【実施例1】
【0028】
図1は、実施例1の車両周囲環境報知システムの構成を示した図である。
図1のように、実施例1の車両周囲環境報知システムは、車両1に取り付けられた4つのドップラーセンサ2と、車両1の車室1a内に取り付けられた4つのスピーカー部3と、表示装置4と、によって構成されている。
【0029】
図2は、車両1に対するドップラーセンサ2およびスピーカー部3の配置を示した図である。
図2のように、車両1の四隅にそれぞれドップラーセンサ2が取り付けられている。その電磁波送信方向は、車両内部から外部へと向かう方向である。また、各ドップラーセンサ2に対応する4つのスピーカー部3が、車両1の車室1a内の四隅にそれぞれ設けられていて、各ドップラーセンサ2と各スピーカー部3とが一対一に接続されている。これら4つのスピーカー部3のうち、車両前方の2つのスピーカー部3には、表示装置4が接続されている。表示装置4は車両ダッシュボード上の運転者から見える位置に配置されている。
【0030】
ドップラーセンサ2は、
図2のように、車両前方の2台については、車両1の進行方向(
図2中x軸方向)に対してドップラーセンサ2の電磁波送信方向が64°傾斜するように取り付けられている。また、車両後方の2台については、車両1の進行方向に対してドップラーセンサ2の電磁波送信方向が116°傾斜するように取り付けられている。ドップラーセンサ2をこのように取り付ける理由については後述する。
【0031】
以下、実施例1の車両周囲環境報知システムの各構成およびその動作について詳しく説明する。
【0032】
[ドップラーセンサ2の構成]
まず、ドップラーセンサ2の構成および動作について説明する。
ドップラーセンサ2は、
図1に示すように、発振器20と、発振器20に接続する送信アンテナ21と、受信アンテナ22と、発振器20および受信アンテナ22に接続するミキサ23と、によって構成されている。
【0033】
発振器20は、f0(=24.125GHz)の信号を生成して出力する。信号は送信アンテナ21およびミキサ21に入力される。
【0034】
送信アンテナ21は、発振器20に接続されており、発振器20からの信号を電磁波として所定方向に送信する。また、受信アンテナ22は、対象物によって反射された電磁波を受信する。送信アンテナ21および受信アンテナ22には、たとえばパッチアンテナやホーンアンテナなどを用いることができる。受信アンテナ22によって受信した信号は、対象物が車両1に対して相対速度vで近づいてくる場合には、ドップラー効果によって周波数がf0+fdと変化し、遠ざかっている場合には、f0−fdと変化する。ここでfdはドップラー周波数であり、fd=2・v・f0/c(cは光速)である。
【0035】
f0が24.0125GHzであるから、車両1が通常走行する速度(たとえば5〜100km/h)においては、ドップラー周波数fdは人の可聴周波数帯域内に含まれる。人の可聴周波数帯域は20〜20000Hzである。
【0036】
また、このドップラーセンサ2の検知範囲は、送信アンテナ21、受信アンテナ22のパターンや、送信される信号のレベルなどによって決まり、実施例1のドップラーセンサでは次の通りである。検知角度は−30〜30°である。検知距離は、対象物の形状、材料などによって異なるが、人である場合はおよそ3〜4m以下、自動車である場合はおよそ5〜6m以下である。
【0037】
ミキサ23は、入力側が受信アンテナ22および発振器20に接続されており、出力側はスピーカー部3に接続されている。入力された発振器20からの信号と受信アンテナ22により受信した信号とが乗算され、2つの信号の差の周波数の信号が生成され、出力される。対象物が上記の検知範囲内に存在し、かつ、対象物が車両1に対して相対速度vで近づいてくる、あるいは遠ざかっている場合には、上記のようにドップラー効果によって受信した信号の周波数はf0±fdに変化しており、2つの信号の差周波数はドップラー周波数fdそのものである。すなわち、ミキサ23から出力される信号は、周波数がドップラー周波数fdの信号(ドップラー信号)である。ミキサ23から出力されるドップラー信号は、スピーカー部3に入力される。
【0038】
