特許第6131961号(P6131961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131961
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/42 20060101AFI20170515BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20170515BHJP
   C08K 5/156 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C08G64/42
   C08L69/00
   C08K5/156
【請求項の数】10
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2014-547044(P2014-547044)
(86)(22)【出願日】2013年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2013080845
(87)【国際公開番号】WO2014077341
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-252795(P2012-252795)
(32)【優先日】2012年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(72)【発明者】
【氏名】伊佐早 禎則
(72)【発明者】
【氏名】平島 敦
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 淳也
(72)【発明者】
【氏名】磯部 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】徳竹 大地
(72)【発明者】
【氏名】新開 洋介
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/062220(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/108510(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/157766(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 − 64/42
C08L 1/00 − 101/16
C08K 3/00 − 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II)で表される構造単位、並びに下記一般式(1)及び(2)で表される構造単位のうち少なくとも一つの単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、前記一般式(1)及び(2)で表される構造単位を合計でジフェノール酸換算値で5000ppm以下含有し、下記一般式(h2)で表される環状カーボネートを3000ppm以下含有し、且つ前記芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が35,000〜100,000である、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物:
一般式(II):
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表し、p及びqは、0〜4の整数を表し、Xは、単結合又は下記(II’)の群から選択される基を表す)
【化2】

(ここで、R及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表すか、あるいはRとRは、相互に結合して脂肪族環を形成していてもよい);
一般式(1):
【化3】

一般式(2):
【化4】

(式中、Xは、一般式(II)におけるのと同じである);
一般式(h2):
【化5】

(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよく、R〜Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す)。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造単位をジフェノール酸換算値で2000ppm以下含有する、請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)及び(2)で表される構造単位を、それぞれジフェノール酸換算値で2000ppm以下含有する、請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
さらに下記一般式(3)で表される構造単位をジフェノール酸換算値で150ppm以下含有する、請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物:
一般式(3):
【化6】

(式中、Xは一般式(II)におけるのと同じである)。
【請求項5】
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h3)で表される化合物である、請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(h3):
【化7】

(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい)。
【請求項6】
下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が1.25以下である、請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【請求項7】
熱滞留試験(360℃で60分間)後の分子量(Mw)保持率が50%以上である、請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと下記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物とを常圧で混合してプレポリマー混合物としたのち、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む、方法:
一般式(g2):
【化8】

(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよく、R〜Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、nは、1〜3の整数を表す)。
【請求項9】
前記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g3)で表される化合物であることを特徴とする、請求項8記載の製造方法:
一般式(g3):
【化9】

(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい)。
【請求項10】
前記脂肪族ジオール化合物が、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択される、請求項9記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、高分子量であって且つ異種構造が少なく良好な品質を保持し、しかも熱安定性に優れた、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその改良された製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れるため、近年、多くの分野において幅広く用いられている。
このポリカーボネートの製造方法においては、従来多くの検討がなされている。その中で、芳香族ジヒドロキシ化合物、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という)から誘導されるポリカーボネートは、界面重合法あるいは溶融重合法の両製造方法により工業化されている。
【0003】
この界面重合法によれば、ポリカーボネートはビスフェノールAとホスゲンとから製造されるが、有毒なホスゲンを用いなければならない。また、副生する塩化水素や塩化ナトリウム及び溶媒として大量に使用する塩化メチレンなどの含塩素化合物により装置が腐食することや、ポリマー物性に影響を与える塩化ナトリウムなどの不純物や残留塩化メチレンの除去が困難なこと、大量の廃水がでるため廃水処理が問題となることなどが、課題として残る。
【0004】
一方、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとからポリカーボネートを製造する方法としては、例えばビスフェノールAとジフェニルカーボネートを溶融状態でエステル交換反応により、副生する芳香族モノヒドロキシ化合物を除去しながら重合する溶融重合法が古くから知られている。溶融重合法は、界面重合法と異なり溶媒を使用しない等の利点を有しているが、重合が進行すると共に系内のポリマー粘度が急激に上昇し、副生する芳香族モノヒドロキシ化合物を効率よく系外に除去することが困難になり、反応速度が極端に低下し重合度を上げにくくなるという本質的な問題点を有している。
【0005】
この問題を解決するべく、高粘度状態のポリマーから芳香族モノヒドロキシ化合物を抜き出すための種々の工夫が検討されている。例えば、特許文献1(特公昭50−19600号公報)ではベント部を有するスクリュー型重合器が開示され、さらに特許文献2(特開平2−153923号公報)では薄膜蒸発装置と横型重合装置の組み合わせを用いる方法も開示されている。
【0006】
また、特許文献3(米国特許第5,521,275号公報)では芳香族ポリカーボネートの分子量転換を触媒の存在下、ポリマーシール部及びベント部を有する押出機を用いて減圧条件で行う方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの公報に開示されている方法ではポリカーボネートの分子量を十分に増加させることはできない。上記のような触媒を大量に使用する方法あるいは高剪断を与えるような厳しい条件により高分子量化を実施すると、樹脂の色相劣化あるいは架橋反応の進行等、樹脂に悪影響を及ぼす。
【0008】
さらに、溶融重合法において反応系に重合促進剤を添加することによってポリカーボネートの重合度を高めることが知られている。分子量の増大を短い反応滞留時間及び低い反応温度により実施することはポリカーボネートの生産量を高め、ひいては簡単で安価な反応器の設計を容易にできる。
【0009】
特許文献4(欧州特許第0595608号公報)では、分子量転換時にいくつかのジアリールカーボネートを反応させる方法が開示されるが、有意な分子量の増大は得られない。また、特許文献5(米国特許第5,696,222号)には、ある種の重合促進剤、例えばビス(2−メトキシフェニル)カーボネート、ビス(2−エトキシフェニル)カーボネート、ビス(2−クロロフェニル)カーボネート、ビス(2−メトキシフェニル)テレフタレート及びビス(2−メトキシフェニル)アジペートを始めとする炭酸及びジカルボン酸のアリールエステル化合物の添加により重合度の高まったポリカーボネートを製造する方法が開示されている。前記特許文献5では、重合促進剤としてエステル化合物を使用するとエステル結合が導入され、その結果(ホモポリマーの代わりに)ポリエステルカーボネートコポリマーが生成するので、加水分解安定性が低いことが教示されている。
【0010】
特許文献6(特許第4112979号公報)では芳香族ポリカーボネートの分子量増大を図るためいくつかのビスサリチルカーボネートを反応させる方法が開示される。
特許文献7(特表2008−514754号公報)には、ポリカーボネートオリゴマーとビスサリチルカーボネート等を押出機に導入して高分子量化する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献8(特許第4286914号公報)には活性水素化合物(ジヒドロキシ化合物)により末端水酸基量を増大させ、しかるのちにサリチル酸エステル誘導体により末端水酸基量の増大した芳香族ポリカーボネートのカップリングを行う方法が開示されている。
【0012】
しかしながら、ポリカーボネートの末端水酸基を増大させる必要のある上記公報に開示されている方法は、活性水素化合物との反応工程とサリチル酸エステル誘導体との反応工程を要するため工程が煩雑であり、且つ水酸基末端の多いポリカーボネートは熱安定性が低く、物性の低下の危険性を有する。また活性水素化合物による水酸基量の増大は一部鎖分断反応を誘導し、分子量分布の拡大を伴う。さらに十分な反応速度を得るために触媒を比較的多く使用する必要があり、成形加工時の物性低下を招く可能性が考えられる。
【0013】
