特許第6131490号(P6131490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131490免疫グロブリンフラグメントを用いた部位特異的GLP−2薬物結合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131490
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】免疫グロブリンフラグメントを用いた部位特異的GLP−2薬物結合体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20170515BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20170515BHJP
   C07K 14/605 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 47/50 20170101ALI20170515BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C07K19/00ZNA
   C07K16/00
   C07K14/605
   A61K47/48
   A61P1/04
   A61K39/395 Y
   A61K37/28
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-550024(P2014-550024)
(86)(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公表番号】特表2015-503554(P2015-503554A)
(43)【公表日】2015年2月2日
(86)【国際出願番号】KR2012011748
(87)【国際公開番号】WO2013100704
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2015年11月27日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0147684
(32)【優先日】2011年12月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512188720
【氏名又は名称】ハンミ サイエンス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANMI SCIENCE CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】キム セウン ス
(72)【発明者】
【氏名】リム セ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン サン ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】クォン セ チャン
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/107256(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ペプチド重合体を介して共有的に連結された、天然型グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)またはその誘導体と免疫グロブリンFcフラグメントとを含むGLP-2結合体であって、前記天然型GLP-2またはその誘導体がそのC末端に導入されたチオール基を有し、前記非ペプチド重合体の一方の末端が、前記免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結しており、その他方の末端が、前記GLP-2またはその誘導体のチオール基に共有的に連結されていることを特徴とする、GLP-2結合体。
【請求項2】
前記GLP-2またはその誘導体のチオール基が、それらのC末端にシステインを結合させることによって導入されている、請求項1に記載のGLP-2結合体。
【請求項3】
前記GLP-2の誘導体が、天然型GLP-2のN末端アミン基の置換、除去または修飾により製造されており、GLP-2受容体に結合する機能を有する、請求項1に記載のGLP-2結合体。
【請求項4】
前記GLP-2の誘導体が、天然型GLP-2のN末端で最初のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素及びそれに結合したN末端アミン基を削除して製造されたGLP-2誘導体、天然型GLP-2のN末端アミン基を削除して製造されたGLP-2誘導体、天然型GLP-2のN末端アミン基をヒドロキシル基に置換して製造されたGLP-2誘導体、天然型GLP-2のN末端アミン基をジメチル基で修飾して製造されたGLP-2誘導体、及び天然型GLP-2のN末端アミン基をカルボキシル基に置換して製造されたGLP-2誘導体からなる群から選択される、請求項3に記載のGLP-2結合体。
【請求項5】
前記非ペプチド重合体が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸及びそれらの組合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のGLP-2結合体。
【請求項6】
前記非ペプチド重合体が、その両末端にアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基、及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される反応基を有する、請求項1に記載のGLP-2結合体。
【請求項7】
前記スクシンイミド誘導体が、スクシンイミジルプロピオネート、スクシンイミジルカルボキシメチル、ヒドロキシスクシンイミジル及びスクシンイミジルカーボネートからなる群から選択される、請求項6に記載のGLP-2結合体。
【請求項8】
前記非ペプチド重合体が、一方の末端にマレイミド基を有し、他方の末端にアルデヒド基を有する、請求項6に記載のGLP-2結合体。
【請求項9】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、非グリコシル化される、請求項1に記載のGLP-2結合体。
【請求項10】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、CH1、CH2、CH3及びCH4ドメインからなる群から選択される1〜4個のドメインからなる、請求項1に記載のGLP-2結合体。
【請求項11】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、ヒンジ領域をさらに含む、請求項10に記載のGLP-2結合体。
【請求項12】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、IgG、IgA、IgD、IgEまたはIgMに由来する、請求項1に記載のGLP-2結合体。
【請求項13】
前記免疫グロブリンFcフラグメントの各ドメインが、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される異なる免疫グロブリンに由来したドメインのハイブリッドである、請求項12に記載のGLP-2結合体。
【請求項14】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、同一の免疫グロブリンに由来したドメインを含む糖鎖化された免疫グロブリンからなる二量体または多量体である、請求項12に記載のGLP-2結合体。
【請求項15】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、IgG4 Fcフラグメントである、請求項12に記載のGLP-2結合体。
【請求項16】
前記免疫グロブリンFcフラグメントが、ヒト非グリコシル化IgG4 Fcフラグメントである、請求項15に記載のGLP-2結合体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のGLP-2結合体を製造する方法であって、
1) 両末端にアルデヒド、マレイミド及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される反応基を有する非ペプチド重合体を、GLP-2またはその誘導体のオール基に共有的に連結する工程であって、前記GLP-2またはその誘導体がそのC末端に導入されたチオール基を有する工程と、
2) 工程1)の反応混合物から、前記非ペプチド重合体が前記GLP-2またはその誘導体のオール基に共有的に連結されている複合体を分離する工程と、
3) 前記複合体内の非ペプチド重合体の他方の末端を、免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結する工程と、
4) 工程3)の反応混合物から、前記非ペプチド重合体の両末端がそれぞれ前記免疫グロブリンFcフラグメント及びGLP-2またはその誘導体に共有的に連結されているGLP-2結合体を分離する工程とを含むことを特徴とする、方法。
【請求項18】