なお、ミキサ23からは2つの信号の和周波数の信号も生成されて出力されるが、その周波数は人の可聴周波数から外れており、スピーカー部3からは音として出力されない。よって実施例1の車両周囲環境報知システムにおける動作に無関係であるため、和周波数の信号については考えなくてもよい。ただし、和周波数の信号をカットするためにフィルタを設けるようにしてもかまわない。
【0039】
[スピーカー部3の構成]
次に、スピーカー部3の構成、動作について説明する。
スピーカー部3は、
図1に示すように、アンプ30、31、32と、スピーカー33と、によって構成されている。
【0040】
アンプ30、31は縦続接続されており、アンプ30の入力側はドップラーセンサ2の出力側に接続されている。アンプ30、31は、ドップラーセンサ2からのドップラー信号のレベルを1000倍に増幅して出力する。その増幅されたドップラー信号はスピーカー33、表示装置4にそれぞれ入力される。スピーカー33にはアンプ32によってさらに増幅された後、スピーカー33に入力される。
【0041】
スピーカー33の入力側はアンプ32の出力側に接続され、アンプ32からのドップラー信号が入力される。スピーカー33はドップラー信号を物理的な振動に変換する装置である。ここで、ドップラー周波数fdは人の可聴周波数帯域内にあるから、ドップラー信号を分周したり変調することなく、直接にドップラー信号の周波数(つまりドップラー周波数fd)に対応した音がスピーカー33から出力される。
【0042】
[表示装置4の構成]
次に、表示装置4の構成および動作について説明する。
表示装置4は、車室1a内の前方、ダッシュボード上に配置されている。表示装置4は、
図1に示すように、アンプ40、整流器41、羽車42によって構成されている。アンプ40は、スピーカー部3のアンプ31に接続されており、アンプ31からのドップラー信号がアンプ40に入力され、増幅される。アンプ40によって増幅されたドップラー信号は、整流器41によって直流に変換され、羽車42に入力される。羽車42は、入力される直流電圧が所定のレベル以上である場合にその羽を回転させ、所定のレベル未満であれば羽を回転させない。これにより、車両1の近傍に対象物が存在することを視覚的に搭乗者に知らせるようにしている。ドップラー信号のレベルは、車両1と対象物との距離に依存しているので、羽を回転させるドップラー信号レベルのしきい値は、車両1と対象物との距離のしきい値ということができる。つまり、対象物が車両1から所定距離内(たとえば車両1から50cm以下)に入ったときに、羽を回転させるように動作させることができる。
【0043】
なお、風車35に替えて、他の表示手段を用いるようにしてもよい。LEDなどの発光装置の点灯や、ディスプレイに文字、図形などを表示するようにしてもよい。
【0044】
次に、実施例1の車両周囲環境報知システムの動作について説明する。
【0045】
まず、車両1の走行中、車両1の周囲に対象物が存在する場合について説明する。すなわち、対象物が車両1の四隅に配置されたドップラーセンサ2の検知範囲に入り、対象物によって反射された高いレベルの信号が受信される場合である。この場合、対象物は車両1に対して相対速度を有する。そのため、ドップラーセンサ2からは相対速度に依存するドップラー信号が出力され、スピーカー部3に入力される。
【0046】
ドップラー周波数fdは、車両1に対する対象物の相対速度が5〜100km/h(たとえば車両1が5〜100km/hで走行し、対象物は静止している場合)の範囲において、人の可聴周波数帯域内に含まれるため、スピーカー部3からはそのドップラー周波数に対応した音が出力される。このスピーカー部3からの音によって、搭乗者は車両1周囲に何らかの対象物が存在することを感知することができる。
【0047】
なお、ドップラー信号は対象物によって反射された高いレベルの信号であり、車室内騒音のレベルを越えているため、ドップラー周波数fdが車室内騒音の周波数帯域内である場合であっても、搭乗者は音を認識することができる。
【0048】
また、ドップラーセンサ2は車両1の四隅にそれぞれ取り付けられていて、それぞれに対応したスピーカー部3が車室1a内の四隅に配置されている。このことから、4つのスピーカー部3のうち、どのスピーカー部3からどのような音量で音が聞こえるかによって、対象物のおおよその位置を搭乗者は把握することができる。また、ドップラーセンサ2では、出力がドップラー信号であり、対象物の相対速度の方向(対象物が車両1に近づいてくるのか、遠ざかっているのか)が異なっていてもドップラー信号の周波数fdは変わらない。そのため、スピーカー部3からの音では対象物の相対速度の方向はわからない。しかし、四隅のスピーカー部3から聞こえる音の変遷によって、対象物の相対速度の方向を搭乗者はおおよそ把握することができる。
