(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定時間幅は、前記電力変換手段における前記電動モータ駆動用のスイッチング素子のOFF動作時間以上の時間幅とすることを特徴とする請求項3記載のリンプホームシステム。
前記安全制御手段は、複数種類の異常を検出可能であり、何れかの異常を検出した場合に前記リンプホーム制御モードへの切換えを実行することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のリンプホームシステム。
前記安全制御手段は、該安全制御手段自体の異常、前記モータ制御手段の異常、前記ウォッチドッグ手段の異常、前記モータの速度を検出する為の速度センサの異常、電源異常、バッテリー電源不足の何れか2以上の異常を検出可能であることを特徴とする請求項5記載のリンプホームシステム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本例のリンプホームシステムの概略構成図である。
図2は、本例のリンプホームシステムの詳細構成例である。
【0017】
尚、本例のリンプホームシステムは、特に電気自動車、ハイブリッド車等のような動力源として電動モータを備える自動車に搭載されるものであり、電動モータを駆動制御して自動車を走行させるシステムであって、故障時にリンプホーム制御モードに切換えて電動モータを駆動制御して自動車を走行させるシステムである。リンプホーム制御モードは、例えば控えめな速度で走行可能として安全な場所に辿り着けるように制御するモードである。
【0018】
図1に示すように、本例のリンプホームシステムは、概略的には、安全制御部1、WDT(ウォッチドッグタイマ)部2、モータ制御部3、リンプ制御部4、電力変換部5、モータ(誘導電動機)6、第1切換部7、第2切換部8等を有する。
【0019】
上記各構成のうち、モータ制御部3、電力変換部5、モータ6は、既存の構成と見做して構わない。よって、これらについては特に説明しないが、モータ制御部3は、不図示の上位装置からの速度指令等に基づいて、電力変換部5に対して制御信号を出力することで、電力変換部5とモータ6を駆動制御する。また、モータ6は、電動モータ等である。電力変換部5は、例えばインバータ等である。
【0020】
リンプ制御部4は、電力変換部5に対する制御信号を生成・出力する構成であり、リンプホーム制御モードの際に当該制御信号によって電力変換部5とモータ6を駆動制御する為の構成である。リンプ制御部4は、既存技術によって実現してもよく、一例としては上記特許文献2に記載の従来技術によって実現できる。この一例では、リンプ制御部4は、上記駆動制御を、速度センサレスの状態で行うことができる。但し、この例に限らない。例えば上記特許文献1の従来技術や他の従来技術などによってリンプ制御部4を実現してもよい。更に、リンプ制御部4に関して、本例では例えば予め記憶されている設定値等に基づいて制御信号を生成する構成を提案している。このような設定値等に基づく制御を行うことで、上記上位装置からの速度指令等が無くても(速度指令入力レスの状態でも)、駆動制御可能である。また、この例の場合、リンプ制御部4は、例えば、低速での定速走行制御を行う。
【0021】
尚、後述するリンプ制御装置20が、上記リンプ制御部4の一例であり、詳しくは後述する。
尚、上述したモータ制御部3からの制御信号、リンプ制御部4からの制御信号は、電力変換部5が例えば三相インバータである場合には、その6個のスイッチング素子をON/OFF制御する為の信号となる。つまり、この例では、制御信号(PWM信号)の信号線は6本となる。
【0022】
第1切換部7は、上記モータ制御部3からの制御信号とリンプ制御部4からの制御信号とを入力とし、これら2つの制御信号の何れか一方を選択的に出力して電力変換部5へ入力させるスイッチ等である。通常は、モータ制御部3からの制御信号を、電力変換部5へ入力させている。そして、故障時には、安全制御部1またはWDT部2によって第1切換部7を切換え制御して、リンプ制御部4からの制御信号を電力変換部5へ入力させる状態へと切換える。つまり、リンプホーム制御モードへ移行させる。
【0023】
ここで、安全制御部1またはWDT部2は、リンプホーム制御モードへの移行の際に、更に第2切換部8を制御するが、これについては後述する。
上記のように、通常時には、モータ制御部3等によって電力変換部5を介してモータ6を駆動制御する。そして、異常時には、リンプホーム制御モードにして、リンプ制御部4によって電力変換部5を介してモータ6を駆動制御する。
【0024】
安全制御部1は、不図示の上位装置からの速度指令をモータ制御部3に伝達する機能や、各種異常を検出する機能や、異常検出時に第1切換部7、第2切換部8を切換え制御することでリンプホーム制御モードに安全に移行させる機能等を有している。これら各種機能については
図2等で安全制御装置11の説明の際に一例を詳述する。
【0025】
また、安全制御部1が故障した場合には、WDT部2が、この故障を検出して、第1切換部7、第2切換部8を切換え制御することで、リンプホーム制御モードに安全に移行させる。
【0026】
WDT部2は、例えば一般的なウォッチドッグタイマの機能に加えて、更に、第1切換部7、第2切換部8を切換え制御する構成を有する。特に第2切換部8の切換え制御に関しては、例えば所定のパルス幅のワンショットパルスを、第2切換部8へ出力する。これによって、一時的に所定時間の間、第2切換部8をOFF状態にし、以って電力変換部5への制御電源電力供給を一時的に停止する。
【0027】
ここで、上記電力変換部5に入力する制御信号は、制御電源からの電力が電力変換部5に供給されている状態のときに有効となる。換言すれば、上記モータ制御部3からの制御信号とリンプ制御部4からの制御信号のどちらであっても、上記制御電源からの電力が電力変換部5に供給されていない状態では、実質的に無効の状態となっている。そして、当該無効の状態のときには、例えば上記6個のスイッチング素子は、全てOFF状態となる。尚、これらスイッチング素子は、モータ6駆動用のスイッチング素子であり、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等であるが、この例に限らない。
【0028】
そして、上記第2切換部8は、制御電源電力を電力変換部5へ供給させるON状態と、該電力供給を遮断するOFF状態とに切替えられるスイッチ等である。第2切換部8は、通常時は、上記ON状態となっており、異常時に安全制御部1またはWDT部2によって、一時的にOFF状態に切替えられた後に再びON状態へと切替えられる。
【0029】
