(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記触媒担持カーボンに対する前記プロトン伝導性高分子の比率が0.8以上1.1以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
前記本分散工程で得られた触媒インクを基材表面に塗工する塗工工程と、前記基材表面に塗工された触媒インクの塗膜から溶媒成分を一部除去して前記塗膜を半乾燥触媒層とするプレ乾燥工程と、前記半乾燥触媒層から溶媒成分を除去して乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素を燃料として、水の電気分解の逆反応を起こさせることにより電気を生み出す発電システムである。これは、従来の発電方式と比較して高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。中でも室温付近で使用可能な固体高分子形燃料電池は、車載用電源や家庭用定置電源などへの使用が有望視されており、近年、固体高分子形燃料電池に関する様々な研究開発が行われている。その実用化に向けての課題としては、発電特性や耐久性などの電池性能向上、インフラ設備や製造コストの低減が挙げられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層されて構成されている。単セルは、酸化極と還元極の二つの電極で高分子電解質膜を挟んで接合された膜電極接合体を、ガス流路を有するセパレーターで挟んだ構造をしている。
固体高分子形燃料電池では、高分子電解質膜や電極触媒層中のプロトン伝導性高分子のプロトン伝導性や導電性を確保するために、膜電極接合体を加湿する必要があるが、加湿する為には加湿器が必要となり、燃料電池システム全体のコスト高につながってしまう。その為、低加湿での運転が好ましく、さらには無加湿運転が望ましい。
【0004】
低加湿条件でも高い電池特性を得る方法としては、例えば、特許文献1に記載されているような、電極触媒層中のプロトン伝導性ポリマーの構造を変更することによって導電性を向上させる方法がある。特許文献1によれば、電極触媒層中のプロトン伝導性ポリマーの導電性が向上することにより、セル電圧の向上が可能となる。
【0005】
また、低加湿条件でも高い電池特性を得る別の方法としては、例えば、特許文献2に記載されているような、導電性担体に対する高分子電解質の比率x(x=高分子電解質の質量/導電性担体の質量)を0.8≦x≦1.0とする方法がある。特許文献2によれば、電極触媒層における構成成分及びその配合比を最適化することにより、燃料電池の初期特性と耐久性の向上が可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1による方法では、電極触媒層中のプロトン伝導性高分子と高分子電解質膜中のプロトン伝導性高分子の構造が異なることとなり、電極触媒層と高分子電解質膜との界面抵抗の増大や、湿度変化時の電極触媒層と高分子電解質膜における寸法変化率の違いによる膜電極接合体の歪みや損傷が生じる可能性がある。
また、特許文献2による方法では、構成成分及びその配合比が最適化されているものの、触媒層の内部構造が制御しきれておらず、製造方法によっては電池特性が低下する可能性がある。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、高温低加湿環境下においても高い発電特性を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法と固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、高分子電解質膜の両面に、少なくともプロトン伝導性高分子と触媒担持カーボンを含む電極触媒層が接合された固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であって、前記電極触媒層のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riが相対湿度20%、交流インピーダンス10kHz〜100Hzの測定条件下で2Ωcm
2以上5Ωcm
2以下の範囲内であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記電極触媒層の厚さが1μm以上15μm以下の範囲内であることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、前記触媒担持カーボンに対する前記プロトン伝導性高分子の比率が0.8以上1.1以下であることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を製造する方法であって、触媒担持カーボンと溶媒とを混合して前記触媒担持カーボンを溶媒中に分散させるプレ分散工程と、前記プレ分散工程で得られた触媒担持カーボン分散液に少なくともプロトン伝導性高分子を加えて混合し、前記触媒担持カーボンと前記プロトン伝導性高分子とを溶媒中に分散させる本分散工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記本分散工程で得られた触媒インクを基材表面に塗工する塗工工程と、前記基材表面に塗工された触媒インクの塗膜から溶媒成分を一部除去して前記塗膜を半乾燥触媒層とするプレ乾燥工程と、前記半乾燥触媒層から溶媒成分を除去して乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、高温低加湿環境下においても高い発電特性を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を得ることが可能となる。
