特許第6132053号(P6132053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

特許6132053無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法
<>
  • 特許6132053-無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法 図000002
  • 特許6132053-無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法 図000003
  • 特許6132053-無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132053
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20170515BHJP
   C23C 14/56 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C23C14/24 U
   C23C14/56 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-115975(P2016-115975)
(22)【出願日】2016年6月10日
(62)【分割の表示】特願2012-70856(P2012-70856)の分割
【原出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-183419(P2016-183419A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊関 清司
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−335836(JP,A)
【文献】 米国特許第07666490(US,B1)
【文献】 特開平06−136517(JP,A)
【文献】 特開平04−358067(JP,A)
【文献】 特開2003−197034(JP,A)
【文献】 特開2005−307239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置を用いて、少なくとも片面に無機層を持つ無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法であって、該真空装置には、該プラスチックフィルムが走行する測定用ロールに対面して蛍光X線を用いた膜厚計が設置されており、該膜厚計が該ロールより退避することにより該ロールが移動できる機構をもつことを特徴とする、無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法。
【請求項2】
前記真空装置は、前記測定用ロールと膜厚計との距離を、渦電流を利用した距離計を使い測定し変動分を補正する機構を有する、請求項1記載の無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法。
【請求項3】
前記真空装置は、前記測定用ロールと膜厚計との距離が一定範囲より外れたとき警告を出す機構を有する、請求項1又は2のいずれかに記載の無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
透明性、ガスバリア性、耐屈曲性に優れた食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として優れた特性を持つフィルムの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム蒸着フィルムをロールコーター型蒸着装置で作成する場合、光学式膜厚モニターで膜厚を測定しアルミニウムの膜厚を制御してきた。この膜厚計はアルミニウムの膜厚が厚くなるに従い光の透過度が低下することを利用したものである。また、アルミニウムでは膜厚が面抵抗と関係するのを利用する方法もある。また、近年例えばSiOx、Alと言った無機酸化物をアルミニウムの代わりに蒸着し包装用途等に利用されてきた。これらはアルミニウムに対して非常に透明であるが、若干の着色があるためこの色の光吸収を利用して光学式膜厚計を利用している。
【0003】
光学式膜厚計を無機酸化物に利用した場合、酸化物の酸化度により同じ膜厚であっても光線透過量が変化し十分な精度が得られない。また、高透明な酸化物を作成する場合においても使用が不可能である。さらに、Al−SiOなど複合酸化物の場合その組成を特定することができない。
【0004】
