特許第6131764号(P6131764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131764タンパク質を保持するための人工骨格材料及びシステム及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131764
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】タンパク質を保持するための人工骨格材料及びシステム及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170515BHJP
   C07K 14/33 20060101ALI20170515BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20170515BHJP
   C07K 14/375 20060101ALI20170515BHJP
   C07K 14/37 20060101ALI20170515BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20170515BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20170515BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20170515BHJP
   C13K 1/02 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K14/33
   C12N9/42
   C07K14/375
   C07K14/37
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12P19/14 A
   !C13K1/02
【請求項の数】23
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-162726(P2013-162726)
(22)【出願日】2013年8月5日
(65)【公開番号】特開2015-29483(P2015-29483A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2015年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池内 暁紀
(72)【発明者】
【氏名】幸田 勝典
(72)【発明者】
【氏名】中村 里沙
(72)【発明者】
【氏名】今村 千絵
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−035812(JP,A)
【文献】 特開2009−142260(JP,A)
【文献】 特開2012−249642(JP,A)
【文献】 特開2011−219399(JP,A)
【文献】 特開2011−182677(JP,A)
【文献】 特開2012−039967(JP,A)
【文献】 特開2003−035812(JP,A)
【文献】 J. Bacteriol. (2006) Vol.188, No.22, pp.7971-7976
【文献】 J. Bacteriol. (2001) Vol.183, No.6, pp.1945-1953
【文献】 FEBS Letters (2013) Vol.587, pp.30-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上の目的タンパク質を保持するための人工骨格材料であって、
前記1又は2以上の目的タンパク質の保持部位として、タイプIIIコヘシンに由来してタイプIIIドックリンと結合活性を有するコヘシンを6個以上20個以下備える骨格タンパク質を含み、
前記目的タンパク質が有するタイプIIIドックリンとしてのRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaAドックリンに対して、前記コヘシンとしてRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaBコヘシンを用い、
前記目的タンパク質が有するタイプIIIドックリンとしてのScaB−Xドックリンに対して、前記コヘシンとしてRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaEコヘシンを用いる、
人工骨格材料。
【請求項2】
前記骨格タンパク質が前記コヘシンを8個以上20個以下備える、請求項1に記載の人工骨格材料。
【請求項3】
前記骨格タンパク質が備える1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位の全てを維持する、請求項1又は2に記載の人工骨格材料。
【請求項4】
前記骨格タンパク質が備える1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位の少なくとも一部において、以下のいずれかの態様の置換がなされている、請求項1又は2に記載の人工骨格材料。
(a)アスパラギンがアスパラギン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
(b)アスパラギンの2残基下流のセリン又はスレオニンが、セリン及びスレオニン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
【請求項5】
前記(a)の態様において、アスパラギン以外の他のアミノ酸残基は、フェニルアラニン、アルギニン、グルタミン酸、グリシン、ロイシン、セリン、ヒスチジン、トレオニン、バリン、アラニン、リシン、プロリン、グルタミン、トリプトファン、システイン、チロシン、アスパラギン酸、セリン及びメチオニンから選択されるいずれかである、請求項に記載の人工骨格材料。
【請求項6】
1又は2以上の目的タンパク質を保持するための人工骨格材料であって、
前記1又は2以上の目的タンパク質の保持部位として、タイプIIIコヘシンに由来してタイプIIIドックリンと結合活性を有するコヘシンを4個備える骨格タンパク質を含み、
前記目的タンパク質が有するタイプIIIドックリンとしてのRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaAドックリンに対して、前記コヘシンとしてRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaBコヘシンを用い、
前記目的タンパク質が有するタイプIIIドックリンとしてのScaB−Xドックリンに対して、前記コヘシンとしてRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaEコヘシンを用い、
前記骨格タンパク質が備える1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位の少なくとも一部において、以下のいずれかの態様の置換がなされている、人工骨格材料。
(a)アスパラギンがアスパラギン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
(b)アスパラギンの2残基下流のセリン又はスレオニンが、セリン及びスレオニン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
【請求項7】
前記目的タンパク質が有するタイプIIIドックリンは、1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位において、以下のいずれかの態様の置換がされている、請求項1〜のいずれかに記載の人工骨格材料。
(a)アスパラギンがアスパラギン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
(b)アスパラギンの2残基下流のセリン又はスレオニンが、セリン及びスレオニン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
【請求項8】
前記(a)の態様において、アスパラギン以外の他のアミノ酸残基は、それぞれ独立して、グルタミン酸、イソロイシン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、セリン及びロイシンからなる群から選択されるいずれかである、請求項に記載の人工骨格材料。
【請求項9】
真核微生物内で発現させその細胞表層に提示させるための人工骨格材料である、請求項1〜のいずれかに記載の人工骨格材料。
【請求項10】
前記真核微生物は、酵母である、請求項に記載の人工骨格材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の人工骨格材料と、
タイプIIIドックリンに由来して前記コヘシンに結合活性を有するドックリンをそれぞれ有する1又は2以上の目的タンパク質と、
を備え、
前記目的タンパク質が有するタイプIIIドックリンとしてのRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaAドックリンに対して、前記コヘシンとしてRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaBコヘシンを用い、
前記目的タンパク質が有するタイプIIIドックリンとしてのScaB−Xドックリンに対して、前記コヘシンとしてRuminococcus flavefaciens(ルミノコッカス・フラベファシエンス)由来のScaEコヘシンを用いる、
複合材料。
【請求項12】
前記ドックリンが有する1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位において、以下のいずれかの態様の置換を有する、請求項11に記載の複合材料。
(a)アスパラギンがアスパラギン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
(b)アスパラギンの2残基下流のセリン又はスレオニンが、セリン及びスレオニン以外の他のアミノ酸残基に置換されている
【請求項13】
前記(a)の態様において、アスパラギン以外の他のアミノ酸残基は、それぞれ独立して、グルタミン酸、イソロイシン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、セリン及びロイシンからなる群から選択されるいずれかである、請求項12に記載の複合材料
【請求項14】
前記1又は2以上の目的タンパク質は、1又は2以上の酵素である、請求項11〜13のいずれかに記載の複合材料。
【請求項15】
前記1又は2以上の目的タンパク質は、1又は2以上のセルラーゼである、請求項11〜14のいずれかに記載の複合材料。
【請求項16】
前記1又は2以上のセルラーゼは、前記ドックリンをN末端側に備えるPhanerochaete chrysosporium(ファネロケーテ・クリソスポリウム)由来のセルラーゼ及び/又はTrichoderma reesei(トリコデルマ・リーゼイ)由来のセルラーゼを含む、請求項15に記載の複合材料。
【請求項17】
前記1又は2以上のセルラーゼは、前記ドックリンをC末端側に備えるClostridium thermocellum(クロストリジウム・サーモセラム)由来のセルラーゼを含む、請求項15又は16に記載の複合材料。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれかに記載の人工骨格材料を細胞表層に有する真核微生物。
【請求項19】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合材料を細胞表層に有する真核微生物。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれかに記載の人工骨格材料の前記タンパク質をコードするDNAを保持する真核微生物用の組換えベクター。
【請求項21】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合材料であって、前記1又は2以上の目的タンパク質は1又は2以上のセルラーゼを含む複合材料と、セルロース含有材料とを接触させる工程を備える、セルロース含有材料からの糖化物の生産方法。