請求項2に係る発明によれば、高い発電性能を維持しつつ、触媒層表面のひび割れ等の問題のない固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供することが可能となる。
請求項3に係る発明によれば、ガスや水の拡散性を維持しつつ、高いプロトン伝導性を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を得ることが可能となる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、触媒担持カーボンの分散性が向上することにより触媒利用率が向上し、高い発電特性を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を得ることが可能となる。
請求項5に係る発明によれば、触媒インクに含まれる溶媒成分による高分子電解質膜の膨潤を抑えつつ、高いプロトン伝導性を有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を得ることが可能となる。
請求項6に係る発明によれば、高温低加湿環境下においても高い発電特性を有する固体高分子形燃料電池を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
本発明は、固体高分子形燃料電池が有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体と、固体高分子形燃料電池が有する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を製造する方法(製造方法)を提供するものである。
【0016】
具体的には、本発明では、膜電極接合体の高温低加湿環境下における発電特性について鋭意検討を行った結果、発電性能の高低には電極触媒層におけるプロトン伝導性高分子の抵抗値Riが大きく影響していることを見出した。そこで、本発明では、電極触媒層におけるプロトン伝導性高分子の抵抗値Riを所定の範囲内とすることで、高温低加湿環境下においても高い発電特性を有する固体高分子形燃料電池を得ることが可能となった。
【0017】
さらに、本発明では、高温低加湿環境下におけるプロトン伝導性高分子の抵抗値Riについて鋭意検討を行った結果、プロトン伝導性高分子の抵抗値Riの高低には電極触媒層の製造方法が大きく影響していることを見出した。そこで、本発明では、少なくとも触媒担持カーボンと溶媒とを混合し、分散処理を加えた後に、得られた触媒担持カーボン分散液に少なくともプロトン伝導性高分子と溶媒を混合し、分散処理を加えることで、電極触媒層におけるプロトン伝導性高分子の抵抗値Riを所定の範囲内とすることが可能となった。また、少なくともプロトン伝導性高分子と触媒担持カーボンと溶媒を含む触媒インクを塗工し、その触媒インクの塗膜から溶媒成分を一部除去して半乾燥触媒層とした後に、半乾燥触媒層から溶媒成分を除去して乾燥させることにより、電極触媒層におけるプロトン伝導性高分子の抵抗値Riを所定の範囲内とすることが可能となった。
【0018】
(構成)
図1は、本実施形態に係る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を示す図である。
図1に示される固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(以下、燃料電池用膜電極接合体という)1はカソード触媒層2及びアノード触媒層3を具備し、これらの電極触媒層2,3は少なくともプロトン伝導性高分子と触媒担持カーボンを含んで構成されている。また、燃料電池用膜電極接合体1は高分子電解質膜4を具備し、この高分子電解質膜4の一方の表面にカソード触媒層2が接合されていると共に、高分子電解質膜4の他方の表面にアノード触媒層3が接合されている。
【0019】
電極触媒層2,3のプロトン伝導性高分子は、その抵抗値Riが相対湿度20%、交流インピーダンス10kHz〜100Hzの測定条件下で2Ωcm
2以上5Ωcm
2以下の範囲内、より好ましくは3Ωcm
2以上5Ωcm
2以下の範囲内である。この範囲よりも高い抵抗値では燃料電池の出力が低下し、この範囲よりも低い抵抗値では短絡している可能性がある。
【0020】
電極触媒層2,3のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riは、周波数応答アナライザとポテンショガルバノスタット、例えば、Solartron社製12608W型(1260/1287)や1280C型などの電気化学評価装置を用いた交流インピーダンス測定により求めることができる。
【0021】
カソード触媒層2の厚さは、0.1μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3μm以上15μm以下の範囲内であり、さらに好ましくは10μm以上15μm以下の範囲内である。この範囲よりも厚い場合には、触媒層表面にひび割れが生じたり、ガスや生成する水の拡散を妨げたりして燃料電池の出力が低下する可能性があり、また、触媒層のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riを所望の範囲、具体的には5Ωcm
