特許第6131888号(P6131888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131888
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】端子付き被覆電線及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20170515BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20170515BHJP
   H02G 1/14 20060101ALI20170515BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20170515BHJP
   H01B 7/28 20060101ALI20170515BHJP
   H01R 4/70 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   H01R4/18 A
   H01R4/62 A
   H02G1/14
   H01B7/00 306
   H01B7/00 301
   H01B7/28 F
   H01R4/70 K
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-55106(P2014-55106)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-176860(P2015-176860A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 直之
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏平
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【審査官】 片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−204582(JP,A)
【文献】 特開平05−135808(JP,A)
【文献】 特開2002−097428(JP,A)
【文献】 特開2009−001606(JP,A)
【文献】 特開平05−159846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01B 7/00
H01B 7/28
H01R 4/62
H01R 4/70
H02G 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆電線の電線導体が端子金具に接続され、前記端子金具が前記被覆電線に固定されている電線固定部を備え、前記電線導体と前記端子金具との接触部が防食剤により被覆されている端子付き被覆電線であって、
前記電線固定部に前記端子金具及び前記被覆電線の間の隙間を埋めるシール剤が塗布されており、前記シール剤として、ゲル分率が20〜70%の範囲内である架橋アクリル系樹脂を用いたことを特徴とする端子付き被覆電線。
【請求項2】
前記端子金具のインシュレーションバレルと前記被覆電線の被覆材との間に、前記シール剤が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の端子付き被覆電線。
【請求項3】
前記シール剤の架橋アクリル系樹脂のゲル分率が40%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の端子付き被覆電線。
【請求項4】
前記被覆電線の導体がアルミニウム系金属であり、前記端子金具が銅系金属であり、上記接触部が異種金属接続部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き被覆電線及びワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、電線導体と端子金具との接触部である電気接続部の防食性に優れた端子付き被覆電線及びワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に配索される電線として、タフピッチ銅等からなる導体の外周に絶縁体を被覆してなる被覆電線が広く用いられている。端子付き被覆電線は、被覆電線の端末の絶縁体を皮剥ぎして露出させた導体に、端子金具が接続されている。被覆電線の端末に電気接続された端子金具は、コネクタに挿入係止される。
【0003】
このような端子付き被覆電線が複数本束ねられ、ワイヤーハーネスが形成される。自動車等の車両では、通常、ワイヤーハーネスの形態で配索がなされる。エンジンルームや一部の室内環境等に、上記ワイヤーハーネスが配索される場合、熱および水の影響を受けて、電線導体と端子金具とが接触する電気接続部に錆が発生しやすくなる。そのため、このような環境下にワイヤーハーネスを配索する場合には、上記電気接続部における腐食を防止する必要がある。