また、ジオール化合物を反応系に添加してポリカーボネートを製造する方法は、いくつか提案されている。例えば、特許文献9(特公平6−94501号公報)には、1,4−シクロヘキサンジオール導入による高分子ポリカーボネートの製造方法が開示されている。しかしながら、ここに開示された方法では、1,4−シクロヘキサンジオールを芳香族ジヒドロキシ化合物と共に重縮合反応系のはじめから投入しているため、1,4−シクロヘキサンジオールが先にポリカーボネート化反応に消費され(オリゴマー化)、その後芳香族ジヒドロキシ化合物が反応して高分子量化するものと考えられる。このため、比較的反応時間が長くなり、色相等の外観物性が低下しやすいという欠点がある。
【0014】
また、特許文献10(特開2009−102536号公報)には、特定の脂肪族ジオールとエーテルジオールを共重合させるポリカーボネートの製造方法が記載されている。しかしながら、ここに開示されたポリカーボネートは、イソソルビド骨格を主な構造とするため、芳香族ポリカーボネートに要求される優れた耐衝撃性が発現しない。
【0015】
また、環状カーボネート化合物を反応系に添加する方法(特許文献11;特許第3271353号公報)、水酸基の塩基性が使用するジヒドロキシ化合物以上であるジオールを反応系に添加する方法(特許文献12;特許第3301453号公報)などが提案されているが、いずれも十分に満足する物性を有する高分子量ポリカーボネート樹脂が得られるものではない。
【0016】
このように、従来の高分子量芳香族ポリカーボネートの製造方法は多くの課題を有しており、ポリカーボネート本来の良好な品質を保持し、且つ十分な高分子量化を達成しうる改良された製造法に対する要求は未だに存在する。
【0017】
本発明者らは先に、高速な重合速度を達成し、良好な品質の芳香族ポリカーボネートを得る方法として、芳香族ポリカーボネートの封止末端を脂肪族ジオール化合物により連結して鎖延長する新しい方法を見出した(特許文献13;国際公開第2011/062220号パンフレット)。この方法によれば、芳香族ポリカーボネートの封止末端を脂肪族ジオール化合物により連結して鎖延長することにより、Mwが30,000〜100,000程度の高重合度の芳香族ポリカーボネート樹脂を短時間に製造することができる。この方法は、高速な重合反応によってポリカーボネートを製造するため、長時間の熱滞留等により生じる分岐・架橋化反応を抑制、色相等の樹脂劣化を回避することができる。
【0018】
また本発明者らは先に、分岐構造を導入した芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下、減圧条件でエステル交換反応させる工程を含む、所望の分岐化度を有する分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を提案した(特許文献14;国際公開第2012/108510号パンフレット)。
【0019】
これらの脂肪族ジオール化合物からなる連結剤を用いてポリカーボネートを高分子量化する方法は、ポリカーボネート本来の良好な品質を保持し、且つ十分な高分子量化が達成されたポリカーボネート樹脂を、簡便且つ迅速に製造することができるが、より熱安定性が良好な高分子量ポリカーボネート樹脂の開発が望まれている。
【0020】
熱安定性を損なう要因の一つとして、ポリカーボネート樹脂中に存在する異種構造が挙げられる。溶融重合法を用いて得られるポリカーボネート樹脂において、主鎖中に少なからず異種構造が存在する問題点は既に知られているが、溶融重合法で異種構造の割合が少ないポリカーボネート樹脂を製造することは容易ではなく、逆に異種構造の存在を肯定的に捉えて溶融特性や成形性を向上させる工夫が多く提案されている(特許文献15〜23)。
【0021】
溶融重合法を用いて高分子量ながら異種構造の割合が極めて小さいポリカーボネート樹脂を製造することが、熱安定性が良好な高分子量ポリカーボネート樹脂の開発にとって重要となるが、十分に満足できる方法は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特公昭50−19600号公報
【特許文献2】特開平2−153923号公報
【特許文献3】米国特許第5,521,275号明細書
【特許文献4】欧州特許第0595608号公報
【特許文献5】米国特許第5,696,222号明細書
【特許文献6】特許第4112979号公報
【特許文献7】特表2008−514754
【特許文献8】特許第4286914号公報
【特許文献9】特公平6−94501号公報
【特許文献10】特開2009−102536号公報
【特許文献11】特許第3271353号公報
【特許文献12】特許第3301453号公報
【特許文献13】国際公開第2011/062220パンフレット
【特許文献14】国際公開第2012/108510パンフレット
【特許文献15】特開2004−109162号公報
【特許文献16】特許第4318346号公報
【特許文献17】特許第3249825号公報
【特許文献18】特開2003−119369号公報
【特許文献19】特開2004−2831号公報
【特許文献20】特開2004−168911号公報
【特許文献21】特許第4113781号公報
【特許文献22】国際公開第2009/127366パンフレット
【特許文献23】国際公開第2011/120921パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明が解決しようとする課題は、高分子量であって且つ異種構造が少なく良好な品質を保持し、しかも熱安定性に優れた、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその改良された製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、高分子量でありながら分岐化度が低く、且つ異種構造が少ないなどの品質上の利点を有し、特に特定の異種構造含有量が一定以下であり、高温下での熱安定性(耐熱性)が大幅に改善された芳香族ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物及びその製造方法を見出し、本発明に到達した。
【0025】
すなわち、本発明は、以下に示す高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその改良された製造方法を提供するものである。
【0026】
1)下記一般式(II)で表される構造単位、並びに下記一般式(1)及び(2)で表される構造単位のうち少なくとも一つの単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、前記一般式(1)及び(2)で表される構造単位のいずれかをフェノール酸換算値で2000ppm以下含有し、且つ下記一般式(h2)で表される環状カーボネートを3000ppm以下含有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物:
【0027】
一般式(II):
【化1】
【0028】
(式中、R及びRは、各々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表し、p及びqは、0〜4の整数を表し、Xは、単結合又は下記(II’)の群から選択される基を表す)
【0029】
【化2】
【0030】
(ここで、R及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表すか、あるいはRとRは、相互に結合して脂肪族環を形成していてもよい);
【0031】
一般式(1):
【化3】
【0032】
一般式(2):
【化4】
【0033】
(式中、Xは、一般式(II)におけるのと同じである);
【0034】
一般式(h2):
【化5】
【0035】
(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよく、R〜Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、nは、0〜30の整数を表す)。
【0036】
2)前記一般式(1)で表される構造単位をフェノール酸換算値で2000ppm以下含有する、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
3)前記一般式(1)及び(2)で表される構造単位を、それぞれフェノール酸換算値で2000ppm以下含有する、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
4)前記一般式(1)及び(2)で表される構造単位を合計で、フェノール酸換算値で5000ppm以下含有する、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0037】
5)さらに下記一般式(3)で表される構造単位をフェノール酸換算値で150ppm以下含有する、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物:
【0038】
一般式(3):
【化6】
【0039】
(式中、Xは、一般式(II)におけるのと同じである)。
【0040】
6)前記一般式(h2)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h3)で表される化合物である、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物:
一般式(h3):
【化7】
【0041】
(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい)。
【0042】
7)重量平均分子量(Mw)が30,000〜100,000である、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0043】
8)下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が1.25以下である、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0044】
9)熱滞留試験(360℃で60分間)後の分子量(Mw)保持率が50%以上である、1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0045】
10)1)記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと下記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む、方法:
【0046】
一般式(g2):
【化8】
【0047】
(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよく、R〜Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、nは、0〜30の整数を表す)。
【0048】
11)前記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g3)で表される化合物である、10)記載の製造方法:
一般式(g3):
【化9】
【0049】
(式中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい)。
【0050】
12)前記脂肪族ジオール化合物が、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択される、11)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0051】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、高温下での熱安定性(耐熱性)が大幅に改善されたものである。このような樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート(プレポリマー)と特定構造の脂肪族ジオール化合物からなる連結剤との反応により、芳香族ポリカーボネートを高分子量化するとともに、副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する方法によって得ることができる。このような方法によって得られる樹脂組成物中の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、連結部位が鎖中にほとんど残らず、構造上は従来の界面法又は溶融法で得られるポリカーボネートとほぼ同じとなる。
【0052】
したがって、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂は、従来の界面法によるポリカーボネートと同等の物性を有し、脂肪族ジオール化合物からなる連結剤由来の骨格が含まれないため熱安定性(耐熱性)に優れている。さらに、脂肪族ジオール化合物を連結剤として用いて高速に高分子量化したものであるから、高分子量でありながら分岐化度が低く、且つ異種構造が少ないなどの品質上の利点を有する。特に、特定の異種構造の含有量が所定値以下であり、高温下での熱安定性(耐熱性)が大幅に改善されたものとなる。