光学式膜厚計に代わるものとして、蛍光X線を利用した膜厚計の記載がある(例えば、特許文献1等参照。)。この方法は原子にX線をあてるとその原子特有の蛍光X線を放射する現象を利用し、放射される蛍光X線強度を測定することにより原子の存在数を知り、この情報により膜厚を測定する方法である。
同様に、大気中ではあるが、塗装膜を測定する技術において照射地点、蛍光X線の線量の計測地点の位置の距離を測定し膜厚を計算する際に使用する技術の記載がある(例えば、特許文献2等参照。)。
【0005】
蛍光X線を利用した膜厚計は原子の量を測定するため酸化物の酸化度にも影響されなく全く光学的に透明なものにも適用できる。しかも、ここの元素に対応した蛍光X線を測定すれば組成の測定も可能になる。しかし、フィルム上に真空蒸着等のプロセスで作成された無機薄膜層は非常に薄くために、そこから発生する蛍光X線は非常に微弱である。このために測定対象と測定装置の距離をできるだけ近接させて測定しなければ十分な精度が得られない。
特許文献1には、測定精度を向上するために測定対象との距離を一定に保つ技術が記載されている。しかし、近距離で膜厚計が固定されていると無機薄膜の形成が終了し真空容器内を大気圧に戻し、フィルムを取り外し新たに、フィルムをセットしようとすると接近した膜厚計は障害になる。
また、多くの装置ではフィルムの取り扱いが容易になるように真空容器内から、フィルムロール系を引出し、フィルムの脱着をおこなう。しかし、容器側に膜厚計が設置されていると膜厚計が障害になったりロール移動中に振動でぶつかったりして問題となる。
【0006】
また、特許文献2に開示されているのは、測定対象が鉄板上の塗装膜であり、強力な電離放射線を照射できるためと塗膜と膜厚の距離を大きくとることができ、鉄板は剛直であるのでロールで支持しなくとも距離変動が少なく、支持体が不要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−335836号公報
【特許文献2】特開平7−128042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、無機薄膜の膜厚測定精度が十分であり、かつ真空容器内からフィルムロール系を引き出す際に膜厚計が障害になったり、ロールでフィルムを移送中に振動でぶつかったりして問題となることのない真空装置を用いた、無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、鋭意検討の結果、本願発明に至った。
本願発明は、真空装置を用いて、少なくとも片面に無機層を持つプラスチックフィルムを連続的に製造する方法であって、該真空装置には、該プラスチックフィルムが走行する測定用ロールに対面して蛍光X線を用いた膜厚計が設置されており、該膜厚計が該ロールより退避することができる機構をもつことを特徴とする、無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法である。
真空装置である。
【0010】
前記真空装置は、前記測定用ロールと膜厚計との距離を測定し変動分を補正する機構を有することが好適である。
【0011】
また、前記真空装置は、前記測定用ロールと膜厚計との距離が一定範囲より外れたとき警告を出す機構を有することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば安定して繰り返し透明ガスバリアフィルムの製造でき、簡便にフィルム脱着ができるために生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明で使用される膜厚計と膜厚を測定する部分の膜厚測定中のようす
図2】本発明で使用される膜厚計と膜厚を測定する部分のフィルムロール交換時のようす
図3】本願発明で使用される製造装置の例
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は真空装置を用いて、少なくとも片面に無機層を持つプラスチックフィルムを連続的に製造する方法であって、該真空装置には、該プラスチックフィルムが走行する測定用ロールに対面して蛍光X線を用いた膜厚計が設置されており、該膜厚計が該ロールより退避することができる機構をもつことを特徴とする、無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法である。
好ましくは、前記真空装置は、該ロールと膜厚計との距離を測定し変動分を補正する機構を持つ真空装置であり、該膜厚計において該ロールと膜厚計との距離が一定範囲より外れたとき警告を出す機構を有する装置である。
【0015】
本発明で言う無機酸化物とは酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物と酸化硅素等の半金属酸化物、またこれらの複合物を言う。酸化が完全でなく酸素を若干欠損したもの、例えばSiOx(x=1.5〜1.9)といった表現をする無機酸化物を含む。
