(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131539
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】機械部品の劣化評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/00 20060101AFI20170515BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20170515BHJP
G01N 33/20 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
G01M13/00
G01N17/00
G01N33/20 N
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-157413(P2012-157413)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-20821(P2014-20821A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】渡部 康明
(72)【発明者】
【氏名】和泉 栄
(72)【発明者】
【氏名】村上 陽一郎
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−101848(JP,A)
【文献】
特開2011−013071(JP,A)
【文献】
特開平11−108921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00−13/04
G01M 99/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱鋼からなる機械部品の劣化を評価する方法であって、
前記機械部品の鋼組織に析出した析出物のレプリカを抽出レプリカ法により作成し、
次いで前記レプリカを電子顕微鏡により撮像して前記析出物の反射電子像を得た後、
得られた反射電子像の明度から前記析出物をラーベス相とラーベス相以外の析出物とに分類し、
次いで前記ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を求め、
該平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度をラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)線図から求め、
前記クリープ損傷度をPr、前記ラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)線図においてクリープ損傷曲線C1がクリープ破断曲線C2と交わる点のラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)をPc、耐熱鋼の使用温度をT(℃)、使用時間をt(h)として、クリープ損傷寿命Tfを
Tf=(10((Pc-Pr)・100/T)-1)t
で求めて前記機械部品の劣化を評価することを特徴とする機械部品の劣化
評価方法。
【請求項2】
前記電子顕微鏡の観察視野が耐熱鋼の結晶粒界を含む視野となるように前記レプリカを電子顕微鏡により撮像して前記析出物の反射電子像を得ることを特徴とする請求項1に記載の機械部品の劣化評価方法。
【請求項3】
前記ラーベス相以外の析出物のうちM23C6の1個当りの平均面積を求め、該平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度を求めて前記機械部品の劣化を評価することを特徴とする請求項1または2に記載の機械部品の劣化評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン部品などの機械部品の劣化を評価する方法に関し、特に、高Cr鋼などの耐熱鋼からなる機械部品の劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、火力発電所で使用される蒸気タービンは、高温高圧の環境下で使用される。このため、ロータ、ケーシング、配管などのタービン部品は耐熱鋼からなるものが使用され、特に主蒸気温度が600℃級のUSC機(超々臨界圧発電機)では、9質量%〜12質量%のCrを含有する高Cr鋼がタービン部品の材料として使用されている。
高Cr鋼は鋼組織がマルテンサイト組織であり、モリブデン(Mo)やタングステン(W)などによる固溶強化、金属間化合物であるラーベス相やMX炭窒化物の分散強化・析出強化、ホウ素(B)による粒界強化といった様々な組織強化法によって優れた高温強度を有している。
【0003】
しかし、高Cr鋼からなるタービン部品を高温、高応力の環境下で長時間使用すると、MoやWなどの固溶強化元素がラーベス相あるいは炭窒化物などの析出物となってタービン部品の鋼組織に析出する。そして、析出した析出物が結晶粒界やマルテンサイトラス境界に凝集・粗大化すると材料の強度低下を招き、析出物の凝集・粗大箇所がクリープ損傷の主要因であるボイドの発生箇所や亀裂の起点となりやすい。
【0004】
このような材料劣化がタービン部品に生じるとタービン部品の破損に至るため、クリープ、脆性、疲労などの劣化度や損傷度を非破壊で高精度に評価することでタービン部品の余寿命を算出し、破損に至る前にタービン部品の保守管理を行う必要がある。
高Cr鋼などの耐熱鋼からなるタービン部品の劣化を評価する方法としては、耐熱鋼の表面に析出した析出物の面積率または耐熱鋼の表面に発生したボイドの個数密度を算出し、その算出値を基にタービン部品の劣化を評価する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−92478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、析出物の面積率は、
図7に示すように、析出物の検出箇所によって異なる値となり、析出物の面積率を劣化の指標値とした場合には、指標値にバラツキが生じる。なお、
図7(a)(析出物面積率81%)および
