(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記空気流入路が、前記従動側回転体に設けた環状溝を形成する壁部であって、前記進角室及び前記遅角室の内部圧力が負圧になった際に前記シールリングが近接する側の壁部に設けたリング径方向に沿う溝部で形成してある請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【背景技術】
【0002】
上記弁開閉時期制御装置は、例えば、内燃機関の始動性を向上させるために内燃機関の停止時に駆動側回転体と従動側回転体との相対位相を所定位相に変更しておき、内燃機関の始動後に、相対位相を進角側(進角室の容積が増大する側)或いは遅角側(遅角室の容積が増大する側)に変更する制御を実行することができる。
内燃機関の始動時に、例えば、駆動側回転体と従動側回転体との相対位相が始動に適した中間ロック位相に固定されていないときは、駆動側回転体に対して従動側回転体をばた付き易くして迅速に中間ロック位相に固定する必要がある。
また、内燃機関の始動後における相対位相の変更は、進角室あるいは遅角室のいずれか一方に作動流体を供給してその容積を増大させながら、同時に、他方の進角室あるいは遅角室の容積を減少させることにより行う。
このため、容積を減少させるべき他方の進角室あるいは遅角室に作動流体が残留していると、その残留している作動流体を排出させながら、進角室あるいは遅角室のいずれか一方に作動流体を供給する必要がある。
駆動側回転体と従動側回転体との界面には、通常、進角室あるいは遅角室に残留している作動流体の外部への漏れ出しを許容し得る程度の隙間が存在しているので、この隙間を通して残留している作動流体を排出させながら、進角室あるいは遅角室のいずれか一方に作動流体を供給することは可能である。
しかしながら、そのような隙間を通した作動流体の排出速度が遅い場合は、進角室あるいは遅角室の容積の迅速な増大が妨げられ、進角室あるいは遅角室のいずれか一方への作動流体の供給速度が低下するので、相対位相を迅速に変更することができない。
【0003】
特許文献1には、内燃機関の停止中に進角室あるいは遅角室に残留している作動流体の排出を促進して、内燃機関の始動後において相対位相を迅速に変更できるように、前側壁部又は後側壁部に空気流入機構を設けた弁開閉時期制御装置が開示されている。
この空気流入機構は、駆動側回転体の外部空間と進角室あるいは遅角室とを連通する空気流入路を前側壁部又は後側壁部に形成してあり、この空気流入路を開閉する弁体と、弁体を開き側に付勢するバネとを備えている。
弁体は、内燃機関の停止中にはバネの付勢力で空気流入路を開く側に移動して、作動流体の排出に係る進角室あるいは遅角室への空気の流入を許容し、内燃機関の始動により駆動側回転体が回転すると、バネの付勢力に抗する遠心力で空気流入路を閉じる側に移動して、空気の流入を阻止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の弁開閉時期制御装置が備える空気流入機構は、駆動側回転体の外部空間と進角室あるいは遅角室とを連通する空気流入路を前側壁部又は後側壁部に形成し、この空気流入路を開閉する弁体と、弁体を開き側に付勢するバネとを備えている。
このため、空気流入機構の構造が複雑で製造コストの低減を図り難い問題がある。
また、前側壁部又は後側壁部に形成した空気流入路に弁体や付勢バネを組み付けてあるので、前側壁部又は後側壁部の厚さが厚くなり、装置の小型化を図り難い問題もある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、空気流入機構を備えた製造コストの低減も装置の小型化も図り易い弁開閉時期制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による弁開閉時期制御装置の特徴構成は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記駆動側回転体を構成する外周壁部及び回転軸芯に沿った両端に設けられた前側壁部、後側壁部によって内包され、前記駆動側回転体の内側表面との間に進角室及び遅角室となる空間を形成しつつ、前記駆動側回転体と同じ回転軸芯上で弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記進角室あるいは前記遅角室に作動流体を給排して、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対位相を制御する位相制御部とを備えると共に、前記進角室及び前記遅角室から作動流体を排出する際に、当該排出に係る進角室及び遅角室の少なくとも一方への空気の流入を許容するよう、前記前側壁部及び前記後側壁部の少なくとも何れか一方と前記従動側回転体との間に空気流入機構を設け
、
前記空気流入機構は、前記従動側回転体に設けた環状溝に取付けられると共に、前記環状溝に対してリング径方向から対向する駆動側回転体の内周面に対して前記回転軸芯の長手方向に沿って摺動可能なシールリングを備えており、前記シールリングの摺動に伴って開閉される空気流入路を、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間もしくは前記シールリングの少なくとも何れか一方に形成してある点にある。
【0007】
本構成の弁開閉時期制御装置は、前記進角室及び前記遅角室から作動流体を排出する際に、当該排出に係る進角室及び遅角室の少なくとも一方への空気の流入を許容するよう、前記前側壁部及び前記後側壁部の少なくとも何れか一方と前記従動側回転体との間に空気流入機構を設けてある。
すなわち、内燃機関の停止中に進角室及び遅角室から作動流体を排出する際に、これらの進角室及び遅角室の内部圧力が負圧になろうとする。このとき空気流入機構を介して進角室及び遅角室の少なくとも一方に空気が進入して、少なくとも一方の室の内部圧力が負圧になるのを阻止するため、作動流体が迅速に排出される。
【0008】
また、駆動側回転体と従動側回転体とは相対回転するものであり、両者の間には元々いくらかの隙間が存在する。このような隙間は進角室及び遅角室に近い位置にあるから、両室への空気の流入経路も短くて済み、空気の流入が容易である。このような隙間を利用する本構成は、従来の弁開閉時期制御装置の構成を大きく変更することなく、空気を効率的に取り入れることが可能である。
つまり、進角室及び遅角室から作動流体を排出する際の、両室の内部圧力が負圧になろうとする現象を利用して、作動流体の排出に係る進角室あるいは遅角室への空気の流入を積極的に許容する。
したがって、本構成の弁開閉時期制御装置であれば、空気流入機構の構造を簡略化できるので、製造コストの低減を図り易く、装置の小型化も図り易い。
【0010】
本構成のように、シールリングが駆動側回転体の内周面に対して回転軸芯の長手方向に沿って摺動可能であれば、弁開閉時期制御装置の運転中には進角室及び遅角室には圧力が加わっているので、シールリングは環状溝を形成する一方の壁部に押し付けられる。また、シールリングは環状溝に対してリング径方向から対向する駆動側回転体の内周面に当接しているので、弁開閉時期制御装置の運転中にはシールリングに遠心力が作用してシールリングは駆動側回転体の内周面に押し付けられる。よって、運転中には空気流入路の外部空間との連通が阻止され、作動流体の漏れが有効に抑えられる。
一方、内燃機関及び弁開閉時期制御装置の停止により、進角室及び遅角室の作動流体の流出が始まって両室の内部圧力が負圧になる場合には、シールリングは前記一方の壁部から離間するように移動して空気流入路が外部空間に連通するように開き操作される。
このように、比較的簡単な構成でありながら、シール効果及び空気の流入効果を確実に得ることができる。
【0011】
本発明の他の特徴構成は、前記空気流入路が、前記従動側回転体に設けた環状溝を形成する壁部であって、前記進角室及び前記遅角室の内部圧力が負圧になった際に前記シールリングが近接する側の壁部に設けたリング径方向に沿う溝部で形成してある点にある。
【0012】
