(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
少ないスイッチングパターンで開放故障のみならず、短絡故障を検出できる検査装置が望まれている。
【0006】
上述の点に鑑みて、本発明は、少ないスイッチングパターンで開放故障のみならず、短絡故障を検出できるインバータの検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるインバータの故障検出方法の第1の態様は、第1直流線(LH)および第2直流線(LL)と、N(Nは3以上の自然数)相の出力端(Pu,Pv,Pw)と、前記第1直流線と前記出力端の各々との間に接続される第1スイッチング素子(Sup,Svp,Swp)と、前記第2直流線と前記出力端の各々との間に接続される第2スイッチング素子(Sun,Svn,Swn)とを備えるインバータ(20)を検査する装置であって、前記インバータに負荷を接続した状態で、第k(1≦k≦N)相の前記出力端に接続される第k相の前記第1スイッチング素子(Sup)および第m(1≦m≦N、m≠k)相の前記出力端に接続される第m相の前記第2スイッチング素子(
Svn)のみを導通させる第1のスイッチングパターン(S1)を、前記インバータに採用させ、前記第2直流線を流れる電流(Idc)が、第1基準値(Iref1)よりも小さい第1範囲、前記第1基準値よりも大きな第2基準値(Iref2)と前記第1基準値との間の第2範囲、および、前記第2基準値よりも大きい第3範囲のいずれに属しているかの判定を行い、前記電流が前記第1範囲に属していると判定されたことを以て、前記第k相の前記出力端(Pu)と前記第1直流線(LH)との間、および、前記第m相の前記出力端(Pv)と前記第2直流線(LL)との間の少なくともいずれか一つにおける開放故障を検出し、前記電流が前記第3範囲に属していると判定されたことを以て、前記第k相以外の前記出力端(Pv,Pw)と前記第1直流線(LH)との間、および、前記第m相以外の前記出力端(Pu,Pw)と前記第2直流線(LL)との間の少なくともいずれか一つにおける短絡故障を検出
し、k,mの値を順次に変化させて前記インバータ(20)に複数の前記スイッチングパターンを採用させ、前記スイッチングパターンごとの前記電流(Idc)に対する前記判定の結果に基づいて、開放故障の位置および短絡故障の位置を検出し、前記第1の前記スイッチングパターン(S1)と、前記第k相の前記第1スイッチング素子(Sup)および第n(1≦n≦N、n≠m,n≠k)相の前記出力端(Pw)に接続される前記第2スイッチング素子(Swn)のみを導通させる第2の前記スイッチングパターン(S2)との両方において、前記電流(Idc)が前記第2範囲に属し、かつ、他の前記スイッチングパターン(S3〜S6)の全てにおいて、前記電流が前記第3範囲に属すると判定されたことをもって、前記第k相の前記出力端(Pu)と前記第1直流線(LH)との間における短絡故障を検出する。
【0009】
本発明にかかるインバータの故障検出方法の第
2の態様は、第
1の態様にかかるインバータの故障検出方法であって、前記第1の前記スイッチングパターン(S1)と、前
記第2スイッチング素子(Swn)のみを導通させる第2の前記スイッチングパターン(S2)との両方において、前記電流(Idc)が前記第1範囲に属し、かつ、他の前記スイッチングパターン(S3〜S6)の全てにおいて、前記電流が前記第2範囲に属すると判定されたことを以て、前記第k相の前記出力端(Pu)と前記第1直流線(LH)との間における開放故障を検出する。
【0011】
本発明にかかるインバータ検査装置の第1の態様は、第1直流線(LH)および第2直流線(LL)と、N(Nは3以上の自然数)相の出力端(Pu,Pv,Pw)と、前記第1直流線と前記出力端の各々との間に接続される第1スイッチング素子(Sup,Svp,Swp)、および、前記第2直流線と前記出力端の各々との間に接続される第2スイッチング素子(Sun,Svn,Swn)とを有するインバータ(20)と、第k(1≦k≦N)相の前記出力端に接続される第k相の前記第1スイッチング素子(Sup)および第m(1≦m≦N、m≠k)相の前記出力端に接続される第m相の前記第2スイッチング素子(Svn)のみを導通させる
第1のスイッチングパターン(S1)を、前記インバータに採用させるインバータ制御部(21)と、前記第2直流線を流れる電流(Idc)を検出する電流検出部(50)と、前記電流が、第1基準値(Iref1)よりも小さい第1範囲、前記第1基準値よりも大きな第2基準値(Iref2)と前記第1基準値との間の第2範囲、および、前記第2基準値よりも大きい第3範囲のいずれに属しているかの判定を行う電流判定部(22)と、前記電流が前記第1範囲に属しているときには、前記第k相の前記出力端(Pu)と前記第1直流線(LH)との間、および、前記第m相の前記出力端(Pv)と前記第2直流線(LL)との間の少なくともいずれか一つに開放故障が生じていると判定し、前記電流が前記第3範囲に属しているときには、前記第k相以外の前記出力端(Pv,Pw)と前