2以下の範囲にすることが困難である。一方、この範囲よりも薄い場合には、面内の触媒やプロトン伝導性高分子が不均一となる可能性がある。
【0022】
アノード触媒層3の厚さは、0.1μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上5μm以下の範囲内である。この範囲よりも厚い場合には、触媒層表面にひび割れが生じたり、燃料の供給を妨げたりして燃料電池の出力が低下する可能性があり、また、触媒層のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riを所望の範囲、具体的には5Ωcm
2以下の範囲にすることが困難である。一方、この範囲よりも薄い場合には、面内の触媒やプロトン伝導性高分子が不均一となる可能性がある。
【0023】
カソード触媒層2及びアノード触媒層3の厚さは、例えば、以下のようにして確認することができる。走査型電子顕微鏡(SEM)で3000倍から10000倍程度で5箇所以上の断面を観察し、各観察点で3点以上厚さを計測し、その平均値を各観察点での代表値とする。この代表値の平均値を、触媒層厚さとする。
電極触媒層2,3のカーボン担体に対するプロトン伝導性高分子の比率は、0.8以上1.1以下の範囲内であることが好ましい。この範囲よりも高い場合には、プロトン伝導性高分子がガスや生成する水の拡散を妨げて燃料電池の出力が低下する可能性があり、この範囲よりも低い場合には、プロトン伝導性高分子の触媒への絡みが不十分となり、燃料電池の出力が低下する可能性がある。
【0024】
電極触媒層2,3及び高分子電解質膜4のプロトン伝導性高分子には様々なものが用いられるが、電極触媒層2,3と高分子電解質膜4との界面抵抗や、電極触媒層2,3及び高分子電解質膜4の湿度変化による寸法変化率の点を考慮すると、使用するプロトン伝導性高分子は電極触媒層2,3と高分子電解質膜4とで同じ成分であることが好ましい。
また、電極触媒層2,3及び高分子電解質膜4に用いられるプロトン電導性高分子はプロトン伝導性を有するものであれば良く、フッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を用いることが可能である。
【0025】
フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることが可能である。
また、炭化水素系高分子電解質としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることが可能である。
【0026】
特に、高分子電解質膜4としてデュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることが可能である。
電極触媒層2,3の触媒としては白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属またはこれらの合金、または酸化物、複酸化物、炭化物などを用いることが可能である。
【0027】
また、これらの触媒を担持するカーボンは、微粉末状で導電性を有し、触媒に侵されないものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレンが好適に用いることができる。なお、導電性を有し、触媒に侵されないものであれば、カーボン以外の担体を用いても良い。
【0028】
(固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法)
図1に示した燃料電池用膜電極接合体1の製造方法について、
図2及び
図3を参照して説明する。
まず、
図2に示すように、少なくとも触媒担持カーボン12と溶媒11とを混合し、触媒担持カーボン12が溶媒11中に分散した触媒担持カーボン分散液13を得る(プレ分散工程16)。
【0029】
次に、プレ分散工程16で得られた触媒担持カーボン分散液13に、少なくともプロトン伝導性高分子が溶媒中に分散したプロトン伝導性高分子分散液14を添加し、触媒担持カーボン12とプロトン伝導性高分子が溶媒中に分散するように触媒担持カーボン分散液13とプロトン伝導性高分子分散液14とを混合して触媒インク15を得る(本分散工程17)。
【0030】
プレ分散工程16及び本分散工程17では、例えば、遊星ボールミル、ビーズミル、超音波ホモジナイザー等の様々な手法を用いることが可能である。
また、触媒インク15を得るときに用いる溶媒としては、触媒粒子やプロトン伝導性高分子を浸食することがなく、流動性の高い状態でプロトン伝導性高分子を溶解または微細ゲルとして分散できるものであれば良く、特に制限はない。
【0031】
なお、溶媒にはプロトン伝導性高分子とのなじみが良いものであれば水が含まれていても良い。水の添加量は、プロトン伝導性ポリマーが分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば良く、特に制限はない。
また、溶媒としては揮発性の液体有機溶媒を用いても良いが、低級アルコールを用いると発火の危険性が高いことから、このような溶媒を用いる際は水との混合溶媒とすることが好ましい。
【0032】
本分散工程17で触媒インク15を得たならば、
図3に示すように、シート状に形成された基材21の表面に触媒インク15を塗布し、触媒インク15の塗膜から溶媒成分の一部が除去された半乾燥触媒層22となるまで基材21の表面に塗布された触媒インク15を半乾燥させる(塗工工程23及びプレ乾燥工程24)。そして、半乾燥触媒層22が電極触媒層2となるまで半乾燥触媒層22を乾燥させて半乾燥触媒層22から溶媒成分を除去する(乾燥工程25)。