【請求項22】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合材料であって、前記1又は2以上の目的タンパク質は1又は2以上のセルラーゼを含む複合材料及びセルロース含有材料の存在下、セルロース糖化物を資化する真核微生物を培養する工程を備える、セルロース含有材料を用いた有用物質の生産方法。
【請求項23】
請求項11〜17のいずれかに記載の複合材料であって、前記1又は2以上の目的タンパク質は1又は2以上のセルラーゼを含む複合材料の存在下、セルロース糖化物を資化する前記真核微生物を培養する工程を備える、セルロース含有材料を用いた有用物質の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、タンパク質を保持するための人工骨格材料及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なバイオマスであるセルロースやヘミセルロースを利用するには、これらを糖化(分解)する優れたセルラーゼが必要である。セルラーゼは多数存在しており、それらが協奏的に作用して、その効果が向上するとされている。セルラーゼは、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びβ−グルコシダーゼなど、セルロースに作用する複数種類の酵素の包括概念であり、これらが協働してセルロースを分解する。こうした協働的な作用は、他の酵素においても一般的に観察される事象である。
【0003】
複数のセルラーゼにより高効率なセルロース糖化を行うため、糖化能を付与するには、セルラーゼを集積化して隣接させることが好ましいと考えられる。こうしたセルロースの集積化に関し、細菌の細胞表層に形成されるセルラーゼとそのセルラーゼが結合する骨格タンパク質との複合体で形成されるセルロソームの利用が試みられている。骨格タンパク質は、コヘシンというドメインを有するタンパク質であり、スキャホールディングタンパク質等とも称される。セルロソームのセルラーゼは、コヘシンと結合するドックリンと称されるドメインを有している。骨格タンパク質とセルラーゼとは、コヘシン−ドックリンによる非共有結合により結合し複合体化されている。
【0004】
こうした天然型セルロソームを人工的に構築する試みもなされている(特許文献1、2)。また、クロストリジウム・サーモセラム由来のドッケリンを改変してセルロソームの構築を促進することも行われている(特許文献3)。さらに、クロストリジウム・セルロリチカム由来のセルロソームを酵母細胞表層に形成することも試みられている(特許文献4)。さらにまた、酵母表面でクロストリジウム・サーモセラム由来の骨格タンパク質CipA,クロストリジウム・セルロリチカム由来の骨格タンパク質CipC、ルミノコッカス・フラベファシエンス由来のScaB由来の骨格タンパク質をキメラ化させた骨格タンパク質を生産させることも試みられている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−142260号公報
【特許文献2】特開2012−246942号公報
【特許文献3】特開2011−219399号公報
【特許文献4】国際公開第2010/096562
【特許文献5】国際公開第2010/057064
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、人工的なセルロソームの構築は種々試みられているものの、細菌由来のセルロソームを酵母などの真核微生物で発現させても、意図した通りの糖化能を得るには未だ不十分であった。すなわち、真核微生物の細胞表層における人工的なセルロソームの構築は発展しているといっても、期待されるセルロース分解活性には及んでいなかった。すなわち、異種の生物における構造体を真核微生物上で人工的に再構築するには、セルロソームの真核微生物への一層の最適化が必要であった。
【0007】
本明細書は、真核微生物上で人工的なセルロソームを構築するための、さらに適した人工骨格タンパク質システム及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、各種細菌のセルロソームの中でも、ルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavefaciens、以下、R. flavefaciensという。)のセルロソームに着目し、R. flavefaciensが有するタイプIII骨格タンパク質が真核微生物での生産や表層提示に適していることを見出した。さらに、タイプIII骨格タンパク質におけるコヘシン個数の検討のほか、当該骨格タンパク質にセルラーゼを結合させるためのドックリン結合力の改善、セルラーゼにおけるドッケリンの結合部位の検討を行い、それぞれ真核微生物を介した人工セルロソームの構築に関して有用な知見を得た。本明細書は、これらの知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)1又は2以上の目的とするタンパク質を保持するための人工骨格材料であって、
前記1又は2以上の目的タンパク質の保持部位としてタイプIIIコヘシンに由来してタイプIIIドックリンと結合活性を有するコヘシンを1個以上20個以下に備えるタンパク質を含む、人工骨格材料。
(2)前記コヘシンを3個以上備える、(1)に記載の人工骨格材料。
(3)前記コヘシンを6個以上備える、(1)又は(2)に記載の人工骨格材料。
(4)前記コヘシンを8個以上備える、(1)〜(3)のいずれかに記載の人工骨格材料。
(5)前記コヘシンは、1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位において以下のいずれかの態様の置換を有する、(1)〜(4)のいずれかに記載の人工骨格材料。
(a)アスパラギンのアスパラギン以外のアミノ酸残基への置換
(b)アスパラギンの2残基下流のセリン又はスレオニンのセリン及びスレオニン以外のアミノ酸残基への置換
(6)前記コヘシンは、R. flavefaciens由来のScaBコヘシンである、(1)〜(5)のいずれかに記載の人工骨格材料。
(7)真核微生物内で発現させその細胞表層に提示させるため人工骨格材料である、(1)〜(6)のいずれかに記載の人工骨格材料。
(8)前記真核微生物は、酵母である、(6)に記載の人工骨格材料。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の人工骨格材料と、
タイプIIIドックリンに由来して前記コヘシンに結合活性を有するドックリンをそれぞれ有する1又は2以上の目的タンパク質と、
を備える、複合材料。
(10)前記1又は2以上の目的タンパク質がそれぞれ有する前記ドックリンは、1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位において以下のいずれかの態様の置換を有する、(9)に記載の複合材料。
(a)アスパラギンのアスパラギン以外のアミノ酸残基への置換
(b)アスパラギンの2残基下流のセリン又はスレオニンのセリン及びスレオニン以外のアミノ酸残基への置換
(11)前記1又は2以上の目的タンパク質は、1又は2以上の酵素である、(9)又は(10)に記載の複合材料。
(12) 前記1又は2以上の目的タンパク質は、1又は2以上のセルラーゼである、(9)〜(11)のいずれかに記載の複合材料。
(13) 前記1又は2以上のセルラーゼは、前記ドックリンをN末端側に備えるPhanerochaete chrysosporium由来のセルラーゼ及び/又はTrichoderma reesei由来のセルラーゼを含む、(9)〜(12)のいずれかに記載の複合材料。
(14)前記1又は2以上のセルラーゼは、前記ドックリンをC末端側に備えるClostridium thermocellum由来のセルラーゼを含む、(9)〜(13)のいずれかに記載の複合材料。
(15)(1)〜(8)のいずれかに記載の人工骨格材料を細胞表層に有する真核微生物。
(16)(9)〜(14)のいずれかに記載の複合材料を細胞表層に有する真核微生物。
(17)(1)〜(8)のいずれかに記載の人工骨格材料の前記タンパク質をコードするDNAを保持する組換えベクター。
(18)(9)〜(14)のいずれかに記載の複合材料であって、前記1又は2以上の目的タンパク質は1又は2以上のセルラーゼを含む複合材料と、セルロース含有材料とを接触させる工程を備える、セルロース含有材料からの糖化物の生産方法。
(19)(9)〜(14)のいずれかに記載の複合材料であって、前記1又は2以上の目的タンパク質は1又は2以上のセルラーゼを含む複合材料及びセルロース含有材料の存在下、セルロース糖化物を資化する真核微生物を培養する工程を備える、セルロース含有材料を用いた有用物質の生産方法。
(20)(16)に記載の真核微生物及びセルロース含有材料の存在下、セルロース糖化物を資化する真核微生物を培養する工程を備える、セルロース含有材料を用いた有用物質の生産方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】コヘシンゲノム導入ベクターを示す図である。
図2】ドックリンゲノム導入ベクターを示す図である。
図3】AGA1ゲノム導入ベクターを示す図である。
図4】コヘシンの酵母表層提示量を示す図である。
図5】ドックリンの酵母表層提示量を示す図である。
図6】コヘシン−ドックリン結合特異性の評価を示す図である。
図7】RfCohの酵母の表層提示量を示す図である。
図8】高コピー数の酵母分泌発現ベクターを示す図である。
図9】RfDoc融合発現ベクターを示す図である。
図10】RfDoc融合PcCBH2、TrEG2のPSC分解活性を示す図である。
図11】各種RfDoc融合セルラーゼのPSC分解活性を示す図である。
図12】培養温度(20℃、30℃)における各種RfDoc融合セルラーゼのPSC分解活性の比較結果を示す図である。
図13】RfDocのアミノ酸配列とN型糖鎖修飾予定部位を示す図である。
図14】RfDocの改変スキームを示す図である。
図15】低コピー数の酵母分泌発現ベクターを示す図である。
図16】RfDocの改変によるPSC分解活性の向上を示す図である。
図17】RfDoc改変後の配列解析結果を示す図である。
図18】Scab−4コヘシンのアミノ酸配列とN型糖鎖修飾予定部位を示す図である。
図19】ScaB−4コヘシンからの糖鎖除去スキームを示す図である。
図20】高コピー数の酵母分泌発現ベクターを示す図である。
図21】糖鎖除去後のScaB−4コヘシンのスクリーニング結果を示す図である。
図22A】糖鎖除去ScaB−4コヘシンの配列解析結果を示す図その1である。
図22B】糖鎖除去ScaB−4コヘシンの配列解析結果を示す図その2である。
図22C】糖鎖除去ScaB−4コヘシンの配列解析結果を示す図その3である。
図23】マルチプコヘシン酵母のコヘシン表層提示量を示す図である。
図24】マルチコヘシン酵母を用いたPSC分解活性評価(セルラーゼ同時発現)を示す図である。
図25】マルチコヘシン酵母を用いたAvicel分解活性評価(セルラーゼ同時発現)を示す図である。
図26】マルチコヘシン酵母を用いたPSC分解活性評価(セルラーゼ外部添加)を示す図である。
図27】マルチコヘシン酵母を用いたAvicel分解活性評価(セルラーゼ外部添加)を示す図である。
図28】セルラーゼゲノム導入ベクターを示す図である。
図29】セルラーゼゲノム導入ベクターを示す図である。
図30】セルロソーム提示酵母のコヘシン長によるAvicel分解活性の比較結果を示す図である。
図31】ScaBのXドメインにおけるN型糖鎖修飾予定部位を示す図である。
図32】糖鎖除去ScaBのXドメインに対するScaEコヘシンとの結合評価結果を示す図である。
図33】糖鎖除去Xドメインのアミノ酸解析結果を示す図である。
図34】天然型のコヘシン、ドックリンを持つセルロソーム酵母のPSC分解活性を1とした時の相対活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の開示は、酵素などの目的タンパク質を保持するためにコヘシン−ドックリン結合を用いた人工骨格材料とその利用に関している。本明細書の開示によれば、タイプIIIのコヘシン−ドックリン結合を利用し、さらに、配列される前記コヘシン数を制御することでコヘシン−ドックリン結合を介して結合される目的タンパク質の機能発現をより強化できることがわかった。必ずしも理論的には明らかでないが、本明細書に開示される、タイプIIIのコヘシン−ドックリン結合を利用した人工骨格タンパク質を真核微生物に生産させること等により、目的タンパク質の集積度を制御して、この結果、目的タンパク質の機能性、2以上の目的タンパク質の協働的作用を高めることができるものと考えられる。なお、コヘシン(ドメイン)は、セルロソーム生産微生物の形成するセルロソームにおけるタイプI〜III骨格タンパク質に備えられ、触媒活性のあるセルラーゼや他の骨格タンパク質等を非共有結合で結合するドメインとして知られている(粟冠ら、蛋白質核酸酵素、Vol.44、No.10(1999)、p41-p50、Demain, A. L., et al., Microbiol Mol. Biol Rev., 69(1), 124-54(2005), Doi, R. H., et al., J. Bacterol., 185(20), 5907-5914(2003)等)。