つまり、本手法では、リンプホーム制御モードへの移行の際に、制御電源電力の電力変換部5への供給を一時的に停止し、該停止中に第1切換部7を切換え制御することで、リンプホーム制御モードへの安全な切換えを実現する。“安全な”とは、すなわち、電力変換部5(インバータ等)のスイッチ対(上下スイッチ対)の同時オンを防止でき、以って過電流による電力変換部5(インバータ等)の損焼が生じることを防止できる。
【0030】
尚、上記制御電源は、モータ6駆動用の高電圧電源ではなく、制御回路用の低電圧(例えば4.5(V)〜5(V)程度)の電力供給を行うものである。
上述したように、安全制御部1またはWDT部2は、異常時には上記第2切換部8を一時的にOFF状態にし、その間に上記第1切換部7の切換えを実行・完了させる。その為に、異常時には、例えば所定のパルス幅のワンショットパルスを、第2切換部8へ出力する。詳しくは
図2等に示す一例を用いて説明する。
【0031】
尚、上記のことから、上記電力変換部5は、例えば、上記供給される制御電源電力によって有効となる制御信号に基づいてモータ6を駆動するものと言うこともできる。また、上記モータ制御部3は、例えば、任意の指令に応じた第1の制御信号を生成するものと言うこともできる。上記リンプ制御部4は、例えば、予め設定されている所定の指令に応じた第2の制御信号を生成するものと言うこともできる。上記第2切換部8は、例えば、上記制御電源電力の電力変換部5への供給をオン/オフする第1スイッチング部と言うこともできる。上記第1切換部7は、例えば、上記第1の制御信号と第2の制御信号の何れか一方を上記制御信号として電力変換部5へ入力させる第2スイッチング部と言うこともできる。
【0032】
また、上記安全制御部1は、例えば、各種異常のうちの任意の異常を検出した場合、上記第1スイッチング部を制御して上記制御電源電力の上記電力変換部5への供給を一時的に停止させたうえで、該供給停止中に上記第2スイッチング部を制御して上記第2の制御信号を上記制御信号として電力変換部5へ入力させるリンプホーム制御モードに切換えるものと言うこともできる。
【0033】
また、上記WDT部2は、例えば、安全制御部1の異常を検出した場合、上記第1スイッチング部を制御して制御電源電力の電力変換部5への供給を一時的に停止させたうえで、該供給停止中に上記第2スイッチング部を制御して上記第2の制御信号を上記制御信号として電力変換部5へ入力させるリンプホーム制御モードに切換えるものと言える。
【0034】
また、WDT部2は、例えば、後述する
図2に示すウォッチドッグタイマ12とワンショットパルス発生回路13を有するものであってもよい。そして、例えば、ウォッチドッグタイマ12が安全制御部1の異常を検出すると、該ワンショットパルス発生回路13が所定時間幅のパルスを上記第1スイッチング部へ出力することで、制御電源電力の電力変換部5への供給を一時的に停止させる構成であってもよい。
【0035】
また、上記所定時間幅は、例えば、電力変換部5におけるモータ駆動用のスイッチング素子のOFF動作時間以上の時間幅としてもよい。
以上、
図1を参照して、本例のリンプホームシステムの構成・動作について概略的に説明した。
【0036】
以下、
図2を参照して、本例のリンプホームシステムの構成・動作について更に詳細に説明する。勿論、システム構成は、
図2に示す例に限らない。
図2に示す例のリンプホームシステムは、安全制御装置11、ウォッチドッグタイマ12、ワンショットパルス発生回路13、電源SW(スイッチ)14、制御切換SW(スイッチ)15a,15b、電力変換器16、モータ17、モータ制御装置18、速度検出器19、リンプ制御装置20等を有する。
【0037】
安全制御装置11は上記安全制御部1の一例と見做してもよい。ウォッチドッグタイマ12及びワンショットパルス発生回路13が、上記WDT部2の一例と見做してもよい。また、電力変換器16が上記電力変換部5の一例、モータ制御装置18が上記モータ制御部3の一例、リンプ制御装置20が上記リンプ制御部4の一例と見做しても構わない。また、電源SW(スイッチ)14が上記第2切換部8の一例、制御切換SW(スイッチ)15a,15bが上記第1切換部7の一例と見做しても良い。勿論、これらの例に限るわけではない。
【0038】
電力変換器16、モータ17、モータ制御装置18は、既存の構成であり、ここでは特に説明しないが、電力変換器16は、例えば三相インバータであり、これはよく知られているように各相毎に一対のスイッチング素子が備えられており(6個のスイッチング素子のスイッチング素子群16bが備えられており)、各相が互いに120度位相をズラしてON/OFFされる。このスイッチング素子は、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等であるが、この例に限らない。
【0039】
電力変換器16は、上記スイッチング素子群16bと、例えばフォトカプラ群16a等を備える。上記モータ制御装置18またはリンプ制御装置20からの制御信号がフォトカプラ群16aに入力されると共に、上記制御電源電力がフォトカプラ群16aに供給される。フォトカプラ群16aに入力される上記制御信号によってスイッチング素子群16bの各スイッチング素子がON/OFF制御され、以ってモータ17が駆動制御される。但し、上記制御電源電力が供給されていない状態では、上記制御信号は実質的に無効であり、スイッチング素子群16bの全てのスイッチング素子がOFF状態となる。
【0040】
また、モータ制御装置18は、安全制御装置11から渡された速度指令Sに基づいて上記制御信号を生成して、これを制御切換SW15aを介して電力変換器16に対して出力する。但し、制御切換SW15aがOFF(遮断)の状態のときにはこの制御信号は電力変換器16に入力されない。
【0041】
また、リンプ制御装置20は、上記速度指令Sではなく、予め記憶されている指令値テーブル21等に基づいて上記制御信号を生成して、これを制御切換SW15bを介して電力変換器16に対して出力する。但し、制御切換SW15bがOFF(遮断)の状態のときにはこの制御信号は電力変換器16に入力されない。
【0042】
制御切換SW15a,15bは、何れか一方がON(通電)のときには他方はOFF(遮断)となるように、安全制御装置11またはウォッチドッグタイマ12によって、切換え制御される。通常時は、制御切換SW15aがON状態で制御切換SW15bがOFF状態となっており、これによってモータ制御装置18によって電力変換器16及びモータ17を駆動制御させる状態となっている。一方、何等かの異常があった場合、制御切換SW15aがOFF状態で制御切換SW15bがONの状態へと切替えられる。これによってリンプ制御装置20によって電力変換器16及びモータ17を駆動制御させる状態となる。
【0043】
