特許第6132078号(P6132078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6132078-黒色塗装鋼板 図000007
  • 特許6132078-黒色塗装鋼板 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6132078
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】黒色塗装鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/22 20060101AFI20170515BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20170515BHJP
   C23C 22/83 20060101ALI20170515BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20170515BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C23C22/22
   C23C28/00 C
   C23C22/83
   B32B15/01 C
   B32B15/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-567263(P2016-567263)
(86)(22)【出願日】2016年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2016069139
【審査請求日】2016年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-133693(P2015-133693)
(32)【優先日】2015年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】石塚 清和
(72)【発明者】
【氏名】岡田 克己
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−291280(JP,A)
【文献】 特開2002−285346(JP,A)
【文献】 特開2014−000799(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/112544(WO,A1)
【文献】 特開2002−105668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C24/00−30/00
C23C22/00−22/86
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と;
前記鋼板上に形成された亜鉛めっき層(めっきのL値が50以下の場合を除く)と;
前記亜鉛めっき層上に形成され、1.0〜5.0質量%のMgと0.05〜1.00質量%のNiとを含有し、付着量が0.5〜2.5g/mであり、膜厚が1.00μm未満である結晶性りん酸亜鉛皮膜と;
前記結晶性りん酸亜鉛皮膜よりも上層に形成され、膜厚が1.0〜5.0μmであり、黒色である有機皮膜と;
を有することを特徴とする黒色塗装鋼板。
【請求項2】
前記有機皮膜が、カーボンブラックを含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の黒色塗装鋼板。
【請求項3】
前記有機皮膜に含有されるカーボンブラックの一次粒子径が、10〜120nmである
ことを特徴とする、請求項2に記載の黒色塗装鋼板。
【請求項4】
前記結晶性りん酸亜鉛皮膜と前記有機皮膜との間に、化成処理皮膜が形成されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の黒色塗装鋼板。
【請求項5】
前記化成処理皮膜が、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる一以上の化合物を含有する
ことを特徴とする、請求項4に記載の黒色塗装鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事務用品、電気製品又は自動車部品などの装飾が必要な部材に用いる黒色塗装鋼板に関する。
本願は、2015年7月2日に、日本に出願された特願2015−133693号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、事務用品、電気製品又は自動車部品などの装飾が必要な部材には、成形加工後に塗装が施されるポスト塗装製品が用いられることが多かった。ところが、最近では、着色した有機皮膜を被覆した状態で成形加工を行うことにより、成形加工後に塗装を施す必要がないプレコート鋼板が使用されることが多い。プレコート鋼板は、防錆処理を施した鋼板表面又はめっき鋼板表面に、着色した有機皮膜を被覆した鋼板で、優れた外観、加工性及び耐食性を有している。例えば、特許文献1には、有機皮膜の構造を規定することによって、加工性、耐汚染性及び硬度に優れたプレコート鋼板を得る技術が開示されている。
