(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
解繊処理することにより得た平均繊維幅2nm以上10nm未満の微細繊維と、ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキサイドのうちの少なくとも一方を含む親水性高分子とを含む懸濁液を基材上に塗工する塗工工程と、塗工した懸濁液を乾燥する乾燥工程とを含む、シートの製造方法であって、前記シートが、2nm以上10nm未満の平均繊維幅の微細繊維と親水性高分子とを含む層を含むシートであって、前記親水性高分子が、ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキサイドのうちの少なくとも一方を含むシートである、前記の方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
<微細繊維>
本発明の一の実施態様で用いる微細繊維は、繊維径が1000nm以下の微細繊維であればその種類は特に限定されず、例えば、微細セルロース繊維でもよいし、微細セルロース繊維以外の微細繊維でもよく、また微細セルロース繊維と、微細セルロース繊維以外の微細繊維との混合物でもよい。
本発明の別の実施態様で用いる微細繊維は、平均繊維幅2〜100nmの微細繊維であればその種類は特に限定されない。例えば、微細セルロース繊維でもよいし、微細セルロース繊維以外の微細繊維でもよく、また微細セルロース繊維と、微細セルロース繊維以外の微細繊維との混合物でもよい。
【0021】
微細セルロース繊維の詳細については後記する。微細セルロース繊維以外の繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられるが特に限定されない。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、炭素繊維、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。微細セルロース繊維と微細セルロース繊維以外の微細繊維を混合して用いる場合、微細セルロース繊維以外の微細繊維は、必要に応じて化学的処理、解繊処理等の処理を施すことができる。微細セルロース繊維以外の微細繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施す場合、微細セルロース繊維以外の微細繊維は、微細セルロース繊維と混合してから化学的処理、解繊処理等の処理を施すこともできるし、微細セルロース繊維以外の微細繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施してから微細セルロース繊維と混合することもできる。微細セルロース繊維以外の微細繊維を混合する場合、微細セルロース繊維と微細セルロース繊維以外の微細繊維の合計量における微細セルロース繊維以外の微細繊維の添加量は特に限定されない。添加量は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。特に好ましくは20質量%以下である。
【0022】
<微細セルロース繊維>
本発明においては、リグノセルロース原料を含む、セルロース原料を化学的処理及び解繊処理することによって得られる微細セルロース繊維を使用してもよい。
セルロース原料としては、製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、入手のしやすさという点で、製紙用パルプが好ましいが、特に限定されない。製紙用パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)など)、針葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)など)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、より入手しやすいことから、クラフトパルプ、脱墨パルプ、サルファイトパルプが好ましいが、特に限定されない。セルロース原料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0023】
微細セルロース繊維の平均繊維幅は特に限定されないが、好ましくは平均繊維幅2〜1000nm、より好ましくは平均繊維幅2〜100nm、さらに好ましくは平均繊維幅2〜50nmの微細セルロース繊維である。微細セルロース繊維は、通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに細いセルロース繊維あるいは棒状粒子でもよい。微細セルロース繊維は結晶部分を含むセルロース分子の集合体であり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。微細セルロース繊維の平均繊維幅は電子顕微鏡で観察して、好ましくは2〜1000nm、より好ましくは2〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmであり、さらに好ましくは2nm以上10nm未満であるが、特に限定されない。微細セルロース繊維の平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細セルロース繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。ここで、微細セルロース繊維がI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。また、微細セルロース繊維の電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細セルロース繊維の水系懸濁液を調製し、該懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0024】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0025】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細セルロース繊維の平均繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0026】
