特許第6131908号(P6131908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131908III族窒化物半導体の製造方法、発光素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131908
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体の製造方法、発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20170515BHJP
   C23C 16/46 20060101ALI20170515BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20170515BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/46
   H01L33/32
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-96842(P2014-96842)
(22)【出願日】2014年5月8日
(65)【公開番号】特開2015-216164(P2015-216164A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(72)【発明者】
【氏名】浅見 慎也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】花木 克之
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−302766(JP,A)
【文献】 特開2009−117618(JP,A)
【文献】 特開2002−299328(JP,A)
【文献】 特開平07−157392(JP,A)
【文献】 特開2008−262967(JP,A)
【文献】 特開2002−026389(JP,A)
【文献】 特開平05−041541(JP,A)
【文献】 特開2009−246340(JP,A)
【文献】 特開平04−206524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 33/32
C23C 16/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローチャンネル内においてサセプタ上にサファイア基板を保持し、前記サセプタを介して前記サファイア基板を加熱し、前記フローチャンネルに原料ガスを流し、前記サファイア基板上にMOCVD法によってIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体の製造方法において、
前記原料ガスの使用量が第1所定量に達したら前記フローチャンネルの前記サファイア基板に対向する面を洗浄する洗浄工程を有し、
洗浄後の前記原料ガスの使用量が前記第1所定量よりも小さな値である第2所定量までは、前記原料ガスの使用量の増加とともに前記サセプタの設定温度を増加し、前記第2所定量に達すると、前記第1所定量に達するまでは、前記第2所定量での設定温度で一定とする、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記原料ガスの使用量とは、III 族金属源ガスの使用量である、
ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスの使用量は、前記サファイア基板を入れ替えてIII 族窒化物半導体を成長させる回数とする、ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記サセプタの設定温度の増加は線形とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項5】
前記サファイア基板の加熱は、誘導加熱により行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄工程後、初回のIII 族窒化物半導体の結晶成長の前に、サファイアからなるダミー基板を用いて空デポジションを行う、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項7】
前記フローチャンネルは石英からなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項8】
サファイア基板上に、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法を用いて前記III 族窒化物半導体層を形成して発光素子を製造することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項9】
