特許第6131712号(P6131712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131712二核金属錯体化合物、及びこれを使用した有機エレクトロルミネッセンス素子
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  • 特許6131712-二核金属錯体化合物、及びこれを使用した有機エレクトロルミネッセンス素子 図000030
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131712
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】二核金属錯体化合物、及びこれを使用した有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C07F 19/00 20060101AFI20170515BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20170515BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170515BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20170515BHJP
   C07F 7/12 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
   C07F19/00CSP
   C09K11/06 660
   H05B33/14 B
   !C07F15/00 E
   !C07F7/12 W
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-106788(P2013-106788)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-227363(P2014-227363A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 康裕
(72)【発明者】
【氏名】藤田 陽師
(72)【発明者】
【氏名】本間 貴志
(72)【発明者】
【氏名】町田 利一
(72)【発明者】
【氏名】山田 奈津子
【審査官】 清水 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/074111(WO,A1)
【文献】 特開2006−290891(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0111691(KR,A)
【文献】 特開2003−146996(JP,A)
【文献】 特開2011−136947(JP,A)
【文献】 Lee, Jaemin; Park, Chan Hyuk; Kwon, Jiyoung; Yoon, Sung Cheol; Do, Lee-Mi; Lee, Changjin,Improved performance of solution-processable OLEDs by silyl substitution to phosphorescent iridium complexes,Synthetic Metals,2012年,162(21-22),1961-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 19/00
C09K 11/06
H01L 51/50
C07F 7/12
C07F 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される二核金属錯体化合物。
【化1】
(式中、M及びMは、いずれもIrを示す。AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。ZはCH又はNを示す。)
【請求項2】
陰極と陽極との間に有機化合物層を備える、単層又は多層の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、請求項1に記載の錯体化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項記載の素子が、バッファ層、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を含む請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
発光層に、更に、3,5−ビス(3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ピリジン)を含む請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
発光層における二核金属錯体化合物と3,5−ビス(3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ピリジン)との含有率が、40:60〜3:97質量%である請求項3〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
発光層における二核金属錯体化合物が、前記電極間に電圧を印加することにより燐光を発光することを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
下記一般式(3)で示されるピリジン化合物と、Irを含むハロゲン化物とを反応させることを特徴とする、下記一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物の製造方法。
【化2】
(式中、AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
【化3】
(式中、M及びMは、いずれもIrを示す。AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項8】
塩基の存在下、下記一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物と、下記一般式(5)で示されるビイミダゾール化合物とを反応させることを特徴とする、下記一般式(6)で示される二核金属錯体化合物の製造方法。
【化4】
(式中、M及びMは、いずれもIrを示す。AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。Xはハロゲン原子を示す。)
【化5】
(式中、R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
【化6】
(式中、M及びMは、いずれもIrを示す。AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
【請求項9】
下記一般式(3)で示されるピリジン化合物と、Irを含むハロゲン化物とを反応させ、下記一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物を製造し、次いで塩基の存在下でハロゲン化二核金属錯体化合物と、下記一般式(5)で示されるビイミダゾール化合物とを反応させることを特徴とする、下記一般式(6)で示される二核金属錯体化合物の製造方法。
【化7】
(式中、AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
【化8】
(式中、M及びMは、いずれもIrを示す。AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。Xはハロゲン原子を示す。)
【化9】
(式中、R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
【化10】
(式中、M及びMは、いずれもIrを示す。AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
【請求項10】
下記一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物。
【化11】
(式中、M及びMは、いずれもIrを示す。AはSiを示し、ピリジン環の4位の炭素と結合している。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、少なくとも2つはアルキル基である。R、R及びR炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前述のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項11】
有機エレクトロルミネッセンス素子における、請求項に記載の二核金属錯体化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二核金属錯体化合物、及びこれを発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称することもある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、次世代ディスプレイ及び次世代照明として有望視され、国内外で活発に研究開発が行われている(例えば、特許文献1)。この理由として、視認性が優れていること、応答速度が非常に速いこと、バックライト不要のため薄くできること、等が挙げられる(例えば、非特許文献1)。今後、有機EL素子の普及に向けて、さらなる研究開発が急務である。
【0003】
典型的な有機EL素子は、陽極と陰極との間に挟まれた状態で少なくとも一つの発光層が配置されており、電流を印加することにより、陽極からは正孔が、陰極からは電子が発光層に注入される。この際、注入された正孔は陰極へ、電子は陽極へ移動する。この移動の際、電子と正孔とが同じ分子上に局在した時、励起子を形成する。この励起子が緩和される際、光が放射される。放射される光は蛍光と燐光に分けられるが、熱的なエネルギー緩和の起きやすさが異なるため、量子効率が異なる。蛍光型では、一重項励起状態を経由するため、有機EL素子の内部量子効率は25%が限界といわれている。一方、燐光型では、三重項励起状態を経由するため、理論上内部量子効率が100%まで高められることが知られている。したがって、近年では燐光型の有機EL素子の研究開発が盛んに行われている(例えば、特許文献2)。
【0004】
前述の発光層については数多くの検討がなされ、現状多くの発光層は電子や正孔の電荷輸送を担当する材料(ホスト材料)と、発光を担当するドーパント(ゲスト材料)から成る。ゲスト材料はイリジウムや白金などの原子を有する錯体であることが多く、重原子効果により燐光を発しやすい化合物であることが多い。このゲストはホストに対し少量を添加し、均一に分散されている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
前述の通り、燐光発光は、三重項励起子を利用した発光であるため、ホスト材料のHOMO−LUMOのエネルギーギャップは大きくなくてはならない。なぜなら、三重項励起状態のエネルギーギャップは一重項励起状態のエネルギーギャップより小さいからである。従って、燐光発光性ゲスト材料の三重項エネルギーを効率的に素子内に閉じ込めるためには、ホスト材料の三重項励起状態よりもエネルギーギャップの小さい燐光発光性ゲスト材料を用いる必要がある(例えば、特許文献2)。
【0006】
本発明は、ゲスト材料に関する発明である。このゲスト化合物として、有機EL素子の高効率化や色純度の向上、長寿命化を目的に、種々の金属錯体化合物が報告されている(例えば、特許文献3、4)。
【0007】
これまで金属二核錯体化合物、特にイリジウムの二核錯体化合物については数多くの検討が行われており(例えば、非特許文献2〜4)、こうした金属二核錯体化合物が有機EL素子として有用な錯体化合物の1つであることも分かっている(例えば、特許文献5)。さらに、ビイミダゾールを架橋配位子としたイリジウム二核錯体化合物としては、例えば、2,4−ジフルオロフェニルピリジナト、2,6’−ジフルオロビピリジナトを配位子とする二種の錯体化合物が開示されている(例えば、特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/046455号公報
【特許文献2】特開2013−35752号公報
【特許文献3】特開2011−136947号公報
【特許文献4】特開2008−147354号公報
【特許文献5】特開2003−73388号公報
【特許文献6】国際公開第2012/074111号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】THE CHEMICAL TIMES 2010, No.2(通巻216号), 2−8.
