求めた。モデル化合物を試料として注入し、前処理カラム16Aに捕捉した後、バルブ30を切り換えて分析カラム32で分離して検出器34で検出したときの各モデル化合物のピーク面積(A)と、前処理カラム16Aを経ないでモデル化合物を分析カラム32へ導入し分離して検出器34で検出したときの各モデル化合物のピーク面積(B)とを測定する。回収率は次の式により求めた。
回収率(%)=(A/B)×100
【0051】
第1の形態のシリカゲルとして、加熱処理された5種類のFe(III)−シリカゲルを使用した。加熱処理条件は次の5種類である。
(1)1000℃で4時間
(2)1000℃で2時間
(3)800℃で2時間
(4)600℃で2時間
(5)400℃で2時間
【0052】
比較のために、金属を含まず加熱処理もされていないシリカゲル(コントロールという。)も分離媒体として回収率を測定した。金属を含まないというのは、実施例のように意図的に金属を含ませないという意味であり、不純物として30ppm程度の金属が含まれていてもよい。
【0053】
回収率は5つのモデル化合物(酸性化合物、中性化合物及び塩基性化合物)について求めた。
図3−4、6−7において、(A)から(E)はそれぞれ次のモデル化合物を表わす。
【0054】
(酸性化合物)
(A)ケトプロフェン(Ketoprofen:pKa = 3.9, logP = 2.911)
(中性化合物)
(B)プロピルパラベン(Propyl paraben:logP = 2.901)(塩基性化合物)
(C)トリメトプリム(Trimethoprim:pKa = 7.1, logP = 0.79)
(D)ドネペジル(Donepezil:pKa = 9.4, logP = 3.913)
(E)イミプラミン(Imipramine:pKa = 9.4, logP = 4.355)
【0055】
前処理の移動相を酸性条件(溶媒36Aが酢酸0.1%水溶液、溶媒36Bが酢酸0.1%を含むアセトニトリルと水の混合溶液で、溶媒36Bの割合を0〜40%の範囲で変化させた。pHは約4)としたときの結果を
図3A〜
図3Eに示し、前処理の移動相を中性条件(溶媒36Aが酢酸アンモニウム5mmol/L水溶液、溶媒36Bが酢酸アンモニウム5mmol/Lを含むアセトニトリルと水の混合溶液で、溶媒36Bの割合を0〜40%の範囲で変化させた。pHは約7)としたときの結果を
図4に示す。
【0056】
Fe(III)−シリカゲルは、コントロールに比べて、何れのモデル化合物についても回収率の増加を示したが、特に3つの塩基性化合物(トリメトプリム、ドネペジルおよびイミプラミン)について、回収率の増加は著しく、酸性条件下でその傾向は強かった。
【0057】
また、酸性条件下でも中性条件下でも、モデル化合物の回収率はFe(III)−シリカゲルの加熱処理の温度が高くなるほど増加した。
【0058】
上記の結果は、シリカゲルを加熱処理することによりシリカゲルの表面の疎水性が増加すること、また、当該疎水性は加熱処理の温度が高くなると増加することを示す。
【0059】
以上から、酸性条件下でも中性条件下でも、加熱処理されたシリカゲルによるモデル化合物の回収率は、当該シリカゲルとの疎水性相互作用によって増加するといえる。
【0060】
ケトプロフェンは、中性条件下よりも酸性条件下で回収率が増加した。この結果は、ケトプロフェンは中性条件下では、疎水性を減少させ、Fe(III)アコイオンによって反発される陰イオンとして存在することを示す。
【0061】
次に、加熱処理(1000℃で2時間)されたFe(III)−シリカゲルを用い、移動相を酸性条件(A)と中性条件(B)で溶媒36Bの濃度を20%としたときの各種モデル化合物の回収率を、モデル化合物のlogPとの関係において、
図5に示す。高い疎水性(高いlogP)の塩基性化合物であるドネペジルとイミプラミン、及び、低い疎水性(低いlogP)の塩基性化合物であるトリメトプリムは何れも高い回収率を示した。酸性化合物と中性化合物は、トリメトプリムよりもlogPが高いにも拘わらず、加熱処理されたFe(III)−シリカゲルにはほとんど保持されなかった。