本構成のように従動側回転体の側に空気流入路を形成するものであれば、例えば、従動側回転体を焼結で製造するような場合には、焼結時に同時に空気流入路を形成することができる。また、従動側回転体の切削加工などにより空気流入路を形成する場合にも、これらの加工部位は部材の表面側にあるため、そのような加工を施すことは容易である。
一方、シールリングに溝部や孔部等を形成して空気流入路とすることも可能であるが、この場合は、シール機能と空気の取り入れ機能とを比較的細かな部材に併せて加工しなければならず、加工の自由度が少ない。
よって、本構成のごとく従動側回転体の側に加工を施すことで空気流入機構を合理的に構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜
図8は、内燃機関Bの内部に装備される本発明による弁開閉時期制御装置Aを示す。
弁開閉時期制御装置Aは、
図1〜
図3に示すように、内燃機関としての自動車用エンジンBのクランクシャフトB1と同期回転する駆動側回転体としての焼結金属やアルミ合金等の金属製のハウジング1と、ハウジング1に内包され、ハウジング1と同じ回転軸芯上で弁開閉用のカムシャフトB2と一体回転する従動側回転体としての焼結金属製のインナロータ2とを備えている。
【0015】
ハウジング1は、外周壁部を構成するアウタロータ1dと、アウタロータ1dの回転軸芯Xに沿った両端に設けられた前側壁部を構成するフロントプレート1a及び後側壁部を構成するリアプレート1cとをねじ等で締結して一体化してある。
リアプレート1cはタイミングスプロケット1bを一体に備えている。
【0016】
インナロータ2は、カムシャフトB2の先端部にボルト2aで一体に固定され、ハウジング1に対して一定の角度範囲内で相対回転可能に組み付けられている。
カムシャフトB2は、エンジンBの吸気弁の開閉を制御するカム(不図示)の回転軸であり、エンジンBのシリンダヘッド(不図示)に回転自在に組み付けられている。
【0017】
インナロータ2は、回転軸芯Xに沿って左右に突出する第1軸部13及び第2軸部14を備え、
図4,
図5に示すように、フロントプレート1aは、第1軸部13に対して全周に亘って間隔を隔てて径方向から対向するフロント内周面16を備え、リアプレート1cは、第2軸部14に対して全周に亘って間隔を隔てて対向するリア内周面17を備えている。
【0018】
クランクシャフトB1が回転駆動すると、その回転駆動力が動力伝達部材B3を介してタイミングスプロケット1bに伝達され、ハウジング1が
図2,
図3において矢印Sで示す回転方向に回転する。
ハウジング1の回転に伴い、インナロータ2がカムシャフトB2と共に回転方向Sに従動回転し、カムシャフトB2に設けられたカムがエンジンBの吸気弁を開閉させる。
【0019】
インナロータ2は、ハウジング1を構成するアウタロータ1dとフロントプレート1a及びリアプレート1cとによって内包され、ハウジング1の内側表面との間に四つの流体圧室(空間)3を形成する。
流体圧室3は、アウタロータ1dの内周側に回転方向Sで互いに離間して径方向内側に突出するように形成した四つの突出部4により区画されている。
【0020】
夫々の流体圧室3に面するインナロータ2の外周部分にはベーン溝5aが形成され、これらのベーン溝5aにはベーン5が径方向に沿って摺動可能に装着されている。ベーン5は、ベーン溝5aの奥側に備えられたバネ(不図示)によって径方向外方に向けて付勢されている。
【0021】
流体圧室3は、ベーン5によって進角室3a及び遅角室3bとなる空間に仕切られている。進角室3aと遅角室3bはインナロータ2に形成してある進角流路6aと遅角流路6bに夫々接続されている。
進角流路6a及び遅角流路6bを介して、進角室3aと遅角室3bに対する作動流体
(作動油)の供給・排出を行う流体給排機構7を設けてある。
【0022】
インナロータ2とフロントプレート1aとに亘ってトーションスプリング(不図示)が装着されている。トーションスプリングの付勢力により、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相が、インナロータ2がハウジング1に対して矢印S1で示す進角方向
(進角室3aの容積が大きくなる方向)に移動するように付勢されている。
