(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属ガラスが、Zr系金属ガラス、Pd系金属ガラス、Pt系金属ガラス、Au系金属ガラス、Fe系金属ガラス、Ni系金属ガラス、Mg系金属ガラス、Co系金属ガラス、Cu系金属ガラスの何れかである、請求項1乃至7の何れかに記載の圧力センサ。
【背景技術】
【0002】
圧力センサは、例えば空気の圧力変化によるダイヤフラムの振動を測定するマイクロフォンとして利用されている。マイクロフォンの小型用途では、伝統的に、Electret Condenser Microphone(ECM)が用いられており、ヘッドセットからモバイルデバイスまでの広い範囲において使用されていた。しかし、ECMは、エレクトレットの耐熱性の問題から半田実装のために温度を上げられないことが問題であり、また、小型化・低背化に限界がある。そこで、特に小型化・低コスト化が求められる用途では、ECMは急速にMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)技術によるマイクロフォンに置き換えられた。
【0003】
現在、MEMSマイクロフォンは、小型、かつ低コストであり、耐衝撃性、音響位相特性などに優れることから、モバイルフォン、スマートフォン、タブレットコンピュータなどに広く搭載されている。多くの場合、ノイズキャンセリングのために、複数のMEMSマイクロフォンが搭載される。MEMSマイクロフォンには、静電型、圧電型及びピエゾ抵抗型があるが、現在、市場を占めているものは静電型である。静電型は、バックチャンバーとバックプレート(対向電極)とセンシング用ダイヤフラムとを備え、バックプレートとダイヤフラムとの距離変化に応じて静電容量が変化し、その容量変化が読み出し回路によって電流、電圧又は周波数の変化に変換される。バックプレートには、空気が通過するための多数の穴(パーフォレーションホール)が設けられている。
【0004】
マイクロフォンの性能指標としては、感度、信号/ノイズ比(SNR)、最大音圧レベル、ダイナミックレンジ、指向性、周波数特性、消費電力などがあるが、どこまで小さな音を拾えるかを示す指標がSNRである。現在、MEMSマイクロフォンのSNRは65dB程度であるが、今後、音声認識等の応用が広がると、より高いSNRを有するMEMSマイクロフォンが必要になる。
【0005】
静電型MEMSマイクロフォンには、構造・構成についていくつかの種類がある。最も代表的には、ダイヤフラムとバックプレートはポリシリコン製である。ダイヤフラムの支え方には、一か所で支えるもの(特許文献1、非特許文献1)、四方で支えるもの(非特許文献2)、その他、全周で支えるものなどがある。これらのMEMSマイクロフォンでは、ダイヤフラム変位の読み出し回路(ASIC)は別のダイに形成され、ダイヤフラムを有するMEMSダイとワイヤボンディングで配線接続される(非特許文献1、3、4)。つまり、マイクロフォンのパッケージ内には、MEMSダイとASICダイの二つのダイが搭載される。一方、SNRを向上させるためには、ダイヤフラム−バックプレート間の静電容量と読み出し回路とはできる限り近い方がよく、そのため、ダイヤフラムと読み出し回路を含む必要な全ての回路とが同一ダイに形成された集積化MEMSマイクロフォンもある(特許文献2、非特許文献5)。このようなマイクロフォンでは、パッケージ内にはダイが一つだけ搭載される。ただし、読み出し回路を形成後、それを損傷させないような低温でダイヤフラムなどのMEMS構造を形成しなくてはならないため、独Akustica社の集積化MEMSマイクロフォンでは、ダイヤフラムに高温成膜されるポリシリコンが利用できず、低温形成できる有機・無機ハイブリッド構造が利用されている(非特許文献6)。ダイヤフラムの機械特性の点からは、この材料はポリシリコンと比べて望ましくない。あるいは、ポリシリコンの成膜温度に耐えられるように、回路を形成するのがもう1つの方法であり(非特許文献7)、このような集積化MEMSの製造法は、かつて慣性センサに広く適用されていたが、特殊な回路を用いなくてはならず、性能とコストの面から淘汰されている。
【0006】
