特許第6131711号(P6131711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131711
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】発射装薬
(51)【国際特許分類】
   F42B 5/38 20060101AFI20170515BHJP
   C06B 25/00 20060101ALI20170515BHJP
   C06B 25/18 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   F42B5/38
   C06B25/00
   C06B25/18
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-106336(P2013-106336)
(22)【出願日】2013年5月20日
(65)【公開番号】特開2014-228167(P2014-228167A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 洋吉
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 一哉
(72)【発明者】
【氏名】宮 重宣
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−317399(JP,A)
【文献】 特開2005−265352(JP,A)
【文献】 特開2012−021685(JP,A)
【文献】 特開平05−105572(JP,A)
【文献】 米国特許第05698811(US,A)
【文献】 特開2013−224238(JP,A)
【文献】 特開2010−132537(JP,A)
【文献】 特表2014−523386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 5/38
C06B 25/00
C06B 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼尽容器内に、ニトロ可塑剤としてジエチレングリコールジナイトレートを含有するトリプルベース発射薬からなる主発射薬が収容された発射装薬であって、
前記焼尽容器内には、ニトロセルロースを含有する点火補助発射薬が、前記主発射薬と共に収容されており、
前記点火補助発射薬は、点火遅れ時間が前記主発射薬よりも短く、且つガス発生速度が前記主発射薬よりも遅いことを特徴とする、発射装薬。
【請求項2】
前記点火補助発射薬は、前記主発射薬よりもニトロセルロースの相対割合が高い組成となっている、請求項1に記載の発射装薬。
【請求項3】
前記点火補助発射薬は、シングルベース発射薬またはダブルベース発射薬である、請求項1または請求項2に記載の発射装薬。
【請求項4】
前記点火補助発射薬は、前記主発射薬よりもウェブサイズが大きい、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発射装薬。
【請求項5】
前記主発射薬及び前記点火補助発射薬の質量総和100質量%に対して、前記点火補助発射薬が5〜25質量%である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の発射装薬。
【請求項6】
前記焼尽容器は、径方向中央部に軸方向の貫通孔を有し、該焼尽容器の内周面には点火薬が配されており、
前記点火補助発射薬は、少なくとも前記焼尽容器内の最内周縁部に配されている、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の発射装薬。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、りゅう弾砲等の火砲用弾薬に使用される、焼尽容器内にトリプルベース発射薬が収容された発射装薬に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、りゅう弾砲等の火砲用弾薬では、発射薬を燃焼させた燃焼ガス圧によって弾丸(飛翔体)を飛翔させる。このような弾丸としては、内部に発射薬が充填された薬莢に固定された固定型弾丸と、内部に発射薬が収容された発射装薬を弾丸とは別体として用いる分離装填型弾丸とに分けられる。発射装薬は、燃焼により焼失する焼尽容器、燃焼ガスを発生させる発射薬、及び発射薬を点火するための点火薬等によって構成される。分離装填型弾丸の場合、発射装薬は、所望する弾丸の射距離に応じて複数個が並べて配され、各発射装薬は、りゅう弾砲の中心軸に配置されている撃発火管等の点火具によって点火される。そのため、点火具から発生する火炎を、連結された全ての発射装薬の点火薬へ円滑に伝播させるために、発射装薬の径方向中央部には軸方向の貫通孔を有し、当該貫通孔内周面に点火薬が配置されている。なお、各発射装薬は、一般的に互いに軸方向へ連結可能なようにモジュール型となっている。