【0049】
車両1が走行開始してしばらくすると、搭乗者は車両1周囲の景色(対象物の有無やその速度などである)と、スピーカー部3からの音とを学習して、その景色と音とに対応づけをすることができるようになる。これにより、車両1周囲の対象物を音によって認識することができるようになる。そして、搭乗者は景色と音との対応付けのできない音を聞くと違和感を感じ、それにより予測していなかった何らかの対象物が車両1の近傍に存在していることに気づく。たとえば、車両1の後方から近づいてくるバイクなどを音によって認識することができるようになる。そのため、実施例1の車両周囲環境報知システムにより、搭乗者は車両1をより安全に走行することができる。
【0050】
次に、車両1の走行中で、車両1の周囲に対象物が存在しない場合について説明する。この場合、本来的には電磁波が反射されず、ドップラーセンサ2の受信アンテナ22は信号を受信しないから、ドップラー信号も生成されず、スピーカー部3からは音が出力されないはずである。
【0051】
しかし、実際の環境では、路面反射や土手、スロープなどの存在によって電磁波の反射がある。そのため、車両1とそれらとの間の相対速度に起因して、ドップラーセンサ2においてドップラー信号が生成され、それがスピーカー部3から音として出力される。以下、この音をバックグラウンドノイズと呼ぶ。バックグラウンドノイズは車両1の走行中、常時出力され、搭乗者に耳障りになる。
【0052】
そこで、実施例1の車両周囲環境報知システムでは、以下のようにしてバックグラウンドノイズが耳障りにならないようにしている。
【0053】
走行する車両1の室内では、その車両1の走行に起因して、騒音が発生する。その車室内騒音のレベル(A特性音圧レベル)は、道路の規模や車両1の速度にもよるが、20〜10000Hzにおいておよそ30dB以上、30〜2000Hzにおいておよそ40dB以上のレベルである。
【0054】
この車室内騒音の周波数帯域内に、通常の車両1の走行速度(たとえば5〜100km/hの範囲)におけるバックグラウンドノイズが含まれるようにする。これにより、バックグラウンドノイズは車室内騒音に埋もれ、バックグラウンドノイズを車室内騒音と区別することができなくなる。
【0055】
ドップラーセンサ2の送信する電磁波の周波数は24.0125GHzであるから、ドップラーセンサ2の電磁波送信方向を車両1走行方向(
図2のx軸方向)とすると、車両1が5km/hのとき、fd=222Hz、100km/hのとき、fd=4447Hzとなり、40dB以上のレベルの車室内騒音(30〜2000Hzの範囲)に埋もれさせることができない。
【0056】
車両1が通常の速度で走行している場合でも、バックグラウンドノイズを30〜2000Hzの車室内騒音に埋もれさせるには、ドップラーセンサ2の電磁波送信方向を、車両の進行方向に対して傾斜させる必要がある。たとえば、ドップラーセンサ2の電磁波送信方向を車両1の進行方向に対してθ(°)傾斜させると、車両1速度vの電磁波送信方向の成分は、v・cosθであるから、ドップラー周波数fdは2・v・f0・cosθ/cとなる。よって、ドップラー周波数fdを2000Hz以下として、バックグラウンドノイズを車室内騒音に埋もれさせるには、θ=45°の場合、速度vを63.7km/h以下、θ=64°の場合、速度vを100km/hとすればよい。対称性により傾斜角度を180°−θとした場合も同様となる。すなわち、車両1の速度を5〜100km/hの範囲とする場合に、バックグラウンドノイズを30〜2000Hzの車室内騒音に埋もれさせるには、電磁波送信方向が車両の進行方向に対して、車両1の前方に配置するものについては64°以上90°未満、車両1の後方に配置するものについては90°より大きく116°以下の範囲となるように、ドップラーセンサ2を車両1に取り付ければよい。
【0057】
