(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ヒトが正しい姿勢で歩行するためには、骨盤を前に出した足に乗せること、言い換えれば、全身における腰の位置を相対的に前寄りにすることが重要な要素の一つである。
【0007】
しかしながら、従来は、歩行中に腰の位置が前寄りになっているか否かを手軽に定量的に評価する手段がなかった。このため、歩行姿勢が正しい姿勢であるか否かを評価する場合に、感覚的な評価に頼ることになり、例えば歩行姿勢を矯正するトレーニングを行うときなどに不便であった。
【0008】
そこで、この発明の課題は、歩行中に腰の位置が前寄りになっているか否かを手軽に定量的に評価できる歩行姿勢計を提供することにある。
【0009】
また、この発明の課題は、歩行中に腰の位置が前寄りになっているか否かを手軽に定量的に評価する方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明の歩行姿勢計は、
被測定者の歩行姿勢を評価する歩行姿勢計であって、
被測定者の腰の正中線上に装着される加速度センサと、
上記加速度センサが出力する上下軸加速度の時間的な変化波形と前後軸加速度の時間的な変化波形との一方または両方を用いて、上記被測定者の歩行中の
全身における前後方向の相対的な腰の位置に対応する物理量を定量的に算出する演算部と
、
上記物理量に基づいて、上記歩行中の全身における前後方向の相対的な腰の位置が前寄りになっているか否かを評価する評価部とを備える。
【0011】
本明細書で、「腰の位置」とは、歩行中の全身における相対的な腰の位置を意味する。典型的には、前脚の踵が接地した時点における、歩幅(すなわち、後脚の爪先から前脚の踵までの距離)と、腰の背面から前脚の踵までの距離とを用いて、
(腰の位置)=(腰の背面から前脚の踵までの距離)/(歩幅)
と定義される。
【0012】
この発明の歩行姿勢計では、加速度センサが被測定者の腰の正中線上に装着される。演算部は、上記加速度センサが出力する上下軸加速度の時間的な変化波形と前後軸加速度の時間的な変化波形との一方または両方を用いて、上記被測定者の歩行中の
全身における前後方向の相対的な腰の位置に対応する物理量を定量的に算出する。
評価部は、上記物理量に基づいて、上記歩行中の全身における前後方向の相対的な腰の位置が前寄りになっているか否かを評価する。したがって
、被測定者の歩行中の腰の位置
が前寄りになっているか否かを定量的に評価できる。また、この歩行姿勢計では、上記加速度センサの出力に基づいて評価を行っているので、モーションキャプチャのような大がかりな設備によらず、手軽に評価できる。
【0013】
一実施形態の歩行姿勢計では、
上記演算部は、上記上下軸加速度と上記前後軸加速度とを合成する信号処理系を含み、
上記物理量は、上記上下軸加速度と上記前後軸加速度とを合成してなる合成ベクトルに関する量を含むことを特徴とする。
【0014】
腰の位置が前寄りである場合、基準となる後脚を蹴り出す時、上方向へも前方向へも加速度が同時に発生する、ということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、基準となる後脚を蹴り出す時、体を持ち上げるために一旦上方向へ加速度が発生してから、前方向に加速度が発生する、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、上下軸加速度と前後軸加速度との両方に関係する。ここで、この一実施形態の歩行姿勢計では、上記演算部は、上記上下軸加速度と上記前後軸加速度とを合成する信号処理系を含み、上記物理量は、上記上下軸加速度と上記前後軸加速度とを合成してなる合成ベクトルに関する量を含む。したがって、腰の位置が前寄りであるか否かを、上記合成ベクトルに関する量に応じて適切に評価できる。
【0015】
一実施形態の歩行姿勢計では、上記合成ベクトルに関する量は、上記合成ベクトルの大きさであることを特徴とする。
【0016】
腰の位置が前寄りである場合、基準となる後脚を蹴り出す時、上方向へも前方向へも加速度が同時に発生することから、左踵が接地してから右踵が接地するまでの左脚基準期間と右踵が接地してから左踵が接地するまでの右脚基準期間とのそれぞれにおいて、上記合成ベクトルが大きいピークを示す。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、基準となる後脚を蹴り出す時、体を持ち上げるために一旦上方向へ加速度が発生してから、前方向に加速度が発生することから、左踵が接地してから右踵が接地するまでの左脚基準期間と右踵が接地してから左踵が接地するまでの右脚基準期間とのそれぞれにおいて、上記合成ベクトルのピークが小さくなる。ここで、この一実施形態の歩行姿勢計では、上記合成ベクトルに関する量は、上記合成ベクトルの大きさである。したがって、腰の位置が前寄りであるか否かを、上記合成ベクトルの大きさに応じて適切に評価できる。