記第1直流線(LH)との間、および、前記第m相以外の前記出力端(Pu,Pw)と前記第2直流線(LL)との間の少なくともいずれか一つに短絡故障が生じていると判定する故障検出部(23)とを備え、前記インバータ制御部は、k,mの値を順次に変化させて前記インバータ(20)に複数の前記スイッチングパターンを採用させ、前記故障検出部は、前記スイッチングパターンごとの前記電流(Idc)に対する前記判定の結果に基づいて、開放故障の位置および短絡故障の位置を検出し、前記故障検出部は、前記第1の前記スイッチングパターン(S1)と、前記第k相の前記第1スイッチング素子(Sup)および第n(1≦n≦N、n≠m,n≠k)相の前記出力端(Pw)に接続される前記第2スイッチング素子(Swn)のみを導通させる第2の前記スイッチングパターン(S2)との両方において、前記電流(Idc)が前記第2範囲に属し、かつ、他の前記スイッチングパターン(S3〜S6)の全てにおいて、前記電流が前記第3範囲に属すると判定されたことをもって、前記第k相の前記出力端(Pu)と前記第1直流線(LH)との間における短絡故障を検出する。
【0012】
本発明にかかるインバータ検査装置の第2の態様は、第1の態様にかかるインバータ検査装置であって、前記電流判定部(42)は、前記電流と前記第1基準値とを比較する第1比較部(422)と、前記電流と前記第2基準値とを比較する第2比較部(421)とを有し、インバータ制御部(41)は、前記第1比較部または前記第2比較部の比較結果に基づいて、前記インバータを停止させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるインバータの故障検出方法の第1の態様によれば、一つのスイッチングパターンで、開放故障の範囲および短絡故障を検出できる。
しかも、オープン故障の位置および短絡故障の位置を検出できる。更に短絡故障の位置を検出できる。
【0015】
本発明にかかるインバータの故障検出方法の第
2の態様によれば、オープン故障の位置を検出できる。
【0017】
本発明にかかるインバータ検査装置の第1の態様によれば、一つのスイッチングパターンで、開放故障の範囲および短絡故障の範囲を検出できる。
しかも、オープン故障の位置および短絡故障の位置を検出できる。更に短絡故障の位置を検出できる。
【0018】
本発明にかかるインバータ検査装置の第2の態様によれば、第1比較部または第2比較部の比較結果が、インバータを停止するための条件判定に用いられている。よってこの条件判定のための比較器と、開放故障および短絡故障の判定のための比較部とを別々に設ける場合に比して、コストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1はインバータの検査装置の一例を概略的に示す図である。
図1の例示では、インバータ20は、直流線LH,LLの間で互いに並列に接続される三相のレグ21〜23を有している。この直流線LH,LLの間には、直流電圧Vdcが印加されている。ここでは、直流線LHに印加される電位は直流線LLに印加される電位よりも高い。
【0021】
図1の例示では、この直流電圧Vdcは整流器10および平滑コンデンサC1によって生成される。整流器10は交流電源E1から入力された交流電圧を整流し、整流後の直流電圧は平滑コンデンサC1によって平滑される。平滑コンデンサC1は直流電圧Vdcを支持する。平滑コンデンサC1の両端はそれぞれ直流線LH,LLに接続されるので、直流線LH,LLの間には、上述のように、直流電圧Vdcが印加されている。整流器10は例えばダイオード全波整流器である。
【0022】
U相のレグ21はスイッチング素子Sup,Sunを有している。スイッチング素子Supは出力端Puと直流線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sunは出力端Puと直流線LLとの間に接続される。V相のレグ22はスイッチング素子Svp,Svnを有している。スイッチング素子Svpは出力端Pvと直流線LHとの間に接続され、スイッチング素子Svnは出力端Pvと直流線LLとの間に接続される。W相のレグ23はスイッチング素子Swp,Swnを有している。スイッチング素子Swpは出力端Pwと直流線LHとの間に接続され、スイッチング素子Swnは出力端Pwと直流線LLとの間に接続される。
【0023】
このようなインバータ20において、スイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnが適切に制御されることで、インバータ20は直流電圧Vdcを三相の交流電圧に変換して、これらを出力端Pu,Pv,Pwから出力することができる。
【0024】
ここでは、三相のインバータ20を例示しているものの、三相以上のN(自然数)相のインバータ20を採用してもよい。
【0025】
なお以下では、スイッチング素子Sup,Svp,Swpを上側スイッチング素子とも呼び、スイッチング素子Sun,Svn,Swnを下側スイッチング素子とも呼ぶ。
【0026】
