(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131835
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】X線装置
(51)【国際特許分類】
H05G 1/30 20060101AFI20170515BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
H05G1/30 G
A61B6/00 320Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-233583(P2013-233583)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-95338(P2015-95338A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】丸井 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】秋田 智史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 桂次郎
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−145625(JP,A)
【文献】
特開平06−133963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00−1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管球と、そのX線管球に印加すべき高電圧を発生する高圧電源と、その高圧電源を制御する高圧電源制御回路を備えたX線装置において、
上記X線管球に放電が発生したことを検出する放電検出手段と、その放電検出手段により検出された放電のうち、あらかじめ設定された大きさを越える放電の回数を計数する計数手段と、
エージング条件を記憶するエージング条件記憶手段と、
上記X線管球の起動後の放電回数nの計数結果が規定回数Nに達した時点で、上記高圧電源制御回路に対して上記X線管球への高電圧の印加を強制的に停止させる駆動制御手段と、その強制停止があったことを記憶する強制停止記憶手段を有し、
上記駆動制御手段は、上記強制停止記憶手段が上記X線管球の起動時に強制停止があったことを記憶している場合に、上記エージング条件記憶手段の内容に従って自動的にエージングを実行する指令を上記高圧電源制御回路に与えることを特徴とするX線装置。
【請求項2】
上記X線管球の起動時点からの経過時間tを計測する計時手段と、上記計数手段により計数された放電回数nが上記規定回数Nに達した時点での上記計時手段による経過時間tが、あらかじめ設定されている時間しきい値Tに達しているか否かを判別する判別手段を備えるとともに、上記エージング条件記憶手段は複数のエージング条件を記憶し、上記強制停止記憶手段は、上記強制停止があったことと併せて上記判別手段による判別結果を記憶し、上記駆動制御手段は、X線管球の起動時に、X線管球のエージングを実行するに当たって、上記判別手段による判別結果に応じたエージング条件を自動的に選択してエージングを実行する指令を上記高圧電源制御回路に与えることを特徴とする請求項1に記載のX線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蛍光X線分析装置やX線透視検査装置、X線CT装置等、X線管球を用いたX線発生装置からのX線を用いて、各種測定等を行うX線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置やX線透視検査装置等、X線を用いて分析や測定等を行う装置においては、通常、その線源としてX線管球が用いられる。X線管球は、フィラメント(陰極)とターゲット(陽極)を有し、フィラメントに高電圧を印加することにより放出される熱電子をターゲットに衝突させることで、X線を発生するものである。
【0003】
このようなX線管球は、例えば長期にわたる不使用期間の後に使用する場合などにおいては、フィラメントに対して直ちに高電圧を印加するのではなく、エージングと称される処理を施すことが、管球の寿命を縮めない点で好ましい。エージング処理は、通常、X線管球に印加する電圧(管電圧)を徐々に増大させていくことにより、ターゲットなどからの局所的なガス放出による管球内の圧力分布の不均一を徐々に緩和させる処理であり、相応の時間が必要である。したがって、このエージング処理を最適なタイミングで実行することが、X線管球の寿命を長くし、かつ、無駄な時間を費やさない上で重要である。
【0004】
