【実施例1】
【0018】
実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法を以下に説明する。まず、III 族窒化物半導体の製造に用いるMOCVD装置の構成について、
図1を参照に説明する。
図1のように、MOCVD装置は、サファイア基板10が配置されるサセプタ11と、サセプタ11を回転させる回転軸12と、原料ガスおよびキャリアガスが供給され、サファイア基板10上部にガス流路を形成するフローチャンネル13と、サセプタ11を加熱するヒータ14と、を有している。
【0019】
サセプタ11はカーボンからなり、円盤状の形状である。カーボン以外にはSiCなどを用いることもできる。サセプタ11上面にはサファイア基板10をはめ込んで保持する凹部であるポケット15が設けられている。このポケット15にサファイア基板10を配置したときに、サファイア基板10表面とサセプタ11上面とがほぼ同一面となるようにポケット15の形状を設計している。また、サセプタ11下部の中心には、回転軸12が接続されていて、回転軸12を軸回りに回転させることでサセプタ11を回転させる。
【0020】
フローチャンネル13は、石英からなり、原料ガスの流路を形成する壁面となるものである。石英以外には、SUS(ステンレス鋼)などを用いることができる。フローチャンネル13は、
図1のように、サセプタ11の上方に、そのサセプタ11と平行な壁面を有していて、その壁面とサセプタ11上面あるいはサセプタ11上に配置されたサファイア基板10との間が原料ガスの流路16となる。原料ガスは、この流路16の一方の端部からサセプタ11上面に平行に供給され、反対側の端部から排出される。
【0021】
ヒータ14は、誘導加熱方式であり、コイルを有する。そのコイルの中心にサセプタ11が配置される。ヒータ14によってサセプタ11を加熱し、サセプタ11からサファイア基板10への熱伝導によりサファイア基板10を加熱する。放射温度計によりサセプタ11の温度を測定し、その温度に基づきヒータ14を制御することで、III 族窒化物半導体の成長温度を制御する。加熱方式は誘電加熱方式以外にも、抵抗加熱方式、ランプ加熱方式などを用いてもよい。
【0022】
次に、このMOCVD装置を用いたIII 族窒化物半導体の製造方法について、
図2のフローチャートを参照に説明する。なお、MOCVD法において用いる原料ガスは、窒素源として、アンモニア(NH
3 )、Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH
3 )
3 )、In源として、トリメチルインジウム(In(CH
3 )
3 )、Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3 )
3 )、n型ドーピングガスとして、シラン(SiH
4 )、p型ドーピングガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C
2 H
5 )
2 )、キャリアガスはH
2 、N
2 である。もちろん、原料ガス、キャリアガスとしてこれら以外の従来知られている材料を使用することも可能である。
【0023】
まず、フローチャンネル13を洗浄し、フローチャンネル13壁面に付着した反応生成物や分解生成物などの汚れを除去した(
図2のステップS1)。洗浄には、フッ酸などを用いたり、塩素系ガスによるエッチングを用いる。フローチャンネル13全体を洗浄する必要はなく、少なくともサファイア基板10に対向する面(対向面13a)を洗浄すればよい。
【0024】
次に、サセプタ11のポケット15にサファイアからなるダミー基板を配置し、回転軸12によりサセプタ11を回転させ、ヒータ14によりサセプタ11を加熱し、フローチャンネル13中にキャリアガス、原料ガスを供給して空デポ(空デポジション;対向面13aを初期化する工程)を行った(
図2のステップS2)。設定温度は1100℃とし、ダミー基板上に10μmのIII 族窒化物半導体を積層させた。これにより、装置内の安定化を図るとともに、フローチャンネル13のサファイア基板10と対向する面(対向面13a)に雑晶を付着させ、対向面13aを透明な状態から光を良好に反射する銀白色のミラー状とした。詳細なメカニズムは不明であるが、対向面13aをこのような状態とすると、単に対向面13aに洗浄のみを施した場合に比べて、以降のIII 族窒化物半導体の結晶成長において良好な品質の結晶を得ることができる。