工程1)における非ペプチド重合体が、前記GLP-2またはその誘導体のC末端チオール基に共有的に連結される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程1)における前記GLP-2またはその誘導体と前記非ペプチド重合体とを、1:2〜1:10のモル比でpH 2〜4の条件で反応させる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のGLP-2結合体を有効成分として含む、腸疾患、腸損傷及び胃腸疾患から選択される1種以上の疾患を予防または治療するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのC末端に導入されたチオール基を有するグルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)またはその誘導体が非ペプチド重合体を介して免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結されたGLP-2結合体であり、非ペプチド重合体及び免疫グロブリンFcフラグメントが前記GLP-2またはその誘導体のN末端アミノ基以外の他のアミノ酸残基に部位-特異的に結合したものである結合体;GLP-2結合体の製造方法;これを含む医薬組成物;及びこれを用いて腸疾患、腸損傷または胃腸疾患を治療または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)は、栄養分摂取時に腸内分泌L-細胞で生成される33個のアミノ酸ペプチドホルモンである。GLP-2は、小腸及び大腸で粘膜成長を促進し(非特許文献1)腸細胞とクリプト細胞(crypt cell)のアポトーシス(apoptosis)を抑制する(非特許文献2)。また、GLP-2は小腸で栄養分の吸収を増強させ(非特許文献3)、腸透過性を減少させる(非特許文献4)。また、胃排出(Gastric emptying)及び胃酸分泌を抑制する一方(非特許文献5)、腸血流速度を増加させ(非特許文献6)、腸平滑筋を弛緩させる(非特許文献7)。
【0003】
GLP-2は、エネルギーを吸収して保護し、腸細胞の機能を活性化させる能力を有しているため、腸疾患と損傷の様々な生体内モデルにおいて治療的可能性が高いことが立証されてきた。栄養吸収を調節するホルモンとして、GLP-2は短腸症候群(short bowel syndrome, SBS)の治療に非常に有望な潜在力を有している。SBSは、先天的要因または腸の手術的削除のような後天的要因により引き起こされ、小腸の吸収面積の減少により栄養欠乏症をもたらす。GLP-2がSBSを有するラットモデルで栄養摂取及び消化管における吸収を向上させることが報告された(非特許文献8)。
【0004】
また、クローン病は、口から肛門に至る消化管の任意の領域で引き起こされ得る慢性炎症性腸疾患である。クローン病の原因はまだ知られていないが、環境的及び遺伝的要因とともに消化管内に正常に存在する細菌細胞に対する身体の過度な免疫反応により引き起こされることが知られている。粘膜炎、結腸炎、炎症性腸疾患が化学療法または遺伝的要因により発生した場合、GLP-2が粘膜上皮細胞内損傷を予防したり軽減させると明らかになった(非特許文献9)。
【0005】
化学療法-誘導された下痢(chemotherapy-induced diarrhea, CID)は、抗癌治療剤の用量を制限させる要因の一つであり、抗癌化学療法の最も頻繁な副作用である。約10%の患者は進行癌を有する。5-FU(5-フルオロウラシル, Adrucil)/イリノテカン(Camptosar)の単一/併用療法を受けた進行癌患者の約80%がCIDを経験し、これらの約30%は3〜5等級の深刻な下痢症状を示す。また、CID患者で粘膜炎(mucositis)または好中球減少症(neutropenia)が同時に生じた場合、死亡する可能性がある。CID-誘導されたラットモデルでGLP-2は5-FUにより誘導された腸重量、絨毛高、腺寓の深さ(crypt depth)の低下を軽減する効果があり、CID治療に対する治療的可能性を立証した(非特許文献10)。
【0006】
このような高い治療的可能性があるにもかかわらず、GLP-2は商用の薬物として開発されるには依然として限界がある。GLP-2のようなペプチドは、安定性が低いため容易に変形し、体内のプロテアーゼにより分解されて活性を失いやすく、これらの相対的に小さいサイズにより腎臓を通じて容易に削除される。従って、ペプチド薬物の最適な血中濃度及び力価を維持するためには、ペプチド薬物をさらに頻繁に投与する必要がある。しかし、大部分のペプチド薬物は、様々な形態の注射剤として投与され、ペプチド薬物の血中濃度を維持するためには頻繁な注射が要求され、これは患者にとてつもない苦痛を引き起こす。これと関連し、このような問題を克服するために様々な試みがなされてきたが、そのうちの一つとしてペプチド薬物の膜透過度を増加させて経口または鼻腔経路を通じて体内にペプチド薬物を伝達する方法が開発された。しかし、この方法は、注射に比べてペプチド薬物の伝達効率が低いという限界があるので、治療的用途のためにペプチド薬物の十分な生物学的活性を維持することに依然として多くの困難が伴う。
【0007】
特に、GLP-2の2位のアミノ酸(Ala)と3位のアミノ酸(Asp)との間を切断するジペプチジルぺプチダーゼIV(DPPIV)による不活性化により、GLP-2は生体内半減期が非常に短い(7分以下)(非特許文献11)。アミノ酸置換によりGLP-2の生体内半減期を延長させる試みがなされてきた。
【0008】
現在、NPS Pharmaceuticals Inc.(U.S.A.)は、クローン病、SBS及び胃腸疾患の治療剤として天然型GLP-2の2位のアミノ酸(Ala)をアスパラギン(Asp)に置換したGLP-2類似体「テデュグルチド(Teduglutide)」を開発中である。テデュグルチドは、2番目のアミノ酸の置換を通じてDPPIVの切断に耐性を示し、これは、安定性及び効能を増加させる。しかし、DPPIV切断に対する抵抗性の増加は、テデュグルチドの生体内半減期を増加させるのに十分ではない。従って、テデュグルチドも1日1回の注射を通じて投与される必要があり、これは、依然として患者に大きな負担となる(特許文献1)。
【0009】
ジーランドファーマ(デンマーク)は、現在、天然型GLP-2の3、8、16、24、28、31、32及び33位で少なくとも一つのアミノ酸置換によるGLP-2類似体を開発中である。これら置換は、ペプチドの安定性及び効能を増強させるだけでなく置換の位置に応じて結腸に比べて小腸で成長促進活性をさらに高くさせたり、その反対にして症状の選択的治療を可能にする。また、ジーランドファーマは、胃腸-粘膜炎(gastrointestinal(GI)-mucositis)とCIDを標的にするGLP-2類似体としてエルシグルタイド(Elsiglutide)(ZP1846)を開発中であり、エルシグルタイドは臨床第1相試験が進められている。しかし、前記類似体も十分な生体内半減期を有さず、従って、1日1回の注射によって投与される必要がある(特許文献2)。
【0010】
ポリエチレングリコール(PEG)は、目的ペプチドの特定部位または様々な部位に非特異的に結合してペプチドの分子量を増加させ、それにより任意の副作用を誘発しないながら標的ペプチドの腎クリアランス及び加水分解を防止する。例えば、特許文献3はカルシトニンにPEGを結合してカルシトニンの生体内半減期及び膜透過性を増強させる方法を記述している。特許文献4はPEGに連結させることにより、鬱血性心不全症(Congestive heart failure)治療剤として用いられるB-型ナトリウム利尿ペプチド(B-type natriuretic peptide, BNP)の生体内半減期を増加させる方法を記述している。また、特許文献5はエキセンディン-4のリシン残基にPEGを結合させてエキセンディン-4の生体内半減期を増加させる方法を記述している。しかし、これら方法は、それに連結されるPEGの分子量を増加させることによりペプチド薬物の生体内半減期を延長させることはできるが、PEGの分子量が増加するほどペプチド薬物の力価が減少し、ペプチド薬物とPEGの反応性がまた低下し、収率の減少がもたらされる。
【0011】
特許文献6は、GLP-1、エキセンディン-4またはこの類似体とヒト血清アルブミンまたは免疫グロブリンFc領域との融合タンパク質を製造する方法を記述している。特許文献7は、また副甲状腺ホルモン(PTH)またはその類似体と免疫グロブリンFc領域との融合タンパク質を製造する方法を記述している。これら方法は、低い収率及び非特異性のようなペグ化(pegylation)の問題を克服することができるが、ペプチド薬物の生体内半減期を増加させる効果が予想より顕著ではなく、時には、その力価が依然として低い。ペプチド薬物の生体内半減期を増加させる効果を極大化するために、様々な種類のペプチドリンカーが用いられるが、免疫反応を誘発する危険性がある。さらに、BNPのような二硫化結合(disulfide bond)を有するペプチド薬物が用いられる場合、ミスフォールディング(misfolding)の確率が高い。最後に、非-自然的に発生するアミノ酸を含むペプチド薬物が用いられる場合、遺伝的組換えによりその融合タンパク質を生産することが不可能である。
【0012】
以前の研究において、本発明者らは、GLP-2またはその誘導体を非ペプチド重合体を通じて免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結して製造される、延長された生体内半減期を有するGLP-2結合体を製造する方法を開発した。この方法において、GLP-2のN末端アミン基をヒドロキシル基に置換したβ-ヒドロキシ-イミダゾ-プロピオニルGLP-2、そのN末端のアミン基を削除したデス-アミノ-ヒスチジルGLP-2、最初のヒスチジンのアルファ炭素及びそれに連結されたN末端アミン基を削除したイミダゾ-アセチル-GLP-2のような、GLP-2誘導体はそれらの生活性を維持しながらDPPIV切断に対する増加した抵抗性を示し、これによりGLP-2結合体の生体内半減期が画期的に延長された。