図1の例示では、インバータ20には、その出力側において負荷30が接続されている。負荷30は例えば抵抗R31〜R33を有している。
図1の例示では、抵抗R31〜R33の一端は互いに接続されており、他端はインバータ20の出力端Pu,Pv,Pwにそれぞれ接続される。つまり、抵抗R31〜R33はいわゆるスター結線で接続されている。負荷30としては例えば各相についてのインピーダンスが互いに等しい平衡負荷を採用することができる。この場合、抵抗R31〜R33の抵抗値は、例えば互いにほぼ等しい。
【0027】
図1の例示では、インバータ20を検査するための検査制御装置40が設けられている。この検査制御装置40は、例えば検査を行う施設等に設けられていてもよく、あるいはインバータ20が収容される製品に搭載されていてもよい。
【0028】
検査制御装置40は、インバータ制御部41と電流判定部42と故障検出部43とを備えている。
【0029】
またここでは、検査制御装置40はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、検査制御装置40はこれに限らず、検査制御装置40によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0030】
インバータ制御部41は、後述する検査用のスイッチングパターンをインバータ20に採用させるべく、スイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnへと制御信号を出力する。
【0031】
検査用のスイッチングパターンでは、互いに異なるレグに属する、上側スイッチング素子の一つおよび下側スイッチング素子の一つのみを導通させる制御信号を出力する。より一般的な説明としてN相のインバータ20を用いて説明すると、検査用のスイッチングパターンでは、第k(1≦k≦N)相の上側スイッチング素子および第m(1≦m≦N,m≠k)相の下側スイッチング素子の一組のみを導通させる制御信号を出力する。
【0032】
例えばU相の上側スイッチング素子Supと、V相の下側スイッチング素子Svnとを導通させ、かつ、他のスイッチング素子Sun,Svp,Swp,Swnを非導通とする制御信号を出力する。
【0033】
インバータ20に故障が生じていなければ、当該制御信号に従って、スイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnが制御される。
図2は、このときのインバータ20の等価回路の一例を概略的に示している。スイッチング素子Sun,Svp,Swp,Swnは非導通となるので、これらは図示されていない。このとき、直流線LH,LLに流れる直流電流Idcは、抵抗R31〜R33の抵抗値Rを用いて以下の式で表される。
【0034】
Idc=Vdc/(2・R) ・・・(1)
【0035】
一方で、例えばスイッチング素子Supに開放故障が生じていれば、スイッチング素子Supに対して導通の制御信号を出力しても、スイッチング素子Supは導通しない。
図3は、スイッチング素子Supに開放故障が生じたときの等価回路の一例を概略的に示している。
図3の例示では、スイッチング素子Supには開放故障が生じているので、直流線LHは出力端Puに接続されない。
【0036】
このときインバータ20には電流が流れないので、直流電流Idcはほぼ零である。スイッチング素子Svnに開放故障が生じた場合にも、同様に直流電流Idcはほぼ零となる。
【0037】
逆に言えば、スイッチング素子Sup,Svnのみを導通させる制御信号を出力した状態での直流電流Idcがほぼ零であることを検出すれば、スイッチング素子Sup,Svnの少なくともいずれか一方に開放故障が生じていることを検出できる。
【0038】
なお上述では、一例として、スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)に開放故障が生じたときを考慮している。しかるに、例えば直流線LHと出力端Puとの間の配線に開放故障(例えば配線の切断)が生じていても、同様の作用が招来される。つまり、ここでいうスイッチング素子Supの開放故障とは、スイッチをオンできない故障を意味し、例えば、スイッチング素子Supの内部において開放故障が生じたことのみならず、直流線LHと出力端Puとの間の配線の開放故障を含む。あるいは、例えば、制御信号回路(例えばインバータ制御部41)の故障、または、スイッチング素子の駆動回路(不図示)の故障などに起因する開放故障も含む。以下では、直流線LHと出力端Puとの間の開放故障をスイッチング素子Sup側の開放故障とも呼ぶことがある。他の位置に生じる開放故障についても同様の呼称を採用する。
【0039】
図4は、スイッチング素子Swnに短絡故障が生じている場合の等価回路の一例を概略的に示している。
図4の例示でも、スイッチング素子Sup,Svnのみを導通させる制御信号が出力されており、スイッチング素子Sup,Svnは導通し、スイッチング素子Sun,Svp,Swpは非導通している。スイッチング素子Swnには短絡故障が生じているので、スイッチング素子Swnへの制御信号に関わらず、直流線LLが出力端Pwに接続される。