図7(b)(析出物面積率10.6%)は、同じサンプルにおける異なる検出箇所について測定した析出物の反射電子像を同じ拡大率で示す図である。また、耐熱鋼表面に析出する析出物のうちラーベス相は、M23C6やMX炭窒化物などの析出物と比較して、応力依存性が低い。このため、ラーベス相を含む析出物の面積率を劣化指標値にすると、析出物の面積率を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷評価曲線が
図8に示すようなクリープ損傷評価曲線となり、応力が負荷される場合の劣化と応力が負荷されない場合の劣化とを区別して評価することが困難となる。従って、ラーベス相を含む析出物の面積率からタービン部品の劣化を評価する方法では、高応力が負荷されるタービン部品の劣化を正確に評価できないという問題がある。
【0007】
また、566℃級タービンの構成部材であるCrMoV鋼では、主としてM23C6、MC、MX窒化物などの析出物が生成され、損傷率50%程度からボイドの発生が認められるが、600℃級タービンの構成部材である高Cr鋼では、材料強化因子が複雑であり、寿命末期でないとボイドが発生しない。このため、ボイドの個数密度からタービン部品の劣化を評価しても、高応力が負荷されるタービン部品の劣化を正確に評価できないという問題がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたもので、使用条件が高温・高応力下であっても耐熱鋼からなる機械部品の劣化を正確に評価することのできる機械部品の劣化評価方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、耐熱鋼からなる機械部品の劣化を評価する方法であって、前記機械部品の鋼組織に析出した析出物のレプリカを抽出レプリカ法により作成し、次いで前記レプリカを電子顕微鏡により撮像して前記析出物の反射電子像を得た後、得られた反射電子像の明度から前記析出物をラーベス相とラーベス相以外の析出物とに分類し、次いで前記ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を求め、該平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度をラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)線図から求め
、前記クリープ損傷度をPr、前記ラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)線図においてクリープ損傷曲線C1がクリープ破断曲線C2と交わる点のラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)をPc、耐熱鋼の使用温度をT(℃)、使用時間をt(h)として、クリープ損傷寿命Tfを
Tf=(10((Pc-Pr)・100/T)-1)t
で求めて前記機械部品の劣化を評価することを特徴とする。
【0009】
本発明において、前記電子顕微鏡の観察視野が耐熱鋼の結晶粒界を含む視野となるように前記レプリカを電子顕微鏡により撮像して反射電子像を得ることが好ましい。
また
、前記ラーベス相以外の析出物のうちM23C6の1個当りの平均面積を求め、該平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度を求めて前記機械部品の劣化を評価することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、機械部品の劣化を評価する際に応力依存性の低いラーベス相を除外できると共に、応力が負荷される場合の劣化と応力が負荷されない場合の劣化とを区別して評価することが可能となる。従って、使用条件が高温・高応力下であっても耐熱鋼からなる機械部品の劣化を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る機械部品の劣化評価方法を説明するための工程図である。
【
図3】析出物のレプリカを走査型電子顕微鏡により撮像して得られる析出物の反射電子像を示す図である。
【
図4】ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を算出する方法を説明するための図である。
【
図5】耐熱鋼のクリープ特性を表すラーソン・ミラー・パラメータ線図を示す図である。
【
図6】ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷曲線を示す図である。
【
図7】ラーベス相を含む析出物の面積率が8.1%である場合と10.6%である場合の析出物の反射電子像を示す図である。
【
図8】ラーベス相を含む析出物の面積率を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る機械部品の劣化評価方法を説明するための工程図を
図1に示す。本発明の一実施形態に係る機械部品の劣化評価方法は、
図1に示すように、レプリカ作成工程S1、反射電子像取得工程S2、析出物分類工程S3、平均面積算出工程S4、クリープ損傷度算出工程S5、余寿命算出工程S6および余寿命率算出工程S7を経て機械部品の劣化を評価する方法である。
【0013】
(レプリカ作成工程)
レプリカ作成工程S1は耐熱鋼からなる機械部品の鋼組織に析出した析出物のレプリカを
図2に示す抽出レプリカ法により作成する工程であって、具体的には、機械部品1の表面を例えば9μm以下のダイヤモンド砥粒でバフ研磨し、機械部品1の表面を鏡面に仕上げた後、機械部品1の表面を析出物2が明瞭となるまでエッチングする。次に、機械部品1の表面をアルコールあるいは洗浄液により洗浄した後、機械部品1の表面を乾燥させ、乾燥した機械部品1の表面上に膜厚が3μm以下のカーボンレプリカ膜3を蒸着する。
その後、カーボンレプリカ膜3の膜端部に2mm角程度の切り込みを入れた後、再び機械部品1の表面をエッチングする。このとき腐食液はカーボンレプリカ膜3の切り込み箇所から浸入し、切り込み箇所から浸入した腐食液によって機械部品1の鋼組織が溶け出すことにより、析出物2のみがカーボンレプリカ膜3に付着する。
【0014】
次に、カーボンレプリカ膜3を機械部品1の表面から剥がし、カーボンレプリカ膜3を洗浄液により洗浄する。その後、Cuグリッドによりレプリカ膜を洗浄槽からすくい取り、自然乾燥させることで、析出物2のレプリカを得ることができる。
なお、カーボンレプリカ膜3を有機溶媒により洗浄する場合は、有機溶媒の濃度が高いとカーボンレプリカ膜3に曲りが生ずるため、有機溶媒の濃度を減少させた洗浄液を幾つか用意しておくことが好ましい。