微細セルロース繊維の繊維長は特に限定されないが、1〜1000μmが好ましく、5〜800μmがさらに好ましく、10〜600μmが特に好ましい。繊維長が1μm未満になると、微細繊維シートを形成し難くなる。1000μmを超えると微細繊維のスラリー粘度が非常に高くなり、扱いづらくなる。繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0027】
微細セルロース繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は100〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が100未満であると微細セルロース繊維含有シートを形成し難くなるおそれがある。軸比が10000を超えるとスラリー粘度が高くなり、好ましくない。
【0028】
<化学的処理>
セルロース原料又はその他の繊維原料(無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維など)の化学的処理の方法は、微細繊維を得ることができる方法である限り特に限定されないが、例えば、オゾン処理、TEMPO酸化処理、酵素処理、又はセルロース又は繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
オゾン処理の一例としては、特開2010−254726号公報に記載されている方法を挙げることができるが特に限定されない。具体的には、繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系分散液を粉砕処理する。
【0030】
酵素処理の一例としては、特願2012−115411号(特願2012−115411号に記載の内容は全て本明細書中に引用されるものとする)に記載の方法を挙げることができるが特に限定されない。具体的には、繊維原料を、少なくとも酵素のEG活性とCBHI活性の比が0.06以上の条件下で、酵素で処理する方法である。
【0031】
EG活性は下記のように測定し、定義される。
濃度1% (W/V) のカルボキシルメチルセルロース(CMCNa High viscosity; Cat No150561, MP Biomedicals, lnc.)の基質溶液(濃度100mM、pH5.0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液含有)を調製した。測定用酵素を予め緩衝液(前記同様)で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の吸光度が下記グルコース標準液から得られた検量線に入ればよい)した。90μlの前記基質溶液に前記希釈して得られた酵素溶液10μlを添加し、37℃、30分間反応させた。
検量線を作成するために、イオン交換水(ブランク)、グルコース標準液(濃度0.5〜5.6mMからすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を選択し、それぞれ100μlを用意し、37℃、30分間保温した。
【0032】
前記反応後の酵素含有溶液、検量線用ブランクおよびグルコース標準液に、それぞれ300 μlのDNS発色液(1. 6質量%のNaOH、1質量%の3,5−ジニトロサリチル酸、30質量%の酒石酸カリウムナトリウム)を加えて、5分間煮沸し発色させた。発色後直ちに氷冷し、2mlのイオン交換水を加えてよく混合した。30分間静置した後、1時間以内に吸光度を測定した。
吸光度の測定は96穴マイクロウェルプレート(269620、NUNC社製)に20Oμlを分注し、マイクロプレートリーダー(infiniteM200、TECAN社製)を用い、540nmの吸光度を測定した。
【0033】
ブランクの吸光度を差し引いた各グルコース標準液の吸光度とグルコース濃度を用い検量線を作成した。酵素溶液中のグルコース相当生成量は酵素溶液の吸光度からブランクの吸光度を引いてから検量線を用いて算出した(酵素溶液の吸光度が検量線に入らない場合は前記緩衝液で酵素を希釈する際の希釈倍率を変えて再測定を行う) 。 1分間にlμmoleのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を1単位と定義し、下記式からEG活性を求める。
EG活性=緩衝液で希釈して得られた酵素溶液1mlのグルコース相当生成量(μmole) /30分×希釈倍率[福井作蔵, “生物化学実験法(還元糖の定量法)第二版”、学会出版センター、p.23〜24(1990年)参照]
【0034】
CBHI活性は下記のように測定し、定義される。
96穴マイクロウェルプレート(269620、NUNC社製)に1. 25mMの4-Methyl-umberiferyl-cel1obioside (濃度125mM、pH5. 0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液に溶解した) 32μlを分注する。100mMのGlucono-1,5-Lactone 4μlを添加し、さらに、前記同様の緩衝液で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の蛍光発光度が下記標準液から得られた検量線に入ればよい)した測定用酵素液4μlを加え、37℃、30分間反応させる。その後、500mMのglycine-NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加し、反応を停止させる。