【0062】
以上から、Fe(III)−シリカゲル中の金属イオンは酸性であり、回収率がlogP値に対する依存性を示さなかったことからも、塩基性化合物は陽イオン交換モードと同様の静電的相互作用の機構により選択的に保持されるといえる。
【0063】
以上のように、3つの塩基性化合物は、疎水性相互作用と陽イオン交換相互作用の両方により、回収率が著しく増加する。特に、ドネペジルとイミプラミンは、トリメトプリムより高いpKa値をもち、陽イオン交換相互作用により強く保持される。
【0064】
3つの塩基性化合物は、酸性条件下よりも中性条件下でより高い回収率を示した。これは、中性条件下での塩基性化合物の疎水性の増加、加熱処理されたシリカゲルの表面の疎水性の増加、及び塩基性化合物とFe(III)イオンとの間の陽イオン交換相互作用によるものと推定される。もっとも、中性条件下では、加熱処理されたFe(III)−シリカゲル上の金属イオンと塩基性化合物との間の陽イオン交換相互作用よりも、塩基性化合物の疎水性の増加による効果が大きい。
【0065】
次に、異なる酸性度(すなわちpKa値)の金属イオン(金属種はFe(III)、Al、AgおよびNi)と塩基性化合物との間の相互作用に関し、1000℃で2時間の加熱処理を施した金属−シリカゲルを用いて、5つのモデル化合物の回収率を測定した。前処理に酸性移動相を使用した酸性条件下での結果を
図6に、中性移動相を使用した中性条件下での結果を
図7にそれぞれ示す。
【0066】
3つの塩基性化合物は、酸性条件下と中性条件下での前処理において、加熱処理された金属−シリカゲル(金属種はFe(III)、Al、AgまたはNi)で様々な回収率を示した。加熱処理されたFe(III)−シリカゲルは、酸性条件下では塩基性化合物で最も高い回収率を示した。一方、すべての加熱処理された金属−シリカゲルは、酸性条件下よりも中性条件下の方が塩基性化合物の回収率が高くなった。
【0067】
これらの結果は、金属アコイオンと塩基性化合物との間の相互作用の程度はFe(III)、Al、AgおよびNiの各アコイオンの酸性度が影響することを示している。尚、金属アコイオンは種々のpKa値を示す。pKa値は金属イオンのサイズ及び電荷に依存し、さらに元素の電気陰性度に依存する。一般に、金属イオンのサイズが小さくなるほど、またサイズが同じであれば電荷が大きくなるほど、金属イオンはより酸性になる。元素の電気陰性度が高くなるほど金属イオンは酸性になる。Fe(III)、Al、AgおよびNiの各アコイオンのpKa値はそれぞれ2.2、5.0、12.0および9.9であることが知られている。
【0068】
したがって、加熱処理された金属−シリカゲルの金属アコイオン(特にFe(III)アコイオン)を使用すると、塩基性化合物は静電的相互作用(つまり陽イオン交換モード)によって保持され、移動相のpHにより疎水性相互作用によっても保持される。例えば、酸性条件(0.1%の酢酸;pHは約4)下では疎水性相互作用によっても保持される。
【0069】
それぞれの加熱処理された金属−シリカゲルをオンライン固体抽出カラムとし、それぞれに試験溶液を注入したが、クロマトグラフィー性能の低下もカラム圧力の目立った変化も見られなかった。これらの結果は、それらの加熱処理された金属−シリカゲルは十分な安定性と再利用可能性をもっていることを示している。
【0070】
上述の結果からわかることは、これらの加熱処理された金属−シリカゲルは、ミックスモード逆相−陽イオン交換HPLCカラムとして使用すれば、疎水性のアルキル鎖とイオン性官能基に適応できるということである。従来は、ミックスモードのHPLCは、ODS固定相をもつカラムと陽イオン交換固定相をもつカラムの2つのカラムを接続したり、逆相固定相とイオン交換固定相の2種類の固定相を1つのカラム内で混合したり、又はアルキル鎖中のイオン化可能な官能基をシリカベースの担体に化学的に結合させたりすることによって実現されてきた。