【0003】
ところで、上記発射装薬内に収容される発射薬には、従来からトリプルベース発射薬が使用されることが多い。トリプルベース発射薬は、火薬力を増大しながらも、燃焼温度を抑えて砲身のエロージョン(焼食)を低減し、且つ砲口炎の減少などを目的として開発されたものである。当該トリプルベース発射薬は、ニトロセルロース、ニトロ可塑剤、ニトログアニジンを主成分とし、その他必要に応じて安定剤、消炎剤、光沢剤等の添加物を含有する場合もある。
【0004】
また、ニトロ可塑剤としては、一般的に起爆性の高いニトログリセリンが用いられる。例えば特許文献1でも、発射装薬の発射薬として、ニトロ可塑剤としてニトログリセリンを含むトリプルベース発射薬を主発射薬として使用している。そのうえで特許文献1では、当該主発射薬とともに、主発射薬よりもガス発生速度の速い初速安定化用発射薬を焼尽容器内に収容している。これにより、弾丸射撃の際の初速が安定すると共に、砲身内における負圧差などの異常圧力を抑制することができるとされている。
【0005】
一方、非特許文献1には、トリプルベース発射薬のニトロ可塑剤として、ジエチレングリコールジナイトレートも使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−21685号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】弾道学研学会編集、「火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)」、財団法人防衛技術協会発行、2005年2月2日、P351-352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の発射装薬は、主発射薬よりもガス発生速度の速い初速安定化用発射薬を焼尽容器内に収容することで、停弾の防止や弾丸の初速安定化を図るものではあるが、ニトロ可塑剤として起爆性の高いニトログリセリンを使用しているため、取り扱い時や保存時の安全性に課題を有する。
【0009】
一方、非特許文献1に記載されているような、ニトロ可塑剤としてジエチレングリコールジナイトレートを使用したトリプルベース発射薬であれば、取り扱い時や保存時の安全性は高い。しかし、ジエチレングリコールジナイトレートは低温になるほど着火能力が低下する傾向を有する。そのため、ジエチレングリコールジナイトレートを含有するトリプルベース発射薬を使用した場合は、低温射撃時において発射薬全体の着火性が悪く、且つ点火遅れ時間も長くなるという課題を有する。
【0010】
そこで、本発明者らは、安全性の高いジエチレングリコールジナイトレートを使用したトリプルベース発射薬を用いた場合でも、低温射撃時の着火性を向上できないか鋭意検討を行った結果、主発射薬よりも点火遅れ時間が短く、且つガス発生速度が主発射薬よりも遅い点火補助発射薬を併用することで上記課題を解決することができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、取り扱い時や保存時の安全性が高く、且つ低温射撃時の着火性にも優れる発射装薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのための手段として、本発明は、焼尽容器内に、ニトロ可塑剤としてジエチレングリコールジナイトレートを含有するトリプルベース発射薬からなる主発射薬が収容された発射装薬であって、前記焼尽容器内には、ニトロセルロースを含有する点火補助発射薬が、前記主発射薬と共に収容されている。そのうえで、当該点火補助発射薬は、点火遅れ時間が前記主発射薬よりも短く、且つガス発生速度が前記主発射薬よりも遅いことを特徴とする。なお、「点火遅れ時間」、「ガス発生速度」は、主発射薬及び点火補助発射薬を一定の燃焼容積を有する密閉ボンブ試験装置内に装填比重0.1g/ccとなるように装填した際の、燃焼試験における点火遅れ時間及びガス発生速度を意味している。(密閉ボンブ試験装置及び試験方法の詳細については後述する。)