そして、制御電源電力が電源SW14を介して電力変換器16(そのフォトカプラ群16a)に供給される。但し、電源SW14がOFFの状態では、制御電源電力は電力変換器16に供給されない。制御電源電力が供給されていない状態では、上記制御信号は実質的に機能せず(無効となっており)、上記6個のスイッチング素子(IGBT等)は全てOFFとなる。
【0044】
各スイッチング素子には不図示の駆動用電源(例えば100V以上)が供給されており、制御信号等に応じて各スイッチング素子がON/OFFされることで、モータ17を駆動する。ここで、対となるスイッチング素子が両方ともONとなる状態になると、過電流による電力変換器16の焼損が起こり得る。そして、この様な状況は、リンプ制御装置20からの制御信号に切替える際に起こり得ることが、経験上、分かっている。
【0045】
この為、本手法では、制御電源電力の供給を一時的に停止することで、一旦、全てのスイッチング素子をOFF状態にしてから、制御信号の切換えを行う。つまり、リンプ制御装置20からの制御信号へと切替える。そして、この切換え後に制御電源電力の供給を再開すること
で当該制御信号が有効になって、当該制御信号に応じて各スイッチング素子がON/OFFされる。この様にすることで、上記問題が生じないようにできる。
【0046】
尚、電力変換器16は、フォトカプラ群16aを有する構成に限らない。フォトカプラが無くても、制御電源電力が供給されていない状態では制御信号が機能せずに上記6個のスイッチング素子(IGBT等)が全てOFFとなる構成であれば、何でもよい。
【0047】
速度検出器19は、速度P(モータ17の回転速度等)を検出する。検出された速度Pは、モータ制御装置18、安全制御装置11に入力される。
一方、図示の一例では、速度Pは、リンプ制御装置20には入力されない。リンプ制御装置20は速度センサレスの制御を実現できる。すなわち、リンプ制御装置20は、電力変換器16からモータ17に対する出力電流Ioと出力電圧Voとを入力して、これらに基づいて速度推定値を求める機能を有している。この機能自体は、例えば上記特許文献2に記載の既存機能であってよい。但し、この例に限らず、速度Pがリンプ制御装置20
に入力される構成であっても構わない。また、この構成においても上記速度推定値を求める機能があっても構わない。
【0048】
尚、出力電流Ioは、不図示の電流検出器によって検出される、モータ17への出力電流値を示す。この電流検出器は、二相出力に着ける。また、出力電圧Voは、不図示の電圧検出器によって検出される、モータ17への出力電圧値を示す。この電圧検出器は、三相出力に着ける。
【0049】
尚、上記電圧検出器は必ずしも必要ない。すなわち、後述する
図9に示すように座標変換部39から速度演算部40への信号線41を追加することで、出力電圧Voは出力電圧指令で代替可能である。よって、電圧検出器を削除することも可能である。
【0050】
安全制御装置11は、例えば速度指示・監視処理部11a等の機能部を備えている。安全制御装置11は、例えばCPU等であり、内蔵の不図示のメモリ等に予め記憶されているアプリケーションプログラム等をCPUが実行することで、速度指示・監視処理部11a等の後述する処理機能(例えば
図3の処理等)を実現する。
【0051】
尚、モータ制御装置18やリンプ制御装置20等の後述する処理機能は、例えば専用のIC(例えばプログラマブルロジックデバイス (programmable logic device: PLD)等)等により実現してもよいし、CPUがアプリケーションプログラム等を実行することで実現させる形態であっても構わない。
【0052】
速度指示・監視処理部11aは、例えば不図示の上位装置から送られてくる速度指令Sを、定周期で読み込み、この速度指令Sをモータ制御装置18へ伝達する。尚、速度指令Sは、例えば、不図示のアクセルセンサとシフトポジションセンサ等による検出結果に基づいて不図示の上位CPU等で生成されて、通信機能等により安全制御装置11へ伝達される。
【0053】
また、速度指示・監視処理部11aは、各種入力等に基づいて、異常の有無を監視・チェックする。例えば、速度検出器19からの入力(速度P)に基づいて速度上限を超過していないか等を監視する。その他、各種異常を監視する。例えば、モータ制御装置18、速度センサ(速度検出器19)、ウォッチドッグタイマ12の何れかの故障を検出し、あるいは安全制御装置11の動作シーケンス異常を検出し、または速度指令Sが正常か否かを確認し、あるいは電源異常、バッテリー電源不足等を検出する。これらの異常検出方法については後述する。
【0054】
ここで、上述したように、通常時は、制御切換SW(スイッチ)15a,15bは、モータ制御装置18によって電力変換器16及びモータ17を駆動制御させる状態となっている。
【0055】
そして、速度指示・監視処理部11aは、何等かの異常有りと判定した場合には、制御切換SW15a,15bを切換え制御して、リンプ制御装置20によって電力変換器16及びモータ17を駆動制御させる状態にする。但し、この切換え制御の前に電源SW14に対して所定のパルス幅のワンショットパルスを出力することで、一時的に制御電源電力が電力変換器16(そのフォトカプラ)に供給されないようにしておく。
【0056】
つまり、制御信号が実質的に無効の状態すなわち電力変換器16のスイッチング素子が全てOFFの状態で、制御切換SW15a,15bの切換えを実行・完了する。その後、制御電源電力の供給を再開し、以って制御信号が機能する状態に戻す。これによって、電力変換器16のスイッチ対の同時オンが発生するのを防止し、以って過電流による電力変換器の損焼が生じることを防止できる。
【0057】
上記切換え動作の一例を、
図4に示してある。尚、例えば
図4に示すような切換え動作は、以下に説明するウォッチドッグタイマ12等による切換制御の場合でも同様であるので、
図4については以下のウォッチドッグタイマ12等の動作説明と共に説明するものとする。
【0058】
ここで、安全制御装置11が故障した場合には、上記の様な異常検出や切換え制御を行えないことになる。これに対して、本例では、ウォッチドッグタイマ12とワンショットパルス発生回路13を設けている。
【0059】
すなわち、ウォッチドッグタイマ12は、安全制御装置11の故障を検出すると、ワンショットパルス発生回路13に、電源SW14へワンショットパルスを出力させる。例えば
図4の図上上側に示すような所定のパルス幅T1のワンショットパルスを出力させる。これによって、電源SW14により一時的に(時間T1の間)電力変換器16への電力供給が停止される。
【0060】
このワンショットパルス発生中に、ウォッチドッグタイマ12は更に制御切換SW15a,15bを切換え制御して、リンプ制御装置20によって電力変換器16及びモータ17を駆動制御可能な状態にする。つまり、