【非特許文献2】Inorg. Chem. 1990, 29, 4699−4702.
【非特許文献3】J. Am. Chem. SOC. 1984, 106, 3027−3029.
【非特許文献4】Organometallics, 1985, 4, 1107−1114.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の通り、燐光発光性ゲスト材料の三重項エネルギーを効率的に素子内に閉じ込めるためには、ホスト材料の三重項励起状態よりもエネルギーギャップの小さい燐光発光性ゲスト材料を用いる必要がある。さらに、ホストからゲストへ電子が移動するためには、分子の対称性や三重項励起状態のエネルギーギャップが近接していることなど、数多くの条件を満たさなければならない。こうした条件を満たすために、各種置換基の導入により、分子の対称性や電子密度を調整することは可能であるが、体系的な知見が蓄積されていないことが現状である。したがって、前述の文献には、シリル基やゲルミル基の導入方法、及びその導入による最大輝度や電流効率の向上について明示も示唆もされていない。
前述の文献では、シリル基やゲルミル基の導入の効果の検討どころか、有機EL素子としての評価自体が全く行われていないものもあり、二核金属錯体化合物の有機EL素子としての有用性についてはほとんど明らかになっていない。有機EL素子としての評価が行われたものについても、最大輝度、電流効率などについては必ずしも十分と言えるものではない。特許文献6では二核金属錯体化合物が十分に有用であることは示されているが、より高い電流効率を有する有機EL素子、及びこれに用いる発光材料の提案が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は、一般式(1)で示される二核金属錯体化合物によって解決される。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、M及びMは、同一又は異なっていても良く、Ru、Rh、Pd、Os、Ir又はPtを示す。AはSi又はGeを示し、ピリジン環の3〜6位いずれの炭素と結合していてもよい。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前記のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。ZはCH又はNを示す。)
【0014】
本発明の課題は、陰極と陽極との間に有機化合物層を備える、単層又は多層の有機EL素子であって、前記一般式(1)の二核金属錯体化合物を含有することを特徴とする有機EL素子によっても解決される。
【0015】
本発明の課題は、下記一般式(3)で示されるピリジン化合物と、Ru、Rh、Pd、Os、Ir及びPtから選ばれる少なくとも1種の金属を含むハロゲン化物とを反応させ、下記一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物を製造し、次いで塩基の存在下、ハロゲン化二核金属錯体化合物と、下記一般式(5)で示されるビイミダゾール化合物とを反応させることを特徴とする、下記一般式(6)で示される二核金属錯体化合物の製造方法によっても解決される。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、A、R、R及びRは前記と同義である。)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、A、R、R及びRは前記と同義である。Xはハロゲン原子を示す。)
【0020】
【化4】
【0021】
(式中、R、R、R及びRは前記と同義である。)
【0022】
【化5】
【0023】
(式中、A、R、R、R、R、R、R及びRは前記と同義である。)
【0024】
本発明の課題は下記一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物によっても解決される。
【0025】
【化6】
【0026】
(式中、X、A、R、R及びRは前記と同義である。)
【0027】
本発明の課題は、有機EL素子において、前記一般式(1)の二核金属錯体化合物を使用することによっても解決される。
【発明の効果】
【0028】
前述の通り、ホスト材料やゲスト材料に置換基を導入することによって、有機EL素子の輝度や色、電流効率等が顕著に向上することが期待された。本発明では、検討を進めた結果、数ある置換基の中からシリル基とゲルミル基を選択し、これらを導入した二核金属錯体化合物を合成した。さらに、この二核金属錯体化合物を発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の電流効率を向上させることを実現した。
本発明により、最大輝度、電流効率などが良好な二核金属錯体化合物を発光層に含む有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例の有機EL素子の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<二核金属錯体化合物>
本発明の二核金属錯体化合物は、下記の一般式(1)の二核金属錯体化合物である。以下、本化合物について詳細に説明する。
【0031】
【化7】
【0032】
(式中、M及びMは、同一又は異なっていても良く、Ru、Rh、Pd、Os、Ir又はPtを示す。AはSi又はGeを示し、ピリジン環の3〜6位いずれの炭素と結合していてもよい。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前記のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。ZはCH又はNを示す。)
【0033】
前記一般式(1)記載の置換基AはSi又はGeのいずれでも良いが、好ましくはSiである。
【0034】
前記一般式(1)記載の置換基Aはピリジン環上の3〜6位いずれの炭素原子と結合していても良いが、下記一般式(2)で示されるように、ピリジン環の4位の炭素と結合していることが好ましい。
【0035】
【化8】
【0036】
(式中、M及びMは、同一又は異なっていても良く、Ru、Rh、Pd、Os、Ir又はPtを示す。AはSi又はGeを示す。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前記のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。ZはCH又はNを示す。)
【0037】
前記M及びMは、Ru、Rh、Pd、Os、Ir又はPtであり、好ましくはRh、Irであり、更に好ましくはIrである。なお、M及びMは、同一又は異なっていても良いが、同一であることが好ましい。
【0038】
前記R、R及びRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、シクロブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基などの直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜6のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基等の炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基、更に好ましくはメチル基又はフェニル基である。前記のアルキル基及びアリール基上の任意の水素原子は後述のハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、これらのR、R及びRは、同一あっても異なっていても良いが、少なくとも2つの置換基はアルキルキ基であることが好ましく、少なくとも2つのアルキル基はメチル基であることが更に好ましい。また、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。