【0013】
しかし、免疫グロブリンFcフラグメントがこれらGLP-2誘導体のリシン残基に部位-特異的に連結された場合、そのようにして得られたGLP-2結合体はGLP-2受容体に対して結合親和力が顕著に低下し、従って、その生体内効能及び持続性が低下しうるという問題があった。
【0014】
これに対し、本発明者らは、GLP-2の血中生体内半減期を増加させ、生体内効能の持続を極大化できる方法を研究した結果、そのC末端にチオール基が導入されたGLP-2誘導体を非ペプチド重合体及び免疫グロブリンFcフラグメントに共有結合により接合させてGLP-2結合体を製造し、前記GLP-2結合体がGLP-2受容体に対し結合親和力と生体内効能が顕著に向上し、持続することが確認された。特に、非ペプチド重合体及び免疫グロブリンFcフラグメントがGLP-2の最初のヒスチジンのアルファ炭素及びそれに連結されたN末端アミン基が削除され、DPPIVに対する抵抗性が増加したイミダゾ-アセチル-GLP-2のC末端に導入されたシステイン残基に部位-特異的に連結された場合、イミダゾ-アセチル-GLP-2結合体の生体内効能が顕著に向上することを確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2005/067368号
【特許文献2】国際公開第2006/117565号
【特許文献3】米国特許第4,179,337号
【特許文献4】国際公開第2006/076471号
【特許文献5】米国特許第6,924,264号
【特許文献6】国際公開第2002/46227号
【特許文献7】米国特許第6,756,480号
【特許文献8】国際公開第97/34631号
【特許文献9】国際公開第96/32478号
【特許文献10】韓国特許第10-725315号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】D.G.Burrin et al.,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 279(6):G1249-1256, 2000
【非特許文献2】Bernardo Yusta et al.,Gastrpenterology.137(3):986-996, 2009
【非特許文献3】PALLE BJ et al.,Gastrpenterology. 120:806-815, 2001
【非特許文献4】Cameron HL et al.,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 284(6):G905-12, 2003
【非特許文献5】Meier JJ et al.,Gastrpenterology. 130(1):44-54, 2006
【非特許文献6】Bremholm L et al.,Scand J Gastroenterol. 44(3):314-9, 2009
【非特許文献7】Amato A et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 296(3):G678-84, 2009
【非特許文献8】Ljungmann K et al.,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 281(3):G779-85, 2001
【非特許文献9】Qiang Xiao et al.,Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 278(4):R1057-R1063, 2000
【非特許文献10】A. Tavakkolizadeh et al.,J Surg Res. 91(1):77-82, 2000
【非特許文献11】Bolette H. et al., The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 85(8):2884-2888, 2000
【非特許文献12】Coleman et al.,Fundamental Immunology, 2nd Ed.,1989, 55-73
【非特許文献13】H. Neurath, R.L. Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【非特許文献14】Morrison et al.,J. Immunology 143:2595-2601, 1989
【非特許文献15】Eur. J. Immunology 29:2819-2825, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の一つの目的は、生体内治療的効能及び安定性を増強したGLP-2結合体を提供することである。
【0018】
本発明のもう一つの目的は、GLP-2結合体を製造する方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらにも一つの目的は、GLP-2結合体を有効成分として含む、腸疾患、腸損傷または胃腸疾患の予防または治療用の医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一つの態様において、本発明は、天然型グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)またはその誘導体及び免疫グロブリンFcフラグメントが非ペプチド重合体を介して共有的に連結されたGLP-2結合体において、天然型GLP-2またはその誘導体がそのC末端に導入されたチオール(thiol)基を有し、非ペプチド重合体の一方の末端がGLP-2のN末端アミノ基以外のアミノ酸残基に連結されるGLP-2結合体を提供する。
【0021】
他の態様において、本発明は、
1) 両末端にアルデヒド、マレイミド及びスクシンイミド誘導体から選択される反応基を有する非ペプチド重合体をGLP-2またはその誘導体のアミン基またはチオール基に共有的に連結する工程であって、GLP-2またはその誘導体はそのC末端に導入されたチオール基を有するものである工程と、
2) 工程1)の反応混合物から非ペプチド重合体がGLP-2またはその誘導体のアミン基またはチオール基に共有的に連結された複合体(complex)を分離する工程と、
3) 複合体の非ペプチド重合体の他方の末端に免疫グロブリンFcフラグメントを共有的に連結する工程、及び
4) 工程3)の反応混合物から非ペプチド重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFcフラグメント及びGLP-2またはその誘導体に連結されたGLP-2結合体を分離する工程とを含む、本発明によるGLP-2結合体の製造方法を提供する。
【0022】
他の態様において、本発明は、有効成分として本発明によるGLP-2結合体を含む、腸疾患、腸損傷及び胃腸疾患から選択される少なくとも一つの疾患を予防または治療するための医薬組成物を提供する。
【0023】
他の態様おいて、本発明は、これを必要とする患者に本発明によるGLP-2結合体を投与することを含む、腸疾患、腸損傷及び胃疾患から選択される少なくとも一つの疾患を予防または治療する方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明のGLP-2結合体は、GLP-2受容体に対して結合親和力が顕著に高いので、体内の治療的効能の持続性及び生体内半減期の延長を示した。従って、本発明のGLP-2結合体は、顕著に低い投与頻度で腸疾患、腸損傷または胃腸疾患の治療または予防に効果的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】Source Pheカラムを用いて精製された、CA GLP-2(A2G, 34C)-10K PEG-免疫グロブリンFc結合体の精製プロファイルを示したものである。
図2】Source 15Qカラムを用いて精製された、CA GLP-2(A2G, 34C)-10K PEG-免疫グロブリンFc結合体の精製プロファイルを示したものである。
図3】Source ISOカラムを用いて精製された、CA GLP-2(A2G, 34C)-10K PEG-免疫グロブリンFc結合体の精製プロファイルを示したものである。
図4】CA GLP-2(A2G, 34C)-10K PEG-免疫グロブリンFc結合体の純度を分析した逆相HPLCの結果を示したものである。
図5】GLP-2誘導体のGLP-2受容体と天然型GLP-2に対する結合親和力を測定した生体内の結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一つの態様として、本発明は、非ペプチド重合体を通じて共有的に連結されたグルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)またはその誘導体及び免疫グロブリンFcフラグメントを含むGLP-2結合体において、GLP-2またはその誘導体がそのC末端に導入されたチオール基を有し、非ペプチド重合体がGLP-2またはその誘導体のN末端アミノ基以外のアミノ酸残基に共有的に連結されたGLP-2結合体を提供する。
【0027】