【0017】
一実施形態の歩行姿勢計では、上記物理量は、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左踵が接地してから右踵が接地するまでの左脚基準期間と右踵が接地してから左踵が接地するまでの右脚基準期間とにそれぞれ現れる、プラス側波形の面積および/またはマイナス側波形の面積を表す量を含むことを特徴とする。
【0018】
本明細書で、「プラス側波形の面積」とは、時間対加速度グラフ上で加速度がプラス値を示しているときの波形を時間で積分してなる面積を指す。また、「マイナス側波形の面積」とは、時間対加速度グラフ上で加速度がマイナス値を示しているときの波形を時間で積分してなる面積を指す。
【0019】
腰の位置が前寄りである場合、歩幅が広くかつ歩行速度が速くなることから、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の面積および/またはマイナス側波形の面積が広くなる、ということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、歩幅が狭くかつ歩行速度が遅くなることから、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の面積および/またはマイナス側波形の面積が狭くなる、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、上記上下軸加速度の時間的な変化波形についての、プラス側波形の面積および/またはマイナス側波形の面積に関係する。ここで、この一実施形態の歩行姿勢計では、上記物理量は、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とにそれぞれ現れる、プラス側波形の面積および/またはマイナス側波形の面積を表す量を含む。したがって、腰の位置が前寄りであるか否かを、上記上下軸加速度の時間的な変化波形についての、上記プラス側波形の面積および/またはマイナス側波形の面積を表す量に応じて適切に評価できる。
【0020】
一実施形態の歩行姿勢計では、上記物理量は、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左踵が接地してから右踵が接地するまでの左脚基準期間と右踵が接地してから左踵が接地するまでの右脚基準期間とにそれぞれ現れる、マイナス側波形の最小の谷の値を表す量を含むことを特徴とする。
【0021】
腰の位置が前寄りである場合、歩幅が広くかつ歩行速度が速くなることから、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、マイナス側波形の最小の谷が深くなる、ということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、歩幅が狭くかつ歩行速度が遅くなることから、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、マイナス側波形の最小の谷が浅くなる、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、上記上下軸加速度の時間的な変化波形についての、マイナス側波形の最小の谷の深さに関係する。ここで、この一実施形態の歩行姿勢計では、上記物理量は、上記上下軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とにそれぞれ現れる、マイナス側波形の最小の谷の値を表す量を含む。したがって、腰の位置が前寄りであるか否かを、上記上下軸加速度の時間的な変化波形についての、上記マイナス側波形の最小の谷の値を表す量に応じて適切に評価できる。
【0022】
なお、上記上下軸加速度の時間的な変化波形についての、プラス側波形の最大のピークの大きさは、腰の位置に対応するよりも、むしろ個人差が大きいため、定量的な評価のために用いるのが難しい。
【0023】
一実施形態の歩行姿勢計では、上記物理量は、上記前後軸加速度の時間的な変化波形について、左踵が接地してから右踵が接地するまでの左脚基準期間と右踵が接地してから左踵が接地するまでの右脚基準期間とにそれぞれ現れる、プラス側波形の最大のピークの値および/またはマイナス側波形の最小の谷の値を表す量を含むことを特徴とする。
【0024】