【0040】
このとき、直流電流Idcは以下の式で表される。
【0041】
Idc=Vdc/(3・R/2) ・・・(2)
【0042】
式(1)および式(2)の比較から理解できるように、スイッチング素子Swnに短絡故障が生じている場合には、直流電流Idcが正常値(式(1)の値)よりも高くなる。
【0043】
また、スイッチング素子Swnの替わりにスイッチング素子Swpに短絡故障が生じた場合には、直流線LLが出力端Pwと非導通し、直流線LHが出力端Pwと導通することになる。この場合の直流電流Idcも式(2)と同じ値を採る。
【0044】
スイッチング素子Sunに短絡故障が生じた場合には、直流線LH,LLがスイッチング素子Sup,Sunを介して短絡する。この経路における抵抗値は非常に小さいので、直流電流Idcはやはり式(1)の値よりも高くなる。スイッチング素子Svpに短絡故障が生じた場合にも、同様に、直流電流Idcは式(1)の値よりも高くなる。
【0045】
逆に言えば、スイッチング素子Sup,Svnのみを導通させる制御信号を出力した状態での直流電流Idcが、式(1)の値よりも大きいことを検出すれば、スイッチング素子Sup,Svn以外のスイッチング素子の少なくともいずれか一つに短絡故障が生じていることを検出できる。言い換えれば、非導通の制御信号が与えられた上側スイッチング素子Svp,Swpおよび下側スイッチング素子Sun,Swnの少なくともいずれか一つに短絡故障が生じていることを検出できる。
【0046】
なお上述の例ではスイッチング素子(例えばスイッチング素子Swn)に短絡故障が生じたときを考慮している。しかるに、例えば直流線LLと出力端Pwとが導体(例えば金属片など)によって互いに接続されても、同様の作用が招来される。つまりここでいうスイッチング素子Swnの短絡故障とは、スイッチがオン状態となる故障を意味し、例えばスイッチング素子Swnの内部において短絡故障が生じたことのみならず、導体を介して直流線LLと出力端Pwとが互いに導通する短絡故障を含む。あるいは、例えば、制御信号回路(例えばインバータ制御部41)の故障、または、スイッチング素子の駆動回路(不図示)の故障などに起因する短絡故障も含む。以下では、直流線LLと出力端Pwとの間の短絡故障をスイッチング素子Swn側の短絡故障とも呼ぶ。他の位置に生じる短絡故障についても同様の呼称を採用する。
【0047】
本実施の形態においては、
図1に示すように、直流電流Idcを検出する電流検出部50が設けられている。なお
図1の例示では、直流電流Idcとして電流検出部50は直流線LLを流れる電流を検出するものの、直流線LHを流れる電流を検出してもよい。直流電流Idcは直流線LH,LLのいずれにおいても等しい大きさで流れるからである。
【0048】
検出された直流電流Idcは電流判定部42に出力される。電流判定部42は、直流電流Idcが、基準値Iref1よりも小さい第1範囲、基準値Iref1と基準値Iref2(>Iref1)との間の第2範囲、基準値Iref2よりも大きい第3範囲のいずれに属しているかの判定(以下、「電流判定」と称すことがある)を行う。
図5は、式(1)および式(2)の直流電流Idcと基準値Iref1,Iref2との一例を概略的に示す図である。基準値Iref1は、式(1)の直流電流Idcよりも小さい正の値であり、基準値Iref2は式(1)の直流電流Idcと式(2)の直流電流Idcとの間の値である。
【0049】
基準値Iref1を式(1)の直流電流Idcよりも小さい正の値に設定し、基準値Iref2を式(1)の直流電流Idcと式(2)の直流電流Idcの値に設定しているのは、直流電流Idcのばらつきを考慮したためである。このようなばらつきは、抵抗値Rのばらつきなどに起因する。
【0050】
電流判定部42の判定結果は故障検出部43へと出力される。また、故障検出部43には、例えばインバータ制御部41が出力する制御信号も入力される。故障検出部43はこの制御信号に基づいてスイッチングパターンを認識し、そのスイッチングパターンと判定結果とに応じて、以下のように故障を検出する。
【0051】
即ち、直流電流Idcが基準値Iref1よりも小さい第1範囲に属するときには、例えば
図3を参照して、導通の制御信号が与えられた上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)側および下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svn)側の少なくともいずれか一方に開放故障が生じたことを検出する。
【0052】
また、直流電流Idcが基準値Iref2よりも大きい第3範囲に属するときには、例えば