【0071】
そこで、加熱処理された金属−シリカゲルの代表として、加熱処理(1000℃で2時間)されたFe(III)−シリカゲルを用い、そのミックスモード逆相−陽イオン交換についての能力を検討した。カラム切換え式HPLCシステムで前処理用移動相として酸性移動相(0.1%酢酸をむ水溶液)と中性移動相(5mmol/Lの酢酸アンモニウムを含む水溶液)を用い、試料として濃度0.5mg/mLのイミプラミン溶液を使用した。加熱処理されたFe(III)−シリカゲルに注入したイミプラミンの量とピーク面積との関係を調べた。その結果、酸性移動相を使用した場合も中性移動相を使用した場合も、イミプラミンの量とピーク面積の関係は注入量25μgまでほとんど直線的であった。その結果、加熱処理された金属−シリカゲルは、塩基性化合物用のミックスモード逆相−陽イオン交換に対して十分な能力をもっていることがわかる。
【0072】
(第2の実施形態)
シリカゲルに金属とODSなどの官能基を結合させた分離媒体:
担体としてシリカゲルを用いる場合、シリカゲルの形態は特に限定されないが、化学修飾を効率的に行うことのできるものであることが好ましい。シリカゲルのそのような好ましい形態としては、粒子径は1〜200μm、より好ましくは1〜15μm、細孔径は4〜100nm、より好ましくは4〜30nm、比表面積は50〜800m
2/g、より好ましくは200〜400m
2/gを挙げることができる。担体としては無機/有機ハイブリッド粒子を用いてもよい。以下の説明ではシリカゲルを用いる場合について説明するが、無機/有機ハイブリッド粒子を用いる場合も同様である。
【0073】
シリカゲルに金属を結合させる。その方法として、シリカゲルとAl、Fe、Zn、Mn、Ni、Mg又はAgの金属塩水溶液を接触させ、乾燥させた後に加熱する。そのような金属塩としては、AlCl
3、FeCl
3、FeCl
2、ZnCl
2、MnCl
2、NiCl
2、MgCl
2、AgNO
3などを挙げることができる。
【0074】
シリカゲルにオクタデシルシリル基、オクチル基、ブチル基、シアノプロピル基又はアミノプロピル基等の官能基を結合させる。シリカゲルにオクタデシルシリル基等の官能基を結合させる反応はカラム充填材製造分野ではよく知られた方法である。例えば、オクタデシルシリル基を結合させる場合を説明すると以下のようになる。トルエンなどの非極性溶媒中でモノクロロジメチルオクタデシルシラン等のシリル化剤とシリカゲルを混合し、還流しながら反応させる。使用溶媒、温度、時間、触媒添加の有無などによって反応収率は異なる。また、シリル化剤の種類によって結合形式が異なるが、ここではそれらを制限しない。
【0075】
このようにして得られた分離媒体を液体クロマトグラフ用カラム充填材として使用する場合は、通常エンドキャッピング処理をすることが多い。エンドキャッピング処理法はカラム充填材製造分野でよく知られた方法であるが、エンドキャッピング処理の有無、および、その方法については制限しない。
【0076】
シリカゲルに金属を結合させる工程とシリカゲルに官能基を結合させる工程は、いずれを先に行ってもよい。また、結合をより強固にするために、これらの工程を複数回行ってもよい。
【0077】
実施例(1)として、さらに具体的に示す。シリカゲル粒子を約2gはかりとる。シリカゲル粒子は特に限定されるものではないが、例えば平均粒子径5μm、平均細孔径12nm、平均比表面積350m
2/gのものである。
【0078】
これに適当な濃度(例えば、0.2重量%)の金属塩(例えば、塩化第二鉄、又は塩化アルミニウム)水溶液を200mL加える。この溶液を6〜12時間攪拌した後、洗浄し、ろ過してシリカゲル粒子を捕集する。このシリカゲル粒子を約150℃で2時間程度乾燥させる。さらに、500〜1200℃で2〜5時間程度加熱する。金属塩水溶液の濃度及び添加量は厳密でなくてもよい。これらを変化させることにより、シリカゲルに対する金属の量を調節することは可能であるが、シリカゲルに残存する微量金属の影響を小さくするためには、飽和状態まで結合させることが好ましい。そのため、シリカゲルに金属を結合させる工程において、シリカゲルに対して金属が過剰になるように添加するだけで、所期の目的を達成させる金属固定化ODS分離媒体を調製することができる。