本発明において使用される用語「グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)」とは、小腸により分泌され、一般に、インシュリンの生合成及び分泌を促進し、グルカゴンの分枝を抑制し、細胞内でグルコース吸収を促進するホルモンを意味する。GLP-2は、GLP-2受容体への結合によって腸疾患、腸損傷または胃腸疾患を治療または予防する機能を有する。GLP-2は、33個のアミノ酸で構成され、天然型GLP-2のアミノ酸配列は下記の通りである。
【0028】
GLP-2(1-33)
HADGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号:1)
【0029】
本発明のGLP-2には、GLP-2の天然型、そのアゴニスト(agonist)、誘導体(derivatives)、フラグメント(fragments)または変異体(variants)などが含まれる。
【0030】
本発明において使用される用語「GLP-2アゴニスト」とは、GLP-2に対するその構造的類似性と関係なくGLP-2受容体に結合し、天然型GLP-2と同じかまたは類似した生理学的活性を誘導できる物質を意味する。
【0031】
本発明において使用される用語「GLP-2フラグメント」は、天然型GLP-2のN末端またはC末端に少なくとも一つのアミノ酸が追加されたりそれから削除されたペプチドを示し、この際追加されるアミノ酸は非天然型アミノ酸(例:D-アミノ酸)であってもよい。
【0032】
好ましい実施様態として、本発明のGLP-2は、そのC末端に導入されたチオール(thiol)基を有することを含み、ここで、チオール基はGLP-2のC末端にシステイン(cystein)残基を追加することにより導入さるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明において使用される用語「GLP-2変異体」は、天然型GLP-2と異なる少なくとも一つのアミノ酸を有するペプチドを意味する。この場合、自然に発生するアミノ酸だけでなく非天然型アミノ酸への置換が誘導されてもよい。
【0034】
本発明において使用される用語「GLP-2誘導体」は、天然型GLP-2と比較し、少なくとも80%のアミノ酸配列相同性を有するペプチドを示し、アミノ酸残基の一部が化学的に置換(例:α-メチル化, α-ヒドロキシル化)、削除(例:脱アミノ化)、または修飾(例:N-エチル化)され得るペプチドを意味する。好ましくは、本発明のGLP-2誘導体は、天然型GLP-2のN末端の置換、削除または修飾により製造することができ、GLP-2の機能を保有するペプチド、これらのフラグメント及び変異体からなる群から選択できる。
【0035】
より好ましくは、本発明のGLP-2誘導体は、天然型GLP-2のN末端から最初のヒスチジン残基のα炭素及びそれに連結されたN末端アミン基が削除されたイミダゾ-アセチル-GLP-2(CA-GLP-2)、天然型GLP-2のN末端アミン基が削除されたデス-アミノ-ヒスチジル-GLP-2(DA-GLP-2)、天然型GLP-2のN末端アミン基がヒドロキシル(hydroxyl)基に置換されたβ-ヒドロキシ-イミダゾ-プロピオニルGLP-2(OH-GLP-2)、天然型GLP-2のN末端アミン基がジメチル基で修飾されたジメチルヒスチジルGLP-2(DM-GLP-2)及び、天然型GLP-2のN末端アミン基がカルボキシル(carboxyl)基に置換されたβ-カルボキシ-イミダゾ-プロピオニルGLP-2(CX-GLP-2)からなる群から選択できる。
【0036】
より好ましくは、GLP-2誘導体は、天然型GLP-2のN末端最初のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素及びそれに連結されたN末端アミン基が削除されたCA-GLP-2であってもよい。
【0037】
好ましい実施態様として、本発明のGLP-2またはその誘導体は、システイン残基が天然型GLP-2のC末端に導入され、そのN末端のアルファ-炭素及びそれに連結されたアミン基が削除され、選択的に2番目のアミノ酸であるアラニンがグリシンに置換されたペプチドであってもよい。
【0038】
本発明による天然型GLP-2またはGLP-2類似体は、固相合成法または組換え技術を用いて合成することができる。
【0039】
本発明において使用される用語「非ペプチド重合体」は、ペプチド結合ではなく任意の共有結合を介して互いに連結された少なくとも2つの繰り返し単位を含む生体適合性重合体を意味する。本発明に適した非ペプチド重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸、polylactic acid)及びPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸、polylactic-glycolic acid)のような生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸及びこれらの組合わせからなる群から選択することができ、好ましくは、ポリエチレングリコールである。また、当該分野によく知られた、若しくは通常の技術者により容易に製造され得る前述の重合体の誘導体が、本発明において非ペプチド重合体の範囲に含まれる。
【0040】
通常のインフレーム融合(in-frame fusion)方法で製造された融合タンパク質に用いられるペプチドリンカーは、タンパク分解酵素により容易に切断され、キャリアの使用による生理活性ポリペプチド薬物の生体内半減期の顕著な増加を達成し難いという欠点がある。しかし、本発明は、このようなタンパク分解酵素に対して抵抗性を有する重合体を用いて生理活性ポリペプチドの生体内半減期をキャリアのそれと類似して維持することができる。
【0041】
従って、タンパク分解酵素に対して抵抗性を有する重合体であれば、任意の非ペプチド重合体に制限なく本発明に用いることができる。非ペプチド重合体は、1〜100 kDaの範囲、好ましくは1〜20 kDaの範囲の分子量を有する。また、免疫グロブリンFcフラグメントに連結される本発明の非ペプチド重合体は、一種の重合体または異なる種類の重合体の組合わせからなることができる。
【0042】
本発明の非ペプチド重合体は、その両末端に免疫グロブリンFcフラグメントとペプチド薬物に結合できる末端反応基を有する。非ペプチド重合体の両末端にある末端反応基は、好ましくは、反応アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド(maleimide)基及びスクシンイミド(succinimide)誘導体からなる群から選択される。スクシンイミド誘導体としてスクシンイミジルプロピオネート、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチルまたはスクシンイミジルカーボネートが例示され得る。非ペプチド重合体の両末端にある末端反応基は、同じかまたは異なってもよい。例えば、非ペプチド重合体は、その一方の末端にはマレイミド基を保有し、アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、またはブチルアルデヒド基を他の末端に保有することができる。両末端にヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(PEG)を非ペプチド重合体として用いる場合、ヒドロキシ基を通常の化学反応を通じて様々な反応基で活性化することができる。また、修飾された反応基を有する商業的に入手可能なPEGを本発明のGLP-2結合体の製造に用いることができる。
【0043】
特に、一方の末端にアルデヒド基を、他方の末端にマレイミド基を有する非ペプチド重合体を用いる場合、非-特異的反応を最小化することができ、非ペプチド重合体の各末端にGLP-2またはその誘導体及び免疫グロブリンFcフラグメントの結合を効果的に誘導することができる。還元性アルキル化を通じたアルデヒド結合により生成された最終の産物は、アミド結合により生成されたものより安定的である。アルデヒド基は、低いpHの水準でN末端に選択的に結合するが、pH 9.0のような高いpHのレベルではリシン残基に結合して共有結合を形成する。
【0044】
好ましい実施様態として、本発明の非ペプチド重合体は、一方の末端にマレイミド基を、他方の末端にアルデヒド基を有することができ、より好ましくは、一方の末端にマレイミド基を有し、他方の末端にアルデヒド基を有するポリエチレングリコールであってもよい。
【0045】
本発明において、免疫グロブリン(Ig)Fcフラグメントは、生体内で生分解されるため、薬物のキャリアとして用いるのに適している。また、Fcフラグメントは、免疫グロブリン分子全体に比べて相対的に小さい分子量を有するため、ペプチド薬物との結合体の製造、精製及び収率の面において有利である。さらに、抗体間のアミノ酸配列の差により高い非均質性を示すFab領域が削除されるため、Fcフラグメントは、 物質の同質性が大幅に増加し、血清抗原性の誘導可能性は低くなる。
【0046】
本発明において使用される用語「キャリア」は、薬物に連結される物質を意味する。典型的に、キャリアに連結された薬物を含む複合体は薬物の生理活性が大幅に減少する。しかし、本発明の目的と関連し、キャリアは目的薬物の生理活性の減少を最小化し、キャリアの免疫原性を減少させることによって、薬物の生体内安定性を高めるために本発明において用いられる。このような目的を達成するために、本発明は、キャリアとして非ペプチド重合体により修飾されたFcフラグメントを用いる。
【0047】