【0003】
これらのプレコート鋼板に用いられる塗装は厚く、塗膜厚が10.0μm超である。また、プレコート鋼板の塗装には、大量の溶剤系塗料を使用する。そのため、プレコート鋼板の塗装には、インシネレーターや臭気対策設備等の専用の塗装設備が必要である。すなわち、プレコート鋼板の製造には、塗装の原板である鋼板の製造工程だけでなく、塗装工程も必要となるため、鋼板を製造する場合と比べて製造費用が高くなる。
しかしながら、家電や内装建材等に用いるプレコート鋼板では、日常使用に耐え得る耐久性を有すれば十分である場合がある。そのような場合には、プレコート鋼板は、高性能化よりも低価格化が要求される。
【0004】
このようなニーズに対して、特許文献2では亜鉛めっき鋼板の少なくとも片面に、硬化剤で硬化されたスルホン酸基を含有するポリエステル樹脂とカーボンブラックとを含む黒色塗膜が2〜10μmの厚みで形成されていることを特徴とするクロメートフリー黒色塗装金属板が開示されている。特許文献2のクロメートフリー黒色塗装金属板は、意匠性を含め種々の特性に優れるが、耐疵つき性が十分ではない。これは、特許文献2のクロメートフリー黒色塗装金属板の塗膜厚が従来のプレコート鋼板に比較して薄いためである。また、特許文献2のクロメートフリー黒色塗装金属板では、めっき層の金属外観が黒色塗装から透けて見えてしまうため、好適な外観が得られない。特に、黒色塗膜を5μm以下とした場合に、この問題が顕著である。
【0005】
上述の問題に対して、めっき層自体を黒色化して、黒色塗膜と組み合わせる技術も知られている(特許文献3,4,5)。特許文献3,4,5のめっき層は黒色化Zn−Ni合金めっき層であるが、非常に硬く脆いため、厳しい曲げ加工や張り出し加工において割れや剥離を生じる場合がある。また、割れや剥離が上層の黒色塗膜まで影響を及ぼし、加工部の意匠性が低下する。この現象は、黒色塗膜が厚い場合に顕著に生じやすいため、黒色塗膜を薄くすることにより改善することができる。しかしながら、黒色塗膜を薄くすると、未加工平板部の意匠性が低下する。つまり、未加工平板部の意匠性と加工部の意匠性との両立が困難であった。
【0006】
特許文献6には、亜鉛めっき鋼板の表面に黒色のりん酸亜鉛皮膜を形成し、その上に透明な皮膜を形成した黒色亜鉛めっき鋼板が開示されている。しかしながら、特許文献6の黒色亜鉛めっき鋼板では、意匠性が十分ではないという問題がある。
特許文献7には、Mgを2%以上、Ni,Co,Cuから選ばれる1種以上の元素を0.01〜1%含有し、付着量が0.7g/m以上であるりん酸亜鉛皮膜を有する亜鉛めっき鋼板が開示されている。特許文献7のりん酸亜鉛皮膜は黒色ではなく、黒色塗装鋼板として用いることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開平8−168723号公報
【特許文献2】国際公開第2010/137726号
【特許文献3】日本国特開2009−160768号公報
【特許文献4】日本国特開2009−161796号公報
【特許文献5】日本国特開2014−000799号公報
【特許文献6】日本国特開平8−218181号公報
【特許文献7】日本国特開2002−285346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来のプレコート鋼板と比較して薄いにも関わらず、未加工平板部の意匠性、加工部の意匠性及び耐疵つき性に優れた黒色塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、黒色のりん酸亜鉛皮膜と黒色の有機皮膜との組み合わせにより、課題の解決を鋭意検討した。その結果、りん酸亜鉛皮膜が黒色であることは重要ではなく、むしろ弊害の方が大きいことを知見した。更に、りん酸亜鉛皮膜の組成や付着量、形態等が極めて重要であり、従来白色を呈することが知られているりん酸亜鉛皮膜を最適化することで、本発明の課題が解決できることを知見した。
本発明は、上記課題を解決して、係る目的を達成するために以下の手段を採用する。
【0010】
(1)本発明の一態様に係る黒色塗装鋼板は、鋼板と、前記鋼板上に形成された亜鉛めっき層(めっきのL値が50以下の場合を除く)と、前記亜鉛めっき層上に形成され、1.0〜5.0質量%のMgと0.05〜1.00質量%のNiとを含有し、付着量が0.5〜2.5g/mであり、膜厚が1.00μm未満である結晶性りん酸亜鉛皮膜と、前記結晶性りん酸亜鉛皮膜よりも上層に形成され、膜厚が1.0〜5.0μmであり、黒色である有機皮膜と、を有する。
【0011】
(2)上記(1)に記載の黒色塗装鋼板において、前記有機皮膜が、カーボンブラックを含有する構成を採用してもよい。
【0012】
(3)上記(2)に記載の黒色塗装鋼板において、前記有機皮膜に含有されるカーボンブラックの一次粒子径が、10〜120nmである構成を採用してもよい。
【0013】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一態様に記載の黒色塗装鋼板において、前記結晶性りん酸亜鉛皮膜と前記有機皮膜との間に、化成処理皮膜が形成されている構成を採用してもよい。