【0013】
このように、主発射薬としてトリプルベース発射薬を使用していることで、その他の火薬を使用した場合よりも燃焼温度を抑えて砲身のエロージョン(焼食)を根本的に低減することができる。また、火薬力の増大や砲口炎の減少を図ることもできる。そのうえで、当該主発射薬にはニトロ可塑剤としてジエチレングリコールジナイトレートを使用しているので、取り扱い時や保存時における誤爆を避けることができ安全性も高くなっている。しかし、ジエチレングリコールジナイトレートは、ニトログリセリンに比して低温時の着火能力が低い。そこで、点火遅れ時間が主発射薬よりも短い、すなわち火炎の伝播速度が主発射薬よりも速く、且つガス発生速度が主発射薬よりも遅い、すなわち単位時間当たりの燃焼ガス発生量が主発射薬よりも少ない点火補助発射薬を、主発射薬と共に併用することで、例え氷点下のような低温射撃時においても、良好な着火性を確保することができる。
【0014】
点火補助発射薬の点火遅れ時間を主発射薬よりも短くするには、点火補助発射薬におけるニトロセルロースの相対割合を、主発射薬よりも高くすればよい。ニトロセルロースの相対割合を主発射薬よりも高くしてあれば、点火補助発射薬としてトリプルベース発射薬やマルチベース発射薬を使用することもできる。または、点火補助発射薬として、シングルベース発射薬またはダブルベース発射薬を使用することもできる。シングルベース発射薬やダブルベース発射薬であれば、トリプルベース発射薬と比べて本来的にニトロセルロースの相対割合が高い。
【0015】
一方、点火補助発射薬のガス発生速度を主発射薬よりも遅くするには、点火補助発射薬のウェブサイズを主発射薬よりも大きくすればよい。なお、ウェブサイズとは、各発射薬粒における、隣接する孔同士の距離や孔から外周面への距離であって(防衛省規格 弾薬用語 NDSY 0001D)、火炎が接触する対向面同士の距離をいう(図4参照)。
【0016】
なお、前記主発射薬及び前記点火補助発射薬の質量総和100質量%に対して、前記点火補助発射薬の使用量(収容量)は、5〜25質量%とすることが好ましい。点火補助発射薬の使用量が少なすぎると、低温射撃時の着火性を効果的に向上できず、逆に点火補助発射薬の使用量が多すぎると、砲身のエロージョンが発生し易い傾向にあるからである。
【0017】
前記焼尽容器は、径方向中央部に軸方向の貫通孔を有し、該焼尽容器の内周面には点火薬が配されている。そのため、前記点火補助発射薬は、少なくとも前記焼尽容器内の最内周縁部に配すことが好ましい。点火補助発射薬は、主発射薬の着火性を補うものなので、点火補助発射薬が点火薬から離れた部位に配されていると、これによる効果を最大限利用することができなくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発射装薬によれば、取り扱い時や保存時の安全性が高く、且つ低温射撃時の着火性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1の断面図である。
図2】実施形態2の断面図である。
図3】燃焼測定試験で使用する密閉ボンブ試験装置の断面図である。
図4】ウェブサイズを説明する発射薬粒の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の代表的な実施態様について説明する。本発明の発射装薬10は、図1,2に示すように、焼尽容器11内に、主発射薬12及び点火補助発射薬13が収容されており、径方向中央の貫通孔14内に点火薬15が配されている。
【0021】
焼尽容器11は、燃焼によって焼失するものであって、径方向中央部に軸方向の貫通孔14を有する肉厚な(内部空間の幅が大きな)円筒形の容器である。当該焼尽容器11は、主発射薬12や点火補助発射薬13を収容する有底円筒形の収容ケース11aと、該収容ケース11aの開口を閉塞する蓋体11bと、点火薬15を保持する点火薬筒11cとからなる。焼尽容器11(収容ケース11a)の先端部11dは、他の部位に比して僅かに縮径しており、当該縮径部11dが、他の発射装薬10の基端部(蓋体11b)の内側に嵌合することで、複数の発射装薬10を軸方向に連結することができるモジュール型となっている。