本発明において使用される用語「免疫グロブリンFcフラグメント」は、抗原に対して選択的に作用することにより、身体の防御免疫に関与するタンパク質を一括して示す。免疫グロブリンは、2本の同一の軽鎖と2本の同一の重鎖からなる。軽鎖及び重鎖は、可変及び不変領域を含む。これらの不変領域のアミノ酸配列の違いにより5種類の異なった重鎖であるガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)及びエプシロン(ε)類型が存在する。重鎖は、サブクラスであるガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)及びアルファ2(α2)を含む。また、これらの不変領域のアミノ酸配列の違いにより2種の軽鎖であるカッパ(κ)及びラムダ(λ)類型(非特許文献12)が存在する。重鎖の不変領域の特性に応じて、免疫グロブリンは5種類のアイソタイプに分類され、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgM. IgGはIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに区分される。
【0048】
免疫グロブリンは、Fab、F(ab')、F(ab')2、Fv、scFv、Fd及びFcを含む、数個の構造的に異なるフラグメントを生成することが知られている。免疫グロブリンフラグメントの中で、Fabは軽鎖及び重鎖の可変領域、軽鎖の不変領域と重鎖の不変領域1(CH1)を含み、単一の抗原結合部位を有する。F(ab')フラグメントは、重鎖CH1ドメインのC末端(カルボキシル末端)に少なくとも一つのシステイン残基を含むヒンジ領域を有する面でFabフラグメントと異なる。F(ab')2のフラグメントはF(ab')フラグメントのヒンジ領域のシステイン残基の間に形成された二硫化結合により一対のF(ab')フラグメントとして生産される。Fvは、単に重鎖可変領域と軽鎖可変領域のみを含む最小抗体フラグメントである。scFv(短鎖Fv)フラグメントは、ペプチドリンカーにより互いに連結され、単一ポリペプチド鎖として存在する重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む。また、Fdフラグメントは、単に軽鎖と重鎖のCH1ドメインのみを含む。
【0049】
本発明において使用される用語「免疫グロブリンFcフラグメント」は、免疫グロブリン(Ig)分子がパパインに分解される際に生産され、軽鎖の可変領域(VL)及び不変領域(CL)と重鎖の可変領域(VH)及び不変領域1(CH1)を除いた免疫グロブリン分子の領域である。Fcフラグメントは、重鎖不変領域にヒンジ領域をさらに含むことができる。また、Fcフラグメントは、天然型と実質的に同じか、または向上した効果を奏する限り、重鎖不変領域(CH1)及び/又は軽鎖不変領域(CL1)の一部または全体を含む拡張されたFcフラグメントであってもよい。さらに、Fcフラグメントは、CH2及び/又はCH3のアミノ酸配列の相対的に長い部分で欠失を有するフラグメントであってもよい。好ましいFcフラグメントは、IgG-またはIgM-由来Fcフラグメントである。IgG-由来Fcフラグメントがより好ましく、IgG2 Fc及びIgG4 Fcフラグメントが特に好ましい。
【0050】
本発明により修飾されたFcフラグメントは、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgM由来のFcフラグメントの組合わせまたはハイブリッドであってもよい。用語「組合わせ」とは、二量体または多量体を形成するために、同一起源の短鎖Fcフラグメントが異なる起源の短鎖Fcフラグメントに連結されている二量体または多量体ポリペプチドを意味する。用語「ハイブリッド」とは、異なる起源の2個以上のドメインが短鎖Fcフラグメント内に存在するポリペプチドを意味する。例えば、ハイブリッドは、IgG1 Fc、IgG2 Fc、IgG3 Fc及びIgG4 Fc内に含まれたCH1、CH2、CH3及びCH4から選択された1〜4個のドメインからなることができる。
【0051】
本発明により修飾されたFcフラグメントは、ヒトまたは牛、ヤギ、豚、マウス、ラビット、ハムスター、ラット及びモルモットをはじめとした他の動物に由来することができる。ヒト由来のFcフラグメントが人体内で抗原として作用することができ、前記抗原に対する新たな抗体の生産といった好ましくない免疫反応を引き起こす非-ヒト由来のFcフラグメントに比べて好ましい。
【0052】
本発明により修飾されたFcフラグメントは、天然型アミノ酸配列及びその配列突然変異体(変異体)を含む。「アミノ酸配列突然変異体」は、天然アミノ酸配列の少なくとも一つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非-保全的または保全的置換またはこれらの組合わせにより異なる配列を有することを意味する。タンパク質またはペプチドの活性を全体的に変更しないタンパク質またはペプチド内アミノ酸交換が当該分野において公知である(非特許文献13)。最も通常起きる交換は、双方向にAla/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu及びAsp/Glyである。また、必要に応じて、Fcフラグメントは、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などに修飾されてもよい。
【0053】
アミノ酸変異体体は、天然型タンパク質と同一の生物学的活性を有する機能的等価物であるか、または必要に応じて、天然型の特性を変更することにより製造してもよい。例えば、変異体は、熱、pHなどに対して構造的安定性が増大したり、その天然型アミノ酸配列の溶解度の変更及び修飾が増大しうる。例えば、IgG Fcフラグメントにおいて結合に重要であると知られている214〜238、297〜299、318〜322、または327〜331位のアミノ酸残基が修飾のために適した部位として用いられる。また、二硫化結合を形成できる部位が削除されたり、天然型FcのN末端において特定のアミノ酸残基が削除されたり、またはそのメチオニン残基が付加されたものをはじめとして他の様々な誘導体が可能である。さらに、エフェクター機能を削除するために、C1q結合部位及びADCC部位のような補体結合部位が削除され得る。このような免疫グロブリンFcフラグメントの配列誘導体を製造する技術は、特許文献8等に開示されている。
【0054】
本発明により修飾されたFcフラグメントは、ヒト及び他の動物から分離された天然型から得られるか、または組換え技術により形質転換された動物細胞または微生物から得られる。
【0055】
本発明により修飾されたFcフラグメントは、天然型糖鎖、天然型に比べて増加した糖鎖、または天然型に比べて減少した糖鎖を有する形態であるか、または糖鎖が削除された形態であってもよい。グリコシル化されたFcフラグメントは、非グリコシル化された形態に比べてさらに強力な補体依存的毒性(CDC, complement-dependent cytotoxicity)により免疫反応を誘発する危険性が高い。従って、本発明の目的と関連し、非グリコシル化されたり脱グリコシル化されたFcフラグメントが好ましい。
【0056】
本発明において使用される用語「脱グリコシル化されたFcフラグメント」は、糖モイエティーが人工的に削除されたFcフラグメントを指し、「非グリコシル化Fcフラグメント」は、原核生物、好ましくは、大腸菌によりグリコシル化されない形態で生産されたFcフラグメントを意味する。Fcフラグメントの糖鎖の増加、減少、または削除は、化学的方法、酵素的方法及び微生物を用いた遺伝的方法といった、当該分野における通常の方法により達成される。
【0057】
組換えFcフラグメントは、その天然型とは異なる3次元構造により酵素敏感性が増大する。また、非グリコシル化されたIgGは、天然型IgGに比べてタンパク分解酵素(ペプシン、キモトリプシン)に非常に敏感である(非特許文献14)。組換えFcフラグメントは、パパイン処理により生産された天然型FcのようにFcRnに対して同様の結合親和力を有するが、天然型Fcフラグメントは、組換えFcフラグメントに比べて血清半減期がさらに2〜3倍長い (非特許文献15)。本発明により修飾されたFcフラグメントでは、酵素切断部位が非ペプチド重合体により保護される。このような保護は、Fcフラグメントがヒドロラーゼ(hydrolases)に非常に敏感となり、生体内半減期が短くなることを防止する。
【0058】
本発明で用いられるGLP-2は、様々な部位で非ペプチド重合体に連結され得る。GLP-2がペプチドの生理学的活性に重要なN末端以外の部位に連結される際、反応性チオール基が天然型GLP-2のアミノ酸配列で修飾されるアミノ酸残基内に導入することができ、その後にGLP-2のチオール基と非ペプチド重合体のマレイミド基またはアルデヒド基との間に共有結合が形成され得る。
【0059】
非ペプチド重合体のアルデヒド基が用いられる場合、これは、N末端またはリシン残基のアミン基と反応する。この時、GLP-2の修飾された形態が選択的に反応収率を向上させるために用いられてもよい。例えば、GLP-2のN末端保護、リシン残基の他のアミノ酸での置換、及びそのC末端内にアミン基を導入することにより非ペプチド重合体と反応できる一個のアミン基のみを所望の部位に維持することができ、それにより、ペグ化及び結合反応の収率を向上させることができる。N末端を保護する方法には、これに限定されるものではないが、ジメチル化(dimethylation)、メチル化(methylation)、脱アミノ化(deamination)、アセチル化(acetylation)などが含まれる。
【0060】
