(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
汎用インバータや風力発電、太陽光発電、電鉄などに使用されるモジュール構造の半導体装置において、従来より、半導体素子のおもて面電極と回路層とをアルミニウム(Al)ワイヤなどのワイヤボンディングによって電気的に接続(ボンディング)する方法が公知である。おもて面電極は例えばアルミニウム−シリコン(Si)電極やAl−Si−銅(Cu)電極であり、回路層は例えばCuなどの導体からなる。また、近年、Alワイヤに代えて、Cuワイヤのワイヤボンディングも検討されている。従来のモジュール構造の半導体装置の構造について説明する。
【0003】
図10は、従来のモジュール構造の半導体装置の構造を示す断面図である。
図11は、
図10の半導体素子の構造を模式的に示す断面図である。
図10,11に示すように、従来のモジュール構造の半導体装置は、半導体素子101、セラミクス絶縁基板(DCB(Direct Copper Bonding)基板)などの絶縁基板102、Cuベース106、およびAlワイヤ107を備えている。絶縁基板102は、絶縁層103のおもて面側にCuからなる回路層104が設けられ、裏面側に裏銅箔105が設けられている。半導体素子101は、半導体基板111のおもて面におもて面電極112を有し、裏面に裏面電極113を有する。
【0004】
半導体素子101の裏面電極113は、はんだ接合層101aを介して回路層104と接合している。半導体素子101のおもて面電極112は、Alワイヤ107などのワイヤボンディングによって回路層104と電気的に接続されている。Alワイヤ107は、超音波振動を利用して接合されており、Alワイヤ107の径(直径)に対して熱や、超音波振動、加圧力などの条件を最適化することで、接続不良を生じさせることなく良好な接合が形成される。Cuベース106のおもて面は、はんだ接合層(不図示)を介して裏銅箔105と接合している。
【0005】
このようなモジュール構造の半導体装置として、素子と外部電極との接続において、50μm以上の平均結晶粒径を有し、かつ、通電時に再結晶を起こさないように、再結晶温度を150℃以上と高めるためのFeを0.02wt%〜1wt%含有したアルミニウムワイヤで構成される装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0006】
また、別の装置として、半導体素子上の電極パッドにワイヤボンディングされたアルミニウムワイヤ接合部の結晶粒の大きさが均一になっている装置が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。また、別の装置として、重量で銅4.5%〜6.5%、ジルコニウム(Zr)0.1%〜1.0%、残部アルミニウムとからなる装置が提案されている(例えば、下記特許文献3参照。)。
【0007】
また、別の装置として、半導体素子の表裏面にそれぞれ電極を有し、その裏面電極が絶縁基板上に構成された回路層と面接合されてなる半導体装置において、表面電極の上面に成膜された金属保護膜と、表面電極と熱圧着あるいは超音波振動によって金属保護膜を介して電気的に接合されたワイヤ配線と、を備えた装置が提案されている(例えば、下記特許文献4参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年、使用用途の拡大により、大電流化や、高温動作化、高信頼性の要求が高まっている。それに伴い、パワーサイクル耐量(寿命)の向上が必須となっている。例えば、新技術が提案されるごとに半導体装置の小型化が進み、実装面積が低減されるため、大電流化を図るためにAlワイヤの線数を増加させることは難しく、Alワイヤ1本あたりの大電流導通におけるワイヤ発熱によりAlワイヤが溶融し断線する虞がある。
【0010】
パワーサイクル耐量を決める要因は、半導体素子の接合温度の最大値Tjmax、および、電流が断続的に流れることで生じる半導体素子の接合温度の温度変化ΔTjである。特に、半導体装置の構成部材はそれぞれ線膨張係数が異なり、各構成部材には線膨張係数の差に応じた応力がそれぞれかかる。半導体素子の接合温度の最大値Tjmaxが高くなるほど、各構成部材の線膨張係数の差に応じた応力が増大し、素子破壊に至る虞がある。このため、高温動作におけるパワーサイクル耐量を向上させ、高温動作化と高信頼性とを同時に達成する必要がある。