【0035】
前記同様の96穴マイクロウェルプレートに検量線の標準液として4-Methyl-umberiferon標準溶液40μ1 (濃度0〜50μMのすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を分注し、37℃、30分間加温する。その後、500mMのglycine-NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加する。
【0036】
マイクロプレートリーダー(F1uoroskanAscentFL、ThermoーLabsystems社製)を用い、350nm (励起光460n皿)における蛍光発光度を測定する。標準液のデータから作成した検量線を用い、酵素溶液中の4-Methy1-umberiferon生成量を算出する(酵素溶液の蛍光発光度が検量線に入らない場合は希釈率を変えて再測定を行う) 。1分間に1μmo1の4-Methyl-umberiferonを生成する酵素の量を1単位とし、下記式からCBHI活性を求める。
CBHI活性=希釈後酵素溶液1m1の4-Methyl-umberiferon生成量(μmo1e)/30分×希釈倍率
【0037】
セルロース又は繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理としては、以下の方法を挙げることができるが、特に限定されない。
・特開2011−162608号公報に記載されている四級アンモニウム基を有する化合物による処理;
・特開2013−136859号に記載されているカルボン酸系化合物を使用する方法;
並びに
・国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸又はそれらの塩から選ばれる少なくなくとも1種の化合物」を使用する方法;
【0038】
特開2011−162608号公報に記載されている四級アンモニウム基を有する化合物による処理は、繊維中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該繊維をカチオン変性する方法である。
【0039】
特開2013−136859号に記載されている方法では、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物、およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸系化合物を使用する。これらの化合物により繊維原料を処理して、繊維原料にカルボキシ基を導入するカルボキシ基導入工程と、前記カルボキシ基導入工程終了後に、カルボキシ基を導入した繊維原料をアルカリ溶液で処理するアルカリ処理工程を含む方法である。
【0040】
国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)には、構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸又はそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(化合物A)により繊維原料を処理する方法が記載されている。具体的には、繊維原料に化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、繊維原料のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。化合物Aはリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられるが特に限定されない。また、これらは塩の形を取っても構わない。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウムなどが挙げられるが特に限定されない。
【0041】
<解繊処理>
解繊処理工程では、解繊処理装置を用いて、前記の化学的処理で得られた原料を解繊処理して、微細繊維分散液を得ることができる。
解繊処理装置としては、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができるが、特にこれらに限定されない。
【0042】
<微細繊維を含有する分散液>
基材に塗工する微細繊維を含有する分散液は、微細繊維と分散媒とを含有する液である。分散媒としては、水、有機溶剤を使用することができるが、取り扱い性やコストの点から、水のみが好ましいが、特には限定されない。有機溶剤を使用する場合でも水と併用することが好ましいが、特には限定されない。水と併用する有機溶剤としては、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、アセテート系溶剤(酢酸エチル等)等の極性溶剤が好ましいが、特にこれらに限定されない。
【0043】
分散液における固形分濃度は、特に限定されないが、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。希釈後の固形分濃度が前記下限値以上であれば、解繊処理の効率が向上し、前記上限値以下であれば、解繊処理装置内での閉塞を防止できる。
【0044】
<親水性高分子>
本発明の実施態様においては、微細繊維に親水性高分子を添加した懸濁液を調製する。