【0079】
固定化された金属はシリカゲルの表面に結合していればよい。シリカゲルは多孔質であるので、表面とはその外表面だけでなく、細孔内側の表面も含む。しかし、金属はシリカゲル結晶の内部にまで入っている必要はない。上に示した金属濃度は内部に取り込まれた金属も含めた平均としての金属濃度である。平均濃度が充填材の特性と直接に関係するものではない。
【0080】
このようにして金属を固定化したシリカゲル粒子に、一般的な方法でオクタデシル基などのような官能基を結合させることにより、実施例(1)の分離媒体を調製する。シリカゲル粒子にオクタデシル基を官能基として結合させる一般的な方法として、例えばシリカゲルにトリエトキシオクタデシルシランを反応させる。
【0081】
このようにして得られる実施例(1)の分離媒体は金属固定化ODS分離媒体であり、これを以下「MAqC−ODS」と表示することがある。金属を示すMAqCの具体的な金属として、Al、Fe(II)(第1鉄)、Fe(III)(第2鉄)などの記号が入る。実施例のMAqC−ODS分離媒体に対し、比較例として金属を固定化していないODS分離媒体を使用する。比較例のODS分離媒体は金属を結合させる工程を経ていない点で実施例の分離媒体と異なっている。
【0082】
実施例(2)として、前処理カラムやカートリッジに使用するのに適する分離媒体を調製した。シリカゲル粒子を約2gはかりとる。シリカゲル粒子は特に限定されるものではないが、例えば平均粒子径50μm、平均細孔径12nm、平均比表面積350m
2/gのものである。このシリカゲル粒子は実施例(1)のものと比較すると、平均粒子径が大きい。
【0083】
これに適当な濃度(例えば、0.2重量%)の金属塩(例えば、塩化第二鉄、又は塩化アルミニウム)水溶液を200mL加える。この溶液を5〜10時間接絆した後、水およびメタノールで洗浄し、ろ過してシリカゲル粒子を捕集する。このシリカゲル粒子を約150℃で2時間程度乾燥させる。
【0084】
実施例(3)としては、実施例(1)の分離媒体にさらにオクタデシル基などのような官能基を結合させ、分離媒体を調製する。
【0085】
この分離媒体も金属固定化ODS分離媒体であり、これも以下「MAqC−ODS」と表示することがある。金属を示すMAqCの具体的な金属として、Al、Fe(II)(第1鉄)、Fe(III)(第2鉄)などの記号が入る。本発明に係るMAqC−ODS分離媒体に対し、比較例として金属を固定化していないODS分離媒体を使用する。比較例のODS分離媒体は金属を結合させる工程を経ていない点で本発明に係るものと異なっている。
【0086】
本発明に係る分離媒体と比較例の分離媒体を従来から用いられている方法により空カラムに充填することにより、HPLC用カラムを製作する。
【0087】
<HPLC用カラムの特徴>
上記の方法で製作したカラムの保持特性を比較例のODS分離媒体を充填したODSカラムと比較して示すために、それらのカラムをHPLC装置に装着した。そのHPLC装置の一例の流路構成図を
図8に示す。分析流路68上に、上流側から送液ポンプ54、オートサンプラ52、分析カラム16B及び検出器58が接続されている。送液ポンプ54は2つのポンプ54A,54Bを備え、ポンプ54Aの吸引側は移動相62Aを収容した容器に、ポンプ54Bの吸引側は移動相62Aとは異なる移動相62Bを収容した容器にそれぞれデガッサ64を介して接続されている。分析カラム16Bとして、本発明に係るカラム又は比較例のODSカラムを使用する。
【0088】
