【実施例】
【0033】
以下に、本発明の具体的な実施例等について説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。先ず、以下の試験において燃焼特性を測定するために使用した密閉ボンブ燃焼試験について説明する。
【0034】
<密閉ボンブ燃焼試験>
図3に示すように、ボンブ本体50内に容積が150mlの円柱状をなす燃焼空間51が設けられており、その燃焼空間51内に、燃焼特性の測定対象(主発射薬12や点火補助発射薬13)が装填される。ボンブ本体50の一端側には、燃焼空間51内を密閉する栓体52が装着され、ボルト53により着脱可能になっている。なお、燃焼空間51の容積は、直径35mm、深さ165mmの円柱体の容積から栓体52の一部等の容積を差し引いて算出されたものである。また、ボンブ本体50の一端側には接続配線54を介して点火装置56が接続されると共に、接続配線55はボンブ本体50に接続されている。
【0035】
燃焼空間51内における栓体52の内端面には一対の電極57、58が取り付けられており、一方の電極57には接続配線54が接続され、他方の電極58はボンブ本体50に接続されている。両電極57,58には接続線を介して点火玉(黒色火薬0.5g付き)59が取り付けられている。そして、点火装置56を作動させることにより、接続配線54,55、電極57,58などを経て点火玉59が点火し、燃焼空間51の主発射薬12や点火補助発射薬13を着火させて燃焼させるようになっている。
【0036】
ボンブ本体50の側面には、ガス抜き用バルブ60が取り付けられており、サンプリング管61を介して燃焼空間51と連通されている。このガス抜き用バルブ60から燃焼空間51内のガスをサンプリングし、その燃焼特性を評価できるようになっている。なお、ボンブ本体50の他端面には圧力変換器62が取り付けられ、連通管63を介して燃焼空間51と連通されている。この圧力変換器62により着火遅れ時間やガス発生速度を求めることができるようになっている。
【0037】
そして、栓体52を抜いた状態で燃焼空間51内に主発射薬12や点火補助発射薬13を装填する。その際に装填する薬量は、装填比重0.1g/mlとした。次いで、栓体52を閉め、点火装置56にて燃焼空間51の発射薬12や点火補助発射薬13を着火する。そして、燃焼した際の燃焼時間と燃焼圧力との関係を圧力変換器62を介してオシロスコ−プ(図示せず)にて計測し、点火遅れ時間及びガス発生速度を求めることができる。なお、点火玉への通電開始から最大圧力の10%の圧力となるまでの時間を点火遅れ時間とした。また、燃焼割合が0.2から0.8におけるΔP/Δtをガス発生速度とした。
【0038】
<射撃試験>
次に、射撃試験方法について説明する。射撃試験装置としては、155mmりゅう弾砲と同等の薬室及び砲身(砲身長約4m)を有する射撃試験装置を使用し、質量44kgの弾丸を薬室前方に装填した後、1個の発射装薬を薬室に装填し、薬室を閉鎖装置で閉鎖した後、火管の作動によって発射装薬を点火し弾丸を飛翔させる。その際の薬室内の圧力を計測し、圧力−時間曲線を求めるものである。
【0039】
使用する発射装薬は、外径D1=155mm、長さL1=150mm、空洞部の直径D2=35mmに設定し、焼尽容器の組成はニトロセルロース57質量%、クラフトパルプ28質量%、バインダー樹脂14質量%、安定剤1質量%とした。また、点火薬は、従来からこの種の発射装薬に使用されている黒色火薬5gと多孔質のシングルベース発射薬(CBI)5gを使用し、それらを布製の袋に入れて点火薬筒の内側に設けるものとした。
【0040】
(主発射薬の製造例1−1)
ジエチレングリコールジナイトレート(DEGN)27.0質量%、ニトロセルロース(NC)33.0質量%、ニトログアニジン(NQ)39.0質量%、安定剤1.0質量%とし、ウェブサイズ1.4mmの六角19孔に成形した。製造方法は、捏和、圧伸、裁断、乾燥の工程からなる公知の溶剤圧伸法を用いた。
【0041】
(主発射薬の製造例1−2)
ジエチレングリコールジナイトレート(DEGN)40.0質量%、ニトロセルロース(NC)12.0質量%、ニトログアニジン(NQ)47.0質量%、安定剤1.0質量%とし、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ1.6mmの六角19孔に成形した。
【0042】
得られた主発射薬1−1・1−2の低温時における点火遅れ時間及びガス発生速度を、上述した密閉ボンブ燃焼試験により測定した。具体的には、−40℃に調温した主発射薬1−1・1−2を用いて、点火遅れ時間及びガス発生速度を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0043】
(点火補助発射薬製造例2−1)