【0022】
点火薬筒11cは円筒状の部材であって、収容ケース11aの径方向中央部へ軸方向に配されることで、貫通孔14の内周壁の一部を画成している。そのうえで、点火薬筒11cの内周面には、図外の点火装置によって点火される点火薬15が、薬嚢に袋詰めされた状態で固定されている。
【0023】
焼尽容器11(収容ケース11a、蓋体11b、点火薬筒11c)は、ニトロセルロースやクラフトパルプを主体成分とし、これらがバインダー樹脂によって容器形状に成形されている。バインダー樹脂としては、スチレンブタジエンラテックス、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリブタジエン、ポリウレタンなどを使用できる。また、焼尽容器11には、ニトロセルロースの自然分解を抑制するための安定剤を添加しておくことも好ましい。安定剤としては、エチルセントラリット、ジフェニルアミン、メチルジフェニルウレアなどが挙げられる。
【0024】
主発射薬12は、ニトロセルロース(NC)、ニトロ可塑剤、ニトログアニジン(NQ)を主成分とするトリプルベース発射薬からなり、本発明では、ニトロ可塑剤としてジエチレングリコールジナイトレート(DEGN)が使用されている。また、必要に応じて安定剤、消炎剤、光沢剤等の添加物を添加することもできる。安定剤としてはエチルセントラリットが、消炎剤としては硫酸カリウムや氷晶石が、光沢剤としてはグラファイトが、それぞれ挙げられる。
【0025】
主発射薬12は、燃焼した際に発生する燃焼ガスにより図外の弾丸(飛翔体)を射出するためのものであり、発射装薬10内に多量に収容される。そのため、燃焼温度が高いと砲身のエロージョンが激しくなり砲身命数が短くなるため、燃焼温度が高くならない組成比率にしなければならない。そこで、トリプルベース発射薬からなる主発射薬12を使用することで、火薬力を増大しながらも、燃焼温度を抑えて砲身のエロージョン(焼食)を低減し、且つ砲口炎の減少などを図ることができる。そのうえで、ニトロ可塑剤としてDEGNを使用することで、取り扱い時や保存時などの安全性も高くなる。しかし、DEGNを使用すると、低温になるほど射撃時の着火性が劣る傾向がある。なお、極少量であれば、ニトロ可塑剤としてニトログリセリン(NG)も混用することは否定しないが、NGは含有しないことが好ましい。
【0026】
主発射薬12は所定形状の粒状に形成されており、当該粒状の主発射薬12が焼尽容器11内に多数個収容されている。主発射薬12の形状は、従来からこの種の発射装薬において使用されている形状であれば特に制限はなく、例えば球状、円柱無孔、円柱単孔、円柱7孔、円柱19孔、六角19孔などとすることができる。迅速に多量の燃焼ガスを発生させるためには、円柱単孔、円柱7孔、円柱19孔、六角19孔などの有孔形状が好ましく、中でも、円柱19孔、六角19孔が特に好ましい。
【0027】
点火補助発射薬13は、主発射薬12の低温着火性を補うために併用されるものである。そのため、点火補助発射薬13は、点火遅れ時間が少なくとも主発射薬12よりも短いものを使用する。好ましくは、主発射薬12の点火遅れ時間に対して5〜60%程度のものを使用する。点火遅れ時間が主発射薬12よりも長いと、主発射薬12の着火性を向上させる効果はなく、点火遅れ時間の改善を図ることはできないからである。
【0028】
このような点火補助発射薬13としては、主発射薬12よりもニトロセルロース(NC)の相対割合が高い組成となっているものであればよい。NCは点火遅れ時間が他の火薬成分に比して速く、点火補助発射薬13全体に対する影響も大きいからである。主発射薬12よりもニトロセルロースの相対割合が高い組成となっている限り、主発射薬12と同様のトリプルベース発射薬や、RDXなどの爆薬成分や高エネルギー物質を含有する公知のマルチベース発射薬を使用することもできる。また、シングルベース発射薬やダブルベース発射薬も好適に使用できる。一般的に、シングルベース発射薬はニトロセルロースを主成分とし、ダブルベース発射薬はニトロセルロースとニトログリセリンを主成分としており、本来的にトリプルベース発射薬よりもNCの相対割合が高いからである。なお、点火補助発射薬13は、主発射薬12の補助薬として少量併用されるものであるため、燃焼温度に関しての制限についてはあまり考慮する必要はない。
【0029】