【0053】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、特定の異種構造の含有量が所定値以下である高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂において、副生する環状カーボネートの一部であって反応系に残存するものが含有されている。かかる環状カーボネートが存在することにより、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が向上する場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0054】
1.芳香族ポリカーボネート樹脂組成物
(1)芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、下記一般式(II)で表される構造単位を主たる構造単位として有する、芳香族ポリカーボネート樹脂を含む。
【化10】
【0055】
一般式(II)中、R及びRは、各々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。p及びqは、0〜4の整数を表す。Xは、単結合又は下記(II’)の群から選択される基を表す。
【0056】
【化11】
【0057】
(II’)中、R及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表すか、あるいはRとRは、相互に結合して脂肪族環を形成していてもよい。
【0058】
上記一般式(II)で表される構造単位を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(II'')で表される化合物が挙げられる。
【0059】
【化12】
【0060】
上記一般式(II'')中、R〜R、p、q、及びXは、各々上記一般式(II)におけるのと同様である。
【0061】
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0062】
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンがモノマーとしての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点等の理由により好ましいものとして挙げられる。
【0063】
本発明においては、ガラス転移温度の制御、流動性の向上、屈折率の向上、複屈折の低減等、光学的性質の制御等を目的として、上記各種モノマー(芳香族ジヒドロキシ化合物)のうち複数種を必要に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する構造単位には、異種構造として下記一般式(1)及び(2)で表される構造単位(以下、「構造単位(1)」、「構造単位(2)」という)の少なくとも一つが含まれている。なお、下記一般式(1)及び(2)中のXは上記一般式(II)におけるのと同じである。
【0065】
構造単位(1):
【化13】
【0066】
構造単位(2):
【化14】
【0067】
なお、上記構造式(2)中の2つの構造式(i)と(ii)は相互に異性体であり、分析上区別できないため、本発明では同じ構造として扱っている。したがって、本発明において構造式(2)というときは、上記構造式(i)及び(ii)のいずれか又は両方を意味する。また、本発明における構造単位(2)の含有量は、上記2つの構造式(i)と(ii)の合計量を意味する。
【0068】
本発明においては、上記構造単位(1)及び(2)のいずれかの構造単位の含有割合が、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(質量)に対しフェノール酸換算値で2000ppm以下、好ましくは1500ppm、さらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは300ppm以下である。構造単位(1)及び(2)の含有量がいずれも2000ppmを超えると、分岐度が増大し、熱安定性が低下する傾向にある。また、これらの構造単位は自然発生する分岐であるため分岐化剤の添加量により簡単に分岐度を制御するのが難しくなったり、流動性が低下し成形性に劣るようになったりするというデメリットがある。
【0069】
上述したように本発明においては、上記構造単位(1)及び(2)のいずれかが2000ppmであればよいが、好ましい態様としては、少なくとも構造単位(1)が2000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは300ppm以下含有されていることが望ましい。
【0070】
次に望ましいのは、構造単位(1)及び(2)の両方が、各々フェノール酸換算値で2000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは300ppm以下であることである。
【0071】
また、上記構造単位(1)及び(2)で表される構造単位の割合が合計で、フェノール酸換算値で5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以下、特に好ましくは1000ppm以下、最も好ましくは600ppm以下であることが望ましい。
【0072】
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する構造単位には、上記構造単位(1)及び(2)に加え、さらに下記一般式(3)で表される構造単位(以下、「構造単位(3)」という)が含まれ、その含有割合がフェノール酸換算値で150ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは70ppm以下であることが望ましい。なお、下記一般式(3)中のXは上記一般式(II)におけるのと同じである。
【0073】
構造単位(3):
【化15】
【0074】
なお、上記構造式(3)中の3つの構造式(iii)、(iv)、(v)はそれぞれ相互に異性体であり、分析上区別できないため、本発明では同じ構造として扱っている。したがって、本発明において構造式(3)というときは、上記構造式(iii)、(iv)及び(v)の少なくとも一種を意味する。また、本発明における構造単位(3)の含有量は、上記3つの構造式(iii)、(iv)及び(v)の合計量を意味する。
【0075】
上記構造単位(1)〜(3)はそれぞれ芳香族ポリカーボネート樹脂の製造時に生成しやすい異種構造の一種であり、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂はかかる異種構造の割合が少ないことを特徴とする。これは、後述する特定構造の脂肪族ジオール化合物からなる連結剤を用いて芳香族ポリカーボネートプレポリマーを高分子量化する工程と副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する工程とを含む方法によって製造されているためであると考えられる。
【0076】
すなわち本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、後述するように、脂肪族ジオール化合物を用いて連結高分子量化しているにもかかわらず、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂中に連結剤である脂肪族ジオール化合物由来の構造単位が骨格に含まれないか、含まれるとしても極めて少量であることから、熱安定性が極めて高く耐熱性に優れている一方で、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、N値が低い、異種構造を有するユニットの割合が少ない、色調に優れている、などの優れた品質を備えることができる。
【0077】
ここで、異種構造を有するユニットとは、好ましくない作用効果をもたらす可能性のある構造を有するユニットをいい、従来の溶融法で得られるポリカーボネートに多く含まれる分岐点ユニットなどが挙げられるが、本発明においては、上記構造単位(1)〜(3)の割合が極めて少ないのが特徴である。
【0078】
なお、構造単位(1)〜(3)の含有割合は少ないことが望ましいため、その下限は特に制限されず、検出限界(検出下限は通常1ppm程度)であればよいが、一般には構造単位(1)−(3)は、それぞれフェノール酸換算値で1ppm以上(検出下限)、場合により5ppm以上、あるいは10ppm以上含有されることが許容される。
【0079】
本発明における上記構造単位(1)−(3)の含有割合はフェノール酸換算値である。フェノール酸換算値は、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をモノマーレベルまでアルカリ加水分解した後、該モノマー中における上記構造単位(1)−(3)に対応する下記構造の化合物(1)−(3)の含有割合をそれぞれLC−MS分析により測定することによって、求めた値である。
【0080】
構造単位(1)に対応する化合物(1):
【化16】
【0081】
構造単位(2)に対応する化合物(2):
【化17】
【0082】
構造単位(3)に対応する化合物(3):
【化18】
【0083】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の骨格には、そのほかに、高分子量化工程で使用する脂肪族ジオール化合物由来の構造単位が含まれていてもよい。その場合、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の全構造単位量に対する該脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合は1モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下である。
【0084】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000〜100,000、より好ましくは30,000〜80,000、特に好ましくは35,000〜75,000、最も好ましくは40,000〜65,000であり、高分子量でありながら、高い流動性を併せ持つ。重量平均分子量がこの範囲内であれば、ブロー成形、押出成形、射出成形等の用途に用いた場合の成形性、生産性が良好である。さらに得られる成形品の機械的物性、耐熱性、耐有機溶剤性等の物性が良好である。
【0085】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂においては、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下、最も好ましくは1.23以下である。
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0086】
上記数式(1)中、Q160値は280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)((株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定(以下同様)し、ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表し、Q10値は280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)(ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表す。(なお、ノズル径1mm×ノズル長10mm)
【0087】
構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる。本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂におけるN値は低く、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い。ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwに於いては分岐構造の割合を多くすると流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成している。
【0088】
(2)環状カーボネート