【0011】
また、従来の半導体装置では、ワイヤボンディングによってAlワイヤの接合界面付近の結晶粒が微細粒状となり、Alワイヤの接合強度が向上されるが、その後、ワイヤボンディング後の製造工程による熱履歴や、半導体素子の通電発熱による高温動作(例えば175℃程度)によって、Alワイヤの接合界面付近およびおもて面電極の結晶粒は粗大化して軟化する。これによって、Alワイヤとおもて面電極との接合界面付近にクラック(割れ)が生じやすい。発明者らがパワーサイクル試験を行った結果、Alワイヤにクラックが生じ、このクラックがパワーサイクルの繰り返しサイクル数の増加に伴ってワイヤ内部へと進展し、最終的にAlワイヤが破断して剥離し素子破壊に至ることが判明した。
【0012】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、大電流導通および高温動作において、パワーサイクル耐量を向上させることができる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、ワイヤボンディングによって半導体素子の電極とワイヤとを電気的に接続してなる半導体装置において、次の特徴を有する。前記電極の表面に、前記ワイヤよりも硬度が高い金属膜が設けられている。前記ワイヤは、ワイヤボンディングによって前記金属膜に接合されている。そして、前記ワイヤの前記金属膜との接合界面の再結晶温度が175℃以上である。
前記ワイヤの前記接合界面には、粒径が15μm以下の結晶粒のみを含み、前記ワイヤの前記接合界面から離れた部分は、粒径が15μmより大きい結晶粒を含み、前記半導体素子の接合温度は前記再結晶温度未満である。
【0014】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ワイヤは、鉄を0.2質量%以上2.0質量%以下含み、および残部が純度99.99%以上のアルミニウムからなることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ワイヤの線径は、100μm以上であることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ワイヤの線径は、500μm以下であることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ワイヤの硬度は、前記電極の硬度よりも高いことを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属膜はニッケルめっき膜であることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ニッケルめっき膜の膜厚は3μm〜7μmであることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属膜は銅めっき膜であることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記銅めっき膜の膜厚は4.5μm〜10.5μmであることを特徴とする。
【0020】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、半導体素子の電極とワイヤとを電気的に接続する半導体装置の製造方法において、次の特徴を有する。まず、前記ワイヤよりも硬度が高い金属膜を前記電極の表面に設ける
第1工程を行う。次に、
ワイヤボンディング時に当該ワイヤボンディングの超音波振動により前記ワイヤの前記金属膜との接合界面の結晶
粒を15μm以下
の粒径の結晶粒のみにして前記ワイヤを前記金属膜に接合する
第2工程を行う。