【0012】
本発明者らは、例えばタイプIコヘシンの個数が4個程度の骨格タンパク質を酵母の細胞表層に提示することで最大提示量を確保でき、それにより酵母同士が凝集するため、こうした機能を利用した目的タンパク質の集積化を試みていた(特願2007−199513)。しかしながら、本明細書の開示によれば、タイプIIIのコヘシンの個数が増大するのに応じて骨格タンパク質の提示量は減少するものの、予想に反して、コヘシン個数の増大に応じて一定範囲で保持する目的タンパク質の機能性や協働性が向上することがわかった。
【0013】
以下、本明細書の開示に関し、種々の実施形態を挙げて詳細に説明する。
【0014】
(人工骨格材料)
本明細書に開示される人工骨格材料は、1又は2以上の目的とするタンパク質を保持するための人工骨格材料である。本人工骨格材料は、1又は2以上の目的タンパク質の保持部位としてタイプIIIコヘシンに由来してタイプIIIドックリンと結合活性を有するコヘシン(以下、単に、タイプIIIコヘシンともいう。)を備えるタンパク質を含んでいる。本人工骨格材料は、タイプIIIのコヘシン−ドックリン相互作用に基づいて目的タンパク質を保持するものである。コヘシン−ドックリン相互作用は、非共有結合性であって、水素結合、疎水結合、イオン結合、双極子相互作用など、共有結合以外のタンパク質−タンパク質相互作用によって成立しているものと考えられる。
【0015】
本人工骨格材料は、天然のタイプIIIコヘシンに由来してタイプIIIドックリンと結合活性を有するタイプIIIコヘシンを備えている。天然のタイプIIIコヘシンとは、R. flavefaciensにおいて見出されたセルロソームのコヘシン(ドメイン)のアミノ酸配列の相同性に基づいて系統発生論的に分類されたものである。R. flavefaciensのScaAコヘシン及びScaBコヘシンとClostridium 属のそれとの最も高い類似性であっても、ある種のScaBコヘシンについて類似性は27%以下であった。また、ScaAコヘシンは、互いに85%以上の類似性を有するものの、Clostridium属のScaAコヘシンとは、25%以下の類似性しか示さなかった(Journal of Bacteriology、Vol.183,No.6, Mar., 2001, p.1945-1953)。
【0016】
例えば、タイプIコヘシンとしては、Clostridium thermocellum由来のCipA、Clostridium cellulolyticumのCipC、Clostridium josuiのCipJ、Clostridium cellulovorancs のCpbA、Acetivibrio cellulolyticus のCipVが挙げられる。また、例えば、タイプIIコヘシンとしては、Bacterioides cellulosolvensのCipBCや、Clostridium thermocellumのアンカータンパク質であるSlp‘sが挙げられる。
【0017】
タイプIIIコヘシンは、本来的には細菌であるR. flavefaciensのScaA、ScaB、ScaC、ScaEなどの骨格タンパク質中に保持されるものであるが、酵母などの真核微生物で生産させ、細胞外に分泌させることを意図したとき、他の細菌由来の骨格タンパク質のコヘシンより発現量が大きいこと等の観点から好適である。すなわち、タイプI、IIコヘシンよりも、真核微生物による生産に好適である。また、特に、ScaBのタイプIIIコヘシンであることが好ましい。ScaBのタイプIIIコヘシンは、細胞外分泌性や細胞表層提示性に優れている。
【0018】
こうした天然のタイプIIIコヘシンとしては、例えば、R. flavefaciens 17のScaA、ScaB、ScaC、ScaEの各骨格タンパク質におけるコヘシンが挙げられる。また、R. flavefaciens B34bのScaA、ScaBの各骨格タンパク質のコヘシンが挙げられる。また、R. flavefaciensC94TのScaA、ScaBの各骨格タンパク質におけるコヘシンが挙げられる。さらに、R. flavefaciens FD−1のScaA、ScaB、ScaC、ScaEの各骨格タンパク質におけるコヘシンが挙げられる。なかでも、R. flavefaciens 17又はR. flavefaciens FD−1のScaB骨格タンパク質におけるコヘシンが挙げられる。骨格タンパク質において、コヘシンは、適当なリンカー配列を隔てて1個から複数個に配列されている。こうした骨格タンパク質の少なくとも一部であって、コヘシンを1個又は2個以上含む領域を1又は2以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
R. flavefaciens17のScaA、ScaB、ScaC、ScaEの各骨格タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1,2、3及び4で表される。また、R. flavefaciensB34bのScaA、ScaBの各骨格タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号5、6で表される。さらに、R. flavefaciensC94TのScaA、ScaBの各骨格タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号7、8で表される。さらにまた、R. flavefaciensFD−1のScaA、ScaB、ScaC、ScaEの各骨格タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号9〜12で表される。
【0020】
タイプIIIコヘシンとしては、天然のR. flavefaciensの各種株から取得され、タイプIIIに分類されるコヘシンであればよい。また、タイプIIIコヘシンは、タイプIIIドックリンに対して結合活性を有していればよく、適宜天然のタイプIIIコヘシンを改変したものであってもよい。タイプIIIコヘシンに対して結合するタイプIIIドックリンは、R. flavefaciensに由来して決定されている。こうしたタイプIIIドックリンとしては、例えば、Cel44Aドックリン(アミノ酸配列;配列番号14、塩基配列;配列番号13)、ScaAドックリン(アミノ酸配列;配列番号16、塩基配列;配列番号15)、ScaB−Xドックリン(アミノ酸配列;配列番号18、塩基配列;配列番号17)が挙げられる。これらは、既に記載したR. flavefaciensの骨格タンパク質上のコヘシンに対応するものである。
【0021】
こうした天然のタイプIIIコヘシンの改変体としては、例えば、タイプIIIコヘシンが有しうる1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位における糖鎖修飾を抑制を目的とする改変体が挙げられる。なお、N型糖鎖修飾予定部位とは、N−X−T(アスパラギン−プロリン以外のアミノ酸−スレオニン)又はN−X−S(アスパラギン−プロリン以外のアミノ酸−セリン)で表されるアミノ酸配列におけるNの位置となることが知られている(A. Herscovics et al., The FASEB Journal(6):540-550(1993))。ドックリンにおけるN型糖鎖修飾予定部位は、データベース等を適宜利用することにより検出することができる。
【0022】
タイプIIIコヘシンにおける1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位の糖鎖修飾を抑制するための改変体としては、N型糖鎖修飾予定部位のN(アスパラギン)のアスパラギン以外のアミノ酸残基への置換を有する改変体が挙げられる。他のアミノ酸残基としては、例えば、フェニルアラニン、アルギニン、グルタミン酸、グリシン、ロイシン、セリン、ヒスチジン、トレオニン、バリン、アラニン、リシン、プロリン、トリプトファン、システイン、アスパラギン酸、チロシン、セリン、メチオニン等が挙げられる。
【0023】
また、糖鎖修飾を抑制するための他の改変体としては、1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位におけるアスパラギンの2残基下流のセリン又はスレオニンの、セリン及びスレオニン以外のアミノ酸残基への置換を有する改変体であってもよい。他のアミノ酸残基としては、例えば、フェニルアラニン、アルギニン、グルタミン酸、グリシン、ロイシン、ヒスチジン、バリン、アラニン、リシン、プロリン、トリプトファン、システイン、アスパラギン酸、チロシン、セリン、メチオニン及びアスパラギン等が挙げられる。
【0024】
N型糖鎖修飾予定部位のNに対してアスパラギン以外のアミノ酸残基を置換導入したり、同部位のS/Tに対してこれら以外のアミノ酸残基を置換導入したりするには、公知の部位特異的変異導入手法を用いることができる。
【0025】
こうしたN型糖鎖修飾予定部位に関する改変体としては、タイプIIIコヘシン上の1又は2以上のN型糖鎖修飾予定部位のN及び/又はS/Tがそれぞれ他のアミノ酸残基で置換されていれば足りるが、タイプIIIコヘシン上の全てのN型糖鎖修飾予定部位のN及び/又はS/Tがそれぞれ他のアミノ酸残基に置換されていてもよい。
【0026】
また、さらに他の改変体としては、タイプIIIコヘシンのN末の100残基以下、好ましくは90残基以下、より好ましくは80残基以下のアミノ酸残基の連続する欠失を有する改変体が挙げられる。
【0027】
また、こうした天然のタイプIIIコヘシンの改変体としては、天然のタイプIIIコヘシンのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有していることが好ましい。より好ましくは、85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、さらにまた好ましくは93%以上であり、一層好ましくは95%以上であり、より一層好ましくは97%以上であり、さらに一層好ましくは98%以上であり、さらにまた好ましくは99%以上である。
【0028】
なお、本明細書においてアミノ酸配列及び塩基配列における同一性及び類似性とは、当業者にいて知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術分野で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する好ましい方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される。同一性及び類似性を決定するための方法は、公に利用可能なプログラムにコードされている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0029】
改変したタイプIIIコヘシンが、タイプIIIドックリンと結合活性を有しているか否かは、例えば、改変したタイプIIIコヘシンを1個以上備える被験骨格タンパク質を酵母などの真核微生物上において細胞表層提示させるようにした形質転換体に対して、タイプIIIドックリン保有タンパク質と接触させて、被験骨格タンパク質上に保持されたタイプIIIドックリン保有タンパク質の提示量を検出することにより評価できる。タイプIIIドックリン保有タンパク質の提示量の評価には、タイプIIIドックリン保有タンパク質を蛍光識別可能な蛍光タンパク質としてもよいし、タイプIIIドックリン保有タンパク質を、二次的に蛍光タンパク質で標識してもよい。また、タイプIIIドックリン保有タンパク質自体を評価可能な活性を有するタンパク質とするか、あるいは、二次的に評価可能な活性を有するタンパク質を結合させて、そのタンパク質(酵素)の活性を評価してもよい。