発光素子の製造後に、前記発光素子の発光波長を測定し、その測定した発光波長と設計波長との差を算出し、
その差に所定の係数を乗じて温度差に変換して補正値とし、
次回の発光素子製造時において、前記サセプタの設定温度に前記補正値を加えて補正する、
ことを特徴とする請求項8に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III 族窒化物半導体の製造方法に関し、MOCVD装置の使用を重ねることにより発生する成長温度のばらつきを抑制するものである。特にIII 族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体からなる発光素子の作製において、III 族窒化物半導体を成長させる方法としては一般にMOCVD法が用いられている。MOCVD法は、加熱した基板上に原料ガスを供給して化学反応させ基板上に成膜する方法であり、特に原料ガスとして有機金属ガスを使用するものである。
【0003】
III 族窒化物半導体からなる発光素子の作製のためMOCVD装置を使用すると、その使用を重ねるにつれて、サファイア基板に対向するフローチャンネルには反応生成物や分解生成物などの汚れが付着する。この汚れは、サファイア基板にゴミが付着する要因となるため、定期的にフローチャンネルを洗浄して汚れを落としている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
また、特許文献3には、フローチャンネルの基板と対向する面に、基板材料と同じ材料の単結晶からなり、基板よりも寸法の大きいダミー基板を配置することが記載されている。ダミー基板に付着した汚れは剥離しにくいため、基板にゴミが付着するのを抑制できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−22621号公報
【特許文献2】特開2005−243766号公報
【特許文献3】特開2005−235845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、洗浄してフローチャンネルの汚れを落とすと、洗浄後からしばらくの間、このMOCVD装置によって製造するIII 族窒化物半導体からなる発光素子の発光波長が、MOCVD装置の使用を重ねるごとに長波長側にシフトしてしまい、発光波長のばらつきが生じる問題があった。発光波長は成長温度により変化するため、成長温度のばらつきの問題と考えられる。
【0007】
そこで本発明は、III 族窒化物半導体の製造方法において、MOCVD装置の使用を重ねることによる成長温度のばらつきを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フローチャンネル内においてサセプタ上にサファイア基板を保持し、サセプタを介してサファイア基板を加熱し、フローチャンネルに原料ガスを流し、サファイア基板上にMOCVD法によってIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体の製造方法において、原料ガスの使用量が第1所定量に達したらフローチャンネルのサファイア基板に対向する面を洗浄する洗浄工程を有し、洗浄後の原料ガスの使用量が第1所定量よりも小さな値である第2所定量までは、原料ガスの使用量の増加とともにサセプタの設定温度を増加し、第2所定量に達すると、第1所定量に達するまでは、第2所定量での設定温度で一定とする、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法である。
【0009】
本発明における原料ガスの使用量とは、原料ガスの使用量そのものである必要はなく、原料ガスの使用量に関連したパラメータであってもよい。たとえば、洗浄工程後における、サファイア基板を入れ替えてIII 族窒化物半導体を成長させる回数であってもよい。他にもMOCVD装置の使用時間であってもよい。また原料ガスの使用量とは、III 族金属源ガス、特にGa源ガスの使用量であってもよい。
【0010】
第2所定量までのサセプタの設定温度の増加は、単調に増加させるのであれば任意であるが、線形とすることが望ましい。設定温度と実際の成長温度との差をより小さくすることができる。
【0011】
サファイア基板の加熱は、誘導加熱により行うことができる。他にも抵抗加熱やランプ加熱などを用いることもできる。
【0012】
洗浄工程後、初回のIII 族窒化物半導体の結晶成長の前に、サファイアからなるダミー基板を用いて空デポジションを行うことが望ましい。その後のIII 族窒化物半導体の結晶成長において、良好な品質の結晶を得ることができる。
【0013】
フローチャンネルの材料には石英を用いることができる。他にもSUS(ステンレス鋼)などを用いることができる。