【0023】
弁開閉時期制御装置Aは、エンジンBの停止時に、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相を、最進角位相(進角室3aの容積が最大になる位相)と最遅角位相(遅角室3bの容積が最大になる位相)との間の中間位相である中間ロック位相に固定するロック機構8を有している。
中間ロック位相は、エンジンBを始動するのに最適な所定の位相、若しくはエンジンBの始動が可能な範囲内で排ガスを低減するのに適した位相である。
【0024】
ロック機構8は、インナロータ2のハウジング1に対する進角方向S1への相対回転を規制する第1ロック部9と、インナロータ2のハウジング1に対する矢印S2で示す遅角方向(遅角室3bの容積が大きくなる方向)への相対回転を規制する第2ロック部10と、中間ロック位相に固定するロック状態とその固定を解除するロック解除状態とに切換え自在な切換機構11とを備えている。
【0025】
ロック機構8は、
図2に示すように、インナロータ2のハウジング1に対する相対回転を第1ロック部9と第2ロック部10とによって規制することにより、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相を中間ロック位相に固定する。
【0026】
第1ロック部9は、インナロータ2に形成された第1凹部9cと、アウタロータ1dに設けられ、第1凹部9cに対して係合・離脱する第1ロック部材9bとを備えている。
第1ロック部材9bは、第1収容部9aに径方向内方側に向けて出退可能に収容され、先端部分が第1凹部9cに対して回転径方向から入り込んで係合するロック状態と、第1凹部9cに対して回転径方向から引退して係合を解除するロック解除状態とに切換えられる。
【0027】
第2ロック部10は、インナロータ2に形成された第2凹部10cと、アウタロータ1dに設けられ、第2凹部10cに対して係合・離脱する第2ロック部材10bとを備えている。
第2ロック部材10bは、第2収容部10aに径方向内方側に向けて出退可能に収容され、先端部分が第2凹部10cに対して回転径方向から入り込んで係合するロック状態と、第2凹部10cに対して回転径方向から引退して係合を解除するロック解除状態とに切換えられる。
【0028】
第1ロック部9及び第2ロック部10の夫々は、対応する第1ロック部材9b又は第2ロック部材10bを凹部9c,10cに対する係合方向に突出付勢する圧縮コイルスプリング9d,10dを備えている。
第1凹部9c及び第2凹部10cの夫々の奥側底面には、インナロータ2に形成したロック解除用流路12が開口している。
ロック解除用流路12は、第1ロック部9及び第2ロック部10を対応する第1凹部9c及び第2凹部10cから引退させる作動流体を、第1凹部9c及び第2凹部10cに供給する。
【0029】
したがって、ロック機構8は、第1凹部9c及び第2凹部10cに作動流体が供給されていない状態で、第1ロック部材9bが第1凹部9cに対して係合し、かつ、第2ロック部材10bが第2凹部10cに対して係合することにより、
図2に示すように、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相を中間ロック位相に固定するロック状態に切り換わる。
【0030】
また、ロック機構8は、第1凹部9c及び第2凹部10cに作動流体が供給されると、
図3に示すように、第1ロック部9及び第2ロック部10が対応する第1凹部9c及び第2凹部10cから引退してロック解除状態に切り換わる。
【0031】
流体給排機構7は、ロック解除用流路12を介して第1凹部9c及び第2凹部10cに対する作動流体の供給・排出を行うことにより、第1ロック部9及び第2ロック部10をロック状態とロック解除状態とに切換え自在な切換機構11として機能する。
【0032】
流体給排機構7は、
図1に示すように、エンジンBにより駆動されて作動流体の供給を行う機械式のオイルポンプ18と、進角流路6a及び遅角流路6bに対する作動流体の供給・排出を制御するスプール式のOCV(オイルコントロールバルブ)19と、ロック解除用流路12への作動流体の供給・排出を切り換えるスプール式のOSV(オイルスイッチングバルブ)20と、OCV19,OSV20及びオイルポンプ18の作動を制御するECU(エンジンコントロールユニット)21とを備えている。