タンパク質の特異的な活性を測定してもよい。例えば、目的タンパク質がセルラーゼ活性部位を有するものであるときは、被験骨格タンパク質を表層提示した真核微生物に対して、セルロース活性部位を有するタイプIIIドックリン保有タンパク質と接触させた後、分離した真核微生物に対して適当なセルラーゼ基質(カルボキシメチルセルロース、リン酸セルロース、結晶性セルロース等)と反応させて反応生成物量や基質量等を測定することで酵素活性を評価できる。こうしたセルラーゼ反応の結果生じる還元糖量の定量法としてはSomogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法、TZ法(Journal of Biochemical Methods, 11(1985)109-115)等の公知の方法を適宜採用すればよい。
【0030】
本人工骨格材料の骨格タンパク質は、こうしたタイプIIIコヘシンを1個以上備えている。好ましくは20個以下備えている。本発明者らによれば20個を超えるタイプIIIコヘシンは、目的タンパク質の機能強化等に影響が小さいからである。
【0031】
本骨格タンパク質は、2個以上のタイプIIIコヘシンを備えることが好ましい。好ましくはタンデムに備えている。タンデムに備えるとは、本骨格タンパク質のアミノ酸配列上(一次構造)において、適当な介在配列をおいて2以上のコヘシンが配列されている状態をいう。
【0032】
本骨格タンパク質におけるタイプIIIコヘシンは、目的タンパク質の集積度等を考慮すると、適当な長さの介在配列(リンカー)を介して配列されていることが好ましい。コヘシン間の介在配列としては、特に限定しないが、天然のタイプIIIコへシンを保持するR. flavefaciens由来のScaBタンパク質等に複数のコヘシン間に介在されている1又は2以上の介在配列を適宜備えることができる。本骨格タンパク質におけるコヘシン間のアミノ酸配列は、用いるコヘシンIIIの取得源の骨格タンパク質において、当該コヘシンIIIの上下流にもともと存在する数個〜20個以下程度のアミノ酸を必要数連結するなどして決定することができる。
【0033】
本骨格タンパク質は、好ましくは、タイプIIIコヘシンを3個以上備えている。3個未満であると、目的タンパク質の集積効果や近接効果が発揮されにくいからである。より好ましくは4個以上タイプIIIコヘシンを備えている。4個以上であると、目的タンパク質の集積/近接効果により目的タンパク質の機能増強が明らかになるからである。さらに好ましくは6個以上であり、さらにまた好ましくは8個以上であり、一層好ましくは10個以上である。より一層好ましくは11個以上であり、最も好ましくは12個程度である。上限は、好ましくは、18個以下であり、より好ましくは16個以下であり、さらに好ましくは14個以下である。一層好ましくは13個以下である。
【0034】
本骨格タンパク質が、比較的多くのタイプIIIコヘシンを備える場合、例えば、5個以上、好ましくは6個以上、さらに好ましくは8個以上、一層好ましくは10個以上、特に好ましくは12個のタイプIIIコヘシンを備える場合、本骨格タンパク質上の全てのN型糖鎖修飾予定部位が、糖鎖修飾が抑制される態様に改変されていなくてもよい。真核微生物によるタンパク質の糖鎖修飾により、より多くのタイプIIIコヘシンを有する、すなわち、より長いアミノ酸配列を有する本骨格タンパク質の細胞外分泌(表層提示を含む)は、糖鎖修飾が完全に回避されると抑制される傾向があるからである。したがって、こうした数のタイプIIIコヘシンを保持する本骨格タンパク質上におけるタイプIIIコヘシンの総数、N型糖鎖修飾予定部位の総数、及びそのうちの糖鎖非修飾態様への改変体の個数を、適宜調整して、目的タンパク質を結合するためのタイプIIIコヘシンの個数と糖鎖結合量との最適化を図ることが重要である。こうした調整により、最終的に細胞外に提示又は分泌される本骨格タンパク質による目的タンパク質の集積効果を確保することができる。
【0035】
一方、本骨格タンパク質が4個以下のタイプIIIコヘシンを備える場合、これらのコヘシンに含まれうる複数のN型糖鎖修飾予定部位は概して非修飾修飾態様に置換されていることが好ましく、好ましくは、タイプIIIコヘシンに含まれるN型糖鎖修飾予定部位の60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにまた好ましくは75%以上、一層好ましくは80%以上、さらに一層好ましくは85%以上、さらにまた好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のN型糖鎖修飾予定部位が非修飾形態に改変されている。
【0036】
本骨格タンパク質が2以上のコヘシンを備えるとき、コヘシンは同一のアミノ酸配列を有する単一のコヘシンを複数個備えていてもよいし、異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のコヘシンを組み合わせて備えていてもよい。本骨格タンパク質上において、異種の目的タンパク質を意図した配列で備えさせようとする場合には、異なる結合特異性を有する複数種類のコヘシンを意図的に配列させるようにしてもよい。なお、この場合、目的タンパク質もコヘシンの結合特異性に応じたコヘシン−ドックリン相互作用を奏するドックリンを備えるようにする。
【0037】
本骨格タンパク質は、さらに、上記したタイプIIIドックリンとの結合活性を有するコヘシン以外のコヘシンを備えていてもよい。例えば、既述のタイプIコヘシンやタイプIIコヘシンが挙げられる。
【0038】
例えば、他のコヘシンは、C. thermocellum CipA由来コヘシンが挙げられる。各種のセルロソーム生産微生物のセルロソームにおける他のコヘシンのアミノ酸配列及びDNA配列の多くが決定されている。これらの各種のCBDのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0039】
本骨格タンパク質は、こうした各種のコヘシン以外に、タイプI〜IIIから選択される骨格タンパク質のセルロース結合ドメイン(CBD)を有していることが好ましい。CBDは、各種骨格タンパク質において基質であるセルロースに結合するドメインとして知られている(前述粟冠ら)。セルロース結合ドメインは、1又は2以上有していてもよい。各種のセルロソーム生産微生物のセルロソームにおけるCBDのアミノ酸配列及びDNA配列の多くが決定されている。これらの各種のCBDのアミノ酸配列及びDNA配列も、他のコヘシンと同様、アクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0040】
本骨格材料は、本骨格タンパク質を含んでいればよく、本骨格タンパク質をどのような形態で含んでいてもよい。例えば、本骨格タンパク質をフリーな状態で、すなわち、本骨格タンパク質をなんらの担体で支持することなく含んでいてもよい。また、本骨格材料は、本骨格タンパク質を、適当な担体、例えば、カラム充填剤、ビーズ等、タンパク質を適宜保持できるように構築された表面を有する担体表面に保持されていてもよい。なお、必要に応じて、本骨格タンパク質もこうした担体に結合可能に供給結合性の官能基や、非共有結合性の領域が適宜付与される。
【0041】
さらに、後述するように、本骨格タンパク質は、真核微生物の細胞表層に提示された状態であってもよい。細胞表層に提示された形態であると、特に本骨格タンパク質を真核微生物内で生産しそれを提示させることで、簡易に本骨格タンパク質そのものを細胞表層という部位に高度に集積させることができる。なお、真核微生物の細胞表層に本骨格タンパク質を提示させるには、真核微生物の細胞表層に対して外部から本骨格タンパク質を供給して、保持させてもよい。
【0042】
本骨格タンパク質に細胞表層提示性を付与するには、公知の分泌シグナルや表層提示用のシステムを用いることができる。例えば、分泌シグナルや凝集性タンパク質又はその一部のアミノ酸配列が付与される。分泌シグナルとしては、例えば、Rhizopus oryzaeやC. albicansのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナル、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダーなどが挙げられる。また、凝集性タンパク質としては、α−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドが挙げられる。また、所望のタンパク質を細胞表層に提示するためのポリペプチドや手法は、WO01/79483号公報や、特開2003−235579号公報、WO2002/042483号パンフレット、WO2003/016525号パンフレット、特開2006−136223号公報、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されている。
【0043】
(本骨格タンパク質をコードするDNA)
本骨格タンパク質をコードするDNAは、本骨格タンパク質のアミノ酸配列をコードするものであればよいが、DNAの塩基配列は、遺伝暗号の縮重や発現させようとする真核生物におけるコドン用法に従いタンパク質のアミノ酸配列を変えることなく所定のアミノ酸配列をコードするものであればよい。例えば、酵母での発現を意図する場合には、公知の酵母最適化コドンが適用されていてもよい。
【0044】
こうしたDNAは、本骨格タンパク質の設計に基づいて、タイプIIIコヘシン及び介在配列のアミノ酸配列、その他適宜所望のエレメントのアミノ酸配列をコード化すればよい。各種のコードDNAは、公知のデータベースからタイプIIIコヘシンのアミノ酸配列等と同様に取得することができる。こうしたDNAは、遺伝子工学的にあるいは化学合成的に公知の手法により取得することができる。
【0045】
(本骨格タンパク質の生産)
本骨格タンパク質は、例えば、コヘシンをコードする塩基配列と、適度な長さの介在配列のアミノ酸配列をコードする塩基配列と、その他、必要に応じてCBDをコードする塩基配列や分泌シグナルや表層提示用のアミノ酸配列をコードする塩基配列とを組み合わせた塩基配列を組み合わせて本骨格タンパク質をコードするDNAを取得して、公知の方法により組換えベクター等を構築する。こうした組換えベクターの構築は、当業者において周知であり、当業者であれば、コードDNA以外の必要な各種エレメントやその構築方法を適宜選択して所望のベクターを構築できる。組換えベクターにより、酵母などの真核微生物等の適当な宿主を形質転換し、形質転換細胞を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養細胞または培地から本骨格タンパク質を回収することによって得ることができる。また、本骨格タンパク質は、上述のように真核微生物の細胞外に分泌又は細胞表層提示するように取得してもよい。本骨格タンパク質は、真核微生物において発現させるときに、その生産性や分泌性(細胞表層提示性)において優れている。
【0046】
本人工骨格材料は、目的タンパク質を集積させ/近接させて配置ないし保持するのに好ましい。こうすることで目的タンパク質の機能、例えば、酵素であるなら酵素活性を向上させることが可能であり、2以上の目的タンパク質の場合には、さらに協働作用を向上させることができる。また、目的タンパク質を集積させ/近接させて配置ないし保持することができるため、タンパク質の効率的な分離、回収、凝集のためのキャリアとしても用いることができる。なお、本人工骨格材料は、目的タンパク質を集積して保持させるキャリアとしても用いることができる。なお、目的タンパク質については後段にて詳述する。
【0047】
また、既述したように、本骨格タンパク質は、他のタイプI,IIの骨格タンパク質に比較して真核微生物での生産及び細胞外分泌(細胞表層提示含む)に好適であるため、他のタイプよりも一層高度な集積化が可能である。
【0048】
(タンパク質複合材料)
本明細書に開示されるタンパク質複合材料は、本明細書に開示される人工骨格材料と、タイプIIIドックリンに由来してタイプIIIコヘシンに結合活性を有するドックリン(以下、単にタイプIIIドックリンという。)をそれぞれ有する1又は2以上の目的たんぱく質と、を備えることができる。本明細書に開示されるタンパク質複合材料によれば、目的タンパク質を集積して/近接させて保持することができる。これにより、目的タンパク質の高度な集積体とすることができるほか、目的タンパク質の機能の向上、2以上の目的タンパク質の協働作用の向上を図った複合体を得ることができる。
【0049】
