(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、以下の問題点が存在する。即ち、反応器において所望の発熱温度を得るためには、反応器の圧力を所定値に保つ必要がある。また、吸着器から反応器に反応媒体を供給するためには、吸着器の圧力を反応器の圧力以上にする必要がある。そして、吸着器の圧力を保つためには、アンモニアを所望の量だけ吸着器に吸着させる必要がある。従って、吸着器の体格が大きくならざるを得ず、結果的にコストアップにつながる。
【0006】
本発明の目的は、吸着器の体格を小さくすることができる化学蓄熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加熱対象物を加熱する化学蓄熱装置において、気体の反応媒体の物理吸着による保持及び脱離が可能な吸着材を有する吸着器と、吸着器と配管を介して接続され、反応媒体と化学反応して加熱対象物を加熱するための熱を発生させると共に熱源からの熱を受けて反応媒体を脱離させる反応材を有する反応器と、配管に設けられ、吸着器と反応器との間の反応媒体の流通を制御する開閉弁と、吸着材からの反応媒体の脱離時に吸着器を加熱する加熱手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このような本発明の化学蓄熱装置において、反応媒体を発熱させて加熱対象物を加熱する、いわゆる発熱反応を行うときは、まず吸着器の吸着材からの反応媒体の脱離時に、加熱手段により吸着器を加熱することで、吸着器の圧力を所定圧まで上げる。その状態で開閉弁を開くと、吸着器の吸着材から脱離した反応媒体が配管を通って反応器に供給され、反応媒体が反応器の反応材と化学反応して熱が発生し、その熱により加熱対象物が加熱される。ここで、反応器において所望の発熱温度を得るためには、反応器の圧力を予め設定された反応圧力に保つ必要があり、これに伴って吸着器から反応器に反応媒体を供給するために、吸着器の圧力を反応器の反応圧力以上にする必要がある。ところで、吸着器の吸着材に吸着される反応媒体の量が多くなるほど、吸着器の圧力が高くなり、吸着器の温度が高くなるほど、吸着器の圧力を所定圧に保持するための吸着材への反応媒体の吸着量が少なくて済む。従って、上述したように吸着器を加熱して吸着器の温度を上昇させることで、吸着器の圧力を所定圧まで上げた状態で、吸着器から反応器に反応媒体を供給して発熱動作を行うことにより、吸着器の吸着材への反応媒体の吸着量を少なくすることができる。これにより、吸着器の体格を小さくすることができる。
【0009】
好ましくは、加熱手段を制御する加熱制御手段を更に備え、加熱対象物は、エンジンの排気系に設けられており、加熱制御手段は、エンジンの始動を検知して、加熱手段による吸着器の加熱を開始すると共に、開閉弁が開いたことを検知して、加熱手段による吸着器の加熱を終了する。
【0010】
この場合には、エンジンの排ガスの温度が低い状態から、反応媒体が吸着器から反応器に供給されるまでの間において、加熱手段による吸着器の加熱が自動的に行われることになる。このため、排ガスの熱により反応材と反応媒体とを分離させて反応媒体を吸着器に回収する、いわゆる再生反応を行うときは、加熱手段による吸着器の加熱が終了していることから、吸着器の圧力が下がっている。従って、反応器と吸着器との圧力差によって、反応材から脱離した反応媒体が配管を通って吸着器に迅速に回収されるようになる。これにより、再生時間を短縮することができる。
【0011】
このとき、好ましくは、吸着器の圧力を検出する圧力検出手段と、開閉弁を制御する開閉制御手段とを更に備え、加熱制御手段は、開閉弁を閉じた状態で加熱手段による吸着器の加熱を開始し、開閉制御手段は、圧力検出手段により検出された吸着器の圧力が予め設定された反応器の反応圧力以上となったときに開閉弁を開く。
【0012】