【0014】
(5)上記(4)に記載の黒色塗装鋼板において、前記化成処理皮膜が、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる一以上の化合物を含有する構成を採用してもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記各態様によれば、従来のプレコート鋼板と比較して薄いにも関わらず、未加工平板部の意匠性、加工部の意匠性及び耐疵つき性に優れた黒色塗装鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る黒色塗装鋼板の層構造を示す概念図である。
図2】本実施形態に係る黒色塗装鋼板において、黒色有機皮膜が疵付いた場合の黒色塗装鋼板を示す概念図である。
図3】りん酸亜鉛皮膜の厚みの求め方を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態に係る黒色塗装鋼板1及び黒色塗装鋼板1の製造方法を、図面を参照して説明する。
【0018】
(黒色塗装鋼板1)
図1は、本実施形態に係る黒色塗装鋼板1の層構造を示す概念図である。
図1に示すように、黒色塗装鋼板1は、鋼板2と、鋼板2上に形成された亜鉛めっき層3と、亜鉛めっき層3上に形成され、1.0〜5.0質量%のMgと0.05〜1.00質量%のNiとを含有し、付着量が0.5〜2.5g/mであり、膜厚が1.00μm未満である結晶性りん酸亜鉛皮膜4と、結晶性りん酸亜鉛皮膜4よりも上層に形成され、膜厚が1.0〜5.0μmであり、黒色である有機皮膜5とを有する。
亜鉛めっき層3、結晶性りん酸亜鉛皮膜4及び有機皮膜5は、少なくとも意匠性の要求される面にのみ形成されていればよく、必ずしも両面に形成されている必要は無い。
【0019】
[鋼板2]
鋼板2については、特に限定されるものではなく、公知の特性や化学組成を有する各種の鋼板を使用することが可能である。また、鋼板2の化学組成は、特に限定されない。
【0020】
[亜鉛めっき層3]
亜鉛めっき層3は、亜鉛を主体とする公知のめっきであれば特に限定は無く、純亜鉛めっきあるいは亜鉛合金めっき、また電気めっき、溶融めっき、蒸着めっきなどを用いることができる。
【0021】
[結晶性りん酸亜鉛皮膜4]
亜鉛めっき層3上には、1.0〜5.0質量%のMgと0.05〜1.00質量%のNiとを含有し、付着量が0.5〜2.5g/mであり、膜厚が1.00μm未満である結晶性りん酸亜鉛皮膜4が形成されている。
結晶性りん酸亜鉛皮膜4は、柱状又は粒状のりん酸亜鉛結晶を有する。そのため、結晶性りん酸亜鉛皮膜4をXRDで解析すると、ホパイト(Zn(PO・4HO)の結晶構造を有することが確認できる。結晶性りん酸亜鉛皮膜4がこのような構造を有することで、亜鉛めっき層3の表面にりん酸亜鉛結晶による凹凸を形成することができると共に、りん酸亜鉛結晶の隙間に有機皮膜5を保持することが可能となる。
【0022】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4は、りん酸亜鉛結晶の隙間や凹凸部分に有機皮膜5を保持することで亜鉛めっき層3と有機皮膜5との密着性を確保する。
しかしながら、本実施形態の様に、結晶性りん酸亜鉛皮膜4の上に黒色の有機皮膜5を設けた状態で各種の加工変形を受ける場合や、有機皮膜5の表面を引っ掻く応力が負荷される場合には、結晶性りん酸亜鉛皮膜4自体が剥離や凝集破壊しやすい。そのような場合には、有機皮膜5と亜鉛めっき層3との密着性を確保するのが困難である。そのため、従来の黒色塗装鋼板を、厳しい加工が施される部品や、加工部に高度な意匠性が要求される部品に用いることは困難であった。
【0023】
メカニズムは明らかではないが、黒色塗装鋼板1が本実施形態に係る結晶性りん酸亜鉛皮膜4を有することにより、厳しい加工が施された場合や、表面を引っ掻くような様な応力が負荷された場合においても、亜鉛めっき層3と有機皮膜5との密着性の低下を抑制することができる。この理由としては、本実施形態に係る結晶性りん酸亜鉛皮膜4が、ある程度の塑性変形能を有するためであると考えられる。
【0024】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4は1.0〜5.0質量%のMgを含有するが、このように多量のMgを含有する結晶性りん酸亜鉛皮膜4は白色(一般的に明度:L値で60以上)を有することが従来より知られている。結晶性りん酸亜鉛皮膜4が白色であると、上層の有機皮膜5を厚く形成しないと結晶性りん酸亜鉛皮膜4が透けて見えてしまい、意匠性が劣ると推測される。しかしながら、本実施形態においては、その考えは当てはまらない。その理由は明確ではないが、図1に示すように、結晶性りん酸亜鉛皮膜4により、数μmまたはサブμmオーダーのりん酸亜鉛結晶が亜鉛めっき層3の上で凹凸を形成すると共に、りん酸亜鉛結晶の隙間に黒色の有機皮膜5が保持されていることで、好適に光の乱反射が生じ、均一で良好な外観を呈すると考えられる。
【0025】