本明細書において目的タンパク質としては、タンパク質としての機能は特に限定されない。好ましくは、集積化ないし近接化により機能が向上するとされるタンパク質である。こうしたタンパク質としては、例えば、酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。こうしたタンパク質としては、セルラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。セルラーゼとしては、公知のセルラーゼを適宜利用できる。セルラーゼとしては、エンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.74)、セロビオヒドロラーゼ(EC 3.2.1.91)及びβ−グルコシダーゼ(EC23.2.4.1、EC 3.2.1.21)が挙げられる。なお、セルラーゼは、そのアミノ酸配列の類似性に基づきGHF(Glycoside Hydrolase family)(http://www.cazy.org/fam/acc.gh.html)の13(5,6,7,8,9,10,12,44,45,48,51,61,74)のファミリーに分類されている。セルラーゼとしては、異なるファミリーに分類される同種又は異種のセルラーゼを組み合わせてもよい。
【0050】
セルロースを含むバイオマスの糖化利用を考慮すると、セルラーゼとしては、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼからなる群から選択される2種以上を含むことが好ましい。
【0051】
また、セルラーゼとしては、特に限定しないが、それ自体活性の高いセルラーゼであることが好ましい。このようなセルラーゼとしては、例えば、Phanerochaete chrysosporiumなどのファネロケーテ(Phanerochaete)属菌、Trichoderma reeseiなどのトリコデルマ属(Trichoderma)菌、フザリウム属(Fusarium)菌、トレメテス属(Tremetes)菌、ペニシリウム属(Penicillium)菌、フミコーラ属(Humicola)菌、アクレモニウム属(Acremonium)菌、アスペルギルス属(Aspergillus)菌等の糸状菌の他に、Clostridium thermocellum、Clostridium cellulolyticumなどのクロストリジウム属(Clostridium)菌、シュードモナス属(Pseudomonas)菌、セルロモナス属(Cellulomonas)菌、ルミノコッカス属(Ruminococcus)菌、バチルス属(Bacillus)菌等の細菌、スルフォロバス属(Sulfolobus)菌等の始原菌、さらにストレプトマイセス属(Streptomyces)菌、サーモアクチノマイセス属(Thermoactinomyces)菌などの放射菌由来のセルラーゼが挙げられる。なお、こうしたセルラーゼ又はその活性部位は、人工的に改変されていてもよい。
【0052】
こうしたセルラーゼとして、例えば、Phanerochaete chrysosporium由来のPcCBH2(配列番号19(配列番号20);配列番号についてのこの表記は、塩基配列の配列番号(アミノ酸配列の配列番号)を意味する。以下、同じ。)及びその改変体が挙げられる。また、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ(配列番号21(配列番号22))及びその改変体が挙げられる。また、Clostridium thermocellum由来のセルラーゼ(配列番号23(配列番号24)、配列番号25(配列番号26)、配列番号27(配列番号28))及びその改変体が挙げられる。
【0053】
また、バイオマスの有効利用を考慮したとき、ヘミセルラーゼ活性部位を備えていてもよい。さらに、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ及びラッカーゼなどのリグニン分解酵素が挙げられる。また、例えば、セルロース緩和タンパク質であるスウォレニンやエクスパンシン、セルロソームやセルラーゼの構成部分であるセルロース結合ドメイン(タンパク質)が挙げられる。また、キシラナーゼやヘミセルラーゼ等のその他のバイオマス分解酵素も挙げられる。これらのタンパク質は、いずれもセルロースへのセルラーゼのアクセシビリティを向上させることができる。
【0054】
目的タンパク質は、本骨格タンパク質上に、タイプIIIコヘシン−ドッケリン相互作用により結合される。タイプIIIドックリンは、例えば、R. flavefaciensのセルロソーム上の各種のタイプIIIドックリンを、本骨格タンパク質上で用いるタイプIIIコヘシンの種類(ScaA、ScaB、ScaC及びScaE)に応じて用いることができる。本骨格タンパク質がScaBコヘシンをタイプIIIコヘシンとして用いるときには、ScaAのドックリンをタイプIIIドックリンとして用いることができる。
【0055】
タイプIIIドックリンは、天然のタイプIIIドックリンのほか、上述のコヘシンと同様に、タイプIIIコヘシンとの結合性を失わない改変体であってもよい。例えば、タイプIIIドックリン上のN型糖鎖修飾予定部位のN(アスパラギン)がアスパラギン以外の他のアミノ酸残基に置換された改変体であってもよい。また、N型糖鎖修飾予定部位のS/Tに対してこれら以外のアミノ酸残基に置換された改変体であってもよい。こうした改変体では、糖鎖修飾を回避して、本来のコヘシン−ドッケリン結合強度を確保できる。こうした改変体にあっては、タイプIIIコヘシンと同様、N及びS/Tに対して広く他のアミノ酸残基で置換されていてもよい。
【0056】
また、こうした天然のタイプIIIドックリンの改変体としては、天然のタイプIIIドックリンのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有していることが好ましい。より好ましくは、85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、さらにまた好ましくは93%以上であり、一層好ましくは95%以上であり、より一層好ましくは97%以上であり、さらに一層好ましくは98%以上であり、さらにまた好ましくは99%以上である。
【0057】
目的タンパク質は、自身の機能的な活性部位の他にタイプIIIドックリンを備えている。目的タンパク質におけるタイプIIIドックリンの位置は、特に限定しない。N末端側であってもよいし、C末端側であってもよい。また、これらの双方においてタイプIIIドックリンを有していてもよい。なお、目的タンパク質に応じて好ましいタイプIIIドックリンの位置が異なる場合がある。すなわち、タイプIIIドックリンの位置によって、タイプIIIコヘシンに対する結合能力ないし目的タンパク質の活性が異なる場合がある。例えば、Phanerochaete chrysosporium由来のセロビオヒドロラーゼPcCBH2やTrichoderma reeseiのエンドグルカナーゼの場合には、タイプIIIドックリンは、N末端を含んでいてもよいN末端側にあることが好ましい。Clostridium thermocellum由来のセルラーゼの場合には、タイプIIIドックリンは、C末端を含んでいてもよいC末端側にあることが好ましい。
【0058】
(目的タンパク質の生産)
こうした目的タンパク質は、所望の目的タンパク質に対して、タイプIIIドックリンを融合させた融合タンパク質として遺伝子工学的に取得できる。すなわち、こうした融合タンパク質をコードするDNAを利用して公知の手法に基づいて組換えベクターを構築し、酵母やなどの真核微生物や大腸菌などの細菌の適当な宿主を形質転換し、形質転換細胞を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養細胞または培地から本骨格タンパク質を回収することによって得ることができる。また、目的タンパク質は、上述のように公知のシステムを用いて真核微生物の細胞外に分泌するように取得してもよい。
【0059】
(本複合材料の生産)
本複合材料は、本骨格タンパク質と目的タンパク質とを接触させて、本骨格タンパク質上のタイプIIIコヘシンと目的タンパク質のタイプIIIドックリンのコヘシン−ドックリン相互作用に基づいて結合させることにより得ることができる。
【0060】
本複合材料は、それ自体、真核微生物などの細胞とは独立して存在することができる。この場合、例えば、細胞表層に提示されないフリーの本骨格タンパク質とフリーの目的タンパク質とを一般的にタンパク質のフォールディングが維持できる条件下で接触させることで、コヘシン−ドックリン相互作用に基づいて本複合材料が構築される。接触の条件は、pH、塩濃度、温度の液体中において、両者を混合等させればよい。適宜、撹拌により接触確率を向上させてもよい。
【0061】
こうした本複合材料の構築は、それぞれを生産する真核微生物などから分離した状態の本骨格タンパク質と目的タンパク質とを接触させてもよいし、それぞれのタンパク質を細胞外分泌するように構築された真核微生物等を混合培養することにより、真核微生物の細胞外に本複合材料を構築するようにしてもよい。このような場合、例えば、目的タンパク質をセルラーゼとし、セルロース含有材料の存在下に、酵母などの真核微生物を培養することで、セルロースの糖化と酵母による発酵を同時に実施できる。
【0062】
また、本複合材料を、真核微生物の細胞表層に備えるようにすることもできる。この場合、例えば、目的タンパク質をセルラーゼとし、セルロース含有材料の存在下に、酵母などの真核微生物を培養することで、酵母細胞表層におけるセルロースの糖化と酵母による発酵を同時に実施できる。このような本複合材料を生産するには、いくつかの方法がある。1つは、本骨格タンパク質を公知の細胞表層提示システムを用いて細胞表層に提示させるように構築した真核微生物に対して、目的タンパク質を外部から供給するようにする方法である。本骨格タンパク質と目的タンパク質とは、コヘシン−ドックリン相互作用に基づき複合材料を真核微生物の細胞表層上で本複合材料を構築する。
【0063】
また、本骨格タンパク質を公知の細胞表層提示システムを用いて細胞表層に提示させるように構築した真核微生物において、目的タンパク質を公知の手法を用いて細胞外分泌するように構築する。こうした共発現構築された真核微生物を培養することにより、真核微生物の細胞表層には、本複合材料を構築することができる。
【0064】
(真核微生物)
本明細書に開示される真核微生物は、本骨格タンパク質を細胞表層に備える真核微生物である。真核微生物は、公知の細胞表層提示システムにより本骨格タンパク質を備えることができる。こうした真核微生物は、本骨格タンパク質を、細胞内で自己生産することが好ましい。本骨格タンパク質は、真核微生物内での生産・分泌に適している他、表層提示を簡素化し、効率的かつ安定的に本骨格タンパク質を表層提示できるからである。
【0065】
こうした真核微生物で、本骨格タンパク質をコードするDNAを発現可能に保持している。こうしたDNAは、真核微生物内において当該タンパク質を発現可能に保持されていればよく、その保持形態は特に限定されない。例えば、宿主微生物で作動可能なプロモーターの制御下に連結されるとともに適切なターミネーターをその下流に有した状態で保持されている。プロモーターは、構成的プロモーターであっても誘導的プロモーターであってもよい。このような状態のDNAは、宿主染色体内に組み込まれた形態であってもよいし、宿主核内に保持される2μプラスミドや核外に保持されるプラスミドのような形態であってもよい。
【0066】
本明細書に開示される真核微生物は、また、本骨格タンパク質と目的タンパク質とを備える本複合材料を細胞表層に備える真核微生物であってもよい。こうした真核微生物は、公知の細胞表層提示システムにより本骨格タンパク質を備えることができる。また、目的タンパク質は、共発現により自己生産させてもよいし、外部から供給したものであってもよい。本骨格タンパク質と目的タンパク質とを共に自己生産させることが、表層提示を簡素化し、効率的かつ安定的に本骨格タンパク質を表層提示できる。
【0067】
こうした真核微生物で、少なくとも本骨格タンパク質をコードするDNAを発現可能に保持し、さらに、目的タンパク質をコードするDNAを発現可能に保持していることができる。こうしたDNAは、真核微生物内において当該タンパク質を発現可能に保持されていればよく、その保持形態は特に限定されない。例えば、宿主微生物で作動可能なプロモーターの制御下に連結されるとともに適切なターミネーターをその下流に有した状態で保持されている。プロモーターは、構成的プロモーターであっても誘導的プロモーターであってもよい。このような状態のDNAは、宿主染色体内に組み込まれた形態であってもよいし、宿主核内に保持される2μプラスミドや核外に保持されるプラスミドのような形態であってもよい。
