【実施例】
【0053】
(実施例1:ケルセチンとp−クマル酸との反応生成検討)
ケルセチン二水和物(東京化成工業(株)製)100mg、p−クマル酸(和光純薬工業(株)製)100mgをエタノール2mLに溶解し、これに(1)ミネラルウォーター(商品名「ゲロルシュタイナー」サッポロ飲料(株)製)2mL又は(2)リン酸三マグネシウム八水和物(和光純薬工業(株)製、ミネラルプレミックスの主成分)100mg、水2mLを加えて、ケルセチン、p−クマル酸含有溶液(pH:(1)4.9、(2)5.5)を2種類調製した。このケルセチン、p−クマル酸含有溶液をオートクレーブ(三洋電機(株)製、「SANYO LABO AUTOCLAVE」)にて130℃、60分間加熱した。得られた反応溶液からそれぞれ1mLを取り出して、メタノールにて50mLにメスアップし、このうちの10μLをHPLCにより分析した。
【0054】
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H
2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1mL/min
注入:10μL
検出:254nm
勾配(容量%):100%A/0%Bから0%A/100%Bまで33分間、100%Bで7分間(全て直線)
【0055】
得られたクロマトグラムを
図1に示す。上から、反応前、(1)、(2)の反応溶液のクロマトグラムをそれぞれ示している。反応後の(1)、(2)の反応溶液中から、ケルセチンやp−クマル酸以外のピークが検出され、複数の化合物が生成されていることが確認された。
反応前後で生成量に顕著な差があったのが、後述する新規化合物であるA、Bのピークである。
【0056】
(実施例2:ケルセチンとp−クマル酸との反応生成物の大量生成)
ケルセチン二水和物1g、クマル酸1gをエタノール20mLに溶解し、ミネラルウォーター20mLを加えて、ケルセチン、p−クマル酸含有溶液(pH=4.9)を得た。このケルセチン、p−クマル酸含有溶液をオートクレーブにて130℃、180分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析したところ、実施例1と同様のクロマトグラムが確認できた。
【0057】
(実施例3:新規化合物の単離・構造決定)
実施例2で得られた反応生成物のうち、
図1のA、Bで示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離し、常法により乾燥したところ、Aのピークからは黄色粉末状の物質215mg、Bのピークからは黄色粉末状の物質81.3mgを得て、Aのピークから得た物質をUHA7047、Bのピークから得た物質をUHA7048と命名した。
【0058】
次いで、前記UHA7047及びUHA7048の分子量を高分解能Negative−FAB−MS(Fast Atom Bombardment−Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値はそれぞれ421.3755及び541.5256であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C23H17O8(M−H
-):421.3763
分子式C
23H
18O
8
理論値C31H25O9(M−H
-):541.5248
分子式C
31H
26O
9
【0059】
次に、前記UHA7047を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、
1H−NMR、
13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA7047が前記式(1)で表される構造を有する新規化合物であることを確認した。したがって、前記式(1)で表される新規化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
【0060】
なお、前記NMR測定値については、UHA7047を
【0061】
【化5】
【0062】
として、その
1H核磁気共鳴スペクトル、
13C核磁気共鳴スペクトルを表1に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO−d
6)で測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
次に、前記UHA7048を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、
1H−NMR、
13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA7048が前記式(2)で表される構造を有する新規化合物であることを確認した。したがって、前記式(2)で表される新規化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
【0065】
なお、前記NMR測定値については、UHA7048を
【0066】
【化6】
【0067】
として、その
1H核磁気共鳴スペクトル、
13C核磁気共鳴スペクトルを表2に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO−d
6)で測定した。
【0068】
【表2】
【0069】
また、UHA7047、UHA7048の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
黄色粉末
(溶解性)
水:難溶
メタノール:溶解
エタノール:溶解
DMSO:溶解
クロロホルム:溶解
酢酸エチル:溶解
【0070】
(実施例4:UHA7047、UHA7048のヒト骨髄球性白血病細胞に対する抗癌作用)
次に癌細胞に対する実施例3で得られたUHA7047、UHA7048の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemia cells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0071】
HL−60細胞の培養には、4mMグルタミン(L−Glutamine シグマアルドリッチジャパン社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(Antibiotic−Antimycotic、ギブコ(GIBCO)社製)、10%ウシ胎児血清(Foetal Bovine Serum:FBS Biological industries社製)を含む高栄養培地「RPMI−1640」(シグマアルドリッチジャパン社製)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(コーニングジャパン(株)製)を用い、5×10
5cells/mLとなるように細胞数を調整したHL−60細胞を1ウェルあたり100μLずつ播種して試験に使用した。
【0072】
試料は、実施例3で得られたUHA7047、UHA7048、原料のケルセチン、p−クマル酸の4種類を用いた。試料調製は、各々の化合物をジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO、和光純薬工業(株)製)にて溶解し、HL−60細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM及び100μMとなるように添加して、37℃、5%CO