また、上層の有機皮膜5に疵が入った場合、結晶性りん酸亜鉛皮膜4によって亜鉛めっき層3の露出が抑制されたとしても、露出した結晶性りん酸亜鉛皮膜4が白色であるから、疵が目立ちやすく、耐疵つき性の改善は難しいと推測される。しかしながら、本実施形態においてはその考えは当てはまらない。その理由は明確ではないが、図2に示すように、有機皮膜5に疵が発生しても、疵発生後の最表面には結晶性りん酸亜鉛皮膜4のりん酸亜鉛結晶による凹凸が存在するか、又は、りん酸亜鉛結晶の隙間に保持された有機皮膜5が存在する。そのため、疵部と正常部との差異が目立ちにくいと推測される。
【0026】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4中のMgが1.0質量%未満では、結晶性りん酸亜鉛皮膜4の色調は黒色化し、未加工平板部の意匠性は良好であるが、加工部の意匠性や耐疵つき性が劣る。また、結晶性りん酸亜鉛皮膜4中のMgが5.0質量%を超えても同様に加工時の意匠性や耐疵つき性が劣る。
以上の観点から、結晶性りん酸亜鉛皮膜4のMg含有量は、結晶性りん酸亜鉛皮膜4の全質量に対して、1.0〜5.0質量%である。Mgのより好ましい範囲は、2.0〜4.0質量%である。
【0027】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4中のNiが0.05質量%未満の場合は、加工部の意匠性や耐疵つき性が劣る。また、結晶性りん酸亜鉛皮膜4中のNiが1.00質量%を超えると、結晶性りん酸亜鉛皮膜4の黒色度が増すとともに未加工平板部の意匠性は良好であるが、加工部の意匠性や耐疵つき性が劣る。
以上の観点から、結晶性りん酸亜鉛皮膜4のNi含有量は、結晶性りん酸亜鉛皮膜4の全質量に対して、0.05〜1.00質量%である。Niのより好ましい範囲は、0.10〜0.50質量%である。
【0028】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4の付着量は0.5〜2.5g/mであるが、付着量が0.5g/m未満であっても、また2.5g/mを超えても、耐疵つき性が不十分である。また、結晶性りん酸亜鉛皮膜4の付着量が0.5g/m未満では、未加工部及び加工部の意匠性並びに耐食性が不十分であるため好ましくない。結晶性りん酸亜鉛皮膜4の付着量が2.5g/mを超えると、未加工平板部の意匠性は良好であるが、加工部の意匠性が不十分であるため好ましくない。
【0029】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4の膜厚は、1.00μm未満である。結晶性りん酸亜鉛皮膜4の膜厚が1.00μm以上の場合には、加工部の意匠性や耐疵つき性が不十分であるため好ましくない。なお、厚みの下限は特に限定されないが、例えば0.30μmが挙げられる。
【0030】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4の膜厚は、以下のように定義する。
まず、測定対象となる黒色塗装鋼板1の断面を、1万倍の倍率でFE−SEMを用いて観察する。ここで、結晶性りん酸亜鉛皮膜4の膜厚を測定する際に、有機皮膜5が形成されていてもよい。次に、図3に示すように、結晶性りん酸亜鉛皮膜4のりん酸亜鉛結晶について、亜鉛めっき層3表面からの鉛直方向の距離を測定する。観察している視野中での最大の距離を求め、任意に10視野観察して、10視野での最大距離の平均を結晶性りん酸亜鉛皮膜4の膜厚とする。
【0031】
[化成処理皮膜(不図示)]
黒色塗装鋼板1は、結晶性りん酸亜鉛皮膜4と後述する有機皮膜5との間に化成処理皮膜(不図示)を有してもよい。
化成処理皮膜(不図示)は、シランカップリング剤、有機樹脂、ポリフェノール化合物から選ばれる少なくとも1種を含む化成処理液を用いて形成される。
【0032】
化成処理液に用いられるシランカップリング剤は特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
化成処理液に用いられるシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
化成処理液に用いられる有機樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等、公知の有機樹脂を使用することができる。化成処理皮膜層(不図示)と結晶性りん酸亜鉛皮膜4との密着性、または化成処理皮膜層(不図示)と有機皮膜5との密着性を更に高めるためには、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂の少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0034】
化成処理液に用いられるポリフェノール化合物はベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物、またはその縮合物のことを指す。
ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物としては、例えば、没食子酸、ピロガロール、カテコール等を挙げることができる。
ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物の縮合物としては特に限定されず、例えば、通常タンニン酸と呼ばれる植物界に広く分布するポリフェノール化合物等を挙げることができる。
【0035】
上述のうち、化成処理皮膜層(不図示)は、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。化成処理皮膜(不図示)が上述の化合物を含むことにより、化成処理皮膜層(不図示)と結晶性りん酸亜鉛皮膜4との密着性、および化成処理皮膜層(不図示)と有機皮膜5との密着性がより向上し、耐食性が向上するためである。
なお、上述の化合物を含有する化成処理液を用いて化成処理を行った場合には、形成された化成処理皮膜層(不図示)中に上述の化合物が含まれる。
【0036】
化成処理液には、上記の化合物に加えて各種防錆剤や、顔料、無機化合物、有機化合物を含有させることも可能である。
【0037】
[有機皮膜5]
有機皮膜5の膜厚は、1.0〜5.0μmである。有機皮膜5の膜厚が1.0μm未満では、未加工部の意匠性、加工部の意匠性、耐疵つき性及び耐食性が不十分であるため好ましくない。有機皮膜5の膜厚が5.0μmを超えると、経済性の観点から好ましくない。
有機皮膜5の膜厚は、次のようにして求める。まず、有機皮膜5全体の重量(付着量)を重量法で測定する。次に、単離した有機皮膜5を用いて、有機皮膜5の比重を求める。そして、有機皮膜5の重量を比重で除することにより、有機皮膜5の膜厚を求める。
【0038】
なお、簡易的にはSEMによる断面観察によって直接有機皮膜5の厚みを計測することも可能であるが、この場合は結晶性りん酸亜鉛皮膜4の厚み分をどのように差し引くかで恣意性があるため小数点以下の精度は確保できない。また赤外分光光度計(FT−IR)により有機皮膜5に特有の3000cm−1付近のC−H伸縮のスペクトル強度を測定し、予め作成しておいた検量線によって厚みに換算することができる。
なお、有機皮膜5がトレーサーとなりうる成分を含有する場合は、蛍光X線による測定が最も簡便で精度が高い。例えば有機皮膜5がコロイダルシリカを含有する場合には、蛍光X線でSi強度を測定し、予め作成しておいた検量線によって厚みに換算することができる。
【0039】
有機皮膜5は一層からなることが好ましい。
有機皮膜5の組成物は特に限定されないが、樹脂、硬化剤及びカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0040】
有機皮膜5に用いられる樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられる。
【0041】
有機皮膜5に用いられるポリエステル樹脂としては、例えば、ポリカルボン酸成分およびポリオール成分からなるポリエステル原料を縮重合して得られたものを、水に溶解もしくは分散することで得られる。
ポリカルボン酸成分としては特に制限はないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。これらは1種または2種以上任意に使用できる。
ポリオール成分としては特に制限はないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、トリエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール−A、ダイマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらは1種または2種以上任意に使用できる。
【0042】
有機皮膜5に用いられるアクリル樹脂としては、例えば、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、アルコキシシラン(メタ)アクリレート類等の不飽和単量体を、水溶液中で重合開始剤を用いてラジカル重合することによって得られるものを挙げることができる。
重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
【0043】
有機皮膜5に用いられるポリウレタン樹脂としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類と、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とを反応させ、さらにジアミン等で鎖延長し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
【0044】
有機皮膜5に樹脂を用いる場合には、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂を有機皮膜5に用いることにより、加工部の耐食性がより向上するためである。
【0045】
有機皮膜5に用いられる硬化剤は、樹脂を硬化させるものであれば特に制限はないが、例えば、メラミン樹脂やポリイソシアネート化合物を挙げることができる。
メラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドとを縮合して得られる生成物のメチロール基の一部又は全てをメタノール、エタノール、ブタノールなどの低級アルコールでエーテル化した樹脂である。
ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、そのブロック化物は、前記ポリイソシアネート化合物のブロック化物であるヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化物、イソホロンジイソシアネートのブロック化物、キシリレンジイソシアネートのブロック化物、トリレンジイソシアネートのブロック化物等を挙げることができる。
【0046】
上述の硬化剤は1種で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機皮膜5に硬化剤を用いる場合には、メラミン樹脂を用いることが好ましい。メラミン樹脂を有機皮膜5に用いることにより、加工時の耐疵つき性がより向上するためである。
【0047】
有機皮膜5の黒色顔料としてはカーボンブラックが好ましい。
有機皮膜5に用いるカーボンブラックは、特に制限されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等、公知のカーボンブラックを使用することができる。また、公知のオゾン処理、プラズマ処理、液相酸化処理されたカーボンブラックも使用することができる。
【0048】
有機皮膜5に用いるカーボンブラックの粒子径は、塗料中での分散性、塗膜品質及び塗装性に問題が無ければ特に制限されないが、一次粒子径が10〜120nmであることが好ましい。カーボンブラックの一次粒子径が10〜120nmであることにより、カーボンブラックが結晶性りん酸亜鉛皮膜4のりん酸亜鉛結晶の空隙を好適に埋めることができ、意匠性や耐食性が向上するため好ましい。
有機皮膜5の形成には塗料を用いる。カーボンブラックは塗料中に分散する過程で凝集するため、一次粒子径のまま分散することは一般的に難しい。すなわち、カーボンブラックは一次粒子径よりも大きな粒子径を持った二次粒子の形態で塗料中で存在することが多い。そのため、カーボンブラックは、有機皮膜5中でも二次粒子の形態で存在することが多い。
【0049】
有機皮膜5中のカーボンブラック濃度は、有機皮膜5の全質量に対して1.0〜25.0質量%が好ましく、3.0〜12.0質量%がより好ましい。カーボンブラック濃度が高いと意匠性は向上するが、加工部の外観や耐疵つき性、耐薬品性が低下する傾向にある。
有機皮膜5の黒色顔料として、カーボンブラック以外の着色顔料を併用してもよい。
【0050】
有機皮膜5は、各種防錆剤や潤滑剤、硬質微粒子、導電顔料を含んでもよい。
有機皮膜5に含まれる防錆剤としてはコロイダルシリカ等の各種無機化合物や、有機系の防錆剤を使用することができる。
有機皮膜5に含まれる潤滑剤としては、ポリエチレン等のワックスを使用することができる。
【0051】
有機皮膜5に含まれる硬質微粒子としては、樹脂ビーズ等を使用することができる。
有機皮膜5に含まれる導電顔料としては、金属あるいは無機、有機の微粒子を使用することができる。ただしこれらに限定されるものではない。
【0052】
(黒色塗装鋼板1の製造方法)
次に、黒色塗装鋼板1の製造方法について説明する。
【0053】
[亜鉛めっき工程]
鋼板2に亜鉛めっき工程を施すことにより、鋼板2の表面に亜鉛めっき層3を形成する。亜鉛めっき工程の具体的な方法は特に限定されず、公知の亜鉛めっきの方法を用いることができる。
【0054】
[表面活性化処理工程]
亜鉛めっき層3が電気亜鉛めっきにより形成された場合には、亜鉛めっき層3の表面が活性であることから、後述するりん酸亜鉛工程により、1.0μm未満の膜厚を有する結晶性りん酸亜鉛皮膜4を形成することができる。しかしながら、亜鉛めっき層3が亜鉛合金めっきあるいは溶融亜鉛めっきにより形成された場合には、1.0μm未満の膜厚を有する結晶性りん酸亜鉛皮膜4を形成するのが困難な場合が多い。このような場合には、亜鉛めっき工程後に、亜鉛めっき層3表面の活性化処理を行うことが好ましい。具体的には、酸性の水溶液で亜鉛めっき層3の表面をエッチングする方法や、ブラシ等の手法で亜鉛めっき層3の表面を研削する方法などが採用できる。
【0055】
[表面調整処理工程]
表面活性化処理工程後、亜鉛めっき層3の表面に対して公知の表面調整処理を行ってもよい。表面調整処理の例としては、チタン系又はりん酸亜鉛系のコロイド処理が挙げられる。
【0056】
[りん酸亜鉛工程]
亜鉛めっき層3が形成された鋼板2にりん酸亜鉛工程を施すことにより、亜鉛めっき層3の表面に結晶性りん酸亜鉛皮膜4を形成する。
りん酸亜鉛工程では、りん酸イオン、Znイオン、Mgイオン、Niイオン、硝酸イオン、及びふっ化物イオン等を含有する公知のりん酸亜鉛処理浴を用いる。
【0057】
りん酸亜鉛処理浴に含まれる化合物の濃度は特に限定されないが、Mgイオンの含有量は5.0〜40.0g/lが好ましく、10.0〜25.0g/lがより好ましい。Niイオンの含有量は0.05〜2.00g/lが好ましく、0.10〜1.50g/lがより好ましい。
りん酸イオンの含有量は1〜20g/lが好ましく、3〜10g/lがより好ましい。Znイオンの含有量は0.1〜10g/lが好ましく、1〜5g/lがより好ましい。