【0004】
上記電気接続部における腐食を防止するため、電線導体に接続された端子金具が挿入係止されているコネクタ内にグリースを注入する技術が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−159846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車等の車両を軽量化して燃費効率を向上させるため、ワイヤーハーネスを構成する電線材料についても軽量化が求められている。そのため、電線導体にアルミニウムを用いることが検討されている。
【0007】
端子金具は、電気特性に優れた銅又は銅合金等の銅系金属が一般に用いられる。アルミ電線−銅端子金具の組み合わせ等で使用され、電線導体と端子金具の材質が異なると、その電気接続部で異種金属接触による腐食が発生する。この種の腐食は、電線導体と端子金具の材質が同じである場合よりも起こりやすい。そのため、電気接続部を確実に防食することが可能な防食剤が必要となる。
【0008】
ところが上記従来のグリースを用いた端子付き被覆電線は、グリースをコネクタ内に密に注入しないと、水の浸入を十分に防止して防食効果を高めることができないという問題があった。防食効果を高めようとしてグリースの充填量を多くすると、本来、防食する必要のない部分にまで、グリースが塗布されてしまうことになる。更に過度の充填は、コネクタや電線のべたつきを招き、取扱い性を低下させる。それ故、このような問題のあるグリースの代替品として、高い防食性を発揮可能な防食剤が求められている。
【0009】
そこで、樹脂組成物等の防食剤を端子に塗布し、硬化させる方法が用いられる。しかしながらワイヤーハーネスが自動車等に利用される場合、使用温度範囲が大きい。特にワイヤーハーネスが高温下で連続使用されると、インシュレーションバレル部と電線被覆の間に隙間が発生するという問題があった。これは次のような理由によるものである。
【0010】
端子付き被覆電線は、端子金具のインシュレーションバレルを被覆電線の被覆材の周囲に圧着して加締めることで、被覆電線の端部に端子金具が固定されている。被覆電線の被覆材は、高温で加熱されると、応力緩和や端子との線膨張率差、可塑剤の揮発等のため、経時的に被覆が痩せて細くなる。これに対し端子金具のインシュレーションバレルの形状は、高温で加熱された後でも経時的に形状が変化することがない。そのため被覆材と端子金具との間に隙間ができる。
【0011】
このように端子付き被覆電線には、電線導体と端子金具の接触部が防食剤で被覆されていても、被覆材と端子金具の間に隙間が形成されると、その隙間から水分が侵入し、電線導体と端子金具の接触部を腐食させる原因になるという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、端子金具が被覆電線に固定されている固定部において、端子金具と被覆電線との間に経時的に隙間が発生するのを防止して、電線導体と端子金具の電気接触部の腐食を抑制可能である、端子付き被覆電線及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の端子付き被覆電線は、
被覆電線の電線導体が端子金具に接続され、前記端子金具が前記被覆電線に固定されている電線固定部を備え、前記電線導体と前記端子金具との接触部が防食剤により被覆されている端子付き被覆電線であって、
前記電線固定部に前記端子金具及び前記被覆電線の間の隙間を埋めるシール剤が塗布されており、前記シール剤として、ゲル分率が20〜70%の範囲内である架橋アクリル系樹脂を用いたことを要旨とするものである。
【0014】
本発明の端子付き被覆電線において、前記端子金具のインシュレーションバレルと前記被覆電線の被覆材との間に、前記シール剤が塗布されていることが好ましい。
【0015】
本発明の端子付き被覆電線において、前記シール剤の架橋アクリル系樹脂のゲル分率が40%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の端子付き被覆電線において、前記被覆電線の導体がアルミニウム系金属であり、前記端子金具が銅系金属であり、上記接触部が異種金属接続部であることが好ましい。
【0017】
本発明のワイヤーハーネスは、上記の端子付き被覆電線を有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の端子付き被覆電線は、被覆電線の電線導体が端子金具に接続され、前記端子金具が前記被覆電線に固定されている電線固定部を備え、前記電線導体と前記端子金具との接触部が防食剤により被覆されている端子付き被覆電線であって、前記電線固定部に前記端子金具及び前記被覆電線の間の隙間を埋めるためのシール剤が塗布されており、前記シール剤として、ゲル分率が20〜70%の範囲内である架橋アクリル系樹脂を用いたことにより、電線固定部から端子金具と電線導体との接触部に水が浸入するのを防止することが可能であるから、防食性に優れたものである。
【0019】