図4に示すように、制御切換SW15aはONからOFFに切換え、制御切換SW15bはOFFからONに切換える。
【0061】
そして、ワンショットパルスが終了すると、電力変換器16への電力供給が再開されて制御信号が有効になることで、リンプ制御装置20による駆動制御が実質的に開始されることになる。尚、安全制御装置11の故障検出自体は、既存の“ウォッチドッグタイマ”の機能(タイムアウト)で実現できるので、ここでは説明しない。
【0062】
尚、
図4の図上下側の“PWM指令”に示すように、電力変換器16等の駆動制御は、上記切換え前はモータ制御装置18からの制御信号が有効になっており、切換え後はリンプ制御装置20からの制御信号が有効になっているが、ワンショットパルス発生中はどちらも無効となっている。
【0063】
尚、上述したように、安全制御装置11が上記各種異常のうちの何等かの異常を検出した場合にも、安全制御装置11が例えば
図4に示すような切換え動作を実行する。すなわち、安全制御装置11は、
図4に示すように、電源SW14に対して所定のパルス幅T1のワンショットパルスを出力すると共に、この時間T1の間に、制御切換SW15aをONからOFFに切換えると共に、制御切換SW15bをOFFからONに切換える。
【0064】
リンプ制御装置20は、予め記憶された指令値テーブル21等に基づいて、予め指定された磁束指令値と速度指令値に従って定速走行制御を行う。この制御は、図示のセンサレスベクトル制御処理部22が実行する。センサレスベクトル制御処理部22は、既存技術で実現でき、その構成の一例を
図9に示し後に説明する。尚、定速走行制御の場合でも、運転者はブレーキ操作により減速・停止が可能である。
【0065】
以下、上述した
図2の構成について更に説明する。
まず、上記安全制御装置11は、上記の通り速度指示・監視処理部11aを有しており、その処理フローチャートは
図3に示し後に説明する。
【0066】
尚、安全制御装置11には、上述した入力以外にも更に図示の電源情報JやアラームQ等も入力される。電源情報Jは、不図示の上位装置等から送信されてくる、例えば電池(バッテリー)のインピーダンスと温度データ等や安全制御装置11への供給電源の電圧データ等を含むデータである。
【0067】
ウ
ォッチドッ
グタイマ12は、例えば不図示のカウンタを搭載しており、安全制御装置11が正常であるときには安全制御装置11からの定期的なリセット信号によりカウンタがリセットされる。一方、安全制御装置11に何等かの異常があってリセット信号が送られてこなかったときには、カウンタのカウント値が設定値をオーバーすることになる。
【0068】
ウ
ォッチドッ
グタイマ12の上記カウンタは、上記のようにカウント値が設定値をオーバーした場合は、タイムアウトとして、安全制御装置11に対してHIGH(1)信号を出力する。これによって、安全制御装置11がリセットされる。これ自体は既存機能であるが、本例では上記HIGH(1)信号を更にワンショットパルス発生回路13にも入力させることで、ワンショットパルス発生回路13が所定のパルス幅のワンショットパルスを生成して電源SW14に出力する。尚、ワンショットパルス発生回路13の構成・動作については、一例を
図10に示し後に説明する。
【0069】
尚、ここでは上記のようにウ
ォッチドッ
グタイマ12がタイムアウトとしてHIGH(1)信号を出力する例を用いて説明するが、勿論、この例に限らず、ウ
ォッチドッ
グタイマ12が例えばタイムアウトとしてLOW(0)信号を出力する場合には、それに応じた構成とすればよい(例えば後述する不図示のNOT回路等は必要なくなる)。
【0070】
また、ウ
ォッチドッ
グタイマ12は、上記一般的なウ
ォッチドッ
グタイマの構成であるカウンタに加えて、更に制御切換SW15a,15bの制御用信号を生成する為の不図示の構成も有していてもよい。これは、例えば、上記カウンタの出力(タイムアウトに係わる出力)を、制御切換SW15a,15bに対して反転して出力する構成(不図示のNOT回路等)である。但し、この例に限らない。例えば制御切換SW15aを後述する
図7(b)の構成とし、制御切換SW15aを後述する
図6(b)の構成とする場合には、この様なNOT回路は必要なくなる。あるいは、上記のように、ウ
ォッチドッ
グタイマ12のタイムアウトとしての出力の仕方次第でも、構成は変わるものである。ここでは上記一例の場合について説明するものとする。
【0071】
当該一例では上記の通り、通常時は上記カウンタの出力はLOW(0)であるので、これが上記NOT回路で反転されることで、ウ
ォッチドッ
グタイマ12から制御切換SW15a、15bへの出力は‘1’(オン)となっている。これより、
図6(a)、
図7(a)に示す例では、仮に安全制御装置11からの出力がオンであるとしたならば、制御切換SW15aはON(通電)、制御切換SW15bはOFF(遮断)となる。
【0072】
一方、異常時(上記タイムアウト)には上記の通りカウンタの出力はHIGH(1)となるので、これが上記NOT回路で反転されることで、ウ
ォッチドッ
グタイマ12から制御切換SW15a、15bへの出力は‘0’(オフ)となる。これより、
図6(a)、
図7(a)に示す例では、制御切換SW15aはOFF(遮断)に切り替わり、制御切換SW15bはON(通電)に切り替わる。
【0073】
尚、
図6(a)、
図7(a)に示す例の場合、安全制御装置11は、制御切換SW15a、15bに対して、通常時は‘1’(オン)を出力しており、異常を検知すると‘0’(オフ)にする。これによって、ウ
ォッチドッ
グタイマ12から制御切換SW15a、15bへの出力が上記通常時の状態であるとした場合、通常時は制御切換SW15aはON(通電)、制御切換SW15bはOFF(遮断)となっているが、異常検知すると安全制御装置11によって制御切換SW15aはOFF(遮断)に切り替わり、制御切換SW15bはON(通電)に切り替わることになる。
【0074】
尚、安全制御装置11とウ
ォッチドッ
グタイマ12の両方が上記異常時の動作を行った場合にも、制御切換SW15aはOFF(遮断)に切り替わり、制御切換SW15bはON(通電)に切り替わることになる。
【0075】
上記のように本例では、通常時は、制御切換SW15aがON、制御切換SW15bがOFFの状態となっており、これよりモータ制御装置18からの制御信号(出力電圧指令R(三相))が、電力変換器16に入力されている。一方、何等かの異常に応じて上記切換えが行われると、制御切換SW15aがOFF、制御切換SW15bがONとなる。これによって、リンプ制御装置20からの制御信号(出力電圧指令R’(三相))が、電力変換器16に入力する状態となる。つまり、リンプ制御装置20によって電力変換器16及びモータ17が駆動制御される状態へと切替えられることになる。