【0039】
前記水素原子の置換基であるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0040】
前記水素原子の置換基であるアルキル基としては、炭素数1〜20、特に炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、及びドデシル基等が挙げられる。なお、これら置換基は、その異性体も含む。
【0041】
前記水素原子の置換基であるシクロアルキル基としては、炭素数5〜8のシクロアルキル基が好ましく、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及びシクロオクチル基等が挙げられる。
【0042】
前記水素原子の置換基であるアルケニル基としては、炭素数2〜20、特に炭素数2〜12のアルケニル基が好ましく、例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、及びドデセニル基等が挙げられる。なお、これら置換基は、その異性体も含む。
【0043】
前記水素原子の置換基であるアリール基としては、炭素数6〜12のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、トリル基(及びその異性体)、キシリル基(及びその異性体)、ナフチル基(及びその異性体)、及びジメチルナフチル基(及びその異性体)等が挙げられる。
【0044】
前記水素原子の置換基であるアラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、例えばベンジル基、ナフチルメチル基、インデニルメチル基、及びビフェニルメチル基などが挙げられる。
【0045】
前記水素原子の置換基であるアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンタノキシ基、ヘキサノキシ基、ヘプタノキシ基、オクタノキシ基、ノナノキシ基、及びデカノキシ基等が挙げられる。なお、これら置換基は、その異性体も含む。
【0046】
前記水素原子の置換基であるアリールオキシ基としては、炭素数6〜14のアリールオキシ基が好ましく、フェノキシ基、トリロキシ基、キシリロキシ基、ナフトキシ基、及びジメチルナフトキシ基等が挙げられる。なお、これら置換基は、その異性体も含む。
【0047】
前記R、R、R及びRとしては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−オクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜10のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が挙げられ、より好ましくは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基、更に好ましくは水素原子又はメチル基である。なお、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていても良いが、同一であることが好ましい。また、R、R、R及びRのうち、隣接しているR及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。
【0048】
前記ZがCHの場合にはベンゼン骨格、ZがNの場合にはピリジン骨格を形成する。
【0049】
なお、本発明の二核イリジウム錯体化合物は、特許文献6記載の方法に準じて製造することができる。
【0050】
<有機EL素子>
本発明の有機EL素子は、陰極と陽極との間に有機化合物層を備え、単層又は多層の素子であって、前記の一般式(1)の二核金属錯体化合物を発光層に含むものである。
【0051】
<素子構成>
次に、本発明の有機EL素子の構成について説明する。本発明の有機EL素子は本発明の二核金属錯体化合物、特にはイリジウム錯体化合物を含有するものである。本発明の二核金属錯体化合物は、通常、発光材料として使用される。
本発明の有機EL素子は、本発明の二核金属錯体化合物が例えば発光層等において使用される以外、公知の構造、材料を使用することができる。
【0052】
本発明の有機EL素子は、好ましくは一対の電極間に単層又は多層の有機化合物層を有する有機EL素子であり、本発明の二核金属錯体化合物を、有機化合物薄層のうちの少なくとも1層に含むものである。なお、有機化合物層とは、バッファ層、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等である。この中で、本発明の二核金属錯体化合物は発光層に含まれることが好ましい。
【0053】
単層型の有機EL素子は、陽極と陰極との間に発光層を有する。発光層は、発光材料を含有し、更に、陽極から注入したホール、又は陰極から注入した電子を発光材料まで輸送させるための有機化合物層に用いられる材料、例えば、ホール輸送材料や電子輸送材料を含有してもよい。
【0054】
多層型の有機EL素子としては、例えば、(陽極/バッファ層/ホール輸送層/発光層/ホール阻止層/電子輸送層/陰極)や(陽極/バッファ層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)等の多層構成が挙げられるが、他に(陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/ホール阻止層/電子輸送層/金属酸化物層/陰極)、(陽極/ホール注入層/発光層/陰極)、(陽極/発光層/電子輸送層/陰極)、(陽極/ホール注入層/発光層/電子輸送層/陰極)等の多層構成も挙げられ、その構成はこれらに限定されるものではない。
【0055】
また、バッファ層、ホール輸送層、電子輸送層、及び発光層のそれぞれの層は、一層構造であっても、多層構造であってもよい。又、ホール輸送層、電子輸送層は、それぞれの層で、注入機能を有する層(ホール注入層及び電子注入層)と輸送機能を有する層(ホール輸送層及び電子輸送層)を別々に設けることもできる。
【0056】
本発明の有機EL素子では、発光層における二核金属錯体化合物が、前記電極間に電圧を印加することにより燐光を発光することを特徴とする。
【0057】
以下、本発明の有機EL素子の構成要素に関して、(陽極/バッファ層/ホール輸送層/発光層/ホール阻止層/電子輸送層/陰極)の素子構成を例に詳細に説明する。
【0058】
本発明の有機EL素子において有機層の発光層のホスト材料として使用される材料は、公知のホスト材料の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、3,5−ビス(3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ピリジン)、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)−1,1’−ビフェニル(CBP)、1,3−ジ(N−カルバゾリル)ベンゼン(mCP)、2,2’―ジ〔4’’−(N−カルバゾリル)フェニル〕−1,1’−ビフェニル(4CzPBP)、ジフェニルジ(o−トリル)シラン、p−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、4、4’、4’’−トリス(N−カルバゾリル)−トリフェニルアミン(TCTA)、49,10−ビス−〔1,1,3’,1’〕ターフェニル−5’−イル−アントラセン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明の二核金属錯体は、通常、発光層においてホスト材料と組み合わせて使用され、その場合、発光材料である本発明の二核金属錯体はホスト材料に対して、好ましくは0.005質量%〜40質量%、より好ましくは3質量%〜40質量%、更に好ましくは3質量%〜10質量%の量で使用される。