腰の位置が前寄りである場合、歩幅が広くかつ歩行速度が速くなることから、上記前後軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の最大のピークが大きくなる一方、マイナス側波形の最小の谷が深くなる、ということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、歩幅が狭くかつ歩行速度が遅くなることから、上記前後軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の最大のピークが小さくなる一方、マイナス側波形の最小の谷が浅くなる、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、上記前後軸加速度の時間的な変化波形についての、プラス側波形の最大のピークの大きさ、マイナス側波形の最小の谷の深さに関係する。ここで、この一実施形態の歩行姿勢計では、上記物理量は、上記前後軸加速度の時間的な変化波形について、左踵が接地してから右踵が接地するまでの左脚基準期間と右踵が接地してから左踵が接地するまでの右脚基準期間とにそれぞれ現れる、プラス側波形の最大のピークの値および/またはマイナス側波形の最小の谷の値を表す量を含む。したがって、したがって、腰の位置が前寄りであるか否かを、上記前後軸加速度の時間的な変化波形についての、プラス側波形の最大のピークの値および/またはマイナス側波形の最小の谷の値を表す量に応じて適切に評価できる。
【0025】
一実施形態の歩行姿勢計では、
上記評価部は、上記物理量に対する閾値を設定して、上記
歩行中の全身における前後方向の相対的な腰の位置を上記閾値に応じて複数段階に評価す
ることを特徴とする。
【0026】
この一実施形態の歩行姿勢計では、評価部が、上記物理量に対する閾値を設定して、上記
歩行中の全身における前後方向の相対的な腰の位置を上記閾値に応じて複数段階に評価する。したがって、複数段階の評価結果が得られる。このような複数段階の評価結果は、ユーザ(被測定者を含む。)にとって分かり易く、便宜である。
【0027】
この発明のプログラムは、
被測定者の歩行姿勢を評価する方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
上記方法は、
被測定者の腰の正中線上に装着された加速度センサの出力を取得するステップと、
上記加速度センサが出力する前後軸加速度の時間的な変化波形と上下軸加速度の時間的な変化波形との一方または両方を用いて、上記被測定者の歩行中の
全身における前後方向の相対的な腰の位置に対応する物理量を定量的に算出するステップと
、
上記物理量に基づいて、上記歩行中の全身における前後方向の相対的な腰の位置が前寄りになっているか否かを評価するステップと
を備えたことを特徴とする。
【0028】
この発明のプログラムをコンピュータに実行させれば、コンピュータは、まず被測定者の腰の正中線上に装着された加速度センサの出力を取得する。そして、上記加速度センサが出力する前後軸加速度の時間的な変化波形と上下軸加速度の時間的な変化波形との一方または両方を用いて、上記被測定者の歩行中の
全身における前後方向の相対的な腰の位置に対応する物理量を定量的に算出する。
さらに、上記物理量に基づいて、上記歩行中の全身における前後方向の相対的な腰の位置が前寄りになっているか否かを評価する。したがって
、被測定者の歩行中の腰の位置
が前寄りになっているか否かを定量的に評価できる。また、このプログラムでは、上記加速度センサの出力に基づいて評価を行っているので、モーションキャプチャのような大がかりな設備によらず、手軽に評価できる。
【0029】
【0030】
【発明の効果】
【0031】
以上より明らかなように、この発明の歩行姿勢計によれば、歩行中に腰の位置が前寄りになっているか否かを手軽に定量的に評価できる。
【0032】
また、この発明のプログラムをコンピュータに実行させれば、歩行中に腰の位置が前寄りになっているか否かを手軽に定量的に評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
図1は、この発明の一実施形態の歩行姿勢計(全体を符号1で示す。)のシステム構成を示している。この歩行姿勢計1は、活動量計100と、スマートフォン200とを含んでいる。活動量計100とスマートフォン200とは、この例ではBLE(Bluetooth low energy;低消費電力Bluetooth)通信によって互いに通信可能になっている。
【0036】
図2に示すように、活動量計100は、ケーシング100Mと、このケーシング100Mに搭載された、制御部110と、発振部111と、加速度センサ112と、メモリ120と、操作部130と、表示部140と、BLE通信部180と、電源部190と、リセット部199とを含む。
【0037】
ケーシング100Mは、この活動量計100を携帯し易いように、ヒトの手のひらに収まる程度の大きさに形成されている。
【0038】