【0033】
ECU21は、OCV19に対する通電量を制御することによりスプール弁の位置を変更して、ハウジング1に対してインナロータ2を進角方向S1に移動させる進角制御と、ハウジング1に対してインナロータ2を遅角方向S2に移動させる遅角制御と、進角室3a及び遅角室3bへの作動流体の供給及び排出を遮断する制御とを実行する。
【0034】
進角制御では、ハウジング1に対するインナロータ2の回転位相が進角方向S1に変化するように、作動流体の進角室3aへの供給及び遅角室3bからオイルパン15への排出を行う。
遅角制御では、ハウジング1に対するインナロータ2の回転位相が遅角方向S2に変化するように、作動流体の遅角室3bへの供給及び進角室3aからオイルパン15への排出を行う。
したがって、ECU21が、進角室3aあるいは遅角室3bに作動流体を給排して、ハウジング1とインナロータ2との相対位相を制御する位相制御部を構成している。
【0035】
弁開閉時期制御装置Aには、例えばエンジンBの停止中において、進角室3a及び遅角室3bに滞留している作動流体を進角流路6aや遅角流路6b或いはハウジング1とインナロータ2との界面に存在する隙間を通して自重で自然排出する際に、各進角室3a及び各遅角室3bへの空気の流入を各別に許容する二つの空気流入機構C(C1,C2)を設けてある。
【0036】
各進角室3aへの空気の流入を許容する第1空気流入機構C1は、フロントプレート1aとインナロータ2との間に設けてある。
各遅角室3bへの空気の流入を許容する第2空気流入機構C2は、リアプレート1cとインナロータ2との間に設けてある。
【0037】
第1空気流入機構C1は、
図4〜
図6,
図8に示すように、第1軸部13に設けた第1環状溝22と、第1環状溝22に取付けられる断面形状が矩形の第1シールリング23と、第1シールリング23の摺動に伴って開閉される第1空気流入路24とを備えている。
【0038】
第1シールリング23は、第1環状溝22に対してリング径方向から対向するフロント内周面16に対して外周縁が全周に亘って密着している状態で、内周縁と第1環状溝22の底面との間に隙間が形成されるように、第1環状溝22の底面に対応する径よりも大きい内径を備えている。
【0039】
第1環状溝22は、第1シールリング23の厚さよりも広い溝幅で第1軸部13の基部に亘って形成してあり、第1シールリング23の内周側を入り込ませて、第1シールリング23をフロント内周面16に対して回転軸芯Xの長手方向に沿って摺動可能に装着してある。
【0040】
第1空気流入路24は、
図6,
図8に示すように、各進角室3a毎に進角室3aと第1環状溝22とを連通するように、ハウジング1とインナロータ2との間に形成してある。
すなわち、第1空気流入路24は、第1環状溝22を形成する壁部のうちの、進角室3a及び遅角室3bの内部圧力が負圧になった際に第1シールリング23が近接する回転軸芯方向内側の壁部22aに設けてある。
【0041】
第1空気流入路24は、ベーン溝5aの近傍において進角室3aと第1環状溝22とを連通するリング径方向に沿う溝部を第1環状溝22の底面に亘って形成して設けてある。
このため、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相が最遅角位相にあるときでも、進角室3aと第1環状溝22とを連通させることができる。
【0042】
第1シールリング23は、エンジンBの駆動中において進角室3aに作動流体が供給されている状態では、
図4に示すように、作動流体の圧力により、第1環状溝22を形成する壁部のうちの回転軸芯方向外側の壁部22bに押し付けられて作動流体の外部への漏れ出しを阻止すると共に、第1空気流入路24を外部空間との連通を遮断する閉じ状態に維持する。
【0043】