【0015】
(反射電子像取得工程)
反射電子像取得工程S2はレプリカ作成工程S1で得られた析出物2のレプリカを走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡により撮像して析出物2の反射電子像を得る工程であって、析出物2の反射電子像を得るときには、電子顕微鏡の撮像視野が耐熱鋼の結晶粒界を含む視野となるように析出物2のレプリカを電子顕微鏡により撮像して反射電子像を得ることが好ましい。
【0016】
(析出物分類工程)
析出物分類工程S3は反射電子像取得工程S2で得られた反射電子像の明度から析出物2をラーベス相とラーベス相以外の析出物とに分類する工程であって、析出物2のレプリカを走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で撮像すると、
図3に示すように、ラーベス相はラーベス以外の析出物よりも明度の高い反射電子像となるので、反射電子像取得工程S2で得られた反射電子像の明度から析出物2をラーベス相とラーベス相以外の析出物とに分類することができる。なお、
図3(b)は
図3(a)の中央箇所を拡大表示した図である。
【0017】
(平均面積算出工程)
平均面積算出工程S4はラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を求める工程であって、ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を求める方法としては、例えば
図4に示す方法を用いることができる。
具体的には、
図4に示すように、反射電子像取得工程S2で得られた反射電子像を2値化処理し、ラーベス相を含む全ての析出物の面積と個数を求める。次に、ラーベス相のみを2値化し、ラーベス相の面積と個数を求め、全析出物の面積からラーベス相の面積を差し引いた値(ラーベス相以外の析出物の全面積)を全析出物の個数からラーベス相の個数を差し引いた値により除することで、ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を求めることができる。
なお、ラーベス相以外の析出物としてはM23C6、MX炭窒化物、Z相化などが挙げられるが、これらの中でM23C6は応力負荷による凝集・粗大化が促進されるため、M23C6の1個当りの平均面積を求めることが望ましい。
【0018】
(クリープ損傷度算出工程)
クリープ損傷度算出工程S5はラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度Prを求める工程であって、例えば
図5に示すラーソン・ミラー・パラメータ(LMP)線図からクリープ損傷度Prを求めることができる。
(余寿命算出工程)
余寿命算出工程S6は耐熱鋼のクリープ損傷余寿命Tfを求める工程であって、
図5に示すクリープ損傷曲線C1がクリープ破断曲線C2と交わる点のLMPをPc、耐熱鋼の使用温度をT(℃)、使用時間をt(h)とすると、下記に示す式(1)からクリープ損傷余寿命Tfを求めることができる。
【0020】
(余寿命率算出工程)
損傷率算出工程S7は耐熱鋼のクリープ損傷余寿命率φcを求める工程であって、下記に示す式(2)からクリープ損傷余寿命率φcを求めることができる。
φc=t/(t+Tf)・100 ‥‥(2)
ただし、Tf:クリープ損傷余寿命、t:耐熱鋼の使用時間(h)である。
上記のように、耐熱鋼からなる機械部品の鋼組織に析出した析出物のレプリカを抽出レプリカ法により作成し、作成されたレプリカを走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡により撮像して析出物の反射電子像を得た後、得られた反射電子像の明度から析出物をラーベス相とラーベス相以外の析出物とに分類することで、機械部品の劣化を評価する際に応力依存性の低いラーベス相を除外することができる。
【0021】
また、ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を求め、該平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度を求めることで、耐熱鋼のクリープ損傷評価曲線が
図6に示すようなクリープ損傷評価曲線となり、応力が負荷される場合の劣化と応力が負荷されない場合の劣化とを区別して評価することが可能となる。
従って、機械部品の鋼組織に析出した析出物のレプリカを抽出レプリカ法により作成し、次いで上記レプリカを走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡により撮像して反射電子像を得た後、上記反射電子像の明度から析出物をラーベス相とラーベス相以外の析出物とに分類し、次いで上記ラーベス相以外の析出物1個当りの平均面積を求め、該平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度を求めて機械部品の劣化を評価することで、使用条件が高温・高応力下であっても耐熱鋼からなる機械部品の劣化を正確に評価することができる。
【0022】
また、上述したように、電子顕微鏡の撮像視野が耐熱鋼の結晶粒界を含む視野となるように析出物のレプリカを電子顕微鏡により撮像して反射電子像を得ることで、析出物の凝集・粗大化が顕著となる視野で析出物のレプリカを電子顕微鏡により撮像することができ、これにより、使用条件が高温・高応力下であっても耐熱鋼からなる機械部品の劣化をより正確に評価することができる。
また、クリープ損傷度Prから耐熱鋼のクリープ損傷余寿命Tfを求め、クリープ損傷余寿命Tfから耐熱鋼のクリープ損傷余寿命率φcを求めることで、耐熱鋼からなる機械部品の余寿命を正確に診断することができる。
【0023】
また、ラーベス相以外の析出物のうちM23C6の1個当りの平均面積を求め、該平均面積を指標値とする耐熱鋼のクリープ損傷度を求めて機械部品の劣化を評価することで、M23C6は応力依存性が高く、析出物の凝集・粗大化が応力によって促進されるため、使用条件が高温・高応力下であっても耐熱鋼からなる機械部品の劣化をより正確に評価することができる。
【符号の説明】
【0024】
1…機械部品
2…析出物
3…カーボンレプリカ膜
S1…レプリカ作成工程
S2…反射電子像取得工程
S3…析出物分類工程
S4…平均面積算出工程
S5…クリープ損傷度算出工程
S6…余寿命算出工程
S7…余寿命率算出工程