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、下記一般式(h2)で表される環状カーボネートが3000ppm以下含まれている。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、製造工程で連結剤として使用する脂肪族ジオール化合物に対応する環状カーボネートが副生するが、これを反応系外へ除去したのちに少量の環状ポリカーボネートが残存し、最終的に得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中にかかる環状ポリカーボネートが含まれることとなる。
【0089】
【化19】
【0090】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
〜Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
nは0〜30、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の整数を表す。
【0091】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、好ましくは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して炭素数3〜8の脂環式環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
〜Rは、好ましくは、各々独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基を表す。nは、好ましくは、1〜6の整数を表す。
【0092】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、より好ましくは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。R〜Rは、より好ましくは、各々水素原子である。nは、より好ましくは、1〜3の整数を表す。
【0093】
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートとしてより好ましくは、下記一般式(h3)で表される化合物である。一般式(h3)中、n、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(h2)におけるのと同様である。
【化20】
【0094】
上記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【化21】
【0095】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中における上記一般式(h2)で表される環状カーボネートの含有量は3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下である。環状ポリカーボネートの含有量の下限は、通常は検出限界値となるが、好ましくは0.0005ppm以上である。かかる環状カーボネートが存在することにより、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が向上する場合がある。なお、環状カーボネートの含有量が高すぎると、樹脂強度の低下等のデメリットがある場合がある。
【0096】
(3)その他の含有成分
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中には、製造工程で使用した触媒失活剤が含有されていてもよい。触媒失活剤の存在により、樹脂組成物の熱安定性がさらに向上する。
【0097】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中における触媒失活剤の含有量は特に制限されないが、好ましくは3ppm以上、より好ましくは5ppm以上である。触媒失活剤の含有量が3ppm以上の場合、熱安定性の向上効果が顕著となる。
触媒失活剤含有量の上限は特に制限されないが、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下である。
【0098】
熱安定性を向上させる触媒失活剤の具体例としては、p-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の芳香族スルホン酸塩、ステアリン酸クロリド、酪酸クロリド、塩化ベンゾイル、トルエンスルホン酸クロリド、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸塩、リン酸類、亜リン酸類等を挙げることができる。
【0099】
これらのうちで、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、及びパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩からなる群から選択される触媒失活剤が好適に用いられる。
【0100】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、さらに耐熱安定剤、加水分解安定化剤、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等が含有されていてもよい。
耐熱安定剤としては、トリフェニルホスフィン(P-Ph)等の公知のものを用いることができる。
【0101】
酸化防止剤としては、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオネート)、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォナイト、トリクレジルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等を用いることができる。これらのうちで好ましいものは、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト及びn−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネートである。
【0102】
(4)芳香族ポリカーボネート樹脂組成物
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、良好な色相を有する。芳香族ポリカーボネート樹脂の色相評価は一般にYI値にて表わされる。通常、界面重合法から得られる分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値としては0.8〜1.0を示す。一方、溶融重合法により得られる芳香族ポリカーボネートの高分子量体は製造工程に伴う品質の低下により、YI値は1.7〜2.0を示す。しかしながら本発明の製造方法により得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値は界面重合法により得られる芳香族ポリカーボネートと同等のYI値を示し、色相の悪化は見られない。
また本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、高い耐熱性、より具体的には高い分子量保持率(高温下で熱滞留を課した時の分子量低下をどの程度抑えられるかを表す指標)を有する。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱滞留試験(360℃で60分間)後の分子量(Mw)保持率は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。
【0103】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形やブロー成形(中空成形)、押出成形、射出ブロー成形、回転成形、圧縮成形などで得られる様々な成形品、シート、フィルムなどの用途に好ましく利用することができる。これらの用途に用いるときは、本発明の樹脂組成物単独であっても他のポリマーとのブレンド品であっても差し支えない。用途に応じてハードコートやラミネートなどの加工も好ましく使用しうる。
【0104】
特に好ましくは、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、押出成形、ブロー成形、射出成形等に用いられる。得られる成形品としては、押出成形品、中空成形品、精密部品や薄物の射出成形品が挙げられる。精密部品や薄物の射出成形品は、好ましくは1μm〜3mmの厚みを有するものである。
【0105】
成形品の具体例としては、コンパクトディスクやデジタルビデオディスク、ミニディスク、光磁気ディスクなどの光学メディア品、光ファイバーなどの光通信媒体、車などのヘッドランプレンズやカメラなどのレンズ体などの光学部品、サイレンライトカバー、照明ランプカバーなどの光学機器部品、電車や自動車などの車両用窓ガラス代替品、家庭の窓ガラス代替品、サンルーフや温室の屋根などの採光部品、ゴーグルやサングラス、眼鏡のレンズや筐体、コピー機やファクシミリ、パソコンなどOA機器の筐体、テレビや電子レンジなど家電製品の筐体、コネクターやICトレイなどの電子部品用途、ヘルメット、プロテクター、保護面などの保護具、哺乳瓶、食器、トレイなどの家庭用品、人工透析ケースや義歯などの医用品、包装用材料、筆記用具、文房具等の雑貨類などをあげる事ができるがこれらに限定されない。
【0106】
特に好ましくは、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の用途としては、高強度且つ精密成形性を必要とする以下の成形品が挙げられる:
・自動車部材として、ヘッドランプレンズ、メータ盤、サンルーフなど、さらにガラス製ウインドウの代替品や外板部品;
・液晶ディスプレイなどの各種フィルム、導光板,光ディスク基板;
・透明シートなどの建材;
・構造部材として、パソコン、プリンタ、液晶テレビなどの筐体。
【0107】
2.芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと、特定構造の脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む方法により製造される。
【0108】
(1)脂肪族ジオール化合物
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法で用いられる脂肪族ジオール化合物は、下記一般式(g2)で表されるものである。
【0109】
【化22】
【0110】
一般式(g2)中、Ra及びRbは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
〜Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
nは0〜30、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の整数を表す。
【0111】
一般式(g2)中、Ra及びRbは、好ましくは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して炭素数3〜8の脂環式環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
〜Rは、好ましくは、各々独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基を表す。nは、好ましくは、1〜6の整数を表す。
【0112】
一般式(g2)中、Ra及びRbは、より好ましくは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。R〜Rは、より好ましくは、各々水素原子である。nは、より好ましくは、1〜3の整数を表す。
【0113】
一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物としてより好ましいものは、下記一般式(g3)で表される化合物である。一般式(g3)中、Ra及びRbは、一般式(g2)におけるのと同じである。
【0114】
【化23】
【0115】
一般式(g3)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、さらに好ましくは炭素数2〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられ、好ましくはエチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0116】
脂肪族ジオール化合物としては、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、エタン−1,2−ジオール(1,2−エチレングリコール)、2,2−ジイソアミルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチルプロパン−1,3−ジオールが挙げられる。
【0117】
また、上記脂肪族ジオール化合物の他の例としては、以下の構造式を有する化合物が挙げられる。