本発明の好ましい実施態様では、GLP-2のC末端アミノ酸残基において選択的ペグ化を誘導するために、GLP-2誘導体のC末端にシステイン残基を導入し、その後にマレイミド基を有するPEGを結合させ、GLP-2のC末端システイン残基に連結させる。特に、最初のヒスチジンのα炭素及びそれに連結されたN末端アミン基が削除されたイミダゾ-アセチル-GLP-2(CA-GLP-2)のC末端に免疫グロブリンFcフラグメントが部位-特異的に連結されたGLP-2結合体が免疫グロブリンFcフラグメントが本来のリシン残基に連結された持続型GLP-2誘導体と比較し、GLP-2受容体に対して結合親和力が向上したことが確認された(図5を参照)。
【0061】
他の実施態様として、本発明は、
1) 両末端に反応基を有する非ペプチド重合体をGLP-2またはその誘導体のアミン基もしくはチオール基に共有的に連結する工程であって、反応基がアルデヒド、マレイミド及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択され、チオール基がGLP-2またはその誘導体のC末端に導入される工程と、
2) 工程1)の反応混合物から非ペプチド重合体及びGLP-2またはその誘導体を含む複合体(complex)を分離する工程であって、複合体は、非ペプチド重合体がGLP-2またはその誘導体のN末端アミン基以外の他のアミノ酸残基に共有的に連結される工程、及び
3) 工程2)から分離された複合体の非ペプチド重合体の他方の末端に免疫グロブリンFcフラグメントを共有的に連結して免疫グロブリンFc領域、非ペプチド重合体及びGLP-2またはその誘導体を含むGLP-2結合体を生産する工程であって、前記結合体は、非ペプチド重合体の一方の末端が免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結され、その他方の末端がGLP-2またはその誘導体に連結される工程とを含む本発明によるGLP-2結合体を製造する方法を提供する。
【0062】
本発明において使用される用語「複合体」は、非ペプチド重合体とGLP-2誘導体が互いに共有的に連結された中間体を意味する。次いで、GLP-2誘導体が連結されていない非ペプチド重合体の他方の末端に免疫グロブリンFcフラグメントが連結される。
【0063】
工程1)は、GLP-2またはその誘導体を非ペプチド重合体の一方の末端に共有的に連結する工程である。好ましくは、GLP-2またはその誘導体は、配列番号:1のアミノ酸配列を有する天然型GLP-2であるか、もしくは、GLP-2またはその誘導体のC末端に導入されたチオール基を有するGLP-2のN末端誘導体であってもよい。好ましくは、GLP-2誘導体はCA-GLP-2、DA-GLP2、OH-GLP2、DM-GLP-2、またはCX-CLP-2であってもよい。より好ましくは、GLP-2誘導体は、そのC末端にシステイン残基が導入されたCA-GLP-2であってもよい。
【0064】
工程1)において、非ペプチド重合体の両末端にある反応基は互いに同じかまたは異なってもよい。好ましくは、非ペプチド重合体の一方の末端は、マレイミド基を有し、他方の末端はアルデヒド基を有してもよい。
【0065】
さらに、工程1)において、非ペプチド重合体は、GLP-2またはその誘導体のN末端以外の他のアミノ酸残基、好ましくは、GLP-2またはその誘導体のC末端に導入されたシステイン残基のチオール基に共有的に連結される。GLP-2またはその誘導体のチオール基に対する非ペプチド重合体の選択的部位-特異的連結のために、工程1)において、GLP-2またはその誘導体と非ペプチド重合体間の反応をpH 2〜pH 4、好ましくはpH 3で行うことができる。この時、この反応において非ペプチド重合体に対するGLP-2またはその誘導体のモル比は1:2〜1:10の範囲であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0066】
工程1)の反応は、必要に応じて非ペプチド重合体の両末端にある反応基の類型に応じて還元剤の存在下で行うことができる。この反応に適した還元剤には、ナトリウムシアノボロハイドライド(NaCNBH3)、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンホウ酸塩またはピリジンホウ酸塩が含まれてもよい。
【0067】
工程2)は、工程1)の反応混合物から非ペプチド重合体の一方の末端にGLP-2またはその誘導体が共有的に連結されたGLP-2-非ペプチド重合体の複合体を分離する工程である。標的タンパク質の純度、分子量及び電荷量といった物理的特性を考慮し、工程2)の分離は、タンパク質の精製及び分離に対して当該分野において公知となった通常の方法を適宜選択して行うことができる。例えば、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーをはじめとする通常の様々な方法が用いられ、必要に応じて、精製された標的タンパク質の収率を増加させるためにこれらを組み合わせて用いることができる。
【0068】
工程3)は、工程2)から分離された複合体(GLP-2-非ペプチド重合体)と免疫グロブリンFcフラグメントとの反応を行う工程であって、複合体内に含まれた非ペプチド重合体の他方の末端に免疫グロブリンFcフラグメントを共有的に連結する工程である。
【0069】
工程3)において、GLP-2-非ペプチド重合体の複合体と免疫グロブリンFcフラグメントの反応はpH 5.0〜8.0、好ましくはpH 6.0で行うことができる。この時、この反応において免疫グロブリンFcフラグメントに対するGLP-2-非ペプチド重合体の複合体のモル比は1:2〜1:10、好ましくは1:4〜1:8の範囲であってもよい。
【0070】
工程3)の反応は、必要に応じて非ペプチド重合体の両末端にある反応基の類型に応じて還元剤の存在下で行うことができる。この反応に適した還元剤にはナトリウムシアノボロハイドライド(NaCNBH3)、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンホウ酸塩またはピリジンホウ酸塩が含まれてもよい。
【0071】
好ましい実施態様として、本発明によるGLP-2結合体を製造する方法は、
1) 一方の末端にマレイミド反応基を、他方の末端にアルデヒド反応基を有する非ペプチド重合体をGLP-2またはその誘導体のチオール基に共有的に連結する工程であって、チオール基がGLP-2またはその誘導体のC末端に導入される工程と、
2)前記工程1)の反応混合物から非ペプチド重合体及びGLP-2またはその誘導体を含む複合体を分離する工程であって、複合体は非ペプチド重合体がGLP-2またはその誘導体のチオール基に共有的に連結される工程、及び
3) 工程2)から分離された複合体の非ペプチド重合体の他方の末端に免疫グロブリンFcフラグメントを共有的に連結して免疫グロブリンFcフラグメント、非ペプチド重合体及びGLP-2またはその誘導体を含むGLP-2結合体を生産する工程であって、GLP-2結合体は非ペプチド重合体の一方の末端が免疫グロブリンFcフラグメントに、その他方の末端がGLP-2またはその誘導体に共有的に連結される工程を含む。
【0072】
他の実施態様として、本発明は、前記GLP-2結合体を有効成分として含む医薬組成物を提供する。
【0073】
前記医薬組成物は、腸疾患、腸損傷及び胃疾患から選択される少なくとも一つの疾患の予防または治療に用いることができる。具体的には、本発明の医薬組成物はこれに限定されるわけではないが、SBSをはじめとしたGI疾患、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、大腸炎、膵臓炎、回腸炎、炎症性腸閉塞、癌化学療法及び/又は放射線療法により引き起こされる粘膜炎、完全静脈栄養または虚血により引き起こされる胃の萎縮、骨損傷、新生児壊死性腸炎を誘導する腸喪失をはじめとする小児の胃腸(GI)障害などを含む疾患の予防または治療に用いることができる。
【0074】
本発明において使用される用語「予防」または「予防する」とは、本発明の医薬組成物の投与により腸疾患、腸損傷及び胃疾患のような前述の疾患の発病または進行を抑制もしくは遅延させうる全ての行為を含むことを意味する。
【0075】
本発明において使用される用語「治療」または「治療する」は、本発明による医薬組成物の投与により腸疾患、腸損傷及び胃疾患のような前述の疾患の症状を改善したり有益に変更される全ての行為を含む。
【0076】
本発明の医薬組成物は、延長された生体内半減期及び改善された生体内効能及び安定性が向上した本発明による持続型GLP-2結合体を有効成分として含むため、薬物の投与用量を画期的に減らしながらも血糖水準の揺動のない改善された薬物順応度を示す。従って、本発明の医薬組成物は、腸疾患、腸損傷または胃疾患を予防し、治療するのに効果的に用いることができる。
【0077】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。経口投与のための薬学的に許容可能な担体には、結合体、潤滑剤、崩解剤、賦形剤、溶解剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、着色剤及び香料が含まれてもよい。注射投与のための薬学的に許容可能な担体には、緩衝剤、保存剤、鎮痛剤、溶解剤、等張化剤及び安定化剤が含まれてもよい。注射投与のための薬学的に許容可能な担体には、塩、賦形剤、潤滑剤及び保存剤が含まれてもよい。
【0078】