【0060】
ホール阻止層として使用される材料(以下、ホール阻止材料という)は、公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(トリフェニルシラノラート)アルミニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
電子輸送層として使用される材料(以下、電子輸送材料という)は、公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、フルオレン、フェナントロリン、バソフェナントロリン、バソクプロイン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、アントラキノジメタン、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等や、それらの化合物、金属錯体化合物もしくは含窒素五員環誘導体を挙げることができる。金属錯体化合物としては、具体的には、8−ヒドロキシキノリナートリチウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(o−クレゾラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノラート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、上記の含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾールもしくはトリアゾール誘導体が好ましい。具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4’−ビフェニル)1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4ートリアゾール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、ポリマー有機発光素子に使用されるポリマー材料も使用することができる。例えば、ポリパラフェニレン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
一方、ホール輸送層として使用される材料(以下、ホール輸送材料という)は、公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、p,p’−[N,N’−テトラ(p−トルイル)ジアニリノ−o,o’−ビフェニル](3DTAPBP)等の芳香族ジアミン化合物、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリアリールアルカン、4,4’,4’−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン、及びポリビニルカルバゾール等の高分子材料が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0063】
又、有機EL素子には、ホールの注入性向上のために、ホール輸送層と陽極との間にバッファ層を設けることができる。バッファ層に用いる材料としては、公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。バッファ層に用いる材料として、より好適には、上記ホール輸送材料に酸化モリブデンを1質量%〜30質量%ドープしたものが使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
陽極に使用される導電性材料としては、仕事関数が4eV前後より大きいもの、例えば、炭素原子、アルミニウム、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、タングステン、銀、金、白金、パラジウム及びそれらの合金、ITO(酸化インジウムに酸化スズを5〜10%添加した物質)基板、NESA基板に使用される酸化スズ、酸化インジウム等の酸化金属、更にポリチオフェンやポリピロール等の有機導電性樹脂を用いることが出来る。ただし、陽極に使用される導電性材料の仕事関数が当該素子の陰極に使用される導電性材料の仕事関数より0.1eV以上大きなものを用いることが望ましい。
【0065】
陰極に使用される導電性材料としては、仕事関数が4eV前後より小さいもの、例えば、マグネシウム、カルシウム、錫、鉛、チタニウム、イットリウム、リチウム、ルテニウム、マンガン、アルミニウム等又はそれらの合金を用いることが出来る。ここで合金としては、マグネシウム/銀、マグネシウム/インジウム、リチウム/アルミニウム等が挙げられる。合金の比率は、蒸着源の温度、雰囲気、真空度等により制御され、特に限定されない。ただし、陰極に使用される導電性材料の仕事関数が当該素子の陽極に使用される導電性材料の仕事関数より0.1eV以上小さいものを用いることが望ましい。
【0066】
陽極及び陰極は、必要があれば二層以上の層構成により形成されていてもよい。
【0067】
本発明の有機EL素子は、電子注入性向上のために、電子輸送層と陰極との間に電子注入層を設けることも出来る。電子注入層に用いる材料として、例えば、LiF等のアルカリ金属フッ化物;BaF、SrF等のアルカリ土類金属フッ化物;LiO等のアルカリ金属酸化物;RaO、SrO等のアルカリ土類金属酸化物を用いることが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本発明の有機EL素子は、少なくとも一方の面は素子の発光波長領域において透明であることが望ましい。又、基板も透明であることが望ましい。
【0069】
透明電極は、例えば、前記の導電性材料を使用して、蒸着又はスパッタリング等の方法で、所定の透光性を確保するように設定して形成することができる。
【0070】
発光面の電極は、光透過率を10%以上にすることが望ましい。
【0071】
基板は、機械的、熱的強度を有し、透明性を有するものであれば特に限定されるものではないが、ガラス基板又は透明性樹脂フィルムが好適に使用される。
【0072】
透明性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0073】
本発明の有機EL素子は、温度、湿度、雰囲気等に対する安定性の向上のために、素子の表面に保護層を設けるか、又はシリコンオイル、樹脂等により素子全体を保護してもよい。
【0074】
また、有機EL素子の各層の形成は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法、又はスピンコーティング、ディッピング、フローコーティング等の湿式成膜法のいずれかを適用することができる。各層の膜厚は特に制限されないが、好ましくは0.1nm〜10μm、更に好ましくは0.5nm〜0.2μmである。
【0075】
湿式成膜法の場合、各層に使用する材料をエタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、クロロベンゼン、イオン交換水等の溶媒に溶解又は分散させたものを用いて、薄膜を調製(成膜)することが出来る。
【0076】
<製造方法>