2の培養条件下で試験を開始した。なお、溶媒であるDMSOのみを同量添加したものをネガティブコントロールとした。
【0073】
生存細胞数の定量は「Cell counting kit−8」((株)同人化学研究所製)を用いたMTT法にて行った。つまり、試験開始より24時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μL添加し、よく攪拌した。37℃、5%CO
2条件下で1時間の遮光反応を行った。その後にプレートリーダー(「MULTISKAN FC」、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC
50(50%阻害濃度)を算出した。その結果を表3に示す。
表3に示す結果から、UHA7047、UHA7048に優れた癌細胞増殖抑制能が認められた。この抗癌作用は、ケルセチンよりも高く、p−クマル酸よりも高い抗癌活性を示した。したがってケルセチンとp−クマル酸を前記式(1)又は(2)で表される新規化合物に変換する高い有意性が示された。
【0074】
【表3】
【0075】
(実施例5:UHA7047、UHA7048のヒト口腔癌細胞に対する抗癌作用)
次に口腔癌細胞に対するUHA7047、UHA7048の効果を見るため、SCC−4細胞(ヒト舌扁平上皮癌細胞、ATCC社製)を用いた口腔癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0076】
SCC−4細胞の培養には、400ng/mLヒドロコルチソン(Hydrocortisone、シグマアルドリッチジャパン社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(Antibiotic−Antimycotic、ギブコ(GIBCO)社製)、10%FBS(ATCC社製)を含むDMEM/F−12(1:1)培地(ギブコ社製)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(コーニングジャパン(株)製)を用い、5×10
5cells/mLとなるように細胞数を調整したSCC−4細胞を1ウェルあたり100μLずつ播種した。これを37℃、5%CO
2条件下で24時間培養し、80%コンフルエント以上の状態で試験に使用した。
【0077】
試料は、実施例3で得られたUHA7047、UHA7048、ケルセチン及びp−クマル酸の4種類を用いた。試料調製は、各々の化合物をDMSOにて溶解し、0.63mM、1.25mM、2.5mM、5mM、10mMとなるように調製した。これをSCC−4細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μMとなるように添加して37℃、5%CO
2培養条件下で試験を開始した。なお溶媒であるDMSOのみを同量添加したものをネガティブコントロールとした。
【0078】
生存細胞数の定量は、実施例4と同様に、「Cell counting kit−8」を用いたMTT法にて行った。つまり、試験開始より48時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μL添加して、よく攪拌した。37℃、5%CO
2条件下で20分間の遮光反応後にプレートリーダーを用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC
50を算出した。その結果を表4に示す。
表4に示す結果から、UHA7047、UHA7048に優れた口腔癌細胞増殖抑制能が認められた。この抗癌作用は、ケルセチン及びp−クマル酸には全く認められなかった。したがってケルセチンとp−クマル酸を前記式(1)又は(2)で表される新規化合物に変換する高い有意性が示された。
【0079】
【表4】
【0080】
(実施例6:加熱温度によるUHA7047、UHA7048の生成量の違い)
ケルセチン二水和物100mg、p−クマル酸100mg、エタノール2mL、ミネラルウォーター2mLの混合溶液(pH=4.9)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
【0081】
その結果、110℃以上でUHA7047、UHA7048の生成は確認できた。ケルセチンおよびp−クマル酸の合計量からのUHA7047の生成比率(重量%)は、70℃、90℃が非生成、110℃が極微量、130℃が10.3%、UHA7048の生成比率(重量%)は、70℃、90℃が非生成、110℃が極微量、130℃が4%、となり、130℃での加熱により最も多くのUHA7047、UHA7048が生成していた。
【0082】
(実施例7:UHA7047、UHA7048含有エキスの調製)
ケルセチン1g(メディエンス(株))、プロポリス(アピ(株)、p−クマル酸含有素材)10g、エタノール10mL、ミネラルウォーター10mLを加えて調製した混合溶液(pH=3.5)を、オートクレーブにて130℃、180分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、UHA7047、UHA7048含有エキスを11g得た。得られたUHA7047、UHA7048含有エキス11g中には、実施例3と同様の手法で確認したところUHA7047が0.0015g、UHA7048が0.0003g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0083】
(実施例8:UHA7047、UHA7048を含有する食品)
実施例7で得たUHA7047、UHA7048含有エキス11gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。
【0084】
(実施例9:UHA7047、7048を含有する医薬品)
実施例2,3と同様の方法で得たUHA7047をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに添加して吸着させた後に、減圧乾燥させた。この吸着物を用いて常法に従い、打錠品を得た。処方は、UHA7047を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌の治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。
また、UHA7047のかわりに実施例2,3と同様の方法で得たUHA7048を用いた以外は上記と同様の方法を用いて、UHA7048を含有する医薬品を得た。
【0085】
(実施例10:UHA7047、UHA7048を含有する医薬部外品)
実施例2、3の方法で得たUHA7047 1.2gを10mLのエタノールに溶解し、これにタウリン20g、ビタミンB1硝酸塩0.12g、安息香酸ナトリウム0.6g、クエン酸4g、砂糖60g、ポリビニルピロリドン10gを溶解させた精製水を混合し、さらに精製水で1000mLにメスアップした。なお、pHは、希塩酸を用いて3.2に調整した。得られた溶液1000mLのうち50mLをガラス瓶に充填し、80℃で30分間滅菌して、医薬部外品であるドリンク剤を完成させた。本ドリンク剤は、栄養補給の目的に加えて、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を目的とする医薬部外品として有効に利用できる。
また、UHA7047のかわりに実施例2,3と同様の方法で得たUHA7048を用いた以外は上記と同様の方法を用いて、UHA7048を含有する医薬部外品を得た。