【0025】
次に、ダミー基板に替えてサファイア基板10をサセプタ11のポケット15に配置し、回転軸12によってサセプタ11を回転させ、ヒータ14によりサセプタ11を加熱し、フローチャンネル13中にキャリアガス、原料ガスを供給し、サファイア基板10上にIII 族窒化物半導体を結晶成長させた。そして、結晶成長の終了後、III 族窒化物半導体を成長させたサファイア基板10を、別のまだIII 族窒化物半導体を成長させていないサファイア基板10に入れ替え、再び同様にしてサファイア基板10上にIII 族窒化物半導体を積層させた。このMOCVD装置を使用しサファイア基板10を入れ替えてIII 族窒化物半導体を結晶成長させる回数(RUN回数)がN1(N1は2以上の自然数)に達するまで、繰り返しサファイア基板10を入れ替えてIII 族窒化物半導体を積層させた(
図2のステップS3〜6)。III 族窒化物半導体を成長させる際の成長温度の設定については、後で詳しく説明する。
【0026】
N1は、対向面13aの汚れの量(対向面13aに対する付着物の量)に応じて設定する。たとえばN1は100である。RUN回数が増加すると対向面13aの汚れの量は次第に大きくなり、付着物が対向面13aから剥離してサファイア基板10上に付着する可能性が高くなる。そこで、RUN回数がN1に達し、一定量の汚れが対向面13aに付着したら、ステップS1に戻ってフローチャンネル13の洗浄を行う。そして、ステップS2の空デポを行ってから、再びステップS3〜6のIII 族窒化物半導体の成長を行う。
【0027】
次に、ステップS3〜S6におけるIII 族窒化物半導体の成長温度について、
図3を参照に詳しく説明する。
図3は、設定温度とRUN回数の関係を示した図である。
【0028】
RUN回数がN2に達するまでは、以下の設定温度でIII 族窒化物半導体の成長を繰り返し行う(
図2のステップS3、S4)。設定温度は、放射温度計によってサセプタ11の温度を測ったときに得られる測定温度である。III 族窒化物半導体の成長温度を直接計測することは難しいため、この設定温度をもってIII 族窒化物半導体の成長温度を制御する。設定温度は、RUN回数が1のときは、実際にIII 族窒化物半導体を成長させたい所望の温度T1であり、RUN回数が1増加するごとに一定の増加幅ΔT(℃/RUN)設定温度を増加させた。ΔTは0.1〜2.0℃/RUNの範囲の所定値とする。つまり、RUN回数がNのときの設定温度TN、RUN回数1当たりの温度増加幅をΔTとして、TN=T1+(N−1)×ΔT、1≦N≦N2、である(
図3参照)。たとえば、所望の温度T1が700℃、ΔTが0.2℃/RUNのとき、10回目のRUNでは設定温度T10を701.8℃とする。
【0029】
RUN回数がN2に達したら、N1に達するまで以下の設定温度でIII 族窒化物半導体の成長を繰り返し行う(
図2のステップS5、S6)。RUN回数がN2より大きくN1以下の範囲での設定温度は、N2回目のRUNでの設定温度TN2(=T1+(N2−1)×ΔT)で一定とする。つまり、TN=TN2=T1+(N2−1)×ΔT、N2<N≦N1、である。
【0030】
RUN回数がN1に達したら、ステップS1、S2に戻り、RUN回数は0に初期化して再び
図3に示す設定温度でステップS3〜S6が繰り返される。
【0031】
設定温度を上記のようにした理由を、
図3、4を参照に説明する。
【0032】
まず、設定温度をRUN回数によらず所望の温度T1で一定とする場合を
図4により説明する。III 族窒化物半導体を成長させると、フローチャンネル13の対向面13aには反応生成物(たとえばIII 族窒化物半導体の雑晶)や分解生成物などの汚れが少量付着する。RUN回数が増加すると、フローチャンネル13の対向面13aの汚れも次第に増加していく。汚れの増加に伴い、対向面13aは銀白色のミラー状から黒色へと徐々に変化していく。そのため、サファイア基板10から放射される電磁波(主として赤外線)が対向面13aによって吸収される量が次第に増加していく。赤外線吸収量の増加により、対向面13aの周囲最初のRUNでは設定温度T1とほぼ一致していた実際の温度(現実のIII 族窒化物半導体の成長温度)は、RUN回数が増加するとおよそ線形に低下していく(