本発明のワイヤーハーネスは、上記の端子付き被覆電線を用いたものであるから、端子金具の被覆電線に対する電線固定部の隙間からの水の浸入を防止して、長期に亘り防食性能を維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は本発明の端子付き被覆電線の一実施例を示す外観斜視図である。
図2図2図1のA−A線断面図である。
図3図3図1のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の端子付き被覆電線の一実施例を示す外観斜視図である。本実施例の端子付き被覆電線1は、図1に示すように、被覆電線2の端部の電線導体3が、端子金具5の端部に圧着されて、電線導体3と端子金具5の接触部6が電気的に接続されている。端子金具5はSnめっき銅等の銅系金属を用いて形成されたものである。
【0022】
被覆電線2は、アルミニウム合金製の電線導体3が、ポリ塩化ビニル樹脂等の絶縁体からなる被覆材4により被覆されている。
【0023】
端子金具5は、相手側メス端子に接続されるオス端子としてのタブ状の端子接続部51と、該端子接続部51の基端より延設形成され被覆電線2を圧着するためのバレル部54とを有する。バレル部54は、端子接続部51側に設けられたワイヤバレル52と、電線導体2側に設けられたインシュレーションバレル53の二つの圧着部から構成されている。
【0024】
図2図1のA−A線断面図である。図1及び図2に示すように、被覆電線2の端部の電線導体3には、端子金具5のワイヤバレル52が加締められて圧着している。ワイヤバレル52の圧着部は、電線導体3との接触部6として形成されている。この圧着部が接触部6となって、電線導体3と端子金具5は電気的に接続されている。上記接触部6は、防食剤7により被覆されている。尚、図1は防食剤7の塗膜を透視した状態で示している。
【0025】
接触部6は、電線導体3のアルミニウム合金等のアルミニウム系金属と、ワイヤバレル52の銅合金等の銅系金属との異種金属が接触した状態であり、異種金属接続部として構成されている。
【0026】
図3図1のB‐B線断面図である。図1及び図3に示すように、端子金具5のインシュレーションバレル53は、被覆電線2の被覆材4に加締められて圧着している。このインシュレーションバレル53の圧着部は、端子金具5を被覆電線2の端末に、固定、保持するための電線固定部として形成されている。
【0027】
電線固定部には、端子金具5と被覆電線2との間の隙間を埋めるためのシール剤8が塗布されている。シール剤8を塗布する場所は、インシュレーションバレル53と被覆材4の間の部分である。シール剤8は、インシュレーションバレル53側、被覆材4の周囲、上記インシュレーションバレル53側と被覆材4の周囲の両方、のいずれに塗布してもよい。
【0028】
シール剤8はインシュレーションバレル53と被覆材4の間に充填されていて、被覆材の周囲の全周にわたり連続的に覆われていればよい。具体的には、シール剤8は、インシュレーションバレル53の線方向前後方向の端部から内側に入り込んで塗布されていてもよい。またシール剤8は、インシュレーションバレル53の被覆電線2の線方向前後に、インシュレーションバレル53からはみ出すように被覆材4の表面に塗布されていてもよい。
【0029】
シール剤8は、電線固定部における、インシュレーションバレル53等の端子金具5及び被覆材4等の被覆電線2の間に充填されていることにより、例えば被覆電線の被覆材4が熱老化等により経時的に肉痩せした場合であっても、シール剤8が架橋アクリル系粘着剤から形成されていることにより、インシュレーションバレル53と被覆材4の間に形成される隙間を埋めるようにシール剤8が変形して追随し、隙間の発生を防止することが可能である。そのため、シール剤8を用いなかった場合と比較して、インシュレーションバレル53と被覆材4の間に生じた隙間から水が浸入して、電線導体と端子金具の接触部6に水が到達してしまい、接触部6を腐食させることを良好に防止することができる。
【0030】
シール剤8は、架橋アクリル系粘着剤が用いられる。架橋アクリル系粘着剤は、ゲル分率が20〜70%の範囲内となるように架橋している。シール剤8のゲル分率が20%未満では、熱老化後のシール性を保持することが困難である。またシール剤8のゲル分率が70%を超えると、架橋により材料強度が向上して、界面剥離し易くなるために、シール剤8と被覆電線2又はシール剤8と端子金具5との間に隙間が発生し易くなってしまう。
【0031】
好ましいシール剤のゲル分率は、40%以上である。シール剤のゲル分率が40%以上であると、耐油性が向上することから、油に浸漬しても粘着剤が油中に溶解せず粘着力が低下する恐れがない。端子付き被覆電線は、シール材の耐油性が向上することで、エンジンルーム等の耐油性が要求される部位で好適に使用することができる。
【0032】
本発明において、粘着剤のゲル分率は、粘着剤の架橋の度合いを表すものである。ゲル分率は、架橋した粘着剤の質量を測定し、23℃の酢酸エチル溶液に20時間浸漬した後、取り出して、120℃で1時間乾燥し質量を測定し、下記の式より求めた数値である。