X線管球のエージングに関して、従来、X線管球の電源をオフにした時刻を記憶しておき、その記憶した時刻と、次に電源をオンにした時刻との差から不使用時間を算出し、その不使用時間があらかじめ設定した時間に達している場合には、エージングを行うか否かを表示してオペレータの判断を促す技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、この引用文献1では、X線管球の駆動状態において発生する放電を検出し、駆動が終了した時点で、1回でも放電があった場合には、上記と同様にエージングを行うか否かを表示してオペレータの判断を促すことも開示されている。そして、この引用文献1においては、オペレータがエージングを行うと判断してその旨を入力すると、あらかじめ記憶しているエージング条件に基づいてX線管球に対する管電圧を自動的に変化させてエージングを実行する。
【0006】
また、従来、上記と同様に、電源オンの時刻と先の電源オフの時刻とから不使用時間を算出し、その不使用時間が規定時間に達していれば、あらかじめ設定されている複数のエージング条件中から最適なものを選択し、自動的にエージングを実行する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−082650号公報
【特許文献2】特開2009−266688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、エージングの目的は、局所的なガス放出による管球内の圧力分布の不均一を徐々に緩和させることにあり、不使用時間が長くなるとこのようなガス放出量が多くなる確率は高くなるが、必ずしもそうとは限らない。また、不使用時間が短くてもガス放出が多くなる場合もある。したがって、不使用時間が設定された時間に達した時点でエージングを行う手法は、必ずしも最適なタイミングでエージングを行うことができるとは言えない。
【0009】
一方、X線管球内の放電を検出してエージングが必要であることの目安とする手法は、より直接的にエージングの必要性をセンシングできる点で優れていると言える。
【0010】
しかしながら、引用文献1に開示されている技術では、X線管球の駆動状態で放電を検出した後、駆動を停止した時点で、1回でも放電があった場合にオペレータにエージングを実行するか否かを判断させるべく表示を行うことから、次のようなデメリットがある。第1に、X線管球の駆動中に多数回の放電が発生しても、オペレータがX線管球の駆動を停止するまでは駆動を継続することになるため、最適なエージングのタイミングを逸する可能性があり、第2に、X線管球の駆動中に小さな放電が1回だけあっても、X線管球の駆動を停止した時点でオペレータにエージングを行うか否かの判断を促すため、不必要なエージングを行ってしまう可能性もある。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、最適なタイミングでX線管球のエージングを行うことのできるX線装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のX線装置は、X線管球と、そのX線管球に印加すべき高電圧を発生する高圧電源と、その高圧電源を制御する高圧電源制御回路を備えたX線装置において、上記X線管球に放電が発生したことを検出する放電検出手段と、その放電検出手段により検出された放電のうち、あらかじめ設定された大きさを越える放電
の回数を計数する計数手段と、エージング条件を記憶するエージング条件記憶手段と、上記
X線管球の起動後の放電回数nの計数結果が規定回数
Nに達した時点で、上記高圧電源制御回路に対して上記X線管球への高電圧の印加を強制的に停止させる駆動制御手段と、その強制停止があったことを記憶する強制停止記憶手段を有し、上記駆動制御手段は、上記強制停止記憶手段が
上記X線管球の起動時に強制停止があったことを記憶している場合に、上記エージング条件記憶手段の内容に
従って自動的にエージングを実行する指令を上記高圧電源制御回路に与えることによって特徴付けられる(請求項1)。
【0013】
ここで、本発明においては、上記X線管球の起動時点からの経過時間
tを計測する計時手段と、上記計数手段によ
り計数
された放電回数nが上記規定回数
Nに達した時点
での上記計時手段による
経過時間tが、あらかじめ設定されている時間
しきい値Tに達しているか否かを判別する判別手段を備えるとともに、上記エージング条件記憶手段は複数のエージング条件を記憶し、上記強制停止記憶手段は、上記強制停止があったことと併せて上記判別手段による判別結果を記憶し、上記駆動制御手段は、X線管球の起動時に、X線管球のエージングを実行するに当たって、上記判別手段による判別結果に応じたエージング条件を自動的に選択してエージングを実行する指令を上記高圧電源制御回路に与える構成(請求項2)を好適に採用することができる。
【0014】
本発明は、X線管球の放電があったことを検出してエージングの目安とするのであるが、放電の大きさと回数の双方にしきい値を設け、あらかじめ設定された大きさを越える放電が、規定回数に達した時点でエージングが必要と判断する。その判断があったとき、X線管球の作動を強制的に停止する。そして、次にX線管球を起動したときに、自動的にエージングを実行する。したがって、本発明では、エージングのタイミングを逸することなく、かつ、不必要なエージングを行ってしまう無駄もなくすことができる。