【化24】
【0118】
これらのうちで特に好ましいものは、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択される化合物である。
【0119】
(2)芳香族ポリカーボネートプレポリマー
本発明の製造方法で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する上記一般式(II)で表される構造を主たる繰り返し単位とする重縮合ポリマーである。
【0120】
本発明の製造方法は、かかる芳香族ポリカーボネートプレポリマーを、前記一般式(g2)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物からなる連結剤と、減圧下でエステル交換反応させて連結させる工程を含む。これによって、耐衝撃性等のポリカーボネート樹脂本来の特性を維持しつつ、高分子量でありながら高流動性を与える連結高分子量化されたポリカーボネートの利点を有し、しかも上記一般式(1)〜(3)で表される異種構造を有するユニットの割合が少なく耐熱性が格段に向上した芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。
【0121】
かかる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、一般式(II)で表される構造単位を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物を塩基性触媒の存在下に炭酸ジエステルと反応させる公知のエステル交換法、あるいは該芳香族ジヒドロキシ化合物を酸結合剤の存在下にホスゲン等と反応させる公知の界面重縮合法、のいずれによっても容易に得ることができる。
【0122】
上記一般式(II)で表される構造単位を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、上記一般式(II'')で表される化合物が挙げられる。
【0123】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、界面重合法で合成したものであっても溶融重合法で合成したものであってもよく、また、固相重合法や薄膜重合法などの方法で合成したものであってもよい。また、使用済みディスク成形品等の使用済み製品から回収されたポリカーボネートなどを用いることも可能である。これらのポリカーボネートは混合して反応前のポリマーとして利用しても差し支えない。例えば界面重合法で重合したポリカーボネートと溶融重合法で重合したポリカーボネートとを混合してもよく、また、溶融重合法あるいは界面重合法で重合したポリカーボネートと使用済みディスク成形品等から回収されたポリカーボネートとを混合して用いても構わない。
【0124】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして好ましくは、特定条件を満たす末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーが挙げられる。
すなわち、上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、その少なくとも一部が芳香族モノヒドロキシ化合物由来の末端基あるいは末端フェニル基(以下、「封止末端基」ともいう)で封止されていることが好ましい。
【0125】
その封止末端基の割合としては、全末端量に対して60モル%以上の場合に特に効果が著しい。また、末端フェニル基濃度(全構成単位に対する封止末端基の割合)は2モル%以上、好ましくは2〜20モル%、特に好ましくは2〜12モル%である。末端フェニル基濃度が2モル%以上の場合に脂肪族ジオール化合物との反応が速やかに進行し、本願発明特有の効果が特に顕著に発揮される。ポリマーの全末端量に対する封止末端量の割合は、ポリマーのH−NMR解析により分析することができる。
【0126】
また、Ti複合体による分光測定によって末端水酸基濃度を測定することが可能である。同評価による末端水酸基濃度としては1,500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1,000ppm以下が好適である。この範囲を超える水酸基末端あるいはこの範囲未満の封止末端量では脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分な高分子量化の効果が得られないおそれがある。
【0127】
ここでいう「ポリカーボネートの全末端基量」又は「芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量」は、例えば分岐の無いポリカーボネート(すなわち、鎖状ポリマー)0.5モルがあれば、全末端基量は1モルであるとして計算される。
【0128】
封止末端基の具体例としては、フェニル末端、クレジル末端、o−トリル末端、p−トリル末端、p−t−ブチルフェニル末端、ビフェニル末端、o−メトキシカルボニルフェニル末端、p−クミルフェニル末端などの末端基を挙げることができる。
【0129】
これらの中では、脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応で反応系より除去されやすい低沸点の芳香族モノヒドロキシ化合物で構成される末端基が好ましく、フェニル末端、p−tert−ブチルフェニル末端などが特に好ましい。
【0130】
このような封止末端基は、界面法においては芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時に末端停止剤を用いることにより導入することができる。末端停止剤の具体例としては、p−tert−ブチルフェノール、フェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。末端停止剤の使用量は、所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端量(すなわち所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量)や反応装置、反応条件等に応じて適宜決定することができる。
【0131】
溶融法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時にジフェニルカーボネートのごとき炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することにより、封止末端基を導入することができる。反応に用いる装置及び反応条件にもよるが、具体的には芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを1.00〜1.30モル、より好ましくは1.02〜1.20モル使用する。これにより、上記末端封止量を満たす芳香族ポリカーボネートプレポリマーが得られる。
【0132】
本発明において好ましくは、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応(エステル交換反応)させて得られる末端封止された重縮合ポリマーを使用する。
【0133】
芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、一分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としてはフェノール性水酸基、カルボキシル基を有する化合物が好ましく使用される。
【0134】
さらに芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、ジカルボン酸化合物を併用し、ポリエステルカーボネートとしても構わない。前記ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が好ましく、これらのジカルボン酸は酸クロリド又はエステル化合物として反応させることが好ましく採用される。また、ポリエステルカーボネート樹脂を製造する際に、ジカルボン酸は、前記ジヒドロキシ成分とジカルボン酸成分との合計を100モル%とした時に、0.5〜45モル%の範囲で使用することが好ましく、1〜40モル%の範囲で使用することがより好ましい。
【0135】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量としては、Mwが5,000〜60,000が望ましい。より好ましくはMwが10,000〜50,000、さらに好ましくは10,000〜40,000、特に好ましくは20,000〜35,000の範囲の芳香族ポリカーボネートプレポリマーが望ましい。
【0136】
この範囲を超えた高分子量の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを使用すると、該芳香族ポリカーボネートプレポリマー自体が高粘度のため、プレポリマーの製造を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる、及び/又は、脂肪族ジオール化合物との反応を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる場合がある。
【0137】
(3)環状カーボネート
本発明においては、末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーに脂肪族ジオール化合物をエステル交換触媒存在下、減圧条件にて作用させることにより、芳香族ポリカーボネートプレポリマーが高分子量化する。この反応は温和な条件で高速に進み、高分子量化が達成される。すなわち、脂肪族ジオールにより芳香族ポリカーボネートプレポリマーが開裂反応を起こした後エステル交換反応により脂肪族ポリカーボネートユニットが生成する反応よりも、脂肪族ジオール化合物と芳香族ポリカーボネートプレポリマーとの反応が速く進行する。
【0138】
ここで、本発明の上記特定構造の脂肪族ジオール化合物を反応させる方法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物との反応が進行するとともに、脂肪族ジオール化合物の構造に対応した構造を有する環状体である環状カーボネートが副生する。副生する環状カーボネートを反応系外へ除去することによって、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化が進行し、最終的には従来のホモポリカーボネート(例えばビスフェノールA由来のホモポリカーボネート樹脂)とほぼ同じ構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。
【0139】
なお、高分子量化工程と環状カーボネート除去工程とは、必ずしも物理的及び時間的に別々の工程とする必要はなく、実際には同時に行われる。本発明の好ましい製造方法は、芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化するとともに、前記高分子量化反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する工程を含むものである。
【0140】
副生する環状カーボネートは、下記一般式(h2)で表される構造を有する化合物である。
【化25】
【0141】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
〜Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
nは0〜30、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の整数を表す。
【0142】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、好ましくは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して炭素数3〜8の脂環式環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
〜Rは、好ましくは、各々独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基を表す。nは、好ましくは、1〜6の整数を表す。
【0143】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、より好ましくは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。R〜Rは、より好ましくは、各々水素原子である。nは、より好ましくは、1〜3の整数を表す。
【0144】
