特許第6131848号(P6131848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131848
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/06 20060101AFI20170515BHJP
   F16D 43/04 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   F16D43/06
   F16D43/04
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-264151(P2013-264151)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-121248(P2015-121248A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 英滋
(72)【発明者】
【氏名】日下部 誠
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭37−016012(JP,Y1)
【文献】 実公昭35−013709(JP,Y1)
【文献】 特開昭62−110032(JP,A)
【文献】 特開2006−207621(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/066740(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/00
F16D 43/04
F16D 43/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸と、
第2回転軸と、
伝達部材と、
を備え、
前記伝達部材は、前記第1回転軸の軸周方向に沿って固定されるとともに、前記第2回転軸に接続可能であり、
前記伝達部材の速度は、当該伝達部材が前記第2回転軸に接続するときに、第1速度であり、
前記第2回転軸の回転速度は、前記第2回転軸が伝達部材に接続するときに、第2速度であり、
前記第1速度は、前記第2速度よりも所定速度大きな速度であり、
前記第1回転軸の回転軸は、前記第2回転軸の回転軸と同軸上に配置され、
前記伝達部材は、前記第1回転軸を回転中心として回転可能に構成され、
前記伝達部材は、前記第1回転軸の角速度が所定値以上のときに、前記第1回転軸に沿って前記第2回転軸の方向へ移動し、前記第2回転軸と接続され、
前記伝達部材は、前記第1回転軸から前記第2回転軸に向かう、前記第1回転軸の回転速度の増加に伴って増大する第1付勢力を受けるとともに、前記第2回転軸から前記第1回転軸に向かう、伝達部材と第1回転軸との距離に伴って減少する第2付勢力を受け、
前記第1回転軸の角速度が前記所定値以上のときに、前記第1付勢力が前記第2付勢力よりも大きくなることにより、前記伝達部材が前記第1回転軸に沿って前記第2回転軸の方向へ移動し、
前記伝達部材は、前記第2付勢力である磁力を出力する電磁石と、前記電磁石の磁力を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1回転軸の角速度が前記所定値以上のときに、前記電磁石の磁力を解除することにより、前記伝達部材を移動させる、駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力伝達装置であって、
前記伝達部材は、前記第2回転軸と接続されてから前記第1回転軸の駆動力が前記第2回転軸へ伝達されるまでの時間を遅延させる遅延部材を備える、駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の駆動力伝達装置であって、
前記伝達部材は、第1接続部材及び第2接続部材を含み、
前記第1接続部材は前記第1回転軸に固定され、
前記第2接続部材は前記第1回転軸には固定されておらず、
前記伝達部材の前記第2回転軸方向への移動に伴って、前記第2接続部材が、前記第2回転軸と接続され、所定時間経過後、前記第1接続部材が前記第2接続部材と接続される、駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の駆動力伝達装置であって、
前記第2回転軸の、前記第1回転軸側と対向する端部には、トーションバーを介して負荷が連結されている、駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の駆動力を間欠的に出力軸に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、入力軸の駆動を、角速度やトルクを変化させて出力軸に伝達させる駆動力伝達装置が用いられている。例えば特許文献1では、車両用の動力伝達装置として無段変速機が開示されている。
【0003】