発振部111は、水晶振動子を含み、この活動量計100の動作タイミングの基準となるクロック信号を発生する。
【0039】
加速度センサ112は、ケーシング100Mが受ける3軸(3方向)の加速度をそれぞれ検出して、制御部110へ出力する。
【0040】
メモリ120は、ROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを含む。ROMは、この活動量計100を制御するためのプログラムのデータを記憶する。また、RAMは、この活動量計100の各種機能を設定するための設定データ、加速度測定結果および演算結果のデータなどを記憶する。
【0041】
制御部110は、上記クロック信号に基づいて動作するCPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)を含み、メモリ120に記憶された活動量計100を制御するためのプログラムに従って、加速度センサ112からの検知信号に基づいて、この活動量計100の各部(メモリ120、表示部140およびBLE通信部
180を含む。)を制御する。この制御部110は、少なくとも、上下軸加速度と前後軸加速度とを合成する信号処理系を含む。
【0042】
操作部130は、この例ではボタンスイッチからなり、電源オン・オフ切り替えの操作、表示内容切り替えの操作など、適宜の操作入力を受け付ける。
【0043】
表示部140は、この例ではLCD(液晶表示素子)または有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイからなる表示画面を含み、この表示画面に制御部110から受けた信号に従って所定の情報を表示する。
【0044】
電源部
190は、この例ではボタン電池からなり、この活動量計100の各部へ電力を供給する。
【0045】
BLE通信部
180は、スマートフォン200との間でリアルタイムで通信を行う。例えば、スマートフォン200へ測定結果を表す情報などを送信する。また、スマートフォン200から操作指示を受信する。
【0046】
リセット部199は、スイッチからなり、制御部110の動作やメモリ120の記憶内容をリセットして初期化する。
【0047】
図3に示すように、スマートフォン200は、本体200Mと、この本体200Mに搭載された、制御部210と、メモリ220と、操作部230と、表示部240と、BLE通信部280と、ネットワーク通信部290とを含む。このスマートフォン200は、市販のスマートフォンに、活動量計100への指示を行わせるようにアプリケーションソフトウェア(コンピュータプログラム)をインストールしたものである。
【0048】
制御部210は、CPUおよびその補助回路を含み、スマートフォン200の各部を制御し、メモリ220に記憶されたプログラムおよびデータに従って処理を実行する。すなわち、操作部230、および、通信部280,290から入力されたデータを処理し、処理したデータを、メモリ220に記憶させたり、表示部240で表示させたり、通信部280,290から出力させたりする。
【0049】
メモリ220は、制御部210でプログラムを実行するために必要な作業領域として用いられるRAMと、制御部210で実行するための基本的なプログラムを記憶するためのROMとを含む。また、メモリ220の記憶領域を補助するための補助記憶装置の記憶媒体として、半導体メモリ(メモリカード、SSD(Solid State Drive))などが用いられてもよい。
【0050】
操作部230は、この例では、表示部240上に設けられたタッチパネルからなっている。なお、キーボードその他のハードウェア操作デバイスを含んでいても良い。
【0051】
表示部240は、表示画面(例えばLCDまたは有機ELディスプレイからなる)を含む。表示部240は、制御部210によって制御されて、所定の画像を表示画面に表示させる。
【0052】
BLE通信部280は、活動量計100との間でリアルタイムで通信を行う。例えば、活動量計100へ操作指示を送信する。また、活動量計100から測定結果を表す情報などを受信する。
【0053】
ネットワーク通信部290は、制御部210からの情報をネットワーク900を介して他の装置へ送信するとともに、他の装置からネットワーク900を介して送信されてきた情報を受信して制御部210に受け渡すことができる。
【0054】
例えば
図4(A)に示すように、この歩行姿勢計1が例えばユーザとしての被測定者90によって使用される場合、活動量計100が装着クリップ100C(
図1中に示す)によって被測定者90の正中線91上の腰の背面側に装着される。
【0055】
この例では、
図4(B)に示すように、被測定者90にとって前後方向をX軸、左右方向をY軸、上下方向をZ軸とする。そして、活動量計100の加速度センサ112は、被測定者90が前方へ歩行するのに伴ってケーシング100Mが受けるX軸(前後軸)の加速度、Y軸(左右軸)の加速度、Z軸(上下軸)の加速度をそれぞれ出力するものとする。