また、点火補助発射薬13のガス発生速度は、主発射薬12よりも遅い必要がある。点火補助発射薬13のガス発生速度が主発射薬12よりも速いと、主発射薬12へ点火が確実に行われる前に点火補助発射薬13が燃え尽きて、主発射薬12の着火性を向上させることが困難となる。しかし、一方で、点火補助発射薬13のガス発生速度が主発射薬12よりもあまりに遅いと、弾丸が砲口から射出するまでに点火補助発射薬13が燃え尽きず、燃焼残渣が発生する可能性がある。そのため、黒色火薬はガス発生速度が極端に遅いので、点火補助発射薬13としては使用できない。ニトロセルロースを含有する点火補助発射薬13であれば、適度なガス発生速度を確保できる。上記傾向を鑑みると、点火補助発射薬13のガス発生速度は、具体的には主発射薬12のガス発生速度に対して30〜99%が好ましく、50〜90%がより好ましい。
【0030】
当該ガス発生速度は、点火補助発射薬13の形状(正確にはウェブサイズW)によって調整することができる。すなわち、点火補助発射薬13も、主発射薬12と同様に所定形状の粒状に形成されて、当該粒状の点火補助発射薬13が焼尽容器11内に多数個収容される。そのうえで、点火補助発射薬13は、そのウェブサイズWを主発射薬12よりも大きくする。なお、ウェブサイズWの定義は図4に示している。具体的には、図4(a)には円柱無孔のウェブサイズWを、図4(b)には円柱単孔のウェブサイズWを、図4(c)には六角19孔のウェブサイズWを、それぞれ例示している。点火補助発射薬13の形状は、ウェブサイズWが主発射薬12よりも大きい限り、主発射薬12と同様に円柱単孔、円柱7孔、円柱19孔、六角19孔などとすることができる。
【0031】
このような点火補助発射薬13を主発射薬12と共に焼尽容器11内へ収容することで、図外の火管により着火された点火薬15の火炎が、点火補助発射薬13を介して主発射薬12へ円滑に伝播され、主発射薬12の低温着火性が向上される。このとき、点火補助発射薬13は、図1に示す実施形態1のように、薬嚢へ袋詰めした分離状態で収容することもできるし、図2に示す実施形態2のように、主発射薬12と混合分散状態で焼尽容器11内へ収容することもできる。但し、いずれの実施形態でも、少なくとも焼尽容器11内の最内周縁部(点火薬筒11cに接する部位)に配すことが好ましい。点火補助発射薬13が点火薬15から離れた部位に配されていると、主発射薬12の低温着火性向上効果が低減するからである。
【0032】
点火補助発射薬13は、主発射薬12と点火補助発射薬13との質量総和100質量%に対して、3〜30質量%であれば使用可能であるが、5〜25質量%とすることが好ましく、5〜20質量%がより好ましい。点火補助発射薬13の配合比率が3重量%未満では、点火補助発射薬13としての効果を十分に発揮させることができず、主発射薬12の着火性を向上させることが困難となる。一方、点火補助発射薬13の配合比率が30重量%を越えると、燃焼温度が高くなり過ぎて砲身のエロージョンが大きくなる傾向にある。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の具体的な実施例等について説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。先ず、以下の試験において燃焼特性を測定するために使用した密閉ボンブ燃焼試験について説明する。
【0034】
<密閉ボンブ燃焼試験>
図3に示すように、ボンブ本体50内に容積が150mlの円柱状をなす燃焼空間51が設けられており、その燃焼空間51内に、燃焼特性の測定対象(主発射薬12や点火補助発射薬13)が装填される。ボンブ本体50の一端側には、燃焼空間51内を密閉する栓体52が装着され、ボルト53により着脱可能になっている。なお、燃焼空間51の容積は、直径35mm、深さ165mmの円柱体の容積から栓体52の一部等の容積を差し引いて算出されたものである。また、ボンブ本体50の一端側には接続配線54を介して点火装置56が接続されると共に、接続配線55はボンブ本体50に接続されている。
【0035】
燃焼空間51内における栓体52の内端面には一対の電極57、58が取り付けられており、一方の電極57には接続配線54が接続され、他方の電極58はボンブ本体50に接続されている。両電極57,58には接続線を介して点火玉(黒色火薬0.5g付き)59が取り付けられている。そして、点火装置56を作動させることにより、接続配線54,55、電極57,58などを経て点火玉59が点火し、燃焼空間51の主発射薬12や点火補助発射薬13を着火させて燃焼させるようになっている。