MEMSマイクロフォンのSNRを向上させるには、感度を上げるか、あるいはデバイスが発生する雑音を下げるか、どちらかが必要である。雑音には電気的雑音と機械的雑音がある。前述の集積化MEMSマイクロフォンでは、MEMS構造と読み出し回路の一体化によって前者を下げている。後者のうち多くを占めるのが、バックプレートにあけられた穴(パーフォレーションホール)で空気流が絞られることによって発生する流体雑音である。したがって、機械的雑音を減らすためには、バックプレートが不要である構造が望ましい。バックプレートをなくす方法としては、静電容量の読み出しをダイヤフラム周囲に設けた櫛歯電極によって行う方法(特許文献3、4)、圧電型(特許文献5、6、非特許文献8)やピエゾ抵抗型(非特許文献9)とする方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US5870482
【特許文献2】US7863714B2
【特許文献3】US2014/0197502A1
【特許文献4】US2015/0021722A1
【特許文献5】US2010/0254547A1
【特許文献6】US9055372B2
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Peter V. Loeppert and Sung B. Lee, “SiSonicTM-THE FIRST COMMERCIALIZED MEMS MICROPHONE”, Solid-State Sensors, Actuators, and Microsystems Workshop, Hilton Head Island, South Carolina, June 4-8, 2006, pp.27-30
【非特許文献2】村上歩, 井上匡志, 笠井隆, “ベンチレーション構造によるMEMSマイクロホンの機械強度向上”, 第32回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム, (2015) 28pm1-B-3
【非特許文献3】Gregor Feiertag, Matthias Winter, Anton Leidl, “Flip chip packaging for MEMS microphones”, Microsystem Technologies, 16 (2010) pp.817-823
【非特許文献4】Alfons Dehe, “Silicon microphone development and application”, Sensors and Actuators A, 133 (2007) pp.283-287
【非特許文献5】John J. Neumann Jr., Kaigham J. Gabriel, “CMOS-MEMS membrane for audio-frequency acoustic actuation”, Sensors and Actuators A, 95 (2002) pp.175-182
【非特許文献6】M. Brauer, A.Dehe, T. Bever, S. Barzen, S. Schmitt, M. Fuldner and R. Aigner, “Silicon microphone based on surface and bulk micromachining”, Journal of Micromechanics and Microengineering, 11 (2001) pp.319-322
【非特許文献7】Stephan Horowitz, Toshikazu Nishida, Louis Cattafesta and Mark Sheplak, “Development of a micromachined piezoelectric microphone for aeroacoustics applications”, Journal of the Acoustical Society of America, 122 (2007) pp.3428-3436
【非特許文献8】R. Schellin and G. Hess, “A silicon subminiature microphone based on piezoresistive polysilicon strain gauges”, Sensors and Actuators A, 32 (1992) pp.555-559
【非特許文献9】Sharpe Jr.N., Turner, K.T., Edwards, R.L., “Tensile testing of polysilicon”, Experimental Mechanics, 39 (1999) pp.162-170