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートとしてより好ましくは、下記一般式(h3)で表される化合物である。一般式(h3)中、n、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(h2)におけるのと同様である。
【0145】
【化26】
【0146】
上記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【化27】
【0147】
本発明の前記一般式(g2)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法は、従来の溶融法によるポリカーボネートの製造方法と比べ、高速で高分子量化することができるという利点を有する。これは、本発明者らが見出した他の脂肪族ジオール化合物を連結剤として用いる連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂と共通する利点である。
【0148】
一方、本発明の製造方法では、高分子量化反応の進行とともに、特定構造の環状カーボネートが副生する。そして、副生する環状カーボネートを反応系外へ除去した後には、ほぼホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有する高分子量ポリカーボネート樹脂が得られる。副生する環状カーボネートは使用する脂肪族ジオール化合物に対応する構造を有しており、脂肪族ジオール化合物由来の環状体であると考えられるが、このような高分子量化とともに環状カーボネートが副生される反応機構は、必ずしも明らかではない。
【0149】
例えば以下のスキーム(1)又は(2)に示すメカニズムが考えられるが、必ずしも明確ではない。本発明の前記一般式(g2)〜(g3)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに連結剤として脂肪族ジオール化合物を反応させ、当該芳香族ポリカーボネートプレポリマーを連結高分子量化するとともに、そこで副生する脂肪族ジオール化合物の構造に対応する構造の環状カーボネートを除去するものであり、その範囲内であれば特定の反応機構に限定されるものでもない。
【0150】
スキーム(1):
【化28】
【0151】
スキーム(2):
【化29】
【0152】
本発明の前記一般式(g2)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法によって得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、脂肪族ジオール化合物由来の構造単位をほとんど含まず、樹脂の骨格はホモポリカーボネート樹脂とほぼ同じである。
【0153】
すなわち、連結剤である脂肪族ジオール化合物由来の構造単位が骨格に含まれないか、含まれるとしても極めて少量であることから、熱安定性が極めて高く耐熱性に優れている。一方で、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、N値が低い、異種構造を有するユニットの割合が少ない、色調に優れている、などの優れた品質を備えることができる。
【0154】
ここで、異種構造を有するユニットとは、好ましくない作用効果をもたらす可能性のある構造を有するユニットをいい、従来の溶融法で得られるポリカーボネートに多く含まれる分岐点ユニットなどが挙げられる。本発明の方法によれば、特に上記一般式(1)−(2)のいずれかで表される異種構造ユニットの割合を低減させることができる。より具体的には、上記一般式(1)−(2)のいずれかで表される異種構造ユニットの割合をフェノール酸換算値で2000ppm以下に低減させることができる。
【0155】
なお、本発明の製造方法によって得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の骨格に脂肪族ジオール化合物由来の構造単位が含まれてもよい。その場合、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の全構造単位量に対する該脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合は1モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下である。
【0156】
(4)製造方法
以下に、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法の詳細な条件を説明する。
(i)脂肪族ジオール化合物の添加
本発明の製造方法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに上記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物を添加混合し、高分子量化反応器内で高分子量化反応(エステル交換反応)を行う。
【0157】
脂肪族ジオール化合物の使用量としては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して0.01〜1.0モルであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0モルであり、さらに好ましくは0.2〜0.7モルである。ただし、比較的沸点が低いものを使用するときは、反応条件によっては一部が揮発などにより反応に関与しないまま系外へ出る可能性を考慮して、予め過剰量を添加することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して最大50モル、好ましくは10モル、より好ましくは5モル添加することもできる。
【0158】
脂肪族ジオール化合物の添加混合方法については特に制限されないが、脂肪族ジオール化合物として沸点の比較的高いもの(沸点約240℃以上)を使用する場合には、前記脂肪族ジオール化合物は、減圧度10torr(1333Pa以下)以下の高真空下で、直接高分子量化反応器へ供給することが好ましい。より好ましくは、減圧度2.0torr以下(267Pa以下)、より好ましくは0.01〜1torr(1.3〜133Pa以下)である。脂肪族ジオール化合物を高分子量化反応器へ供給する際の減圧度が不十分であると、副生物(フェノール)によるプレポリマー主鎖の開裂反応が進行してしまい、高分子量化するためには反応混合物の反応時間を長くせざるを得なくなる場合がある。
【0159】
一方、脂肪族ジオール化合物として沸点の比較的低いもの(沸点約350℃以下)を使用する場合には、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とを比較的ゆるやかな減圧度で混合することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物と常圧に近い圧力で混合してプレポリマー混合物としたのち、該プレポリマー混合物を減圧条件下の高分子量化反応に供することにより、沸点の比較的低い脂肪族ジオール化合物であっても揮発が最小限に抑えられ、過剰に使用する必要性がなくなる。
【0160】
(ii)エステル交換反応(高分子量化反応)
芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応(高分子量化反応)に使用する温度としては、240℃〜320℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは260℃〜310℃、より好ましくは270℃〜300℃である。
【0161】
また、減圧度としては13kPaA(100torr)以下が好ましく、さらに好ましくは1.3kPaA(10torr)以下、より好ましくは0.67〜0.013kPaA(5〜0.1torr)である。
【0162】
本エステル交換反応に使用される塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等があげられる。
【0163】
このような化合物としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシド及びそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0164】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0165】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0166】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基及び/又はアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラフェニルアンモニウム等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0167】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0168】
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0169】
これらの触媒は、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、1×10−9〜1×10−3モルの比率で、好ましくは1×10−7〜1×10−5モルの比率で用いられる。
【0170】
(iii)環状カーボネート除去工程
本発明の方法では、上記高分子量化反応によって芳香族ポリカーボネートプレポリマーが高分子量化されると同時に、該反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する。副生する環状カーボネートを反応系外へ除去することによって芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化反応が進行する。
【0171】
環状カーボネートの除去方法としては、例えば同じく副生するフェノール及び未反応の脂肪族ジオール化合物などとともに反応系より留去する方法が挙げられる。反応系より留去する場合の温度は260〜320℃である。
【0172】
環状カーボネートの除去については、副生する環状カーボネートの少なくとも一部について行う。副生する環状カーボネートの全てを除去するのが最も好ましいが、完全に除去するのは一般に難しい。完全に除去できない場合に製品化したポリカーボネート樹脂中に環状カーボネートが残存していることは許容される。製品中の残存量の好ましい上限は3000ppmである。すなわち、本発明の前記一般式(g2)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法では、前記一般式(h2)で表される構造を有する環状カーボネートが3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下含まれる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。その場合、前記一般式(h2)で表される構造を有する環状カーボネートの含有割合の下限は、通常は検出限界値となり、好ましくは0.0005ppm以上である。
なお、環状カーボネートの含有割合は、GC-MSで測定した値である。
【0173】
反応系外へ留去された環状カーボネートは、その後加水分解、精製等の工程を経て回収・再利用(リサイクル)することができる。環状カーボネートとともに留去されるフェノールについても同様に回収し、ジフェニルカーボネート製造工程へ供給して再利用することができる。
【0174】
(iv)その他の製造条件
本発明においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応により、反応後の芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が前記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高めることが好ましく、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上高めるのが好ましい。
【0175】
脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応における装置の種類や釜の材質などは公知のいかなるものを用いても良く、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。好ましくは横型撹拌効率の良い回転翼を有し、減圧条件にできるユニットをもつものがよい。
さらに好ましくは、ポリマーシールを有し、脱揮構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機が好適である。
【0176】