【0033】
触媒インク15が塗布される基材21としては、例えばエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの転写性に優れたフッ素系樹脂を用いることができる。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレートなどの高分子フィルムも用いることができる。さらに、高分子電解質膜を基材21として用い、触媒インク15を直接塗布することも可能である。
【0034】
塗工工程23では、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、スキージーなど様々な塗工方法を用いることが可能であるが、塗布中間部分の膜厚が安定しており間欠塗工にも対応可能であるダイコートを、特に好適に用いることが可能である。
プレ乾燥工程24及び乾燥工程25では、例えば、温風オーブン、IR乾燥、減圧乾燥等を用いることが可能である。
【0035】
塗工工程23において高分子電解質膜4を基材21として用いた場合には、上述した工程で電極触媒層2を形成した後に、電極触媒層2が形成された高分子電解質膜4の表面と反対側の表面に対しても同様の工程で電極触媒層3を形成することにより、
図1に示すような燃料電池用膜電極接合体1が得られる。
【0036】
塗工工程23において基材として高分子電解質膜以外、例えば、高分子フィルムを用いた場合には、上述した工程によってカソード触媒層2とアノード触媒層3をそれぞれ形成し、高分子電解質膜4を挟んで基材表面同士を対向させたうえ、位置合わせを行った積層体を加熱・加圧することにより、高分子電解質膜4の両面にカソード触媒層2とアノード触媒層3が接合される。その後、カソード触媒層2とアノード触媒層3の表面からシート状基材21を剥離することにより、
図1に示すような燃料電池用膜電極接合体1が得られる。
【0037】
接合工程で電極触媒層2,3にかかる圧力は、固体高分子形燃料電池の電池性能に影響するため、電池性能の良い固体高分子形燃料電池を得るためには、電極触媒層2,3にかかる圧力を0.5MPa以上20MPa以下にすることが望ましく、より望ましくは2MP以上15MPa以下にすることが好ましい。これ以上の圧力では電極触媒層2,3が圧縮されすぎ、またこれ以下の圧力では電極触媒層2,3と高分子電解質膜4との接合性が低下して電池性能が低下する。
【0038】
また、接合時の温度は、電極触媒層2,3のプロトン電導性高分子のガラス転移点付近に設定するのが、高分子電解質膜4と電極触媒層2,3との接合性が向上し、界面抵抗を抑えられる点で効果的であり、望ましい。
上述した方法で燃料電池用膜電極接合体を製造したときの電極触媒層の状態を
図4に示すとともに、プレ分散工程を経ずに得られた触媒インクを用いて燃料電池用膜電極接合体を製造したときの電極触媒層の状態を
図5に示す。
【0039】
燃料電池の酸化還元反応は、電極触媒層の触媒32(
図4参照)が電子伝導体であるカーボン担体33とプロトン伝導性高分子31の両方に接し、かつ導入ガスが吸着しうる触媒32の表面(三相界面)でのみ起こる。このため、カーボン担体33とプロトン伝導性高分子31の比率が0.8以上1.1以下の範囲内である場合は、
図4に示すように、電極触媒層2,3のカーボン担体33とプロトン伝導性高分子31は三相界面の面積が大きい構造となり、かつ三相界面へのプロトンや燃料ガスの供給パスが良好となるため、電池性能の向上が可能である。
【0040】
一方、カーボン担体33とプロトン伝導性高分子31の比率が1.1より高い場合は、
図5(a)に示すように、プロトン伝導性高分子31がガスや生成する水の拡散を妨げて燃料電池の出力を低下させる可能性がある。さらに、カーボン担体33とプロトン伝導性高分子31の比率が0.8より低い場合は、
図5(b)に示すように、プロトン伝導性高分子31の触媒32への絡みが不十分となって燃料電池の出力を低下させる可能性がある。
【0041】
また、プレ分散工程16を経ずに得られた触媒インクを用いて電極触媒層2,3を形成すると、
図5(c)に示すように、触媒担持カーボンの凝集が発生し、三層界面でない所に存在する触媒32が多くなり、電極の酸化還元反応に寄与しなくなるため、燃料電池の出力が低下する可能性がある。
さらに、
図5(d)に示すように、プロトン伝導性高分子31の凝集が発生し、三層界面でない所に存在する触媒32が多くなり、電極の酸化還元反応に寄与しないため、燃料電池の出力が低下する可能性がある。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明の実施例と比較例について説明する。
(実施例1)
白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と水、エタノールの混合溶媒を混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、触媒担持カーボン分散液を調製した。次に、この触媒担持カーボン分散液にプロトン伝導性高分子(ナフィオン:Nafion,デュポン社の登録商標)分散液を、カーボン担体に対するプロトン伝導性高分子の比率xが1となるように混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、触媒インクを調製した。そして、調整した触媒インクを、PTFEフィルムの表面にスリットダイコーターにより矩形に塗布し、続けて、触媒インクが塗布されたPTFEフィルムを70℃の温風オーブンに入れて、触媒インクのタックがなくなるまで乾燥させた。さらに、半乾燥触媒層が形成されたPTFEフィルムを100℃の温風オーブンに入れて、触媒層を乾燥させ、カソード触媒層をPTFE表面に形成した。また、同様の方法により、アノード触媒層をPTFE表面に形成した。