ゲル分率(%)=(乾燥後の質量/浸漬前の質量)×100
【0033】
シール剤8として用いられる粘着剤は、被覆電線に用いられる被覆材と端子金具の金属との間の接着力が、0.2MPa以上であることが好ましい。この場合、上記接着力は、実施例の欄に記載した油面接着力試験方法を用いて測定される値である。
【0034】
シール剤8の塗布量は、特に限定されない。塗布量は、1.0mg/cm〜10mg/cmの範囲内であることが、均一塗布が容易で、塗布範囲を規定し易い等の理由から好ましい。
【0035】
シール剤8に用いられる架橋アクリル系粘着剤は、アクリル系樹脂からなる粘着剤を架橋することで得られる。アクリル系樹脂は、紫外線硬化型(UV反応型)アクリル樹脂、溶剤型アクリル樹脂等のアクリル樹脂が用いられる。アクリル系樹脂のゲル分率を上記特定の範囲内に調製するには、紫外線硬化型樹脂の場合は、紫外線の照射量を適宜調節すればよく、又溶剤硬化型アクリル樹脂の場合は、架橋剤等の硬化剤の添加量を適宜調節すればよい。
【0036】
シール剤8に用いられる紫外線硬化型アクリル樹脂は、(メタ)アクリレート成分を含む紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物(紫外線硬化型樹脂)を用いることができる。紫外線硬化性樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートモノマー等の(メタ)アクリレート成分、接着付与剤、架橋剤、光開始剤等の成分から構成することができる。(メタ)アクリレート成分を含む紫外線硬化性樹脂の組成物は、塗布後、紫外線等の光照射により短時間で硬化させることが可能である。
【0037】
上記(メタ)アクリレート化合物としては、分子中に1つ以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレートオリゴマー、(メタ)クリレートモノマー等が挙げられる。本発明において、「(メタ)アクリレート」の記載は、メタクリレート及びアクリレートの意味である。
【0038】
シール剤8に用いられる溶剤型アクリル樹脂は、アクリル酸エステルの重合体を粘着主成分とする粘着剤であり、溶液重合等で得られるものである。
【0039】
溶剤型アクリル樹脂の成分としては、アクリル酸エステル共重合物、アクリル酸エステルモノマー等から構成することが好ましい。溶剤型アクリル樹脂の硬化剤としては、例えば、イソシアネート、エポキシ、ウレタン、金属アルコキシド等が用いられる。
【0040】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線から構成されている。撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線等を含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0041】
上記電線導体3を構成する金属素線の材料としては、アルミニウム合金以外に、銅、銅合金、アルミニウムもしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料等を例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレス等を例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラー等を挙げることができる。電線導体3に用いられる金属素線としては、電線の軽量化等の点からアルミニウム又はアルミニウム合金を用いるのが好ましい。
【0042】
被覆電線2に用いられる被覆材4の材料としては、特に限定されず、例えば、ゴム、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂(PVC)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。被覆材4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0043】
端子金具5に用いられる金属板は、例えば、銅板以外に、黄銅、銅合金等の各種銅合金の金属板を用いることができる。まためっきは、スズ以外に、ニッケル、金、銀等の各種金属めっきを用いることができる。
【0044】
防食剤7は、防食塗膜を形成可能な材料であればよく特に限定されず、この種の端子金具の防食剤に用いられる材料を用いることができる。好ましい防食剤7としては、(メタ)アクリレート成分を含む紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物(紫外線硬化型樹脂)を用いることができる。
【0045】
電線導体3と端子金具5の接触部6の防食剤7は、厚みが0.01〜3mmの範囲となるように塗布するのが好ましい。防食剤7の厚みが厚くなりすぎると、端子金具5を相手側端子のコネクタへ挿入し難くなる恐れがある。また防食剤7の厚みが薄くなりすぎると防食性能が不十分となる恐れがある。