本発明で用いる親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体などを挙げることができるが、特に限定されない。上記の中でもポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドを用いることが特に好ましい。また親水性高分子の代わりにグリセリンを用いることも出来る。
【0045】
親水性高分子の分子量は特に限定されないが、例えば1.0×10
3〜1.0×10
7であり、好ましくは2.0×10
3〜1.0×10
7であり、より好ましくは5.0×10
3〜1.0×10
7である。
【0046】
親水性高分子の添加量は、微細繊維の固形分100質量部に対し、好ましくは1から200質量部であり、より好ましくは1から150質量部であり、より好ましくは2から120質量部であり、特に好ましくは3から100質量部であるが、特に限定されない。
【0047】
<微細繊維を含有する懸濁液>
基材に塗工する微細繊維を含有する懸濁液、または、基材に塗工する微細繊維と親水性高分子を含有する懸濁液は、微細繊維と親水性高分子と分散媒とを含有する液である。分散媒としては、水、有機溶剤を使用することができるが、取り扱い性やコストの点から、水のみが好ましいが、特には限定されない。有機溶剤を使用する場合でも水と併用することが好ましいが、特には限定されない。水と併用する有機溶剤としては、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、アセテート系溶剤(酢酸エチル等)等の極性溶剤が好ましいが、特にこれらに限定されない。
【0048】
懸濁液における固形分濃度は、特に限定されないが、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.5〜10質量%がさらに好ましい。希釈後の固形分濃度が前記下限値以上であれば、解繊処理の効率が向上し、前記上限値以下であれば、解繊処理装置内での閉塞を防止できる。
【0049】
<塗工工程>
本発明においては、微細繊維を含有する分散液、または、微細繊維と親水性高分子を含有する懸濁液を基材上に塗工する塗工工程が含まれる。基材としては、フィルム(通気性を有するフィルムも含む)、織布、不織布に代表されるシート状のもの、板または円筒体を使用することができるが、特にこれらに限定されない。基材の材質としては、例えば、樹脂、金属又は紙などが使用され、より容易に微細繊維含有シートを製造できる点では、樹脂又は紙が好ましいが、特にこれらに限定されない。また、基材の表面は疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。金属としては、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、鉄、真鍮等が挙げられるが、特に限定されない。
【0050】
紙基材としては、例えば、片艶紙、上質紙、中質紙、コピー用紙、アート紙、コート紙、クラフト紙、板紙、白板紙、新聞用紙、更紙等の紙基材が挙げられるが、特に限定されない。紙基材の少なくとも一方の面は、疎水化剤によって疎水化されていてもよい。紙基材の中でも、片艶紙を用い、その艶面を疎水化する面とすることが好ましいが、特に限定はされない。ここで、片艶紙は、抄紙後の湿紙をヤンキードライヤーによって乾燥して得たものであり、一方の面が高光沢化された艶面にされている。また、艶面と反対側の面(更面)側は、艶面側よりも密度が低くなっている。したがって、艶面にて高い平滑性を得ながらも、充分な透気性を確保できるため、疎水化した艶面で微細繊維を抄紙すれば、濾過速度を低下させずに面質がより良好な微細繊維含有シートを容易に得ることができる。
【0051】
紙基材は、パルプを含む紙料を抄紙機でまたは手抄きで抄造して得られる。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプのいずれであってもよい。木材パルプの原料としては針葉樹や広葉樹が挙げられるが、紙基材の平滑性が高くなる点では、広葉樹を原料としたパルプを多く含むことが好ましいが特に限定されない。また、パルプは、機械パルプ、化学パルプのいずれであってもよい。化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP,蒸解液:NaOHとNa
2S)、ポリサルファイドパルプ(SP,蒸解液:NaOHとNa
2S
X)、ソーダパルプ(蒸解液:NaOH)、亜硫酸塩パルプ(蒸解液:Na
2SO
3)、炭酸ソーダパルプ(蒸解液:Na
2CO
3)、酸素ソーダパルプ(蒸解液:O
2とNaOH)などがあり、特に限定されない。これらの中でも、クラフトパルプが平滑性やコストの面で好ましいが、特には限定されない。また、パルプは、未晒パルプであってもよいし、晒パルプであってもよい。また、パルプは未叩解パルプおよび叩解パルプのいずれでも構わないが、紙基材の平滑性が向上する点では、叩解パルプが好ましいが、特に限定されない。
【0052】
紙基材の、疎水化される少なくとも一方の面の表面平滑度(王研式平滑度(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験法,No.5−2:2000)で測定)は特に限定されないが、50秒以上であることが好ましく、150〜800秒であることがより好ましい。紙基材の、疎水化される少なくとも一方の面の表面平滑度が前記下限値以上であれば、後述する微細繊維含有シートの製造において、面質が良好な微細繊維含有シートを容易に得ることができ、表面平滑度が前記上限値以下であれば、微細繊維含有シートの生産性低下が防止された紙基材を容易に得ることができる。
【0053】