図4参照)。
【0033】
この温度低下の理由は、次のように推察される。対向面13aが黒色化して対向面13aでの赤外線吸収量が増加すると、対向面13aの周囲のガスが吸収する赤外線量が低下し、ガスの温度は低下する。これにより、サセプタ11とガスとの温度差が大きくなり、サセプタ11からガスへ伝導する熱量が大きくなる。その結果、サセプタ11の実際の温度(換言すれば実際のIII 族窒化物半導体の成長温度)は、設定温度よりも低下する。
【0034】
対向面13aにある程度汚れが蓄積すると、汚れが増加しても黒色の度合いはそれ以上変化しない。そのため、対向面13aによる赤外線吸収量はRUN回数が増えても一定となる。一定となるRUN回数をN’とし、そのときの実際の温度をT’とすると、RUN回数がN’以上では実際の温度はT’で一定となる(
図4参照)。
【0035】
このように、設定温度T1を一定とした場合には、RUN回数の違いによりIII 族窒化物半導体の成長温度にばらつきが生じてしまう。特に発光素子では、発光層の成長温度によって発光波長が決まるため、成長温度のばらつきは発光波長のばらつきとして顕著に現れる。
【0036】
III 族窒化物半導体成長中の実際の温度を直接計測して温度制御することは難しい。そこで実施例1では、設定温度を
図3のように変更することで、設定温度と実際の温度との差がなるべく小さくなるようにした。
【0037】
図3と
図4とを比較するとわかるように、設定温度と実際の温度との差を小さくするためには、以下のようにするとよい。まず、設定温度を一定とするRUN回数N2は、実際の温度が一定となるRUN回数N’になるべく近い数であることが望ましい。たとえばN2は、N’−10以上N’+10以下とする。より望ましくはN’−5以上N’+5以下であり、最も望ましいのはN2をN’と等しくすることである。
【0038】
また、RUN回数がN2までの間の設定温度の傾きΔTは、RUN回数がN’までの間の実際の温度の傾きΔT’(=(T’−T1)/(N−1))の絶対値となるべく近い値であることが望ましい。たとえば、ΔTは、ΔT’の0.3倍以上10倍以下とする。より望ましくはΔT’の0.5倍以上5倍以下であり、最も望ましいのはΔTをΔT’と等しくすることである。
【0039】
なお、RUN回数Nやそのときの温度T’は、たとえば一度設定温度をT1で一定にして発光素子を作製し、発光素子の発光波長を測定し、その発光波長から逆算することで推定することができる。発光素子以外の素子を作製する場合においても、素子の何らかの特性のRUN回数依存性を算出し、その依存性から逆算することでRUN回数N’や温度T’を推定することが可能である。
【0040】
また、対向面13aの汚れの量は、原料ガスの使用量、フローチャンネル13の対向面13aの材料、サファイア基板10の加熱方法、MOCVD装置の構造などに依存することが考えられるが、原料ガスの使用量(成長させるIII 族窒化物半導体層の厚さ)によっておおよそ決まると思われる。特にIII 族金属(Ga、Al、In)源であるTMG、TMA、TMIの使用量であり、その大部分を占めるGa源のTMGの使用量である。したがって、設定温度の制御は原料ガスの使用量に関連したパラメータによって制御すればよい。そのようなパラメータの1つとして、実施例1ではRUN回数によって設定温度を制御している。他にも、MOCVD装置の使用時間などによって設定温度を制御してもよい。なお、TMG使用量についての傾き(℃/g)とRUN回数についての傾きΔT(℃/RUN)の間にはおよそ比例関係があり、10℃/RUN≒1℃/gによって容易に換算できる。ΔTの数値範囲0.1〜2.0℃/RUNは、TMG使用量に換算すれば0.01〜0.2℃/gである。
【0041】
また、実際の温度の傾きΔT’は、対向面13aの汚れ量に依存する。よって上記のように、成長させるIII 族窒化物半導体層の厚さによっておよそ決まる。発光素子を作製する場合、ΔT’はおよそ0.1〜2.0℃/RUNとなる。実施例1においてΔTの範囲を0.1〜2.0℃/RUNとしたのはこのためである。
【0042】