【0014】
また、本発明はIII 族窒化物半導体からなる発光素子の製造に好適である。発光素子の製造において、以下のようにしてサセプタの設定温度をさらに補正してもよい。発光素子の製造後に、発光素子の発光波長を測定し、その測定した発光波長と設計波長との差を算出し、その差に所定の係数を乗じて温度差に変換して補正値とし、次回の発光素子製造時において、サセプタの設定温度に補正値を加えて補正する。このように補正することで、実際の成長温度と設定温度とのずれがさらに小さくなり、成長温度のばらつきをさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、MOCVD装置の使用を重ねることによるIII 族窒化物半導体の成長温度のばらつきを抑制することができる。本発明は特にIII 族窒化物半導体からなる発光素子の作製に有効である。発光素子の発光波長は成長温度に依存し、成長温度のわずかなばらつきが発光波長のずれとなって現れるためである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】III 族窒化物半導体の製造に用いるMOCVD装置の構成を示した図。
図2】実施例1の製造工程を示したフローチャート。
図3】実施例1における設定温度および実際の温度とRUN回数の関係を示した図。
図4】設定温度を一定とした場合の実際の温度とRUN回数の関係を示した図。
図5】PL波長とRUN回数の関係を示した図。
図6】PL波長とTMG使用量の関係を示した図。
図7】波長5nm出現率とRUN回数の関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法を以下に説明する。まず、III 族窒化物半導体の製造に用いるMOCVD装置の構成について、図1を参照に説明する。図1のように、MOCVD装置は、サファイア基板10が配置されるサセプタ11と、サセプタ11を回転させる回転軸12と、原料ガスおよびキャリアガスが供給され、サファイア基板10上部にガス流路を形成するフローチャンネル13と、サセプタ11を加熱するヒータ14と、を有している。
【0019】
サセプタ11はカーボンからなり、円盤状の形状である。カーボン以外にはSiCなどを用いることもできる。サセプタ11上面にはサファイア基板10をはめ込んで保持する凹部であるポケット15が設けられている。このポケット15にサファイア基板10を配置したときに、サファイア基板10表面とサセプタ11上面とがほぼ同一面となるようにポケット15の形状を設計している。また、サセプタ11下部の中心には、回転軸12が接続されていて、回転軸12を軸回りに回転させることでサセプタ11を回転させる。
【0020】
フローチャンネル13は、石英からなり、原料ガスの流路を形成する壁面となるものである。石英以外には、SUS(ステンレス鋼)などを用いることができる。フローチャンネル13は、図1のように、サセプタ11の上方に、そのサセプタ11と平行な壁面を有していて、その壁面とサセプタ11上面あるいはサセプタ11上に配置されたサファイア基板10との間が原料ガスの流路16となる。原料ガスは、この流路16の一方の端部からサセプタ11上面に平行に供給され、反対側の端部から排出される。
【0021】
ヒータ14は、誘導加熱方式であり、コイルを有する。そのコイルの中心にサセプタ11が配置される。ヒータ14によってサセプタ11を加熱し、サセプタ11からサファイア基板10への熱伝導によりサファイア基板10を加熱する。放射温度計によりサセプタ11の温度を測定し、その温度に基づきヒータ14を制御することで、III 族窒化物半導体の成長温度を制御する。加熱方式は誘電加熱方式以外にも、抵抗加熱方式、ランプ加熱方式などを用いてもよい。
【0022】
次に、このMOCVD装置を用いたIII 族窒化物半導体の製造方法について、図2のフローチャートを参照に説明する。なお、MOCVD法において用いる原料ガスは、窒素源として、アンモニア(NH3 )、Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 )、In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 3 )、Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 3 )、n型ドーピングガスとして、シラン(SiH4 )、p型ドーピングガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C2 5 2 )、キャリアガスはH2 、N2 である。もちろん、原料ガス、キャリアガスとしてこれら以外の従来知られている材料を使用することも可能である。
【0023】