【0016】
本発明で言う少なくとも片面に無機酸化物層を持つプラスチックフィルムを連続的に製造する方法とは真空を利用した、真空蒸着法、スパッタ法CVD法等を指す。さらに連続的に製造するとはロール状の長尺なフィルムを巻だし巻き取りながら無機酸化物層をフィルム上に積層する製造法を言う。
【0017】
本発明でいうプラスチックフィルムとは、有機高分子を溶融押し出しをして、必要に応じ、長手方向、および、または、幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムであり、有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニールアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリッフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイドなどがあげられる。また、これらの(有機重合体)有機高分子は他の有機重合体を少量共重合をしたり、ブレンドしたりしてもよい。
【0018】
さらにこの有機高分子には、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤などが添加されていてもよく、その透明度は特に限定するものではないが、透明性を利用したフィルムの観点より70%以上の透過率をもつものが好ましい。
【0019】
本発明に使用するプラスチックフィルムは、薄膜層を積層するに先行して、該フィルムをコロナ放電処理、グロー放電処理、その他の表面粗面化処理を施してもよく、また、公知のアンカーコート処理が施されていてもよい。本発明に使用するプラスチックフィルムは、その厚さとして5〜1000μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜500μmの範囲である。
【0020】
図1に測定用ロールと膜厚計の膜厚測定時の位置関係を示す。測定用ロール4上を走行するプラスチックフィルム3に対して膜厚計1をX線を照射し、かつ蛍光X線を検出する面を向けて設置することが好ましい。
プラスチックフィルムおよび無機薄膜層は非常に薄いので実質的に測定用ロール4と膜厚計1との距離が測定対象(無機薄膜)と測定装置(膜厚計)との距離と近似できる。
該距離は、短ければ短いほど測定精度は上がるが、実用上10mm以下が好ましい。さらに好ましいのは5mm以下である。
【0021】
該測定用ロールの心振れ幅としては膜厚計との距離を一定に保つ観点より小さい方が好ましく、好ましくは200μm以下である。さらに好ましくは100μm以下である。また同様に測定用ロールの表面も出来るだけスムーズなものが好ましい。
【0022】
測定用ロールの材質としては一般的に使用されるものが使える。しかし好ましくは膜厚を測定する無機酸化物層に使用される元素を含まないものが好ましい。例えばAlの層を製造する場合、測定用ロールにAl原子を含まないものが好ましい。
【0023】
蛍光X線を使用した膜厚計では無機薄膜層より蛍光X線を発生させるために膜厚計より強いX線を測定対象に照射する。この強いX線により測定対象に含まれる原子が励起してその原子特有な波長のX線を発生する。この特有なX線つまり蛍光X線を計測することで膜厚を算定するのだが、励起用のX線は無機薄膜層のみにとどまらないでプラスチックフィルムおよび測定用ロールにも到達する。そして測定対象ではないプラスチックフィルム内部の原子、および測定用ロールに含まれる原子からも蛍光X線を発生させる。これらは1つの連続したプラスチックフィルムを製造する場合はほぼ同じであるので予め測定すれば製造中に計測される蛍光X線量より計算で除外でき膜厚が計算できる。しかし、測定する無機薄膜層からの蛍光X線に比較してその他からの蛍光X線が多いとX線を信号に変化する部分で誤差が大きくなり好ましくない。このため測定用ロールには測定対象となる原子を含まないことが好ましい。
【0024】
図1に測定用ロールと膜厚計の膜厚計退避時の位置関係を示す。膜厚計を測定用ロールから退避させた時の測定用ロールと膜厚計との距離は、フィルムの取り扱いや測定用ロールの取り扱いに支障が出ない距離であればよい。真空容器より測定用ロールを移動してフィルムを取り扱う場合には、膜厚モニターは、50mmも退避すれば測定用ロール移動時の障害にもならない。
【0025】
本発明で用いる真空装置は、膜厚を測定する部分と膜厚計との距離を検出する機構を備え検出距離より膜厚計の出力に補正をかける機構を持つことが好ましい。膜厚計は、バッチごとに測定用ロールから距離を離して退避する。