以上、実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法では、III 族窒化物半導体の成長温度のばらつきを抑制することができる。実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法は、発光素子の作製に用いた場合に有効である。発光素子の発光波長は成長温度に依存し、成長温度のわずかなばらつきが発光波長のずれとなって現れるためである。
【0043】
次に、実施例1のIII 族窒化物半導体の製造方法に関する各種実験例を説明する。
【0044】
[実験例1]
RUN回数に対して設定温度を一定として発光素子を作製した(以下、比較例とする)。そして、各RUNごとのPL波長を測定した。
図5は、PL波長とRUN回数の関係を示した図である。PL波長はピーク値である。
図5のように、1回目から15回目のRUNでは、次第にPL波長がおよそ線形に増加していて、PL波長はおよそ7.5nm変化していた。これは成長温度に換算すると3.7℃の変化であり、その変化の傾きはおよそ0.26℃/RUNである。また、15回目のRUN以降ではPL波長がほぼ一定となった。また、
図6は、RUN回数をTMG使用量に換算したものである。1RUN当たりのTMG使用量を平均的な使用量である10gとして換算した。1回目から15回目のRUNでの波長変化の傾きは、およそ0.025℃/gである。
【0045】
[実験例2]
上記実験例1を踏まえて、実施例1のN2として15、ΔTとして0.2℃/RUNとして、実施例1の製造方法を用いて発光素子を作製した。比較例の場合には、各RUN間のPL波長のばらつき(標準偏差σ)は、1.1nmであったが、実施例1の製造方法を用いて発光素子を作製した場合には、標準偏差σは0.7nmであった。この結果から、実施例1の製造方法によって各RUN間の成長温度のばらつき(発光波長のばらつき)を抑制できることがわかった。
【0046】
また、
図7は、波長5nm出現率とRUN回数の関係を示した図である。波長5nm出現率とは、PL波長の分布において、ピークを中心とする波長5nmの範囲の割合である。
図7のように、比較例の場合には、波長5nm出現率の平均は93.4%であったのに対し、実施例1による発光素子の場合には、波長5nm出現率の平均は96.1%であった。このように、実施例1による発光素子は比較例の発光素子に比べて波長のばらつきが改善されていることが確認できた。
【0047】
なお、実施例1ではRUN回数がN2に達するまで線形に設定温度を増加させているが、必ずしも線形に増加させる必要はなく、単調に増加させるのであれば線形でなくともよい。ただし、線形とする方が設定温度と実際の温度との差が平均的には小さくなるので望ましい。
【0048】
また、実施例1における設定温度TNに、補正値をさらに加えてもよい。たとえば、各RUN終了後に製造した発光素子の波長を実測し、実測した発光波長(波長分布のピーク値)と設定波長とのずれを求め、それを温度のずれに換算して補正値とする。そして、その補正値を次回のRUNの設定温度に加える。このように補正を加えることで、より設定温度と実際の温度とのずれを小さくすることができる。
【0049】
(N−1)回目のRUNで製造した発光素子の発光波長をλ’(N−1)、設定波長をλ、波長と温度の換算係数をαとすれば、補正値はα×(λ’(N−1)−λ)である。つまり補正値は、実測した波長λ’から推定される実際の温度α×λ’と、設計波長に基づく設定温度α×λとの間のずれである。したがって、この補正によるN回目のRUNでの設定温度をT’(N)とすれば、
T’(N)=T1+(N−1)×ΔT+α×(λ’(N−1)−λ)(2≦N≦N2)、
T’(N)=T1+(N2−1)×ΔT+α×(λ’(N−1)−λ)(N2<N≦N1)、
となる。なお、係数αの値は発光素子の構成などによって変わるが、およそ0.5である。
【0050】
また、本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法は、III 族窒化物半導体からなる各種半導体素子の作製に利用できるが、特に発光素子の作製に有効である。発光素子の発光波長は成長温度に依存し、成長温度のわずかなばらつきが発光波長のずれとなって現れるためである。