前記第2工程では、前記ワイヤの前記接合界面から離れた部分の粒径を15μmより大きい結晶粒を含んだままの状態で維持する。前記第2工程よりも後に行う工程では、前記半導体素子にかかる熱履歴の温度が、前記ワイヤの前記接合界面の再結晶温度未満である。また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、接合温度が前記再結晶温度未満の前記半導体素子を用いることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記ワイヤは、鉄を0.2質量%以上2.0質量%以下含み、および残部が純度99.99%以上のアルミニウムからなることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記ワイヤの線径は、100μm以上であることを特徴とする。また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記ワイヤの線径は、500μm以下であることを特徴とする。
【0021】
上述した発明によれば、ワイヤの再結晶温度を従来のアルミニウムワイヤの再結晶温度よりも高くすることで、従来よりも高温での使用条件においてもワイヤにクラックが生じることを抑制することができる。これにより、ワイヤにクラックが生じるまでの期間を従来よりも長くすることができる。
【0022】
また、上述した発明によれば、半導体素子(半導体チップ)の電極の表面にワイヤよりも硬度の高い金属膜を設けることで、電極を強化することができるため、電極にクラックが生じることを防止することができる。また、電極の表面にワイヤよりも硬度の高い金属膜を設けることで、金属膜が障壁として機能するため、ワイヤにクラックが生じた場合でもこのクラックが電極に進展することを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、パワーサイクル耐量を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
(実施の形態)
実施の形態にかかる半導体装置の構造について説明する。
図1は、実施の形態にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図2は、
図1の半導体素子の構造を模式的に示す断面図である。
図1,2に示すように、実施の形態にかかる半導体装置は、半導体素子(半導体チップ)1と、セラミクス絶縁基板(DCB基板)などの絶縁基板2と、銅(Cu)ベース6と、ワイヤ7とを備えたモジュール構造の半導体装置である。絶縁基板2は、絶縁層3のおもて面側に例えばCuなどからなる回路層4が設けられ、裏面側に裏銅箔5が設けられている。
【0027】
半導体素子1は、半導体基板(例えばシリコン(Si)基板、シリコンカーバイド(SiC)基板やガリウムナイトライド(GaN)基板等)11のおもて面におもて面電極12を有し、裏面に裏面電極13を有する。半導体素子1の裏面電極13は、はんだ接合層1aを介して回路層4と接合している。Cuベース6のおもて面は、はんだ接合層(不図示)を介して裏銅箔5と接合している。図示はしないが、Cuベース6の周縁には、外部端子の設けられた樹脂ケースが接着されている。また、半導体装置は、Cuベース6の裏面がサーマルコンパウンドを介して冷却体に固定され、使用される。
【0028】
半導体素子1のおもて面電極(以下、単におもて面電極とする)12は、例えばアルミニウム(Al)−シリコン(Si)電極である。おもて面電極12の結晶粒径は、例えば1μm〜5μmであってもよい。おもて面電極12の表面には、無電解めっき、電解めっき、スパッタリングおよび蒸着などによって、例えばニッケル(Ni)膜や銅(Cu)膜などのおもて面金属膜14が成膜されている。おもて面金属膜14の硬度は、おもて面電極12やワイヤ7の硬度よりも高い。おもて面金属膜14は、おもて面電極12の強度を向上させ、おもて面電極12にクラックが生じることを防止する機能を有する。
【0029】