ポンプ54A,54Bの吐出側はともにミキサ66に接続されている。ミキサ66の下流側にはオートサンプラ52が接続され、分析流路68中に試料が注入される。オートサンプラ52の下流側に接続された分析カラム16Bはカラムオーブン56内に収容されて一定温度に保持され、オートサンプラ52により注入された試料を成分ごとに分離する。分析カラム16Bの下流側に接続された検出器58は分析カラム16Bを経た液の光学的測定を行なうものである。検出器58としては紫外吸光度検出器が使用されている。
【0089】
ここに示したHPLC装置は一例であり、本発明のカラムが使用される液体クロマトグラフは
図8に示されたものに限られない。
【0090】
また、本発明の分離媒体は、注入した試料を前処理した後に分析カラムに導くトラップカラムの充填材としても利用可能であり、トラップ注入方式の装置構成とすることも当然に可能である。
【0091】
図8のHPLC装置において、以下の条件で分析してクロマトグラムを得た。ここでの分析条件は、逆相モードでよく使用されるものである。
【0092】
カラム16B:内径4.6mm、長さ150mm
HPLCでの分析条件は次の通りである。
移動相:A液(後述)
B液(後述)
グラジエントプログラム:
B液濃度:0%(0分)→100%(12分)
移動相流量:1.0mL/分
検出:波長280nm
カラム温度:40℃
【0093】
試料:以下の8成分がそれぞれ62.5μg/mLの濃度で含まれている。
(中性化合物)
(1)メチルパラベン
(2)プロピルパラベン(酸性化合物)
(3)安息香酸
(4)ケトプロフェン
(塩基性化合物)
(5)トリメトプリム
(6)イミプラミン
(7)アゼラスチン
(8)ドネペジル
【0094】
HPLCのインジェクタへの試料注入量:10μL
【0095】
クロマトグラムの説明:
カラム充填材の種類は各図中に示されている。図中のCapcell Pack ODSは金属が固定化されていないODS充填材で株式会社資生堂の商品、ODSは本発明に係る分離媒体の製造方法における金属固定化の工程を省略して製造したものである。Capcell Pack ODSとODSのクロマトグラムは比較例として示したものである。
【0096】
各クロマトグラムにおいて、ピークに付された数字は試料中の上記の成分を表わしている。各クロマトグラムの横軸は時間を表わし、最大(右端)の目盛は20分である。クロマトグラムの縦軸は吸光度(mAU)であり、各クロマトグラムのフルスケールは200mAUである。これらのクロマトグラムで重要なのはピークが現れる順序、すなわち分析対象成分である化合物の溶出順序であり、保持時間とピーク高さの絶対値ではない。
図9〜
図23は主として化合物の溶出順序を示すためのものである。
【0097】
図9から
図16のクロマトグラムを得た移動相A液とB液は次の通りである。
図9〜
図10:
A液:水/酢酸=1000/1(V/V)
B液:アセトニトリル/水/酢酸=600/400/1(V/V/V)
移動相の成分比率のVは体積、Wは重量を表わしている。
図11〜
図12:
A液:水/酢酸=1000/1(V/V)
B液:アセトニトリル/水/TFA=600/400/1(V/V/V)
TFAはトリフルオロ酢酸である。
図13〜
図14:
A液:水/リン酸=1000/1(V/V)
B液:アセトニトリル/水/リン酸=600/400/1(V/V/V)
図15〜
図16:
A液:水/酢酸アンモニウム=1000/0.77(V/W)
B液:アセトニトリル/水/酢酸アンモニウム=600/400/0.77(V/V/W)
【0098】
図9から
図16のクロマトグラムにおいて、金属を固定化していないODSカラムと固定化したODSカラムによるクロマトグラムと比較すると、移動相の種類にも依存するが、塩基性化合物に対する保持が選択的に強くなる傾向がみられる。特にFe(III)、Fe(II)又はAlを固定化したODSカラムを用いた場合に顕著になる。移動相によっては塩基性化合物の保持が強すぎて溶出されなくなる場合もある。
【0099】