【非特許文献10】Wei Hua Wang, “The elastic properties, elastic models and elastic perspectives of metallic glasses”, Progress in Materials Science, 57 (2012) pp.487-656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3、4、非特許文献7、8に開示されたバックプレートをなくす方法を用いると、流体雑音を下げられる一方で感度も下がり、必ずしもSNRが向上するとは限らない。感度を上げるには、ダイヤフラムを薄くするか、あるいは大きくすればよいが、それによって、大きな圧力が加わることでダイヤフラムが壊れやすくなるという信頼性低下の問題がある。ダイヤフラムの大型化は、ダイの大型化に繋がり、結果的にコストが増大する。また、それによって、ダイヤフラムの共振周波数が可聴域まで下がり、マイクロフォンとして用いたときの周波数特性が悪化することも起こりうる。
【0010】
以上に述べたように、音声認識の高度化と普及に向けてMEMSマイクロフォンのSNR向上が求められているものの、信頼性低下、大型化、あるいはコスト増といった不利益なしに、それを実現しうるマイクロフォンは知られていない。このようなマイクロフォンでの課題は、気圧センサ、超音波センサなど、圧力センサの場合においても当てはまる。
【0011】
そこで、本発明では、高性能な特性を有する圧力センサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、国立大学法人東北大学の研究者らにより研究開発されて近年広まった金属ガラスに着目し、その材料が圧力センサのダイヤフラムに適するという発想から本発明を完成するに至った。
【0013】
金属ガラスという材料は、金属元素のみ又は金属元素が主成分であるにもかかわらず、従来型アモルファス金属に比べて、比較的遅い冷却速度でもガラス化する。金属ガラス、アモルファス金属、何れも無秩序な原子スケール構造を有している点では共通しているが、金属ガラスは過冷却液体からガラス遷移を示してガラス(固体)になるという点でアモルファス合金とは異なる。
【0014】
本発明は、次のコンセプトを有する。
[1] キャビティを有するシリコン基板と、
金属ガラスからな
り、可聴域より共振周波数が高くなる範囲の引張応力を有するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムと絶縁され、複数のホールを有する対向電極と、
を備え、
前記ダイヤフラムと前記対向電極とが隙間を有して対向するように前記シリコン基板上に設けられ、前記ダイヤフラム及び前記対向電極が前記キャビティにより前記シリコン基板からリリースされている、圧力センサ。
[2] 前記ダイヤフラムが複数に分割されており、各分割されたダイヤフラムのそれぞれが片持ちで保持されている、前記[1]に記載の圧力センサ。
[3]
前記ダイヤフラムの厚さが場所によって異なる、前記[1]又は[2]に記載の圧力センサ。
[4] 前記ダイヤフラムが、蜂巣状、格子状若しくは放射状、又はそれらの組み合わせ形状で厚い部分と当該厚い部分を囲む薄い部分とからなる、前記[3]に記載の圧力センサ。
[5] 前記ダイヤフラムの振動信号を読み出す読み出し回路を備え、
前記読み出し回路と前記ダイヤフラムが同一のダイに設けられている、前記[1]乃至[4]の何れかに記載の圧力センサ。
[6] 前記ダイヤフラムが0より大きく500MPa以下の引張応力を有する、前記[1]乃至[5]の何れかに記載の圧力センサ。
[7] 同一のダイの上に2個以上16個以下のダイヤフラムを有する、前記[1]乃至[6]の何れかに記載の圧力センサ。
[8] 前記金属ガラスが、Zr系金属ガラス、Pd系金属ガラス、Pt系金属ガラス、Au系金属ガラス、Fe系金属ガラス、Ni系金属ガラス、Mg系金属ガラス、Co系金属ガラス、Cu系金属ガラスの何れかである、前記[1]乃至[7]の何れかに記載の圧力センサ。
[9] 前記金属ガラスが、Zr、Co、CuZrの何れかを主成分とする、前記[1]乃至[8]の何れかに記載の圧力センサ。
[10] 前記[1]乃至[9]の何れかに記載の圧力センサを製造する方法であり、
対向電極となる層に複数の前記ホールを設けるステップと、
前記ホールを埋めると共に前記対向電極となる層上に犠牲層を設けるステップと、
前記対向電極となる層の一部及び犠牲層上に金属ガラスを層状に設けるステップと、
前記対向電極、犠牲層、金属ガラス層を、基板の裏面エッチングによって基板からリリースするステップと、