【0056】
この歩行姿勢計1によって測定を行う場合、被測定者90は、活動量計100とスマートフォン200の電源をオンする。それとともに、スマートフォン200のアプリケーションソフトウェアを起動して、操作部230、BLE通信部280を介して、活動量計100へ測定スタートを指示する。
【0057】
その状態で、被測定者90は前方へ真っ直ぐ、この例では10歩だけ歩行する。そして、被測定者90は、スマートフォン200の操作部230、BLE通信部280を介して、活動量計100へ演算および演算結果の出力を指示する。
【0058】
すると、活動量計100の制御部110は演算部として働いて、後述する演算を行う。そして、その演算結果を表す情報をBLE通信部180を介して、スマートフォン200へ送信する。
【0059】
図15は、活動量計100の制御部110による動作フローを示している。活動量計100の制御部110は、電源がオンされると、ステップS1に示すように、スマートフォン200からの測定スタートの指示を待つ。スマートフォン200からの測定スタートの指示を受信すると(ステップS1でYES)、ステップS2に示すように、制御部110は、加速度センサ112による3軸の出力を取得する。加速度センサ112の出力の取得は、この例では10歩のデータを含む期間として、予め定められた期間(例えば14秒間)だけ行われる。取得されたデータは、メモリ120に一旦記憶される。次に、制御部110は、ステップS3に示すように、スマートフォン200からの
演算の指示を待つ。スマートフォン200からの演算の指示を受信すると(ステップS3でYES)、ステップS4に示すように、制御部110は、腰の位置に対応する物理量の演算を行う。そして、ステップS5に示すように、制御部110は評価部として働いて、その演算結果を用いて、腰の位置を段階的に評価する。その後、ステップS6に示すように、その評価の結果をスマートフォン200へ出力(送信)する。
【0060】
図5(A)は、或る被測定者90についての全身における腰の位置を示している。ここで、腰の位置は、前脚の踵が地面99に接地した時点における、歩幅(すなわち、後脚の爪先から前脚の踵までの距離)Dと、腰の背面から前脚の踵までの距離dとを用いて、
(腰の位置)=(腰の背面から前脚の踵までの距離)/(歩幅)=d/D …(1)
によって表される。この被測定者90は、腰の位置が前寄りになっており、したがって、式(1)によって求められる値(=d/D)が比較的小さい。
【0061】
一方、
図5(B)は、別の被測定者90′についての全身における腰の位置を示している。この被測定者90′は、腰の位置が後寄りになっており、したがって、式(1)によって求められる値(=d′/D′)が比較的大きい。
【0062】
上述の制御部110は、
図15中のステップS4において、式(1)によって求められる値に対応する、次のような6つの物理量i)〜vi)の演算を行う。
【0063】
i) Z軸(上下軸)加速度とX軸(前後軸)加速度とを合成してなる合成ベクトルの大きさを表す量
【0064】
図6は、
図5(A)に示した被測定者90についてのZ軸加速度、X軸加速度の時間的な変化波形を示している。また、
図8は、
図5(B)に示した被測定者90′についてのZ軸加速度、X軸加速度の時間的な変化波形を示している。これらの
図6、
図8(および後述の
図7、
図9、
図10〜
図13)において、tLは左踵が接地するタイミングを示し、tRは右踵が接地するタイミングを示している。左踵が接地してから右踵が接地するまでの期間を「左脚基準期間」と呼び、右踵が接地してから左踵が接地するまでの期間を「右脚基準期間」と呼ぶ。
【0065】
腰の位置が前寄りである場合、基準となる後脚を蹴り出す時、上方向へも前方向へも加速度が同時に発生する、ということが経験的に分かる。つまり、
図5(A)中に示すように、上方向へも前方向へも加速度が同時に発生して、合成ベクトルFとなるということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、
図5(B)中に示すように、基準となる後脚を蹴り出す時、体を持ち上げるために一旦上方向へ加速度F1が発生してから、前方向に加速度F2が発生する、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、上下軸加速度と前後軸加速度との両方に関係する。
【0066】
図7は、
図5(A)に示した被測定者90についてのZ軸加速度とX軸加速度とを合成した合成加速度(ZX合成加速度)の時間的な変化波形を示している。この