まず、フローチャンネル13を洗浄し、フローチャンネル13壁面に付着した反応生成物や分解生成物などの汚れを除去した(図2のステップS1)。洗浄には、フッ酸などを用いたり、塩素系ガスによるエッチングを用いる。フローチャンネル13全体を洗浄する必要はなく、少なくともサファイア基板10に対向する面(対向面13a)を洗浄すればよい。
【0024】
次に、サセプタ11のポケット15にサファイアからなるダミー基板を配置し、回転軸12によりサセプタ11を回転させ、ヒータ14によりサセプタ11を加熱し、フローチャンネル13中にキャリアガス、原料ガスを供給して空デポ(空デポジション;対向面13aを初期化する工程)を行った(図2のステップS2)。設定温度は1100℃とし、ダミー基板上に10μmのIII 族窒化物半導体を積層させた。これにより、装置内の安定化を図るとともに、フローチャンネル13のサファイア基板10と対向する面(対向面13a)に雑晶を付着させ、対向面13aを透明な状態から光を良好に反射する銀白色のミラー状とした。詳細なメカニズムは不明であるが、対向面13aをこのような状態とすると、単に対向面13aに洗浄のみを施した場合に比べて、以降のIII 族窒化物半導体の結晶成長において良好な品質の結晶を得ることができる。
【0025】
次に、ダミー基板に替えてサファイア基板10をサセプタ11のポケット15に配置し、回転軸12によってサセプタ11を回転させ、ヒータ14によりサセプタ11を加熱し、フローチャンネル13中にキャリアガス、原料ガスを供給し、サファイア基板10上にIII 族窒化物半導体を結晶成長させた。そして、結晶成長の終了後、III 族窒化物半導体を成長させたサファイア基板10を、別のまだIII 族窒化物半導体を成長させていないサファイア基板10に入れ替え、再び同様にしてサファイア基板10上にIII 族窒化物半導体を積層させた。このMOCVD装置を使用しサファイア基板10を入れ替えてIII 族窒化物半導体を結晶成長させる回数(RUN回数)がN1(N1は2以上の自然数)に達するまで、繰り返しサファイア基板10を入れ替えてIII 族窒化物半導体を積層させた(図2のステップS3〜6)。III 族窒化物半導体を成長させる際の成長温度の設定については、後で詳しく説明する。
【0026】
N1は、対向面13aの汚れの量(対向面13aに対する付着物の量)に応じて設定する。たとえばN1は100である。RUN回数が増加すると対向面13aの汚れの量は次第に大きくなり、付着物が対向面13aから剥離してサファイア基板10上に付着する可能性が高くなる。そこで、RUN回数がN1に達し、一定量の汚れが対向面13aに付着したら、ステップS1に戻ってフローチャンネル13の洗浄を行う。そして、ステップS2の空デポを行ってから、再びステップS3〜6のIII 族窒化物半導体の成長を行う。
【0027】
次に、ステップS3〜S6におけるIII 族窒化物半導体の成長温度について、図3を参照に詳しく説明する。図3は、設定温度とRUN回数の関係を示した図である。
【0028】
RUN回数がN2に達するまでは、以下の設定温度でIII 族窒化物半導体の成長を繰り返し行う(図2のステップS3、S4)。設定温度は、放射温度計によってサセプタ11の温度を測ったときに得られる測定温度である。III 族窒化物半導体の成長温度を直接計測することは難しいため、この設定温度をもってIII 族窒化物半導体の成長温度を制御する。設定温度は、RUN回数が1のときは、実際にIII 族窒化物半導体を成長させたい所望の温度T1であり、RUN回数が1増加するごとに一定の増加幅ΔT(℃/RUN)設定温度を増加させた。ΔTは0.1〜2.0℃/RUNの範囲の所定値とする。つまり、RUN回数がNのときの設定温度TN、RUN回数1当たりの温度増加幅をΔTとして、TN=T1+(N−1)×ΔT、1≦N≦N2、である(図3参照)。たとえば、所望の温度T1が700℃、ΔTが0.2℃/RUNのとき、10回目のRUNでは設定温度T10を701.8℃とする。
【0029】
RUN回数がN2に達したら、N1に達するまで以下の設定温度でIII 族窒化物半導体の成長を繰り返し行う(図2のステップS5、S6)。RUN回数がN2より大きくN1以下の範囲での設定温度は、N2回目のRUNでの設定温度TN2(=T1+(N2−1)×ΔT)で一定とする。つまり、TN=TN2=T1+(N2−1)×ΔT、N2<N≦N1、である。
【0030】
RUN回数がN1に達したら、ステップS1、S2に戻り、RUN回数は0に初期化して再び図3に示す設定温度でステップS3〜S6が繰り返される。
【0031】
設定温度を上記のようにした理由を、図3、4を参照に説明する。
【0032】