前記犠牲層を取り除くステップと、
を備える、圧力センサの製造方法。
[11] 前記金属ガラスがスパッタリング法により設けられる、前記[10]に記載の圧力センサの製造方法。
[12] 前記犠牲層が樹脂からなる、前記[10]又は[11]に記載の圧力センサの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧力センサが金属ガラスからなるダイヤフラムを備えているので、実用化しているSiのダイヤフラムと比べ、同じ寸法であれば、圧力に対する変位が大きくなり、圧力を高感度に電気信号に変換することができる。これは、金属ガラスのヤング率がSiのそれの三分の一程度であることによる。また、Siは脆性材料であるのに対して、金属ガラスは延性材料であり,しかも金属ガラスの引張強度は、Siのそれと同等かそれ以上であるため、金属ガラスからなるダイヤフラムはSiのそれと比べて壊れにくく、信頼性が高い。
【0016】
また、本発明によれば、金属ガラスは低温スパッタで成膜することができ、ダイヤフラムと読み出し回路の集積化が容易になる。前述の独Akustica社の集積化MEMSマイクロフォンでは、読み出し回路形成後にダイヤフラム等のMEMS構造を同一ウェハ上に形成するため、ダイヤフラムの材料として機械特性に必ずしも優れない有機・無機ハイブリッド材料を用いている。一方、本発明によれば、機械特性に優れる金属ガラスのダイヤフラムをもって集積化MEMS圧力センサを実現でき、SNRの向上が可能である。
【0017】
また、本発明によれば、圧力センサをマイクロフォンとして用いるとき、ダイヤフラムの共振周波数を可聴域より高くし、かつダイヤフラムの耐圧を保つように設計すると、
上述の金属ガラスの材料特性から、SNRを悪化させずに、ダイヤフラムの直径を大幅に小さくでき、ダイの小形化が可能である。ダイヤフラムが小さくなると、静電容量が小さくなるが、同一ダイの上に読み出し回路を形成することによって、寄生容量も下げることができるため問題ない。
【0018】
前述の設計によれば、ダイヤフラムが大幅に小さくなることから、同一ダイに複数のダイヤフラムを搭載することが可能になり、同じ大きさのダイを用いてSNRの向上が可能である。また、本発明による圧力センサを超音波センサとして用いるとき、複数のダイヤフラムによってフェーズドアレイを構成できる。
【0019】
以上のように、本発明によれば、高性能な特性を有するマイクロフォン及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態として、圧力センサがマイクロフォンである場合を想定して図面を参照しながら説明する。図示した形態は本発明を実施するための最良の形態の一つであって、本発明の範囲において適宜変更したものも含まれる。圧力センサがマイクロフォンである場合のみならず、気圧センサ、超音波センサの場合でも適用することができる。
【0022】
[基本的な構造とその製造方法]
図1は、本発明の実施形態に係る圧力センサとしてのマイクロフォンの構成を示す図である。本発明の実施形態に係るマイクロフォン10は、
図1に示すように、円筒形の支持枠11に、金属ガラスからなるダイヤフラム12と、対向電極13とを備える。支持枠11はキャビティ11aを備え、対向電極13は複数のパーフォレーションホール13aを備える。
図1に示す形態では、ダイヤフラム12と対向電極13とが対向しており、ダイヤフラム12の音圧による変位を静電容量として計測し、図示しない読み取り回路により電圧に変換する。
【0023】
本発明の実施形態では、ダイヤフラム12を金属ガラス膜で構成する。ここで、金属ガラスでダイヤフラムを構成することで、感度が良くなることを材料力学に基づいて説明する。
【0024】
面積Aを有するダイヤフラム12と対向電極13とで構成される隙間dの静電容量Cは、ε
oを空気の誘電率として式1で記述される。ここで、ダイヤフラム12及び対向電極13との間にDC電圧V
DCを印加すると、静電力によって間隔dがx
DCだけ小さくなり、そのときの静電容量C
0は式2で記述される。また、そのときに蓄積される電荷Q
DCは式3で記述される。
【数1】
【数2】
【数3】
音圧がダイヤフラム12に到達し、それによってダイヤフラム12がx
ACの変位で振動すると、ダイヤフラム12の変位xは式4で記述され、
そのとき生じる電圧V
ACは式5で記述される。マイクロフォン10の出力電流はインピーダンスZ
Iとすると、式6の電流I
ACで示される。
【数4】
【数5】
【数6】
【0025】