図7から分かるように、腰の位置が前寄りである場合、基準となる後脚を蹴り出す時、上方向へも前方向へも加速度が同時に発生することから、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、合成ベクトルが大きいピークP1を示している。また、
図9は、
図5(B)に示した被測定者90についてのZ軸加速度とX軸加速度とを合成した合成加速度(ZX合成加速度)の時間的な変化波形を示している。この
図9から分かるように、腰の位置が前寄りでない場合、基準となる後脚を蹴り出す時、体を持ち上げるために一旦上方向へ加速度F1が発生してから、前方向に加速度F2が発生することから、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、合成ベクトルのピークP1′が小さくなっている。
【0067】
そこで、式(1)によって求められる値に対応する物理量として、Z軸加速度とX軸加速度とを合成した合成ベクトルの大きさを表す量、より詳しくは、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおける最大のピークの値を算出する。なお、合成ベクトルの大きさは、Z軸加速度の2乗とX軸加速度の2乗との和の平方根によって算出される。
【0068】
この例では、10歩分のデータのうち、最初の2歩と最後の2歩のデータを除いた6歩分のデータを平均して平均値を求める。その平均値をその物理量についての演算結果とする。このように平均値を演算結果とする点は、残りの物理量ii)〜vi)についても同様である。
【0069】
ii) Z軸(上下軸)加速度の時間的な変化波形におけるプラス側波形の面積を表す量
iii) Z軸(上下軸)加速度の時間的な変化波形におけるマイナス側波形の面積を表す量
【0070】
ここで、「プラス側波形の面積」とは、
図10、
図11のような時間対加速度グラフ上で加速度がプラス値を示しているときの波形を時間で積分してなる面積を指す。また、「マイナス側波形の面積」とは、時間対加速度グラフ上で加速度がマイナス値を示しているときの波形を時間で積分してなる面積を指す。
【0071】
腰の位置が前寄りである場合、歩幅が広くかつ歩行速度が速くなることから、
図10中に示すように、Z軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の面積A1および/またはマイナス側波形の面積A2が広くなる、ということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、歩幅が狭くかつ歩行速度が遅くなることから、
図11中に示すように、Z軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の面積A1′および/またはマイナス側波形の面積A2′が狭くなる、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、Z軸加速度の時間的な変化波形についての、プラス側波形の面積および/またはマイナス側波形の面積に関係する。
【0072】
そこで、式(1)によって求められる値に対応する物理量として、プラス側波形の面積を表す量、マイナス側波形の面積を表す量をそれぞれ算出する。
【0073】
iv) Z軸(上下軸)加速度の時間的な変化波形におけるマイナス側波形の最小の谷の値を表す量
【0074】
腰の位置が前寄りである場合、歩幅が広くかつ歩行速度が速くなることから、
図10中に示すように、Z軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、マイナス側波形の最小の谷P2が深くなる、ということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、歩幅が狭くかつ歩行速度が遅くなることから、
図11中に示すように、Z軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、マイナス側波形の最小の谷P2′が浅くなる、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、Z軸加速度の時間的な変化波形についての、マイナス側波形の最小の谷の深さに関係する。
【0075】
そこで、式(1)によって求められる値に対応する物理量として、マイナス側波形の最小の谷の深さを表す量を算出する。
【0076】
なお、Z軸加速度の時間的な変化波形についての、プラス側波形の最大のピークの大きさは、腰の位置に対応するよりも、むしろ個人差が大きいため、定量的な評価のために用いるのが難しい。
【0077】
v) X軸(前後軸)加速度の時間的な変化波形におけるプラス側波形の最大のピークの値を表す量
vi) X軸(前後軸)加速度の時間的な変化波形におけるマイナス側波形の最小の谷の値の値を表す量