本願発明の一般式(6)で示される二核金属錯体化合物の製造方法は下記の反応工程式(1)で示される。
【0077】
【化9】
【0078】
(式中、M及びMは、同一又は異なっていても良く、Ru、Rh、Pd、Os、Ir又はPtを示す。AはSi又はGeを示し、ピリジン環の3〜6位いずれの炭素と結合していてもよい。R、R及びRは、同一又は異なっていても良く、炭素数6〜14のアリール基又は炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。前記のアリール基及びアルキル基上の任意の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていても良い。なお、R、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。R、R、R及びRは同一又は異なっていても良く、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。なお、R及びR、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。X及びXはハロゲン原子を示す。ハロゲン化二核金属錯体化合物中の2つのXはX又はXを示し、同一又は異なっていても良い。mはM中のMに対するXの元素比を表し、nはM中のMに対するXの元素比を表す。m及びnは1〜5の整数である。)
【0079】
本製造方法の一つ目の工程は前記一般式(3)で示されるピリジン化合物とRu、Rh、Pd、Os、Ir及びPtから選ばれる少なくとも1種の金属を含むハロゲン化物とを反応させ、前記一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物を製造する。この工程は錯体合成工程と称することもある。
二つ目の工程は塩基の存在下でハロゲン化二核金属錯体化合物と前記一般式(5)で示されるビイミダゾール化合物とを反応させ、前記一般式(6)で示される二核金属錯体化合物を製造する。この工程は配位子交換工程と称することもある。
これら二工程について順次説明する。ただし、A、M、M、R〜Rについては前記と同義である。
【0080】
(錯体合成工程)
反応工程式(1)中のM及びMは、Ru、Rh、Pd、Os、Ir又はPtであり、好ましくはRh、Irであり、更に好ましくはIrである。M及びMは同一又は異なっていても良い。
【0081】
反応工程式(1)中のX及びXはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、更に好ましくは塩素原子である。X及びXは同一又は異なっていても良い。また、ハロゲン化二核金属錯体化合物中の2つのXはX又はXを示し、同一又は異なっていても良い。mはM中のMに対するXの元素比を表し、nはM中のMに対するXの元素比を表す。m及びnは同一又は異なっていても良く、1〜5の整数である。
【0082】
金属のハロゲン化物M及びMとしてはIrCl、IrBr、PdCl、PtClなどが挙げられるが、好ましくはIrClである。また、M及びMは水和物でもよい。
【0083】
錯体合成工程で使用するハロゲン化物M及びMの使用量の合計は、一般式(3)で示されるピリジン化合物1モルに対して、好ましくは0.3モル〜0.6モル、更に好ましくは0.4モル〜0.5モルである。この範囲とすることで、高い反応速度を維持しながら、反応後における反応液からの未反応の原料の分離や副生成物の生成の抑制を容易にすることができる。
【0084】
本工程の反応においては、溶媒の存在下で行うことが望ましく、使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、エトキシエタノールなどのアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;N,N’−ジメチル尿素などの尿素類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、水が挙げられるが、好ましくはアルコール類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0085】
前記溶媒の使用量は、反応の均一性や攪拌性により適宜調節するが、一般式(3)で示されるピリジン化合物1gに対して、好ましくは5ml〜30ml、更に好ましくは10ml〜20mlである。この範囲とすることで、良好な攪拌性を維持しながら、副生成物の生成を抑制することができる。
【0086】
本工程の反応における反応温度は、使用する溶媒によって適宜調節するが、好ましくは70℃〜150℃、更に好ましくは100℃〜130℃であり、反応圧力は特に制限されない。この範囲とすることで、高い反応速度を維持しながら、反応による副生成物の発生を抑制することができる。
【0087】
本工程の反応は空気中、不活性ガス中いずれにおいても行うことができるが、不活性ガス中で行うことが好ましい。なお、不活性ガスとは、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0088】
本発明の錯体合成工程によって一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物が得られる。これは、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの一般的な方法によって単離・精製される。
【0089】
(配位子交換工程)
配位子交換工程で使用する、一般式(5)で示されるビイミダゾール化合物の使用量は、一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物1モルに対して、好ましくは0.8モル〜2.0モル、更に好ましくは1.0モル〜1.5モルである。この範囲とすることで、高い反応速度を維持しながら、反応後における反応液からの未反応の原料の分離や副生成物の生成の抑制を容易にすることができる。
【0090】
本工程において使用する塩基は、具体的には、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、tert−ブトキシドカリウムなどの金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのカルボン酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジンなどのアミン類;ピリジンなどの含窒素複素環化合物類;カリウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド;メチルリチウム、ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウムが挙げられるが、好ましくは金属アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、更に好ましくは金属アルコキシドが使用される。なお、これらの塩基は単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0091】
前記塩基の使用量は、一般式(5)で示されるビイミダゾール化合物1モルに対して、好ましくは1.5モル〜3.0モル、更に好ましくは2.0モル〜2.5モルである。なお、塩基は水溶液やアルコールなどの有機溶媒溶液(例えば、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液)として使用しても良い。この範囲とすることで、高い反応速度を維持しながら、反応後における反応液からの塩基の除去を容易とすることができる。
【0092】