図4を参照して、導通の制御信号が与えられた上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)および下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svn)の一組以外の少なくともいずれか一つのスイッチング素子側に短絡故障が生じたと判定する。言い換えれば、非導通の制御信号が与えられた上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svp,Swp)および下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sun,Swn)の少なくともいずれか一つのスイッチング素子側に短絡故障が生じたことを検出する。
【0053】
以下に、より一般的な説明として、N相のインバータを用いた場合について説明する。まずスイッチングパターンでは、第k相の出力端(例えば出力端Pu)に接続される上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)、および、第m相の出力端(例えば出力端Pv)に接続される下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svn)の一組のみを導通させる。
【0054】
そして、このスイッチングパターンが採用された状態での直流電流Idcが基準値Iref1よりも小さいときには、故障検出部43は、第k相の出力端(例えば出力端Pu)と直流線LHとの間、および、第m相の出力端(例えば出力端Pv)と直流線LLとの間の少なくともいずれか一方に、開放故障が生じたことを検出する。
【0055】
一方で、このスイッチングパターンが採用された状態での直流電流Idcが基準値Iref2よりも大きいときには、故障検出部43は、第k相以外の出力端(例えば出力端Pv,Pw)の各々と直流線LHとの間、および、第m相以外の出力端(例えば出力端Pu,Pw)の各々と直流線LLとの間の少なくともいずれか一つに、短絡故障が生じたことを検出する。
【0056】
以上のように、一つのスイッチングパターンにおける検査によって、短絡故障の範囲および開放故障の範囲を検出することができる。
【0057】
次に、開放故障および短絡故障の位置を特定すべく、複数のスイッチングパターンを用いる場合について説明する。このスイッチングパターンは表1で示すように6種類存在する。スイッチング素子の導通/非導通をそれぞれ「○」、「×」で示すと、スイッチングパターンS1〜S6は表1で示される。
【0059】
表2は、開放故障が生じた位置と、各スイッチングパターンS1〜S6における判定結果とが示されている。
【0061】
表2においては、直流線LHとU相の出力端Puとの間の部分を「U相の上側」と表現し、直流線LLとU相の出力端Puとの間の部分を「U相の下側」と表現している。V相およびW相についても同様である。また、開放故障が生じていることを「×」で示し、開放故障が生じていないことを「○」で示している。
【0062】
また表2においては、直流電流Idcが基準値Iref1,Iref2の間の第2範囲に属していることを「正常」で示し、直流電流Idcが、基準値Iref1よりも小さい第1範囲に属していることを「Z」で示している。
【0063】
例えば故障がどこにも生じていないときには、スイッチングパターンS1〜S6の全てにおいて判定結果は「正常」となる。
【0064】
一方で、例えば「U相の上側」のみに開放故障が生じた場合、その「U相の上側」に位置するスイッチング素子Supを導通させるスイッチングパターンS1,S2の両方において、判定結果は「Z」となる。なぜなら、上側スイッチング素子Sup側に開放故障が生じていると、上側スイッチング素子Supへと導通の制御信号を出力しても、直流線LHは出力端Puと導通しない(例えば
図3参照)ので、直流電流Idcがほぼ零になるからである。
【0065】
他のスイッチングパターンS3〜S6では、導通の制御信号が与えられたスイッチング素子は適切に導通するので、直流電流Idcは式(1)に応じた値を採る。つまり直流電流Idcは基準値Iref1よりも大きく、基準値Iref2よりも小さい第2範囲に属する。
【0066】
したがって、「U相の上側」に開放故障が生じた場合のスイッチングパターンS1〜S6に対応する判定結果は、表2に示す通り、それぞれ「Z」「Z」「正常」「正常」「正常」「正常」となる。
【0067】
他の部分に開放故障が生じた場合についても同様に説明できる。要するに、開放故障が生じた部分に位置するスイッチング素子を導通させる2つスイッチングパターンの両方において、判定結果は「Z」であり、他のスイッチングパターンの全てにおいては、判定結果は「正常」となる。
【0068】
上述の説明から理解できるように、開放故障が生じた位置によって、判定結果のパターンが変わるので、判定結果のパターンに応じて、開放故障が生じた位置を検出することができる。
【0069】
表3は、短絡故障が生じた位置と、各スイッチングパターンS1〜S6における判定結果とが示されている。
【0071】
表3において、短絡故障が生じていることを「×」で示し、短絡故障が生じていないことを「○」で示している。また直流電流Idcが基準値Iref2よりも大きいことを「0」で示している。
【0072】