【0078】
腰の位置が前寄りである場合、歩幅が広くかつ歩行速度が速くなることから、
図12中に示すように、X軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の最大のピークP4が大きくなる一方、マイナス側波形の最小の谷P3が深くなる、ということが経験的に分かる。逆に、腰の位置が前寄りでない場合、歩幅が狭くかつ歩行速度が遅くなることから、
図13中に示すように、X軸加速度の時間的な変化波形について、左脚基準期間と右脚基準期間とのそれぞれにおいて、プラス側波形の最大のピークP4′が小さくなる一方、マイナス側波形の最小の谷P3′が浅くなる、ということが経験的に分かる。このように、腰の位置が前寄りであるか否かは、X軸加速度の時間的な変化波形についての、プラス側波形の最大のピークの大きさ、マイナス側波形の最小の谷の深さに関係する。
【0079】
そこで、式(1)によって求められる値に対応する物理量として、プラス側波形の最大のピークの大きさを表す量、マイナス側波形の最小の谷の深さを表す量をそれぞれ算出する。
【0080】
このようにして、制御部110は、
図15中のステップS4において、上述の6つの物理量i)〜vi)の演算を行う。
【0081】
図14は、制御部110が、
図15中のステップS5において、腰の位置を閾値に応じて複数段階に評価する仕方を示している。
【0082】
詳しくは、
図14の左欄には、上述の6つの物理量i)〜vi)が項目として挙げられている。なお、物理量i)〜vi)の名称は、それぞれ「上下・前後軸合成最大値」、「上下軸プラス面積」、「上下軸マイナス面積」、「上下軸最小値」、「前後軸最大値」、「前後軸最小値」というように簡略化して表記されている。各物理量i)
,iv)〜vi)の単位は、m/sec
2になっている。
【0083】
図14の中央欄には、上述の6つの物理量i)〜vi)のそれぞれに対する閾値
と、その閾値を基準としたときの得点が挙げられている。
【0084】
具体的には、物理量i)の「上下・前後軸合成最大値」には、5と10という閾値が設定されている。算出された上下・前後軸合成最大値が5以下であれば得点は−1点となり、5超かつ10未満であれば得点は0点となり、10以上であれば得点は+1点となる。
【0085】
物理量ii)の「上下軸プラス面積」には、50と100という閾値が設定されている。算出された上下軸プラス面積が50以下であれば得点は−1点となり、50超かつ100未満であれば得点は0点となり、100以上であれば得点は+1点となる。
【0086】
物理量iii)の「上下軸マイナス面積」には、−50と−100という閾値が設定されている。算出された上下軸マイナス面積が−50以上であれば得点は−1点となり、−50未満かつ−100超であれば得点は0点となり、−100以下であれば得点は+1点となる。
【0087】
物理量iv)の「上下軸最小値」には、−2.5と−5.0という閾値が設定されている。算出された上下軸最小値が−2.5以上であれば得点は−1点となり、−2.5未満かつ−5.0超であれば得点は0点となり、−5.0以下であれば得点は+1点となる。
【0088】
物理量v)の「前後軸最大値」には、4と8という閾値が設定されている。算出された前後軸最大値が4以下であれば得点は−1点となり、4超かつ8未満であれば得点は0点となり、8以上であれば得点は+1点となる。
【0089】
物理量vi)の「前後軸最小値」には、−3と−6という閾値が設定されている。算出された前後軸最小値が−3以上であれば得点は−1点となり、−3未満かつ−6超であれば得点は0点となり、−6以下であれば得点は+1点となる。
【0090】
制御部110は、これらの6つの物理量i)〜vi)についての得点を合計して、合計点数を算出する。この合計点数は、−6点から+6点までの範囲で、1点ずつ段階的に変化する値をとる。
図14の右欄に示すように、その合計点数が0点以上であれば、その被測定者の腰の位置は「前寄り」であると判定する。一方、その合計点数が−1点以下であれば、その被測定者の腰の位置は「後寄り」であると判定する。このようにして、制御部110は、この合計点数によって、腰の位置が前寄りであるか否かを定量的に評価する。
【0091】
その被測定者の腰の位置が「前寄り」であるか「後寄り」であるかを示す情報は、
図15中のステップS6において、合計点数とともに評価の結果として活動量計100からスマートフォン200へ出力(送信)される。
【0092】
スマートフォン200は、活動量計100からの情報を受信すると、合計点数とともに評価の結果を表示部240に表示する。スマートフォン200の表示部240には、例えば「あなたの腰の位置は前寄りです(点数3点)。」というようにメッセージとして表示される。なお、表示部240には、合計点数に代えて、または合計点数とともに、合計点数を表す棒グラフなどの、合計点数が直感的に分かるような表示を行ってもよい。