本工程の反応においては、溶媒の存在下で行うことが望ましく、使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、エトキシエタノールなどのアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;N,N’−ジメチル尿素などの尿素類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、水が挙げられるが、好ましくはエーテル類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0093】
前記溶媒の使用量は、反応の均一性や攪拌性により適宜調節するが、一般式(4)で示されるハロゲン化二核金属錯体化合物1gに対して、好ましくは50ml〜200ml、更に好ましくは100ml〜150mlである。この範囲とすることで、良好な攪拌性を維持しながら、副生成物の生成を抑制することができる。
【0094】
本工程の反応における反応温度は、使用する溶媒によって適宜調節するが、好ましくは10℃〜120℃、より好ましくは20℃〜80℃、更に好ましくは20℃〜40℃であり、反応圧力は特に制限されない。この範囲とすることで、高い反応速度を維持しながら、反応による副生成物の発生を抑制することができる。
【0095】
本工程の反応は空気中、不活性ガス中いずれにおいても行うことができるが、不活性ガス中で行うことが好ましい。なお、不活性ガスとは、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0096】
本発明の配位子交換工程によって前記一般式(6)で示される二核金属錯体化合物が得られる。これは、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの一般的な方法によって単離・精製される。
【0097】
<用途>
本発明に係る有機EL素子は、公知の方法で、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、上記有機EL素子は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
【0098】
本発明に係る有機EL素子は、具体的には、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダー等の表示装置、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信などに好適に用いられる。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて、更に本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0100】
参考例1(2−クロロ−4−ジメチルフェニルシリル−ピリジンの合成)
【0101】
【化10】
【0102】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた50mlシュレンク管に、2−クロロ−4−ヨードピリジン1.68g(7.0mmol)、ジエチルエーテル21mlを加え、−78℃に冷却した後、ノルマルブチルリチウム(1.6M/ヘキサン)4.4ml(7.0mmol)を加え1時間攪拌した後、ジメチルフェニルシリルクロライド1.2ml(7.0mmol)を加え、攪拌しながら室温(20℃〜30℃)で16時間反応させた。反応後、反応液に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出した。さらに、得られた水層を酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を合わせて水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(容量比;30/1))で精製し、黄色液体である目的物を1.14g得た。(単離収率;66%)
なお、得られた2−クロロ−4−ジメチルフェニルシリル−ピリジンは、以下の物性値で示される化合物である。
【0103】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));8.30(dd,1H)、7.52−7.49(m,2H)、7.44−7.36(m,4H)、7.30−7.28(m,1H)、0.58(s,6H)
EI−MS;(M/Z)247(M
【0104】
参考例2(2’,6’−ジフルオロ−4−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジンの合成)
【0105】
【化11】
【0106】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた100mlシュレンク管に、2−クロロ−4−ジメチルフェニルシリル−ピリジン1.1g(4.4mmol)、2,4−ジフルオロピリジンボロン酸706mg(4.44mmol)テトラヒドロフラン22ml、炭酸カリウム614mg(4.44mmol)、水9ml、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム254mg(0.22mmol)を加え、攪拌しながら80℃〜90℃で22時間反応させた。反応後、反応液に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出した。さらに、得られた水層を酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を合わせて水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(容量比;7/1))で精製し、黄色液体である目的物を795mg得た。(単離収率;55%)
なお、得られた2’,6’−ジフルオロ−4−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジンは、以下の物性値で示される化合物である。
【0107】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));8.65−8.58(m,2H)、7.93−7.92(m,1H)、7.57−7.52(m,2H)、7.43−7.33(m,4H)、6.98−6.95(m,1H)、0.62(s,6H)
EI−MS;(M/Z)326(M
【0108】
実施例1(M=M=Ir、A=Si、R=R=メチル基、R=フェニル基、R=R=R=R=メチル基、X=Cl;ジ−μ−クロロテトラキス−2’,6’−ジフルオロ−4−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジンジイリジウムの合成)
【0109】
【化12】
【0110】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた50mlシュレンク管に、2’,6’−ジフルオロ−4−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジン790mg(2.42mmol)、三塩化イリジウム三水和物359mg(0.97mmol)及びエトキシエタノール10mlを加え、攪拌しながら115〜125℃で24時間反応させた。反応終了後、反応液を室温(20℃〜30℃)まで冷却し、減圧下で濃縮した。得られた濃縮物をメタノールで洗浄した後に乾燥させ、黄色固体として目的物を667mg得た(単離収率;78%)。
なお、得られたジ−μ−クロロテトラキス−2’,6’−ジフルオロ−4−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジンジイリジウム、以下の物性値で示される化合物である。