当該無段変速機は、入力軸と平行に出力軸が配置されている。入力軸には、入力軸の回転に伴って偏心回転する、6つの偏心機構が設けられている。各偏心機構は、入力軸周りにその中心を60°ずつ位相を変えるようにして配置されている。また、上記無段変速機は、各偏心機構の回転時に押し方向及び戻り方向に揺動回転する揺動リンクを備える。さらに、揺動リンクと出力軸とを係合させるクラッチを備える。
【0004】
上記無段変速機は、入力軸の駆動を間欠的に出力軸に伝達する。すなわち、入力軸の回転に伴って偏心機構が回転すると、揺動リンクが押し方向側に揺動回転させられる。このときクラッチが揺動リンクと出力軸とを係合させて出力軸を回転させる。揺動リンクが戻り方向に揺動回転するときにはクラッチの係合が解かれる。このようにして、各揺動リンクが順次出力軸に係合され、係合の度に出力軸は60°ずつ回転させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−251619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の駆動力伝達装置においては、一つの伝達手段(例えば、偏心機構、揺動リンク、クラッチのグループ)が、出力軸に駆動力を伝達させる機会は、入力軸が1回転する間、1回に限られる。このため、入力軸1回転中に複数回に亘って駆動力を伝達させようとすると、複数の伝達手段を設けなければならなくなり、装置の大型化に繋がる。そこで、本発明は、従来よりも小型化の可能な駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る駆動力伝達装置は、第1回転軸と、第2回転軸と、伝達部材と、を備え、前記伝達部材は、前記第1回転軸の軸周方向に沿って固定されるとともに、前記第2回転軸に接続可能であり、前記伝達部材の速度は、当該伝達部材が前記第2回転軸に接続するときに、第1速度であり、前記第2回転軸の回転速度は、前記第2回転軸が伝達部材に接続するときに、第2速度であり、前記第1速度は、前記第2速度よりも所定速度大きな速度である、駆動力伝達装置である。このような駆動力伝達装置を用いることにより、第1回転軸の駆動力を、当該第1回転軸の1回転中に、複数回に亘って第2回転軸に伝達することができる。
【0008】
また、上記発明において、前記第1回転軸の回転軸は、前記第2回転軸の回転軸と同軸上に配置され、前記伝達部材は、前記第1回転軸を回転中心として回転可能に構成され、前記伝達部材は、前記第1回転軸の角速度が所定値以上のときに、前記第1回転軸に沿って前記第2回転軸の方向へ移動し、前記第2回転軸と接続されることが好適である。
【0009】
また、上記発明において、前記伝達部材は、前記第1回転軸から前記第2回転軸に向かう、前記第1回転軸の回転速度の増加に伴って増大する第1付勢力を受けるとともに、前記第2回転軸から前記第1回転軸に向かう、伝達部材と第1回転軸との距離に伴って減少する第2付勢力を受け、前記第1回転軸の角速度が前記所定値以上のときに、前記第1付勢力が前記第2付勢力よりも大きくなることにより、前記伝達部材が前記第1回転軸に沿って前記第2回転軸の方向へ移動することが好適である。このような駆動力伝達装置を用いることにより、伝達部材をより確実に第2回転軸に接続させることができる。
【0010】
また、上記発明において、前記駆動力伝達装置は、電磁石と、制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記第1回転軸の角速度が前記所定値以上のときに、前記電磁石の磁力を制御することにより、前記伝達部材を移動させることが好適である。
【0011】
また、上記発明において、前記伝達部材は、前記第2回転軸と接続されてから前記第1回転軸の駆動力が前記第2回転軸へ伝達されるまでの時間を遅延させる遅延部材を備えることが好適である。このような駆動力伝達装置を用いることにより、伝達部材をより確実に第2回転軸に接続させることができる。
【0012】
また、上記発明において、前記伝達部材は、第1接続部材及び第2接続部材を含み、前記第1接続部材は前記第1回転軸に固定され、前記第2接続部材は前記第1回転軸には固定されておらず、前記伝達部材の前記第2回転軸方向への移動に伴って、前記第2接続部材が、前記第2回転軸と接続され、所定時間経過後、前記第1接続部材が前記第2接続部材と接続されることが好適である。
【0013】
また、上記発明において、前記第2回転軸の、前記第1回転軸側と対向する端部には、トーションバーを介して負荷が連結されていることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりも小型の駆動力伝達装置にて、入力軸1回転中に複数回に亘って駆動力を伝達させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る駆動力伝達装置を例示する斜視図である。
図2】本実施形態に係る駆動力伝達装置の各構成を例示する分解斜視図である。