おもて面金属膜14の硬度は、例えばHv100〜Hv900であるのがよい。おもて面金属膜14の膜厚は、例えば3μm〜30μmであるのがよい。おもて面金属膜14がNiめっき膜(Hv400〜Hv900)である場合、おもて面金属膜14の膜厚は3μm〜7μm、好ましくは3μm〜5μmである。膜厚を3μm以上とする理由は、おもて面金属膜14としてNiめっき膜を形成する場合、めっき膜の膜厚が3μm未満であると、ワイヤ7をワイヤボンディングした際に生じる摩擦熱や固相流動によってめっき膜が破壊されるからである。おもて面金属膜14の膜厚は、厚くするほどおもて面金属膜14の破壊強度を高くすることができるが、スループットや経済性を考慮して30μm以下、好ましくは5μm以下であるのがよい。おもて面金属膜14がCuめっき膜である場合、おもて面金属膜14の膜厚は4.5μm〜10.5μm、好ましくは4.5μm〜7.5μmである。Cuめっき膜の硬度はHv100〜Hv300の範囲であるため、膜厚をNiめっき膜より1.5倍程度厚くすることにより、Niめっき膜と同等の破壊強度を得ることができる。また、スパッタリングや蒸着などによっておもて面金属膜14を形成する場合も同様の理由により上記の硬度、膜厚とするのがよい。
【0030】
おもて面電極12と回路層4とはワイヤ7を介して電気的に接続されている。具体的には、例えば熱、超音波振動および圧力(接合荷重)を利用したワイヤボンディングによって、ワイヤ7の一端がおもて面電極12表面のおもて面金属膜14に接合され、ワイヤ7の他端が回路層4に接合されている。ワイヤ7と被接合部材(おもて面金属膜14および回路層4)とを接合するための接合荷重は、例えばH&K社(Hesse & Knipps GmbH(商標))製ワイヤボンダBJ935(超音波周波数60kHz)にて、ワイヤボンディングの超音波出力を例えば11V以上とした場合に800gf〜1400gfであり、ワイヤボンディングの超音波出力を例えば13V以上とした場合に1000gf〜1400gfである。
【0031】
具体的には、ワイヤ7は、特許第5159000号にあるように例えば鉄(Fe)を0.2質量%〜2.0質量%および残部が純度99.99%以上のアルミニウム(Al)からなる高耐熱のアルミニウムワイヤである。ワイヤ7の結晶粒径は、Feを所定量含有させることで、従来のアルミニウムワイヤの結晶粒径よりも小さく制御されている。ワイヤ7の結晶粒径を制御することで、ワイヤ7の再結晶温度は少なくとも175℃以上に高められ、かつ、ワイヤ7の硬度はおもて面電極12の硬度よりも高められている。ワイヤ7の硬度は、ワイヤボンディング直後に、おもて面電極12である例えばAlSi電極の硬度Hv20よりも高い。
【0032】
ワイヤ7の再結晶温度を上記範囲とすることで、ワイヤボンディング後の製造工程による熱履歴や、半導体素子1の通電発熱による高温動作(例えば175℃程度)によって(以下、熱履歴および通電発熱をまとめて通電発熱とする)、ワイヤ7が再結晶化されないため、ワイヤ7の結晶粒が粗大化することを防止することができる。これにより、通電発熱時、ワイヤ7の結晶粒はほぼ変化せず、ワイヤ7の硬度はワイヤボンディング直後の状態で維持される。したがって、パワーサイクルによってワイヤ7が軟化しにくく、従来よりもワイヤ7にクラックが生じにくい。
【0033】
一般的に、ワイヤ7の接合界面付近は、例えばワイヤボンディング後の製造工程による熱履歴や、半導体素子の通電発熱による高温動作の熱によってクラックが生じやすい。そこで、本発明においては、ワイヤボンディング前のワイヤ7の結晶粒の粒径は最大で、例えば1μm〜20μmの範囲内であるのがよい。このワイヤ7の被接合部材との接合界面(以下、ワイヤ7の接合界面とする)付近の結晶粒はワイヤボンディング時の条件を制御することによって微細粒状とすることができる。ワイヤ7の結晶粒径は、ワイヤ7の接合界面からワイヤ7の軸方向に、ワイヤボンディング後の製造工程による熱履歴や、半導体素子の通電発熱による高温動作の熱によってクラックが生じやすい部分までがワイヤボンディングによって微細粒状となっているのが好ましい。
【0034】
具体的には、ワイヤボンディング直後のワイヤ7の結晶粒径は、被接合部材との接合界面付近の結晶粒において例えば最大1μm〜15μmの範囲内(平均は3μm以下)であり、被接合部材との接合界面から離れた部分(ワイヤ7の接合界面付近以外)においてはワイヤボンディング前の結晶粒径が維持される。ワイヤボンディング直後のワイヤ7の接合界面付近における結晶粒径を上記範囲内とすることで、ワイヤ7の接合強度を向上させることができる。結晶粒径は電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)により評価される。結晶粒界を結晶方位5°以上と定義して試料を評価し、画像で表示した形状を測定する。