一方、ダイヤフラム12に圧力Pを印加したときの変形は材料力学の式によって見積もることができ、中心から距離rの位置での変位x(r)は、a、tをそれぞれダイヤフラム12の半径、厚さとして、式7で記述される。ここでDはダイヤ
フラム12の曲げ剛性であり、式8で記述される。Eはダイヤフラム12の材料のヤング率、νはダイヤフラム12の材料のポアソン比である。平均的な変位xは式9で求まる。
【数7】
【数8】
【数9】
ただし、x
pはダイヤフラム12の中心(r=0)での変位(最大変位)である。
【0026】
よって、式6と式9とから、式10に示す関係が得られる。
【数10】
この式から、寸法が同じであれば、出力電流はダイヤフラム12の材料のヤング率Eにおおよそ反比例することがわかる。つまり、感度はダイヤフラム12の材料のヤング率Eにおおよそ反比例する。
【0027】
マイクロフォンの相対的な感度について、ダイヤフラム12の材料がポリシリコン、金属ガラスとしてPdSiCuとZrCuAlNiである場合を比較したのが表1である。なお、ポリシリコンのデータ(*)は非特許文献9から引用している。金属ガラスのデータ(**)は非特許文献10から引用している。
【0029】
表1から、相対感度((1−ν
2)/E)は、ポリシリコンを金属ガラスに置き換えることにより、大雑把に約2倍になることが分かる。
【0030】
ダイヤフラム12は過大圧力や衝撃に耐える必要があるため、ダイヤフラム12の機械強度も重要である。表2に、ポリシリコン、金属ガラスとしてPdSiCuとZrCuAlNiの引張強度を示す。なお、ポリシリコンのデータ(*)は非特許文献9から引用している。金属ガラスのデータ(**)は非特許文献10から引用している。
【表2】
【0031】
金属ガラスは、ポリシリコンと同じか又はそれ以上の引張強度を有する。さらに重要なことに、金属ガラスは延性材料であり、脆性材料であるポリシリコンと比べて衝撃や応力集中で破壊しにくい。したがって、ダイヤフラム12の材料をポリシリコンから金属ガラスに変更することで、信頼性を保ちつつ、ダイヤフラム12を薄くできると考えられる。あるいは、同じダイヤフラム厚さであれば、信頼性を高くできる。
【0032】
次に、ダイヤフラム12の周波数特性について検討する。ダイヤフラム12の一次曲げ共振角振動数ω
0は式11で与えられ、k
1はダイヤフラム12の等価ばね定数、mは等価質量、ρは密度である。
【数11】
ただし、
【数12】
これから、寸法が同じ場合、金属ガラス製ダイヤフラムに対するポリシリコン製ダイヤフラムの共振周波数の比は、式13で表される。
【数13】
【0033】
表3は、ポリシリコン、金属ガラスとしてPdSiCuとZrCuAlNiについての密度、相対感度((1−ν
2)/E)、共振周波数比を示す。なお、金属ガラスのデータ(**)は非特許文献10から引用している。
【0035】
表3から、同じ寸法でダイヤフラムを作製すると、金属ガラス製はポリシリコン製と比べて、圧力センサとしての感度がおおよそ2倍になるものの、共振周波数が1/2から1/3に下がる。圧力センサをマイクロフォンとして用いる場合、設計によっては共振周波数が音声周波数内に入ってきて問題になる可能性がある。したがって、金属ガラスを用いてマイクロフォンのダイヤフラムを作製する際には、材料特性に応じて寸法を最適設計しなくてはならない。式7と式8と式11から分かるように、ダイヤフラムの共振周波数を保ったまま、厚さをX倍にすると、それに応じてダイヤフラムの半径aが√X倍に変化し、相対的な感度は1/X倍になる。このことから、ダイヤフラムを薄くし、それに合わせてダイヤフラムを小さくすれば、感度を向上できることがわかる。ただし、ダイヤフラムが薄くなっても十分な耐圧が確保できる必要がある。
【0036】
ここで、Zr
53Ti5Cu
20Ni
12Al
10金属ガラス製ダイヤフラムを想定し、材料力学に基づいて具体的な設計を行うと、ポリシリコン製ダイヤフラムに比べて厚さを0.33倍、直径を0.39倍にすれば、おおよそ同じ共振周波数と耐圧が得られる。このとき、相対的な感度はポリシリコン製のそれと比べてほぼ同じ(1.03倍)になる。一方、ダイヤフラムの面積はおおよそ0.15倍になり、感度を保ったままダイの大幅な小型化が可能である。
【0037】