【0036】
ボンブ本体50の側面には、ガス抜き用バルブ60が取り付けられており、サンプリング管61を介して燃焼空間51と連通されている。このガス抜き用バルブ60から燃焼空間51内のガスをサンプリングし、その燃焼特性を評価できるようになっている。なお、ボンブ本体50の他端面には圧力変換器62が取り付けられ、連通管63を介して燃焼空間51と連通されている。この圧力変換器62により着火遅れ時間やガス発生速度を求めることができるようになっている。
【0037】
そして、栓体52を抜いた状態で燃焼空間51内に主発射薬12や点火補助発射薬13を装填する。その際に装填する薬量は、装填比重0.1g/mlとした。次いで、栓体52を閉め、点火装置56にて燃焼空間51の発射薬12や点火補助発射薬13を着火する。そして、燃焼した際の燃焼時間と燃焼圧力との関係を圧力変換器62を介してオシロスコ−プ(図示せず)にて計測し、点火遅れ時間及びガス発生速度を求めることができる。なお、点火玉への通電開始から最大圧力の10%の圧力となるまでの時間を点火遅れ時間とした。また、燃焼割合が0.2から0.8におけるΔP/Δtをガス発生速度とした。
【0038】
<射撃試験>
次に、射撃試験方法について説明する。射撃試験装置としては、155mmりゅう弾砲と同等の薬室及び砲身(砲身長約4m)を有する射撃試験装置を使用し、質量44kgの弾丸を薬室前方に装填した後、1個の発射装薬を薬室に装填し、薬室を閉鎖装置で閉鎖した後、火管の作動によって発射装薬を点火し弾丸を飛翔させる。その際の薬室内の圧力を計測し、圧力−時間曲線を求めるものである。
【0039】
使用する発射装薬は、外径D1=155mm、長さL1=150mm、空洞部の直径D2=35mmに設定し、焼尽容器の組成はニトロセルロース57質量%、クラフトパルプ28質量%、バインダー樹脂14質量%、安定剤1質量%とした。また、点火薬は、従来からこの種の発射装薬に使用されている黒色火薬5gと多孔質のシングルベース発射薬(CBI)5gを使用し、それらを布製の袋に入れて点火薬筒の内側に設けるものとした。
【0040】
(主発射薬の製造例1−1)
ジエチレングリコールジナイトレート(DEGN)27.0質量%、ニトロセルロース(NC)33.0質量%、ニトログアニジン(NQ)39.0質量%、安定剤1.0質量%とし、ウェブサイズ1.4mmの六角19孔に成形した。製造方法は、捏和、圧伸、裁断、乾燥の工程からなる公知の溶剤圧伸法を用いた。
【0041】
(主発射薬の製造例1−2)
ジエチレングリコールジナイトレート(DEGN)40.0質量%、ニトロセルロース(NC)12.0質量%、ニトログアニジン(NQ)47.0質量%、安定剤1.0質量%とし、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ1.6mmの六角19孔に成形した。
【0042】
得られた主発射薬1−1・1−2の低温時における点火遅れ時間及びガス発生速度を、上述した密閉ボンブ燃焼試験により測定した。具体的には、−40℃に調温した主発射薬1−1・1−2を用いて、点火遅れ時間及びガス発生速度を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0043】
(点火補助発射薬製造例2−1)
ジエチレングリコールジナイトレート(DEGN)35.0質量%、ニトロセルロース(NC)64.0質量%、安定剤1.0質量%のダブルベース発射薬とし、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ2.0mmの単孔管状に成形した。
【0044】
(点火補助発射薬製造例2−2)
ニトロセルロース(NC)91.0質量%、安定剤3.5質量%、可塑剤5.5質量%のシングルベース発射薬とし、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ1.5mmの単孔管状に成形した。
【0045】
(点火補助発射薬製造例2−3)
従来からこの種の発射装薬において一般的に使用されている多孔質のシングルベース発射薬(CBI)により、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ0.6mmの単孔管状に形成した。