例えば故障がどこにも生じていないときには、スイッチングパターンS1〜S6の全てにおいて判定結果は「正常」となる。
【0073】
一方で、例えば「W相の下側」に短絡故障が生じた場合、その「W相の下側」に位置するスイッチング素子Swnを導通させるスイッチングパターンS2,S4の両方において、直流電流Idcは基準値Iref1,Iref2の間の第2範囲に属する。つまり、判定結果は「正常」となる。なぜなら、短絡故障により直流線LLとw相の出力端Pwとは互いに導通しているので、下側スイッチング素子Swnを導通させる制御信号を出力した場合にも、直流線LLと出力端Pwとは互いに導通するからである。
【0074】
他のスイッチングパターンS1,S3,S5,S6では、直流電流Idcは基準値Iref2よりも大きい第3範囲に属し、判定結果は「0」となる。なぜなら、スイッチングパターンS1,S3,S5,S6において、下側スイッチング素子Swnに非導通の制御信号が与えられても、短絡故障により直流線LLと出力端Pwとが互いに導通するからである(例えば
図4)。このときのスイッチングパターンS1〜S6に対応する判定結果は、表3に示す通り、それぞれ「0」「正常」「0」「正常」「0」「0」となる。
【0075】
他の部分に短絡故障が生じた場合についても同様に説明できる。要するに、短絡故障が生じた部分に位置するスイッチング素子を導通させる2つスイッチングパターンの両方において、判定結果は「正常」であり、他のスイッチングパターンの全てにおいて、判定結果は「0」となる。
【0076】
上述の説明から理解できるように、短絡故障が生じた位置によって、判定結果のパターンが変わるので、判定結果のパターンに応じて、短絡故障が生じた位置を検出することができる。
【0077】
そこで、インバータ制御部41は、インバータ20にスイッチングパターンS1〜S6を順次に採用させるべく、これらのスイッチングパターンに対応した制御信号を順次に出力する。電流検出部50は、スイッチングパターンS1〜S6ごとに、直流電流Idcを検出する。電流判定部42はスイッチングパターンS1〜S6ごとに、直流電流Idcに基づく上記電流判定を行い、その判定結果を出力する。故障検出部43はスイッチングパターンS1〜S6の判定結果のパターンに基づいて、開放故障の位置および短絡故障の位置を検出する。
【0078】
表2を参照して、故障検出部43は、例えば判定結果のパターンが「Z」「Z」「正常」「正常」「正常」「正常」であれば、上側スイッチング素子Sup側に開放故障が生じていると判定する。
【0079】
上述した開放故障の検出方法について、より一般的な説明としてN相のインバータ20を用いて説明する。
【0080】
第k相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)および第m相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svn)の一組のみを導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS1)と、第k相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)および第n(1≦n≦1,n≠m,n≠k)相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Swn)を導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS2)との両方において、判定結果が「Z」であり、かつ、他のスイッチングパターンの全てにおいて、判定結果が「正常」であるときに、第k相の出力端(例えば出力端Pu)と直流線LHとの間に開放故障が生じたことを検出する。
【0081】
また、第k相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sun)および第m相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svp)の一組のみを導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS3)と、第k相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sun)および第n相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Swp)を導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS5)との両方において、判定結果が「Z」であり、かつ、他のスイッチングパターンの全てにおいて、判定結果が「正常」であるときに、第k相の出力端(例えば出力端Pu)と直流線LLとの間に開放故障が生じたことを検出する。
【0082】
表3を参照して、故障検出部43は、例えば判定結果が「正常」「正常」「0」「0」「0」「0」であれば、上側スイッチング素子Sup側に短絡故障が生じていると判定する。
【0083】