そして、エンジンBの停止中において進角室3a及び遅角室3bに残留している作動流体のハウジング1とインナロータ2との隙間を通した自重による自然排出により、進角室3a及び遅角室3bの内部圧力が負圧になるに伴って、第1シールリング23は第1環状溝22を形成する壁部のうちの回転軸芯方向内側の壁部22aの側に引き寄せられ、空気の流入を許容するように壁部22bから離間する。
第1空気流入路24は、
図5に示すように、第1シールリング23が回転軸芯方向内側の壁部22aに当接するまで引き寄せられても、第1環状溝22の底面近くに連通している。
【0044】
これにより、第1空気流入路24を外部空間に連通する開き状態に維持して、進角室3aへの空気の流入を許容すると共に、進角室3aに残留している作動流体のハウジング1とインナロータ2との隙間を通した排出を促進することができる。
【0045】
第2空気流入機構C2は、
図4,
図5,
図7,
図8に示すように、第2軸部14に設けた第2環状溝25と、第2環状溝25に取付けられる断面形状が矩形の第2シールリング26と、第2シールリング26の摺動に伴って開閉される第2空気流入路27とを備えている。
【0046】
第2シールリング26は、第2環状溝25に対してリング径方向から対向するリア内周面17に対して外周縁が全周に亘って密着している状態で、内周縁と第2環状溝25の底面との間に隙間が形成されるように、第2環状溝25の底面に対応する径よりも大きい内径を備えている。
【0047】
第2環状溝25は、第2シールリング26の厚さよりも広い溝幅で第2軸部14の基部に亘って形成してあり、第2シールリング26の内周側を入り込ませて、第2シールリング26をリア内周面17に対して回転軸芯Xの長手方向に沿って摺動可能に装着してある。
【0048】
第2空気流入路27は、
図7,
図8に示すように、各遅角室3b毎に遅角室3bと第2環状溝25とを連通するように、ハウジング1とインナロータ2との間に形成してある。
すなわち、第2空気流入路27は、第2環状溝25を形成する壁部のうちの、進角室3a及び遅角室3bの内部圧力が負圧になった際に第2シールリング26が近接する回転軸芯方向内側の壁部25aに設けてある。
【0049】
第1空気流入路24は、ベーン溝5aの近傍において遅角室3bと第2環状溝25とを連通するリング径方向に沿う溝部を第2環状溝25の底面に亘って形成して設けてある。
このため、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相が最進角位相にあるときでも、遅角室3bと第2環状溝25とを連通させることができる。
【0050】
第2シールリング26は、エンジンBの駆動中において遅角室3bに作動流体が供給されている状態では、
図4に示すように、作動流体の圧力により、第2環状溝25を形成する壁部のうちの回転軸芯方向外側の壁部25bに押し付けられて作動流体の外部への漏れ出しを阻止すると共に、第2空気流入路27を外部空間との連通を遮断する閉じ状態に維持する。
【0051】
そして、エンジンBの停止中において進角室3a及び遅角室3bに残留している作動流体のハウジング1とインナロータ2との隙間を通した自重による自然排出により、進角室3a及び遅角室3bの内部圧力が負圧になるに伴って、第2シールリング26は第2環状溝25を形成する壁部のうちの回転軸芯方向内側の壁部25aの側に引き寄せられ、空気の流入を許容するように壁部25bから離間する。
第2空気流入路27は、
図5に示すように、第2シールリング26が回転軸芯方向内側の壁部25aに当接するまで引き寄せられても、第2環状溝25の底面近くに連通している。
【0052】
これにより、第2空気流入路27を外部空間に連通する開き状態に維持して、遅角室3bへの空気の流入を許容すると共に、遅角室3bに残留している作動流体のハウジング1とインナロータ2との隙間を通した排出を促進することができる。
なお、第1シールリング23,第2シールリング26として、周方向の一カ所に切り込みを設けてある装着が容易なCリング状に形成したものを例示したが、一連に連続するリング状に形成したものであってもよい。
【0053】
〔第2実施形態〕
図9〜
図11は、本発明の別実施形態を示す。
本実施形態では、