上述の設計では、ダイヤフラムが大幅に小さくなるので、同一ダイの上に複数のダイヤフラムを搭載することが可能になるが、マトリックス状にM行×N列のダイヤフラムを同一のダイに配置することも可能になり、例えば2行×4列のダイヤフラムを同一ダイの上に配すると、ダイの面積はおおよそ20%しか増えないのに対して、感度は8倍以上に向上する。また、本発明による圧力センサを超音波センサとして用いる場合、複数のダイヤフラムを用いてフェーズドアレイを構成することが可能であり、超音波による物体の距離と方向が測定できる。
【0038】
さらに、本発明によれば、ダイヤフラムの厚さをダイヤフラム内で変化させ、たとえば、蜂巣状、格子状、放射状、同心円状、あるいはそれらの組み合わせ形状に厚い部分を配置させ、共振周波数と機械的強度を高く保ちつつ、感度を向上できる。
【0039】
図2は、本発明の実施形態に係るマイクロフォン20を構成するダイヤフラム21を示す図であり、上段に平面図を、下段に断面図を示す。マイクロフォン20は、MEMSダイ22を備え、キャビティ23を有する基板24と、基板24上に複数のパーフォレーションホール25を有する対向電極26と、ダイヤフラム21とを備え、少なくともダイヤフラム21と対向電極26とが絶縁されている。ダイヤフラム21は、厚い部分21aが蜂巣状に配置されており、薄い部分21bを区画している。パーフォレーションホール25と厚い部分21aとが対向するようにしてもよいし、厚い部分がダイヤフラム
21の反対側に形成されていてもよい。これにより、ダイヤフラム21を金属ガラスで形成しても、確実に強度を持たせることができる。
【0040】
ダイヤフラムの剛性、またそれと関係する共振周波数は、ダイヤフラムの応力によっても変化する。したがって、ダイヤフラムの特性を制御するパラメータの1つに応力がある。上記の共振周波数低下の問題を解決する方法の一つに、金属ガラス製のダイヤフラムにおける共振周波数が、Si製のダイヤフラムにおける共振周波数と同程度になるように、ダイヤフラムの応力を引張にする方法がある。ダイヤフラムが引っ張られていることにより、共振周波数が高くなるが、0〜500MPaの引張応力が好ましい。引張応力とすることで、ダイヤフラムが破壊しやすくなるという問題があるが、この範囲の引張応力であれば、金属ガラスの優れた機械特性によって解決できる。
【0041】
図3A乃至
図3Gは、本発明の実施形態に係るマイクロフォン30の製造方法を示す図である。
図3A乃至
図3Gでは、それぞれ上段に平面図を、下段にA−A線に沿った断面図を示している。
Step1として、対向電極となる層(「対向電極層」と呼ぶ。)31cを有する基板31を用意する。具体的には、
図3Aに示すように、Si基板31a上にSiO
2層31bを有しさらにSiO
2層31b上にSi半導体層31cを有するSOI基板31を用意する。
Step2として、対向電極層31cに複数のホール(パーフォレーションホール)32を設ける。具体的には、
図3Bに示すように、SOI基板31の表面のSi半導体層31cに複数のホール(パーフォレーションホール)32をエッチングによって設ける。また、Si半導体層31c各隅の部分を矩形状にエッチングし、SiO
2層31bを露出させている。
Step3として、ホール32を埋めると共に対向電極層31c上に犠牲層33を設ける。具体的には、
図3Cに示すように、ホール32を埋めると共にSi半導体層31c上に樹脂(フォトレジスト)の犠牲層33を設ける。必要に応じて、リフローによって樹脂の表面を平坦化する。
Step4として、対向電極層31cの一部及び犠牲層33上に金属ガラスを層状に設ける。具体的には、
図3Dに示すように、Si半導体層31cの一部及び犠牲層33上に金属ガラス層34を設ける。ここで、金属ガラスはスパッタ法で成膜できる。金属ガラス層
34の一部はSiO
2層
31b上に設けられて支持部34aとなる。ダイヤフラムの厚さを場所によって変える場合には、既設の金属ガラス上にフォトレジストをパターニングし、その上に金属ガラスをスパッタ法で成膜してリフトオフする。
次に、対向電極、犠牲層33、金属ガラス層24を、基板
31の裏面エッチングによって基板31からリリースする。
具体的には、Step5として、
図3Eに示すように、SOI基板
31の裏側のSi基板31aの一部をエッチングによって取り除き、キャビティの一部35aを構成する。
Step6として、
図3Fに示すように、
Si半導体層31cの裏面側まで基板31を取り除き、キャビティ35を形成する。
Step7として、
図3Gに示すように、犠牲層33を酸素アッシング、有機溶媒によるエッチング、あるいは原子状水素エッチングによって取り除き、ダイヤフラム36をリリースする。
【0042】
この一連のプロセスは、高温プロセスを用いておらず低温成膜プロセスであるため、容易にマイクロフォン上に回路を集積化できる。