そして、PTFEフィルム上に形成したアノード触媒層とカソード触媒層を、高分子電解質膜(ナフィオン212:登録商標、Dupont社製)の両面に対面するように配置し、この積層体をホットプレスした後にPTFEフィルムを剥離することで、実施例1の膜電極接合体を得た。
【0043】
(実施例2)
プレ分散工程において遊星型ボールミルのかわりに超音波ホモジナイザーを使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2の膜電極接合体を得た。
(実施例3)
プレ乾燥工程において温風オーブンのかわりにIR乾燥炉を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例3の膜電極接合体を得た。
(実施例4)
カーボン担体に対するプロトン伝導性高分子の比率xが0.8となるように触媒インクを調製した以外は実施例1と同様にして、実施例4の膜電極接合体を得た。
(実施例5)
カーボン担体に対するプロトン伝導性高分子の比率xが1.1となるように触媒インクを調製した以外は実施例1と同様にして、実施例5の膜電極接合体を得た。
【0044】
(比較例1)
カーボン担体に対するプロトン伝導性高分子の比率xが0.7となるように触媒インクを調製した以外は実施例1と同様にして、比較例1の膜電極接合体を得た。
(比較例2)
カーボン担体に対するプロトン伝導性高分子の比率xが1.2となるように触媒インクを調製した以外は実施例1と同様にして、比較例2の膜電極接合体を得た。
(比較例3)
白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と水、エタノールの混合溶媒とプロトン伝導性高分子(ナフィオン:Nafion,デュポン社の登録商標)分散液を混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、触媒インクを調製した以外は実施例1と同様にして、比較例3の膜電極接合体を得た。
(比較例4)
触媒インクが塗布されたPTFEフィルムを100℃の温風オーブンに入れて触媒層を乾燥させた以外は実施例1と同様にして、比較例4の膜電極接合体を得た。
【0045】
(評価)
以下、実施例1〜5と比較例1〜4を用いて、高温低加湿環境下における電極触媒層中のプロトン伝導性高分子の抵抗値Ri及び発電性能を比較した結果を説明する。なお、膜電極接合体の両面にガス拡散層およびガスケット、セパレーターを配置し、所定の面圧となるように締め付けたセルを評価用単セルとして用いた。
【0046】
(電極触媒層中のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riの測定)
電極触媒層中のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riの測定は、R.Makhariaetal,Journal of The Electrochemical,152(5) A970−A977(2005)に記載の方法に準じて行った。
具体的には、まず、評価用単セルを80℃に設定し、アノード側に20%RHの水素ガス、カソード側に20%RHの窒素ガスを供給した。交流インピーダンス測定には、Solatino社製周波数応答アナライザ1260型とSolatino社製ポテンショガルバノスタット1287型を接続して使用し、印加電圧500mV、電位振幅10mVに設定して周波数10kHzから100Hzまで徐々に変化させた際の交流インピーダンスのナイキストプロットを得た。
【0047】
ナイキストプロットにおいて、高周波数領域(45°領域)を直線近似した際の実軸との交点の座標(Z1,Z’1)と、高周波数領域の直線近似線と低周波数領域の直線近似線との交点の座標(Z2,Z’2)である時、Z2−Z1がRi/3に相当するため、上述の交流インピーダンス測定によって得られるRi/3の値を3倍することによってRiを算出した。このRiは、カソード触媒層及びアノード触媒層に含まれるプロトン伝導性高分子の抵抗値であり、高分子電解質膜に含まれるプロトン伝導性高分子の抵抗値と区別することができる。
【0048】
(発電性能の測定)
評価用単セルを80℃に設定し、アノード側に25%RHの水素ガス、カソード側に25%SolatinoHの空気を供給した。水素利用率60%、空気利用率50%として、電流密度0.5A/cm
2にて5分間発電保持した後のセル電圧を測定することで、発電性能の測定とした。
(比較結果)
実施例1〜5と比較例1〜4の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を用いた際の高温低加湿環境下の抵抗値Ri及びセル電圧を測定した結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜5においては、電極触媒層中のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riが所定の範囲内であり、発電性能の優れた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体が得られた。一方、比較例1〜4においては、電極触媒層中のプロトン伝導性高分子の抵抗値Riが所定の範囲よりも大きくなり、発電性能が低下した。