【0046】
(点火補助発射薬製造例2−4)
従来からこの種の発射装薬において一般的に使用されている、粉状(平均粒子径0.8mm)の黒色火薬を用いた。当該製造例2−4においては、各黒色火薬の粒径にバラツキがあるため、ウェブサイズは一義的に定まらない。
【0047】
得られた各点火補助発射薬についても、−40℃に調温したうえで、主発射薬1−1・1−2と同様に低温時における点火遅れ時間及びガス発生速度を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0048】
(実施例1)
主発射薬製造例1−1の主発射薬が90質量%、点火補助発射薬製造例2−1の点火補助発射薬が10質量%の割合になるように秤量し、焼尽容器内に主発射薬及び布製の袋に入れた点火補助発射薬を収納して、発射装薬を製造した。なお、布製の袋に入れた点火補助発射薬は、焼尽容器の最内周縁部に設置した。
【0049】
(実施例2〜9)
表3に示す発射薬を、表3に示す質量比となるように秤量して、実施例1と同様に発射装薬を製造した。なお、表3に示す点火補助発射薬の配合比率は、主発射薬及び点火補助発射薬の質量総和100質量%に対する点火補助発射薬の質量比で表している。
【0050】
(実施例10〜11)
主発射薬製造例1−1及び点火補助発射薬製造例2−1を、点火補助発射薬が表3に示す割合で混合分散して焼尽容器内へ収納し、発射装薬を製造した。
【0051】
(比較例1〜4)
表3に示す構成となるように組成物を秤量し、実施例1と同様に発射装薬を製造した。
【0052】
得られた各発射装薬を−40℃に調温したうえで、上記射撃試験装置を用いて射撃試験を行った。これにより得られた低温での点火遅れ時間と焼食性の評価結果も表3に示す。なお、焼食性の評価は、次のようにして行った。
【0053】
<焼食性>
焼食性は、焼食性の指標となる燃焼温度により評価を行った。砲身内面に生じる焼食(エロージョン)を低減させるためにはできるだけ燃焼温度を低くすることが好ましい。燃焼温度は、当該分野で公知の熱平衡計算にて算出し、下記の評価基準にて評価を行った。
◎:熱平衡計算にて算出した燃焼温度が2800K未満
○:熱平衡計算にて算出した燃焼温度が2800K以上2850K未満
△:熱平衡計算にて算出した燃焼温度が2850K以上2900K未満
【0054】
【表3】
【0055】
表3の結果より、点火遅れ時間が主発射薬よりも短く、且つガス発生速度が主発射薬よりも適度に遅い(単位時間当たりのガス発生量が少ない)点火補助発射薬を併用して射撃試験を行った実施例1〜11では、主発射薬の低温着火性が向上したため、いずれも点火遅れ時間は1.7秒以内であり、ニトロ可塑剤としてニトログリセリンを用いた従来の発射装薬(点火遅れ時間は遅くても2秒以内)と同等以下の点火遅れ時間となっていた。
【0056】
特に、実施例1〜5は点火遅れ時間が1.2秒以内で着火性に優れており、且つエロージョンも確実に抑制されていることが確認された。一方、点火補助発射薬の質量比が30%と比較的多い実施例8については、発射装薬として使用可能ではあるが、燃焼温度が高くなり砲身のエロージョンが大きくなる傾向にあることが明らかとなった。また、点火補助発射薬の質量比が3%と比較的少ない実施例9については、点火遅れ時間が1.5秒であり、実施例1〜8と比べて点火遅れ時間が若干劣っていた。さらに、点火補助発射薬の配置方法を混合分散とした実施例10及び11については、分離収容した実施例1〜8と比べて全体的に点火遅れ時間が遅くなっていた。これにより、混合分散収容よりも、分離収容の方が好ましいことが確認された。
【0057】
一方、比較例1では、点火補助発射薬のガス発生速度が主発射薬よりも速いため、射撃試験における低温での点火遅れ時間が2.5秒となり、発射装薬として使用することは困難であることが明らかとなった。また、比較例2の結果から、黒色火薬を併用しても主発射薬の低温着火性を改善できないことが判明した。点火補助発射薬を配合しない比較例3〜4の主発射薬では、いずれも点火遅れ時間が3秒以上となり、発射装薬として使用することは困難であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0058】
10 発射装薬
11 焼尽容器
12 主発射薬
13 点火補助発射薬
15 点火薬
W ウェブサイズ

図1
図2
図3
図4