【0068】
真核微生物の表層において、本骨格タンパク質は、既に説明した公知の細胞表層提示技術に基づいて保持されるのに限定されるものではなく、公知の他の形態で保持されていてもよい。
【0069】
本明細書に開示される真核微生物において、目的タンパク質は、上述のように、1又は2以上のセルラーゼを含むことが好ましい。こうした真核微生物を用いることで、セルロースの糖化同時発酵を効率的に行うことができる。本骨格タンパク質は、タイプIIIコヘシン−ドックリン相互作用に基づいて目的タンパク質である1又は2以上のセルラーゼを集積/近接させて保持できるため、これらのセルラーゼの高い相乗効果を実現できるからである。
【0070】
なお、セルラーゼなどの酵素は、本来的に細胞外分泌のためのシグナルを有していることが多い。セルラーゼなどの目的タンパク質に細胞外分泌性を付与するには、公知の分泌シグナルを用いることができる。分泌シグナルは、すでに説明したように、用いる真核微生物の種類に応じて適宜選択される。
【0071】
真核微生物としては、特に限定されないで、例えば、公知の各種酵母を利用できる。後述するエタノール発酵等を考慮すると、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピヒア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
【0072】
(形質転換された真核微生物の作製等)
説明した本明細書に開示される真核微生物他、本骨格タンパク質、目的タンパク質等は、いずれも、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて作製することができる。真核微生物の形質転換のためのベクター及びその構築方法は、当業者において周知であって、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に開示されている。なお、ベクターの形態は、使用形態に応じて様々な形態を採ることができる。例えば、DNA断片の形態を採ることができるほか、2マイクロプラスミドなどの適当な酵母用ベクターの形態を採ることもできる。ベクター等による形質転換においても、当業者であれば上述の成書を参照することで実施できる。典型的には、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。
【0073】
(組換えベクター等)
なお、本明細書によれば、本骨格タンパク質をコードするDNAを真核微生物内で発現可能に保持する発現ベクター(組換えベクター)のほか、目的タンパク質をコードするDNAを真核微生物内で発現可能に保持する発現ベクター(組換えベクター)が提供される。また、これらをセットにした、ベクターセットも提供される。なお、これらのベクターは、発現カセットの形態であってもよいし、相同組換え可能なDNAコンストラクトの形態であってもよい。商業的等に入手可能なベクターにこうしたコードDNAが組み込まれた形態であってもよい。既に説明したように、こうしたベクターの構築やその形態については当業者において周知である。
【0074】
(人工骨格材料及びタンパク質複合材料の利用)
本明細書によれば、本人工骨格材料の利用やタンパク質複合材料の利用も提供される。本人工骨格材料は、例えば、目的タンパク質と接触させることで、目的タンパク質を保持できるため、目的タンパク質の集積のほか、回収、分離、精製等に用いることができる。また、タンパク質複合材料は、目的タンパク質をコヘシン−ドックリン相互作用により保持しており、目的タンパク質の高機能化、協働化向上に寄与できる。以下に、目的タンパク質としてセルラーゼ活性を有するタンパク質を用いた形態について説明する。
【0075】
(セルロースからの糖化物の生産方法)
本明細書によれば、本明細書に開示されるタンパク質複合材料を用いたセルロース含有材料からのグルコースなどの糖化物の生産方法が提供される。この方法は、タンパク質複合材料とセルロース含有材料とを接触させる工程を備えている。なお、糖化物は、グルコースに限定されないで、セルロース含有材料の組成や用いるセルラーゼの種類に応じて各種単糖や二糖が含まれうる。
【0076】
この方法においては、タンパク質複合材料には、目的タンパク質として少なくとも1又は2以上のセルラーゼを保持している。1又は2以上のセルラーゼは、必要に応じ各種セルラーゼが組み合わされる。タンパク質複合材料におけるセルラーゼは、集積化/近接化されているため、効果的に協働作用が発揮されセルロースを分解することができる。セルロース含有材料とタンパク質複合材料との接触条件は、セルラーゼが機能する条件であれば特に限定されない。例えば、約15℃〜約25℃程度の比較的低温条件を採用することが好ましい。こうした低温であると、タンパク質複合材料の骨格タンパク質やセルラーゼが作用しやすいフォールディング状態になると考えられる。特に、カビ由来のセルラーゼを用いる場合には、こうした低温培養が好ましく適用される。好ましくは18℃以上22℃以下程度、より好ましくは約20℃とすることができる。
【0077】
タンパク質複合材料として、タンパク質複合材料を表層提示する酵母などの真核微生物を用いる場合には、培養又は発酵という工程を取ることもできる。さらに、セルロースの分解産物を酵母が利用して増殖や発酵が可能である。培養条件は、特に限定しないで、真核微生物において一般的に採用される条件であればよい。この場合においても、上述のように15℃以上25℃以下の比較的低温の培養温度を採用することができる。
【0078】
セルロース含有材料としては、D−グルコースがβ−1,4結合でグリコシド結合したβ−グルカンであるセルロースを含有する材料であればよい。セルロース含有材料は、どのような由来や形態であってもよい。したがって、セルロース系材料としては、例えば、リグノセルロース系材料、結晶性セルロース材料、可溶性セルロース材料(非晶性セルロース材料)、不溶性セルロース材料などの各種セルロース系材料等が含まれる。リグノセルロース系材料としては、例えば、木本植物の木質部や葉部及び草本植物の葉、茎、根等においてリグニン等を複合した状態のリグノセルロース系材料が挙げられる。こうしたリグノセルロース系材料としては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、トウモロコシの茎葉、バガス等の農業廃棄物、収集された木、枝、枯葉等又はこれらを解繊して得られるチップ、おがくず、チップなどの製材工場廃材、間伐材や被害木などの林地残材、建設廃材等の廃棄物であってもよい。結晶性セルロース系材料及び不溶性セルロース系材料としては、リグノセルロース系材料からリグニン等を分離後の結晶性セルロース及び不溶性セルロースを含む結晶性又は不溶性セルロース系材料が挙げられる。セルロース材料としては、また、使用済み紙製容器、古紙、使用済みの衣服などの使用済み繊維製品、パルプ廃液を由来としてもよい。
【0079】
タンパク質複合材料は、セルラーゼとともにヘミセルラーゼを目的タンパク質として保持することができる。また、タンパク質複合材料は、ヘミセルラーゼのみを目的タンパク質として保持することもできる。セルロース含有材料は、多くの場合、ヘミセルロースも同時に含んでいる。こうしたタンパク質複合材料を、ヘミセルロースを含むセルロース含有材料や、ヘミセルロースを主体とする材料と接触させることでも、これらの糖化物(グルコースほか、キシロース等)を生産することができる。
【0080】
(セルロースからの有用物質の生産方法)
本明細書に開示される有用物質の生産方法は、本明細書に開示されるタンパク質複合材料及びセルロース含有材料の存在下、セルロース糖化物を資化する真核微生物を培養する工程を備えることができる。この方法によると、タンパク質複合材料により効果的にセルロース糖化物が得られ、それより真核微生物が増殖発酵できるため、真核微生物に有用物質を同時並行的に生産させることができる。この方法においては、好ましくは、タンパク質複合材料を細胞表層に備える真核微生物を用いる。こうすることでより効果的にセルロース含有材料から有用物質を生産することができる。
【0081】
真核微生物は、特に限定しないが、工業的に培養方法が確立されていること及び遺伝子工学的な改変も容易であることから、酵母であることが好ましい。
【0082】
有用物質は、真核微生物がグルコースなどの栄養源を発酵することにより得る生産物であり、真核微生物の種類によっても異なるし、発酵条件によっても異なる。有用物質としては特に限定しないが、酵母やその他の真核微生物がグルコースを利用して生産可能なものであればよい。有用物質は、酵母などの真核微生物におけるグルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して合成できるようになった本来の代謝物でない化合物であってもよい。有用物質としては、例えば、エタノールなどのほか、C3〜C5の低級アルコール、乳酸などの有機酸の他、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリン、プラスチック・化成品原料など、バイオリファイナリー技術が対象とする材料が挙げられる。
【0083】
培養工程は、利用するセルロース含有材料、真核微生物、得ようとする有用物質の種類に応じて実施すればよい。また、培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、6〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。なお、変換工程終了後、培養液から微生物を除去してエタノール等の有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを濃縮する工程を実施してもよい。
【0084】
有用物質の生産工程終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0085】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はモレキュラークローニング第3版に従い行った。
【実施例1】
【0086】
(Ruminococcus flavefaciens由来遺伝子の取得及び酵母発現ベクターの作製)
ルミノコッカスフラボファシエンス由来ScaAコヘシン(配列番号29(配列番号30))、Cel44Aドックリン(配列番号31(配列番号32))ScaBコヘシン(配列番号33(配列番号34))、ScaAドックリン(配列番号35(配列番号36))、ScaEコヘシン(配列番号37(配列番号38))およびScaB-Xドックリン(配列番号39(配列番号40))、以上6つのアミノ酸配列をUniProtデータベースから取得し、それぞれを酵母コドンユセジに最適化した合成遺伝子を作製した。
【0087】
合成したScaA、ScaB、ScaEコヘシンの各遺伝子の上流にBglII、下流にXhoIの制限酵素サイトをそれぞれPCRで付加した。この制限酵素サイトを利用し、図1に示すように、上流にADH3相同領域(ADH3U)、HOR7プロモーターおよびRhizopus orizaeのグルコアミラーゼ由来シグナル配列(SSRGと記載:配列番号41)、下流にV5タグ、AGA2配列、TDH3ターミネーター、Leu3マーカーおよびADH3相同領域(ADH3D)を持つ、pDL-HOR7p-ScaAcoh-AGA2、pDL-HOR7p-ScaBcoh-AGA2、pDL-HOR7p-ScaEcoh-AGA2ベクターを作製した。
【0088】
同様に合成したCel44Aドックリン、ScaAドックリン、ScaB-Xドックリンの各遺伝子の上流にXhoI、下流にBamHIの制限酵素サイトをそれぞれPCRで付加した。この制限酵素サイトを利用し、図2に示すように、上流にHXT3相同領域(HXT3U)、HOR7プロモーター、SSRGシグナル配列およびHis-tag、下流にTDH3ターミネーター、Ura3マーカーおよびHXT3相同領域(HXT3D)を持つ、pHU-HOR7p-Cel44Adoc、pHU-HOR7p-ScaAdoc、pHU-HOR7p-ScaB-Xdocを作製した。
【実施例2】
【0089】
(酵母表層での各種遺伝子の生産)