装置の材質としては、SUS310、SUS316やSUS304等のステンレスや、ニッケル、窒化鋼などポリマーの色調に影響のない材質が好ましい。また装置の内側(ポリマーと接触する部分)には、バフ加工あるいは電解研磨加工を施したり、クロムなどの金属メッキ処理を行ったりしてもよい。
【0177】
本発明においては、分子量が高められたポリマーに触媒の失活剤を用いることができる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、具体的にはp-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の芳香族スルホン酸塩、ステアリン酸クロリド、酪酸クロリド、塩化ベンゾイル、トルエンスルホン酸クロリド、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸塩、リン酸類、亜リン酸類等が挙げられる。
【0178】
これらのうちで、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、及びパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩からなる群から選択される触媒失活剤が好適に用いられる。
触媒失活剤の添加は、上記高分子量化反応終了後に従来公知の方法でポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、ターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。
【0179】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.013〜0.13kPaA(0.1〜1torr)の圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
好ましくは、ポリマーシールを有し、ベント構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機が好適である。
【0180】
さらに本発明においては、耐熱安定剤、加水分解安定化剤、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等を添加することができる。
耐熱安定剤としては、トリフェニルホスフィン(P-Ph)等の公知のものを用いることができる。
【0181】
酸化防止剤としては、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオネート)、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォナイト、トリクレジルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等を用いることができる。これらのうちで好ましいものは、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、及びn−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネートである。
【0182】
これらの添加剤は、触媒失活剤と同様に、従来公知の方法でポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、各成分をターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。添加剤の添加工程は、触媒失活剤と同時でも異なっていてもよい。
【実施例】
【0183】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は、以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
【0184】
1)ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw):GPCを用い、クロロホルムを展開溶媒として、分子量既知(分子量分布=1)の標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、”PStQuick MP-M”)を用いて検量線を作成した。測定した標準ポリスチレンから各ピークの溶出時間と分子量値をプロットし、3次式による近似を行い、較正曲線とした。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下の計算式より求めた。
【0185】
[計算式]
Mw=Σ(W×M)÷Σ(W
Mn=Σ(N×M)÷Σ(N
ここで、iは分子量Mを分割した際のi番目の分割点、Wはi番目の重量、Nはi番目の分子数、Mはi番目の分子量を表す。また分子量Mとは、較正曲線の同溶出時間でのポリスチレン分子量値を表す。
【0186】
[測定条件]
装置;東ソー株式会社製、HLC−8320GPC
カラム;ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMPHZ-M×1本
分析カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M×3本
溶媒;HPLCグレードクロロホルム
注入量;10μL
試料濃度;0.2w/v% HPLCグレードクロロホルム溶液
溶媒流速;0.35ml/min
測定温度;40℃
検出器;RI
【0187】
2)異種構造(構造単位(1)〜(3))の割合の測定:
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をモノマーレベルまでアルカリ加水分解した後、該モノマー中における構造単位(1)−(3)に対応する下記構造の化合物(1)−(3)の含有割合をLC−MS分析により測定して求めた。具体的には、試料0.1gを三角フラスコに採取し、ジクロロメタン10mlに溶解し、次いで28%ナトリウムメトキサイドのメタノール溶液1.8ml、メタノール8ml、水2.6mlを加え、1時間攪拌した。さらに1N−塩酸を12ml加えてpHを酸性とし、10分間攪拌した後に静置した。ジクロロメタン層を採取して10mlに定容した。このジクロロメタン溶液より2mlを抜き取り、窒素気流下で乾固した。この試料にアセトニトリル2ml添加したものをLC−MSにより分析した。
【0188】
[LC−MS分析条件]
LC:Waters Acquity UPLC
カラム:Waters BEH C18(2.1mm×100mm, 1.7um)
溶離液:A;0.1%-HCO2H aq. B;MeCN
B=25-100%(0-8min), B=100%(8-10min)
流速:0.5ml/min
温度:40℃
検出:UV220nm
MS:Waters, MALDI-Synapt HDMS
スキャン範囲、速度:100-1500/0.3sec
イオン化法:ESI(−)
測定モード:MS
分解能:8500(Vmode)
Capillary電圧:3kV
Cone電圧:30V
Trap collision Energy:6V
Transfer collision Energy:4V
Source温度:150℃
Desolvation温度 :500℃
注入量:1μl
内部標準(質量補正):Leucine Enkephalin (m/z554.2615)
内部標準流速:0.1ml/min
【0189】
[LC−MS分析の対象化合物]
構造単位(1)に対応する化合物(1):
【化30】
【0190】
構造単位(2)に対応する化合物(2):
【化31】
【0191】
構造単位(3)に対応する化合物(3):
【化32】
【0192】
なお、異種構造成分の標準試料に関しては、下記式で表される構造を有するフェノール酸を標準物質として使用して定量を行なった。よって、得られた値はフェノール酸換算値である。具体的には、フェノール酸26.1mgをアセトニトリル25mlで希釈して標準溶液を調整した。この溶液を希釈して、1.0〜250mg/lの標準溶液を作成した。
【0193】
【化33】
【0194】
3)末端水酸基濃度(ppm):塩化メチレン溶液中でポリマーと四塩化チタンとから形成される複合体のUV/可視分光分析(546nm)によって測定した。又は、H−NMRの解析結果から末端水酸基を観測することによって測定した。
H−NMRによるプレポリマー(PP)中の末端水酸基濃度は、樹脂サンプル0.05gを1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃でH−NMRを測定することで求めた。具体的には、4.7ppmの水酸基ピークと7.0〜7.5ppm付近のフェニル及びフェニレン基(末端フェニル基及びBPA骨格由来のフェニレン基)の積分比より、PP中の末端水酸基濃度(OH濃度)を算出した。
【0195】
なお、H−NMRの測定条件の詳細は以下のとおりである。
装置:日本電子社製 LA-500 (500MHz)
測定核:
relaxation delay : 1s
x_angle : 45deg
x_90_width : 20μs
x_plus : 10μs
scan : 500times
【0196】
4)末端フェニル基濃度(封止末端基濃度、Ph末端濃度;モル%):H−NMRの解析結果から、下記数式により求めた。
【0197】
【数1】
【0198】
具体的には、樹脂サンプル0.05gを、1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃でH−NMRスペクトルを測定し、7.4ppm前後の末端フェニル基と7.0〜7.3ppm付近のフェニレン基(BPA骨格由来)の積分比より、PPの末端フェニル基量及び末端フェニル基濃度を測定した。
【0199】
なお、H−NMRの測定条件の詳細は以下のとおりである。
装置:日本電子社製 LA-500 (500MHz)
測定核:
relaxation delay : 1s
x_angle : 45deg
x_90_width : 20μs
x_plus : 10μs
scan : 500times
【0200】
上記の末端水酸基濃度と末端フェニル基濃度とから、ポリマーの全末端基量を算出することができる。
【0201】
5)流動性(Q値):Q値は溶融樹脂の流出量(ml/sec)であり、高化式フローテスターCFT-500D(島津製作所(株)製)を用いて、130℃で5時間乾燥後、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積により評価した。
【0202】
6)N値:高化式フローテスターCFT-500D(島津製作所(株)製)を用いて、130℃で5時間乾燥した芳香族ポリカーボネート(試料)について、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ160値とし、同様に280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ10値として、これらを用いて下式(1)により求めた。
【0203】
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0204】
7)樹脂の熱滞留試験:サンプル樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで60分間加熱滞留した。熱滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)及びYI値の変化量を測定した。なお、この試験は、例えば樹脂の溶融粘度を低く保つ必要がある精密成形など、ポリカーボネートの一般的な成形温度の最大レベルでの熱履歴を与える試験である。60分と言う長い滞留時間は、実際の成形現場で、装置のトラブルなどを含めて想定しうる最長の滞留時間を設定したものである。
【0205】
8)熱滞留試験前後の樹脂色相(YI値):樹脂サンプル1gを30mlの塩化メチレンに溶解し、光路長20mmのセルにて、分光式色差計(日本電色工業社製、商品名「SE−2000」)を用いてYI値を測定した。
【0206】
9)樹脂中の環状カーボネート含有量の測定法
サンプル樹脂10gをジクロロメタン100mlに溶解し、1000mlのメタノール中へ攪拌しながら滴下した。沈殿物を濾別し、濾液中の溶媒を除去した。得られた固体をGC-MSにより以下の測定条件で分析した。なお、この測定条件での検出限界値は0.0005ppmである。
GC-MS測定条件:
測定装置:Agilent HP6890/5973MSD
カラム:キャピラリーカラムDB-5MS,30m×0.25mm I.D., 膜厚0.5μm
昇温条件:50℃(5min hold)−300℃(15min hold),10℃/min
注入口温度:300℃、打ち込み量:1.0μl(スプリット比25)
イオン化法:EI法
キャリアーガス:He,1.0ml/min
Aux温度:300℃
質量スキャン範囲:33−700
溶媒:HPLC用クロロホルム
内部標準物質:2,4,6−トリメチロールフェノール
【0207】