本発明の医薬組成物は、前記で言及した薬学的に許容可能な担体と組み合わせて様々な投薬形態で剤形化されてもよい。例えば、経口投与のために、医薬組成物は、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップまたは薄板(wafer)に剤形化されてもよい。注射投与のために、医薬組成物は、多重用量(multidose)容器のような、単一用量投薬形態または単位投薬形態のアンプルに剤形化されてもよい。医薬組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル及び持続型製剤に剤形化されてもよい。
【0079】
一方、本発明の医薬組成物に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、非晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油が挙げられる。また、本発明の医薬組成物は、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料及び防腐剤をさらに含むことができる。
【0080】
本発明の医薬組成物は、目的とする組織に到達できる限り、通常の経路中、任意の経路を通じて投与することができる。これらに限定されるわけではないが、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮内、経口、局所、鼻腔、肺内及び直腸内を含む様々な投与方式が考慮される。
【0081】
しかし、経口投与時に、ペプチドは分解されるため、経口投与用薬学組成物の有効成分は、胃における分解から保護するためにコーティングまたは剤形化されなければならない。好ましくは、本発明の医薬組成物は、注射可能形態で投与されてもよい。また、本発明の医薬組成物は、標的細胞内に有効成分を伝達できる特定装置を用いて投与されてもよい。
【0082】
本発明による医薬組成物の投与頻度及び用量は、治療される疾患の類型、投与経路、患者の年齢、性別、体重及疾病の重篤度だけでなく、有効成分として薬物の類型を含む種々の関連因子により決定されうる。しかし、投与用量は投与経路、疾患の重篤度、患者の性別、体重及び年齢に応じて増減が可能であるので、いずれの方法においても本発明の範囲を限定しない。優れた生体内持続性及び力価を示す本発明の医薬組成物は、投与頻度を顕著に減らすことができる。本発明の医薬組成物は、延長された生体内半減期とともに優れた生体内持続力及び安定性を有しているため、薬物の投与頻度及び用量を顕著に減らすことができる。
【0083】
さらに、他の実施態様によると、本発明は、これを必要とする被験体に治療学的有効量で持続型GLP-2結合体を投与することを含む、腸疾患、腸損傷、または胃疾患を予防または治療する方法を提供する。
【0084】
本発明において使用される用語「投与」または「投与する」とは、適切な方法で患者に有効成分を導入することを意味する。標的組織に有効成分の伝達が許容される限り、如何なる投与も可能である。投与経路の例としては、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮内、経口、局所、鼻腔内、肺内及び直腸内投与が含まれるが、これに限定されない。しかし、経口投与時にペプチドは分解されるため、経口投与用の薬学組成物の有効成分は、胃での分解から保護するためにコーティングまたは剤形化されなければならない。好ましくは、有効成分は注射剤に剤形化されてもよい。また、持続型結合体は、標的細胞内に有効成分の伝達を補助する任意の装置を用いて投与されてもよい。
【0085】
治療される被験体の例としては、ヒト、サル、牛、馬、ヤギ、豚、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、ネコ、犬、マウス、ラット、ウサギ及びギニアピッグが含まれるが、これに限定されない。好ましい被験体は哺乳動物、特にヒトである。
【0086】
有効成分と関連して用いられる用語「治療学的有効量」とは医科的治療に適用され得るように合理的有益/有害の比率で疾患、即ち、腸疾患、腸損傷または胃疾患を予防または治療するのに十分な量を意味する。
【0087】
本発明の持続型GLP-2結合体は、延長された生体内半減期及び改善された生体内持続力及び安定性を示す。したがって、本発明の持続型GLP-2結合体は、顕著に少ない用量で投与され、血糖レベルが揺動することなく改善された薬物順応度を示すことができる。従って、本発明の持続型GLP-2結合体は、腸疾患、腸損傷または胃腸疾患を予防または治療するのに効果的に用いることができる。
【実施例】
【0088】
本発明を下記実施例により詳しく説明する。しかし、これら実施例は、単に本発明を具体的に開示するために用いられるものと理解されるべきであり、これらが本発明を任意の形態に限定するものと理解すべきではない。
【0089】
実施例1:イミダゾアセチル-GLP-2のペグ化
イミダゾアセチル-GLP-2(CA-GLP-2, A2G, 34C, American peptide,米国)の34番目のシステイン残基をペグ化するために、CA-GLP-2を10K MAL-PEG-ALD(各末端にマレイミドとアルデヒド基を有するヘテロ二作用性(heterobifunctional)PEG, NOF,日本)と反応させた。この時、CA-GLP-2対PEGのモル比は1:3であり、3.5 mg/mlのペプチド濃度で室温にて3時間反応を行った。また、還元剤として20 mMナトリウムシアノボロヒドリド(sodium cyanoborohydride, SCB)の存在下で50 mM濃度のTris-HCl緩衝液内で反応を行った。反応が終結した後、結果生成物、モノペグ化された(monopegylated)CA-GLP-2-PEG複合体を下記条件でSOURCE Sカラム(LRC25, Pall Corporation)を用いたクロマトグラフィーで精製した。
【0090】
カラム(Column):SOURCE S(LRC25, Pall Corporation)
流速:4.0 ml/分
勾配:溶離液B 0%→40%240分間(A:20 mMクエン酸、pH 2.0+45%エタノール、B:A+1 M KCl)
【0091】
実施例2:イミダゾアセチル-GLP-2(A2G, 34C)-PEG-免疫グロブリンFc結合体の製造
前記で精製されたモノペグ化されたCA GLP-2(A2G,34C)を免疫グロブリンFcフラグメント(特許文献10)と1:6のモル比で混合し、20 mg/mlのペプチド濃度において4℃で16時間これらを反応させた。この時、還元剤として20 mM SCBの存在下で100 mMポタシウムホスフェート(Potassium phosphate)緩衝液(pH 6.0)内で反応を行った。反応が終結した後、反応混合物を下記条件下でSource Pheカラム(XK 16, GE Healthcare)、Source 15Qカラム(LRC25, Pall Corporation)及びSource ISOカラム(HR16, GE Healthcare)を用いた3段階クロマトグラフィーに適用した。
【0092】
カラム:SOURCE Phe(XK16, GE Healthcare)
流速:2.0 ml/分
勾配:溶離液B 100→0%(A:20mM Tris-HCl, pH 8.0, B:A+2.6 M NaCl)
【0093】
カラム:SOURCE 15Q(LRC25, Pall Corporation)
流速:5.0 ml/分
勾配:溶離液B 0→30%120分間(A:20 mM Tris-HCl, pH 8.0, B:A+1 M NaCl)
【0094】
カラム:SOURCE ISO(HR16, GE Healthcare)
流速:2.0 ml/分
勾配:溶離液B 100→0%100分間(A:20 mM Tris-HCl, pH 8.0, B:A+1.1 Mアンモニウムサルフェート)
【0095】
SOURCE Pheカラム、SOURCE 15Qカラム及びSOURCE ISOカラムの精製プロファイルをそれぞれ図1、2及び3に示した。逆相HPLC分析結果、CA GLP-2(A2G, 34C)-10K PEG-Fc結合体が94.2%の純度(図4)及び12.5%の収率で精製された。
【0096】
実施例3:CA GLP-2(A2G, 34C)-10K PEG-Fc結合体のGLP-2受容体に関する試験管内結合親和力の測定
実施例2で製造されたCA GLP-2(A2G, 34C)-10K PEG-Fc結合体(以下、「GLP-2結合体」)の効能を測定するために、下記のように試験管内細胞活性を測定する方法を用いた。この方法では、ヒトGLP-2受容体をコードする遺伝子を発現するように形質転換された中国ハムスターの卵巣(chinese hamster ovary, CHO)細胞株、CHO/hGLP-2Rを用いた。
【0097】
CHO/hGLP-2R細胞を週2〜3回継代-培養し、1×105/ウェルの濃度で96-ウェルプレートに接種した後、24時間培養した。そのように培養されたCHO/hGLP-2R細胞を1000〜0.002 nM濃度の天然型GLP-2;10000〜0.02 nM濃度の天然型GLP-2持続型製剤(GLP-2-PEG-Fc結合体、LAPS-GLP-2);10000〜0.02 nM濃度のリシン-特異的結合を介したGLP-2誘導体の持続型製剤(LAPS-DA-GLP-2, LAPS-CA-GLP-2, LAPS-OH-GLP-2);及び10000〜0.02 nM濃度のC末端システイン特異的結合を介したGLP-2誘導体持続型製剤(LAPS-CA-GLP-2(A2G, 34C))でそれぞれ処理した。各化合物で処理されたCHO/hGLP-2R細胞において信号伝達に用いられた第2メッセンジャー、cAMPの細胞内レベルをcAMP assay kit(MD, USA)を用いて測定し、VICTOR LIGHTルミノメーター(luminometer, Perkin Elmer, USA)によりルシフェラーゼ活性を分析した。各化合物のEC50値も測定した。