図3に示すように、PCR法により増幅後クローニングしたAGA1遺伝子の上流にAAP1相同領域(AAP1U)とHOR7プロモーター、下流にTDH3ターミネーターとHis3マーカーおよびAAP1相同領域(AAP1D)を持つ、pAI-HOR7p-AGA1ベクターを作製した。本ベクターを制限酵素Sse8387Iで線状化し、酵母S.cerevisiae BY4741株に形質転換、相同組換えする事で、AGA1を細胞表層に提示する酵母BYAGA1を取得した。BYAGA1株に実施例1で作製した各種ベクターpDL-HOR7p-ScaAcoh-AGA2、pDL-HOR7p-ScaBcoh-AGA2、pDL-HOR7p-ScaEcoh-AGA2をSse8387Iで線状化して導入し、BYScaA、BYScaB、BYScaE株とした。また、BY4741株にpHU-HOR7p-Cel44Adoc、pHU-HOR7p-ScaAdoc、pHU-HOR7p-ScaB-XdocをSse8387Iで線状化して導入し、BYCel44Adoc、BYScaAdoc、BYScaB-Xdoc株とした。
【実施例3】
【0090】
(フローサイトメトリー(FCM)による酵母表層提示量評価)
ScaBコヘシン-ScaAドックリンの組合せは既に評価した(特開2011-160772に詳述)。そこで、ScaA、ScaEコヘシンの酵母表層への提示量を、ScaAコヘシン-Cel44Aドックリン、ScaEコヘシン-ScaB-Xドックリンの結合量をFCMを用いて評価した。各コヘシン提示酵母をそれぞれYPD液体培地(10g/l yeast extract, 20g/l peptone, 20g/l glucose)で30℃、24時間培養し、AntiV5-FITC抗体で染色後、FCMで酵母細胞表層上のコヘシン提示量を評価した。その結果、図4に示すように、ScaEコヘシンと比較して、ScaAコヘシンの提示量は非常に少なかった。
【0091】
次に、これらコヘシン提示酵母に、対応するドックリンを分泌生産するBYCel44Adoc、BYScaB-Xdoc株の培養上清を添加することで、酵母表層上でミニセルロソームを再構成した。コヘシンに結合したドックリンをAntiHis-FITC抗体で標識し、FCMで測定する事でドックリンの結合量を評価した。その結果、図5に示すように、ScaEコヘシンとScaB-Xドックリンの組み合わせと比較して、ScaAコヘシンとCel44ドックリンの組み合わせはドックリンの提示量が非常に少なかった。以上の結果から、ScaAコヘシンとCel44ドックリンの組合せは酵母での発現に適していないと考えられた。
【0092】
ScaBコヘシン-ScaAドックリン及びScaEコヘシン- ScaB-Xドックリンの組み合わせとクロストリジウム・サーモセラムCipA由来コヘシンとCt48SDD(Cel48Sドックリンの2か所のN型糖鎖結合部位(N型糖鎖修飾予定部位)のアスパラギンをアスパラギン酸に置換、特開2011-219399に記載されている。)、以上3種の交差結合性を評価した。
【0093】
各コヘシン提示酵母をそれぞれYPD液体培地で30℃、24時間培養し、各ドックリン分泌酵母の培養上清をそれぞれ全ての組み合わせで添加する事で、酵母表層上でミニセルロソームを再構成させた。コヘシンに結合したドックリンをAntiHis-FITC抗体で標識し、FCMで結合量を評価した。その結果、図6に示すように、酵母で生産したScaBコヘシン-ScaAドックリン及びScaEコヘシン- ScaB-Xドックリンは他の組み合わせと選択結合性を保持しており、ScaBコヘシン-ScaAドックリンの組み合わせが最もドックリンの結合量が多かった。
【実施例4】
【0094】
(酵母表層でのScaB-4コヘシン(Rf4Coh)の作製)
実施例3により酵母での骨格タンパク質のエレメントとしてScaBコヘシンが適している事が示されたため、R.flavefaciens由来ScaBの4コヘシンを酵母コドンユセジに最適化した合成遺伝子を作製し(配列番号42)、ScaB-4コヘシン(Rf4Coh)提示酵母を作製した。具体的には、Rf4Cohの上流にBglII、下流にXhoIの制限酵素サイトをそれぞれPCRで付加した。この制限酵素サイトを利用し、上流にADH3相同領域(ADH3U)、HOR7プロモーターおよびSSRGシグナル配列、下流にV5タグ、AGA2配列、TDH3ターミネーター、Leu3マーカーおよびADH3相同領域(ADH3D)を持つ、pDL-Rf4coh-AGA2ベクターを作製した(図1)。
【0095】
取得したベクターを実施例2と同様にマーカーをハイグロマイシンとし酵母BJ5465に導入した株、BJ-AGA1に相同組換えすることで、Rf4Cohを表層に提示する酵母、BJRf4Coh株を作製した。本株をYPD培地で一晩培養し、実施例3と同様にAntiV5-FITC抗体で標識し、フローサイトメトリーを行った。その結果、図7に示すように、酵母表層でRf4Cohが生産されていることを確認した。
【実施例5】
【0096】
(ScaAドックリン(RfDoc)融合PcCBH2とTrEG2の遺伝子構築)
N末端、C末端、両末端にR.flavefaciens由来ScaAドックリン(RfDoc)を融合発現するセルラーゼ発現ベクターを以下のように作製した。具体的には、PCRを用いて3種類(N末端、C末端、両末端用)のカセットを増幅し、pRS436-GAPSSRG(図8)のSphIサイトに、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて挿入した(図9)。3種類のScaAドックリン融合分泌発現用ベクターはNheIサイトにIn-Fusion Advantage PCR Cloning Kitにより任意のセルラーゼを挿入する事でScaAドックリンをN末端、C末端、両末端に融合する事ができる。
【0097】
本ベクターを用いて、Phanerochaete chrysosporium由来セロビオヒドロラーゼII(PcCBH2、配列番号43)とTrichoderma reesei由来エンドグルカナーゼII(TrEG2、配列番号44)のN、C、両末端にScaAドックリンを融合させた遺伝子を作製した。
【実施例6】
【0098】
(PcCBH2、TrEG2提示酵母のPSC分解活性評価)
構築したベクターをFrozen-EZ Yeast Transformation II Kit(Zymo Research)を用いて、実施例4で作製したBJRf4Coh株に形質転換した。生育した菌体コロニーを500μlのSD-URA液体培地(yeast nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate 1.7g、カザミノ酸10g、-URAアミノ酸mix 0.77g、グルコース10g、脱イオン水1000ml)に植菌し、30℃、20時間培養した菌液を前培養液とした。100μlの前培養液を新たに500μlのSD-URA液体培地へ植菌し、30℃、20時間培養し本培養を行った。遠心分離により菌体を回収し、50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で洗浄後の菌体を用いてリン酸膨潤セルロース(PSC)分解試験を行った。
【0099】
1%PSC溶液100ulに、200ulの50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で懸濁した菌体を100ul添加し、40℃で20〜24時間反応後に、遠心上清中の還元糖量をTZアッセイ法(Journal of Biochemical and Biophysical Methods, 11 (1985) 109-115)により測定した。図10に示すように、全ての反応は3連で行った。その結果、PcCBH2、TrEG2どちらもN末端にScaAドックリンを融合した時が最も高いPSC分解活性を示した。
【実施例7】
【0100】
(各種セルラーゼ提示酵母のPSC分解活性評価)
PcCBH2の変異体、ThCBD1-PcMal4(L2)(配列番号45(配列番号46))、TrEG2の変異体、ThCBD1-TrEG2(L4)(配列番号47(配列番号48))、Phanerochaete chrysosporium由来エンドグルカナーゼII(PcEG2、配列番号49(配列番号50))のN末端に実施例5の方法を用いてScaAドックリンを融合した。また、Clostridium thermocellum由来セルラーゼであるCel9K、Cel8A、及びCbhAの本来持っているドックリンを削除(ドックリン除去後のDNAの塩基配列:CtCel9K、配列番号51)、(CtCel8A、配列番号52)(CtCbhA、配列番号53)して、NまたはC末端にScaAドックリンが融合した遺伝子を作製した。これらの遺伝子を用いて実施例6と同じ方法でPSC分解活性を測定した。
【0101】
その結果、図11に示すように、セロビオヒドロラーゼではThCBD1-PcMal4(L2)、エンドグルカナーゼではThCBD1-TrEG2(L4)が最も高い活性を示した。また、Clostridium thermocellum由来セルラーゼはScaAドックリンをN末端に融合するよりも、本来ドックリンを持っているC末端に融合した時の方が活性が高かった。
【実施例8】
【0102】
(低温培養時の活性比較)
培養温度を20℃、または30℃で行い、実施例7と同様にPSC分解活性を測定し、培養温度が与える影響について検討した。その結果、図12に示すように、20℃で培養することで、PSC分解活性が向上した。特に、カビ由来のセルラーゼ提示株では顕著なPSC分解活性の向上が認められた。低温で培養する事により蛋白質のフォールディングが改善される事は良く知られているので、無理やりドックリンを融合させたカビ由来セルラーゼにおいて低温培養は効果的である事がわかった。
【実施例9】
【0103】
(局所的変異導入とランダム変異を用いたドックリンの改変)
図13に示すように、ScaAドックリンにはN型糖鎖付加配列が1ヶ所存在し、酵母で発現する際に糖鎖が付加され、コヘシンとの結合などで立体障害が生じている事が予測された。また、実施例8において低温培養で菌体活性が向上する事から、ScaAドックリンのフォールディング改善による効果が期待された。そこで、進化工学によりScaAドックリンのN型糖鎖を除去するとともに、ScaAドックリン全体にランダム変異を導入する事でScaAドックリンの改変を行った。
【0104】
実験の流れを図14に示す。具体的には、以下のとおり行った。
(1)図13のScaAドックリンの配列上に示したN型糖鎖付加配列のアスパラギンに対して、NNK(N=ATGC、K=GT)変異を導入した。
(2)NNK変異が入ったライブラリーを鋳型にGeneMorph II Random Mutagenesis kit(アジレント・テクノロジー)により全長へランダム変異を導入した。
(3)セルラーゼ(ThCBD1-Mal4(L2))遺伝子と変異ライブラリーをFrozen-EZ Yeast Transformation II Kit(Zymo Research)を用いてBJRf4Cohに形質転換し、菌体内相同組み換えを利用する事で分泌発現ベクターにサブクローニングした。分泌発現には、クローン間のベクターコピー数による誤差を少なくするために、低コピーベクターであるpAUR112(タカラバイオ)のSmaIサイトにTDH3プロモーター- SSRG-CYCターミネーターを挿入したpAUR112-GAPSSRG(図15)を用いた。
(4)菌体のPSC分解活性を測定し、スクリーニングを行った。
【0105】
PSC分解活性の測定は実施例6と同様の手順で行い、1次スクリーニングとして96穴プレート9枚分、合計864クローンのスクリーニングを行った。次に、上位16クローンの組み合わせ変異を持つライブラリーを作製し、実施例6と同様の手順で96穴プレート2枚分、合計192クローンの2次スクリーニングを行った。また、上位クローンについては3連で再試験も行った。その結果、図16に示すように、最も活性が高かったクローンでは野生型ScaAドックリンと比較して、最大で約2.2倍PSC分解活性が向上しており、変異導入によりScaBコヘシンとScaAドックリンの結合力が向上した事が予測された。また、得られた上位クローンの配列解析を行った。結果を、図17に示す。このうち最もPSC分解活性が向上していたF7をRfDoc(mut)とし、以降の実験に使用した。図17に示すC6、G6、B7、D7、E7及びF7のアミノ酸配列を配列番号82〜87にそれぞれ示す。
【実施例10】
【0106】
(局所的変異導入によるRf4Cohからの糖鎖除去)