紙基材の王研式透気度(JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.5−2:2000)は特に限定されないが、20〜500秒が好ましく、40〜300秒であることがより好ましい。紙基材の透気度が前記下限値以上であれば、微細繊維をより捕捉でき、前記上限値以下であれば、微細繊維含有シートの生産性低下が防止された紙基材を容易に得ることができる。
【0054】
紙基材の坪量は特に限定されないが、15〜300g/m
2であることが好ましく、20〜200g/m
2であることがより好ましい。紙基材の坪量が前記下限値以上であれば、充分に微細繊維を捕捉できる紙基材をより容易に得ることができ、紙基材の坪量が前記上限値以下であれば、微細繊維含有シートの生産性低下が防止された紙基材をより容易に得ることができる。
【0055】
紙基材のうち、片艶紙の坪量は特に限定されないが、15〜300g/m
2であることが好ましく、20〜200g/m
2であることがより好ましい。片艶紙の坪量が前記下限値以上であれば、充分に微細繊維を捕捉できる紙基材をより容易に得ることができ、片艶紙の坪量が前記上限値以下であれば、微細繊維含有シートの生産性低下が防止された紙基材をより容易に得ることができる。
【0056】
紙基材の疎水化は、疎水化剤により行うことができる。疎水化剤は、水との親和性が低く、水に溶解しにくい又は混合しにくい物質である。疎水化剤は、紙基材の離型性をより高くできることから、シリコーン化合物、フッ素化合物、ポリオレフィンワックス、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸アルカリ塩、アクリル系重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、より剥離性に優れることから、シリコーン化合物がより好ましいが、特に限定されない。「シリコーン化合物」とは、ポリシロキサンのことである。
【0057】
微細繊維を含有する分散液を塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができるが特に限定されない。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましく、ダイコーターがより好ましいが、特にこれらに限定されない。
【0058】
塗工温度は特に限定されないが、20〜45℃であることが好ましく、25〜40℃であることがより好ましく、27〜35℃であることがさらに好ましい。塗工温度が前記下限値以上であれば、微細繊維含有分散液を容易に塗工でき、前記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0059】
微細繊維を塗工した後に微細繊維を含有するシートに有機溶媒を添加することもできる。有機溶媒の添加方法は、特に限定されず、滴下法、浸漬法、等の方法を用いることができる。
【0060】
<微細繊維含有シートを形成する乾燥工程>
本発明においては、基材上に塗工した微細繊維を含有する分散液を乾燥することによって微細繊維含有シートを形成する乾燥工程が含まれる。
乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。好ましくは、乾燥工程は、少なくとも2段階の工程を含み、より好ましくは非接触の第1乾燥工程と、その後のシートを拘束しながら乾燥する第2乾燥工程とを含むが、特にこれらに限定されない。
【0061】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができ、加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、40〜120℃とすることが好ましく、60〜105℃とすることがより好ましい。加熱温度を前記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、前記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維の熱による変色を抑制できる。
【0062】
シートを拘束しながら乾燥する方法としては、本書中以下において
図1及び
図2に関連して説明するように、含水ウェブの微細繊維分散液が塗布された面(以下、「塗布面A」という。)をドライヤーの外周面に接し、含水ウェブの微細繊維分散液が塗布されなかった面(以下、「非塗布面B」という。)がフェルト布に接するように移送する方法などを挙げることができるが、特に限定されない。
【0063】
本発明の少なくとも2段階の乾燥工程を含む実施態様においては、非接触の第1乾燥工程後のシートの固形分濃度(ρ
2)は特に限定されないが、3〜21質量%であることが好ましい。また、非接触の第1乾燥工程前のシートの固形分濃度(ρ
1)、非接触の第1乾燥工程後のシートの固形分濃度(ρ
2)、及び固形分濃度ρ
1からρ
2になるまでに要した時間t
21(分)から算出される下記式(1)で示されるα
21は特に限定されないが、0.01〜1.0(%/分)であることが好ましい。
式(1) α
21=(ρ
2−ρ
1)/t
21
【0064】
さらに本発明の少なくとも2段階の乾燥工程を含む実施態様においては、乾燥工程後のシートの固形分濃度(ρ
4)は特に限定されないが、88〜99質量%であることが好ましい。また、シートを拘束しながら乾燥する第2乾燥工程前のシートの固形分濃度(ρ
3)、前記第2乾燥工程後のシートの固形分濃度(ρ
4)、及び固形分濃度ρ
4からρ
3になるまでに要した時間t
43(分)から算出される下記式(2)で示されるα
43は特に限定されないが、0.01〜30.0(%/分)であることが好ましい。
式(2) α
43=(ρ
4−ρ
3)/t
43
【0065】
固形分濃度(ρ
2)、α
21、固形分濃度(ρ
4)及び/又はα
43を上記の範囲に設定することにより、微細繊維含有シートをシワを生じることなく、更に容易に製造することができる。