この場合には、加熱手段により吸着器を加熱することで、吸着器の圧力が反応器の反応圧力以上になると、開閉弁が自動的に開き、吸着器から反応器に反応媒体が供給されるようになる。従って、開閉弁をいちいち手動操作により開かなくて済む。
【0013】
また、好ましくは、反応媒体はアンモニアであり、吸着材は活性炭である。この場合には、化学蓄熱装置の動作が行いやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化学蓄熱装置によれば、吸着器の体格を小さくすることができるので、コスト的に有利となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る化学蓄熱装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る化学蓄熱装置の一実施形態を備えた排気浄化システムを示す概略構成図である。同図において、排気浄化システム1は、車両のディーゼルエンジン2(以下、単にエンジン2という)の排気系に設けられ、エンジン2から排出される排ガス中に含まれる有害物質(環境汚染物質)を浄化するシステムである。
【0018】
排気浄化システム1は、エンジン2と接続された排気通路3の途中に上流側から下流側に向けて順に配置された酸化触媒(DOC)4、ディーゼル排気微粒子除去フィルタ(DPF)5、選択還元触媒(SCR)6及び酸化触媒(ASC)7を備えている。
【0019】
酸化触媒4は、排ガス中に含まれるHCやCO等を酸化して浄化する触媒である。DPF5は、排ガス中に含まれるPMを捕集して取り除くフィルタである。SCR6は、尿素やアンモニア(NH
3)によって、排ガス中に含まれるNOxを還元して浄化する触媒である。酸化触媒7は、SCR6をすり抜けてSCR6の下流側に流れたNH
3を酸化する触媒である。
【0020】
ところで、酸化触媒4には、環境汚染物質の浄化能力を発揮させる温度領域(活性温度)が存在する。従って、エンジン2の始動直後のような排ガスの温度が低いときは、酸化触媒4の温度を活性温度にするために、酸化触媒4を加熱する必要がある。
【0021】
そこで、排気浄化システム1は、本実施形態の化学蓄熱装置10を備えている。化学蓄熱装置10は、通常は排ガスの熱(排熱)を蓄えておき、必要なときに排熱を使用することにより、エネルギーレスで酸化触媒4を加熱するものである。
【0022】
化学蓄熱装置10は、酸化触媒4の周囲に配置された反応器11と、この反応器11と配管12を介して接続された吸着器13と、配管12に設けられた電磁式の開閉弁14とを備えている。
【0023】
反応器11は、気体の反応媒体であるNH
3と化学反応して熱を発生させると共に排熱を受けてNH
3を脱離させる反応材を含んでいる。反応材としては、例えばMgBr
2、CaBr
2、SrBr
2、NiBr
2、ZnBr
2、MgCl
2、CaCl
2、SrCl
2、NiCl
2、ZnCl
2等が挙げられる。
【0024】
吸着器13は、NH
3の物理吸着による保持及び脱離が可能な吸着材としての活性炭を含んでいる。吸着器13は、NH
3を活性炭に物理吸着させることで、NH
3を貯蔵する。開閉弁14は、吸着器13と反応器11との間のNH
3の流通を制御するバルブである。
【0025】
また、化学蓄熱装置10は、吸着器13の吸着材からのNH
3の脱離時に、吸着器13の圧力を上げるために吸着器13の吸着材を加熱するヒータ15と、吸着器13の圧力を検出する圧力センサ16と、コントローラ17とを備えている。コントローラ17は、圧力センサ16の検出値を入力し、所定の処理を行い、開閉弁14及びヒータ15を制御する。
【0026】
以下、
図2に示すフローチャートを用いて、コントローラ17による制御処理手順の詳細を明らかにしつつ、化学蓄熱装置10の動作を説明する。
【0027】