【0111】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));9.04(d,4H)、8.40(s,4H)、7.58−7.56(m,8H)、7.51−7.43(m,12H)、7.06−7.04(m,4H)、5.13(s,4H)、0.65(s,12H)、0.61(s,12H)
FD−MS;(M/Z)1756(M
【0112】
実施例2(M=M=Ir、A=Si、R=R=メチル基、R=フェニル基、R=R=R=R=メチル基、Z=N、X=Cl;テトラキス(2’,6’−ジフルオロ−4−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジナト)(μ−テトラメチルビベンゾイミダゾリル)ジイリジウム(III),略称;[Ir(dfpydmpspy)BIm])の合成)
【0113】
【化13】
【0114】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた50mlシュレンク管に、6,6’,7,7’−テトラメチル−2,2’−ビイミダゾール29mg(0.10mmol)、テトラヒドロフラン20ml、tert−ブトキシカリウム(t−BuOK(85質量%品))28mg(0.21mmol)を加え、室温(20℃〜30℃)で1時間攪拌した後、ジ−μ−クロロテトラキス(2’,6’−ジフルオロ−5−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジナト)ジイリジウム(III)176mg(0.10mmol)を加え攪拌しながら24時間反応させた。反応後、テトラヒドロフランを減圧留去し、得られた残留物に塩化メチレンを加え、不溶物を濾別した。濾液を減圧下で濃縮し、得られた反応粗生成物をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:塩化メチレン/酢酸エチル、容量比;3/1)によって精製し、薄黄色固体である目的物を107mg得た。(単離収率;54%)
得られた目的物は2種類の異性体混合物で、その生成比は異性体1:異性体2=50:50と考えられた。なお、テトラキス(2’,6’−ジフルオロ−4−ジメチルシリルフェニル−2、3’−ビピリジナト)(μ−テトラメチルビベンゾイミダゾリル)ジイリジウム(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0115】
H−NMR(400MHz,CDCl,δ(ppm))8.29(s,4H), 8.24(s,4H),7.86(d,4H),7.64(d,4H),7.52−7.35(m,40H),7.00−6.98(d,4H),6.81−6.79(d,4H),6.03(s,8H),5.92−5.90(m,8H),2.00−1.99(s,24H),0.60−0.53(s,48H)
FD−MS(M/Z):1974 M
【0116】
参考例3(2−クロロ−4−トリメチルシリル−ピリジンの合成)
【0117】
【化14】
【0118】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた100mlシュレンク管に、2−クロロ−4−ヨードピリジン4.79g(20.0mmol)、ジエチルエーテル60mlを加え、−78℃に冷却した後、ノルマルブチルリチウム(1.6M/ヘキサン)12.5ml(20.0mmol)を加え2時間攪拌した後、トリメチルシリルクロライド2.7ml(21.0mmol)を加え、攪拌しながら室温(20℃〜30℃)で15時間反応させた。反応後、反応液に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出した。さらに、得られた水層を酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を合わせて水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(容量比;40/1))で精製し、黄色液体である目的物を2.98g得た。(単離収率;80%)
なお、得られた2−クロロ−4−トリメチルシリル−ピリジンは、以下の物性値で示される化合物である。
【0119】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));8.30(d,1H)、7.42(s,1H)、7.31(d,1H)、0.29(s,9H)
EI−MS;(M/Z)185(M
【0120】
参考例4(2’,6’−ジフルオロ−4−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジンの合成)
【0121】
【化15】
【0122】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた100mlシュレンク管に、2−クロロ−4−トリメチルシリル−ピリジン800mg(4.3mmol)、2,4−ジフルオロピリジンボロン酸822mg(5.2mmol)トルエン30ml、エタノール15ml、炭酸ナトリウム2.19g(20.1mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム242mg(0.21mmol)を加え、攪拌しながら75℃〜80℃で15時間反応させた。反応後、反応液に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出した。さらに、得られた水層を酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を合わせて水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(容量比;7/1))で精製し、黄色液体である目的物を1.0g得た。(単離収率;87%)
なお、得られた2’,6’−ジフルオロ−4−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジンは、以下の物性値で示される化合物である。
【0123】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));8.70−8.60(m,2H)、7.93−7.92(m,1H)、7.42−7.41(m,1H)、7.00−6.97(m,1H)、0.33(s,9H)
EI−MS;(M/Z)264(M
【0124】
実施例3(M=M=Ir、A=Si、R=R=R=メチル基、R=R=R=R=メチル基、X=Cl;ジ−μ−クロロテトラキス−2’,6’−ジフルオロ−4−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジンジイリジウムの合成)
【0125】
【化16】
【0126】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた30mlシュレンク管に、2’,6’−ジフルオロ−4−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジン661mg(2.5mmol)、三塩化イリジウム三水和物370mg(1.0mmol)及びエトキシエタノール10mlを加え、攪拌しながら115℃〜125℃で24時間反応させた。反応終了後、反応液を室温(20℃〜30℃)まで冷却し、減圧下で濃縮し、得られた濃縮物をジエチルエーテルで洗浄した後に乾燥させ、黄色固体として目的物を626mg得た(単離収率;83%)。
なお、得られたジ−μ−クロロテトラキス−2’,6’−ジフルオロ−4−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジンジイリジウム、以下の物性値で示される化合物である。