Rf4Cohには9ヶ所のN型糖鎖付加配列が存在し、酵母で発現する際に糖鎖が付加され、ドックリンとの結合などで立体障害が生じている事が予測された(図18)。そこで、9ヶ所の糖鎖を同時に除去する事を目的として以下の実験を行った。実験の流れを図19に示した。具体的には、9ヶ所の糖鎖付加配列に対してNNKの局所的変異導入を行った8断片を作製し、オーバーラッピングPCRにより結合する事で、全ての糖鎖付加配列にNNK変異を導入した変異ライブラリーを作製した。変異ライブラリーは低コピーベクターであるpAUR112-GAPSSRGにサブクローニングし、Frozen-EZ Yeast Transformation II Kit(Zymo Research)を用いてBJ-AGA1株に形質転換した(RfcohΔGライブラリー)。
次に、トリプトファンマーカーを持ち、TDH3プロモーター- SSRG-CYCターミネーターを持つ高コピーベクターであるpRS434-GAPSSRG(図20)のSphIサイトに、実施例9で取得したRfDoc(mut)をThCBD1-Mal4(L2)のN末端に融合したRfDoc(mut)-ThCBD1-Mal4(L2)(配列番号54(配列番号55))をサブクローニングし、Frozen-EZ Yeast Transformation II Kit(Zymo Research)を用いて、RfcohΔGライブラリーに形質転換する事でセルラーゼ同時発現RfcohΔGライブラリーを作製した。
【0107】
生育した菌体コロニーを500μlのSD-URA-Trp液体培地(yeast nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate 1.7g、カザミノ酸10g、-URA-Trpアミノ酸mix 0.72g、グルコース10g、脱イオン水1000ml)に植菌し、30℃、20時間培養した菌液を前培養液とした。100μlの前培養液を新たに500μlのSD-URA-Trp液体培地へ植菌し、30℃、20時間培養し本培養を行った。遠心分離により菌体を回収し、50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で洗浄後の菌体を用いてリン酸膨潤セルロース(PSC)分解試験を行った。
【0108】
1%PSC溶液100ulに、200ulの50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で懸濁した菌体を100ul添加し、40℃で20〜24時間反応後に、遠心上清中の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。スクリーニングは96穴プレート2枚分、合計192クローンのスクリーニングを行った。次に、上位10クローンを選抜し、3連で同様のPSC分解試験を行った。その結果、図21に示すように、最も活性が高かったクローンでは糖鎖除去前と比較して、約1.7倍活性が向上していた。また、得られた上位7クローンの配列解析を行った結果を図22に示す。図22に示す、No.1、2、3、7、8、9及び10のコヘシンのアミノ酸配列を、配列番号88〜94にそれぞれ示す。
【実施例11】
【0109】
(ルミノコッカスフラボファシエンス由来ScaBコヘシンの最適長の検討)
ルミノコッカスフラボファシエンス由来ScaBコヘシンをS.cerevisiae表層へ提示した時の最適長を決定するために、様々な長さのScaBコヘシン提示酵母を作製した。具体的には、実施例4で作製したpDL-Rf4cohAGA2ベクターのC末端側1コヘシンをPCR法によって削除する事でpDL-Rf3cohAGA2ベクターを作製した。また、pDL-Rf4cohAGA2ベクターのXhoIサイトに、ScaB-4コヘシンのN末端側2コヘシン、あるいは4コヘシンを1単位として、それらを複数単位導入する事で、pDL-Rf 6、8、12、16、20 cohAGA2ベクターを作製した。取得したベクターをBJ-AGA1に相同組換えすることで、ScaB-3、4、6、8、12、16、20コヘシン(配列番号56(配列番号57)、配列番号58(配列番号59)、配列番号60(配列番号61)、配列番号62(配列番号63)、配列番号64(配列番号65)、配列番号66(配列番号67)、配列番号68(配列番号69))を表層に提示する酵母(マルチコヘシン酵母)を作製した。YPD培地で一晩培養し、実施例3と同様にAntiV5-FITC抗体で標識し、フローサイトメトリーを行い、酵母表層のコヘシン提示量を比較した。その結果、図23に示すように、提示量はコヘシン長により減少するものの、20コヘシンの長さでも酵母細胞表層に提示される事が分かった。
【実施例12】
【0110】
(マルチコヘシン酵母を用いたPSC分解活性評価(セルラーゼ同時発現))
実施例9で取得したRfDoc(mut)-ThCBD1-Mal4(L2)を、pRS436-GAPSSRG(図8)のSphIサイトにサブクローニングした発現ベクターを作製し、Frozen-EZ Yeast Transformation II Kit(Zymo Research)を用いて、各マルチコヘシン酵母に形質転換した。生育した菌体のPSC分解活性を実施例6と同様の方法で測定した。結果を図24に示す。また、2% Avicel溶液100μlに、菌体懸濁液を100ul添加し、40℃で20〜24時間反応後に、遠心上清中の還元糖量をTZアッセイ法により測定する事でAvicel分解活性も測定した。結果を図25に示す。図24及び図25に示すように、PSC、Avicel分解活性共に12コヘシンの時が最もセルロース分解活性が高かった。
【実施例13】
【0111】
(マルチコヘシン酵母を用いたPSC分解活性評価(セルラーゼ外部添加))
実施例9で取得したRfDoc(mut)をC末端に融合したCtCel8A-RfDoc(mut)(配列番号70(配列番号71))、CtCbhA-RfDoc(mut)(配列番号72(配列番号73))を、T7p-セルラーゼ遺伝子-Hisタグ-T7tとなるようにpET23bベクターにサブクローニングし、大腸菌発現用ベクターを作製した。作製したベクターをBL21DE3に形質転換し、各セルラーゼを菌体内発現させ、菌体破砕液からニッケルカラムを用いて目的のセルラーゼを精製した。次に、YPD培地で一晩培養したマルチコヘシン酵母を50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で洗浄した菌体に対して、各精製酵素を添加し4℃で一晩結合反応を行った。結合反応後の菌体を50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で洗浄し、実施例12と同様の方法でCtCel8A-RfDoc(mut)のPSC分解活性とCtCbhA-RfDoc(mut)のAvicel分解活性を測定した。結果を図26図27に示す。これらの図に示すように、どちらの精製セルラーゼを結合させた時も12コヘシンにおいて最もセルロース分解活性が高かった。実施例12、13の結果から、ルミノコッカスフラボファシエンス由来ScaBコヘシンをS.cerevisiae表層へ提示した時の最適長は12コヘシンである事がわかった。
【実施例14】
【0112】
(コヘシン長による近接効果の評価)
1、4、12コヘシンをそれぞれ提示する酵母に2種類のセルラーゼを同時発現させ、コヘシン長による近接効果の比較を行った。具体的には、RfDoc(mut)-ThCBD1-Mal4(L2)、及びRfDoc(mut)-ThCBD1-TrEG2(L4)(配列番号74(配列番号75))の上流にHXT3相同領域、TDH3プロモーターおよびSSRGシグナル配列、下流にDIT1ターミネーター、BleマーカーおよびHXT3相同領域を持つ、pXB- RfDoc(mut)-ThCBD1-Mal4(L2)、及びRfDoc(mut)-ThCBD1-TrEG2(L4)ベクターを作製した(図28)。また、同様にRfDoc(mut)-ThCBD1-Mal4(L2)、及びRfDoc(mut)-ThCBD1-TrEG2(L4)の上流にLeu3相同領域、TDH3プロモーターおよびSSRGシグナル配列、下流にDIT1ターミネーター、G418マーカーおよびLeu3相同領域を持つ、pLG- RfDoc(mut)-ThCBD1-Mal4(L2)、及びRfDoc(mut)-ThCBD1-TrEG2(L4)ベクターを作製した(図29)。取得したベクターを1、4、12コヘシンをそれぞれ提示する酵母に形質転換し、相同組換えすることで各種セルラーゼを発現する酵母を作製した。
【0113】
【表1】

【0114】
作製した酵母株を500μlのYPD液体培地(10g/l yeast extract, 20g/l peptone, 20g/l glucose)に植菌し、30℃、20時間培養した菌液を前培養液とした。100μlの前培養液を新たに500μlのYPD液体培地へ植菌し、30℃、20時間培養し本培養を行った。遠心分離により菌体を回収し、50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で洗浄後の菌体を用いてAvicel分解試験を行った。2%Avicel溶液100ulに、200ulの50mMクエン酸バッファー(pH5.0)で懸濁した菌体を100ul添加し、40℃で4時間反応後に、遠心上清中の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。全ての反応は3連で行った。結果を図30に示す。
【0115】
図30に示すように、コヘシン長が長いほど2種類のセルラーゼの相乗効果が高くなっており、セルラーゼが高度に集積化する事で、より近接効果が高まったことがわかった。
【実施例15】
【0116】
(ScaB-XドックリンからのN型糖鎖の除去)
ScaB-Xドックリンは機能未知のXドメイン(モジュール)とドックリンドメインから構成されるが、図31に示すように、Xドメイン中にN型糖鎖付加配列が1ヶ所存在し、酵母で発現する際に糖鎖が付加され、コヘシンとの結合などで立体障害が生じている事が予測された。そこで、ScaB-XドックリンからXドメインを除去したScaBΔXドックリンを作製し、実施例3の方法を用いてBYScaE株(ScaEコヘシン提示株)への結合試験を行った。また、XドメインのN型糖鎖付加配列にNNK変異を導入したライブラリーを作製し、同様にBYScaE株(ScaEコヘシン提示株)への結合試験を行う事で、ScaB-Xドックリンの改変を行った。
【0117】
その結果、Xドメインを完全に除去したScaBΔXドックリンは、ScaEコヘシンとの結合能を完全に消失していた。このことからXドメインはScaB-XドックリンとScaEコヘシンの結合に重要である事が示唆された。一方、NNK変異を導入したライブラリーから40クローンを選び、ScaEコヘシンとの結合試験を行った結果、図32に示すように、糖鎖除去前と比較して結合量が1.5倍程度向上した改変体を複数取得した。上位クローンについて配列解析を行った結果、図33に示すように、電荷を持つアミノ酸が多く選択されていた。
【実施例16】
【0118】
実施例9及び10で得られた、不要な糖鎖を除去したコヘシン、ドックリン変異体が他のセルラーゼにおいても有意に機能するのかを調べるために、ThCBD1-Mal4(L2)以外のセルラーゼを用いてPSC分解活性を評価した。具体的には、ThCBD1-TrEG2(L4)、ThCBD1-Mal4(L2)、Talaromyces emersonii由来CBHI(TeCBHI、配列番号76(配列番号77)、CtCBHA、Aspergillus niger由来CBHA(AnCBHA、配列番号78(配列番号79))、Phanerochaete chrysosporium由来Cel7e(PcCel7e、配列番号80(配列番号81))にRfDoc(mut)を融合させ、実施例10で取得した変異体No.3を提示する酵母に同時発現させ、PSC分解活性を測定した。図34に、天然型のコヘシン、ドックリンを持つセルロソーム酵母のPSC分解活性を1とした時の相対活性で示す。
【0119】
図34に示すように、全てのセルラーゼにおいて、ドックリンの糖鎖を最適化する事でPSC分解活性が向上していた。また、ドックリン、コヘシン共に糖鎖を最適化したセルロソーム酵母では、さらにPSC分解活性が向上しており、両ドメインに付加する糖鎖量を制御する事が、真核生物で人工セルロソームを構築する上で重要である事が示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図22C
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]