【0058】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4の膜厚を1.0μm未満とするには、硝酸イオン濃度を高めに設定するのが好ましい。具体的には、りん酸亜鉛処理浴の硝酸イオン濃度を30.0g/l以上とするのが好ましく、50.0g/l以上とするのがより好ましい。
硝酸イオン濃度の上限は、特に制限されないが、取扱性等を考慮して100.0g/lを例示することができる。
【0059】
りん酸亜鉛工程では、上述のりん酸亜鉛処理浴を用いたスプレー処理又は浸漬処理を行うことにより、亜鉛めっき層3表面に結晶性りん酸亜鉛皮膜4を形成する。
なお、処理方法は浸漬処理よりもスプレー処理の方が好ましい。
【0060】
結晶性りん酸亜鉛皮膜4の付着量は、りん酸亜鉛処理浴に含まれる含有物の濃度及び反応時間を制御することにより調整する。
りん酸亜鉛工程の処理時間は、スプレー処理の場合は0.5〜10秒が好ましく、浸漬処理の場合は1〜20秒が好ましい。
【0061】
りん酸亜鉛処理浴の温度は、好ましくは65℃以上であり、より好ましくは70℃以上である。りん酸亜鉛処理浴の上限温度は特に限定されないが、例えば80℃である。
【0062】
[化成処理工程]
りん酸亜鉛工程後に、公知の化成処理を行い、結晶性りん酸亜鉛皮膜4上に化成処理皮膜(不図示)を形成してもよい。化成処理の方法については特に限定されず、シリカ系化成処理、クロメート系化成処理等であってもよい。ただし、環境負荷物質をなるべく含まないことが好ましい。
化成処理層(不図示)の形成方法は特に限定されず、塗布、焼付け等の公知の方法を用いることができる。
【0063】
[有機皮膜5形成工程]
有機皮膜5形成工程により、結晶性りん酸亜鉛皮膜4又は化成処理皮膜(不図示)上に有機皮膜5を形成する。
有機皮膜5の形成方法は特に限定されず、塗布、焼付け等の公知の方法を用いることができる。
なお、膜厚が1.0〜5.0μmである有機皮膜5を形成するためには、有機皮膜5を形成する塗料中の不揮発分濃度を所定濃度、例えば10〜30%程度に調整することが有効である。また塗布条件を所定膜厚になるように調整する必要がある。例えばロールコーター法で塗布する場合には、コーターの回転数や押し付け圧を調整する必要がある。
【0064】
黒色の有機皮膜5を形成するためには、有機皮膜5形成工程で用いる塗料中の黒色顔料の濃度を調整する必要がある。塗料中の黒色顔料の濃度は特に限定されないが、黒色顔料としてカーボンブラックを用いる場合には、塗料中のカーボンブラックの含有量は不揮発分全体に対して1〜25質量%であることが好ましい。また、黒色顔料としてカーボンブラック以外を用いる場合には、塗料中の黒色顔料の含有量は10〜30質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0065】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0066】
[原板]
表1に示す亜鉛めっき鋼板のうちのいずれか一つを原板として用いた。
【0067】
【表1】
【0068】
[表面活性化工程]
いくつかの実施例では、亜鉛めっき層の表面を砥粒入りナイロンブラシで研削することにより、亜鉛めっき層の表面を活性化した。
【0069】
[表面調整処理工程]
チタンコロイド系の市販の表面調整処理液をスプレーすることにより、亜鉛めっき層の表面を調整した。
【0070】
[りん酸亜鉛工程]
表2に示したりん酸亜鉛処理液のいずれか一つを用い、表3に示したりん酸亜鉛処理の条件の下、りん酸亜鉛工程を行った。
【0071】
[化成処理工程]
りん酸亜鉛工程後、結晶性りん酸亜鉛皮膜が形成された亜鉛めっき鋼板を水洗及び乾燥した。その後、水性エポキシ樹脂、3アミノプロピルトリエトキシシラン、タンニン酸を40:30:30の比率(質量比)で混合した液を塗布し80℃で乾燥して50mg/mの化成処理皮膜を形成した。一部の実施例では、化成処理工程を行わなかった。
【0072】
[有機皮膜形成工程]
水性の黒色塗料を塗布して200℃で乾燥し、種々の膜厚を有する有機皮膜を形成した。塗料は、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン硬化剤、コロイダルシリカが、40:30:15:15の比率(質量比)となるように配合した塗料に、10質量%のカーボンブラックを添加した。カーボンブラックの一次粒子径は表4に示した通りである。なお、カーボンブラック無しの実施例では、カーボンブラックに変えて黒鉛を使用した。塗料の固形分濃度を変えることで膜厚を変化させた。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
各水準の内容を表4に示す。
なお、いずれの水準の結晶性りん酸亜鉛皮膜もホパイトの結晶構造を有することをXRDによって確認した。
結晶性りん酸亜鉛皮膜の付着量は、結晶性りん酸亜鉛皮膜を重クロム酸アンモニウム水溶液で溶解し、重量法により算出した。
【0076】