【0035】
ワイヤ7の線径は、例えば100μm〜500μmであってもよい。好ましくは、ワイヤ7の線径は、例えば500μm程度に太線化されているのがよい。その理由は、太線化によって通電時のワイヤ発熱温度を低減することができるからである。
【0036】
次に、おもて面金属膜14の成膜方法の一例について、無電解ニッケルめっき法を用いて、おもて面電極12であるAlSi電極の表面におもて面金属膜14としてNiめっき膜を成膜する場合を例に説明する。AlSi電極とニッケル膜とは密着性が悪いため、一般的に、無電解めっき処理の前処理としてジンケート処理を行い、ニッケルめっき膜のAlSi電極に対する密着性を向上させる。具体的には、まず、おもて面電極12の表面に脱脂処理を行い、表面に付着している油脂性の汚れや異物を除去して清浄にする。また、次に続く工程の例えばエッチング液などの、おもて面電極12の表面に対する濡れ性が改善される。
【0037】
次に、酸溶液を用いてエッチング処理を行う。これにより、おもて面電極12の表面の自然酸化膜が除去される。次に、硝酸(HNO
3)溶液を用いて酸洗浄(デスマット処理)を行い、エッチング処理によって生じた付着物(スマット)を除去する。次に、第1ジンケート処理を行い、おもて面電極12の表面のAlを亜鉛(Zn)に置換し、おもて面電極12の表面に所望の結晶粒径を有するZn膜を生成する。次に、硝酸溶液を用いて、おもて面電極12の表面に形成されたZn膜を除去する。
【0038】
次に、第2ジンケート処理を行うことで、再度おもて面電極12の表面にZn膜を生成する。その後、無電解Niめっき処理を行い、Zn膜をNiに置換し、おもて面電極12の表面にNiを継続的に析出させることによりNiめっき膜を形成する。これにより、おもて面電極12の表面におもて面金属膜14としてNiめっき膜が形成される。このようなジンケート処理に代えて、パラジウム処理によりおもて面電極12の保護膜としてNiめっき膜を成膜してもよい。
【0039】
次に、通電発熱後のワイヤ7の結晶粒径について説明する。
図3は、実施の形態にかかる半導体装置のワイヤの接合界面付近の結晶粒の状態を模式的に示す断面図である。
図4は、参考例の半導体装置のワイヤの接合界面付近の結晶粒の状態を模式的に示す断面図である。
図5は、従来の半導体装置のワイヤの接合界面付近の結晶粒の状態を模式的に示す断面図である。
図3〜5において(a)はワイヤボンディング前の状態であり、(b)はワイヤボンディング直後の状態であり、(c)はパワーサイクル試験後の状態である。上述した実施の形態にかかる半導体装置(以下、実施例とする)において、パワーサイクル試験後に顕微鏡によって観測したワイヤ7の接合界面20付近の結晶粒の状態を
図3に模式的に示す。
【0040】
実施例において、ワイヤ7の線径を400μmとし、ワイヤボンディング前のワイヤ7の結晶粒径を1μm〜20μmの範囲内とした。ワイヤボンディング後のワイヤ7の接合界面20付近の結晶粒径は1μm〜15μmの範囲内であり、ワイヤボンディング後のワイヤ7の接合界面20から離れた部分の結晶粒径はワイヤボンディング前の状態を維持し1μm〜20μmの範囲内であった。ワイヤボンディング後のワイヤ7の硬度はHv25〜Hv40である。おもて面金属膜14として厚さ0.3μmのNiめっき膜(実施例1)および厚さ5μmのNiめっき膜(実施例2)を形成した。Niめっき膜の硬度はHv900である。おもて面電極12としてAlSi電極を形成し、その結晶粒径を1μm〜5μmの範囲内とした。
【0041】
参考として、おもて面金属膜14を設けていない、すなわちワイヤ37を半導体基板31のおもて面のおもて面電極32に接合した半導体装置(以下、参考例とする)について、実施例と同じ繰り返しサイクル数で同様のパワーサイクル試験を行った結果を
図4に模式的に示す。参考例の構成は、おもて面金属膜14を設けていない点を除いて実施例と同様である。また、従来のアルミニウムワイヤ107を半導体基板111のおもて面のおもて面電極112に接合した従来の半導体装置(以下、従来例1とする)について、実施例と同じ繰り返しサイクル数で同様のパワーサイクル試験を行った結果を