【0127】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));9.02(d,4H)、8.45(s,4H)、7.06(d,4H)、5.15(m,4H)、0.66(s,36H)
FD−MS;(M/Z)1508(M
【0128】
実施例4(M=M=Ir、A=Si、R=R=R=メチル基、R=R=R=R=メチル基、Z=N、X=Cl;テトラキス(2’,6’−ジフルオロ−4−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジナト)(μ−テトラメチルビベンゾイミダゾリル)ジイリジウム(III),略称;[Ir(dfpytmspy)BIm])の合成)
【0129】
【化17】
【0130】
アルゴン雰囲気下、攪拌装置を備えた50mlシュレンク管に、6,6’,7,7’−テトラメチル−2,2’−ビイミダゾール44mg(0.15mmol)、テトラヒドロフラン30ml、tert−ブトキシカリウム(t−BuOK(85質量%品))42mg(0.32mmol)を加え、室温(20℃〜30℃)で1時間攪拌した後、ジ−μ−クロロテトラキス(2’,6’−ジフルオロ−5−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジナト)ジイリジウム(III)226mg(0.11mmol)を加え攪拌しながら24時間反応させた。反応後、テトラヒドロフランを減圧留去し、得られた残留物に塩化メチレンを加え、不溶物を濾別した。濾液を減圧下で濃縮し、得られた反応粗生成物をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:塩化メチレン)によって精製し、薄黄色固体である目的物を171mg得た。(単離収率;66%)
得られた目的物は2種類の異性体混合物で、その生成比は異性体1:異性体2=50:50と考えられた。なお、テトラキス(2’,6’−ジフルオロ−4−トリメチルシリル−2、3’−ビピリジナト)(μ−テトラメチルビベンゾイミダゾリル)ジイリジウム(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0131】
H−NMR(400MHz,CO,δ(ppm))8.39(s,4H), 8.33(s,4H),8.00(d,4H),7.63(d,4H),7.34−7.32(dd,4H),7.11−7.09(dd,4H),6.09−6.08(s,8H),5.95−5.90(m,8H),2.02(s,24H),0.33−0.31(s,72H)
FD−MS(M/Z):1727(M+H)
【0132】
実施例5(Ir(dfpydmpspy)BIm]の有機EL素子の作成)
イーエッチシー製インジウムスズ酸化物(以下、ITOと略す)被膜付きガラスを透明電極基板として用い、アルバック機工製真空蒸着装置を使用して、同基板上に5×10−4Pa以下の真空度で、順次、次のようにホール輸送層3、発光層4、電子輸送層5、電子注入層6、アルミニウム電極7を真空蒸着により成膜して有機EL素子を作製した。
なお、真空蒸着は、基板に対向して置かれた坩堝に原料を仕込み、坩堝ごと原料を加熱することによって行った。
前記基板上に、ホール輸送材料であるp,p’−[N,N’−テトラ(p−トルイル)ジアニリノ−o,o’−ビフェニル](以下、3DTAPBPと略す)を膜厚60nmで成膜し、ホール輸送層3を形成した後、発光層4として質量比3,5−ビス(3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ピリジン)(以下、35DCzPPyと略す):二核イリジウム錯体Ir(dfpydmpspy)BIm](実施例2と同様な方法で合成)=95:5を膜厚40nmで成膜した。次いで、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(以下、TAZと略す)を膜厚40nmで成膜し、電子輸送層5を形成した。更に電子輸送層の上に、フッ化リチウム(以下、LiFと略す)を膜厚0.5nmで成膜し、電子注入層6を形成した。その上にアルミニウム(Al)を膜厚100nmで成膜し、電極7を形成した。
本素子の層構成を簡略化して示すと、
陽極2: ITO(130nm)
ホール輸送層3: 3DTAPBP(60nm)
発光層4: 35DCzPPy:二核イリジウム錯体(1)(40nm、質量比95/5)
電子輸送層5: TAZ(40nm)
電子注入層6: LiF(0.5nm)
陰極7: Al(100nm)
である。
前記素子のITO電極2を正極、Al電極7を負極として通電し、電極間電圧を上げていくと、+8V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の水青色発光を開始し、+27Vにおいて3789cd/mで発光した。電流効率は+16Vで3.93cd/Aであった。
この素子の発光色を、プレサイスゲージ社製有機EL評価装置EL1003を用いて測定した。電極間電圧+20Vにおいて得られたスペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値はx=0.123,y=0.269であった(CIE(国際照明委員会)表色系より)。
【0133】
実施例6(Ir(dfpytmspy)BIm]の有機EL素子の作成)
二核イリジウム錯体Ir(dfpydmpspy)BIm]をIr(dfpytmspy)BIm](実施例4と同様な方法で合成)に変更した以外は実施例5と同様にして有機EL素子を作製した。
前記素子のITO電極2を陽極、Al電極7を陰極として通電し、電極間電圧を上げていくと、+8V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の水青色発光を開始し、+16Vにおいて1659cd/mで発光した。電流効率は+16Vで2.26cd/Aであった。
電極間電圧+16Vにおいて得られたスペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値はx=0.115,y=0.200であった。
【0134】
比較例1(M=M=Ir、A=無し、R=R=R=R=メチル基、Z=N;(テトラキス(2’,6’−ジフルオロ−2、3’−ビピリジナト)(μ−テトラメチルビベンゾイミダゾリル)ジイリジウム(III)の有機EL素子の作成)
二核イリジウム錯体(1)を(テトラキス(2’,6’−ジフルオロ−2、3’−ビピリジナト)(μ−テトラメチルビベンゾイミダゾリル)ジイリジウム(III)に変更した以外は実施例5と同様にして有機EL素子を作製した。
前記素子のITO電極2を正極、Al電極7を負極として通電し、電極間電圧を上げていくと、+10V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の水青色発光を開始し、+24Vにおいて645cd/mで発光した。電流効率は+16Vで1.40cd/Aであった。
電極間電圧+16Vにおいて得られたスペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値はx=0.229、y=0.232であった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明により、最大輝度、電流効率などが良好な二核金属錯体化合物を発光層に含む有機EL素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0136】
1.硝子基板
2.ITO透明電極
3.ホール輸送層
4.発光層
5.電子輸送層
6.電子注入層
7.アルミニウム電極
図1