まず、設定温度をRUN回数によらず所望の温度T1で一定とする場合を図4により説明する。III 族窒化物半導体を成長させると、フローチャンネル13の対向面13aには反応生成物(たとえばIII 族窒化物半導体の雑晶)や分解生成物などの汚れが少量付着する。RUN回数が増加すると、フローチャンネル13の対向面13aの汚れも次第に増加していく。汚れの増加に伴い、対向面13aは銀白色のミラー状から黒色へと徐々に変化していく。そのため、サファイア基板10から放射される電磁波(主として赤外線)が対向面13aによって吸収される量が次第に増加していく。赤外線吸収量の増加により、対向面13aの周囲最初のRUNでは設定温度T1とほぼ一致していた実際の温度(現実のIII 族窒化物半導体の成長温度)は、RUN回数が増加するとおよそ線形に低下していく(図4参照)。
【0033】
この温度低下の理由は、次のように推察される。対向面13aが黒色化して対向面13aでの赤外線吸収量が増加すると、対向面13aの周囲のガスが吸収する赤外線量が低下し、ガスの温度は低下する。これにより、サセプタ11とガスとの温度差が大きくなり、サセプタ11からガスへ伝導する熱量が大きくなる。その結果、サセプタ11の実際の温度(換言すれば実際のIII 族窒化物半導体の成長温度)は、設定温度よりも低下する。
【0034】
対向面13aにある程度汚れが蓄積すると、汚れが増加しても黒色の度合いはそれ以上変化しない。そのため、対向面13aによる赤外線吸収量はRUN回数が増えても一定となる。一定となるRUN回数をN’とし、そのときの実際の温度をT’とすると、RUN回数がN’以上では実際の温度はT’で一定となる(図4参照)。
【0035】
このように、設定温度T1を一定とした場合には、RUN回数の違いによりIII 族窒化物半導体の成長温度にばらつきが生じてしまう。特に発光素子では、発光層の成長温度によって発光波長が決まるため、成長温度のばらつきは発光波長のばらつきとして顕著に現れる。
【0036】
III 族窒化物半導体成長中の実際の温度を直接計測して温度制御することは難しい。そこで実施例1では、設定温度を図3のように変更することで、設定温度と実際の温度との差がなるべく小さくなるようにした。
【0037】
図3図4とを比較するとわかるように、設定温度と実際の温度との差を小さくするためには、以下のようにするとよい。まず、設定温度を一定とするRUN回数N2は、実際の温度が一定となるRUN回数N’になるべく近い数であることが望ましい。たとえばN2は、N’−10以上N’+10以下とする。より望ましくはN’−5以上N’+5以下であり、最も望ましいのはN2をN’と等しくすることである。
【0038】
また、RUN回数がN2までの間の設定温度の傾きΔTは、RUN回数がN’までの間の実際の温度の傾きΔT’(=(T’−T1)/(N−1))の絶対値となるべく近い値であることが望ましい。たとえば、ΔTは、ΔT’の0.3倍以上10倍以下とする。より望ましくはΔT’の0.5倍以上5倍以下であり、最も望ましいのはΔTをΔT’と等しくすることである。
【0039】
なお、RUN回数Nやそのときの温度T’は、たとえば一度設定温度をT1で一定にして発光素子を作製し、発光素子の発光波長を測定し、その発光波長から逆算することで推定することができる。発光素子以外の素子を作製する場合においても、素子の何らかの特性のRUN回数依存性を算出し、その依存性から逆算することでRUN回数N’や温度T’を推定することが可能である。
【0040】
また、対向面13aの汚れの量は、原料ガスの使用量、フローチャンネル13の対向面13aの材料、サファイア基板10の加熱方法、MOCVD装置の構造などに依存することが考えられるが、原料ガスの使用量(成長させるIII 族窒化物半導体層の厚さ)によっておおよそ決まると思われる。特にIII 族金属(Ga、Al、In)源であるTMG、TMA、TMIの使用量であり、その大部分を占めるGa源のTMGの使用量である。したがって、設定温度の制御は原料ガスの使用量に関連したパラメータによって制御すればよい。そのようなパラメータの1つとして、実施例1ではRUN回数によって設定温度を制御している。他にも、MOCVD装置の使用時間などによって設定温度を制御してもよい。なお、TMG使用量についての傾き(℃/g)とRUN回数についての傾きΔT(℃/RUN)の間にはおよそ比例関係があり、10℃/RUN≒1℃/gによって容易に換算できる。ΔTの数値範囲0.1〜2.0℃/RUNは、TMG使用量に換算すれば0.01〜0.2℃/gである。
【0041】
また、実際の温度の傾きΔT’は、対向面13aの汚れ量に依存する。よって上記のように、成長させるIII 族窒化物半導体層の厚さによっておよそ決まる。発光素子を作製する場合、ΔT’はおよそ0.1〜2.0℃/RUNとなる。実施例1においてΔTの範囲を0.1〜2.0℃/RUNとしたのはこのためである。
【0042】