【0066】
本発明においては、基材上に塗工した微細繊維と親水性高分子を含有する懸濁液を乾燥することによって微細繊維含有シートを形成する乾燥工程が含まれる。
乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0067】
本発明の親水性高分子を用いる態様においては、乾燥工程前(少なくとも2段階の乾燥工程を含む実施態様においては、最初の乾燥工程前)のシートの固形分濃度(ρ
1)、乾燥工程後(少なくとも2段階の乾燥工程を含む実施態様においては、最終の乾燥工程の後)のシートの固形分濃度(ρ
2)、及び固形分濃度ρ
1からρ
2になるまでに要した時間t
21(分)から算出される下記式(1)で示されるα
21が0.01〜30.0(%/分)であり、0.01〜20.0(%/分)が好ましく、0.01〜10.0(%/分)がより好ましく、0.01〜1.0(%/分)であることが特に好ましい。
式(1) α
21=(ρ
2−ρ
1)/t
21
【0068】
乾燥後に、得られた微細繊維含有シートを基材から剥離するが、基材がシートの場合には、微細繊維含有シートと基材とを積層したまま巻き取って、微細繊維含有シートの使用直前に微細繊維含有シートを工程基材から剥離してもよい。
【0069】
本発明の実施形態について図面を用いて以下に説明する。
微細繊維含有シートを製造するための装置としては、例えば、
図1又は
図2に示すような、第1乾燥セクション10と、第1乾燥セクション10の下流側に設けられた第2乾燥セクション20と、乾燥セクションの下流側に設けられた巻取セクション30とを具備する製造装置を用いることができる。
【0070】
第1乾燥セクション10は、抄紙用ワイヤ11を用いて微細繊維分散液A(親水性高分子を含有していてもよい。)を脱水、乾燥して含水ウェブBを得るセクションである。第1乾燥セクション10には、抄紙用ワイヤ11を疎水化平滑面が上を向くように繰り出す送出リール16が設けられており、さらに所望により、微細繊維分散液Aから分散媒を強制的に脱水する吸引手段14が設けられている。吸引手段14は、抄紙用ワイヤ11の下方に配置され、その上面には真空ポンプ(図示せず)に接続された吸引孔(図示せず)が多数形成されている。なお、吸引手段は使用しなくても良い。
【0071】
第2乾燥セクション20は、含水ウェブBを、ドライヤーを用いて乾燥して微細繊維含有シートCを得るセクションである。第2乾燥セクション20には、シリンダードライヤーで構成された第1ドライヤー21(
図2においては、更に第2ドライヤー22)と、第1ドライヤー21の外周に沿って配置されたフェルト布24とが設けられている。
図2においては、第1ドライヤー21は、第2ドライヤー22よりも上流側に配置されている。また、フェルト布24は無端状にされており、ガイドロール23によって、循環走行している。
【0072】
第2乾燥セクション20では、含水ウェブBを、ガイドロール23によって移送するようになっている。具体的には、まず、含水ウェブBにおける微細繊維分散液Aの塗布された面A(以下、「塗布面A」という。)が第1ドライヤー21の外周面に接し、含水ウェブBにおける微細繊維分散液Aの塗布されなかった面B(以下、「非塗布面B」という。)がフェルト布24に接するように移送される。
図2においては、次いで、塗布面Aが第2ドライヤー22の外周面に接するようになっている。
【0073】
巻取セクション30は、抄紙用ワイヤ11から微細繊維含有シートCを分離し、これを巻き取るセクションである。巻取セクション30には、抄紙用ワイヤ11から微細繊維含有シートCを分離する一対の分離ローラ31a,31bと、微細繊維含有シートCを巻き取る巻取リール32と、使用済みの抄紙用ワイヤ11を巻き取って回収する回収リール33とが設けられている。分離ローラ31aは抄紙用ワイヤ11側に、分離ローラ31bは微細繊維含有シートC側に配置されている。
【0074】
(第1乾燥工程)
第1乾燥工程では、抄紙用ワイヤ11を送出リール16から繰り出し、抄紙用ワイヤ11の疎水化平滑面に微細繊維分散液Aをヘッド18bから吐出する。吸引手段14により、抄紙用ワイヤ11上の微細繊維分散液Aに含まれる分散媒を吸引、脱水してもよい。第1乾燥工程では、赤外線装置34からの赤外線により、微細繊維分散液を乾燥して、これにより含水ウェブBを得る。
【0075】
第1乾燥工程において、抄紙用ワイヤ11の走行張力が大きい場合には、抄紙用ワイヤ11が破断するおそれがあるため、通常の抄紙に使用されるワイヤを抄紙用ワイヤ11の下に配置して抄紙用ワイヤ11を支持してもよい。
【0076】
第2乾燥工程では、まず、抄紙用ワイヤ11の上面に載置した含水ウェブBを、加熱した第1ドライヤー21の外周面の約半周に、第1ドライヤー21の外周面に塗布面Aが接するように巻き掛けて、含水ウェブBに残留していた分散媒を蒸発させる。蒸発した分散媒は、抄紙用ワイヤ11の細孔を通ってフェルト布24から蒸発する。
【0077】
図2に示す装置を使用する場合には、次いで、含水ウェブBを、加熱した第2ドライヤー22の外周面の約3/4周に、第2ドライヤー22の外周面に塗布面Aが接するように巻き掛けて、含水ウェブBに残留していた分散媒を蒸発させる。
このように含水ウェブBを乾燥させて微細繊維含有シートCを得る。
【0078】
巻取工程では、抄紙用ワイヤ11および微細繊維含有シートCを一対の分離ローラ31a,31bで挟み込むことにより、微細繊維含有シートCを抄紙用ワイヤ11から分離させて一方の分離ローラ31bの表面に転移する。そして、分離ローラ31bの表面から微細繊維含有シートCを引き離して、巻取りリール32により巻き取る。それと共に、使用した抄紙用ワイヤ11を回収リール33により巻き取る。
【0079】