図3】本実施形態に係る駆動力伝達装置を例示する側面断面図である。
図4】本実施形態に係る駆動力伝達装置を例示する斜視図である。
図5】本実施形態に係る駆動力伝達装置の動作を説明する側面断面図である。
図6】本実施形態に係る駆動力伝達装置の動作を説明する斜視図である。
図7】本実施形態に係る駆動力伝達装置の動作を説明する斜視図である。
図8】本実施形態に係る駆動力伝達装置の動作を説明するタイムチャートである。
図9】本実施形態に係る駆動力伝達装置を例示する斜視図である。
図10】本実施形態に係る駆動力伝達装置の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本実施形態に係る駆動力伝達装置10を例示する。駆動力伝達装置10は、入力シャフト12、出力シャフト14、及び伝達部材16を備える。駆動力伝達装置10は、例えば、ハイブリッド車両や電気自動車等の駆動源となる回転電機から、駆動輪に駆動力を伝達する際の変速手段として用いられる。
【0017】
入力シャフト12は、図示しない駆動源から駆動力が伝達され、これにより回転駆動させられる。入力シャフト12の表面には、動力伝達用のキー溝15が形成されている。
【0018】
出力シャフト14は、入力シャフト12と離間するようにして設けられている。出力シャフト14は、入力シャフト12と同軸上に配置されていてよい。
【0019】
出力シャフト14は、入力シャフト12側の端部に、被係合部17が形成されている。被係合部17は、出力シャフト14の外径方向に張り出すように形成された略円盤形状の部材であって、その径は、後述する伝達部材16の回動リング34とほぼ同じ径となるように形成されている。また、被係合部17には、入力シャフト12側の面に、周方向に沿って複数の歯18が軸方向に突出するように形成されている。
【0020】
伝達部材16は、入力シャフト12と出力シャフト14の間に設けられるとともに、入力シャフト12の駆動力を出力シャフト14に伝達する。以下に説明するように、伝達部材16は、入力シャフト12の角速度(回転速度)が、閾値速度に達したときに、入力シャフト12の駆動力を出力シャフト14に伝達するように形成されている。また、伝達部材16は、入力シャフト12と共に回転させられるように、入力シャフト12の軸上に設けられている。
【0021】
図2に、伝達部材16の分解斜視図を例示する。伝達部材16は、ガイド部材20、ボール22、移動ロータ24を備える。
【0022】
ボール22は、移動ロータ24に当接するとともに遠心力により外径側に移動させられる錘部材である。ボール22は、入力シャフト12の周方向に沿って複数設けられていてよい。また、ボール22は、移動ロータ24への当接時に変形しない(潰れない)ような剛性を備えていることが好適である。さらに、ボール22は、後述する磁石35に引き付けられないようにするため、非磁性体であることが好適である。ボール22は、例えば、セラミックス等の非磁性の剛性材料から構成される。
【0023】
ガイド部材20は、外径側に移動させられるボール22の移動経路をガイドする。ガイド部材20は、外径に向かって出力シャフト14側に湾曲するボウル(すり鉢)状に形成されている。また、ガイド部材20の中心部には、ボウルの底から軸方向に突出したような形状の円盤部26が形成されている。
【0024】
円盤部26の中心部は入力シャフト12が挿入される挿入口が形成されている。挿入口の内周面は、入力シャフト12表面のキー溝15と適合する形状となっている。また、円盤部26には、周方向に沿って複数のねじ穴28が形成されている。円盤部26と入力シャフト12のフランジ(図示せず)とを位置合わせするとともに、ねじ穴28にねじを螺入することで、ガイド部材20が入力シャフト12に固定される。
【0025】
また、円盤部26には、磁石挿入口30が形成されている。磁石挿入口30には、永久時磁石または電磁石等の磁石35(図3参照)が挿入され、後述するように移動ロータ24を引き付けて軸上の移動を規制する。
【0026】
移動ロータ24は、入力シャフト12の軸方向に移動可能に形成された移動部材である。図3には、駆動力伝達装置10の側面断面図が例示されている。移動ロータ24は、大径リング32、回動リング34、ストッパ36、ボール受けリング38、リターンスプリング40、及びブッシュ42を備える。後述する磁石35による引き付けを可能にするために、移動ロータ24の構成部材の少なくとも一部を金属等の磁性材料から構成することが好適である。
【0027】
ブッシュ42は、入力シャフト12のボス45に当接する略円筒形状の部材である。ブッシュ42の内周面は、入力シャフト12の表面に形成されたキー溝15と係合するように形成されて、入力シャフト12と共に回転するようになっている。また、ブッシュ42は、入力シャフト12の軸方向にすべり移動可能となっている。
【0028】
ボール受けリング38は、ブッシュ42の外周に嵌挿固定される円環形状の部材である。ボール受けリング38の最外周には軸方向に延びるフランジが形成されており、このフランジ上にボール22が配置される。