【0098】
図5に示されように、リシン-特異的結合を介したGLP-2誘導体の持続型製剤(LAPS-DA-GLP-2, LAPS-CA-GLP-2, LAPS-OH-GLP-2)は、天然型GLP-2の持続型製剤(LAPS-GLP-2)に比べてさらに低い試験管内活性を示した(2.6-7.5%vs 8.6%)。これに対し、C末端システイン-特異的結合を介したGLP-2誘導体の持続型製剤(LAPS-CA-GLP-2(A2G, 34C))は、天然型GLP-2の持続型製剤(LAPS-GLP-2)に比べてさらに高い試験管内活性を示した(天然型GLP-2比9.9%)。
【0099】
このような結果は、非ペプチド重合体の一方の末端がGLP-2誘導体のC末端に共有的に連結され、その他方の末端が免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結されたGLP-2結合体が、従来のGLP-2結合体と比較してGLP-2受容体に対して増強された結合親和力を示し、生体内半減期が延長され、生体内持続性及び安定性が向上したことを示すものである。
【0100】
本明細書に用いられる特定の用語は、単に特定実施態様を記述するために提供され、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で用いられた単数の形態は、これらが明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態を含む。本明細書で用いられた「含む」または「有する」という意味は、特定の特性、領域、整数、工程、操作、要素及び/又は成分を具体化するために意図されるが、異なる特性、領域、工程、操作、要素、成分及び/又は、群を排除するためのものとして意図されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のGLP-2結合体は、GLP-2受容体に対して顕著に高い結合親和力を有しており、持続性生体内治療効能及び延長された生体内半減期を示す。従って、本発明のGLP-2結合体は、顕著に少ない投与頻度で腸疾患、腸損傷または胃疾患の治療または予防に効果的に用いることができる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕非ペプチド重合体を介して共有的に連結された、天然型グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)またはその誘導体と免疫グロブリンFcフラグメントとを含むGLP-2結合体であって、前記天然型GLP-2またはその誘導体がそのC末端に導入されたチオール基を有し、前記非ペプチド重合体の一方の末端が前記GLP-2のN末端アミノ基以外のアミノ酸残基に連結されていることを特徴とする、GLP-2結合体。
〔2〕前記GLP-2またはその誘導体のチオール基が、それらのC末端にシステインを結合させることによって導入されている、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔3〕前記GLP-2の誘導体が、天然型GLP-2のN末端アミン基の置換、除去または修飾により製造されており、GLP-2受容体に結合する機能を有する、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔4〕前記GLP-2の誘導体が、天然型GLP-2のN末端で最初のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素及びそれに結合したN末端アミン基を削除して製造されたGLP-2誘導体、天然型GLP-2のN末端アミン基を削除して製造されたGLP-2誘導体、天然型GLP-2のN末端アミン基をヒドロキシル基に置換して製造されたGLP-2誘導体、天然型GLP-2のN末端アミン基をジメチル基で修飾して製造されたGLP-2誘導体、及び天然型GLP-2のN末端アミン基をカルボキシル基に置換して製造されたGLP-2誘導体からなる群から選択される、前記〔3〕に記載のGLP-2結合体。
〔5〕前記非ペプチド重合体の一方の末端が、前記免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結しており、その他方の末端が前記GLP-2またはその誘導体のアミン基またはチオール基に共有的に連結されている、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔6〕前記非ペプチド重合体が、前記GLP-2またはその誘導体のチオール基に共有的に連結されている、前記〔5〕に記載のGLP-2結合体。
〔7〕前記非ペプチド重合体が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸及びそれらの組合わせからなる群から選択される、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔8〕前記非ペプチド重合体が、その両末端にアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基、及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される反応基を有する、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔9〕前記スクシンイミド誘導体が、スクシンイミジルプロピオネート、スクシンイミジルカルボキシメチル、ヒドロキシスクシンイミジル及びスクシンイミジルカーボネートからなる群から選択される、前記〔8〕に記載のGLP-2結合体。
〔10〕前記非ペプチド重合体が、一方の末端にマレイミド基を有し、他方の末端にアルデヒド基を有する、前記〔8〕に記載のGLP-2結合体。
〔11〕前記免疫グロブリンFcフラグメントが、非グリコシル化される、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔12〕前記免疫グロブリンFcフラグメントが、CH1、CH2、CH3及びCH4ドメインからなる群から選択される1〜4個のドメインからなる、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔13〕前記免疫グロブリンFcフラグメントが、ヒンジ領域をさらに含む、前記〔12〕に記載のGLP-2結合体。
〔14〕前記免疫グロブリンFcフラグメントが、IgG、IgA、IgD、IgEまたはIgMに由来する、前記〔1〕に記載のGLP-2結合体。
〔15〕前記免疫グロブリンFcフラグメントの各ドメインが、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される異なる免疫グロブリンに由来したドメインのハイブリッドである、前記〔14〕に記載のGLP-2結合体。
〔16〕前記免疫グロブリンFcフラグメントが、同一の免疫グロブリンに由来したドメインを含む糖鎖化された免疫グロブリンからなる二量体または多量体である、前記〔14〕に記載のGLP-2結合体。
〔17〕前記免疫グロブリンFcフラグメントが、IgG4 Fcフラグメントである、前記〔14〕に記載のGLP-2結合体。
〔18〕前記免疫グロブリンFcフラグメントが、ヒト非グリコシル化IgG4 Fcフラグメントである、前記〔17〕に記載のGLP-2結合体。
〔19〕前記〔1〕〜〔18〕のいずれか一項に記載のGLP-2結合体を製造する方法であって、
1) 両末端にアルデヒド、マレイミド及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される反応基を有する非ペプチド重合体を、GLP-2またはその誘導体のアミン基またはチオール基に共有的に連結する工程であって、前記GLP-2またはその誘導体がそのC末端に導入されたチオール基を有する工程と、
2) 工程1)の反応混合物から、前記非ペプチド重合体が前記GLP-2またはその誘導体のアミン基またはチオール基に共有的に連結されている複合体を分離する工程と、
3) 前記複合体内の非ペプチド重合体の他方の末端を、免疫グロブリンFcフラグメントに共有的に連結する工程と、
4) 工程3)の反応混合物から、前記非ペプチド重合体の両末端がそれぞれ前記免疫グロブリンFcフラグメント及びGLP-2またはその誘導体に共有的に連結されているGLP-2結合体を分離する工程とを含むことを特徴とする、方法。
〔20〕工程1)における非ペプチド重合体が、前記GLP-2またはその誘導体のC末端チオール基に共有的に連結される、前記〔19〕に記載の方法。
〔21〕工程1)における前記GLP-2またはその誘導体と前記非ペプチド重合体とを、1:2〜1:10のモル比でpH 2〜4の条件で反応させる、前記〔19〕に記載の方法。
〔22〕前記〔1〕〜〔18〕のいずれか一項に記載のGLP-2結合体を有効成分として含む、腸疾患、腸損傷及び胃腸疾患から選択される1種以上の疾患を予防または治療するための医薬組成物。
〔23〕腸疾患、腸損傷及び胃疾患から選択される1種以上の疾患の予防または治療を必要とする患者に、前記〔1〕〜〔18〕のいずれか一項に記載のGLP-2結合体を投与する工程を含む、腸疾患、腸損傷及び胃疾患から選択される1種以上の疾患を予防または治療する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]