【0076】
尚、本例では制御切換用のスイッチとして制御切換SW15a、15bの2つを設ける例を示すが、この例に限らず、
図1のように1つのスイッチのみで構成することもできる。また、本説明において、2つをまとめて制御切換SW15と記す場合もあるものとする。
【0077】
尚、ウ
ォッチドッ
グタイマ12は、上記のタイムアウト機能、リセット出力機能以外に、タイムウィンドウウ
ォッチドッグ機能、パワーアップ/ダウンリセット時外部電圧監視機能、イネーブル入力機能、イネーブル出力機能、疑似タイムアウトリセット機能を備えていても良い。
【0078】
ワンショットパルス発生回路13は、ウ
ォッチドッ
グタイマ12からの入力がオフからオンに変化した場合に、例えば
図4の図上上側に示すようなオフ→オン→オフのワンショットパルスを発生し、これを電源SW14へ出力する。このパルス幅T1は、例えば、電力変換器16の上記スイッチング素子群16bのスイッチング素子の動作時間以上とする。この動作時間は、特に、OFFに切換える際に実際にスイッチング素子がOFF状態になるまでに掛かる時間を意味する。これは、上記のように、電力変換器16の全スイッチング素子が確実にOFF状態に切り替わった状態で制御電源の電力供給を再開する為である。
【0079】
尚、ワンショットパルス発生回路13は既存の構成であるが、その具体例を
図10に示し、後に説明する。
電源SW14は、制御電源遮断用スイッチであり、出力電圧指令(三相)出力制御装置であるフォトカプラ群16a等への制御電源の電力供給をオン/オフする。電源SW14の切換制御信号は、安全制御装置11からの出力と、ワンショットパルス発生回路13からの出力とであり、
図5(a)に示す論理で動作する。すなわち、電源SW14への上記2つの入力が、両方ともオフである場合のみ、電源SW14はオン状態となり、以って電力変換器16(そのフォトカプラ群16a)へ電力供給している状態となっている。そして、上記電源SW14への上記2つの切換制御信号の何れか一方あるいは両方ともが、オンになったら、電源SW14はオフ状態となり、以って電力変換器16(そのフォトカプラ群16a)への制御電源の電力供給が停止される状態となる。
【0080】
電源SW14は、例えば
図5(b)に示す構成であり、これによって
図5(a)に示す論理を実現する。すなわち、電源SW14は、図示のOR回路とスイッチング回路とを有する。
【0081】
OR回路には、安全制御装置11の出力とワンショットパルス発生回路13の出力とが入力している。尚、ここでの安全制御装置11の出力は、ワンショットパルスを出力する出力端子(不図示)等からの出力である。これより、安全制御装置11の出力とワンショットパルス発生回路13の出力が、両方とも‘0’(L)の場合のみOR回路の出力が‘0’(L)となり、何れか一方または両方が‘1’(H)の場合にはOR回路の出力は‘1’(H)となる。換言すれば、安全制御装置11とワンショットパルス発生回路13の何れか一方あるいは両方から、ワンショットパルスが出力されているとき(上記所定時間T1の間など)、OR回路の出力は‘1’(H)となる。
【0082】
スイッチング回路は、OR回路の出力が‘0’(L)のときに、そのトランジスタTr1がONすることで(電源SW14がオン状態)、制御電源電力(4.5V)を電力変換器16のフォトカプラ群16aに供給する。一方、OR回路の出力が‘1’(H)のときに、そのトランジスタTr1がOFFになることで(電源SW14がオフ状態)、制御電源電力は電力変換器16のフォトカプラ群16aに供給されない状態となる。つまり、OR回路の出力が例えば上記所定時間T1の間‘1’(H)になることで、電力変換器16に対する制御電源の電力供給を一時的に停止できることになる。
【0083】
制御切換SW15a、15bは、出力電圧指令切替スイッチであり、その入力は上記各制御信号であり、そのON/OFF切換制御の為の入力は、安全制御装置11からの出力と、ウォッチドッグタイマ12からの出力とである。尚、この場合のこれらの出力は、上記ワンショットパルスではなく、ウォッチドッグタイマ12の場合は上述したNOT回路による反転出力であり、安全制御装置11からの出力もこれと同様である。
【0084】
そして、制御切換SW15aは
図6(a)に示す論理で動作し、制御切換SW15bは
図7(a)に示す論理で動作する。
すなわち、制御切換SW15aは、
図6(a)に示すように、安全制御装置11からの出力と、ウォッチドッグタイマ12からの出力の両方がオンの場合のみON(通電)となり、それ以外は全てOFF(遮断)となる。一方、制御切換SW15bは、
図7(a)に示すように、安全制御装置11からの出力と、ウォッチドッグタイマ12からの出力の両方がオンの場合のみOFF(遮断)となり、それ以外は全てON(通電)となる。尚、ON(通電)状態のときには、上記自己に入力される制御信号を電力変換器16のフォトカプラ群16aに出力することになる。
【0085】
そして、例えば
図6(b)の構成によって上記
図6(a)に示す論理を実現する。
図6(b)は、制御切換SW15aの構成例である。
図6(b)に示すように、制御切換SW15aは、例えば上記制御信号用の6本の信号線上に設けられた6個のバッファ回路と、AND回路とから成る。AND回路の出力は、全てのバッファ回路に対してそのON/OFF(通電/遮断)制御信号として出力される。
【0086】
すなわち、AND回路の出力が‘1’(H)のときには全てのバッファ回路はON(通電)となり、つまり制御切換SW15aはON状態となり、以ってモータ制御装置18からの出力電圧指令R(三相)が、電力変換器16に入力されることになる。一方、AND回路の出力が‘0’(L)のときには全てのバッファ回路はOFF(遮断)となり、つまり制御切換SW15aはOFF状態となり、上記出力電圧指令R(制御信号R)は遮断される。
【0087】
上記AND回路の入力は、安全制御装置11からの出力と、ウォッチドッグタイマ12からの出力である。通常時は、これら2つの入力は両方とも‘1’(H)となっており、これよりAND回路の出力は‘1’(H)となっているので、上記の通り制御切換SW15aはON状態となっている。つまり、モータ制御装置18によって電力変換器16とモータ17が駆動制御される状態となっている。そして、安全制御装置11とウォッチドッグタイマ12の何れか一方または両方の出力が‘0’(L)になると、AND回路の出力は‘0’(L)となり、上記の通り制御切換SW15aはOFF状態となる。
【0088】
同様に、例えば
図7(b)の構成によって
図7(a)に示す論理を実現する。
図7(b)は、制御切換SW15bの構成例である。