【0029】
リターンスプリング40は、後述するように、出力シャフト14に撃力を印加した移動ロータ24を、入力シャフト12側に戻すための部材である。リターンスプリング40は、例えば、コイルばねから構成され、ブッシュ42の外周面とストッパ36の内周面との円筒状の間隙に挿入される。
【0030】
ストッパ36は、大径リング32とともに回動リング34を挟む部材である。ストッパ36は、ねじ等の締結手段により大径リング32に固定される。ストッパ36は、その外周部に回動リング34に面するフランジ44が形成されている。
【0031】
また、ストッパ36は、回動リング34の軸方向の移動を規制するが、周方向の移動(回動)は許容するようにして、大径リング32とともに回動リング34を狭持している。例えば、ストッパ36のフランジ44と回動リング34との間に潤滑剤等の摺動材料を供給するようにしてもよい。または、フランジ44が、軸方向にわずかなクリアランス、例えば回動リング34の歯50及び大径リング32の歯48(図2参照)の軸方向高さ未満のクリアランスをもって、回動リング34と面するように配置されてよい。
【0032】
大径リング32は、ボール受けリング38と同様に、ブッシュ42の外周に嵌挿固定される円環形状の部材である。大径リング32は、ガイド部材20と対向する面に、入力シャフト12の軸から放射状に延設されたボール溝46(図2参照)が形成されている。このボール溝46にボール22を配置して、ボール22を径方向に移動可能とする。
【0033】
図2に示すように、大径リング32の、出力シャフト14側の面は、回動リング34との係合面となっており、当該回動リング34の歯50と噛み合う歯48が周方向に沿って複数形成されている。
【0034】
回動リング34は、大径リング32に対して回動可能な円環部材である。回動リング34の、大径リング32との対向面には、周方向に沿って複数の歯50が形成されている。回動リング34の歯50と、大径リング32の歯48は、回動させたときに噛み合う様に、互いの軸方向位置が定められている。
【0035】
また、図4に示すように、回動リング34の隣り合う歯50,50同士の周方向間隔は、大径リング32の歯48の周方向幅よりも広くなるように形成されている。例えば、回動リング34の隣り合う歯50,50同士の周方向間隔は、大径リング32の歯48の周方向幅の2倍となるように形成されている。このような構成を備えることで、大径リング32と回動リング34とを重ねたときに、回動リング34の隣り合う歯50,50の間に、周方向に遊びd1,d2を持って大径リング32の歯48が配置されるようになる。この遊び分が、大径リング32に対する回動リング34の回動幅となる。
【0036】
回動リング34とストッパ36との間には、ばね等の弾性部材52が設けられており、この弾性部材52によって、回動リング34は周方向の移動(回転移動)が規制される。弾性部材52の弾性力よりも大きな力が回動リング34に加えられたときに、回動リング34は大径リング32に対して回動する。
【0037】
回動リング34に、弾性部材52の弾性力未満の力しか働いていない場合には、回動リング34は、弾性部材52によって、大径リング32よりも進み位相となるように位置決めされる。すなわち、入力シャフト12の回転方向(図4にて矢印で示す)に沿って、回動リング34の歯50が、回転方向下流側の大径リング32の歯48に対して間隔d1を空けて先行するようにして、大径リング32と回動リング34とが位置決めされる。
【0038】
図2に戻り、回動リング34の、出力シャフト14と対向する面には、出力シャフト14の歯18と係合する歯54が周方向に沿って複数形成されている。大径リング32の歯48とこれに噛み合う回動リングの歯50との関係と同様にして、出力シャフト14と対向する回動リング34の隣り合う歯54,54の間隔は、出力シャフト14の歯18の周方向幅よりも広くなるように形成されている。
【0039】
後述するように、大径リング32と回動リング34は、移動ロータ24と出力シャフト14との係合時から駆動力の伝達までの時間を遅延させる遅延部材として機能する。すなわち、大径リング32は、入力シャフト12と同位相で回転する回転部材として機能し、回動リング34は、大径リング32よりも進み位相で回転する係合部材として機能する。
【0040】
図3に示すように、磁石35は、移動ロータ24の軸方向の移動を規制する規制部材である。磁石35は、永久磁石であっても、電磁石であってもよい。なお、後述するように、移動ロータ24を押し出す閾値速度ω1を可変にするために、磁石35を操作可能な構成としてもよい。
【0041】
例えば、入力シャフト12の角速度を測定する角速度センサ(図示せず)と、測定された角速度に応じて、磁石35の操作を行う制御部(図示せず)を駆動力伝達装置10に設ける。さらに、磁石35を永久磁石から構成した場合、移動ロータ24との相対位置を可変にできるアクチュエータを備える。