金属の種類によっては塩基性化合物に対して選択的に保持力が強くなる傾向は顕著ではないものもあるが、それでも分析対象成分の溶出順序が比較例のODSカラムによるクロマトグラムとは異なっており、保持特性に対する固定化金属の効果が表れているということができる。
【0100】
このように固定化させる金属種ごとに保持挙動が異なるので、様々な保持特性をもつカラムが製作可能となる。このことは分離しようとする成分に適したカラムを得る選択肢が広くなることを意味する。
【0101】
本発明に係る金属固定化ODS分離媒体を用いたカラムは、移動相に塩を添加することによっても異なる保持特性を示すようになる。次に移動相中の塩の効果について示す。添加する塩としては、KCl、MgCl
2、(NH
4)
2SO
4、EDTA(エチレンジアミン四酢酸:キレート化剤)、PFPA(パーフルオロプロピオン酸:ペアードイオン試薬)などを用いることができる。そのうち、移動相にKClとPFPAをそれぞれ添加した場合の効果を
図17から
図23に示す。
【0102】
クロマトグラムの説明:
カラム充填材の種類、塩の種類及びその濃度は各図中に示されている。図中のODS−onlyは本発明に係るODS分離媒体の製造方法における金属固定化の工程を省略して製造したものであり、比較例として示したものである。
【0103】
図17から
図23のクロマトグラムを得た移動相A液とB液は次の通りである。
A液:水/酢酸=1000/1(V/V)
B液:アセトニトリル/水/酢酸=600/400/1(V/V)
塩はB液中に添加されており、その濃度は図中に記載されている。
【0104】
カラムのサイズ、HPLCでの分析条件及び試料は
図9から
図16のクロマトグラムを得たときのものと同じである。
【0105】
図17から
図23の結果から明らかなように、例えば、逆相モードにおいて、移動相に塩を添加することにより、保持の強い塩基性化合物を溶出させることができる。つまり、本発明に係る金属固定化ODS分離媒体を充填したカラムは移動相に塩を添加することによりその保持特性を制御できることがわかる。例えば、通常のODSカラムでは十分に分離できない成分に対し、固定化する金属の種類を選ぶことにより、さらに移動相に適当な塩を添加することにより分離させることができるようになるなど、多様な分析に寄与することができる。
【0106】
この分離媒体を充填した分析カラムの保持挙動は、逆相モードと陽イオン交換モードの両方を有し、また、上述のように固定化する金属種を変えることにより保持挙動も異なるので、分離モードに対する様々な要求に対応できる。陽イオン交換モードが発揮されていることは、例えば
図17から推測できる。“Column:ODS−Only,KCl=0mM”と“Column:ODS−Only,KCl=10mM”を比較すると、両者のクロマトグラムにはほとんど変化がないのに対し、“Column:Fe(III)−ODS,KCl=0mM”と“Column:,Fe(III)−ODS,KCl=10mM”を比較すると、KCl=0mMでは溶出していなかった塩基性化合物が、KCl=10mMで塩を添加することにより溶出している。この結果は陽イオン交換モードが働いていることを示している。
【0107】
以上、本発明に係る金属固定化ODS分離媒体を充填材としたカラムを液体クロマトグラフ装置に備えた構成に基づいて説明をしたが、このような特性を有する分離媒体はオフラインでの利用も可能である。オフラインで利用する場合は、本発明に係る分離媒体をカラム充填材として利用する場合よりも少し粒子径を大きく調整し、カートリッジとして使用することが好ましい。粒子径を大きくすれば、カートリッジへの通液のための大きな圧力は必要なく、シリンジ等の手操作による前処理も可能となる。ある成分に対して強い保持力を示すカートリッジを選択して使用することで、分析対象からその成分を除去する前処理カートリッジとして利用できる。オフラインであるため流路の組み替えも不要であり、条件検討が容易となる。