同図において、まずコントローラ17は、イグニッションスイッチ(図示せず)がONされたかどうかによってエンジン2が始動されたかどうかを判断する(手順S101)。このとき、コントローラ17は、エンジン2が始動されたと判断したときは、ヒータ15をONするように制御する(手順S102)。これにより、ヒータ15による吸着器13の加熱が開始されるため、吸着器13の温度が高くなり、これに伴って吸着器13の圧力が高くなる。
【0028】
続いて、コントローラ17は、圧力センサ16の検出値に基づいて、吸着器13の圧力が第1の所定圧(NH
3を反応器11に移動させることが可能な圧力)まで上昇したかどうかを判断する(手順S103)。このとき、コントローラ17は、吸着器13の圧力が第1の所定圧まで上昇したと判断したときは、開閉弁14を開くように制御する(手順S104)。これにより、吸着器13の吸着材から脱離したNH
3が配管12を通って反応器11に供給される。そして、コントローラ17は、ヒータ15をOFFするように制御する(手順S105)。これにより、ヒータ15による吸着器13の加熱が終了するため、吸着器13の圧力上昇が停止する。
【0029】
吸着器13から反応器11にNH
3が供給されると、反応器11の反応材(例えばMgBr
2)とNH
3とが化学反応して化学吸着(配位結合)し、反応器11から熱が発生する。つまり、下記の反応式(A)における左辺から右辺への反応(発熱反応)が起こる。そして、反応器11で発生した熱によって酸化触媒4が汚染物質の浄化に適した活性温度まで加熱される。
MgBr
2+
xNH
3 ⇔ Mg(NH
3)
xBr
2+熱 …(A)
【0030】
その後、エンジン2の排ガスの温度が高くなると、排ガスの熱が反応器11の反応材に与えられることで、反応材とNH
3とが分離する。つまり、上記の反応式(A)における右辺から左辺への反応(再生反応)が起こる。そして、反応材から脱離したNH
3が配管12を通って吸着器13に回収される。
【0031】
その後、コントローラ17は、圧力センサ16の検出値に基づいて、吸着器13の圧力が第2の所定圧(再生完了となる圧力)まで上昇したかどうかを判断する(手順S106)。このとき、コントローラ17は、吸着器13の圧力が第2の所定圧まで上昇したときは、開閉弁14を閉じるように制御する(手順S107)。
【0032】
次に、
図3に示すグラフを用いて、化学蓄熱装置10の動作をより具体的に説明する。
図3は、吸着器13の圧力と吸着器13の温度と吸着器13の吸着材へのNH
3吸着量との関係の一例を示したものである。なお、
図3中の実線Rは、吸着器13の温度が20℃のときの特性を示し、
図3中の実線Sは、吸着器13の温度が40℃のときの特性を示している。
【0033】
図3から分かるように、吸着器13の吸着材へのNH
3吸着量が多くなるほど、吸着器13の圧力が高くなる。また、吸着器13の温度が高くなるほど、吸着器13の圧力を所定値に保持するための吸着材へのNH
3吸着量が少なくて済むことが分かる。
【0034】
エンジン2の始動直度は、吸着器13の温度が低くなっている。例えば、その時の吸着器13の温度を20℃、吸着器13の初期圧力をP
1と仮定する(A点参照)。その状態でヒータ15をONにすると、ヒータ15により吸着器13が加熱されるため、吸着器13の温度が例えば20℃から40℃まで上昇する。これに伴って、吸着器13の圧力がP
1からP
2まで上昇する(B点参照)。
【0035】
吸着器13の圧力がP
2に達すると、吸着器13から反応器11にNH
3が供給され、上記の発熱反応が起こる。このとき、所定量のNH
3が吸着器13の吸着材から脱離して反応器11に移動し、吸着器13の圧力がP
2から僅かに下がってP
3となる(C点参照)。
【0036】
その後、ヒータ15をOFFにすると、ヒータ15による吸着器13の加熱が終了するため、吸着器13の温度が例えば20℃まで下がり、これに伴って吸着器13の圧力がP
3からP
4まで下がる(D点参照)。このため、反応器11の圧力が吸着器13の圧力に比べて十分高くなるため、再生反応が行われる際に、反応器11の反応材から脱離したNH