図7(b)に示すように、制御切換SW15bは、例えば上記制御信号用の6本の信号線上に設けられた6個のバッファ回路と、NAND回路とから成る。NAND回路の出力は、全てのバッファ回路に対してそのON/OFF(通電/遮断)制御信号として出力される。
【0089】
すなわち、NAND回路の出力が‘1’(H)のときには全てのバッファ回路はON(通電)となり、つまり制御切換SW15bはON状態となり、以ってリンプ制御装置20からの出力電圧指令R’(三相)が、電力変換器16に入力されることになる。一方、NAND回路の出力が‘0’(L)のときには全てのバッファ回路はOFF(遮断)となり、つまり制御切換SW15bはOFF状態となり、上記出力電圧指令R’(制御信号R’)は遮断される。
【0090】
上記NAND回路の入力は、安全制御装置11からの出力と、ウォッチドッグタイマ12からの出力である。これらは上記制御切換SW15aのAND回路への入力と同じであってよい。従って、通常時は、これら2つの入力は両方とも‘1’(H)となっており、これよりNAND回路の出力は‘0’(L)となっているので、上記の通り制御切換SW15bはOFF状態となっている。そして、安全制御装置11とウォッチドッグタイマ12の何れか一方または両方の出力が‘0’(L)になると、NAND回路の出力は‘1’(H)となり、上記の通り制御切換SW15bはON状態に切り換わる。つまり、リンプ制御装置20によって電力変換器16とモータ17が駆動制御される状態へと切り換わる。
【0091】
電力変換器16、モータ17、モータ制御装置18、速度検出器19は、上記の通り既存の構成であり、以下、簡単に説明する。
電力変換器16は、出力電圧指令のPWM信号(制御信号R、R’の何れか一方)を入力し、この出力電圧指令に従ってモータ17へ三相交流電圧を出力する。
【0092】
モータ17は、例えば三相誘導電動機であるが、この例に限らない。
モータ制御装置18は、安全制御装置11から速度指令値Sを入力し、これに基づいて電力変換器16への出力電圧指令のPWM信号(制御信号R)を生成・出力する。また、フィードバックとして、出力電流Io、出力電圧Vo、速度検出器19で検出した速度データPを入力する。速度検出器19は、例えばモータ軸の速度検出用センサ等である。
【0093】
また、リンプ制御装置20は、指令値テーブル21、センサレスベクトル制御処理部22等を有しており、電力変換器16への出力電圧指令のPWM信号(制御信号R’)を生成・出力する。また、フィードバックとして、出力電流Io、出力電圧Vo等のデータを入力する。
【0094】
リンプ制御装置20は、予め設定された指令値テーブル21の情報に基づいて、モータ17の速度制御等を行う。
指令値テーブル21には、予め、例えば
図9に示すように、磁束指令値、速度指令値が登録されている。センサレスベクトル制御処理部22の構成は、例えば
図9に一例を示し後に説明する。尚、
図9に示すセンサレスベクトル制御処理部22の構成自体は、例えば特許文献2に記載のものと略同様と見做して構わない。但し、本例で上記の通り指令値テーブル21を設けてあるので、アクセル開度等に基づく指令が無くても、問題なく電力変換器16及びモータ17を駆動制御できる。
【0095】
図3は、安全制御装置11(その速度指示・監視処理部11a)の処理フローチャート図である。
速度指示・監視処理部11aは、概略的には、上記不図示の上位装置からの速度指令Sを定周期で読み込み、この速度指令Sをモータ制御装置18へ伝達する処理や、各種入力データ等に基づいて異常発生を監視する処理等を行う。この監視処理の一例が、速度検出器19からの入力(速度P)に基づいて、速度上限を超過していないか監視する処理である。
【0096】
速度指示・監視処理部11aは、例えば、
図3に示す処理を定期的に実行する。
まず、既にリンプホームモードへ移行済か否かを確認する(ステップS11)。現在、既にリンプホームモードである場合は(ステップS11,YES)、そのまま後述するステップS20の処理へ移行する。
【0097】
リンプホームモードではない場合には(ステップS11,NO)、続いて、例えばウ
ォッチドッ
グタイマ12が正常か否かを判定する(ステップS12)。この判定方法は、例えば、ウ
ォッチドッ
グタイマ12の疑似タイムアウトリセットなどで確認する。これは既存技術であり、以下、簡単に説明する。
【0098】
疑似タイムアウトリセットは、安全制御装置11が、ウ
ォッチドッ
グタイマ12からのタイムアウトリセット信号をマスクした状態で、ウ
ォッチドッ
グタイマ12のリセットを行わないことで意図的にタイムアウトを発生させるものである。ウ
ォッチドッ
グタイマ12が正常であれば、タイムアウトリセット信号が出力されてくることになるが、上記の通りマスクした状態であるので、安全制御装置11がリセットされてしまうことはない。一方、ウ
ォッチドッ
グタイマ12に何等かの異常があれば、タイムアウトリセット信号が出力されてこないことで、異常と判定できる。
【0099】
ウ
ォッチドッ
グタイマ12が異常であると判定した場合は(ステップS12,NO)、ステップS22の処理へ移行する。ステップS22の処理(リンプホームモードへの移行処理)は、既に
図4等で説明した動作を行うものであり、以下、簡単に説明する。
【0100】
まず、電源SW14に対して上記所定のパルス幅のワンショットパルスを出力することで、電源SW14をオン状態からオフ状態にし、一定時間後、電源SW14をオン状態に戻す。つまり、電源SW14を一定時間だけオフ状態にして、制御電力供給を一時的に停止させる。
【0101】
そして、電源SW14をオフしている間に、制御切換SW15aをオンからオフに切換えると共に、制御切換SW15bをオフからオンに切換える制御を行う。尚、これは、上述した通り、制御切換SW15a,15bへの出力が‘1’(H)のときには、制御切換SW15aがオンで制御切換SW15bがオフとなる。その逆に、制御切換SW15a,15bへの出力が‘0’(L)のときには、制御切換SW15aがオフで制御切換SW15bがオンとなる。尚、ここでは、同一の出力信号が制御切換SW15aと15bの両方に入力される構成であるものとするが、勿論、この例に限らない。
【0102】
上記処理を実行完了したら、後述するステップS20の処理へ移行する。
一方、ウ
ォッチドッ
グタイマ12が正常であると判定した場合は(ステップS12,YES)、次の処理(ステップS13の処理)へ移行する。
【0103】
尚、逐一述べないが、後述するステップS13,S14,S17,S18,S19に関しても、その判定結果がYESの場合には図上の“次の処理”(例えばステップS17であればステップS18の処理)へ移行するものとする。
【0104】