【0046】
図1及び図2に示す端子付き被覆電線1は、防食剤7が被覆している部分は、一点鎖線で示した範囲である。図2に示すように防食剤7は端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、所定の厚さで被覆している。底面は防食剤7に覆われず、端子金具5の金属が外部に露出した状態になっている。
【0047】
防食剤7は、少なくとも電線導体2の露出部分を完全に被覆している。防食剤7は、被覆電線4の端部側は、電線導体2の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように被覆している。また端子金具5の端部側は、絶縁体4側に少しはみ出すように被覆している。
【0048】
端子付き被覆電線1は、防食剤7により被覆する部分が上記の形態に限定されず、少なくとも電線導体3が外部に露出しないように被覆されていればよい。また図1に示すように、防食剤7がバレル部54から外方にはみ出すように、被覆しても良いし、特に図示しないが端子金具5の底面を防食剤7で被覆してもよい。また端子金具5の側面が、防食剤7で被覆されていても、被覆されていなくても、いずれでもよい。
【0049】
以下、端子付き被覆電線の製造方法について説明する。端子付き被覆電線1を製造するには、端子金具5と被覆電線4を準備する。端子金具5は、Snめっき銅板8を端子展開形状に打ち抜いて切断した中間部材を用い、曲げ加工等を施してバレル部54を形成する。一方、被覆電線2は、端末の絶縁体4を皮剥ぎして電線導体2を所定の長さだけ露出させる。次いで、シール剤8をインシュレーションバレル53と被覆材4の間に塗布して、所定の手段で架橋させる。この塗布は、具体的にはインシュレーションバレル53側、被覆材4側の、どちら側に塗布してもよい。シール剤8の塗布方法は特に限定されず、各種の塗布手段を用いることができ、例えば、端子への滴下、電線のディッピング等の塗布方法が挙げられる。好ましい塗布方法は、塗布量、位置精度等の調節が容易であることから、端子への滴下である。
【0050】
次いで被覆電線2の端末に、端子金具5を加締めてバレル部54を圧着し、電線導体3と端子金具5を接続する。圧着は、端子金具のワイヤバレル52に電線導体3を圧着し、インシュレーションバレル53に絶縁体4を圧着する。次いで、電線導体3と端子金具5との接触部6の所定の範囲に防食剤7の組成物を塗布し、所定の条件で防食剤7を硬化せしめることで、端子付き被覆電線1が得られる。
【0051】
防食剤7の組成物を接触部6に塗布する方法は特に限定されず、例えば、滴下法、塗布法、押し出し法等の公知の手段を用いることができる。また防食剤7の組成物を塗布する際、防食剤7の組成物を加熱、冷却等により温度調節してもよい。
【0052】
防食剤の組成物の硬化には、例えば紫外線照射装置や加熱装置等の硬化装置を用いることができる。
【0053】
以下、本発明のワイヤーハーネスについて説明する。本発明のワイヤーハーネスは、上記端子付き被覆電線1を含む複数本の被覆電線を束ねて結束したものである。ワイヤーハーネスにおいては、被覆電線のうちの一部が本発明の端子付き被覆電線1であっても良いし、全てが本発明の端子付き被覆電線1であっても良い。
【0054】
ワイヤーハーネスにおいて、複数本の被覆電線は、テープ巻きにより結束されていても良いし、或いは、丸チューブ、コルゲートチューブ、プロテクタ等の外装部品により外装されることで結束されていても、いずれでも良い。
【0055】
本発明のワイヤーハーネスは、自動車等の車両に配索されるものとして好適であり、特に、被水領域のエンジンルームや車内に配索されるものとして好適である。ワイヤーハーネスがこのような場所に配索された場合、熱および水の影響を受けて、電線導体3と端子金具5との電気接続部に腐食が発生し易くなる。本発明のワイヤーハーネスは、端子付き被覆電線1における電線導体3と端子金具5の接触部6が防食剤7に覆われているので、腐食の発生を効果的に抑えることができる。更に電線固定部に端子金具及び被覆電線の間の隙間を埋めるシール剤が塗布されており、前記シール剤のゲル分率が20〜70%の範囲内としたことにより、被覆電線とインシュレーションバレル等の端子金具との間に隙間から水が浸入するのを防止することができる。
【実施例】
【0056】
実施例1〜6、比較例1〜3
実施例1、3、6は表1に示す溶剤型アクリル粘着剤と硬化剤等を用い硬化させ、実施例2、4、5は表1に示すUV反応型アクリル粘着剤を用い表1に示すUV照射条件で硬化させ、比較例1、2は表2に示す溶剤型アクリル粘着剤と硬化剤を用い硬化させ、比較例3は表2に示すUV反応型アクリル粘着剤を用い表2に示すUV照射条件で硬化させ、接着性試験の試験片を作製し、油面接着力の試験を行った。試験は、(1)初期、(2)熱老化後、(3)耐油試験後について、行った。また、各粘着剤の硬化物についてゲル分率を測定した。結果を表に示す。実施例、比較例で用いた材料と試験方法と評価結果の詳細は下記の通りである。
【0057】
〔溶剤型アクリル粘着剤〕