上記のように抄紙用ワイヤ11を用いることにより、微細繊維含有シートを得ることができる。
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
〔実施例1〕
(微細セルロース繊維分散液A)
リン酸二水素ナトリウム二水和物265g、及びリン酸水素二ナトリウム197gを538gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。
【0081】
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分50質量%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を含水率80質量%になるようイオン交換水で希釈し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリー500gに前記リン酸化試薬210gを加え、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)で時折混練しながら質量が恒量となるまで乾燥させた。ついで150℃の送風乾燥機で時折混練しながら1時間加熱処理して、セルロースにリン酸基を導入した。
【0082】
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12〜13になるまで少しずつ添加して、パルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0083】
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、1.0質量%のパルプスラリーにした。このパルプスラリーを、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社「Panda Plus 2000」)に、操作圧力1200barで10回パスさせ、微細セルロース繊維分散液Aを得た。微細セルロース繊維の平均繊維幅(繊維径)は、4.2nmであった。
【0084】
(抄紙用ワイヤA)
叩解処理して得た、JIS P8121にしたがって測定されたカナダ標準濾水度(以下、CSF)が350mlの広葉樹晒クラフトパルプを100質量部、サイズ剤(商品名:ファイブラン81K、日本エヌエスシー社製)0.05質量部、硫酸バンド0.45質量部、カチオン化澱粉0.5質量部、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂(紙力増強剤)0.4質量部、歩留向上剤少量よりなる紙料を長網で抄紙した。これにより得た湿紙を乾燥した後、カレンダー処理(線圧:100kg/cm)して、艶面の表面平滑度575秒、更面の表面平滑度7秒、透気度130秒、紙水分5.5%、坪量100g/m
2の片艶紙を得た。このようにして得た片艶紙の艶面に、シリコーン系疎水化剤KS3600(信越化学工業社製)100部と、硬化剤PL50T(信越化学工業社製)1部を、トルエン/酢酸エチルが3/1の混合溶媒に3質量%濃度になるように添加し攪拌したものをバーコーターで塗工量が2g/m
2になるように塗工し、100℃で乾燥させて艶面が疎水化処理された抄紙用ワイヤAを得た。抄紙用ワイヤAの艶面の表面平滑度は、650秒であった。
【0085】
(実験例1)
図1に示す製造装置を用いて微細セルロース繊維含有連続シートを製造した。なお、抄紙用ワイヤ11として抄紙用ワイヤAを用いた。
すなわち、上記微細セルロース繊維分散液Aを供給タンク13に収容し、攪拌機13aにより攪拌しながらダイヘッド18bに供給した。次いでダイコーター18の開口部18aから微細セルロース繊維分散液Aを走行する抄紙用ワイヤ11の上面に供給し、赤外線装置34により微細セルロース繊維分散液中の水を蒸発させて含水ウェブBを得た。
【0086】
次いで、含水ウェブBを乾燥セクション20に送り、第1ドライヤー21(設定温度80℃)により乾燥して微細セルロース繊維含有シートCを得た。
【0087】
次いで、分離ローラ31a、31bによって抄紙用ワイヤ11と微細セルロース繊維含有シートCとを剥離(分離)し、微細セルロース繊維含有シートCを巻取リール32により巻き取り、抄紙用ワイヤ11を回収リール33により巻き取った。得られた微細セルロース繊維含有シートCのシワの評価、シート作製の評価、を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0088】
なお、本実施例において、非接触の第1乾燥工程前のシートの固形分濃度(ρ
1)は、
図1の赤外線装置34からの赤外線を受ける直前のシートの固形分濃度であり、非接触の第1乾燥工程後のシートの固形分濃度(ρ
2)は
図1の赤外線装置34からの赤外線を受けた直後のシートの固形分濃度である。また、第2乾燥工程前のシートの固形分濃度(ρ
3)は、
図1の第1ドライヤー21の直前のシートの固形分濃度であり、第2乾燥工程後のシートの固形分濃度(ρ
4)は、
図1の第1ドライヤー21の直後のシートの固形分濃度である。
【0089】
<シワの評価>
微細セルロース繊維含有シートのシワの程度を下記の判断基準で評価した。
○:シワが認められない
△:若干シワが認められる
×:明らかにシワが認められる
【0090】
【表1】
【0091】
〔実施例2〜9〕
(微細繊維状セルロース懸濁液A)
リン酸二水素ナトリウム二水和物265g、及びリン酸水素二ナトリウム197gを538gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。
【0092】