ステップS13は、不図示の上位装置(CPU等)からの速度指令Sが、正常か否かを確認する処理である。この確認方法は、例えば、速度指令信号の多重化での一致を確認するものである。例えば、二重化を行うことで2つの速度指令Sが送信されてくる構成として、当該2つの速度指令Sが一致するか否かを確認する。当然、一致する場合は正常と判定する。
【0105】
あるいは、速度指令信号のパルス化を行い、パルス幅が所定幅である場合は、正常と判定するようにしてもよい。尚、パルス化は、データ値が‘0’に対しては比較的狭いパルス幅、データ値が‘1’に対しては比較的広いパルス幅となるパルス信号を用いるものである。
【0106】
これらの例に限らず、例えば通信伝文に付加したCRC、シーケンス番号チェック、応答時間監視等によって、正常か否かを確認するようにしてもよい。これらは何れも既存技術であるので、特に説明はしないものとする。
【0107】
速度指令Sが正常ではないと判定した場合は(ステップS13,NO)、上記ステップS22の処理へ移行する。
また、例えば、電源が正常か否かを確認する(ステップS14)。この確認方法は、例えば、安全制御装置11への供給電源(制御電源など)の電圧値を、予め設定された閾値と比較することにより、過電圧または低電圧を判定する。あるいは上記供給電源の電圧変動が、予め設定された閾値を越える場合には異常と判定する。
【0108】
尚、
図2には示していないが、例えば上記制御電源は安全制御装置11にも供給されており、安全制御装置11は、この電圧値等を計測できる。勿論、この例に限らず、例えば制御電源の電圧値等を計測する不図示の電圧計等が設けられており、その計測データが安全制御装置11に入力される構成等であっても構わない。
【0109】
また、安全制御装置11は、バッテリーインピーダンスとバッテリーの温度のデータを入力して、これらに基づいてバッテリー電源不足を判定してもよい。これは、例えばバッテリー電源不足判定の為の閾値との比較によって、判定する。尚、これらの確認方法も、既存技術と見做して構わない。
【0110】
尚、
図2に示す電源情報Jが、上記ステップS14の判定の為の入力データに相当すると見做しても構わないが、この例に限らない。
電源が正常ではないと判定した場合は(ステップS14,NO)、上記ステップS22の処理へ移行する。
【0111】
尚、上記ステップS12、S13,S14の処理の順番は、上記の例に限らず、何でもよい。
上記ステップS12〜S14の判定結果が全てYESであった場合、続いて、モータ制御装置18へ速度指令Sを出力する(ステップS15)。そして、一定時間後(
図8の監視開始時間t1経過後)、速度指令値Sに所定のマージンを加算した値を上限速度(
図8のNmax)に設定して、モータ速度の監視を行う(ステップS16)。すなわち、入力される上記速度Pが、上限速度を越えていないかを、監視する。尚。この確認方法も、既存技術と見做して構わない。そして、速度Pが上限速度を越えた場合には(ステップS18,NO)、モータ制御装置18以降の装置の異常と見做して、上記ステップS22の処理へ移行する。
【0112】
但し、その前に、速度検出器19が正常か否かを確認するようにしてもよい(ステップS17)。この確認方法は、例えば、二相出力の相間の妥当性確認などにより行う。つまり、速度検出器19(速度センサ)の一例であるエンコーダの出力フェーズの位相のズレが、予め設定された所定の範囲内である場合には、正常と判定する。尚、上記のように、一般的に、各相間の位相のズレは通常120°程度となる。尚、この確認方法も、既存技術と見做して構わない。
【0113】
速度検出器19が正常ではないと判定した場合は(ステップS17,NO)、上記ステップS22の処理へ移行する。
また、例えば、モータ制御装置18に異常がないかを確認する(ステップS19)。これは、例えばモータ制御装置18からのアラームの有無を確認する。すなわち、モータ制御装置18は、自己の異常等を検出すると、
図2に示すアラームQを安全制御装置11へ出力するので、このアラームQの有無を確認する。そして、アラームQがある場合には(ステップS19,NO)、上記ステップS22の処理へ移行する。尚、モータ制御装置18の自己の異常検出機能は、既存技術であり、ここでは説明しない。
【0114】
また、自分自身(速度指示・監視処理部11a)の動作シーケンスが正常であるか否かを確認する(ステップS20)。この確認方法は、例えば、
図3の各ステップの処理に予めシーケンス番号等を付与しておき、任意のステップ処理を実行する毎にそのシーケンス番号を順次記憶しておくことで、ステップS20の処理の際にこの記憶内容に基づいてシーケンス番号の逆転や飛躍の確認などで行う。
【0115】
自己の動作シーケンスが正常ではない場合は(ステップS20,NO)、ウ
ォッチドッ
グタイマ12のリセット処理を行わずに本処理を終了する。これによって、ウ
ォッチドッ
グタイマ12は安全制御装置11の異常を検知することになり、上述した異常時の動作を行うことになる。一方、自己の動作が正常である場合には(ステップS20,YES)、ウ
ォッチドッ
グタイマ12のリセット処理を行って(ステップS21)本処理を終了する
。
図9は、リンプ制御装置20の構成例であり、センサレスベクトル制御処理部22の機能を示す図である。
【0116】
上記の通り、リンプ制御装置20は、指令値テーブル21、センサレスベクトル制御処理部22を有する。
図9に示す点線枠内がリンプ制御装置20の構成であり、その中で図示の指令値テーブル21以外がセンサレスベクトル制御処理部22の構成であると見做してよい。
【0117】
指令値テーブル21には、低速で一定速度の制御を可能とする、予め指定された磁束指令値および速度指令値が、格納されている。
センサレスベクトル制御処理部22は、例えば図示の座標変換部31、速度調節器32、トルク電流指令演算部33、トルク電流調整部34、磁化電流指令演算部35、磁化電流調整部36、すべり周波数演算部37、加算部38、座標変換部39、速度演算部40等を有する。
【0118】
上記指令値テーブル21の磁束指令値は、磁化電流指令演算部35が読み込み、速度指令値は速度調節器32が読み込む。速度調節器32では、速度指令と速度情報との差分を入力して、比例及び積分フィードバック制御を行い、トルク指令を出力する。
【0119】
ここで、上記座標変換部31、速度調節器32、トルク電流指令演算部33、トルク電流調整部34、磁化電流指令演算部35、磁化電流調整部36、すべり周波数演算部37、加算部38、座標変換部39、速度演算部40は、上記
図11に示した特許文献2の座標変換手段122、速度調節器112、トルク電流指令演算手段113、トルク電流調整手段114、磁化電流指令演算手段115、磁化電流調整手段116、すべり周波数演算手段117、加算手段118、座標変換手段119、速度演算手段153と略同様であってよいので、ここでの説明は省略する。
【0120】