この短絡故障の検出方法についても、より一般的な説明としてN相のインバータ20を用いて説明する。
【0084】
第k相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)および第m相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svn)の一組のみを導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS1)と、第k相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sup)および第n相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Swn)を導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS2)との両方において、判定結果が「正常」であり、かつ、他のスイッチングパターンの全てにおいて、判定結果が「0」であるときに、第k相の出力端(例えば出力端Pu)と直流線LHとの間に短絡故障が生じたことを検出する。
【0085】
また、第k相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sun)および第m相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Svp)の一組のみを導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS3)と、第k相の下側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Sun)および第n相の上側スイッチング素子(例えばスイッチング素子Swp)を導通させるスイッチングパターン(例えばスイッチングパターンS5)との両方において、判定結果が「正常」であり、かつ、他のスイッチングパターンの全てにおいて、判定結果が「0」であるときに、第k相の出力端(例えば出力端Pu)と直流線LLとの間に短絡故障が生じたことを検出する。
【0086】
なお、表2および表3の判定結果のパターン(以下、登録パターンとも呼ぶ)と、故障の種類(開放故障/短絡故障)および位置との関係は、予め記憶部(不図示)に格納されていればよい。そして、判定結果のパターンが登録パターンのいずれと一致するのかを判定し、当該関係に基づいて故障を検出すればよい。
【0087】
以上のように、本故障検出方法によれば、短絡故障の位置および開放故障の位置を検出することができる。
【0088】
上述の例では、抵抗R31〜R33はスター結線によって互いに接続されている。しかるに抵抗R31〜R33はデルタ結線で接続されてもよい。この場合、基準値Iref1,Iref2を適宜に変更する必要がある。以下に、抵抗R31〜R33がデルタ結線で接続された場合にインバータ20に流れる電流および基準値Iref1,Iref2の設定について説明する。
【0089】
インバータ20に故障が生じていなければ、検査用のスイッチングパターンが採用されたときには、直流電流Idcは、抵抗R31〜R33のうちいずれか一つの抵抗と、他の2つの抵抗の直列回路との並列回路を流れる。検査用のスイッチングパターンでは、互いに異なる相の上側スイッチング素子の一つおよび下側スイッチング素子の一つが導通するからである。よって、正常な直流電流Idcは以下の式で表される。
【0090】
Idc=Vdc/(2・R/3) ・・・(3)
【0091】
また当該スイッチングパターンにおいて導通の制御信号が与えられたスイッチング素子に開放故障が生じている場合には、直流電流Idcはほぼ零である。よって、開放故障を検出するための基準値Iref1としては、式(3)で表される直流電流Idcよりも小さい正の値を採用すればよい。
【0092】
また例えばスイッチング素子Sup,Svnを導通させるスイッチングパターンにおいてスイッチング素子Swn側に短絡故障が生じていた場合には、1つの抵抗は短絡故障が生じている側のスイッチング素子で短絡されたことに相当し、直流電流Idcは互いに並列に接続された残りの2つの抵抗を流れることになる。よって、直流電流Idcは以下の式で表される。
【0093】
Idc=2・Vdc/R ・・・(4)
【0094】
よって短絡故障を検出するための基準値Iref2としては、式(3)の直流電流Idcと式(4)の直流電流Idcとの間の値を採用すればよい。
【0095】
また、上述の例では負荷30は抵抗R31〜R33であるものの、負荷30はモータであってもよい。この場合、電機子巻線の抵抗成分を抵抗R31〜R33として考慮することができる。ただし、電機子巻線のインダクタンス成分によって、直流電流Idcは時間の経過と共に変化して定常値に至る。よって例えばこの定常値を直流電流Idcとして考慮してもよい。あるいは制御信号を出力してから予め定められた時間が経過した時点での直流電流Idcを用いてもよい。
【0096】