【0015】
また、請求項2に係る発明は、複数のエージング条件を記憶しておき、放電の程度に応じて適切なエージングを行おうとするものである。すなわち、あらかじめ設定されている大きさを越える放電が規定回数発生した時点で、それまでに至る時間が長いか否かにより放電の程度の情報を得て、エージングに際してはあらかじめ記憶している複数のエージング条件の中からそれに応じた最適な条件を自動的に選択してエージングを実行する。これにより、最適なタイミングで最適な条件のもとにエージングが実行されることになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、X線管球の放電のうち、あらかじめ設定された大きさを越えるものの発生回数が規定回数になった時点で、X線管球に対する高電圧の印加を強制的に停止し、次に起動する際に自動的にエージングを実行するので、オペレータの判断によることなく、最適なタイミングでエージングを実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明の実施形態においてエージング条件記憶部に記憶される複数のエージング条件の電圧(電流)印加パターンの例を示すグラフ。
【
図3】本発明の実施の形態の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態の構成を示すブロック図であり、例えば蛍光X線分析装置のX線発生に係る部分を示すものであって、X線発生装置1と、コントローラ2によって構成されている。
【0019】
X線発生装置1は、高電圧の印加によりX線を発生するX線管球11と、そのX線管球11に対して印加すべき高電圧を発生する高圧電源12と、その高圧電源12を制御する高圧電源制御回路13を備えている。また、このX線発生装置1には、放電検出回路14と、放電電流しきい値記憶部15、および放電回数計数回路16が設けられている。放電検出回路14は、X線管球11の駆動中に設定されている大きさ以上の放電があったことを検出する回路であり、例えばX線管球11に流れる電流を監視することによって実現することができ、放電電流しきい値記憶部15に記憶されている大きさを越える放電があったときに、放電検出信号を出力する。計数回路16は、その放電検出回路14からの検出信号を計数し、その定数値はコントローラ2に取り込まれる。
【0020】
コントローラ2は、上記したX線発生装置1の高圧電源制御回路13を制御下に置く主制御部21と、同じくX線発生装置1の放電回数計数回路16による計数値を取り込んで後述する判別を行う判別部22と、その判別部22による判別に用いる放電回数しきい値Nと時間しきい値Tをそれぞれ記憶する放電回数しきい値記憶部23および時間しきい値記憶部24と、X線管球11に対する高電圧の印加開始からの時間を計測する計時部25と、複数のエージング条件を記憶するエージング条件記憶部26と、後述するX線管球11の強制停止があったこと並びに判別部22による放電の程度に係る情報を記憶する強制停止・状態記憶部27を備えている。
【0021】
判別部22は、X線発生装置1の放電回数計数回路16による計数値nを取り込み、その値nが、放電回数しきい値記憶部23に設定されている放電回数のしきい値Nに到達しているか否かを判別するとともに、Nに到達している場合には、X線管球11に対して高電圧を印加した時点からの時間を計測する計時部25によるその時点での時間計測結果tと時間しきい値Tとを比較し、その大小関係を判別する。すなわち、X線管球11の起動後、長い時間で放電回数がN回に達したか、あるいは短い時間でN回に達したかを判別する。この時間の長短の判別結果は、放電の程度を表す情報として用いられる。つまり、X線管球11の起動後長い時間で放電回数がN回に達した場合よりも、短い時間で放電回数がN回に達した場合の方が、放電の程度が大きい、換言すればX線管球11の局所的なガス放出量が多いと推定することができる。
【0022】
判別部22による判別結果は主制御部21に送られる。主制御部21は、その判別結果に基づき、放電回数nが放電回数しきい値Nに到達した時点で、X線管球11に対する高電圧の印加を強制的に停止させるべく高圧電源制御回路13に対して指令を与える。同時に、この強制停止があったことと、判別部22による時間の長短に関する判別結果とを、強制停止・状態記憶部27に格納する。
【0023】
主制御部21は、X線を発生させるべく高圧電源12を立ち上げたとき、強制停止・状態記憶部27の内容を読み出し、前回の停止が強制停止であった場合に、放電がN回に到達するまでの時間の長短に応じたエージング条件をエージング条件記憶部26から選択的に読み出し、その条件でエージングを実行すべく高圧電源制御回路13に対して指令を発する。