【0042】
次に、本実施形態に係る駆動力伝達装置10の動作について説明する。なお、以下では、入力シャフト12の角速度は出力シャフト14の角速度よりも高いものとする。
【0043】
入力シャフト12の回転に伴い、ボール22が遠心力を受けて、図2から図5のように、中心から外径側に移動する。外径側への移動に伴い、ガイド部材20の形状に沿って、ボール22は出力シャフト14側に移動する。このとき、ボール22は移動ロータ24を出力シャフト14側に付勢する。
【0044】
なお、上述したように、移動ロータ24は磁石35によって入力シャフト12に引き付けられている。入力シャフト12の角速度(回転速度)の増加に伴い、ボール22の遠心力が増加し、これに伴いボール22からの付勢力が増加する。入力シャフト12の角速度が、ボール22の付勢力が磁石35の吸引力を超えるような閾値速度ω1に到達すると、磁石35の引き付け力に抗して移動ロータ24は出力シャフト14側に移動させられる(押し出される)。
【0045】
移動ロータ24を磁石35により入力シャフト12に引き付けることにより、次のような利点がある。一般的に、磁石に作用する磁力は作用する距離に従って減少する。入力シャフト12が、ボール22の付勢力が磁石35の吸引力を超える閾値速度を超えると、磁石35を入力シャフト12へ付勢する力は急速に減少し、移動ロータ24は急速に出力シャフト14側へ加速され、出力シャフト14に係合する。これにより、移動ロータ24を確実に出力シャフト14の歯18に係合させることができる。
【0046】
また、磁石35が、電磁石やアクチュエータを備えた永久磁石である場合、角速度センサ(図示せず)が、入力シャフト12の角速度が閾値速度ω1に到達したことを検出すると、制御部(図示せず)は、磁石35の磁化を中断するか、アクチュエータによって磁石35を移動ロータ24から遠ざけることで、移動ロータ24の移動規制を解除して、移動ロータ24を出力シャフト14に係合させる。このように、入力シャフト12が閾値速度ω1に到達した際に、移動ロータ24を引き付ける力を解除することで、移動ロータ24を速やかに出力シャフト14側に移動させることが可能となる。
【0047】
図6の破線で囲んだ部分に示されているように、移動ロータ24の軸方向の移動に伴って、回動リング34の歯54と出力シャフト14の歯18とが係合する。このとき、両者の係合が浅いと、後述する撃力印加時に、回動リング34の歯54と出力シャフト14の歯18とが弾かれて係合が解かれるおそれがある。そこで、以下のように、回動リング34と出力シャフト14との係合時から駆動力の伝達までの時間を遅延させて、この遅延時間中に、回動リング34の歯54と出力シャフト14の歯18との係合(噛み合い)を確実に(深く)する。
【0048】
回動リング34の歯54と出力シャフト14の歯18とが係合すると、入力シャフト12よりも出力シャフト14は遅く回転していることから、弾性部材52を介して入力シャフト12と同期回転していた回動リング34は、弾性部材52の弾性力に抗して減速させられ、出力シャフト14の回動と同期する。
【0049】
回動リング34の角速度が出力シャフト14の角速度まで減速させられている間に、図7に示すように、入力シャフト12と同期回転する大径リング32が間隔d1を詰めるようにして回動リング34に追い付く。つまり回動リング34と大径リング32とが同位相となる。この、間隔d1を詰める期間に、移動ロータ24が出力シャフト14側にせり出し、その結果、回動リング34の歯54と出力シャフト14の歯18との係合(噛み合い)が深くなる。
【0050】
さらに大径リング32から、回動リング34を介して、出力シャフト14に、入力シャフト12の駆動力が伝達される。具体的には、大径リング32の歯48が回動リング34の歯50に撃力を印加し、さらに回動リング34の歯54が、出力シャフト14の歯18に撃力を印加する。このようにして、入力シャフト12から伝達部材16を介して、出力シャフト14に駆動力が伝達される。
【0051】
図8に示すように、撃力が出力シャフト14に加えられると、入力シャフト12は出力シャフト14と同一の角速度ω0になり、閾値速度ω1よりも減速する。これに伴ってボール22の遠心力が低下する。このときに、リターンスプリング40が入力シャフト12側に大径リング32を付勢することで、ボール22がガイド部材20に沿って入力シャフト12側に移動させられる。これに伴い、移動ロータ24は出力シャフト14の係合位置L1から初期位置L0に引き戻される。初期位置L0に引き戻された移動ロータ24は、磁石35に引き付けられ、軸方向の移動が規制される。その後、駆動源のトルクによって入力シャフト12の角速度が閾値速度ω1まで増加すると、再び上述のようにして、出力シャフト14に駆動力が伝達される。
【0052】