図5に模式的に示す。
【0042】
従来例1では、ワイヤボンディング前のAlワイヤ107の結晶粒径(最大)は40μm以上であった。ワイヤボンディング後のAlワイヤ107の接合界面120付近の結晶粒径は1μm〜20μmの範囲内で、最大粒径は15μmより大きく、ワイヤボンディング後のAlワイヤ107の接合界面120から離れた部分の結晶粒径はワイヤボンディング前の状態を維持し40μm以上であった。従来例1の構成は、Alワイヤ107を用いる点、おもて面金属膜14を設けていない点を除いて実施例と同様である。ワイヤと被接合部材との接合荷重、超音波振幅、接合時間は、実施例、参考例および従来例1ともに等しい。
【0043】
図3(a),3(b)に示すように、実施例においては、おもて面金属膜14へのワイヤ7のワイヤボンディング直後、ワイヤ7の接合界面20付近およびおもて面電極12の結晶粒径は、ワイヤボンディング前の状態よりも微細粒状となった。その後、
図3(c)に示すように、パワーサイクルの繰り返しサイクル数の増加に伴って、おもて面電極12の結晶粒は粗大化して軟化することが確認された。一方、ワイヤ7の接合界面20付近の結晶粒径は、通電発熱によってもワイヤボンディング直後の状態とほぼ変わらず、ワイヤ7の硬度はワイヤボンディング前のおもて面電極12の硬度よりも高い状態で維持されることが確認された。
【0044】
このように、実施例においては、おもて面電極12の結晶粒が粗大化して軟化したが、おもて面電極12にクラックが生じないことが確認された。この理由は、ワイヤ7よりも硬度の高いおもて面金属膜14によっておもて面電極12が強化されているためと推測される。また、ワイヤ7にはクラック21が生じたが、パワーサイクルの繰り返しサイクル数の増加に伴ってワイヤ7の内部にクラック21が進展した場合でも、ワイヤ7とおもて面電極12との間に設けられたおもて面金属膜14が防壁として機能し、ワイヤ7に生じたクラック21がおもて面電極12へと進展しないことが確認された。
【0045】
一方、
図4(a)〜4(c)に示すように、参考例では、ワイヤボンディング直後からクラックが生じるまでの期間におけるワイヤ37およびおもて面電極32の結晶粒の状態は実施例と同様であったが、ワイヤ37にはクラックが生じず、おもて面電極32にクラック23が生じることが確認された。その理由は、おもて面電極32の硬度がワイヤ37の硬度よりも低いからである。これにより、実施例のようにおもて面電極32の表面におもて面金属膜14を設けることで、おもて面電極32を強化することができ、おもて面電極32よりも硬度の高いワイヤ7を用いることができることが確認された。
図4において符号22は、ワイヤ37とおもて面電極32との接合界面である。
【0046】
また、
図5(a),5(b)に示すように、従来例1では、ワイヤボンディング直後、Alワイヤ107の接合界面120付近の結晶粒が微細粒状となり、Alワイヤ107の接合強度が向上された。このとき、おもて面電極112の結晶粒も微細粒状となった。しかしながら、その後、
図5(c)に示すように、パワーサイクルの繰り返しサイクル数の増加に伴ってAlワイヤ107の接合界面120付近およびおもて面電極112の結晶粒は粗大化して軟化し、おもて面電極112との接合界面120付近にクラック121が生じた。また、従来例1では、実施例および参考例よりも、ワイヤボンディング直後からAlワイヤ107にクラックが生じるまでの期間が短かった(パワーサイクルのサイクル数が少ない)。
【0047】
次に、ワイヤ7のワイヤボンディング条件について検証した。検証にはH&K社製ワイヤボンダBJ935(周波数60kHz)を使用した。
図6,12は、実施の形態にかかる半導体装置のワイヤの接合強度を示す特性図である。
図7は、従来の半導体装置のワイヤの接合強度を示す特性図である。異なるワイヤボンディング条件で複数の上記実施例1を作製し、ワイヤ7の接合強度を測定した結果を
図6に示す。異なるワイヤボンディング条件で複数の上記実施例2を作製し、ワイヤ7の接合品質を測定した結果を