・アクリル粘着剤(溶剤型):綜研化学社製、製品名「SKダイン1310」、固形分33質量%
・硬化剤:綜研化学社製、製品名「硬化剤L‐45」
・硬化条件:120℃、10分
【0058】
〔UV硬化型アクリル粘着剤〕
・アクリル粘着剤(UV反応型):日本合成化学社製、製品名「UV‐3000B」
・硬化条件:表に示す所定の積算光量を照射(ランプ:高圧水銀灯、光量:100mW/cm、365nm)
【0059】
〔油面接着力試験〕
(1)初期
端子金具に用いたSnめっき銅板と、被覆電線の被覆材に用いる軟質塩化ビニル樹脂のシートを試験片として、接着力試験を行った。試験片の寸法は、25mm×80mm×厚さ2mmとした。先ず試験片のSnめっき銅板の表面に直径20mmの円形の領域が形成されるように周囲をマスキングし、表面に油を1.0mg/cm塗布後、前記領域内に粘着剤を所定量(溶剤型:100mg、UV反応型:60mg)塗布して硬化させて粘着剤層を形成した。他方、軟質ポリ塩化ビニルシートを、上記Snめっき銅板の表面の粘着剤の上に重ね、プレス機で圧力50MPa、30秒間プレスして、接着強さ試験の試験片を作製した。その後、試験片を常温で2日間放置した後に、引張せん断試験を行い、油面接着強さ(初期)を測定し、破壊面を観察した。引張試験の引っ張り速度は100mm/minで行った。判定基準は、接着強さの値が0.2MPa以上でかつ凝集破壊の場合を優良(◎)とし、接着強さの値が0.2MPa以上でかつ界面破壊の場合を良好(○)とし、接着強さの値が0.2MPa未満の場合を不良(×)とした。
【0060】
〔Snめっき銅版〕
厚さ2mmの銅板を表面に錫めっき(厚さ10μm)が施されたSnめっき銅板を25mm×80mmの大きさに切断したものを試験片とした。
〔軟質ポリ塩化ビニルシート〕
ポリ塩化ビニル(重合度1300)100質量部に対して、可塑剤としてジイソノニルフタレート40質量部、充填剤として重質炭酸カルシウム20質量部、安定剤としてカルシウム亜鉛系安定剤5質量部をオープンロールにより180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形することにより、ポリ塩化ビニル組成物を調製した。次いで、射出成型機で上記組成物を成形し、25mm×80mm×2mmに切断し試験片とした。
【0061】
(2)熱老化後
上記プレス後の試験片を、120℃、240時間の雰囲気下に放置した後、初期と同様の条件で接着強さを測定した。結果を表に示す。判定基準は、熱老化後の接着強さの初期接着強さに対する保持率が80%以上の場合、良好(○)とし、保持率が80%未満の場合、不良(×)とした。
【0062】
(3)耐油試験後
熱老化後の試験片を更にJIS K6301に記載の試験用油No.1に常温で20時間浸漬した後に、接着強さを測定した。測定結果の単位は%(初期値比)である。
【0063】
〔ゲル分率測定方法〕
硬化物を23℃の酢酸エチル溶液に20時間浸漬後、取り出し、120℃、1時間乾燥させ、浸漬前と乾燥後の質量を測定して下記式より求めた。
ゲル分率(%)=(乾燥後の質量/浸漬前の質量)×100
【0064】
表1に示すように、実施例1〜6は、粘着剤を構成する架橋アクリル系樹脂のゲル分率が20〜70%の範囲内であるから、油面接着力が良好であった。これに対し比較例1はシール剤の組成物に硬化剤を含まないため、ゲル分率が0%であり、初期の接着性は十分であったが、熱老化後の接着性、耐油試験後の接着性が悪かった。また比較例2は、ゲル分率が80%を超えるため、熱老化後に界面剥離となって接着性が悪かった。比較例3は、更にゲル分率が高く91%であるため、初期から界面剥離してしまい接着性が悪かった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0068】
上記実施例の端子付き被覆電線1は、端子金具としてタブ状のオス端子を用いた例を示したが、これに限定されるものではない。例えば端子付き被覆電線は、端子金具としてメス端子を用いたものでもよい。また、端子金具として音叉端子等を用いても良い。
【0069】
また、端子金具5のバレル部54を、インシュレーションバレルを有しないワイヤバレルのみから構成しても良い。この場合、ワイヤバレルは、電線導体と被覆材の両方に圧着し、シール剤8は被覆材とワイヤバレルの間に塗布されていればよい。
【0070】
また、端子金具5のバレル部54はインシュレーションバレルのみから構成してもよい。その場合、電線導体と端子金具の接続方法としては、圧接抵抗溶接、超音波溶接、ハンダ付け等の方法を用いることができる。インシュレーションバレルは被覆電線の被覆材に圧着され、インシュレーションバレルと被覆材の間にはシール剤が塗布される。
【符号の説明】
【0071】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
3 電線導体
4 被覆材
5 端子金具
51 端子接続部
52 ワイヤバレル
53 インシュレーションバレル
54 バレル部
6 接触部
7 防食剤
8 シール剤
図1
図2
図3