なお、出力電圧の検出器および回路は出力電圧指令で代替可能であり、削除することができる。これを実現するには、
図9に示すように、座標変換部39の出力から速度演算部40への信号線41を追加すればよい。尚、この場合、図示の出力電圧Voの検出器(不図示)やこの出力電圧Voの速度演算部40への入力信号線を、削除しても構わない。
【0121】
尚、リンプ制御装置20の構成は、
図9の例に限らず、既存の一般的な構成であってよい。但し、
図9の構成の場合、センサレスベクトル制御をすることで、異常な加速等を防止できる。また、速度センサが故障した場合でも、坂道などトルク制御が必要な場面で低速で一定の速度のリンプホームモードで走行でき、安全性が向上する。
【0122】
あるいは、
図9の構成の場合、速度センサレスの動作が可能なので、速度検出器19が故障した場合でも問題なく動作できる。更に、
図2、
図9の構成の場合、リンプ制御装置20は、予め設定された指令値テーブル21に基づいて制御するので、“速度指令入力なし”の状態でも動作可能となるという効果も得られる。“速度指令”とは、例えば、不図示のアクセルセンサとシフトポジションセンサ等による検出結果に基づいて不図示の上位CPU等で生成されて、通信機能等により安全制御装置11等へ伝達される信号等である。センサ故障や断線、ノイズ、ショート等の異常によって上記“速度指令”を入力できない状況であっても、上記のように指令値テーブル21に基づいて制御するので、問題なく動作できる。例えば一定速度(低速)で走行させることができる。例えば、坂道などのトルク制御が必要な状況で一定速度(低速)のリンプホームモードで走行させることができ、安全性が向上する。
【0123】
図10は、上記ワンショットパルス発生回路13の構成例である。
図示の例のワンショットパルス発生回路13は、カウンタCNT1、カウンタCNT2の2つのカウンタを有する。
【0124】
尚、ワンショットパルス発生回路は、既存の様々な構成があり、
図10に示す構成もその1つであり公知の構成であるので、以下、簡単に説明するものとする。
カウンタCNT1は、例えば1(MHz)のクロック信号CLKから1msに1回のパルスを生成するものであり(図示のN_FLAG)、換言すれば1(kHz)のクロック信号に相当する信号を生成するものである。カウンタCNT2は、この1(ms)毎のパルスに基づいて、入力INPUTがHIGH(1)になったときからパルス幅が10msの信号(ワンショットパルス)を、図示のOUTPUTとして出力する。
【0125】
カウンタCNT2は、自己のカウント値を監視し、‘10’以下である間、その出力OUTPUTをHIGH(1)にする。電源投入時等に図示のRESET信号によってカウント値が‘11’にプリセットされ、カウンタ値が10以下ではないことからその出力OUTPUTはLOW(0)となっている。その後、任意のときにINPUTがHIGH(1)になったら、カウンタ値が‘11’であるのでカウンタ値は‘0’にプリセットされると共に、N_FLAGに基づくカウント動作を開始する。カウンタ値は0→1→2→・・・とカウンタアップされ、上記の通り‘10’以下である間は出力OUTPUTはHIGH(1)となる。そして、カウンタ値が‘10’になると、カウント値が12にプリセットされ、カウント動作が停止する。この様にして、パルス幅10(ms)のワンショットパルスが、生成・出力されることになる。
【0126】
尚、カウンタCNT1は、必ずしも必要ない。例えば1(kHZ)のクロック信号があれば、カウンタCNT1は必要ない。
尚、ワンショットパルス発生回路13がカウントアップした後は、ウォッチドッグタイマ12からワンショットパルス発生回路13への出力がHIGH(1)でも、ワンショットパルス発生回路13からの出力はLOW(0)になる。
【0127】
ここで、スイッチング素子のON/OFF切換え動作には、多少の時間が掛かる(例えば10ms程度など)。よって、電源SW14をOFF状態に切替えてから上記6個のスイッチング素子が全てOFFとなるまでに多少時間が掛かることになる。これより、より確実に上記焼損の発生を防止する為には、6個のスイッチング素子が全てOFFになってから制御信号を有効にする(制御電源の供給を再開する)ことが望ましいと考えられる。上記ワンショットパルスのパルス幅は、例えばこの様な考え方に基づいて決定してもよく、例えば「パルス幅=10ms+α」等としてもよいが、勿論、この様な例に限らない。
【0128】
上述した本例のリンプホームシステムによれば、出力電圧指令(制御信号)の切り替え時に当該制御信号の電源(制御電源)を一時遮断することで、電力変換器のスイッチ対の同時オンを防止でき、以って過電流による電力変換器の焼損を防止できる。
【0129】
更に、センサレスベクトル制御では、
図9の速度調節器32でPIフィードバック制御をしており、異常な加速は速度指令と速度情報との差分として検出され、異常な加速を減じて速度情報に従うようにトルク制御出力がされるため、異常な加速を防止できる。これより、上記電力変換器の焼損を防止できる効果と併せて、自動車の停止中ではなく走行状態のままでも、リンプホームモードへの移行を実現できる。また、踏切の中で停止するなどの危険を回避できる。これらの効果が得られるのは、本手法では、走行中にリンプホームモードへの移行を行っても、自動車が異常な挙動(異常な加速や電力変換器の焼損による急停止等)をする危険性が非常に低いからである。
【0130】
また、リンプ制御装置が速度センサレスのトルク制御を行う構成である場合には、速度センサが故障した場合でも、坂道などトルク制御が必要な場面で低速で一定の速度のリンプホームモードで走行でき、安全性が向上する。
【0131】
また、上述した本例のリンプホームシステムによれば、安全制御装置11が故障した場合にも対応できる。すなわち、安全制御装置11が故障した場合、ウォッチドッグタイマ12が故障検出して上記制御信号の切替えを行う。その際、上記と同様、電力変換器のスイッチ対の同時オンを防止でき、以って過電流による電力変換器の焼損を防止できる。
【0132】
また、特許文献1ではモータ制御部の故障のみを対象としているものを、モータ制御装置、速度センサ、安全制御装置、速度指令、WDTのいずれかが故障、または電源異常、バッテリー電源不足を検出しても、リンプホームモードを実現でき、安全性が向上する。
【0133】
また、二重化(冗長化)構成でなくても安全機能を実現でき、コスト低減を図ることができる。上記本手法の構成、例えば
図2の構成によれば、例えば二重化構成(モータ制御装置18や安全制御装置11を冗長化する)としなくても、何等かの異常時に、自動車を安全に走行継続させることができる。尚、本説明における自動車とは、電動モータによって駆動される自動車であり、電気自動車やハイブリッドカー等である。