【0043】
金属ガラスとしては、前述では、PdSiCuとZrCuAlNiの場合を例にあげたが、Zr系金属ガラス、Pd系金属ガラス、Pt系金属ガラス、Au系金属ガラス、Fe系金属ガラス、Ni系金属ガラス、Mg系金属ガラス、Co系金属ガラス、Cu系金属ガラスの何れかであってもよい。
Zr系金属ガラスとして、Zr
53Ti
5Cu
20Ni
12Al
10、Zr
55Cu
3
0Al
10Ni
5、Zr
75Cu
19Al6などがあり、
Pd系金属ガラスとして、Pd
40Ni
10Cu
30P
20、Pd
78Cu
6Si
16
などがあり、
Pt系金属ガラスとして、Pt
58Cu
15Ni
5P
23などがあり、
Au系金属ガラスとして、Au
49Ag
6Pd
2Cu
27Si
16などがあり、
Fe系金属ガラスとして、Fe
76Si
9B
10P
5などがあり、
Ni系金属ガラスとして、Ni
60Nb
15Ti
20Zr
5などがあり、
Mg系金属ガラスとして、Mg
57Cu
34Nd
9、Mg
64Ni
21Nd
15などが
あり、
Co系金属ガラスとして、Co
56Ta
9B
35などがあり、
Cu系金属ガラスとして、Cu
50Zr
50、Cu
50Zr
45Al
5などがある。
これらの金属ガラスはスパッタリング法で膜状に作製できる。
【0044】
金属ガラスがZrを主元素とするとよい。これは、引張強度が高く、密度が小さく、機械特性に優れるだけではなく、Pd、Au、Ptを主成分とする金属ガラスと比べ、原材料を安価に入手でき、製造コストを削減するからである。また、磁性がないため、磁気ノイズの影響を受けない。Co系の金属ガラスとCu系金属ガラスは密度に対する強度(比強度)が大きく、前者は特に大きい。
【0045】
[具体的な実施形態]
図4は、本発明の実施形態に係る圧力センサとしてのマイクロフォンの構成を示す図である。本発明の具体的な圧力センサとしてのマイクロフォン40は、パッケージのベース41の上に、ダイ42を搭載して構成されている。ダイ42は、対向電極43と、MEMS構造を有し金属ガラスで構成したダイヤフラム44とを備える。ダイ42は読み出し回路45を備える。ダイ42上のダイヤフラム44は読み出し回路45に接続され、読み出し回路45は、ワイヤボンディングなどの配線46により
ベース41に接続されている。
【0046】
よって、音波がダイヤフラム44に到達して、ダイヤフラム44が変位し、その変位により生じる静電容量変化を読み出し回路45で読み出すことができる。
【0047】
図5は、
図4とは異なる本発明の実施形態に係る具体的な圧力センサとしてのマイクロフォンの構成を示す図である。圧力センサとしてのマイクロフォン50は、パッケージのベース51の上に、ダイ52を搭載して構成されている。ベース51にはサウンドホール51aが形成されている。ダイ52は、対向電極53と、MEMS構造を有し金属ガラスで構成したダイヤグラム54とを備える。ダイ52は読み出し回路55を備える。ダイヤフラム54の振動信号は読み出し回路55に出力される。
図5においては、配線51bがベース51上に形成されており、バンプ56が配線51bに搭載され、各バンプ56がダイヤフラム54、読み出し回路55に接続されている。必要に応じて、パッケージのベース51とダイ52との間の隙間を樹脂などの封止材57で封じ、音圧が漏れないようにする。
以下、実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0048】
先ず、MEMSマイクロフォン用の新しい材料として、PdCuSiとZr
CuAlNiを選択した。金属ガラス膜がスパッタリング法によって堆積できることは従来から知られていたが、MEMS材料としては一般的ではない上、膜応力制御が容易ではなく、0応力から適切な引張応力に膜応力を精密制御しなくてはならないMEMSマイクロフォンに適用するという発想はなく、その可能性も示されていなかった。本発明者らは、基礎検討を行い、スパッタリング法によって成膜した金属ガラスがMEMSマイクロフォンに適用できることを見出した。
【0049】
PdCuSi金属ガラスを次の条件でスパッタリング法により堆積した。スパッタリングにおいて、高周波電力を100Wとし、Arガス流量を10sccmとし、堆積圧力を1.34Paとし、堆積時間を50分とし、1サイクルを300秒とし、クールダウン時間を300秒とした。基板の回転速度を20rpmとした。PdCuSi金属ガラスの堆積速度は16.6nm/分であった。その後、350℃乃至410℃でアニーリングを行い、膜応力を上記の範囲に調整した。