少なくとも片面に無機層を持つプラスチックフィルムを連続的に製造する際には再び測定用ロールに接近するが、精度よく製作されていたとしても種々の要因で測定距離に誤差が出る。例えば膜厚計近辺に距離計を設置しフィルムが走行している測定用ロールとの距離を測定しその値を用いて膜厚計に補正をかける。この機構を設けることにより少しの距離変動であれば補正をかけ正しい膜厚を知ることが出来る。また、大きく逸脱し、補正が効かない距離で警報を出す機構を備えることにより、誤った膜厚をもつフィルムの作成を回避することができる。
【0026】
膜厚計と測定用ロールとの距離を測る方法としては一般的な方法がとれるが、非接触タイプの距離計が好ましい、たとえばレーザーを使った反射式のもの、測定用ロールが金属で作成されているので渦電流を利用したタイプがある。反射式では測定用ロール表面やフィルム表面の状態に影響しやすく、注意が必要であるので本願発明では測定用ロール上で膜厚を測定することで、渦電流を利用した方式が好ましい。
【0027】
蛍光X線を用いた膜厚計はX線を物質に照射して物質固有な蛍光X線を分光して測定することによりAl−SiOのような複合酸化物においてもAlとSiOとの堆積量を測定することができ、無機薄膜としての膜厚と組成を知ることができる。
【0028】
また蛍光X線を用いた膜厚計は原理的に原子を計測するのでたとえば窒化物、弗化物等にも利用できる。
【0029】
該膜厚計をもちいてプラスチックフィルム上に形成した無機酸化物層の膜厚を測定し、目標とする膜厚よりずれた場合、坩堝に投入する電力を調整することで材料の温度を調整し蒸発量をコントロールすることでフィルム上の無機酸化物の膜厚が制御できる。
蒸発量を変化させるのではなくフィルムの速度を変化させることでも膜厚を制御できる。
【0030】
蒸発量を制御する方法では、材料の温度をすばやく制御できる電子ビームによる加熱がもっとも制御性がよく好ましい。
【0031】
本願発明で用いる膜厚計は、測定対象となる測定用ロール近くに設置するため真空槽内に設置されてもよいが、できるだけ真空槽を小さくするため、該測定用ロールを真空槽壁近くに設置して必要最小限真空槽内に設置するのが好ましい。
【0032】
該膜厚計の一部を真空槽該に設置するに当たり、膜厚計が該測定用ロールより退避するために必要な真空槽との可動可能な結合は公知の方式をとることができる。
【0033】
該膜厚計を該測定用ロールより退避、接近させるための駆動には、油圧、空気圧、モーターとギアとの組み合わせ等公知の方式をとることができる。
【0034】
該膜厚計において、膜厚、組成を計算する方法としてはFP法、検量線法等公知の方法がとれる。一定の組成を測定する方法としては検量線法が好ましい。想定する膜厚組成範囲付近のサンプルを作成し測定して蛍光X線強度と膜厚組成との関係式を求め検量線とする方法である。
【0035】
励起用のX線源、半導体検出器や比例計数管などは劣化し変動するので、基準となる校正板をモニター内に保持し検量線の値を補正することがこのましい。
【0036】
図3に、本発明で用いるガスバリアフィルム製造装置の実施例の図を使い説明する。坩堝9に入った蒸着材料を電子銃8からの電子ビームにより加熱し、巻きだしロール7からでたプラスチックフィルム3はセンターロール5上で蒸着され対向ロール4上で膜厚計1により膜厚を測定され巻き取りロール6に巻き取られる。得られて膜厚データにより電子中を制御し膜厚を制御する。該膜厚計1は、必要部分のみ真空槽内に設置されており蒸着中は測定用ロール4に接近している。
【実施例】
【0037】
以下に実施例をあげて本発明を説明する。
図3に示す概略図の装置を用い蒸着を行った。蒸着材料として3〜5mm程度の大きさの酸化アルミニウム(Al)と酸化シリコン(SiO)を用いた。プラスチックフィルムとして幅2000mm、フィルム厚さ12μm、長さ50000mのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム東洋紡(株)製 E5100)を用いた。フィルム速度100m/minで作成した。目標膜厚は20nm、目標組成は酸化アルミニウム45w%である。
本蒸着及びフィルムロールの付け替えを5回繰り返したが、測定用ロールを傷つけることなく、簡便にフィルムの付け替えができ且つ、膜厚、組成が大きく外れることなく透明バリアフィルムが製造できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明で用いる真空装置は、真空容器内から、測定用ロールや無機薄膜を形成したフィルムロールを引出し、フィルムの脱着をおこなう際に、膜厚計が障害になったりロール移動中に振動でぶつかったりして問題となることのない装置であり、該真空装置を用いた無機層積層プラスチックフィルムを連続的に製造する方法を提供できる。
【符号の説明】
【0039】
1.膜厚計
3.プラスチックフィルム
4.測定用ロール
5.センターロール
6.巻き取りロール
7.巻きだしロール
8.電子銃
9.坩堝
図1
図2
図3