図9,
図10に示すように、第1空気流入路24と第2空気流入路27の夫々を形成する溝部を、第1環状溝22及び第2環状溝25の底面に到達しない短い長さでインナロータ2に形成してある。
【0054】
また、
図11に示すように、第1シールリング23及び第2シールリング26には、回転軸芯方向内側の端面の内周側に沿って、周方向で断続する複数の突条部28を円弧状に配置して形成してある。
【0055】
第1シールリング23及び第2シールリング26は、エンジンBの駆動中において進角室3a及び遅角室3bに作動流体が供給されている状態では、
図9に示すように、作動流体の圧力により壁部22b,25bに当接して、第1空気流入路24及び第2空気流入路27を外部空間との連通を遮断する閉じ状態に維持する。
【0056】
そして、エンジンBの停止中において進角室3a及び遅角室3bの内部圧力が負圧になるに伴って、
図10に示すように、第1シールリング23の突条部28が第1環状溝22を形成する回転軸芯方向内側の壁部22aに当接しても、周方向で隣り合う突条部28の間を通して、第1空気流入路24を外部空間に連通する開き状態に維持できる。
【0057】
同様に、
図10に示すように、第2シールリング26の突条部28が第2環状溝25を形成する回転軸芯方向内側の壁部25aに当接しても、周方向で隣り合う突条部28の間を通して、第2空気流入路27を外部空間に連通する開き状態に維持できる。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0058】
〔第3実施形態〕
図12,
図13は、本発明の別実施形態を示す。
本実施形態では、第2実施形態で示した第1空気流入路24を形成する溝部を、フロント内周面16に開口するようにフロントプレート1aに形成し、第2実施形態で示した第2空気流入路27を形成する溝部を、リア内周面17に開口するようにリアプレート1cに形成してある。
【0059】
第1空気流入路24は、突出部4の進角室3aに臨む側の進角側端面29と同じ位相となるように配置してフロントプレート1aに形成してあり、第2空気流入路27は、突出部4の遅角室3bに臨む側の遅角側端面30と同じ位相となるように配置してリアプレート1cに形成してある。
【0060】
このため、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相が最遅角位相にあるときでも、進角室3aと第1環状溝22とを連通させることができる。
また、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相が最進角位相にあるときでも、遅角室3bと第2環状溝25とを連通させることができる。
【0061】
第1シールリング23及び第2シールリング26は、エンジンBの駆動中において進角室3a及び遅角室3bに作動流体が供給されている状態では、
図12に示すように、作動流体の圧力により壁部22b,25bに当接して、第1空気流入路24及び第2空気流入路27を外部空間との連通を遮断する閉じ状態に維持する。
【0062】
そして、エンジンBの停止中において進角室3a及び遅角室3bの内部圧力が負圧になるに伴って、
図13に示すように、第1シールリング23の突条部28が第1環状溝22を形成する回転軸芯方向内側の壁部22aに当接しても、周方向で隣り合う突条部28の間を通して、第1空気流入路24を外部空間に連通する開き状態に維持できる。
【0063】
同様に、
図13に示すように、第2シールリング26の突条部28が第2環状溝25を形成する回転軸芯方向内側の壁部25aに当接しても、周方向で隣り合う突条部28の間を通して、第2空気流入路27を外部空間に連通する開き状態に維持できる。
【0064】
本実施形態であれば、第1空気流入路24及び第2空気流入路27を形成する溝部を板状のフロントプレート1aよびリアプレート1cに形成すればよいので、これら空気流入路24,27の製作加工が容易になる。
その他の構成は第2実施形態と同様である。
【0065】
〔第4実施形態〕
図14,
図15は、本発明の別実施形態を示す。