また、インバータ20には、例えば過電流保護機能が設けられている場合がある。過電流保護機能とは、インバータ20に流れる直流電流Idcが基準値を超えたときに、インバータ20を停止させる機能である。これにより、インバータ20に過電流が流れることを抑制している。
【0097】
この過電流保護機能は、例えば
図6に示す電流検出部50と比較部421とインバータ制御部41とによって実現される。比較部421には、基準値Iref1,Iref2のいずれか一方と、電流検出部50によって検出される直流電流Idcとが入力される。ここでは一例として基準値Iref2が比較部421に入力される。この基準値Iref2は例えば直流電圧で表現され、
図6の例示では、この直流電圧が比較部421に入力されている。比較部421は例えばコンパレータであって、直流電流Idcと基準値Iref2とを比較し、その比較結果を出力する。
【0098】
インバータ制御部41は、上述した検査用のスイッチングパターンのみならず、インバータ20に交流電圧を出力させる制御信号を出力することができる。このような制御信号の生成は公知である。例えばインバータ20が出力する交流電圧についての指令値と、三角波との比較に基づいて、制御信号を生成することができる。この制御信号がインバータ20のスイッチング素子に与えられることで、インバータ20は直流電圧Vdcを交流電圧に変換して出力することができる。
【0099】
このインバータ制御部41には比較部421の比較結果が入力されている。インバータ制御部41は、この比較結果に基づいてインバータ20を保護する。例えば直流電流Idcが基準値Iref2よりも大きいときに、インバータ20を停止させる。より具体的には、例えばスイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを非導通とする。これにより、インバータ20に基準値Iref2を超える直流電流Idcが流れることを抑制することができる。
【0100】
図6の例示では、比較部421の比較結果は故障検出部43にも入力される。また
図6では、比較部422も設けられている。比較部422には、電流検出部50によって検出される直流電流Idcと、基準値Iref1とが入力される。基準値Iref1も例えば直流電圧で表現され、
図6の例示では、この直流電圧が比較部422に入力されている。比較部422は例えばコンパレータであって、直流電流Idcと基準値Iref1とを比較し、その比較結果を故障検出部43へと出力する。
【0101】
故障検出部43は、比較部421,422の比較結果によって直流電流Idcが第1範囲から第3範囲のいずれに属しているのかを判定できる。
【0102】
故障検出部43は、例えばインバータ制御部41へと検査開始の指示を出力する。これに応答して、インバータ制御部41は、検査用のスイッチングパターンをインバータ20に採用させるべく、制御信号を出力する。電流検出部50はスイッチングパターンが採用された状態で直流電流Idcを検出する。比較部421,422の各々は直流電流Idcと基準値Iref2,Iref1の各々とを比較し、その比較結果を故障検出部43へと出力する。故障検出部43は、直流電流Idcに基づいて上述のように開放故障および短絡故障を検出する。
【0103】
故障検査の観点では、比較部421,422は電流判定部42に属すると考えることができる。
【0104】
以上のように、
図6の例示では、比較部421が過電流保護と、故障検査との両方に用いられている。したがって、過電流保護用の比較部と故障検出用の比較部との両方を設ける場合に比べて、製造コストを低減することができる。
【0105】
また上述の例では、過電流保護のためにインバータ20を停止した。しかるに、過電流保護とは別の観点で、直流電流Idcと基準値との大小関係に基づいてインバータ20を停止してもよい。例えば直流電流Idcが小さいことを検出したときに、故障が生じたと判定して、インバータ20を停止してもよい。このような場合に、比較部421または比較部422の比較結果をインバータ20の停止のための条件判定に用いることができる。これによれば、インバータ20の停止の条件判定のための比較部と、故障検出用の比較部との両方を設ける場合に比べて、製造コストを低減できる。
【0106】
なお、
図6において、例えばインバータ20、電流検出部50、比較部421およびインバータ制御部41は、製品側に搭載される。つまりインバータ20がモータを駆動する場合には、モータ駆動装置としての製品に、これらが搭載される。よって検査装置としては、比較部421との接続部、比較部422および故障検出部43が設けられれば良い。
【0107】
また比較部422および故障検出部43の少なくともいずれか一方が製品に搭載されていても構わない。あるいは、検査用のスイッチングパターンに対応する制御信号を出力する制御信号出力部がインバータ制御部41とは別に設けられ、この制御信号出力部が検査装置側に設けられてもよい。
【0108】
また、本発明は、その発明の範囲内において、相互に矛盾しない限り、上記の種々の実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。