【0093】
この表示部240の表示内容を見て、ユーザは、腰の位置が前寄りであるか否かを定量的に知ることができる。上述のような、合計点数による定量的な評価結果は、ユーザにとって分かり易く、便宜である。
【0094】
本発明者は、複数の被測定者について、この歩行姿勢計1による定量的な評価結果が妥当であるか否かを検証する検証実験を行った。
【0095】
具体的には、被測定者毎に、歩行中に前脚の踵が地面99に接地した時点における写真を撮影し、その写真画像に基づいて式(1)によって腰の位置(%値)を求めた。それとともに、それらの被測定者毎に、歩行姿勢計1による定量的な評価結果(上述の合計点数)を求めた。そして、写真画像に基づく式(1)による腰の位置(%値)と、歩行姿勢計1による定量的な評価結果(上述の合計点数)との間の相関を調べた。
【0096】
その結果、被測定者数31人からなる或る被測定者群(データ数76)については、相関係数R=0.81、誤差(標準偏差)SD=1.7という結果が得られた。また、被測定者数25人からなる別の被測定者群(データ数65)については、相関係数R=0.68、誤差(標準偏差)SD=1.9という結果が得られた。
【0097】
これにより、歩行姿勢計1による定量的な評価結果が概ね妥当であることを検証できた。
【0098】
このように、この歩行姿勢計1によれば、上述の物理量i)〜vi)に応じて、被測定者の歩行中の腰の位置を定量的に適切に評価できる。また、この歩行姿勢計1では、加速度センサ112の出力に基づいて評価を行っているので、モーションキャプチャのような大がかりな設備によらず、手軽に評価できる。
【0099】
上述の実施形態では、加速度センサ112が被測定者の腰の正中線上に装着されたが、これに限られるものではない。加速度センサ112は被測定者に対して或る方向に装着されるものとし、制御部110が、加速度センサ112が出力する、加速度センサ112に関する互いに垂直な3方向の成分に基づいて、上下軸加速度や前後軸加速度を合成して抽出する信号処理系を構成してもよい。この場合、制御部110は演算部として働いて、上記信号処理系が出力する上下軸加速度の時間的な変化波形と前後軸加速度の時間的な変化波形との一方または両方を用いて、被測定者の歩行中の腰の位置に対応する物理量を定量的に算出する。したがって、その物理量に応じて、被測定者の歩行中の腰の位置を定量的に評価できる。このようにした場合、加速度センサ112(および/または加速度センサ112を搭載したケーシング100M)は、被測定者に対して装着される向きの制約を受けず、着衣のポケットなどに任意の方向に装着され得る。したがって、ユーザの使い勝手が良くなる。
【0100】
上述の実施形態では、6つの物理量i)〜vi)を算出したが、これに限られるものではない。例えば、6つの物理量i)〜vi)全てを算出するのではなく、一部のみ、例えば物理量i)のみを算出し、その物理量i)のみを用いて、被測定者の歩行中の腰の位置を定量的に評価してもよい。
【0101】
上述の実施形態では、活動量計100とスマートフォン200とは、BLE通信によって互いに通信を行ったが、これに限られるものではない。例えば、活動量計100とスマートフォン200とは、NFC(Near Field Communication;近距離無線通信)によって、スマートフォン200と活動量計100とが互いに接近したときに通信を行うようにしてもよい。
【0102】
また、上述の実施形態では、本発明の歩行姿勢計を、活動量計100とスマートフォン200とを含むシステムとして構成したが、これに限られるものではない。
【0103】
例えば、本発明の歩行姿勢計を、スマートフォン200のみで構成しても良い。その場合、スマートフォン200が加速度センサを含むものとする。また、スマートフォン200のメモリ220には、制御部210に、ヒトの歩行姿勢が正しい姿勢であるか否かを定量的に評価するプログラム、より詳しくは、歩行中に腰の位置が前寄りになっているか否かを定量的に評価するプログラムをインストールする。これにより、本発明の歩行姿勢計を小型かつコンパクトに構成することができる。
【0104】
また、そのプログラムは、アプリケーションソフトウェアとして、CD、DVD、フラッシュメモリなどの記録媒体に記録することができる。この記録媒体に記録されたアプリケーションソフトウェアを、スマートフォン、パーソナルコンピュータ、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタンツ)などの実質的なコンピュータ装置にインストールすることによって、それらのコンピュータ装置に、ヒトの歩行姿勢が正しい姿勢であるか否かを定量的に評価する方法を実行させることができる。