本実施形態では、ハウジング1とインナロータ2との界面に従来から存在する隙間31を第1空気流入路24及び第2空気流入路27として利用する。
このため、第1軸部13の側の第1空気流入機構C1のみを設けてある。
【0066】
本実施形態であれば、第1空気流入路24と第2空気流入路27の夫々を形成する溝部などを別途設けることなく、弁開閉時期制御装置の運転中には、
図14に示すように作動流体の漏れ出しを第1シールリング23で防止しながら、弁開閉時期制御装置の停止中には、第1シールリング23は第1環状溝22を形成する壁部のうちの回転軸芯方向内側の壁部22aの側に引き寄せられ、空気の流入を許容するように壁部22bから離間する。
【0067】
第1空気流入機構C1は、
図15に示すように第1シールリング23が回転軸芯方向内側の壁部22aに当接するまで引き寄せられても、ハウジング1とインナロータ2との全周に亘る隙間31から進角室3a及び遅角室3bへの空気の流入を許容して、隙間31からの空気の流入と残留作動流体の自重による排出とを促進することができる。
【0068】
また、第1環状溝22を形成した箇所では、隙間31を形成するハウジング1とインナロータ2との界面のリング径方向に沿う長さが第1環状溝22の形成分だけ短くなるので空気が通り易くなり、進角室3a及び遅角室3bへの空気の流入を一層促進することができる。
その他の構成は第2実施形態と同様である。
【0069】
〔第5実施形態〕
図16〜
図18は、第2〜第4実施形態の弁開閉時期制御装置に使用する第1シールリング23及び第2シールリング26の変形例を示す。
本実施形態では、
図18に示すように、第1シールリング23及び第2シールリング26が、回転軸芯方向内側の端面における内周側に沿って一連の円環状凸部32を備え、円環状凸部32よりも外周側における回転軸芯方向内側の端面部分33に開口する複数の貫通孔34を形成してある。
【0070】
これらの貫通孔34は、
図16に示すように、回転軸芯方向外側の端面のうちの、第1空気流入路24を閉じ状態に維持するときに壁部22b,25bに当接する端面部分に開口している。
【0071】
したがって、第1シールリング23及び第2シールリング26は、エンジンBの駆動中において進角室3a及び遅角室3bに作動流体が供給されている状態では、
図16に示すように、作動流体の圧力により、貫通孔34が壁部22b,25bで塞がれて、第1空気流入路24及び第2空気流入路27を閉じ状態に維持する。
【0072】
そして、エンジンBの停止中において進角室3a及び遅角室3bの内部圧力が負圧になるに伴って、第1シールリング23が空気の流入を許容するように壁部22bから離間し、
図17に示すように、第1シールリング23及び第2シールリング26の円環状凸部32が第1環状溝22又は第2環状溝25を形成する回転軸芯方向内側の壁部22a,25aに当接しても、貫通孔34を通して、第1空気流入路24及び第2空気流入路27を開き状態に維持できる。
【0073】
したがって、第4実施形態においては、貫通孔34が空気流入路として機能する空気流入機構Cを構成することができる。
本実施形態によれば、第1シールリング23又は第2シールリング26の形状を、凹凸部分が少ない製作が容易な形状に形成することができる。
【0074】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による弁開閉時期制御装置は、排気弁の開閉時期を制御するものであってもよい。
2.本発明による弁開閉時期制御装置は、進角室及び遅角室から作動流体を排出する際に、当該排出に係る進角室又は遅角室のいずれか一方への空気の流入のみを許容する単一の空気流入機構を備えていてもよい。
3.本発明による弁開閉時期制御装置は、進角室及び遅角室の内部圧力が負圧になるに伴って、シールリングが環状溝を形成する壁部のうちの回転軸芯方向内側の壁部の側に引き寄せられも、シールリングがその壁部に当接しないように、シールリングの壁部の側への移動範囲を規制するストッパーを設けてある空気流入機構を備えていてもよい。
4.本発明による弁開閉時期制御装置は、自動車その他の内燃機関に利用可能である。