【0024】
エージング条件記憶部26に記憶している複数のエージング条件について、
図2を参照しつつ説明する。
図2は、エージング時にX線管球11に印加する電圧(もしくは電流)のパターンの例を示すグラフであり、横軸は時間、横軸は電圧(もしくは電流)である。この例においてはエージング条件は条件1と条件2の2種類ある場合の例を示している。
【0025】
条件1は、X線管球11に高電圧を印加してX線の発生を開始した時点から、放電回数nがNに到達するまでの時間が時間しきい値Tよりも長い場合に選択されるエージング条件であり、X線管球11に印加する電圧(電流)を一定時間ごとに一定電圧(電流)ずつ段階的に増大させていくことにより、X線管球11内で局所的に発生するガス放出による圧力分布の不均一を徐々に緩和させることができる。
【0026】
一方、条件2は、X線管球11に高電圧を印加してX線の発生を開始した時点から、放電回数nがNに到達するまでの時間が時間しきい値Tよりも短い場合に選択されるエージング条件であり、X線管球11に印加する電圧(電流)を、条件1よりも長い時間ごとにより大きな電圧(電流)ずつ段階的に増大させていく。この条件2に基づくエージングによれば、X線管球11内での局所的ガス放出が一時的に大きくても、その緩和を待ってから次の段階に進むので、エージング途中に更に放電が発生するリスクを減らすことができる。
【0027】
ここで、コントローラ2は、実際にはCPUとその周辺機器を主体として構成され、インストールされたプログラムに従って動作するのであるが、
図1では説明の便宜上、プログラムの実行により実現する各機能を、機能ブロックごとに示している。
【0028】
さて、次に、以上の構成からなる本発明の実施の形態の動作を、
図3に示すフローチャートを参照しつつ順を追って説明する。
操作部(図示せず)の操作により高圧電源12に起動指令を与えると、まず強制停止・状態記憶部27の内容から、前回の停止が強制停止であったか否かを判別し(ST1)、強制停止ではない場合には、放電回数nを計数する計数部16の内容をリセットするとともに計時を開始し(ST2)、高圧電源12を通常に立ち上げ、X線管球11に高電圧を印加してX線を発生する(ST3)。
【0029】
この通常運転の間、放電検出回路14と放電回数計数回路16により、あらかじめ設定されている大きさを越える放電を計数する(ST4,ST5)。そして、その計数値nが、放電回数しきい値記憶部23に記憶している回数しきい値Nに到達すると、高圧電源制御回路13に対して指令を発し、X線管球11に対する高電圧の印加を停止する(ST6,ST7)。同時に、X線管球11に高電圧の印加を開始した後、放電回数nがNに達した時点までの時間tと、時間しきい値記憶部24に記憶されている時間しきい値Tとを比較し(ST8)、その結果と、強制停止したことを強制停止・状態記憶部27に記憶し、動作を終了する(ST9,ST10)。
【0030】
一方、高圧電源12に起動指令を与えたとき、ST1において強制停止・状態記憶部27の記憶内容から前回の停止が強制停止であったことを認識すると、その強制停止・状態記憶部27に併せて書き込まれている時間の長短に関する情報に応じて、エージング条件記憶部26に記憶している複数のエージング条件のうち対応するもの、つまりtがTよりも長い場合は条件1、短い場合は放電の程度がより激しいとして条件2を選択的に読み出し、その条件のもとにエージングを実行するように高圧電源制御回路13に対して指令を発する(ST21,ST22,ST23)。同時に、強制停止・状態記憶部27の記憶内容を消去する(ST24)。以上のエージングを終了すると、ST2以下へと戻ってX線管球11の通常駆動を行う。
【0031】
以上の本発明の実施の形態によれば、エージングが必要なときには強制的にX線管球11の駆動が強制的に停止され、再起動時には最適なエージング条件のもとに自動的にエージングが実行されることになり、オペレータはエージングに関して何ら判断や考慮をする必要がなくなる。
【0032】
なお、本発明は、前記した特許文献2に記載の技術、すなわち、X線管球の不使用時間を測定し、定められた時間を越えて不使用状態が続いていると判断したとき、自動的にエージングを実行する技術と併用することを妨げない。ただし、本発明と引用文献2の技術を併用する場合、本発明によりエージングが必要な場合を確実に把握することができることから、引用文献2における不使用時間のしきい値は、これを単独で用いる場合に比して長く設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0033】
1 X線発生装置
2 コントローラ
11 X線管球
12 高圧電源
13 高圧電源制御回路
14 放電検出回路
15 放電電流しきい値記憶部
16 放電回数計数回路
21 主制御部
22 判別部
23 放電回数しきい値記憶部
24 時間しきい値記憶部
25 計時部
26 エージング条件記憶部
27 強制停止・状態記憶部