以上、実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法では、III 族窒化物半導体の成長温度のばらつきを抑制することができる。実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法は、発光素子の作製に用いた場合に有効である。発光素子の発光波長は成長温度に依存し、成長温度のわずかなばらつきが発光波長のずれとなって現れるためである。
【0043】
次に、実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法に関する各種実験例を説明する。
【0044】
[実験例1]
RUN回数に対して設定温度を一定として発光素子を作製した(以下、比較例とする)。そして、各RUNごとのPL波長を測定した。図5は、PL波長とRUN回数の関係を示した図である。PL波長はピーク値である。図5のように、1回目から15回目のRUNでは、次第にPL波長がおよそ線形に増加していて、PL波長はおよそ7.5nm変化していた。これは成長温度に換算すると3.7℃の変化であり、その変化の傾きはおよそ0.26℃/RUNである。また、15回目のRUN以降ではPL波長がほぼ一定となった。また、図6は、RUN回数をTMG使用量に換算したものである。1RUN当たりのTMG使用量を平均的な使用量である10gとして換算した。1回目から15回目のRUNでの波長変化の傾きは、およそ0.025℃/gである。
【0045】
[実験例2]
上記実験例1を踏まえて、実施例1のN2として15、ΔTとして0.2℃/RUNとして、実施例1の製造方法を用いて発光素子を作製した。比較例の場合には、各RUN間のPL波長のばらつき(標準偏差σ)は、1.1nmであったが、実施例1の製造方法を用いて発光素子を作製した場合には、標準偏差σは0.7nmであった。この結果から、実施例1の製造方法によって各RUN間の成長温度のばらつき(発光波長のばらつき)を抑制できることがわかった。
【0046】
また、図7は、波長5nm出現率とRUN回数の関係を示した図である。波長5nm出現率とは、PL波長の分布において、ピークを中心とする波長5nmの範囲の割合である。図7のように、比較例の場合には、波長5nm出現率の平均は93.4%であったのに対し、実施例1による発光素子の場合には、波長5nm出現率の平均は96.1%であった。このように、実施例1による発光素子は比較例の発光素子に比べて波長のばらつきが改善されていることが確認できた。
【0047】
なお、実施例1ではRUN回数がN2に達するまで線形に設定温度を増加させているが、必ずしも線形に増加させる必要はなく、単調に増加させるのであれば線形でなくともよい。ただし、線形とする方が設定温度と実際の温度との差が平均的には小さくなるので望ましい。
【0048】
また、実施例1における設定温度TNに、補正値をさらに加えてもよい。たとえば、各RUN終了後に製造した発光素子の波長を実測し、実測した発光波長(波長分布のピーク値)と設定波長とのずれを求め、それを温度のずれに換算して補正値とする。そして、その補正値を次回のRUNの設定温度に加える。このように補正を加えることで、より設定温度と実際の温度とのずれを小さくすることができる。
【0049】
(N−1)回目のRUNで製造した発光素子の発光波長をλ’(N−1)、設定波長をλ、波長と温度の換算係数をαとすれば、補正値はα×(λ’(N−1)−λ)である。つまり補正値は、実測した波長λ’から推定される実際の温度α×λ’と、設計波長に基づく設定温度α×λとの間のずれである。したがって、この補正によるN回目のRUNでの設定温度をT’(N)とすれば、
T’(N)=T1+(N−1)×ΔT+α×(λ’(N−1)−λ)(2≦N≦N2)、
T’(N)=T1+(N2−1)×ΔT+α×(λ’(N−1)−λ)(N2<N≦N1)、
となる。なお、係数αの値は発光素子の構成などによって変わるが、およそ0.5である。
【0050】
また、本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法は、III 族窒化物半導体からなる各種半導体素子の作製に利用できるが、特に発光素子の作製に有効である。発光素子の発光波長は成長温度に依存し、成長温度のわずかなばらつきが発光波長のずれとなって現れるためである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明はIII 族窒化物半導体からなる各種半導体素子の作製に用いることができ、特に発光素子の製造に有効である。III 族窒化物半導体からなる発光素子は、照明装置や表示装置の光源として利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10:サファイア基板
11:サセプタ
12:回転装置
13:フローチャンネル
13a:対向面
14:ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7