図12に示す。比較として、実施例1,2と同様のワイヤボンディング条件で複数の上記従来例1を作製し、Alワイヤ107の接合強度を測定した結果を
図7に示す。
図6,12,7において、○はワイヤの接合強度が製品として耐え得る程度に十分に確保された場合を示し、△はワイヤの接合強度が低い場合を示し、×はワイヤが剥離して素子破壊に至った場合を示している(
図13,14においても同様)。
【0048】
図6に示す結果より、実施例1においては、ワイヤボンディングの超音波出力を11V以上とした場合、ワイヤ7と被接合部材とを接合するための接合荷重を800gf〜1400gfとし、ワイヤボンディングの超音波出力を13V以上とした場合、接合荷重を1000gf〜1400gfとすることでワイヤ7の接合強度を十分に確保することができることが確認された。また、
図12に示す結果より、実施例2においては、ワイヤボンディングの超音波出力を11V以上とすることで、ワイヤ7と被接合部材との接合強度を十分に確保することができる接合荷重範囲が広がり、接合荷重800gf〜1400gf内すべてにおいてワイヤ7と被接合部材との接合強度を十分に確保することができることが確認された。すなわち、Niめっき膜(おもて面金属膜14)の厚さを厚くすることにより、ワイヤ7と被接合部材との接合強度を十分に確保することができる接合荷重範囲が広がることがわかる。一方、
図7に示す結果により、従来例1では、13V以上の高い超音波出力で、1400gf以上の高い接合荷重とした場合に、Alワイヤ107が剥離して素子破壊に至った。したがって、実施例1,2においては、従来例1よりも高い超音波出力および接合荷重とすることで、ワイヤ7の接合強度を正常な状態で確保することができることが確認された。
【0049】
次に、実施の形態にかかる半導体装置のパワーサイクル耐量について検証した。
図8は、実施の形態にかかる半導体装置のパワーサイクル耐量を示す特性図である。上述した実施例1,2および従来例1において、パワーサイクルの繰り返しサイクル数と、半導体素子の接合温度の温度変化ΔTjとの関係を
図8に示す。半導体素子の接合温度の最大値Tjmaxを175℃とした。
図8に示す結果より、実施例1,2は、高温での使用条件において、従来例1よりもパワーサイクルの繰り返しサイクルを多く行うことができることが確認された。すなわち、実施例1,2は、従来例1よりもパワーサイクル耐量を2倍以上に増加させることができた。
【0050】
図9は、実施の形態にかかる半導体装置のワイヤボンディング後のワイヤの接合界面付近の状態を模式的に示す断面図である。
図9(a)〜9(f)は、おもて面金属膜14として厚さ0.1μm、0.3μm、0.5μm、1μm、3μmおよび5μmのNiめっき膜を形成した半導体装置のワイヤ47の接合界面付近を示している。
図9(a)〜
図9(d)にはNiめっき膜43を線分で図示しており、この線分の太さでNiめっき膜43の膜厚を示している。
図9(e),9(f)には、Niめっき膜44を黒く塗りつぶした横線で図示しており、この横線の太さ(半導体基板41の深さ方向の幅)でNiめっき膜44の膜厚を示している。
【0051】
厚さ0.3μmのNiめっき膜43を示す
図9(b)は実施例1の半導体装置に対応し、厚さ5μmのNiめっき膜44を示す
図9(f)は実施例2の半導体装置に対応する。
図9(b)に示すように、厚さ0.3μmのNiめっき膜43を形成した実施例1では、Niめっき膜43がワイヤボンディングで破壊され、おもて面電極12であるAlSi電極42とワイヤ47との接合界面に分散していることが確認された。実施例1では、ワイヤ47の接合界面付近の状態が、ワイヤボンディング直後にNiめっき膜43が割れてワイヤ47とAlSi電極42とが直接接合し、微視的に
図4(b)に示す参考例の態様となり、パワーサイクル試験後に
図4(c)に示すようになっていることが確認された。
図9(a),9(c),9(d)にそれぞれ示す厚さ0.1μm、0.5μmおよび1μmのNiめっき膜43を形成した半導体装置においても実施例1と同様にワイヤボンディング直後にNiめっき膜43が破壊されていた。
【0052】
これに対して、