結晶性りん酸亜鉛皮膜の組成は、次のようにして求めた。有機皮膜及び化成処理皮膜をジククロメタンにより除去した後、重クロム酸アンモニウム水溶液を用いて結晶性りん酸亜鉛皮膜を溶解した。得られた溶解物をICP分析(誘起結合プラズマ発光分析)し、結晶性りん酸亜鉛皮膜の成分を求めた。
結晶性りん酸亜鉛皮膜の膜厚を求める際は、まず、試料を樹脂に埋め込み、垂直研磨した。垂直研磨した試料を1万倍の倍率でFE−SEMで観察した。視野中の最大厚みを図3に模式的に示した方法で計測し、任意の10視野を観察して、それぞれの最大厚み10点の平均を算出することで結晶性りん酸亜鉛皮膜の膜厚と定義した。
有機皮膜の厚みは、蛍光X線法によりSi強度を測定し、予め作成した検量線から膜厚に換算した。
【0077】
性能評価は、以下の方法及び基準により行った。いずれの性能についても、評点3以上であれば、実用上問題無い性能を有すると判断した。
【0078】
[平板外観]
平板外観を下記の評価基準で評価した。
5:黒色、表面艶ともに均一である。下地(りん酸亜鉛被膜)も全く透けて見えない。
4:黒色は均一であるが、表面艶がやや不均一である(目を凝らして見て何とか確認できるレベル)。下地は全く透けて見えない。
3:黒色、表面艶ともにやや不均一である(目を凝らして見て何とか確認できるレベル)。下地は全く透けて見えない。
2:黒色、表面艶ともに不均一である(容易に確認できるレベル)。下地は全く透けて見えない。
1:黒色、表面艶ともに不均一である(容易に確認できるレベル)。下地がやや透けて見える。
【0079】
[0T曲げ外観]
0T曲げ(180°折り曲げ)加工を施し、折り曲げ部外側をテープ剥離したのち、外観を下記の評価基準で評価した。
5:塗膜に亀裂等の不具合がなく、均一な外観である。色落ちも認められない。
4:塗膜に極僅かな亀裂が認められため、やや色落ちが認められるが、ほぼ均一な外観である。(試験前の試験板を横に並べて何とか分かるレベル)。
3:塗膜に僅かの亀裂が認められため、やや色落ちが認められるが、ほぼ均一な外観である。(試験前の試験板を横に並べると容易に分かるレベル)。
2:塗膜に亀裂が認められ、色落ちが認められる(試験板のみ見て何とか分かるレベル)。
1:塗膜に亀裂が認められ、色落ちが著しい(試験板のみ見て容易に分かるレベル)。
【0080】
[エリクセン(Ex)外観]
エリクセン7mm押し出し加工を行い、加工部をテープ剥離したのち、外観を下記の評価基準で評価した。
5:塗膜に亀裂等の不具合がなく、均一な外観である。色落ちも認められない。
4:塗膜に極僅かな亀裂が認められため、やや色落ちが認められるが、ほぼ均一な外観である。(試験前の試験板を横に並べて何とか分かるレベル)。
3:塗膜に僅かの亀裂が認められため、やや色落ちが認められるが、ほぼ均一な外観である。(試験前の試験板を横に並べると容易に分かるレベル)。
2:塗膜に亀裂が認められ、色落ちが認められる(試験板のみ見て何とか分かるレベル)。
1:塗膜に亀裂が認められ、色落ちが著しい(試験板のみ見て容易に分かるレベル)。
【0081】
[引っ掻き疵つき性]
冷延鋼板(0.8mm厚)を40mmφの円盤に打ち抜き、円盤を試験板との仰角45°に傾斜させて円盤面と垂直方向に1kgの荷重をかけながら10mm/secのスピードで50mm引っ掻く。引っ掻いた疵部の外観を目視観察し下記基準で評価した。
5:正常部と引っ掻いた疵部の外観に差なし。疵部も含め均一な外観に見える。
4:引っ掻いた部分の外観には差異が無いが、やや光沢度が変化して見える。
3:引っ掻いた部分の外観に僅かな変化は見られるが、下地の露出は全くない。
2:引っ掻いた部分の外観に変化が見られ、下地の露出がある。
1:引っ掻いた部分の外観に顕著な変化が見られ、顕著な下地の露出がある。
【0082】
[耐食性]
未加工平板の裏面とエッジをテープシールし塩水噴霧試験(JIS−Z−2371:2000)を行った。8h、24h、48h、72hで外観観察を行い、錆発生面積率が5%となる時間で評価した。なお、72h後観察でも錆発生のない良好な耐食性を有するものは、72h超と記載した。
【0083】
表5に評価結果を示す。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
表5に示したように、本発明の実施例ではいずれも許容レベル以上の良好な特性が得られた。一方、比較例では少なくとも一つの特性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
上記一実施形態によれば、従来のプレコート鋼板に比較して薄膜で、未加工平板部の意匠性、加工部の意匠性及び耐疵つき性に優れた黒色塗装鋼板を提供することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 黒色塗装鋼板
2 鋼板
3 亜鉛めっき層
4 結晶性りん酸亜鉛皮膜
5 有機皮膜
【要約】
この黒色塗装鋼板は、鋼板と、前記鋼板上に形成された亜鉛めっき層と、前記亜鉛めっき層上に形成され、1.0〜5.0質量%のMgと0.05〜1.00質量%のNiとを含有し、付着量が0.5〜2.5g/mであり、膜厚が1.00μm未満である結晶性りん酸亜鉛皮膜と、前記結晶性りん酸亜鉛皮膜よりも上層に形成され、膜厚が1.0〜5.0μmであり、黒色である有機皮膜とを有する。
図1
図2
図3