3が吸着器13に移動しやすくなる。
【0037】
ここで、比較例として、ヒータ15により吸着器13を加熱しない場合の動作について説明する。
図4は、比較例における吸着器13の圧力と吸着器13の吸着材へのNH
3吸着量との関係の一例を示している。なお、
図4に示すものは、吸着器13の温度が20℃のときの特性である。
【0038】
化学蓄熱装置10は、酸化触媒4を加熱する温度、即ち反応器11の反応平衡温度に応じて、必要な反応器11の内部圧力(反応圧力)が決められている。例えば、反応器11の反応平衡温度をT℃として酸化触媒4を加熱するためには、反応器11の圧力をP
2に維持する必要がある。このとき、吸着器13から反応器11にNH
3を移動させるには、吸着器13の圧力をP
2以上とする必要がある。吸着器13の温度が20℃である状態において、吸着器13の圧力を所定圧P
2に保つためには、吸着器13の吸着材へのNH
3吸着量をM
0とする必要がある。この場合には、吸着器13の体格を大きくせざるを得ないため、コストアップにつながる。
【0039】
これに対し本実施形態では、発熱反応を行うときは、例えば
図3に示すように、ヒータ15により吸着器13を加熱して、吸着器13の温度を20℃から40℃まで上げるので、吸着器13の圧力がP
1からP
2まで上昇する。このため、吸着器13の圧力を所定圧P
2に保つためには、吸着器13の吸着材へのNH
3吸着量としては所定量M(M<M
0)だけあれば足り、吸着器13の温度が20℃である場合に比べてNH
3吸着量が大幅に少なくて済む。これにより、吸着器13の体格を小型にすることができる。その結果、吸着器13にかかるコストを削減することが可能となる。
【0040】
また、開閉弁14を開いた後は、例えば
図3に示すように、ヒータ15による吸着器13の加熱を停止し、吸着器13の温度をできるだけ早く20℃まで下げるので、吸着器13の圧力がP
3からP
4まで下がる。このため、再生反応を行うときには、反応器11と吸着器13との圧力差が大きくなるため、反応器11の反応材から脱離したNH
3が吸着器13に迅速に回収されるようになる。従って、再生時間を短縮することができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、開閉弁14を開いてからヒータ15をOFFするようにしたが、特にそれには限られず、発熱反応が終了した後にヒータ15をOFFしても良い。この場合、発熱反応が終了したかどうかの判断は、圧力センサ16により検出される吸着器13の圧力に基づいて行うことができる。要は、発熱反応を行うときに、吸着器13から反応器11に必要な量のNH
3が供給可能であり、再生反応を行うときに、反応器11から吸着器13に必要な量のNH
3が回収可能であれば良い。
【0042】
また、上記実施形態では、反応器11の反応材と化学反応する気体の反応媒体としてNH
3を使用したが、反応媒体としては、特にNH
3には限られず、CO
2等を使用しても良い。反応媒体としてCO
2を使用する場合、CO
2と化学反応する反応材としては、MgO、CaO、BaO、Ca(OH)
2、Mg(OH)
2、Fe(OH)
2、Fe(OH)
3、FeO、Fe
2O
3、Fe
3O
4等を使用することができる。
【0043】
さらに、上記実施形態では、吸着器13においてNH
3を物理吸着する吸着材として活性炭を使用したが、吸着材としては、特に活性炭には限られず、ゼオライト等を使用しても良い。
【0044】
また、上記実施形態は、酸化触媒4を加熱する化学蓄熱装置10についてであるが、本発明の化学蓄熱装置は、ディーゼルエンジンの排気系に設けられた他の触媒、ガソリンエンジンの排気系に設けられた何れかの触媒、エンジンの排気系に設けられた触媒以外の加熱対象物(例えば排気管等)を加熱するものであれば適用可能である。また、本発明の化学蓄熱装置は、エンジン以外の加熱対象物を加熱するものにも適用可能である。