【0050】
図6はPdCuSi金属ガラスのAFM像である。この像から、表面粗さRaは0.1nm程度であり、十分平滑な金属ガラス薄膜が形成されていることが分かった。
【0051】
Zr
CuAlNi金属ガラスを次の条件でスパッタリング法により堆積した。スパッタリングにおいて、高周波電力を100Wとし、Arガス流量を15sccmとし、堆積圧力を0.4Paとし、堆積時間を60分とし、1サイクルを300秒とし、クールダウン時間を300秒とした。基板は回転させなかった。Zr
CuAlNi金属ガラスの堆積速度は11.83nm/分であった。その後、400℃乃至480℃でアニーリングを行い、膜応力を上記の範囲に調整した。
【0052】
図7はZr
CuAlNi金属ガラスのAFM像である。この像から、表面粗さRaは0
.2nm程度であり、十分平滑な金属ガラス薄膜が形成されていることが分かった。
【0053】
次に、MEMSマイクロフォン構造の試験のために、金属ガラス製ダイヤフラムを次の要領で試作した。
図8は、実施例としての金属ガラス製ダイヤフラムの作製方法を示す図である。
【0054】
Step1として、Si基板61上に犠牲層としてフォトレジト62を堆積し、パターニングした。
Step2として、加熱してフォトレジスト62をリフローした。
Step3として、金属ガラス膜63を堆積し、基板裏面にマスク64をパターニングした。ダイヤフラムの厚さを場所によって変化させる場合、この上にパターニングされた金属ガラス膜をフォトレジストを用いたリフトオフ法によって形成する。
Step4として、基板61のSiをエッチングし、キャビティ65を構成した。
Step5として、酸素アッシング又はアセトンにより、犠牲層としてのフォトレジスト62及びマスク64を除去した。
【0055】
図9は、実施例としての金属ガラス製ダイヤフラムの別の試作方法を示す図である。
Step1として
、Si基板71の両面を酸化してSiO
2層72,73とし、一方の面のSiO
2層72をパターニングした。
Step2として
、SiO
2層72を設けた側のホールにフォトレジスト74を設けるようパターニングし、リフローした。
Step3として
、スパッタリング法によって金属ガラス膜75を堆積した。
Step4として
、バックサイド側のSiO
2層73をパターニングした。
Step5として
、Si基板71の一部を、KOHによりエッチングし、キャビティ76を形成し、フォトレジスト74を除去した。
【0056】
図10は実施例で作製したダイヤフラムのSEM像である。ダイヤフラムが設計通り作製されていることが分かった。また、空気ノズルで圧力流を加えても破損せず、ダイヤフラムは高い機械的強度を有していることを確認した。
【0057】
以上、本発明の実施形態及び実施例について圧力センサとしてマイクロフォンを例にとって説明したが、空圧センサや超音波センサなどの圧力センサにおいても適用することができる。特に微弱な圧力をダイヤフラムの変位で測定するには、ダイヤフラムが変形し易いことと、機械強度を維持することが、ダイヤフラムを金属ガラスで構成したことにより達成される。本発明の実施形態は上述した事項に限定されることなく、例えば次のようにしてもよい。
図示したダイヤフラムは、バックプレート(対向電極)の後ろ側に配置されているが、ダイヤフラムと対向電極の上下の位置関係は逆でも良い。
ダイヤフラムの枠体への固定は、一か所でも複数箇所でもよく、ダイヤフラムの周縁部を周状に固定してもよい。
ダイヤフラムは、一様な厚みであっても、
図2に示すように部分的に厚い部位を設けてもよい。さらには、
図11に示すように、ダイヤフラム60,70,80にスリット61,71,81を設けて、ダイヤフラムを2分割、3分割、4分割又はそれ以上に分割してもよい。その場合、ダイヤフラムは片持ち式で保持される。また、ダイヤフラムは、平面視で、円形、矩形等の各種形状を有するようにしてもよい。
【解決手段】圧力センサとしてのマイクロフォン20は、金属ガラスからなるダイヤフラム21を備える。好ましくは、ダイヤフラム21と対向するように電極25を備え、ダイヤフラム21と電極25とで静電容量を形成するようにするとよい。ダイヤフラム21が金属ガラスからなることにより、圧力の変形に耐えて機械強度が向上する。ダイヤフラム21は、厚い部分21aと薄い部分21bとを有することにより機械強度を増しても良いし、ダイヤフラム21の引張強度が調整されることで、所定の共振周波数を有するようにしても良い。