ジエチレングリコールジナイトレート(DEGN)35.0質量%、ニトロセルロース(NC)64.0質量%、安定剤1.0質量%のダブルベース発射薬とし、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ2.0mmの単孔管状に成形した。
【0044】
(点火補助発射薬製造例2−2)
ニトロセルロース(NC)91.0質量%、安定剤3.5質量%、可塑剤5.5質量%のシングルベース発射薬とし、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ1.5mmの単孔管状に成形した。
【0045】
(点火補助発射薬製造例2−3)
従来からこの種の発射装薬において一般的に使用されている多孔質のシングルベース発射薬(CBI)により、製造例1−1と同様の方法によりウェブサイズ0.6mmの単孔管状に形成した。
【0046】
(点火補助発射薬製造例2−4)
従来からこの種の発射装薬において一般的に使用されている、粉状(平均粒子径0.8mm)の黒色火薬を用いた。当該製造例2−4においては、各黒色火薬の粒径にバラツキがあるため、ウェブサイズは一義的に定まらない。
【0047】
得られた各点火補助発射薬についても、−40℃に調温したうえで、主発射薬1−1・1−2と同様に低温時における点火遅れ時間及びガス発生速度を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0048】
(実施例1)
主発射薬製造例1−1の主発射薬が90質量%、点火補助発射薬製造例2−1の点火補助発射薬が10質量%の割合になるように秤量し、焼尽容器内に主発射薬及び布製の袋に入れた点火補助発射薬を収納して、発射装薬を製造した。なお、布製の袋に入れた点火補助発射薬は、焼尽容器の最内周縁部に設置した。
【0049】
(実施例2〜9)
表3に示す発射薬を、表3に示す質量比となるように秤量して、実施例1と同様に発射装薬を製造した。なお、表3に示す点火補助発射薬の配合比率は、主発射薬及び点火補助発射薬の質量総和100質量%に対する点火補助発射薬の質量比で表している。
【0050】
(実施例10〜11)
主発射薬製造例1−1及び点火補助発射薬製造例2−1を、点火補助発射薬が表3に示す割合で混合分散して焼尽容器内へ収納し、発射装薬を製造した。
【0051】
(比較例1〜4)
表3に示す構成となるように組成物を秤量し、実施例1と同様に発射装薬を製造した。
【0052】
得られた各発射装薬を−40℃に調温したうえで、上記射撃試験装置を用いて射撃試験を行った。これにより得られた低温での点火遅れ時間と焼食性の評価結果も表3に示す。なお、焼食性の評価は、次のようにして行った。
【0053】
<焼食性>
焼食性は、焼食性の指標となる燃焼温度により評価を行った。砲身内面に生じる焼食(エロージョン)を低減させるためにはできるだけ燃焼温度を低くすることが好ましい。燃焼温度は、当該分野で公知の熱平衡計算にて算出し、下記の評価基準にて評価を行った。
◎:熱平衡計算にて算出した燃焼温度が2800K未満
○:熱平衡計算にて算出した燃焼温度が2800K以上2850K未満
△:熱平衡計算にて算出した燃焼温度が2850K以上2900K未満
【0054】
【表3】
【0055】
表3の結果より、点火遅れ時間が主発射薬よりも短く、且つガス発生速度が主発射薬よりも適度に遅い(単位時間当たりのガス発生量が少ない)点火補助発射薬を併用して射撃試験を行った実施例1〜11では、主発射薬の低温着火性が向上したため、いずれも点火遅れ時間は1.7秒以内であり、ニトロ可塑剤としてニトログリセリンを用いた従来の発射装薬(点火遅れ時間は遅くても2秒以内)と同等以下の点火遅れ時間となっていた。
【0056】
特に、実施例1〜5は点火遅れ時間が1.2秒以内で着火性に優れており、且つエロージョンも確実に抑制されていることが確認された。一方、点火補助発射薬の質量比が30%と比較的多い実施例8については、発射装薬として使用可能ではあるが、燃焼温度が高くなり砲身のエロージョンが大きくなる傾向にあることが明らかとなった。また、点火補助発射薬の質量比が3%と比較的少ない実施例9については、点火遅れ時間が1.5秒であり、実施例1〜8と比べて点火遅れ時間が若干劣っていた。さらに、点火補助発射薬の配置方法を混合分散とした実施例10及び11については、分離収容した実施例1〜8と比べて全体的に点火遅れ時間が遅くなっていた。これにより、混合分散収容よりも、分離収容の方が好ましいことが確認された。
【0057】
一方、比較例1では、点火補助発射薬のガス発生速度が主発射薬よりも速いため、射撃試験における低温での点火遅れ時間が2.5秒となり、発射装薬として使用することは困難であることが明らかとなった。また、比較例2の結果から、黒色火薬を併用しても主発射薬の低温着火性を改善できないことが判明した。点火補助発射薬を配合しない比較例3〜4の主発射薬では、いずれも点火遅れ時間が3秒以上となり、発射装薬として使用することは困難であることが明らかとなった。