以上、実施例1の車両周囲環境報知システムは、車両1周囲の対象物を検知して、搭乗者に音として知らせることができ、車両1の安全走行に寄与することができる。また、対象物を検知しない場合でも、搭乗者が音を煩わしく感じないようにすることができる。また、実施例1の車両周囲環境報知システムは、ドップラー信号を解析して対象物を検知することは行っておらず、それは車両1の搭乗者の学習に任せている。そのため、実施例1の車両周囲環境報知システムは簡素かつ安価に構成することができる。
【0058】
図3は、車両1の車室1a内の音をバイノーラル録音し、その時間波形を示した図である。
図3(a)は、車室内騒音の時間波形を示し、
図3(b)は、周囲に対象物が存在しない環境で車両1が時速25kmで走行したときの時間波形を示し、
図3(c)は、駐車している他の車両の間を25kmで走行した時の時間波形を示している。
【0059】
図3(a)と
図3(b)とを比較すると、両者の時間波形は区別することができないことがわかる。バックグラウンドノイズによるドップラー信号の周波数は、車室内騒音の周波数帯域内にあり、ドップラー信号のレベルが低いために、車室内騒音に埋もれてしまい、区別ができなくなっているためである。
【0060】
一方、
図3(c)を見ると、
図3(a)、(b)に比べて高周波成分が時間波形に強く現れていることがわかる。これは、自車両の傍に他の車両が存在することにより、電磁波の反射強度が高くなり、それによりドップラーセンサ2の受信するドップラー信号のレベルが高くなり、埋もれていたドップラー信号が波形に現れたものである。
【0061】
このように、
図3(a)〜(c)から、車両1の周囲に対象物が存在しない場合には、搭乗者は音が気にならず、車両1の周囲に対象物が存在する場合には音を感知することができることがわかる。
【実施例2】
【0062】
図4は、実施例2の車両周囲環境報知システムの構成を示した図である。実施例2の車両周囲環境報知システムは、実施例1の車両周囲環境報知システムにおけるスピーカー部3を、以下に説明するスピーカー部103に置き替えたものである。
【0063】
スピーカー部103は、
図4のように、実施例1のスピーカー部3において、アンプ31とアンプ32の間に、エフェクター200を挿入したものである。エフェクター200は、アンプ31からのドップラー信号を加工して、スピーカー33から出力される音の音色を変化させるものである。
【0064】
エフェクターは、たとえば、音程を変えるピッチシフタ、特定の音域のレベルを増減するイコライザ、などである。
【0065】
実施例2の車両周囲環境報知システムでは、音色を変えることによって、搭乗者に音の違和感をより喚起させることができ、それにより搭乗者による対象物の認知をより効果的に行うことができる。
【0066】
なお、実施例1〜2の車両周囲環境報知システムでは、
図2に示した構成のドップラーセンサ2を用いたが、もちろんこのような構成のドップラーセンサに限るものではない。たとえば、受信波の周波数がf+fdであるかf−fdであるか、すなわち、対象物が車両に近づいてくるのか、遠ざかっているのかを判定できる構成のドップラーセンサ2を用いることも可能である。また、送信アンテナ21と受信アンテナ22とをそれぞれ設けるのではなく、送受兼用のアンテナを設け、サーキュレータによって送信と受信を切り替える構成を用いることも可能である。ただし、それらのドップラーセンサは、
図2に示したドップラーセンサ2に比べて構成が複雑で高価であるため、
図2に示したドップラーセンサ2を用いる方が、本発明の車両周囲環境報知システムの構成の簡素化、低コスト化に有利である。
【0067】
また、実施例1の車両周囲環境報知システムでは、ドップラーセンサ2の送信する電磁波の周波数として、24.0125GHzを用いているが、他の周波数帯でもよい。ただし、電波法によりレーダ利用可能な周波数のうち、ドップラー周波数fdが人の可聴周波数帯域内となるのは10.5GHzであるから、その周波数帯を用いるのがよい。10.5GHzでは、ドップラーセンサ2の電磁波送信方向を傾斜させることなく、バックグラウンドノイズを車室内騒音に埋もれさせることができる。
【0068】
また、実施例1では、4つのドップラーセンサを配置しているが、これに限るものではなく、たとえば車両後方の対象物を報知するのみでよければ、車両後方に1つのドップラーセンサのみを配置してもよい。
また、実施例1、2において表示装置4は必ずしも必要ではないが、表示装置4を設けることで車両1周囲の情報を視覚的に補うことができ、また、車両1周囲の情報と音との対応づけをより容易に学習することができる。