なお、以下の実施例及び比較例で使用した脂肪族ジオール化合物の化学純度はいずれも98〜99%、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルの化学純度は99%以上、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。
以下の実施例で、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを「BPA」、ジフェニルカーボネートを「DPC」、プレポリマーを「PP」、水酸基を「OH基」、フェニル基を「Ph]と略すことがある。
【0208】
<実施例1>
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン10001.0g(43.808モル)、ジフェニルカーボネート10557.0g(49.281モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1.0μmol/mol−BPA(触媒は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、熱媒を205℃に設定、原料を加熱溶融した後、攪拌を行なった。
【0209】
その後、徐々に熱媒温度を上げ、同時に減圧度を下げつつ、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去して、エステル交換反応を行なった。約4時間をかけて、最終的には、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに1時間保持した。この時、一部サンプリングしたポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)は22000、末端水酸基濃度は60ppm、フェニル末端濃度(Ph末端濃度)は5.0mol%であった。ここで、末端水酸基濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれる末端水酸基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)末端濃度を示す。
【0210】
系内を280℃、常圧の状態にして、脂肪族ジオール化合物として2−ブチル−2−エチル−プロパン−1,3−ジオール209.53g(1.308mol)を反応系へ添加し、3分間攪拌した。引き続き減圧度を0.13kPaA(1torr)以下に保ち、90分の間、攪拌を続けた。得られたポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)=62,000、N値=1.23、末端水酸基濃度=530ppm、YI値=1.0であり、異種構造式(1)=280ppm、異種構造式(2)=250ppm、異種構造式(3)=30ppm、環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=24ppmを含有していた。
【0211】
この樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで60分間加熱滞留した。その結果、滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)は94%、YI値の変化量は+5.0であった。
【0212】
<実施例2>
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン10,000.6g(43.807モル)、ジフェニルカーボネート10,560.0g(49.295モル)及び触媒として炭酸セシウムを0.5μmol/mol−BPA(触媒は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、熱媒を205℃に設定、原料を加熱溶融した後、攪拌を行なった。
【0213】
その後、徐々に熱媒温度を上げ、同時に減圧度を下げつつ、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去して、エステル交換反応を行なった。約4時間をかけて、最終的には、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに1時間保持した。得られたポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)は22,000、末端水酸基濃度は60ppm、フェニル末端濃度(Ph末端濃度)は5.0mol%であった。ここで、末端水酸基濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれる末端水酸基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)末端濃度を示す。
【0214】
上記ポリカーボネートプレポリマー30.141gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて加熱溶融させた。脂肪族ジオール化合物として2−ブチル−2−エチル−プロパン−1,3−ジオール0.376g(0.00234mol)を添加し、ジャケット温度280℃にて、常圧で添加し15分間攪拌混練した。引き続き280℃にて、圧力を0.04kPaA(0.3torr)に調整し、40分間攪拌混練して、エステル交換反応を行った。
【0215】
得られたポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)=56,000、N値=1.20、末端水酸基濃度=340ppm、YI値=0.6であり、異種構造式(1)=100ppm、異種構造式(2)=12ppm、異種構造式(3)=40ppm、環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=160ppmを含有していた。
【0216】
この樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで60分間加熱滞留した。その結果、滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)は98%、YI値の変化量は+8.4であった。
【0217】
<実施例3>
脂肪族ジオール化合物として2−エチル−2−メチル−プロパン−1,3−ジオール0.257g(0.00218mol)を反応系へ添加する以外は、実施例2と同様の操作を行なった。得られたポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)=48,000、N値=1.23、末端水酸基濃度=200ppm、YI値=1.1であり、異種構造式(1)=100ppm、異種構造式(2)=20ppm、異種構造式(3)=60ppm、環状カーボネート(5−エチル−5−メチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=30ppmを含有していた。
【0218】
この樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで60分間加熱滞留した。その結果、滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)は75%、YI値の変化量は+16.2であった。
【0219】
<実施例4>
脂肪族ジオール化合物として2,2−ジエチル−プロパン−1,3−ジオール0.288g(0.00218mol)を反応系へ添加する以外は、実施例2と同様の操作を行なった。得られたポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)=47,000、N値=1.19、末端水酸基濃度=180ppm、YI値=0.9であり、異種構造式(1)=50ppm、異種構造式(2)=20ppm、異種構造式(3)=40ppm、環状カーボネート(5,5−ジエチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=60ppmを含有していた。
【0220】
この樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで60分間加熱滞留した。その結果、滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)は93%、YI値の変化量は+15.4であった。
【0221】
<実施例5>
脂肪族ジオール化合物として2,2−ジイソブチル−プロパン−1,3−ジオール0.410g(0.00218mol)を反応系へ添加する以外は、実施例2と同様の操作を行なった。得られたポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)=42,000、N値=1.21、末端水酸基濃度=380ppm、YI値=0.9であり、異種構造式(1)=120ppm、異種構造式(2)=20ppm、異種構造式(3)=30ppm、環状カーボネート(5,5−ジイソブチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=700ppmを含有していた。
【0222】
この樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで60分間加熱滞留した。その結果、滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)は92%、YI値の変化量は+23.6であった。
【0223】
<比較例1>
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン10,000.0g(43.804モル)、ジフェニルカーボネート9,618.0g(44.898モル)及び触媒として炭酸セシウムを0.5μmol/mol−BPA(触媒は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、熱媒を205℃に設定、原料を加熱溶融した後、攪拌を行なった。
【0224】
その後、徐々に熱媒温度を上げ、同時に減圧度を下げつつ、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去して、エステル交換反応を行なった。約4時間をかけて、最終的には、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに4時間保持した。得られたポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は59,000、末端水酸基濃度は800ppm、N値=1.32、YI値=3.0であり、異種構造式(1)=2100ppm、異種構造式(2)=3100ppm、異種構造式(3)=170ppmを含有していた。
【0225】
末端水酸基濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれる末端水酸基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)末端濃度を示す。
【0226】
この樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで60分加熱滞留したところ、ゲル化し溶媒(クロロホルム、ジクロロメタン)に不溶となった。その為、Mw及びYI値は測定不可能であった。
【0227】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0228】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、高分子量であって、且つ特定の異種構造含有量が一定以下という良好な品質を有しているだけでなく、界面法によるものと同じ構造で耐熱性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とするものである。
【0229】
このような芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、従来の汎用ポリカーボネート樹脂あるいは組成物の代替として用いた場合、成形サイクルが早くなる、成形温度を低く設定できるなどの利点があり、種々の射出成形やブロー成形、押出成形、射出ブロー成形、回転成形、圧縮成形などで得られる様々な成形品、シート、フィルムなどの用途に好ましく利用することができる。
【0230】
また、使用電力の節減等により、自然環境への負荷及び成形体の製造コストの削減も見込まれ、経済的にも優れ、自然環境にも優しい樹脂ということができる。特に、ポリカーボネートの一般的な成形温度の最大レベルでの熱履歴を長時間与えられても、分子量(Mw)保持率が高く(例えば50%以上)、またYI値変化量が小さい(例えば+25以下)など、極めて優れた熱安定性を示す。よって、例えば樹脂の溶融粘度を低く保つ必要がある精密成形などに特に好ましく利用することができる。