図9(f),9(e)に示す厚さ5μmのNiめっき膜44を形成した実施例2、および厚さ3μmのNiめっき膜44を形成した半導体装置では、Niめっき膜44はワイヤボンディングで破壊されないことが確認された。このようにおもて面金属膜14の厚さを3μm以上、好ましくは3μm〜5μmとするのがよい。
【0053】
また、ワイヤ7のワイヤボンディング条件について、ワイヤ7の線径を500μmに太線化して検証した。
図13は、実施の形態にかかる半導体装置の別の一例のワイヤの接合品質を示す特性図である。
図14は、従来の半導体装置の別の一例のワイヤの接合品質を示す特性図である。○はワイヤの接合強度が製品として耐え得る程度に十分に確保された場合を示し、△はワイヤの接合強度が低い場合を示し、×はワイヤが剥離して素子破壊に至った場合を示している。異なるワイヤボンディング条件で、線径500μmのワイヤ7をおもて面金属膜14に接合した実施の形態にかかる半導体装置(以下、実施例3とする)において、ワイヤ7の接合強度を測定した結果を
図13に示す。実施例3においては、おもて面金属膜14として厚さ5μmのNiめっき膜を形成した。実施例3の構成は、ワイヤ7の線径が異なることを除いて実施例2と同様である。また、比較として、異なるワイヤボンディング条件で、線径500μmのワイヤ37をおもて面電極112に接合した従来の半導体装置(以下、従来例2とする)において、ワイヤ37の接合強度を測定した結果を
図14に示す。従来例2の構成は、ワイヤ37の線径が異なることを除いて参考例と同様である。
【0054】
図13に示す結果より、実施例3においては、Niめっき膜(おもて面金属膜14)の厚さを5.0μmとし、ワイヤ7の線径を500μmにすることで、ワイヤボンディングの超音波出力を高くし(18V〜22V)、かつワイヤ7と被接合部材とを接合するための接合荷重を大きくしたとしても(1300gf〜1500gf)、おもて面金属膜14とワイヤ7との接合部に接合不良が生じず、ワイヤ7の接合強度を十分に確保することができることが確認された。一方、
図14に示す結果より、従来例2では、ワイヤ37の線径を500μmにした場合、ワイヤボンディングの超音波出力が低く(例えば18V)、ワイヤ37と被接合部材とを接合するための接合荷重が大きい(例えば1500gf)場合において、素子破壊が発生することが確認された。従来例2に生じた素子破壊は、今回の実験では超音波出力が低い(例えば18V)領域で素子破壊が発生したが、超音波接合の原理上、超音波出力が高い領域でも素子破壊は発生する虞がある。
【0055】
以上、説明したように、実施の形態によれば、ワイヤの結晶粒径を制御して、ワイヤの再結晶温度を従来のアルミニウムワイヤの再結晶温度よりも高くし、かつワイヤの硬度をおもて面電極の硬度よりも高くすることで、従来よりも高温での使用条件においてもワイヤにクラックが生じることを抑制することができる。これにより、ワイヤにクラックが生じるまでの期間を従来よりも長くすることができる。また、実施の形態によれば、おもて面電極の表面にワイヤよりも硬度の高いおもて面金属膜を設けることで、おもて面電極を強化することができるため、おもて面電極にクラックが生じることを防止することができる。また、おもて面電極の表面にワイヤよりもさらに硬度の高いおもて面金属膜を設けることで、おもて面金属膜が障壁として機能するため、ワイヤにクラックが生じた場合でもこのクラックがおもて面電極に進展することを防止することができる。このように、おもて面電極にクラックを生じさせることなく、かつワイヤにクラックが生じることを抑制することができることで、パワーサイクル耐量を向上させることができる。したがって、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0056】
また、実施の形態によれば、ワイヤの硬度を高くすることで、ワイヤの熱変形によっておもて面電極にかかる応力が大きくなるが、おもて面電極の表面にワイヤよりも硬度の高いおもて面金属膜を設けることでおもて面電極が強化されるため、おもて面電極が破損することを防止することができる。
【0057】
以上において本発明は種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法等は要求される仕様等に応じて種々設定される。