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙株式会社製、水分50質量%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を含水率80質量%になるようイオン交換水で希釈し、パルプ懸濁液を得た。このパルプ懸濁液500gに前記リン酸化試薬210gを加え、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)で時折混練しながら質量が恒量となるまで乾燥させた。ついで150℃の送風乾燥機で時折混練しながら1時間加熱処理して、セルロースにリン酸基を導入した。
【0093】
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12〜13になるまで少しずつ添加して、パルプ懸濁液を得た。その後、このパルプ懸濁液を脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0094】
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、1.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社「Panda Plus 2000」)で、操作圧力1200barにて5回パスさせ、微細繊維状セルロース懸濁液Aを得た。さらに、湿式微粒化装置(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で245MPaの圧力にて5回パスさせ微細繊維状セルロース懸濁液Bを得た。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、4.2nmであった。
【0095】
(実施例2)
微細繊維状セルロース懸濁液Bに親水性高分子であるポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量20000)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、50質量部になるように添加した。なお、固形分濃度が0.5%となるよう濃度調製を行った。シート坪量が35g/m
2になるように懸濁液を計量して、市販のアクリル板に展開し50℃のオーブンにて乾燥し微細繊維状セルロース含有シートを得た。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置し、得られるシートが四角形になるようにした。得られたシートはシワが入らず平らであった。
【0096】
(実施例3)
ポリエチレングリコールの添加量を30質量部とした以外は、実施例2と同様にして微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られたシートは端部にシワが多少見られたものの概ね平らなシートであった。
【0097】
(実施例4)
ポリエチレングリコールの添加量を100質量部とした以外は、実施例2と同様にして微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られたシートはシワが入らず平らであった。
【0098】
(実施例5)
親水性高分子であるポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量500000)を用いた以外は実施例2と同様にして微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られたシートはシワが入らず平らであった。
【0099】
(実施例6)
親水性高分子であるポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量2000000)を用い、添加量を10質量部とした以外は実施例2と同様にして微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られたシートはシワが入らず平らであった。
【0100】
(実施例7)
親水性高分子であるポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量4000000)を用い、添加量を5質量部とした以外は実施例2と同様にして微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られたシートはシワが入らず平らであった。
【0101】
(実施例8)
親水性高分子であるポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量4000000)を用い、添加量を10質量部とした以外は実施例2と同様にして微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られたシートはシワが入らず平らであった。
【0102】
(実施例9)
親水性高分子であるポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量4000000)を用い、添加量を20質量部とした以外は実施例2と同様にして微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られたシートはシワが入らず平らであった。
【0103】
(比較例1)
実施例2にて親水性高分子を全く添加しないでシート作製を行った。得られたシートはシワが多く大きくうねっていた。
【0104】
また、上記の実施例2〜9及び比較例1について、乾燥工程前のシートの固形分濃度(ρ
1)、乾燥工程後のシートの固形分濃度(ρ
2)、及び固形分濃度ρ
1からρ
2になるまでに要した時間t
21(分)から算出される下記式(1)で示されるα
21を求めた。
式(1) α
21=(ρ
2−ρ
1)/t
21
実施例2〜9及び比較例1についての結果を以下の表2に示す。
【0105】
【表2】