このように、本実施形態では、入力シャフト12の角速度に応じて、出力シャフト14へ駆動力を伝達している。このようにすることで、入力シャフト12の一回転中に、複数回に亘って出力シャフト14に駆動力を伝達することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態では、大径リング32の歯、回動リング34の歯50,54、及び出力シャフト14の歯18の噛み合いを利用して、トルク伝達を行っている。このように、伝達手段間ですべりが生じないドグクラッチ機構を用いてトルク伝達を行うことで、すべりによる損失を抑制することが可能となる。
【0054】
なお、撃力の印加時に、出力シャフト14が振動して、損失に繋がるおそれがある。この損失を低減させるために、図9に示すように、出力シャフト14の、入力シャフト12と対向する端部には、トーションバー56を介して負荷(図示せず)を連結させることが好適である。撃力印加時に、出力シャフト14に回転方向の振動が加えられる。この振動はトーションバー56のねじりエネルギーとなる。このねじれを解消する過程で、出力シャフト14が入力シャフト12の回転方向と同方向に回転させられる。この回転中に、入力シャフト12から出力シャフト14に撃力を印加する。トーションバー56が出力シャフト14を回転させることで、入力シャフト12と出力シャフト14の速度差が縮まり、撃力印加による振動の発生を抑えることが可能となる。
【0055】
図10に、本実施の形態に係る駆動力伝達装置10の別例を示す。駆動力伝達装置10は、入力シャフト60、出力シャフト62、及び伝達部材64を備える。図10では、入力シャフト60及び出力シャフト62の軸方向端面の図が例示されている。
【0056】
出力シャフト62は、円筒形状であって、その中空部に、内周面と離間するようにして、入力シャフト60が配置される。出力シャフト62の軸方向端部には、周方向に沿って複数の歯66が軸方向に突設されている。入力シャフト60及び出力シャフト62の端部の位置は、軸方向に揃っていることが好適である。
【0057】
伝達部材64は、入力シャフト60の軸方向端部に設けられる。伝達部材64は、メインリンク68、サブリンク70及び係合リンク72を備える。伝達部材64は、複数設けられていてもよいし、単一であってもよい。
【0058】
メインリンク68は、入力シャフト60の中心Oから外径方向に延設されるとともに、当該中心Oを回転中心として、入力シャフト60の周方向に回動可能となっている。また、メインリンク68には、中心Oに連結された端部とは対向する他端に、弾性部材74が連結されている。弾性部材74は、入力シャフト60の回転方向A側に、メインリンク68を付勢する。この付勢により、サブリンク70及び係合リンク72が入力シャフト60の中心O側に折り畳まれるようになる。
【0059】
サブリンク70は、メインリンク68と係合リンク72を回動可能に連結する。サブリンク70は、入力シャフト60の外径側端部に一端が連結され、他端が係合リンク72に連結される。係合リンク72との連結部には、錘76が設けられている。
【0060】
係合リンク72は、サブリンク70と連結された側と対向する端部が、入力シャフト60の周縁部に設けられ、この周縁部を中心にして回動可能となっている。また、当該周縁部と、サブリンク70との連結部の間には、爪78が設けられている。爪78は、上記周縁部を中心にして、回転方向Aに沿って弧状に延設されている。
【0061】
次に、本実施形態に係る駆動力伝達装置10の動作について説明する。入力シャフト60の回転に伴い、遠心力によって錘76が入力シャフト60の外径方向に付勢される。この付勢力が、弾性部材74の、回転方向A側への付勢力を超えると、図10の下段に示されるように、折り畳まれたサブリンク70と係合リンク72を拡げるようにして、錘76が入力シャフト60の外径方向に押し出される。
【0062】
これに伴い、係合リンク72が回動して、爪78が、入力シャフト60の外部に飛び出す。さらに飛び出した爪78は出力シャフト62の歯66と係合して、撃力を印加する。その結果、入力シャフト60の駆動力が出力シャフト62に伝達される。
【0063】
なお、撃力印加後の錘76を、再び入力シャフト60の中心Oに戻すために、錘76を中心O側に付勢する弾性部材を設けるようにしてもよい。
【0064】
また、本願明細書の構成と、本願特許請求の範囲の構成との対応表を、以下に示す。なお、以下の対応表において、特許請求の範囲中の各構成は、明細書中の各構成に限定されるものではない。言い換えると、明細書中の各構成は、特許請求の範囲中の各構成を例示するものである。
【0065】
【表1】
【符号の説明】
【0066】
10 駆動力伝達装置、12 入力シャフト、14 出力シャフト、16 伝達部材、18 出力シャフトの歯、20 ガイド部材、22 ボール、24 移動ロータ、32 大径リング、34 回動リング、35 磁石、36 ストッパ、38 ボール受けリング、40 リターンスプリング、56 トーションバー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10